(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】測距装置および測距方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/4865 20200101AFI20241210BHJP
【FI】
G01S7/4865
(21)【出願番号】P 2023569435
(86)(22)【出願日】2022-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2022046682
(87)【国際公開番号】W WO2023120479
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2021209383
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520001073
【氏名又は名称】パイオニアスマートセンシングイノベーションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(74)【代理人】
【識別番号】100127236
【氏名又は名称】天城 聡
(72)【発明者】
【氏名】細井 研一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮鍋 庄悟
【審査官】九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-139625(JP,A)
【文献】特表2021-518549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48- 7/51
G01S 17/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から出射され、対象物で反射されたパルス光を受光部で検出する測距装置であって、
前記パルス光を受光した前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和した受光波形である飽和波形を用いて、当該パルス光のピーク
受光タイミングを推定する推定部
と、
推定した前記ピーク受光タイミングを用いて当該測距装置から前記対象物までの距離を算出する距離算出部とを備え、
前記推定部は、
前記飽和波形のうち、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いて仮ピーク
受光タイミングを特定し、
前記飽和波形の飽和幅に基づいて補正パラメータを特定し、
特定した前記補正パラメータを用いて前記仮ピーク
受光タイミングを補正する事により、当該パルス光のピーク
受光タイミングを推定する
測距装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測距装置において、
前記推定部は、前記飽和波形が前記パルス光の出射後、前記受光部における初めてのパルス受光によるものであるか否かに基づいて、前記補正パラメータを特定する
測距装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の測距装置において、
前記推定部は、当該測距装置の光学系の構成に基づいて前記補正パラメータを特定する
測距装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の測距装置において、
前記飽和波形の飽和幅に基づいて、受光した前記パルス光のピーク強度を推定し、
推定した前記ピーク強度および推定した前記ピーク
受光タイミングを用いて前記対象物の反射強度よび反射率の少なくとも一方を推定する
測距装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の測距装置において、
前記推定部は、参照情報にさらに基づいて前記補正パラメータを特定し、
前記参照情報は、複数の前記飽和幅のそれぞれに補正パラメータが関連付けられた情報である
測距装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の測距装置において、
前記推定部は、前記仮ピーク受光タイミングを、特定した前記補正パラメータ分ずらすことにより前記仮ピーク受光タイミングを補正する
測距装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載の測距装置において、
前記推定部は、前記複数のデータ点を通るガウス曲線、または二次曲線のピークタイミングを前記仮ピーク受光タイミングとして特定する
測距装置。
【請求項8】
請求項1または2に記載の測距装置において、
前記推定部は、
前記飽和波形のうち、受光値が予め定められた飽和閾値を初めて超えたデータ点を飽和の前記開始点とし、その後受光値が前記飽和閾値を上回っている最後のデータ点を飽和の終点として特定し、
飽和の前記開始点から飽和の前記終点までの幅を、前記飽和波形の前記飽和幅とする
測距装置。
【請求項9】
光源から出射され、対象物で反射されたパルス光を受光部で検出する測距方法であって、
前記パルス光を受光した前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和した受光波形である飽和波形を用いて、当該パルス光のピーク
受光タイミングを推定する推定ステップ
と、
推定した前記ピーク受光タイミングを用いて測距装置から前記対象物までの距離を算出する距離算出ステップとを含み、
前記推定ステップでは、
前記飽和波形のうち、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いて仮ピーク
受光タイミングを特定し、
前記飽和波形の飽和幅に基づいて補正パラメータを特定し、
特定した前記補正パラメータを用いて前記仮ピーク
受光タイミングを補正する事により、当該パルス光のピーク
受光タイミングを推定する
