(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】半導体素子監視装置および半導体素子監視方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/26 20200101AFI20241210BHJP
G01R 31/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G01R31/26 Z
G01R31/00
(21)【出願番号】P 2023540718
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(86)【国際出願番号】 EP2021085451
(87)【国際公開番号】W WO2022144166
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-07-03
(31)【優先権主張番号】102021200002.9
(32)【優先日】2021-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】モンテイロ・ディニツ・ライス,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】シャッツ,フランク
(72)【発明者】
【氏名】ミューズ,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】シャリー,ティモ
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-17462(JP,A)
【文献】特開2010-60305(JP,A)
【文献】特開2012-9800(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190110(WO,A1)
【文献】特許第7383109(JP,B2)
【文献】特許第7383110(JP,B2)
【文献】特許第7579454(JP,B2)
【文献】MONTEIRO DINIZ REIS, Daniel; RZEPKA, Sven; HILLER, Karla,“Leakage Current in Low-Temperature PVD PZT Films”,2019 IEEE International Symposium on Applications of Ferroelectrics (ISAF),2019年07月14日,DOI: 10.1109/ISAF43169.2019.9034930
【文献】MONTEIRO DINIZ REIS, Daniel; RZEPKA, Sven; HILLER, Karla,“New Insight Into Defects and Degradation Kinetics in Lead Zirconate Titanate”,2020 Joint Conference of the IEEE International Frequency Control Symposium and International Symposium on Applications of Ferroelectrics (IFCS-ISAF),2020年07月19日,DOI:10.1109/IFCS-ISAF41089.2020.9234941
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/26
G01R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子(100)監視方法であって、前記半導体素子(100)の動作において、前記半導体素子(100)の
誘電体層(106)のそれぞれ反対側に配置されている第1の電極(102)および第2の電極(104)を流れるリーク電流(I)が検出され(1602)、前記リーク電流(I)は前記リーク電流(I)の第1の限界値(700、800、1400)と比較され、前記比較の結果に応じて出力(220)が決定され(1604)
、前記出力は前記半導体素子(100)の状態を含み、前記出力(220)が出力される(1606)ことを特徴とする、方法
において、
前記第1の限界値(700、800、1400)に応じて、前記半導体素子(100)の使用寿命の残存値が決定され(1604)、前記出力(220)は前記残存値を含むことを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記半導体素子(100)の状態および
前記残存値に関する表示を含むテキストが決定され、前記テキストはメッセージで送信されるか、またはマンマシンインターフェースで出力される(1606)ことを特徴とする、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記半導体素子(100)の動作モードを設定する制御信号が決定され(1604)、前記制御信号を出力して(1606)、前記半導体素子(100
