(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】地中連続壁施工用のチェーン式カッター及びそれを備えた施工装置
(51)【国際特許分類】
E02F 5/06 20060101AFI20241211BHJP
E02D 5/18 20060101ALI20241211BHJP
E02D 5/20 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
E02F5/06 A
E02D5/18 102
E02D5/20 102
(21)【出願番号】P 2021095117
(22)【出願日】2021-06-07
【審査請求日】2024-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596164652
【氏名又は名称】太洋基礎工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】浅野 均
(72)【発明者】
【氏名】下坂 賢二
(72)【発明者】
【氏名】土屋 敦雄
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-327450(JP,A)
【文献】特開2012-127126(JP,A)
【文献】特開平10-227044(JP,A)
【文献】特開2007-056664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 5/06
E02D 5/00- 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カッタービットを有する複数のビットプレートが取り付けられた無端チェーンを備えた地中連続壁施工用のチェーン式カッターであって、
前記チェーン式カッターは、ベースマシン側に設けられたフレームが少なくとも地中挿入方向に移動自在に支持されるとともに、前記ビットプレートの中間部が前記無端チェーンに固定され、その両側が前記フレーム側とその反対側である延長側とにそれぞれ突出しており、
前記ビットプレートは、前記フレーム側の突出長より、前記延長側の突出長を長くすることにより、掘削幅の拡大が図られていることを特徴とする地中連続壁施工用のチェーン式カッター。
【請求項2】
前記無端チェーンから左右に突出する部分の面積と掘削抵抗モーメントとのバランスを考慮して、前記ビットプレートの形状が決められている請求項1記載の地中連続壁施工用のチェーン式カッター。
【請求項3】
前記ビットプレートの全幅をA、前記ビットプレートの前記フレーム側の突出長をB、前記ビットプレートの前記フレーム側の突出部分の幅をC としたとき、前記ビットプレートの前記延長側の突出部分の幅D は、次式から得られる請求項1、2いずれかに記載の地中連続壁施工用のチェーン式カッター。
D=B*C*(B/2+W/2)/[(A-B-W)*{(A-B-W)/2+W/2}]
ここで、W:前記無端チェーンの幅。
【請求項4】
前記ビットプレートの裏面側に挟み込みプレートが配置され、該挟み込みプレートと前記ビットプレートとの間に前記無端チェーンを介在させた状態で、前記挟み込みプレートに前記ビットプレートの表面側から挿入された補強ボルトを締結することにより、前記ビットプレートと前記無端チェーンとの連結が補強されている請求項1~3いずれかに記載の地中連続壁施工用のチェーン式カッター。
【請求項5】
上記請求項1~4いずれかに記載の地中連続壁施工用のチェーン式カッターと、前記チェーン式カッターを地中に挿入可能に支持するベースマシンとからなることを特徴とする地中連続壁施工用のチェーン式カッターを備えた施工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来型の施工機を大幅に改造することなく拡幅型の地中連続壁が施工できるようにしたチェーン式カッター及びそれを備えた施工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地中に連続壁を施工する方法として、例えば、カッタービットを有する複数のビットプレートが取り付けられた無端チェーンを備えたチェーン式カッターを横方向に移動させて原位置土と固化液を混合攪拌し、地中に等厚式のソイルセメント連続壁を造成するTRD工法が知られている。
