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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】表示装置
(51)【国際特許分類】
   G09G 3/3233 20160101AFI20241210BHJP
   G09G 3/20 20060101ALI20241210BHJP
   H10K 59/12 20230101ALI20241210BHJP
【FI】
G09G3/3233
G09G3/20 624B
G09G3/20 641D
G09G3/20 670K
G09G3/20 621F
G09G3/20 611E
H10K59/12
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2023570638
(86)(22)【出願日】2021-12-29
(86)【国際出願番号】 JP2021049025
(87)【国際公開番号】W WO2023127167
(87)【国際公開日】2023-07-06
【審査請求日】2024-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104695
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 明宏
(74)【代理人】
【識別番号】100148459
【弁理士】
【氏名又は名称】河本 悟
(72)【発明者】
【氏名】三谷 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩三
【審査官】川俣 郁子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-522246(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0169693(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0243017(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0388214(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09G 3/3233
G09G 3/20
H10K 59/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示すべき画像を表すデータ信号を与えるための複数本のデータ線と、前記複数本のデータ線と交差する複数本の走査線と、前記複数本のデータ線と前記複数本の走査線との交差点にそれぞれ対応するように配置された複数個の画素回路と、所定の電圧を各画素回路に供給する定電圧供給線とを備える表示装置であって、
各画素回路は、
前記複数本のデータ線のいずれか1つに対応するとともに前記複数本の走査線のいずれか1つに対応し、
供給される電流の量に応じた輝度で発光する発光表示素子と、容量素子と、前記容量素子の一端に接続された制御端子を有し前記容量素子に書き込まれた電圧に応じて前記発光表示素子への供給電流の量を制御する駆動トランジスタと、前記駆動トランジスタのチャネル領域に接続された第1導通端子と前記定電圧供給線に接続された第2導通端子とを有するスイッチングトランジスタとを備え、
対応する走査線がアクティブのときに対応するデータ線の電圧を前記駆動トランジスタの前記制御端子に与えて前記容量素子に書き込み、少なくとも、前記駆動トランジスタの前記制御端子に表示輝度の最大値または最小値に対応する電圧が与えられているときに、前記スイッチングトランジスタをオン状態とするように構成されている、表示装置。
【請求項2】
前記駆動トランジスタおよび前記スイッチングトランジスタはいずれもpチャネル型のトランジスタであり、
各画素回路は、前記駆動トランジスタの前記制御端子に表示輝度の最大値に対応する電圧が与えられているときに、前記pチャネル型スイッチングトランジスタをオン状態とするように構成されており、
前記定電圧供給線は負電圧を与える負電圧供給線であり、
前記駆動トランジスタのチャネル領域は、前記pチャネル型スイッチングトランジスタを介して前記負電圧供給線に接続されている、請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記駆動トランジスタはpチャネル型のトランジスタであり、前記スイッチングトランジスタはnチャネル型のトランジスタであり、
各画素回路は、前記駆動トランジスタの前記制御端子に表示輝度の最小値に対応する電圧が与えられているときに、前記nチャネル型スイッチングトランジスタをオン状態とするように構成されており、
前記定電圧供給線は正電圧を与える正電圧供給線であり、
前記駆動トランジスタのチャネル領域は、前記nチャネル型スイッチングトランジスタを介して前記正電圧供給線に接続されている、請求項1に記載の表示装置。
【請求項4】
前記駆動トランジスタおよび前記スイッチングトランジスタはいずれもnチャネル型のトランジスタであり、
各画素回路は、前記駆動トランジスタの前記制御端子に表示輝度の最大値に対応する電圧が与えられているときに、前記nチャネル型スイッチングトランジスタをオン状態とするように構成されており、
前記定電圧供給線は正電圧を与える正電圧供給線であり、
前記駆動トランジスタのチャネル領域は、前記nチャネル型スイッチングトランジスタを介して前記正電圧供給線に接続されている、請求項1に記載の表示装置。
【請求項5】
前記駆動トランジスタはnチャネル型のトランジスタであり、前記スイッチングトランジスタはpチャネル型のトランジスタであり、
各画素回路は、前記駆動トランジスタの前記制御端子に表示輝度の最小値に対応する電圧が与えられているときに、前記pチャネル型スイッチングトランジスタをオン状態とするように構成されており、
前記定電圧供給線は負電圧を与える負電圧供給線であり、
前記駆動トランジスタのチャネル領域は、前記pチャネル型スイッチングトランジスタを介して前記負電圧供給線に接続されている、請求項1に記載の表示装置。
【請求項6】
所定の正電圧を画素回路に供給する正電圧供給線をさらに備え、
各画素回路は、
前記駆動トランジスタのチャネル領域に接続された第1導通端子と前記正電圧供給線に接続された第2導通端子とを有するnチャネル型のスイッチングトランジスタをさらに備え、
前記駆動トランジスタの前記制御端子に表示輝度の最大値または最小値に対応する電圧のうち高い方の電圧が与えられているときに、前記nチャネル型スイッチングトランジスタをオン状態とするように構成されている、請求項2または5に記載の表示装置。

【請求項7】
前記駆動トランジスタのチャネル領域にトラップされた正孔は、前記チャネル領域に接続された前記pチャネル型スイッチングトランジスタを介して前記負電圧供給線に放電される、請求項2、5、または6のいずれかに記載の表示装置。
【請求項8】
前記駆動トランジスタのチャネル領域にトラップされた電子は、前記チャネル領域に接続された前記nチャネル型スイッチングトランジスタを介して前記正電圧供給線に放電される、請求項3、4、または6のいずれかに記載の表示装置。
【請求項9】
前記pチャネル型スイッチングトランジスタの制御端子は、前記駆動トランジスタの前記制御端子に接続されている、請求項2、5、または6のいずれかに記載の表示装置。
【請求項10】
前記nチャネル型スイッチングトランジスタの制御端子は、前記駆動トランジスタの前記制御端子に接続されている、請求項3、4、または6のいずれかに記載の表示装置。
【請求項11】
前記複数本のデータ線と交差する複数本のエミッション線をさらに備え、
各エミッション線は、ローレベルの電圧を与えられているときにアクティブであり、ハイレベルの電圧を与えられているときに非アクティブであり、
各画素回路は、
前記複数本のエミッション線のいずれか1つに対応し、
対応するエミッション線がアクティブのときに前記発光表示素子への電流の供給を許容し、前記対応するエミッション線が非アクティブのときに前記発光表示素子への電流の供給を遮断するように構成されており、
前記pチャネル型スイッチングトランジスタの制御端子は、前記対応するエミッション線に接続されている、請求項2または5に記載の表示装置。
【請求項12】
各走査線は、ローレベルの電圧を与えられているときにアクティブであり、ハイレベルの電圧を与えられているときに非アクティブであり、
前記nチャネル型スイッチングトランジスタの制御端子は、前記対応する走査線に接続されている、請求項3または4に記載の表示装置。
【請求項13】
前記複数本のデータ線と交差する複数本のエミッション線をさらに備え、
各エミッション線は、ローレベルの電圧を与えられているときにアクティブであり、ハイレベルの電圧を与えられているときに非アクティブであり、
各画素回路は、
前記複数本のエミッション線のいずれか1つに対応し、
対応するエミッション線がアクティブのときに前記発光表示素子への電流の供給を許容し、前記対応するエミッション線が非アクティブのときに前記発光表示素子への電流の供給を遮断するように構成されており、
前記nチャネル型スイッチングトランジスタの制御端子は、前記対応するエミッション線に接続されている、請求項3または4に記載の表示装置。
【請求項14】
前記正電圧供給線は、前記発光表示素子に駆動電流を供給するための電源線である、請求項3、4、または6のいずれかに記載の表示装置。
【請求項15】
前記負電圧供給線は前記駆動トランジスタの制御端子の電圧を初期化するための初期化線である、請求項2、5、または6のいずれかに記載の表示装置。
【請求項16】
各走査線は、ローレベルの電圧を与えられているときにアクティブであり、ハイレベルの電圧を与えられているときに非アクティブであり、
各画素回路において、前記正電圧供給線は前記対応する走査線である、請求項3または4に記載の表示装置。
【請求項17】
前記複数本のデータ線と交差する複数本のエミッション線をさらに備え、
各エミッション線は、ローレベルの電圧を与えられているときにアクティブであり、ハイレベルの電圧を与えられているときに非アクティブであり、
各画素回路は、
前記複数本のエミッション線のいずれか1つに対応し、
対応するエミッション線がアクティブのときに前記発光表示素子への電流の供給を許容し、前記対応するエミッション線が非アクティブのときに前記発光表示素子への電流の供給を遮断するように構成されており、
各画素回路において、前記負電圧供給線は前記対応するエミッション線である、請求項2または5に記載の表示装置。
【請求項18】
各画素回路は、前記対応する走査線がアクティブのときに、前記駆動トランジスタをダイオード接続状態にするとともに、前記対応するデータ線の電圧を前記駆動トランジスタを介して前記駆動トランジスタの前記制御端子に与え前記容量素子に書き込むように構成されている、請求項1から17のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項19】
前記複数本のデータ線と交差する複数本のエミッション線をさらに備え、
各エミッション線は、ローレベルの電圧を与えられているときにアクティブであり、ハイレベルの電圧を与えられているときに非アクティブであり、
各画素回路は、
前記複数本のエミッション線のいずれか1つに対応し、
前記対応する走査線に接続された制御端子と、前記駆動トランジスタの前記制御端子と前記容量素子の前記一端とが接続される節点に接続された第1導通端子と、前記節点を初期化するための初期化電位を与える初期化線に接続された第2導通端子とを有し、前記対応するデータ線の電圧を前記容量素子に書き込むデータ書込期間の前に設けられた初期化期間にオン状態となって前記節点の電位を初期化する第1初期化トランジスタと、
前記対応する走査線に接続された制御端子と、前記対応するデータ線に接続された第1導通端子と、前記駆動トランジスタの第1導通端子に接続された第2導通端子とを有し、前記データ書込期間に前記対応する走査線がアクティブとなることでオン状態とされて前記駆動トランジスタに前記対応するデータ線の電圧を供給する書込トランジスタと、
前記対応する走査線に接続された制御端子と、前記駆動トランジスタの第2導通端子に接続された第1導通端子と、前記駆動トランジスタの前記制御端子に接続された第2導通端子とを有し、前記データ書込期間に前記対応する走査線がアクティブとなることでオン状態とされて前記駆動トランジスタをダイオード接続状態とする補償トランジスタと、
前記対応するエミッション線に接続された制御端子と、前記発光表示素子に駆動電流を供給するための電源線に接続された第1導通端子と、前記駆動トランジスタの前記第1導通端子に接続された第2導通端子とを有し、前記初期化期間および前記データ書込期間を含むように設けられた非発光期間で前記対応するエミッション線が非アクティブとなることでオフ状態とされ、前記データ書込期間後に設けられた発光期間で前記対応するエミッション線がアクティブとなることでオン状態とされる電源供給トランジスタと、
