(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】アイドルストップ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/04 20160101AFI20241211BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20241211BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20241211BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20241211BHJP
【FI】
H02P27/04
B60L15/20 J
F02D29/06 D
F02D29/06 Q
H02P21/22
(21)【出願番号】P 2021042365
(22)【出願日】2021-03-16
【審査請求日】2021-03-16
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】324003048
【氏名又は名称】三菱電機モビリティ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古川 晃
【合議体】
【審判長】林 毅
【審判官】脇岡 剛
【審判官】山崎 慎一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-51892(JP,A)
【文献】特許第46772236(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用発電電動機の電機子巻線に電圧を印加する電圧印加部を制御するMG制御部
を備え、
前記MG制御部は、
前記車両用発電電動機の
駆動時において、磁束推定制御を実施することで前記車両用発電電動機内に発生する磁束を推定する磁束推定部と、
前記磁束推定部により推定された前記磁束と、エンジンの再始動に要する前記車両用発電電動機の出力トルクから決定される閾値とに基づいて、前記車両用発電電動機の性能が劣化しているかどうかを判定する劣化判定部と
を有しており、
前記MG制御部は、前記劣化判定部による判定結果に基づいて、前記エンジンのアイドルストップに関する制御を行い、
前記磁束推定部は、前記磁束推定制御を実施する際には、電圧指令値に応じて前記電機子巻線に流れる電流値の検出結果を状態値
に変換し、前記状態値と前記電圧指令値とに基づいて前記磁束を推定する
アイドルストップ制御装置。
【請求項2】
前記MG制御部は、前記車両用発電電動機の性能が劣化していると判定された場合に、前記アイドルストップを禁止する請求項1記載のアイドルストップ制御装置。
【請求項3】
前記MG制御部は、前記車両用発電電動機の性能が劣化していると判定された場合に、前記アイドルストップからの復帰に始動用電動機を用いる請求項1記載のアイドルストップ制御装置。
【請求項4】
前記MG制御部は、
前記MG制御部に入力された制御指令に基づいて、電流指令値を演算し、前記電流指令値に基づいて前記電圧指令値を演算する電圧指令演算部
をさらに有している
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のアイドルストップ制御装置。
【請求項5】
mを自然数として、前記車両用発電電動機がm組の前記電機子巻線を有しているとき、
前記磁束推定部は、m組の前記電流指令値のd軸成分の和であるd軸和電流をゼロとして制御した状態における前記電圧指令値のq軸成分を用いて、前記磁束を演算する請求項4記載のアイドルストップ制御装置。
【請求項6】
mを2以上の整数として、前記車両用発電電動機がm組の前記電機子巻線を有している場合において、
前記磁束推定部は、前記磁束をφ、前記電圧指令値のq軸成分をVq_sum、電気角速度をω、d軸自己インダクタンスをLd、d軸相互インダクタンスをMd、前記d軸和電流をId_sum、m組の前記電機子巻線の各抵抗をRa、m組の前記電流指令値のq軸成分の和であるq軸和電流をIq_sumとしたとき、
【数1】
において、前記d軸自己インダクタンスLdと前記d軸相互インダクタンスMdとを含む項を削除して前記磁束を演算する請求項5記載のアイドルストップ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アイドルストップ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のアイドルストップ装置付き車両の制御装置では、スタータモータの力行時間が積算される。そして、力行時間の積算時間に基づいて、スタータモータの劣化判定が行われる。スタータモータが劣化していると判定された場合、アイドルストップが禁止される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の制御装置では、スタータモータの力行時間の積算時間に基づいて、スタータモータの劣化判定が行われる。スタータモータは、エンジン始動時又はエンジン再始動時に動作するものであり、力行運転のみが実施できればよいので、力行時間の積算時間による劣化判定が可能である。しかし、発電も実施する車両用発電電動機では、発電も含めた運転状態において劣化判定を行わないと、アイドルストップ後の再始動ができなくなる可能性がある。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するために為されたものであり、車両用発電電動機の劣化判定をより適正に行うことができるアイドルストップ制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るアイドルストップ制御装置は、車両用発電電動機の電機子巻線に電圧を印加する電圧印加部を制御するMG制御部を備え、MG制御部は、車両用発電電動機の駆動時と発電時のいずれか一方または両方において、車両用発電電動機に発生する磁束を推定する磁束推定部と、磁束推定部により推定された磁束に基づいて、車両用発電電動機の性能が劣化しているかどうかを判定する劣化判定部とを有しており、MG制御部は、劣化判定部による判定結果に基づいて、車両用発電電動機のアイドルストップに関する制御を行う。
