(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F03G 7/06 20060101AFI20241211BHJP
【FI】
F03G7/06 G
(21)【出願番号】P 2021017563
(22)【出願日】2021-02-05
【審査請求日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2020062859
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 大地
(72)【発明者】
【氏名】鷲野 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 章太
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 正俊
(72)【発明者】
【氏名】木村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】入澤 寿平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 貴
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-55877(JP,A)
【文献】国際公開第2020/054633(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102011121741(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03G 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータであって、
収容部(11、24、41)を囲む骨格構造を形成する骨格構造部(12、21、22、42)と、
前記収容部に収容された体積変化部(13、23、43)とを有し、
前記体積変化部は、機械的エネルギー以外の外部エネルギーが外部から入力されることによって体積が増大し、
前記骨格構造部は、前記体積変化部よりもヤング率が高く、
前記外部エネルギーが前記体積変化部に入力されることによって、前記体積変化部の体積が増大するとともに、前記体積変化部の体積の増大によって、前記収容部が一方向(D2、D11)で収縮し、前記収容部が前記一方向と異なる他方向(D3、D12)で広がるように、前記骨格構造部が変形
し、
前記アクチュエータは、繊維材料で構成され、前記外部エネルギーが入力されることによって、前記繊維材料の繊維軸方向(D1、D11)の引張力を出力し、
前記一方向は、前記繊維軸方向に沿う方向であり、
前記収容部の形状は、前記一方向での前記収容部の最大幅(LD2)が、前記他方向での前記収容部の最大幅(LD3)よりも長い異方的な形状であり、
前記繊維材料は、高分子鎖が規則的に配列している複数の結晶部(21)と、前記複数の結晶部のそれぞれを互いにつなぐように、高分子鎖が延びる複数のタイ分子(22)と、高分子鎖が不規則に配列している複数の非晶部(23)と、を有する高分子材料で少なくとも構成され、
前記複数のタイ分子は、前記一方向である第1方向(D2)に延びる複数の第1のタイ分子(221)と、前記第1方向に延びる複数の第2のタイ分子(222)とを含み、
前記複数の第1のタイ分子のそれぞれと、前記複数の第2のタイ分子のそれぞれとは、前記第1方向に直交する第2方向に交互に設けられ、
前記複数の第2のタイ分子のうち1つの第2のタイ分子と、前記複数の第1のタイ分子のうち前記1つの第2のタイ分子に対して前記第2方向の一方側の隣に位置する1つの第1のタイ分子(221a)との間に、第1空間(B1)が形成され、
前記1つの第2のタイ分子と、前記複数の第1のタイ分子のうち前記1つの第2のタイ分子に対して前記第2方向の他方側の隣に位置する1つの第1タイ分子(221b)との間に、第2空間(B2)が形成され、
前記複数の結晶部は、前記第1空間に設けられる複数の第1結晶部(21a)と、前記第2空間に設けられる複数の第2結晶部(21b)とを含み、
前記複数の非晶部は、前記第1空間に設けられる複数の第1非晶部(23a)と、前記第2空間に設けられる複数の第2非晶部(23b)とを含み、
前記第1空間において、前記複数の第1結晶部のそれぞれと、前記複数の第1非晶部のそれぞれとは、前記第1方向に交互に設けられ、
前記第2空間において、前記複数の第2結晶部のそれぞれと、前記複数の第2非晶部のそれぞれとは、前記第1方向に交互に設けられ、
前記第1空間の前記複数の第1結晶部のうち1つの第1結晶部は、前記第2空間の前記複数の第2非晶部のうち1つの第2非晶部に対して、前記第2方向で対向するとともに、前記第2空間の前記複数の第2結晶部のうち1つの第2結晶部は、前記第1空間の前記複数の第1非晶部のうち1つの第1非晶部に対して、前記第2方向で対向し、
前記複数の非晶部のそれぞれの前記第1方向での長さは、前記複数の結晶部のそれぞれの前記第1方向での長さよりも長く、
前記体積変化部は、前記複数の非晶部のうちの1つの非晶部であり、
前記骨格構造部は、前記複数の結晶部および前記複数のタイ分子のうち前記1つの非晶部を囲む部分であり、
前記高分子材料の密度は、0g/cm
3
より大きく、1.03g/cm
3
より小さい、アクチュエータ。
【請求項2】
前記高分子材料は、アミド結合を有する樹脂を含む、請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記樹脂は、ポリアミド12である、請求項2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
アクチュエータであって、
収容部(11、24、41)を囲む骨格構造を形成する骨格構造部(12、21、22、42)と、
前記収容部に収容された体積変化部(13、23、43)とを有し、
前記体積変化部は、機械的エネルギー以外の外部エネルギーが外部から入力されることによって体積が増大し、
前記骨格構造部は、前記体積変化部よりもヤング率が高く、
前記外部エネルギーが前記体積変化部に入力されることによって、前記体積変化部の体積が増大するとともに、前記体積変化部の体積の増大によって、前記収容部が一方向(D2、D11)で収縮し、前記収容部が前記一方向と異なる他方向(D3、D12)で広がるように、前記骨格構造部が変形し、
前記アクチュエータは、繊維材料で構成され、前記外部エネルギーが入力されることによって、前記繊維材料の繊維軸方向(D1、D11)の引張力を出力し、
前記一方向は、前記繊維軸方向に沿う方向であり、
前記骨格構造部は、1つ以上の繊維が組み合わされて前記収容部を囲む筒形構造をなすとともに、前記繊維軸方向よりも前記繊維軸方向に対して直交する幅方向(D12)に伸縮しやすい構造をなす編組スリーブ(42)であり、
前記体積変化部は、外形に制約が無い状態のときに、前記外部エネルギーとしての熱エネルギーが入力されることによって等方的に膨張する固体の高分子材料(43)であり、
前記熱エネルギーが前記高分子材料に入力されることによって、前記高分子材料の体積が増大するとともに、前記体積変化部の体積の増大によって、前記収容部が前記繊維軸方向で収縮し、前記収容部が前記幅方向で広がるように、前記編組スリーブが変形し、
前記編組スリーブを構成する前記1つ以上の繊維は、通電によって発熱し、
前記繊維材料は、前記編組スリーブの前記幅方向の膨張を抑制する節部(44)を有し、
