(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】乗物内装用表皮材料及び乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/58 20060101AFI20241211BHJP
A47C 31/11 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
B60N2/58
A47C31/11 Z
(21)【出願番号】P 2023108350
(22)【出願日】2023-06-30
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 淳一
(72)【発明者】
【氏名】石井 一茂
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-111989(JP,A)
【文献】特表2004-502040(JP,A)
【文献】国際公開第2015/001732(WO,A1)
【文献】特開2021-000736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/58
A47C 31/11
B60R 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に裏基布が接着された積層体であって、
当該積層体のせん断特性について、
当該積層体を幅20[cm]の帯状とし、幅と直交する方向の両端部を、間隔を5[cm]離隔させた状態を維持する一対のチャックで把持し、
一方の前記チャックを、引っ張り荷重を加えて幅方向に移動させ、
前記積層体にしわが生じたときの幅方向の一端部に生じる角度変化であるせん断角度が6.4[degree]以上8.0[degree]以下、
前記引っ張り荷重が17.5[gf/cm]以下
となる条件を全て満たすことを特徴とする乗物内装用表皮材料。
【請求項2】
前記裏基布は、
繊度100デニールのポリエステルの加工糸により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の乗物内装用表皮材料。
【請求項3】
前記裏基布は、経糸からなる経編の織物であることを特徴とする請求項1に記載の乗物内装用表皮材料。
【請求項4】
前記経糸は、総繊度が75デニール以上100デニール以下であることを特徴とする請求項3に記載の乗物内装用表皮材料。
【請求項5】
請求項1記載の乗物内装用表皮材料で、
少なくとも、内蔵された乗員保護装置に対向した位置を被覆したことを特徴とする乗物用シート。
【請求項6】
前記乗物内装用表皮材料で、
前記乗員保護装置に対向した位置のクッションパッドの一部又は全部を被覆したことを特徴とする請求項5に記載の乗物用シート。
【請求項7】
前記乗物内装用表皮材料で、
搭載された乗員支持装置を被覆したことを特徴とする請求項5に記載の乗物用シート。
【請求項8】
膨出部が複数の縫製ラインで形成される表皮によって被覆され、前記表皮の少なくとも一部が前記乗物内装用表皮材料で構成されることを特徴とする請求項5に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物の内装の表皮として使用される乗物内装用表皮材料及び乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
乗物内装用表皮材料としては、本皮、人造皮革、布等が多く使用されている。
従来は、天然皮革又は合成皮革を用いた乗物内装用表皮材料の、せん断剛性値、曲げ剛性値、引っ張り歪みの各々について適正な範囲を規定することにより、皺の発生を抑え、外観に優れた状態で立体的な対象物の表面の被覆を行っていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の表皮材料は、表材に発生する皺の低減に効果があるが、十分とはいえなかった。
即ち、従来技術は、表皮材料の強度を低く設定することにより表材に発生する皺を低減することができるが、必要強度を満たしつつ、表材に発生する皺を低減するという要求に十分にこたえることが困難であった。
例えば、表皮材料を積層構造にすると、強度の向上を図りやすくなるが、その場合、曲面や周面に対する追従性が低下して、裏面側にしわが生じ、さらに、表面にもしわが生じる場合があった。
【0005】
本発明は、強度を確保しつつ、しわの発生を抑制する乗物内装用表皮材料及び乗物用シートを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、乗物内装用表皮材料において、
基材に裏基布が接着された積層体であって、
当該積層体のせん断特性について、
当該積層体を幅20[cm]の帯状とし、幅と直交する方向の両端部を、間隔を5[cm]離隔させた状態を維持する一対のチャックで把持し、
一方の前記チャックを、引っ張り荷重を加えて幅方向に移動させ、
前記積層体にしわが生じたときの幅方向の一端部に生じる角度変化であるせん断角度が6.4[degree]以上8.0[degree]以下、
前記引っ張り荷重が17.5[gf/cm]以下
となる条件を全て満たすことを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の乗物内装用表皮材料において、
前記裏基布は、繊度100デニールのポリエステルの加工糸により構成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1に記載の乗物内装用表皮材料において、
前記裏基布は、経糸からなる経編の織物であることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1に記載の乗物内装用表皮材料において、
