(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】ジオポリマー系軽量耐火材料
(51)【国際特許分類】
C04B 38/02 20060101AFI20241211BHJP
C04B 28/26 20060101ALI20241211BHJP
C04B 14/02 20060101ALI20241211BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20241211BHJP
C04B 18/10 20060101ALI20241211BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20241211BHJP
C04B 14/10 20060101ALI20241211BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20241211BHJP
C04B 22/04 20060101ALI20241211BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20241211BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20241211BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20241211BHJP
C04B 14/18 20060101ALI20241211BHJP
C04B 38/08 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C04B38/02 A
C04B28/26
C04B14/02 B
C04B18/08 Z
C04B18/10 Z
C04B18/14 A
C04B14/10 A
C04B20/00 B
C04B22/04
C04B22/06 Z
C04B22/08 A
C04B22/10
C04B14/18
C04B38/08 B
(21)【出願番号】P 2021014630
(22)【出願日】2021-02-01
【審査請求日】2023-11-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・2019年度日本建築学会中国支部研究報告集,第43巻,第41~44頁,第45~48頁,一般社団法人日本建築学会中国支部 2020年(令和2年)2月29日発行 ・2019年度日本建築学会中国支部,広島工業大学,2020年(令和2年)2月29日開催
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000126609
【氏名又は名称】株式会社エーアンドエーマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 柱国
(72)【発明者】
【氏名】井上 拓也
(72)【発明者】
【氏名】品川 肇
(72)【発明者】
【氏名】藤 雅史
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-534964(JP,A)
【文献】特開2016-135723(JP,A)
【文献】特開平08-026845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
C04B 38/00-38/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性フィラー、非活性フィラー、軽量耐火性骨材及び発泡剤を含む配合物に、アルカリ溶液を添加し混練し養生して得られ、密度が1.0g/cm
3以下であるジオポリマー系軽量耐火材料であって、
前記活性フィラーは、フライアッシュ、都市ごみ焼却灰溶融スラグ微粉末及び下水汚泥焼却灰溶融スラグ微粉末から選択される少なくとも1種の第1活性フィラーと、高炉スラグ微粉末及びメタカオリンから選択される少なくとも1種の第2活性フィラーとの混合物であり、当該活性フィラー及び前記非活性フィラーの合量100質量%に占める割合で、当該第2活性フィラーの質量割合が10~20質量%であり、
前記非活性フィラーは、前記アルカリ溶液では硬化しないか、硬化しても硬化体の圧縮強度が5N/mm
2以下で、かつ1000℃の加熱をしても物理的性状及び化学的性状が維持される