測距方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距装置および測距方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物からの反射光を受光して測定を行う装置において、反射光の強度が強すぎると受光信号が飽和してしまい、測定精度の低下につながる。
【0003】
特許文献1には、飽和した受信信号の立ち上がりエッジを検出することが記載されている。特許文献1の技術では、受信信号の最大サンプル等を含む複数のサンプルに第1の多項式曲線をフィッティングし、第1の多項式曲線の最大値を判定し、その最大値の所定割合の値を中間しきい値と定義する。そして、中間しきい値の大きさと交差する第1の多項式曲線のポイントを判定し、そのポイントに近い受信信号の複数のサンプルを中間サンプルとする。そして、中間サンプルに第2の多項式曲線をフッティングする。そして、第2の多項式と中間しきい値とが交差するポイントを判定する。
【0004】
特許文献2には、受信信号が飽和した場合、受信信号のパルス幅に基づき相関関係を参照すれば、信号強度を得ることができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2021-518551号公報
【文献】特開2002-22831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、立ち上がりエッジを検出するための処理負荷が大きかった。また、特許文献2の技術は、受光信号が飽和した場合にピーク位置を推定できるものではなかった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題としては、飽和した受光波形のピーク位置を小さい処理負荷で推定することが一例として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、
光源から出射され、対象物で反射されたパルス光を受光部で検出する測距装置であって、
前記パルス光を受光した前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和した受光波形である飽和波形を用いて、当該パルス光のピーク位置を推定する推定部を備え、
前記推定部は、
前記飽和波形のうち、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いて仮ピーク位置を特定し、
前記飽和波形の飽和幅に基づいて補正パラメータを特定し、
特定した前記補正パラメータを用いて前記仮ピーク位置を補正する事により、当該パルス光のピーク位置を推定する
測距装置である。
【0009】
請求項5に記載の発明は、
光源から出射され、対象物で反射されたパルス光を受光部で検出する測距方法であって、
前記パルス光を受光した前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和した受光波形である飽和波形を用いて、当該パルス光のピーク位置を推定する推定ステップを含み、
前記推定ステップでは、
前記飽和波形のうち、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いて仮ピーク位置を特定し、
前記飽和波形の飽和幅に基づいて補正パラメータを特定し、
特定した前記補正パラメータを用いて前記仮ピーク位置を補正する事により、当該パルス光のピーク位置を推定する
測距方法である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態に係る測距装置の機能構成を例示する図である。
【
図2】第1の実施形態に係る測距装置の構成を詳しく例示する図である。
【
図3】第1の実施形態に係る測距装置のハードウエア構成を例示する図である。
【
図4】受光部により生成される受光信号の例を示す図である。
【
図5】飽和したオブジェクトピークを例示する波形である。
【
図9】第1の実施形態に係る推定部が行う処理の流れを例示するフローチャートである。
【
図10】第1の実施形態に係る推定部が行う処理について説明するための図である。
【
図11】測距装置から至近距離に対象物が存在する場合の受光信号を例示する図である。
【
図12】飽和した単独のオブジェクトピークの波形を例示する図である。
【
図13】測距装置の至近距離に対象物があることにより、飽和したオブジェクトピークと内部反射ピークが合体した場合の波形を例示する図である。
【
図14】第2の実施形態に係る参照情報を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る測距装置10の機能構成を例示する図である。本図では、光の経路を破線矢印で模式的に示している。本実施形態に係る測距装置10は、光源14から出射され、対象物30で反射されたパルス光を受光部180で検出する装置である。測距装置10は、推定部121を備える。推定部121は、パルス光を受光した受光部180により生成され、一部において受光信号が飽和した受光波形である飽和波形を用いて、そのパルス光のピーク位置を推定する。ここで、推定部121は、飽和波形のうち、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いて仮ピーク位置を特定する。また、推定部121は、飽和波形の飽和幅に基づいて補正パラメータを特定する。そして、推定部121は、特定した補正パラメータを用いて仮ピーク位置を補正する事により、パルス光のピーク位置を推定する。以下に詳しく説明する。
【0013】
本図の例において、測距装置10は、光源14および受光部180をさらに備える。
【0014】
図2は、本実施形態に係る測距装置10の構成を詳しく例示する図である。本図において、破線矢印は光の経路を模式的に示している。本図を参照し、測距装置10の構成について詳しく説明する。
【0015】