前記節部は、前記編組スリーブの外形よりも細い形状であり、前記編組スリーブの周囲に環状またはらせん状に所定間隔で固定される、アクチュエータ。
【請求項5】
前記節部を構成する材料は、通電によって発熱する、請求項4に記載のアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械的エネルギー以外の外部から入力された外部エネルギーを機械的エネルギーに変換して外部への力を出力する材料を用いたアクチュエータとして、高分子繊維材料を用いたアクチュエータが、特許文献1および非特許文献1に開示されている。このアクチュエータは、熱エネルギーの入力によって生じる高分子繊維材料の作動を利用したものである。特許文献1に開示のアクチュエータでは、PA6、PA66の繊維材料が用いられている。非特許文献1に開示のアクチュエータでは、PA11の繊維材料が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】2017年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集、第171、第172頁、公益社団法人精密工学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のアクチュエータよりも高出力のアクチュエータが求められている。アクチュエータの高出力化、すなわち、外部への力を大きくするとともにアクチュエータ材料がより変形するようにするためには、外部エネルギーの入力によって生じるひずみが大きい性質と、ヤング率が高い性質との両方を有する材料を用いることが必要である。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、高出力化が可能なアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明によれば、
アクチュエータは、収容部(11、24、41)を囲む骨格構造を形成する骨格構造部(12、21、22、42)と、収容部に収容された体積変化部(13、23、43)とを有し、
体積変化部は、機械的エネルギー以外の外部エネルギーが外部から入力されることによって体積が増大し、
骨格構造部は、体積変化部よりもヤング率が高く、
外部エネルギーが体積変化部に入力されることによって、体積変化部の体積が増大するとともに、体積変化部の体積の増大によって、収容部が一方向(D2、D11)で収縮し、収容部が他方向(D3、D12)で広がるように、骨格構造部が変形し、
アクチュエータは、繊維材料で構成され、外部エネルギーが入力されることによって、繊維材料の繊維軸方向(D1、D11)の引張力を出力し、
一方向は、繊維軸方向に沿う方向であり、
収容部の形状は、一方向での収容部の最大幅(LD2)が、他方向での収容部の最大幅(LD3)よりも長い異方的な形状であり、
繊維材料は、高分子鎖が規則的に配列している複数の結晶部(21)と、複数の結晶部のそれぞれを互いにつなぐように、高分子鎖が延びる複数のタイ分子(22)と、高分子鎖が不規則に配列している複数の非晶部(23)と、を有する高分子材料で少なくとも構成され、
複数のタイ分子は、一方向である第1方向(D2)に延びる複数の第1のタイ分子(221)と、第1方向に延びる複数の第2のタイ分子(222)とを含み、
複数の第1のタイ分子のそれぞれと、複数の第2のタイ分子のそれぞれとは、第1方向に直交する第2方向に交互に設けられ、
複数の第2のタイ分子のうち1つの第2のタイ分子と、複数の第1のタイ分子のうち1つの第2のタイ分子に対して第2方向の一方側の隣に位置する1つの第1のタイ分子(221a)との間に、第1空間(B1)が形成され、
1つの第2のタイ分子と、複数の第1のタイ分子のうち1つの第2のタイ分子に対して第2方向の他方側の隣に位置する1つの第1タイ分子(221b)との間に、第2空間(B2)が形成され、
複数の結晶部は、第1空間に設けられる複数の第1結晶部(21a)と、第2空間に設けられる複数の第2結晶部(21b)とを含み、
複数の非晶部は、第1空間に設けられる複数の第1非晶部(23a)と、第2空間に設けられる複数の第2非晶部(23b)とを含み、
第1空間において、複数の第1結晶部のそれぞれと、複数の第1非晶部のそれぞれとは、第1方向に交互に設けられ、
第2空間において、複数の第2結晶部のそれぞれと、複数の第2非晶部のそれぞれとは、第1方向に交互に設けられ、
第1空間の複数の第1結晶部のうち1つの第1結晶部は、第2空間の複数の第2非晶部のうち1つの第2非晶部に対して、第2方向で対向するとともに、第2空間の複数の第2結晶部のうち1つの第2結晶部は、第1空間の複数の第1非晶部のうち1つの第1非晶部に対して、第2方向で対向し、
複数の非晶部のそれぞれの第1方向での長さは、複数の結晶部のそれぞれの第1方向での長さよりも長く、
体積変化部は、複数の非晶部のうちの1つの非晶部であり、
骨格構造部は、複数の結晶部および複数のタイ分子のうち1つの非晶部を囲む部分であり、
高分子材料の密度は、0g/cm
3
より大きく、1.03g/cm
3
より小さい。
また、請求項4に記載の発明によれば、アクチュエータは、
収容部(11、24、41)を囲む骨格構造を形成する骨格構造部(12、21、22、42)と、
収容部に収容された体積変化部(13、23、43)とを有し、
体積変化部は、機械的エネルギー以外の外部エネルギーが外部から入力されることによって体積が増大し、
骨格構造部は、体積変化部よりもヤング率が高く、
外部エネルギーが体積変化部に入力されることによって、体積変化部の体積が増大するとともに、体積変化部の体積の増大によって、収容部が一方向(D2、D11)で収縮し、収容部が一方向と異なる他方向(D3、D12)で広がるように、骨格構造部が変形し、
アクチュエータは、繊維材料で構成され、外部エネルギーが入力されることによって、繊維材料の繊維軸方向(D1、D11)の引張力を出力し、
一方向は、繊維軸方向に沿う方向であり、
骨格構造部は、1つ以上の繊維が組み合わされて収容部を囲む筒形構造をなすとともに、繊維軸方向よりも繊維軸方向に対して直交する幅方向(D12)に伸縮しやすい構造をなす編組スリーブ(42)であり、
体積変化部は、外形に制約が無い状態のときに、外部エネルギーとしての熱エネルギーが入力されることによって等方的に膨張する固体の高分子材料(43)であり、
熱エネルギーが高分子材料に入力されることによって、高分子材料の体積が増大するとともに、体積変化部の体積の増大によって、収容部が繊維軸方向で収縮し、収容部が幅方向で広がるように、編組スリーブが変形し、
編組スリーブを構成する1つ以上の繊維は、通電によって発熱し、
繊維材料は、編組スリーブの幅方向の膨張を抑制する節部(44)を有し、
節部は、編組スリーブの外形よりも細い形状であり、編組スリーブの周囲に環状またはらせん状に所定間隔で固定される。
【0008】
これによれば、アクチュエータが、体積変化部を構成する材料のみで構成される場合と比較して、アクチュエータのヤング率を高くすることができる。
【0009】
また、これによれば、外部エネルギーが体積変化部に入力されることによって体積変化部の体積が増大するとともに、体積変化部の体積の増大によって、収容部が一方向で収縮し、収容部が他方向で広がるように、骨格構造部が変形する。これにより、アクチュエータが骨格構造部を構成する材料のみで構成される場合およびアクチュエータが体積変化部を構成する材料のみで構成される場合と比較して、外部エネルギーが入力されたときに生じるアクチュエータのひずみを大きくすることができる。
