IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本特殊陶業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-保持部材 図1
  • 特許-保持部材 図2
  • 特許-保持部材 図3
  • 特許-保持部材 図4
  • 特許-保持部材 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】保持部材
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20241210BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20241210BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H01L21/68 R
B32B7/12
C04B37/02 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024017237
(22)【出願日】2024-02-07
【審査請求日】2024-04-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100195659
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-023088(JP,A)
【文献】特開2020-026116(JP,A)
【文献】特開2023-060542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
B32B 7/12
C04B 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持部材であって、
第1部材と、
第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを接着する接着部材と、を備え、
前記接着部材をせん断するせん断方向に沿って前記第1部材と前記第2部材とを引っ張っている際の温度を引張時温度(℃)とし、前記せん断方向に沿って前記第1部材と前記第2部材とを引っ張っている際に前記接着部材に生じている応力を引張応力(MPa)としたとき、前記引張応力(MPa)の値は、前記引張時温度(℃)を1度上昇させるごとに-0.006MPa以上、かつ、0MPa未満の範囲内で変化し、
前記引張応力(MPa)の値は、前記接着部材の厚みと前記引張時温度(℃)とを説明変数とした重回帰分析によって作成された前記引張応力(MPa)の予測式のうち前記引張時温度(℃)の係数であることを特徴とする、保持部材。
【請求項2】
請求項1に記載の保持部材であって、
前記接着部材は、側鎖の少なくとも一部に芳香族炭化水素基を備えたシリコーン樹脂を含むことを特徴とする、保持部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の保持部材であって、
前記接着部材は、アルミナを主成分としたフィラーを含むことを特徴とする、保持部材。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の保持部材であって、
前記接着部材は、シリコーン樹脂と、フィラーと、を含み、
前記フィラーには、前記シリコーン樹脂100重量部に対して、2重量部以上、かつ、15重量部以下のカーボンブラックが含まれていることを特徴とする、保持部材。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の保持部材であって、
前記せん断方向に沿って前記第1部材と前記第2部材とを引っ張ることで破断させた際のひずみ量を前記接着部材の厚みで除することにより算出されるせん断ひずみについて、常温における前記せん断ひずみをγ0とし、180℃で加熱時間3000時間加熱後の前記せん断ひずみをγ1とし、(γ1-γ0)/γ0を前記せん断ひずみの変化率としたとき、前記変化率の値が-0.5以上、かつ、0.5未満の値であることを特徴とする、保持部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持部材に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物を保持する保持部材として、静電引力により対象物であるウエハを保持する静電チャックが知られている。例えば、特許文献1,2には、金属により形成されたベース部材と、セラミックスにより形成されたセラミックス部材と、ベース部材とセラミックス部材とを接着する接着部材と、を備える静電チャックが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6611743号公報
