(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】乳由来成分入りコーヒー、アロマが凝縮されたコーヒー抽出物、及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23F 5/24 20060101AFI20241210BHJP
A23F 5/26 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
A23F5/24
A23F5/26
(21)【出願番号】P 2024042560
(22)【出願日】2024-03-18
(62)【分割の表示】P 2023091265の分割
【原出願日】2023-06-02
【審査請求日】2024-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2022159776
(32)【優先日】2022-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 拓也
(72)【発明者】
【氏名】畠山 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉原 大翔
(72)【発明者】
【氏名】秋山 正行
(72)【発明者】
【氏名】藤田 篤茂
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-000077(JP,A)
【文献】特表2015-535433(JP,A)
【文献】特開2012-105642(JP,A)
【文献】特開2007-116981(JP,A)
【文献】特開2006-288502(JP,A)
【文献】特開2009-296954(JP,A)
【文献】特表2018-502560(JP,A)
【文献】特表2003-507047(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111748413(CN,A)
【文献】IKEDA, M et al.,Effects of Processing Conditions During Manufacture on Retronasal-Aroma Compounds from a Milk Coffee,Journal of Food Science,2018年,Vol.83, No.3,pp.605-616
【文献】AKIYAMA, M et al.,Analysis of freshly brewed Espresso Using a Retronasal Aroma Simulator and Influence of Milk Additio,Food Science and Technology Research,2009年,Vol.15, No.3,pp.233-244
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎粉砕したコーヒー豆と水蒸気とを接触させ、得られた前記コーヒー豆由来の香気成分を含む水蒸気を15℃以下に冷却してアロマ凝縮液を取得する、アロマ凝縮液取得工程と、
前記アロマ凝縮液取得工程を経た前記焙煎粉砕したコーヒー豆と水とを接触させ、コーヒー抽出物を得る、コーヒー抽出物取得工程と、
前記アロマ凝縮液と、前記コーヒー抽出物と、乳由来成分と、を混合して、乳由来成分入りコーヒーを得る混合工程と、を含み、
前記乳由来成分入りコーヒー中の乳固形分が、重量百分率で3.0%以上であり、
前記アロマ凝縮液取得工程において、前記焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対する前記アロマ凝縮液の質量の百分率が、8~28質量%となるようにアロマ凝縮液を取得する、乳由来成分入りコーヒーの製造方法。
【請求項2】
焙煎粉砕したコーヒー豆と水蒸気とを接触させ、得られた前記コーヒー豆由来の香気成分を含む水蒸気を15℃以下に冷却してアロマ凝縮液を取得する、アロマ凝縮液取得工程と、
前記アロマ凝縮液取得工程を経た前記焙煎粉砕したコーヒー豆と水とを接触させ、コーヒー抽出物を得る、コーヒー抽出物取得工程と、
前記アロマ凝縮液と、前記コーヒー抽出物と、乳由来成分と、を混合して、乳由来成分入りコーヒーを得る混合工程と、を含み、
前記アロマ凝縮液取得工程において、前記焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対する前記アロマ凝縮液の質量の百分率が、8~28質量%となるようにアロマ凝縮液を取得し、
前記混合工程において、乳由来成分入りコーヒー中の乳脂肪分の含有量に対する前記アロマ凝縮液の含有量が10質量%以上55質量%以下となるように、前記乳由来成分を添加する、乳由来成分入りコーヒーの製造方法。
【請求項3】
前記混合工程において、乳由来成分入りコーヒー中の無脂乳固形分の含有量に対する前記アロマ凝縮液の含有量が4.3質量%以上25.6質量%以下となるように、前記乳由来成分を添加する、請求項1又は2に記載の乳由来成分入りコーヒーの製造方法。
【請求項4】
前記乳由来成分入りコーヒーが、コーヒー香料を含まない、請求項1又は2に記載の乳由来成分入りコーヒーの製造方法。
【請求項5】
前記混合工程は、
前記アロマ凝縮液と前記コーヒー抽出物を混合して、アロマ凝縮コーヒー抽出物を得る第1混合工程と、
前記アロマ凝縮コーヒー抽出物と、前記乳由来成分を混合して、乳由来成分入りコーヒーを得る第2混合工程と、
を含む、請求項1又は2に記載の乳由来成分入りコーヒーの製造方法。
【請求項6】
前記アロマ凝縮液取得工程、及び、前記コーヒー抽出物取得工程を、それぞれ1回ずつ行い、かつ、すべての工程を連続して行う、請求項1又は2に記載の乳由来成分入りコーヒーの製造方法。
【請求項7】
乳由来成分入りコーヒーの製造に用いるためのアロマ凝縮液の製造方法であって、
焙煎粉砕したコーヒー豆と水蒸気とを接触させ、得られた前記コーヒー豆由来の香気成分を含む水蒸気を15℃以下に冷却してアロマ凝縮液を取得する、アロマ凝縮液取得工程を含み、
前記アロマ凝縮液は、前記焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対する前記アロマ凝縮液の質量の百分率が、8~28質量%となるようにアロマ凝縮液を取得し、
前記乳由来成分入りコーヒーは、前記乳由来成分入りコーヒー中の乳固形分が、重量百分率で3%以上である、アロマ凝縮液の製造方法。
【請求項8】
乳由来成分入りコーヒーの製造に用いるためのアロマ凝縮コーヒー抽出物の製造方法であって、
請求項
7に記載の方法によりアロマ凝縮液を取得する、アロマ凝縮液取得工程と、
前記アロマ凝縮液取得工程を経た前記焙煎粉砕したコーヒー豆と水とを接触させ、コーヒー抽出物を得る、コーヒー抽出物取得工程と、
前記アロマ凝縮液と、前記コーヒー抽出物とを混合してアロマ凝縮コーヒー抽出物を取得する工程と、を含む、アロマ凝縮コーヒー抽出物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳由来成分入りコーヒー及びその製造方法に関する。
また本発明は、コーヒー豆由来の香気成分が凝縮された凝縮液及びこれを含むコーヒー抽出物並びにこれらの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、香りや風味に優れたコーヒー抽出物を得る方法が、種々検討されてきた。
例えば特許文献1には、焙煎粉砕したコーヒー豆を温水で浸漬もしくは湿潤させ、これを水蒸気抽出した抽出液と、水蒸気抽出後の抽出残渣を温水抽出した抽出液を混合してコーヒーエキスを得る方法が記載されている。当該方法によれば、殺菌工程後にも優れた香り、風味、味を有するコーヒーエキスを製造することができることが記載されている。
また特許文献2には、コーヒーフレーバーを含む凝縮水から、香気成分に富んだ酸味の少ないフラクションを利用する、酸味が抑制されたコーヒーフレーバーの調製方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-116981号公報
【文献】特開平2-203750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところでコーヒーは、乳由来成分や糖類を添加しないいわゆるブラックコーヒーの他、乳由来成分とコーヒー抽出物を混合した、カフェオレ等の乳由来成分入りコーヒーも人気である。
しかし、焙煎粉砕したコーヒー豆から得られるコーヒー抽出物と、乳由来成分とを単純に混合して得られる乳由来成分入りコーヒーは、乳由来成分の風味にコーヒー抽出物の風味が負けてしまい、コーヒーらしい香りや呈味が感じられにくいという問題があった。