【0010】
このように、アクチュエータに対して、外部エネルギーの入力によって生じるひずみが大きい性質と、ヤング率が高い性質との両方を持たせることが可能となる。よって、アクチュエータの高出力化が可能となる。
【0011】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態におけるアクチュエータの模式図である。
【
図2】
図1のアクチュエータの単位構造のモデルを示す図である。
【
図3】ポリアミド系の繊維材料のバルク構造のモデルを示す図である。
【
図4】
図3中のIV部の拡大図であって、ポリアミド系の繊維材料の単位構造のモデルを示す図である。
【
図5】ポリアミド系の繊維材料の単位構造のモデルを示す図であって、非晶部の体積変化による単位構造の形状変化を示す図である。
【
図6】PA6の繊維材料に付与される張力の大きさと、PA6の繊維材料の線膨張係数との関係を示す図である。
【
図7】PA6の結晶部、非晶部のそれぞれのヤング率と、PA6の繊維材料のヤング率とを示す図である。
【
図8】ポリアミド系の繊維材料の単位構造のモデルを示す図である。
【
図9】PA6における結晶化度と線膨張係数との関係を示す図である。
【
図10】PA6の繊維材料の線膨張係数の計算結果と実測値とを示す図である。
【
図11】PA12の繊維材料の製造方法を示すフローチャートである。
【
図12】PA12の繊維材料の製造装置を示す模式図である。
【
図13】同じ延伸倍率で製造したPA12、PA6、PA66のそれぞれの繊維材料の収縮率の測定結果を示す図である。
【
図14】第2実施形態における節部を有するアクチュエータの模式図である。
【
図15】第2実施形態における節部を有していないアクチュエータの模式図である。
【
図16】第2実施形態における節部を有するアクチュエータと、節部を有していないアクチュエータとのそれぞれにおいて、高分子材料の膨張率とアクチュエータの収縮率との関係を示す図である。
【
図17】実施例におけるアクチュエータの製造方法を説明するための図である。
【
図18】
図17に続くアクチュエータの製造方法を説明するための図である。
【
図19】
図18に続くアクチュエータの製造方法を説明するための図である。
【
図20】実施例における加熱前のアクチュエータの写真である。
【
図21】実施例における加熱後のアクチュエータの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0014】
(第1実施形態)
図1に示すアクチュエータ1は、機械的エネルギー以外の外部から入力された外部エネルギーを機械的エネルギーに変換して出力する材料を用いたものである。具体的には、このアクチュエータ1は、繊維材料を用いたものであり、外部エネルギーの入力によって、繊維材料の繊維軸方向D1に収縮する。それにより外部に繊維軸方向D1の引張力を出力する。
図1に示すアクチュエータ1は、直線状であるが、ストロークを大きくするために、コイル状であってもよい。
【0015】
次に、本発明者らが見出したアクチュエータ1の材料設計について説明する。
【0016】
アクチュエータ1は、単位構造10を複数有する材料で構成される。
図2は、入力前後の単位構造の変化をモデル図として示したものである。
図2の左側が入力前の状態を示している。
図2の右側が入力後の状態を示している。
図2の左側に示すように、単位構造10は、1つの収容部11を囲む骨格構造を形成する骨格構造部12と、その1つの収容部11に収容された体積変化部13とを含む。すなわち、アクチュエータ1は、骨格構造部12と、体積変化部13とを有する。
【0017】
骨格構造部12は、材料の強度に主として寄与する部分であり、材料の骨格をなす構造部である。骨格構造部12のヤング率は、体積変化部13のヤング率よりも高い。骨格構造部12は、三次元構造である。骨格構造部12は、パンタグラフ状に延びる。骨格構造部12の伸びる方向の一部は、その方向と直交する方向に傾くようになっている。
【0018】
骨格構造部12は、中空の殻構造、すなわち、収容部11を完全に覆う密閉構造であることが好ましい。なお、骨格構造部12は、密閉構造でなくてもよい。収容部11に収容される体積変化部13の体積増加時に、骨格構造部12が大きい力を受けるほど、骨格構造部12の一部がその力で押され傾くように変形することにより、後述する骨格構造部12の変形量を大きくすることができる。
【0019】
また、単位構造において、骨格構造部12を構成する部分は、化学的に結合して連続していることが好ましいが、化学的に結合していなくてもよい。アクチュエータ1を構成する材料では、複数の骨格構造部12は、互いに三次元に連なっている。複数の骨格構造部12のそれぞれは、互いに、化学的に結合して連続していることが好ましいが、化学的に結合していなくてもよい。
【0020】
体積変化部13は、骨格構造部12に囲まれている。体積変化部13は、機械的エネルギー以外の外部エネルギーが外部から入力されることによって体積が増大する。外部エネルギーとしては、熱エネルギー、電気エネルギー、化学エネルギー、および、光エネルギーなどが挙げられる。例えば、熱エネルギーの入力とは、アクチェータの温度が高温にされることである。外部エネルギーの入力による体積増大量を同じ条件で比較したとき、体積変化部13の体積増大量は、骨格構造部12の体積増大量よりも大きい。
【0021】
収容部11の形状は、各方向での収容部11の最大幅の方向に異方性を持つ形状、すなわち、球以外の形状である。すなわち、収容部11の形状は、一方向での収容部11の最大幅LD2が、その一方向と異なる他方向での収容部11の最大幅LD3よりも長い異方的な形状である。例えば、
図2の左側に示すように、収容部11の断面形状が長球形状の場合、長手方向D2が一方向に相当し、長手方向に垂直な短手方向D3が他方向に相当する。また、長手方向D2は、
図1の繊維軸方向D1に沿う方向である。
【0022】
図2の左側に示すように、外部エネルギーが入力される前の状態は、骨格構造部12の収容部11に体積変化部13が収容された状態であり、かつ、収容部11の形状が球以外の異方的な形状である。体積変化部13は、エネルギーが入力されたときに膨張する方向が短手方向D3になるように、あらかじめ配置されている。骨格構造部12および体積変化部13に外部エネルギーが入力されるとき、体積変化部13が短手方向D3に膨張する。そして、体積変化部13の方が、骨格構造部12よりも、外部エネルギーの入力による体積変化量が大きい。よって、骨格構造部12は、短手方向D3に押されて広がりつつ、長手方向D2に収縮する。
【0023】
このため、
図2の右側に示すように、体積変化部13の体積の増大によって、収容部11の形状が球に近づく方向に、骨格構造部12が変形する。すなわち、体積変化部13の体積の増大によって、長手方向D2で収容部11が収縮し、短手方向D3で収容部11が広がるように、骨格構造部12が変形する。換言すると、体積変化部13は、繊維軸方向D1に対して直交する方向に膨張する。骨格構造部12の一部は、体積変化部13の膨張に伴って、体積変化部13と協働して、繊維軸方向D1に対して直交する方向に移動する。骨格構造部12の他の一部は、体積変化部13を繊維軸方向D1に収縮させる方向に、移動する。このように、体積変化部13は、等方的に膨張するのではなく、一方向で収縮し、他方向で膨張する。つまり、体積変化部13の体積変化に異方性を持つことになる。