前記経糸は、総繊度が75デニール以上100デニール以下であることを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明は、乗物用シートにおいて、
請求項1記載の乗物内装用表皮材料で、
少なくとも、内蔵された乗員保護装置に対向した位置を被覆したことを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の乗物用シートにおいて、
請求項1記載の乗物内装用表皮材料で、
前記乗員保護装置に対向した位置のクッションパッドの一部又は全部を被覆したことを特徴とする。
【0012】
請求項7記載の発明は、請求項5記載の乗物用シートにおいて、
請求項1記載の乗物内装用表皮材料で、
搭載された乗員支持装置を被覆したことを特徴とする。
【0013】
請求項8記載の発明は、請求項5記載の乗物用シートにおいて、
膨出部が複数の縫製ラインで形成される表皮によって被覆され、前記表皮の全部方は一部が請求項1記載の乗物内装用表皮材料で構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の乗物内装用表皮材料は、積層体のせん断特性について、せん断角度及び荷重を好適な前述した数値範囲内とすることにより、皺の発生を抑え、外観に優れた状態で立体的な対象物の表面を被覆することが可能となる。
また、乗物内装用表皮材料は、せん断角度及び荷重を好適な前述した数値範囲内とする限り、表皮材料の強度を低く設定しなくとも、皺の発生を抑えて対象物の表面を被覆することができるので、強度を高く維持することが可能となる。また、基材に裏基布が接着された積層体からなるので、裏基布によって乗物内装用表皮材料の強度を高く維持させることも可能である。
【0015】
請求項2記載の乗物内装用表皮材料は、裏基布が加工糸により構成されているため、乗物内装用表皮材料に伸縮性を付与することが容易となり、裏基布に起因するシワの発生を低減することが可能となる。
【0016】
請求項3記載の乗物内装用表皮材料は、裏基布が経糸からなる経編の織物であるため、編み目がしっかりとして強度を保ちつつ、所定方向の伸縮性を確保して、折り曲げ加工性を向上させることが可能となる。
【0017】
請求項4記載の乗物内装用表皮材料は、全ての経糸の繊度を75デニール以上100デニール以下とすることで、高い強度を確保しつつ、適度な折り曲げ加工性を持たせることが可能となる。
【0018】
請求項5記載の乗物用シートは、少なくとも、内蔵された乗員保護装置に対向した位置を上記乗物内装用表皮材料で被覆している。
これにより、乗物用シートの表面は、皺の発生を抑えて被覆されるため、外観の意匠性を高く維持することが可能となる。
さらに、乗物内装用表皮材料のせん断特性と伸縮性とによって、乗員保護装置が作動したときにも適度に強度を発揮するので、乗物内装用表皮材料が破壊されず、乗員保護装置の姿勢を維持して適正に作動させることができ、その機能を正常に効果的に発揮させることが可能となる。
【0019】
請求項6記載の乗物用シートは、上記乗物内装用表皮材料が乗員保護装置に対向した位置のクッションパッドの一部又は全部を被覆するので、乗物内装用表皮材料が、乗員保護装置の作動時にクッションパッドを通じて付与される加圧力に対して効果的に耐久し、乗員保護装置の機能を正常に効果的に発揮させることが可能となる。
【0020】
請求項7記載の乗物用シートは、上記乗物内装用表皮材料で搭載された乗員支持装置を被覆しているので、乗物内装用表皮材料が、乗員支持装置によって変形する凹凸に対応して、しわの発生を抑制しつつ被覆することができる。
【0021】
請求項8記載の乗物用シートは、膨出部を被覆する複数の縫製ラインで形成される表皮の一部に乗物内装用表皮材料を含むため、乗物内装用表皮材料のせん断特性により、表皮全体の皺の発生を抑制し、膨出部の表面に対する追従性を維持して被覆することが可能となる。また、乗物内装用表皮材料の利用を一部に抑えるため、表皮の製造コストの低減を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態としての乗物内装用表皮材料の断面図である。
【
図2】乗物内装用表皮材料のせん断特性の測定方法の説明図である。
【
図3】理想的な試料における相互に対応して変化するせん断角度とせん断荷重との関係を示す線図である。
【
図4】試料(1)~(15)の裏基布の糸の種類、糸の太さ、糸の編み方、密度、加工条件を示した一覧図である。
【
図5】試料(1)~(15)のせん断角度及びせん断荷重、しわ発生状態を示した図表である。
【
図6】試料(1)~(15)のせん断角度及びせん断荷重の値をプロットした線図である。
【
図7】芯に巻いた試料(2)~(15)を中心線方向から見た状態と径方向外側から見た状態とを示した一覧図である。
【
図8】比較例の乗物内装用表皮材料の断面図である。
【
図9】試料(1)~(15)のせん断剛さを示した図表である。
【
図10】試料(1)~(15)の横方向と縦方向のせん断剛さの値をプロットした線図である。
【
図11】試料(1)~(15)の引っ張り歪みを示した図表である。
【
図12】試料(1)~(15)の横方向と縦方向の引っ張り歪みをプロットした線図である。
【
図13】車両内装用表皮材料を適用した車両用シートの斜視図である。
【
図14】
図13のA-A線に沿った車両用シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明を実施するための好ましい形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
