(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】プレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンス方法及びメンテナンスシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/91 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
G01N21/91 A
(21)【出願番号】P 2024087535
(22)【出願日】2024-05-29
【審査請求日】2024-10-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508031760
【氏名又は名称】株式会社岩井プラントサービス
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】相原 勝
(72)【発明者】
【氏名】輪島 圭佑
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-121989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレート式熱交換器の熱交換板の一方面に蛍光液からなる被膜を形成する被膜形成工程と、
前記熱交換板の他方面に紫外線を照射し、蛍光が確認された箇所に貫通欠陥部が生じていると判定する検査工程と、を備えるプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンス方法であって、
前記被膜形成工程は、二段階に分けて前記被膜を前記熱交換板に形成し、
第1段階では、前記一方面の複数箇所に間隔を空けて蛍光液からなる第1被膜を形成し
、
第2段階では、前記第1被膜を延ばして前記一方面全体を被覆する第2被膜を形成する
ことを特徴とするプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンス方法。
【請求項2】
プレート式熱交換器の熱交換板の一方面に蛍光液からなる被膜を形成する被膜形成工程と、
前記熱交換板の他方面に紫外線を照射し、蛍光が確認された箇所に貫通欠陥部が生じていると判定する検査工程と、を備えるプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンス方法であって、
前記熱交換板は、ガスケットが装着される溝部を有し、
前記被膜形成工程は、二段階に分けて前記被膜を前記熱交換板に形成し、
第1段階では、前記一方面の複数箇所に間隔を空けて蛍光液からなる第1被膜を形成し
、
第2段階では、前記第1被膜を延ばして前記一方面全体を被覆する第2被膜を形成する
とともに前記溝部に蛍光液からなる第3被膜を形成する
ことを特徴とするプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンス方法。
【請求項3】
プレート式熱交換器の熱交換板の一方面に蛍光液からなる被膜を形成する複数のロボットアームと、
前記熱交換板を前記ロボットアームへ搬送し、被膜が形成された前記熱交換板を次の前記ロボットアームへ搬送する搬送装置と、
前記熱交換板の他方面に紫外線を照射し、蛍光が確認された箇所に貫通欠陥部が生じていると判定する検査手段と、を備えるプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステムであって、
複数の前記ロボットアームは、二台の第1ロボットアームと第2ロボットアームであり、
第1ロボットアームは、前記一方面の複数箇所に間隔を空けて蛍光液からなる第1被膜を形成し、
第2ロボットアームは、前記第1被膜を延ばして前記一方面全体を被覆する第2被膜を形成する
ことを特徴とするプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステム。
【請求項4】
プレート式熱交換器の熱交換板の一方面に蛍光液からなる被膜を形成する複数のロボットアームと、
前記熱交換板を前記ロボットアームへ搬送し、被膜が形成された前記熱交換板を次の前記ロボットアームへ搬送する搬送装置と、
前記熱交換板の他方面に紫外線を照射し、蛍光が確認された箇所に貫通欠陥部が生じていると判定する検査手段と、を備えるプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステムであって、
前記熱交換板は、ガスケットが装着される溝部を有し、
複数の前記ロボットアームは、二台の第1ロボットアームと第2ロボットアームであり、
第1ロボットアームは、前記一方面の複数箇所に間隔を空けて蛍光液からなる第1被膜を形成し、
第2ロボットアームは、前記第1被膜を延ばして前記一方面全体を被覆する第2被膜を形成するとともに前記溝部に蛍光液からなる第3被膜を形成する
