(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】無線通信回路
(51)【国際特許分類】
H03F 1/08 20060101AFI20241211BHJP
H03F 1/02 20060101ALI20241211BHJP
H03F 3/189 20060101ALI20241211BHJP
H04B 1/525 20150101ALI20241211BHJP
【FI】
H03F1/08
H03F1/02
H03F3/189
H04B1/525
(21)【出願番号】P 2023500188
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2021005944
(87)【国際公開番号】W WO2022176067
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】514315159
【氏名又は名称】株式会社ソシオネクスト
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 剛章
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-88707(JP,A)
【文献】特開2019-57758(JP,A)
【文献】国際公開第2015/114836(WO,A1)
【文献】特表2016-514926(JP,A)
【文献】特表2018-518889(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0231369(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0038093(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/08
H03F 1/02
H03F 3/189
H04B 1/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナと、
前記アンテナに送信信号を出力する出力アンプを備えた送信回路と、
前記アンテナからの受信信号が入力されるLNA(Low Noise Amplifier)を備えた受信回路と、
前記アンテナと前記LNAの入力との間に設けられた整合回路とを備え、
前記LNAは、前記アンテナから前記整合回路を介して受信された受信信号をゲートに受けるMOS型の入力トランジスタを有し、
前記入力トランジスタのゲートとソースとの間に、前記送信信号が出力される送信時と前記受信信号が受信される受信時とで容量値が変更される可変容量を備える、
ことを特徴とする無線通信回路。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信回路において、
前記可変容量の容量値は、前記受信時にゼロに設定される、
ことを特徴とする無線通信回路。
【請求項3】
請求項1に記載の無線通信回路において、
前記可変容量の容量値は、前記送信時における送信信号の送信周波数に応じて変更される、
ことを特徴とする無線通信回路。
【請求項4】
請求項1に記載の無線通信回路において、
前記可変容量は、容量とスイッチの直列回路が複数並列に接続された回路を含む、
ことを特徴とする無線通信回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CMOSプロセスを用いた無線通信回路に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信回路において、コストメリットの観点からCMOSプロセスを用いるニーズがある。無線通信回路では、アンテナに対して送信回路と受信回路を接続する場合に、送信時における送信回路から受信回路への信号漏れによる損失が発生する。特に、CMOSプロセスを用いた場合に受信回路に設けられたLNA(Low Noise Amplifier:低ノイズ増幅器)の寄生容量が大きくなる傾向があるため、損失が大きくなる。これを防止するために、送信回路と受信回路の間にアンテナスイッチを設けることがあるが、回路素子数が増大し、それによりコストが増大する。
【0003】
これに対し、特許文献1には、λ/4ストリップラインとスイッチングダイオードを用いて、信号送信時にスイッチングダイオードをオン制御し、受信側を高インピーダンスにすることで、送信出力の減衰を抑制する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、アンテナスイッチを設けないで送信回路からの受信回路への損失を抑制しているが、ストリップラインを設けるためのコストが増大するという問題がある。例えば、例えば比誘電率4.9のプリント基板で1[GHz]の信号を伝送する場合、3.4[cm]程度の伝送線路が必要であり、基板サイズが大きくなる。