【文献】特許第6886440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1,2のいずれの技術にも接着部材の強度の温度依存性を小さくすることについては十分に考慮されていなかった。保持部材を構成している接着部材の強度の温度依存性が大きい場合、そのような保持部材では、特に、高温下における使用が制限される虞がある。このため、接着部材の強度の温度依存性が小さい保持部材の開発が要望されていた。
【0005】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、接着部材の強度の温度依存性が小さい保持部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、保持部材が提供される。この保持部材は、第1部材と、第2部材と、前記第1部材と前記第2部材とを接着する接着部材と、を備え、前記接着部材をせん断するせん断方向に沿って前記第1部材と前記第2部材とを引っ張っている際の温度を引張時温度(℃)とし、前記せん断方向に沿って前記第1部材と前記第2部材とを引っ張っている際に前記接着部材に生じている応力を引張応力(MPa)としたとき、前記引張応力(MPa)の値は、前記引張時温度(℃)を1度上昇させるごとに-0.006MPa以上、かつ、0MPa未満の範囲内で変化する。
【0008】
この構成によれば、引張時温度(℃)を1度上昇させるごとに-0.006MPa以上、かつ、0MPa未満の範囲内で引張応力(MPa)の値が変化する接着部材を備えた保持部材を提供することができる。すなわち、接着部材の強度の温度依存性が小さくなっているため、高温下で保持部材が使用される状況であっても接着部材の強度が低下しにくいことから、高温下においても使用可能な保持部材を提供することができる。
【0009】
(2)上記態様の保持部材において、前記接着部材は、側鎖の少なくとも一部に芳香族炭化水素基を備えたシリコーン樹脂を含んでいてもよい。
シリコーン樹脂には、その主鎖同士の相互作用が大きいため、微小な結晶化や絡み合いの発生によって疑似的な架橋点が形成されている。疑似的な架橋点の数が多いと、温度上昇時に減少する疑似的な架橋点の数も増加するため、接着部材の強度の温度依存性が大きくなる傾向にある。この構成によれば、シリコーン樹脂の側鎖の少なくとも一部に芳香族炭化水素基が備えられているため、芳香族炭化水素基の立体障害の影響でシリコーン樹脂の主鎖における微小な結晶化や絡み合いの発生が少なくなり、接着部材中に存在する疑似的な架橋点の数を少なくすることができる。その結果、温度上昇時に減少する疑似的な架橋点の数も少なくすることができるため、接着部材の強度の温度依存性を小さくすることができる。また、この構成によれば、シリコーン樹脂の側鎖の少なくとも一部に芳香族炭化水素基が備えられているため、シリコーン樹脂の疎水性は高くなっている。そのため、接着部材に含まれるフィラーが親水性である場合には、シリコーン樹脂のSP値と親水性のフィラーのSP値との差は大きくなり、このSP値の差が大きいほど接着部材における疑似的な架橋点の数は少なくなることから、接着部材の強度の温度依存性を小さくすることができる。
【0010】
(3)上記態様の保持部材において、前記接着部材は、アルミナを主成分としたフィラーを含んでいてもよい。
この構成によれば、フィラーの主成分が親水性の高いアルミナである。このため、接着部材に含まれる樹脂が疎水性の高い樹脂である場合には、その樹脂のSP値とフィラーのSP値との差は大きくなり、このSP値の差が大きいほど接着部材における疑似的な架橋点の数は少なくなることから、接着部材の強度の温度依存性を小さくすることができる。
【0011】
(4)上記態様の保持部材において、前記接着部材は、シリコーン樹脂と、フィラーと、を含み、前記フィラーには、前記シリコーン樹脂100重量部に対して、2重量部以上、かつ、15重量部以下のカーボンブラックが含まれていてもよい。
この構成によれば、高温下に保持部材を長時間曝しても、接着部材の硬化や接着部材の弾性率上昇を抑制することができる。したがって、高温下においても接着部材の材質が大きく変化することなく使用可能な保持部材を提供することができる。
【0012】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、上記接着部材を備える静電チャックや真空チャック、上記接着部材を備える半導体製造装置やセラミックスヒータ、およびこれらを備える部品、およびこれらの製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態の保持部材の断面構成を模式的に示す説明図である。