ことを特徴とするプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステム。
【請求項5】
プレート式熱交換器の熱交換板の一方面に蛍光液からなる被膜を形成する複数のロボットアームと、
前記熱交換板を前記ロボットアームへ搬送し、被膜が形成された前記熱交換板を次の前記ロボットアームへ搬送する搬送装置と、
前記熱交換板の他方面に紫外線を照射し、蛍光が確認された箇所に貫通欠陥部が生じていると判定する検査手段と、を備えるプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステムであって、
前記熱交換板は、ガスケットが装着される溝部を有し、
複数の前記ロボットアームは、二台の第1ロボットアームと第2ロボットアームであり、
第1ロボットアームは、前記一方面の複数箇所に間隔を空けて蛍光液からなる第1被膜を形成するとともに前記溝部に蛍光液からなる第3被膜の一部を形成し、
第2ロボットアームは、前記第1被膜を延ばして前記一方面全体を被覆する第2被膜を形成するとともに前記第3被膜の残部を形成する
ことを特徴とするプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステム。
【請求項6】
請求項
4に記載のプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステムにおいて、
前記熱交換板は、ガスケットが装着される前記溝部を有し、
前記第2ロボットアームは、
前記第2被膜を形成するため刷毛と、前記第3被膜を形成するための刷毛とを備え、
前記刷毛で蛍光液を塗布して前記第2被膜及び前記第3被膜を形成する
ことを特徴とするプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステム。
【請求項7】
請求項
3から請求項6の何れか一項に記載のプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステムにおいて、
形状が異なる複数種類の前記熱交換板について種類を判定する熱交換板判定部と、
前記熱交換板の種類に応じて設定された被膜のパターンを選択し、前記ロボットアームに前記パターンに基づいて被膜を形成させる被膜形成制御部と、を備える
ことを特徴とするプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステム。
【請求項8】
請求項
3から請求項5の何れか一項に記載のプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステムにおいて、
蛍光液を貯留する容器を備え、
前記ロボットアームは、刷毛を有し、前記刷毛を前記容器の蛍光液に浸した後に前記刷毛を前記熱交換板の一方面上を移動させることで前記被膜を形成し、
さらに、一枚の前記熱交換板につき一回、前記刷毛を前記容器の蛍光液に浸し、前記刷毛により前記被膜を形成する
ことを特徴とするプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステム。
【請求項9】
請求項
3から請求項5の何れか一項に記載のプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステムにおいて、
前記ロボットアームは、刷毛と、蛍光液を貯留する容器と、前記容器から前記刷毛に蛍光液を送液する送液手段とを備え、
前記容器から前記刷毛に蛍光液を送液することで前記刷毛に蛍光液を含浸させ、前記刷毛を前記熱交換板の一方面上を移動させることで前記被膜を形成する
ことを特徴とするプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステム。
【請求項10】
請求項
3から請求項6の何れか一項に記載のプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステムにおいて、
前記検査手段は、
前記熱交換板の前記他方面を対象として画像を形成するラインセンサーと、
前記画像に映る蛍光が画像処理により確認された箇所に前記貫通欠陥部が生じていると判定する貫通欠陥判定部と、を備える
ことを特徴とするプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレート式熱交換器の熱交換板を効率よくメンテナンスすることができるプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンス方法及びメンテナンスシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