石粉であり、当該非活性フィラー及び前記活性フィラーの合量100質量%に占める割合で、当該非活性フィラーの質量割合が20~50質量%であり、
前記軽量耐火性骨材は、
1000℃の加熱をしても物理的性状及び化学的性状が維持されるものであり、密度が1.65g/cm
3以下、粒度分布において粒度5mm以上の割合が0質量%で、粒度0.15mm未満の割合が5質量%以下であり、当該軽量耐火性骨材、前記活性フィラー及び前記非活性フィラーの合計体積を100体積%としたとき、当該軽量耐火性骨材の体積割合が40~60体積%である、ジオポリマー系軽量耐火材料。
【請求項2】
前記アルカリ溶液は、アルカリ金属のケイ酸塩、水酸化物及び炭酸塩から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のジオポリマー系軽量耐火材料。
【請求項3】
前記発泡剤は、金属シリコン、金属アルミニウム及び過酸化水素から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のジオポリマー系軽量耐火材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨構造の耐火被覆材として好適なジオポリマー系軽量耐火材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物や副産物を主原料としたジオポリマーが、低炭素結合材として注目されている。ジオポリマーとは、セメントクリンカーを使用せず、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末等の活性フィラーが、アルカリ溶液の環境で縮重合反応を生じ硬化したものである。CO2排出原単位は、ジオポリマーセメントがポルトランドセメントの2割程度で、ジオポリマーコンクリートがポルトランドセメントコンクリートの3~6割である。このため、セメント・コンクリートの環境負荷削減と廃棄物の利用拡大を図るため、現在国内外で活発にジオポリマーの研究・開発が行われている。また、ジオポリマーの縮重合反応は、ポルトランドセメントの水和反応と違ってCa(OH)2の結晶物を生じないため、ポルトランドセメント硬化体に比べ耐火性と耐酸性に優れ、高温環境や酸性環境下での活用が期待されている。
【0003】
一方、建築基準法では、建物の火災発生時の安全性の確保のために、鉄骨構造の耐火被覆材を使用することが義務付けられている。現在、セメント系耐火被覆材が主流になっているが、前述の通り廃棄物利用や環境負荷削減の観点からジオポリマー系耐火被覆材が求められている。
耐火被覆材として軽量化は必要である。本発明者らは、特許文献1においてジオポリマーの発泡方法を提案し、多孔質ジオポリマー硬化体が受熱された後に強度の低下が少なく、比強度が増加することを明らかにした。
しかし、多孔質ジオポリマー硬化体には、受熱した際にひび割れと不整変形を生じる課題が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、受熱した際にひび割れと不整変形を生じにくいジオポリマー系軽量耐火材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によれば、次のジオポリマー系軽量耐火材料が提供される。
活性フィラー、非活性フィラー、軽量耐火性骨材及び発泡剤を含む配合物に、アルカリ溶液を添加し混練し養生して得られ、密度が1.0g/cm3以下であるジオポリマー系軽量耐火材料であって、
前記活性フィラーは、フライアッシュ、都市ごみ焼却灰溶融スラグ微粉末及び下水汚泥焼却灰溶融スラグ微粉末から選択される少なくとも1種の第1活性フィラーと、高炉スラグ微粉末及びメタカオリンから選択される少なくとも1種の第2活性フィラーとの混合物であり、当該活性フィラー及び前記非活性フィラーの合量100質量%に占める割合で、当該第2活性フィラーの質量割合が10~20質量%であり、
前記非活性フィラーは、前記アルカリ溶液では硬化しないか、硬化しても硬化体の圧縮強度が5MPa以下、かつ1000℃の加熱をしても物理的性状及び化学的性状が維持される石粉であり、当該非活性フィラー及び前記活性フィラーの合量100質量%に占める割合で、当該非活性フィラーの質量割合が20~50質量%であり、