前記対応するエミッション線に接続された制御端子と、前記駆動トランジスタの前記第2導通端子に接続された第1導通端子と、前記発光表示素子のアノードに接続された第2導通端子とを有し、前記非発光期間で前記対応するエミッション線が非アクティブとなることでオフ状態とされ、前記発光期間で前記対応するエミッション線がアクティブとなることでオン状態とされる発光制御トランジスタとをさらに備える、請求項1に記載の表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の開示は、表示装置に関し、より詳しくは、有機EL素子などの電流によって駆動される発光表示素子を備えた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型、高画質、低消費電力などの特徴を備えた表示装置として、液晶表示装置に代わって有機EL(Organic Electro Luminescence)表示装置が近年注目を集めており、現在その開発が活発に進められている。有機EL表示装置の表示パネルには、複数個の画素回路がマトリクス状に配置されている。各画素回路に含まれる有機EL素子が、入力されたデータ信号に応じた輝度で発光したり消灯したりすることによって、画像が表示パネルに表示される。
【0003】
しかし、例えば表示パネルに、市松模様のような明暗の輝度差が大きい画像が表示され続けると、次の画面に切り替わった際に、元に表示されていた画像が残像として視聴者に視認される場合がある。画像の輝度が白表示からグレー表示に変化する場合、白表示の際に駆動トランジスタのチャネル領域とゲート絶縁膜との界面や結晶粒界のトラップ準位にトラップされたキャリアによって、グレー表示において駆動トランジスタに流れる電流の電流値は、本来流れるべき電流値よりも小さくなる。その結果、表示される画像の輝度が低下し、残像として視聴者に視認されるという問題があった。
【0004】
特許文献1に開示された表示装置では、直前のフレームにおいて、画素回路に高輝度(白表示)の画像を表すデータ信号が書き込まれるときに、駆動トランジスタとしての駆動用TFTに流れるキャリアがそのゲート絶縁膜中にトラップされ、トラップされたキャリアが駆動用TFTのしきい値電圧を変動させることがある。この場合、次フレームで表示すべき画像を表示するための電流値とは異なる電流値の電流が駆動用TFTに流れ、残像が発生する。
【0005】
そこで、特許文献1では、データ信号が書き込まれる前に、駆動用TFTのゲートの電位を上昇させることにより、ゲート絶縁膜にトラップされているキャリアをゲート絶縁膜からソースまたはドレインに引き抜く。これにより、駆動用TFTの電気的特性を初期化して、残像の発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本の特開2006-251455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載された表示装置は、プリチャージ用トランジスタの制御や、保持容量線の電位を上昇させるための制御が必要になるので、回路構成が複雑になるという問題点があった。
【0008】
そこで、本願は、回路構成を複雑にすることなく、有機EL素子を発光させる発光期間に、チャネル領域のトラップ準位にトラップされているキャリアを放電させることによって、残像の発生を抑制する表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ある局面は、表示すべき画像を表すデータ信号を与えるための複数本のデータ線と、前記複数本のデータ線と交差する複数本の走査線と、前記複数本のデータ線と前記複数本の走査線との交差点にそれぞれ配置された複数個の画素回路と、所定の電圧を各画素回路に供給する定電圧供給線とを備える表示装置であって、
各画素回路は、
前記複数のデータ線のいずれか1つに対応するとともに前記複数の走査線のいずれか1つに対応し、
供給される電流の量に応じた輝度で発光する発光表示素子と、容量素子と、前記容量素子の一端に接続された制御端子を有し前記容量素子に書き込まれた電圧に応じて前記発光表示素子への供給電流の量を制御する駆動トランジスタと、前記駆動トランジスタのチャネル領域に接続された第1導通端子と前記定電圧供給線に接続された第2導通端子とを有するスイッチングトランジスタとを備え、
対応する走査線がアクティブのときに対応するデータ線の電圧を前記駆動トランジスタの前記制御端子に与えて前記容量素子に書き込み、少なくとも、前記駆動トランジスタの前記制御端子に表示輝度の最大値または最小値に対応する電圧が与えられているときに、前記スイッチングトランジスタをオン状態とするように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
ある局面によれば、発光表示素子に駆動電流を供給する駆動トランジスタのチャネル領域に、スイッチングトランジスタの一方の導通端子が接続され、他方の導通端子は電圧供給線に接続されている。このような画素回路に高い輝度の画像を表示するために、駆動トランジスタに大きな電流を流すと、そのチャネル領域のトラップ準位にキャリアがトラップされる。このとき、スイッチングトランジスタもオンするようにしておくと、電圧供給線の電界によって、駆動トランジスタのトラップ準位にトラップされているキャリアが放出される。放出されたキャリアはスイッチングトランジスタを通って電圧供給線に抜き取られるので、チャネル領域にトラップされているキャリアが少なくなる。このため、駆動トランジスタに流れる駆動電流はトラップされたキャリアの影響を受けることがなくなり、データ信号に応じた電流が発光表示素子に供給される。これにより、現フレームにおいて高輝度の画像が表示されていた領域に、次フレームにおいてより低輝度の画像を表示するデータ信号が与えられると、データ信号に応じた本来の輝度の画像が表示される。その結果、データ信号に応じた輝度よりも低輝度または高輝度の画像として表示される残像が視認されなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】基礎検討で使用した画素回路の構成を示す回路図である。
図2】第1の実施形態に係る有機EL表示装置の全体構成を示すブロック図である。
図3】第1の実施形態に係る有機EL表示装置に含まれる画素回路の構成を示す回路図である。
図4図3に示す画素回路の駆動トランジスタおよびスイッチングトランジスタおよびそれらの近傍のレイアウトパターンを示す図である。
図5図4に示すレイアウトパターンの断面図であり、より詳しくは(A)は図4に示す矢線A-A’に沿った駆動トランジスタの断面図であり、(B)は図4に示す矢線B-B’に沿ったスイッチングトランジスタの断面図である。
図6図3に示す画素回路に白表示電圧が書き込まれる場合の当該画素回路の動作を示すタイミングチャートである。
図7図3に示す画素回路に黒表示電圧が書き込まれる場合の当該画素回路の動作を示すタイミングチャートである。
図8】駆動トランジスタのチャネル領域と、当該チャネル領域に接続されたn型のソース領域を有するスイッチングトランジスタのバンドを表す図である。
図9】駆動トランジスタのチャネル領域と、当該チャネル領域に接続されたp型のソース領域を有するスイッチングトランジスタのバンドを表す図である。
図10】第2の実施形態に係る有機EL表示装置に含まれる画素回路の構成を示す回路図である。
図11図10に示す画素回路の駆動トランジスタおよびスイッチングトランジスタおよびそれらの近傍のレイアウトパターンを示す平面図である。
図12図11に示すレイアウトパターンの断面図であり、より詳しくは、(A)は図11に示す矢線A-A’に沿った駆動トランジスタの断面図であり、(B)は図11に示す矢線C-C’に沿ったスイッチングトランジスタの断面図である。
図13】第3の実施形態に係る有機EL表示装置に含まれる画素回路の構成を示す回路図である。
図14図13に示す画素回路の駆動トランジスタ、スイッチングトランジスタ、およびスイッチングトランジスタおよびそれらの近傍のレイアウトパターンを示す平面図である。
図15図14に示すレイアウトパターンの断面図であり、より詳しくは(A)は図14に示す矢線A-A’に沿った駆動トランジスタT4の断面図であり、(B)は図14に示す矢線B-B’に沿ったスイッチングトランジスタの断面図であり、(C)は図14に示す矢線C-C’に沿ったスイッチングトランジスタの断面図である。
図16】第4の実施形態に係る有機EL表示装置に含まれる画素回路の構成を示す回路図である。
図17】第5の実施形態に係る有機EL表示装置に含まれる画素回路の構成を示す回路図である。
図18】第6の実施形態に係る有機EL表示装置に含まれる画素回路の構成を示す回路図である。
図19】第7の実施形態に係る有機EL表示装置に含まれる画素回路の構成を示す回路図である。
図20】第8の実施形態に係る有機EL表示装置に含まれる画素回路の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る各実施形態について説明する前に、基礎検討として、内部補償回路を備えた画素回路の構成および残像が発生する理由を説明する。なお、本明細書において「接続」とは、特に断らない限り、「電気的に接続された状態」を意味し、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、直接的な接続を意味する場合のみならず、間接的な接続を意味する場合も含む。
【0013】
<1.基礎検討>
<1.1 画素回路の構成>
従来の有機EL表示装置の表示パネルに配置されている内部補償回路を備えた画素回路15の構成について説明する。図1は、表示パネル10に配置された画素回路15の構成を示す回路図である。図1に示すように、画素回路15は、1個の有機EL素子OLED、7個のpチャネル型のトランジスタT1~T7、および1個のストレージキャパシタCst(「容量素子」ともいう)を備えている。より詳細には、画素回路15は、第1初期化トランジスタT1、補償トランジスタT2、書込トランジスタT3、駆動トランジスタT4、電源供給トランジスタT5、発光制御トランジスタT6、および第2初期化トランジスタT7を含んでいる。
【0014】
駆動トランジスタT4は、ゲート端子(「制御端子」ともいう)、第1導通端子、および第2導通端子を有している。駆動トランジスタT4の第1導通端子は、電源供給トランジスタT5を介してHレベル電源線ELVDD(「電圧供給線」、「正電圧供給線」または「高電圧供給線」ともいう)に接続される導通端子であり、第2導通端子は、発光制御トランジスタT6を介して有機EL素子OLEDに接続される導通端子である。駆動トランジスタT4では、キャリアである正孔が第1導通端子から第2導通端子に流れる場合には、第1導通端子がソース端子になり、第2導通端子がドレイン端子になる。
【0015】
画素回路15が形成された基板には、走査線Sj(1≦j≦nの整数)、前走査線Sj-1(「ディスチャージ線」ともいう)、エミッション線Ej、データ線Di(1≦i≦mの整数)、Hレベル電源線ELVDD、Lレベル電源線ELVSS(「定電圧供給線」、「負電圧供給線」または「低電圧供給線」ともいう)、および初期化線Vini(「定電圧供給線」ともいう)が配設されている。書込トランジスタT3は、ゲート端子が走査線Sjに接続され、ソース端子がデータ線Diに接続されており、走査線Sjの選択に応じてデータ線Diに供給されたデータ信号を駆動トランジスタT4の第1導通端子に供給する。
【0016】
駆動トランジスタT4の第1導通端子は、書込トランジスタT3のドレイン端子に接続され、ゲート端子はノードN_Gに接続されている。ノードN_Gは、後述する補償トランジスタT2の第2導通端子と、ストレージキャパシタCstの第1端子とが接続された節点であり、ノードN_Gに与えられるデータ信号の電圧によってストレージキャパシタCstが充電される。駆動トランジスタT4は、ストレージキャパシタCstに充電されたデータ信号に応じた電圧(「データ電圧」ともいう)によって決まる駆動電流を有機EL素子OLEDに供給する。なお、上記のようなデータ電圧によるストレージキャパシタCstの充電は、“データ電圧のストレージキャパシタCstへの書き込み”または“データ電圧のノードN_Gへの書き込み”を意味する。
【0017】
補償トランジスタT2は、駆動トランジスタT4のゲート端子と第2導通端子との間に設けられている。補償トランジスタT2のゲート端子は走査線Sjに接続されている。補償トランジスタT2は、走査線Sjがアクティブになれば導通し、駆動トランジスタT4をダイオード接続する。これにより、ノードN_Gの電位Vngは、次式(1)に示すように、データ電圧よりも駆動トランジスタT4のしきい値電圧の絶対値|Vth|だけ低くなる。ノードN_Gの電位Vngは、ゲート電圧として駆動トランジスタT4のゲート端子に与えられる。
Vng=Vdata-|Vth| … (1)
ここで、Vdataはデータ電圧であり、Vthは駆動トランジスタT4のしきい値電圧であり、pチャネル型のトランジスタではVth<0、Nチャネル型のトランジスタではVth>0である。
【0018】
第1初期化トランジスタT1は、ゲート端子が前走査線Sj-1に接続され、駆動トランジスタT4のゲート端子と初期化線Viniとの間に設けられている。第1初期化トランジスタT1は、前走査線Sj-1がアクティブになれば導通し、ノードN_Gに初期化電位Viniを与えることによってノードN_Gの電位Vngを初期化する。これにより、駆動トランジスタT4のゲート端子に初期化電位Viniが与えられる。なお、第1初期化トランジスタT1と補償トランジスタT2は、リーク電流を少なくするためにデュアルゲート構造を採用している。
【0019】
電源供給トランジスタT5は、ゲート端子がエミッション線Ejに接続され、Hレベル電源線ELVDDと駆動トランジスタT4の第1導通端子との間に設けられている。電源供給トランジスタT5はエミッション線Ejがアクティブになれば導通して、Hレベル電圧ELVDDを駆動トランジスタT4の第1導通端子に供給する。