)を、前記動作モードで動作するように駆動制御することを特徴とする、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
半導体素子(100)監視装置(200)であって、前記装置(200)は、測定装置(208)と、演算装置(214)と、出力装置(218)と、を含み、前記測定装置(208)は、前記半導体素子(100)の動作において、前記半導体素子(100)の
誘電体層(106)のそれぞれ反対側に配置されている第1の電極(102)および第2の電極(104)を流れるリーク電流(I)を検出するように構成され、前記演算装置(214)は、前記リーク電流(I)を前記リーク電流(I)の第1の限界値(700、800、1400)と比較し、前記比較の結果に応じて出力(220)を決定するように構成され
、前記出力は前記半導体素子(100)の状態を含み、前記出力装置(218)は、前記出力(220)を出力するように構成されている、装置
において、
前記第1の限界値(700、800、1400)に応じて、前記半導体素子(100)の使用寿命の残存値が決定され(1604)、前記出力(220)は前記残存値を含むことを特徴とする、
装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子監視装置および半導体素子監視方法に基づく。
【背景技術】
【0002】
少なくとも2つの電極と、少なくとも1つの中間誘電体層とで構成され、電圧が印加されると動作する半導体素子において、絶縁破壊は、使用寿命に常に関連する要素である。また、半導体素子の使用寿命を制限する他の要素には、高いリーク電流の発生や、素子の活性領域の破壊による性能の低下がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
独立形式請求項に記載の装置および方法によって、誘電体層を有する半導体素子を動作中に監視することができ、その欠陥を検出できるだけでなく、さらに、残りの使用寿命である「残存使用寿命」の予測を行うこともできる。絶縁破壊までの動特性に加え、絶縁破壊に続く劣化過程についても推論することができる。このようにして、リーク電流レベルおよび/または第1の破壊である「第1のピーク」および/または半導体素子、ここでは分極、の性能に基づく、リーク電流の経過、および性能の経過を含む使用寿命の監視が実現される。
【0004】
半導体素子監視方法は、半導体素子の動作において、半導体素子の第1の電極および第2の電極を流れるリーク電流が検出され、リーク電流はリーク電流の第1の限界値と比較され、比較の結果に応じて出力が決定され、および/または、リーク電流の極点、特に最大値が発生する時点が決定され、その時点に応じて出力が決定され、出力は半導体素子の状態を含み、出力が出力されること、が企図される。これにより、半導体素子の内部状態にアクセスし、使用寿命の監視を行うことが可能となる。
【0005】
複数の限界値から、リーク電流が上回る、または下回る第1の限界値が決定され、第1の限界値に応じて、半導体素子の使用寿命の残存値が決定され、出力は残存値を含むことが企図されてもよい。
【0006】
半導体素子の使用寿命の残存値が、リーク電流の極点、特に最大値が発生する時点に応じて決定され、出力は残存値を含むことが企図されてもよい。
第1の動作モードにおける半導体素子の動作においてリーク電流が検出され、リーク電流が第1の限界値を上回る場合、または使用寿命の残存値が第1の閾値より大きい場合、第1の動作モードにおける半導体素子の動作が継続されることが企図されてもよい。
【0007】
複数の限界値から第2の限界値が決定され、リーク電流が第2の限界値を上回る場合、第2の動作モードにおける半導体素子の動作が継続されるか、動作が終了され、または、使用寿命の残存値が第2の閾値より大きい場合、第2の動作モードにおける半導体素子の動作が継続されるか、動作が終了されることが企図されてもよい。
【0008】
基準限界値および基準温度が設定されており、半導体素子または半導体素子周辺の現在の温度が決定され、現在の温度および基準温度に応じて係数が決定され、基準限界値は係数でスケーリングされ、係数でスケーリングされた基準限界値に応じて第1の限界値および/または第2の限界値が決定されることが企図されてもよい。
【0009】
半導体素子の状態および残りの使用寿命に関する表示を含むテキストが決定され、そのテキストはメッセージで送信されるか、またはマンマシンインターフェースで出力されることが企図されてもよい。
【0010】
半導体素子の動作モードを設定する制御信号が決定され、制御信号を出力して、半導体素子または半導体素子を含む装置を動作モードで動作するように駆動制御することが企図されてもよい。
【0011】