【発明の効果】
【0007】
本開示のアイドルストップ制御装置によれば、車両用発電電動機の劣化判定をより適正に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1による車両の要部を一部ブロックで示す構成図である。
【
図2】
図1の車両用発電電動機、第1電圧印加部、第2電圧印加部、界磁電圧印加部、及びMG制御部を示す概略の回路図である。
【
図3】回転座標系における電流ベクトルを示すグラフである。
【
図4】位相角と出力トルクとの関係を示すグラフである。
【
図5】電流の絶対値がIの場合における車両用発電電動機の出力トルクとマグネットトルクとの関係を示すグラフである。
【
図6】界磁電流と磁束との関係を示すグラフである。
【
図7】
図2のMG制御部の動作を示すフローチャートである。
【
図8】実施の形態2による車両の要部を一部ブロックで示す構成図である。
【
図9】
図8のMG制御部の動作を示すフローチャートである。
【
図10】実施の形態1、2によるアイドルストップ制御装置の各機能を実現する処理回路の第1の例を示す構成図である。
【
図11】実施の形態1、2によるアイドルストップ制御装置の各機能を実現する処理回路の第2の例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による車両の要部を一部ブロックで示す構成図である。
図1において、ドライブシャフト101の両端には、それぞれ車輪102が設けられている。ドライブシャフト101には、変速機103を介して、エンジン104が接続されている。
【0010】
車両用発電電動機105は、図示しないベルトを介して、エンジン104に接続されている。また、車両用発電電動機105は、エンジン104の補機として、一対の車輪102を回転させる駆動力を発生する。また、車両用発電電動機105は、エンジン104の回転を利用して発電を行う。
【0011】
また、車両用発電電動機105は、アイドルストップからの復帰時に、力行トルクを発生させてエンジン104の回転の立ち上がりを促進し、エンジン104を停止状態から再始動させる。
【0012】
車両用発電電動機105には、第1電圧印加部106、第2電圧印加部107、及び界磁電圧印加部108が接続されている。
【0013】
アイドルストップ制御装置1は、エンジン制御部10と、MG(Motor Generator)制御部20とを有している。
【0014】
エンジン制御部10は、エンジン104を制御する。エンジン104は、エンジン制御部10からの制御信号に従って、車両を駆動するための駆動トルクを発生する。駆動トルクは、変速機103及びドライブシャフト101を介して、一対の車輪102に伝達される。
【0015】
エンジン制御部10には、複数の信号が入力される。複数の信号には、エンジンキースイッチ信号、アクセル開度信号、ブレーキ圧信号、変速機103のシフト位置信号、エンジン104の回転数信号、車速信号等が含まれている。
【0016】
エンジン制御部10は、入力された複数の信号に基づいて、車両の運転条件を検出する。また、エンジン制御部10は、検出された運転条件に基づいて、エンジン104を制御する。
【0017】
また、エンジン制御部10は、燃費向上のため、アイドルストップ許可条件を満たし、且つアイドルストップ禁止条件に該当しないときに、アイドルストップ制御として、エンジン104を停止させる。アイドルストップ許可条件としては、車両の停止前の減速時であること、車両の停止時であること等が挙げられる。
【0018】
また、エンジン制御部10は、アイドルストップ制御の後、アイドルストップ復帰条件を満たすときに、MG制御部20に制御指令を送信する。
【0019】
MG制御部20は、制御指令に基づいて、車両用発電電動機105を用いてエンジン104を再始動させる。このとき、MG制御部20は、第1電圧印加部106、第2電圧印加部107、及び界磁電圧印加部108における印加電圧を制御し、車両用発電電動機105に流れる電流を制御する。
【0020】
具体的なアイドルストップ許可条件は、例えば、以下の(a)又は(b)が成立し、且つ(c)~(e)のすべてが成立しているときである。なお、条件(e)については、詳細を後述する。
(a)車速がゼロである
(b)燃料カット中かつ車速が速度設定値以下である
(c)アクセル開度が第1開度設定値以下である
(d)ブレーキ圧が第1ブレーキ圧設定値以上である
(e)車両用発電電動機105の性能が正常である
【0021】
具体的なアイドルストップ禁止条件は、例えば、次の(f)~(h)のいずれかが成立しているときである。なお、条件(h)については、詳細を後述する。
(f)エンジン水温が温度設定値以下である
(g)直流電圧が電圧設定値以下である
(h)車両用発電電動機105の性能が劣化している
【0022】
具体的なアイドルストップ復帰条件は、例えば、次の(i)~(k)のいずれかが成立しているときである。
(i)アクセル開度が第2開度設定値以上である
(j)ブレーキ圧が第2ブレーキ圧設定値以下である
(k)ステアリングトルクがトルク設定値以上である
【0023】
図2は、
図1の車両用発電電動機105、第1電圧印加部106、第2電圧印加部107、界磁電圧印加部108、及びMG制御部20を示す概略の回路図である。