【0020】
発光制御トランジスタT6は、ゲート端子がエミッション線Ejに接続され、駆動トランジスタT4と第2初期化トランジスタT7との間に設けられている。発光制御トランジスタT6は、エミッション線Ejの選択に応じて駆動トランジスタT4の第2導通端子と有機EL素子OLEDとを導通させる。これにより、駆動トランジスタT4によって電流値を制御された駆動電流が駆動トランジスタT4から有機EL素子OLEDに供給される。
【0021】
第2初期化トランジスタT7は、ゲート端子が走査線Sjに接続され、有機EL素子OLEDのアノードと初期化線Viniとの間に設けられている。第2初期化トランジスタT7は、走査線Sjが選択されたときに初期化信号DISを有機EL素子OLEDのアノードに与え、アノードの電位を初期化する。
【0022】
ストレージキャパシタCstの第1端子はノードN_Gに接続され、第2端子はHレベル電源線ELVDDに接続されている。ストレージキャパシタCstは、第1初期化トランジスタT1と補償トランジスタT2とがオフしたときのノードN_Gの電位Vngを保持する。
【0023】
有機EL素子OLEDは、アノード(有機EL素子OLEDの一端)が発光制御トランジスタT6を介して駆動トランジスタT4の第2導通端子に接続され、カソード(有機EL素子OLEDの他端)がLレベル電源線ELVSSに接続されており、駆動トランジスタT4によって制御された駆動電流が供給されるとその電流値に応じた輝度で発光する。
【0024】
<1.2 残像現象>
駆動トランジスタT4がPチャネル型の場合に、黒表示された画面の一部に白色のボックスパターンを一定期間表示させた後に、画面全体をグレー表示にする。このとき、白色のボックスパターンが表示されていた領域の輝度は、周囲のグレー表示領域の輝度よりも低くなる。このような輝度が低下したボックスパターンは、残像として視聴者に視認される。
【0025】
輝度が低下したボックスパターンが残像として視認される時間は、白色のボックスパターンが表示されていた時間が長いほど長くなる。例えば、白色のボックスパターンが表示されていた時間が60秒のときには、残像が消失するまでに30秒程度の時間を要する。
【0026】
このような残像は以下のようなメカニズムによって発生すると考えられる。白色のボックスパターンを表示する現フレームにおいて、pチャネル型の駆動トランジスタT4のチャネル領域42とゲート絶縁膜との界面および結晶粒界に形成されたトラップ準位に正孔がトラップされる。トラップされた正孔は、現フレームにおいて表示されていた白色のボックスパターンが次フレームにおいてグレー表示に切り替わっても、トラップ準位からすぐに放出されず、しばらくトラップ準位に留まる。このため、次フレームにおいて、駆動トランジスタT4のゲート端子にグレー表示のデータ電圧を印加しても、駆動トランジスタT4を通って有機EL素子OLEDに供給される電流の電流値は、データ電圧によって決まる電流値よりも小さくなる。その結果、白表示のボックスパターンが表示されていた領域の輝度は、周囲のグレー表示の輝度よりも低くなる。このような輝度の低い領域は、トラップ準位にトラップされている正孔がすべて放出されるまで残像として視聴者に視認される。
【0027】
そこで、白表示がされているときに、駆動トランジスタT4のチャネル領域42とゲート絶縁膜との界面および結晶粒界に存在するトラップ準位にトラップされている正孔を速やかに放出させることができれば、残像を短時間で消失させることができる。このため、以下に説明する第1~第3の各実施形態において、トラップ準位にトラップされている正孔を放出させて、残像を速やかに消失させる画素回路の構成とその動作を説明する。
【0028】
<2.第1の実施形態>
<2.1 有機EL表示装置の構成>
図2は、第1の実施形態に係る有機EL表示装置の全体構成を示すブロック図である。図2に示すように、有機EL表示装置(単に「表示装置」ともいう)は、表示パネル10、表示制御回路20、データ線ドライバ30、走査線ドライバ50、およびエミッション線ドライバ60を備えている。図2に示す有機EL表示装置は、データ線ドライバ30から各データ線にデータ信号を直接供給する。本実施形態では、データ線ドライバ30によりデータ線駆動回路が実現され、走査線ドライバ50により走査線駆動回路が実現され、エミッション線ドライバ60により発光制御線駆動回路が実現されている。
【0029】
表示パネル10には、m(mは2以上の整数)本のデータ線D1~Dmと、n+1(nは2以上の整数)本の走査線S0~Snが配置されている。また、表示パネル10には、m本のデータ線D1~Dmとn本の走査線S1~Snとの交差点にそれぞれ対応して、m×n個の画素回路11が設けられている。したがって、各画素回路11は、m本のデータ線D1~Dmのいずれか1つに対応するとともに、n本の走査線S1~Snのいずれか1つに対応する。なお、後述の図3に示すように、各画素回路11には、対応する走査線Sjに加えて、当該対応する走査線Sjの直前の走査線Sj-1も接続されている(1≦j≦n)。各画素回路11において、対応する走査線Sjはデータ電圧の書込の制御に使用され、直前の走査線Sj-1はデータ電圧の初期化(後述のノードN_Gの電位の初期化)の制御に使用される(詳細は後述)。
【0030】
表示パネル10には、さらにn本の走査線S1~Snと平行に、n本の発光制御線としてのエミッション線E1~Enが配置されている。m本のデータ線D1~Dmは、n本の走査線S1~Snおよびn本のエミッション線E1~Enとそれぞれ交差するように配設され、それぞれデータ線ドライバ30に接続されている。n本の走査線S1~Snは走査線ドライバ50に接続されている。n本のエミッション線E1~Enはエミッション線ドライバ60に接続されている。n本のエミッション線E1~Enはn本の走査線S1~Snにそれぞれ対応し、各画素回路11は、n本のエミッション線E1~Enのいずれか1つに対応する。
【0031】
また、表示パネル10には、各画素回路11に共通の電源線(不図示)が配置されている。より詳細には、後述の有機EL素子(「発光表示素子」ともいう)を駆動するためのHレベル電圧ELVDDを供給する電源線(以下「Hレベル電源線」といい、Hレベル電位と同じく符号ELVDDで表す。)および有機EL素子を駆動するためのLレベル電圧ELVSSを供給する電源線(以下「Lレベル電源線」といい、Lレベル電位と同じく符号ELVSSで表す。)が配置されている。さらに、後述の初期化動作のための初期化電位Viniを供給する初期化線(初期化電位と同じく符号Viniで表す。)が配置されている。これらの電位は、図示しない電源回路から供給される。
【0032】
表示制御回路20は、データ線ドライバ30、走査線ドライバ50、およびエミッション線ドライバ60に各種制御信号を出力する。より詳細には、表示制御回路20は、データ線ドライバ30にデータスタートパルスDSP、データクロックDCK、表示データDA、およびラッチパルスLPを出力する。表示制御回路20はまた、走査線ドライバ50に走査スタートパルスSSPおよび走査クロックSCKを出力する。表示制御回路20はさらに、エミッション線ドライバ60にエミッションスタートパルスESPおよびエミッションクロックECKを出力する。
【0033】
データ線ドライバ30は、図示しないmビットのシフトレジスタ、サンプリング回路、ラッチ回路、およびm個のD/Aコンバータなどを含んでいる。シフトレジスタは、互いに縦続接続されたm個の双安定回路を有し、初段に供給されたデータスタートパルスDSPをデータクロックDCKに同期して転送し、各段からサンプリングパルスを出力する。サンプリングパルスの出力タイミングに合わせて、サンプリング回路に表示データDAが供給される。サンプリング回路は、サンプリングパルスに従って表示データDAを記憶する。サンプリング回路に1行分の表示データDAが記憶されると、表示制御回路20はラッチ回路に対してラッチパルスLPを出力する。ラッチ回路は、ラッチパルスLPを受け取ると、サンプリング回路に記憶された表示データDAを保持する。D/Aコンバータは、データ線ドライバ30のm個の出力端子(不図示)にそれぞれ接続されたm本のデータ線D1~Dmに対応して設けられており、ラッチ回路に保持された表示データDAをアナログ信号電圧であるデータ信号に変換し、得られたデータ信号をデータ線D1~Dmにそれぞれ出力する。
【0034】
走査線ドライバ50は、n本の走査線S1~Snを駆動する。より詳細には、走査線ドライバ50は、図示しないシフトレジスタおよびバッファなどを含んでいる。シフトレジスタは、走査クロックSCKに同期して走査スタートパルスSSPを順に転送する。シフトレジスタの各段からの出力である走査信号は、バッファを経由して対応する走査線S1~Snに順次供給される。アクティブな(本実施形態ではローレベルの)走査信号により、走査線Sjに接続されたm個の画素回路11からなる画素が一括して選択される。
【0035】
エミッション線ドライバ60は、n本のエミッション線E1~Enを駆動する。より詳細には、エミッション線ドライバ60は、図示しないシフトレジスタおよびバッファなどを含んでいる。シフトレジスタは、エミッションクロックECKに同期してエミッションスタートパルスESPを順に転送する。シフトレジスタの各段からの出力であるエミッション信号は、バッファを経由して対応するエミッション線Ej(j=1~n)に供給される。
【0036】
図2には、一例として、走査線ドライバ50を表示パネル10の一端側(図2における、表示パネル10の左側)に配置し、エミッション線ドライバ60を表示パネル10の他端側(図2における、表示パネル10の右側)に配置した有機EL表示装置が示されているが、走査線ドライバ50およびエミッション線ドライバ60の配置はこれに限定されない。例えば、走査線ドライバ50およびエミッション線ドライバ60をいずれも表示パネル10の両側に配置した両側入力構造であっても良い。また、データ線ドライバ30の出力端子数を減らすために、データ線ドライバ30と各画素回路11との間にデマルチプレクサ部が設けられていても良い。この場合、データ線ドライバ30は、デマルチプレクサ部を介して、出力したデータ信号を各データ線に供給するSSD(Source Shared Driving)と呼ばれる駆動方式で駆動する。
【0037】
<2.2 画素回路の構成>
表示パネル10に形成された画素回路11の構成について説明する。図3は、画素回路11の構成を示す回路図である。図3に示す画素回路11は、図1に示す画素回路15に、さらにpチャネル型スイッチングトランジスタT8が追加されている。スイッチングトランジスタT8のソース端子は駆動トランジスタT4のチャネル領域であるボディ端子(「ボディ端子N_body」ともいう)に接続され、ドレイン端子は負電位の初期化線Viniに接続され、ゲート端子はノードN_Gに接続されている。画素回路11のその他の構成は画素回路15の構成と同じであるので、それらの説明を省略する。
【0038】
<2.3 スイッチングトランジスタ近傍のレイアウトパターン>
図4は、画素回路11の駆動トランジスタT4およびスイッチングトランジスタT8およびそれらの近傍のレイアウトパターンを示す図である。なお、以下で説明するレイアウトパターンの説明および断面図の説明において、上記回路の説明で使用した「ゲート端子」、「ソース端子」、「ドレイン端子」、「ボディ端子」の代わりに、それぞれ「ゲート電極」、「ソース領域」、「ドレイン領域」、「チャネル領域」と記載する。
【0039】
図4に示すように、駆動トランジスタT4を構成する半導体層40(「第1半導体層」ともいう)は、ソース領域41(「第1ソース領域」ともいう)と、チャネル領域42(「第1チャネル領域」ともいう)と、ドレイン領域43(「第1ドレイン領域」ともいう)とからなる。ソース領域41は、書込トランジスタT3(不図示)と電源供給トランジスタT5(不図示)に接続されている。ドレイン領域43は、補償トランジスタT2(不図示)と発光制御トランジスタT6(不図示)に接続され、さらに発光制御トランジスタT6(不図示)を介して、有機EL素子OLEDのアノード電極(不図示)に接続されている。
【0040】
駆動トランジスタT4のチャネル領域42(「第1チャネル領域」ともいう)から図4の下方に向かって、スイッチングトランジスタT8を構成する半導体層80(「第2半導体層」ともいう)が延び、半導体層80には駆動トランジスタT4のチャネル領域42に近い側から順にソース領域81(「第2ソース領域」ともいう)、チャネル領域82(「第2チャネル領域」ともいう)およびドレイン領域83(「第2ドレイン領域」ともいう)が配置されている。スイッチングトランジスタT8のソース領域81は駆動トランジスタT4のチャネル領域に接続され,ドレイン領域83は初期化線Viniに接続されている。
【0041】
ノードN_Gは、駆動トランジスタT4のゲート電極として機能するとともに、データ電圧を充電するためのストレージキャパシタCstの第1端子としても機能する。ノードN_Gは駆動トランジスタT4のチャネル領域42を覆う矩形形状の本体部BY(「節点本体部」ともいう)と、本体部BYから分岐してスイッチングトランジスタT8のチャネル領域82上まで延びる突起部PRとからなる。本体部BYは、駆動トランジスタT4に流れる駆動電流を制御するゲート電極として機能し、突起部PRはスイッチングトランジスタT8に流れる電流を制御するゲート電極として機能する。
【0042】