半導体素子監視装置は、測定装置と、演算装置と、出力装置と、を含み、測定装置は、半導体素子の動作において、半導体素子の第1の電極および第2の電極を流れるリーク電流を検出するように構成され、演算装置は、リーク電流をリーク電流の第1の限界値と比較し、比較の結果に応じて出力を決定するように構成され、および/または、演算装置は、リーク電流の極点、特に最大値が発生する時点を決定し、時点に応じて出力を決定するように構成され、出力は半導体素子の状態を含み、出力装置は、出力を出力するように構成されている。
【0012】
また、本発明は、半導体素子監視装置と、半導体素子とを含む、微小電気機械システム(MEMS)、メモリ、アクチュエータ、マイクロミラー、プリントヘッドまたはスピーカに関する。
【0013】
さらなる有利な実施形態は、以下の説明および図面からわかる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図7】第1の分布によるリーク電流レベルの第1の推移である。
【
図8】第1の分布によるリーク電流レベルの第2の推移である。
【
図10】第2の欠陥分布に対する第2の状態である。
【
図11】第2の欠陥分布に対する第3の状態である。
【
図12】第2の欠陥分布に対する第4の状態である。
【
図13】第2の欠陥分布に対する第5の状態である。
【
図14】第2の分布によるリーク電流レベルの推移である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の説明では、誘電体層の故障メカニズムの知識を利用して、1つまたは複数の誘電体層を含む半導体素子の動作中の測定可能な変化から、残存使用寿命の予測を導き出す。これは、安全に関連する用途で、個別の、使用目的ごとのメンテナンス指示や警告を発するために使用することができる。
【0016】
従来の使用寿命表示、メンテナンス間隔、部品のアクティブ監視は、早期交換により重大なエラーを防ぐため、または、既に手遅れであり、部品が故障している場合にエラーを表示するために設計されている。規定されたメンテナンス/交換間隔は統計的に算出され、多くの場合、想定される平均的な負荷プロファイルのもとで、全部品の全体について非常に保守的な限度を反映している。ここで、負荷プロファイルは決定的な意味を持つが、推定することしかできない。
【0017】
一方で、本発明によれば、このような半導体素子においては、連続的な故障または段階的な挙動が観察される、決定的または予測可能な劣化経過が存在することが確認された。この挙動について知ることで、部品を個別に監視することができる。規定された限界値では、警告または管理された交換を計画することができる。これによって、メンテナンスと交換は、実際の負荷プロファイルに応じて、部品ごとに決定することができる。これは、実際に部品交換が必要となった場合に交換する顧客にとってはメリットとなる。
【0018】
段階的な挙動とは、例えば、リーク電流の段階的な増加や、電力/性能の段階的な減少が考えられる。
2つの電極間に誘電体層が配置された半導体素子では、リーク電流が発生することがある。リーク電流は、例えば、誘電体層の誘電体と、一方の電極との境界層に欠陥が蓄積されることによって変化する。境界層に蓄積された欠陥は、障壁高さに影響を与える。初期障壁高さと、空間電荷制限電流成分を表すパラメータとがわかれば、リーク電流の時間経過をマッピングすることができる。さらに、第1の絶縁破壊の前後でのリーク電流の経過を表すことも可能である。さらに、リーク電流の劣化と性能劣化の相関関係に基づいて、性能低下を表すことも可能である。
【0019】
一態様では、リーク電流が監視される。一態様では、半導体素子の性能が監視される。
監視においてリーク電流レベルを評価し、警告が発生され、かつ使用寿命がまだ所望の残存値を有する第1の限界値を定義することが企図されてもよい。
【0020】
監視において、第1の破壊である第1のピークが発生した時点を決定し、特に定義された製品固有の限界値に応じて、リーク電流レベルまたは性能低下の発生に起因する残存使用寿命の推定値を含む警告を発することが企図されてもよい。
【0021】
第1の限界値に到達した後にも負荷プロファイルが大きな役割を果たすため、複数の限界値を定義し、アクティブ監視を継続することができる。
図1は、半導体素子100の模式図である。半導体素子100は、第1の電極102と、第2の電極104と、誘電体層106とを含む。
【0022】
誘電体層106は、第1の電極102と第2の電極104との間に配置されている。本実施例では、第1の電極102と第2の電極104は、誘電体層106のそれぞれ反対側に配置されている。
【0023】
本実施例では、誘電体層106に、第1の欠陥型の欠陥D1、第2の欠陥型の欠陥D2、および第3の欠陥型の欠陥D3が存在する。また、第1の欠陥型の欠陥D1のみ、または異なる2つの欠陥型の欠陥のみが存在する場合もある。また、3つ以上の欠陥型の欠陥が存在してもよい。本実施例では、これらの欠陥は初期位置に配置されている。初期位置は、本例では誘電体層の製造工程で規定される。本実施例では、欠陥は、第1の電極102または第2の電極104から異なる距離に配置されている。
【0024】