前記軽量耐火性骨材は、1000℃の加熱をしても物理的性状及び化学的性状が維持されるものであり、密度が1.65g/cm3以下、粒度分布において粒度5mm以上の割合が0質量%で、粒度0.15mm未満の割合が5質量%以下であり、当該軽量耐火性骨材、前記活性フィラー及び前記非活性フィラーの合計体積を100体積%としたとき、当該軽量耐火性骨材の体積割合が40~60体積%である、ジオポリマー系軽量耐火材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明のジオポリマー系軽量耐火材料は、受熱した際にひび割れと不整変形を生じにくい。したがって本発明のジオポリマー系軽量耐火材料は、鉄骨構造の耐火被覆材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図5】ジオポリマー発泡硬化体の作製過程を示す写真。
【
図6】片面加熱試験時の加熱面の反対面である裏面の温度測定方法を示す写真。
【
図7】全面加熱試験における加熱後の寸法減少率と石粉(非活性フィラー)の質量割合との関係を示すグラフ。
【
図8】全面加熱試験における加熱後の密度増加率と石粉(非活性フィラー)の質量割合との関係を示すグラフ。
【
図9】全面加熱試験における加熱前後の曲げ強度の変化率と石粉(非活性フィラー)の質量割合との関係を示すグラフ。
【
図10】全面加熱試験における加熱後と加熱前の圧縮強度の比と石粉(非活性フィラー)の質量割合との関係を示すグラフ。
【
図11】全面加熱試験における加熱前の比圧縮強度と石粉(非活性フィラー)の質量割合との関係を示すグラフ(実施例のみ)。
【
図12A】全面加熱前後の供試体の外観を示す写真(実施例)。
【
図12B】全面加熱前後の供試体の外観を示す写真(比較例の1)。
【
図12C】全面加熱前後の供試体の外観を示す写真(比較例の2)。
【
図13】石粉(非活性フィラー)と軽量骨材を使用していないジオポリマー発泡硬化体の内部構造を示すSEM写真。
【
図14】片面加熱試験における加熱後の密度減少率と石粉(非活性フィラー)の質量割合との関係を示すグラフ。
【
図15A】片面加熱後の供試体のひび割れと反りの発生状況を示す写真(実施例)。
【
図15B】片面加熱後の供試体のひび割れと反りの発生状況を示す写真(比較例)。
【
図16】片面加熱後の供試体の反りと石粉(非活性フィラー)の質量割合との関係を示すグラフ。
【
図17】片面加熱時の供試体の裏面における温度上昇を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のジオポリマー系軽量耐火材料は、活性フィラー、非活性フィラー、軽量耐火性骨材及び発泡剤を含む配合物に、アルカリ溶液を添加し混練し養生して得られるものである。以下、その一実施形態を説明する。
【0010】
1.使用材料
1.1活性フィラー
JIS II種 フライアッシュ(以下「FA」という。)を主に使用した。FAのみをジオポリマー(以下「GP」という)の活性フィラーとする場合、常温環境ではGPの凝結時間は長く、強度発現は小さい。そこで、GP硬化体の強度発現性を高くし、GPの発泡速度と凝結速度をマッチングさせるために、JIS 3000級の高炉スラグ微粉末(以下「BFS」という。)を併用した。BFSを併用しない場合、発泡直後に膨張分の沈下が発生する、又は発泡体は養生後に大きな収縮を生じる。しかし、BFSの質量割合が高すぎると、硬化反応でC-A-S-Hゲルを生じてGPの耐火性が低下する。
ここで、BFSは前述の通りGP硬化体の強度発現性を高くするために使用するところ、メタカオリン(以下「MK」という。)も同様にGP硬化体の強度発現性を高くする作用を奏することが知られている。したがって、BFSに代えて又はBFSと併用で、MKを使用することもできる。また、FAはBFS及びMKに比べて強度発現性は低いところ、都市ごみ焼却灰溶融スラグ微粉末及び下水汚泥焼却灰溶融スラグ微粉末も、FAと同程度の強度発現性を有する。したがってFAに代えて又はFAと併用で、都市ごみ焼却灰溶融スラグ微粉末及び/又は下水汚泥焼却灰溶融スラグ微粉末を使用することができる。
