(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】半導体ナノ粒子複合体、半導体ナノ粒子複合体組成物、および半導体ナノ粒子複合体硬化膜
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20241211BHJP
C09K 11/70 20060101ALI20241211BHJP
C09K 11/02 20060101ALI20241211BHJP
B82Y 20/00 20110101ALI20241211BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20241211BHJP
C01B 25/08 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C09K11/08 G ZNM
C09K11/70
C09K11/02
B82Y20/00
B82Y40/00
C01B25/08 A
(21)【出願番号】P 2021521904
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021465
(87)【国際公開番号】W WO2020241873
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2019103241
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019103242
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000186762
【氏名又は名称】昭栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【氏名又は名称】酒井 正己
(74)【代理人】
【識別番号】100179844
【氏名又は名称】須田 芳國
(72)【発明者】
【氏名】城戸 信人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 洋和
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-216603(JP,A)
【文献】特開2015-86284(JP,A)
【文献】国際公開第2018/224459(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/226654(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/150297(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038487(WO,A1)
【文献】特開2002-121549(JP,A)
【文献】国際公開第2017/188300(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/008374(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K11/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ナノ粒子の表面に、リガンドIとリガンドIIを含む2種以上のリガンドが配位した半導体ナノ粒子複合体であって、
前記リガンドは有機基と配位性基とからなり、
前記リガンドIは
、前記有機基が置換基および/またはヘテロ原子を有してもよい1価の炭化水素基であり、かつ前記配位性基としてメルカプト基を1つ有し、
前記リガンドIIは
、前記有機基が置換基および/またはヘテロ原子を有してもよい2価以上の炭化水素基であり、かつ前記配位性基としてメルカプト基
を2つ以上有し、
前記リガンドIIの各メルカプト基は5つ以内の炭素原子を介して存在しており、
前記半導体ナノ粒子に対する前記リガンドの質量比(リガンド/半導体ナノ粒子)は0.05以上であり、
前記リガンドに占める、前記リガンドIと前記リガンドIIの合計の質量分率が0.7以上であり、
前記リガンドIと前記リガンドIIの質量比(リガンドI/リガンドII)が、0.2~1.5である、
半導体ナノ粒子複合体。
【請求項2】
前記半導体ナノ粒子に対する前記リガンドの質量比(リガンド/半導体ナノ粒子)が、
0.60以下である、
請求項1に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項3】
前記リガンドの分子量が600以下である、
請求項1または2に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項4】
前記リガンドIIの各メルカプト基が、3つ以内の炭素原子を介して存在している、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項5】
前記リガンドIがアルキルチオールである、
請求項1~
4のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項6】
前記半導体ナノ粒子複合体の蛍光量子効率が70%以上である、
請求項1~
5のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項7】
前記半導体ナノ粒子複合体の発光スペクトルの半値幅が40nm以下である、
請求項1~
6のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項8】
前記半導体ナノ粒子が、InおよびPを含む、
請求項1~
7のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項9】
前記半導体ナノ粒子の表面の組成がZnを含有する、
請求項1~
8のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項10】
前記半導体ナノ粒子複合体を大気中で180℃5時間加熱した時、加熱前の蛍光量子効率と加熱後の蛍光量子効率の変化率が10%以下である、
請求項1~
9のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体が分散媒に分散した半導体ナノ粒子複合体組成物であって、
前記分散媒はモノマーまたはプレポリマーである、
半導体ナノ粒子複合体組成物。
【請求項12】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体が高分子マトリクス中に分散した半導体ナノ粒子複合体硬化膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ナノ粒子複合体、半導体ナノ粒子複合体組成物、半導体ナノ粒子複合体硬化膜、半導体ナノ粒子複合体分散液、半導体ナノ粒子複合体組成物の製造方法、および半導体ナノ粒子複合体硬化膜の製造方法に関する。
本出願は、2019年5月31日出願の日本特許出願第2019-103241号および同日出願の日本特許出願2019-103242号に基づく優先権を主張し、前記日本特許出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
量子閉じ込め効果が発現するほど微小な半導体ナノ粒子は、粒径に依存したバンドギャップを有する。光励起、電荷注入等の手段によって半導体ナノ粒子内に形成された励起子は、再結合によりバンドギャップに応じたエネルギーの光子を放出するため、半導体ナノ粒子の組成とその粒径を適切に選択することにより、所望の波長での発光を得ることができる。
【0003】
半導体ナノ粒子は、研究初期はCdやPbを含む元素を中心に検討が行われてきたが、Cd、Pbが特定有害物質使用制限などの規制対象物質であることから、近年では非Cd系、非Pb系の半導体ナノ粒子の研究がなされてきている。
【0004】
半導体ナノ粒子は、ディスプレイ用途、生体標識用途、太陽電池用途など、様々な用途への応用が試みられており、特にディスプレイ用途としては、半導体ナノ粒子をフィルム化して波長変換層としての利用が始まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-136498号公報
【文献】国際公開第2017/038487号
【非特許文献】
【0006】
【文献】神隆著、「半導体量子ドット、その合成法と生命科学への応用」、生産と技術、第63巻、第2号、p.58-63、2011年
【文献】Fabien Dubois et al, “A Versatile Strategy for Quantum Dot Ligand Exchange” J.AM.CHEM.SOC Vol.129, No.3, p.482-483, 2007
【文献】Boon-Kin Pong et al, “Modified Ligand-Exchange for Efficient Solubilization of CdSe/ZnS Quantum Dots in Water: A Procedure Guided by Computational Studies” Langmuir Vol.24, No.10, p.5270-5276, 2008