【0006】
本開示は、上記課題を解決し、スイッチやストリップラインを設けることなく、送信信号及び受信信号の減衰を抑制することができる無線通信回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様における無線通信回路は、アンテナと、前記アンテナに送信信号を出力する出力アンプを備えた送信回路と、前記アンテナからの受信信号が入力されるLNA(Low Noise Amplifier)を備えた受信回路と、前記アンテナと前記LNAの入力との間に設けられた整合回路とを備え、前記LNAは、前記アンテナから前記整合回路を介して受信された受信信号をゲートに受けるMOS型の入力トランジスタを有し、前記入力トランジスタのゲートとソースとの間に、前記送信信号が出力される送信時と前記受信信号が受信される受信時とで容量値が変更される可変容量を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示では、送信時と受信時とで容量値が変更される可変容量を受信回路側に設けることで、スイッチやストリップラインを設ける場合よりも少ない回路量で送信信号及び受信信号の減衰を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図5】可変容量の容量値と送信信号の強度との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について説明する。なお、以下の実施形態において示される具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示にすぎず、発明の範囲を限定する意図はない。
【0011】
図1に示すように、無線通信回路1は、無線信号の送受信をするためのアンテナ10と、アンテナ10に送信信号STxを出力する送信回路2と、アンテナ10からの受信信号SRxが入力される受信回路6とを備える。すなわち、アンテナ10は、送信回路2の出力及び受信回路6の入力に対して共通の信号線N1で接続される。受信回路6は、アンテナ10に接続された整合回路7と、整合回路7を介して受信信号が入力されるLNA(Low Noise Amplifier)とを備える。
図1において、例えば、送信処理回路3、出力アンプ4、LNA8及び受信処理回路9が、IC(Integrated Circuit)に内蔵され、それ以外の回路は、ICの外(例えば基板上)に実装される。
【0012】
本開示の無線通信回路1は、後述するLNA8の入力トランジスタ81(
図4参照)のゲートとソースと間に、アンテナ10から送信信号が送出される送信時(以下、単に「送信時」という)と、アンテナ10から受信信号が受信される受信時(以下、単に「受信時」という)とで容量値が変更される可変容量C2を設ける点に特徴がある。より詳しくは、可変容量C2は、送信時には、可変容量C2と整合回路7とにより、
送信信号の周波数で並列共振する並列共振回路11が構成されるような容量値に設定される。これにより、送信時には、後述する送信回路2の出力アンプ4に対する受信回路6側の負荷を軽くすることができる。すなわち、可変容量C2を設けることで送信信号の減衰が抑制されるように作用する。一方で、可変容量C2は、受信時には、容量値が実質的に0(ゼロ)になるように設定される。これにより、受信時には、可変容量C2に起因して受信信号が減衰しないように作用するという特徴がある。
【0013】
以下、具体的な回路構成例を示して詳細に説明する。
【0014】
<送信回路>
図1に示すように、送信回路2は、送信処理回路3と、送信処理回路3の出力を増幅する出力アンプ4と、出力アンプ4とアンテナ10との間に設けられた負荷回路5とを備える。
【0015】
送信処理回路3は、アンテナ10から送出される送信信号STxを所望のフォーマットに従って送信するために必要な回路をすべて備える。送信処理回路3は、送信信号として送信される信号のフォーマットや周波数帯域、準拠するインターフェースの規格等に応じて、設計の変更がされ得る回路である。具体的な回路構成は、従来から知られている構成を採用することができるので、ここではその詳細説明を省略する。
【0016】