すなわち、本発明において活性フィラーは、FA、都市ごみ焼却灰溶融スラグ微粉末及び下水汚泥焼却灰溶融スラグ微粉末から選択される少なくとも1種の第1活性フィラーと、BFS及びMKから選択される少なくとも1種の第2活性フィラーとの混合物とする。そして、GP硬化体の強度発現性を高くする作用を奏する第2活性フィラーの質量割合は、活性フィラー及び非活性フィラーの合量(以下、活性フィラー及び非活性フィラーの合量を「粉体」という。)100質量%に占める割合で10~20質量%とする。第2活性フィラーの割合が10質量%未満であると十分な強度が得られない。一方、第2活性フィラーの質量割合が20質量%超であると、BFSを添加する場合には前述の通りGPの耐火性、MKを添加する場合には本発明の廃棄物利用効果が低下するなどの問題が生じる。
後述する本発明の実施例では、第2活性フィラーであるBFSの質量割合は15質量%とした。
FAとBFSの化学組成と物理性質を表1に示す。FAは
図1に示すように、粒径が30μm以下の球状粒子であり、BFSは
図2に示すように、粒径及び形状がランダムなものである。
【0011】
【0012】
1.2 アルカリ溶液
本発明においてアルカリ溶液は、GP硬化体の作製に通常使用されているものを使用することができる。すなわち、本発明においてアルカリ溶液としては、アルカリ金属のケイ酸塩、水酸化物及び炭酸塩から選択される少なくとも1種を使用することができる。
今回の実施例及び比較例では、GPの発泡速度と凝結速度をマッチングさせてGPの発泡による膨張量が大きくなり、加熱後の強度低下が生じない又は少なくなるように、アルカリ溶液を予め検討した。その結果、市販の珪酸ソーダ(SiO228.6質量%、Na2O12.0%、モル比2.5、密度1.46g/cm3)とモル濃度が10Mの苛性ソーダ水溶液(密度1.33g/cm3)を4:1の体積比で混合したものをアルカリ溶液として使用した。
【0013】
1.3 骨材
本発明では、高温加熱で受熱した際にGP硬化体に生じる収縮、ひび割れ及び不整変形を抑えるため、骨材として軽量耐火性骨材を添加する。ここで、本発明でいう「軽量耐火性骨材」とは、密度が1.65g/cm
3以下、粒度分布において粒度5mm以上の割合が0質量%で、粒度0.15mm未満の割合が5質量%以下であるものをいう。なお、軽量骨材の耐火性については1000℃の加熱をしても物理的性状及び化学的性状が維持されることである。具体的には1000℃の加熱をしても分解や溶融されることがなく、サイズや形状も変化せず、脆弱にならないことである。
このような軽量耐火性骨材を適量添加すると、軽量耐火性骨材がGPマトリックスの収縮を拘束するため、収縮によるひび割れ及び不整変形を抑えることができる。このような効果を十分に発揮させるため本発明では、軽量耐火性骨材、活性フィラー及び非活性フィラーの合計体積を100体積%としたとき、軽量耐火性骨材の体積割合が40~60体積%となるように軽量耐火性骨材を添加する。軽量耐火性骨材の体積割合が40体積%未満であると、前述の収縮、ひび割れ及び不整変形を抑える効果が十分に得られない。一方、軽量耐火性骨材の体積割合が60体積%超であるとGPの強度が低下するので、却ってひび割れ及び不整変形を生じやすくなる。また、軽量耐火性骨材の体積割合が60体積%超であると、発泡剤の添加により発泡しても気泡が漏れて膨張しにくくなり、GPの軽量化を図りにくくなる。
本発明の実施例では、軽量耐火性骨材として粒状パーライト(以下「粒状P」という。)を使用した。この粒状Pの密度は0.12g/cm
3であり、粒度分布は、>5.0mm(0質量%)、5.0~2.5mm (10質量%)、2.5~1.25mm(43質量%)、1.25~0.63mm(45質量%)、0.63~0.15mm(1.5質量%)、<0.15mm(0.5質量%)である。また、本発明の実施例において、粒状Pの体積割合は48~50体積%とした。
一方、比較例では骨材として粒状Pのほかに、粉状パーライト(以下「粉状P」という。)及び珪砂を使用した。粉状Pの密度は0.09g/cm
3であり、粒度分布は、>1.25mm(2.0質量%)、1.2~0.63mm(25.0質量%)、0.63~0.15mm(66.0質量%)、<0.15mm(7.0質量%)である。珪砂の密度は2.59g/cm
3であり、粒度分布は、0.63mm以上(0質量%)、0.63~0.315mm(33質量%)、0.315~0.15mm(66質量%)、<0.15mm(1質量%)である。
図3に粒状パーライトと粉状パーライトの写真を示している。なお、粒状P及び粉状Pはパーライト原石を加熱して急冷却で作られたもので、いわゆる軽量骨材である。
【0014】
1.4 混和材料
(a)発泡剤