【0003】
従来のチェーン式カッター50では、
図8及び
図9に示されるように、ビットプレート51の中央部が無端チェーン52にボルト53で固定されており、掘削時の左右のバランスを保持する観点から、前記ビットプレート51は、無端チェーン52の両側に同じ長さだけ突出する左右対称の形状で形成されている。
【0004】
前記ビットプレート51の幅(地中連続壁の厚さ)は、掘削時にビットプレート51に過大なトルクが作用しないようにすること、前記チェーン式カッター50が地上部を通過する際、前記無端チェーン52を駆動するスプロケット(回転軸)や減速機等を備えたベースマシンのフレーム54に接触しないようにすることを考慮して、ある程度の幅に制限されており、これまでのものでは最大850mm が一般的であった。
【0005】
近年、都市部を中心に土留めの大深度化に伴い、壁体剛性の高い幅広の土留壁に対するニーズが高まっている。拡幅型の地中連続壁を構築するため、従来から種々の開発が行われ、例えば下記特許文献1には、切削刃を有する無端チェーンをカッターポストの周囲で循環させながら、カッターポストを地中に挿入したまま横行させると共に、地中に固化材液を供給して地盤改良された地中連続壁を構築する方法において、カッターポストの全周の内、カッターポストの中心線に関して片側の、地盤改良すべき地盤の最浅部からカッターポストの下端部までの区間に亘り、カッターポストの上部に被せられるカバーの厚さ方向の内法より大きい幅の地盤を切削する切削刃を持つ拡張型無端チェーンを装着し、残りの区間にカバーの前記内法以下の幅の地盤を切削する切削刃を持つ標準型無端チェーンを装着した状態で、固化材液を供給しつつ、カッターポストを横行させながら、拡張型無端チェーンの、カッターポストの下端部に位置する部分が前記地盤の最浅部に位置する部分に移行するまで無端チェーンを循環させる毎に、無端チェーンの循環の向きを反転させる作業を繰り返し、前記地盤の最浅部以深にカバーの前記内法より大きい幅の地中連続壁を構築する拡幅型地中連続壁の構築方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1記載の方法では、地盤改良すべき地盤の最浅部からカッターポストの下端部までの区間に拡幅型無端チェーンを装着し、残りの区間に標準型無端チェーンを装着した状態で、前記拡幅型無端チェーンが地上のフレームと干渉しないように、地中の地盤改良すべき部分を往復移動するように、無端チェーンの循環の向きを反転させているため、掘削効率が悪く、掘削に時間がかかる欠点があった。
【0008】
幅広の地中連続壁を構築する他の方法として、最近では、壁厚1.2mまで対応可能なワイド型の施工機を用いる方法も存在するが、施工機が大型化する課題があり、既存の施工機で掘削幅が拡大できる構造が望まれていた。
【0009】
最大掘削幅850mm の従来型の施工機を改造して、幅広のビットプレートが装着できるようにすることも考え得るが、ビットプレートの中央部が無端チェーンに固定された構造では、掘削幅を広げるにはフレームとスプロケットの奥行きの距離を延長する必要があり、このような駆動部の構造を大幅に改変するには多額の費用がかかる問題があった。
【0010】
そこで本発明の主たる課題は、従来型の施工機を大幅に改造することなく安価に拡幅型の地中連続壁が施工できるようにしたチェーン式カッター及びそれを備えた施工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、カッタービットを有する複数のビットプレートが取り付けられた無端チェーンを備えた地中連続壁施工用のチェーン式カッターであって、
前記チェーン式カッターは、ベースマシン側に設けられたフレームが少なくとも地中挿入方向に移動自在に支持されるとともに、前記ビットプレートの中間部が前記無端チェーンに固定され、その両側が前記フレーム側とその反対側である延長側とにそれぞれ突出しており、
前記ビットプレートは、前記フレーム側の突出長より、前記延長側の突出長を長くすることにより、掘削幅の拡大が図られていることを特徴とする地中連続壁施工用のチェーン式カッターが提供される。