特許文献1に記載された発明や特許文献2に記載された発明は、コーヒー抽出物やコーヒーフレーバーとしての香りや呈味を改善するための発明であるが、乳由来成分と混合するのに適した香りや呈味については、検討されていなかった。
【0005】
コーヒーらしい香りや呈味を補うため、乳由来成分入りコーヒーに対し、コーヒー香料を使用することが通常行われている。
しかし、コーヒー香料を使用すると少なからず人工的な呈味となるから、可能な限り使用しないことが好ましい。
【0006】
上記に鑑み、本発明は、コーヒーらしい香りや呈味を感じる、乳由来成分入りコーヒー及びその製造方法を提供することを、第1の課題とする。
また本発明は、乳由来成分入りコーヒーにコーヒーらしい香りや呈味を付与することができる、コーヒー豆由来の香気成分(以下、アロマともいう)が凝縮されたアロマ凝縮液及びアロマが凝縮されたコーヒー抽出物及びこれらの製造方法を提供することを、第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記第1の課題を解決する本発明は、焙煎粉砕したコーヒー豆と水蒸気とを接触させ、得られた前記コーヒー豆由来の香気成分を含む水蒸気を冷却してアロマ凝縮液を取得する、アロマ凝縮液取得工程と、前記アロマ凝縮液取得工程を経た前記焙煎粉砕したコーヒー豆と水とを接触させ、コーヒー抽出物を得る、コーヒー抽出物取得工程と、前記アロマ凝縮液と、前記コーヒー抽出物と、乳由来成分と、を混合して、乳由来成分入りコーヒーを得る混合工程と、を含み、前記アロマ凝縮液取得工程において、前記焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対する前記アロマ凝縮液の質量の百分率が、5質量%を超え、30質量%未満となるようにアロマ凝縮液を取得する、乳由来成分入りコーヒーの製造方法である。
本発明によれば、コーヒーらしい香りや呈味を感じる、乳由来成分入りコーヒーを製造することができる。
【0008】
本発明の好ましい形態では、前記混合工程は、前記アロマ凝縮液と前記コーヒー抽出物を混合して、アロマ凝縮コーヒー抽出物を得る第1混合工程と、前記アロマ凝縮コーヒー抽出物と、前記乳由来成分を混合して、乳由来成分入りコーヒーを得る第2混合工程と、を含む。
本発明によれば、コーヒーらしい香りや呈味を感じる、乳由来成分入りコーヒーを製造することができる。
【0009】
本発明の好ましい形態では、前記混合工程において、前記乳由来成分入りコーヒー中の無脂乳固形分の含有量に対する前記アロマ凝縮液の含有量が1~50質量%となるように、前記乳由来成分を添加する。
本発明によれば、コーヒーらしい香りや呈味を感じ、乳由来成分の風味とコーヒー抽出物由来の風味のバランスが取れた、乳由来成分入りコーヒーを製造することができる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、すべての工程を連続して行う。
本発明の別の好ましい形態では、前記アロマ凝縮液取得工程、及び、前記コーヒー抽出物取得工程を、それぞれ1回ずつ行う。
本発明によれば、コーヒーらしい香りや呈味を感じる乳由来成分入りコーヒーを、効率的に製造することができる。
【0011】
上記第1の課題を解決する本発明は、焙煎粉砕したコーヒー豆と水蒸気とを接触させ、得られた前記コーヒー豆由来の香気成分を含む水蒸気を冷却してアロマ凝縮液を取得する、アロマ凝縮液取得工程と、前記アロマ凝縮液取得工程を経た前記焙煎粉砕したコーヒー豆と水とを接触させ、コーヒー抽出物を得る、コーヒー抽出物取得工程と、前記アロマ凝縮液と、前記コーヒー抽出物と、乳由来成分と、を混合して、乳由来成分入りコーヒーを得る混合工程と、を含み、前記アロマ凝縮液は、ピラジン類から選ばれる第1香気成分を含み、かつ以下の条件を満たす、乳由来成分入りコーヒーの製造方法である;
〔条件〕
前記焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量が5%の時点における前記第1香気成分のGCピーク面積の測定値をx
1、前記アロマ凝縮液取得工程完了時点における、前記焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率をy(%)、前記アロマ凝縮液取得工程完了時点における、前記アロマ凝縮液における前記第1香気成分のGCピーク面積の測定値をz
1としたときに、下記式(1)を満たす。
【数1】
【0012】
本発明によれば、コーヒーらしい香りや呈味を感じる乳由来成分入りコーヒーを製造することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記第1香気成分が、ピラジン、2,5-ジメチルピラジン、2-エチル-5-メチルピラジン、及び2-エチル-3-メチルピラジンから選ばれる1以上の成分である。
本発明によれば、コーヒーらしい香りや呈味を感じる乳由来成分入りコーヒーを製造することができる。
【0014】
上記第1の課題を解決する本発明は、乳由来成分入りコーヒーであって、前記乳由来成分入りコーヒーは、ピラジン類から選ばれる第1香気成分と、2-ブタノン、ピロール、2-フルフリルチオール及びリモネンから選ばれる1以上の成分である第2香気成分を含み、前記ピラジン類から選ばれる第1香気成分は、ピラジン、2,5-ジメチルピラジン、2-エチル-5-メチルピラジン、及び2-エチル-3-メチルピラジンから選ばれる1以上の成分であり、前記第1香気成分のGCピーク面積を1としたときの、前記第2香気成分のGCピーク面積が0.01~5であり、コーヒー香料を含まない、乳由来成分入りコーヒーである。
上記構成とすることにより、コーヒー香料を使用しなくても、コーヒーらしい香りや呈味を感じる乳由来成分入りコーヒーとすることができる。
【0015】
上記第2の課題を解決する本発明は、焙煎粉砕したコーヒー豆と水蒸気とを接触させ、得られた前記コーヒー豆由来の香気成分を含む水蒸気を冷却してアロマ凝縮液を取得する、アロマ凝縮液取得工程を含み、前記アロマ凝縮液は、前記焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対する前記アロマ凝縮液の質量の百分率が、5質量%を超え、30質量%未満となるようにアロマ凝縮液を取得する、アロマ凝縮液の製造方法である。
本発明によれば、コーヒー豆由来の香気成分が凝縮されたアロマ凝縮液を製造することができる。このアロマ凝縮液は、コーヒーらしい香りや呈味を感じる乳由来成分入りコーヒーを製造することができる。
【0016】
上記第2の課題を解決する本発明は、上記方法によりアロマ凝縮液を取得する、アロマ凝縮液取得工程と、前記アロマ凝縮液取得工程を経た前記焙煎粉砕したコーヒー豆と水とを接触させ、コーヒー抽出物を得る、コーヒー抽出物取得工程と、前記アロマ凝縮液と、前記コーヒー抽出物とを混合してアロマ凝縮コーヒー抽出物を取得する工程と、を含む、アロマ凝縮コーヒー抽出物の製造方法である。
本発明によれば、コーヒー豆由来のアロマが凝縮された、アロマ凝縮コーヒー抽出物を製造することができる。このアロマ凝縮コーヒー抽出物は、コーヒーらしい香りや呈味を乳由来成分入りコーヒーを調整することができる。
【0017】
上記第2の課題を解決する本発明は、アロマ凝縮液であって、前記アロマ凝縮液は、ピラジン類から選ばれる第1香気成分と、2-ブタノン、ピロール、2-フルフリルチオール及びリモネンから選ばれる1以上の成分である第2香気成分を含み、前記ピラジン類から選ばれる第1香気成分は、ピラジン、2,5-ジメチルピラジン、2-エチル-5-メチルピラジン、及び2-エチル-3-メチルピラジンから選ばれる1以上の成分であり、前記第1香気成分のGCピーク面積を1としたときの、前記第2香気成分のGCピーク面積が0.01~5である、アロマ凝縮液である。
上記構成とすることにより、コーヒー香料の使用量を低減するか又はコーヒー香料を使用しなくても、コーヒーらしい香りや呈味を感じる乳由来成分入りコーヒーを製造することができるアロマ凝縮液とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、コーヒーらしい香りや呈味を感じる、乳由来成分入りコーヒー及びその製造方法を提供することができる。
また本発明によれば、乳由来成分入りコーヒーにコーヒーらしい香りや呈味を付与することができるアロマ凝縮液及び、アロマが凝縮されたコーヒー抽出物及びこれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例において、評価観点毎の平均点を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において数値範囲の間に記載される「~」はその数値範囲の上限値、下限値を含む。
