(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】シリカ吸着剤
(51)【国際特許分類】
B01J 20/06 20060101AFI20241211BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20241211BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
B01J20/06 A
C02F1/28 E
B01J20/30
(21)【出願番号】P 2020156700
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000169499
【氏名又は名称】高砂熱学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峰彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 高臣
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-138288(JP,A)
【文献】特表2013-540049(JP,A)
【文献】特開2017-119256(JP,A)
【文献】特開2016-055212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00 - 20/28
B01J 20/30 - 20/34
C02F 1/28
B01D 15/00 - 15/42
C02F 5/00 - 5/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化セリウムを含有する、シリカ吸着剤
であって、
pH4~9のシリカ含有溶液に対して用いられる、シリカ吸着剤(ただし、食塩存在下でpH9のシリカ含有溶液に対して用いられる態様を除く)。
【請求項2】
pH6~7.5のシリカ含有溶液に対して用いられる、請求項1に記載のシリカ吸着剤。
【請求項3】
基材と、前記基材に固定化された請求項1に記載の吸着剤とを含む、シリカ吸着濾材
であって、
pH4~9のシリカ含有溶液に対して用いられる、シリカ吸着濾材(ただし、食塩存在下でpH9のシリカ含有溶液に対して用いられる態様を除く)。
【請求項4】
pH6~7.5のシリカ含有溶液に対して用いられる、請求項3に記載のシリカ吸着濾材。
【請求項5】
基材に請求項1に記載の吸着剤を固定化する工程を含む、シリカ吸着濾材の製造方法。
【請求項6】
請求項1
もしくは2に記載の吸着剤又は請求項
3もしくは4に記載の吸着濾材に、
pH4~9のシリカ含有溶液を接触させる工程を含む、前記溶液からシリカを除去する方法
(ただし、食塩存在下でpH9のシリカ含有溶液に接触させる工程を含む態様を除く)。
【請求項7】
前記シリカ含有溶液がpH6~7.5である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項
6又は7に記載の方法により、流路に流通させる水からシリカを除去することを
含む、前記流路におけるシリカスケールの発生を防止する方法。
【請求項9】
請求項
3もしくは4に記載のシリカ吸着濾材をそなえるシリカ除去装置
であって、
pH4~9のシリカ含有溶液に対して用いられる、装置(ただし、食塩存在下でpH9のシリカ含有溶液に対して用いられる態様を除く)。
【請求項10】
pH6~7.5のシリカ含有溶液に対して用いられる、請求項9に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中のシリカを選択的に除去する吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
空調設備の冷水系や冷却水系、ボイラーの給水器系、プラントの冷却水系、温泉設備など水の循環系統においては、スケール(水垢)の付着・蓄積の問題が存する。スケールが配管に付着・蓄積すると循環系統が詰まったり、熱交換機の電熱面に付着・蓄積すると熱交換効率の悪化を招いたりする。
スケールの主な原因の一つに水中のシリカ(二酸化ケイ素)のイオンがあり、その効率的な除去が求められている(特許文献1等)。