本実施形態は、乗物内装用表皮材料及びこれを被覆材料として適用した乗物用シートを例示する。
以下に示す乗物内装用表皮材料及び乗物用シートを適用する乗物は、船舶、飛行体、車両等、人間が搭乗して移動を行うあらゆる乗物を含むが、本実施形態では、車両、特に、自動車に乗物内装用表皮材料及び乗物用シートを適用する場合を例示する。
【0024】
図1は乗物内装用表皮材料10の断面図である。
図示のように、乗物内装用表皮材料10は、裏地となる裏基布1と、当該裏基布1の上に形成されたウレタンスラブからなる発泡層2と、発泡層2の上に形成された表地となるPVCのトップ層3とからなる三層構造を有している。
上記乗物内装用表皮材料10は、例えば、乗物用シートの表面の被覆材として、或いは、乗物の内装の表皮材として使用され、使用の際には、トップ層3が表面側に向けられる。なお、図中の符号Cは、乗物内装用表皮材料10を巻いている芯である。
【0025】
上記裏基布1は、ポリエステルの加工糸の経編から形成されている。
発泡層2は、密度0.022、残圧3[t](厚さ)の発泡処理されたウレタンからなるウレタンスラブである。
トップ層3は、PVCを原料とし、発泡処理は行われていない。
乗物内装用表皮材料10は、上記裏基布1、発泡層2、トップ層3がフレームラミネート加工によって積層状態で接着されて一体化されている。
【0026】
乗物内装用表皮材料10は、せん断特性について、せん断角度とせん断力を示す荷重がそれぞれに規定された数値範囲内となる場合に、立体形状の表面を被覆する乗物内装用表皮材料10が、立体形状の表面の曲面に滑らかに追従して変形し且つ密着し、皺等の発生が抑制される。
【0027】
[せん断特性の計測方法]
ここで、上記せん断特性の計測方法について説明する。
図2に示すように、上記乗物内装用表皮材料10を左右方向の幅20[cm]の帯状とした試料の両端部をそれぞれチャックH1,H2で挟持する。
この時、チャックH1とチャックH2との間は5[cm]の隙間を確保して、左右方向の幅20[cm]、上下方向の長さ5[cm]の範囲の乗物内装用表皮材料10に対して計測を行う。即ち、乗物内装用表皮材料10は、上下方向について5[cm]に加えて、チャックH1とチャックH2に対するそれぞれの挟み代を加えた以上の長さを有する。
【0028】
二つのチャックH1,H2に対して、一方が他方に対して離間する方向(乗物内装用表皮材料10の平面に平行であって幅方向に直交する方向:
図2における上下方向)に一定の引っ張り荷重W(=10[gf/cm])を加える。
この引っ張り荷重Wを一定に維持しつつ、せん断ずり速度を一定(例えば、0.417[mm/sec])に保つように、チャックH2を幅方向(
図2における左右方向)の一方(正方向とする。例えば、
図2における右方)に移動させて、せん断荷重Fを加える。
そして、当該荷重Fと乗物内装用表皮材料10に生じるせん断角度φ[°(degree)]の変化を測定する。
上記測定において、せん断角度φが漸増し、ある時点で乗物内装用表皮材料10にしわが発生する。
このしわの発生時点を限界として、今度は、チャックH2を逆方向に、(
図2における左方)に折り返して移動させて、逆方向にせん断荷重Fを加える。この場合も、せん断ずり速度を一定に維持する。
チャックH2の逆方向の移動によって、乗物内装用表皮材料10にしわが発生した時点で、チャックH2を再び折り返して正方向(
図2における右方)に移動させる。この場合も、せん断ずり速度を一定に維持する。
そして、せん断角度φが0となるポイントを通過して、逆方向にせん断角度φが1~2[°]程生じた時点でせん断荷重Fの測定を終了する。
【0029】
図3は理想的な試料に対する上記せん断特性の測定によって得られた、相互に対応して変化するせん断角度φとせん断荷重Fとの関係を示す線図である。横軸がせん断角度φ、縦軸がせん断荷重Fを示す。せん断角度φは、右側への傾きが正、左側への傾きが負を示す。せん断荷重Fは、試料の上端部に対して右方へ加えられた荷重が正、左方へ加えられた荷重が負を示す。
図3中の矢印は、上記測定動作によって得られた検出点の変化する方向を示す。
【0030】
図示のように、測定開始によるチャックH2の右方への移動から間もなく、せん断角度φに対するせん断荷重Fの変化を示す傾きが概ね一定の状態でせん断角度φ及びせん断荷重Fの値が増加し、しわが発生する直前で傾きが大きくなる。そして、しわの発生と共に、チャックH2の移動方向を反転する。従って、しわの発生時において、せん断荷重Fは、測定範囲内で最大となる。
その後、チャックH2が左方に反転すると、反転直後でせん断角度φに対するせん断荷重Fの傾きが大きな下降勾配を示し、その後、傾きが概ね一定の状態でせん断角度φ及びせん断荷重Fが低減する。
【0031】
そして、二回目のしわが発生する直前で下降する傾きが大きくなり、しわの発生と共に、チャックH2の移動方向を再び反転する。従って、当該しわの発生時において、せん断荷重Fは、測定範囲内で最小となる。
その後、チャックH2が右方に反転すると、反転直後でせん断角度φに対するせん断荷重Fの傾きが大きな増加勾配を示し、その後、傾きが概ね一定の状態でせん断角度φ及びせん断荷重Fが増加する。
図示のように、せん断角度φに対するせん断荷重Fの変化は、せん断荷重Fの正方向と逆方向とでヒステリシスを生じるが、しわの発生の前後を除いて、概ね、一定の傾きとなる。
【0032】
なお、せん断角度φに対するせん断荷重Fの傾きdF/dφをせん断剛さGという。上記測定における全範囲のせん断剛さGの平均値は、試料のせん断特性を示す指標の一つとなる。せん断剛さGの数値が大きければ、せん断変形が生じ難く、せん断剛さGの数値が小さければ、せん断変形が生じやすい材料といえる。
【0033】
