(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】エステル化合物およびアセタール化合物の製造方法並びにBoc基の切断方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/08 20060101AFI20241211BHJP
C07C 69/14 20060101ALI20241211BHJP
C07C 69/22 20060101ALI20241211BHJP
C07C 69/63 20060101ALI20241211BHJP
C07C 69/78 20060101ALI20241211BHJP
C07C 67/03 20060101ALI20241211BHJP
C07C 229/36 20060101ALI20241211BHJP
C07C 227/14 20060101ALI20241211BHJP
C07C 69/44 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/14
C07C69/22
C07C69/63
C07C69/78
C07C67/03
C07C229/36
C07C227/14
C07C69/44
(21)【出願番号】P 2020124560
(22)【出願日】2020-07-21
【審査請求日】2023-06-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 明彦
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-080420(JP,A)
【文献】特開2016-160225(JP,A)
【文献】国際公開第2020/050368(WO,A1)
【文献】特開2020-083765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル化合物を製造するための方法であって、
ジクロロメタン
、カルボン酸化合物、およびアルコール化合物を含む組成物に、15体積%以上、100体積%以下の酸素を含む気体の気流下または前記気体をバブリングにより吹き込みつつ、波長が180nm以上、280nm以下のUV-Cを含み、強度が1mW/cm
2以上、50mW/cm
2以下の高エネルギー光を0.5時間以上、10時間以下照射してジクロロメタンを分解する工
程を含み、
前記カルボン酸化合物と前記アルコール化合物との組み合わせが、下記カルボン酸化合物(II
1)と下記アルコール化合物(I
1)、下記カルボン酸化合物(II
2)と下記アルコール化合物(I
2)、または下記カルボン酸化合物(II
1)と下記アルコール化合物(I
3)であることを特徴とする方法。
【化1】
[式中、
R
1とR
2は
、独立して
、置換基αで置換されていてもよいC
1-10
一価鎖状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
3-10
一価環状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
6-15
一価芳香族炭化水素基、これら2以上、5以下の基が結合した一価有機基、または式R
22
-[-X-R
21
-]
r
-(XはOまたはSを示し、Oが好ましく、R
21
はC
2-8
アルカンジイル基を示し、R
22
はC
1-6
アルキル基を示し、rは1以上、180以下の整数を示す。)で表される一価有機基を示
し、
置換基αは、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示し、
置換基βは、C
1-6
アルキル基、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示す。]
【化2】
[式中、
R
1とR
2は
、独立して
、置換基αで置換されていてもよいC
1-10
二価鎖状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
3-10
二価環状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
6-15
二価芳香族炭化水素基、これら2以上、5以下の基が結合した二価有機基、または式-[-X-R
21
-]
r
-(XはOまたはSを示し、Oが好ましく、R
21
はC
2-8
アルカンジイル基を示し、rは1以上、180以下の整数を示す。)で表される二価有機基を示
し、
置換基αは、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示し、
置換基βは、C
1-6
アルキル基、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示す。]
【化3】
[式中、
R
1は
、置換基αで置換されていてもよいC
1-10
三価鎖状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
3-10
三価環状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
6-15
三価芳香族炭化水素基、またはこれら2以上、5以下の基が結合した三価有機基を示し、
R
2は
、置換基αで置換されていてもよいC
1-10
一価鎖状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
3-10
一価環状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
6-15
一価芳香族炭化水素基、これら2以上、5以下の基が結合した一価有機基、または式R
22
-[-X-R
21
-]
r
-(XはOまたはSを示し、Oが好ましく、R
21
はC
2-8
アルカンジイル基を示し、R
22
はC
1-6
アルキル基を示し、rは1以上、180以下の整数を示す。)で表される一価有機基を示
し、
置換基αは、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示し、
置換基βは、C
1-6
アルキル基、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示す。]
【請求項2】
エステル化合物を製造するための方法であって、
アルコール化合物のジクロロメタン溶液に、15体積%以上、100体積%以下の酸素を含む気体の気流下または前記気体をバブリングにより吹き込みつつ、波長が180nm以上、280nm以下のUV-Cを含み、強度が1mW/cm
2以上、50mW/cm
2以下の高エネルギー光を0.5時間以上、10時間以下照射してジクロロメタンを分解する工程、および、
ジクロロメタンの分解物を含む前記ジクロロメタン溶液に、カルボン酸化合物を添加して反応させる工程を含み、
前記カルボン酸化合物と前記アルコール化合物との組み合わせが、下記カルボン酸化合物(II
1)と下記アルコール化合物(I
1)、下記カルボン酸化合物(II
2)と下記アルコール化合物(I
2)、または下記カルボン酸化合物(II
1)と下記アルコール化合物(I
3)であることを特徴とする方法。
【化4】
[式中、
R
1とR
2は
、独立して
、置換基αで置換されていてもよいC
1-10
一価鎖状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
3-10
一価環状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
6-15
一価芳香族炭化水素基、これら2以上、5以下の基が結合した一価有機基、または式R
22
-[-X-R
21
-]
r
-(XはOまたはSを示し、Oが好ましく、R
21
はC
2-8
アルカンジイル基を示し、R
22
はC
1-6
アルキル基を示し、rは1以上、180以下の整数を示す。)で表される一価有機基を示
し、
置換基αは、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示し、
置換基βは、C
1-6
アルキル基、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示す。]
【化5】
[式中、
R
1とR
2は
、独立して
、置換基αで置換されていてもよいC
1-10
二価鎖状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
3-10
二価環状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
6-15
二価芳香族炭化水素基、これら2以上、5以下の基が結合した二価有機基、または式-[-X-R
21
-]
r
-(XはOまたはSを示し、Oが好ましく、R
21
はC
2-8
アルカンジイル基を示し、rは1以上、180以下の整数を示す。)で表される二価有機基を示
し、
置換基αは、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示し、
置換基βは、C
1-6
アルキル基、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示す。]
【化6】
[式中、
R
1は
、置換基αで置換されていてもよいC
1-10
三価鎖状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
3-10