【0012】
上記請求項1記載の発明では、前記ビットプレートの中間部が前記無端チェーンに固定され、その両側が前記フレーム側とその反対側である延長側とにそれぞれ突出し、このときの突出長が、前記フレーム側の突出長より、前記延長側の突出長を長くすることにより、掘削幅の拡大を図っている。すなわち、前記フレーム側の突出長は従来型の施工機に用いられたものと同じままとし、ビットプレートがフレームに干渉しないようにした上で、掘削幅の拡大分は、フレームと反対側の突出長を延長することにより確保している。このため、駆動部構造などを大幅に改造することなく従来型の施工機を用いることができ、安価に掘削幅を拡大することができる。
【0013】
請求項2に係る本発明として、前記無端チェーンから左右に突出する部分の面積と掘削抵抗モーメントとのバランスを考慮して、前記ビットプレートの形状が決められている請求項1記載の地中連続壁施工用のチェーン式カッターが提供される。
【0014】
上記請求項2記載の発明では、前記無端チェーンからの左右の突出長が相違し、ビットプレートの形状が左右非対称となることに起因して、掘削時における左右の掘削抵抗が異なることにより、ビットプレートにモーメントが発生し、前記無端チェーンに回転力が作用するのを防止するため、前記無端チェーンから左右に突出する部分の面積と掘削抵抗モーメントとのバランスを考慮して、前記ビットプレートの形状を決定している。
【0015】
請求項3に係る本発明として、前記ビットプレートの全幅をA、前記ビットプレートの前記フレーム側の突出長をB、前記ビットプレートの前記フレーム側の突出部分の幅をC としたとき、前記ビットプレートの前記延長側の突出部分の幅D は、次式から得られる請求項1、2いずれかに記載の地中連続壁施工用のチェーン式カッターが提供される。
D=B*C*(B/2+W/2)/[(A-B-W)*{(A-B-W)/2+W/2}]
ここで、W:前記無端チェーンの幅。
【0016】
上記請求項3記載の発明では、前記無端チェーンからの左右の突出長が相違し、ビットプレートの形状が左右非対称となることに起因して、掘削時における左右の掘削抵抗が異なることにより、ビットプレートにモーメントが発生し、前記無端チェーンに回転力が作用するのを防止するため、前記無端チェーンから左右に突出する部分の面積と掘削抵抗モーメントとのバランスから、前記ビットプレートの前記延長側の突出部分の幅D を求める式を規定している。
【0017】
請求項4に係る本発明として、前記ビットプレートの裏面側に挟み込みプレートが配置され、該挟み込みプレートと前記ビットプレートとの間に前記無端チェーンを介在させた状態で、前記挟み込みプレートに前記ビットプレートの表面側から挿入された補強ボルトを締結することにより、前記ビットプレートと前記無端チェーンとの連結が補強されている請求項1~3いずれかに記載の地中連続壁施工用のチェーン式カッターが提供される。
【0018】
上記請求項4記載の発明では、前記ビットプレートの拡幅に伴い、掘削抵抗による回転モーメントの増加によって、ビットプレートの固定ボルトに作用するせん断力が増加し、ボルトの破断やビットプレートの欠落のおそれがあるため、既存の固定ボルトに加え、無端チェーンを挟み込む挟み込みプレート及び補強ボルトを配置することによって、ビットプレートと無端チェーンとの連結を補強し、回転モーメントに伴うせん断力に対抗している。
【0019】
請求項5に係る本発明として、上記請求項1~4いずれかに記載の地中連続壁施工用のチェーン式カッターと、前記チェーン式カッターを地中に挿入可能に支持するベースマシンとからなることを特徴とする地中連続壁施工用のチェーン式カッターを備えた施工装置が提供される。
【発明の効果】
【0020】
以上詳説のとおり本発明によれば、従来型の施工機を大幅に改造することなく安価に拡幅型の地中連続壁が施工できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る地中連続壁施工用のチェーン式カッター2を備えた施工装置1を示す側面図である。
【
図4】チェーン式カッター2の要部拡大側面図である。
【