なお、従来、トランジスタを構成する半導体層には、低温ポリシリコン(Low Temperature Polycrystalline Silicon:LTPS)膜が使用されていた。しかし、近年、下層に低温ポリシリコン膜、上層にIGZO(酸化インジウムガリウム亜鉛)などの酸化物半導体膜を形成した2層の半導体層を有するLTPO(Low Temperature Polycrystalline Oxide)技術が開発された。このため、本明細書に記載の各実施形態において、低温ポリシリコン膜の代わりに、LTPO技術を使用しても良い。これにより、例えば、リーク電流を少なくしたいトランジスタ(T1、T2、T7等)にはIGZO膜を用い、駆動能力を必要とするトランジスタ(T3、T4、T5、T6)にはLTPS膜を用いることで、二つの特徴を両立させた画素回路を形成することが出来る。なお、トランジスタを構成する上記構成の半導体層は、以下に説明する各実施形態でも使用される。
【0043】
図5は、図4に示すレイアウトパターンの断面図であり、より詳しくは、図5(A)は図4に示す矢線A-A’に沿った駆動トランジスタT4の断面図であり、図5(B)は図4に示す矢線B-B’に沿ったスイッチングトランジスタT8の断面図である。駆動トランジスタT4はpチャネル型であるため、図5(A)に示すように、ソース領域41およびドレイン領域43はp型不純物がドープされたp+領域であり、チャネル領域42はn型領域である。チャネル領域42上には、ゲート絶縁膜GIを挟んで、ゲート電極として機能する本体部BYが形成されている。
【0044】
スイッチングトランジスタT8もpチャネル型であり、ソース領域81およびドレイン領域83はp型不純物がドープされたp型領域で通常形成されるが、図5(B)に示すように、ソース領域81はn型不純物がドープされたn型領域(n+型またはイントリンシック型領域であってもよい)、ドレイン領域83はp型不純物がドープされたp+型領域としてもよい。チャネル領域82はn型領域である。ソース領域81は駆動トランジスタT4のチャネル領域42に接続されている。チャネル領域82上には、ゲート絶縁膜GIを挟んで本体部BYから分岐して延び、ゲート電極として機能する突起部PRが形成されている。ドレイン領域83は初期化線Viniに接続されている。
【0045】
<2.4 画素回路の動作>
図6および図7は、画素回路11の動作を示すタイミングチャートを示す図である。図6および図7に示すように、タイミングチャートは、時刻t1までの前フレーム、時刻t1からt7までの現フレーム、および時刻t7以後の次フレームに分けられる。また、現フレームは、時刻t1からt2までの初期化期間、時刻t2からt3までのデータ書込期間、時刻t3からt7までの発光期間に分けられる。
【0046】
前フレームの発光期間では、前走査線Sj-1および走査線SjはHレベル(ハイレベル)であり、エミッション線EjはLレベル(ローレベル)である。なお、データ線Diに印加されるデータ電圧のレベルは、最小の表示輝度を示すデータ電圧である黒表示電圧を表すHレベル(VGH)(「黒表示電圧」ともいう)から、最大の表示輝度を示すデータ電圧である白表示電圧を表すLレベル(VGL)(「白表示電圧」ともいう)までの値(それらの中間のレベルであってグレー表示電圧を表すMレベル(VGM)(「グレー表示電圧」ともいう)の電圧も含む)を取りうる。なお、本願では、簡易的な説明のためにデータ電圧のレベルを3つで表し、黒表示電圧に近い電圧はHレベルに含まれ、白表示電圧に近い電圧はLレベルに含まれ、黒表示電圧に近い電圧と、白表示電圧に近い電圧の間の電圧はMレベルに含まれると仮定する。
【0047】
前フレームから現フレームになる時刻t1においてエミッション線Ejの電位がLレベルからHレベルに変化する。これにより、電源供給トランジスタT5と発光制御トランジスタT6がオフし、電流が駆動トランジスタT4に流れなくなる。その後、時刻t2になるまでの期間において、前走査線Sj-1の電位がHレベルからLレベルに変化すると、第1初期化トランジスタT1はオンし、ノードN_Gの電位Vngは初期化電位Viniになる。次に、前走査線Sj-1の電位がLレベルからHレベルに戻ると、第1初期化トランジスタT1はオフし、ノードN_Gの電位Vngは初期化電位Viniを保持する。
【0048】
<2.4.1 データ電圧がHレベル、MレベルまたはLレベルからLレベルに変化する場合>
以下では、図6に示すように、データ電圧が、時刻t2において、Hレベル、MレベルまたはLレベルのいずれかから、Lレベルに変化する場合について説明する。時刻t2において、データ線Diに印加されるデータ電圧がHレベル、MレベルまたはLレベルのいずれかからLレベルに変化する。その後、時刻t3になるまでの期間において、走査線Sjの電位がHレベルからLレベルに変化する。これにより、書込トランジスタT3および補償トランジスタT2がオンし、Lレベルのデータ電圧がノードN_Gに書き込まれるとともに、駆動トランジスタT4のしきい値補償が行われる。次に、走査線Sjの電位がLレベルからHレベルに戻ると、書込トランジスタT3および補償トランジスタT2はオフし、ノードN_Gの電位Vngは、次式で表される。
Vng=Vdata-|Vth|
【0049】
ここで、白表示電圧が駆動トランジスタT4のゲート電極に印加されると、チャネル領域42のトラップ準位に正孔がトラップされていく。このトラップされた正孔に起因する残像が次フレームにおいて視聴者に視認される。しかし、本実施形態では、ノードN_Gに書き込まれるデータ電圧がLレベルになったときからトランジスタT8はオンし、チャネル領域42とゲート絶縁膜との界面および結晶粒界のトラップ準位にトラップされている正孔がトランジスタT8を介して初期化線Viniに放出されるようになる。その結果、次フレームにおいて、トラップされた正孔に起因する残像現象の発生が抑制される。
【0050】
時刻t3において、エミッション線Ejの電位がHレベルからLレベルに変化する。これにより、発光制御トランジスタT6と電源供給トランジスタT5がオンし、電流が、Hレベル電源線ELVDDから電源供給トランジスタT5、駆動トランジスタT4、発光制御トランジスタT6を順に通って、有機EL素子OLEDに電流が供給される。このとき、駆動トランジスタT4は、電源供給トランジスタT5を通って流れる電流を、ノードN_Gに書き込まれた白表示電圧Vdata(W)によって制御して有機EL素子OLEDに供給する。これにより、有機EL素子OLEDが発光し、画素回路11は白表示の画像を表示する。その後、時刻t7まで有機EL素子OLEDに電流が流れ続け、画素回路11は白表示の画像を表示し続ける。
【0051】
時刻t7から次フレームになる。時刻t7において、エミッション線Ejの電位がLレベルからHレベルに変化する。これにより、発光制御トランジスタT6と電源供給トランジスタT5がオフすることによって、電流が有機EL素子OLEDに供給されなくなるので、有機EL素子OLEDは消灯する。その後、時刻t8までの期間において、前走査線Sj-1の電位がHレベルからLレベルに変化し、第1初期化トランジスタT1がオンする。これにより、ノードN_Gの電位Vngは初期化され、初期化電位Viniになる。さらに、前走査線Sj-1の電位がLレベルからHレベルに戻り、第1初期化トランジスタT1がオフする。その結果、初期化電位ViniがノードN_Gに保持される。
【0052】
時刻t8において、データ線Diに印加されるデータ電圧がLレベルからMレベルに変化する。その後、時刻t9になるまでの期間において、走査線Sjの電位がHレベルからLレベルに変化する。これにより、書込トランジスタT3および補償トランジスタT2がオンし、Mレベルのデータ電圧がノードN_Gに書き込まれるとともに、駆動トランジスタT4のしきい値補償が行われる。
【0053】
ここで、図1に示す従来の画素回路15では、現フレームの時刻t2~t3の期間に、チャネル領域42のトラップ準位に正孔がトラップされる。トラップされた正孔を積極的に放出する機構を備えていないため、時刻t2以降、トラップされた正孔は放出されにくく(msecオーダー以上の時定数に従ってゆっくりと放出され)残り続ける。このため、次のフレームの時刻t8以降にチャネル領域42に誘起されるキャリア(電流)は、ノードN_Gに書き込まれたMレベルのデータ電圧に対応したキャリア(電流)よりも少なくなる。その結果、視聴者は輝度が低下した画像(残像)を視認することになる。
【0054】
これに対して、図3に示す本実施形態に係る画素回路11では、時刻t2からt7までにおいて、スイッチングトランジスタT8をオンさせることによって、チャネル領域42のトラップ準位にトラップされた正孔は、スイッチングトランジスタT8を通って初期化線Viniに放電される。次のフレームの時刻t8になると、チャネル領域42には、ノードN_Gに書き込まれたMレベルのデータ電圧に応じたキャリア(電流)が誘起される。このため、トラップされた正孔に起因する残像の発生が抑制される。次に、時刻t9になるまでの期間において、走査線Sjの電位がLレベルからHレベルに戻ると、書込トランジスタT3および補償トランジスタT2はオフする。
【0055】
時刻t9において、エミッション線Ejの電位がHレベルからLレベルに変化する。これにより、電源供給トランジスタT5および発光制御トランジスタT6がオンし、電流が、Hレベル電源線ELVDDから電源供給トランジスタT5、駆動トランジスタT4、発光制御トランジスタT6を順に通って有機EL素子OLEDに供給される。このとき、駆動トランジスタT4は、Hレベル電源線ELVDDから電源供給トランジスタT5を通って流れる電流を、ノードN_Gに書き込まれたグレー表示のデータ電圧によって制御する。
【0056】
上記のように、データ電圧が時刻t2において、Hレベル、MレベルまたはLレベルのいずれかからLレベルに変化する場合、画素回路11では、現フレームの時刻t3~t7の期間に、スイッチングトランジスタT8がオンする。これにより、チャネル領域42のトラップ準位にトラップされている正孔は、スイッチングトランジスタT8を通って初期化線Viniに放電される。その結果、時刻t8以降においては、チャネル領域42に、所望のMレベルのデータ電圧に応じたキャリア(電流)が誘起される。このようにして、残像現象が抑制されるので、有機EL素子OLEDはデータ電圧に応じた輝度で発光し、画素回路11は所望のグレー表示の画像を表示する。その後も有機EL素子OLEDに所望の電流が流れ続けるので、有機EL素子OLEDはデータ電圧に応じた所望の輝度で発光し続け、画素回路11はグレー表示になる。
【0057】
<2.4.2 データ電圧がHレベル、MレベルまたはLレベルのいずれかからHレベルに変化する場合>
次に、図7に示すように、時刻t2において、データ電圧が、Hレベル、MレベルまたはLレベルのいずれかからHレベルに変化する場合について説明する。時刻t2において、データ線Diに印加されるデータ電圧がHレベル、MレベルまたはLレベルのいずれかからHレベルに変化する。その後、時刻t3になるまでの期間において、走査線Sjの電位がHレベルからLレベルに変化する。これにより、書込トランジスタT3および補償トランジスタT2がオンしてHレベルのデータ電圧がノードN_Gに書き込まれるとともに、駆動トランジスタT4のしきい値補償が行われる。次に、走査線Sjの電位がLレベルからHレベルに戻ると、書込トランジスタT3および補償トランジスタT2はオフする。
【0058】
ここで、黒表示電圧が駆動トランジスタT4のゲート電極に印加されると、ノードN_Gに書き込まれるデータ電圧がHレベルになるので、スイッチングトランジスタT8はオフする。これにより、駆動トランジスタT4のチャネル領域42は、初期化線Viniから切り離された状態になる。なお、黒表示電圧の場合、トラップ準位にトラップされる正孔が少ないので、トラップされた正孔が初期化線Viniに放電されなくても、それによる残像(輝度低下)はほとんど視認されないが、一方でトラップ準位にトラップされる電子の方が顕著になるので、それによる残像(輝度上昇)が視認されるようになる。また、黒表示電圧が印加されたときに、正孔を放電させるためだけなら、スイッチングトランジスタT8はnチャネル型またはpチャネル型のいずれであってもよい。
【0059】
時刻t3から現フレームの発光期間になり、エミッション線Ejの電位がHレベルからLレベルに変化する。これにより、電源供給トランジスタT5および発光制御トランジスタT6がオンし、電流が、Hレベル電源線ELVDDから電源供給トランジスタT5、駆動トランジスタT4、発光制御トランジスタT6を順に通って有機EL素子OLEDに供給される。このとき、駆動トランジスタT4は、Hレベル電源線ELLVDDから電源供給トランジスタT5を通って流れる電流を、ノードN_Gに書き込まれた黒表示のデータ電圧によって制御する。これにより、有機EL素子OLEDがデータ電圧に応じた輝度で発光し続け、画素回路11は黒表示になる。
【0060】
時刻t7から次フレームになる。時刻t7において、エミッション線Ejの電位がLレベルからHレベルに変化する。これにより、発光制御トランジスタT6と電源供給トランジスタT5がオフすることによって、電流が有機EL素子OLEDに供給されなくなるので、有機EL素子OLEDは消灯する。その後、時刻t8までの期間において、前走査線Sj-1の電位がHレベルからLレベルに変化し、第1初期化トランジスタT1がオンする。これにより、ノードN_Gの電位Vngは初期化され、初期化電位Viniになる。さらに、前走査線Sj-1の電位がLレベルからHレベルに戻り、第1初期化トランジスタT1がオフする。その結果、初期化電位ViniがノードN_Gに保持される。
【0061】