三価環状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
6-15
三価芳香族炭化水素基、またはこれら2以上、5以下の基が結合した三価有機基を示し、
R
2は
、置換基αで置換されていてもよいC
1-10
一価鎖状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
3-10
一価環状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
6-15
一価芳香族炭化水素基、これら2以上、5以下の基が結合した一価有機基、または式R
22
-[-X-R
21
-]
r
-(XはOまたはSを示し、Oが好ましく、R
21
はC
2-8
アルカンジイル基を示し、R
22
はC
1-6
アルキル基を示し、rは1以上、180以下の整数を示す。)で表される一価有機基を示
し、
置換基αは、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示し、
置換基βは、C
1-6
アルキル基、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示す。]
【請求項3】
エステル化合物を製造するための方法であって、
カルボン酸化合物およびアルコール化合物のジクロロメタン溶液に、15体積%以上、100体積%以下の酸素を含む気体の気流下または前記気体をバブリングにより吹き込みつつ、波長が180nm以上、280nm以下のUV-Cを含み、強度が1mW/cm
2以上、50mW/cm
2以下の高エネルギー光を0.5時間以上、10時間以下照射してジクロロメタンを分解する工程を含み、
前記カルボン酸化合物と前記アルコール化合物との組み合わせが、下記カルボン酸化合物(II
1)と下記アルコール化合物(I
1)、下記カルボン酸化合物(II
2)と下記アルコール化合物(I
2)、または下記カルボン酸化合物(II
1)と下記アルコール化合物(I
3)であることを特徴とする方法。
【化7】
[式中、
R
1とR
2は
、独立して
、置換基αで置換されていてもよいC
1-10
一価鎖状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
3-10
一価環状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
6-15
一価芳香族炭化水素基、これら2以上、5以下の基が結合した一価有機基、または式R
22
-[-X-R
21
-]
r
-(XはOまたはSを示し、Oが好ましく、R
21
はC
2-8
アルカンジイル基を示し、R
22
はC
1-6
アルキル基を示し、rは1以上、180以下の整数を示す。)で表される一価有機基を示
し、
置換基αは、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示し、
置換基βは、C
1-6
アルキル基、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示す。]
【化8】
[式中、
R
1とR
2は
、独立して
、置換基αで置換されていてもよいC
1-10
二価鎖状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
3-10
二価環状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
6-15
二価芳香族炭化水素基、これら2以上、5以下の基が結合した二価有機基、または式-[-X-R
21
-]
r
-(XはOまたはSを示し、Oが好ましく、R
21
はC
2-8
アルカンジイル基を示し、rは1以上、180以下の整数を示す。)で表される二価有機基を示
し、
置換基αは、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示し、
置換基βは、C
1-6
アルキル基、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示す。]
【化9】
[式中、
R
1は
、置換基αで置換されていてもよいC
1-10
三価鎖状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
3-10
三価環状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
6-15
三価芳香族炭化水素基、またはこれら2以上、5以下の基が結合した三価有機基を示し、
R
2は
、置換基αで置換されていてもよいC
1-10
一価鎖状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
3-10
一価環状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
6-15
一価芳香族炭化水素基、これら2以上、5以下の基が結合した一価有機基、または式R
22
-[-X-R
21
-]
r
-(XはOまたはSを示し、Oが好ましく、R
21
はC
2-8
アルカンジイル基を示し、R
22
はC
1-6
アルキル基を示し、rは1以上、180以下の整数を示す。)で表される一価有機基を示
し、
置換基αは、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示し、
置換基βは、C
1-6
アルキル基、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示す。]
【請求項4】
エステル化合物を製造するための方法であって、
前記エステル化合物がカルボン酸とアルコールAとのエステル化合物であり、
ジクロロメタン
、前記アルコールAとは異なるアルコールBのエステル化合物、および前記アルコールAを含む組成物に、15体積%以上、100体積%以下の酸素を含む気体の気流下または前記気体をバブリングにより吹き込みつつ、波長が180nm以上、280nm以下のUV-Cを含み、強度が1mW/cm
2以上、50mW/cm
2以下の高エネルギー光を0.5時間以上、10時間以下照射してジクロロメタンを分解する工
程を含み、
前記アルコールBのエステル化合物と前記アルコールAとの組み合わせが、下記p価エステル化合物(III
1)と下記一価アルコール化合物(IV
1)、または下記一価エステル化合物(III
2)と下記q価アルコール化合物(IV
2)であることを特徴とする方法。
【化10】
[式中、
R
3は
、置換基αで置換されていてもよいC
1-10
p価鎖状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
3-10
p価環状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
6-15
p価芳香族炭化水素基、またはこれら2以上、5以下の基が結合したp
価有機基を示し、
R
4~R
7は
、独立して
、置換基αで置換されていてもよいC
1-10
一価鎖状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
3-10
一価環状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
6-15
一価芳香族炭化水素基、これら2以上、5以下の基が結合した一価有機基、または式R
22
-[-X-R
21
-]
r
-(XはOまたはSを示し、Oが好ましく、R
21
はC
2-8
アルカンジイル基を示し、R
22
はC
1-6
アルキル基を示し、rは1以上、180以下の整数を示す。)で表される一価有機基を示し、
R
8は
、置換基αで置換されていてもよいC
1-10
q価鎖状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
3-10
q価環状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
6-15
q価芳香族炭化水素基、またはこれら2以上、5以下の基が結合したq
価有機基を示し、
置換基αは、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示し、
置換基βは、C
1-6
アルキル基、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示し、
pは、1以上、5以下の整数を示し、
qは、1以上、5以下の整数を示し、
但し、R
4とR
5は同一の有機基ではなく、R
7とR
8は同一の有機基ではない。]
【請求項5】
アセタール化合物を製造するための方法であって、
ジクロロメタン
およびアルコール化合物を含む組成物に、15体積%以上、100体積%以下の酸素を含む気体の気流下または前記気体をバブリングにより吹き込みつつ、波長が180nm以上、280nm以下のUV-Cを含み、強度が1mW/cm
2以上、50mW/cm
2以下の高エネルギー光を0.5時間以上、10時間以下照射してジクロロメタンを分解する工程、および、
ジクロロメタンの分解物の存在下、カルボニル化合
物を反応させる工程を含み、
前記カルボニル化合物と前記アルコール化合物との組み合わせが、下記カルボニル化合物(VI)と下記アルコール化合物(VII)、または下記カルボニル化合物(VI)と下記1,2-エタンジオールもしくは1,3-プロパンジオールであることを特徴とする方法。
【化11】
[式中、
R
9~R
11は
、独立して
