(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】抗ウイルス性水性オーバーコート組成物および物品
(51)【国際特許分類】
C09D 101/00 20060101AFI20241211BHJP
C09D 105/00 20060101ALI20241211BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241211BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C09D101/00
C09D105/00
C09D7/61
C09D5/14
(21)【出願番号】P 2021185270
(22)【出願日】2021-11-12
【審査請求日】2024-06-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230054
【氏名又は名称】日本ペイントホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515096952
【氏名又は名称】日本ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】金子 宗平
(72)【発明者】
【氏名】小白 琴菜
(72)【発明者】
【氏名】菱川 大輝
(72)【発明者】
【氏名】川上 晋也
(72)【発明者】
【氏名】陳 自義
(72)【発明者】
【氏名】山本 有寿
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-168578(JP,A)
【文献】特表2014-519504(JP,A)
【文献】国際公開第2021/026121(WO,A1)
【文献】特表2013-518809(JP,A)
【文献】特開2018-196550(JP,A)
【文献】国際公開第2021/140965(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111995917(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー成分、銅化合物および水を含む、抗ウイルス性水性オーバーコート組成物であって、
前記バインダー成分は、多糖類を含み、
前記銅化合物は、銅化合物の2価カチオン、2価銅イオンの塩および2価銅イオンの錯体からなる群から選択される1種以上を含み、
前記抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の総質量に対する固形分の総質量が、0.01~5質量%である、抗ウイルス性水性オーバーコート組成物。
【請求項2】
前記多糖類が、カルボキシル基、カルボキシルアルキル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、アセトアミド基または第4級アンモニウム基を有する、請求項1に記載の抗ウイルス性水性オーバーコート組成物。
【請求項3】
前記多糖類が、キサンタンガム、セルロースナノファイバー、ダイユータンガム、グアーガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースおよびこれらのアニオン性官能基含有誘導体、カチオン化セルロース、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーからなる群から選択される1種以上である、請求項1または2に記載の抗ウイルス性水性オーバーコート組成物。
【請求項4】
前記多糖類の含有量が、前記抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の総質量に対して、0.05~0.5質量%であり、
前記銅化合物の含有量が、前記バインダー成分100質量部に対して、銅元素量として0.5~100質量部である、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗ウイルス性水性オーバーコート組成物。
【請求項5】
前記水の含有量が、前記抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の総質量に対して、60~99.8質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗ウイルス性水性オーバーコート組成物。
【請求項6】
ローラー塗装用、刷毛塗装用、コテバケ塗装用またはスプレー塗装用である、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗ウイルス性水性オーバーコート組成物。
【請求項7】
被塗物の表面の少なくとも一部に、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の乾燥塗膜を有する、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性水性オーバーコート組成物および物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、壁面などの内装に簡易に抗ウイルス性を付与することが求められている。内装に簡易に抗ウイルス性を付与する方法としては、抗ウイルス性塗料をローラーなどで塗装して塗膜を形成する方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、抗菌性能および抗ウイルス性能を得るために光触媒型酸化チタン微粒子を用いており、良好な抗菌性および抗ウイルス性能が発揮される利点がある。一方で、酸化チタンはその光触媒作用により、塗膜の色褪せをもたらすおそれがある。また、特許文献1などの塗料を、塗料固形分濃度が5質量%以下となるように単に希釈し、内装で用いられる黒色などの濃彩の塗膜上に塗装すると、塗料中の光触媒型酸化チタンまたはバインダー成分が凝集して白ムラが生じ、塗膜の外観を低下させてしまうおそれがある。
【0004】
銀化合物も抗ウイルス剤として使用されるが、銀化合物は、紫外線が当たると黒く変色し、塗膜の外観を低下させてしまう。
【0005】