【文献】Samsulida Abd. Rahman et al, “Thiolate-Capped CdSe/ZnS Core-Shell Quantum Dots for the Sensitive Detection of Glucose” Sensors Vol.17, No.7, p.1537, 2017
【文献】Whitney Nowak Wenger et al, “Functionalization of Cadmium Selenide Quantum Dots with Poly(ethylene glycol): Ligand Exchange, Surface Coverage, and Dispersion Stability” Langmuir, Vol.33, No.33, pp8239-8245, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体ナノ粒子は一般に分散媒に分散されて、半導体ナノ粒子分散液として調製され各分野に応用される。
半導体ナノ粒子単体では、半導体ナノ粒子の表面状態により、分散可能な分散媒が限定されるため、半導体ナノ粒子の表面にリガンドを配位させることで、各分野での応用に必要とされる分散媒に分散させることが可能となる。
【0008】
非特許文献1~非特許文献5、および特許文献1には、半導体ナノ粒子表面に配位するリガンドを異なるリガンドと交換することで、分散可能な分散媒が変更できることが開示されている。
また、特許文献2には、リガンドにカルボキシル基を有するリガンドとメルカプト基を有するリガンドを使用し、両リガンドを半導体ナノ粒子の表面に配位させ、蛍光量子効率が高く、紫外線等に対する発光安定性の良い半導体ナノ粒子複合体を開示している。
【0009】
半導体ナノ粒子複合体は、リガンドの配位性基の種類により半導体ナノ粒子とリガンドの結合力に差が生じる。半導体ナノ粒子と結合力が弱いリガンドを配位させると、半導体ナノ粒子複合体を分散媒に分散させる際に、半導体ナノ粒子から半導体ナノ粒子との結合力が弱いリガンドが脱離し、蛍光量子効率の低下を招く。
【0010】
さらに、半導体ナノ粒子複合体は用途によっては、半導体ナノ粒子複合体のフィルム化工程、または半導体ナノ粒子複合体含有フォトレジストのベーキング工程、あるいは半導体ナノ粒子複合体のインクジェットパターニング後における溶媒除去および樹脂硬化工程等のプロセスにおいて、酸素の存在下で200℃程度の高温にさらされる場合がある。その際、前述したような半導体ナノ粒子との結合力が弱いリガンドは、より半導体ナノ粒子の表面から脱離しやすくなり、蛍光量子効率の低下を招く。
【0011】
本発明者らは、半導体ナノ粒子複合体の蛍光量子効率の向上と、高温にさらされた際の蛍光量子効率の安定性(本願では以下「耐熱性」と表す)の向上を目的として、特許文献2に記載の半導体ナノ粒子複合体を検討したところ、半導体ナノ粒子複合体の耐熱性が低いことを明らかにした。
【0012】
そこで、本発明は、蛍光量子効率の向上と、耐熱性の向上を兼ね揃えた半導体ナノ粒子複合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る半導体ナノ粒子複合体は、
半導体ナノ粒子の表面に、リガンドIとリガンドIIを含む2種以上のリガンドが配位した半導体ナノ粒子複合体であって、
前記リガンドは有機基と配位性基とからなり、
前記リガンドIは前記配位性基としてメルカプト基を1つ有し、
前記リガンドIIは前記配位性基としてメルカプト基を少なくとも2つ以上有する、
半導体ナノ粒子複合体、である。
なお、本願において「~」で示す範囲は、その両端に示す数字を含んだ範囲とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、蛍光量子効率の向上と、耐熱性の向上を兼ね揃えた半導体ナノ粒子複合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、上記課題を達成すべく、鋭意検討した結果、リガンドの種類を適切に選択することで、高い蛍光量子効率と高い耐熱性を有する半導体ナノ粒子複合体を得られることを見出し、さらに、半導体ナノ粒子複合体が高質量分率で含まれる分散液が得られることを見出した。すなわち、本発明の一態様は、半導体ナノ粒子と半導体ナノ粒子の表面に配位するリガンドとからなる半導体ナノ粒子複合体ならびに前記半導体ナノ粒子複合体を含む半導体ナノ粒子複合体組成物および半導体ナノ粒子複合体硬化膜に関する。また、本発明の別の態様は、半導体ナノ粒子と半導体ナノ粒子の表面に配位するリガンドとからなる半導体ナノ粒子複合体が分散媒に分散した半導体ナノ粒子複合体分散液、ならびに前記半導体ナノ粒子複合体分散液を用いた半導体ナノ粒子複合体組成物の製造方法および半導体ナノ粒子複合体硬化膜の製造方法に関する。
【0016】
本発明において、半導体ナノ粒子複合体とは、発光特性を有する半導体のナノ粒子複合体である。本発明の半導体ナノ粒子複合体は340nm~480nmの光を吸収し、発光ピーク波長が400nm~750nmの光を発光する粒子である。
半導体ナノ粒子複合体の発光スペクトルの半値幅(FWHM)は40nm以下であることが好ましい。なお、半導体ナノ粒子複合体をディスプレイ等に応用した際に混色を防ぐことができる等の理由から、発光スペクトルの半値幅は38nm以下であることがより好ましく、さらに35nm以下であることが好ましい。
【0017】
前記半導体ナノ粒子複合体の蛍光量子効率(QY)は70%以上であることが好ましい。なお、蛍光量子効率が70%以上であることで、より効率よく色変換ができることから、蛍光量子効率は75%以上であることがより好ましく、さらに80%以上であることが好ましい。本発明において、半導体ナノ粒子複合体の蛍光量子効率は量子効率測定システムを用いて測定することができる。
【0018】
-半導体ナノ粒子-
前記半導体ナノ粒子複合体を構成する半導体ナノ粒子は、前述した蛍光量子効率、および半値幅のような発光特性を満たすものであれば特に限定されず、1種類の半導体からなる粒子でもよいし、2種類以上の異なる半導体からなる粒子であってもよい。2種類以上の異なる半導体からなる粒子の場合には、それらの半導体でコア-シェル構造を構成していてもよい。例えば、III族元素およびV族元素を含有するコアと、前記コアの少なくとも一部を覆うII族およびVI族元素を含有するシェルとを有するコア-シェル型の粒子であってもよい。ここで、前記シェルは異なる組成からなる複数のシェルを有していてもよく、シェル中でシェルを構成する元素の比率が変化する勾配型のシェルを1つ以上有していてもよい。
【0019】
III族元素としては、具体的にはIn、AlおよびGaが挙げられる。
V族元素としては、具体的にはP、NおよびAsが挙げられる。
コアを形成する組成としては、特に限定はないが、発光特性の観点からInPが好ましい。
【0020】
II族元素としては、特に限定はないが、例えばZnおよびMg等が挙げられる。
VI族元素としては、例えば、S、Se、TeおよびOが挙げられる。
シェルを形成する組成として、特に限定はないが、量子閉じ込め効果の観点からは、ZnS、ZnSe、ZnSeS、ZnTeSおよびZnTeSe等が好ましい。特に半導体ナノ粒子の表面にZn元素が存在している場合、本発明の効果をより発揮することができる。
【0021】
複数のシェルを有する場合、前述した組成のシェルが少なくとも1つ含まれていればよい。また、シェル中でシェルを構成する元素の比率が変化する勾配型のシェルを有している場合、シェルは必ずしも組成表記通りの組成である必要はない。
ここで、本発明において、シェルがコアの少なくとも一部を覆っているかどうかや、シェル内部の元素分布は、例えば、透過型電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分光法(TEM-EDX)を用いて組成分析解析することにより確認することができる。
【0022】
前記半導体ナノ粒子の平均粒径は10nm以下であることが好ましく、さらには7nm以下であることが好ましい。本発明において、半導体ナノ粒子の平均粒径は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察される粒子画像において、10個以上の粒子の粒径を面積円相当径(Heywood径)で算出することにより測定することができる。発光特性の点から、粒度分布は狭いことが好ましく、変動係数15%が以下であることが好ましい。ここで、変動係数とは「変動係数=粒径の標準偏差/平均粒径」で定義される。変動係数が15%以下であることで、より粒度分布の狭い半導体ナノ粒子が得られていることの指標になる。
【0023】
-リガンド-
本発明において、半導体ナノ粒子複合体は前記半導体ナノ粒子の表面にリガンドが配位したものである。ここで述べる配位とは、配位子が半導体ナノ粒子の表面に化学的に影響していることを表す。半導体ナノ粒子の表面に配位結合や他の任意の結合様式(例えば共有結合、イオン結合、水素結合等)で結合していてもよいし、あるいは半導体ナノ粒子の表面の少なくとも一部に配位子を有している場合には、必ずしも結合を形成していなくてもよい。