、置換基αで置換されていてもよいC
1-10
一価鎖状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
3-10
一価環状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
6-15
一価芳香族炭化水素基、これら2以上、5以下の基が結合した一価有機基、または式R
22
-[-X-R
21
-]
r
-(XはOまたはSを示し、Oが好ましく、R
21
はC
2-8
アルカンジイル基を示し、R
22
はC
1-6
アルキル基を示し、rは1以上、180以下の整数を示す。)で表される一価有機基を示し、
置換基αは、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示し、
置換基βは、C
1-6
アルキル基、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示し、
tは、2または3を示す。]
【請求項6】
Boc基により保護されているアミノ基および/または水酸基を有する化合物からBoc基を切断して脱保護するための方法であって、
ジクロロメタン
、並びに前記Boc基により保護されているアミノ基を有する化合物を含む組成物に、15体積%以上、100体積%以下の酸素を含む気体の気流下または前記気体をバブリングにより吹き込みつつ、波長が180nm以上、280nm以下のUV-Cを含み、強度が1mW/cm
2以上、50mW/cm
2以下の高エネルギー光を0.5時間以上、10時間以下照射してジクロロメタンを分解する工
程を含み、
前記Boc基により保護されているアミノ基および/または水酸基を有する化合物が、下記化合物(IX)、下記化合物(XI)または下記化合物(XIII)であることを特徴とする方法。
【化12】
[式中、
R
12とR
13は
、独立して
、置換基αで置換されていてもよいC
1-10
一価鎖状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
3-10
一価環状脂肪族炭化水素基、置換基βで置換されていてもよいC
6-15
一価芳香族炭化水素基、これら2以上、5以下の基が結合した一価有機基、または式R
22
-[-X-R
21
-]
r
-(XはOまたはSを示し、Oが好ましく、R
21
はC
2-8
アルカンジイル基を示し、R
22
はC
1-6
アルキル基を示し、rは1以上、180以下の整数を示す。)で表される一価有機基を示し、
置換基αは、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示し、
置換基βは、C
1-6
アルキル基、C
1-6
アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C
1-6
アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基を示し、
R
14はアミノ酸側鎖基を示し、
R
15は、OH、OR
16(式中、R
16は、カルボキシ基の保護基または担体を示す)、または-[-NH-CHR
17-C(=O)-]
s-R
18(式中、R
17はアミノ酸側鎖を示し、R
18は、OH、またはOR
19(式中、R
19は、カルボキシ基の保護基または担体を示す)を示し、sは1以上の整数を示し、sが2以上の整数の場合、複数のR
17は互いに同一であっても異なってもよい)を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化水素の有機溶媒溶液製品や塩化水素ガスを使うことなくアルコール化合物とカルボキシ化合物から、またはエステル交換反応によりエステル化合物を製造する方法、塩化水素の有機溶媒溶液製品や塩化水素ガスを使うことなくアセタール化合物を製造する方法、および、塩化水素の有機溶媒溶液製品や塩化水素ガスを使うことなくBoc基を切断して脱保護する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エステル化合物は、古典的には、酸触媒の存在下、アルコール化合物とカルボキシ化合物を含む組成物を加熱するフィッシャーエステル合成反応により合成される。当該反応において、酸触媒としては水を含む塩酸が用いられることがある。しかし当該反応は、エステル化合物の加水分解反応も同時に起こる平衡反応である。よって、エステル化合物の収率を高めるためには、反応液中の水の量を低減すべく、酸触媒としては塩化水素の有機溶媒溶液が用いられることが多い。エステル交換反応によりエステル化合物を合成する場合でも同様である。
【0003】
また、カルボニル基は求電子性を示す一方で、カルボニル基を有する化合物にアルコール化合物を反応させて得られるアセタール化合物は求電子性が低く且つ求核性も低い。よって、酸触媒の存在下、カルボニル化合物とアルコール化合物を反応させてカルボニル基を保護することがある。逆に、1,2-ジオールや1,3-ジオールの水酸基をカルボニル化合物により保護することもある。この際、アセタール化合物は水の存在によりヘミアセタール化合物となり、ヘミアセタール化合物は一般的に不安定でアセタール化合物またはカルボニル化合物に戻るため、同じく酸触媒としては塩化水素の有機溶媒溶液が用いられることが多い。
【0004】
更に、Boc基(t-ブトキシカルボニル基)は、アミノ基や水酸基の保護基として汎用されている。特に、Boc基は、酸性条件下で加水分解されるカルボキシ基のエステル型保護基を切断することなく、水の非存在下でも強酸性条件下で切断されるため、ペプチド合成に有用である。Boc基の切断にはトリフルオロ酢酸も用いられるが、トリフルオロ酢酸は毒性が高い。特にトリフルオロ酢酸は水性動物に対する毒性が高いため、環境中への放出が禁じられている。よって、Boc基の切断にも、塩化水素の有機溶媒溶液が用いられることが多い。
【0005】
しかし、市販の塩化水素-有機溶媒溶液製品は高価である。それに対して、塩化水素ガスを用いることも考えられるが、塩化水素ガスは高い毒性を持つガスであるため、その輸送、保管、使用に関して厳格な規制が存在する。例えば、塩化水素ガスを日本の法律に定められた条件で、環境中に放出することなく安全に使用するためには、ガスボンベのシリンダーキャビネット、耐酸性のドラフトチャンバー、湿式スクラバー、事故の際のためのスプリンクラー等、専用付帯設備が必要となる。
【0006】
ところで本発明者は、主にクロロホルムに酸素存在下で高エネルギー光を照射してホスゲンを生成させ、安全に利用する技術を開発している(特許文献1等)。また、本発明者は、ジブロモメタンに酸素存在下で高エネルギー光を照射した後、アニソールを添加して、4-ブロモアニソールが得られることを明らかにしている(特許文献1)。ベンゼン環へのブロモ基の付加反応では主に臭素(Br2)が用いられるため、この反応ではジブロモメタンが分解して臭素が発生していると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、エステル化合物およびアセタール化合物の合成やBoc基の切断には塩化水素-有機溶媒溶液が主に用いられているが、塩化水素-有機溶媒溶液製品は高価であり、また、塩化水素ガスの使用も難しい。
そこで本発明は、塩化水素の有機溶媒溶液製品や塩化水素ガスを使うことなくアルコール化合物とカルボキシ化合物から、またはエステル交換反応によりエステル化合物を製造する方法、塩化水素の有機溶媒溶液製品や塩化水素ガスを使うことなくアセタール化合物を製造する方法、および、塩化水素の有機溶媒溶液製品や塩化水素ガスを使うことなくBoc基を切断して脱保護する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、ジクロロメタンに酸素存在下で高エネルギー光を照射して得られるジクロロメタンの分解物を用いれば、塩化水素-有機溶媒溶液や塩化水素ガスを用いる場合と同様にエステル化合物やアセタール化合物を合成できたりBoc基を切断できることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0010】
[1] エステル化合物を製造するための方法であって、
ジクロロメタンに酸素存在下で高エネルギー光を照射してジクロロメタンを分解する工程、および、
ジクロロメタンの分解物の存在下、カルボン酸化合物とアルコール化合物を反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
[2] ジクロロメタンと前記アルコール化合物を含む組成物に酸素存在下で高エネルギー光を照射してジクロロメタンを分解した後、前記カルボン酸化合物を添加する上記[1]に記載の方法。
[3] ジクロロメタン、前記カルボン酸化合物および前記アルコール化合物を含む組成物に酸素存在下で高エネルギー光を照射する上記[1]に記載の方法。
【0011】
[4] エステル化合物を製造するための方法であって、
前記エステル化合物がカルボン酸とアルコールAとのエステル化合物であり、
ジクロロメタンに酸素存在下で高エネルギー光を照射してジクロロメタンを分解する工程、および、
ジクロロメタンの分解物の存在下、アルコールAとは異なるアルコールBのエステル化合物と、アルコールAとを反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
[5] ジクロロメタン、前記アルコールBのエステル化合物、および前記アルコールAを含む組成物に酸素存在下で高エネルギー光を照射する上記[4]に記載の方法。