図2】SP値について説明する説明図である。
図3】接着部材の性能を評価した結果を示す説明図である。
図4】接着部材の性能を評価する際に用いた試験片の説明図である。
図5】試験片を用いて引張応力を測定した際の試験結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の実施形態としての保持部材1の断面構成を模式的に示す説明図である。保持部材1は、対象物である半導体ウエハWを静電引力により吸着して保持する静電チャックである。図1に示した矢印は、保持部材1に対して、半導体ウエハWが吸着される方向を示している。保持部材1は、例えば、半導体製造装置の真空チャンバー内で半導体ウエハWを固定するために使用される。保持部材1は、セラミックス部材10と、ベース部材20と、接着部材30と、静電電極40と、ヒータ電極50と、を備える。
【0015】
セラミックス部材10は、円盤状の部材であり、セラミックスにより形成されている。セラミックス部材10を形成する材料としては、酸化アルミニウム(アルミナ、Al23)や窒化アルミニウム(AlN)等が例示され、本実施形態では、アルミナである。セラミックス部材10は、吸着面10fを有する。吸着面10fは、半導体ウエハWを吸着する側の円形状の面である。
【0016】
ベース部材20は、セラミックス部材10より径が大きい円盤状の部材であり、金属や種々の複合材料により形成されている。ベース部材20を形成する金属としては、Al(アルミニウム)やTi(チタン)、または、それらの合金が用いられることが好ましい。ベース部材20を形成する複合材料としては、炭化ケイ素(SiC)を主成分とする多孔質セラミックスに、アルミニウムを主成分とするアルミニウム合金を溶融して加圧浸透させた複合材料が用いられることが好ましい。複合材料に含まれるアルミニウム合金は、Si(ケイ素)やMg(マグネシウム)を含んでいてもよいし、性質等に影響の無い範囲でその他の元素を含んでいてもよい。
【0017】
ベース部材20の内部には、冷媒流路21が形成されている。冷媒流路21に冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)が流されると、ベース部材20が冷却される。このとき、接着部材30を介したベース部材20とセラミックス部材10との間の伝熱(熱引き)によりセラミックス部材10も冷却され、セラミックス部材10の吸着面10fに吸着された半導体ウエハWも冷却される。
【0018】
接着部材30は、セラミックス部材10とベース部材20との間に配置され、セラミックス部材10とベース部材20とを接着している。セラミックス部材10とベース部材20とは、接着部材30を介して互いに接着された第1部材と第2部材とに相当する。第1部材および第2部材は、接着部材を介して互いに接着された部材を指す場合に用いる。接着部材30は、側鎖の少なくとも一部に芳香族炭化水素基としてフェニル基を備えたシリコーン樹脂を含む。本実施形態では、シリコーン樹脂は、5mol%のフェニル基を含む。また、接着部材30は、アルミナを主成分としたフィラーを含む。主成分とは、体積含有率の最も多い成分のことをいう。
【0019】
静電電極40は、セラミックス部材10の内部に設けられた円盤状の部材であり、タングステンやモリブデン等の導電性材料により形成されている。静電電極40は、図示しない外部電源から電力が供給されることによって、吸着面10fに静電引力を発生させる。半導体ウエハWは、この静電引力で吸着面10fに向けて吸着されることによって、吸着面10fに保持される。
【0020】
ヒータ電極50は、セラミックス部材10の内部に設けられ、タングステンやモリブデン等の導電性材料により形成されている。ヒータ電極50は、図示しない外部電源から電力が供給されることによって発熱する。この発熱によりセラミックス部材10が温められ、セラミックス部材10の吸着面10fに吸着された半導体ウエハWも温められる。
【0021】
図2は、SP値について説明する説明図である。SP値とは、溶解度パラメータであり、物質の親水性又は疎水性を表す指標である。SP値が大きい物質は親水性が高く、SP値が小さい物質は疎水性が高い。図2(A)~(C)の各々に示された両矢印は、接着部材に含まれるシリコーン樹脂およびフィラーについてのSP値の差を示している。詳細には、両矢印のうち、左側の矢頭がより左側に配置されているほど接着部材中のシリコーン樹脂のSP値が小さいことを示しており、右側の矢頭がより右側に配置されているほど接着部材中のフィラーのSP値が大きいことを示している。