この欠陥は、第1の電極102と第2の電極104との間に電位が印加されると、その電荷に応じて誘電体層106と第1の電極102または第2の電極104のいずれかとの間のそれぞれの境界層へ移動する帯電した欠陥である。以下、境界層を「界面」と呼ぶ。ここで、帯電した欠陥の輸送は、欠陥の性質および「ホッピング機構」によって決定される。
【0025】
この関連でのホッピング機構とは、厚さdの誘電体層106において、それぞれの印加電圧Uによって作用する電界Eにおいて、欠陥の変位、すなわちホッピングが起こることを意味する。ある欠陥型iの欠陥は、局所的な欠陥状態に沿って、平均有効距離
【0026】
【0027】
で移動する。これは、欠陥型iの欠陥の移動速度
【0028】
【0029】
をもたらす。速度
【0030】
【0031】
は、可変範囲ホッピングの公知な数式で表される。
【0032】
【0033】
ここで、
【0034】
【0035】
は、誘電体層106における欠陥iの特性速度
【0036】
【0037】
に局所的な欠陥分布が与える影響を表す関数を表す。この欠陥分布は、誘電体層106の特性を表す。この特性は、誘電体層106における欠陥型iの欠陥の動きを共に決定するものである。減衰長α、平均有効距離
【0038】
【0039】
、活性化エネルギー
【0040】
【0041】
、欠陥型iの電荷
【0042】
【0043】
のパラメータが物理特性である。
【0044】
【0045】
は、ボルツマン定数を表す。Tは、観察された欠陥周辺の温度、特に誘電体層106の温度を表す。
誘電体故障までのリーク電流密度
【0046】
【0047】
の時間経過は、CrowellとSzeによる熱電子放出拡散理論の式によって決定すること
【0048】
【0049】
ここで、qは単位電荷、
【0050】
【0051】
は伝導帯における有効状態密度、
【0052】
【0053】
は有効再結合速度、
【0054】
【0055】
は有効拡散速度、
【0056】
【0057】
は有効ショットキー障壁、
【0058】
【0059】
はボルツマン定数、Tは周辺温度、Uは誘電体層106にかかる電圧を表す。
正の電荷を持つ欠陥iは、負の電位を持つ電極に移動し、界面に蓄積される。負の電荷を持つ欠陥iは、正の電位を持つ電極に移動し、界面に蓄積される。これにより、有効ショットキー障壁
【0060】
【0061】
が変化する。
欠陥iによって発生する障壁高さ変化
【0062】
【0063】
は、その最大高さ
【0064】
【0065】
と、特性時定数
【0066】
【0067】
とによって特徴付けられている。特性時定数
【0068】
【0069】
は、障壁高さ変化
【0070】
【0071】
が時間tにわたって最も変化する期間を定義する。
【0072】
【0073】
最大高さ
【0074】
【0075】
は欠陥iの数
【0076】
【0077】
の関数であり、界面の種類に依存する。
【0078】
【0079】
は、材料中の欠陥iの統計的分布の時間による蓄積、特にそれぞれの初期位置の蓄積時点を表す項である。本実施例では、初期位置は分布の重心を表す。欠陥型iの欠陥について複数の蓄積がある場合、重心の代わりに初期位置を定義する蓄積の1つを選択してもよい。好ましくは、使用寿命の増加に最も大きな影響を与える蓄積が選択される。
【0080】
誘電体層106には、様々な欠陥型の欠陥が存在し得る。電荷により有効ショットキー障壁
【0081】
【0082】
を増加させる障壁高さ変化
【0083】
【0084】
を引き起こす欠陥が存在し得る。これにより、リーク電流レベルは減少する。ここでは、これらを一例示的に「修復性」欠陥と呼ぶ。電荷により有効ショットキー障壁
【0085】
【0086】
を減少させる障壁高さ変化
【0087】
【0088】
を引き起こす欠陥が存在し得る。これにより、リーク電流レベルは増加する。ここでは、これらを一例示的に「劣化性」欠陥と呼ぶ。
電圧を印加すると、欠陥が移動する。活性化エネルギーと電荷によって、特定の欠陥はさらに速くなる。
【0089】
欠陥iの初期位置は、本実施例では、欠陥iが半導体素子100の意図された動作において進行する、界面までのその分布の重心の距離
【0090】
【0091】
によって定義される。
時定数
【0092】
【0093】
は、第1の電圧U1の影響下での移動と、第2の電圧U2の影響下での移動とで異なっていてもよい。時定数
【0094】
【0095】
は、誘電体層106における電界Eの影響下での欠陥iの移動度と、それぞれの界面に到達するまでに誘電体層106において進行するべき距離とによって定義され得る。誘電体層106の内部で変位する際に、欠陥型iは、その分布の重心の距離
【0096】
【0097】
を界面まで進行させる必要がある。速度
【0098】
【0099】
と合わせて、欠陥iの蓄積過程の特性時定数
【0100】
【0101】
は、以下のようになる。
【0102】
【0103】
リーク電流を経時的に測定し、CrowellとSzeによる熱電子放出拡散理論の式と、障壁高さ変化の経時挙動を用いて経時経過を評価すると、時定数