【0024】
本発明において、リガンドは、半導体ナノ粒子に配位する配位性基と、有機基とからなる。
半導体ナノ粒子に配位することによって半導体ナノ粒子複合体を形成するリガンドは、少なくとも1つが、配位性基としてメルカプト基を1つ有するリガンドIであり、さらに少なくとも1つが、配位性基としてメルカプト基を少なくとも2つ以上有するリガンドIIである。
【0025】
リガンドIならびにリガンドIIのメルカプト基は半導体ナノ粒子のシェルに強く配位し、半導体ナノ粒子の欠陥部分を埋め、半導体ナノ粒子の発光特性の低下を防ぎ、耐熱性を高めることに寄与する。半導体ナノ粒子の表面にZnが存在している場合、メルカプト基とZnの結合力の強さにより、前述した効果がより得られる。
なお、リガンドIの有機基は、置換基やヘテロ基を有していてもよい1価の炭化水素基であることが好ましい。この構造であると無機系のリガンドが配位している場合と比較して、種々の分散媒へ分散が可能となる。
【0026】
特に限定はしないが、リガンドIはアルキルチオールであることが好ましい。特に耐熱性の観点から、炭素数6~14のアルキル基を有するアルキルチオールであることが好ましく、さらにはヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオールであることが好ましい。
【0027】
リガンドIIの有機基は、置換基やヘテロ基を有していてもよい2価以上の炭化水素基であることが好ましい。この構造であることで分散媒への分散性が向上し、種々の分散媒への分散が可能となり、さらに耐熱性が向上する。
リガンドIIの各メルカプト基は、5つ以内の炭素原子を介して存在していることが好ましい。半導体ナノ粒子間での架橋反応防止の観点から、3つ以内の炭素原子を介して存在していることがより好ましい。
【0028】
リガンドIIはメルカプト基を少なくとも2つ以上有しているため、リガンドIIの1分子で半導体ナノ粒子の表面の複数箇所に強く配位することができる。しかし、半導体ナノ粒子の表面近傍のリガンドの密度が下がり、耐熱性を下げる原因ともなりうる。本発明の半導体ナノ粒子複合体では、リガンドIも共に配位させることで、半導体ナノ粒子の表面近傍のリガンドの密度の低下を防ぎ、耐熱性を上げることが可能となる。
【0029】
リガンドIIはメルカプト基を少なくとも2つ以上有しているので、リガンドIIの1分子で半導体ナノ粒子表面の複数箇所に強固に配位することができる。その結果、半導体ナノ粒子複合体の耐熱性が向上する。さらに、1価のリガンドと比較して半導体ナノ粒子複合体に占めるリガンド量が低下し、分散媒に高質量分率で分散可能となる。しかし、半導体ナノ粒子の表面近傍のリガンドの密度が下がり、耐熱性を下げる原因ともなりうるため、リガンドIも共に配位させることで、半導体ナノ粒子の表面近傍のリガンドの密度の低下を防ぎ、耐熱性を上げることが可能となる。なお、半導体ナノ粒子複合体は、リガンドIとリガンドIIを共に配位させることで、分散性の調整も可能となるだけでなく、分散媒への高質量分率での分散が可能となるである。
リガンドIとリガンドIIの質量比(リガンドI/リガンドII)は0.2~1.5であることが好ましい。前述した耐熱性の向上と分散性の調整の観点から、さらに0.3~1.0であることがより好ましい。
【0030】
半導体ナノ粒子複合体において、半導体ナノ粒子に対するリガンドの質量比(リガンド/半導体ナノ粒子)は0.05以上、0.60以下であることが好ましい。0.05以上であることにより、半導体ナノ粒子の表面をリガンドで十分に覆うことができ、半導体ナノ粒子の発光特性を低下させず、また、分散液や組成物、硬化膜への分散性を高めることができる。また、0.60以下であることにより、半導体ナノ粒子複合体のサイズならびに体積が大きくなることを抑制し、分散液や組成物、硬化膜へ分散させた際に質量分率を高くすることが容易になる。なお、半導体ナノ粒子複合体において、半導体ナノ粒子に対するリガンドの質量比(リガンド/半導体ナノ粒子)は0.15以上、0.35以下であることがより好ましい。
【0031】
前記リガンドの各分子量は50以上、600以下であることが好ましく、450以下であることがより好ましい。
リガンドの分子量が50以上であることにより、半導体ナノ粒子の表面をリガンドで十分に覆うことができ、半導体ナノ粒子の発光特性を低下させず、また、分散液や組成物、硬化膜への分散性を高めることができる。また、リガンドの分子量が600以下であることにより、半導体ナノ粒子複合体のサイズならびに体積が大きくなることを抑制し、分散液や組成物、硬化膜へ分散させた際に質量分率を高くすることが容易になる。
【0032】
半導体ナノ粒子の表面には、リガンドIとリガンドII以外のリガンドが配位していてもよい。リガンドIとリガンドII以外のリガンドが配位している場合、全てのリガンドに対する、リガンドIとリガンドIIの合計の質量分率が0.7以上であることが好ましい。この範囲にあることで、前述したように、分散性の調整を可能にしつつ、耐熱性を向上させることができる。
また、半導体ナノ粒子の表面に、リガンドIとリガンドII以外のリガンドが配位している場合、当該リガンドIとリガンドII以外のリガンドの分子量は、50以上、600以下であることが好ましく、450以下であることがより好ましい。
【0033】
(半導体ナノ粒子複合体の製造方法)
-半導体ナノ粒子の製造方法-
以下に半導体ナノ粒子の製造方法に関する例を開示する。
III族の前駆体、V族の前駆体、および必要に応じて添加物を溶媒中で混合し得られた前駆体混合液を加熱することで、半導体ナノ粒子のコアを形成することができる。
溶媒としては、1-オクタデセン、ヘキサデカン、スクアラン、オレイルアミン、トリオクチルホスフィン、トリオクチルホスフィンオキシドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
III族の前駆体としては、前記III族元素を含む酢酸塩、カルボン酸塩、およびハロゲン化物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
V族の前駆体として、前記V族元素を含む有機化合物やガスが挙げられるが、これらに限定されるものではない。前駆体がガスの場合には、前記ガス以外を含む前駆体混合液にガスを注入しながら反応させることでコアを形成することができる。
【0034】
半導体ナノ粒子は、本発明の効果を害さない限り、III族、およびV族以外の元素を1種またはそれ以上含んでいてもよく、その場合は前記元素の前駆体をコア形成時に添加することができる。
添加物としては、例えば、分散剤としてカルボン酸、アミン類、チオール類、ホスフィン類、ホスフィンオキシド類、ホスフィン酸類、およびホスホン酸類などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。分散剤は溶媒を兼ねることもできる。
半導体ナノ粒子のコアを形成後、必要に応じてハロゲン化物を加えることで、半導体ナノ粒子の発光特性を向上することができる。
【0035】
ある実施形態では、In前駆体、および必要に応じて分散剤を溶媒中に添加した金属前駆体溶液を真空下で混合し、一旦100℃~300℃で6時間~24時間加熱した後、さらにP前駆体を添加して200℃~400℃で3分~60分加熱後、冷却する。さらにハロゲン前駆体を添加し、25℃~300℃、好ましくは100℃~300℃、より好ましくは150℃~280℃で加熱処理することで、コア粒子を含むコア粒子分散液を得ることができる。
【0036】
合成されたコア粒子分散液に、シェル形成前駆体を添加することにより、半導体ナノ粒子はコア-シェル構造をとり、量子効率(QY)および安定性を高めることができる。
シェルを構成する元素はコア粒子の表面で合金やヘテロ構造、またはアモルファス構造等の構造を取っていると思われるが、一部は拡散によりコア粒子の内部に移動していることも考えられる。
【0037】
添加されたシェル形成元素は、主にコア粒子の表面付近に存在し、半導体ナノ粒子を外的因子から保護する役割を持っている。半導体ナノ粒子のコア-シェル構造はシェルがコアの少なくとも一部を覆っていることが好ましく、さらに好ましくはコア粒子の表面全体を均一に覆っていることが好ましい。
【0038】
ある実施形態では、前述したコア粒子分散液にZn前駆体とSe前駆体を添加後150℃~300℃、さらに好ましくは180℃~250℃で加熱し、その後Zn前駆体とS前駆体を添加後、200℃~400℃、好ましくは250℃~350℃で加熱する。これによりコア-シェル型の半導体ナノ粒子を得ることができる。
ここで、特に限定するものではないが、Zn前駆体としては、酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛およびミリスチン酸亜鉛等のカルボン酸塩や、塩化亜鉛および臭化亜鉛等のハロゲン化物、ジエチル亜鉛等の有機塩等を用いることができる。