銅化合物も抗ウイルス剤として使用され、2価銅よりも1価銅の方が抗ウイルス性が高いことから、一般的に、1価銅が抗ウイルス剤として使用される。しかし、1価銅を抗ウイルス剤として用いる場合、通常、1価銅を安定化するためにヨウ化銅として用いるが、濃彩の黒色の塗膜上にヨウ化銅を含む抗ウイルス性塗料で塗膜をさらに形成すると、抗ウイルス性塗膜においてヨウ化銅粒子の凝集が生じるため白ムラとして観測され、塗膜の外観を低下させてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、特許文献1の実施例ではエアスプレーで塗料組成物を塗装しているが、ローラー、刷毛およびコテバケでの塗装性については評価していない。本発明者らが特許文献1の塗料において、塗料固形分濃度を5質量%以下となるように希釈した塗料を用いてローラー、刷毛、スプレーおよびコテバケでの塗装を行ったところ、塗料が垂れて作業性に劣ることがわかった。
【0008】
そこで、本発明は、内装の塗膜上にローラー、刷毛、スプレーまたはコテバケを用いて塗装した場合でも、塗料が垂れず、外観に優れる塗膜を形成可能な抗ウイルス性水性オーバーコート組成物を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の別の目的は、抗ウイルス性を有し、塗膜の外観に優れた物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る抗ウイルス性水性オーバーコート組成物は、バインダー成分、銅化合物および水を含む、抗ウイルス性水性オーバーコート組成物であって、
前記バインダー成分は、多糖類を含み、
前記銅化合物は、銅化合物の2価カチオン、2価銅イオンの塩および2価銅イオンの錯体からなる群から選択される1種以上を含み、
前記抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の総質量に対する固形分の総質量が、0.01~5質量%である、抗ウイルス性水性オーバーコート組成物である。これによって、内装の塗膜上にローラー、刷毛、コテバケまたはスプレーを用いて塗装した場合でも、塗料が垂れず、外観に優れる塗膜を形成可能である。
【0011】
本発明に係る抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の一実施形態では、前記多糖類が、カルボキシル基、カルボキシルアルキル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、アセトアミド基または第4級アンモニウム基を有する。
【0012】
本発明に係る抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の一実施形態では、前記多糖類が、キサンタンガム、セルロースナノファイバー、ダイユータンガム、グアーガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースおよびこれらのアニオン性官能基含有誘導体、カチオン化セルロース、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーからなる群から選択される1種以上である。
【0013】
本発明に係る抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の一実施形態では、前記多糖類の含有量が、前記抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の総質量に対して、0.05~0.5質量%であり、前記銅化合物の含有量が、前記バインダー成分100質量部に対して、銅元素量として0.5~100質量部である。
【0014】
本発明に係る抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の一実施形態では、前記水の含有量が、前記抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の総質量に対して、60~99.8質量%である。
【0015】
本発明に係る抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の一実施形態では、当該抗ウイルス性水性オーバーコート組成物は、ローラー塗装用、刷毛塗装用、コテバケ塗装またはスプレー塗装用である。
【0016】
本発明に係る物品は、被塗物の表面の少なくとも一部に、上記いずれかの抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の乾燥塗膜を有する物品である。これによって、抗ウイルス性と塗膜の外観に優れる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、内装の塗膜上にローラー、刷毛、コテバケまたはスプレーを用いて塗装した場合でも、塗料が垂れず、外観に優れる塗膜を形成可能な抗ウイルス性水性オーバーコート組成物を提供することができる。また、本発明によれば、抗ウイルス性を有し、塗膜の外観に優れた物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0019】
本発明において、2以上の実施形態を任意に組み合わせることができる。
【0020】
本発明において、用語「固形分」は、固形分、不揮発分および有効成分を包括する概念である。本発明において、水および単なる有機溶媒は、有効成分には含めない。
【0021】
本明細書において、数値範囲は、別段の記載がない限り、その範囲の上限値および下限値を含むことを意図している。例えば、0.01~5質量%は、0.01質量%以上5質量%以下の範囲を意味する。
【0022】
本発明において、「内装の塗膜上にローラー、刷毛、コテバケまたはスプレーを用いて塗装した場合でも」は、少なくとも内装の塗膜上にローラー、刷毛、コテバケまたはスプレーを用いて塗装した場合に適用可能なことを意味し、内装以外の用途またはローラー、刷毛、コテバケおよびスプレー以外の塗装手段による塗装を除外することを意図しない。
【0023】
本発明において、用語「錯体」は、配位化合物と同義である。配位化合物の配位子は、単座配位子または多座配位子である。
【0024】
本明細書において、用語「塗膜」は、別段の記載のない限り、「乾燥塗膜」を指す。
【0025】