1.乳由来成分入りコーヒー及びその製造方法
本発明に係る乳由来成分入りコーヒーは、以下で説明する第1の製造方法又は第2の方法で製造する。
【0021】
<第1の製造方法>
本発明に係る第1の製造方法は、アロマ凝縮液取得工程と、コーヒー抽出物取得工程と、混合工程を含む。
本明細書において「乳由来成分入りコーヒー」とは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令において「乳飲料」と定義される、重量百分率で乳固形分3.0%以上含有する飲料であってよい。
また本明細書において、「乳由来成分入りコーヒー」とは、コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約及び施行規則において「コーヒー」と定義される、内容量100グラム中にコーヒー生豆換算で5グラム以上のコーヒー豆から抽出又は溶出したコーヒー分を含むものであってよい。
また本明細書において、「乳由来成分入りコーヒー」とは、コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約及び施行規則において「コーヒー飲料」と定義される、内容量100グラム中にコーヒー生豆換算で2.5グラム以上5グラム未満のコーヒー豆から抽出又は溶出したコーヒー分を含むものであってよい。
以下、各工程について説明する。
【0022】
アロマ凝縮液取得工程は、焙煎粉砕したコーヒー豆と水蒸気とを接触させ、得られたコーヒー豆由来の香気成分を含む水蒸気を冷却してアロマ凝縮液を取得する工程である。
すなわち、本明細書において「アロマ凝縮液」とは、焙煎粉砕したコーヒー豆と水蒸気とを接触させ、得られたコーヒー豆由来の香気成分を含む水蒸気を冷却して得られた液体であり、コーヒー豆由来の香気成分を豊富に含むものである。
【0023】
コーヒー豆の種類は特に限定されず、アラビカ種、カネフォラ種、リベリカ種の何れを用いてもよく、又は複数の種を混合して用いてもよい。産地も特に限定されない。
焙煎度合いも特に限定されず、浅煎り、中煎り、深煎りの何れでもよい。また粉砕状態も特に限定されず、粗挽き、中挽き、中細挽き、細挽き、又は極細挽きの何れでもよい。
【0024】
得られたコーヒー豆由来の香気成分を含む水蒸気を冷却する冷却温度は、特に制限されないが、例えば40℃以下が好ましく、好ましくは35℃以下であり、好ましくは30℃以下であり、好ましくは25℃以下であり、好ましくは20℃以下であり、好ましくは15℃以下であり、より好ましくは10℃以下である。
【0025】
第1の製造方法において、アロマ凝縮液取得工程では、焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率(以下、単に「回収率」ともいう。)が、5質量%を超え、30質量%未満となるようにアロマ凝縮液を取得する。
ここで、「焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率(回収率)」は、以下のように求める。
焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率(回収率)
=(アロマ凝縮液の回収量/焙煎粉砕したコーヒー豆の質量)×100
ただし、アロマ凝縮液の回収量とは、焙煎粉砕したコーヒー豆と接触させた水蒸気を冷却して得られるアロマ凝縮液の質量であり、焙煎粉砕したコーヒー豆から回収された香気成分と水蒸気の合計の質量である。
アロマ凝縮液の回収量は、冷却後に得られるアロマ凝縮液の質量を測定することで得られる値である。
【0026】
焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率は、好ましくは6質量%以上であり、より好ましくは7質量%以上であり、より好ましくは8質量%以上であり、より好ましくは9質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは11質量%以上であり、より好ましくは12質量%以上であり、より好ましくは13質量%以上であり、より好ましくは14質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上である。
焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率は、好ましくは29質量%以下であり、より好ましくは28質量%以下であり、より好ましくは27質量%以下であり、より好ましくは26質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下である。
焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率は、好ましくは6~29質量%であり、より好ましくは7~29質量%であり、より好ましくは8~28質量%であり、より好ましくは9~27質量%であり、より好ましくは10~26質量%であり、より好ましくは11~25質量%であり、より好ましくは12~25質量%であり、より好ましくは13~25質量%であり、より好ましくは14~25質量%であり、より好ましくは15~25質量%である。
【0027】
本発明者らは鋭意研究の結果、焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率(回収率)が、上記数値範囲内にあるように取得されたアロマ凝縮液は、乳由来成分入りコーヒーに対し、乳由来成分の風味に負けない、コーヒーらしい香りや呈味を付与できることを見出した。
したがって、本発明によれば、乳由来成分の風味に負けないコーヒーらしい香りや呈味を感じることができる乳由来成分入りコーヒーを製造することができる。
【0028】
コーヒー抽出物取得工程は、上記アロマ凝縮液取得工程を経た焙煎粉砕したコーヒー豆と水とを接触させ、コーヒー抽出物を得る工程である。
本工程では、アロマ凝縮液取得工程では取得されなかったコーヒー豆由来の苦み成分や酸味成分等を取得することができる。よって、アロマ凝縮液取得工程とコーヒー抽出物取得工程を経ることにより、コーヒー豆由来の成分を余すことなく抽出できるため、乳由来成分の風味に負けないコーヒーらしい香りや呈味を感じる乳由来成分入りコーヒーを製造することができる。
【0029】
アロマ凝縮液取得工程を経た焙煎粉砕したコーヒー豆と接触させる水の温度は、特に制限されないが、抽出効率の観点からは、好ましくは60℃以上であり、より好ましくは65℃以上であり、さらに好ましくは75℃以上であり、さらにより好ましくは80℃以上であり、さらにより好ましくは85℃以上であり、さらにより好ましくは90℃以上であり、さらにより好ましくは95℃以上であり、さらにより好ましくは100℃以上である。
また、アロマ凝縮液取得工程を経た焙煎粉砕したコーヒー豆と水との接触形態は特に制限されない。例えば、アロマ凝縮液取得工程を経た焙煎粉砕したコーヒー豆を、あらかじめ所定温度まで加温した水に浸漬させることにより、焙煎粉砕したコーヒー豆と水とを接触させることができる。
また例えば、アロマ凝縮液取得工程を経た焙煎粉砕したコーヒー豆に、あらかじめ所定温度まで加温した水を通液させることにより、焙煎粉砕したコーヒー豆と水とを接触させることができる。
【0030】
混合工程は、上記アロマ凝縮液と、上記コーヒー抽出物と、乳由来成分とを混合して、乳由来成分入りコーヒーを得る工程である。
本発明において、「乳由来成分」とは、乳(好ましくは牛乳)又はこれから製造される各種原料をいう。乳由来成分の例としては、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和二十六年十二月二十七日厚生省令第五十二号)に規定される「乳」、「乳製品」等を例示することができる。乳由来成分としては、具体的には、乳、クリーム、全粉乳、脱脂粉乳(スキムミルク)、バター、バターオイル、チーズ、練乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳等を例示することができるが、これらに限定されない。
本発明において、乳由来成分として上記を1種以上選択して用いることが可能である。
【0031】
本発明の好ましい形態では、混合工程は、アロマ凝縮液とコーヒー抽出物を混合して、アロマ凝縮コーヒー抽出物を得る第1混合工程と、得られたアロマ凝縮コーヒー抽出物と、乳由来成分を混合して、乳由来成分入りコーヒーを得る第2混合工程と、を含む。