プレート式熱交換器は、定期的にメンテナンスが実施される。メンテナンスの一つとして、プレート式熱交換器の熱交換板に生じた亀裂の有無を発見する検査が行われる。具体的には、まず、熱交換板の一方の全面に蛍光液を塗布する。次に、他方面から紫外線を照射し、蛍光を確認できたならばその蛍光箇所に貫通した亀裂が生じていると判定する(例えば特許文献1参照)。昨今ではプレート式熱交換器のメンテナンスの需要が増大している。このような需要に応えるべく、ロボットアームを用いて蛍光液の塗布作業に掛かる時間を短縮しているが、より一層の効率化が要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような事情に鑑み、熱交換板に生じた亀裂の有無をより効率的に検査することができるプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンス方法及びメンテナンスシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための態様は、プレート式熱交換器の熱交換板の一方面に蛍光液からなる被膜を形成する被膜形成工程と、前記熱交換板の他方面に紫外線を照射し、蛍光が確認された箇所に貫通欠陥部が生じていると判定する検査工程と、を備えるプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンス方法であって、前記被膜形成工程は、複数段階に分けて前記被膜を前記熱交換板に形成し、各段階では、前記熱交換板に形成される被膜に要する蛍光液の総量よりも少ない量の蛍光液で被膜を形成し、又は、前記熱交換板の被膜が形成される総面積よりも小さい面積に被膜を形成することを特徴とするプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンス方法にある。
【0006】
上記目的を達成するための他の態様は、プレート式熱交換器の熱交換板の一方面に蛍光液からなる被膜を形成する複数のロボットアームと、前記熱交換板を前記ロボットアームへ搬送し、被膜が形成された前記熱交換板を次の前記ロボットアームへ搬送する搬送装置と、前記熱交換板の他方面に紫外線を照射し、蛍光が確認された箇所に貫通欠陥部が生じていると判定する検査手段と、を備えるプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステムであって、前記ロボットアームのそれぞれは、前記熱交換板に形成される被膜に要する蛍光液の総量よりも少ない量の蛍光液で被膜を形成し、又は、前記熱交換板の被膜が形成される総面積よりも小さい面積に被膜を形成することを特徴とするプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステムにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱交換板に生じた亀裂の有無をより効率的に検査することができるプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンス方法及びメンテナンスシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】プレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステムの概略構成図である。
【
図2】メンテナンスシステムの機能を示すブロック図である。
【
図4】ラインセンサーによる画像に撮像された蛍光と貫通欠陥部を示す図である。
【
図5】2台のロボットアームによる蛍光液の塗布の態様を示す図である。
【
図6】補給動作、塗布動作に要する時間を説明するための図である。
【
図7】複数の刷毛を持たせた第2ロボットアームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1はプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンスシステムの概略構成図である。
図2はメンテナンスシステムの機能を示すブロック図である。
図3は熱交換板の平面図である。本発明のメンテナンス方法及びメンテナンスシステムは、プレート式熱交換器の熱交換板に生じた貫通欠陥部を検出するためのものである。まず、
図3を用いて熱交換板について説明する。
【0010】
図3には、形状が異なる2種類の熱交換板10a、熱交換板10bが例示されている。熱交換板10a、熱交換板10bをまとめて熱交換板10とも称する。熱交換板10は、飲料などの液体の製品(以下、液体製品)を製造するプラントにおいてプレート式熱交換器に使用される板状の部材である。
【0011】
図3(a)に示すように、熱交換板10aは、四隅に液体製品及び液状の熱媒体の流路となる液導入部13a、13b、13c、13dを有し、液導入部13a、13bの間に形成された熱交換部11を備える。また、熱交換板10aは、液導入部13a、13b、及び熱交換部11を囲うように溝部12が設けられている。溝部12は、不図示のガスケットが装着される。熱交換板10は複数枚重ねて用いられるものであるが、ガスケットは隣り合う熱交換板10同士の隙間をシールするために設けられる。
