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特許7602234断熱材固定金具および鉄骨造建物の断熱構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】断熱材固定金具および鉄骨造建物の断熱構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/76 20060101AFI20241211BHJP
   E04B 1/80 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
E04B1/76 400J
E04B1/80 100B
E04B1/80 100F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023139034
(22)【出願日】2023-08-29
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000110664
【氏名又は名称】ナンカイ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 みなみ
(72)【発明者】
【氏名】小西 健夫
(72)【発明者】
【氏名】潮 真之介
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-173257(JP,A)
【文献】特開2023-108965(JP,A)
【文献】特開2021-031993(JP,A)
【文献】特開平10-237996(JP,A)
【文献】特開2006-070497(JP,A)
【文献】特開2021-014684(JP,A)
【文献】特開平10-077702(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102808458(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/76
E04B 1/80
F16B 2/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一片のフランジを有する形鋼材からなる構造材の前記フランジに取り付けられて、前記フランジの面直方向に建て込まれるボード状の断熱材を固定するための断熱材固定金具であって、
前記フランジの縁部を弾性的に挟持し得るように形成されたクリップ部と、前記クリップ部に連結された可動式の断熱材押え部と、を具備し、
前記クリップ部は、互いに相対する第1挟持片及び第2挟持片と、前記各挟持片の基端部同士を接続する挟持片接続部とが、側面視コ字形に屈折して連続するように形成され、
前記第1挟持片には、前記第2挟持片から離反する向きに断熱材当接片が突設されており、
前記断熱材押え部は、前記クリップ部の挟持片接続部に重なる回動基片と、前記クリップ部から離反する向きに延出する持出し部と、前記持出し部の延出端側で前記断熱材当接片に相対する断熱材押え片と、を備え、
前記クリップ部の挟持片接続部と前記断熱材押え部の回動基片とが一箇所のピン節点を介して軸着されることにより、前記断熱材押え部が前記クリップ部に対して前記挟持片接続部に平行な面内で回動し得るように形成された
ことを特徴とする断熱材固定金具。
【請求項2】
請求項1に記載された断熱材固定金具において、
前記ピン節点が、前記挟持片接続部及び前記回動基片の横幅方向における中心よりも両者の端部に偏倚した位置に設けられており、
前記断熱材押え片が前記断熱材当接片に相対する位置を基準として、前記断熱材押え部が所定の角度範囲内で回動されると、前記断熱材当接片の正面側全体が開放される
ことを特徴とする断熱材固定金具。
【請求項3】
請求項1または2に記載された断熱材固定金具において、
前記断熱材押え部の前記断熱材押え片に、さらに別体の断熱材押え部の回動基片が重ねられて軸着され、前記二つの断熱材押え部が互いに回動可能に保持される
ことを特徴とする断熱材固定金具。
【請求項4】
鉄骨造建物の外周部分に配置された梁材の下側のフランジに、請求項1または2に記載された断熱材固定金具が、前記クリップ部を前記フランジに屋内側から挟持せしめ、前記断熱材当接片及び前記断熱材押え片を下向きに突出させて取り付けられ、