時刻t8において、データ線Diに印加されるデータ電圧がHレベルからMレベルに変化する。その後、時刻t9になるまでの期間において、走査線Sjの電位がHレベルからLレベルに変化する。これにより、書込トランジスタT3および補償トランジスタT2がオンし、Mレベルのデータ電圧がノードN_Gに書き込まれるとともに、駆動トランジスタT4のしきい値補償が行われる。
【0062】
図1に示す従来の画素回路15では、現フレームの時刻t2~t3の期間に、チャネル領域42のトラップ準位に電子がトラップされる。トラップされた電子を積極的に放出する機構を備えていないため、時刻t2以降、トラップされた電子は放出されにくく(msecオーダー以上の時定数に従ってゆっくりと放出され)残り続ける。このため、次フレームの時刻t8以降にチャネル領域42に誘起されるキャリア(電流)は、ノードN_Gに書き込まれたMレベルのデータ電圧に対応したキャリア(電流)よりも多くなる。その結果、視聴者は輝度が上昇した画像(残像)を視認することになる。
【0063】
一方、図3に示す本実施形態に係る画素回路11では、時刻t2からt7までにおいて、スイッチングトランジスタT8がオンされるが、接続先の電源線が負電位である初期化線Viniのため、チャネル領域42のトラップ準位にトラップされた電子は、放電されずに残り続ける。このため、次フレームの時刻t8以降にチャネル領域42に誘起されるキャリア(電流)は、ノードN_Gに書き込まれたMレベルのデータ電圧に対応したキャリア(電流)よりも多くなる。その結果、従来の画素回路15と同様に、視聴者は輝度が上昇した画像(残像)を視認することになる。次に、時刻t9になるまでの期間において、走査線Sjの電位がLレベルからHレベルに戻ると、書込トランジスタT3および補償トランジスタT2はオフする。
【0064】
時刻t9において、エミッション線Ejの電位がHレベルからLレベルに変化する。これにより、電源供給トランジスタT5および発光制御トランジスタT6がオンし、電流が、Hレベル電源線ELVDDから電源供給トランジスタT5、駆動トランジスタT4、発光制御トランジスタT6を順に通って有機EL素子OLEDに供給される。このとき、駆動トランジスタT4は、Hレベル電源線ELVDDから電源供給トランジスタT5を通って流れる電流を、ノードN_Gに書き込まれたグレー表示のデータ電圧によって制御する。
【0065】
上記のように、データ電圧が時刻t2において、Hレベル、MレベルまたはLレベルのいずれかからHレベルに変化する場合、画素回路11では、現フレームの時刻t2~t7の期間に、スイッチングトランジスタT8がオンするが、接続先の電源線が負電位である初期化線Viniのため、チャネル領域42のトラップ準位にトラップされた電子は、放電されずに残り続ける。その結果、次フレームの時刻t8以降においては、チャネル領域42に、所望のMレベルのデータ電圧に対応したキャリア(電流)よりも大きなキャリア(電流)が誘起される。残像現象が抑制されないので、グレー表示に切り替えた瞬間は、有機EL素子OLEDはデータ電圧以上の輝度で発光し、画素回路11は所望のグレー表示よりも明るい画像を表示する。その後は、トラップされた電子が次第に(時定数に従ってゆっくりと)放出されるため、有機EL素子OLEDは、数十秒かけて徐々に所望のMレベルのデータ電圧に応じた所望の輝度に下がっていき、最終的には所望のグレー表示となり、残像は見えなくなる。
【0066】
<2.5 スイッチングトランジスタの動作>
<2.5.1 Lレベルの白表示電圧がノードN_Gに書き込まれた場合>
現フレームにおいて、Lレベルの白表示電圧Vdata(W)をノードN_Gに書き込むことによって駆動トランジスタT4のしきい値補償をする際に、駆動トランジスタT4のチャネル領域のトラップ準位に正孔がトラップされる。そこで、トラップされている正孔をpチャネル型スイッチングトランジスタT8を介して初期化線Viniに放電させるためには、スイッチングトランジスタT8をオンさせる必要がある。pチャネル型のスイッチングトランジスタT8をオンさせるための条件は、
Vth(T8)>Vgs
である。ここで、Vgsは、スイッチングトランジスタT8のゲート・ソース間電圧であり、次式で表される。
Vgs=Vng-Vbody
=Vdata(W)-|Vth(T4)|-Vbody
=Vdata(W)+Vth(T4)-Vbody
したがって、スイッチングトランジスタT8をオンさせるための条件は次のようになる。
Vth(T8)>Vdata(W)+Vth(T4)-Vbody …(2)
【0067】
スイッチングトランジスタT8をオンさせるために、上式(2)を満たす駆動トランジスタT4のしきい値電圧Vth(T4)、スイッチングトランジスタT8のしきい値電圧Vth(T8)および白表示電圧Vdata(W)を設定する。
電圧設定の一例として、
Vdata(W)= 2V
ELVDD = 4V
ELVSS = -4V
Voled = 3V
Vbody ≒{(ELVDD-ELVSS)―Voled}/2
= 2.5V
Vini= -3V
Vth(T4)= -4V
Vth(T8)= -2V
と設定した場合、式(2)の左辺は
Vth(T8)= -2V
式(2)の右辺は
Vdata(W)+Vth(T4)-Vbody=2V+(-4V)-(2.5V)
= -4.5V
となり、式(2)を満たす。したがって、スイッチングトランジスタT8がオンするので、駆動トランジスタT4のチャネル領域のトラップ準位にトラップされている正孔は、スイッチングトランジスタT8を介して初期化線Viniに放電される。その結果、現フレームが白表示の場合、次フレームのグレー表示時には残像(白表示部が暗く見える)が発生しない。ただし、式(2)を満たさないしきい値電圧や電源電圧の設定であれば、スイッチングトランジスタT8がオンしないので、白表示であっても残像は発生しうる。
【0068】
<2.5.2 Hレベルの黒表示電圧がノードに書き込まれた場合>
現フレームにおいて、Hレベルの黒表示電圧Vdata(B)が書き込まれたとき、駆動トランジスタT4のチャネル領域のトラップ準位に電子がトラップされる。このとき、pチャネル型のスイッチングトランジスタT8がオンする条件は、式(2)と同様に次式で表される。
Vth(T8)>Vgs
ここで、
Vgs=Vng-Vbody
=Vdata(B)-|Vth(T4)|-Vbody
=Vdata(B)+Vth(T4)-Vbody
である。したがって、スイッチングトランジスタT8がオンするための条件は次のようになる。
Vth(T8)>Vdata(B)+Vth(T4)-Vbody …(3)
電圧設定の一例として、
Vdata(B)= 5V
ELVDD = 4V
ELVSS = -4V
Voled = 3V
Vbody ≒{(ELVDD-ELVSS)―Voled}/2
= 2.5V
Vini= -3V
Vth(T4)= -4V
Vth(T8)= -2V
と設定した場合、式(3)の左辺は
Vth(T8)= -2V
式(3)の右辺は
Vdata(B)+Vth(T4)-Vbody=5V+(-4V)-(2.5V)
= -1.5V
となり、式(3)を満たさない。したがって、スイッチングトランジスタT8がオンしないので、駆動トランジスタT4のチャネル領域のトラップ準位にトラップされている電子は、スイッチングトランジスタT8を介して初期化線Viniに放電されず、駆動トランジスタT4のチャネル領域にとどまる。その結果、現フレームが黒表示の場合、次フレームのグレー表示時には残像(黒表示部が明るく見える)が発生する。
【0069】
<2.6 駆動トランジスタのチャネル領域にトラップされた正孔を初期化線に放電させるためのバンド図>
駆動トランジスタT4がオンして駆動電流が流れているときに、チャネル領域42にトラップされていた正孔がスイッチングトランジスタT8を介して初期化線Viniに放電されることをバンド図を使用して説明する。図8および図9は、駆動トランジスタT4のチャネル領域42と、チャネル領域42に接続されたスイッチングトランジスタT8のバンドを表す図である。図8は、T8のソース領域81がn型の場合の図であり、図9は、T8のソース領域81がp型の場合の図である。
【0070】
まず、駆動トランジスタT4およびスイッチングトランジスタT8がオフしているときについて説明する。図8および図9に示すように、駆動トランジスタT4のチャネル領域42、スイッチングトランジスタT8のチャネル領域82はいずれもn型領域であり、T8がオフする電圧(Vng≧Vth(T8)+Vbody)が印加されている。この時、T4のチャネル領域は、フェルミレベルEfが真性フェルミレベルEiより上にあるので、正孔をトラップしていない。p+型のドレイン領域83は、n型のチャネル領域82と接すると同時に、負電位である初期化線Viniに接続されている。このため、ドレイン領域83のフェルミレベルEfはチャネル領域のフェルミレベルEfよりも、逆バイアス電圧であるVini分だけ高い。チャネル領域42に正孔自体がトラップされていないので、T8のソース領域81がn型かp型かに関わらず(図8および図9のいずれの場合であっても)、正孔はスイッチングトランジスタT8を介して初期化線Viniに放電されない。
【0071】
次に、駆動トランジスタT4およびスイッチングトランジスタT8がオンしている場合について説明する。
【0072】
ノードN_Gは、駆動トランジスタT4およびスイッチングトランジスタT8のゲート電極として機能しているので、トランジスタT4およびT8のゲート電極にT8がオンする電圧(Vng<Vth(T8)+Vbody)が印加されると、チャネル領域42およびチャネル領域82のフェルミレベルEfは、真性フェルミレベルEiよりも小さくなって、導電型がn型からp型に反転する。この時のバンドの曲がり(導電型の反転)に伴って、T4のチャネル領域42近傍のトラップ準位には正孔がトラップされる。図8に示すように、T8のソース領域81がn型の場合、この領域が正孔に対してポテンシャル障壁となるので、電位的には、正孔はViniに流れにくくなるが、一方で、ソース領域81の価電子帯にある多数キャリアである電子とは再結合しやすくなり、T4のチャネル領域近傍にトラップされた正孔は消失しやすくなる。また、図9に示すように、T8のソース領域がp型の場合は、この領域は正孔に対してポテンシャル障壁とならないので、T4のチャネル領域近傍にトラップされた正孔は、そのままViniに流れてゆき、放電される。
【0073】
<2.7 効果>
本実施形態によれば、駆動トランジスタT4のしきい値補償をするために、ノードN_Gにデータ電圧としてLレベルの白表示電圧を書き込む際に、駆動トランジスタT4のチャネル領域42のトラップ準位に正孔がトラップされる。次に、発光期間において、白表示のデータ電圧が与えられると、駆動トランジスタT4は、データ電圧に応じた駆動電流を有機EL素子OLEDに供給する。このとき、スイッチングトランジスタT8がオンする。これにより、駆動トランジスタT4のチャネル領域42のトラップ準位にトラップされた正孔はスイッチングトランジスタT8を介して初期化線Viniに放電される。その結果、駆動トランジスタT4のトラップ準位にトラップされている正孔がなくなるので、次フレームでグレー表示電圧が書き込まれた場合にも、書き込まれたグレー表示のデータ電圧値に応じた電流が駆動トランジスタT4から発光制御トランジスタT6を介して有機EL素子OLEDに供給される。その結果、残像のない画像を表示することができる。
【0074】
<3.第2の実施形態>
<3.1 有機EL表示装置の構成>
第2の実施形態に係る有機EL表示装置の全体構成は、図2に示す第1の実施形態に係る有機EL表示装置の全体構成と同じであるので、そのブロック図および説明を省略する。
【0075】
<3.2 画素回路の構成>
本実施形態の表示パネル10に形成された画素回路12の構成について説明する。図10は、本実施形態に係る有機EL表示装置に含まれる画素回路12の構成を示す回路図である。図10に示す画素回路12には、図3に示す画素回路11と異なり、スイッチングトランジスタとして、pチャネル型スイッチングトランジスタT8の代わりに、nチャネル型スイッチングトランジスタT9が設けられている。スイッチングトランジスタT9のソース端子は、スイッチングトランジスタT8の場合と同様に、駆動トランジスタT4のチャネル領域に接続され、ゲート端子はノードN_Gに接続されている。しかし、スイッチングトランジスタT8の場合と異なり、スイッチングトランジスタT9では、ドレイン端子は正電位のHレベル電源線ELVDDに接続されている。なお、画素回路12のその他の構成は図3に示す画素回路11の構成と同じであるので、その説明を省略する。
【0076】
<3.3 スイッチングトランジスタおよびその近傍のレイアウトパターン>
図11は、画素回路12の駆動トランジスタT4およびスイッチングトランジスタT9およびその近傍のレイアウトパターンを示す平面図である。図11に示すように、駆動トランジスタT4を構成する半導体層40(「第1半導体層」ともいう)のソース領域41およびドレイン領域43の接続先は、第1の実施形態の場合と同じであるので、その説明を省略する。
【0077】
駆動トランジスタT4のチャネル領域42から図11の下方に向かって延びるスイッチングトランジスタT9を構成する半導体層90(「第2半導体層」ともいう)が延び、半導体層90には駆動トランジスタT4のチャネル領域42に近い側から順にソース領域91(「第2ソース領域」ともいう)、チャネル領域92(「第2チャネル領域」ともいう)、およびドレイン領域93(「第2ドレイン領域」ともいう)が配置されている。スイッチングトランジスタT9のソース領域91は駆動トランジスタT4のチャネル領域42に接続され、ドレイン領域93はHレベル電源線ELVDDに接続されている。