図3(b)に示すように、熱交換板10bは、液導入部13a及び液導入部13bを有さない点で熱交換板10aと異なる。
【0012】
プレート式熱交換器は、熱交換板10aを隣り合う熱交換板10a同士では表裏逆にしてガスケットを介して積層し、最も外側の一枚に熱交換板10bを取り付けて用いる。このように、熱交換板10は同形状であっても液導入部の有無による相違がある。
【0013】
また、熱交換板10の熱交換部11は、ガスケットのための溝部12の内側の領域である。熱交換板10の一方面側を流通する液体製品と、他方面側を流通する熱媒体とは、熱交換部11を挟んで熱交換される。熱交換部11の形状は特に限定はないが、本実施形態の熱交換部11は、上下方向の両端部は平面状に形成され、それらの間には平面視にて矩形状となる凹凸が複数個形成されている。
【0014】
熱交換板10は、種々の原因により熱交換部11に厚さ方向に貫通した亀裂が生じうる。この亀裂を貫通欠陥部と称する。メンテナンス方法及びメンテナンスシステムは、このような貫通欠陥部を検出するためのものである。
【0015】
図1及び
図2を用いて、これらの図に示すように、メンテナンスシステム1は、熱交換板10を搬送する搬送装置20と、ロボットアーム30と、制御装置40と、を備えている。
【0016】
搬送装置20は、熱交換板10を搬送する装置である。搬送装置20は、熱交換板10の一方面を上方に向けて水平方向に搬送することが可能な装置であれば特に方式に制約はなく、例えばローラーコンベアやベルトコンベアなどを適用することができる。
【0017】
搬送装置20は、一枚ずつ熱交換板10を上流から下流へ搬送する。搬送装置20の進行方向に沿って第1ロボットアーム31、第2ロボットアーム32がこの順で配置されている。第1ロボットアーム31、第2ロボットアーム32をまとめてロボットアーム30とも称する。
【0018】
ロボットアーム30は、刷毛34を把持し、蛍光液2を貯留した容器に刷毛を移動させて刷毛34に蛍光液を付着させ、熱交換板10の一方面に刷毛34を接触した状態で移動する塗布動作(単に接触させる動作も含む)を行う。ロボットアーム30は、そのような動作が可能であれば種類や具体的な構造は特に限定されないが、例えば、刷毛34を把持する機能を先端部に備える六軸ロボットアームである。
【0019】
また、第2ロボットアーム32の下流であり、後述するラインセンサー60よりも上流には、第3ロボットアーム33が配置されている。第3ロボットアーム33は、蛍光液が塗布された一方面が上方を向いた状態で搬送された熱交換板10を持ち上げ、蛍光液が塗布されていない他方面が上方を向くように熱交換板10を反転させた上で搬送装置20に載置する動作が可能なロボットアームである。第3ロボットアーム33はそのような動作が可能であれば種類や具体的な構造は特に限定されない。例えば、先端に把持ハンド37が取り付けられた六軸ロボットアームである。
【0020】
これらの第1ロボットアーム31~第3ロボットアーム33は、制御装置40により動作が制御される。第1ロボットアーム31及び第2ロボットアーム32による蛍光液の塗布については後述する。
【0021】
搬送装置20の近傍には、第1ロボットアーム31よりも上流に熱交換板センサー50が配置されている。熱交換板センサー50は、熱交換板10の種類を判別するためのものである。具体的には、搬送装置20の所定位置に到達した熱交換板10に対してレーザーによる物体の位置判別を行うセンサーが挙げられる。このようなレーザーにより液導入部の有無を検出することで、
図3に示した熱交換板10a又は熱交換板10bであるかを判別することができる。なお、熱交換板10の種類を判別するためのセンサーとしては、レーザーによる位置判別を行うセンサーに限られない。例えば、熱交換板10を撮像し、得られた画像を解析することで熱交換板の判別をしてもよいし、バーコードなど熱交換板の種類を識別する符号を熱交換板に付し、それを読み取るバーコードリーダーであってもよい。
【0022】
搬送装置20の近傍には、第3ロボットアーム33よりも下流にラインセンサー60が配置されている。ラインセンサー60は、熱交換板10の表面を撮像する撮像装置である。ラインセンサー60は、熱交換板10の幅方向よりも広い範囲を撮像可能であり、搬送装置20により搬送される熱交換板10の進行方向の先頭から末尾までの範囲で撮像することで、熱交換板10の他方面(蛍光液が塗布されていない面)の画像を形成する。
【0023】
また、特に図示しないが、ラインセンサー60の撮像対象範囲に向けて紫外線を照射するブラックライトが配置されている。ラインセンサー60の撮像中においてはブラックライトによる紫外線が照射されている。熱交換板10に貫通欠陥部が生じていれば、一方面(下方を向いた面)から貫通欠陥部を経由して他方面に蛍光液が現れており、紫外線により蛍光が発せられる。したがって、貫通欠陥部が生じていれば、ラインセンサー60は蛍光を含んだ熱交換板10の表面の画像を形成することになる。