【0012】
[6] アセタール化合物を製造するための方法であって、
ジクロロメタンに酸素存在下で高エネルギー光を照射してジクロロメタンを分解する工程、および、
ジクロロメタンの分解物の存在下、カルボニル化合物とアルコール化合物を反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
【0013】
[7] Boc基により保護されているアミノ基および/または水酸基を有する化合物からBoc基を切断して脱保護するための方法であって、
ジクロロメタンに酸素存在下で高エネルギー光を照射してジクロロメタンを分解する工程、および、
ジクロロメタンの分解物の存在下、前記化合物からBoc基を切断して脱保護する工程を含むことを特徴とする方法。
【0014】
[8] 前記高エネルギー光が180nm以上、280nm以下の波長の光を含む上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明方法によれば、塩化水素-有機溶媒溶液や塩化水素ガスを用いなくても、エステル化合物およびアセタール化合物の合成やBoc基の切断など、塩化水素-有機溶媒溶液や塩化水素ガスを用いた場合と同様の反応を行うことができる。また、本発明方法で用いるジクロロメタンの分解物は、ジクロロメタンに酸素存在下で高エネルギー光を照射するという非常に簡便な条件で安全かつ容易に得られる。よって本発明は、高価な塩化水素-有機溶媒溶液や危険な塩化水素ガスを用いる反応の代替方法として、産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に用いられる反応装置の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明では、ジクロロメタンに酸素存在下で高エネルギー光を照射してジクロロメタンを分解する。本発明者は、これまでクロロホルムに酸素存在下で高エネルギー光を照射してクロロホルムを分解して主にホスゲンを発生させ、カーボネート化合物などの製造に利用してきた。それに対して本発明では、カルボン酸化合物とアルコール化合物の共存下で本工程を行うと主生成物としてエステル化合物が得られ、カーボネート化合物の生成は確認されないか或いはほとんど確認されないため、ホスゲンは生成しないか或いはほとんど生成していない。また、本発明によれば、酸触媒で促進されるエステル化反応、アセタール化反応やBocの切断反応が促進されるため、ジクロロメタンが分解されて塩化水素が生成していると考えられるが、ジクロロメタンの分解物がいかなる化合物であるかは必ずしも明らかでない。
【0018】
酸素源としては、空気、精製された酸素ガスが挙げられる。精製された酸素ガスは、窒素ガスやアルゴン等の不活性ガスと混合してもよい。酸素源は、コストや調製容易の観点から、空気が好ましい。光照射によりジクロロメタンの分解効率を高める観点からは、酸素源中の酸素含有率は、15体積%以上、100体積%以下が好ましい。なお、酸素含有率100体積%の酸素ガスを使用する場合であっても、反応系内への酸素流量を調節して酸素含有率を前記範囲内に制御してもよい。酸素を含む気体の供給方法は、特に限定されず、流量調整器を取り付けた酸素ボンベから反応系内に供給してもよく、酸素発生装置から反応系内に供給してもよい。
【0019】
なお、「酸素存在下」とは、ジクロロメタン等が酸素と接している状態か、ジクロロメタンを含む組成物中に酸素が存在する状態のいずれであってもよい。従って、本発明に係る反応は、酸素を含む気体の気流下で行ってもよいが、反応収率を高める観点からは、酸素を含む気体はバブリングによりジクロロメタンまたはジクロロメタンを含む組成物中へ供給することが好ましい。
【0020】
酸素を含む気体の量は、ジクロロメタンの量や、反応容器の形状などに応じて適宜決定され、反応容器中に存在するジクロロメタンに対する、反応容器へ供給する1分あたりの気体の量は、5容量倍以上が好ましい。当該量は、25容量倍以上がより好ましく、50容量倍以上がよりさらに好ましい。当該量の上限は、特に制限されないが、500容量倍以下が好ましく、250容量倍以下がより好ましく、150容量倍以下が特に好ましい。また、反応容器中に存在するジクロロメタンに対する、反応容器へ供給する1分あたりの酸素の量は、5容量倍以上、25容量倍以下が好ましい。気体の流量が多過ぎる場合には、ジクロロメタンが揮発する場合があり、少な過ぎると反応が進行しにくくなる場合がある。酸素の供給速度としては、例えば、0.1L/分以上、10L/分以下とすることができる。
【0021】
ジクロロメタンまたはジクロロメタンを含む組成物に照射する高エネルギー光としては、短波長光を含む光が好ましく、紫外線を含む光がより好ましく、より詳細には180nm以上、500nm以下の波長の光を含む光、およびピーク波長が180nm以上、500nm以下に含まれる光が好ましい。なお、高エネルギー光の波長は適宜決定すればよいが、400nm以下がより好ましく、300nm以下がよりさらに好ましく、ピーク波長がこれら範囲に含まれる光も好ましい。照射光に前記波長範囲の光が含まれている場合には、ジクロロメタンを効率良く酸化的光分解できる。例えば、波長280nm以上、315nm以下のUV-Bおよび/または波長180nm以上、280nm以下のUV-Cを含む光を用いることができ、波長180nm以上、280nm以下のUV-Cを含む光を用いることが好ましく、ピーク波長がこれら範囲に含まれる光も好ましい。
【0022】
光照射の手段は、前記波長の光を照射できるものである限り特に限定されないが、このような波長範囲の光を波長域に含む光源としては、例えば、太陽光、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ等が挙げられる。反応効率やコストの点から、低圧水銀ランプが好ましく用いられる。
【0023】
照射光の強度や照射時間などの条件は、出発原料の種類や使用量などによって適宜設定すればよいが、例えば、光源からジクロロメタンまたはジクロロメタンを含む組成物の最短距離位置における所望の光の強度としては、1mW/cm2以上、50mW/cm2以下が好ましい。光の照射時間としては、0.5時間以上、10時間以下が好ましい。当該照射時間は1時間以上がより好ましく、2時間以上がより更に好ましく、また、6時間以下がより好ましく、4時間以下がより更に好ましい。光照射の態様も特に限定されず、反応開始から終了まで連続して光を照射する態様、光照射と光非照射とを交互に繰り返す態様、反応開始から所定の時間のみ光を照射する態様など、いずれの態様も採用できる。光照射と光非照射とを交互に繰り返す場合には、ジクロロメタンの分解と、ジクロロメタン分解物により促進される反応が交互に行われることにより、反応が良好に促進される可能性がある。また、光源とハロゲン化メタンとの最短距離としては、1m以下が好ましく、50cm以下がより好ましく、10cm以下または5cm以下がより更に好ましい。当該最短距離の下限は特に制限されないが、0cm、即ち、光源をジクロロメタンまたはジクロロメタンを含む組成物中に浸漬してもよい。
【0024】
反応時の温度は適宜調整すればよいが、例えば0℃以上、50℃以下とすることができる。当該温度は、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、また、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。
【0025】
本発明方法に使用できる反応装置としては、反応容器に高エネルギー光照射手段を備えたものが挙げられる。
図1に、本発明方法に使用できる反応装置の一態様を示す。
図1に示す反応装置は、反応容器1内に光照射手段2を有し、反応容器が温度調整のための水浴3に浸漬されているものである。反応容器1内に、少なくともジクロロメタンを添加し、当該反応容器1内に少なくとも酸素を含有する気体を供給または上記混合物に酸素を含有する気体を反応液中にバブリングする。高エネルギー光照射手段2により反応液に高エネルギー光を照射することにより反応を行う。高エネルギー光照射手段2は、ジクロロメタンが分解されて発生する酸などによる腐食を防ぐため、ガラス製などのジャケット4で被覆することが好ましい。反応液の温度は、水浴3により一定または略一定に制御することが好ましい。また、反応液は、攪拌子5により攪拌してもよい。反応は発熱を伴うことが多いので、反応容器に冷却管6を備え付けることが好ましい。生成したジクロロメタン分解物が熱により気化しても、冷却管6で液化して反応液に再循環することが可能になる。更に、過剰なジクロロメタンやその分解物が反応系外へ漏出することを抑制するために、反応容器1から排出される気体はジクロロメタンやその分解物を捕捉するためのトラップへ導入することが好ましい。
【0026】
アルコール化合物は常温常圧下で液体であり溶媒として用い得るものがあるので、ジクロロメタンの分解工程は、アルコール化合物の共存下で行ってもよい。当該アルコール化合物としては、例えば、式R1(OH)m(式中、R1はm価の有機基を示し、mは、1以上、5以下の整数を示す。)で表されるアルコール化合物(I)を用いることができる。
【0027】
アルコール化合物(I)中のR1は、m価の有機基を示す。以下、一価の有機基を代表的に説明する。R1の一価有機基としては、例えば、C1-10一価鎖状脂肪族炭化水素基、C3-10一価環状脂肪族炭化水素基、C6-15一価芳香族炭化水素基、およびこれら2以上、5以下の基が結合した一価有機基が挙げられる。
【0028】