【0022】
図2(A)の両矢印のうち、左側の矢頭は、接着部材30に含まれるシリコーン樹脂(側鎖の一部にフェニル基を備えている)のSP値を示しており、右側の矢頭は、接着部材30に含まれるフィラー(アルミナを主成分とする)のSP値を示している。すなわち、図2(A)は、本実施形態の接着部材30に含まれるシリコーン樹脂およびフィラーについてのSP値の差を示している。これに対して、図2(B)(C)は、比較例の接着部材に含まれるシリコーン樹脂およびフィラーについてのSP値の差を示している。詳細には、図2(B)の両矢印のうち、左側の矢頭は、シリコーン樹脂(側鎖にフェニル基を備えていない)のSP値を示しており、右側の矢頭は、フィラー(アルミナを主成分とする)のSP値を示している。図2(C)の両矢印のうち、左側の矢頭は、接着部材30に含まれるシリコーン樹脂(側鎖の一部にフェニル基を備えている)のSP値を示しており、右側の矢頭は、フィラー(窒化アルミニウムを主成分とする)のSP値を示している。図2(A)~(C)に示すように、本実施形態の接着部材30は、比較例の接着部材と比べて、シリコーン樹脂のSP値とフィラーのSP値との差が大きくなっている。このSP値の差が大きいほど、相互の親和性が低く、接着部材における疑似的な架橋点の数は少なくなる。疑似的な架橋点とは、シリコーン樹脂の主鎖同士の相互作用が大きいために、微小な結晶化や絡み合いの発生によって疑似的にシリコーン樹脂内に形成される架橋点のことである。
【0023】
疑似的な架橋点の数が多いと、温度上昇時に減少する疑似的な架橋点の数も増加するため、接着部材の強度の温度依存性が大きくなる傾向にある。その理由について、対象物質の剛性率Gを算出する以下の式(1)を用いて説明する。式(1)中のρは密度、Rは気体定数、Tは絶対温度、Mxは架橋点間の分子量とする。
G=ρRT/Mx…(1)
【0024】
まず、対象物質中に架橋点が多い場合、架橋点間の分子量Mxは減少するため、式(1)に従い、剛性率が上昇する。定性的には、架橋点が多い場合は、剛性率が大きく硬い材料になり、小さいひずみで大きな応力が生じるため、破断時の引張応力が増加する。一方、温度上昇時に対象物質中の疑似的な架橋点の数が減少すると、架橋点間の分子量Mxは増加する。そして、式(1)で表されているように、架橋点間の分子量Mxの増加に伴い、剛性率Gは低下する。対象物質中の疑似的な架橋点の数が多い場合には、その分だけ温度上昇時に減少する疑似的な架橋点の数も増加することから、接着部材の強度の温度依存性が大きくなる。よって、シリコーン樹脂のSP値とフィラーのSP値との差を大きくすることによって接着部材における疑似的な架橋点の数を少なくすると、接着部材の強度の温度依存性は小さくなる。
【0025】
図3は、接着部材の性能を評価した結果を示す説明図である。まず初めに、図3の「材料」に示された各項目について説明する。「シリコーン樹脂」の行における「○」は、接着部材に含まれるシリコーン樹脂に関して、そのシリコーン樹脂の側鎖の一部にフェニル基を備えていることを示し、「シリコーン樹脂」の行における「×」は、そのシリコーン樹脂の側鎖にフェニル基を備えていないことを示している。「フィラー種」の行は、接着部材に含まれるフィラーの種類を示している。フィラーの種類について、Al23はアルミナであり、CBはカーボンブラックであり、AlNは窒化アルミニウムである。「フィラー量」の行は、接着部材全体を100体積部としたときの接着部材に占めるフィラーの体積部のことである。なお、図3に示すように、実施例1,2の接着部材および比較例1~4の接着部材のいずれにおいても、フィラーを44体積部含んでいるとともに、シリコーン樹脂を56体積部含んでいる。「カーボンブラックの重量部」の行は、接着部材に含まれるシリコーン樹脂100重量部に対するカーボンブラックの重量部のことである。実施例1,2の接着部材は、上述した保持部材1を構成する接着部材30に相当し、実施例2の接着部材は、実施例1の接着部材と比べて、フィラーにカーボンブラックが含まれている点のみが異なる。
【0026】