【0032】
本発明の別の好ましい形態では、混合工程において、乳由来成分入りコーヒー中の無脂乳固形分の含有量に対する前記アロマ凝縮液の含有量(質量%)は1質量%以上となるように乳由来成分を添加する形態であってよく、より好ましくは2質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは4質量%以上であり、より好ましくは4.3質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは6質量%以上であり、より好ましくは7質量%以上であり、より好ましくは8質量%以上であり、より好ましくは8.5質量%以上である。
乳由来成分入りコーヒー中の無脂乳固形分の含有量に対する前記アロマ凝縮液の含有量(質量%)は好ましくは50質量%以下であってよく、45質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることが好ましく、28質量%以下であることが好ましく、26質量%以下であることが好ましく、25.6質量%以下であることが好ましく、23質量%以下であることが好ましく、22質量%以下であることが好ましく、21.3質量%以下であることが好ましい。
乳由来成分入りコーヒー中の無脂乳固形分の含有量に対する前記アロマ凝縮液の含有量(質量%)は1~50質量%が好ましく、より好ましくは2~45質量%であり、より好ましくは3~40質量%であり、より好ましくは4~35質量%であり、より好ましくは4.3~30質量%であり、より好ましくは5~28質量%であり、より好ましくは6~26質量%であり、より好ましくは7~25.6質量%であり、より好ましくは8~23質量%であり、より好ましくは8.5~22質量%であり、より好ましくは8.5~21.3質量%である。
本発明によれば、乳由来成分の風味と、コーヒーらしい香りや呈味とのバランスがよい、嗜好性の高い乳由来成分入りコーヒーとすることができる。
【0033】
本発明の別の好ましい形態では、混合工程において、乳由来成分入りコーヒー中の乳脂肪分の含有量に対する前記アロマ凝縮液の含有量(質量%)は6質量%以上となるように乳由来成分を添加する形態であってよく、より好ましくは8質量%以上であり、より好ましくは9質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは19質量%以上であり、より好ましくは19.5質量%以上である。
乳由来成分入りコーヒー中の乳脂肪分の含有量に対する前記アロマ凝縮液の含有量(質量%)は60質量%以下となるように乳由来成分を添加する形態であってよく、より好ましくは59質量%以下であり、より好ましくは58質量%以下であり、より好ましくは55質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは49.5質量%以下である。
乳由来成分入りコーヒー中の乳脂肪分の含有量に対する前記アロマ凝縮液の含有量(質量%)は6~60質量%が好ましく、8~60質量%が好ましく、より好ましくは9~59質量%であり、より好ましくは10~58質量%であり、より好ましくは15~55質量%であり、より好ましくは19~50質量%であり、より好ましくは19.5~50質量%であり、より好ましくは19.5~49.5質量%以下である。
【0034】
また本発明の製造方法においては、アロマ凝縮液取得工程を経ていない焙煎粉砕したコーヒー豆と水とを接触させて得られるコーヒー抽出物を、別途取得し、これを混合工程において混合してもよい。
換言すれば、混合工程においては、アロマ凝縮液と、アロマ凝縮液取得工程を経た焙煎粉砕したコーヒー豆と水とを接触させて得られるコーヒー抽出物と、乳由来成分に加えて、アロマ凝縮液取得工程を経ていない焙煎粉砕したコーヒー豆と水とを接触させて得られるコーヒー抽出物をさらに混合してもよい。
また好ましくは、アロマ凝縮液取得工程を経ていない焙煎粉砕したコーヒー豆と水とを接触させて得られるコーヒー抽出は、上記第1混合工程において混合される。
【0035】
本発明の別の好ましい形態では、すべての工程を連続して行う。
本発明によれば、効率的に乳由来成分入りコーヒーを製造することができる。
【0036】
本発明の別の好ましい形態では、上記アロマ凝縮液取得工程及び上記コーヒー抽出物取得工程を、それぞれ1回ずつ行う。
本発明によれば、効率的に乳由来成分入りコーヒーを製造することができる。
【0037】
焙煎粉砕したコーヒー豆と水蒸気との接触及び冷却、焙煎粉砕したコーヒー豆と水との接触、並びに混合工程は、適宜公知の機器を使用して行うことができる。使用可能な機器については、実施例において例示するが、これらに限定されない。
また本発明に係る乳由来成分入りコーヒーの製造方法は、上記した工程以外の任意の工程を含むことができる。任意の工程としては例えば、任意成分を添加する工程や、乳由来成分入りコーヒーを容器詰めする充填工程、容器詰めした乳由来成分入りコーヒーを殺菌、必要に応じて冷却する殺菌工程等を挙げることができるが、これらに限定されない。
なお任意成分については、例えば乳化剤、pH調整剤、保存料、コーヒー香料以外の香料を挙げることができるが、これらに限定されない。
なお本発明において、「コーヒー香料」とは、被添加食品に主としてコーヒーの風味や香りを付与する香料であって、成分表示上「香料」又は「コーヒー香料」と記載されるものを指し、天然香料及び合成香料が含まれる。
【0038】
本発明の別の好ましい形態では、さらに加熱殺菌工程を含んでいてもよい。
加熱殺菌工程のタイミングは特に限定されず、アロマ凝縮液、コーヒー抽出物、乳由来成分を混合する混合工程の前に行ってもよく、混合工程の後に乳由来成分入りコーヒーを加熱殺菌してもよい。
本発明においては、混合工程の後に、得られた乳由来成分入りコーヒーを加熱殺菌することが好ましい。
加熱殺菌工程は、公知の装置及び公知の方法を使用することができる。加熱殺菌とは、乳等省令で規定される牛乳の殺菌方法に準じて、「62~65℃の間の温度で30分間加熱殺菌するか、又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法」で加熱することを意味する。殺菌条件は、原料組成物の特性、使用する殺菌機(殺菌方式)及び容器等に応じて適宜設定することができる。
例えばUHT殺菌の場合、120~150℃で1~120秒間程度、好ましくは130~145℃で2~30秒間程度の条件である。
【0039】
本発明の別の好ましい形態では、さらに得られた乳由来成分入りコーヒーを容器に充填する工程を含んでいてもよい。充填は、無菌的な環境下で行うことが好ましい。容器形態は特に限定されず、缶、紙容器、ペットボトル、プラスチック容器等を好ましく用いることができる。充填工程を経ることで、容器詰め乳由来成分入りコーヒーを製造することができる。
【0040】
<第2の製造方法>
本発明に係る第2の製造方法は、上記第1の製造方法と同様に、アロマ凝縮液取得工程と、コーヒー抽出物取得工程と、混合工程を含む。
また第2の製造方法においては、アロマ凝縮液は、ピラジン類から選ばれる第1香気成分を含み、かつ以下の条件を満たす;
〔条件〕
前記焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量が5%の時点における前記第1香気成分のGCピーク面積の測定値をx
1、前記アロマ凝縮液取得工程完了時点における、前記焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率をy(%)、前記アロマ凝縮液取得工程完了時点における、前記アロマ凝縮液における前記第1香気成分のGCピーク面積の測定値をz
1としたときに、下記式(1)を満たす。
【数2】
【0041】
本発明の好ましい形態では、上記式(1)において下限値が1.25であり、より好ましくは1.3であり、より好ましくは1.4であり、より好ましくは1.45である。本発明の好ましい形態では、上記式(1)において上限値が3.45であり、より好ましくは3.4であり、より好ましくは3.35であり、より好ましくは3.3であり、より好ましくは3.25であり、より好ましくは3.2であり、より好ましくは3.15であり、より好ましくは3.1であり、より好ましくは2.5であり、より好ましくは2.3である。
【0042】
アロマ凝縮液取得工程において回収されるアロマは、アロマ凝縮液取得工程の全体に渡って継続的に回収される成分群と、アロマ凝縮液取得工程の前半に比較的多く回収される成分群に大別される。そして、乳由来成分の風味に負けない、コーヒーらしい香りや呈味を有する乳由来成分入りコーヒーを製造するためには、これら成分群のバランスが重要であることを、本発明者らは見出した。