【0024】
車両用発電電動機105は、2組の電機子巻線、即ち第1電機子巻線111及び第2電機子巻線112と、界磁巻線113とを有している。実施の形態1の車両用発電電動機105は、界磁巻線型交流回転機である。
【0025】
第1電機子巻線111は、3相の巻線、即ち巻線U1、巻線V1、及び巻線W1から構成されている。第2電機子巻線112は、3相の巻線、即ち巻線U2、巻線V2及び巻線W2から構成されている。第1電機子巻線111と第2電機子巻線112とは、互いに電気的に接続されることなく、車両用発電電動機105の図示しない固定子に納められている。
【0026】
界磁巻線113は、車両用発電電動機105の図示しない回転子に納められている。また、界磁巻線113は、界磁電流が流されることによって電磁石として機能する。
【0027】
なお、ここでは、界磁巻線113を有する2重3相交流回転機を例として説明するが、回転子に磁石が設けられている交流回転機、4相以上の電機子巻線を有する交流回転機、1組又は3組以上の電機子巻線を有する交流回転機などであっても、同様の効果を得ることができる。
【0028】
第1電圧印加部106は、第1電機子巻線111に電圧を印加する。第2電圧印加部107は、第2電機子巻線112に電圧を印加する。界磁電圧印加部108は、界磁巻線113に電圧を印加する。
【0029】
第1電圧印加部106、第2電圧印加部107、及び界磁電圧印加部108には、直流電源109から直流電圧Vdcが印加される。直流電源109は、直流電圧を印加する機器であれば、特に限定されない。直流電圧を印加する機器としては、バッテリー、DC-DCコンバータ、ダイオード整流器、PWM(Pulse Width Modulation)整流器等が挙げられる。
【0030】
直流電源109には、平滑コンデンサ110が並列に接続されている。平滑コンデンサ110は、母線電流の変動を抑制して、直流電流を安定化する。ここでは細かく図示しないが、真のコンデンサ容量C以外に、等価直列抵抗Rc、リードインダクタンスLcが存在する。
【0031】
第1電圧印加部106は、例えば逆変換回路であるインバータを用い、直流電圧Vdcを電力変換して、巻線U1、巻線V1、及び巻線W1に電圧を印加する。これにより、巻線U1に電流Iu1が通電され、巻線V1に電流Iv1が通電され、巻線W1に電流Iw1が通電される。
【0032】
具体的には、第1電圧印加部106は、3つの高電位側スイッチ部Sup1,Svp1,Swp1と、3つの低電位側スイッチ部Sun1,Svn1,Swn1とを有している。スイッチ部Sup1,Svp1,Swp1,Sun1,Svn1,Swn1のそれぞれは、スイッチング信号Qup1,Qvp1,Qwp1,Qun1,Qvn1,Qwn1のうちの対応するスイッチング信号に基づいて、オンオフされる。
【0033】
第2電圧印加部107は、例えば逆変換回路であるインバータを用い、直流電圧Vdcを電力変換して、巻線U2、巻線V2、及び巻線W2に電圧を印加する。これにより、巻線U2に電流Iu2が通電され、巻線V2に電流Iv2が通電され、巻線W2に電流Iw2が通電される。
【0034】
具体的には、第2電圧印加部107は、3つの高電位側スイッチ部Sup2,Svp2,Swp2と、3つの低電位側スイッチ部Sun2,Svn2,Swn2とを有している。スイッチ部Sup2,Svp2,Swp2,Sun2,Svn2,Swn2のそれぞれは、スイッチング信号Qup2,Qvp2,Qwp2,Qun2,Qvn2,Qwn2のうちの対応するスイッチング信号に基づいて、オンオフされる。
【0035】
界磁電圧印加部108は、例えばコンバータを用い、直流電圧Vdcを電力変換して、車両用発電電動機105の界磁巻線113に電圧を印加する。これにより、界磁巻線113に界磁電流Ifが通電される。
【0036】
具体的には、界磁電圧印加部108は、2つの高電位側スイッチ部Sp1,Sp2と、2つの低電位側スイッチ部Sn1,Sn2とを有している。スイッチ部Sp1,Sp2,Sn1,Sn2のそれぞれは、スイッチング信号Qp1,Qp2,Qn1,Qn2のうちの対応するスイッチング信号に基づいて、オンオフされる。
【0037】
例えば、各スイッチング信号Qup1~Qwn1,Qup2~Qwn2,Qp1~Qn2の値が「1」ならば、その信号は、対応するスイッチ部をオンするための信号である。また、各スイッチング信号Qup1~Qwn1,Qup2~Qwn2,Qp1~Qn2の値が「0」ならば、その信号は、対応するスイッチ部をオフするための信号である。
【0038】
また、各スイッチ部Sup1~Swn1,Sup2~Swn2,Sp1~Sn2は、半導体スイッチとダイオードとが逆並列に接続されて構成されている。半導体スイッチとしては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、バイポーラトランジスタ、MOS(Metal Oxide Semiconductor)パワートランジスタ等が挙げられる。
【0039】
なお、界磁巻線113に流す電流の方向を変える必要がない場合には、スイッチ部Sp2は常時オフとしてもよい。
【0040】
スイッチ部Sn2も、常時オフとするか、又はダイオードで構成してもよい。但し、ダイオードの抵抗が大きいため、半導体スイッチをオンした方が発熱量を低減できる。
【0041】
MG制御部20は、機能ブロックとして、電圧指令演算部21、出力電圧生成部22、磁束推定部23、及び劣化判定部24を有している。
【0042】
電圧指令演算部21は、エンジン制御部10からの制御指令に基づいて、電流指令を演算する。また、電圧指令演算部21は、演算した電流指令に基づいて、電圧指令Vu1,Vv1,Vw1、電圧指令Vu2,Vv2,Vw2、及び界磁電圧指令Vfを演算し、出力電圧生成部22に出力する。
