(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】編レース
(51)【国際特許分類】
D04B 21/12 20060101AFI20241211BHJP
D04B 21/18 20060101ALI20241211BHJP
D02G 3/36 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
D04B21/12
D04B21/18
D02G3/36
(21)【出願番号】P 2021123634
(22)【出願日】2021-07-28
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】506269688
【氏名又は名称】株式会社YOSHITA TEX
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼田 茂男
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-219876(JP,A)
【文献】特開2008-280627(JP,A)
【文献】国際公開第2017/175396(WO,A1)
【文献】特開2023-019144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00-1/28、21/00-21/20、
A41C1/00-5/00、
D02G3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のループ状部分を有する鎖編組織を構成する鎖編糸であって、2種以上の糸が複合された、少なくとも1種の糸が伸縮性を有するポリウレタン樹脂繊維の複合糸から成り、横振りを繰り返し、横渡り組織を形成する鎖編糸と、
弾発的に伸縮する伸縮性を有する第1挿入糸であって、ポリアミド樹脂繊維、ポリエステル樹脂繊維、半合成繊維、再生繊維、天然繊維およびポリウレタン樹脂繊維から選ばれた少なくとも1種から成り、前記鎖編組織に編込まれて隣接するウエール間を横渡りし、ウエール方向に伸縮性を与える第1挿入糸と、
弾発的に伸縮する接着糸から成り、前記鎖編組織に編込まれて
コース方向に伸縮性を与える第2挿入糸と、
弾発的に伸縮する伸縮性を有する熱可塑性樹脂から成り、前記鎖編組織に編込まれてコース方向に伸縮性を与える第3挿入糸と、を含み、
前記第2挿入糸は、前記鎖編糸のシンカーループと前記第1挿入糸との間に挿通され、前記鎖編糸のシンカーループとの接点で接着されるとともに、前記第3挿入糸に接着されていることを特徴とする編レース。
【請求項2】
前記鎖編糸は、接着性を有することを特徴とする請求項1に記載の編レース。
【請求項3】
前記第3挿入糸は、接着性を有することを特徴とする請求項1または2に記載の編レース。
【請求項4】
前記第1挿入糸は、少なくとも1種が接着性を有する2種以上の糸が複合された複合糸から成ることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の編レース。
【請求項5】
前記第2挿入糸の繊度は、22デシテックス~156デシテックスであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の編レース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編レースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の編レースは、例えば特許文献1に開示されている。この編レースは、カバーリング糸が、挿入糸として隣接する鎖編組織に横渡りしながら編み込まれている。この従来技術では、カバーリング糸は、熱溶融性を有する芯糸に被覆糸を螺旋状に巻付けた複合糸であり、伸長された状態で被覆糸の螺旋状の隙間から芯糸が露出する編レースが提案されている。編成後に編レースを加熱することで、挿入糸のうちの、芯糸の一部が溶融し、被覆糸の螺旋条の隙間から接触する他の糸を接着するようにして固化する。これによって編レース製品におけるほつれを防止している。
【0003】