そして本発明者らは、アロマ凝縮液取得工程の全体に渡って継続的に回収される成分群の代表的な成分としてピラジン類に着目して、これらを第1香気成分とした。第1香気成分であるピラジン類(以下、「第1香気成分(ピラジン類)」とも記載する。)のGCピーク面積が上記式(1)を満たすアロマ凝縮液は、アロマ凝縮液取得工程の全体に渡って継続的に回収される成分群を一定以上回収したものであり、乳由来成分入りコーヒーに、乳由来成分の風味に負けない、コーヒーらしい香りや呈味を付与できることを見出した。
換言すれば、第1香気成分(ピラジン類)のGCピーク面積を指標として、上記式(1)を満たすタイミングで回収したアロマ凝縮液は、香気成分全体としてのバランスがよく、乳由来成分の風味に負けない、コーヒーらしい香りや呈味を乳由来成分入りコーヒーに付与できることを見出した。
すなわち本発明によれば、乳由来成分の風味に負けない、コーヒーらしい香りや呈味を感じる乳由来成分入りコーヒーを製造することができる。
【0043】
本発明の好ましい形態では、上記第1香気成分は、ピラジン、2,5-ジメチルピラジン、2-エチル-5-メチルピラジン、及び2-エチル-3-メチルピラジンから選ばれる1以上の成分である。
本発明者らは、アロマ凝縮液取得工程の全体に渡って継続的に回収される成分群の代表的な成分であるピラジン類のうち、特に上記4成分から選ばれる1以上の成分に着目し、上記4成分のうち少なくとも何れか1成分のGCピーク面積が上記式(1)を満たすアロマ凝縮液は、アロマ凝縮液取得工程の全体に渡って継続的に回収される成分群を一定以上回収したものであり、乳由来成分の風味に負けない、コーヒーらしい香りや呈味を感じる乳由来成分入りコーヒーを製造することができることを見出した。
よって本発明によれば、乳由来成分の風味に負けない、コーヒーらしい香りや呈味を感じる乳由来成分入りコーヒーを製造することができる。
【0044】
アロマ凝縮液は、好ましくは、上記4成分のうち2成分以上のGCピーク面積が上記式(1)を満たし、より好ましくは上記4成分のうち3成分以上のGCピーク面積が上記式(1)を満たし、さらに好ましくは上記4成分のすべてのGCピーク面積が上記式(1)を満たす。
本構成とすることにより、乳由来成分の風味に負けない、コーヒーらしい香りや呈味を感じる乳由来成分入りコーヒーを製造することができる。
【0045】
上記式(1)に係る条件を満たすアロマ凝縮液は、アロマ凝縮液取得工程の実施条件、具体的には、アロマ凝縮液取得工程の実施時間、焙煎粉砕したコーヒー豆と接触させる水蒸気の量、冷却温度(冷却速度)、コーヒー豆の焙煎度合い及び/又は粉砕状態を変更することで、調製することができる。
例えば、アロマ凝縮液取得工程で取得したアロマ凝縮液において、第1香気成分(ピラジン類)のGCピーク面積について上記式(1)を用いて算出した値が、上記式(1)の下限値に満たない場合、アロマ凝縮液の取得工程の実施時間を延長するか、焙煎粉砕したコーヒー豆と接触させる水蒸気量を増加させるか、冷却温度を高くする(すなわち、冷却速度を遅くする)か、又はこれらの条件変更を組み合わせることで、上記式(1)の下限値を超えるようにすることができる。
また例えば、アロマ凝縮液取得工程で取得したアロマ凝縮液において、第1香気成分(ピラジン類)のピーク面積について上記式(1)を用いて算出した値が、上記式(1)の上限値を超える場合、アロマ凝縮液の取得工程の実施時間を短縮するか、焙煎粉砕したコーヒー豆と接触させる水蒸気量を減少させるか、冷却温度を低くする(すなわち、冷却速度を速くする)か、又はこれらの条件変更を組み合わせることで、上記式(1)の上限値を超えないようにすることができる。
また、コーヒー豆の産地によって好ましい焙煎度合い、粉砕度合いが異なるので、これを加味して、アロマ凝縮液取得工程の実施条件を細かく調整していけばよい。
【0046】
第2の製造方法の好ましい形態では、上記アロマ凝縮液は、さらに2-ブタノン、ピロール、2-フルフリルチオール及びリモネンから選ばれる1以上の成分である第2香気成分を含み、かつ以下の条件を満たす;
〔条件〕
前記焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量が5%の時点における前記第2香気成分のGCピーク面積の測定値をx
2、前記アロマ凝縮液取得工程完了時点における、前記焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率をy(%)、前記アロマ凝縮液取得工程完了時点における、前記アロマ凝縮液における前記第2香気成分のGCピーク面積の測定値をz
2としたときに、以下の式(2)を満たす。
【数3】
【0047】
本発明の好ましい形態では、上記式(2)において下限値が0.55であり、より好ましくは0.6であり、より好ましくは0.65であり、より好ましくは0.7である。本発明の好ましい形態では、上記式(2)において上限値が1.65であり、より好ましくは1.6であり、より好ましくは1.6であり、より好ましくは1.55であり、より好ましくは1.5であり、より好ましくは1.45である。
【0048】
本発明者らは、ピラジン類に加えて、アロマ凝縮液取得工程の前半に比較的多く回収される成分群の代表的な成分として、2-ブタノン、ピロール、2-フルフリルチオール及びリモネンに着目し、これらの成分の少なくとも何れか1成分のGCピーク面積が上記式(2)を満たすアロマ凝縮液は、アロマ凝縮液取得工程の前半に比較的多く回収される成分群を一定以上回収したものであり、香気成分全体としてのバランスがよりよく、乳由来成分の風味に負けない、コーヒーらしい香りや呈味を乳由来成分入りコーヒーに付与できることを見出した。そして、これらの成分を第2香気成分とした。
したがって本発明によれば、乳由来成分に負けない、コーヒーらしい香りや呈味を感じることができる乳由来成分入りコーヒーを製造することができる。
【0049】
アロマ凝縮液は、好ましくは、上記4成分のうち2成分以上のGCピーク面積が上記式(2)を満たし、より好ましくは上記4成分のうち3成分以上のGCピーク面積が上記式(2)を満たし、さらに好ましくは上記4成分のすべてのGCピーク面積が上記式(2)を満たす。
本構成とすることにより、乳由来成分の風味に負けない、コーヒーらしい香りや呈味を感じる乳由来成分入りコーヒーを製造することができる。
【0050】
上記式(2)に係る条件を満たすアロマ凝縮液は、上記式(1)に係る条件と同様の条件を変更することで、調製することができる。ただし、第1香気成分が、アロマ凝縮液取得工程の全体に渡って継続的に回収される成分であるのに対し、第2香気成分はアロマ凝縮液取得工程の前半に比較的多く回収される成分であるので、第1香気成分とは条件変更の方向性が逆になる。
すなわち、アロマ凝縮液取得工程で取得したアロマ凝縮液において、第2香気成分のピーク面積について、上記式(2)を用いて算出した値が、上記式(2)の下限値に満たない場合、アロマ凝縮液の取得工程の実施時間を短縮するか、焙煎粉砕したコーヒー豆と接触させる水蒸気量を減少させるか、冷却温度を低くする(すなわち、冷却速度を速くする)か、又はこれらの条件変更を組み合わせることで、上記式(2)の下限値を超えるようにすることができる。
また例えば、アロマ凝縮液取得工程で取得したアロマ凝縮液において、第2香気成分のピーク面積について、上記式(2)を用いて算出した値が、上記式(2)の上限値を超える場合、アロマ凝縮液の取得工程の実施時間を延長するか、焙煎粉砕したコーヒー豆と接触させる水蒸気量を増加させるか、冷却温度を高くする(すなわち、冷却速度を遅くする)か、又はこれらの条件変更を組み合わせることで、上記式(2)の下限値を超えるようにすることができる。
また、コーヒー豆の産地によって好ましい焙煎度合い、粉砕度合いが異なるので、これを加味して、アロマ凝縮液取得工程の実施条件を細かく調整していけばよいのは、上記式(1)の調整と同様である。
なお前提として、取得するアロマ凝縮液が上記式(1)に係る条件を満たしていることは、言うまでもない。
【0051】
また本発明の好ましい形態では、アロマ凝縮液取得工程で取得するアロマ凝縮液は、焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率が、5質量%を超え、30質量%未満となるように取得されたアロマ凝縮液であり、かつ上記式(1)に係る〔条件〕を満たす。好ましくは、さらに上記式(2)に係る〔条件〕も満たす。より好ましい焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率は、第1の製造方法と同じである。