次に、図3の「物性」に示された各項目について説明する。まず初めに「性能評価1」について説明する。「性能評価1」においては、図4に示すように、2枚の板状部材(第1部材201および第2部材202)の各々の一方の端側表面同士を接着部材30G(実施例1,2の接着部材および比較例1~4の接着部材の総称)で接着した試験片TP1を用いる。この試験片TP1を用いて、接着部材30Gをせん断するせん断方向SDに沿って第1部材201と第2部材202とを引っ張っている際の温度を引張時温度(℃)とし、せん断方向SDに沿って第1部材201と第2部材202とを引っ張っている際に接着部材30Gに生じている応力を引張応力(MPa)とする。詳細には、引張応力(MPa)は、試験片TP1を引っ張って破断させた際の荷重(N)を接着面積で除することによって算出される。「性能評価1」では、引張応力(MPa)の値が、引張時温度(℃)を1度上昇させるごとに-0.006MPa以上、かつ、0MPa未満の範囲内で変化するか否かを評価した。すなわち、「性能評価1」の行における「○」は、引張時温度を1度上昇させるごとに-0.006MPa以上、かつ、0MPa未満の範囲内で引張応力(MPa)の値が変化することを示し、「性能評価1」の行における「×」は、引張時温度を1度上昇させるごとに-0.006MPa以上、かつ、0MPa未満の範囲内で引張応力(MPa)の値が変化しないことを示している。詳細は、図5(A)~(D)を用いて説明する。
【0027】
図5(A)~(D)は、試験片TP1を用いて引張応力(MPa)を測定した際の試験結果を示す説明図である。図5(A)~(D)において、横軸は、引張時温度(℃)を示し、縦軸は、引張応力(MPa)を示す。図5(A)~(D)に示す結果は、JISK6850を参考にして、2mm/minの引張速度で接着部材30をせん断するせん断方向に沿って第1部材201と第2部材202とを引っ張った際の結果である。このとき、図5(A)~(D)に示す結果において、第1部材201および第2部材202は、幅12.5mm×長さ100mm×厚さ1mmの板状部材であり、試験片TP1は、第1部材201および第2部材202の各々の一方の端側表面12.5mm×12.5mmを接着した試験片である。ここでの接着条件は、所望の接着特性が得られるよう使用する接着部材に応じて適宜調整し、例えば、第1部材201および第2部材202によって接着部材30を挟んだ状態で、100℃、72時間加熱したのち、更に140℃、10時間加熱することで試験片TP1を作製することができる。また、引張応力(MPa)を測定する測定装置には、公知の引張試験機や強度試験機を用いることができ、例えば、島津製作所(株)製オートグラフAGS―5kNXが挙げられる。
【0028】
図5(A)は、実施例1の接着部材を用いて作製した試験片TP1の引張応力(MPa)を測定した試験結果である。線分La1は、厚さが200μmの実施例1の接着部材によって第1部材201と第2部材202とが接着されている試験片TP1の試験結果を示している。線分La2は、厚さが700μmの実施例1の接着部材によって第1部材201と第2部材202とが接着されている試験片TP1の試験結果を示している。線分La1,La2は、実施例1の接着部材を用いた試験片TP1の引張応力(MPa)を測定した際に得られた複数の測定データから、最小二乗法で求められた回帰直線に相当する。以降の図5(B)~(D)における線分Lb1,Lb2、線分Lcおよび線分Ld1~Ld3も同様である。
【0029】
図5(B)は、比較例1の接着部材を用いて作製した試験片TP1の引張応力(MPa)を測定した試験結果である。線分Lb1は、厚さが200μmの比較例1の接着部材によって第1部材201と第2部材202とが接着されている試験片TP1の試験結果を示している。線分Lb2は、厚さが700μmの比較例1の接着部材によって第1部材201と第2部材202とが接着されている試験片TP1の試験結果を示している。図5(C)は、比較例2の接着部材を用いて作製した試験片TP1の引張応力(MPa)を測定した試験結果である。線分Lcは、厚さが700μmの比較例2の接着部材によって第1部材201と第2部材202とが接着されている試験片TP1の試験結果を示している。
【0030】
図5(D)は、比較例4の接着部材を用いて作製した試験片TP1の引張応力(MPa)を測定した試験結果である。線分Ld1は、厚さが200μmの比較例4の接着部材によって第1部材201と第2部材202とが接着されている試験片TP1の試験結果を示している。線分Ld2は、厚さが300μmの比較例4の接着部材によって第1部材201と第2部材202とが接着されている試験片TP1の試験結果を示している。線分Ld3は、厚さが500μmの比較例4の接着部材によって第1部材201と第2部材202とが接着されている試験片TP1の試験結果を示している。
【0031】
接着部材30Gの厚さが200μmである場合の試験結果を比較したとき、線分La1の傾きは-0.0071であり、線分Lb1の傾きは-0.011であり、線分Ld1の傾きは-0.0086であった。すなわち、実施例1の接着部材は、比較例1の接着部材および比較例4の接着部材と比べて、接着部材の強度の温度依存性が小さくなっている。
【0032】