Se前駆体としては、トリブチルホスフィンセレニド、トリオクチルホスフィンセレニドおよびトリス(トリメチルシリル)ホスフィンセレニドなどのホスフィンセレニド類、ベンゼンセレノールおよびセレノシステインなどのセレノール類、およびセレン/オクタデセン溶液などを使用することができる。
S前駆体としてはトリブチルホスフィンスルフィド、トリオクチルホスフィンスルフィドおよびトリス(トリメチルシリル)ホスフィンスルフィドなどのホスフィンスルフィド類、オクタンチオール、ドデカンチオールおよびオクタデカンチオールなどのチオール類、および硫黄/オクタデセン溶液などを使用することができる。
シェルの前駆体はあらかじめ混合し、一度で、あるいは複数回に分けて添加してもよいし、それぞれ別々に一度で、あるいは複数回に分けて添加してもよい。シェル前駆体を複数回に分けて添加する場合は、各シェル前駆体添加後にそれぞれ温度を変えて加熱してもよい。
【0039】
本発明において、半導体ナノ粒子の作製方法は特に限定されず、上記に示した方法の他、従来行われている、ホットインジェクション法や、均一溶媒法、逆ミセル法、CVD法等による作製方法や、任意の方法を採用しても構わない。
【0040】
-半導体ナノ粒子複合体の製造方法-
半導体ナノ粒子複合体は、上記のようにして製造した半導体ナノ粒子に、上記のリガンドを配位させることにより製造することができる。
半導体ナノ粒子へのリガンドの配位方法に制限はないが、リガンドの配位力を利用した配位子交換法を用いることができる。具体的には、前述した半導体ナノ粒子の製造の過程で使用した有機化合物が半導体ナノ粒子の表面に配位した状態である半導体ナノ粒子を、目的とするリガンドと液相で接触させることで、目的とするリガンドが半導体ナノ粒子表面に配位した半導体ナノ粒子複合体を得ることができる。この場合、通常、後述するような溶媒を使用した液相反応とするが、使用するリガンドが反応条件において液体である場合にはリガンド自身を溶媒とし、他の溶媒を添加しない反応形式をとることも可能である。
【0041】
また、リガンド交換の前に後述するような精製工程と再分散工程を行うと、リガンド交換を容易に行うことができる。
その他の方法としては、半導体ナノ粒子を形成する際の前駆体にリガンドを添加して反応させる方法もとり得る。半導体ナノ粒子がコア-シェル構造をとる場合にはリガンドはコアの前駆体、シェルの前駆体のいずれに添加しても構わない。
【0042】
ある実施形態では、半導体ナノ粒子製造後の半導体ナノ粒子含有分散液を精製後、再分散させた後、リガンドIならびにリガンドIIを含む溶媒を添加し、窒素雰囲気下で50℃~200℃で、1分~120分間攪拌することで、所望の半導体ナノ粒子複合体を得ることができる。
【0043】
半導体ナノ粒子複合体は下記のように精製することができる。
一実施形態において、アセトン等の極性転換溶媒を添加することによって半導体ナノ粒子複合体を分散液から析出させることができる。析出した半導体ナノ粒子複合体を濾過または遠心分離により回収することができ、一方、未反応の出発物質および他の不純物を含む上澄みは廃棄または再利用することができる。次いで析出した半導体ナノ粒子複合体はさらなる分散媒で洗浄し、再び分散することができる。この精製プロセスは、例えば、2~4回、または所望の純度に到達するまで、繰り返すことができる。
【0044】
本発明において、半導体ナノ粒子複合体の精製方法は特に限定されず、上記に示した方法の他、例えば、凝集、液液抽出、蒸留、電着、サイズ排除クロマトグラフィーおよび/または限外濾過や任意の方法を単独でまたは組み合わせて使用することができる。
これらの精製方法は前述したリガンド交換の前にも半導体ナノ粒子のリガンド交換を容易に行う目的で使用することができる。
【0045】
半導体ナノ粒子複合体中のリガンド組成は1H-NMRを用いて定量できる。得られた半導体ナノ粒子を重溶媒に分散させ、磁場中で電磁波を与え1Hの核磁気共鳴を起こさせる。このとき得られる自由誘導減衰信号をフーリエ解析し、1H-NMRスペクトルを得る。1H-NMRスペクトルはリガンド種の構造に対応した位置に特徴的なシグナルを与える。これらのシグナルの位置と積分強度比から、目的とするリガンドの組成を算出する。重溶媒は、例えば、CDCl3、アセトン-d6、N-ヘキサン-D14などが挙げられる。
【0046】
半導体ナノ粒子複合体の光学特性は蛍光量子効率測定システム(例えば、大塚電子製、QE-2100)を用いて測定できる。得られた半導体ナノ粒子複合体を分散液に分散させ、励起光を当て発光スペクトルを得る。ここで得られた発光スペクトルから、再励起されて蛍光発光した分の再励起蛍光発光スペクトルを除いた再励起補正後の発光スペクトルより蛍光量子効率(QY)と半値幅(FWHM)を算出する。分散液は、例えばノルマルヘキサン、トルエン、アセトン、PGMEAおよびオクタデセンが挙げられる。
【0047】
半導体ナノ粒子複合体の耐熱性は乾粉を用いて評価する。前記精製した半導体ナノ粒子複合体から分散媒を除去し、乾粉の状態で大気中180℃、5時間加熱する。熱処理後、半導体ナノ粒子複合体を分散液に再分散させ、再励起補正した蛍光量子効率(=QYb)を測定する。加熱前の蛍光量子効率を「QYa」とすると熱処理前後の蛍光量子効率の変化率は下記(式1)により算出できる。
(式1): {1-(QYb/QYa)}×100
なお、耐熱性は下記(式2)により算出できる。
(式2): (QYb/QYa)×100
すなわち、加熱前の蛍光量子効率と加熱後の蛍光量子効率の変化率が10%未満であるということは、耐熱性が90%以上であることを示す。
当該耐熱性が90%以上であることで、半導体ナノ粒子複合体をフィルム化工程、または半導体ナノ粒子含有フォトレジストのベーキング工程、あるいは半導体ナノ粒子のインクジェットパターニング後における溶媒除去および樹脂硬化工程等のプロセスを通した後も蛍光量子効率の低下を抑えることができる。
【0048】
(半導体ナノ粒子複合体分散液)
本発明の半導体ナノ粒子複合体分散液に含まれる半導体ナノ粒子複合体は、上述の本発明の半導体ナノ粒子複合体の構成を採用することができる。本発明において、半導体ナノ粒子複合体が分散媒に分散している状態とは、半導体ナノ粒子複合体と分散媒とを混合させた場合に半導体ナノ粒子複合体が沈殿しない状態もしくは目視可能な濁り(曇り)として残留しない状態であることを表す。なお、半導体ナノ粒子複合体が分散媒に分散しているものを半導体ナノ粒子複合体分散液と表す。
【0049】
リガンドIとリガンドIIの質量比を前述した比率にすることで、分散媒としてヘキサン、アセトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、イソボルニルアクリレート(IBOA)、エタノール、メタノールおよびこれらの群のいずれかの組み合わせからなる混合物のうち少なくとも1つに、半導体ナノ粒子の質量分率が20質量%以上となるように半導体ナノ粒子複合体を分散させることが可能となる。これらの分散媒に分散させることで、後述する硬化膜や樹脂への分散に応用する際に、半導体ナノ粒子複合体の分散性を保ったまま使用することができる。
本発明の半導体ナノ粒子複合体を分散させた本発明の半導体ナノ粒子複合体分散液においては、半導体ナノ粒子複合体が高質量分率で分散しており、その結果、半導体ナノ粒子複合体分散液中における半導体ナノ粒子の質量分率を20質量%以上、さらには25質量%以上、さらには30質量%以上、さらには35質量%以上とすることができる。
【0050】
(半導体ナノ粒子複合体組成物)
本発明において、半導体ナノ粒子複合体分散液の分散媒としてモノマーまたはプレポリマーを選択し、半導体ナノ粒子複合体組成物を形成することができる。
モノマーまたはプレポリマーは、特に限定しないが、エチレン性不飽和結合を含むラジカル重合性化合物、シロキサン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、およびフェノール誘導体などが挙げられる。
半導体ナノ粒子複合体の応用先が幅広く選択できる観点からアクリルモノマーであることが好ましい。特にアクリルモノマーは半導体ナノ粒子複合体の応用に応じて、ラウリルアクリレート、イソデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、3、5、5-トリメチルシクロヘキサノールアクリレート、1、6-ヘキサジオールジアクリレート、シクロヘキサジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンアクリレート、およびジペンタエリストールヘキサアクリレート等が挙げられる。
さらに、半導体ナノ粒子複合体組成物は架橋剤を添加してもよい。
架橋剤は半導体ナノ粒子複合体組成物中のモノマーの種類によって、多官能(メタ)アクリレート、多官能シラン化合物、多官能アミン、多官能カルボン酸、多官能チオール、多官能アルコール、および多官能イソシアネートなどから選択される。