出力アンプ4は、例えばE級アンプである。E級アンプの構成は、特に限定されず、従来から知られている回路構成を幅広く適用できる。出力アンプ4としてE級アンプを用いることで、出力アンプ4内部のスイッチ(図示省略)の駆動周波数と負荷回路5の回路定数とにより送信信号STxの周波数帯の設定や変更ができる。
【0017】
図3には、無線通信回路1のより詳しい構成例を示している。
図3の例では、
図1の構成に加えて、負荷回路5とアンテナ10との間に、高調波抑制回路13を設けている例を示している。以下では、出力アンプ4と負荷回路5とを接続する信号線にN21、負荷回路5と高調波抑制回路13とを接続する信号線にN22の符号を付して説明する。
【0018】
負荷回路5は、負荷インダクタL51,L52と、負荷容量C51,C52とを備える。負荷インダクタL51は、電源VDDと信号線N21との間に設けられる。負荷容量C51は、信号線N21とグランドとの間に設けられる。負荷インダクタL52と負荷容量C52とは、直列接続され、信号線N21と信号線N22との間に設けられる。前述のとおり、負荷インダクタL51,L52と負荷容量C51,C52の回路定数により送信信号STxの周波数帯の設定や変更ができる。
【0019】
なお、出力アンプ4として、E級アンプ以外の構成(例えば、線形アンプ)を用いてもよい。その場合、負荷回路5の構成も、出力アンプ4の構成にあわせて変更される。
【0020】
高調波抑制回路13は、送信回路2及び受信回路6とアンテナ10との間に設けられ、送信時に、送信信号STxの基本波以外の成分を除去するための回路である。
図3では、高調波抑制回路13として、π型のLC回路とL型のLC回路とを組み合わせた構成例を示している。なお、高調波抑制回路13は、他の構成としてもよい。また、
図1に示すように高調波抑制回路13を設けなくてもよい。
【0021】
<受信回路>
受信回路6は、整合回路7と、カップリング容量C1と、LNA8と、受信処理回路9とを備える。
【0022】
整合回路7は、アンテナ10のインピーダンス50[Ω]を変換して、LNA8の入力インピーダンスの複素共役にすることで、受信信号SRxのパワーを無駄なくLNA8に伝えるための回路である。
【0023】
図1に示すように、整合回路7は、容量C71とインダクタL71とを備える。信号線N1とLNA8の入力との間に、容量C71とカップリング容量C1とが直列接続される。インダクタL71は、容量C71とカップリング容量C1とを接続する信号線N71とグランドとの間に設けられる。これにより、アンテナ10で受信された受信信号SRxは、信号線N1、容量C71及びカップリング容量C1を介してLNA8に入力される。カップリング容量C1は、受信信号SRxのDC成分をカットするための容量である。
【0024】
-LNA回路-
図4には、LNA8の回路構成例を示す。
【0025】
LNA8は、アンテナ10から整合回路7を介して受信された受信信号SRxをゲートに受けるMOS型の入力トランジスタ81を備える。
【0026】
図4の例では、入力トランジスタ81は、N型のトランジスタであり、ゲートがLNA8の入力端子P81に接続され、ソースがグランドに接続される。以下では、LNA8の入力端子P81と入力トランジスタ81のゲートとを接続する信号線にN81の符号を付して説明する。
【0027】
入力トランジスタ81のドレインは、カスコードトランジスタ82を介してLNA8の出力端子P82に接続される。電源と出力端子P82との間には、抵抗83が接続される。カスコードトランジスタ82のゲートには、バイアス電圧Vbが与えられる。信号線N81とグランドとの間には、抵抗とバイアス電源とが直列接続された入力バイアス回路84が設けられる。
【0028】
図1及び
図3では、入力端子P81とグランドとの間に形成される入力トランジスタ81の入力容量を破線で示し、C3の符号を付している。
【0029】
さらに、入力トランジスタ81のゲートとソースとの間には、可変容量C2が設けられる。換言すると、可変容量C2は、入力端子P81とグランドとの間において、入力トランジスタ81の入力容量C3と並列になるように設けられる。可変容量C2は、送信時と受信時で容量値が変更される。
【0030】
(送信時)
前述のとおり、送信時には、可変容量C2の容量値は、可変容量C2と整合回路7とにより、送信信号STxの送信周波数ftxで並列共振する並列共振回路11が構成されるような容量値に設定される。
【0031】
図2には、可変容量C2の回路構成例を示している。