図5(A)、図5(B)および図5(D)の各線分を求める際に用いた複数の測定データから重回帰分析を行って、実施例1の接着部材、比較例1の接着部材および比較例4の接着部材の引張応力(MPa)に関する予測式を作成した。引張応力(MPa)をTsとし、接着部材の厚みをTh(μm)とし、引張時温度をTe(℃)としたとき、Tsの予測式は以下の通りであった。
実施例1の接着部材:Ts=-0.0015Th-0.0052Te+2.8387
比較例1の接着部材:Ts=-0.0027Th-0.0071Te+3.7062
比較例4の接着部材:Ts=-0.0023Th-0.0073Te+3.7143
【0033】
実施例1の接着部材の予測式に関して、Thの値を一定としたとき、Tsの値は、Teの値が1増加するごとに-0.0052変化する。すなわち、引張応力(MPa)の値は、引張時温度(℃)を1度上昇させるごとに-0.0052Mpa変化する(-0.006MPa以上、かつ、0MPa未満の範囲内で変化する)。一方、比較例1(比較例4)の接着部材の予測式に関しては、Thの値を一定としたとき、Tsの値は、Teの値が1増加するごとに-0.0071(-0.0073)変化する。すなわち、引張応力(MPa)の値は、-0.006MPa以上、かつ、0MPa未満の範囲内で変化しない。このように「性能評価1」は、接着部材の厚み(Th)と引張時温度(Te)とを説明変数とした重回帰分析によって作成された引張応力(Ts)の予測式のうち引張時温度(Te)の係数の値に基づく評価である。すなわち、試験片TP1に含まれる接着部材が異なれば、Tsの予測式において、接着部材の厚み(Th)の係数、引張時温度(Te)の係数および切片の値はいずれも異なり、そのうちの引張時温度(Te)の係数の値に基づいて、「性能評価1」は実施される。
【0034】
例えば、上述した保持部材1(図1)に既に含まれている接着部材30の「性能評価1」を実施する場合、以下の工程で実施する。まず初めに、保持部材1からセラミックス部材10、ベース部材20および接着部材30が含まれている部分を切り出し、その切り出した部分から試験片TP1(図4)を作製する。このときセラミックス部材10およびベース部材20は、試験片TP1における第1部材201および第2部材202に相当する。次に、作製した試験片TP1を用いて、種々の引張時温度(℃)における引張応力(MPa)を測定して複数の測定データを得たのち、その複数の測定データから、接着部材の厚み(Th)と引張時温度(Te)とを説明変数とした重回帰分析によって引張応力(Ts)の予測式を作成する。そして、その予測式のうちの引張時温度(Te)の係数の値に基づいて「性能評価1」を実施する。なお、「性能評価1」を実施する試験片の形状は、試験片TP1の形状に限られず、接着部材30を介して接着された第1部材201と第2部材202とをせん断方向SDに沿って引っ張ることができる形状である限り、任意の形状であってもよい。むろん、接着部材30の厚みについても、任意の厚みであってよい。
【0035】
次に「性能評価2」について説明する。「性能評価2」は、耐熱寿命を測定した際の性能評価である。「性能評価2」では、接着部材30Gを高温下に長時間曝した際に硬化しづらいか否かを評価した。すなわち、「性能評価2」の行における「○」は、高温下に長時間曝した際に硬化しづらいことを示し、「性能評価2」の行における「◎」は、高温下に長時間曝した際により硬化しづらいことを示している。接着部材30Gに硬化が生じると、接着部材30Gのひずみ量が低下する。
【0036】
硬化の指標となるひずみ量は、「性能評価1」と同様に、JISK6850を参考にして、常温で2mm/minの引張速度で接着部材30Gをせん断するせん断方向SDに沿って第1部材201と第2部材202とを引っ張ることで評価できる。せん断ひずみ(%)は、破断時のひずみ量δ(mm)を接着部材30Gの厚み(mm)で除することにより算出する。ひずみ量の評価に用いる試験片は、図5(A)~(D)の結果を得た試験片TP1と同様、幅12.5mm×長さ100mm×厚さ1mmの板状部材である第1部材201および第2部材202の各々の一方の端側表面12.5mm×12.5mmを接着した試験片である。ここでの接着条件は、所望の接着特性が得られるよう使用する接着部材に応じて適宜調整し、例えば、第1部材201および第2部材202によって接着部材30を挟んだ状態で、100℃、72時間加熱したのち、更に140℃、10時間加熱することでひずみ量の評価に用いる試験片を作製することができる。ひずみ量を測定する測定装置には、公知の引張試験機や強度試験機を用いることができ、例えば、島津製作所(株)製オートグラフAGS―5kNXが挙げられる。
【0037】