図5】ビットプレート13を示す、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【
図6】ビットプレート13と無端チェーン11との連結補強構造を示す、(A)は裏面図、(B)は側面図、(C)は端面図である。
【
図8】従来のチェーン式カッター50を示す要部拡大側面図である。
【
図9】従来のビットプレート51を示す、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0023】
図1~
図3に示されるように、本発明に係る施工装置1は、地中連続壁施工用のチェーン式カッター2と、前記チェーン式カッター2を地中に挿入可能に支持するベースマシン3とから構成されている。
【0024】
はじめに前記ベースマシン3の一例について説明すると、前記ベースマシン3は、車両本体4と、この車両本体4を走行可能に支持する走行体5とから構成されている。前記車両本体4の一方の側部には、前記チェーン式カッター2を横方向に移動させる際のガイドとして機能するガイドフレーム6が設けられるとともに、このガイドフレーム6には、前記チェーン式カッター2を昇降させる際のガイドとして機能するリーダ7が設けられている。前記ガイドフレーム6には、前記リーダ7を横方向に移動させる横行シリンダ8が設けられるとともに、前記リーダ7には、前記チェーン式カッター2を地中挿入方向に移動させる縦行シリンダ9が設けられている。
【0025】
次いで前記チェーン式カッター2について
図1~
図4を参照して説明すると、前記チェーン式カッター2は、上部の地上に露出する部分を除いて地中に挿入されるカッターポスト10と、前記カッターポスト10の周囲を周回するとともに、複数のカッタービット12…を有する複数のビットプレート13…が取り付けられた無端チェーン11と、前記カッターポスト10の上端部及び下端部にそれぞれ設けられ、前記無端チェーン11が掛け渡されるスプロケット14及びアイドラー15と、前記ベースマシン3側に設けられ、少なくとも地中挿入方向に移動自在に支持された支持フレーム16と、電動モータの出力軸から得た動力を、ギヤの回転速度を減じて前記スプロケット14に出力する減速機(図示せず)とから構成されている。
【0026】
前記カッターポスト10の内部には、
図2に示されるように、セメントミルクなどの地盤改良材などを下端部に設けられた吐出口から地中に随時吐出する複数の配管18、18…が設けられている。
【0027】
図1に示されるように、前記チェーン式カッター2は、前記カッターポスト10の上部に支持フレーム16が設けられ、この支持フレーム16が前記リーダ7に縦行可能に支持されている。前記支持フレーム16には前記減速機などが納められるとともに、動力が出力される前記スプロケット14が軸支されており、この支持フレーム16に無端チェーン11に取り付けられたビットプレート13が干渉しないように、支持フレーム16から所定の離隔距離をあけて無端チェーン11が配置されている。
【0028】
前記支持フレーム16を含むチェーン式カッター2の上部は地上に露出しており、この地上に露出する部分がカバー17で覆われている。このカバー17は、内部を前記ビットプレート13が取り付けられた無端チェーン11が通過できる大きさで形成されている。
【0029】
前記ビットプレート13は、無端チェーン11に沿ってほぼ等間隔に複数配置されており、
図4及び
図5に示されるように、幅方向の中間部が4本の固定ボルト20、20…によって無端チェーン11に固定され、その両側が前記支持フレーム16側(以下、「フレーム側」という。)及びその反対側(以下、「延長側」という。)にそれぞれ突出している。この側方に突出した部分にはそれぞれ、少なくとも先端部に、図示例では先端部及び中間部の2箇所にカッタービット12が備えられている。このビットプレート13の幅寸法は、チェーン式カッター2によって構築される地中連続壁の掘削幅に相当する。
【0030】
