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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】結晶化ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/04 20060101AFI20241211BHJP
   C03C 10/10 20060101ALI20241211BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C03C10/04
C03C10/10
C03C21/00 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020076603
(22)【出願日】2020-04-23
(65)【公開番号】P2021172547
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】俣野 高宏
(72)【発明者】
【氏名】横田 裕基
(72)【発明者】
【氏名】田中 敦
(72)【発明者】
【氏名】高山 佳久
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/108876(WO,A1)
【文献】特開2014-114200(JP,A)
【文献】特開平09-263424(JP,A)
【文献】特開2003-128435(JP,A)
【文献】特開2006-062929(JP,A)
【文献】特表2018-513091(JP,A)
【文献】特表2013-544229(JP,A)
【文献】特開2000-187828(JP,A)
【文献】特開2002-116324(JP,A)
【文献】特開平06-009245(JP,A)
【文献】特開平11-029342(JP,A)
【文献】特開平06-024768(JP,A)
【文献】特開2002-326837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00,21/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、SiO 40~70%、Al 5~40%、B 2~25%、MgO+ZnO 0~15%、CaO+SrO+BaO 0~20%、P+TiO+ZrO 0.2%、NaO+KO 1~20%、LiO 0~6%、 0.1~6%、ZrO 0.1~5%、を含有し、結晶化度が1~50%であり、厚み0.8mm、波長380~780nmにおける可視光平均透過率が50%以上であることを特徴とする結晶化ガラス。
【請求項2】
実質的にAs、PbOを含有しないことを特徴とする請求項1に記載の結晶化ガラス。
【請求項3】
ガーナイト(ZnAl)、フォルステライト(MgSiO)、アノーサイト(CaAlSi)、ジルコノライト(CaZrTi)、ルチル(TiO)、及びジルコニア(ZrO)から選ばれる一種類以上の結晶が析出していることを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶化ガラス。
【請求項4】
平均結晶子サイズが1μm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項5】
表面に圧縮応力層が形成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項6】
破壊靭性値が0.75MPa・m0.5以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項7】
屈折率(nd)が1.6以下、アッベ数(νd)が50以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項8】