前記梁材の下方にボード状の梁下断熱材が建て込まれて、
前記梁下断熱材の屋外側の上端縁が前記断熱材当接片に押し当てられるとともに、
前記梁下断熱材の屋内側の上端縁に前記断熱材押え片が被せられた
ことを特徴とする鉄骨造建物の断熱構造。
【請求項5】
請求項4に記載された鉄骨造建物の断熱構造において、
前記梁下断熱材は、屋内側の表面を前記梁材のフランジの屋内側の側縁よりも屋内側に迫り出した状態で前記梁材の下方に建て込まれるとともに、
前記梁下断熱材の上方に、前記梁材の屋内側の側面を被覆する梁横断熱材が建て込まれた
ことを特徴とする鉄骨造建物の断熱構造。
【請求項6】
鉄骨造建物の外周部分に配置された梁材の下側のフランジに、請求項3に記載された断熱材固定金具が、前記クリップ部を前記フランジに屋内側から挟持せしめ、前記断熱材当接片を下向きに突出させて取り付けられ、
前記梁材の下方にボード状の梁下断熱材が建て込まれて、
前記梁下断熱材の屋外側の上端縁が前記断熱材当接片に押し当てられるとともに、
前記梁下断熱材の屋内側の上端縁に、前記二つの断熱材押え部のうち屋外側に位置する断熱材押え部の断熱材押え片が被せられることにより、
前記梁下断熱材が、その屋内側の表面を前記梁材のフランジの屋内側の側縁よりも屋内側に迫り出した状態で前記梁材の下方に建て込まれるとともに、
前記梁下断熱材の上方に、前記梁材の屋内側の側面を被覆する梁横断熱材が建て込まれ、
前記梁横断熱材の屋内側の下端縁に、前記二つの断熱材押え部のうち屋内側に位置する断熱材押え部の断熱材押え片が被せられた
ことを特徴とする鉄骨造建物の断熱構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願が開示する発明は、鉄骨造建物の外周部分の断熱工法に用いられる断熱材固定金具
と、その断熱材固定金具を用いた鉄骨造建物の断熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨造建物の外周部分に採用される断熱構造として、外周部分の柱材と梁材とによって囲まれる躯体軸組の構面内または該構面のやや屋内側に、枠体と断熱材とを一体化した内壁下地パネルを建て込んで断熱ラインを形成し、その内壁下地パネルに石こうボードや壁紙等の内壁仕上げ材を施工する構造が公知である。このような内壁下地パネルの枠体は木材または軽量鉄骨材を用いて形成され、断熱材にはポリスチレンフォーム、ポリエチレンフォーム、硬質ウレタンフォーム、フェノールフォーム等の発泡樹脂成形体からなるボード状の断熱材、グラスウールやロックウール等の鉱物繊維をマット状に成形した繊維系断熱材等がよく利用される。本出願人も、その種の内壁下地パネルを躯体軸組の屋内側に建て込む断熱構造を、特許文献1、2等において提案し、実用化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-266417公報
【文献】特開2010-037873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来のような断熱構造では、内壁下地パネルが金属製の取付部材を介して躯体軸組を構成する柱材や梁材に固定される。したがって、内壁下地パネルが躯体軸組から若干、離隔して建て込まれるにしても、躯体軸組と内壁下地パネルとを連結する取付部材を介して熱橋が形成され、これが断熱設計上の弱点となりかねない。内壁下地パネルを構成する枠体に熱伝導率の高い軽量形鋼材が用いられる場合は、とりわけその懸念が大きくなる。また、取付部材の設置箇所周辺において躯体軸組と内壁下地パネルとの間に形成される隙間それ自体も、断熱ラインの切れ目になりやすい。
【0005】