測距装置10は、たとえばパルス光の出射タイミングと反射光(反射したパルス光)の受光タイミングとの差に基づいて、測距装置10から走査範囲160内にある物体(対象物30)までの距離を測定する装置である。対象物30は特に限定されず、たとえば生物、非生物、移動体、静止体等でありえる。パルス光はたとえば赤外光等の光である。また、パルス光はたとえばレーザパルスである。測距装置10に備えられた光源14から出力され、透過部材20を通って測距装置10の外部へ出射されたパルス光は、物体で反射されて少なくとも一部が測距装置10に向かって戻る。そして、反射光が再び透過部材20を通って測距装置10内に入射する。測距装置10に入射した反射光は受光部180で受光され、強度が検出される。ここで、測距装置10では光源14からパルス光が出射されてから反射光が受光部180で検出されるまでの時間が測定される。そして、測距装置10に備えられた制御部120は、測定された時間とパルス光の伝搬速さを用いて測距装置10と物体との距離を算出する。測距装置10はたとえばライダー(LIDAR:Laser Imaging Detection and Ranging, Laser Illuminated Detection and Ranging またはLiDAR:Light Detection and Ranging)装置である。本図の例において推定部121は制御部120に含まれる。ただし、推定部121は制御部120とは別途設けられても良い。
【0016】
本実施形態に係る測距装置10が車両等の移動体に取り付けられている場合、測距装置10による測距結果は移動体の自動運転や運転補助に用いられても良い。
【0017】
光源14はパルス光を出射する。光源14は、たとえばレーザーダイオードである。受光部180は受光素子18および検出回路181を含む。受光素子18は、測距装置10に入射したパルス光を受光する。受光素子18は、たとえばアバランシェフォトダイオード(APD)等のフォトダイオードである。
【0018】
本図の例において、測距装置10は、可動ミラー16をさらに備える。可動ミラー16は、たとえば一軸可動または二軸可動のMEMSミラーである。可動ミラー16の反射面の向きを変えることにより、測距装置10から出射されるパルス光の出射方向を変化させることができる。可動ミラー16が二軸可動のMEMSミラーである場合、可動ミラー16を二軸駆動する事により、所定の範囲内をパルス光でラスタスキャンすることができる。
【0019】
制御部120は、複数のパルス光による測定結果を含む点群データを生成する。たとえば、走査範囲160内をラスタスキャンする場合、第1の方向161に光の出射方向を変化させる事によりライン状の走査を行う。そして、第2の方向162に光の出射方向を変化させながら複数のライン状走査を行う事により、走査範囲160内の複数の測定結果を含む点群データを生成する事ができる。本図の例において、第1の方向161と第2の方向162とは直交している。
【0020】
一度のラスタスキャンで生成される点群データの単位をフレームと呼ぶ。ひとつのフレームについて測定が終わると、光の出射方向は初期位置に戻り、次のフレームの測定が行われる。こうして、繰り返しフレームが生成される。点群データにおいては、パルス光で測定された距離と、そのパルス光の出射方向を示す情報とが関連付けられている。または、点群データは、パルス光の反射点を示す三次元座標を含んでもよい。制御部120は、算出された距離と、各パルス光を出射する時の可動ミラー16の角度を示す情報とを用いて点群データを生成する。生成された点群データは測距装置10の外部に出力されても良いし、制御部120からアクセス可能な記憶装置に保持されても良い。
【0021】
本図の例において、測距装置10は孔付きミラー15、および集光レンズ13をさらに備える。光源14から出力されたパルス光は孔付きミラー15の孔を通過し、可動ミラー16で反射された後に測距装置10から出射される。また、測距装置10に入射した反射光は可動ミラー16および孔付きミラー15で反射された後、集光レンズ13を介して受光部180に入射する。なお、測距装置10は、コリメートレンズやミラー等をさらに含んでもよい。
【0022】
制御部120は、発光部140、受光部180、および可動反射部164を制御することができる(
図3参照)。発光部140、受光部180、および可動反射部164は測距装置10に含まれる。発光部140は光源14および駆動回路141を含む。受光部180は受光素子18および検出回路181を含む。可動反射部164は可動ミラー16および駆動回路163を含む。駆動回路141は、制御部120からの制御信号に基づき光源14を発光させるための回路であり、たとえばスイッチング回路や容量素子を含んで構成される。検出回路181は、I-Vコンバータや増幅器を含み、受光素子18による光の検出強度を示す信号を出力する。制御部120および推定部121は、受光部180から受光信号を取得し、受光信号に対してピークを検出する処理を行うことにより、対象物30からの反射光に由来するピークを検出する。そして、制御部120は、検出されたピークの受光タイミング(ピーク位置)と、光の出射タイミングとを用いて、上述したように測距装置10から走査範囲160内の対象物30までの距離を算出する。ここで、推定部121はパルス受光により受光信号が飽和した場合に、その飽和波形に基づいてピーク位置を推定する。そして、制御部120は推定部121によって推定されたピーク位置、すなわち反射光の受光タイミングを用いて、測距装置10から対象物30までの距離を算出する。
【0023】
図3は、本実施形態に係る測距装置10のハードウエア構成を例示する図である。制御部120および推定部121は、集積回路80を用いて実装されている。集積回路80は、例えば SoC(System On Chip)である。
【0024】
集積回路80は、バス802、プロセッサ804、メモリ806、ストレージデバイス808、入出力インタフェース810、及びネットワークインタフェース812を有する。バス802は、プロセッサ804、メモリ806、ストレージデバイス808、入出力インタフェース810、及びネットワークインタフェース812が、相互にデータを送受信するためのデータ伝送路である。ただし、プロセッサ804などを互いに接続する方法は、バス接続に限定されない。プロセッサ804は、マイクロプロセッサなどを用いて実現される演算処理装置である。メモリ806は、RAM(Random Access Memory)などを用いて実現されるメモリである。ストレージデバイス808は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュメモリなどを用いて実現されるストレージデバイスである。