さらに、半導体ナノ粒子複合体組成物中にペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、イソヘキサン、へプタン、オクタンおよび石油エーテル等の脂肪族炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類、グリコールエーテルエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびミネラルスピリット等の芳香族炭化水素類、および、ジクロロメタンおよびクロロホルム等のハロゲン化アルキルなど、硬化に影響しない各種有機溶媒をさらに含むことができる。なお、上記の有機溶媒は、半導体ナノ粒子複合体組成物の希釈用としてだけでなく、分散媒としても用いることができる。すなわち、本発明の半導体ナノ粒子複合体を上記の有機溶媒に分散させて、半導体ナノ粒子複合体分散液とすることも可能である。
【0051】
また、半導体ナノ粒子複合体組成物は、半導体ナノ粒子複合体組成物中のモノマーの種類によって、適切な開始剤や散乱剤、触媒、バインダー、界面活性剤、密着促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、凝集防止剤、および分散剤等を含んでもよい。
さらに、半導体ナノ粒子複合体組成物、あるいは後述する半導体ナノ粒子複合体硬化膜の光学特性を向上するために、半導体ナノ粒子複合体組成物に散乱剤を含んでもよい。散乱剤は酸化チタンや酸化亜鉛などの金属酸化物であり、これらの粒径は100nm~500nmであることが好ましい。散乱の効果の観点から、散乱剤の粒径は200nm~400nmであることがさらに好ましい。散乱剤が含まれることで、吸光度が2倍程度向上する。散乱剤の含有量は組成物に対して2質量%~30質量%であることが好ましく、組成物のパターン性の維持の観点から5質量%~20質量%であることがより好ましい。
【0052】
本発明の半導体ナノ粒子複合体の構成により、半導体ナノ粒子複合体組成物中の半導体ナノ粒子複合体の含有量を20質量%以上にすることができる。半導体ナノ粒子複合体組成物中の半導体ナノ粒子の質量分率を30質量%~95質量%とすることで、後述する硬化膜中にも高質量分率で半導体ナノ粒子複合体ならびに半導体ナノ粒子を分散させることができる。
【0053】
本発明の半導体ナノ粒子複合体組成物は、10μmの膜にしたとき、前記膜の法線方向からの波長450nmの光に対する吸光度が1.0以上であることが好ましく、1.3以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましい。これにより、バックライトの光を効率的に吸収できるため、後述の硬化膜の厚みを低減することができ、適用するデバイスを小型化することができる。
【0054】
(希釈組成物)
希釈組成物は、前述の本発明の半導体ナノ粒子複合体組成物が有機溶媒で希釈されてなるものである。
半導体ナノ粒子複合体組成物を希釈する有機溶媒は特に限定されるものではなく、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、イソヘキサン、へプタン、オクタンおよび石油エーテル等の脂肪族炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類、グリコールエーテルエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびミネラルスピリット等の芳香族炭化水素類、および、ジクロロメタンおよびクロロホルム等のハロゲン化アルキルなどが挙げられる。これらの中でも、幅広い樹脂への溶解性および塗膜時の被膜均一性の観点からは、グリコールエーテル類およびグリコールエーテルエステル類が好ましい。
【0055】
(半導体ナノ粒子複合体硬化膜)
本発明において、半導体ナノ粒子複合体硬化膜とは半導体ナノ粒子複合体を含有した膜であり、硬化しているものを表す。半導体ナノ粒子複合体硬化膜は、前述の半導体ナノ粒子複合体組成物または希釈組成物を膜状に硬化することで得ることができる。
半導体ナノ粒子複合体硬化膜は、半導体ナノ粒子と半導体ナノ粒子の表面に配位したリガンドと、高分子マトリクスを含んでいる。
高分子マトリクスとしては特に限定はないが、(メタ)アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、マレイン酸樹脂、ブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。なお、前述した半導体ナノ粒子複合体組成物を硬化させることで半導体ナノ粒子複合体硬化膜を得てもよい。
半導体ナノ粒子複合体硬化膜は架橋剤をさらに含んでもよい。
【0056】
膜を硬化させる方法は特に限定されないが、熱処理、紫外線処理など膜を構成する組成物に適した硬化方法により硬化することができる。
半導体ナノ粒子複合体硬化膜中に含まれる、半導体ナノ粒子と半導体ナノ粒子の表面に配位したリガンドは、前述した半導体ナノ粒子複合体を構成していることが好ましい。本発明の半導体ナノ粒子複合体硬化膜中に含まれる半導体ナノ粒子複合体を前述したような構成にすることで、半導体ナノ粒子複合体をより高質量分率で硬化膜中に分散させることが可能である。その結果、半導体ナノ粒子複合体硬化膜における半導体ナノ粒子の質量分率は20質量%以上とすることができ、さらには40質量%以上とすることができる。ただし、70質量%以上にすると、膜を構成する組成物が少なくなり、膜を硬化形成することが困難になる。
【0057】
本発明の半導体ナノ粒子複合体硬化膜は、半導体ナノ粒子複合体を高質量分率で含有しているため、半導体ナノ粒子複合体硬化膜の吸光度を高めることができる。半導体ナノ粒子複合体硬化膜を10μmの厚さとした時、半導体ナノ粒子複合体硬化膜の法線方向からの波長450nmの光に対して、吸光度は1.0以上が好ましく、1.3以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましい。
【0058】
さらに、本発明の半導体ナノ粒子複合体硬化膜には、高い発光特性を有する半導体ナノ粒子複合体を含有しているため、発光特性が高い半導体ナノ粒子複合体硬化膜を提供できる。半導体ナノ粒子複合体硬化膜の蛍光量子効率は70%以上であることが好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0059】
半導体ナノ粒子複合体硬化膜の厚みは、半導体ナノ粒子複合体硬化膜を適用するデバイスを小型化するために、50μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが更に好ましい。
【0060】
(半導体ナノ粒子複合体パターニング膜および表示素子)
半導体ナノ粒子複合体パターニング膜は、前述の半導体ナノ粒子複合体組成物または希釈組成物を膜状にパターン形成することで得ることができる。半導体ナノ粒子複合体組成物および希釈組成物をパターン形成する方法は特に限定されず、例えば、スピンコート、バーコート、インクジェット、スクリーン印刷、およびフォトリソグラフィ等が挙げられる。
表示素子は、上記の半導体ナノ粒子複合体パターニング膜を用いるものである。例えば、半導体ナノ粒子複合体パターニング膜を波長変換層として用いることで、優れた蛍光量子効率を有する表示素子を提供することができる。
【0061】
本発明の半導体ナノ粒子複合体は、以下の構成を採用する。
(1)半導体ナノ粒子の表面に、リガンドIとリガンドIIを含む2種以上のリガンドが配位した半導体ナノ粒子複合体であって、
前記リガンドは有機基と配位性基とからなり、
前記リガンドIは前記配位性基としてメルカプト基を1つ有し、
前記リガンドIIは前記配位性基としてメルカプト基を少なくとも2つ以上有する、
半導体ナノ粒子複合体。
(2)前記リガンドIと前記リガンドIIの質量比(リガンドI/リガンドII)が、0.2~1.5である、
上記(1)に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(3)前記半導体ナノ粒子に対する前記リガンドの質量比(リガンド/半導体ナノ粒子)が、0.60以下である、
上記(1)または(2)に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(4)前記半導体ナノ粒子に対する前記リガンドの質量比(リガンド/半導体ナノ粒子)が、0.35以下である、
上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(5)前記リガンドの分子量が600以下である、
上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(6)前記リガンドの分子量が450以下である、
上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(7)前記リガンドに占める、前記リガンドIと前記リガンドIIの合計の質量分率が0.7以上である、
上記(1)~(6)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(8)前記リガンドIIの各メルカプト基が、5つ以内の炭素原子を介して存在している、
上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(9)前記リガンドIIの各メルカプト基が、3つ以内の炭素原子を介して存在している、