本願が開示する発明は、前述のような断熱設計上の弱点を解消すべく着想されたものであり、鉄骨造建物の外周部分の躯体軸組と内壁下地との間に切れ目のない断熱ラインを形成することを目的とする。そのために、自立性に優れて均質な断熱性能を得やすいボード状の断熱材を採用することとし、その断熱材を躯体軸組の構面内に隙間なく嵌め込んで容易に固定することのできる断熱材固定金具と、その断熱材固定金具を用いて躯体軸組の屋内側に断熱材を建て込んだ鉄骨造建物の断熱構造を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の目的を達成するために本願が採用した断熱材固定金具の構成は、少なくとも一片のフランジを有する形鋼材からなる構造材の前記フランジに取り付けられて、前記フランジの面直方向に建て込まれるボード状の断熱材を固定するための断熱材固定金具であって、前記フランジの縁部を弾性的に挟持し得るように形成されたクリップ部と、前記クリップ部に連結された可動式の断熱材押え部と、を具備し、前記クリップ部は、互いに相対する第1挟持片及び第2挟持片と、前記各挟持片の基端部同士を接続する挟持片接続部とが、側面視コ字形に屈折して連続するように形成され、前記第1挟持片には、前記第2挟持片から離反する向きに断熱材当接片が突設されており、
前記断熱材押え部は、前記クリップ部の挟持片接続部に重なる回動基片と、前記クリップ部から離反する向きに延出する持出し部と、前記持出し部の延出端側で前記断熱材当接片に相対する断熱材押え片と、を備え、前記クリップ部の挟持片接続部と前記断熱材押え部の回動基片とが一箇所のピン節点を介して軸着されることにより、前記断熱材押え部が前記クリップ部に対して前記挟持片接続部に平行な面内で回動し得るように形成された、ものとして特徴付けられる。
【0007】
さらに、前記ピン節点が、前記挟持片接続部及び前記回動基片の横幅方向における中心よりも両者の端部に偏倚した位置に設けられており、前記断熱材押え片が前記断熱材当接片に相対する位置を基準として、前記断熱材押え部が所定の角度範囲内で回動されると、前記断熱材当接片の正面側全体が開放される、ものとして特徴付けられる。
【0008】
さらに、記断熱材押え部の前記断熱材押え片に、さらに別体の断熱材押え部の回動基片が重ねられて軸着され、前記二つの断熱材押え部が互いに回動可能に保持される、ものとして特徴付けられる。
【0009】
また、本願が採用した鉄骨造建物の断熱構造は、鉄骨造建物の外周部分に配置された梁材の下側のフランジに、前述の構成を有する断熱材固定金具が、前記クリップ部を前記フランジに屋内側から挟持せしめ、前記断熱材当接片及び前記断熱材押え片を下向きに突出させて取り付けられ、前記梁材の下方にボード状の梁下断熱材が建て込まれて、前記梁下断熱材の屋外側の上端縁が前記断熱材当接片に押し当てられるとともに、前記梁下断熱材の屋内側の上端縁に前記断熱材押え片が被せられた、ものとして特徴付けられる。
【0010】
さらに、前述の鉄骨造建物の断熱構造において、前記梁下断熱材は、屋内側の表面を前記梁材のフランジの屋内側の側縁よりも屋内側に迫り出した状態で前記梁材の下方に建て込まれるとともに、前記梁下断熱材の上方に、前記梁材の屋内側の側面を被覆する梁横断熱材が建て込まれた、ものとして特徴付けられる。
【0011】
また、本願が採用した鉄骨造建物の断熱構造は、鉄骨造建物の外周部分に配置された梁材の下側のフランジに、二つの断熱材押え部を回動可能に軸着した断熱材固定金具が、前記クリップ部を前記フランジに屋内側から挟持せしめ、前記断熱材当接片を下向きに突出させて取り付けられ、前記梁材の下方にボード状の梁下断熱材が建て込まれて、前記梁下断熱材の屋外側の上端縁が前記断熱材当接片に押し当てられるとともに、前記梁下断熱材の屋内側の上端縁に、前記二つの断熱材押え部のうち屋外側に位置する断熱材押え部の断熱材押え片が被せられることにより、前記梁下断熱材が、その屋内側の表面を前記梁材のフランジの屋内側の側縁よりも屋内側に迫り出した状態で前記梁材の下方に建て込まれるとともに、前記梁下断熱材の上方に、前記梁材の屋内側の側面を被覆する梁横断熱材が建て込まれ、 前記梁横断熱材の屋内側の下端縁に、前記二つの断熱材押え部のうち屋内側に位置する断熱材押え部の断熱材押え片が被せられた、ものとして特徴付けられる。
【発明の効果】
【0012】
前述のように構成される断熱材固定金具によれば、少なくとも一片のフランジを有する構造材に対し、該フランジの面直方向に建て込まれるボード状の断熱材を精度良く位置決めして、簡単に固定することができる。
【0013】