本明細書において、「本発明の抗ウイルス性水性オーバーコート組成物」を単に「本発明の組成物」ということがある。また、本明細書において、「抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の乾燥塗膜」を単に「本発明の塗膜」ということがある。
【0026】
(抗ウイルス性水性オーバーコート組成物)
本発明に係る抗ウイルス性水性オーバーコート組成物は、バインダー成分、銅化合物および水を含む、抗ウイルス性水性オーバーコート組成物であって、
前記バインダー成分は、多糖類を含み、
前記銅化合物は、銅化合物の2価カチオン、2価銅イオンの塩および2価銅イオンの錯体からなる群から選択される1種以上を含み、
前記抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の総質量に対する固形分の総質量が、0.01~5質量%である、抗ウイルス性水性オーバーコート組成物である。
【0027】
以下、本発明の組成物が含む各成分について説明する。
【0028】
・バインダー成分
バインダー成分は、塗膜形成要素として機能する。本発明のバインダー成分は、多糖類を含む。
【0029】
・多糖類
多糖類は、バインダー成分として用いられる公知の多糖類を適宜選択して用いることができる。多糖類は、バインダー成分としての機能に加えて、増粘剤として機能してもよい。
【0030】
上述したように、特許文献1などの塗料を希釈して低固形分化した状態で塗膜を形成すると、低固形分化した状態では、塗料中の抗ウイルス剤またはバインダー成分が凝集して白ムラが生じる。増粘作用を有する多糖類をこのような塗料で用いると、抗ウイルス剤またはバインダー成分がさらに凝集するように予想されるが、本発明者らが検討したところ、特定の銅化合物に対して多糖類を用いると、抗ウイルス剤またはバインダー成分の凝集が抑制されることを予想外に見い出した。理論に拘束されることを望むものではないが、このメカニズムとしては、多糖類に含まれる官能基が特定の銅化合物と作用し、凝集を抑制しているものと推測される。
【0031】
多糖類としては、例えば、キサンタンガム、セルロース、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、グアーガム、グルカン、カードラン、パラミロン、キチン、キトサン、デキストラン、ニゲラン、アガロース、カラギーナン、ヘパリン、アルギン酸、ヒアルロン酸、ペクチン、キシログルカン、キシラン、グルコマンナン、レバン、ダイユータンガム(デュータンガム)、ウェランガム、ジェランガムおよびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0032】
誘導体としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アニオン性官能基を有するアニオン化セルロース、カチオン性官能基を有するカチオン化セルロースなどが挙げられる。
【0033】
アニオン化セルロースのアニオン性(アニオンになり得る)官能基としては、例えば、カルボキシル基、カルボキシルアルキル基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。カルボキシル基は、例えば、Na+、K+、NH4
+などの対イオンを有してもよい。
【0034】
カチオン化セルロースのカチオン性(カチオンになり得る)官能基としては、例えば、第4級アンモニウム基、アンモニウムアルキル基、アミノ基(NH2-、NHR-、NR2-、式中、Rはアルキル基である)などが挙げられる。第4級アンモニウム基は、例えば、Cl-などの対イオンを有してもよい。
【0035】
多糖類は、セルロースナノファイバーなどのナノファイバー状であってもよい。
【0036】
本発明に係る抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の一実施形態では、前記多糖類が、カルボキシル基、カルボキシルアルキル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、アセトアミド基(CH3C(O)NH-)または第4級アンモニウム基を有する。
【0037】
本発明に係る抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の一実施形態では、前記多糖類が、キサンタンガム、セルロースナノファイバー、ダイユータンガム、グアーガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースおよびこれらのアニオン性官能基含有誘導体、カチオン化セルロース、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーからなる群から選択される1種以上である。
【0038】
一実施形態では、多糖類は、実質的に還元性を示さない多糖類(非還元性多糖類)である。
【0039】
多糖類は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
バインダー成分における多糖類の割合は、適宜調節すればよいが、例えば、バインダー成分の総質量に対して、5~100質量%である。一実施形態では、バインダー成分における多糖類の割合は、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上または100質量%である。別の実施形態では、バインダー成分における多糖類の割合は、100質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下または10質量%以下である。
【0041】
一実施形態では、多糖類の含有量は、本発明の組成物の総質量に対して、0.05~0.5質量%である。別の実施形態では、多糖類の含有量は、本発明の組成物の総質量に対して、0.05質量%以上、0.10質量%以上、0.15質量%以上、0.20質量%以上、0.25質量%以上、0.30質量%以上、0.35質量%以上、0.40質量%以上または0.45質量%以上である。さらに別の実施形態では、多糖類の含有量は、本発明の組成物の総質量に対して、0.50質量%以下、0.45質量%以下、0.40質量%以下、0.35質量%以下、0.30質量%以下、0.25質量%以下、0.20質量%以下、0.15質量%以下または0.10質量%以下である。