【0043】
電圧指令Vu1,Vv1,Vw1は、それぞれ巻線U1,V1,W1に電圧を印加するための指令である。電圧指令Vu2,Vv2,Vw2は、それぞれ巻線U2,V2,W2に電圧を印加するための指令である。界磁電圧指令Vfは、界磁巻線113に電圧を印加するための指令である。
【0044】
以下、電流指令の生成方法について説明する。
図3は、回転座標系における電流ベクトルを示すグラフである。電流ベクトルの絶対値をIとし、q軸からの位相角をβとすると、d軸電流Id及びq軸電流Iqは、式(1)で与えられる。
【0045】
【0046】
図4は、位相角βと出力トルクTとの関係を示すグラフである。細い実線は、電流の絶対値がIの場合の出力トルクを示している。1点鎖線は、電流の絶対値がIの66.7%である場合の出力トルクを示している。破線は、電流の絶対値がIの33.3%である場合の出力トルクを示している。
【0047】
太い実線Aは、正トルクにおける最小電流最大トルク曲線である。太い実線Bは、負トルクにおける最小電流最大トルク曲線である。
【0048】
最小電流最大トルク曲線A及びB上のd軸電流及びq軸電流の組み合わせを通電することによって、同一トルクを出力するための電流の絶対値を最小にすることができる。このため、制御指令により要求される要求トルクに対して、最小電流最大トルク曲線上のd軸電流及びq軸電流の組み合わせが、通常時の電流指令として選択される。
【0049】
ここでは、簡単のため、d軸電流及びq軸電流の組み合わせのみで説明したが、界磁電流も含めて最小損失となるようなd軸電流、q軸電流、及び界磁電流が選択されてもよい。また、磁束を推定する場合には、後述する磁束推定制御時における電流指令が選択される。
【0050】
次に、電圧指令Vu1,Vv1,Vw1の演算方法について説明する。第1電機子巻線111に対する電圧指令Vu1,Vv1,Vw1は、例えば、電流フィードバック制御によって求められる。
【0051】
電流フィードバック制御においては、第1電機子巻線111を構成する3相の巻線に流れる電流Iu1,Iv1,Iw1が、既存の電流検出器によって検出される。既存の電流検出器は、例えばシャント抵抗である。これらの電流Iu1,Iv1,Iw1は、固定座標系におけるベクトルである。これらの電流Iu1,Iv1,Iw1は、回転座標系におけるd軸電流Id1及びq軸電流Iq1に変換される。
【0052】
この後、d軸電流Id1とd軸電流指令Id1*との偏差、及びq軸電流Iq1とq軸電流指令Iq1*との偏差がそれぞれゼロとなるように、比例積分制御によって、d軸電圧指令Vd1及びq軸電圧指令Vq1が求められる。
【0053】
そして、回転座標系におけるd軸電圧指令Vd1及びq軸電圧指令Vq1が固定座標系におけるベクトルに変換されることにより、電圧指令Vu1,Vv1,Vw1が求められる。
【0054】
なお、電圧指令Vu1,Vv1,Vw1は、フィードフォワード制御、推定値を用いた制御、又は電流フィードバック制御によって求められてもよい。
【0055】
フィードフォワード制御、及び推定値を用いた制御においては、電圧指令演算部21への電流Iu1,Iv1,Iw1の入力は必須ではない。
【0056】
なお、電流フィードバック制御においては、d軸電流指令Id1*及びq軸電流指令Iq1*を固定座標系のベクトルに変換することにより得られる、電流指令Iu1*,Iv1*,Iw1*を用いてもよい。
【0057】
第2電機子巻線112に対する電圧指令Vu2,Vv2,Vw2の演算方法は、電圧指令Vu1,Vv1,Vw1の演算方法と同様である。
【0058】
なお、第1電機子巻線111及び第2電機子巻線112に対する電圧指令は、d軸和電流Id_sum、q軸和電流Iq_sum、d軸差電流Id_diff、及びq軸差電流Iq_diffを用いた電流フィードバック制御によって、算出されてもよい。
【0059】
d軸和電流Id_sumは、第1電機子巻線111のd軸電流Id1と第2電機子巻線112のd軸電流Id2との和である。q軸和電流Iq_sumは、第1電機子巻線111のq軸電流Iq1と第2電機子巻線112のq軸電流Iq2との和である。d軸差電流Id_diffは、第1電機子巻線111のd軸電流Id1と第2電機子巻線112のd軸電流Id2との差である。q軸差電流Iq_diffは、第1電機子巻線111のq軸電流Iq1と第2電機子巻線112のq軸電流Iq2との差である。
【0060】
次に、界磁電圧指令Vfの演算方法について説明する。界磁電圧指令Vfは、例えば、電流フィードバック制御によって求められる。
【0061】
電流フィードバック制御においては、界磁巻線113に流れる界磁電流Ifが、既存の電流検出器によって検出される。既存の電流検出器は、例えばシャント抵抗である。この後、界磁電流Ifと電流指令との偏差がゼロとなるように、比例積分制御によって、界磁電圧指令Vfが求められる。
【0062】
なお、界磁電圧指令Vfは、フィードフォワード制御、又は推定値を用いた制御によって求められてもよい。
【0063】
フィードフォワード制御、及び推定値を用いた制御においては、電圧指令演算部21への界磁電流Ifの入力は必須ではない。
【0064】
出力電圧生成部22は、電圧指令演算部21から出力された電圧指令Vu1,Vv1,Vw1を、パルス幅変調により変調する。これにより、出力電圧生成部22は、電圧指令Vu1,Vv1,Vw1に応じたパルス幅を持つスイッチング信号Qup1~Qwn1を出力する。
【0065】
なお、スイッチング信号Qup1~Qwn1は、公知の変調方式によって変調された電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’から生成してもよい。公知の変調方式としては、空間ベクトル変調、2相変調等が挙げられる。
【0066】