【0104】
【0105】
を決定することができる。異なる温度Tと電圧Uで、
【0106】
【0107】
を複数回測定することにより、欠陥型iの欠陥の活性化エネルギー
【0108】
【0109】
と電荷
【0110】
【0111】
を決定することができる。
第1の極性の第1の電圧U1が印加されると、帯電した欠陥は第1の電極102に向かって第1の方向に移動する。第1の電圧U1と逆の極性の第2の電圧U2が印加されると、これらの帯電した欠陥は第2の電極102に向かって第2の方向に移動する。
【0112】
第1の電極102または第2の電極104において界面に到達した帯電した欠陥は、界面に蓄積される。
半導体素子100は、2つ以上の電極を有していてもよい。半導体素子100は、それぞれ2つの電極の間に位置する1つ以上の誘電体層を有していてもよい。
【0113】
このような半導体素子は、電圧を印加して動作させると絶縁破壊を起こす可能性がある。絶縁破壊が発生すると、界面の一部または全部が破壊される。絶縁破壊が発生すると、半導体素子100の使用寿命が短くなる。絶縁破壊は、例えば、界面に蓄積された帯電した欠陥の数が、電圧に応じた閾値を上回る場合に発生する。
【0114】
誘電体層106の製造時のプロセス条件および/またはプロセス管理を最適化することにより、物理的特性およびこれらの物理的特性に対する製造固有の影響を左右することができる。これにより、使用寿命を延長することができる。
【0115】
プロセス条件および/またはプロセス管理は、例えば、成長、成長条件、材料組成に影響を与える。プロセス条件および/またはプロセス管理により、例えば、成長プロセスやその後続プロセスにおいて、意図的または非意図的に、ドーピングおよび/または不純物が発生する。
【0116】
図2には、第2の電極104からの距離xにわたる、欠陥の第1の分布ρについての第1の状態が示されている。本実施例では、第1の状態が初期状態である。
図2以下の図では、第1の欠陥型の欠陥D1の分布が、三角形の記号で示されている。
図2以下の図では、第2の欠陥型の欠陥D2の分布が、星形の記号で示されている。
図2以下の図では、第3の欠陥型の欠陥D3の分布が、菱形の記号で示されている。
【0117】
図3には、第2の電極104からの距離xにわたる、欠陥の第1の分布ρについての第2の状態が示されている。本実施例では、第2の状態は、第1の電圧U1で半導体素子100が動作した際の初期状態に続く、第1の破壊前の動作状態であり、第1の電極102の界面に第2の欠陥型の欠陥D2が既に蓄積している状態である。
【0118】
図4には、第2の電極104からの距離xにわたる、欠陥の第1の分布ρについての第3の状態が示されている。本実施例では、第3の状態は、第1の電圧U1で半導体素子100が動作した際の第2の状態に続く、第1の破壊前の動作状態であり、第1の電極102の界面に第2の欠陥型の欠陥D2および第3の欠陥型の欠陥D3が既に蓄積している状態である。このような状況でも、欠陥を界面から遠ざける対応によって、半導体素子の
使用寿命を延長させることが可能である。
【0119】
図5には、第2の電極104からの距離xにわたる、欠陥の第1の分布ρについての第4の状態が示されている。本実施例では、第4の状態は、第1の電圧U1で半導体素子100が動作した際の第3の状態に続く、第1の破壊前の動作状態であり、第1の電極102の界面に第2の欠陥型の欠陥D2および第3の欠陥型の欠陥D3が既に蓄積され、かつ第1の欠陥型の欠陥D1が界面に到達している状態である。このような状況でも、本実施例では,
性能低下前に警告を発することが可能である。
【0120】
図6には、第2の電極104からの距離xにわたる、欠陥の第1の分布ρについての第5の状態が示されている。本実施例では、第5の状態は、第1の電圧U1で半導体素子100が動作した際の第4の状態に続く動作状態であり、第1の欠陥型の欠陥D1、第2の欠陥型の欠陥D2および第3の欠陥型の欠陥D3が、第1の電極102の界面に蓄積して性能低下が発生した状態である。
【0121】
図7は、残存
使用寿命を早期検知するための、リーク電流レベルIの時間tにわたった経過である。
図7に示された例では、初期状態を起点とした性能の低下が、第1の電圧U1での約10
6秒間動作させた後に生じている。
【0122】
図7では、
図2~
図6で説明した状態のリーク電流レベルIを例示的に表記している。第1の状態は0、第2の状態は1、第3の状態は2、第4の状態は3、第5の状態は4と表示されている。
【0123】
残存
使用寿命を早期検知するために、例示的なリーク電流レベル700が設けられており、このレベルに達すると、例えば警告が発せられる。
図8には、第2の電圧U2による電気負荷の開始時間tにわたる、欠陥蓄積を反転させるためのリーク電流レベルIの経過が示されている。
図8に示す例では、初期状態を起点とした性能の低下が、第1の電圧U1で約10
6秒間動作させた後に生じている。
【0124】
図8では、
図2~