「C1-10一価鎖状脂肪族炭化水素基」は、炭素数1以上、10以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和または不飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えばC1-10一価鎖状脂肪族炭化水素基としては、C1-10アルキル基、C2-10アルケニル基、およびC2-10アルキニル基を挙げることができる。
【0029】
C1-10アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、2,2-ジメチルエチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-デシル等である。好ましくはC1-8アルキル基またはC1-6アルキル基であり、より好ましくはC1-4アルキル基またはC1-2アルキル基であり、より更に好ましくはメチルである。
【0030】
C2-10アルケニル基としては、例えば、エテニル(ビニル)、1-プロペニル、2-プロペニル(アリル)、ブテニル、ヘキセニル、オクテニル、デセニル等である。好ましくはC2-8アルケニル基であり、より好ましくはC2-6アルケニル基またはC2-4アルケニル基であり、より更に好ましくはエテニル(ビニル)または2-プロペニル(アリル)である。また、C2-10アルケニル基を有する一価アルコール化合物としては、例えば、ロジノール、ゲラニオール、ネロール、リナロール、ゲラニオールが挙げられる。
【0031】
C2-10アルキニル基としては、例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ヘキシニル、オクチニル、ペンタデシニル等である。好ましくはC2-8アルキニル基であり、より好ましくはC2-6アルキニル基またはC2-4アルキニル基である。
【0032】
「C3-10一価環状脂肪族炭化水素基」は、炭素数1以上、10以下の環状の一価飽和または不飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、C3-10シクロアルキル基、C3-10シクロアルケニル基、およびC3-10シクロアルキニル基を挙げることができる。C3-10シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、アダマンチルが挙げられ、C3-10シクロアルケニル基としては,例えば、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセンが挙げられる。
【0033】
「C6-15一価芳香族炭化水素基」とは、炭素数が6以上、15以下の一価芳香族炭化水素基をいう。例えば、フェニル、インデニル、ナフチル、ビフェニル、フェナレニル、フェナントレニル、アントラセニル等であり、好ましくはC6-12一価芳香族炭化水素基であり、より好ましくはフェニルである。
【0034】
C1-10一価鎖状脂肪族炭化水素基、C3-10一価環状脂肪族炭化水素基、およびC6-15一価芳香族炭化水素基から選択される2以上、5以下の基が結合した一価有機基としては、例えば、C3-10一価環状脂肪族炭化水素基-C1-10一価鎖状脂肪族炭化水素基、C1-10一価鎖状脂肪族炭化水素基-C3-10一価環状脂肪族炭化水素基、C6-15一価芳香族炭化水素基-C1-10一価鎖状脂肪族炭化水素基、C1-10一価鎖状脂肪族炭化水素基-C6-15一価芳香族炭化水素基、C1-10一価鎖状脂肪族炭化水素基-C3-10一価環状脂肪族炭化水素基-C1-10一価鎖状脂肪族炭化水素基、C3-10一価環状脂肪族炭化水素基-C1-10一価鎖状脂肪族炭化水素基-C3-10一価環状脂肪族炭化水素基、およびC1-10一価鎖状脂肪族炭化水素基-C6-15一価芳香族炭化水素基-C1-10一価鎖状脂肪族炭化水素基が挙げられる。
【0035】
アルコール化合物(I)中の前記一価有機基は、置換基で置換されていてもよい。C1-10一価鎖状脂肪族炭化水素基の置換基αとしては、例えば、C1-6アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基(-O-)、チオエーテル基(-S-)、カルボニル基(-C(=O)-)、およびトリ(C1-6アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基が挙げられ、C3-10一価環状脂肪族炭化水素基の置換基βとしては、例えば、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、およびトリ(C1-6アルキル)シリル基から選択される1以上の置換基が挙げられ、C6-15一価芳香族炭化水素基の置換基γとしては、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、およびハロゲノ基から選択される1以上の置換基が挙げられる。なお、エーテル基、チオエーテル基、およびカルボニル基は、炭化水素鎖の炭素-炭素間に入り込む形で置換する。また、トリ(C1-6アルキル)シリル基としては、例えばトリメチルシリル基が挙げられる。
【0036】
「C1-6アルキル基」は、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル等である。好ましくはC1-4アルキル基であり、より好ましくはC1-2アルキル基であり、最も好ましくはメチルである。
【0037】
「C1-6アルコキシ基」とは、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の飽和脂肪族炭化水素オキシ基をいう。例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、t-ブトキシ、n-ペントキシ、n-ヘキソキシ等であり、好ましくはC1-4アルコキシ基であり、より好ましくはC1-2アルコキシ基である。
【0038】
ハロゲノ基としては、フルオロ、クロロ、ブロモ、およびヨードから選択される1以上のハロゲノ基が挙げられる。
【0039】
その他、アルコール化合物(I)中のR1の一価有機基としては、式R22-[-X-R21-]r-(XはOまたはSを示し、Oが好ましく、R21はC2-8アルカンジイル基を示し、R22はC1-6アルキル基を示し、rは1以上、180以下の整数を示す。)で表される一価有機基が挙げられる。
【0040】
R21としては、エチレン基(-CH2CH2-)、プロピレン基[-CH(CH3)CH2-または-CH2CH(CH3)-]、およびテトラメチレン基(-CH2CH2CH2CH2-)が挙げられる。
【0041】
rとしては、5以上が好ましく、10以上がより好ましく、20以上がより更に好ましく、また、160以下が好ましく、150以下がより好ましい。
【0042】
アルコール化合物(I)中のmが2以上である場合には、上記一価有機基はm価有機基に読み替えるものとする。例えば、mが2である場合、C1-10アルキル基はC1-10アルカンジイル基に、mが3である場合、C1-10アルキル基はC1-10アルカントリイル基に読み替えられる。式R22-[-X-R21-]r-は、mが2である場合、式-[-X-R21-]r-とすることができる。
【0043】
mが2であるアルコール化合物(I)としては、例えば、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリカーボネートジオール等のグリコール化合物;カテコール、レゾルシノール等のジヒドロキシベンゼン化合物;4,6-ジヒドロキシ-2-メチルピリミジン、3,6-ジヒドロキシ-4-メチルピリダジンなどのジヒドロキシヘテロアリール化合物;ビスフェノールA、ビスフェノールAP、ビスフェノールB、ビスフェノールBP、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールTMC、ビスフェノールZ等のビスフェノール化合物;イソソルビド、イソマンニド等の糖アルコール脱水物が挙げられる。mが3であるアルコール化合物(I)としては、例えばグリセリンが挙げられ、mが4であるアルコール化合物(I)としては、例えばエリスリトール、ペンタエリスリトール、リボースが挙げられる。mが5以上であるアルコール化合物(I)としては、グルコース、ガラクトース、ケトース、ラクトース、スクロース等の糖類が挙げられる。
【0044】
アルコール化合物の使用量は適宜調整すればよいが、例えば、ジクロロメタンの当初量に対して1容量倍以上、20容量倍以下とすることができる。
【0045】
カルボン酸化合物のエステル化反応は、カルボキシ基へのプロトンの付加により促進される。よって、カルボン酸化合物は、ジクロロメタンの分解工程の後に添加してもよいが、カルボン酸化合物の共存下でジクロロメタンの分解工程を行ってもよい。当該カルボン酸化合物としては、例えば、式R2(CO2H)n(式中、R2はn価の有機基を示し、nは、1以上、5以下の整数を示す。)で表されるカルボン酸化合物(II)を用いることができる。カルボン酸化合物(II)のR2は、アルコール化合物(I)中のR1と同様の有機基を示し、mとnが同一である場合、R2とR1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0046】