スイッチング信号Qup2~Qwn2の生成方法、及びスイッチング信号Qp1~Qn2の生成方法は、スイッチング信号Qup1~Qwn1の生成方法と同様である。
【0067】
磁束推定部23は、車両用発電電動機105の駆動時と発電時のいずれか一方または両方において、磁束推定制御を実施する。また、磁束推定部23は、磁束推定制御において、車両用発電電動機105内に発生する磁束φを演算する。
【0068】
具体的には、磁束推定部23は、磁束推定制御の実施中における第1電機子巻線111及び第2電機子巻線112のそれぞれの状態値と指令値とに基づいて、磁束φを演算する。状態値は、d軸電流Id1,Id2及びq軸電流Iq1,Iq2である。指令値は、d軸電圧指令Vd1,Vd2及びq軸電圧指令Vq1,Vq2である。
【0069】
なお、磁束φの演算には、第1電機子巻線111及び第2電機子巻線112のそれぞれのd軸電流及びq軸電流の代わりに、第1電機子巻線111及び第2電機子巻線112のそれぞれに関するd軸電流指令及びq軸電流指令が用いられてもよい。
【0070】
劣化判定部24は、磁束推定部23において算出された磁束φが設定範囲にあるかどうかを判定する。また、劣化判定部24は、磁束推定部23において算出された磁束φが設定範囲を逸脱した場合、車両用発電電動機105の性能が劣化していると判定する。また、劣化判定部24は、車両用発電電動機105の性能が劣化していると判定した場合、アイドルストップを禁止する指令を、エンジン制御部10へ出力する。
【0071】
図5は、電流の絶対値がIの場合における車両用発電電動機105の出力トルクとマグネットトルクとの関係を示すグラフである。実線は、車両用発電電動機105の出力トルクを示している。破線は、マグネットトルクを示している。
【0072】
図5において、実線と破線との差分がリラクタンストルクである。多くの場合、出力トルクにおいてマグネットトルクが占める割合は大きく、磁束φが低下すると、その分だけ出力トルクも低下する。
【0073】
図6は、界磁電流Ifと磁束φとの関係を示すグラフである。車両用発電電動機105の性能が正常である場合における磁束φは、実線により示されている。磁束φは、界磁電流Ifが増加するほど大きくなる。車両用発電電動機105の性能が正常である場合における磁束φidealは、式(2)のように表すことができる。
【0074】
【0075】
例えば、何らかの要因により、回転子の界磁が減磁した場合には、磁束推定部23により得られた磁束φが、
図6の破線のようになり、界磁電流Ifによらず、車両用発電電動機105の性能が正常である場合とくらべて低下する。従って、車両用発電電動機105の出力トルクの最大値は低下する。劣化判定部24は、式(3)を満たす場合、車両用発電電動機105の性能が劣化していると判定し、アイドルストップを禁止する。ここで、φthは、判定用磁束であり、エンジン104の再始動に必要とされる出力トルクから決定される。
【0076】
【0077】
なお、劣化判定部24は、式(4)を用いて性能劣化を判定してもよい。式(4)において、φmaxは、出力可能な界磁電流の最大値における磁束、φrunは、エンジン104の再始動に必要とされる出力トルクTrunから決定される磁束である。
【0078】
【0079】
例えば、磁束φrunは、極対数をP、出力可能なq軸和電流の最大値をIq_sum_maxとすると、式(5)で与えればよい。
【0080】
【0081】
以下、磁束推定制御時における電流指令の与え方、及び磁束の推定方法について説明する。
【0082】
界磁巻線113、第1電機子巻線111、及び第2電機子巻線112に関する電圧方程式は、式(6)のように与えられる。式(6)において、ωは電気角速度である。Raは、第1電機子巻線111及び第2電機子巻線112の各抵抗である。Rfは、界磁巻線113の抵抗である。Ldは、d軸自己インダクタンスである。Lqは、q軸自己インダクタンスである。Lfは、界磁巻線113の自己インダクタンスである。Mdは、第1電機子巻線111と第2電機子巻線112との間のd軸相互インダクタンスである。Mqは、第1電機子巻線111と第2電機子巻線112との間のq軸相互インダクタンスである。Lmdは、第1電機子巻線111と界磁巻線113との間及び第2電機子巻線112と界磁巻線113との間の相互インダクタンスである。φf0は、界磁電流Ifがゼロのときの磁束である。sは、ラプラス演算子である。
【0083】
【0084】
磁束φは式(7)で与えられる。つまり、界磁電流Ifによって磁束φを調整することが可能である。
【0085】
【0086】
各電機子巻線に印加できる電圧は、直流電圧Vdc以下なので、d軸電流及びq軸電流を安定的に所望の値に制御できる条件は、式(8)に示した通りとなる。従って、式(8)の電圧飽和条件を考慮して、磁束推定制御時の界磁電流Ifを決定することにより、磁束推定部23は、d軸電流Id1,Id2及びq軸電流Iq1,Iq2を指令値通りに出力でき、磁束φを精度良く推定できる。
【0087】
【0088】
式(9)のように整理すると、定常状態では式(10)が成り立つ。ここで、Vd_sumは、d軸和電圧である。Vq_sumは、q軸和電圧である。Vd_diffは、d軸差電圧である。Vq_diffは、q軸差電圧である。
【0089】
【0090】
【0091】
式(10)より、磁束φは式(11)によって算出できる。
【0092】
【0093】
d軸自己インダクタンスLd及びd軸相互インダクタンスMdは、磁気飽和によって変化する。そこで、式(11)の右辺第2項を精度良く算出するために、磁束推定部23は、例えば、予めd軸電流、q軸電流、及び界磁電流と、インダクタンスとの関係を規定したマップを用いて磁束φを算出する。
【0094】