【0025】
入出力インタフェース810は、集積回路80を周辺デバイスと接続するためのインタフェースである。本図において、入出力インタフェース810には光源14の駆動回路141、受光素子18の検出回路181、および可動ミラー16の駆動回路163が接続されている。
【0026】
ネットワークインタフェース812は、集積回路80を通信網に接続するためのインタフェースである。この通信網は、例えば CAN(Controller Area Network)、Ethernet、LVDS(Low Voltage Differential Signaling)等の通信網である。なお、ネットワークインタフェース812が通信網に接続する方法は、無線接続であってもよいし、有線接続であってもよい。
【0027】
ストレージデバイス808は、制御部120および推定部121の機能を実現するためのプログラムモジュールを記憶している。プロセッサ804は、このプログラムモジュールをメモリ806に読み出して実行することで、制御部120および推定部121の機能を実現する。
【0028】
集積回路80のハードウエア構成は本図に示した構成に限定されない。例えば、プログラムモジュールはメモリ806に格納されてもよい。この場合、集積回路80は、ストレージデバイス808を備えていなくてもよい。
【0029】
図4は、受光部180により生成される受光信号の例を示す図である。本図では、一つのパルス光出射から、次のパルス光出射までの間の受光信号を例示している。受光信号は、検出回路181から出力され、制御部120に入力される信号である。
図4の例において、受光素子18での受光強度が大きいほど正方向に大きな受光信号が出力される。なお、受光強度に対する受光信号の極性等は本図の例に限定されない。たとえば、受光部180は、受光素子18での受光強度が大きいほど負方向に大きな受光信号が出力される構成を有しても良い。以下の説明においても、処理等における極性は適宜設定される。
図4の例において、受光部180の飽和レベルを破線で示している。受光部180の飽和レベルとは、受光部180から出力可能な最大の信号レベルであり、このレベルを超える光の強度は、受光信号に正しく反映されない。
【0030】
測距装置10において、光源14から出力された光は
図1に示すように主に透過部材20を介して測距装置10の外部に出射される。しかし、光源14から出力された光の少なくとも一部は、測距装置10の内部で反射されて内部反射光となる。内部反射光は受光部180で受光される。この内部反射光には透過部材20で反射された光も含まれる。透過部材20は測距装置10の内側と外側を仕切っている、光を透過する部材である。透過部材20はたとえばガラスまたは樹脂からなる。受光部180は、内部反射光と、対象物30からの反射光とを受光する。
【0031】
図4は、受光部180が飽和しない場合の、受光部180の受光信号の波形を例示する図である。上述した内部反射光は、光源14からの光出射の直後に受光部180で受光される。一方、対象物30からの反射光は測距装置10から対象物30までの距離に応じたタイミングで受光部180により受光される。対象物30が測距装置10から十分遠い場合、受光部180から出力される受光信号には、内部反射光の受光によるピーク(以下、「内部反射ピーク」とも呼ぶ)と、対象物30からの反射光の受光によるピーク(以下、「オブジェクトピーク」とも呼ぶ)とが互いに離れた状態で現れる。すなわちこの場合、光の出射後の受光信号における最初のピークは内部反射ピークであり、2つ目以後のピークがオブジェクトピークであるといえる。ただし、対象物30が測距装置10に近いほど、これらのピークは互いに近くなる。
【0032】
図5は、飽和したオブジェクトピークを例示する波形である。対象物30からの反射光の強度が高い場合、対象物30からの反射光の受光によるピーク強度が受光部180の検出レンジを越え、本図のように受光部180の受光信号が飽和することがある。この様な飽和は、たとえば対象物30が測距装置10から近い場合や、対象物30の光反射率が高い場合等に生じうる。本図の例において、反射光を受光すると、受光信号が立ち上がり、飽和する。そして飽和状態を脱するとゼロレベル(基準レベル)に戻り、検出回路181からはさらに負の極性の信号値が出力される。受光信号は受光素子18および検出回路181の回路特性を反映した信号であり、回路特性に起因して本図のように負の受光信号が出力されることがあり得る。そして受光信号は極小値をとった後、徐々にゼロレベルへ戻る。
【0033】
このように、飽和後には受光部180に蓄積された電荷の放出等の影響で尾引が生じる。したがって、飽和が生じたことにより受光信号のピーク幅は増大する。一方、飽和状態に至るまでの信号、すなわち、飽和波形の立ち上がり部分は、受光強度を正しく反映していると考えられる。したがって、飽和波形における飽和の開始点の位置は、実際の受光パルスのピーク位置、すなわち受光タイミングとよく相関していると言える。
【0034】
推定部121は、飽和波形のうち、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いて仮ピーク位置を特定する。たとえば、推定部121は、複数のデータ点を通るガウス曲線、または二次曲線のピーク位置を仮ピーク位置として特定する。そして、補正パラメータを用いて仮ピーク位置を補正する事により、パルス光のピーク位置を推定する。
【0035】
ここで、飽和が生じたことにより受光信号のピーク幅が増大するが、増大したピーク幅は受光部180に蓄積される電荷の量を反映している。すなわち、飽和波形の飽和幅は受光部180における受光量と相関する。また、パルス光による受光量が大きいほど、仮ピーク位置と実際のパルスのピーク位置との差が大きくなる。したがって、補正パラメータは、飽和波形の飽和幅に基づいて特定することができる。