【0024】
なお、ラインセンサー60の撮像対象範囲に向けては、複数の光源から光を照射することが好ましい。例えば、撮像対象範囲に向けて、平面視で四方から光を照射する。このような複数の光源を設けることで凹凸のある熱交換部11に生じ得る陰影を薄くすることができる。熱交換部11の陰影が薄くなることで、ラインセンサーにより形成される画像から陰影を排除し、後述する画像処理により貫通欠陥部をより検出しやすくすることができる。
【0025】
制御装置40は、CPU及びメモリを備え、メモリに記憶されたプログラムを読み取り実行する。制御装置40はプログラムを実行することで熱交換板10の種類に応じて蛍光液を塗布させるパターンを選択し、ロボットアーム30に蛍光液を塗布させる。
図2に制御装置40の各機能について説明する。
【0026】
制御装置40は、搬送制御部41、熱交換板判定部42、塗布制御部43、貫通欠陥判定部44を備える。
【0027】
搬送制御部41は、搬送装置20を制御して熱交換板10を搬送させる。具体的には、熱交換板10が熱交換板センサー50、ロボットアーム30、ラインセンサー60に対して所定位置となるように搬送・停止を行う。
【0028】
熱交換板判定部42は、熱交換板センサー50より得られた情報を元に熱交換板10の種類を判別する。制御装置40には、予め、扱う全ての種類の熱交換板10の形状に関する情報が記憶されている。そして、熱交換板判定部42は、熱交換板センサー50より送られる情報と熱交換板10の当該情報とを照らし合わせることで、搬送されている熱交換板10の種類を判定する。
【0029】
塗布制御部43は、熱交換板10の種類に応じて設定された被膜のパターンを選択し、ロボットアーム30に対して選択したパターンに基づいて被膜を形成させる。被膜とは熱交換板10に塗布された蛍光液をいう。被膜のパターンとは熱交換板10に塗布された被膜の形状、配置をいう。制御装置40には予め被膜のパターンが記憶されており、そのパターンを形成するようにロボットアーム30を動作させる。被膜のパターンについては後述する。なお、塗布制御部は請求項の被膜形成制御部の一例である。
【0030】
貫通欠陥判定部44は、ラインセンサー60により得られた画像を元に、貫通欠陥部の有無を判定する。例えば、
図4に示すように、ラインセンサー60により得られた画像70に対して公知の画像処理により、蛍光している蛍光部6を検出する。蛍光部6が検出されたら蛍光部6には貫通欠陥部15が生じていると判定する。この判定結果は、例えば、蛍光部6を拡大したりマーカーを付した画像70をモニター61(
図1参照)に表示してもよい。なお、貫通欠陥部の判定は、暗室にて紫外線を照射し、蛍光を視認することにより行ってもよい。
【0031】
図5を用いて蛍光液の塗布について詳細に説明する。2台の第1ロボットアーム31と第2ロボットアーム32により一枚の熱交換板10を分担して蛍光液を塗布する。ロボットアームのそれぞれは、熱交換板10に形成される被膜に要する蛍光液の総量よりも少ない量の蛍光液で被膜を形成し、又は、熱交換板10の被膜が形成される総面積よりも小さい面積に被膜を形成する。なお熱交換板10に形成される被膜とは、熱交換板10のうち貫通欠陥部が生じ得る全範囲に形成される被膜である。
図3に示した熱交換板10では、一方面側における溝部12及び溝部12より内側にある熱交換部11の全体に被膜が形成される。
【0032】
まず、上流側の第1ロボットアーム31は、熱交換板10の一方面に対して、複数箇所に間隔を空けて蛍光液からなる第1被膜3を形成する。同図の例では矩形状の被膜を複数箇所に間隔を空けて形成している。熱交換板10aの場合は液導入部13a~13dがあるのでその部分には第1被膜3を形成しないようなパターンとする。熱交換板10bの場合は液導入部13a~13bがないのでその部分に第1被膜3を形成するパターンとする。
【0033】
下流側の第2ロボットアーム32は、第1被膜3を延ばすように刷毛34を移動させることで、一方面の全体を被覆する第2被膜4を形成する。さらには、第2ロボットアーム32は、溝部12に対して蛍光液を塗布して第3被膜5を形成する。熱交換板10aの場合は液導入部13a~13dがあるのでその部分には第2被膜4を形成しないようなパターンとする。熱交換板10bの場合は液導入部13a~13dがないのでその部分に第2被膜4を形成するパターンとする。
【0034】
一度の動作で蛍光液を塗布して被膜を形成できない場合は、塗布制御部43は、第1ロボットアーム31及び第2ロボットアーム32に容器に刷毛34を移動させて蛍光液を付着させる。
【0035】
このように第1ロボットアーム31は熱交換板10の一方面に粗く被膜を形成し、第2ロボットアーム32は熱交換板10の一方面全体と溝部12に満遍なく被膜を形成する、というように役割分担する。