【0024】
ところで、アクチュエータ1の高出力化、例えば、アクチュエータ1がその外部に引張力を与える作用をする場合に、アクチュエータ1がより大きく収縮するようにするためには、外部エネルギーの入力によって生じるひずみが大きい性質と、ヤング率が高い性質との両方を有する材料を用いることが必要である。しかしながら、一般的に、ヤング率が高い材料は、ひずみが小さい。その一方で、ひずみが大きい材料は、ヤング率が低い。このため、従来では、両方の性質を有する材料が存在しなかった。
【0025】
これに対して、単位構造10を有する材料をアクチュエータ1に用いることで、体積変化部13を構成する材料のみでアクチュエータ1が構成される場合と比較して、アクチュエータ1のヤング率を高くすることができる。
【0026】
また、骨格構造部12を構成する材料のみでアクチュエータ1が構成された場合、外部エネルギーが入力されたときの体積変化量が小さく、アクチュエータ1に生じるひずみ(すなわち、変形量)が小さい。また、体積変化部13を構成する材料のみでアクチュエータ1が構成された場合、外部エネルギーが入力されたときに、等方的に膨張するため、アクチュエータ1に生じるひずみが小さい。
【0027】
これに対して、単位構造10を有する材料では、外部エネルギーが体積変化部13に入力されることによって体積変化部13の体積が増大する。体積変化部13の体積の増大によって、収容部11が一方向で収縮し、収容部11が他方向で広がるように、骨格構造部12が変形する。これにより、アクチュエータ1が骨格構造部12を構成する材料のみで構成される場合およびアクチュエータ1が体積変化部13を構成する材料のみで構成される場合と比較して、外部エネルギーが入力されたときに生じるアクチュエータ1のひずみを大きくすることができる。
【0028】
このように、アクチュエータ1に対して、外部エネルギーの入力によって生じるひずみが大きい性質と、ヤング率が高い性質との両方を持たせることが可能となる。よって、アクチュエータ1の高出力化が可能となる。
【0029】
アクチュエータ1では、収容部11の一方向での収縮作動をアクチュエータ1の出力に利用することができる。しかしながら、これに限らず、収容部11の他方向での膨張作動をアクチュエータ1の出力に利用することもできる。
【0030】
次に、上記の材料設計を具現化したPA12(すなわち、ポリアミド12)の繊維材料について説明する。この繊維材料は、後述の通り、PA12の繊維材料の製造工程で、繊維が延伸されることで製造される。PA12は、結晶部と非晶部とを有するポリアミド系の結晶性高分子材料である。なお、高分子材料とは、高分子有機化合物のことである。ポリアミド系の結晶性高分子材料には、PA12の他に、PA6(すなわち、ポリアミド6)、PA66(すなわち、ポリアミド66)が含まれる。
【0031】
繊維の延伸によって製造されたポリアミド系の結晶性高分子材料で構成された繊維材料(以下、この繊維材料をポリアミド系の繊維材料と呼ぶ)は、
図3に示すバルク構造20を有する。
【0032】
具体的には、ポリアミド系の繊維材料は、
図3に示すように、複数の結晶部21と、複数のタイ分子22と、複数の非晶部23とを有する。複数の結晶部21のそれぞれは、高分子鎖が規則的に配列している部分である。具体的には、複数の結晶部21のそれぞれは、ラメラ晶の部分である。複数のタイ分子22のそれぞれは、複数の結晶部21のそれぞれを互いにつなぐように、高分子鎖が延びる部分である。複数の結晶部21と複数のタイ分子22とは、複数の収容部24のそれぞれを囲む骨格構造を形成している。複数の非晶部23のそれぞれは、高分子鎖が不規則に配列している部分である。複数の非晶部23のそれぞれは、複数の収容部24のそれぞれに収容されている。すなわち、複数の非晶部23のそれぞれは、複数の結晶部21と複数のタイ分子22とに囲まれた部分に閉じ込められている。
【0033】
図3に示すバルク構造20には、
図4に示す単位構造20A、すなわち、結晶部21、タイ分子22、非晶部23が含まれる。
図4に示すように、複数の結晶部21と、複数のタイ分子22とは、1つの収容部24を囲む骨格構造を形成している。その1つの収容部24に、複数の非晶部23のうち1つの非晶部23が収容されている。したがって、複数の非晶部23のうち1つの非晶部23が、
図2の単位構造10の体積変化部13に相当する。複数の結晶部21および複数のタイ分子22のうちその1つの体積変化部13を囲む部分が、
図2の単位構造10の骨格構造部12に相当する。
【0034】
図3、
図4中の第1方向D2と第2方向D3とは、互いに直交している。第1方向D2は、繊維軸方向D1に沿う方向である。第2方向D3に隣り合う単位構造20Aは、第1方向D2の位置がずれて設けられている。
【0035】
すなわち、
図3に示すように、複数のタイ分子22は、第1方向D2に延びる複数の第1のタイ分子221と、第1方向D2に延びる複数の第2のタイ分子222とを含む。複数の第1のタイ分子221のそれぞれと、複数の第2のタイ分子222のそれぞれとは、第2方向D3に交互に設けられている。
【0036】
複数の第2のタイ分子222のうち1つの第2のタイ分子222と、複数の第1のタイ分子221のうちその1つの第2のタイ分子222に対して第2方向D3の一方側の隣に位置する1つの第1のタイ分子221aとの間に、第1空間B1が形成されている。また、その1つの第2のタイ分子222と、複数の第1のタイ分子221のうちその1つの第2のタイ分子222に対して第2方向D3の他方側の隣に位置する1つの第1タイ分子221bとの間に、第2空間B2が形成されている。
【0037】
複数の結晶部21は、第1空間B1に設けられる複数の第1結晶部21aを含む。複数の非晶部23は、第1空間B1に設けられる複数の第1非晶部23aを含む。複数の第1結晶部21aのそれぞれと、複数の第1非晶部23aのそれぞれとは、第1空間B1において、第1方向D2に交互に設けられている。
【0038】
また、複数の結晶部21は、第2空間B2に設けられる複数の第2結晶部21bを含む。複数の非晶部23は、第2空間B2に設けられる複数の第2非晶部23bを含む。複数の第2結晶部21bのそれぞれと、複数の第2非晶部23bのそれぞれとは、第2空間B2において、第1方向D2に交互に設けられている。
【0039】
第1空間B1の複数の第1結晶部21aのうち1つの第1結晶部21aは、第2空間B2の複数の第2非晶部23bのうち1つの第2非晶部23bに対して、第2方向D3で対向している。すなわち、1つの第1結晶部21aを1つの第2非晶部23bに対して第2方向D3で投影したとき、投影した1つの第1結晶部21aは、1つの第2非晶部23bに重なる。また、第2空間B2の複数の第2結晶部21bのうち1つの第2結晶部21bは、第1空間B1の複数の第1非晶部23aのうち1つの第1非晶部23aに対して、第2方向D3で対向している。すなわち、1つの第2結晶部21bを1つの第1非晶部23aに対して第2方向D3で投影したとき、投影した1つの第2結晶部21bは、1つの第1非晶部23aに重なる。
【0040】
このように、複数の第1結晶部21aのうち1つの第1結晶部21aの第1方向D2での位置と、複数の第2結晶部21bのうち1つの第2結晶部21bの第1方向D2での位置とは、異なっている。複数の第1非晶部23aのうち1つの第1非晶部23aの第1方向D2での位置と、複数の第2非晶部23bのうち1つの第2非晶部23bの第1方向D2での位置とは、異なっている。すなわち、第1空間B1の第1非晶部23aの第1方向D2での位置と同じ第2空間B2の位置には、第2結晶部21bが設けられている。