「性能評価2」は、上述の手順で作製した試験片を用いて、加熱前後の試験片におけるせん断ひずみの変化率を調べることで評価できる。ここで、加熱後の試験片とは、180℃で加熱時間3000時間加熱した後の試験片のこととする。加熱前(常温)における試験片のせん断ひずみをγ0とし、加熱後の試験片のせん断ひずみをγ1とし、(γ1-γ0)/γ0をせん断ひずみの変化率としたとき、変化率の値が-0.2以上、かつ、0.2未満の値であるときに性能評価を「◎」とし、変化率の値が-0.5以上、かつ、-0.2未満の値であるとき、もしくは、0.2以上、かつ、0.5未満の値であるときに性能評価を「〇」とした。なお、変化率の値が-0.5未満の値、もしくは、0.5以上の値であるときは性能評価を「×」とする。
【0038】
例えば、上述した保持部材1(図1)に既に含まれている接着部材30の「性能評価2」を実施する場合、以下の工程で実施する。まず初めに、保持部材1からセラミックス部材10、ベース部材20および接着部材30が含まれている部分を切り出し、その切り出した部分から上述の手順で作製した試験片を作製する。ひずみ量を評価する前に、切り出した試験片における接着部材30の厚みを測定する。測定後の試験片を用いて、「性能評価2」を実施することができる。なお、「性能評価2」を実施する試験片の形状は、上述の手順で作製した試験片の形状に限られず、接着部材30を介して接着された第1部材201と第2部材202とをせん断方向SDに沿って引っ張ることができる形状である限り、任意の形状であってもよい。また、「性能評価2」に適用する試験片を切り出す元となる保持部材1(静電チャック)は、新品に限らず、使用開始からある程度の期間を経過していてもよい。いずれの保持部材1であっても入手時点を加熱前の状態であるとし、その時点から180℃で3000時間加熱してγ1の値を取得することでせん断ひずみの変化率を確認することができる。
【0039】
図3に示すように、実施例1,2の接着部材および比較例1~4の接着部材の各々を評価した結果、「性能評価1」が「○」であったのは、実施例1,2の接着部材のみであった。実施例1,2の接着部材(上述した保持部材1を構成する接着部材30に相当)において、「性能評価1」が「○」であった要因は、いずれの接着部材においても、側鎖の一部に芳香族炭化水素基としてフェニル基(5mol%)を備えたシリコーン樹脂と、アルミナを主成分としたフィラーと、が含まれていたためと考えられる。
【0040】
また、図3に示すように、「性能評価2」のうち「◎」であったのは、実施例2の接着部材および比較例2の接着部材のみであった。これらの接着部材において「性能評価2」が「◎」であった要因は、いずれの接着部材においても、フィラーには、カーボンブラックが含まれていたためと考えられる。詳細には、これら接着部材においては、フィラーには、シリコーン樹脂100重量部に対して、5重量部のカーボンブラックが含まれていた。
【0041】
以上説明した実施形態の保持部材1が備える接着部材30(実施例1,2の接着部材)では、引張時温度(℃)を1度上昇させるごとに-0.006MPa以上、かつ、0MPa未満の範囲内で引張応力(MPa)の値が変化する。すなわち、接着部材30の強度の温度依存性が小さくなっているため、高温下で保持部材1が使用される状況であっても接着部材30の強度が低下しにくいことから、高温下においても使用可能な保持部材1を提供することができる。
【0042】
また、保持部材1が備える接着部材30(実施例1,2の接着部材)は、側鎖の一部に芳香族炭化水素基としてフェニル基を備えたシリコーン樹脂を含む。このため、芳香族炭化水素基の立体障害の影響でシリコーン樹脂の主鎖における微小な結晶化や絡み合いの発生が少なくなり、接着部材30中に存在する疑似的な架橋点の数を少なくすることができる。その結果、温度上昇時に減少する疑似的な架橋点の数も少なくすることができるため、接着部材30の強度の温度依存性を小さくすることができる。また、接着部材30に含まれるシリコーン樹脂の側鎖の一部に芳香族炭化水素基(5mol%のフェニル基)が備えられているため、シリコーン樹脂の疎水性は高くなっているとともに、接着部材30に含まれるフィラーの主成分は親水性の高いアルミナである(図2(A)参照)。そのため、シリコーン樹脂のSP値とフィラーのSP値との差は大きくなり、SP値の差が大きいほど、シリコーン樹脂とフィラーとの親和性が低下し、接着部材30における疑似的な架橋点の数は少なくなることから、接着部材30の強度の温度依存性を小さくすることができる。
【0043】
また、図3の実施例2の接着部材で示されたように、接着部材30中のフィラーにカーボンブラックが含まれる場合には、高温下に保持部材1を長時間曝しても、接着部材30の硬化や接着部材30の弾性率上昇を抑制することができる。したがって、高温下においても接着部材30の材質が大きく変化することなく使用可能な保持部材1を提供することができる。なお、シリコーン樹脂100重量部に対して、2重量部以上、かつ、15重量部以下のカーボンブラックが含まれているのが好ましいことが実験にて確認された。