本発明によれば、乳由来成分及びコーヒー抽出物を含む乳由来成分入りコーヒーに、コーヒーらしい香りや呈味を付与することができる、従来のコーヒー香料に代わる原料を製造することができる。
第2の製造方法における他の工程は、上記の第1の製造方法と同じである。また、各工程における好ましい形態も、上記第1の製造方法と同じである。
【0052】
<乳由来成分入りコーヒー>
上記第1又は第2の製造方法により得られた乳由来成分入りコーヒーは、アロマ凝縮液と、コーヒー抽出物と、乳由来成分を含む。乳由来成分入りコーヒーはコーヒーの自然な風味や呈味を害さない範囲でコーヒー香料を含んでも良く、含まなくても良い。本発明の乳由来成分入りコーヒーは、コーヒー香料を含まない態様とすることが好ましい。
【0053】
また本発明に係る乳由来成分入りコーヒーは、第1香気成分として、ピラジン、2,5-ジメチルピラジン、2-エチル-5-メチルピラジン、及び2-エチル-3-メチルピラジンから選ばれる1以上の成分を含む。
また第2香気成分として、2-ブタノン、ピロール、2-フルフリルチオール及びリモネンから選ばれる1以上の成分を含む。
さらにまた、第1香気成分のGCピーク面積を1としたときの、第2香気成分のGCピーク面積が0.01~5であり、好ましくは、0.015~4.9であり、より好ましくは、0.02~4.85である。
第1香気成分のGCピーク面積と第2香気成分のGCピーク面積の上記関係は、少なくとも第1香気成分の何れか1成分と、少なくとも第2香気成分の何れか1成分が上記関係を充足すればよい。
好ましくは、第1香気成分と第2香気成分の組み合わせのうち、2以上の組み合わせが上記関係を充足し、より好ましくは5以上の組み合わせが上記関係を充足し、さらに好ましくは8以上の組み合わせが上記関係を充足し、さらにより好ましくは10以上の組み合わせが上記関係を充足し、さらにより好ましくは13以上の組み合わせが上記関係を充足し、さらにより好ましくはすべての組み合わせが上記関係を充足する。
【0054】
上記第1香気成分のGCピーク面積と、上記第2香気成分のGCピーク面積との比が、上記数値範囲内にあることにより、第1香気成分と第2香気成分の含有量のバランスがよく、乳由来成分の風味に負けないコーヒーの香りと呈味を有する乳由来成分入りコーヒーとすることができる。
【0055】
なお本発明において、GCピーク面積は、下記分析条件で測定したものである。
<GC-MS分析条件>
・GC本体装置:Agilent Technologies 7890B
・MS検出器:Agilent Technologies 5977A
・前処理装置:Multiprpose Samler MPS2
使用ファイバー:SPME Fiber Assembly 50/30um DVB/CAR/PDMS 30 μm (CAR/PDMS layer)、50μm (DVB layer)
抽出条件:20mlのスクリューネックバイアルに1mlのアロマ凝縮液を室温でサンプリング・密栓し、分析まで10℃で保存した。その後35℃、10分間でヘッドスペースを平衡状態にし、上記SPMEファイバーに35℃、3分間かけて香気成分を抽出した。
・試料注入条件:
注入法:パルスドスプリットレス
注入口温度:240℃
注入パルス圧:30psi、2min
セプタムパージ流量:3ml/min
・カラム:DBWAX-UI(長さ:30m、直径0.250μm、厚さ:0.5μm)
・流量:1.2ml/min
コントロールモード:コンスタントフロー
・オーブン:40℃(2min)→120℃(4℃/min)→240℃(6℃/min)、10min
・ポストラン:240℃、10min
【0056】
2.アロマ凝縮液、アロマ凝縮コーヒー抽出物、及びこれらの製造方法
本発明は、アロマ凝縮液、アロマ凝縮コーヒー抽出物及びこれらの製造方法にも関する。
【0057】
本発明に係るアロマ凝縮液の製造方法は、焙煎粉砕したコーヒー豆と水蒸気とを接触させ、得られた前記コーヒー豆由来の香気成分を含む水蒸気を冷却してアロマ凝縮液を取得する、アロマ凝縮液取得工程を含む。
また、アロマ凝縮液取得工程で取得されるアロマ凝縮液は、焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率が、5質量%を超え、30質量%未満となるようにアロマ凝縮液を取得する。
焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率は、好ましくは6質量%以上であり、より好ましくは7質量%以上であり、より好ましくは8質量%以上であり、より好ましくは9質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは11質量%以上であり、より好ましくは12質量%以上であり、より好ましくは13質量%以上であり、より好ましくは14質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上である。
焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率は、好ましくは29質量%以下であり、より好ましくは28質量%以下であり、より好ましくは27質量%以下であり、より好ましくは26質量%以下であり、より好ましくは25質量%である。
焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率は、6~29質量%であり、より好ましくは7~29質量%であり、より好ましくは8~28質量%であり、より好ましくは9~27質量%であり、より好ましくは10~26質量%であり、より好ましくは11~25質量%であり、より好ましくは12~25質量%であり、より好ましくは13~25質量%であり、より好ましくは14~25質量%であり、より好ましくは15~25質量%である。
本発明によれば、乳由来成分及びコーヒー抽出物を含む乳由来成分入りコーヒーに、コーヒーらしい香りや呈味を付与することができる、従来のコーヒー香料に代わる原料を製造することができる。
【0058】
また本発明に係るアロマ凝縮液の製造方法は、アロマ凝縮液取得工程において、焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率が、5質量%を超え、30質量%未満となるようなアロマ凝縮液に代えて、以下の条件を満たすアロマ凝縮液を取得してもよい。
〔条件〕
前記焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量が5%の時点における前記第1香気成分のGCピーク面積の測定値をx
1、前記アロマ凝縮液取得工程完了時点における、前記焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率をy(%)、前記アロマ凝縮液取得工程完了時点における、前記アロマ凝縮液における前記第1香気成分のGCピーク面積の測定値をz
1としたときに、下記式(1)を満たす。
【数4】
【0059】
本発明の好ましい形態では、上記式(1)において下限値が1.25であり、より好ましくは1.3であり、より好ましくは1.4であり、より好ましくは1.45である。本発明の好ましい形態では、上記式(1)において上限値が3.45であり、より好ましくは3.4であり、より好ましくは3.35であり、より好ましくは3.3であり、より好ましくは3.25であり、より好ましくは3.2であり、より好ましくは3.15であり、より好ましくは3.1であり、より好ましくは2.5であり、より好ましくは2.3である。
本発明によれば、乳由来成分及びコーヒー抽出物を含む乳由来成分入りコーヒーに、コーヒーらしい香りや呈味を付与することができる、従来のコーヒー香料に代わる原料を製造することができる。
式(1)を満たすアロマ凝縮液の調製方法は、上記「1.」で述べた通りである。
【0060】
アロマ凝縮液が上記式(1)の〔条件〕を満たす場合、好ましい形態では、アロマ凝縮液はさらに2-ブタノン、ピロール、2-フルフリルチオール及びリモネンから選ばれる1以上の成分である第2香気成分を含み、かつ以下の条件を満たす;
〔条件〕
焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量が5%の時点における第2香気成分のGCピーク面積の測定値をx
2、アロマ凝縮液取得工程完了時点における、焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率をy(%)、アロマ凝縮液取得工程完了時点における、アロマ凝縮液における第2香気成分のGCピーク面積の測定値をz