本発明では、GPの軽量化を図るため発泡剤を添加する。発泡剤としては、前述の特許文献1にも開示しているように、金属シリコン(Si)、金属アルミニウム(Al)及び過酸化水素(H2O2)から選択される少なくとも1種を使用することができる。また、発泡剤の添加割合は、粉体100質量%に対して外添加で0.5~3質量%とすることができる。
ここで、強アルカリ性のGPでは金属アルミニウムと過酸化水素の発泡時間は10分間以内であるため、特殊な練り混ぜと成型方法が必要である。これに対して、金属シリコンの発泡時間は20℃の室温では30分以上である。したがって、今回の実施例及び比較例では、市販のケイ素試薬(金属シリコン、密度2.33g/cm3、粉末度150μm以下、純度95%)を発泡剤として使用した。
なお、以下の説明では発泡剤により発泡させて多孔質としたGPを「GP発泡硬化体」という。
【0015】
(b)整泡剤
強アルカリ性のGPでは発泡反応速度が速いため、大きい気泡の形成と逸脱を生じやすく、かつ気泡の分布が不均一になりやすい。そうなると、GPの最終膨張量が減少し、かつ大きい連通空隙の生成によって断熱性が低下し、強度も低下する。そこで、今回の実施例及び比較例では、気泡のサイズを小さくし、気泡分布の均一性を向上させるため、整泡剤として市販のステアリン酸亜鉛(密度1.09g/cm3)を添加した。
なお、本発明において整泡剤の添加は必須ではないが、前述の理由から整泡剤を添加することが好ましい。整泡剤としては、前述のステアリン酸亜鉛のほか、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、トリエタノールアミンなどを添加することができ、その添加割合は、粉体100質量%に対して外割で0.5~2質量%とすることができる。
【0016】
(c)非活性フィラー(石粉)
GPが加熱されると、原料の脱水(結合水)が発生して、収縮によるひび割れを生じる。そこで、本発明では活性フィラーの一部を非活性フィラーで代替するようにしている。ここで、本発明でいう「非活性フィラー」とは、前述のアルカリ溶液では硬化しないか、硬化しても硬化体の圧縮強度が5MPa以下、かつ1000℃の加熱をしても物理的性状及び化学的性状が維持されるものである。本発明において非活性フィラーは、粉体100質量%に占める割合で非活性フィラーの質量割合が20~50質量%となるように使用する。非活性フィラーの質量割合が20質量%未満であると、収縮によるひび割れを抑制する効果が十分に得られない。一方、非活性フィラーの質量割合が50質量%を超えると、その分活性フィラーの質量割合が低くなるのでGPの強度が低下する。なお、非活性フィラーは活性フィラーを代替するものであるから、その大きさに制限はないが、活性フィラーと同程度か若干大きいことが好ましく、比表面積で表すと2000~4000cm
2/g程度であることが好ましい。
非活性フィラーとしては、加熱で分解しやすい石灰岩粉を使えず、典型的にはケイ酸質の石粉を使用することができる。今回の実施例及び比較例では、パーライト原石をボールミルで粉砕したパーライト原石微粉末(以下「PP」という。)と砕石粉(以下「CSP」という、)の2種類の石粉を使用した。なお、CSPは、砕石や砕砂の生産に伴い排出される廃棄物である。
図4に2種類の石粉の写真を示し、表2に2種類の石粉の化学組成を示している。
【0017】
【0018】
2.GP発泡硬化体の作製
練り混ぜ方法として、モルタルミキサーでアルカリ溶液以外のもの(活性フィラー、骨材、石粉、発泡剤、整泡剤)を3分間混ぜ、次にアルカリ溶液を加えてさらに2分間練り混ぜた。
図5(a)に示すように型枠に半分程度で試料を充填した後に、直ちにテーブルバイブレータで振動締固めを30秒間行った。その後、脱型しないままに供試体を80℃の乾燥箱に入れた。およそ1時間後に発泡は終了した(
図5(b)参照)。発泡終了後に、乾燥箱から取り出して、
図5(c)に示すように型枠より高い余分をカットした。その後、脱型して供試体をラップで封緘して所定の時間まで高温養生を続け、また封緘のまま20℃、R.H.60%の気中において27日間養生を行った。
全面加熱試験には4×4×16cmの角柱供試体を用いた。片面加熱試験には20×20×3cmの平板供試体を用いた。平板供試体は熱伝導率の測定に兼用した。
【0019】
3.加熱方法及び性能試験
材齢28日に、供試体の表面状況を撮影し、寸法、かさ密度、曲げ強度、圧縮強度及び熱伝導率を測定した。強度試験では、まず4×4×16cmの角柱供試体を3本用い、万能試験機で3点法にて曲げ強度を測定した。さらに、曲げ試験後の6つの折片を用いて万能試験機で圧縮強度を測定した。また、20×20×3cmの平板供試体を用いて熱流計法(HFM法)によって加熱前の熱伝導率を測定した。