曲げ強度が100MPa以上、落下高さが5mm以上であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)等は、益々普及する傾向にある。これらの用途には、タッチパネルディスプレイを保護するために、カバーガラスが用いられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-083045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カバーガラス、特にスマートフォンのカバーガラスは、屋外で使用されることが多く、照度と平行度が高い光によって、表面傷が認識され易くなり、ディスプレイの視認性を低下してしまう。よって、ガラスの耐傷性を高めることが重要になる。耐傷性を高める方法として、破壊靭性値を高めることが有用であると考えられている。破壊靭性値を高めると、表面傷が付き難くなると共に、ハードスクラッチが付いた場合でも、その傷の幅や深さを低減することができる。
【0005】
破壊靭性値が高いガラスとして、ガラス中に結晶が析出した結晶化ガラスが知られている。
【0006】
しかし、結晶化ガラスは、透明性の点で非晶質ガラスに及ばずカバーガラスに適していないのが現状である。
【0007】
本発明の目的は、破壊靭性値が高く、しかも透明性に優れた結晶化ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の結晶化ガラスは、質量%で、SiO 40~70%、Al 5~40%、B 2~25%、MgO+ZnO 0~15%、CaO+SrO+BaO 0~20%、P+TiO+ZrO 0~8%、NaO+KO 1~20%、LiO 0~6%を含有し、結晶化度が1~50%であり、厚み0.8mm、波長380~780nmにおける可視光平均透過率が50%以上であることを特徴とする。ここで、「MgO+ZnO」とは、MgO及びZnOの合量を意味し、「CaO+SrO+BaO」とは、CaO、SrO及びBaOの合量を意味し、「P+TiO+ZrO」とは、P、TiO及びZrOの合量を意味し、「NaO+KO」とは、NaO及びKOの合量を意味する。
【0009】
本発明の結晶化ガラスは、実質的にAs、PbOを含有しないことが好ましい。
【0010】
本発明の結晶化ガラスは、ガーナイト(ZnAl)、フォルステライト(MgSiO)、アノーサイト(CaAlSi)、ジルコノライト(CaZrTi)、ルチル(TiO)、及びジルコニア(ZrO)から選ばれる一種類以上の結晶が析出していることが好ましい。
【0011】
本発明の結晶化ガラスは、平均結晶子サイズが1μm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の結晶化ガラスは、表面に圧縮応力層が形成されていることが好ましい。
【0013】
本発明の結晶化ガラスは、破壊靭性値が0.75MPa・m0.5以上であることが好ましい。ここで、「破壊靭性値」とは、JIS R1607に準拠したIndentation Fracture法(IF法)によって測定した値であり、測定10回の平均値である。
【0014】
本発明の結晶化ガラスは、屈折率(nd)が1.6以下、アッベ数(νd)が50以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の結晶化ガラスは、曲げ強度が100MPa以上、落下高さが5mm以上であることが好ましい。ここで、「落下高さ」とは、花崗岩でできた定盤の上に、50mm×50mmのガラス板を置き、ガラスの上に先端にビッカース圧子を付けた53gの重りを特定の高さから垂直に落とした際に、割れることなく元の形状を維持する高さの最大値である。
【0016】
本発明の結晶化ガラスは、ガーナイト(ZnAl)、フォルステライト(MgSiO)、アノーサイト(CaAlSi)、ジルコノライト(CaZrTi)、ルチル(TiO)、及びジルコニア(ZrO)から選ばれる一種類以上の結晶が析出しており、結晶化度が1~50%であり、厚み0.8mm、波長380~780nmにおける可視光平均透過率が50%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、破壊靭性値が高く、しかも透明性に優れた結晶化ガラスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の結晶化ガラスは、質量%で、SiO 40~70%、Al 5~40%、B 2~25%、MgO+ZnO 0~15%、CaO+SrO+BaO 0~20%、P+TiO+ZrO 0~8%、NaO+KO 1~20%、LiO 0~6%を含有し、結晶化度が1~50%であり、厚み0.8mm、波長400~780nmにおける可視光平均透過率が50%以上である。なお、以下の説明において、特に断りがない限り「%」は質量%を意味する。
【0019】