上記(1)~(8)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(10)前記リガンドIIの前記有機基は、置換基やヘテロ原子を有していてもよい2価以上の炭化水素基である、
上記(1)~(9)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(11)前記リガンドIの前記有機基は、置換基やヘテロ原子を有していてもよい1価の炭化水素基である、
上記(1)~(10)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(12)前記リガンドIがアルキルチオールである、
上記(1)~(11)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(13)前記リガンドIが、炭素数6~14のアルキル基を有するチオールである、
上記(1)~(12)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(14)前記リガンドIが、ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオールおよびドデカンチオールからなる群より選択されるいずれか一種以上である、
上記(1)~(13)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(15)前記半導体ナノ粒子複合体が、ヘキサン、アセトン、PGMEA、PGME、IBOA、エタノール、メタノールおよびその混合物のうち少なくとも一つに分散可能であり、半導体ナノ粒子の質量分率で25質量%以上となるように分散可能である、
上記(1)~(14)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(16)前記半導体ナノ粒子複合体が、ヘキサン、アセトン、PGMEA、PGME、IBOA、エタノール、メタノールおよびその混合物のうち少なくとも一つに分散可能であり、半導体ナノ粒子の質量分率で35質量%以上となるように分散可能である、
上記(1)~(15)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(17)前記半導体ナノ粒子複合体の蛍光量子効率が70%以上である、
上記(1)~(16)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(18)前記半導体ナノ粒子複合体の発光スペクトルの半値幅が40nm以下である、
上記(1)~(17)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(19)前記半導体ナノ粒子が、InおよびPを含む、
上記(1)~(18)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(20)前記半導体ナノ粒子の表面の組成がZnを含有する、
上記(1)~(19)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(21)前記半導体ナノ粒子複合体を大気中で180℃5時間加熱した時、加熱前の蛍光量子効率と加熱後の蛍光量子効率の変化率が10%以下である、
上記(1)~(20)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【0062】
本発明の半導体ナノ粒子複合体組成物は、以下の構成を採用する。
(22)上記(1)~(21)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体が分散媒に分散した半導体ナノ粒子複合体組成物であって、
前記分散媒はモノマーまたはプレポリマーである、
半導体ナノ粒子複合体組成物。
【0063】
本発明の半導体ナノ粒子複合体硬化膜は、以下の構成を採用する。
(23)上記(1)~(21)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体が高分子マトリクス中に分散した半導体ナノ粒子複合体硬化膜。
【0064】
本発明の半導体ナノ粒子複合体分散液は、以下の構成を採用する。
<1>半導体ナノ粒子の表面に2種以上のリガンドが配位した半導体ナノ粒子複合体が分散媒に分散した分散液であって、
前記リガンドは、有機基と配位性基とからなるリガンドIとリガンドIIとを含み、
前記リガンドIは前記配位性基としてメルカプト基を1つ有し、
前記リガンドIIは前記配位性基としてメルカプト基を少なくとも2つ以上有する、
半導体ナノ粒子複合体分散液。
<2>前記分散媒が有機分散媒である、
上記<1>に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<3>前記リガンドIと前記リガンドIIの質量比(リガンドI/リガンドII)が、0.2~1.5である、
上記<1>または<2>に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<4>前記半導体ナノ粒子に対する前記リガンドの質量比(リガンド/半導体ナノ粒子)が、0.60以下である、
上記<1>~<3>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<5>前記半導体ナノ粒子に対する前記リガンドの質量比(リガンド/半導体ナノ粒子)が、0.35以下である、
上記<1>~<4>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<6>前記リガンドに占める、前記リガンドIと前記リガンドIIの合計の質量分率が0.7以上である、
上記<1>~<5>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<7>前記リガンドIIの各メルカプト基が、5つ以内の炭素原子を介して存在している、
上記<1>~<6>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<8>前記リガンドIIの各メルカプト基が、3つ以内の炭素原子を介して存在している、
上記<1>~<7>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<9>前記リガンドIIの前記有機基は、置換基やヘテロ原子を有していてもよい2価以上の炭化水素基である、
上記<1>~<8>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<10>前記リガンドIの前記有機基は、置換基やヘテロ原子を有していてもよい1価の炭化水素基である、
上記<1>~<9>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<11>前記リガンドの分子量が600以下である、
上記<1>~<10>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<12>前記リガンドの分子量が450以下である、
上記<1>~<11>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<13>前記リガンドIがアルキルチオールである、
上記<1>~<12>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<14>前記リガンドIが、炭素数6~14のアルキル基を有するチオールである、
上記<1>~<13>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<15>前記リガンドIが、ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオールおよびドデカンチオールからなる群より選択されるいずれか1種以上である、
上記<1>~<14>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<16>前記リガンドIIの前記有機基が、炭素数5以下の脂肪族炭化水素基である、
上記<1>~<15>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<17>前記リガンドIIの前記有機基が、炭素数3以下の脂肪族炭化水素基である、
上記<1>~<16>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<18>前記分散媒が、脂肪族炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類、グリコールエーテルエステル類、芳香族炭化水素類およびハロゲン化アルキルからなる群より選択される1種または2種以上の混合分散媒である、
上記<1>~<17>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<19>前記分散媒が、ヘキサン、オクタン、アセトン、PGMEA、PGME、IBOA、エタノール、メタノールまたはこれらの混合物である、