本発明に係るチェーン式カッター2では、前記ビットプレート13として、前記フレーム側の突出長より、その反対側の前記延長側の突出長を長くしたものを用いることにより、掘削幅の拡大が図られている。すなわち、前記フレーム側の突出長は、左右の突出長が同じ左右対称のビットプレートを備えた従来型の施工機と同じ長さとして、ビットプレート13のフレーム側が支持フレーム16に干渉しないようにした上で、掘削幅の拡大分は、支持フレーム16と反対側の延長側の突出長を延長することにより確保している。換言すると、前記ビットプレート13は、無端チェーン11の固定部に対して左右に非対称の形状で形成されており、無端チェーン11の回転方向中心線LCが、ビットプレート13の幅方向中央を通る回転方向中心線LBに対してフレーム側に偏心している。
【0031】
このように、フレーム側より延長側の突出長を長くしたビットプレート13を用いることにより、無端チェーン11を駆動するスプロケット14と減速機との相対的位置関係を変更するなどの駆動部構造などを大幅に改造する必要がなくなり、前記カバー17を延長側に延長する簡単な改造を施すだけで従来型の施工機を用いることができ、安価に掘削幅の拡大を図ることができる。
【0032】
前記カッタービット12は、ビットプレート13の平面に対し略直角又は幅方向外側に傾斜して突出する基部の先端に、超硬チップなどからなる刃部が設けられ、前記刃部によって地山を掘削するものである。前記カッタービット12は、無端チェーン11から左右に突出する各突出部の少なくとも突出方向先端部に配置されており、好ましくは各突出部の突出方向中間部にも配置するのがよい。図示例では各突出部の突出方向の先端部及び中央部に配置されている。無端チェーン11からの左右の突出部の突出長さが異なるため、突出方向中間部に位置するカッタービット12の配置は、突出長に対する同じ比率で配置することにより、左右の掘削抵抗を均等に配分するのがよく、図示例では左右の突出部の突出方向中央に配置している。
【0033】
前記ビットプレート13は、無端チェーン11の回転方向と直交する方向(地中連続壁の厚さ方向)に長い鋼製の平板からなり、少なくとも無端チェーン11から左右に突出する部分の平面形状がそれぞれ矩形状に形成されている。
【0034】
前述の通り、前記ビットプレート13の左右の突出長が相違し、ビットプレート13の形状が左右非対称であるため、掘削時における左右の掘削抵抗が異なることにより、ビットプレート13にモーメントが発生し、無端チェーン11に回転力が作用するおそれがある。これを防止するため、前記ビットプレート13の形状は、前記無端チェーン11から左右に突出する部分の面積と掘削抵抗モーメントとのバランスを考慮して決定するのが好ましい。
【0035】
より具体的には、
図5に示されるように、ビットプレート13の全幅をA、ビットプレート13のフレーム側の突出長をB、ビットプレート13の前記フレーム側の突出部分の幅をC、ビットプレート13の前記延長側の突出部分の幅をD としたとき、無端チェーン11から左右に突出する部分のモーメントのつり合い式は、無端チェーン11から左右に突出する部分の面積と、各部分の重心の無端チェーン11中心から距離との積で表され、次式となる。
【0036】
(B*C)*(B/2+W/2)={(A-B-W)*D}*{(A-B-W)/2+W/2}
ここで、W:前記無端チェーン11の幅。
【0037】
なお、ビットプレート13の全幅A は構築する地中連続壁の厚さに相当し、ビットプレート13のフレーム側の突出長B は無端チェーン11の全幅W より外側に突出する部分の突出方向の長さであり、ビットプレート13のフレーム側及び延長側の突出部分の幅C、D は各突出部分のチェーン式カッター2の回転方向の長さである。
【0038】
上式より、ビットプレート13の前記延長側の突出部分の幅D を求めると、次式のようになる。
【0039】
D=B*C*(B/2+W/2)/[(A-B-W)*{(A-B-W)/2+W/2}]
上式から、例えば、A=1000mm、B=310mm、C=286mm、W=230mmとしたとき、前記D は約151mmとなる。
【0040】
以上のように、ビットプレート13の前記フレーム側の突出部分の縦横の長さをもとに、前記延長側の突出長から、突出部分の幅D が決定できる。これによって、掘削時におけるビットプレート13の左右の掘削バランスが保たれ、ビットプレート13が無端チェーン11の回転方向と直交する状態に保持されるとともに、ビットプレート13にモーメントが発生せず、ビットプレート13を固定する固定ボルト20、20…のせん断破壊が抑制でき、ビットプレート13の欠落が防止できる。