まず、結晶化ガラスの組成を上記のように限定した理由を説明する。
【0020】
SiOはガラスの骨格を形成する成分である。SiOの含有量は40~70%であり、特に45~55%であることが好ましい。SiOの含有量が少なすぎると、耐候性が著しく悪くなる傾向にある。一方、SiOの含有量が多すぎると、ガラスの溶融性が悪くなり易い。
【0021】
Alはイオン交換性能を高める成分である。また、ガーナイト(ZnAl)、アノーサイト(CaAlSi)の構成成分でもある。Alの含有量は5~40%であり、6~37%、7~35%、8~30%、9~28%、特に10~25%であることが好ましい。Alの含有量が少なすぎると、粗大な結晶が析出し易くなる。また、結晶化し難くなる。一方、Alの含有量が多すぎると、ガラスの溶融性が悪くなり易い。
【0022】
はガラスの溶融性を高め、また液相温度を下げる効果がある。Bの含有量は2~25%であり、4~22%、6~20%、特に8~18%であることが好ましい。Bの含有量が少なすぎると、ガラスの溶融性が劣るだけではなく、液相温度が高くなり、原ガラスの成形時に失透し易くなる。一方、Bの含有量が多すぎると、結晶化し難くなる。また、粗大な結晶が析出し易くなる。
【0023】
MgO、ZnOはガラスの溶融性を高める成分である、MgO+ZnOは0~15%であり、0.1~13%、1~12%、2~10%、特に2.5~8%であることが好ましい。MgO+ZnOが少なすぎると、ガラスの溶融性が悪くなり易い。一方、MgO+ZnOが多すぎると、液相温度が上昇し易く、また結晶化度が高くなり過ぎる傾向にある。
【0024】
MgOはフォルステライト(MgSiO)の構成成分でもある。MgOの含有量は0~20%、1~15%、2~10%、特に2.5~8%であることが好ましい。MgOの含有量が多すぎると、液相温度が上昇し易く、また結晶化度が高くなり過ぎる傾向にある。
【0025】
ZnOはガーナイト(ZnAl)の構成成分でもある。ZnOの含有量は0~20%、0.1~20%、0.2~18%、0.3~16%、0.4~14%、0.5~12%、特に0.6~10%であることが好ましい。ZnOの含有量が多すぎると、液相温度が上昇し易く、また結晶化度が高くなり過ぎる傾向にある。
【0026】
CaO、SrO、BaOはガラスの溶融性を高める成分である。CaO+SrO+BaOは0~20%であり、0.1~18%、0.2~16%、0.3~14%、0.4~12%、特に0.5~10%であることが好ましい。CaO+SrO+BaOが多すぎると、結晶化し難くなる。また、粗大な結晶が析出し易くなる。なお、CaOはアノーサイト(CaAlSi)、ジルコノライト(CaZrTi)の構成成分でもあり、その含有量は0~20%、0.1~18%、0.2~16%、0.3~14%、0.4~12%、特に0.5~10%であることが好ましい。SrOの含有量は0~20%、0.1~18%、0.2~16%、0.3~14%、0.4~12%、特に0.5~10%であることが好ましい。BaOの含有量は0~20%、0.1~18%、0.2~16%、0.3~14%、0.4~12%、特に0.5~10%であることが好ましい。
【0027】
、TiO及びZrOは、核形成剤である。P+TiO+ZrOは0~8%であり、0.1~8%、0.2~7%、0.3~6%、0.4~5%、特に0.6~4.5%であることが好ましい。P+TiO+ZrOが少なすぎると、結晶化し難くなる。一方、P+TiO+ZrOが多すぎると、ガラスの溶融性が悪くなり易い。
【0028】
は結晶子サイズを小さくする成分でもある。Pの含有量は0~10%、0.1~9%、0.3~8%、0.5~6%、0.5~5%、特に1~4%であることが好ましい。Pの含有量が多すぎると、失透性が強くなり、ガラスを溶融成形することが困難になる。また、化学耐久性が低下し易くなる。
【0029】
TiOはルチル(TiO)の構成成分でもある。TiOの含有量は0~10%、特に0.1~5%であることが好ましい。TiOの含有量が多すぎると、結晶成長速度が速くなり、結晶化度のコントロールが困難になり易く、また、失透性が強くなり、ガラスを溶融成形することが困難になる。
【0030】
ZrOはジルコニア(ZrO)の構成成分でもある。ZrOの含有量は0~8%、特に0.1~5%であることが好ましい。ZrOの含有量が多すぎると、失透性が強くなり、ガラスを溶融成形することが困難になる。
【0031】