【0078】
ノードN_Gは、駆動トランジスタT4のゲート電極として機能するとともに、データ電圧を充電するためのストレージキャパシタCstの第1端子としても機能する。ノードN_Gは駆動トランジスタT4のチャネル領域42を覆う矩形形状の本体部BYと、本体部BYから分岐してスイッチングトランジスタT9のチャネル領域92上まで延びる突起部PRとを含む。本体部BYは、駆動トランジスタT4に流れる駆動電流を制御するゲート電極として機能するとともに、データ電圧を充電するためのストレージキャパシタCstの第1端子としても機能する。突起部PRはスイッチングトランジスタT9に流れる電流を制御するゲート電極として機能する。
【0079】
図12は、図11に示すレイアウトパターンの断面図であり、より詳しくは、図12(A)は図11に示す矢線A-A’に沿った駆動トランジスタT4の断面図であり、図12(B)は、図11に示す矢線C-C’に沿ったスイッチングトランジスタT9の断面図である。駆動トランジスタT4はpチャネル型であるので、図12(A)に示す断面図は、図5(A)に示す断面図と同じである。このため、駆動トランジスタT4の説明は省略する。
【0080】
スイッチングトランジスタT9は、スイッチングトランジスタT8と異なり、nチャネル型のトランジスタであり、ソース領域91およびドレイン領域93はn型不純物がドープされたn型領域で通常形成されるが、図12(B)に示したようにソース領域91はp型(p+型またはイントリンシック型であってもよい)、チャネル領域92はp型、ドレイン領域93はn+型としてもよい。スイッチングトランジスタT9のチャネル領域92上には、ゲート絶縁膜GIを挟んで、ノードN_Gの本体部BYから延びる突起部PRからなるゲート電極が形成されている。ソース領域91は駆動トランジスタT4のチャネル領域42に接続され、ドレイン領域93はHレベル電源線ELVDDに接続されている。
【0081】
<3.4 画素回路の動作>
画素回路の動作を示すタイミングチャートは、図6および図7に示す第1実施形態の場合と同じである。このため、図6および図7を使用して本実施形態に係る画素回路12の動作を説明する。
【0082】
<3.4.1 データ電圧がHレベル、MレベルまたはLレベルのいずれかからHレベルに変化する場合>
以下では、図7に示すように、データ電圧が、Hレベル、MレベルまたはLレベルのいずれかから、黒表示電圧であるHレベルに変化する場合について説明する。時刻t1までの動作は、第1の実施形態の場合と同じなので、その説明を省略する。時刻t2において、データ線Diに印加されるデータ電圧がHレベル、MレベルまたはLレベルのいずれかからHレベルに変化する。その後、時刻t3になるまでの期間において、走査線Sjの電位がHレベルからLレベルに変化する。これにより、書込トランジスタT3および補償トランジスタT2がオンし、Hレベルのデータ電圧がノードN_Gに書き込まれるとともに、駆動トランジスタT4のしきい値補償が行われる。次に、走査線Sjの電位がLレベルからHレベルに戻ると、書込トランジスタT3および補償トランジスタT2はオフし、ノードN_Gは第1の実施形態の式(1)と同様に次式で表される。
Vng=Vdata-|Vth|
【0083】
ここで、黒表示電圧が駆動トランジスタT4のゲート電極に印加されると、チャネル領域42のトラップ準位に電子がトラップされていく。このトラップされた電子に起因する残像が次フレームにおいて視聴者に視認される。しかし、本実施形態では、ノードN_Gに書き込まれるデータ電圧がHレベルになったときからトランジスタT9はオンし、チャネル領域42とゲート絶縁膜との界面および結晶粒界のトラップ準位にトラップされている電子がトランジスタT9を介してHレベル電源線ELVDDに放出されるようになる。その結果、次フレームにおいて、トラップされた電子に起因する残像現象の発生が抑制される。
【0084】
時刻t3において、エミッション線Ejの電位がHレベルからLレベルに変化する。これにより、発光制御トランジスタT6と電源供給トランジスタT5がオンし、電流が、Hレベル電源線ELVDDから電源供給トランジスタT5、駆動トランジスタT4、発光制御トランジスタT6を順に通って、有機EL素子OLEDに電流が供給される。このとき、駆動トランジスタT4は、電源供給トランジスタT5を通って流れる電流を、ノードN_Gに書き込まれた黒表示電圧Vdata(B)によって制御して有機EL素子OLEDに供給する。これにより、有機EL素子OLEDが発光し、画素回路11は黒表示の画像を表示する。その後、時刻t7まで有機EL素子OLEDに電流が流れ続け、画素回路11は黒表示の画像を表示し続ける。
【0085】
時刻t7から次フレームになる。時刻t7において、エミッション線Ejの電位がLレベルからHレベルに変化する。これにより、発光制御トランジスタT6と電源供給トランジスタT5がオフすることによって、電流が有機EL素子OLEDに供給されなくなるので、有機EL素子OLEDは消灯する。その後、時刻t8までの期間において、前走査線Sj-1の電位がHレベルからLレベルに変化し、第1初期化トランジスタT1がオンする。これにより、ノードN_Gの電位Vngは初期化され、初期化電位Viniになる。さらに、前走査線Sj-1の電位がLレベルからHレベルに戻り、第1初期化トランジスタT1がオフする。その結果、初期化電位ViniがノードN_Gに保持される。
【0086】
時刻t8において、データ線Diに印加されるデータ電圧がHレベルからMレベルに変化する。その後、時刻t9になるまでの期間において、走査線Sjの電位がHレベルからLレベルに変化する。これにより、書込トランジスタT3および補償トランジスタT2がオンし、Mレベルのデータ電圧がノードN_Gに書き込まれるとともに、駆動トランジスタT4のしきい値補償が行われる。
【0087】
図1に示す従来の画素回路15では、現フレームの時刻t2~t3の期間に、チャネル領域42のトラップ準位に電子がトラップされる。従来の画素回路15は、トラップされた電子を積極的に放出する機構を備えていないため、時刻t2以降、トラップされた電子は放出されにくく(msecオーダー以上の時定数に従ってゆっくりと放出されるため)次フレーム以降も残り続ける。このため、時刻t8以降にチャネル領域42に誘起されるキャリア(電流)は、ノードN_Gに書き込まれたMレベルのデータ電圧に対応したキャリア(電流)よりも多くなる。その結果、視聴者は輝度が上昇した画像(残像)を視認することになる。
【0088】
これに対して、図10に示す本実施形態に係る画素回路12では、時刻t2からt7までにおいて、スイッチングトランジスタT9をオンさせるために、チャネル領域42のトラップ準位にトラップされている電子は、スイッチングトランジスタT9を通ってHレベル電源線ELVDDに放電される。次フレームの時刻t8になると、チャネル領域42には、ノードN_Gに書き込まれたMレベルのデータ電圧に応じたキャリア(電流)が誘起される。このため、トラップされた電子に起因する残像の発生は抑制される。次に、時刻t9になるまでの期間において、走査線Sjの電位がLレベルからHレベルに戻ると、書込トランジスタT3および補償トランジスタT2はオフする。
【0089】
時刻t9において、エミッション線Ejの電位がHレベルからLレベルに変化する。これにより、電源供給トランジスタT5および発光制御トランジスタT6がオンし、電流が、Hレベル電源線ELVDDから、電源供給トランジスタT5、駆動トランジスタT4、発光制御トランジスタT6を順に通って有機EL素子OLEDに供給される。このとき、駆動トランジスタT4は、Hレベル電源線ELVDDから電源供給トランジスタT5を通って流れる電流を、ノードN_Gに書き込まれたグレー表示のデータ電圧によって制御する。
【0090】
上記のように、データ電圧が時刻t2において、Hレベル、MレベルまたはLレベルのいずれかからHレベルに変化する場合、画素回路12では、現フレームの時刻t2~t7の期間に、スイッチングトランジスタT9がオンする。これにより、チャネル領域42のトラップ準位にトラップされている電子は、スイッチングトランジスタT9を通ってHレベル電源線ELVDDに放電される。その結果、時刻t8以降においては、チャネル領域42に、所望のMレベルのデータ電圧に応じたキャリア(電流)が誘起される。このようにして、残像現象が抑制されるので、有機EL素子OLEDはデータ電圧に応じた輝度で発光し、画素回路12は所望のグレー表示の画像を表示する。その後も有機EL素子OLEDに所望の電流が流れ続けるので、有機EL素子OLEDはデータ電圧に応じた所望の輝度で発光し続け、画素回路12はグレー表示になる。
【0091】
<3.4.2 データ電圧がHレベル、MレベルまたはLレベルのいずれかからLレベルに変化する場合>
図6に示すように、時刻t2において、データ線Diに印加されるデータ電圧が、Hレベル、MレベルまたはLレベルのいずれかからLレベルに変化する。その後、時刻t3になるまでの期間において、走査線Sjの電位がHレベルからLレベルに変化する。これにより、書込トランジスタT3および補償トランジスタT2がオンすることによって、Lレベルのデータ電圧がノードN_Gに書き込まれるとともに、駆動トランジスタT4のしきい値補償が行われる。次に、走査線Sjの電位がLレベルからHレベルにもどると、書込トランジスタT3および補償トランジスタT2はオフする。
【0092】
時刻t3から現フレームの発光期間になり、エミッション線Ejの電位がHレベルからLレベルに変化する。これにより、電源供給トランジスタT5および発光制御トランジスタT6がオンし、電流が、Hレベル電源線ELVDDから、電源供給トランジスタT5、駆動トランジスタT4、発光制御トランジスタT6を順に通って、有機EL素子OLEDに供給される。このとき、駆動トランジスタT4は、Hレベル電源線ELVDDから電源供給トランジスタT5を通って流れる電流を、ノードN_Gに書き込まれた白表示のデータ電圧によって制御する。これにより、有機EL素子OLEDがデータ電圧に応じた輝度で発光し、画素回路は白表示になる。
【0093】
ここで、白表示電圧が駆動トランジスタT4のゲート電極に印加されると、ノードN_Gに書き込まれるデータ電圧がLレベルになるので、スイッチングトランジスタT9はオフする。これにより、駆動トランジスタT4のチャネル領域42は、Hレベル電源線ELVDDから切り離された状態になる。なお、白表示電圧の場合、チャネル領域42のトラップ準位にトラップされる電子が少ないので、トラップされている電子がHレベル電源線ELVDDに放電されなくても、それによる残像はほとんど視認されないが、一方でトラップ準位にトラップされる正孔の方が顕著になるので、それによる残像(輝度低下)が視認されるようになる。
【0094】
時刻t7から次フレームになる。時刻t7において、エミッション線Ejの電位がLレベルからHレベルに変化する。これにより、発光制御トランジスタT6と電源供給トランジスタT5がオフすることによって、電流が有機EL素子OLEDに供給されなくなるので、有機EL素子OLEDは消灯する。その後、時刻t8までの期間において、前走査線Sj-1の電位がHレベルからLレベルに変化し、第1初期化トランジスタT1がオンする。これにより、ノードN_Gの電位Vngは初期化され、初期化電位Viniになる。さらに、前走査線Sj-1の電位がLレベルからHレベルに戻り、第1初期化トランジスタT1がオフする。その結果、初期化電位ViniがノードN_Gに保持される。
【0095】
時刻t8において、データ線Diに印加されるデータ電圧がLレベルからMレベルに変化する。その後、時刻t9になるまでの期間において、走査線Sjの電位がHレベルからLレベルに変化する。これにより、書込トランジスタT3および補償トランジスタT2がオンし、Mレベルのデータ電圧がノードN_Gに書き込まれるとともに、駆動トランジスタT4のしきい値補償が行われる。
【0096】
図1に示す従来の画素回路15では、現フレームの時刻t2~t3の期間に、チャネル領域42のトラップ準位に正孔がトラップされる。従来の画素回路15は、トラップされた正孔を積極的に放出する機構を備えていないため、時刻t2以降、トラップされた正孔は放出されにくく(msecオーダー以上の時定数に従ってゆっくりと放出され)残り続ける。このため、次フレームの時刻t8以降にチャネル領域42に誘起されるキャリア(電流)は、ノードN_Gに書き込まれたMレベルのデータ電圧に対応したキャリア(電流)よりも少なくなる。その結果、視聴者は輝度が低下した画像(残像)を視認することになる。
【0097】
一方、図10に示す本実施形態に係る画素回路12では、時刻t2からt7までにおいて、スイッチングトランジスタT9がオンされるが、接続先の電源線が正電位であるHレベル電源線ELVDDのため、チャネル領域42のトラップ準位にトラップされた正孔は、放電されずに残り続ける。このため、次フレームの時刻t8以降にチャネル領域42に誘起されるキャリア(電流)は、ノードN_Gに書き込まれたMレベルのデータ電圧に対応したキャリア(電流)よりも少なくなる。その結果、従来の画素回路15と同様に、視聴者は輝度が低下した画像(残像)を視認することになる。次に、時刻t9になるまでの期間において、走査線Sjの電位がLレベルからHレベルに戻ると、書込トランジスタT3および補償トランジスタT2はオフする。
【0098】