本願発明の乗物内装用表皮材料10は、上記の測定において、しわが発生する直前又はしわが発生した瞬間のせん断角度φの絶対値が6.4[degree]以上8.0[degree]以下であり、その時のせん断荷重Fの絶対値が17.5[gf/cm]以下の条件を満たすものである。
【0034】
上記のせん断角度φ及び上記のせん断荷重Fがそれぞれについて定められた上記数値範囲となる場合に、乗物内装用表皮材料10は、立体形状の表面の曲面に追従して変形し密着すると共に、皺の発生が十分に低減された状態で立体形状を被覆することができる。
【0035】
乗物内装用表皮材料10では、裏基布1の素材の選択によって上記のせん断特性を実現している。即ち、裏基布1の糸の種類、糸の太さ、糸の編み方、密度等によりせん断特性を調整することができる。
【0036】
[引っ張り歪みの計測]
また、乗物内装用表皮材料10に対して、参考として、引っ張り歪みの計測も行う。
引っ張り歪みは、せん断特性の計測の場合を同じように、乗物内装用表皮材料10を幅20[cm]の帯状とした試料の両端部をそれぞれチャックH1,H2で5[cm]の隙間を確保して挟持する。そして、乗物内装用表皮材料10に対してチャックH1,H2の一方が他方に対して離間する方向(乗物内装用表皮材料10の平面に平行であって幅方向に直交する方向:
図2における上下方向)に引張荷重を加え、上下方向に生じる引っ張り歪みを測定する。
引っ張り荷重は、0から最大500[gf/cm]まで徐々に増やしながら付加され、歪みの速度は4.00×10
-3/secを維持する。
そして、最大引っ張り荷重の500[gf/cm]に達したときの引っ張り方向の歪み量を測定し、元の長さに対する比率を百分率で算出した値を引っ張り歪みε
mとする。
【実施例1】
【0037】
[試料について]
次に、従来の裏基布を使用した乗物内装用表皮材料からなる比較例である試料(1)~(3)と新規の裏基布を使用した乗物内装用表皮材料からなる本発明の実施例である試料(4)~(15)について、各々に使用された裏基布の糸の種類、糸の太さ、糸の編み方、密度、加工条件等を
図4の一覧に示す。
なお、試料(1)~(15)の乗物内装用表皮材料は、いずれも、裏基布以外の発泡層とトップ層は、同一のものが使用されている。発泡層は密度0.022、残圧3[t]の発泡処理されたウレタンスラブ、トップ層は、PVCを原料とする未発泡層からなる。
【0038】
まず、比較例の裏基布について説明する。
試料(1)は、3バートリコット編機により、フロント(F)に繊度150デニールの加工糸、ミドル(M)に繊度150デニールの生糸、バック(B)に繊度150デニールの生糸を使用した経編の織物である。加工糸はポリエステルの加工糸である。
密度Cは、縦方向(経糸に沿った方向)の1インチ当たりの編目数を示し、46である。密度Wは、横方向(経糸に直交する方向)の1インチ当たりの編目数を示し、36である。
【0039】
試料(2)は、3バートリコット編機により、フロント(F)に繊度100デニールの強力糸、ミドル(M)なし、バック(B)に繊度100デニールの強力糸を使用した経編の織物である。強力糸はポリエステルの強力糸である。密度Cは49、密度Wは32である。
【0040】
試料(3)は、3バートリコット編機により、フロント(F)に繊度100デニールの生糸、ミドル(M)なし、バック(B)に繊度100デニールの生糸を使用した経編の織物である。密度Cは47、密度Wは31である。
加工条件の加工温度は170[℃]、加工速度は15[m/min]、セット条件は15[%]、セット幅は175[cm]、有効幅は170[cm]である。
【0041】
これ以降、発明の実施例の裏基布について説明する。
試料(4)は、3バートリコット編機により、フロント(F)に繊度100デニールの加工糸、ミドル(M)なし、バック(B)に繊度100デニールの加工糸を使用した経編の織物である。加工糸はポリエステルの加工糸である。密度Cは48、密度Wは31である。
加工条件の加工温度は170[℃]、加工速度は15[m/min]、セット条件は15[%]、セット幅は175[cm]、有効幅は170[cm]である。
【0042】
試料(5)は、3バートリコット編機により、フロント(F)に繊度100デニールの加工糸、ミドル(M)なし、バック(B)に繊度100デニールの加工糸を使用した経編の織物である。加工糸はポリエステルの加工糸である。密度Cは50、密度Wは31である。
加工条件の加工温度は170[℃]、加工速度は15[m/min]、セット条件は17[%]、セット幅は175[cm]、有効幅は170[cm]である。
【0043】
試料(6)は、3バートリコット編機により、フロント(F)に繊度100デニールの加工糸、ミドル(M)なし、バック(B)に繊度100デニールの加工糸を使用した経編の織物である。加工糸はポリエステルの加工糸である。密度Cは49、密度Wは31である。
加工条件の加工温度は170[℃]、加工速度は15[m/min]、セット条件は12[%]、セット幅は166[cm]、有効幅は162[cm]である。
【0044】
試料(7)は、3バートリコット編機により、フロント(F)に繊度100デニールの加工糸、ミドル(M)なし、バック(B)に繊度100デニールの加工糸を使用した経編の織物である。加工糸はポリエステルの加工糸である。密度Cは49、密度Wは31である。
加工条件の加工温度は170[℃]、加工速度は15[m/min]、セット条件は12[%]、セット幅は165[cm]、有効幅は161.5[cm]である。
【0045】
試料(8)は、3バートリコット編機により、フロント(F)に繊度100デニールの加工糸、ミドル(M)なし、バック(B)に繊度100デニールの加工糸を使用した経編の織物である。加工糸はポリエステルの加工糸である。密度Cは50、密度Wは31である。