また、この断熱材固定金具を使用して、鉄骨造建物の外周部分に配置された梁材の下方にボード状の梁下断熱材を建て込む断熱構造を採用すれば、その梁下断熱材の上端縁を梁材に当接させ、さらに梁下断熱材の屋内側の表面を梁材のフランジの側縁よりも屋内側へわずかに迫り出した状態で、梁下断熱材を固定するのが容易になる。これにより、鉄骨造建物の外周部分の躯体軸組と内壁下地との間に切れ目のない断熱ラインを効率よく施工することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本願が開示する発明の第1実施形態に係る断熱材固定金具の三面図であり、(a)が正面図、(b)が上面図、(c)が側面図である。
図2図1の断熱材固定金具を用いて梁材の下方に断熱材を固定した断熱構造を示す断面図である。
図3】本願が開示する発明の第2実施形態に係る断熱材固定金具の三面図であり、(a)が正面図、(b)が上面図、(c)が側面図である。
図4図3の断熱材固定金具を用いて梁材の下方に断熱材を固定した断熱構造を示す断面図である。
図5】本願が開示する発明の第3実施形態に係る断熱材固定金具を用いて梁材の下方に断熱材を固定した断熱構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
図1は本願が開示する発明の第1実施形態に係る断熱材固定金具の構成を示し、図2は、その断熱材固定金具を用いて鉄骨造建物の外周部分の梁材周りに断熱材を固定した納まりを示している。
【0016】
断熱材固定金具1は、図2に示すように、鉄骨造建物の外周部分に配置された梁材3の下側のフランジ31に屋内側から取り付けられて、フランジ31の下方に建て込まれるボード状の断熱材(梁下断熱材41)を固定するものである。ここで「梁材のフランジ」とは、主としてH形鋼、またはこれに類する形鋼材(例えば、リップを有しない溝形鋼、ハット形鋼、2本の溝形鋼を背合わせに結合した鋼材等)からなる梁材3の材軸直交断面において略水平に張り出す、少なくとも一片の平坦な板状部位を指す。また、ボード状の断熱材とは、主として硬質の発泡性樹脂(ポリスチレンフォーム、ポリエチレンフォーム、ウレタンフォーム、フェノールフォーム等)からなる数cm厚の平坦な成形体を想定している。
【0017】
断熱材固定金具1は、梁材3のフランジ31の縁部を弾性的に挟持し得るように形成されたクリップ部10と、クリップ部10に連結された可動式の断熱材押え部20と、を具備している。
【0018】
図1に示す第1実施形態において、断熱材固定金具1のクリップ部10は、上下方向に相対する第1挟持片11及び第2挟持片12と、それら各挟持片11、12の屋内側の基端部同士を接続する挟持片接続部13とが、側面視コ字形に屈折して連続するように形成された部材である。このクリップ部は、バネ弾性を有する薄鋼板を打抜き折曲するなどして形成されている。挟持片接続部13の高さは梁材3のフランジ31の厚みよりもわずかに大きく、正面から見た第1挟持片11、第2挟持片12及び挟持片接続部13の横幅は揃えられており、第2挟持片12の長さは挟持するフランジ31の、ウェブ32からの張出長さを超えない寸法に設定されている。
【0019】
第1挟持片11と挟持片接続部13とは略直角に接続し、第2挟持片12は挟持片接続部13側から自由端側に向かって第1挟持片11に接近するように傾斜して、自由側の最狭部における両挟持片の対向間隔がフランジ31の厚みよりもやや小さくなるように賦形されている。第2挟持片12の先端には、フランジ31への装着を容易にするため、第1挟持片11から離反する向きに折り返された迎え傾斜片14が形成されている。さらに、第2挟持片12には、フランジ31の適所に予め形成された取付孔33に係合し得る抜止片15が、第2挟持片12の中間部を第1挟持片11側へ略半円形状に切り起こして形成されている。
【0020】
この形態では、第1挟持片11が第2挟持片12よりも屋外側へ向けて長く延び出している。その第1挟持片11の延出端には、第1挟持片11に直交して挟持片接続部13と平行になる断熱材当接片16が、第2挟持片12から離反する向きに突設されている。
【0021】
一方、断熱材押え部20は、クリップ部10の挟持片接続部13に重なる回動基片21と、クリップ部10の第1挟持片11と略同一面内でクリップ部10から離反する向きに延出する持出し部22と、持出し部22の延出端側で断熱材当接片16に相対する断熱材押え片23とが、側面視Z形に屈折して連続するように形成された部材である。この断熱材押え部20も、バネ弾性を有する薄鋼板を打抜き折曲するなどして形成されている。