【0041】
複数の非晶部23のそれぞれの第1方向D2での長さは、複数の結晶部21のそれぞれの第1方向D2での長さよりも長い。このため、複数のタイ分子22のそれぞれは、複数の結晶部21のうち第1方向D2での距離が最も短い位置関係にある第1結晶部21aと第2結晶部21bとの間に位置する部分であって、その第1結晶部21aとその第2結晶部21bとをつなぐ結晶連結部22Aを含む。結晶連結部22Aは、第2方向D3で第1非晶部23aと第2非晶部23bとの両方に隣り合う。結晶連結部22Aは、第1方向D2に対して傾いているが、第1方向D2に平行であってもよい。
【0042】
非晶部23の体積膨張時には、第2方向D3に膨張した非晶部23の外周面が、タイ分子22の内周面を膨張方向と同じ方向に押す。膨張方向は第2方向D3である。押されたタイ分子22の変形に伴い、タイ分子22とともに骨格構造を形成する結晶部21が、非晶部23を第1方向D2に押すことで、非晶部23が第1方向D2で収縮するように、それぞれが配置されている。
【0043】
図4に示すように、タイ分子22の延伸方向を含むようにバルク構造20を切断した断面を見ると、1つの収容部24の断面形状は、八角形である。1つの収容部24において、第1方向D2での収容部24の最大幅LD2は、第2方向D3での収容部24の最大幅LD3よりも長い。第1方向D2は、1つの収容部24の長手方向である。第1方向D2は、
図2の収容部11の一方向に相当する。第2方向D3は、1つの収容部24の短手方向である。第2方向D3は、
図2の収容部11の他方向に相当する。
【0044】
非晶部23は、ランダムに絡み合った高分子鎖で形成されている。この高分子鎖は、全体的には第1方向D2に延びている。すなわち、非晶部23の高分子鎖の延伸方向は、繊維軸方向D1に沿っている。このため、複数の非晶部23のそれぞれの全体の体積が増大すると、複数の非晶部23のそれぞれが第1方向D2で収縮することで、バルク構造20を有するアクチュエータ1が繊維軸方向D1に収縮する。
【0045】
アクチュエータ1が加熱されて、非晶部23に熱エネルギーが入力されると、非晶部23の全体の体積は増大する。アクチュエータ1が冷却されて、非晶部23から熱エネルギーが放出されると、非晶部23の全体の体積は減少する。すなわち、熱の入力と体積変化とは可逆的に行われる。
【0046】
アクチュエータ1が加熱により繊維軸方向D1に収縮することについて説明する。
図5の左側は、非晶部23の体積が小さいときの単位構造20Aを示している。すなわち、
図5の左側は、アクチュエータ1が加熱されない状態での単位構造20Aを示している。この状態は、非晶部23が体積膨張しない自然状態である。この状態においては、非晶部23と接触するタイ分子22は、膨張方向に移動するような力を受けない。そのため、タイ分子22の角度φ
t1は小さい。ここで、
図4に示すように、タイ分子22の結晶連結部22Aの外側の辺の長さをLとする。このときのタイ分子22の結晶連結部22Aの第1方向D2の長さは、Lcosφ
t1である。
【0047】
図5の右側は、非晶部23の体積が大きいときの単位構造20Aを示している。このときでは、非晶部23の膨張に伴い、押されたタイ分子22が変形することにより、タイ分子22の角度φ
t2は大きい。このときのタイ分子22の結晶連結部22Aの第1方向D2の長さは、Lcosφ
t2である。なお、タイ分子の角度φ
t1、φ
t2は、第1方向D2に対して結晶連結部22Aがなす角度である。
【0048】
非晶部23の全体の体積が増大すると、単位構造20Aは、
図5の左側の形状から
図5の右側の形状に変化する。すると、タイ分子22の結晶連結部22Aの第1方向D2の長さが、Lcosφ
t1からLcosφ
t2に減少する。すなわち、
図5の右側に示すように、非晶部23は、第1方向D2で収縮し、第2方向D3で膨張する。さらに換言すると、収容部24が第1方向D2で収縮し、収容部24が他方向で広がるように、結晶部21とタイ分子22とによって構成される骨格構造部が変形する。第1方向D2が一方向に相当し、第2方向D3が他の方向に相当する。このように、単位構造20Aによって、非晶部23の体積変化に異方性が付与される。
【0049】
また、非晶部23の全体の体積が減少すると、単位構造20Aは、
図5の右側の形状から
図5の左側の形状に変化する。
【0050】
一般的な結晶性高分子材料で構成された繊維材料は、結晶部と非晶部とが交互に連なった構造を持つことが、知られている。また、結晶性高分子材料で構成された繊維材料の熱収縮は、非晶部のエントロピー弾性によるものと、従来では一般的に考えられている。
【0051】
しかし、ポリアミド系の繊維材料では、エントロピー弾性に起因する現象が見られない場合がある。具体的には、
図6に示すように、ポリアミド系の繊維材料への繊維軸方向の張力付与時に収縮量(すなわち、線膨張係数)が増大しないことと、
図7に示すように、非晶部のヤング率と繊維材料のヤング率とが大きく異なることとが挙げられる。
図6中の丸印が線膨張係数の実測値を示している。
図6中の破線で示す直線がエントロピー弾性による予想線膨張係数を示している。
図6の測定で用いた試料の直径は0.37mmである。
【0052】
ポリアミド系の繊維材料の収縮は、非晶部23の体積変化に異方性が付与される
図4に示す単位構造20Aにより引き起こされていると考えると、エントロピー弾性に起因する現象が見られないことを説明することができる。すなわち、
図5に示すように、内包された非晶部23の体積変化によりタイ分子22の角度φ
t1、φ
t2が変化することで、バルク構造20の体積変化に異方性が発現する。この場合、ポリアミド系の繊維材料の収縮は、エントロピー弾性でなく自由体積の膨張により引き起こされる。このため、
図6に示すように、張力付与時の繊維材料の収縮量は、付与する張力の大きさを異ならせても変化しない。また、ポリアミド系の繊維材料のヤング率は、非晶部23ではなくタイ分子22のヤング率に依存する。このため、
図7に示すように、PA6の繊維材料のヤング率は、結晶部21のヤング率と非晶部23のヤング率との間の値を示す。
【0053】
次に、ポリアミド系の繊維材料が単位構造20Aを有することの根拠について説明する。ポリアミド系の繊維材料が単位構造20Aを有することは、単位構造20Aの幾何学計算によるポリアミド系の繊維材料の線膨張係数の計算値が、ポリアミド系の繊維材料の線膨張係数の実測値と同じかそれに近いことから証明される。
【0054】
ポリアミド系の繊維材料の線膨張係数は、下記の数1、数2、数3に示す式を用いて算出される。数1、数2、数3の式は、単位構造20Aのモデルに基づいた解析により、導出されたものである。
【0055】
【数1】
数1の式において、ΔL
1/(L
1ΔT)は、第1方向D2での線膨張係数である。数1の式中の各記号は、
図8に示す単位構造20Aの各構成要素の寸法または角度である。L
1は、単位構造20Aの一部の第1方向D2での長さである。ΔL
1は、L
1の変化量である。ΔTは、温度変化量である。L
tは、タイ分子22の結晶連結部22Aの長さである。φ
tは、タイ分子22の角度であり、結晶連結部22Aが第1方向D2に対してなす角度である。α
aは、非晶部23の線膨張係数である。L
cは、結晶部21の第1方向D2での長さである。L