2としたときに、以下の式(2)を満たす。
【数5】
【0061】
本発明の好ましい形態では、上記式(2)において下限値が0.55であり、より好ましくは0.6であり、より好ましくは0.65であり、より好ましくは0.7である。本発明の好ましい形態では、上記式(2)において上限値が1.65であり、より好ましくは1.6であり、より好ましくは1.6であり、より好ましくは1.55であり、より好ましくは1.5であり、より好ましくは1.45である。
本発明によれば、乳由来成分に負けない、コーヒーらしい香りや呈味を感じることができる乳由来成分入りコーヒーを製造することができる。
式(2)を満たすアロマ凝縮液の調製方法は、上記「1.」で述べた通りである。
【0062】
また本発明の好ましい形態では、上記アロマ凝縮液は、焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率が、5質量%を超え、30質量%未満となるように取得されたアロマ凝縮液であり、かつ上記式(1)に係る〔条件〕を満たす。より好ましくは、さらに上記式(2)に係る〔条件〕を満たす。
本発明によれば、乳由来成分及びコーヒー抽出物を含む乳由来成分入りコーヒーに、コーヒーらしい香りや呈味を付与することができる、従来のコーヒー香料に代わる原料を製造することができる。
【0063】
上記製造方法により得られるアロマ凝縮液は、ピラジン類から選ばれる第1香気成分と、2-ブタノン、ピロール、2-フルフリルチオール及びリモネンから選ばれる1以上の成分である第2香気成分を含み、前記第1香気成分のGCピーク面積を1としたときの、前記第2香気成分のGCピーク面積が0.01~5である。
また、上記ピラジン類から選ばれる第1香気成分は、ピラジン、2,5-ジメチルピラジン、2-エチル-5-メチルピラジン、及び2-エチル-3-メチルピラジンから選ばれる1以上の成分である。
本発明によれば、乳由来成分及びコーヒー抽出物を含む乳由来成分入りコーヒーに、コーヒーらしい香りや呈味を付与することができる、従来のコーヒー香料に代わる原料を提供することができる。
また本発明の別の好ましい形態では、上記アロマ凝縮液は、乳由来成分入りコーヒーを調製するためのものである。
【0064】
また、上記方法で得たアロマ凝縮液と、上記方法を経た焙煎粉砕したコーヒー豆と水を接触させて得たコーヒー抽出物とを混合することにより、コーヒー豆由来のアロマが凝縮されたコーヒー抽出物(アロマ凝縮コーヒー抽出物)を製造することもできる。
すなわち、本発明は、上記方法によりアロマ凝縮液を取得する、アロマ凝縮液取得工程と、アロマ凝縮液取得工程を経た焙煎粉砕したコーヒー豆と水とを接触させ、コーヒー抽出物を得る、コーヒー抽出物取得工程と、アロマ凝縮液と、前記コーヒー抽出物とを混合してアロマ凝縮コーヒー抽出物を取得する工程と、を含む、アロマ凝縮コーヒー抽出物の製造方法にも関する。
本発明によれば、コーヒー香料を使用しなくても、乳由来成分と混合したときにコーヒーらしい香りや呈味を感じる乳由来成分入りコーヒーを製造することができるコーヒー抽出物を製造することができる。
また本発明の好ましい形態では、上記アロマ凝縮コーヒー抽出物は、乳由来成分入りコーヒーを調製するためのものである。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を参照して本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は、以下の実施例に限定されない。
【0066】
<試験例1>
1.目的
試験例1では、焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率(回収率)の違いによる風味の相違について検討した。
【0067】
2.試料の調製
以下の製造方法で、試料1~6に係る乳由来成分入りコーヒーを製造した。
(1)焙煎粉砕したコーヒー豆4.5kg(コーヒー生豆換算で5.85kg)を10.5L容量のカラム型抽出機(株式会社トーワテクノ製)にセットし、水蒸気を接触させ、コーヒー豆由来のアロマを含む水蒸気を得た。得られたコーヒー豆由来のアロマを含む水蒸気を冷却器(東洋システム株式会社製)で冷却し、焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率(回収率)が所定の割合になるように、アロマ凝縮液を連続的に取得した(アロマ凝縮液取得工程)。得られた画分(回収画分)、アロマ凝縮液の回収率、及び各画分で得られたアロマ凝縮液の総量(kg)の関係を表1に示す。
なお、当該所定の割合(回収率)は、以下のように求めた。
焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率(回収率)
=(アロマ凝縮液の回収量/焙煎粉砕したコーヒー豆の質量)×100
ただし、アロマ凝縮液の回収量とは、焙煎粉砕したコーヒー豆と接触させた水蒸気を冷却して得られるアロマ凝縮液の質量である。
【0068】
【0069】
試験例1におけるアロマ凝縮液の任意の回収率におけると画分との関係を表2に示す。
【0070】
【0071】
(2)上記(1)を経た、アロマ凝縮液取得後の焙煎粉砕したコーヒー豆に対し、100℃に加温した水を通液し、コーヒー抽出物18kgを得た(コーヒー抽出物取得工程)。
(3)下記表3に示す配合となるように、上記(1)で得たアロマ凝縮液、上記(2)で得たコーヒー抽出物及び乳由来成分として牛乳(森永乳業社製)を攪拌混合し、乳由来成分入りコーヒー(試料1~6)を得た(混合工程)。本試験例1では、まずアロマ凝縮液とコーヒー抽出物とを混合してアロマ凝縮コーヒー抽出物を得た後(第1混合工程)、得られたアロマ凝縮コーヒー抽出物と牛乳とを混合し(第2混合工程)、乳由来成分入りコーヒーを得た。
また、後述する官能評価試験の基準として、アロマ凝縮液を含まない以外は試料1~6と同じ製造方法、同じ配合の試料(基準試料)を製造した(表3)。
【0072】
【0073】
3.官能評価試験
製造した試料1~6を、本分野で熟練したパネル4名により、以下の観点で、10段階で評価した。各項目は基準試料を5点とし、各項目における風味を下記表4の基準に沿って相対的に評価した。
A:トップのコーヒーらしい香り
B:コーヒーの苦み
C:コーヒーのボディ感(呈味)
【0074】
【0075】
4.結果
官能評価試験の結果を表5に示す。また、評価観点毎の平均点のグラフを
図1に示す。
【0076】
【0077】
表1及び
図1に示されるように、トップのコーヒーらしい香り、及び、コーヒーの苦みは、アロマ凝縮液の回収率が5%である試料1が最も評価が高く、回収率の増加とともに評価点が低下した。試料6においても、トップのコーヒーらしい香り、及びコーヒーの苦味の両方において、基準試料と同等若しくはごく僅かに基準試料より強いという評価であった。
これに対しコーヒーのボディ感は、アロマ凝縮液の回収率が5%である試料1が最も低く、基準試料よりごく僅かに弱く感じられるという評価であった。その後、回収率の増加とともにボディ感は徐々に強く感じられるようになり、アロマ凝縮液の回収率が30%である試料6が最も高い評価であった。
【0078】
表1に示された通り、アロマ凝縮液の回収率が5%である試料1は、トップのコーヒーらしい香りとコーヒーの苦みに優れるが、ボディ感が不足しており、3つの風味のバランスに劣るものであった。
またアロマ凝縮液の回収率が30%である試料6は、コーヒーのボディ感は高い評価となったが、全体として、トップのコーヒーらしい香りとコーヒーの苦みが弱まり、風味が不足するものであり、試料1と同様に、3つの風味のバランスに劣るものであった。
一方試料2~5は、トップのコーヒーの香り、コーヒーの苦み、コーヒーのボディ感の3つの風味のバランスのよい乳由来成分入りコーヒーであった。
以上より、焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率が、5質量%を超え、30質量%未満となるようにアロマ凝縮液を取得する、アロマ凝縮液取得工程を含む製造方法であれば、乳由来成分の風味に負けない、コーヒーらしい香りや呈味を有する乳由来成分入りコーヒーを製造することができることが明らかになった。
【0079】
<試験例2>
1.目的
試験例2では、アロマ凝縮液に含まれる香気成分を同定し、乳由来成分入りコーヒーの風味との関係を検討することを目的とした。
【0080】
2.試料の調製
試験例1と同様の方法で、回収率が5~20%のアロマ凝縮液を調製した。
【0081】
3.香気成分の分析
得られたアロマ凝縮液について、固相マイクロ抽出法により抽出し、GC-MSにより分析を行った。