【0022】
回動基片21は、正面から見た横幅及び高さが挟持片接続部13の横幅及び高さと略同寸になるように形成されている。持出し部22は、その片側縁がクリップ部10の片側縁に揃い、他側縁までの横幅がクリップ部10の横幅よりも小さくなるように形成されている。断熱材押え片23は、持出し部22に接続する側の一部分を除いて、正面から見た横幅がクリップ部10の横幅に揃い、その高さが断熱材当接片16の高さと略同寸になるように形成されている。そして、断熱材押え片23と断熱材当接片16との対向間隔D1が、厚手の梁下断熱材41の厚さに合致するように設定されている。
【0023】
断熱材押え部20の回動基片21は、クリップ部10の挟持片接続部13に一箇所のピン節点24を介して軸着されている。このピン節点24には、例えばポップリベット(ブラインドリベット)等が用いられる。これにより、断熱材押え部20は、ピン節点24を中心にして、クリップ部10に対し、挟持片接続部13に平行な面内で、適度の摩擦抵抗を以て回動し得るように保持される。
【0024】
ピン節点24は、挟持片接続部13及び回動基片21の横幅方向における中心よりも両者の端部に偏倚した位置、より好ましくは両者の端部に近接した位置に設けられている。したがって、図1(a)に示すように、断熱材押え片23が断熱材当接片16に相対する位置(正面から見て断熱材押え片23が断熱材当接片16に重なる位置)を基準として、断熱材押え部20を図示時計回りに90度ないし180度、回動させると、断熱材当接片16の正面側全体が開放されることになる。
【0025】
この断熱材固定金具1を用いて施工される鉄骨造建物の断熱構造は、図2に示すように、外周部分の柱材(図示せず)と梁材3とによって囲まれた躯体軸組の構面内に、屋内側へ寄せてボード状の梁下断熱材41を隙間なく建て込むことにより、躯体軸組と内壁下地との間に断熱ラインを形成するものである。図2において、符号61は外壁材、符号62は外壁材61を躯体に結合するために梁材3に結合されたブラケット、符号63は外壁材固定金具、符号43は躯体軸組の構面内の屋外側に充填された繊維系断熱材である。また、符号71及び72は、屋内側に架け渡された梁材(図示せず)に吊持されて天井下地を構成する野縁受け及び天井野縁であり、符号73は天井板である。また、符号74及び符号75は内壁下地及び石膏ボードである。
【0026】
断熱材固定金具1は、断熱材当接片16を下向きにして、H形鋼からなる梁材3のフランジ31に屋内側から取り付けられる。フランジ31にクリップ部10を挟持せしめ、フランジ31に形成された取付孔33に抜止片15を係合させることで、断熱材固定金具1が梁材3から容易に脱落しないように、また梁材3の材長方向にずれないように固定される。梁材3に取り付けられた断熱材固定金具1は、断熱材当接片16の正面が屋内側に開放されるように、断熱材押え部20を上方に回動させた状態で一旦、保持される。
【0027】
複数個の断熱材固定金具1が梁材3の材長方向に適宜間隔で取り付けられた後、梁材3の下方にボード状の梁下断熱材41が建て込まれる。梁下断熱材41は、その高さ寸法が梁材3の下階の床下地面(図示せず)から梁材3の下面までの高さに合致するように予め切寸されている。その梁下断熱材41の下端縁が下階の床下地面に位置決めされた後、梁下断熱材41が屋内側から建て起こされて、その屋外側の上端縁が梁材3の下方に突出する断熱材当接片16に押し当てられる。この断熱材当接片16によって、梁下断熱材41が屋外側に倒れることなく所定の位置に保持される。
【0028】
一般に、重量鉄骨を用いるラーメン構造の建物等においては、躯体構面の内側に配置されるブレースや間柱が少ないので、その構面内に断熱材41、43を建て込んだり充填したりする際の支持部材に困ることがある。しかし、このような断熱材当接片16を有する断熱材固定金具1を梁材3のフランジ31に取り付けることで、梁下断熱材41の位置決め及び保持を容易にすることができる。
【0029】