Wは、結晶部21の第2方向D3での長さである。また、数1の式中のL
W/L
tの逆数は、下記の数2に示す式で表される。
【0056】
【数2】
数2の式において、L
c/L
Wは、結晶部21のアスペクト比である。X
cは、ポリアミドの結晶化度である。また、数1の式中のL
c/L
tは、下記の数3に示すように、結晶部21のアスペクト比と数2の式の逆数の値との積である。
【0057】
【数3】
数1、数2、数3に示す式を用いた線膨張係数の理論計算に必要なパラメータは、非晶部23の線膨張係数α
a、タイ分子22の角度φ
t、結晶部21のアスペクト比(L
c/L
W)、結晶化度X
cの4つである。
【0058】
非晶部23の線膨張係数α
aは、
図9に示すように、結晶化度と線膨張係数との関係から外挿することで求められる。
図9には、結晶化度が異なるPA6の線膨張係数の実測値がプロットされている。これらのプロットから結晶化度と線膨張係数との関係が求められる。この関係から結晶化度が0%のときの線膨張係数が算出される。算出されたPA6の非晶部23の線膨張係数は、2.064×10
-4/Kであった。
【0059】
タイ分子22の角度φtは、小角X線散乱による測定結果から求められる。PA6のタイ分子22の角度φtは、30度以下であった。
【0060】
結晶部21のアスペクト比は、広角X線散乱による測定結果から求められる。PA6の結晶部21のアスペクト比は、1.83であった。
【0061】
結晶化度Xcは、DSC(すなわち、示差走査熱量計)による測定結果から求められる。具体的には、下記に示す結晶化度の計算式と、融解熱量の測定値と、100%結晶体の融解熱量とを用いて、結晶化度Xcが求められる。100%結晶体の融解熱量として、測定値または文献値が用いられる。
【0062】
結晶化度=(融解熱量の測定値/100%結晶体の融解熱量)×100
PA6の融解熱量の測定値は、60.9mJ/mgであった。TA Instrument社のデータによると、PA6の100%結晶体の融解熱量は、230mJ/mgである。これらを用いて得られた結晶化度Xcは、26.5%であった。
【0063】
これらのパラメータの数値を用いて、PA6の線膨張係数を算出すると、
図10に示すように、実測値に近い値が得られた。
図10中の曲線は、タイ分子の角度φ
tが30度以下の範囲でのPA6の線膨張係数の計算値を示している。
図10中の丸印は、PA6の繊維材料の線膨張係数の実測値を示している。この結果より、ポリアミド系の繊維材料の単位構造20Aは、正しい可能性が高いと言える。
【0064】
次に、本実施形態のPA12の繊維材料の製造方法について説明する。
図11に示すように、PA12の繊維材料の製造方法は、紡糸工程S1と、延伸工程S2とを含む。
【0065】
紡糸工程S1では、
図12に示すように、押し出し機31に、ポリアミド12のペレットが導入される。押し出し機31の内部で、このペレットは、融点以上に加熱される。加熱されて溶融した材料は、ノズルを通って押し出されて繊維状にされた後、冷却槽32の冷却液で冷却されて固化される。このように、溶融紡糸によってポリアミド12の未延伸状態の繊維が形成される。
【0066】
続いて、延伸工程S2では、
図12に示すように、未延伸状態の繊維は、ヒータ33によって融点以下の適切な温度(例えば、100℃前後)で加熱されながら、ローラ34等によって延伸される。加熱条件やローラ34の速度設定を適切にすることにより、このときの未延伸の状態に対する延伸倍率は、例えば、3倍、4倍または5倍とされる。この延伸工程によって、複数の収容部24のそれぞれの形状に異方性が与えられる。複数の収容部24のそれぞれの長手方向が、繊維軸方向D1に沿う方向となる。
【0067】
このようにして、延伸された状態のPA12の繊維材料が製造される。すなわち、単位構造20Aは、紡糸工程S1と、延伸工程S2とが行われることによって得られる。なお、延伸工程S2が行われない場合、未延伸状態の繊維は、
図4に示す単位構造20Aを持たない場合がある。
【0068】
次に、延伸された状態のPA12の繊維材料と、延伸された状態のPA6、PA66、PA610の繊維材料とを比較した実験結果について説明する。特許文献1に記載の通り、従来のアクチュエータとして、PA6、PA66のそれぞれの繊維材料で構成されたものがある。したがって、ここで用いたPA6、PA66の繊維材料は、従来のアクチュエータに相当する。
【0069】
上記した製造方法によって、PA12の繊維材料と、PA6の繊維材料と、PA66の繊維材料とを製造した。PA12の紡糸温度は、210℃である。PA6の紡糸温度は、260℃である。PA66の紡糸温度は、285℃である。PA6、PA66のそれぞれの最大延伸倍率は、4倍であった。そこで、延伸倍率を同じ4倍として、PA12、PA6、PA66のそれぞれの繊維材料を製造した。そして、製造した各繊維材料の収縮率を測定した。収縮率の測定では、各試料に張力を付与していない状態で、各試料を30℃から150℃まで昇温させたときの各試料の収縮率を測定した。この測定結果を
図13に示す。
【0070】
図13では、各繊維材料の収縮率と材料密度との関係が示されている。この材料密度は、真密度である。各繊維材料の材料密度は、JIS K 7112に規定される測定方法によって測定される値である。
図13中の直線は、理論モデルによる収縮率の予測結果である。PA12、PA6、PA66のそれぞれの繊維材料のヤング率は、互いに近い値である。
【0071】
前述の単位構造20Aの理論モデルによれば、数1の式からわかるように、繊維材料の収縮量は、非晶部23の線膨張係数αaに比例する。すなわち、非晶部23の線膨張係数が大きいほど、繊維材料の収縮量は大きい。また、非晶部23の膨張は、自由体積の膨張によるものである。このため、非晶部23の線膨張係数αaは、非晶部23の材料密度と相関がある。すなわち、非晶部23の材料密度が小さいほど、非晶部23の線膨張係数が大きい。よって、非晶部23の材料密度が小さい材料を用いることで、繊維収縮量を大きくできる。なお、一般的に、ポリアミド系の繊維材料において、材料全体に対する非晶部23の割合は、材料全体に対する結晶部21の割合よりも大きい。このため、非晶部23の材料密度と材料全体の材料密度との間には、相関がある。よって、材料密度が小さい繊維材料を用いることで、繊維収縮量を大きくすることができる。
【0072】
図13の測定結果より、上記の理論通り、PA6、PA66のそれぞれよりも材料密度が小さなPA12の繊維材料は、PA6、PA66のそれぞれの繊維材料よりも大きな収縮率を示すことがわかる。よって、
図13中の直線に示すように、繊維材料の材料密度が低いほど、繊維材料の収縮率が大きくなるという関係があることがわかる。
【0073】
また、上記した非特許文献1に記載の通り、従来のアクチュエータとして、PA11の繊維材料で構成されたものがある。PA11の材料密度は、1.03g/cm3である。
PA12の材料密度は、1.01g/cm3であり、PA11の材料密度よりも小さい。上記の通り、繊維材料の材料密度が低いほど、繊維材料の収縮率が大きくなるという関係があることから、PA12の繊維材料は、PA11の繊維材料よりも大きな収縮率を示すことが推定される。
【0074】
したがって、アクチュエータ1を、PA12の繊維材料で構成することが良い。なお、PA12の繊維材料でアクチュエータ1を構成する場合、PA12の繊維材料に他の材料が含まれていてもいなくてもよい。
【0075】