従来、溶液からシリカを除去する方法としては、オン交換樹脂、逆浸透膜、凝集沈殿、電気透析(EDI)、電解等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオン交換樹脂でシリカを除去する場合、通常はイオン交換樹脂のシリカ吸着容量が小さいため効率的でない。また、イオン交換樹脂にシリカが飽和すると、シリカリークが生じてしまう。そのため、対象の溶液中のシリカ濃度が高い場合には、イオン交換樹脂の交換頻度が高くなる。
また、逆浸透膜でシリカを除去する場合、シリカによるファウリングを防止する観点から濃縮倍率を高めることが難しい。そのため、対象の溶液中のシリカ濃度が高い場合は、原水に対して得られる処理水の割合が小さくなるため、効率的ではない。
【0005】
かかる状況に鑑み、本発明は、溶液中のシリカを効率的に除去する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため鋭意研究をしたところ、本発明者らは水酸化セリウムが溶液中のケイ酸イオンを選択的に吸着し、他のイオンは吸着しないことを見出し、水酸化セリウムをシリカ吸着剤として利用できることに想到し本発明を完成させた。
すなわち、本発明の一態様は、水酸化セリウムを含有する、シリカ吸着剤である。
別の態様は、基材と、前記基材に固定化された前記シリカ吸着剤とを含む、シリカ吸着濾材である。
別の態様は、基材に前記シリカ吸着剤を固定化する工程を含む、シリカ吸着濾材の製造方法である。
別の態様は、前記吸着剤又は前記吸着濾材に、シリカ含有溶液を接触させる工程を含む、前記溶液からシリカを除去する方法である。
別の態様は、前記態様の方法により、流路に流通させる水からシリカを除去することを含む、前記流路におけるシリカスケールの発生を防止する方法である。
別の態様は、前記シリカ吸着濾材をそなえるシリカ除去装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、溶液中のシリカを効率的に除去することができる。
シリカの除去は、水酸化セリウムを含む吸着剤への吸着によりなされるため、溶液を吸着剤に接触させることで容易に行うことができ、大掛かりな装置が不要である。また、水酸化セリウムはシリカ(ケイ酸イオン)を選択的に吸着し、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等の対象溶液に通常含まれる他のイオンを吸着しないため、シリカ除去後の溶液の系への影響が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のシリカ除去材を空調系統内で利用する一形態を示す図。シリカ除去材は、図示した位置に限らず、空調系統内のいずれの位置に設置してもよい。
【
図2】本発明のシリカ除去材をイオン交換樹脂の前処理に利用する一形態を示す図。
【
図3】本発明のシリカ除去材を逆浸透膜の前処理に利用する一形態を示す図。
【
図4】本発明のシリカ除去材をボイラー用水、温泉水、地熱発電水等の処理に利用する一形態を示す図。
【
図5】実施例における、吸着処理後の水道水に残存するシリカ濃度を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の実施形態を例示するものであり、本発明の技術的範囲を以下の形態に限定するものではない。
【0010】
<1>シリカ吸着剤
本発明のシリカ吸着剤は、水酸化セリウム(Ce(OH)4)を有効成分として必須に含有する。
通常、水酸化セリウムは粉末で入手でき、その粒径は0.05μm~100μm程度に分布し、累積中位径(Median径)は0.5μm~20μmであることが好ましい。
本発明の吸着剤における、水酸化セリウムの含有量は、特に限定されず、0.001~99.9重量%の範囲で任意に調整することができる。
本発明の吸着剤における、水酸化セリウムの純度は85重量%以上が好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。
【0011】
本発明のシリカ吸着剤は、溶液中、通常は水溶液中で、ケイ酸イオンとなっているシリカを吸着する。本発明における「吸着」は、特に限定されないが、通常は水酸化セリウム1g当たり11.5mg以上のシリカを吸着することをいう。
また、本発明のシリカ吸着剤は、他のイオン、例えばナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等を吸着せず、具体的には水酸化セリウム1g当たり0.001mg以下の吸着量である。