【0042】
本発明の組成物のバインダー成分は、多糖類に加えて、公知の塗料のバインダー成分を含んでいてもよい。このようなバインダー成分としては、例えば、アクリル樹脂エマルション、水溶性アクリル樹脂、水系アルキド樹脂、水系ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂ディスパージョン、ウレタン樹脂ディスパージョン、水性アクリルウレタン樹脂、フッ素樹脂エマルション、水溶性フッ素樹脂、ポリビニルアルコール、加水分解性シラン化合物(例えば、エポキシ基含有シランカップリング剤)およびその加水分解縮合物などが挙げられる。
【0043】
一実施形態では、多糖類以外のバインダー成分は、水系アルキド樹脂、水系ウレタン樹脂、フッ素樹脂エマルション、水溶性フッ素樹脂、ポリビニルアルコール、加水分解性シラン化合物およびその加水分解縮合物からなる群より選択される1種以上である。
【0044】
多糖類の重量平均分子量(Mw)は、例えば、10,000~50,000,000である。一実施形態では、多糖類のMwは、10,000以上、50,000以上、100,000以上、500,000以上、1,000,000以上、2,000,000以上、3,000,000以上、4,000,000以上、5,000,000以上、10,000,000以上、20,000,000以上、30,000,000以上または40,000,000以上である。別の実施形態では、多糖類のMwは、50,000,000以下、40,000,000以下、30,000,000以下、20,000,000以下、10,000,000以下、5,000,000以下、4,000,000以下、3,000,000以下、2,000,000以下、1,000,000以下、500,000以下、100,000以下または50,000以下である。さらに別の実施形態では、多糖類のMwは、100,000~5,000,000である。多糖類の重量平均分子量の測定は、プルランを標準として用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定結果から算出する。
【0045】
バインダー成分における多糖類以外のバインダー成分の割合は、適宜調節すればよいが、例えば、バインダー成分の総質量に対して、0~95質量%である。一実施形態では、バインダー成分における多糖類以外のバインダー成分の割合は、バインダー成分の総質量に対して、0質量%以上、1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上または90質量%以上である。別の実施形態では、バインダー成分における多糖類以外のバインダー成分の割合は、バインダー成分の総質量に対して、95質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下または1質量%以下である。
【0046】
多糖類以外のバインダー成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
一実施形態では、バインダー成分は、多糖類のみである。別の実施形態では、バインダー成分は、多糖類と、多糖類以外のバインダー成分を含む。さらに別の実施形態では、バインダー成分は、多糖類と、水系アルキド樹脂、水系ウレタン樹脂、フッ素樹脂エマルション、水溶性フッ素樹脂、ポリビニルアルコール、加水分解性シラン化合物およびその加水分解縮合物からなる群より選択される1種以上とを含む。さらに別の実施形態では、バインダー成分は、多糖類と、水系アルキド樹脂、水系ウレタン樹脂、フッ素樹脂エマルション、水溶性フッ素樹脂、ポリビニルアルコール、加水分解性シラン化合物およびその加水分解縮合物からなる群より選択される1種以上である。
【0048】
本発明の組成物におけるバインダー成分の割合は、例えば、本発明の組成物の総質量に対して、0.05~2質量%である。一実施形態では、バインダー成分の割合は、本発明の組成物の総質量に対して、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上、1.1質量%以上、1.2質量%以上、1.3質量%以上、1.4質量%以上、1.5質量%以上、1.6質量%以上、1.7質量%以上、1.8質量%以上または1.9質量%以上である。別の実施形態では、バインダー成分の割合は、本発明の組成物の総質量に対して、2.0質量%以下、1.9質量%以下、1.8質量%以下、1.7質量%以下、1.6質量%以下、1.5質量%以下、1.4質量%以下、1.3質量%以下、1.2質量%以下、1.1質量%以下、1.0質量%以下、0.5質量%以下または0.1質量%以下である。
【0049】
・銅化合物
銅化合物は、本発明の組成物に抗ウイルス性を付与する働きを有する。銅化合物は、銅化合物の2価カチオン、2価銅イオンの塩および2価銅イオンの錯体からなる群から選択される1種以上を含む。銅化合物は、抗ウイルス性に加えて、抗菌性を発現してもよい。
【0050】
銅化合物としては、銅化合物の2価カチオン、2価銅イオンの塩または2価銅イオンの錯体であれば特に限定されず、用いることができる。
【0051】
銅化合物の2価カチオンとしては、例えば、[Cu(NH3)4]2+、[Cu(H2O)4]2+などが挙げられる。
【0052】
2価銅イオンの塩としては、例えば、塩化銅(II)、酢酸銅(II)、フッ化銅(II)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(II)、硫化銅(II)、硫酸銅(II)、リン酸銅(II)、炭酸銅(II)、硝酸銅(II)、乳酸銅(II)、クエン酸銅(II)、グルコン酸銅(II)、ギ酸銅(II)、過塩素酸銅(II)、水酸化銅(II)、シアン化銅(II)、シュウ酸銅(II)、これらの水和物などが挙げられる。
【0053】
2価銅イオンの錯体としては、例えば、Cl-、CN-、OH-、C2O4
2-(シュウ酸イオン)などのアニオン性官能基を有する化合物と2価銅との錯体;H2O、NH3、CO、ピリジンなどの孤立電子対を有する中性極性分子と2価銅との錯体などが挙げられる。本発明では、2価銅イオンの錯体のうち、2価銅イオンの塩との重複部分は、2価銅イオンの錯体として扱う。
【0054】