カルボン酸化合物の使用量は適宜調整すればよいが、例えば、アルコール化合物1モルに対して0.5倍モル以上、2倍モル以下とすることができる。例えば、カルボン酸化合物とアルコール化合物の内、合成がより容易であったり安価である方をより多く用いることができる。当該モル比は、0.8倍モル以上が好ましく、0.9倍モル以上がより好ましく、また、1.2倍モル以下が好ましく、1.1倍モル以下がより好ましい。また、アルコール化合物を溶媒としても用いるような場合には、アルコール化合物1モルに対するカルボン酸化合物のモル比を0.01倍モル以上、0.1倍モル以下とすることもできる。
【0047】
例えば、一価カルボン酸化合物(II1)と一価アルコール化合物(I1)を用いる本発明に係るエステル化反応は、下記式で示される。
【0048】
【化1】
[式中、R
1とR
2は独立して一価有機基を示す。]
また、二価カルボン酸化合物(II
2)と二価アルコール化合物(I
2)を用いる本発明に係るエステル化反応により、ポリエステルが得られる。
【0049】
【化2】
[式中、R
1とR
2は独立して二価有機基を示す。]
【0050】
更に、例えば、一価カルボン酸化合物(II1)と三価アルコール化合物(I3)を用いる本発明に係るエステル化反応は、下記式で示される。
【0051】
【化3】
[式中、R
1は三価有機基を示し、R
2は一価有機基を示す。]
【0052】
カルボン酸化合物およびアルコール化合物は、ジクロロメタンの分解工程後に添加してもよいが、ジクロロメタンとカルボン酸化合物との共存下でジクロロメタンの分解工程を行ってもよいし、ジクロロメタンとアルコール化合物との共存下でジクロロメタンの分解工程を行ってもよいし、ジクロロメタンとカルボン酸化合物とアルコール化合物との共存下でジクロロメタンの分解工程を行ってもよい。
【0053】
また、ジクロロメタンの分解工程後、光照射と酸素供給を停止した上で、カルボン酸化合物とアルコール化合物を反応させてもよい。光照射と酸素供給を停止した後も、反応系内にはジクロロメタンの分解物が残留しているので、カルボン酸化合物とアルコール化合物の反応は促進される。また、光照射と酸素供給の停止により、ジクロロメタンの分解物の更なる分解や揮発が抑制される可能性もある。
【0054】
光照射と酸素供給の停止後の反応温度は、ジクロロメタンの分解工程の温度と同一であってもよいし、或いは反応促進のため高めてもよい。光照射と酸素供給の停止後の反応の温度としては、例えば、20℃以上、120℃以下とすることができる。当該温度としては30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、また、100℃以下または80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。或いは、加熱還流条件で反応を行ってもよい。
【0055】
光照射と酸素供給の停止後の反応の時間は、反応が十分に進行する範囲で適宜調整すればよいが、例えば、1時間以上、100時間以下とすることができる。
【0056】
本発明は、エステル交換反応にも適用することができる。即ち、ジクロロメタンの分解工程を行い、ジクロロメタンの分解物の存在下、例えば、下記反応式の通り、p価エステル化合物(III1)と一価アルコール化合物(IV1)を反応させることにより、エステル化合物(V1)を製造したり、一価エステル化合物(III2)とq価アルコール化合物(IV2)を反応させることにより、エステル化合物(V2)を製造することができる。勿論、一価エステル化合物と一価アルコール化合物との間でエステル交換反応を行うことも可能である。
【0057】
【化4】
[式中、
R
3はp価の有機基を示し、
R
4~R
7は独立して一価有機基を示し、
R
8はq価の有機基を示し、
pは、1以上、5以下の整数を示し、
qは、1以上、5以下の整数を示し、
但し、R
4とR
5は同一の有機基ではなく、R
7とR
8は同一の有機基ではない。]
上記反応式中のR
3~R
8としては、アルコール化合物(I)中のR
1のうち価数が同一である有機基を挙げることができる。
【0058】
エステル交換反応におけるエステル化合物(III)とアルコール化合物(IV)の量は、反応が良好に進行する範囲で適宜調整すればよい。例えば、ジクロロメタンの当初量に対するアルコール化合物(IV)の使用量は1容量倍以上、20容量倍以下とすることができる。また、エステル化合物(III)の使用量については、エステル交換反応の促進のため、エステル化合物(III)とアルコール化合物(IV)のいずれか一方を過剰量用いることが好ましい。例えば、エステル化合物(III)またはアルコール化合物(IV)のうち一方1モルに対する他方のモル比を0.01倍モル以上、0.1倍モル以下とすることもできる。
【0059】
エステル交換反応においても、エステル化合物(III)およびアルコール化合物(IV)は、ジクロロメタンの分解工程後に添加してもよいが、ジクロロメタンとエステル化合物(III)との共存下でジクロロメタンの分解工程を行ってもよいし、ジクロロメタンとアルコール化合物(IV)との共存下でジクロロメタンの分解工程を行ってもよいし、ジクロロメタンとエステル化合物(III)とアルコール化合物(IV)との共存下でジクロロメタンの分解工程を行ってもよい。
【0060】
また、ジクロロメタンの分解工程後、光照射と酸素供給を停止した上で、エステル化合物(III)とアルコール化合物(IV)を反応させてもよい。光照射と酸素供給を停止した後も、反応系内にはジクロロメタンの分解物が残留しているので、エステル化合物(III)とアルコール化合物(IV)の反応は促進される。また、光照射と酸素供給の停止により、ジクロロメタンの分解物の更なる分解や揮発が抑制される可能性もある。
【0061】
光照射と酸素供給の停止後の反応温度は、ジクロロメタンの分解工程の温度と同一であってもよいし、或いは反応促進のため高めてもよい。光照射と酸素供給の停止後の反応の温度としては、例えば、20℃以上、120℃以下とすることができる。当該温度としては30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、また、100℃以下または80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。或いは、加熱還流条件で反応を行ってもよい。
【0062】
光照射と酸素供給の停止後の反応の時間は、反応が十分に進行する範囲で適宜調整すればよいが、例えば、1時間以上、100時間以下とすることができる。
【0063】
本発明は、カルボニル化合物とアルコール化合物からアセタール化合物を得る反応にも適用することができる。即ち、ジクロロメタンの分解工程を行い、ジクロロメタンの分解物の存在下、例えば、下記反応式の通り、カルボニル化合物(VI)とアルコール化合物(VII)を反応させることにより、アセタール化合物(VIII)を製造することができる。なお、下記式の通りアルコール化合物として1,2-エタンジオールまたは1,3-プロパンジオールを用いた場合には、安定な2,5-ジオキソラン構造または2,6-ジオキサン構造が形成される。
【0064】
【化5】
[式中、
R
9~R
11は独立して一価有機基を示し、
tは、2または3を示す。]
【0065】
上記反応式中のR9~R11としては、アルコール化合物(I)中の一価有機基を挙げることができる。
【0066】
カルボニル化合物とアルコール化合物の量は、反応が良好に進行する範囲で適宜調整すればよい。例えば、一般的にアルコール化合物の方が安価であり、またアルコール化合物は溶媒としても使える場合があることから、カルボニル化合物1モルに対するアルコール化合物の割合を2倍モル以上、50倍モル以下とすることができる。
【0067】
アセタール化合物の合成反応においても、カルボニル化合物およびアルコール化合物は、ジクロロメタンの分解工程後に添加してもよいが、アルコール化合物の水酸基の活性が酸触媒により高まる可能性があるため、ジクロロメタンとアルコール化合物との共存下でジクロロメタンの分解工程を行ってもよいし、ジクロロメタンとカルボニル化合物およびアルコール化合物との共存下でジクロロメタンの分解工程を行ってもよい。
【0068】
また、ジクロロメタンの分解工程後、光照射と酸素供給を停止した上で、カルボニル化合物およびアルコール化合物を反応させてもよい。光照射と酸素供給を停止した後も、反応系内にはジクロロメタンの分解物が残留しているので、カルボニル化合物およびアルコール化合物の反応は促進される。また、光照射と酸素供給の停止により、ジクロロメタンの分解物の更なる分解や揮発が抑制される可能性もある。
【0069】
光照射と酸素供給の停止後の反応温度は、ジクロロメタンの分解工程の温度と同一であってもよいし、或いは反応促進のため高めてもよい。光照射と酸素供給の停止後の反応の温度としては、例えば、20℃以上、120℃以下とすることができる。当該温度としては30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、また、100℃以下または80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。或いは、加熱還流条件で反応を行ってもよい。
【0070】
光照射と酸素供給の停止後の反応の時間は、反応が十分に進行する範囲で適宜調整すればよいが、例えば、1時間以上、100時間以下とすることができる。
【0071】
本発明は、保護基であるBoc基の切断にも適用することができる。Boc基はアミノ基や水酸基の保護基として一般的なものであり、酸性条件で切断できるが、塩酸など水を含む酸で脱保護する際、例えばエステル系のカルボキシ基保護基など加水分解により切断される保護基は同時に切断され、選択的な脱保護ができないおそれがある。それに対して本発明によれば、水を介在させずにBocを選択的に保護することができる。よって本発明に係るBoc基の切断方法は、特にBoc基によりアミノ基および/または水酸基が保護されたアミノ酸やペプチドの脱保護に有用である。