【0036】
図6は、飽和波形73の飽和幅を例示する図である。受光信号は、所定の間隔でサンプリングされた時系列の複数の受光値で構成されている。受光値は、受光部180における受光強度を示している。飽和幅はたとえば飽和が生じている状態の幅(時間の長さ)である。たとえば、ある飽和波形について、受光値が予め定められた飽和閾値を超えている状態を飽和が生じている状態とする。飽和閾値は、受光部180の飽和レベルよりわずかに小さい値である。推定部121はたとえば、受光値が予め定められた飽和閾値を初めて超えた時点を飽和の始点とし、その後飽和閾値を上回っている最後の受光値を飽和の終点として特定する。そして、推定部121は、飽和の始点から飽和の終点までの幅を、その飽和波形の飽和幅とする。なお、推定部121は、ある飽和波形について、飽和閾値を超える受光値の数をカウントし、カウントされた数に所定の時間を乗じて得た値を飽和幅としても良い。
【0037】
推定部121は、特定した飽和幅と、参照情報とを用いて補正パラメータを特定することができる。参照情報は、複数の飽和幅のそれぞれに補正パラメータが関連付けられた情報である。具体的には、参照情報において、大きな飽和幅ほど、大きな補正パラメータに関連付けられている。参照情報はテーブルであっても良いし、飽和幅から補正パラメータが算出できる数式であってもよい。また、参照情報では、飽和幅の範囲と、補正パラメータとが関連付けられていても良い。参照情報は予め推定部121からアクセス可能な記憶部(例えばストレージデバイス808)に保持されている。
【0038】
参照情報は事前の実験的な計測結果に基づいて作成し、記憶部に保持させておくことができる。たとえば、測距装置10の受光部180と同様の条件の第1受光部と、第1受光部よりも検出レンジの大きな第2受光部とを準備する。そして、第1受光部と第2受光部とに同じパルス光を入射させて、各受光部による受光波形を得る。なおこのとき、第1受光部でのみ飽和波形を得るような強度のパルス光を入射させる。そして、第1受光部で得た飽和波形について、推定部121が行う処理により仮ピーク位置および飽和幅を特定する。一方、第2受光部で得られた飽和していない受光波形のピーク位置、すなわち正確なピーク位置を特定する。そして仮ピーク位置と正確なピーク位置との差を補正パラメータとして、特定された飽和幅と関連付ける。この様な関連付けを強度の異なる複数のパルス光を用いて行い、複数の飽和幅のそれぞれに補正パラメータを関連付ける。参照情報が数式である場合、得られた補正パラメータと飽和幅の関係に対してフィッティングを行うことで、参照情報を得ても良い。
【0039】
図7は、参照情報の一例を示す図である。本図の例において参照情報はテーブルであり、複数の飽和幅のそれぞれに補正パラメータが関連付けられている。
【0040】
推定部121は、記憶部から参照情報を読み出し、参照情報において、特定した飽和幅に関連付けられた補正パラメータを、補正に用いる補正パラメータとして特定する。たとえば参照情報がテーブルである場合、推定部121は、特定した飽和幅に対応する補正パラメータを特定する。参照情報にて飽和幅の範囲と補正パラメータとが関連付けられている場合、推定部121は、特定した飽和幅が属する範囲を特定し、その範囲に対応する補正パラメータを特定する。参照情報が数式である場合、推定部121は、その数式に特定した飽和幅を代入し、補正パラメータを得る。
【0041】
図8は、参照情報の他の一例を示す図である。推定部121は、測距装置10の光学系の構成にさらに基づいて補正パラメータを特定してもよい。すなわち、本図の例のように、参照情報において、光学系の構成と飽和幅との複数の組み合わせのそれぞれに対して、補正パラメータが関連付けられていても良い。参照情報が数式である場合、光学系の構成毎に数式が設けられる。飽和波形は光学系の構成、たとえば測距装置10においてパルス光を出入射させる部分に望遠レンズが設けられているか否かによって異なりうる。したがって、光学系の構成毎に定められた補正パラメータを用いることで、ピーク位置の推定精度を高めることができる。本例の参照情報も、光学系の各構成を有する条件で事前に測定を行うことにより生成できる。光学系の構成を示す情報はたとえば測距装置10に対して予めユーザが入力しておく。推定部121は、測距装置10に対して入力された光学系の構成を示す情報を取得し、補正パラメータの特定に用いることができる。
【0042】
本実施形態に係る測距方法について以下に説明する。本実施形態に係る測距方法は、光源14から出射され、対象物30で反射されたパルス光を受光部180で検出する測距方法である。本測距方法は、パルス光のピーク位置を推定する推定ステップを含む。推定ステップでは、パルス光を受光した受光部180により生成され、一部において受光信号が飽和した受光波形である飽和波形を用いて、パルス光のピーク位置が推定される。ここで、推定ステップでは、飽和波形のうち、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いて仮ピーク位置が特定され、飽和波形の飽和幅に基づいて補正パラメータが特定される。そして、特定した補正パラメータを用いて仮ピーク位置を補正する事により、そのパルス光のピーク位置が推定される。以下に詳しく説明する。
【0043】
図9は、本実施形態に係る推定部121が行う処理の流れを例示するフローチャートである。
図10は、本実施形態に係る推定部121が行う処理について説明するための図である。
図10は、飽和波形73を用いた処理の過程を示している。
【0044】
推定部121は測距装置10でパルス光が出射されると、受光部180から受光信号を取得する(S11)。推定部121は受光信号を受光部180から取得しても良いし、制御部120の他の部分から取得しても良い。また、推定部121は、一旦記憶部に保持された、受光信号を示す情報を読み出して取得しても良い。推定部121はたとえば光源14からのパルス光の出射毎に受光信号を取得する。また、推定部121はたとえばあるパルス光の出射から、次のパルス光の出射までの受光信号を一単位とし、一単位ごとに