上記した実施形態では、上記した材料設計を具現化した材料として、PA12の繊維材料を説明した。しかしながら、上記した材料設計を具現化した材料は、PA12以外のポリアミド樹脂で構成された繊維材料であってもよい。ポリアミド樹脂は、アミド結合を有する合成樹脂である。上記の通り、
図13中の直線に示すように、繊維材料の材料密度が低いほど、繊維材料の収縮率が大きくなるという関係があることが本発明者によって見出された。このため、PA12以外のポリアミド樹脂で構成された繊維材料は、従来のアクチュエータに用いられるポリアミド樹脂の繊維材料よりも材料密度が小さければよい。PA6、PA66およびPA11のそれぞれの材料密度を比較すると、PA11の材料密度が最も小さい。したがって、アクチュエータ1を構成する繊維材料は、密度が0g/cm
3より大きく、1.03g/cm
3より小さなポリアミド樹脂の繊維材料であればよい。これによれば、PA6、PA66、PA11の繊維材料で構成された従来のアクチュエータと比較して、高出力化が可能となる。
【0076】
また、アクチュエータ1を構成する繊維材料は、ポリアミド樹脂の単一材料で構成される場合に限られない。アクチュエータ1を構成する繊維材料は、ポリアミド樹脂と、他の高分子材料とを含む高分子材料で構成されていてもよい。要するに、アクチュエータ1を構成する繊維材料は、ポリアミド樹脂を含む高分子材料で構成されていればよい。アクチュエータ1を構成する繊維材料が、ポリアミド樹脂と、他の高分子材料とを含む高分子材料で構成される場合、
図4に示す単位構造20Aを有する高分子材料の密度が、上記した範囲を満たしていればよい。
【0077】
出願時において、材料密度が最小の熱可塑性樹脂として、ポリメチルペンテンが知られている。ポリメチルペンテンの密度は、0.83g/cm
3である。このため、ポリアミド樹脂に対して、ポリメチルペンテンのように材料密度が小さな高分子材料を混合して、
図4に示す単位構造20Aを有する高分子材料の密度を所望の大きさとしてもよい。この場合、混合された高分子材料の材料密度は、0.83g/cm
3より大きい。なお、出願時に存在する高分子材料の最小密度が0.83g/cm
3であることを考慮すると、アクチュエータ1を構成する繊維材料がポリアミド樹脂の単一材料で構成される場合において、製造される繊維材料の材料密度は、0.83g/cm
3より大きいことが想定される。
【0078】
また、ポリアミド樹脂以外の高分子材料であって、
図4に示す単位構造20Aを有する高分子材料で構成された繊維材料は、
図13中の直線に示すように、材料密度が低いほど、収縮率が大きくなるという関係を有すると考えられる。したがって、アクチュエータ1を構成する繊維材料は、
図4に示す単位構造20Aを有していれば、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性の結晶性もしくは半結晶性の高分子材料で少なくとも構成されていればよい。なお、結晶性もしくは半結晶性の高分子材料は、結晶部を有する高分子材料である。また、アクチュエータ1を構成する繊維材料に、高分子材料以外の材料が含まれてもよい。また、上記した材料設計を具現化した材料の形状は、繊維でなくてもよく、フィルム等の繊維以外の形状であってもよい。
【0079】
(第2実施形態)
図14(a)は、加熱前の本実施形態のアクチュエータ1Aの側面図である。
図14(b)は、
図14(a)のアクチュエータ1Aの上面図である。
図14(c)は、加熱後の本実施形態のアクチュエータ1Aの側面図である。
【0080】
図14(a)、(b)、(c)に示すように、本実施形態のアクチュエータ1Aは、繊維形状である。すなわち、アクチュエータ1Aは、繊維材料で構成され、外部エネルギーとしての熱エネルギーの入力によって、繊維材料の繊維軸方向D11に収縮する。それにより外部に繊維軸方向D11の引張力を出力する。
【0081】
アクチュエータ1Aを構成する繊維材料は、編組スリーブ42と、高分子材料43と、節部44とを含む。編組スリーブ42は、
図2中の骨格構造部12に相当する。高分子材料43は、
図2中の体積変化部13に相当する。
【0082】
編組スリーブ42は、1つ以上の繊維が組み合わされて収容部41を囲む筒形構造をなすとともに、繊維軸方向D11よりも繊維軸方向D11に対して直交する幅方向D12に伸縮しやすい構造をなしている。円筒形状の編組スリーブ42では、幅方向D12は編組スリーブ42の径方向である。編組スリーブ42の収容部41は、骨格構造部12の収容部11に相当する。
図14(a)、(b)に示すように、編組スリーブ42は、円筒形状であるが、円筒形状でなくてもよい。編組スリーブ42を構成する繊維としては、炭素繊維、金属繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、高分子繊維等が挙げられる。
【0083】
より具体的には、編組スリーブ42は、繊維軸方向D11に沿って延びる複数の繊維421が互いに間を空けて束ねられた構成である。複数の繊維421の繊維同士の間隔は、内包する高分子材料43が編組スリーブ42から流出しない大きさであればよい。複数の繊維421のそれぞれの両端において、複数の繊維421のそれぞれと高分子材料43とが、固定部材45によって固定されている。
【0084】
編組スリーブ42に対して繊維軸方向D11での引張応力が加わっても、編組スリーブ42を構成する複数の繊維421は伸びない、または、伸びにくい。また、編組スリーブ42に対して幅方向D12での引張応力が加わると、編組スリーブ42を構成する複数の繊維421が曲がる。これにより、繊維軸方向D11よりも幅方向D12に伸縮しやすい構造が実現される。編組スリーブ42は、
図14(b)に示す基本形状に対して繊維軸方向D11に伸びず、基本形状に対して幅方向D12に伸びる構造であることが好ましい。
【0085】
編組スリーブ42は、他の構成であってもよい。例えば、編組スリーブ42は、複数の繊維が組み合わされて網状に編まれたものであってもよい。また、編組スリーブ42は、一本の繊維が網状に編まれたものであってもよい。網状に編まれた構成の場合、編組スリーブ42は、隙間を有する。隙間の大きさは、内包する高分子材料43が編組スリーブ42から流出しない大きさであればよい。また、繊維軸方向D11よりも幅方向D12に伸縮しやすい構造であれば、編組スリーブ42は、網状に編まれていなくてもよい。
【0086】
高分子材料43は、編組スリーブ42の内部空間に収容されている。高分子材料43は、その外形に制約が無い状態のときに、熱エネルギーが入力されることによって等方的に膨張する固体である。熱エネルギーの入力条件を同じとして比較したとき、高分子材料43の体積増大量は、編組スリーブ42を構成する繊維の体積増大量よりも大きい。すなわち、高分子材料43は、編組スリーブ42を構成する繊維よりも膨張率が大きい材料である。
【0087】
高分子材料43としては、エラストマー(すなわち、弾性を持つ高分子材料)が用いられる。エラストマーには、ゴム、熱可塑性エラストマーが含まれる。ゴムとしては、シリコンゴム(例えば、PDMS)、天然ゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、NBR等が挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、パラフィン、EVA等が挙げられる。
【0088】