残りの供試体に対して加熱試験を行った。供試体の全面を加熱する全面加熱試験には、小型電気加熱炉を使った。電気炉にて昇温速度を5℃/分とし、1000℃まで昇温させた後に5時間維持した。その後、炉内で自然冷却させた。室温まで冷却した後に、加熱前と同様な測定を行った。
供試体の片面を加熱する片面加熱試験では、20×20×3cmの平板供試体をISO834の標準加熱曲線に従って電気炉で1時間、945℃まで片面加熱した。そして片面加熱中に
図6に示すように、加熱面の反対面である裏面に熱電対を付けて裏面の温度をモニタリングした。片面加熱・冷却後に平板供試体の寸法、かさ密度及び反りを測定し、加熱面と裏面のひび割れ状況を撮影した。平板供試体の縦横寸法の測定は、厚み方向の中間位置で行った。加熱された平板供試体の一部に対して、前述のHFM法で加熱後の熱伝導率も測定した。
加熱試験前の供試体の含水状態は気乾状態(気中乾燥状態)又は絶乾状態(絶対乾燥状態)であった。気乾状態の供試体は材齢28日であり、絶乾状態の供試体は、材齢28日の気乾状態の供試体を100±5℃で1日乾燥したものである。
【0020】
4.GP発泡硬化体の調合
表3に、全面加熱試験に供したGP発泡硬化体の調合を示し、表4に、片面加熱試験に供したGP発泡硬化体の調合を示している。
ここで、表3及び表4において、「質量割合」とは粉体(BFS+FA+石粉)100質量%中に占める質量割合(質量%)、「体積割合」とは粉体(BFS+FA+石粉)及び骨材の合計体積を100体積%としたときの体積割合(体積%)、「添加割合」とは粉体(BFS+FA+石粉)100質量%に対する外割での割合(質量%)である。また、「アルカリ溶液と粉体の質量比」とはアルカリ溶液の質量/粉体(BFS+FA+石粉)の質量のことである。
【0021】
【0022】
【0023】
実施例の調合では、CSPの質量割合を20~40質量%、BFSの質量割合を15質量%、粒状Pの質量割合を8質量%とした。その結果、粒状Pの体積割合は48~50体積%になった。比較例では、石粉、骨材、BFSの無添加や粉状Pや珪砂の添加でGP発泡硬化体を作製した。なお、実施例及び比較例の調合において発泡剤と整泡剤の添加割合は、供試体作製時の温度によって適当に調整した。
性能測定と加熱前の供試体の含水状態は、気乾状態又は絶乾状態であった。気乾状態で測定された供試体の高温養生時間は12時間であったが、他の供試体の高温養生時間は24時間であった。
【0024】
5.試験結果及び考察
5.1 全面加熱試験
表5に、全面加熱試験前後の寸法、密度及び強度の変化を示す。
【0025】
【0026】
GP発泡硬化体は1000℃で加熱されると、寸法は減少し、密度と圧縮強度は増加した。特に、加熱後の圧縮強度は加熱前の強度の1.3倍以上になった。曲げ強度に関しては、加熱前より加熱後に減少した比較例の供試体も実施例の供試体もあった。これは、加熱前後に生じたひび割れの分布と寸法が曲げ強度に大きく影響し、供試体の曲げ強度にばらつきがあるためである。
石粉の種類を区別せず、その質量割合と加熱後の寸法減少率の関係を
図7に示す。同図より、石粉の質量割合が高いほど加熱後の寸法変化は少ない。また、石粉の質量割合と加熱後の密度増加率の関係を示す
図8によると、石粉の質量割合の増加に伴って、加熱後の密度変化は少ないことが認められた。したがって、石粉を適切に添加することはGP発泡硬化体の加熱による寸法変化を抑制する効果があるといえる。
また、石粉の質量割合と加熱後の曲げ強度の変化率の関係を
図9に示す。ばらつきはあるが、石粉の質量割合が高いほど、加熱後の曲げ強度の増加率は大きい傾向が見られた。同様に、
図10に示すように、加熱後と加熱前の圧縮強度の比率は、石粉の質量割合の増加に伴って大きくなった。ひび割れが硬化体の強度に大きく影響するため、これらの結果から、石粉の質量割合が高いほど、加熱によるひび割れ発生への抑制効果が高いことが伺える。しかし、
図11によると、加熱前の比圧縮強度は石粉の質量割合が高いほど低下する傾向が認められた。すなわち、石粉の質量割合を増加することで加熱後のGP発泡硬化体の強度を高くできるが、過剰な添加は加熱前の強度を低下させる。
【0027】