そのため、本発明のシリカ吸着剤は、シリカを選択的に吸着し、溶液から除去することができる。
【0012】
また、本発明の吸着剤は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、活性炭や珪藻土などの他の成分の吸着剤、吸着剤の成形のためのバインダ、抗菌剤等が挙げられる。バインダとしては、シリカゾルやアルミナゾル等の無機バインダ、疎水性が高く反応性が低い高分子樹脂等が挙げられる。疎水性が高く反応性が低い高分子樹脂としては、ポリオレフィン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0013】
<2>シリカ吸着濾材及びその製造方法
本発明のシリカ吸着剤は、基材に固定化した態様でシリカ吸着濾材に含めることができる。
水酸化セリウムは通常粉末の形態で流通しているため、基材に固定化する態様とすると
取扱いやシリカ除去処理が容易となる。
濾材の形態は特に限定されるものではないが、後述するシリカを除去する方法の効率の観点から、通常は溶液を通液するのに適した、また流路に設置するのに適した形態とする。
そのような形態としては例えば、カラム充填剤や、フィルタなど、シリカを含有する溶液との接触面積を大きくできるものが、吸着反応の効率の観点から好ましい。
【0014】
より具体的には、水酸化セリウムを基材に固定化したものをカラムなどの容器に充填させる形態や、複数枚の不織布で形成されるポケットに水酸化セリウムを充填してフィルタ構造とした形態などが挙げられる。
【0015】
水酸化セリウムの基材への固定化は、共有結合によるものでも非共有結合によるものでもよい。
例えば、基材としてすでに知られている吸着濾材やクロマトグラフィーの担体、ろ紙、膜、フィルタ、中空糸、繊維、ナノファイバー等に加工できる高分子、無機材料が挙げられる。より具体的には、例えば、セルロース、アガロース、デンプン、アミロース、デキストラン、プルラン、グルコマンナンなどの多糖類;ポリアクリル酸またはその誘導体、ポリビニルアルコール、ナイロン、ポリスルホン、ポリアクリル二トリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの合成高分子;ガラス、多孔質ガラス、シリカゲル、ヒドロキシアパタイトなどの無機材料;活性炭やゼオライト等の細孔を有する多孔質体片;シリカゾルやアルミナゾル等の無機バインダ;などが挙げられる。なお、基材としては、1種の基材を用いてもよく、2種またはそれ以上の基材を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
基材の形状としては、シリカを含有する溶液との接触及び通液の観点から、多孔質体が好ましく、より好ましくはろ紙、膜、フィルタ、中空糸、繊維、ナノファイバー、粒状、粉末状等が挙げられ、これらのうち多孔質繊維が特に好ましい。
基材の比表面積は、シリカを含有する溶液との接触及び通液の観点から、100~300m2/gであることが好ましい。
【0017】
これらの基材に本発明のシリカ吸着剤を固定化することにより、本発明のシリカ吸着濾材を製造することができる。基剤への水酸化セリウムの固定化は、任意の方法で行うことができる。
例えば、セリウム水溶液中で、酸化剤の添加により基材上に水酸化セリウムを析出させる方法が挙げられる。
また、バインダ等と水酸化セリウム粉末を混合して粒状ペレットに固める方法も挙げられる。この場合、ペレットの比表面積は、シリカを含有する溶液との接触及び通液の観点から、100~300m2/gであることが好ましい。また、ペレット形状は球体、円盤状、破砕状など、特に問わない。
【0018】
<3>シリカ除去装置
本発明の吸着濾材は、シリカ除去装置にそなえることができる。本装置は、後述する本発明のシリカ除去方法を実施するのに好ましく用いることができる。
装置はシリカ吸着濾材の他に、通常溶液の流路などを含む。
装置の利用態様としては、溶液中のシリカを除去する要請があるものに適用されれば特に限定されないが、例えば空調設備の冷水系や冷却水系、ボイラーの給水器系、プラントの冷却水系、温泉設備など水の循環系統に設置される装置が挙げられる。
【0019】
<4>シリカを除去する方法