一実施形態では、銅化合物は、塩化銅(II)、酢酸銅(II)および硝酸銅(II)からなる群より選択される1種以上である。
【0055】
銅化合物の形態は、特に限定されず、適宜選択することができる。例えば、粒子などの固体形態または溶液などの液体形態でもよい。一実施形態では、銅化合物は、水溶性である。
【0056】
銅化合物の2価カチオン、2価銅イオンの塩および2価銅イオンの錯体は、それぞれ、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
本発明の組成物中の銅化合物の含有量は、適宜調節すればよく、例えば、本発明の組成物のバインダー成分100質量部に対して、銅元素量として、0.2質量部以上である。一実施形態では、銅化合物の含有量は、本発明の組成物のバインダー成分100質量部に対して、銅元素量として0.5~100質量部である。別の実施形態では、銅化合物の含有量は、本発明の組成物のバインダー成分100質量部に対して、銅元素量として0.5質量部以上、1.0質量部以上、2.0質量部以上、3.0質量部以上、4.0質量部以上、5.0質量部以上、6.0質量部以上、7.0質量部以上、8.0質量部以上、9.0質量部以上、10.0質量部以上、20.0質量部以上、30.0質量部以上、40.0質量部以上、50.0質量部以上、60.0質量部以上、70.0質量部以上、80.0質量部以上または90.0質量部以上である。さらに別の実施形態では、銅化合物の含有量は、本発明の組成物のバインダー成分100質量部に対して、銅元素量として100質量部以下、90.0質量部以下、80.0質量部以下、70.0質量部以下、60.0質量部以下、50.0質量部以下、40.0質量部以下、30.0質量部以下、20.0質量部以下、15.0質量部以下、10.0質量部以下、9.0質量部以下、8.0質量部以下、7.0質量部以下、6.0質量部以下、5.0質量部以下、4.0質量部以下、3.0質量部以下、2.0質量部以下、1.0質量部以下または0.5質量部以下である。
【0058】
銅化合物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、1価の銅化合物を含んでいてもよい。1価の銅化合物としては、例えば、銅化合物の1価カチオン;塩化銅(I)、酢酸銅(I)、フッ化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、硫化銅(I)、硫酸銅(I)、炭酸銅(I)、硝酸銅(I)、乳酸銅(I)、クエン酸銅(I)、水酸化銅(I)、シアン化銅(I)、これらの水和物;1価銅イオンの錯体などが挙げられる。
【0059】
銅化合物が1価の銅化合物を含む場合、銅化合物における1価の銅化合物の割合は、例えば、抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の総質量に対して、銅元素換算で0.000質量%より多く0.005質量%以下である。一実施形態では、銅化合物は、不可避的不純物量の1価の銅化合物を含む。別の実施形態では、銅化合物における1価の銅化合物の割合が、抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の総質量に対して、銅元素換算で0.000質量%より多く0.002質量%以下である。
【0060】
本発明に係る抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の一実施形態では、前記多糖類の含有量が、前記抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の総質量に対して、0.05~0.5質量%であり、前記銅化合物の含有量が、前記バインダー成分100質量部に対して、銅元素量として0.5~100質量部である。
【0061】
本発明の組成物の総質量に対する固形分の総質量は、0.01~5.00質量%である。一実施形態では、本発明の組成物の総質量に対する固形分の総質量は、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.10質量%以上、0.20質量%以上、0.30質量%以上、0.40質量%以上、0.50質量%以上、1.00質量%以上、1.50質量%以上、2.00質量%以上、2.50質量%以上、3.00質量%以上、3.50質量%以上、4.00質量%以上または4.50質量%以上である。別の実施形態では、本発明の組成物の総質量に対する固形分の総質量は、5.00質量%以下、4.50質量%以下、4.00質量%以下、3.50質量%以下、3.00質量%以下、2.50質量%以下、2.00質量%以下、1.50質量%以下、1.00質量%以下、0.90質量%以下、0.80質量%以下、0.70質量%以下、0.60質量%以下、0.50質量%以下、0.10質量%以下または0.05質量%以下である。さらに別の実施形態では、本発明の組成物の総質量に対する固形分の総質量は、0.21~2.39質量%である。
【0062】
・水
水としては、特に限定されず、公知の水を用いることができる。水としては、例えば、蒸留水、脱イオン水、水道水、精製水などが挙げられる。
【0063】
水の含有量は、適宜調節すればよいが、例えば、本発明の組成物の総質量に対して、60~99.8質量%である。一実施形態では、水の含有量は、本発明の組成物の総質量に対して、60質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上または99質量%以上である。別の実施形態では、水の含有量は、本発明の組成物の総質量に対して、99質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、75質量%以下または70質量%以下である。
【0064】
・その他の成分
本発明の組成物は、上述した必須成分以外に、塗料組成物で用いられる添加剤を含んでいてもよい。任意のその他の成分としては、例えば、界面活性剤、硬化剤、有機溶剤(可塑剤を除く。)、顔料、増粘剤、外線吸収剤、光安定剤、分散剤、消泡剤、防腐剤、可塑剤などが挙げられる。その他の成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