また特許文献2では、鎖編糸と、弾発的に伸縮し、鎖編組織のコース方向に伸縮性を与える第1挿入糸と、弾発的に伸縮し、鎖編組織のウエール方向に伸縮性を与える第2挿入糸とを、含み、鎖編糸と第2挿入糸とは、芯糸と、芯糸に螺旋状に巻付けた被覆糸とから成り、鎖編糸の芯糸と第1挿入糸とが接着され、鎖編糸と第1挿入糸の芯糸とが接着され、鎖編糸と第2挿入糸の芯糸とが接着されていることを特徴とする編レースが提案されており、編成後に編レースを加熱することで、各芯糸の接着が実現され、ほつれを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5697887号公報
【文献】特許第6488300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される従来技術では、挿入糸にのみ、熱接着糸が編み込まれ、熱接着糸の挿入部も含め、互いに異なる糸で編成される。このような構成では、着用後の美感が低下してしまう。これに対して一部分だけでなく、全体に熱接着糸を編み込むことを考えた特許文献2の編レースでは、ほつれ防止機能は向上されるが、コース方向に対してコース方向の切断面の強度に問題があり、着用の繰り返しにより、鎖編組織から挿入糸の糸ずれが発生し、レース生地端が裂けた状態となり、美感を損ねることになる。
【0006】
本発明の目的は、着用後も美感が良好であり、かつ風合いが良好な編レースを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数のループ状部分を有する鎖編組織を構成する鎖編糸であって、2種以上の糸が複合された、少なくとも1種の糸が伸縮性を有するポリウレタン樹脂繊維の複合糸から成り、横振りを繰り返し、横渡り組織を形成する鎖編糸と、
弾発的に伸縮する伸縮性を有する第1挿入糸であって、ポリアミド樹脂繊維、ポリエステル樹脂繊維、半合成繊維、再生繊維、天然繊維およびポリウレタン樹脂繊維から選ばれた少なくとも1種から成り、前記鎖編組織に編込まれて隣接するウエール間を横渡りし、ウエール方向に伸縮性を与える第1挿入糸と、
弾発的に伸縮する接着糸から成り、前記鎖編組織に編込まれてコース方向に伸縮性を与える第2挿入糸と、
弾発的に伸縮する伸縮性を有する熱可塑性樹脂から成り、前記鎖編組織に編込まれてコース方向に伸縮性を与える第3挿入糸と、を含み、
前記第2挿入糸は、前記鎖編糸のシンカーループと前記第1挿入糸との間に挿通され、前記鎖編糸のシンカーループとの接点で接着されるとともに、前記第3挿入糸に接着されていることを特徴とする編レースである。
【0009】
また本発明は、前記鎖編糸が、接着性を有することを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記第3挿入糸が、接着性を有することを特徴とする。
【0012】
また本発明は、前記第1挿入糸が、少なくとも1種が接着性を有する2種以上の糸が複合された複合糸から成ることを特徴とする。
【0013】
また本発明は、前記第2挿入糸の繊度が、22デシテックス~156デシテックスであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鎖編糸に第2挿入糸が編み込まれてコース方向の伸縮性が与えられ、鎖編組織に第1挿入糸が編み込まれてウエール方向に伸縮性が与えられる。このように編成された編レースは熱セット処理されることによって、融点の低い第2挿入糸が鎖編糸に接着し、第1挿入糸にも部分的に接着して編レース全体の歪みが除去され、ほつれの生じにくい編レースが生成される。従来技術の編レースのレース切断面をウエール方向に引っ張ると、第1および第2挿入糸が挿入部分から抜けようとして、裂けたようになるが、本発明によれば、鎖編糸と鎖編糸との接着部が強化され、鎖編組織が安定し、また部分的にではあるが、第1および第2挿入糸と熱接着糸との接着点も形成されている。結果として、従来技術よりも第1および第2挿入糸が抜けにくくなり、第1および第2挿入糸に鎖編糸が接着すると、さらに糸抜けに対する高い効果が得られ、着用後も美感が良好であり、かつ良好な風合いを維持することができる。
【0015】