実施例の試験体でも、全面加熱後の寸法変化は若干大きい。また、加熱前の曲げ強度は高くない。これは活性フィラーの一部が非活性フィラーである石粉で代替されているからである。しかし、従来の成形板耐火被覆材のように繊維を添加すれば、全面加熱でも各方向の寸法変化を1%以下に抑制し、曲げ強度を向上することができる。
【0028】
図12A~Cに、各供試体が1000℃の全面加熱を受けた後のひび割れと不整変形の発生状況を示す。
図12Aに示すように、CSPの質量割合が20~40質量%、粒状Pの体積割合が48~50体積%である本発明の実施例では、供試体にひび割れと不整変形はほとんど発生しなかった。
一方、粒状Pを添加していない比較例4、7、11、CSPを添加していない比較例5、PPの質量割合が6質量%と低い比較例6、及び粒状Pではなく粉状Pを添加した比較例8では、加熱後にひび割れと反りの発生が確認された。
GP発泡硬化体は1000℃で加熱されると、縮重合反応の不完全な生成物N-A-S-HゲルとC-A-S-Hゲルが脱水分解し、融解・焼結して体積が減少する(
図13参照)。この体積の減少が、ひび割れと不整変形を発生する主な原因であると考えられる。
これに対して、石粉と粒状Pを適量添加すると、これらの非活性フィラーと粒状耐火性骨材によってGP発泡硬化体の内部に骨組構造が形成される。すなわち、微小な非活性フィラー粒子と相対的に大きい軽量骨材粒子から、微小粒子から大きい粒子までの連続した粒径を有する耐火性粒子骨格(耐火性粒子骨組構造)が形成され、活性フィラーの縮重合反応の生成物がこの粒子骨格の隙間に充填されるようになっている。そして、この骨組構造の骨格効果により、縮重合反応生成物が熱分解で収縮しても系全体の形状や寸法は変わらないため、GP発泡硬化体のひび割れと不整変形が生じないと考えられる。連続した粒径を有する耐火性粒子骨組構造の形成の観点から、本発明で使用する軽量耐火性骨材は、単粒度より連続粒度を有する方好ましい。
【0029】
一方で、骨材として普通砂や珪砂を添加する場合、普通砂や珪砂は比重が高いから、例えば比較例9のように骨材の体積割合は低くなる。そうすると、砂粒子が離れて前述した粒子の絡み合いによる骨組構造が十分に得られない。また、砂の添加量を増やしたら、砂はGPペーストの発泡膨張を妨害し、しかも砂自体の密度が高いため、軽量のGP発泡硬化体が得られない。また、粉状の骨材を添加する場合、例えば比較例8において粉状Pはその体積割合が55.2体積%になるが、骨材の寸法が小さいため、前述の骨格効果が十分に得られない。このため、比較例8及び比較例9では、GP発泡硬化体の加熱後のひび割れと不整変形を抑制することができなかったと考えられる。
【0030】
1000℃の加熱で分解・溶融・劣化しない非活性フィラー、例えば石粉を添加しない場合(比較例5)、軽量骨材の添加に拘わらず、微小粒子から大きい粒子までの連続した粒子骨組構造が形成されない。同様に、比較例6のように、石粉の質量割合が低いと、微小粒子が不足のため、連続した粒子骨組構造は形成されない。そのため、粒状骨材間のGPペーストが高温加熱で大きく収縮して、GP発泡硬化体にひび割れと不整変形が生じると考えられる。
【0031】
なお、活性フィラーとしてFAと共にBFSを併用すると、BFSは縮重合反応でC-A-S-Hゲルを生成するため、FAのみを活性フィラーとしたGP発泡硬化体の強度は改善される。したがって、GP発泡硬化体の強度を高くするために、BFSの併用は有効である。しかし、FAの縮重合反応の生成物N-A-S-Hゲルに比べ、BFSの縮重合反応の生成物C-A-S-Hゲルの耐火性は低い。したがって、BFSの質量割合は10~20質量%以下とすることが好ましい。BFSを併用しなかった比較例10の供試体は加熱前に強度が低く、加熱後に反りを生じ、多くのひび割れが発生した。これは、GP発泡硬化体の強度が低く、収縮とひび割れ発生への抵抗能力が低いためと考えられる。また、比較例10の供試体は、強度発現が遅いため、発泡膨張後に沈下を生じたことが確認された。
【0032】
5.2 片面加熱試験
表6に、片面加熱試験前後の寸法、密度及び熱伝導率の変化、並びに片面加熱後の反りを示す。
【0033】
【0034】
片面加熱後の寸法は全面加熱の場合と同じように減少したが、減少率は全面加熱の場合より小さかった。実施例の場合、縦と横それぞれの寸法減少率はほとんど1.0%以下であり、体積の減少率は5.0%以下であった。実施例と比較例の供試体にかかわらず、かさ密度は全面加熱の場合とは逆に、加熱前より減少した。これは、片面加熱後の質量減少程度に比べ、体積減少率が小さいためであった。