梁下断熱材41が位置決めされた状態で、断熱材押え部20を回動させ、断熱材押え片23を下向きにして梁下断熱材41の屋内側の上端縁に被せると、梁下断熱材41の屋内側への傾倒も阻止されて、梁下断熱材41が梁材3の直下に固定される。このとき、梁下断熱材41の屋内側の表面が梁材3のフランジ31の屋内側の側縁よりも屋内側へわずかに迫り出すように、断熱材固定金具1における断熱材当接片16と断熱材押え片23との対向間隔D1及び梁下断熱材41の厚さが設定されている。なお、例示形態では、断熱材押え部20の持出し部22が第1挟持片11と高さを揃えて屋内側に延出しているが、持出し部22の延出高さは、断熱材押え片23が梁下断熱材41の屋内側への傾倒を無理なく阻止し得る範囲内で、上下いずれかに多少ずれていても差し支えない。このようにして軸組構面内に梁下断熱材41を建て込んだ断熱構造によれば、地震その他の強い外力によって軸組構面が面内方向に変形したり揺動したりしても、軸組構面と梁下断熱材41との間に若干の遊びが生じるので、梁下断熱材41に割裂や変形が生じたり、こすれ音が発生したりすることを防ぎやすくなる。
【0030】
さらにこの断熱構造では、梁下断熱材41の上方にも断熱材が取り付けられる。例示形態では、梁材3を構成するH形鋼の上下のフランジ31とウェブ32とによって囲まれる凹部内に繊維系断熱材44が充填され、さらにその屋内側に重ねて、ボード状の梁横断熱材42が建て込まれている。梁横断熱材42は、その下端縁を、フランジ31の側縁よりも屋内側に迫り出した梁下断熱材41の上端縁に載せるようにして配置され、梁下断熱材41との当接箇所をテープ(図示せず)で封着するなどして固定される。なお、例示形態では、梁下断熱材41よりも梁横断熱材42のほうが屋内側に少し迫り出しているが、両断熱材41、42の屋内側の表面が面一に揃っていても構わない。
【0031】
こうして、鉄骨造建物における外周部分の躯体軸組の屋内側に、梁下断熱材41と梁横断熱材42とが切れ目なく連続する断熱ラインが形成される。梁下断熱材41及び梁横断熱材42の屋内側の表面を梁材3のフランジ31の側縁よりも屋内側へわずかに迫り出させることにより、梁材3のフランジ31が断熱ラインよりも屋内側に突出して熱橋になるのを防ぐことができる。この断熱ラインの屋内側には、気密、防湿、耐火等を目的とする適宜のフィルム材(図示せず)を張り重ねることもできる。そして、この断熱ラインから縁を切るようにして、屋内空間を囲む天井下地や内壁下地が設けられる。
【0032】
<第2実施形態>
図3は本願が開示する発明の第2実施形態に係る断熱材固定金具の構成を示し、図4は、その断熱材固定金具を用いて鉄骨造建物の外周部分の梁材周りに断熱材を固定した納まりを示している。この形態に係る断熱材固定金具1も前述の第1実施形態と同様に、梁材3のフランジ31の縁部を弾性的に挟持し得るクリップ部10と、前記クリップ部10に回動可能に連結された断熱材押え部20と、を具備している。基本的な構成は第1実施形態と共通するので、共通する部材・部位には第1実施形態と同一の符号を付して説明は省略し、相違点についてのみ説明する。
【0033】
この形態では、クリップ部10における断熱材当接片16が、第1実施形態よりも屋内側に設けられている。断熱材当接片16は、第1挟持片11の中間部分を上面視コ字形に切り起こして形成されている。したがって、断熱材当接片16の横幅は第1実施形態よりも小さくなるが、下方への突出高さは第1実施形態と略同寸である。この形態によれば、断熱材当接片16と断熱材押え片23との対向間隔D2が第1実施形態よりも小さくなるので、図4に示すように、梁材3の下方に薄手の梁下断熱材41を固定することができる。断熱構造に関するその他の構成は、図2に示した第1実施形態の構成と同様である。
【0034】
<第3実施形態>
図5は本願が開示する発明の第3実施形態に係る断熱材固定金具を用いて鉄骨造建物の外周部分の梁材周りに断熱材を固定した納まりを示している。この形態に係る断熱材固定金具1は、前述の第1実施形態に係る断熱材固定金具1の屋内側に、さらに別体の断熱材押え部20が追加的に連結されたものである。それ以外の構成は第1実施形態と共通するので、共通する部材・部位には第1実施形態と同一の符号を付して説明は省略し、相違点についてのみ説明する。
【0035】
屋内側に追加された断熱材押え部20は、第1実施形態の断熱材押え部20と同様に、回動基片21と持出し部22と断熱材押え片23とが側面視Z形に屈折して連続するように形成されている。そして、屋内側の断熱材押え部20の回動基片21が、屋外側の断熱材押え部20の断熱材押え片23に、ピン節点24を介して軸着されている。このピン節点24も、屋内側の正面から見て端部近傍に設けられている。