【0041】
次に、前記ビットプレート13を無端チェーン11に固定する固定ボルト20の補強構造について、
図6に基づいて説明する。ビットプレート13の拡幅に伴い、掘削抵抗による回転モーメントが増加して、ビットプレート13を無端チェーン11に固定する固定ボルト20に作用するせん断力が増加し、固定ボルト20の破断やビットプレート13の欠落のおそれがある。このため、既存の固定ボルト20に加え、以下に説明する補強構造によって補強するのが好ましい。
【0042】
前記補強構造は、ビットプレート13の裏面側に挟み込みプレート21を配置し、この挟み込みプレート21とビットプレート13との間に無端チェーン11を介在した状態で、前記挟み込みプレート21にビットプレート13の表面側から挿入された補強ボルト22を締結する構造である。
【0043】
前記挟み込みプレート21は、細長い板状の鋼材であり、その両端部に補強ボルト22が螺合される雌ねじ部が形成されている。前記挟み込みプレート21は、無端チェーン11に対し、離隔する補強ボルト22、22の間に、無端チェーン11のリンク部が配置され、前記補強ボルト22、22の締め込みによって無端チェーン11のリンク部が挟み込みプレート21とビットプレート13との間に挟み込まれ、ビットプレート13と無端チェーン11との結合が補強される。前記挟み込みプレート21は、無端チェーン11の左右のリンク部にそれぞれ1つずつ配置するのがよい。
【0044】
図4に示されるように、各ビットプレート13の前後に隣接して、前記ビットプレート13のずれを防止するためのずれ止めプレート23、23が無端チェーン11に固定されている。前記ずれ止めプレート23は、前記ビットプレート13より幅狭であり、無端チェーン11の両側から若干突出する大きさで形成され、前記無端チェーン11に4本の固定ボルト24、24…で固定されている。前記ずれ止めプレート23は、ビットプレート13の無端チェーン11に対する固定部の前側及び後側にそれぞれ、隙間なく端面同士が対面するように配置されている。図示例では、前記ずれ止めプレート23の中央部に1つのカッタービット25が設けられているが、2つ以上のカッタービットを配置してもよいし、配置しなくてもよい。
【0045】
また、
図7に示されるように、原位置土と固化材を混合攪拌したソイルセメント壁を造成後に、相互に連結しながらH形鋼などの芯材30、30…を複数挿入して鋼製連続壁を構築し、この鋼製連続壁を本体利用するとき、本体構造物の底版や頂版が接続する箇所の本体側のフランジ外面に、鉄筋32を連結するためのカプラー31が溶接されているが、従来では、このカプラー31の張出しが芯材30建込みの際の阻害要因となることがあった。本発明に係るチェーン式カッター2では、無端チェーン11の中心より延長側に偏心した地中連続壁が施工できるため、挿入の際にカプラー31が地山に干渉するのが防止でき、芯材をスムーズに挿入できるようになる。
【0046】
更に、本発明に係る施工装置1を用いることにより、無端チェーン11の中心より前記延長側に偏心した地中連続壁が施工できるため、既設構造物等との離隔が少ない土留壁の構築において、既設構造物等からの離隔を確保しつつ施工できるという効果も奏する。
【0047】
〔他の形態例〕
上記形態例では、前記ベースマシン3として、
図1~
図3に示されるように、TRD工法に使用される施工機械を例に挙げ説明したが、これに限るものではなく、チェーン式カッター機構を備えた施工機械全般を用いることが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…施工装置、2…チェーン式カッター、3…ベースマシン、4…車両本体、5…走行体、6…ガイドフレーム、7…リーダ、8…横行シリンダ、9…縦行シリンダ、10…カッターポスト、11…無端チェーン、12…カッタービット、13…ビットプレート、14…スプロケット、15…アイドラー、16…支持フレーム、17…カバー、18…配管、20…固定ボルト、21…挟み込みプレート、22…補強ボルト、23…ずれ止めプレート、24…固定ボルト、30…芯材、31…カプラー