本発明の組成物は、従来の抗ウイルス剤である銀化合物または光触媒型酸化チタンを含まなくとも塗料が垂れず外観に優れ、抗ウイルス性を有する塗膜を形成可能であるが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で従来の抗ウイルス剤である銀化合物または光触媒型酸化チタンを含んでいてもよい。一実施形態では、本発明の組成物は、抗ウイルス剤としての銀化合物または光触媒型酸化チタンを含まない。別の実施形態では、本発明の組成物は、不可避的不純物として銀化合物を含み得る。さらに別の実施形態では、本発明の組成物は、組成物の総質量に対する抗ウイルス剤としての銀化合物の量が、0.001質量部未満である。さらに別の実施形態では、本発明の組成物は、組成物の総質量に対する抗ウイルス剤としての光触媒型酸化チタンの量が、0.001質量部未満である。
【0066】
・界面活性剤
界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤など公知の界面活性剤を適宜選択して用いることができる。
【0067】
アニオン界面活性剤としては、例えば、カルボン酸型界面活性剤、硫酸エステル型界面活性剤、スルホン酸型界面活性剤、リン酸エステル型界面活性剤などが挙げられる。
【0068】
カチオン界面活性剤としては、例えば、第4級アンモニウム塩型界面活性剤、アルキルアミン塩型界面活性剤などが挙げられる。
【0069】
両性界面活性剤としては、例えば、アミノ酸型両性界面活性剤;アミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤;スルホベタイン型両性界面活性剤;イミダゾリン型両性界面活性剤などが挙げられる。
【0070】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル界面活性剤、アセチレン界面活性剤、ビニルポリマー界面活性剤、シリコン界面活性剤、フッ素界面活性剤、アルキルグリコシド界面活性剤、高級アルコールなどが挙げられる。この他、例えば、特開2017-165833号公報に記載の非イオン性界面活性剤なども挙げられる。また、アセチレン界面活性剤には、例えば、アセチレングリコール界面活性剤、アセチレンアルコール界面活性剤が挙げられる。
【0071】
界面活性剤としては、例えば、塗装作業性と素早く均一に濡れ広げることができる観点から、界面活性剤の0.1質量%濃度の水溶液の表面張力が30mN/m以下であることが好ましい。界面活性剤の0.1質量%濃度の水溶液の表面張力は、一例では、20~30mN/mである。
【0072】
一実施形態では、界面活性剤は、非イオン性界面活性剤である。別の実施形態では、界面活性剤は、アセチレン界面活性剤である。
【0073】
界面活性剤を用いる場合の界面活性剤の含有量は、適宜調節すればよいが、例えば、本発明の組成物の総質量に対して、0.05~5質量%である。
【0074】
・硬化剤
硬化剤は、例えば、塗料組成物で用いられる公知の硬化剤を適宜選択して用いることができる。硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、ブロックイソシアネート樹脂、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物などが挙げられる。
【0075】
硬化剤を用いる場合の硬化剤の含有量は、適宜調節すればよいが、例えば、バインダー成分の全固形分100質量部に対して、固形分換算で1~20質量部である。
【0076】
・有機溶剤
本発明の組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で有機溶媒が含まれていてもよい。本発明において、有機溶剤は、沸点が250℃未満の溶剤を指す。沸点が250℃以上の物質は可塑剤として扱う。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなどのアルコール;エチレングリコール;アセトン;テトラヒドロフラン;アセトニトリルなどが挙げられる。
【0077】
水と有機溶剤の混合物を用いる場合、その混合物の総質量に対する水の割合は、例えば、50~99質量%である。一実施形態では、水と有機溶剤の混合物を用いる場合、その混合物の総質量に対する水の割合は、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上または95質量%以上である。別の実施形態では、水と有機溶剤の混合物を用いる場合、その混合物の総質量に対する水の割合は、99質量%以下、95質量%以下、90質量%以下または80質量%以下である。
【0078】
有機溶剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
本発明の組成物のpHは、適宜調節すればよいが、例えば、4.0~9.0である。一実施形態では、本発明の組成物pHは、4.0以上、5.0以上、6.0以上、7.0以上または8.0以上である。別の実施形態では、本発明の組成物pHは、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下または5.0以下である。
【0080】
本発明の組成物は、クリヤー塗料であってもよいし、エナメル塗料であってもよい。一実施形態では、本発明の組成物は、クリヤー塗料である。
【0081】
・用途
本発明の組成物の用途は、抗ウイルス性が求められる用途であれば特に限定されず、抗ウイルス性と優れた塗膜の外観が求められる用途に特に好適に用いることができる。本発明の組成物の用途としては、戸建住宅、マンションなどの集合住宅、オフィスビル、公共施設、商業施設、研究施設、軍事施設、トンネルなどの建築物ないし建造物の外装面、内装面、例えば、壁面、床面、天井、屋根、柱、看板、電子看板(デジタルサイネージ)、ドア、門;自動車、電車、バス、タクシーなどの車両の外装面、内装面;車両のタイヤ;船の外装面、内装面;飛行機、ヘリコプターなどの航空機の外装面、内装面;橋;自動販売機;道路標識;信号;街灯;LED方式、液晶方式、電球方式などの電光掲示板;作業機械、建築機械;石碑;傘、カッパなどの雨具;包装材;メガネなどのレンズ;鏡などが挙げられる。一実施形態では、本発明の組成物の用途は、内装用途である。
【0082】