上記<1>~<18>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<20>前記半導体ナノ粒子複合体の蛍光量子効率が70%以上である、
上記<1>~<19>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<21>前記半導体ナノ粒子複合体の発光スペクトルの半値幅が40nm以下である、
上記<1>~<20>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<22>前記半導体ナノ粒子が、InおよびPを含む、
上記<1>~<21>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<23>前記半導体ナノ粒子の表面の組成がZnを含有する、
上記<1>~<22>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<24>前記半導体ナノ粒子複合体分散液に対する半導体ナノ粒子の質量分率が25質量%以上である、
上記<1>~<23>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<25>前記半導体ナノ粒子複合体分散液に対する半導体ナノ粒子の質量分率が35質量%以上である、
上記<1>~<24>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<26>前記半導体ナノ粒子複合体を大気中で180℃5時間加熱した時、加熱前の蛍光量子効率と加熱後の蛍光量子効率の変化率が10%以下である、
上記<1>~<25>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
<27>前記有機分散媒が、モノマーまたはプレポリマーである、
上記<1>~<26>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液。
【0065】
本発明の半導体ナノ粒子複合体組成物の製造方法は、以下の構成を採用する。
<28>半導体ナノ粒子複合体組成物の製造方法であって、
上記<1>~<27>のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体分散液に架橋剤および分散媒のいずれかあるいは両方を添加する、
半導体ナノ粒子複合体組成物の製造方法。
【0066】
本発明の半導体ナノ粒子複合体硬化膜の製造方法は、以下の構成を採用する。
<29>半導体ナノ粒子複合体硬化膜の製造方法であって、
上記<28>に記載の半導体ナノ粒子複合体組成物の製造方法によって得られた半導体ナノ粒子複合体組成物を硬化する、
半導体ナノ粒子複合体硬化膜の製造方法。
【0067】
本明細書に記載の構成および/または方法は例として示され、多数の変形形態が可能であるため、これらの具体例または実施例は限定の意味であると見なすべきではないことが理解されよう。本明細書に記載の特定の手順または方法は、多数の処理方法の1つを表しうる。したがって、説明および/または記載される種々の行為は、説明および/または記載される順序で行うことができ、または省略することもできる。同様に前述の方法の順序は変更可能である。
本開示の主題は、本明細書に開示される種々の方法、システムおよび構成、並びにほかの特徴、機能、行為、および/または性質のあらゆる新規のかつ自明でない組み合わせおよび副次的組み合わせ、並びにそれらのあらゆる均等物を含む。
【実施例】
【0068】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[例1]
以下の方法に従って、半導体ナノ粒子の合成を行い、さらにこれを用いて半導体ナノ粒子複合体の合成を行った。
(半導体ナノ粒子の合成)
-前駆体の作製-
--Zn前駆体溶液の調製--
40mmolのオレイン酸亜鉛と75mLのオクタデセンを混合し、真空化で110℃にて1時間加熱し、[Zn]=0.4MのZn前駆体を調製した。
--Se前駆体(セレン化トリオクチルホスフィン)の調製--
22mmolのセレン粉末と10mLのトリオクチルホスフィンを窒素中で混合し、全て溶けるまで撹拌して[Se]=2.2Mのセレン化トリオクチルホスフィンを得た。
--S前駆体(硫化トリオクチルホスフィン)の調製--
22mmolの硫黄粉末と10mLのトリオクチルホスフィンを窒素中で混合し、全て溶けるまで撹拌して[S]=2.2Mの硫化トリオクチルホスフィンを得た。
-コアの合成-
酢酸インジウム(0.3mmol)とオレイン酸亜鉛(0.6mmol)を、オレイン酸(0.9mmol)と1-ドデカンチオール(0.1mmol)とオクタデセン(10mL)との混合物に加え、真空下(<20Pa)で約120℃に加熱し、1時間反応させた。真空で反応させた混合物を25℃、窒素雰囲気下にして、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン(0.2mmol)を加えたのち、約300℃に加熱し、10分間反応させた。反応液を25℃に冷却し、オクタン酸クロリド(0.45mmol)を注入し、約250℃で30分間加熱後、25℃に冷却した。
-シェルの合成-
その後、200℃まで加熱し、0.75mLのZn前駆体溶液、0.3mmolのセレン化トリオクチルホスフィンを同時に添加し、30分間反応させInP系半導体ナノ粒子の表面にZnSeシェルを形成した。さらに、1.5mLのZn前駆体溶液と0.6mmolの硫化トリオクチルホスフィンを添加し、250℃に昇温して1時間反応させZnSシェルを形成した。
-洗浄工程-
上記の合成で得られた半導体ナノ粒子の反応溶液をアセトンに加え、良く混合したのち遠心分離した。遠心加速度は4000Gとした。沈殿物を回収し、沈殿物にノルマルヘキサンを加え、分散液を作製した。この操作を数回繰り返し、精製した半導体ナノ粒子を得た。
(半導体ナノ粒子複合体の合成)
半導体ナノ粒子複合体を作製するにあたって、まず、次のようにしてリガンドの合成を行った。
-ドデカンジチオールの合成-
フラスコに15gの1,2-デカンジオールおよび28.7mLのトリエチルアミンを収め、120mLのTHF(テトラヒドロフラン)に溶解させた。この溶液を0℃に冷却し、反応熱で反応溶液の温度が5℃を超えないよう注意しながら、窒素雰囲気下で16mLのメタンスルホン酸クロリドを徐々に滴下した。その後、反応溶液を室温に昇温し、2時間撹拌した。この溶液をクロロホルム-水系で抽出し、有機相を回収した。得られた溶液をエバポレーションにより濃縮し、硫酸マグネシウムでオイル状の中間体を得た。これを別のフラスコに移し、窒素雰囲気下で100mLの1.3Mのチオ尿素ジオキサン溶液を加えた。溶液を2時間還流したのち、3.3gのNaOHを加え、さらに1.5時間還流した。反応溶液を室温まで冷却し、1MのHCl水溶液をpH=7になるまで加え、中和した。得られた溶液をクロロホルム-水系で抽出し、ドデカンジチオール(DDD)を得た。
-半導体ナノ粒子複合体の作製-
フラスコに精製した半導体ナノ粒子を質量比で20質量%となるように1-オクタデセンで分散させ、半導体ナノ粒子1-オクタデセン分散液を調製した。調製した半導体ナノ粒子1-オクタデセン分散液5.0gにドデカンチオール(DDT)を0.8g添加し、さらに(2,3-ジメルカプトプロピル)プロピオネートを3.2g添加し、窒素雰囲気下で110℃、60分間攪拌し、25℃まで冷却することで、半導体ナノ粒子複合体の反応溶液を得た。
-洗浄工程-
前記反応溶液にトルエン5.0mLを加え、分散液を作製した。得られた分散液に25mLのエタノールおよび25mLのメタノールを加え、4000Gで20分間遠心分離した。遠心分離後、透明な上澄みを取り除き、沈殿物を回収した。この操作を数回繰り返し、精製された半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0069】
(光学特性・耐熱性)
半導体ナノ粒子複合体の光学特性は蛍光量子効率測定システム(大塚電子製、QE-2100)を用いて測定した。得られた半導体ナノ粒子複合体を分散液に分散させ、450nmの単一光を励起光として当て発光スペクトルを得、ここで得られた発光スペクトルより再励起されて蛍光発光した分の再励起蛍光発光スペクトルを除いた再励起補正後の発光スペクトルより蛍光量子効率(QY)と半値幅(FWHM)を算出した。ここでの分散媒はPGMEAを用いた。なお、PGMEAに分散しない半導体ナノ粒子複合体に対しては分散媒としてノルマルヘキサンを用いた。
半導体ナノ粒子複合体の耐熱性は乾粉を用いて評価した。前記精製した半導体ナノ粒子複合体から溶媒を除去し、乾粉の状態で大気中180℃、5時間加熱し、熱処理後、半導体ナノ粒子複合体を分散液に再分散させ、再励起補正した蛍光量子効率(=QYb)を測定した。加熱前の半導体ナノ粒子複合体の蛍光量子効率を(QYa)とし、耐熱性は下記(式3)により算出した。
(式3): (QYb/QYa)×100
【0070】
(半導体ナノ粒子複合体分散液)