図6で説明した状態のリーク電流レベルIを例示的に表記している。第1の状態は0、第2の状態は1、第3の状態は2、第4の状態は3、第5の状態は4と表示されている。
【0125】
第2の電圧U2による電気負荷に対して、欠陥蓄積を反転させるための例示的なリーク電流レベル800が設けられており、このレベルに達すると欠陥蓄積の反転が開始される。
【0126】
図9には、第2の電極104からの距離xにわたる、欠陥の第2の分布ρについての第1の状態が示されている。本実施例では、第1の状態が初期状態である。
図9以下の図では、第1の欠陥型の欠陥D1の分布が、三角形の記号で示されている。
図9以下の図では、第2の欠陥型の欠陥D2の分布が、星形の記号で示されている。
図9以下の図では、第3の欠陥型の欠陥D3の分布が、菱形の記号で示されている。
【0127】
図10には、第2の電極104からの距離xにわたる、欠陥の第2の分布ρについての第2の状態が示されている。本実施例では、第2の状態は、第1の電圧U1で半導体素子100が動作した際の初期状態に続く、第1の破壊前の動作状態であり、第1の電極102の界面に第2の欠陥型の欠陥D2が既に蓄積している状態である。
【0128】
図11には、第2の電極104からの距離xにわたる、欠陥の第2の分布ρについての第3の状態が示されている。本実施例では、第3の状態は、性能低下の早い時点で、第1の電圧U1で半導体素子100が動作した際の第2の状態に続く動作状態であり、第1の電極102の界面に第2の欠陥型の欠陥D2および第3の欠陥型の欠陥D3が既に蓄積している状態である。このような状況において、本実施例では、早期警告を発し、それに基づいて半導体素子100のメンテナンスを行うことが可能である。例えば、初期状態を起点として、半導体素子100の
使用寿命の約10%が経過したときに警告が発せられるように、早期警告の限界値が選択される。本実施例では、通常、個々の破壊は非常に小さな領域しか破壊しないため、この時点ではまだ性能の低下は顕著ではない。これは、電流では検出可能であるが、半導体素子100を含む製品、例えばアクチュエータ製品の機能に関しては顕著ではない。
【0129】
図12には、第2の電極104からの距離xにわたる、欠陥の第2の分布ρについての第4の状態が示されている。本実施例では、第4の状態は、第1の電圧U1で半導体素子100が動作した際の第3の状態に続く、第1の破壊前の動作状態であり、第1の電極102の界面に第2の欠陥型の欠陥D2および第3の欠陥型の欠陥D3が既に蓄積され、第1の欠陥型の欠陥D1が界面に到達している状態である。このような状況において、本実施例では、重大警告を発し、それに基づいて半導体素子100のメンテナンスを行うことが可能である。例えば、初期状態を起点として、半導体素子100の
使用寿命の約50%が経過したときに警告が発せられるように、早期警告の限界値が選択される。本実施例では、この状態で既に複数の局所的な破壊が起こっている。すると、リーク電流レベルが著しく高くなり、検出が可能になる。多くの局所的な破壊によって破壊された総面積は、今や製品の機能の%範囲において顕著である。したがって、例えば警告が発せられる。半導体素子100または製品は、故障前の実施例ではまだ明確にこの状態である。
【0130】
図13では、第2の電極104からの距離xにわたる、欠陥の第2の分布ρについての第5の状態が示されている。本実施例では、第5の状態は、第1の電圧U1で半導体素子100が動作した際の第4の状態に続く動作状態であり、第1の電極102の界面に第1の欠陥型の欠陥D1、第2の欠陥型の欠陥D2および第3の欠陥型の欠陥D3が蓄積され、性能が大きく低下している状態である。これは、本実施例では、半導体素子100の
使用寿命が終了する時点である。
【0131】
ここで、
使用寿命とは、半導体素子100が意図されたとおりに使用できなくなる時期のことである。この限界値は、様々な用途によって異なる場合がある。
図14では、リーク電流レベルIの時間tにわたった経過が示されている。
図14の例では、初期状態を起点として性能低下が進み、第1の電圧U1で約9*10
4秒間動作させた後に
使用寿命の終わりに到達する。
使用寿命の終わりは、素材や条件に依存する。本実施例では、
使用寿命の終わりは第4の状態より後であるが、第5の状態に到達した後でも、わずかな性能の低下が見られる。
【0132】
図14では、
図9~
図13で説明した状態のリーク電流レベルIが例示的に示されている。第1の状態は0、第2の状態は1、第3の状態は2、第4の状態は3、第5の状態は4と表示されている。
【0133】
重大警告については、例示的なリーク電流レベル1400が設けられており、このレベルに達すると、例えば、重大警告が発せられる。
図15では、第1の実施形態に係る半導体素子100を製造するための装置200が模式的に示されている。
【0134】