【0072】
例えば、本発明に係るBocの切断による脱保護方法は、下記式で示される。
【化6】
[式中、
R
12とR
13は独立して一価有機基を示し、
R
14はアミノ酸側鎖基を示し、
R
15は、OH、OR
16(式中、R
16は、カルボキシ基の保護基または担体を示す)、または-[-NH-CHR
17-C(=O)-]
s-R
18(式中、R
17はアミノ酸側鎖を示し、R
18は、OH、またはOR
19(式中、R
19は、カルボキシ基の保護基または担体を示す)を示し、sは1以上の整数を示し、sが2以上の整数の場合、複数のR
17は互いに同一であっても異なってもよい)を示す。]
【0073】
R12とR13の一価有機基としては、アルコール化合物(I)中のR1のうち一価有機基と同様の一価有機基が挙げられる。これら一価有機基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0074】
カルボキシ基の保護基としては、メチルエステル、エチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェナシルエステル、アリルエステル等、アミノ酸中のカルボキシ基の一般的な保護基が挙げられる。
【0075】
担体としては、Fmoc-AA-Wang resin、NovaSyn TGA resin、Rink amide PEGA resin、NovaSyn TGR resin、Rink Amide AM resin、Rink Amide AM resin、Rink Amide NovaGel、2-Chlorotrityl chloride resin、NovaSyn TGT alcohol resin、Sieber Amide resin等、ペプチドの固相合成で一般的に用いられている担体が挙げられる。
【0076】
アミノ酸側鎖基に含まれる反応性基は、ペプチド合成で一般的に用いられる保護基で保護されていてもよい。
【0077】
本発明に係る脱保護方法では、ジクロロメタンに酸素存在下で高エネルギー光を照射してジクロロメタンを分解し、ジクロロメタンの分解物により、Boc基により保護されているアミノ基および/または水酸基を有する化合物(以下、「アミノ基/水酸基含有化合物」という)からBoc基を切断してアミノ基/水酸基含有化合物を脱保護する。
【0078】
アミノ基/水酸基含有化合物をジクロロメタンのみで十分に溶解できない場合には、アミノ基/水酸基含有化合物を適度に溶解できる溶媒を用いてもよい。かかる溶媒としては、例えば、アセトニトリル等のニトリル系溶媒;ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒などが挙げられる。
【0079】
アミノ基/水酸基含有化合物、ジクロロメタン、および溶媒それぞれの量は、アミノ基/水酸基含有化合物が十分に溶解される範囲で適宜調整すればよいが、例えば、ジクロロメタンと溶媒の合計使用量に対するアミノ基/水酸基含有化合物の量を、1mg/mL以上、500mg/mL以下とすることができる。当該量としては、5mg/mL以上が好ましく、10mg/mL以上がより好ましく、20mg/mL以上がより更に好ましく、また、200mg/mL以下が好ましく、100mg/mL以下がより好ましく、50mg/mL以下がより更に好ましい。
【0080】
Boc基の切断反応においても、アミノ基/水酸基含有化合物はジクロロメタンの分解工程後に添加してもよいが、ジクロロメタンとアミノ基/水酸基含有化合物との共存下でジクロロメタンを分解してもよい。
【0081】
また、ジクロロメタンの分解工程後、光照射と酸素供給を停止した上で、ジクロロメタンの分解物によりアミノ基/水酸基含有化合物からのBoc基の切断を継続するか、或いはアミノ基/水酸基含有化合物を添加して脱保護を行ってもよい。光照射と酸素供給を停止した後も、反応系内にはジクロロメタンの分解物が残留しているので、アミノ基/水酸基含有化合物からのBoc基切断反応は促進される。また、光照射と酸素供給の停止により、ジクロロメタンの分解物の更なる分解や揮発が抑制される可能性もある。
【0082】
光照射と酸素供給の停止後の反応温度は、ジクロロメタンの分解工程の温度と同一であってもよいし、或いは反応促進のため高めてもよい。光照射と酸素供給の停止後の反応の温度としては、例えば、20℃以上、120℃以下とすることができる。当該温度としては30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、また、100℃以下または80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。或いは、加熱還流条件で反応を行ってもよい。
【0083】
光照射と酸素供給の停止後の反応の時間は、反応が十分に進行する範囲で適宜調整すればよいが、例えば、1時間以上、100時間以下とすることができる。
【0084】
本発明方法では、反応後、一般的な後処理を行ってもよい。例えば、反応液に炭酸水素ナトリウム水溶液などを加えて中和し、分液し、有機相を無水硫酸マグネシウムや無水硫酸ナトリウム等で乾燥した後、濃縮すればよい。分液時に有機相の量が少ない場合などには、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル等の水不溶性有機溶媒を添加してもよい。また、炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに飽和食塩水を使ったり、有機相を炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水、水などで洗浄してもよい。得られた濃縮物から、クロマトグラフィーや再結晶などで目的化合物を更に精製してもよい。
【0085】
或いは、目的化合物が常温で固体である場合には、反応後反応液にn-ヘキサン等の貧溶媒を加えて目的化合物を析出させ、濾取し、更に貧溶媒で洗浄してから乾燥してもよい。得られた目的化合物は、クロマトグラフィーや再結晶などで更に精製してもよい。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0087】
実施例1: 酢酸メチルの合成
【化7】
直径42mm、容量100mLの筒状反応容器内に、直径30mmの石英ガラスジャケットを装入し、石英ガラスジャケット内に低圧水銀ランプ(「UVL20PH-6」SEN Light社製,20W,φ24×120mm)を装入した反応システムを構築した。気化した反応試薬や溶媒を再液化するための冷却器(0℃)をその筒状反応容器に取り付けた。当該反応システムの模式図を
図1に示す。なお、当該低圧水銀ランプからの照射光には波長254nmのUV-Cが含まれ、管壁から5mmの位置における波長254nmの光の照度は6.23~9.07mW/cm
2であった。
反応容器内にメタノール(20mL,494mmol)、およびジクロロメタン(3.5mL,55mmol)を入れ、攪拌混合した。当該反応液を攪拌しつつ、20℃で0.5L/minの酸素ガスをバブリングで吹き込み、UV-Cを含む高エネルギー光を3時間照射した。
次いで、高エネルギー光の照射と酸素ガスの供給を停止し、当該サンプル溶液に酢酸(0.57mL,10mmol)を添加して、20℃で3時間撹拌した。
反応液を
1H NMRで分析したところ、変換率>99%で酢酸メチルが生成していることが確認された。
【0088】
実施例2: ノナン酸メチルの合成
【化8】
実施例1と同様の反応容器内にメタノール(30mL,741mmol)、およびジクロロメタン(5.3mL,82mmol)を入れ、攪拌混合した。当該反応液を攪拌しつつ、20℃で0.5L/minの酸素ガスをバブリングで吹き込み、UV-Cを含む高エネルギー光を3時間照射した。次いで、高エネルギー光の照射と酸素ガスの供給を停止し、当該サンプル溶液にノナン酸(8.73mL,50mmol)を添加して、50℃で4時間撹拌した。反応液を
1H NMRで分析したところ、変換率>99%でノナン酸メチルが生成していることが確認された。
【0089】
実施例3: 酢酸2,2,2-トリフルオロエチルの合成
【化9】
実施例1と同様の反応容器内に2,2,2-トリフルオロエタノール(10mL,139mmol)、およびジクロロメタン(0.96mL,15mmol)を入れ、攪拌混合した。当該反応液を攪拌しつつ、20℃で0.5L/minの酸素ガスをバブリングで吹き込み、UV-Cを含む高エネルギー光を3時間照射した。次いで、高エネルギー光の照射と酸素ガスの供給を停止し、当該サンプル溶液に酢酸(0.57mL,10mmol)を添加して、50℃で6日間撹拌した。反応液を
1H NMRで分析したところ、変換率89%で酢酸2,2,2-トリフルオロエチルが生成していることが確認された。
【0090】
実施例4: 酢酸2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロピルの合成
【化10】
実施例1と同様の反応容器内に2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール(10mL,112mmol)、およびジクロロメタン(0.8mL,12mmol)を入れ、攪拌混合した。当該反応液を攪拌しつつ、20℃で0.5L/minの酸素ガスをバブリングで吹き込み、UV-Cを含む高エネルギー光を3時間照射した。次いで、高エネルギー光の照射と酸素ガスの供給を停止し、当該サンプル溶液に酢酸(0.57mL,10mmol)を添加して、50℃で4日間撹拌した。反応液を