加工条件の加工温度は170[℃]、加工速度は15[m/min]、セット条件は15[%]、セット幅は176[cm]、有効幅は172[cm]である。
【0046】
試料(9)は、3バートリコット編機により、フロント(F)に繊度100デニールの加工糸、ミドル(M)なし、バック(B)に繊度100デニールの加工糸を使用した経編の織物である。加工糸はポリエステルの加工糸である。密度Cは48、密度Wは31である。
加工条件の加工温度は170[℃]、加工速度は15[m/min]、セット条件は9[%]、セット幅は176[cm]、有効幅は172[cm]である。
【0047】
試料(10)は、3バートリコット編機により、フロント(F)に繊度100デニールの加工糸、ミドル(M)なし、バック(B)に繊度100デニールの加工糸を使用した経編の織物である。加工糸はポリエステルの加工糸である。密度Cは50、密度Wは31である。
加工条件の加工温度は170[℃]、加工速度は20[m/min]、セット条件は15[%]、セット幅は176[cm]、有効幅は172[cm]である。
【0048】
試料(11)は、3バートリコット編機により、フロント(F)に繊度100デニールの加工糸、ミドル(M)なし、バック(B)に繊度100デニールの加工糸を使用した経編の織物である。加工糸はポリエステルの加工糸である。密度Cは50、密度Wは31.5である。
加工条件の加工温度は170[℃]、加工速度は15[m/min]、セット条件は15[%]、セット幅は174[cm]、有効幅は170[cm]である。
【0049】
試料(12)は、3バートリコット編機により、フロント(F)に繊度100デニールの加工糸、ミドル(M)なし、バック(B)に繊度100デニールの加工糸を使用した経編の織物である。加工糸はポリエステルの加工糸である。密度Cは50、密度Wは31.5である。
加工条件の加工温度は170[℃]、加工速度は20[m/min]、セット条件は15[%]、セット幅は174[cm]、有効幅は170[cm]である。
【0050】
試料(13)は、3バートリコット編機により、フロント(F)に繊度100デニールの加工糸、ミドル(M)なし、バック(B)に繊度100デニールの加工糸を使用した経編の織物である。加工糸はポリエステルの加工糸である。密度Cは50、密度Wは32である。
加工条件の加工温度は170[℃]、加工速度は20[m/min]、セット条件は15[%]、セット幅は172[cm]、有効幅は168[cm]である。
【0051】
試料(14)は、3バートリコット編機により、フロント(F)に繊度100デニールの加工糸、ミドル(M)なし、バック(B)に繊度100デニールの加工糸を使用した経編の織物である。加工糸はポリエステルの加工糸である。密度Cは48、密度Wは32である。
加工条件の加工温度は170[℃]、加工速度は15[m/min]、セット条件は9[%]、セット幅は174[cm]、有効幅は170[cm]である。
【0052】
試料(15)は、3バートリコット編機により、フロント(F)に繊度100デニールの加工糸、ミドル(M)なし、バック(B)に繊度100デニールの加工糸を使用した経編の織物である。加工糸はポリエステルの加工糸である。密度Cは48、密度Wは32である。
加工条件の加工温度は170[℃]、加工速度は20[m/min]、セット条件は9[%]、セット幅は174[cm]、有効幅は170[cm]である。
【0053】
[各試料のせん断角度及びせん断荷重としわの発生との関係]
上記比較例である試料(1)~(3)と本発明の実施例である試料(4)~(15)とをそれぞれ裏基布として用いた乗物内装用表皮材料について、前述したせん断特性の計測方法に従ってせん断角度φ及びせん断荷重Fを測定し、しわ発生時又はその直前のせん断角度φ及びせん断荷重Fの値を
図5に一覧表示した。
なお、
図5に示す値は、このせん断角度φ及びせん断荷重Fの値は、正方向(
図2右方向)と逆方向(
図2左方向)のせん断荷重Fを付加したときのそれぞれの測定値の絶対値の平均値である。
さらに、ここでは、乗物内装用表皮材料の横方向と縦方向とで計測を行い、それぞれについて測定を行った。横方向とは、裏基布の経編の経糸に沿った方向を縦とした場合にこれに直交する方向の両端部をチャックH1,H2で挟持してせん断特性の計測を行った場合を示し、縦方向とは、経編の経糸に沿った方向の両端部をチャックH1,H2で挟持してせん断特性の計測を行った場合を示す。
図5に示す値は、横方向と縦方向とで計測した場合の平均値である。
【0054】
また、それぞれの試料(1)~(15)の乗物内装用表皮材料を外径76[cm]の芯C(
図1参照)の外周に巻き、その際のしわの発生状況の確認試験結果を
図5における「巻きシワ」の欄に記載した。「良」は「しわの発生無し」を示し、「否」は「しわの発生あり」を示している。
また、
図8は試料(1)~(3)の乗物内装用表皮材料のしわ発生状態を拡大断面図で示した。
図8において乗物内装用表皮材料は符号10Xと記載し、裏基布は符号1Xと記載した。
【0055】
さらに、
図6には、各試料(1)~(15)におけるしわ発生時又はその直前のせん断角度φ及びせん断荷重Fの値を、横軸をせん断荷重F、縦軸をせん断角度φとする線図にプロットした結果を示している。
また、
図7には、各試料(2)~(15)のそれぞれを芯Cに巻き、芯Cの中心線方向から見た状態(断面と記載)と芯Cの径方向外側から見た状態(側面と記載)とを示している。
図7において、試料(2)を上段に、試料(4)~(15)を中段に、試料(3)を下段に表示した。
なお、試料(4)~試料(15)については、視覚的にほぼ同じとなるので、代表として試料(4)の状態を表示している。
【0056】