本発明の組成物を塗装する対象、すなわち、被塗物としては、特に限定されず、例えば、建築物の内装および外装;自動車、電車などの車両の内装および外装;航空機の内装および外装;便器、ドアノブ、ボタン、手すり、買い物かご、蛇口のハンドルないしレバー、テーブル、机、いす、キーボード、タッチパネル、スマートフォン、タブレットコンピューター、リモコン、マイク、玩具;冷蔵庫、エアコン、空気清浄機などの家電製品、エアコンまたは空気清浄機などのフィルター;医療機器、アクリル板などの飛沫感染防止用パーティションなどが挙げられる。
【0083】
・抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の調製方法
本発明の組成物の調製方法は特に限定されず、バインダー成分、銅化合物および水、任意にその他の成分を任意の順序で混合し、撹拌することで調製することができる。
【0084】
本発明の組成物は、従来と同様の塗装方法によって塗装し、塗膜を形成することができる。
【0085】
本発明の組成物を塗装する量は、例えば、5~30g/m2である。あるいは、乾燥塗膜の膜厚5nm~1μmとなるように、本発明の組成物を塗装してもよい。
下限を5g、5nmに変更しました。
【0086】
本発明の組成物の液膜または未硬化膜を乾燥させる温度は、例えば、0~50℃であり、時間は、例えば、5分~24時間である。
【0087】
本発明の組成物の塗装手段は特に限定されず、公知の塗装手段から適宜選択すればよい。塗装手段としては、例えば、ローラー、スプレー、刷毛、コテバケ、アプリケーター、バーコーター、ロールコーター、カーテンコーター、塗料浴などが挙げられる。一実施形態では、本発明の組成物の塗装手段は、ローラー、刷毛、コテバケおよびスプレーからなる群より選択される1種以上である。別の実施形態では、本発明の組成物は、ローラー塗装用、刷毛塗装、コテバケ塗装またはスプレー塗装用である。なお、コテバケは、塗料を含浸させるパッド部と柄部が接続されている塗装具である。
【0088】
一実施形態では、本発明の組成物を用いた塗膜は、オーバーコート膜である。別の実施形態では、本発明の組成物を用いた塗膜は、被塗物の最も外側または空気界面側に位置する塗膜である。
【0089】
(物品)
本発明に係る物品は、被塗物の表面の少なくとも一部に、上記いずれかの抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の乾燥塗膜を有する物品である。
【0090】
被塗物は、上述した被塗物と同様である。一実施形態では、被塗物は、建築物の内装である。
【0091】
被塗物に塗装する本発明の組成物は、被塗物の部分ごとに異なっていてもよい。例えば、被塗物の表面のある部分では、顔料を含む組成物であり、被塗物の別の部分では、顔料を含まない組成物であってもよい。
【0092】
本発明の組成物の乾燥塗膜の膜厚は、例えば、5nm~1μmである。あるいは、本発明の組成物の乾燥被膜の重量は、例えば、0.005~1g/m2である。
【0093】
本発明の組成物の乾燥塗膜を有する物品としては、例えば、建築物の内装および外装;自動車、電車などの車両の内装および外装;航空機の内装および外装;便器、ドアノブ、ボタン、手すり、買い物かご、蛇口のハンドルないしレバー、テーブル、机、いす、キーボード、タッチパネル、スマートフォン、タブレットコンピューター、リモコン、マイク、玩具;冷蔵庫、エアコン、空気清浄機などの家電製品、エアコンまたは空気清浄機などのフィルター;医療機器、アクリル板などの飛沫感染防止用パーティションなどが挙げられる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0095】
実施例で用いた材料は以下のとおりである。
・多糖類
キサンタンガム:感光社製の商品名「ガムクリスタル」、カルボキシル基含有、固形分100%
セルロースナノファイバー1:第一工業製薬社製の商品名「レオクリスタ I-2SX」、カルボキシル基含有、固形分2質量%、表中、「CN1」と表記
セルロースナノファイバー2:第一工業製薬社製の商品名「レオクリスタ I-2AX」、カルボキシル基含有、固形分2質量%、表中、「CN2」と表記
ダイユータンガム:三昌社製の商品名「KELCO-VIS DG」、カルボキシル基含有、固形分100質量%
カチオン化セルロース:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製の商品名「レオガード MGP」、塩化O-[2-ヒドロキシ-3(-トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキ シエチルセルロース、第4級アンモニウム基含有、固形分100質量%
・多糖類以外のバインダー成分
水系フッ素エマルション:AGC社製の商品名「ルミフロン(登録商標) FE4300」、固形分50質量%、表中、「FE4300」と表記
水系アルキド樹脂:DIC社製の商品名「ウォーターゾール(登録商標) S-311」、固形分50質量%、表中、「S-311」と表記
ポリビニルアルコール:三菱ケミカル社製の商品名「ゴーセネックス(登録商標) Z-200」、固形分100質量%、表中、「Z-200」と表記
シランカップリング剤:信越化学社製の商品名「KBM-403」、固形分100質量%、表中、「KBM-403」と表記
水系ポリウレタン樹脂:荒川化学工業社製の商品名「ユリアーノ W600」、固形分35質量%、表中、「W600」と表記
・比較バインダー成分:ローム・アンド・ハースジャパン社製の商品名「プライマル TT-615」、アクリルポリマー、カルボキシル基含有、固形分30質量%、表中、「TT-615」と表記
・銅化合物(抗ウイルス剤)
銅化合物1:酢酸銅(II)一水和物、富士フイルム和光純薬社製、和光特級、含量99.0%以上、表中、「酢酸銅」と表記
銅化合物2:塩化銅(II)二水和物、富士フイルム和光純薬社製、試薬特級、表中、「塩化銅」と表記
銅化合物3:硝酸銅(II)三水和物、富士フイルム和光純薬社製、和光特級、含量99.0%以上、表中、「硝酸銅」と表記
・比較抗ウイルス剤
銀化合物1:酢酸銀、富士フイルム和光純薬社製、含量99.0%以上、表中、「酢酸銀」と表記
銀化合物2:J-ケミカル社の商品名「AGアルファ(登録商標)CF-01」、水溶液型銀系抗菌剤・抗ウイルス加工剤、銀イオン濃度2.5%、固形分14.3%、表中、「CF-01」と表記