【0036】
図6に役割分担した場合の時間短縮効果について説明する。
図6の横方向はロボットアームの種々の動作に要する所要時間を示す。
【0037】
まず、
図6(a)に示すように一台のロボットアームで被膜を形成する場合、まず刷毛を容器中の蛍光液に浸すことで刷毛に蛍光液を付着させる。この動作を補給動作と称する。そして刷毛を熱交換板の一方面に接触させながら移動させることで熱交換板に被膜を形成させる。この動作を塗布動作と称する。一度の塗布動作で熱交換板に被膜を形成しきれない場合は、補給動作と塗布動作を適宜繰り返す。
図6(a)の例では、それらの動作を4回繰り返して一枚の熱交換板10に被膜を形成している。
【0038】
図6(b)に上述したような二台のロボットアーム30で動作する場合を示す。第1ロボットアーム31は、熱交換板10の全体に形成する被膜よりも少ない面積及び少ない量の蛍光液を用いるから、例えば、補給作業は一度で済む。第2ロボットアーム32は、既に熱交換板10に形成された第1被膜3を延ばすので、補給作業を必要とせずに塗布動作を行える。したがって、相当に短い時間で第2被膜4を形成することができる。そして、その短縮できた時間を利用して、補給動作を行い、溝部12に第3被膜5を形成する。このように第1ロボットアーム31による作業時間と、第2ロボットアーム32による作業時間がほぼ同じになるように被膜を形成することが好ましい。
【0039】
図6(b)に示すように、第1ロボットアーム31では被膜対象の面積が少ないことで塗布動作に要する時間を短縮することができる。また、要する蛍光液の量が少ないので、補給動作の回数を削減することによる時間短縮効果が得られる。第2ロボットアーム32では、既に形成された第1被膜3を延ばす塗布動作であるから、補給動作が不要となり、その分、作業に要する時間を短縮することができる。
【0040】
第2ロボットアーム32は、第2被膜4と第3被膜5の二種類を形成する。このような場合、それぞれに適した刷毛を有していてもよい。
図7に複数の刷毛を持たせた第2ロボットアーム32を例示する。第2ロボットアーム32は先端に第1刷毛35と第2刷毛36を備えている。第1刷毛35は、第2刷毛36より幅広である。
【0041】
第2被膜4は点在する第1被膜3を水平方向に延ばすことにより形成されることから、塗布制御部43は幅の広い第1刷毛35を用いて第2被膜4を形成するように第2ロボットアーム32を制御する。一方、第3被膜5は溝部12に蛍光液を塗布することにより形成されるから、塗布制御部43は比較的幅が狭く長い第2刷毛36を用いて第3被膜5を形成するように第2ロボットアーム32を制御する。なお、第2被膜4と第3被膜5はどちらを先に形成してもよい。
【0042】
このように塗布対象の形状に適した複数種類の第1刷毛35及び第2刷毛36を第2ロボットアームに設けることで、熱交換板10の一方面をより確実に漏れなく被膜を形成することができる。また、第1刷毛35を有するロボットアームと、第2刷毛36を有するロボットアームをそれぞれ要することがないのでコスト削減の効果がある。また、一台のロボットアームに第1刷毛35で第2被膜4を形成し、その後に第1刷毛35を第2刷毛36に交換して第3被膜5を形成することも可能であるが、この方法では交換に時間を要してしまう。しかしながら、第2ロボットアーム32は、第1刷毛35及び第2刷毛36を備えているので、そのような交換に要する時間を不要とすることができ、被膜の形成に掛かる時間を短縮することができる。
【0043】
上述したような構成及び制御を行うメンテナンスシステム1は、熱交換板10を搬送装置20で搬送し、熱交換板10の一方面に蛍光液からなる被膜を形成する。この被膜は、複数台、本実施形態では2台のロボットアーム30により役割分担して形成する。すなわち、上流側の第1ロボットアーム31は、蛍光液を複数箇所に点在するようにして塗布することで第1被膜3を形成する。次に下流側の第2ロボットアーム32は、第1被膜3を延ばすことで一方面の全体を覆う第2被膜4を形成するとともに溝部12に第3被膜5を形成する。
【0044】
第1被膜3は、熱交換板10の一方面の全体に要する蛍光液の総量よりも少なく、かつ一方面の被塗布面積よりも狭い。そのため、第1被膜3を形成する時間は、一方面の全体に被膜を形成するよりも短い時間ですむ。また塗布する蛍光液の量が少ないことから第1ロボットアーム31が蛍光液の容器へ刷毛34を運ぶ動作の回数を削減できるから、その分、塗布に要する時間を短縮できる。
【0045】
一方、第2被膜4は、第1被膜3を延ばすだけであるから、第2ロボットアーム32が蛍光液の容器へ運ぶ動作が不要となり、その分、塗布に要する時間を短縮できる。第2被膜4の形成のために追加の蛍光液が必要となるとしても、すでに第1被膜3があるから少量ですむので、第2ロボットアーム32が第2被膜4を形成するために要する時間を短縮することができる。また、第3被膜5についても、熱交換板10の一方面の全体に要する蛍光液の総量よりも少なく、かつ一方面の被塗布面積よりも狭い。このように塗布する蛍光液の量が少ないことから第2ロボットアーム32が蛍光液の容器へ刷毛34を運ぶ動作の回数を削減できるから、その分、塗布に要する時間を短縮できる。