図5の「巻きシワ」の欄に記載されている通り、試料(1)~(3)の乗物内装用表皮材料についてはしわが発生した。これら試料(1)~(3)の乗物内装用表皮材料は、
図7及び
図8に示すように、裏基布にしわが発生し、外周面側のトップ層には、裏基布のしわに起因する折れ目状のしわが発生していることが分かる。
一方、試料(4)~(15)については、裏基布にしわは発生せず、これにより、トップ層にも折れ目状のしわは発生せず、滑らかな周面となったことが分かる。
【0057】
そして、
図6に示すように、しわが発生しない試料(4)~(15)は、せん断荷重Fが17.5[gf/cm]以下であって、せん断角度φが6.4[°]以上8.0[°]以下となる範囲内に集中していることが分かる。
また、せん断荷重Fが17.5[gf/cm]以下であってもせん断角度φが6.4[°]未満である場合には、試料(3)に示すようにしわの発生が避けられず、せん断角度φが6.4[°]以上8.0[°]以下となる範囲であってもせん断荷重Fが17.5[gf/cm]よりも大きくなる場合には、試料(1)に示すようにしわの発生が避けられないことが分かった。
【0058】
[各試料のせん断剛さ]
上記比較例である試料(1)~(3)の乗物内装用表皮材料と本発明の実施例である試料(4)~(15)の乗物内装用表皮材料とについて、前述したせん断特性の計測方法に従ってせん断角度φ及びせん断荷重Fを測定し、測定における測定範囲内の全てのせん断剛さGの平均値(以下、単に「せん断剛さG」という)を算出した。
なお、ここでは、乗物内装用表皮材料を横方向と縦方向とで計測を行い、それぞれについてせん断剛さGを算出した。
【0059】
図9は試料(1)~(15)の乗物内装用表皮材料における横方向のせん断剛さGと縦方向のせん断剛さGと横方向と縦方向のせん断剛さGの平均値とを一覧表示した図表である。
また、
図10は試料(1)~(15)の乗物内装用表皮材料について、横軸を横方向のせん断剛さGの値、縦軸を縦方向のせん断剛さGの値とする線図にプロットした結果を示している。
【0060】
図10に示すように、しわが発生しない試料(4)~(15)は、横方向のせん断剛さGの値が3.7[gf/(cm・degree)]以下であって、縦方向のせん断剛さGの値が3.5[gf/(cm・degree)]以下となる範囲内に集中していることが分かる。
一方、比較例の試料(1)~(3)は、横方向のせん断剛さGの値が3.7[gf/(cm・degree)]より大きく、且つ、縦方向のせん断剛さGの値が3.5[gf/(cm・degree)]より大きくなる範囲内に集中していることが分かる。
【0061】
[各試料の引っ張り歪み]
上記比較例である試料(1)~(3)の乗物内装用表皮材料と本発明の実施例である試料(4)~(15)の乗物内装用表皮材料とについて、前述した引っ張り歪みの計測方法に従って引っ張り歪みεmを測定した。
なお、ここでは、乗物内装用表皮材料の横方向と縦方向とで計測を行い、それぞれについて引っ張り歪みεmを測定した。
【0062】
図11は試料(1)~(15)の乗物内装用表皮材料における横方向の引っ張り歪みε
mと縦方向の引っ張り歪みε
mと横方向と縦方向の引っ張り歪みε
mの平均値とを一覧表示した図表である。
また、
図12は試料(1)~(15)の乗物内装用表皮材料について、横軸を横方向の引っ張り歪みε
mの値、縦軸を縦方向の引っ張り歪みε
mの値とする線図にプロットした結果を示している。
【0063】
図12に示すように、しわが発生しない試料(4)~(15)は、横方向の引っ張り歪みε
mの値が6.0[%]以上であって、縦方向の引っ張り歪みε
mの値が6.0[%]以上となる範囲内に集中していることが分かる。
一方、比較例の試料(2)及び(3)は、横方向と縦方向の両方の引っ張り歪みε
mの値が6.0[%]未満となり、試料(1)は、横方向の引っ張り歪みε
mの値は6.0[%]以上となったが、縦方向の引っ張り歪みε
mの値は6.0[%]未満となった。
従って、乗物内装用表皮材料の引っ張り歪みε
mについて、しわが発生しない条件は、横方向と縦方向の両方の引っ張り歪みε
mの値が6.0[%]以上であることが分かった。
【0064】
[乗物内装用表皮材料の乗物用シートへの適用]
図13は乗物内装用表皮材料としての車両内装用表皮材料10Aを適用した乗物用シートとしての車両用シート40の斜視図、
図14は
図13のA-A線に沿った車両用シート40の断面図である。なお、
図13及び
図14において、車両用シート40に着座者が着座した状態で着座者の左手側を左、右手側を右、前方を前、後方を後とし、鉛直上方を上、鉛直下方を下とする。
【0065】
図13に示すシートは、乗物用シートであって、特に、自動車等の車両に設けられる車両用シート40であり、車両の乗員が着座するものである。
図に示すように、車両用シート40は、乗員の臀部及び大腿部を支持するシートクッション41と、下端部がシートクッション41に支持されて背もたれとなるシートバック42と、シートバック42の上端部に設けられて乗員の頭部を支持するヘッドレスト43とを備える。なお、この他、ネックレストやアームレスト、フットレスト、オットマン等の補助支持部を備えていてもよい。
【0066】
シートクッション41は、図示しないクッションフレームとクッションパッドとを有する。シートバック42は、シートバックフレームとクッションパッド421とを有する。
車両用シート40は、シートクッション41及びシートバック42を被覆する表皮44を有する。
ここでは、表皮44の一部に車両内装用表皮材料10Aを利用する。なお、車両内装用表皮材料10Aは、前述した乗物内装用表皮材料10と同一のものである。
【0067】