また、第1電機子巻線111及び第2電機子巻線112の各抵抗Raは、温度によって変化する。そこで、式(11)の右辺第3項を精度良く算出するために、磁束推定部23は、例えば、温度を検出又は推定した上で、予め温度と抵抗Raとの関係を規定したマップを用いて算出する。
【0095】
インダクタンスは、主に電流によって変化するため、インダクタンス変化の時定数は比較的小さい。これに対し、抵抗は、主に温度によって変化するため、抵抗変化の時定数はインダクタンス変化の時定数よりも大きい。従って、電流制御の演算周期を考慮すると、抵抗成分である式(11)の右辺第3項は、電流が変化しない限り一定と考えてよい。
【0096】
従って、式(12)のように、d軸和電流Id_sumがゼロに制御されることにより、式(11)の右辺第2項はゼロにされる。これにより、式(13)のように、磁束φに与える影響を、抵抗成分の影響のみとすることができ、磁束φの推定精度を向上させることができる。ここでは、2組の電機子巻線が用いられている場合を説明しているが、1組の電機子巻線のみが用いられている場合であっても、同様に磁束φを算出することができる。
【0097】
【0098】
【0099】
さらに、式(14)のように、q軸和電流Iq_sumがゼロに制御されることにより、式(13)の右辺第2項もゼロにされる。これにより、式(15)によって、磁束φを算出できるため、磁束の推定精度をさらに向上させることができる。
【0100】
【0101】
【0102】
出力トルクは、極対数をPとすると、式(16)によって与えられる。
【0103】
【0104】
式(14)が成立する場合には、出力トルクは式(17)により表されるので、車両用発電電動機105は、ゼロではない出力トルクを得ることができる。
【0105】
【0106】
本実施の形態の車両用発電電動機105は、2組の電機子巻線を有している。このため、力行トルクを得るためには、MG制御部20は、d軸差電流Id_diffとq軸差電流Iq_diffとを、互いに同符号になるように制御すればよい。また、回生トルクを得るためには、MG制御部20は、d軸差電流Id_diffとq軸差電流Iq_diffとを、互いに異符号になるように制御すればよい。
【0107】
q軸和電流Iq_sumが式(14)を満たす場合には、式(16)の右辺第1項のマグネットトルク成分がゼロとなる。このため、出力トルクTを得るためには、右辺第2項のリラクタンストルク成分によって、出力トルクTが賄われる必要がある。そこで、磁束推定部23は、式(13)の右辺第2項における各電機子巻線の抵抗Raを、式(18)から同定する。
【0108】
【0109】
d軸差電流Id_diff及びq軸差電流Iq_diffが式(19)を満たすように制御される場合、各電機子巻線の抵抗Raは式(20)により算出できる。
【0110】
【0111】
【0112】
磁束φは、式(21)により推定される。
【0113】
【0114】
このとき、出力トルクTは式(22)によって表される。そのため、以下のような簡単な方法により、車両用発電電動機105は、磁束推定部23によって磁束φが推定されている間に出力トルクTを得ることができる。簡単な方法では、まず、第1電機子巻線111に関するd軸電流指令Id1*と、第2電機子巻線112に関するd軸電流指令Id2*とが等しい値に設定される。その一方で、第1電機子巻線111に関するq軸電流指令Iq1*と、第2電機子巻線112に関するq軸電流指令Iq2*とが異なる値に設定される。この方法によれば、出力トルクTをマグネットトルクのみで表現することが可能なため、要求トルクに対する電流指令を決定しやすい。
【0115】
【0116】
d軸差電流Id_diff及びq軸差電流Iq_diffが式(23)を満たすように制御される場合、各電機子巻線の抵抗Raは、式(24)により算出される。
【0117】
【0118】
【0119】
このとき、磁束φは、式(25)により推定される。
【0120】
【0121】
このときの出力トルクTは式(22)によって表される。そのため、以下のような簡単な方法により、車両用発電電動機105は、磁束推定部23によって磁束φが推定されている間に出力トルクTを得ることができる。簡単な方法では、まず、第1電機子巻線111に関するq軸電流指令Iq1*と、第2電機子巻線112に関するq軸電流指令Iq2*とが等しい値に設定される。その一方で、第1電機子巻線111に関するd軸電流指令Id1*と、第2電機子巻線112に関するd軸電流指令Id2*とが異なる値に設定される。
【0122】
なお、磁束推定制御時の出力トルクTをゼロとするためには、電圧指令演算部21は、d軸電流指令Id1*,Id2*及びq軸電流指令Iq1*,Iq2*をゼロにして、磁束推定部23は、q軸電圧指令Vq1,Vq2を用いて磁束を算出すればよい。
【0123】
次に、図は省略するが、車両用発電電動機105が3組の電機子巻線を有する交流回転機である場合について説明する。磁束φは、式(26)により与えられる。このため、式(12)を満たすようにd軸和電流Id_sumが制御されることによって、磁束推定部23は、式(27)により磁束φを算出することができる。
【0124】
【0125】
【0126】
さらに、式(14)のようにq軸和電流Iq_sumがゼロに制御されることにより、磁束推定部23は、式(28)によって磁束φを算出することができる。
【0127】
【0128】
このとき、出力トルクTは式(29)で与えられる。このため、MG制御部20は、d軸電流Id1,Id2及びq軸電流Iq1,Iq2を式(30)のように通電する。そして、MG制御部20は,3組のうち第1組の電流指令のd軸成分と第2組の電流指令のd軸成分との差、及び第1組の電流指令のq軸成分と第2組の電流指令のq軸成分との差を、それぞれゼロではない値とする。これにより、ゼロではない出力トルクを得ることができる。
【0129】