装置200は、半導体素子100を監視するための後述する方法におけるステップを実行するように構成されている、調整装置および/または制御装置202を含む。装置200は、第1の導電体204を介して半導体素子100の第1の電極102に少なくとも一時的に接続可能である。装置200は、第2の導電体206を介して半導体素子100の第2の電極104に少なくとも一時的に接続可能である。
【0135】
調整装置および/または制御装置202は、本実施例において、第1の極性を有する第1の電圧U1を出力するように構成されている。本実施例では、第1の電極102と第2の電極104とがそれぞれの導体によって装置200に接続されているときに、第1の電圧U1が第1の電極102と第2の電極104との間で印加され、調整装置および/または制御装置202は第1の電圧U1を出力する。
【0136】
調整装置および/または制御装置202は、任意選択的に、第1の極性とは反対の極性を有する第2の電圧U2を出力するように構成されている。本実施例では、第1の電極102と第2の電極104とがそれぞれの導体によって装置200に接続されているときに、第2の電圧U2が第1の電極102と第2の電極104との間で印加され、調整装置および/または制御装置202は第2の電圧U2を出力する。
【0137】
制御装置は、第1の電圧U1および/または第2の電圧U2について、交流電圧または略一定の値を出力するように構成されてもよい。この値は、例えば、1ボルトから80ボルトの範囲であり、好ましくは、1ボルト、2ボルトまたは5ボルトまたは10ボルトまたは20ボルトまたは40ボルトまたは80ボルトである。
【0138】
好ましくは、誘電体層106は、多結晶酸化物高誘電率誘電体として構成されている。
特に、誘電体層106は、PZT層として構成されている。PZTはここではPb(ZrxTi1-x)O3を表す。
【0139】
誘電体層106は、特に、KNN層として構成されている。KNNはここでは(KxNa1-x)NbO3を表す。
誘電体層106は、特に、HfO2、HfZrO2、ZrO2、BaTiO3、SrTiO3または(BaxSr1-x)TiO3層として構成されてもよい。
【0140】
好ましくは、誘電体層106はドープされている。例えば、誘電体層106は、ニッケルをドープしたPZT層である。
【0141】
【0142】
PZT層とKNN層の両方が、ニッケル以外のドーパント、例えば、Nb、La、Mn、Mgを有していてもよい。
好ましくは、誘電体層は、スパッタリングされたPZT層として構成されている。ここでは、いわゆるターゲット材料がプラズマで基板上に成膜される。例えば、ターゲット材料としてPZTが使用される。好ましくは、この文脈においてスパッタリングされたPZT層は、500℃より低い成膜温度を有する。
【0143】
好ましくは、誘電体層の厚さは、500nm~4μmの範囲である。これは、アクチュエータに対して有益な範囲である。好ましくは、層厚は1μm、または4μmである。また、より大きい層厚も可能である。説明する手順は、全ての層厚に対して実施することができる。
【0144】
また、より小さい層厚も可能である。好ましくは、誘電体層の厚さは、例えばアクチュエータ以外の用途では500nmより小さい範囲である。その例として、高誘電率誘電体の用途、例えばメモリなどが挙げられる。メモリは、抵抗変化型ランダムアクセスメモリ(ReRAM)、または強誘電体メモリ(FeRAM)が考えられる。これらの他の用途では、用途に応じて15nm~200nmの厚さが有益である。
【0145】
さらに、ゲート酸化物などの層を有する非常に薄い高誘電率誘電体は、非常に多くの用途で使用することができる。誘電体層106として、例えば、50nm以下の層厚を有するHfO2またはSiO2を設けてもよい。
【0146】
調整装置は、第1の電圧U1の閾値を調整するように構成することができる。この閾値は、例えば1ボルトから80ボルトの範囲にあり、好ましくは1ボルト、2ボルトまたは5ボルトまたは10ボルトまたは20ボルトまたは40ボルトまたは80ボルトである。
【0147】
調整装置は、第2の電圧U2の閾値を調整するように構成することができる。この閾値は、例えば1ボルトから80ボルトの範囲にあり、好ましくは1ボルト、2ボルトまたは5ボルトまたは10ボルトまたは20ボルトまたは40ボルトまたは80ボルトである。
【0148】
この場合、第1の電極102と第2の電極104との間の電圧を検出するように構成されている電圧測定装置を設けてもよい。この場合、調整装置は、この検出された電圧の閾値との差に応じて決定される調整偏差を減少させるように構成されている。
【0149】
本実施例では、装置200は、任意選択的に測定装置208を含む。本実施例では、測定装置208は、第1の電極102および第2の電極104を流れる電流を測定するように構成されている。
【0150】
本実施例では、測定装置208は、第1の導体204内に配置されている。また、別の場所で対応して配置することも可能である。
本実施例では、測定装置208は、測定された電流を伝送するために、信号線210を介して調整装置および/または制御装置202に接続されている。
【0151】