図9の一連の処理を行う。推定部121は、受光信号を取得すると、その受光信号においてパルス受光による受光波形が飽和しているか否かを判定する(S12)。具体的には推定部121は、受光信号における受光値が予め定められた飽和閾値を超えた場合に、パルス受光による受光波形が飽和していると判定する(S12のYes)。一方、受光波形が飽和していると判定されなかった場合(S12のNo)、推定部121はその受光信号を用いて通常のピーク検出処理を行い、飽和していないオブジェクトピークのピーク位置を特定する(S18)。飽和していないオブジェクトピークのピーク位置の特定は、既存の手法を用いて行える。そして、推定部121はそのパルス光出射に対する処理を終了する。なお、飽和していないピークのピーク位置の特定は、推定部121に限らず、制御部120により行われればよい。
【0045】
受光波形が飽和していると判定されると(S12のYes)、推定部121は、飽和の開始点を特定する(S13)。具体的には、推定部121は、取得した受光信号のうち受光値が初めて飽和閾値を超えた点(受光値)を、飽和の開始点70とする。次いで、推定部121は、飽和の開始点70を含む複数のエッジサンプル点を特定する(S14)。
図10の例において、開始点70の前後の点(受光値)71と、開始点70とを合わせて複数のエッジサンプル点としている。すなわち、本例において推定部121は3つのエッジサンプル点を特定する。ただし、推定部121は4つ以上のエッジサンプル点を特定しても良い。複数のエッジサンプル点は、飽和の開始点70の一つ以上前の点と一つ以上後の点を含むことが好ましい。
【0046】
推定部121は次いで、複数のエッジサンプル点を通る曲線75を特定する(S15)。上述した通り推定部121は、たとえば複数のエッジサンプル点を通るガウス曲線、または二次曲線を特定する。複数のエッジサンプル点を通る曲線は、既存のフィッティング処理技術等を用いて特定できる。そして、推定部121は特定した曲線75のピーク位置を仮ピーク位置として特定する(S16)。
【0047】
そして推定部121は、上述した方法で、飽和波形73の飽和幅を特定し、さらにその飽和幅を用いて補正パラメータを特定する。そして、特定した補正パラメータを用いて仮ピーク位置を補正することにより、ピーク位置を推定する(S17)。具体的には推定部121は、仮ピーク位置を補正パラメータ分ずらした位置を、推定されるピーク位置とする。たとえば、推定されるピーク位置(出射タイミングからの時間)は、仮ピーク位置よりも後(長い時間)となる。すなわち、推定部121は、仮ピーク位置に補正パラメータ加えて、推定されるピーク位置を得る。その他、推定部121は、仮ピーク位置に補正パラメータを用いた演算を行うことで推定されるピーク位置を算出しても良い。そして、推定されるピーク位置を得ると、推定部121はそのパルス光出射に対する処理を終了する。推定部121は、パルス光の出射毎にこれらの処理を行う。
【0048】
制御部120は、特定されたピーク位置、すなわちS18で特定されたピーク位置および、S17で推定されたピーク位置を用いて、測距装置10から対象物30までの距離を算出する。
【0049】
なお、推定部121は、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いて仮ピーク位置を特定する代わりに、飽和の終了点を含む複数のデータ点を用いて仮ピーク位置を特定してもよい。ただし、上述したとおり、飽和の開始点の方が飽和の終了点よりも、飽和するピークの成分の位置をより正確に反映しているため、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いることが好ましい。
【0050】
以上、本実施形態によれば、推定部121は、飽和波形のうち、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いて仮ピーク位置を特定する。また、推定部121は、飽和波形の飽和幅に基づいて補正パラメータを特定する。そして、推定部121は、特定した補正パラメータを用いて仮ピーク位置を補正する事により、パルス光のピーク位置を推定する。したがって、飽和した受光波形のピーク位置を小さな処理負荷で推定することができる。
【0051】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る測距装置10は、推定部121が、飽和波形がパルス光の出射後、受光部180における初めてのパルス受光によるものであるか否かに基づいて、補正パラメータを特定する点を除いて、第1の実施形態に係る測距装置10と同じである。以下に詳しく説明する。
【0052】
図11は、測距装置10から至近距離に対象物30が存在する場合の受光信号を例示する図である。測距装置10から至近距離に対象物30が存在する場合、その反射光は高強度となり、受光部180が飽和する。また、測距装置10と対象物30が近いことで、測距装置10からの光の出射直後に対象物30からの反射光が受光される。その結果、飽和したオブジェクトピークと、内部反射光ピークとが一つのピークに足し合わされた飽和ピークが、受光信号に現れる。
【0053】
図12は、飽和した単独のオブジェクトピークの波形を例示する図であり、
図13は、測距装置10の至近距離に対象物30があることにより、飽和したオブジェクトピークと内部反射ピークが合体した場合の波形を例示する図である。
図12および
図13を参照し、各飽和波形について説明する。
【0054】
図12では、飽和波形に重ねて、仮想的なオブジェクトピークを破線で示している。なお、仮想的なオブジェクトピークとは、仮に受光部180が飽和しなかったと仮定した場合に、受光部180での受光強度に基づき想定される波形である。実際の受光信号では、飽和波形が出力される。このような単独のオブジェクトピークによる飽和波形は、光源14からパルスが出射されてから、内部反射光の受光後、第2ピーク以降に現れうる。このような飽和波形の立ち上がり部分は、仮想的なオブジェクトピークの立ち上がり初めの形状および位置をよく反映している。