【0044】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0045】
上記実施形態では、接着部材30中のシリコーン樹脂は、5mol%のフェニル基を含んでいたが、これに限られない。シリコーン樹脂に含まれるフェニル基の割合は、任意の割合が含まれていればよく、3mol%以上、かつ、16mol%以下の範囲内の値であるのが好ましい。また、上記実施形態では、接着部材30中のシリコーン樹脂は、その側鎖の少なくとも一部にフェニル基を備えていたが、これに限られない。例えば、シリコーン樹脂の側鎖には、フェニル基に代えて、もしくは、フェニル基に加えて、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基が備えられていてもよい。むろん、シリコーン樹脂の側鎖には、少なくともフェニル基が備えられている方が好ましい。
【0046】
上記実施形態では、接着部材30中のフィラーには、カーボンブラックが含まれていたが、これに限られない。例えば、フィラーには、カーボンブラックに代えて、もしくは、カーボンブラックに加えて、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、及びグラフェン等の炭素粉末が含まれていてもよい。むろん、フィラーには、少なくともカーボンブラックが含まれている方が好ましい。
【0047】
上記実施形態では、接着部材30には、シリコーン樹脂およびフィラーが含まれていたが、これに限られない。接着部材30には、シリコーン樹脂およびフィラーに加えて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分として、例えば、充填材、反応抑制剤、粘度調整剤等が挙げられる。
【0048】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0049】
本発明は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
保持部材であって、
第1部材と、
第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを接着する接着部材と、を備え、
前記接着部材をせん断するせん断方向に沿って前記第1部材と前記第2部材とを引っ張っている際の温度を引張時温度(℃)とし、前記せん断方向に沿って前記第1部材と前記第2部材とを引っ張っている際に前記接着部材に生じている応力を引張応力(MPa)としたとき、前記引張応力(MPa)の値は、前記引張時温度(℃)を1度上昇させるごとに-0.006MPa以上、かつ、0MPa未満の範囲内で変化することを特徴とする、保持部材。
[適用例2]
適用例1に記載の保持部材であって、
前記接着部材は、側鎖の少なくとも一部に芳香族炭化水素基を備えたシリコーン樹脂を含むことを特徴とする、保持部材。
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の保持部材であって、
前記接着部材は、アルミナを主成分としたフィラーを含むことを特徴とする、保持部材。
[適用例4]
適用例1から適用例3までのいずれかに記載の保持部材であって、
前記接着部材は、シリコーン樹脂と、フィラーと、を含み、
前記フィラーには、前記シリコーン樹脂100重量部に対して、2重量部以上、かつ、15重量部以下のカーボンブラックが含まれていることを特徴とする、保持部材。
【符号の説明】
【0050】
1…保持部材
10…セラミックス部材
10f…吸着面
20…ベース部材
21…冷媒流路
30,30G…接着部材
40…静電電極
50…ヒータ電極
201,301…第1部材
202,302…第2部材
【要約】
【課題】接着部材の強度の温度依存性が小さい保持部材を提供する。
【解決手段】保持部材であって、第1部材と、第2部材と、第1部材と第2部材とを接着する接着部材と、を備え、接着部材をせん断するせん断方向に沿って第1部材と第2部材とを引っ張っている際の温度を引張時温度(℃)とし、せん断方向に沿って第1部材と第2部材とを引っ張っている際に接着部材に生じている応力を引張応力(MPa)としたとき、引張応力(MPa)の値は、引張時温度(℃)を1度上昇させるごとに-0.006MPa以上、かつ、0MPa未満の範囲内で変化することを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5