リーク電流は、温度に強く依存する。測定装置208が、現在の温度Tを決定するための装置を含むことが企図されてもよい。半導体素子100またはそのすぐ周辺の温度測定が行われる。本態様では、温度Tにおける限界値Gは、基準温度T0における基準限界値G0に応じて、以下の指数関係にしたがって決定される。
【0152】
【0153】
ここで、kは定数である。定数は、その時点での有効障壁高さを表す。
本実施例では、装置200は、電圧を出力するための電圧源および/または電流源212を含む。本実施例では、装置200は、以下に説明する方法を実行するように構成されている演算装置214、特にマイクロプロセッサを含む。本実施例では、装置200は、限界値や、限界値から決定できる特性曲線を記憶するように構成されているメモリ216を含む。本実施例では、装置200は、出力220を出力するように構成されている出力装置218を含む。
【0154】
メモリ、アクチュエータ、MEMS、マイクロミラー、プリントヘッド、またはスピーカが、半導体素子100の監視装置および半導体素子100を含んでもよい。半導体素子100が監視される、メモリ、アクチュエータ、MEMS、マイクロミラー、プリントヘッド、またはスピーカの使用寿命の監視を行うことが企図されてもよい。
【0155】
以下に、
図16を参照して、半導体素子100の監視方法について説明する。
ステップ1600において、半導体素子100は、第1の電圧U1が印加される第1動作モードで動作する。
【0156】
ステップ1602において、半導体素子100の動作中に、半導体素子100の第1の電極102および第2の電極104を流れるリーク電流Iが検出される。
一態様では、ステップ1604において、リーク電流Iは、リーク電流Iについての第1の限界値、例えばリーク電流レベル700、800、1400のうちの1つと比較される。ステップ1604において、比較の結果に応じて、出力220が決定される。第1の限界値は、リーク電流Iが上回る、または下回る複数の限界値から決定されることが企図されてもよい。
【0157】
リーク電流Iの電圧依存性および/または温度依存性を考慮することが企図されてもよい。例えば、限界値は、基準限界値G0と基準温度T0に応じて、特に上述した指数関係で決定される。
【0158】
ステップ1604において、一態様では、リーク電流Iの極点、特に最大値が発生する時刻が決定されてもよい。本態様では、出力220は、時点に応じて決定されてもよい。
出力220は、半導体素子100の状態を含む。
【0159】
第1の限界値に応じて、半導体素子100の使用寿命の残存値が決定されることが企図されてもよい。この場合、出力220は、この残存値を含んでもよい。
リーク電流Iの極点、特に最大値が発生する時点に応じて、半導体素子100の使用寿命の残存値が決定されることが企図されてもよい。この場合、出力220は、この残存値を含んでもよい。
【0160】
例えば、半導体素子100の状態と、残りの使用寿命、例えば残存値に関する表示とを含むテキストが決定される。本実施例では、残存値は、リーク電流Iが検出される時点から、半導体素子100の使用寿命が終了する時点が発生する時点までの間、半導体素子100を第1の電圧U1でまだ動作させることができる期間である。期間は、例えば、先に述べた第1の電圧U1の影響下での欠陥の移動に関連してリーク電流Iが検出される時刻から、それぞれの用途について有益な使用寿命の終了時刻まで算出される
【0161】
一態様では、半導体素子100の動作モードを設定する制御信号が決定される。
ステップ1606において、出力220が出力される。
例えば、メッセージで送信したり、ヒューマンマシンインターフェースに出力したりするものである。
【0162】
例えば、半導体素子100または半導体素子100を含む装置が動作モードで動作するように駆動制御するための制御信号が出力される。
続いて、ステップ1600は、特にそのために設定された動作モードで実行される。以下に説明されるいずれかの理由から、本方法を終了することが企図されてもよい。
【0163】
第1の動作モードにおける半導体素子100の動作においてリーク電流Iが検出され、ステップ1602において、リーク電流Iが第1の限界値を上回る場合、または使用寿命の残存値が第1の閾値より大きい場合に、第1の動作モードで半導体素子100の動作が継続されることが企図されてもよい。
【0164】
この場合、続いて複数の限界値から第2の限界値が決定され、リーク電流Iが第2の限界値を上回る場合に、第2の動作モードで半導体素子100の動作が継続されるか、または動作が終了されることが企図されてもよい。このように、リーク電流レベルが上がるにつれて、様々な対応が取られる。
【0165】
代替的に、半導体素子100の動作が第2の動作モードで継続されるか、または終了されることが企図されてもよい。使用寿命の残存値が第2の閾値より小さい場合、動作は第2の動作モードで継続されてもよい。使用寿命の残存値が第2の閾値より大きい場合、動作を終了してもよい。残存値が減少するにつれて、様々な対応を取ることが可能である。