【0055】
図13では、内部反射ピークの成分と、測距装置10から至近距離にある対象物30からの反射光による仮想的なオブジェクトピークの成分とを破線で示している。内部反射ピークの成分と、仮想的なオブジェクトピークの成分とを比較すると、ピーク位置がずれている。具体的には、内部反射ピークの成分のピーク位置は、仮想的なオブジェクトピークの成分のピーク位置よりも前にある(すなわちパルス光の出射タイミングに近い)。対象物30からの反射光は内部反射光よりも、受光までにわずかに長く時間がかかるからである。実際の受光信号では、内部反射ピークの成分と、オブジェクトピークの成分とが足し合わされた結果としての飽和波形が出力される。このような、飽和したオブジェクトピークと内部反射ピークが合体したことによる飽和波形は、光源14からパルスが出射された後、最初のピークとして現れうる。また、オブジェクトピークと内部反射ピークが合体した場合、飽和波形の立ち上がり部分の形状には、内部反射ピークの成分と、仮想的なオブジェクトピークの成分との両方の影響が生じている。
【0056】
以上のように、飽和した単独のオブジェクトピークのピーク位置を推定する場合と、飽和したオブジェクトピークと内部反射ピークとが合体してできた飽和波形からオブジェクトピークのピーク位置を推定する場合とでは、その波形の由来が異なる。したがって、これらの場合のそれぞれで異なる補正パラメータを用いて仮ピーク位置の補正を行うことが好ましい。本実施形態に係る測距装置10では、推定部121が、飽和波形がパルス光の出射後、受光部180における初めてのパルス受光(以後、「第1パルス受光」と呼ぶ。)によるものであるか否かにさらに基づいて、補正パラメータを特定する。そうすることで、ピーク位置の推定精度を高めることができる。
【0057】
図14は、本実施形態に係る参照情報を例示する図である。本図の例において、参照情報では、飽和波形が第1パルス受光によるものであるか否かと、飽和幅との複数の組み合わせのそれぞれに対して、補正パラメータが関連付けられている。本例の参照情報も、至近距離の対象物からの反射を生じさせる条件で、第1の実施形態の例と同様、事前に実験的な測定を行うことにより生成できる。なお、さらに
図8のように、参照情報では、飽和波形が第1パルス受光によるものであるか否かと、光学系の構成と、飽和幅との複数の組み合わせのそれぞれに対して、補正パラメータが関連付けられていても良い。また、参照情報が数式である場合、参照情報には飽和波形が第1パルス受光によるものである場合に用いるべき数式と、飽和波形が第1パルス受光によるものでない場合に用いるべき数式とが含まれる。なお、飽和幅が同じであれば、飽和波形が第1パルス受光によるものである場合の補正パラメータは、飽和波形が第1パルス受光によるものでない場合の補正パラメータよりも大きく設定されている。
【0058】
本実施形態において推定部121は、取得した受光信号を用いて。飽和波形が第1パルス受光によるものか否かを判定する。具体的には推定部121は、パルス光の出射後、予め定められたノイズ閾値を超える受光値が初めて第1基準数以上続いた場合、ノイズ閾値を超えるそれらの受光値が第1パルス受光によるピークを構成すると判定する。なおノイズ閾値は、受光信号のノイズレベルよりわずかに大きい値とすることができる。そして、S12で飽和閾値を超えたと判定された受光値が、第1パルス受光によるピークを構成する受光値に含まれる場合、推定部121はその飽和波形は第1パルス受光によるものと判定する。そして推定部121は、その判定結果を用いて補正パラメータの特定を行う。たとえば、推定部121は、参照情報において、対象の飽和波形についての判定結果と、飽和幅との組み合わせに対応している補正パラメータを、仮ピーク位置の補正に用いる補正パラメータとして特定する。そして、特定した補正パラメータを用いて、第1の実施形態と同様に仮ピーク位置を補正して、推定されるピーク位置を得る。
【0059】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の作用および効果が得られる。加えて、本実施形態によれば、推定部121が、飽和波形がパルス光の出射後、受光部180における初めてのパルス受光によるものであるか否かに基づいて、補正パラメータを特定する。したがって、より高精度にピーク位置を推定できる。
【0060】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る測距装置10は、飽和波形の飽和幅に基づいて、受光したパルス光のピーク強度を推定し、推定したピーク強度および推定したピーク位置を用いて対象物30の反射強度および反射率の少なくとも一方を推定する点を除いて、第1および第2の実施形態の少なくともいずれかに係る測距装置10と同じである。以下に詳しく説明する。
【0061】
複数の異なるフレーム内で同一の対象物30を特定する場合や、対象物30が何であるかを特定するような場合に、対象物30の反射率を用いるのが有効である。反射率は物体の特性を表す指標の一つだからである。たとえば、連続する複数のフレームでほぼ同じ反射率を有する対象物30がほぼ同じ位置に、または移動して検出されるような場合、それらの対象物30は、同一個体であると認識できる。また、たとえば所定の反射率を有する対象物30を、道路標識等である可能性が高いものと判断できる。本実施形態に係る測距装置10は、各出射パルスに対する受光結果に基づいて、対象物30の反射率を算出して出力する機能を有する。または、測距装置10は、各出射パルスに対する受光結果に基づいて、対象物30の反射強度を示す情報を出力しても良い。本実施形態に係る測距装置10が車両等の移動体に取り付けられている場合、測距装置10から出力されたこれらの情報は、移動体の自動運転や運転補助に用いられても良い。
【0062】