時刻t9において、エミッション線Ejの電位がHレベルからLレベルに変化する。これにより、電源供給トランジスタT5および発光制御トランジスタT6がオンし、電流が、Hレベル電源線ELVDDから電源供給トランジスタT5、駆動トランジスタT4、発光制御トランジスタT6を順に通って有機EL素子OLEDに供給される。このとき、駆動トランジスタT4は、Hレベル電源線ELVDDから電源供給トランジスタT5を通って流れる電流を、ノードN_Gに書き込まれたグレー表示のデータ電圧によって制御する。
【0099】
上記のように、データ電圧が時刻t2において、Hレベル、MレベルまたはLレベルのいずれかからLレベルに変化する場合、画素回路12では、現フレームの時刻t2~t7の期間に、スイッチングトランジスタT9がオンするが、接続先の電源線が正電位であるHレベル電源線ELVDDのため、チャネル領域42のトラップ準位にトラップされた正孔は、放電されずに残り続ける。その結果、次フレームの時刻t8以降においては、チャネル領域42に、所望のMレベルのデータ電圧に対応したキャリア(電流)よりも少ないキャリア(電流)が誘起される。残像現象が抑制されないので、グレー表示に切り替えた瞬間は、有機EL素子OLEDはデータ電圧以下の輝度で発光し、画素回路12は所望のグレー表示よりも暗い画像を表示する。その後は、トラップされた正孔が次第に(時定数に従ってゆっくりと)放出されるため、有機EL素子OLEDは、数十秒かけて徐々に所望のMレベルのデータ電圧に応じた所望の輝度に下がっていき、最終的には所望のグレー表示となり、残像は見えなくなる。
【0100】
<3.5 スイッチングトランジスタの動作>
<3.5.1 Hレベルの黒表示電圧がノードN_Gに書き込まれた場合>
現フレームにおいて、Hレベルの黒表示電圧Vdata(B)をノードN_Gに書き込むことによって駆動トランジスタT4のしきい値補償をする際に、駆動トランジスタT4のチャネル領域のトラップ準位に電子がトラップされる。そこで、トラップされている電子をnチャネル型スイッチングトランジスタT9を介してHレベル電源線ELLVDDに放電させるために、スイッチングトランジスタT9をオンさせる必要がある。nチャネル型のスイッチングトランジスタT9をオンさせるための条件は、
Vth(T9)<Vgs
である。ここで、Vgsは、スイッチングトランジスタT9のゲート・ソース間電圧であり、次式で表される。
Vgs=Vng-Vbody
=Vdata(B)+Vth(T4)-Vbody
したがって、スイッチングトランジスタT9をオンさせるための条件は次のようになる。
Vth(T9)<Vdata(B)+Vth(T4)-Vbody…(4)
【0101】
スイッチングトランジスタT9をオンさせるために、上式(4)を満たす、駆動トランジスタT4のしきい値電圧Vth(T4)、スイッチングトランジスタT9のしきい値電圧Vth(T9)および黒表示電圧Vdata(B)を設定する。
電圧設定の一例として、
Vdata(B)= 5V
ELVDD = 4V
ELVSS = -4V
Voled = 3V
Vbody ≒{(ELVDD-ELVSS)―Voled}/2
= 2.5V
Vini= -3V
Vth(T4)= -4V
Vth(T9)= -2V
と設定した場合、式(4)の左辺は
Vth(T9)= -2V
式(4)の右辺は
Vdata(B)+Vth(T4)-Vbody=5V+(-4V)-(2.5V)
= -1.5V
となり、式(4)を満たす。したがって、スイッチングトランジスタT9がオンするので、駆動トランジスタT4のチャネル領域のトラップ準位にトラップされている電子は、スイッチングトランジスタT9を介してHレベル電源線ELLVDDに放電される。その結果、現フレームで黒表示され、次フレームでグレー表示される領域で、黒表示部が明るく見える残像が発生しない。ただし、上記の電圧設定例では、スイッチングトランジスタT9はデプレション型のnチャネルトランジスタであり、そのしきい値電圧Vth(T9)が-2Vに設定されている点に注意されたい。なお、このような式(4)を満たすしきい値電圧や電源電圧が設定されない場合には、スイッチングトランジスタT9がオンしないので、黒表示であっても残像は発生しうる。
【0102】
<3.5.2 Lレベルの白表示電圧がノードN_Gに書き込まれた場合>
現フレームにおいて、Lレベルの白表示電圧が書き込まれたとき、駆動トランジスタT4のチャネル領域のトラップ準位に正孔がトラップされる。このとき、nチャネル型のスイッチングトランジスタT9がオンする条件は、次式で表される。
Vth(T9)<Vgs
ここで、
Vgs=Vng-Vbody
=Vdata(W)+Vth(T4)-Vbody
である。したがって、スイッチングトランジスタT9がオンする条件は、式(4)と同様に、次式(5)によって表される。
Vth(T9)<Vdata(W)+Vth(T4)-Vbody …(5)
【0103】
電圧設定の一例として、
Vdata(W)= 2V
ELVDD = 4V
ELVSS = -4V
Voled = 3V
Vbody ≒{(ELVDD-ELVSS)―Voled}/2
= 2.5V
Vini= -3V
Vth(T4)= -4V
Vth(T9)= -2V
と設定した場合、式(5)の左辺は
Vth(T9)= -2V
式(5)の右辺は
Vdata(W)+Vth(T4)-Vbody=2V+(-4V)-(2.5V)
= -4.5V
となり、式(5)を満たさない。したがって、スイッチングトランジスタT9がオンしないので、駆動トランジスタT4のチャネル領域のトラップ準位にトラップされている正孔は、Hレベル電源線ELVDDに放電されず、駆動トランジスタT4のチャネル領域にとどまる。このため、現フレームが白表示の場合、次フレームのグレー表示時には残像(白表示部が暗く見える)が発生する。ただし、上記の電圧設定例では、スイッチングトランジスタT9はデプレション型のnチャネルトランジスタであり、そのしきい値電圧Vth(T9)が-2Vに設定されている点に注意されたい。
【0104】
<3.6 効果>
本実施形態によれば、駆動トランジスタT4のしきい値補償をするために、ノードN_GにHレベルの黒表示電圧を書き込む際に、駆動トランジスタT4のチャネル領域のトラップ準位に電子がトラップされる。駆動トランジスタT4がオンして、有機EL素子OLEDに駆動電流が供給されるときに、駆動トランジスタT4のチャネル領域のトラップ準位にトラップされている電子が放出される。放出された電子はスイッチングトランジスタT9を介してHレベル電源線ELVDDに放電される。これにより、駆動トランジスタT4のトラップ準位にトラップされている電子がなくなるので、次フレームでグレー表示電圧が書き込まれた場合にも、書き込まれたグレー表示のデータ電圧値に応じた電流が駆動トランジスタT4から発光制御トランジスタT6を介して有機EL素子OLEDに供給される。その結果、次フレームでは残像のない画像を表示することができる。
【0105】
<4 第3の実施形態>
第3の実施形態に係る有機EL表示装置の全体構成は、図2に示す第1の実施形態に係る有機EL表示装置の全体構成と同じであるので、そのブロック図および説明を省略する。
【0106】
<4.1 画素回路の構成>
本実施形態の表示パネル10に形成された画素回路13の構成について説明する。図13は、本実施形態に係る有機EL表示装置に含まれる画素回路13の構成を示す回路図である。図13に示すように、画素回路13は、第1の実施形態で説明したpチャネル型スイッチングトランジスタT8と、第2の実施形態で説明したnチャネル型スイッチングトランジスタT9とを備えている。スイッチングトランジスタT8のソース端子と、スイッチングトランジスタT9のソース端子は、いずれも駆動トランジスタT4のボディ端子N_bodyに接続されている。スイッチングトランジスタT8のドレイン端子は初期化線Viniに接続され、スイッチングトランジスタT9のドレイン端子はHレベル電源線ELVDDに接続されている。また、スイッチングトランジスタT8、T9のゲート端子はいずれもノードN_Gに接続されている。画素回路13のその他の構成は図3に示す画素回路11の構成と同じであるので、その説明を省略する。
【0107】
<4.2 スイッチングトランジスタおよびそれらの近傍のレイアウトパターン>
図14は、駆動トランジスタT4、スイッチングトランジスタT8、およびスイッチングトランジスタT9およびそれらの近傍のレイアウトパターンを示す平面図である。駆動トランジスタT4を構成する半導体層40(「第1半導体層」ともいう)は、第1および第2実施形態の場合と同じであるので、それらの説明を省略する。駆動トランジスタT4のチャネル領域42から下方に向かって延びる2本の半導体層80、90(これらをまとめて「第2半導体層」ともいう)が形成されている。
【0108】
スイッチングトランジスタT8は、第1の実施形態で説明したpチャネル型スイッチングトランジスタT8と同じ構成であり、スイッチングトランジスタT9は、第2の実施形態で説明したnチャネル型スイッチングトランジスタT9と同じ構成である。このため、スイッチングトランジスタT8およびT9の各構成要素には、それぞれ図4および図11においてそれぞれ付した参照符号と同じ参照符号を付し、それらの説明を省略する。
【0109】
ノードN_Gは駆動トランジスタT4のチャネル領域を覆う矩形形状の本体部BYと、本体部BYからスイッチングトランジスタT8およびT9のチャネル領域82、92上まで延びる突起部PRとを含む。突起部PRは、その先端が2方向に分岐し、一方はスイッチングトランジスタT8のチャネル領域82上まで延び、他方はスイッチングトランジスタT9のチャネル領域92上まで延びている。これらは、それぞれスイッチングトランジスタT8およびT9のオン/オフを制御して、駆動トランジスタT4のチャネル領域にトラップされている正孔または電子を放電させるためのゲート電極として機能する。
【0110】
図15は、図14に示すレイアウトパターンの断面図であり、より詳しくは、図15(A)は図14に示す矢線A-A’に沿った駆動トランジスタT4の断面図であり、図15(B)は図14に示す矢線B-B’に沿ったスイッチングトランジスタT8の断面図であり、図15(C)は図14に示す矢線C-C’に沿ったスイッチングトランジスタT9の断面図である。図15(A)に示す断面図は、図5(A)に示す駆動トランジスタT4の断面図と同じ構造である。また、図15(B)に示す断面図は、図5(B)に示すスイッチングトランジスタT8の断面図と同じ構造であり、図15(C)に示す断面図は、図12(B)に示すスイッチングトランジスタT9の断面図と同じ構造である。このため、これらのトランジスタT4、T8、T9の構造についての説明を省略する。
【0111】
<4.3 画素回路の動作>
画素回路13の動作を示すタイミングチャートは、第1および第2の実施形態で説明した図6および図7に示すタイミングチャートと同じである。このため、本実施形態のスイッチングトランジスタT8およびT9の詳しい動作は、第1および第2の実施形態で説明した動作と同じであるので、説明を省略する。
【0112】
<4.4 効果>
本実施形態によれば、駆動トランジスタT4のしきい値補償をするために、ノードN_Gにデータ電圧としてLレベルの白表示電圧を書き込む際に、駆動トランジスタT4のチャネル領域42のトラップ準位に正孔がトラップされると同時に、スイッチングトランジスタT8がオンする。同様に、ノードN_Gにデータ電圧としてHレベルの黒表示電圧を書き込む際に、駆動トランジスタT4のチャネル領域42のトラップ準位に電子がトラップされると同時に、スイッチングトランジスタT9がオンする。
【0113】
このように、白表示または黒表示に相当するデータ電圧(Hレベル、または、Lレベル)に応じて、スイッチングトランジスタT8またはT9のいずれかがオンする。したがって、白表示で駆動トランジスタT4のチャネル領域42のトラップ準位にトラップされているキャリアが正孔の場合は、スイッチングトランジスタT8を介して初期化線Viniに放電され、黒表示でトラップされているキャリアが電子の場合はスイッチングトランジスタT9を介してHレベル電源線ELVDDに放電される。これにより、駆動トランジスタT4のトラップ準位にトラップされる正孔または電子がなくなるので、次フレームでグレー表示電圧が書き込まれた場合にも、書き込まれたグレー表示のデータ電圧値に応じた電流が有機EL素子OLEDに供給される。その結果、次フレームでは、現フレームにおいて駆動トランジスタT4のチャネル領域42のトラップ準位にトラップされているキャリアの影響がなくなるので、Mレベルの画像を表示する場合に、残像のないデータ電圧に応じた輝度の画像を表示することができる。
【0114】
<5.第4の実施形態(第1の実施形態の変形例)>
上記第1~第3の実施形態では、スイッチングトランジスタT8、T9のゲート端子は、いずれも、駆動トランジスタT4のゲート端子を含むノードN_Gに接続されているが、少なくとも、最大または最小の表示輝度を示すデータ電圧(すなわち白表示電圧または黒表示電圧)のうち低い方の電圧がノードN_Gに与えられているときに、pチャネル型スイッチングトランジスタT8がオン状態となり、少なくとも、最大または最小の表示輝度を示すデータ電圧(すなわち白表示電圧または黒表示電圧)のうち高い方の電圧がノードN_Gに与えられているときに、nチャネル型スイッチングトランジスタT9がオン状態となるように構成されている。以下、このような構成の有機EL表示装置のうち、少なくとも、最大または最小の表示輝度を示すデータ電圧のうち低い方の電圧がノードN_Gに与えられているときに、pチャネル型スイッチングトランジスタT8がオン状態となる有機EL表示装置の他の例を、第4の実施形態として説明する。