1H NMRで分析したところ、変換率82%で酢酸2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロピルが形成していることが確認された。
【0091】
実施例5: イソ酪酸メチルの合成
【化11】
実施例1と同様の反応容器内にメタノール(20mL,494mmol)、およびジクロロメタン(3.5mL,55mmol)を入れ、攪拌混合した。当該反応液を攪拌しつつ、20℃で0.5L/minの酸素ガスをバブリングで吹き込み、UV-Cを含む高エネルギー光を3時間照射した。次いで、高エネルギー光の照射と酸素ガスの供給を停止し、当該サンプル溶液にイソ酪酸(0.93mL,10mmol)を添加し、50℃で3時間撹拌した。反応液を
1H NMRで分析したところ、変換率>99%でイソ酪酸メチルが形成していることが確認された。
【0092】
実施例6: 酢酸メチルの合成
【化12】
実施例1と同様の反応容器内にメタノール(20mL,494mmol)、ジクロロメタン(3.5mL,55mmol)、および酢酸(0.57mL,10mmol)を入れ、攪拌混合した。当該反応液を攪拌しつつ、20℃で0.5L/minの酸素ガスをバブリングで吹き込み、UV-Cを含む高エネルギー光を5時間照射した。反応液を
1H NMRで分析したところ、変換率>99%で酢酸メチルが形成していることが確認された。
【0093】
実施例7: 安息香酸メチルの合成
【化13】
実施例1と同様の反応容器内にメタノール(20mL,494mmol)、ジクロロメタン(3.5mL,55mmol)、および安息香酸(1.22g,10mmol)を入れ、攪拌混合した。当該反応液を攪拌しつつ、20℃で0.5L/minの酸素ガスをバブリングで吹き込み、UV-Cを含む高エネルギー光を7時間照射した。次いで、高エネルギー光の照射と酸素ガスの供給を停止し、50℃で更に3日間撹拌した。反応液を
1H NMRで分析したところ、変換率43%で安息香酸メチルが形成していることが確認された。
【0094】
実施例8: エステル交換法による酢酸メチルの合成
【化14】
実施例1と同様の反応容器内にメタノール(20mL,494mmol)、ジクロロメタン(3.5mL,55mmol)、および酢酸エチル(0.98mL,10mmol)を入れ、攪拌混合した。当該反応液を攪拌しつつ、20℃で0.5L/minの酸素ガスをバブリングで吹き込み、UV-Cを含む高エネルギー光を5時間照射した。次いで、高エネルギー光の照射と酸素ガスの供給を停止し、50℃で更に2日間撹拌した。反応液を
1H NMRで分析したところ、変換率74%で酢酸メチルが形成していることが確認された。
【0095】
比較例1: アルコールと酢酸の混合溶液の加熱によるエステル化反応
【化15】
50mLのナス型フラスコに、表1に示すアルコール(20mL)と酢酸(0.57mL,10mmol)を入れ、50℃で24時間撹拌した。反応液を
1H NMRで分析したところ、目的の酢酸エステルへの変換率は表1に示す通りであった。表1に示される結果の通り、触媒無しで加熱のみではエステル化反応は進行し難いことが明らかとなった。
【0096】
【0097】
比較例2: メタノールと安息香酸の混合溶液の加熱によるエステル化反応
【化16】
50mLのナス型フラスコにメタノール(20mL,494mmol)と安息香酸(1.22g,10mmol)を入れ、50℃で24時間撹拌した。反応液を
1H NMRで分析したが、生成物は確認されなかった。
【0098】
実施例9: BOC保護アミノ酸の脱保護反応
【化17】
実施例1と同様の反応容器内にN-(t-ブトキシカルボニル)-L-フェニルアラニンメチルエステル(1.4g,5mmol)、ジクロロメタン(30mL,468mmol)、およびアセトニトリル(10mL)を入れ、攪拌混合した。当該反応液を攪拌しつつ、25℃で0.5L/minの酸素ガスをバブリングで吹き込み、UV-Cを含む高エネルギー光を4時間照射した。次いで、当該反応液にn-ヘキサンを添加すると、白色の沈殿が析出した。吸引ろ過によって沈殿物を濾取して、真空乾燥させることによって、L-フェニルアラニンメチル塩酸塩を48%単離収率で得た。
【0099】
実施例10: オクタフルオロアジピン酸ジメチルの合成
【化18】
実施例1と同様の反応容器内にメタノール(20mL,520mmol)、およびジクロロメタン(3.5mL,56mmol)を入れ、攪拌混合した。当該反応液を攪拌しつつ、20℃で0.5L/minの酸素ガスをバブリングで吹き込み、UV-Cを含む高エネルギー光を3時間照射した。次いで、反応液にオクタフルオロアジピン酸(22g,76mmol)を添加し、50℃で2日間撹拌した。反応液にジクロロメタンと水を加えて分液し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、エバポレータを用いて溶媒を留去した。得られた残渣を
1H NMRで分析したところ、目的化合物であるオクタフルオロアジピン酸ジメチルが生成していることを確認できた(収率>99%)。
【0100】
実施例11: アジピン酸ビス[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]の合成
【化19】
実施例1と同様の反応容器内にジエチレングリコールモノメチルエーテル(32.4mL,330mmol)、およびジクロロメタン(3.5mL,56mmol)を入れ、攪拌混合した。当該反応液を攪拌しつつ、20℃で0.5L/minの酸素ガスをバブリングで吹き込み、UV-Cを含む高エネルギー光を3時間照射した。次いで、当該反応液にアジピン酸(1.46g,10mmol)を添加し、50℃で2日間撹拌した。反応液から未反応のジエチレングリコールモノメチルエーテルを減圧留去し、残渣にジクロロメタンと水を加えて分液し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、エバポレータを用いて溶媒を留去し、更に100℃で真空乾燥した。得られた残渣を
1H NMRで分析したところ、目的化合物であるアジピン酸ビス[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]が生成していることを確認できた(収率:56%)。
【0101】
実施例12: 1,4-ブタンジオールとアジピン酸からのポリエステルの合成
【化20】
実施例1と同様の反応容器内に1,4-ブタンジオール(4.5mL,50mmol)、およびジクロロメタン(0.32mL,5.6mmol)を入れ、攪拌混合した。当該反応液を攪拌しつつ、20℃で0.5L/minの酸素ガスをバブリングで吹き込み、UV-Cを含む高エネルギー光を3時間照射した。次いで、当該反応液にアセトニトリル(20mL)に溶解させたアジピン酸(7.3g,50mmol)の溶液を添加し、90℃で2日間撹拌した。反応液にジクロロメタンと水を添加して分液し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、エバポレータを用いて溶媒を留去した。得られた薄黄色オイルを
1H NMRで分析したところ、目的のポリエステルが生成していることを確認できた(収率:64%)。
得られたポリエステルをHPLCにより分析し、数平均分子量Mn(ポリスチレン標準)と重量平均分子量Mwを求めた。結果を表2に示す。
【0102】
【0103】
実施例13: 1,4-ブタンジオールとアジピン酸からのポリエステルの合成
【化21】
実施例1と同様の反応容器内にテトラエチレングリコール(8.7mL,50mmol)、およびジクロロメタン(0.8mL,13mmol)を入れ、攪拌混合した。当該反応液を攪拌しつつ、20℃で0.5L/minの酸素ガスをバブリングで吹き込み、UV-Cを含む高エネルギー光を3時間照射した。次いで、当該反応液に、20mLのアセトニトリルに溶解させたアジピン酸(7.3g,50mmol)の溶液を添加し、90℃で2日間撹拌した。反応液にジクロロメタンと水を添加して分液し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、エバポレータを用いて溶媒を留去した。得られた薄黄色オイルを
1H NMRで分析したところ、目的のポリエステルが形成していることを確認できた(収率:44%)。
得られたポリエステルをHPLCにより分析し、数平均分子量Mn(ポリスチレン標準)と重量平均分子量Mwを求めた。結果を表3に示す。
【0104】
【0105】
実施例14: シクロヘキサノンのアセタール保護
【化22】
実施例1と同様の反応容器内にエチレングリコール(20mL,360mmol)、およびジクロロメタン(2.5mL,40mmol)を入れ、攪拌混合した。当該反応液を攪拌しつつ、20℃で0.5L/minの酸素ガスをバブリングで吹き込み、UV-Cを含む高エネルギー光を3時間照射した。次いで、当該反応液にシクロヘキサノン(1.0mL,10mmol)を添加し、3時間加熱還流した。反応液を
1H NMRで分析したところ、目的の1,4-ジオキサスピロ[4.5]デカンが生成しており、シクロヘキサノンのカルボニル基が保護されていることが確認された(変換率>99%)。
【符号の説明】
【0106】
1: 反応容器, 2: 高エネルギー光照射手段, 3: 水浴,
4: ジャケット, 5: 攪拌子, 6: 冷却管