節部44は、編組スリーブ42の幅方向D12の膨張を抑制する。節部44は、編組スリーブ42の外形よりも細い形状であり、糸形状の部材である。節部44は、編組スリーブ42の周囲に、環状またはらせん状に所定間隔で固定される。
【0089】
例えば、節部44は、
図14(a)に示すように、複数の環状部で構成される。複数の環状部のそれぞれは、編組スリーブ42の周囲を一周しており、繊維軸方向D11で互いに間をあけて配置されている。または、節部44は、編組スリーブ42の周囲を一本の糸形状の部材がらせん状に所定間隔で巻きつけられた構成であってもよい。
【0090】
節部44を構成する材料としては、炭素繊維、金属繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、高分子繊維等が挙げられる。節部44を構成する材料は、一本でも複数本であってもよい。
【0091】
本実施形態のアクチュエータ1Aでは、編組スリーブ42を構成する繊維のヤング率は、高分子材料43のヤング率よりも高い。このため、編組スリーブ42のヤング率は、高分子材料43のヤング率よりも高い。
【0092】
また、本実施形態のアクチュエータ1Aでは、アクチュエータ1Aが加熱され、熱エネルギーが高分子材料43に入力されることによって、高分子材料43の体積が増大する。このとき、高分子材料43の体積の増大によって、
図14(a)、(c)を比較してわかるように、編組スリーブ42が幅方向D12で広がり、編組スリーブ42が繊維軸方向D11で収縮する。すなわち、収容部41が繊維軸方向D11で収縮し、収容部41が幅方向D12で広がるように、編組スリーブ42が変形する。本実施形態では、繊維軸方向D11に沿う方向が一方向に相当する。幅方向D12が一方向と異なる他方向に相当する。
【0093】
これにより、アクチュエータ1Aが編組スリーブ42を構成する材料のみで構成される場合およびアクチュエータ1Aが高分子材料43のみで構成される場合と比較して、熱エネルギーが入力されたときに生じるアクチュエータ1Aのひずみを大きくすることができる。
【0094】
このように、本実施形態においても、アクチュエータ1Aに対して、外部エネルギーの入力によって生じるひずみが大きい性質と、ヤング率が高い性質との両方を持たせることが可能となる。よって、アクチュエータ1Aの高出力化が可能となる。
【0095】
本実施形態のアクチュエータ1Aを構成する繊維材料には、
図15(a)、(b)、(c)に示すように、節部44が含まれなくてもよい。節部44が含まれなくても、上記の理由により、アクチュエータ1Aの高出力化が可能となる。なお、
図15(a)は、加熱前の本実施形態の節部を有していないアクチュエータ1Aの側面図である。
図15(b)は、
図15(a)のアクチュエータ1Aの上面図である。
図15(c)は、加熱後の本実施形態の節部を有していないアクチュエータ1Aの側面図である。
【0096】
さらに、本実施形態のアクチュエータ1Aによれば、次の効果を奏する。アクチュエータ1Aを構成する繊維材料は、節部44を含む。
図16に示すように、節部44が有る場合の方が、節部44が無い場合と比較して、高分子材料43の膨張率が同じときのアクチュエータ1Aの繊維軸方向D11の収縮率を増大させることができる。すなわち、高分子材料43の体積変化量が同じときのアクチュエータ1Aの繊維軸方向D11の収縮量を増大させることができる。なお、繊維軸方向D11で隣り合う節部44同士の間隔を変更することで、アクチュエータ1Aの収縮量を調整することができる。
【0097】
また、本実施形態のアクチュエータ1Aにおいて、編組スリーブ42を構成する繊維は、炭素繊維、金属繊維等のように、導電性を有し、通電によって発熱することが好ましい。これによれば、編組スリーブ42に通電することで、高分子材料43に熱エネルギーを入力することができる。
【0098】
同様に、本実施形態のアクチュエータ1Aにおいて、節部44を構成する材料は、炭素繊維、金属繊維等のように、導電性を有し、通電によって発熱することが好ましい。これによれば、節部44に通電することで、高分子材料43に熱エネルギーを入力することができる。
【0099】
次に、上記した構造のアクチュエータ1Aの実施例について説明する。本発明者は、
図17、
図18、
図19に示す手順により、
図20に示す構造のアクチュエータ1Aを作製した。
【0100】
図17に示すように、編組スリーブ42としての炭素繊維編組スリーブ42aと、高分子材料43としてのシリコンゴム紐43aとを用意し、炭素繊維編組スリーブ42aにシリコンゴム紐43aを入れた。炭素繊維編組スリーブ42aでは、編組スリーブ42を構成する複数の繊維421は炭素繊維である。炭素繊維編組スリーブ42aでは、複数の繊維421が組み合わされて網状に編まれている。なお、
図17では、複数の繊維421のそれぞれの間に大きな空隙が形成されているが、実際には、視認できるほどの大きさの空隙は形成されていない。用意した炭素繊維編組スリーブ42aの最小内径は5mm、最大内径は8mmである。用意したシリコンゴム紐43aは、シリコンゴムで構成され、直径が5mm、硬度が50の丸紐である。
【0101】
続いて、
図18に示すように、シリコンゴム紐43aの軸方向の膨張を抑えるために、炭素繊維編組スリーブ42aの軸方向での端とシリコンゴム紐43aの軸方向での端とを、固定部材45としてのエポキシ系接着剤45aで固定した。
【0102】
続いて、
図19に示すように、針金44aを用意し、炭素繊維編組スリーブ42aに対してらせん状に針金44aを巻き付けた。さらに、炭素繊維編組スリーブ42aに対して針金44aをエポキシ系接着剤で固定した。これにより、節部44を形成した。針金44aとして、直径が0.6mmのニクロム線を用いた。
【0103】
このようにして、
図20に示す構造のアクチュエータ1Aを作製した。作製したアクチュエータ1Aでは、炭素繊維編組スリーブ42aの内部にシリコンゴム紐43aが配置されている。また、針金44aによって、らせん状の節部が形成されている。
【0104】
作製したアクチュエータ1Aを200℃で加熱したところ、
図21に示すように、アクチュエータ1Aが幅方向D12に膨張し、アクチュエータ1Aが繊維軸方向D11に収縮した。このとき、作製したアクチュエータ1Aによれば、PA6が用いられた下記の文献に開示のアクチュエータと比較して、5倍以上の応力を発生することを、本発明者は確認した。
C. S. Haines et al., Artificial muscles from fishing line and sewing thread. Science 343, 868-872 (2014)
【0105】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能であり、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の材質、形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の材質、形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その材質、形状、位置関係等に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0106】
10 単位構造
11 収容部
12 骨格構造部
13 体積変化部
21 複数の結晶部
22 複数のタイ分子
23 複数の非勝負
42 編組スリーブ
43 高分子材料