【0130】
【0131】
また、式(27)の右辺第2項における各電機子巻線の抵抗Raは、2組の場合と同様に、式(31)によって同定される。ここで、Vd_diff12は、第1組と第2組との間のd軸差電圧である。Vq_diff12は、第1組と第2組との間のq軸差電圧である。Id_diff12は、第1組と第2組との間のd軸差電流である。Iq_diff12は、第1組と第2組との間のq軸差電流である。
【0132】
【0133】
以上、1組~3組の電機子巻線を有する交流回転機の場合について説明したが、mを自然数としたとき、m組の電機子巻線を有する交流回転機についても、同様の効果を得ることができる。
【0134】
mを自然数として、車両用発電電動機105がm組の電機子巻線を有しているとき、磁束推定部23は、m組の電流指令のd軸成分の和をゼロとして制御した状態における電圧指令のq軸成分を用いて、磁束を演算することができる。
【0135】
なお、回転子に界磁巻線113が設けられておらず、回転子に磁石が設けられている交流回転機では、式(32)により磁束φが与えられる。ここで、φmは磁石の磁束である。また、回転子に界磁巻線113及び磁石が設けられている交流回転機では、式(33)により磁束φが与えられる。
【0136】
【0137】
【0138】
回転子に磁石が設けられている場合、磁石の減磁によって始動時の駆動トルクが低下する。これにより、磁石が減磁している状態においてアイドリングストップが行われた場合であっても、エンジン104を再始動できなくなることが抑制される。
【0139】
また、回転子に界磁巻線113が設けられている場合、磁石の減磁によって、界磁電流Ifよる磁束が飽和し易い状態となり、駆動トルクが低下する。これにより、磁石が減磁している状態においてアイドルストップが行われた場合であっても、再始動できなくなることが抑制される。
【0140】
図7は、
図2のMG制御部20の動作を示すフローチャートである。MG制御部20は、
図7に示す処理を、予め設定されたタイミングで実行する。
【0141】
MG制御部20は、まずステップS101において、電流指令を演算する。続いて、MG制御部20は、ステップS102において、電圧指令を演算する。そして、MG制御部20は、ステップS103において、第1電圧印加部106、第2電圧印加部107、及び界磁電圧印加部108に対して、それぞれ電圧指令を出力する。
【0142】
また、MG制御部20は、ステップS104において、車両用発電電動機105内の磁束を演算する。そして、MG制御部20は、ステップS105において、車両用発電電動機105の性能の劣化判定を行う。言い換えると、MG制御部20は、車両用発電電動機105の性能が正常であるかどうかを判定する。
【0143】
車両用発電電動機105の性能が正常であると判定された場合、MG制御部20は、ステップS106において、アイドルストップを許可し、その回の処理を終了する。
【0144】
一方、車両用発電電動機105の性能が正常ではないと判定された場合、即ち、車両用発電電動機105の性能が劣化していると判定された場合、MG制御部20は、ステップS107において、アイドルストップを禁止する。そして、MG制御部20は、アイドルストップを禁止する旨の指令をエンジン制御部10に送り、その回の処理を終了する。
【0145】
このようなアイドルストップ制御装置1では、MG制御部20が、磁束推定部23と、劣化判定部24とを有している。磁束推定部23は、車両用発電電動機105の駆動時と発電時のいずれか一方または両方において、車両用発電電動機105内に発生する磁束を推定する。劣化判定部24は、磁束推定部23により推定された磁束に基づいて、車両用発電電動機105の性能が劣化しているかどうかを判定する。
【0146】
このため、車両用発電電動機105の劣化判定をより適正に行うことができる。
【0147】
また、MG制御部20は、劣化判定部による判定結果に基づいて、車両用発電電動機のアイドルストップに関する制御を行う。MG制御部20は、車両用発電電動機105の性能が劣化していると判定された場合に、アイドルストップを禁止する。このため、再始動時の出力トルク不足によって、アイドルストップから復帰できない状況を回避することができる。
【0148】
また、劣化判定部24は、エンジン104の再始動に要する出力トルクに基づいて、車両用発電電動機105の性能が劣化しているかどうかを判定する。このため、再始動に必要な最低限のトルクを確保する磁束条件によって劣化判定を行うことができ、劣化と判定される範囲を限定的にすることができる。
【0149】
また、磁束推定部23は、第1電機子巻線111及び第2電機子巻線112に流れる電流と、第1電圧印加部106及び第2電圧印加部107に対する電圧指令とに基づいて、車両用発電電動機105内に発生する磁束を演算する。このため、電流と電圧との関係から磁束を推定することにより、磁束の低下の判定を容易に行うことができる。
【0150】
また、mを自然数として、車両用発電電動機105がm組の電機子巻線を有しているとき、磁束推定部23は、m組の電流指令のd軸成分の和をゼロとして制御した状態における電圧指令のq軸成分を用いて、車両用発電電動機105内に発生する磁束を演算する。このため、q軸のみに電流を流すことにより、d軸電流とインダクタンスとの積で表される項を無視することができる。これにより、インダクタンスの影響を考慮しなくて済み、車両用発電電動機105内に発生する磁束を精度良く推定できる。
【0151】
また、車両用発電電動機105が2組以上の電機子巻線を有しているとき、磁束推定部23は、インダクタンスの項を削除して車両用発電電動機105内に発生する磁束を演算する。これにより、車両用発電電動機105内に発生する磁束を精度良く推定できる。
【0152】
実施の形態2.