精製された半導体ナノ粒子複合体を示唆熱重量分析(DTA-TG)で550℃まで加熱後、5分保持し、降温した。分析後の残留質量を半導体ナノ粒子の質量とし、この値から半導体ナノ粒子複合体中に対する半導体ナノ粒子の質量比を確認した。
前記質量比を参考に、半導体ナノ粒子複合体に、IBOAを添加した。IBOAの添加量を変化させ、分散液中の半導体ナノ粒子を質量換算で50質量%から10質量%まで5質量%ずつ変化させて分散状態を確認した。沈殿、および濁りが観察されなくなった質量分率を半導体ナノ粒子の質量分率として表に記載した。
なお、表2には、半導体ナノ粒子の質量分率が5質量%となるように、半導体ナノ粒子複合体に各種有機分散媒を添加し、その時分散していたものには○を、沈殿、および濁りが観察されたものには×を記載した。
【0071】
[例2]
半導体ナノ粒子複合体の作製の際に、添加するドデカンチオールの量を1.6gにし、(2,3-ジメルカプトプロピル)プロピオネートの量を2.4gとした以外は例1と同様にして半導体ナノ粒子複合体および半導体ナノ粒子複合体分散液の作製、特性評価を行った。
【0072】
[例3]
半導体ナノ粒子複合体の作製の際に、添加するドデカンチオールの量を2.4gにし、(2,3-ジメルカプトプロピル)プロピオネートの量を1.6gとした点以外は例1と同様にして半導体ナノ粒子複合体の作製、特性評価を行った。
【0073】
[例4]
半導体ナノ粒子複合体の作製の際に、添加するドデカンチオールの量を1.6gにし、(2,3-ジメルカプトプロピル)プロピオネートをジヒドロリポ酸メチルとし、その量を2.4gとした以外は例1と同様にして半導体ナノ粒子複合体および半導体ナノ粒子複合体分散液の作製、特性評価を行った。
ジヒドロリポ酸メチルは以下の方法で合成した。
-ジヒドロリポ酸メチルの合成-
2.1g(10mmol)のジヒドロリポ酸をメタノール20mL(49mmol)に溶解し、0.2mLの濃硫酸を加えた。溶液を窒素雰囲気下で1時間還流した。反応溶液をクロロホルムで希釈し、溶液を10%HCl水溶液、10%Na2CO3水溶液、飽和NaCl水溶液で順に抽出して有機相を回収した。有機相をエバポレーションで濃縮し、ヘキサン-酢酸エチル混合溶媒を展開溶媒としたカラムクロマトグラフィーにて精製し、ジヒドロリポ酸メチルを得た。
【0074】
[例5]
半導体ナノ粒子複合体の作製の際に、添加するドデカンチオールの量を0.6gにし、(2,3-ジメルカプトプロピル)プロピオネートの量を2.4g、さらにオレイン酸を1.0g添加した以外は例1と同様にして半導体ナノ粒子複合体および半導体ナノ粒子複合体分散液の作製、特性評価を行った。
【0075】
[例6]
半導体ナノ粒子複合体の作製の際に、添加するドデカンチオールの量を0.4gにし、(2,3-ジメルカプトプロピル)プロピオネートの量を2.0g、さらにオレイン酸を1.6g添加した以外は例1と同様にして半導体ナノ粒子複合体および半導体ナノ粒子複合体分散液の作製、特性評価を行った。
【0076】
[例7]
半導体ナノ粒子複合体の作製の際に、添加するドデカンチオールをN-テトラデカノイル-N-(2-メルカプトエチル)テトラデカンアミドとし、その量を1.6gにし、更に(2,3-ジメルカプトプロピル)プロピオネートの量を2.4gとした以外は例1と同様にして半導体ナノ粒子複合体および半導体ナノ粒子複合体分散液の作製、特性評価を行った。
N-テトラデカノイル-N-(2-メルカプトエチル)テトラデカンアミドは以下の方法で合成した。
- N-テトラデカノイル-N-(2-メルカプトエチル)テトラデカンアミドの合成-
0.78g(10mmol)の2-アミノエタンチオールおよび3.4mL(24mmol)を100mLの丸底フラスコに収め、30mLの脱水ジクロロメタンに溶解させた。溶液を0℃に冷却し、窒素雰囲気下で5.4mL(20mmol)のテトラデカノイルクロリドを、溶液の温度が5℃以上にならないよう注意しながらゆっくりと滴下した。滴下終了後、反応溶液を室温まで昇温し、2時間撹拌した。反応溶液を濾過し、濾液をクロロホルムで希釈した。液を10%HCl水溶液、10%Na2CO3水溶液、飽和NaCl水溶液の順に抽出し有機相を回収した。有機相をエバポレーションで濃縮したのち、ヘキサン-酢酸エチル混合溶媒を展開溶媒としたカラムクロマトグラフィーにて精製し、N-テトラデカノイル-N-(2-メルカプトエチル)テトラデカンアミドを得た。
【0077】
[例8]
半導体ナノ粒子複合体の作製の際に、添加するドデカンチオールの量を1.6gにし、(2,3-ジメルカプトプロピル)プロピオネートをN,N-ジデシル-6,8-ジスルファニルオクタンアミドとし、その量2.4gと変更した以外は例1と同様にして半導体ナノ粒子複合体および半導体ナノ粒子複合体分散液の作製、特性評価を行った。
N,N-ジデシル-6,8-ジスルファニルオクタンアミドは以下の方法で合成した。
- N,N-ジデシル-6,8-ジスルファニルオクタンアミドの合成-
3.0g(10mmol)のジデシルアミン、1.3g(10mmol)の1-ヒドロキシベンゾトリアゾールおよび1.9g(10mmol)の1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を丸底フラスコに収め、30mLの脱水ジクロロメタンに溶解させた。ここに2.1g(10mmol)のジヒドロリポ酸を加え、室温で1時間撹拌した。反応溶液を100mLのジクロロメタンで希釈し、10%HCl水溶液、10%Na2CO3水溶液、飽和NaCl水溶液の順に抽出し有機相を回収した。有機相をエバポレーションで濃縮したのち、ヘキサン-酢酸エチル混合溶媒を展開溶媒としたカラムクロマトグラフィーにて精製し、N,N-ジデシル-6,8-ジスルファニルオクタンアミドを得た。
【0078】
[例9]
半導体ナノ粒子複合体の作製の際に、添加するドデカンチオールの量を3.2gにし、(2,3-ジメルカプトプロピル)プロピオネートの量を0.8gとした以外は例1と同様にして半導体ナノ粒子複合体および半導体ナノ粒子複合体分散液の作製、特性評価を行った。
【0079】
[例10]
半導体ナノ粒子複合体の作製の際に、添加するドデカンチオールの量を0.4gにし、(2,3-ジメルカプトプロピル)プロピオネートの量を3.6gとした以外は例1と同様にして半導体ナノ粒子複合体および半導体ナノ粒子複合体分散液の作製、特性評価を行った。
【0080】
[例11]
半導体ナノ粒子複合体の作製の際に、添加するリガンドをドデカンチオールのみとし、その量を4.0gとした以外は例1と同様にして半導体ナノ粒子複合体および半導体ナノ粒子複合体分散液の作製、特性評価を行った。
【0081】
[例12]
半導体ナノ粒子複合体の作製の際に、添加するリガンドを(2,3-ジメルカプトプロピル)プロピオネートのみとし、その量を1.6gとした以外は例1と同様にして半導体ナノ粒子複合体および半導体ナノ粒子複合体分散液の作製、特性評価を行った。
【0082】
[例13]
半導体ナノ粒子複合体の作製の際に、添加するドデカンチオールの量を1.6gにし、(2,3-ジメルカプトプロピル)プロピオネートをドデセニルコハク酸とし、その量を2.4gとした以外は例1と同様にして半導体ナノ粒子複合体および半導体ナノ粒子複合体分散液の作製、特性評価を行った。
【0083】
[例14]
半導体ナノ粒子複合体の作製の際に、添加するドデカンチオールをオレイン酸とし、その量を1.6gとし、更に(2,3-ジメルカプトプロピル)プロピオネートの量を2.4gとした以外は例1と同様にして半導体ナノ粒子複合体および半導体ナノ粒子複合体分散液の作製、特性評価を行った。
【0084】
[例15]
半導体ナノ粒子複合体の作製の際に、添加するドデカンチオールをオレイン酸とし、その量を1.6gとし、更に(2,3-ジメルカプトプロピル)プロピオネートをドデセニルコハク酸とし、その量を2.4gとした以外は例1と同様にして半導体ナノ粒子複合体および半導体ナノ粒子複合体分散液の作製、特性評価を行った。
【0085】
[例16]
半導体ナノ粒子複合体の作製の際に、添加するドデカンチオールの量を2.0gとし、(2,3-ジメルカプトプロピル)プロピオネートをオレイン酸とし、その量を2.0gとした以外は例1と同様にして半導体ナノ粒子複合体および半導体ナノ粒子複合体分散液の作製、特性評価を行った。
[例17]
半導体ナノ粒子複合体の作製の際に、添加するドデカンチオールを3,6,9,12―テトラオキサデカンアミンとし、その量を2.0gとし、(2,3-ジメルカプトプロピル)プロピオネートの量を2.4gとした以外は例1と同様にして半導体ナノ粒子複合体および半導体ナノ粒子複合体分散液の作製、特性評価を行った。
【0086】
上記の例1~例10の結果を表1-1に、例11~例17の結果を表1-2にまとめて示した。半導体ナノ粒子複合体としては、蛍光量子効率が70%以上であり、かつ、耐熱性が10%以上であるものが好ましい。
なお、表1-1および表1-2に示されている略号の意味は次の通りである。
LI :リガンドI
LII:リガンドII
その他:リガンドIおよびリガンドII以外のリガンド
全L :半導体ナノ粒子に配位している全てのリガンド
QD :半導体ナノ粒子(量子ドット)
DDT:ドデカンチオール
【0087】
【0088】
【0089】