本発明のシリカ吸着剤又はシリカ吸着濾材に、シリカ含有溶液を接触させる工程を行う
ことにより、前記溶液からシリカを除去することができる。
前記溶液は通常水溶液であり、シリカは通常はケイ酸イオンとして含有されている。
【0020】
シリカ含有溶液のpHは4~9が好ましく、6~7.5がより好ましい。
また、シリカ吸着剤又はシリカ吸着濾材にシリカ含有溶液を接触させる工程を行うときのシリカ含有溶液の温度は、特に限定されず、任意の温度で行うことができる。
また、シリカ吸着剤又はシリカ吸着濾材にシリカ含有溶液を接触させる時間は、特に限定されず、任意の時間行えばよい。
【0021】
シリカ吸着剤又はシリカ吸着濾材にシリカ含有溶液を接触させる工程においては、これを効率的に行うために、シリカ含有溶液を本発明の吸着剤又は吸着濾材の近傍で循環させることも好ましい。
【0022】
<5>シリカ除去の利用形態
以下に本発明の利用形態をいくつか説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0023】
前述した本発明のシリカを除去する方法は、流路に流通させる水に対して好ましく適用することができ、それにより前記流路におけるシリカスケールの発生を防止することができる。
ここで流路とは、特に限定されないが、通常は、空調設備の冷水系や冷却水系、ボイラーの給水器系、プラントの冷却水系、温泉設備など水の循環系統において水が流通する配管をいう。また、水の循環系統において水が接触する装置、設備、部品なども流路に含まれてもよい。
ここで、シリカスケールの発生の防止とは、シリカスケールが全く生じないことの他に、シリカ除去を施さない場合に比べてシリカスケールの量が低減すること及び該発生が遅延することをも含むものとする。
【0024】
図1は、空調配管系統内におけるシリカ除去の利用形態である。空調設備においては、冷凍機と空調機(AHUやFCU等)との間を循環して冷熱を運ぶ水の循環系統である冷水系や、建屋内の機械室等に設置されている冷凍機と屋外に設置されているクーリングタワーとの間を循環する水の循環系統である冷却水系が存し、シリカ除去の要請が高い。
図1に示されるように補給水から直接シリカを除去してもよいし、系統内の一部を分岐してシリカを除去してもよい。シリカ吸着濾材が多孔質の形態の場合は、系統内から分岐した流路をシリカ除去濾材に配すると、溶液中のゴミ取り装置としても機能し得る。
生産冷却水系統においても同様の利用形態とすることができる。
【0025】
図2は、イオン交換樹脂の前処理としての利用形態である。
イオン交換樹脂にシリカが飽和するとシリカリークが生じてしまう。そのため、イオン交換樹脂に適用する前の水溶液からシリカを除去することが好ましい。これによりイオン交換樹脂の寿命を延ばすことができる。
【0026】
図3は、逆浸透膜(RO膜)の前処理としての利用形態である。
逆浸透膜では、濃縮に伴いシリカが析出しつまりが生じる場合がある。つまりを防止するために濃縮倍率を低く運転する必要があるため、濃縮水を多く排出しなくてはならず、非効率となってしまう。そのため、逆浸透膜に適用する前の水溶液からシリカを除去することが好ましい。これにより膜のつまりは生じにくくなり、濃縮倍率を上げられるため、処理効率が向上する。
シリカ除去装置は図示した場所のほか、濃縮系統内に設置してもよい。
【0027】
図4は、ボイラー用水、温泉水、地熱発電水等の流路における利用形態である。原水を
各装置に流通させる前に、シリカを除去することで、配管等に生じるシリカスケールを防止できる。
【実施例】
【0028】
以下に本発明を具体的に説明するために実施例を示すが、これら実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0029】
水道水(新潟県長岡市内で採取、pH6)100mLに、試料1gを添加し、25℃の水浴中で24時間振盪した。試料として、水酸化セリウム粉末(平均粒径50μm、比表面積80m2/g)、酸化水酸化鉄III粉末(平均粒径1μm、比表面積50m2/g)、
又は活性アルミナ繊維(直径4mm・比表面積150m2/g、又は6mm・比表面積150m2/g)を用いた。
ICP発光分光分析装置(ICPS-7510;島津製作所製)を用いて、処理後の水道水中の残存シリカ濃度を測定した。
【0030】
図5に結果を示す。水酸化セリウムを添加した水道水では、シリカの85%の減少が認められた。