<GC-MS分析条件>
・GC本体装置:Agilent Technologies 7890B
・MS検出器:Agilent Technologies 5977A
・前処理装置:Multiprpose Samler MPS2
・使用ファイバー:SPME Fiber Assembly 50/30um DVB/CAR/PDMS 30 μm (CAR/PDMS layer)、50μm (DVB layer)
・抽出条件:20mlのスクリューネックバイアルに1mlのアロマ凝縮液を室温でサンプリング・密栓し、分析まで10℃で保存した。その後35℃、10分間でヘッドスペースを平衡状態にし、上記SPMEファイバーに35℃、3分間かけて香気成分を抽出した。
・試料注入条件:
注入法:パルスドスプリットレス
注入口温度:240℃
注入パルス圧:30psi、2min
セプタムパージ流量:3ml/min
・カラム:DBWAX-UI(長さ:30m、直径0.250μm、厚さ:0.5μm)
・流量:1.2 ml/min
コントロールモード:コンスタントフロー
・オーブン:40℃(2min)→120℃(4℃/min)→240℃(6℃/min)、10min
・ポストラン:240℃、10min
【0082】
4.結果
GC-MSにより分析したアロマ凝縮液の香気成分のピーク面積測定値を得た。
ここで、上記表2に示すように、アロマ凝縮液の回収率が2倍になると、回収される画分の合計量は2倍になる。具体的には例えば、回収率が5%のときの回収画分の総量(kg)は0.225kgであるところ、回収率が2倍の10%になると、回収画分の総量(kg)も2倍の0.45kgとなる。
そうであるところ、GC-MS分析では、各画分におけるアロマ凝縮液の総量から1mlをサンプリングして測定試料としている。そのため、GC-MS分析により測定される各回収率における各香気成分の含有量は、1ml中の香気成分の含有量であり、各回収率におけるアロマ凝縮液全体に含まれる香気成分の量に補正する必要がある。
そこで、各回収率における香気成分の含有量を比較するために、GC-MS分析によるGCピーク面積の測定値を、単位体積(回収率5%の体積を基準)あたりのピーク面積に補正した。
具体的には、下記の式によりピーク面積の測定値から補正値を算出し、表6に記載した。
GCピーク面積(補正値)=GCピーク面積(測定値)×回収率(%)/5
【0083】
また表7に、表6に記載された数値に基づいて算出した、回収率5%のアロマ凝縮液のピーク面積を1としたときの、各回収率におけるアロマ凝縮液のピーク面積の比を示す。
【0084】
【0085】
【0086】
表6に示されるように、2,5-ジメチルピラジン、2-エチル-5-メチルピラジン、2-エチル-3-メチルピラジン、及びピラジンのように、アロマ凝縮液の回収率の増加とともにそのピーク面積が継続して増加する成分が見出された。以下、これらの成分を第1香気成分とする。上記結果は、第1香気成分は、アロマ凝縮液の製造中において継続して抽出され続けていることを意味する。
一方、2-ブタノン、ピロール、2-フルフリルチオール、リモネンのように、アロマ凝縮液の回収率が増加しても、そのピーク面積はあまり変化しない成分も見出された。以下、これらの成分を第2香気成分とする。上記結果は、第2香気成分は、アロマ凝縮液の製造中においてアロマ凝縮液の回収率が小さい段階(すなわち、アロマ凝縮液取得工程の前半)で抽出されきってしまい、その後は回収率が増加しても殆ど抽出されないことを意味する。
以上表6に示された通り、アロマ凝縮液取得工程において回収されるアロマは、アロマ凝縮液取得工程の全体に渡って継続的に回収される成分群と、アロマ凝縮液取得工程の前半に比較的多く回収される成分群に大別される。
【0087】
表7に示されるように、第1香気成分の各成分について、回収率5%のアロマ凝縮液をGC-MS測定した時の各成分のGCピーク面積を1としたときの、各回収率における各成分のGCピーク面積の比を算出したところ、その値は1.48~2.19であった。
同じく表7に示されるように、第2香気成分の各成分について、回収率5%のアロマ凝縮液をGC-MS測定したときの各成分のGCピーク面積を1としたときの、各回収率における各成分のGCピーク面積の比は、0.7~1.39であった。
試験例2のGC-MS分析に用いた回収率が10、15、20質量%のアロマ凝縮液については、試験例1にて、乳由来成分入りコーヒーを製造した際に、トップのコーヒーの香り、コーヒーの苦み、コーヒーのボディ感の3つの風味のバランスのよいものが得られたことが示されている。
換言すると、アロマ凝縮液に含まれる第1香気成分、及び、第2香気成分が一定の量に調整されることで、風味のバランスのよい乳由来成分入りコーヒーが得られるものと考えられた。
【0088】
本試験で明らかになった、各回収率における第1香気成分の量的な関係は、下記条件のように表すことができる。
【0089】
〔条件〕
焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量が5%の時点における前記第1香気成分のGCピーク面積の測定値をx1、アロマ凝縮液取得工程完了時点における、焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率をy(%)、アロマ凝縮液取得工程完了時点における、アロマ凝縮液における前記第1香気成分のGCピーク面積の測定値をz1としたときに、下記式(1)を満たす。
【0090】
【0091】
本試験で明らかになった、各回収率における第2香気成分の量的な関係は、下記条件のように表すことができる。
【0092】
〔条件〕
焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量が5%の時点における前記第2香気成分のGCピーク面積の測定値をx
2、アロマ凝縮液取得工程完了時点における、焙煎粉砕したコーヒー豆の質量に対するアロマ凝縮液の質量の百分率をy(%)、アロマ凝縮液取得工程完了時点における、前記アロマ凝縮液における第2香気成分のGCピーク面積の測定値をz
2としたときに、以下の式(2)を満たす。
【数7】
【0093】
以上より、上記式(1)に係る条件及び、好ましくはさらに上記式(2)に係る条件を満たすアロマ凝縮液を使用する製造方法であれば、乳由来成分の風味に負けない、コーヒーらしい香りや呈味を有する乳由来成分入りコーヒーを製造することができることが明らかになった。
【0094】
また下記表8に、各回収率のアロマ凝縮液における、第1香気成分のGCピーク面積を1としたときの、第2香気成分のGCピーク面積の比を示す。
【0095】
【0096】
表8より、第1香気成分のGCピーク面積を1としたときの、第2香気成分のピーク面積比は、回収率が増加するにしたがって低下する傾向が示された。これは、第2香気成分は上記の通り、アロマ凝縮液取得工程の前半に比較的多く回収される成分群の代表的な成分であるから、回収率の初期段階で抽出されきってしまい、その後は抽出量があまり増加せず、回収率の増加とともにアロマ凝縮液中の濃度が希釈されたものと考えられる。
【0097】
表8を元に、第1香気成分のGCピーク面積を1としたときの、第2香気成分のGCピーク面積を、回収率5%の値を基準として換算した。換算結果を表9に示す。
【0098】
【0099】
表9に示されるように、第1香気成分のGCピーク面積を1としたときの、第2香気成分のGCピーク面積は、回収率5%を基準として0.34~1であった。
【0100】
さらにまた、本試験例の製造方法では、香気成分の含有量や割合が変化するような工程を含まないため、製造された乳由来成分入りコーヒーにおける第1香気成分と第2香気成分の含有割合は、実質的には、アロマ凝縮液における第1香気成分と第2香気成分の含有割合を反映していることが推定される。
したがって本試験例により、第1香気成分のGCピーク面積を1としたときの第2香気成分のGCピーク面積が、回収率5%を基準として0.34~1であるアロマ凝縮液、又はこのようなアロマ凝縮液を含むアロマ凝縮コーヒー抽出物は、乳由来成分の風味に負けない、コーヒーらしい香りや呈味を有する乳由来成分コーヒーの製造に特に適していることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、乳由来成分の風味に負けない、コーヒーらしい香りや呈味を有する乳由来成分入りコーヒー及びその製造方法、並びに、乳由来成分の風味に負けない、コーヒーらしい香りや呈味を有する乳由来成分入りコーヒーの製造に適したアロマ凝縮液、アロマ凝縮コーヒー抽出物、及びこれらの製造方法を提供することができる。