対象物30の反射率は、その対象物30による反射強度と、測距装置10から対象物30までの距離とを用いて算出できる。反射強度は通常、受光信号におけるピーク強度を用いて特定することができるが、オブジェクトピークが飽和した場合、受光信号から直接ピーク強度を読み取ることができない。これに対して、本実施形態に係る推定部121は、飽和波形の飽和幅を用いてパルス光のピーク強度を推定する。具体的には、推定部121は、飽和幅と、強度参照情報とを用いてパルス光のピーク強度を推定する。飽和幅とピーク強度との間には相関があるため、この様な方法でピーク強度を推定できる。
【0063】
強度参照情報は、複数の飽和幅のそれぞれに推定ピーク強度が関連付けられた情報である。具体的には、強度参照情報では、大きい飽和幅ほど大きな推定ピーク強度と関連付けられている。強度参照情報はテーブルであっても良いし、飽和幅から推定ピーク強度が算出できる数式であってもよい。また、強度参照情報では、飽和幅の範囲と、推定ピーク強度とが関連付けられていても良い。強度参照情報は予め推定部121からアクセス可能な記憶部(例えばストレージデバイス808)に保持されている。
【0064】
強度参照情報は事前の実験的な計測結果に基づいて作成し、記憶部に保持させておくことができる。たとえば、測距装置10の受光部180と同様の条件の第1受光部と、第1受光部よりも検出レンジの大きな第2受光部とを準備する。そして、第1受光部と第2受光部とに同じパルス光を入射させて、各受光部による受光波形を得る。なおこのとき、第1受光部でのみ飽和波形を得るような強度のパルス光を入射させる。そして、第1受光部で得た飽和波形について、推定部121が行う処理により飽和幅を特定する。一方、第2受光部で得られた飽和していない受光波形のピーク強度を特定する。そして特定されたピーク強度と飽和幅とを関連付ける。この様な関連付けを複数のパルス光を用いて行い、複数の飽和幅のそれぞれにピーク強度を関連付ける。強度参照情報が数式である場合、得られたピーク強度と飽和幅の関係に対してフィッティングを行うことで、強度参照情報を得ても良い。
【0065】
本実施形態に係る推定部121は、受光信号において飽和波形の検出およびその飽和波形の飽和幅の特定を、第1の実施形態で上述したのと同様の方法で行う。そして、上述した通り、飽和幅と強度参照情報とを用いてピーク強度を推定する。推定部121はさらに、その飽和波形について推定されたピーク位置を用いて算出された対象物30までの距離、および、推定されたピーク強度を用いて、対象物30の反射率を算出しても良い。反射率の算出には既存の方法を用いることができる。
【0066】
なお、飽和していないピークに対しては、制御部120が既存の手法でピーク強度を特定し、反射強度および反射率の少なくとも一方を算出することができる。
【0067】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の作用および効果が得られる。加えて、本実施形態によれば、測距装置10は、飽和波形の飽和幅に基づいてパルス光のピーク強度を推定し、推定したピーク強度および推定したピーク位置を用いて対象物30の反射強度および反射率の少なくとも一方を推定する。したがって、対象物30についてより多くの情報が得られる。
【0068】
以上、図面を参照して実施形態及び実施例について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0069】
この出願は、2021年12月23日に出願された日本出願特願2021-209383号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 光源から出射され、対象物で反射されたパルス光を受光部で検出する測距装置であって、
前記パルス光を受光した前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和した受光波形である飽和波形を用いて、当該パルス光のピーク位置を推定する推定部を備え、
前記推定部は、
前記飽和波形のうち、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いて仮ピーク位置を特定し、
前記飽和波形の飽和幅に基づいて補正パラメータを特定し、
特定した前記補正パラメータを用いて前記仮ピーク位置を補正する事により、当該パルス光のピーク位置を推定する
測距装置。
2. 1.に記載の測距装置において、
前記推定部は、前記飽和波形が前記パルス光の出射後、前記受光部における初めてのパルス受光によるものであるか否かに基づいて、前記補正パラメータを特定する
測距装置。
3. 1.または2.に記載の測距装置において、
前記推定部は、当該測距装置の光学系の構成に基づいて前記補正パラメータを特定する
測距装置。
4. 1.から3.のいずれか一つに記載の測距装置において、
前記飽和波形の飽和幅に基づいて、受光した前記パルス光のピーク強度を推定し、
推定した前記ピーク強度および推定した前記ピーク位置を用いて前記対象物の反射強度よび反射率の少なくとも一方を推定する
測距装置。
5. 光源から出射され、対象物で反射されたパルス光を受光部で検出する測距方法であって、
前記パルス光を受光した前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和した受光波形である飽和波形を用いて、当該パルス光のピーク位置を推定する推定ステップを含み、
前記推定ステップでは、
前記飽和波形のうち、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いて仮ピーク位置を特定し、
前記飽和波形の飽和幅に基づいて補正パラメータを特定し、
特定した前記補正パラメータを用いて前記仮ピーク位置を補正する事により、当該パルス光のピーク位置を推定する
測距方法。
【符号の説明】
【0070】
10 測距装置
13 集光レンズ
14 光源
15 孔付きミラー
16 可動ミラー
18 受光素子
20 透過部材
30 対象物
73 飽和波形
80 集積回路
120 制御部
121 推定部
140 発光部
141 駆動回路
160 走査範囲
163 駆動回路
164 可動反射部
180 受光部
181 検出回路