【0046】
このように、メンテナンスシステム1は、複数台のロボットアーム30により役割分担して形成することで、蛍光液を塗布して被膜を形成する時間を短縮することができるので、効率的に熱交換板10の貫通欠陥部の検出を行うことができる。
【0047】
なお、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【0048】
以下に、被膜の形成パターンについて例示する。
[変形例1]
第1ロボットアーム31は、第1被膜3を形成するとともに溝部12に蛍光液からなる第3被膜5の一部を形成し、第2ロボットアーム32は、第1被膜3を延ばして一方面全体を被覆する第2被膜4を形成するとともに第3被膜5の残部を形成する。つまり、第1ロボットアーム31と第2ロボットアーム32は、溝部12に形成する第3被膜5を分担して形成する。例えば、
図6(c)に示すように、各ロボットアーム30の作業時間がほぼ同じとなるように、第3被膜5を分担して形成させる。
【0049】
[変形例2]
第1ロボットアーム31は、一方面の一部に蛍光液からなる被膜を形成し、第2ロボットアーム32は、一方面の他部に蛍光液からなる被膜を形成する。つまり、上述の実施形態では第2ロボットアーム32は、既にある第1被膜3を形成するので補給動作が不要であったが、これに限定されず、第2ロボットアーム32において補給動作を行い、熱交換板10に被膜を形成させてもよい。この場合、第1ロボットアーム31は一枚の熱交換板10の一方面の一部に被膜を形成し、第2ロボットアーム32は一方面の残部に被膜を形成することが好ましい。
【0050】
[変形例3]
ロボットアーム30は、刷毛34を有し、刷毛34を容器の蛍光液に浸した後に刷毛34を熱交換板10の一方面上を移動させることで被膜を形成する。このとき、一枚の熱交換板10につき一回、刷毛34を容器の蛍光液に浸し、刷毛34により被膜を形成してもよい。すなわち、ロボットアーム30が担当する熱交換板10の一方面の領域に対して、補給動作を一回行うのみでその領域に被膜を形成する。
【0051】
例えば、上記実施形態では、被膜を形成するために蛍光液を刷毛で塗布したが、このような方法に限定されない。例えば、スプレーや噴射ノズルを用い、熱交換板10から一定距離を空けた位置から熱交換板10に蛍光液を噴射することで被膜を形成してもよい。
【0052】
また、容器に蛍光液を貯留し、その蛍光液に刷毛を浸すことで刷毛に蛍光液を付着させていたがこのような態様に限定されない。例えば、ロボットアームに、刷毛、蛍光液を貯留したタンク、タンクから刷毛に蛍光液を送液するチューブやポンプなどを設ける。そして、タンクから刷毛に蛍光液を送液することで刷毛に蛍光液を含浸させ、その刷毛によって熱交換板10に被膜を形成させる。このような構成によれば、補給動作が不要になるので、さらなる時間短縮を実現することができる。
【0053】
また、2台のロボットアーム30により被膜形成を分担したがこのような方法に限定されず、3台以上のロボットアームにより分担してもよい。
【0054】
また、2台のロボットアーム30による被膜形成は、上述した分担の仕方に限定されない。例えば、蛍光液が塗布される一方面をロボットアームの台数分に分割し、各ロボットアームにて分割された領域のそれぞれに被膜を形成させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…メンテナンスシステム、2…蛍光液、3…第1被膜、4…第2被膜、5…第3被膜、6…蛍光部、10、10a、10b…熱交換板、11…熱交換部、12…溝部、15…貫通欠陥部、20…搬送装置、30…ロボットアーム、31…第1ロボットアーム、32…第2ロボットアーム、33…第3ロボットアーム、34…刷毛、35…第1刷毛、36…第2刷毛、37…把持ハンド、40…制御装置、50…熱交換板センサー、60…ラインセンサー、61…モニター、70…画像
【要約】
【課題】熱交換板に生じた亀裂の有無をより効率的に検査することができるプレート式熱交換器の熱交換板のメンテナンス方法及びメンテナンスシステムを提供する。
【解決手段】プレート式熱交換器の熱交換板の一方面に蛍光液からなる被膜を形成する複数のロボットアーム30と、熱交換板10をロボットアームへ搬送する搬送装置20と、熱交換板10の他方面に紫外線を照射し、蛍光が確認された箇所に貫通欠陥部が生じていると判定する検査手段60と、を備え、ロボットアーム30のそれぞれは、熱交換板10に形成される被膜に要する蛍光液の総量よりも少ない量の蛍光液で被膜を形成し、又は、熱交換板10の被膜が形成される総面積よりも小さい面積に被膜を形成する。
【選択図】
図1