図2の例では、容量C21とスイッチとしてのMOSトランジスタT21とが直列接続された回路パーツが、信号線N81とグランドとの間に複数並列に接続されている。そして、可変容量制御信号によってMOSトランジスタT21のオンオフが制御されることで、容量値が段階的に変更されるようになっている。このように、可変容量C2の容量値を段階的に変更できるようにすることで、互いに異なる送信周波数ftxの送信信号STxに対応することができる。
【0032】
ここで、並列共振回路11の共振周波数が、送信周波数ftxに設定されると、送信周波数は、以下の式(1)で示される。なお、以下の式では、容量の符号と容量値に同じ符号を付し、インダクタの符号とインダクタンス値に同じ符号を付している。例えば、式中のC1は、カップリング容量C1の容量値である。
【0033】
【0034】
ここで、容量値C1が、容量値C2及びC3に対して十分に大きければ、可変容量C2の容量値C2は、以下の式(2)で示される。
【0035】
【0036】
この式に示される容量値C2となるように可変容量制御信号を設定することにより、LNAの入力インピーダンスを高めて受信回路側の負荷を軽くすることができ、出力負荷の損失が抑制されるので、送信出力を最大化することができる。
【0037】
図5には、
図3の回路において可変容量C2の容量値を変化させて、アンテナ10から送出される送信信号STxの変化をプロットしたシミュレーション結果を示す。
図5では、送信周波数を920[MHz]、カップリング容量C1の容量値を1000[pF]に設定して、可変容量C2の容量値を変化させている。
【0038】
図5に示すように、可変容量制御信号により可変容量C2の容量値が0.4[pF]に設定された場合に、受信回路6のLNA8の入力容量C3による損失が最小となり、その結果として送信信号STxの送信出力が最大となっている(
図5の「共振点」と記載した矢印参照)。より具体的には、可変容量C2を設けない場合(可変容量C2の容量値が0(ゼロ))と比較して、送信信号STxの送信出力が0.6[dB]アップしている。
【0039】
(受信時)
前述のとおり、受信時には、可変容量C2の容量値は、容量値が実質的に0(ゼロ)になるように設定される。
図2のように可変容量C2を構成した場合には、可変容量制御信号により、すべてのMOSトランジスタT21がオフ制御(N型の場合Low信号が印加)される。これにより、受信時には、受信信号SRxが可変容量C2を加えたことにより減衰することを防ぐようになっている。なお、可変容量C2の容量値は、受信時には、実質的に0(ゼロ)にされるのが好ましいが、送信時よりも小さい他の容量値に設定されてもよい。
【0040】
以上のように、本実施形態の無線通信回路1は、アンテナ10と、アンテナ10に送信信号STxを出力する出力アンプ4を備えた送信回路2と、アンテナ10からの受信信号SRxが入力されるLNA8を備えた受信回路6と、アンテナ10とLNA8の入力との間に設けられた整合回路7とを備える。LNA8は、アンテナ10から整合回路7を介して受信された受信信号SRxをゲートに受けるMOS型の入力トランジスタ81を有し、入力トランジスタ81のゲートとソースとの間に、送信信号STxが出力される送信時と受信信号が受信される受信時とで容量値が変更される可変容量C2を備える。
【0041】
可変容量C2は、送信時に、受信時より大きい容量値に設定されるのが好ましい。また、可変容量C2は、送信時に、可変容量C2と整合回路7とにより、送信信号STxの送信周波数ftxで並列共振する並列共振回路11が構成されるように設定され、受信時に実質的にゼロ実質的に0(ゼロ)になるように設定されるのがより好ましい。
【0042】
これにより、送信回路と受信回路の間にスイッチや先行例にあるようなストリップラインを設けることなく、送信時には、LNAの入力インピーダンスを高め送信回路2の出力アンプ4に対する受信回路6側の負荷を軽くし、受信時には、受信信号SRxが減衰することを防ぐことができる。すなわち、アンテナ10からスイッチやストリップラインを介することなく、共通の信号線N1で送信回路2と受信回路6を接続した場合においても、送信信号STx及び受信信号SRxの減衰を抑制することができる。すなわち、スイッチやストリップラインを設けることなく、スイッチやストリップラインを設けるよりも少ない回路量で所望の特性を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本開示の無線通信回路は、スイッチやストリップラインを設けることなく、送信信号及び受信信号の減衰を抑制することができるので極めて有用である。
【符号の説明】
【0044】
1 無線通信回路
2 送信回路
4 出力アンプ
6 受信回路
7 整合回路
8 LNA
10 アンテナ
81 入力トランジスタ
STx 送信信号
SRx 受信信号