図14に示すように、シートバック42のシートバックフレームは、互いに間隔を空けて配置された左右のバックサイドフレーム422,423と、左右のバックサイドフレーム422,423における上端部間を連結する図示しないアッパーパイプフレームと、左右のバックサイドフレーム422,423の下端部間を連結するロアフレーム424とを有する。
また、シートバック42は、左右のバックサイドフレーム422,423をクッションパッド421が包み込むことで、左端部と右端部とに形成された、上下方向に沿った凸条からなる膨出部425,426を有する。
【0068】
左側の膨出部425の内部において、左側のバックサイドフレーム422の左右方向外側(左側)には、乗員保護装置としてのエアバッグ装置45が併設されている。エアバッグ装置45は、バックサイドフレーム422と共にクッションパッド421に包まれている。
エアバッグ装置45は、左右方向に幾分扁平な筐体内に装置の構成が格納されている。
【0069】
表皮44は、一部に車両内装用表皮材料10Aを使用し、全体的には、車両内装用表皮材料10A以外の車両内装用表皮材料を使用している。表皮44の車両内装用表皮材料は、前述した乗物内装用表皮材料10の構成に対して、裏基布1を従来の裏基布に交換したものである。従来の裏基布は、前述した実施例で比較例をして例示した試料(1)~(3)のいずれかに相当するものである。
また、表皮44は、所定の部分だけが、前述した乗物内装用表皮材料10と同一の構成からなる車両内装用表皮材料10Aが使用されている。
【0070】
表皮44は、前述した膨出部425,426を覆う部分については、当該膨出部425,426の表面形状に対応して被覆することができるように、複数の車両内装用表皮材料のパーツを複数の縫製ラインで縫い合わせて構成されている。
そして、車両内装用表皮材料10Aは、左側の膨出部425における左側面部であってシートバック42の左側面のほぼ全体に渡る領域R1(
図13の斜線エリア)を覆うパーツとして使用されている。
領域R1は、エアバッグ装置45及び左側のバックサイドフレーム422を包むクッションパッド421の表面であって、内蔵されたエアバッグ装置45の筐体の左面に左側から対向した位置に相当する。
【0071】
エアバッグ装置45は、作動時には、エアバッグが左側の膨出部425の左端部から前方に排出されると共に膨張して着座者の保護を行う。その際、領域R1を被覆する車両内装用表皮材料10Aの前側の縁部であって、他の車両内装用表皮材料との境界をなす縫製ラインを突き破ってエアバッグが前方に排出される。
前述した各種の試料(4)~(15)に示した通り、車両内装用表皮材料10Aは、せん断特性に優れ、高い伸張性を有する。従って、表皮44の内部で膨張して外部に排出されるエアバッグに対して、車両内装用表皮材料10Aは、高い耐久性を発揮することができる。そして、エアバッグ装置45に対してその左側で対向し、全体を被覆しているので、膨張したエアバッグに抗して、当該エアバッグが左方に飛び出すことを抑制しながら前方に適正に誘導することができる。
【0072】
なお、エアバッグ装置45は、右のバックサイドフレーム423の右側に配置してもよい。その場合には、エアバッグ装置45及び右側のバックサイドフレーム423を包むクッションパッド421の表面であって、内蔵されたエアバッグ装置45の筐体の右面に右側から対向した位置を被覆するように車両内装用表皮材料10Aを配置してもよい。
【0073】
また、車両用シート40は、例えば、シートバック42を後方に倒すと共に、シートクッション41の前端部を前斜め上に跳ね上げた姿勢でリラックス状態での利用が行われる場合がある。
このような姿勢での利用が想定される場合には、シートクッション41の前端部にエアバッグ装置が内蔵され、シートバック42の前端部から上方に向かってエアバッグを排出し、リラックス状態の着座者を保護する構成を採る場合がある。
このような構成の場合には、シートクッション41の前端面の領域R2に車両内装用表皮材料10Aを適用してもよい。
この場合、車両内装用表皮材料10Aは、エアバッグ装置の前側で対向する配置となる。このため、シートクッション41の前端部から排出されたエアバッグの前方への飛び出しを抑制し、上方に適正に誘導することができる。
【0074】
また、車両用シート40は、例えば、シートバック42の前面側に膨縮可能な袋体を内蔵し、当該袋体を膨張させて着座者の背面を支持する乗員支持装置を設ける場合がある。
このような構成の場合には、シートバック42の前面部の乗員支持装置の配置領域R3に車両内装用表皮材料10Aを適用してもよい。
この場合、車両内装用表皮材料10Aは、乗員支持装置の前側で対向する配置となる。このため、乗員支持装置の袋体が膨張して、凹凸が発生した場合であっても、車両内装用表皮材料10Aは、そのせん断特性と高い伸張性とにより、しわの発生を抑制しつつ、変形する凹凸に対応してシートバック42の前面部を被覆した状態を維持することができる。
【0075】
[発明の実施形態の技術的効果]
上記乗物内装用表皮材料10及び車両内装用表皮材料10Aは、積層体のせん断特性について、せん断角度及び荷重を好適な前述した数値範囲内とすることにより、皺の発生を抑え、外観に優れた状態で立体的な対象物の表面を被覆することが可能となる。
特に、車両内装用表皮材料10Aを車両用シート40に適用した場合に、膨出部425の側面等の曲面部もしわを抑制して被覆することが可能となる。
また、乗物内装用表皮材料10及び車両内装用表皮材料10Aは、せん断角度及び荷重を適正な数値範囲内とする限り、表皮材料の強度を低く設定しなくとも、皺を抑えて対象物の表面を被覆することができるので、強度を高く維持することが可能となる。特に、基材に裏基布1が接着された積層体からなるので、裏基布1によって乗物内装用表皮材料10及び車両内装用表皮材料10Aの強度を高く維持させることも可能である。