NaO、KOはガラスの溶融性を高める成分であり、またイオン交換処理に必須の成分である。NaO+KOは1~20%であり、特に2~15%であることが好ましい。NaO+KOが少なすぎると、ガラスの溶融性が劣ったり、イオン交換性が低下したりする。一方、NaO+KOが多すぎると、結晶化し難くなる。なお、NaOの含有量は1~20%、特に2~15%であることが好ましい。KOの含有量は1~20%、特に2~15%であることが好ましい。
【0032】
LiOはガラスの溶融性を高める成分であり、またイオン交換処理に関与し得る成分である。LiOの含有量は0~4%であり、0.1~3.5%、0.2~3%、0.3~2.5%、0.4~2%、特に0.6~1.5%であることが好ましい。LiOの含有量が多すぎると、液相温度が上昇し易く、結晶子サイズが大きくなり過ぎる傾向にある。
【0033】
本発明の結晶化ガラス物品は、上記成分以外にも、ガラス組成中に下記の成分を含有してもよい。
【0034】
SnOは清澄剤である。SnOの含有量は0~3%、0.05~2%、0.1~1.5%、特に0.15~1.25%であることが好ましい。SnOの含有量が多すぎると、失透性が強くなり、ガラスを溶融成形することが困難になる。また、結晶成長速度が速くなり透明性が低下する傾向がある。
【0035】
CeOは溶解性を向上させるだけではなく、酸化剤としての効果があり、不純物である全Fe中のFe2+の増加を抑え、結晶化ガラスの透明度を上げる成分である。CeOの含有量は、0~0.5%、0.05~0.5%、特に0.1~0.3%であることが好ましい。CeOの含有量が多すぎるとCe4+による着色が強くなりすぎて、結晶化ガラスに褐色を発する虞がある。
【0036】
SOはボウ硝から導入できる。SOの効果は、原ガラスの溶解性を向上させる成分である。また、CeOと同様に酸化剤として働き、CeOと共存させることによりその効果が顕著に現れる。SOの含有量は0~0.5%、0.02~0.5%、特に0.05~0.3%であることが好ましい。SOが多すぎると、異種結晶が析出し結晶化ガラスの表面品位を悪くさせる虞がある。
【0037】
As、PbOは有害であるので実質的に含有しないことが好ましい。ここで「実質的に含有しない」とは、これらの成分を意図的にガラス中に添加しないという意味であり、不可避的不純物まで完全に排除するということを意味するものではない。より客観的には、不純物を含めたこれらの成分の含有量が、1000ppm以下であるということを意味する。
【0038】
本発明の結晶化ガラスは、ガーナイト(ZnAl)、フォルステライト(MgSiO)、アノーサイト(CaAlSi)、ジルコノライト(CaZrTi)、ルチル(TiO)、及びジルコニア(ZrO)から選ばれる一種類以上の結晶を析出していることが好ましい。ガーナイト(ZnAl)、フォルステライト(MgSiO)、アノーサイト(CaAlSi)、ジルコノライト(CaZrTi)、ルチル(TiO)、及び/又はジルコニア(ZrO)を析出させれば、結晶化ガラスの破壊靭性値が高くなる。またガーナイト(ZnAl)、ルチル(TiO)、及び/又はジルコニア(ZrO)を析出させると化学的耐久性が高くなる。なお、本発明においては、ガーナイト(ZnAl)、フォルステライト(MgSiO)、アノーサイト(CaAlSi)、ジルコノライト(CaZrTi)、ルチル(TiO)、及びジルコニア(ZrO)以外の結晶の析出を排除するものではない。またガーナイト(ZnAl)、フォルステライト(MgSiO)、アノーサイト(CaAlSi)、ジルコノライト(CaZrTi)、ルチル(TiO)、及びジルコニア(ZrO)は、主結晶であることが好ましいが必ずしも主結晶であることを要しない。
【0039】
本発明の結晶化ガラスは、結晶化度が1~50%であり、2~40%、3~35%、4~30%、特に5~20%であることが好ましい。結晶化度が小さすぎると、破壊靭性値が低下する傾向がある。一方、結晶化度が高すぎると、透過率が低下し易くなる。また、イオン交換する場合、イオン交換処理の対象となるガラス相の比率が少ないので、イオン交換処理により高い圧縮応力層を形成することが困難になる。
【0040】
本発明の結晶化ガラスは、結晶子サイズが1μm以下、0.5μm以下、特に0.3μm以下であることが好ましい。結晶子サイズが大きすぎると、透過率が低下し易くなる。なお、結晶子サイズの下限は特に限定されないが、現実的には1nm以上である。