図14に示すように、石粉の質量割合が高いほど、密度の減少率は小さい傾向がみられる。これは、石粉を多く添加すると、片面加熱後の体積減少率が小さい、又はGPペーストの質量減少が少ないためである。
【0035】
一部の供試体について、加熱後の熱伝導率を測定した。加熱前後に測定した熱伝導率を比較すると、加熱後の熱伝導率は、加熱前の密度が小さい場合には増加したが、加熱前の密度が相対的に大きい場合には逆に小さくなることが分かった。これは、
図13に示したようにGP発泡硬化体は加熱されると溶融・焼結してポーラス化するためである。ポーラス化に伴ってGP発泡硬化体の熱伝導率は減少する。しかし、加熱前の密度は非常に小さい場合、内部空隙は加熱後に連通・拡大され、熱対流を生じやすくなり、熱伝導率は逆に増加すると考えられる。
【0036】
図15A及び
図15Bに、加熱面と裏面の加熱前後のひび割れ発生状況及び加熱後の反りの測定値を示す。CSPの質量割合が20~40質量%、粒状Pの体積割合が48~50体積%である本発明の実施例1~3では、供試体の加熱面と裏面にひび割れをほとんど生じず、反りは最大2.5mm程度であった。
これに対して、比較例4~11では、加熱面と裏面にひび割れを生じ、側面に大きな反りが発生した(ほとんど2.5mm以上)。特に加熱面にひび割れが多く発生して、加熱後の継続使用はほとんど不可能である。比較例9は、全面加熱の場合、
図12Cに示したようにひび割れと不整変形があまり生じなかったが、片面加熱の場合ひび割れが生じ、反りが大きかった。これは、全面加熱の場合の角柱試験体に比べ、片面加熱の場合の板状の供試体の表面積-体積比が大きく、体積割合が小さい珪砂の粒子が分散しすぎてその骨格効果が低くなるためであろうと考えられる。また、
図16に示すように、反りの発生と測定にばらつきはあるが、石粉の質量割合が高いほど、片面加熱後の反りは小さくなる傾向が見られた。しかし、前述のように、加熱前の比強度に配慮すると、石粉の質量割合を大きく増やすことは好ましくなく、50質量%以下とすることが好ましい。
また、前述のように、繊維や補強材を実施例のGP発泡硬化体に添加すれば、GP発泡硬化体の片面加熱後の寸法変化をさらに減少し、加熱後のひび割れと不整変形の発生を完全に抑制することができる。
【0037】
図17に、片面加熱試験による実施例と比較例の供試体の裏面における温度上昇を示す。比較例に比べ、実施例の場合の最高温度は若干低く、温度上昇速度(上昇段階の曲線勾配や傾き)は小さかった。珪砂又は粒状Pを使用していない比較例9と比較例11の温度上昇は特に速かった。また、BFSを添加しなかった比較例10の温度上昇は、BFSの添加以外は同様の調合である実施例2に比べて速く、最高温度は高かった。
以上の通り、BFSの添加及び石粉と軽量耐火骨材の使用は、GP発泡硬化体の断熱性を向上させるか、少なくとも悪影響がないことが認められた。
【0038】
6.まとめ
以上の試験結果をまとめると以下の通りである。
GP発泡硬化体は1000℃の加熱を受けると、ポーラス化になり、寸法と体積は減小し、全面加熱の場合には体積の減少が多く密度は増加するが、片面加熱の場合には体積の減少は少なく、加熱後の密度は減小する。また、溶融・焼結のため、加熱後に圧縮強度は増加する。加熱後の熱伝導率は加熱前の密度が小さい場合には増加するが、加熱前の密度が相対的に大きい場合には減少する。
軽量耐火性骨材と非活性フィラーを適量添加しないGP発泡硬化体は、加熱後に大きく収縮し、不整変形を生じるため、ひび割れが発生する。これに対して、軽量耐火性骨材と熱安定性のある非活性フィラーを適量添加すれば、軽量GP発泡硬化体の作製に支障をきたすことはなく、また非活性フィラーと軽量耐火性骨材は、連続した粒径を有する粒子骨組構造を形成して、GP発泡硬化体の加熱による収縮を抑制し、ひび割れと不整変形が生じなくなる。一般な知見として、耐熱繊維や補強材をさらに添加すれば、曲げ強度が高くなるとともに、加熱によるひび割れと不整変形を完全に防止することができる。
GP発泡硬化体の強度と耐火性を両立させるために、BFSの質量割合は10~20質量%とすることが好ましい。MKの縮重合反応生成物はFAと同じでN-A-S-Hゲルであるため、MKの質量割合は多くても、GP発泡硬化体の耐火性に影響しないが、廃棄物大量利用の観点から、MKの質量割合は10~20質量%とすることも薦められる。