【0076】
また、乗物内装用表皮材料10及び車両内装用表皮材料10Aは、裏基布1が加工糸により構成されているため、乗物内装用表皮材料10及び車両内装用表皮材料10Aに伸縮性を付与することが容易となり、裏基布1に起因するシワの発生を低減することが可能となる。
【0077】
また、裏基布1が経糸からなる経編の織物であるため、編み目がしっかりとして強度を保ちつつ、所定方向の伸縮性を確保して、折り曲げ加工性を向上させることが可能となる。従って、乗物内装用表皮材料10及び車両内装用表皮材料10Aは、車両用シート40の曲面部にも追従性が良く、皺の発生を抑えて被覆することが可能となる。
【0078】
また、乗物内装用表皮材料10及び車両内装用表皮材料10Aは、裏基布1の全ての経糸の繊度を100デニールとすることで、高い強度を確保しつつ、適度な折り曲げ加工性を持たせることが可能となる。
【0079】
また、車両用シート40は、内蔵されたエアバッグ装置45に対向した位置を車両内装用表皮材料10Aで被覆している。
これにより、車両用シート40の表面は、皺の発生を抑えて被覆されるため、外観の意匠性を高く維持することが可能となる。
さらに、車両内装用表皮材料10Aのせん断特性と伸縮性とによって、エアバッグ装置45が作動したときにも適度に強度を発揮するので、車両内装用表皮材料10Aが破壊されず、エアバッグ装置45の姿勢を維持してエアバッグを適正な方向に誘導することができ、その機能を正常に効果的に発揮させることが可能となる。
【0080】
また、車両用シート40は、車両内装用表皮材料10Aがエアバッグ装置45に対向した位置となるクッションパッド421の左側面を被覆するので、乗物内装用表皮材料が、エアバッグ装置45の作動時にクッションパッド421を通じて付与されるエアバッグの加圧力に対して効果的に耐久し、エアバッグを適正な方向に誘導することができ、その機能を正常に効果的に発揮させることが可能となる。
【0081】
また、車両用シート40に対し、乗員支持装置を被覆する領域R3を車両内装用表皮材料10Aで被覆することができるので、車両内装用表皮材料10Aが、乗員支持装置によって生じる領域R3内の膨縮変形する凹凸に追従して、しわの発生を抑制しつつ被覆することができる。
【0082】
また、車両用シート40は、膨出部425を被覆する複数の縫製ラインで形成される表皮44の一部に車両内装用表皮材料10Aを含むため、車両内装用表皮材料10Aのせん断特性により、表皮44全体の皺の発生を抑制し、膨出部425の表面に対する追従性を維持して被覆することが可能となる。また、車両内装用表皮材料10Aの利用を表皮44の一部に抑えるため、表皮44の製造コストの低減を実現することが可能となる。
【0083】
[その他]
以上、本発明の各実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られるものではない。例えば、実施形態において、単一の部材により一体的に形成された構成要素は、複数の部材に分割されて互いに連結又は固着された構成要素に置換してもよい。また、複数の部材が連結されて構成された構成要素は、単一の部材により一体的に形成された構成要素に置換してもよい。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0084】
また、乗物内装用表皮材料10は、せん断特性が前述した条件を満たすものであれば、基材の材料は、発泡層2やPVCのトップ層3以外の材料を使用してもよい。また、せん断特性が前述した条件を満たすものであれば、裏基布1も、他の素材を使用してもよい。
また、乗物内装用表皮材料10のせん断特性が前述した条件を満たすものであれば、裏基布1は、緯糸を使用する横編の織物や緯糸及び経糸を使用する織物であってもよい。
さらに、裏基布1の経糸は、ポリエステルに限らず、他の樹脂、例えば、ナイロン製の経糸でもよい。
また、裏基布1の経糸は、繊度100デニールを例示したがこれに限定されない。経糸は、100デニールが好ましい繊度だが、75デニール以上100デニール以下の範囲であれば、乗物内装用表皮材料10の好適なせん断特性を担保できる。
また、前述した実施形態では、車両内装用表皮材料10Aを車両用シート40の被覆を例示したが、これにかぎらず、車内のシート以外の部位の被覆に用いる場合でも好適に被覆することができる。
また、車両内装用表皮材料10Aを車両用シート40の特定部位に使用する場合を例示したが、車両内装用表皮材料10Aを他の部位の被覆に使用してもよいし、車両用シート40全体を車両内装用表皮材料10Aで被覆してもよい。
【符号の説明】
【0085】
1,1X 裏基布
2 発泡層(基材)
3 トップ層(基材)
10 乗物内装用表皮材料
10A 車両内装用表皮材料(乗物内装用表皮材料)
40 車両用シート(乗物用シート)
41 シートクッション
42 シートバック
43 ヘッドレスト
44 表皮
45 エアバッグ装置(乗員保護装置)
421 クッションパッド
422,423 バックサイドフレーム
425,426 膨出部
C 芯
F せん断荷重
H1,H2 チャック
R1~R3 配置領域
εm 引張り歪み
φ せん断角度
【要約】
【課題】強度を有し、表面に皺の発生が抑えられ、外観に優れた状態で立体的な対象物を被覆することができる乗物内装用表皮材料を提供する。
【解決手段】乗物内装用表皮材料10が、基材に裏基布1が接着された積層体であって、当該積層体のせん断特性について、せん断角度6.4[degree]以上8.0[degree]以下、荷重17.5[gf/cm]以下となる条件を全て満たす。これにより、乗物内装用表皮材料は、適度な強度を発揮しながら、表面に皺の発生が抑えられ、外観に優れた状態で立体的な対象物を被覆することができる。
【選択図】
図1