次に、
図8は、実施の形態2による車両の要部を一部ブロックで示す構成図である。エンジン104には、車両用発電電動機105とは別に、始動用電動機114が設けられている。始動用電動機114は、図示しないベルト又はギアを介して、エンジン104に接続されている。
【0153】
また、始動用電動機114は、エンジン104の始動時に、駆動トルクを発生してエンジン104を回転させ、エンジン104の完爆までの運転をアシストする。
【0154】
アイドルストップからの通常の復帰時には、車両用発電電動機105が用いられる。このため、始動用電動機114の耐用回数は、車両用発電電動機105の耐用回数に比べて小さく設計されている。
【0155】
エンジン制御部10は、エンジン104の始動時にエンジン104を回転させるため、始動用電動機114を駆動する。一方、アイドルストップからの通常の復帰時には、エンジン制御部10は、実施の形態1と同様に、MG制御部20に制御指令を送信し、車両用発電電動機105を用いてエンジン104を再始動させる。
【0156】
但し、MG制御部20は、車両用発電電動機105の性能が劣化していると判定された場合に、アイドルストップからの復帰に始動用電動機114を用いる。
【0157】
図9は、
図8のMG制御部20の動作を示すフローチャートである。ステップS101からステップS105までの処理は、実施の形態1と同様である。
【0158】
ステップS105において、車両用発電電動機105の性能が正常であると判定された場合、MG制御部20は、ステップS201において、アイドルストップからの復帰時に車両用発電電動機105を使用することを許可し、その回の処理を終了する。
【0159】
一方、車両用発電電動機105の性能が正常ではない判定された場合、即ち、車両用発電電動機105の性能が劣化していると判定された場合、MG制御部20は、ステップS202において、アイドルストップからの復帰時に車両用発電電動機105を使用することを禁止する。そして、MG制御部20は、アイドルストップからの復帰に始動用電動機114を用いる指令を、エンジン制御部10に送り、その回の処理を終了する。
【0160】
図8に示す構成及び
図9に示す動作を除いて、他の構成及び動作は実施の形態1と同様である。
【0161】
このようなアイドルストップ制御装置1によっても、車両用発電電動機105の劣化判定をより適正に行うことができ、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0162】
また、MG制御部20は、車両用発電電動機105の性能が劣化していると判定された場合に、アイドルストップからの復帰に始動用電動機114を用いる。このため、車両用発電電動機105の性能が劣化した場合でも、アイドルストップを実施でき、エンジン104を再始動することが可能となる。
【0163】
ここで、実施の形態1、2のアイドルストップ制御装置1の各機能は、処理回路によって実現される。
図10は、実施の形態1、2によるアイドルストップ制御装置1の各機能を実現する処理回路の第1の例を示す構成図である。第1の例の処理回路100は、専用のハードウェアである。
【0164】
また、処理回路100は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、又はこれらを組み合わせたものが該当する。また、アイドルストップ制御装置1の各機能それぞれを個別の処理回路100によって実現してもよいし、各機能をまとめて処理回路100によって実現してもよい。
【0165】
また、
図11は、実施の形態1、2によるアイドルストップ制御装置1の各機能を実現する処理回路の第2の例を示す構成図である。第2の例の処理回路200は、プロセッサ201及びメモリ202を備えている。
【0166】
処理回路200では、アイドルストップ制御装置1の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア及びファームウェアは、プログラムとして記述され、メモリ202に格納される。プロセッサ201は、メモリ202に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各機能を実現する。
【0167】
メモリ202に格納されたプログラムは、上述した各部の手順又は方法をコンピュータに実行させるものであるとも言える。ここで、メモリ202とは、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等の、不揮発性又は揮発性の半導体メモリである。また、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等も、メモリ202に該当する。
【0168】
なお、上述した各部の機能について、一部を専用のハードウェアによって実現し、一部をソフトウェア又はファームウェアによって実現するようにしてもよい。
【0169】
このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせによって、上述した各部の機能を実現することができる。
【符号の説明】
【0170】
1 アイドルストップ制御装置、20 MG制御部、21 電圧指令演算部、23 磁束推定部、24 劣化判定部、105 車両用発電電動機、106 第1電圧印加部、107 第2電圧印加部、111 第1電機子巻線、112 第2電機子巻線、114 始動用電動機。