【0041】
本発明の結晶化ガラスは、厚み0.8mm、波長380~780nmにおける可視光平均透過率が50%以上であり、55%以上、特に60%以上であることが好ましい。透過率が低すぎると、スマートフォンのカバーガラスとして使用し難くなる。
【0042】
本発明の結晶化ガラスは、白色度L値が50以下、40以下、特に30以下であることが好ましい。白色度が高すぎると、透過率が低下し易くなる。なお、白色度L値はJIS Z 8730に定義されているものを意味している。
【0043】
本発明の結晶化ガラスは、破壊靭性値が0.75MPa・m0.5以上、1MPa・m0.5以上、1.1MPa・m0.5以上であることが好ましい。破壊靭性値が低すぎると、ガラス表面に傷がつき易くなる。なお、破壊靭性値の上限は特に限定されないが、現実的には20MPa・m0.5以下である。
【0044】
本発明の結晶化ガラスは、屈折率(nd)が1.6以下、1.59以下、1.58以下、1.57以下、1.56以下、特に1.55以下であることが好ましい。屈折率が高すぎると、ガラス表面と空気界面で光散乱が起き易くなる。
【0045】
本発明の結晶化ガラスは、アッベ数(νd)が50以上、50.2以上、50.4以上、50.6以上、50.8以上、特に51以上であることが好ましい。アッベ数が小さすぎると、スマートフォン等のカバーガラスとして使用した際に、表示される画像、映像に色収差が起き易くなる。
【0046】
本発明の結晶化ガラスは、曲げ強度が100MPa以上、105MPa以上、110MPa以上、特に120MPa以上であることが好ましい。曲げ強度が低すぎると、割れ易くなる。なお、曲げ強度の上限は特に限定されないが、現実的には2000MPa以下である。
【0047】
本発明の結晶化ガラスは、落下高さが5mm以上、7mm以上、特に10mm以上であることが好ましい。落下高さが低すぎると、割れ易くなる。
【0048】
本発明の結晶化ガラスは、歪点が500℃以上、特に530℃以上であることが好ましい。歪点が低すぎると、結晶化工程にてガラスが変形する虞がある。
【0049】
本発明の結晶化ガラスは、30~380℃における熱膨張係数が20~120×10-7/K、30~110×10-7/K、特に40~100×10-7/Kであることが好ましい。熱膨張係数が低すぎると、熱膨張係数が周辺部材と整合し難くなる。一方、熱膨張係数が高すぎると、耐熱衝撃性が低下し易くなる。
【0050】
次に本発明の結晶化ガラスの製造方法を説明する。
【0051】
まず、所望の組成となるようにガラス原料を調合する。次に調合した原料バッチを1400~1600℃で8~16時間溶融し、所定の形状に成形し結晶性ガラス体を得る。なお成形は、フロート法、オーバーフロー法、ダウンドロー法、ロールアウト法、モールドプレス法等の周知の成形法を採用することができる。なお、必要に応じて曲げ加工等の処理を施しても構わない。
【0052】
次いで結晶性ガラス体を、700~1100℃で0.1~10時間熱処理することにより、析出結晶としてガーナイト(ZnAl)、フォルステライト(MgSiO)、アノーサイト(CaAlSi)、ジルコノライト(CaZrTi)、ルチル(TiO)、及び/又はジルコニア(ZrO)を析出させ、透明な結晶化ガラスを得る。なお、これら6種以外の結晶が析出しても構わない。なお、熱処理はある特定の温度のみで行って良く、二水準以上の温度に保持し段階的に熱処理しても良く、温度勾配を与えながら加熱しても良い。また、音波や電磁波を印加、照射することで結晶化を促進しても良い。
【0053】
その後、さらに破壊靭性値を高くするために結晶化ガラスをイオン交換しても構わない。イオン交換は、結晶化ガラスの歪点温度付近に調整した溶融塩に、結晶化ガラス体を接触させることにより、表面のガラス相中のアルカリイオン(例えばNaイオンやLiイオン)をそれよりもイオン半径が大きいアルカリイオン(例えばKイオン)と置換させる。このようにして、圧縮応力値が300MPa以上で、かつ圧縮応力深さが10μm以上の圧縮応力層を結晶化ガラス表面に形成することができる。なお「圧縮応力値」と「圧縮応力層の深さ」は、顕微レーザーラマン分光法で測定した値を指す。
【0054】
なお必要に応じてイオン交換前又は後に、膜付け等の表面加工、切断・穴開け等の機械加工等を施してもよい。
【実施例