【0115】
本実施形態は、上記第1の実施形態の変形例に相当し、画素回路の構成のみが上記第1の実施形態と異なる。図16は、本実施形態における画素回路14の構成を示す回路図である。本実施形態における画素回路14は、図16に示すように、pチャネル型スイッチングトランジスタT8のゲート端子が対応するエミッション線Ejに接続されており、この点で当該トランジスタT8のゲート端子が駆動トランジスタT4のゲート端子(ノードN_G)に接続されている上記第1の実施形態における画素回路11(図3)と相違する。本実施形態における画素回路14の他の構成は、上記第1の実施形態における画素回路11と同様である。
【0116】
このような本実施形態における画素回路14では、図6に示すように発光期間において、その直前のデータ書込期間にストレージキャパシタCstに書き込まれたデータ電圧(正確にはしきい値補償後のデータ電圧)すなわち当該発光期間での有機EL素子OLEDの輝度(表示輝度)に対応するデータ電圧が駆動トランジスタT4のゲート端子(ノードN_G)に与えられており、pチャネル型スイッチングトランジスタT8のゲート端子に接続されるエミッション線Ejの電圧はLレベルである。したがって、表示輝度に対応する電圧が駆動トランジスタT4のゲート端子に与えられているときにpチャネル型スイッチングトランジスタT8はオン状態となる。この画素回路14では、最大または最小の表示輝度を示すデータ電圧のうち低い方の電圧(この例では白表示電圧)VGLが駆動トランジスタT4のゲート端子に与えられているときだけでなく、表示輝度の値に拘わらず発光期間でスイッチングトランジスタT8がオン状態となる。
【0117】
このような本実施形態によっても、上記第1の実施形態と同様、駆動トランジスタT4のN_G(に接続されたストレージキャパシタCst)にデータ電圧が書き込まれる際に駆動トランジスタT4のチャネル領域のトラップ準位にトラップされた正孔を、スイッチングトランジスタT8を介して初期化線Viniに放電することができるので、第1の実施形態と同様に、次フレームでは残像のない画像を表示することができる。
【0118】
<6.第5の実施形態(第2の実施形態の変形例)>
上記第1~第3の実施形態に係る有機EL表示装置を包含する上記構成の有機EL表示装置のうち、少なくとも、最大または最小の表示輝度を示すデータ電圧(すなわち白表示電圧または黒表示電圧)のうち高い方の電圧がノードN_Gに与えられているときに、nチャネル型スイッチングトランジスタT9がオン状態となる有機EL表示装置の他の例を、第5の実施形態として説明する。
【0119】
本実施形態は、上記第2の実施形態の変形例に相当し、画素回路の構成のみが上記第2の実施形態と異なる。図17は、本実施形態における画素回路15の構成を示す回路図である。本実施形態における画素回路15は、図17に示すように、nチャネル型スイッチングトランジスタT9のゲート端子が対応する走査線Sjに接続されており、この点で当該トランジスタT9のゲート端子が駆動トランジスタT4のゲート端子(ノードN_G)に接続されている上記第2の実施形態における画素回路12(図10)と相違する。本実施形態における画素回路15の他の構成は、上記第2の実施形態における画素回路12と同様である。
【0120】
このような本実施形態における画素回路15では、図7に示すように発光期間において、その直前のデータ書込期間にストレージキャパシタCstに書き込まれたデータ電圧(正確にはしきい値補償後のデータ電圧)すなわち当該発光期間での有機EL素子OLEDの輝度(表示輝度)に対応するデータ電圧が駆動トランジスタT4のゲート端子(ノードN_G)に与えられており、nチャネル型スイッチングトランジスタT9のゲート端子に接続される走査線Sjの電圧はLレベルである。したがって、表示輝度に対応する電圧が駆動トランジスタT4のゲート端子に与えられているときにnチャネル型スイッチングトランジスタT9はオン状態となる。この画素回路16では、最大または最小の表示輝度を示すデータ電圧のうち高い方の電圧(この例では黒表示電圧)VGHが駆動トランジスタT4のゲート端子に与えられているときだけでなく、表示輝度の値に拘わらず発光期間でスイッチングトランジスタT9がオン状態となる。
【0121】
したがって本実施形態によっても、上記第2の実施形態と同様、駆動トランジスタT4のN_G(に接続されたストレージキャパシタCst)にデータ電圧が書き込まれる際に駆動トランジスタT4のチャネル領域のトラップ準位にトラップされた電子を、スイッチングトランジスタT9を介してHレベル電源線ELVDDに放電することができるので、第2の実施形態と同様に、次フレームでは残像のない画像を表示することができる。
【0122】
<7.第6の実施形態(第2の実施形態の他の変形例)>
上記第2の実施形態の変形例として、nチャネル型スイッチングトランジスタT9のゲート電極が、ノードN_Gの本体部BYから延びる突起部PRではなく、エミッション線に接続されていても良い。このような構成の画素回路を使用する有機EL表示装置を第6の実施形態として説明する。図18は、当該有機EL表示装置に含まれる画素回路16の構成を示す回路図である。
【0123】
上記構成の画素回路16では、図6または図7のタイミングチャートに示すように、時刻t1からt3までの期間において、エミッション線EjがHレベルになり、スイッチングトランジスタT9がオンする。そのため、時刻t2~t3において、駆動トランジスタT4のN_Gにデータ電圧が書き込まれる際に、駆動トランジスタT4のチャネル領域のトラップ準位にトラップされた電子を、スイッチングトランジスタT9を介して、Hレベル電源線ELVDDに放出することができるので、第2の実施形態と同様に、次フレームでは残像のない画像を表示することができる。
【0124】
<8.第7の実施形態>
上記第1~第6の実施形態では、スイッチングトランジスタT8、T9のドレイン端子を、それぞれLレベルの初期化線ViniおよびHレベル電源線ELVDDにそれぞれ接続していた。しかし、これらのドレイン端子を接続する配線は、上記配線に限定されず、発光期間またはそれに近い期間、HレベルおよびLレベルの電圧を維持する配線であればよい。以下、このような構成の有機EL表示装置の一例を第7の実施形態として説明する。
【0125】
図19は、本実施形態に係る画素回路17の回路図である。画素回路17のタイミングチャートは、第1~第3の実施形態の説明において使用した図6および図7に示すタイミングチャートと同じであるので、その説明を省略する。図19に示すように、駆動トランジスタT4にトラップされていたキャリア(正孔)を十分放電させるために、発光期間の開始時刻である時刻t3から終了時刻である時刻t7までの期間またはそれに近い期間、それぞれのドレイン端子が定電圧供給線として機能している配線に接続されていることが望ましい。このため、pチャネル型スイッチングトランジスタT8のドレイン端子は発光期間にLレベルであるエミッション線Ejに接続されている。これにより、駆動トランジスタT4にトラップされていた正孔をスイッチングトランジスタT8を介してエミッション線Ejに放電させることができる。
【0126】
このように、pチャネル型スイッチングトランジスタT8のドレイン端子をエミッション線Ejに接続することによっても、駆動トランジスタT4にトラップされている正孔を放電させることができる。これにより、白表示が表示された後にグレー表示の画像を表示した場合にも残像の発生を抑制することができる。
【0127】
<9.第8の実施形態>
次に、nチャネル型スイッチングトランジスタT9のドレイン端子にHレベル電源線ELVDDに代えて、発光期間またはそれに近い期間、Hレベルの電圧を維持する他の配線が接続される有機EL表示装置の一例を、第8の実施形態として説明する。
【0128】
図20は、本実施形態に係る画素回路18の回路図である。画素回路18のタイミングチャートは、第1~第3の実施形態の説明において使用した図6および図7に示すタイミングチャートと同じであるので、その説明を省略する。図20に示すように、駆動トランジスタT4にトラップされていたキャリア(電子)を十分放電させるために、発光期間の開始時刻である時刻t3から終了時刻である時刻t7までの期間またはそれに近い期間、nチャネル型スイッチングトランジスタT9のドレイン端子が定電圧供給線として機能している配線に接続されていることが望ましい。このため、nチャネル型スイッチングトランジスタT9のドレイン端子は発光期間にHレベルである走査線Sjに接続されている。これにより、駆動トランジスタT4にトラップされていた電子をスイッチングトランジスタT9を介して走査線Sjに放電させることができる。
【0129】
このように、nチャネル型スイッチングトランジスタT9のドレイン端子を走査線Sjに接続することによっても、駆動トランジスタT4にトラップされている電子を放電させることができる。これにより、黒表示の画像が表示された後にグレー表示の画像を表示した場合にも残像の発生を抑制することができる。
【0130】
<10.その他>
上記各実施形態では、画素回路はpチャネル型のトランジスタT1~T7によって構成されているとして説明した。しかし、画素回路は、nチャネル型のトランジスタによって構成されているとしてもよい。この場合も、上記各実施形態の場合と同様に、pチャネル型およびnチャネル型スイッチングトランジスタの少なくともいずれか一方を設ける。これにより、現フレームにおいて黒表示または白表示の画像を表示していた領域に次フレームにおいてグレー表示の画像を表示する場合に、表示される画像はデータ電圧に応じた輝度の画像になり、残像が視認されなくなる。
【0131】
以下、画素回路における駆動トランジスタT4として、pチャネル型トランジスタに代えてnチャネル型トランジスタを使用する場合につき、さらに詳しく説明する。nチャネル型の駆動トランジスタT4を使用する画素回路において、例えば上記第1の実施形態と同様に(図3)、駆動トランジスタT4のチャネル領域に接続されたソース端子と、初期化線Vini等の負電圧供給線に接続されたドレイン端子と、駆動トランジスタT4のゲート端子に接続されたゲート端子とを有するpチャネル型スイッチングトランジスタT8を設けることにより、上記第1の実施形態と同様の効果が得られる。ただし、駆動トランジスタT4がnチャネル型である場合、データ電圧のLレベルは黒表示電圧(最小の表示輝度を示すデータ電圧)に相当し、Hレベルは白表示電圧(最大の表示輝度を示すデータ電圧)に相当する。したがって、この構成では、Lレベルの黒表示電圧を画素回路に書き込む際に駆動トランジスタT4のチャネル領域のトラップ準位に正孔がトラップされ、当該トラップされた正孔は発光期間においてスイッチングトランジスタT8を介して負電圧供給線に放電される。また、nチャネル型の駆動トランジスタT4を使用する画素回路において、例えば上記第2の実施形態と同様に(図10)、駆動トランジスタT4のチャネル領域に接続されたソース端子と、Hレベル電源線ELVDD等の正電圧供給線に接続されたドレイン端子と、駆動トランジスタT4のゲート端子に接続されたゲート端子とを有するnチャネル型スイッチングトランジスタT9を設けることにより、上記第2の実施形態と同様の効果が得られる。この構成では、Hレベルの白表示電圧を画素回路に書き込む際に駆動トランジスタT4のチャネル領域のトラップ準位に電子がトラップされ、当該トラップされた電子は発光期間においてスイッチングトランジスタT9を介して正電圧供給線に放電される。さらにまた、nチャネル型の駆動トランジスタT4を使用する画素回路において、第3の実施形態と同様に接続されるpチャネル型スイッチングトランジスタT8およびnチャネル型スイッチングトランジスタT9を設けることにより、第3の実施形態と同様の効果が得られる。
【0132】
また上記各実施形態では、データ線Diのデータ電圧をダイオード接続状態の駆動トランジスタT4を介してノードN_G(に接続されたストレージキャパシタCst)に書き込むように構成された内部補償方式の画素回路が使用されている。しかし、他の内部補償方式の画素回路や内部補償を行わない画素回路においても、上記各実施形態における画素回路のように接続されるpチャネル型スイッチングトランジスタT8および/またはnチャネル型スイッチングトランジスタT9を設けることにより(図3図10図13図18図19参照)、上記と同様の効果が得られる。
【0133】
なお、以上に述べた表示装置の特徴をその性質に反せず本発明の趣旨を逸脱しない範囲において任意に組み合せて、上記実施形態および変形例のうちの幾つかの特徴を併せ持つ表示装置を構成してもよい。
【符号の説明】
【0134】
10…表示パネル
11~18…画素回路
T1…第1初期化トランジスタ
T2…補償トランジスタ
T3…書込トランジスタ
T4…駆動トランジスタ
T5…電源供給トランジスタ
T6…発光制御トランジスタ
T7…第2初期化トランジスタ
T8…pチャネル型スイッチングトランジスタ
T9…nチャネル型スイッチングトランジスタ
OLED…有機EL素子(発光表示素子)
N_G…ノード(節点)
N_body…ボディ端子(スイッチングトランジスタのソース領域)
ELVDD…Hレベル電源線(電圧供給線、正電圧供給線)、Hレベル電圧
ELVSS…Lレベル電源線(電圧供給線、負電圧供給線)、Lレベル電圧
Vini…初期化線(負電圧供給線)
Sj…走査線(正電圧供給線)
Ej…エミッション線(負電圧供給線)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20