銀化合物3: シナネンゼオミック社製の商品名「ゼオミックHD10N(銀担持ゼオライト)、粒子径1.5μm、固形分100%、表中、「HD10N」と表記
光触媒型酸化チタン:ナノウェイヴ社製の商品名「ハーフメタル HM-20AF」、可視光応答型アパタイト被覆二酸化チタン、表中、「HM-20AF」と表記
・可塑剤
トリプロピレングリコール n-ブチルエーテル、ダウ・ケミカル日本社製の商品名「ダルパッド(登録商標) C」、有効成分100質量%、沸点274℃、表中、「ダルパッドC」と表記
・硬化剤
日清紡ケミカル社製の商品名「カルボジライト SV-02」、固形分40質量%、表中、「SV-02」と表記
・界面活性剤
日信化学工業社製の商品名「オルフィン(登録商標) EXP.4200」、有効成分75質量%、表中、「EXP4200」と表記
【0096】
実施例で用いたその他の材料は以下のとおりである。
シーラー組成物:水性カチオンエポキシ複合形下塗材、日本ペイント社製の商品名「水性カチオンシーラー」
黒色塗料組成物:水性塗料、日本ペイント社製の商品名「オーデコートGエコ」、黒色、3分艶
白色塗料組成物:水性塗料、日本ペイント社製の商品名「オーデコートGエコ」、白色、3分艶
ローラー1:大塚刷毛製造社製の商品名「ウレタンくん(登録商標)スモールローラー」、毛丈6mm
ローラー2:大塚刷毛製造社製の商品名「スモールローラーB」、毛丈13mm
刷毛:大塚刷毛製造社製の商品名「水性 筋違 15号」
コテバケ:大塚刷毛製造社製の商品名「コテバケPROセット」
スプレー:アネスト岩田社製の商品名「ハンドスプレーガン W-101」
被塗物Pw:白壁紙、サンゲツ社製の商品名「TH30250」
被塗物Pb:黒壁紙、サンゲツ社製の商品名「TH30918」
【0097】
・抗ウイルス性水性オーバーコート組成物の調製
(実施例1)
4Lのビーカー容器にイオン交換水1000質量部を入れた。次いで、その水を撹拌しながら表1に示す固形分量の各成分をその容器に添加した。得られた混合物のpHを、水酸化ナトリウムおよび酢酸を用いて、表1に示すpH値に調整して抗ウイルス性水性オーバーコート組成物を調製した。
【0098】
(実施例2~19)
実施例2~16では、表1に示す成分および固形分量に変更したこと以外は実施例1と同様にして調製した。実施例17~19では、実施例1と同じ、抗ウイルス性水性オーバーコート組成物を用いた。
【0099】
(比較例1~13)
表2に示す成分および固形分量に変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較組成物を調製した。
【0100】
・被塗物の準備
ローラー1を用いてシーラー組成物をスレート板(寸法:90cm×45cm)に塗装し、室温(23℃、以下同じ。)で12時間乾燥して、下塗り塗膜を形成した。次いで、ローラー2を用いて黒色塗料組成物をその下塗り塗膜上に塗装し、室温で12時間乾燥させて濃彩黒色、3分艶の塗膜を形成し、被塗物B1を得た。
【0101】
被塗物B1の準備で、スレート板を5×5cmの寸法のスレート板に変更したこと以外は同様にスレート板上に下塗り塗膜および濃彩黒色、3分艶の塗膜を形成し、被塗物B2を得た。
【0102】
被塗物B1の準備で、黒色塗料組成物を白色塗料組成物に変更したこと以外は同様にスレート板上に下塗り塗膜および淡彩白色、3分艶の塗膜を形成し、被塗物Wを得た。
【0103】
次に、調製した実施例または比較例の組成物を各被塗物に塗装して本発明の塗膜または比較塗膜を形成し、以下に示すように垂れ抑制性、塗膜の外観および塗膜の抗ウイルス性を評価した。その結果を表1~2に合わせて示す。表1~2中、塗装手段のRは、ローラー塗装、Bは、刷毛塗装、Tは、コテバケ塗装およびSは、スプレー塗装を表す。
【0104】
(垂れ抑制性)
被塗物B1を床に対しておよそ垂直に配置した。その被塗物B1に実施例または比較例の組成物を20質量部/m2の量で塗装した。塗装直後に、目視で塗料の垂れの有無を観察し、以下の基準で垂れ抑制性を評価した。
合格:塗料の垂れが確認されない
不合格:塗料の垂れが確認された
【0105】
(塗膜の外観)
垂直に配置した被塗物B1、W、PwおよびPbに、乾燥被膜重量が0.02~1.32g/m2となるように、実施例または比較例の組成物を塗装した。その塗装した被塗物を室温で12時間乾燥し、本発明の塗膜または比較塗膜を形成した。その被塗物を目視で観察し、以下の基準で塗膜の外観を評価した。評価AおよびBが合格である。ただし、比較例3および9は、垂れ抑制性の評価で不合格であり、正常な塗膜を形成できなかったため塗膜の外観を評価しなかった。
・被塗物B1およびPbのオーバーコート塗膜の外観
A:白ムラが確認されない
B:白ムラがわずかに確認された
C:多くの白ムラが確認された
・被塗物WおよびPwのオーバーコート塗膜の外観
A:変色が確認されない
B:変色がわずかに確認された
C:多くの変色が確認された
【0106】
(塗膜の抗ウイルス性)
被塗物B2を水平な台上に静置した。その被塗物B2にローラー1を用いて実施例または比較例の組成物を20質量部/m2の量で塗装した。その塗装した被塗物B2を室温で12時間乾燥し、被塗物B2上に本発明の塗膜または比較塗膜を形成した。その被塗物B2を用いて、JIS R 1756(バクテリオファージQβ)に記載の方法に従い、抗ウイルス活性値を求め、以下の基準で塗膜の抗ウイルス性を評価した。ただし、比較例3および9は、垂れ抑制性の評価で不合格であり、正常な塗膜を形成できなかったため塗膜の抗ウイルス性を評価しなかった。
合格:抗ウイルス活性値が2以上である
不合格:抗ウイルス活性値が2未満である
【0107】
【0108】
【表2】
*1:銅元素量として
*2:銀元素量として
【0109】
表1~2に示したように、本発明によれば、内装の塗膜上にローラー、刷毛、コテバケまたはスプレーを用いて塗装した場合でも、塗料が垂れず、外観に優れる塗膜を形成可能な抗ウイルス性水性オーバーコート組成物を提供することができた。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれば、内装の塗膜上にローラー、刷毛、コテバケまたはスプレーを用いて塗装した場合でも、塗料が垂れず、外観に優れる塗膜を形成可能な抗ウイルス性水性オーバーコート組成物を提供することができる。また、本発明によれば、抗ウイルス性を有し、塗膜の外観に優れた物品を提供することができる。