【0055】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。表1は、実施例1~11及び比較例12を示すものである。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1~11及び比較例12の結晶化ガラスは以下のようにして作製した。
【0058】
まず、表中の組成になるように調合したバッチ原料を溶融窯に投入し、1500~1600℃で溶融した後、溶融ガラス生地をロール成形し、次いで徐冷して、900×1200×7mmの結晶性ガラスを作製した。この結晶性ガラスを表に記載の温度にて2時間熱処理することにより、結晶化ガラスを得た。なお、比較例12に関しては、熱処理を行わず結晶化させなかった。
【0059】
次に、結晶化ガラスを430℃に保持したKNO溶融塩中に4時間浸漬することによってイオン交換処理を行い、化学強化結晶化ガラスを得た。
【0060】
このようにして作製した試料について、結晶化度、平均結晶子サイズ、析出結晶、透過率、破壊靭性値、屈折率、アッベ数、曲げ強度、落下高さ及び熱膨張係数を評価した。結果を表1に示す。
【0061】
結晶化度、平均結晶子サイズ、析出結晶はX線回折装置(リガク製 全自動多目的水平型X線回折装置 Smart Lab)を用いて評価した。スキャンモードは2θ/θ測定、スキャンタイプは連続スキャン、散乱および発散スリット幅は1°、受光スリット幅は0.2°、測定範囲は10~60°、測定ステップは0.1°、スキャン速度は5°/分とし、同機種パッケージに搭載された解析ソフトを用いて析出結晶の評価を行った。また、析出結晶の平均結晶子サイズはデバイ・シェラー(Debeye-Sherrer)法に基づいて、測定したX線回折ピークを用いて算出した。なお、平均結晶子サイズ算出用の測定では、スキャン速度は1°/分とした。また、結晶化度は上記方法で得られたX線回折プロファイルを基に、(結晶のX線回折ピークの積分強度)/(計測されたX線回折の全積分強度)×100[%]によって算出した。
【0062】
波長380~780nmにおける可視光平均透過率は、厚み0.8mmに両面光学研磨した結晶化ガラス板について、分光光度計を用いて測定した。測定には日本分光製 分光光度計 V-670を用いた。
【0063】
破壊靭性値は、JIS R1607に準拠したIndentation Fracture法(IF法)によって10回測定し、平均値を算出した。
【0064】
屈折率は、ヘリウムランプのd線(587.6nm)に対する測定値で示した。測定には島津製作所製 KPR-2000を用いた。
【0065】
アッベ数は、上記d線の屈折率と、水素ランプのF線(486.1nm)及びC線(656.3nm)の屈折率の値を用い、アッベ数(νd)=(nd-1)/(nF-nC)の式から算出した。測定には島津製作所製 KPR-2000を用いた。
【0066】
曲げ強度は、ASTM C880-78に準じた3点荷重法を用いて測定した。
【0067】
落下高さは、落下試験により求めた。花崗岩でできた定盤の上に、50mm×50mmのガラス板を置き、ガラスの上に先端にビッカース圧子を付けた53gの重りを特定の高さから垂直に落とす落下試験をし、その結果割れることなく元の形状を維持した高さの最大値を落下高さとした。
【0068】
熱膨張係数は、20mm×3.8mmφに加工した結晶化ガラス試料を用いて、30~380℃の温度域で測定した。測定にはNETZSCH製 Dilatometerを用いた。
【0069】
本発明の実施例1~11は、結晶化度が10~40%の結晶化ガラスであり、透過率が52%以上と高く、破壊靭性値が1.1MPa・m0.5以上と高かった。また、イオン交換処理により破壊靭性値が2.8MPa・m0.5以上とさらに高くなった。一方、比較例12は非晶質ガラスであり、破壊靭性値が0.7MPa・m0.5と低かった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の結晶化ガラスは、携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)等のタッチパネルディスプレイのカバーガラスとして好適である。また、本発明の結晶化ガラスは、これらの用途以外にも、高い破壊靭性値、透明性が要求される用途、例えば窓ガラス、磁気ディスク用基板、フラットパネルディスプレイ用基板、太陽電池用カバーガラス、固体撮像素子用カバーガラスへの応用が期待される。