【0036】
二箇所のピン節点はそれぞれ独立しているので、追加された屋内側の断熱材押え部20は、屋外側の断熱材押え部20の回動姿勢には影響されず、独自の向きに回動可能になる。したがって、追加された屋内側の断熱材押え部20の断熱材押え片23を上向きにすることにより、梁横断熱材42の下端縁を支持することができる。つまり、屋内側の断熱材押え部20においては、梁横断熱材42の厚さに適合するように持出し部22の寸法が設定されている。この断熱構造によれば、梁下断熱材41と梁横断熱材42とが互いの横ずれを許容するように固定されるので、軸組構面の変形や揺動に対する応動性がさらに向上する。
【0037】
以上に説明したように、本願が開示する断熱材固定金具1を使用すれば、少なくとも一片のフランジ31を有する梁材3に対し、該フランジ31の面直方向に建て込まれるボード状の断熱材4を精度良く位置決めして、簡単に固定することができる。また、この断熱材固定金具1を使用して、外周部分に配置される梁材3の下方にボード状の梁下断熱材41を建て込み、その梁下断熱材41の屋内側の表面を、梁材3のフランジ31の側縁よりも屋内側へ迫り出させるとともに、梁材3の屋内側の側面にもボード状の梁横断熱材42を嵌め込んで、その屋内側の表面と梁下断熱材41の屋内側の表面とを隙間なく連続させることで、外周部分の躯体軸組と内壁下地との間に切れ目のない断熱ラインを効率よく施工することができる。その断熱ラインの屋内側に、気密、防湿、耐火等を目的とするフィルム材を張り重ねれば、鉄骨造建物の気密、防湿、耐火性能をさらに向上させることもできる。
【0038】
しかも、この断熱材固定金具は、例示したような梁材だけでなく、H形鋼や溝形鋼等からなる柱材のフランジにも取り付けることが可能である。すなわち、水平方向に間隔をあけて隣接する一対の柱材の各フランジに、この断熱材固定金具の縦横を置き換えて取り付ければ、両柱材間にボード状の柱間断熱材を隙間なく嵌め込んで容易に固定することができる。同様に、勾配を有する屋根構面の断熱構造にも適用可能である。また、断熱材だけでなく、同様のボード状に加工された吸音材や耐火被覆材等の建て込みにも利用することができる。
【0039】
なお、本願が開示する発明の技術的範囲は、例示した実施形態によって限定的に解釈されるべきものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて概念的に解釈されるべきものである。例示した断熱材固定金具および鉄骨造建物の断熱構造の構成は一例であり、本願が開示する発明の実施に際しては、特許請求の範囲において具体的に特定していない構成要素の詳細な形状、寸法、構造、材質、数量、他要素との結合形態、相対的な位置関係等を、例示形態と実質的に同等以上の作用効果が得られる範囲内で適宜、改変することができる。
【0040】
また、本明細書に開示した実施形態その他の事項は、以下の付記に示す技術的思想として把握することもできる。
(付記1)
少なくとも一片のフランジを有する形鋼材からなる構造材の前記フランジに取り付けられて、前記フランジの面直方向に建て込まれるボード状の断熱材を固定するための断熱材固定金具であって、
前記フランジの縁部を弾性的に挟持し得るように形成されたクリップ部と、前記クリップ部に連結された可動式の断熱材押え部と、を具備し、
前記クリップ部は、互いに相対する第1挟持片及び第2挟持片と、前記各挟持片の基端部同士を接続する挟持片接続部とが、側面視コ字形に屈折して連続するように形成され、
前記第1挟持片には、前記第2挟持片から離反する向きに断熱材当接片が突設されており、
前記断熱材押え部は、前記クリップ部の挟持片接続部に重なる回動基片と、前記クリップ部から離反する向きに延出する持出し部と、前記持出し部の延出端側で前記断熱材当接片に相対する断熱材押え片と、を備え、
前記クリップ部の挟持片接続部と前記断熱材押え部の回動基片とが一箇所のピン節点を介して軸着されることにより、前記断熱材押え部が前記クリップ部に対して前記挟持片接続部に平行な面内で回動し得るように形成された
ことを特徴とする断熱材固定金具。
(付記2)
付記1に記載された断熱材固定金具において、
前記ピン節点が、前記挟持片接続部及び前記回動基片の横幅方向における中心よりも両者の端部に偏倚した位置に設けられており、
前記断熱材押え片が前記断熱材当接片に相対する位置を基準として、前記断熱材押え部が所定の角度範囲内で回動されると、前記断熱材当接片の正面側全体が開放される
ことを特徴とする断熱材固定金具。
(付記3)
付記1または2に記載された断熱材固定金具において、
前記断熱材押え部の前記断熱材押え片に、さらに別体の断熱材押え部の回動基片が重ねられて軸着され、前記二つの断熱材押え部が互いに回動可能に保持される
ことを特徴とする断熱材固定金具。
(付記4)
鉄骨造建物の外周部分に配置された梁材の下側のフランジに、付記1または2に記載された断熱材固定金具が、前記クリップ部を前記フランジに屋内側から挟持せしめ、前記断熱材当接片及び前記断熱材押え片を下向きに突出させて取り付けられ、
前記梁材の下方にボード状の梁下断熱材が建て込まれて、
前記梁下断熱材の屋外側の上端縁が前記断熱材当接片に押し当てられるとともに、
前記梁下断熱材の屋内側の上端縁に前記断熱材押え片が被せられた
ことを特徴とする鉄骨造建物の断熱構造。
(付記5)
付記4に記載された鉄骨造建物の断熱構造において、
前記梁下断熱材は、屋内側の表面を前記梁材のフランジの屋内側の側縁よりも屋内側に迫り出した状態で前記梁材の下方に建て込まれるとともに、
前記梁下断熱材の上方に、前記梁材の屋内側の側面を被覆する梁横断熱材が建て込まれた
ことを特徴とする鉄骨造建物の断熱構造。
(付記6)
鉄骨造建物の外周部分に配置された梁材の下側のフランジに、付記3に記載された断熱材固定金具が、前記クリップ部を前記フランジに屋内側から挟持せしめ、前記断熱材当接片を下向きに突出させて取り付けられ、
前記梁材の下方にボード状の梁下断熱材が建て込まれて、
前記梁下断熱材の屋外側の上端縁が前記断熱材当接片に押し当てられるとともに、
前記梁下断熱材の屋内側の上端縁に、前記二つの断熱材押え部のうち屋外側に位置する断熱材押え部の断熱材押え片が被せられることにより、
前記梁下断熱材が、その屋内側の表面を前記梁材のフランジの屋内側の側縁よりも屋内側に迫り出した状態で前記梁材の下方に建て込まれるとともに、
前記梁下断熱材の上方に、前記梁材の屋内側の側面を被覆する梁横断熱材が建て込まれ、
前記梁横断熱材の屋内側の下端縁に、前記二つの断熱材押え部のうち屋内側に位置する断熱材押え部の断熱材押え片が被せられた
ことを特徴とする鉄骨造建物の断熱構造。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本願が開示する発明は、鉄骨造建物の断熱工法に幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 断熱材固定金具
10 クリップ部
11 第1挟持片
12 第2挟持片
13 挟持片接続部
14 迎え傾斜片
15 抜止片
16 断熱材当接片
20 断熱材押え部
21 回動基片
22 持出し部
23 断熱材押え片
24 ピン節点
3 梁材
31 フランジ
32 ウェブ
33 取付孔
41 梁下断熱材
42 梁横断熱材
43 繊維系断熱材
44 繊維系断熱材
61 外壁材
62 ブラケット
63 外壁材固定金具
71 野縁受け
72 天井野縁
73 天井板
74 内壁下地
75 石膏ボード
【要約】
【課題】梁材のフランジの面直方向にボード状の断熱材を効率よく固定することのできる断熱材固定金具と、その断熱材固定金具を用いた鉄骨造建物の断熱構造を提供する。
【解決手段】断熱材固定金具1は、フランジ31の縁部を挟持するクリップ部10と、クリップ部10に回動可能に軸着された断熱材押え部20と、を具備する。クリップ部10には断熱材当接片16が突設されている。断熱材押え部20は、回動基片と持出し部と断熱材押え片23とを備え、回動基片が一箇所のピン節点24を介してクリップ部10の正面に軸着される。断熱材押え片23を上向きにして梁材3の下方に梁下断熱材41を建て込み、梁下断熱材41の屋外側の上端縁を断熱材当接片16に押し当て、梁下断熱材41の屋内側の上端縁に断熱材押え片23を被せることで、梁下断熱材41が梁材3の下方に建て込まれる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5