また本発明によれば、鎖編糸に第2挿入糸が編み込まれてコース方向の伸縮性が与えられ、鎖編組織に第1挿入糸が編み込まれてウエール方向に伸縮性が与えられ、鎖編組織に弾発的に伸縮する伸縮性を有する熱可塑性樹脂から成る第3挿入糸が編み込まれてコース方向に伸縮性が与えられる。このように編成された編レースは熱セット処理されることによって、融点の低い第2挿入糸が鎖編糸に接着し、第3および第1挿入糸にも部分的に接着して編レース全体の歪みが除去され、ほつれの生じにくい編レースが生成される。従来技術の編レースのレース切断面をウエール方向に引っ張ると、第1~第3挿入糸が挿入部分から抜けようとして、裂けたようになるが、本発明によれば、鎖編糸と鎖編糸との接着部が強化され、鎖編組織が安定し、また部分的にではあるが、第1~第3挿入糸と熱接着糸との接着点も形成されている。結果として、従来技術よりも第1~第3挿入糸が抜けにくくなり、第1~第3挿入糸に鎖編糸が接着すると、さらに糸抜けに対する高い効果が得られ、着用後も美感が良好であり、かつ良好な風合いを維持することができる。
【0016】
また、キックバック特性の向上(ストレッチレースを伸ばしたときに縮もうとする力、フィット感)について、鎖編糸と第1~第3挿入糸とのずれが少なくなり、従来技術の鎖編糸のみの接着よりも接着強度が増加する。伸縮時の接着点の剥がれが少なくなり、伸縮前の位置に戻るようになる。伸縮し易い糸(伸縮糸)と伸縮糸よりも少し伸縮し難い糸(熱接着糸)が並走した状態で接着されるため、伸縮糸のみの場合と比べて、伸ばされようとする力が阻害され、戻る力が大きくなる。
【0017】
第1~第3挿入糸の各糸と鎖編糸との接着力向上による形態安定性の向上について、従来技術の熱接着では、接着し易い糸の組合わせは、熱接着糸同士>熱接着糸と伸縮用ポリウレタン糸>熱接着糸とナイロン糸、その他となる。これに対し本発明では、鎖編糸と接着性弾性糸である第2挿入糸との接着が主となるが、第3挿入糸と第2挿入糸とが並走することで、低いセット温度でも第3挿入糸と第2挿入糸との接着箇所数が増加し、鎖編糸と第2挿入糸との接着箇所数よりも増加させて、鎖編糸と第1~第3挿入糸との間の接合強度を向上することができる。(例えば、接着よりも接着箇所数を増加させて、鎖編糸と第1~第3挿入糸との間の接合強度を向上することができる。)
【0018】
またセット温度が低い場合でも、接着が可能であるならば、各糸の熱負荷が軽減され、破裂強度の向上が可能となる。通常セット温度が低いとポリウレタン繊維から成る第3挿入糸のセット性が弱く、洗濯収縮率が悪くなるが、鎖編糸の形態安定性により抑えられる。当然、破裂強度や縮率等の物性面で問題なければ、糸それぞれの形状を保つ程度の高いセット温度でも可能であり、より強い接着点ができることで、着用や洗濯などのための外力の作用に対して、形態安定性を向上することができる。
【0019】
ストレッチ性のコントロールについては、従来技術の伸縮糸である第3挿入糸は、伸度やキックバック特性等の基本物性に違いがある。製造会社や太さなどでの個体差はあるが、本発明で提案する第3挿入糸の方が第2挿入糸に比べて伸度やキックバック特性が良い。熱接着性の伸縮糸だけでは、伸縮やキックバック特性などで所望の状態にするには限度があるが、従来技術の伸縮糸と熱接着性の伸縮糸との、糸の繊度やそれぞれの編成張力などの組合わせを行うことで、所望の伸び感やキックバック特性を得ることができる。伸縮糸である第3挿入糸と接着糸である第2挿入糸とは、伸縮特性が異なり、第3挿入糸の方が、良く伸びて、戻りもよい。これに対し第2挿入糸は、伸びにくく、戻り難い。したがって、前述のように、第3挿入糸と第2挿入糸との2本の糸を用いることによって、キックバック特性に優れたレース編地を提供することができる。
【0020】
また本発明によれば、第2挿入糸が鎖編糸のニードルループと第1挿入糸との間に挿通され、第3挿入糸との接点および鎖編糸のニードルループとの接点で第3挿入糸および鎖編糸の芯糸のそれぞれが第2挿入糸と接着されているので、第2挿入糸と鎖編糸のニードルループと第1挿入糸と第3挿入糸とが大きな強度で接着され、切断面の方向に拘わらず糸抜けを抑制することができる。これによって、レース編地のウエール方向の裁断面で鎖編糸から挿入糸が抜けて裂けたようになる、さばけの発生を防止することができる。
【0021】
また本発明によれば、第2挿入糸が鎖編糸のシンカーループと第1挿入糸との間に挿通され、鎖編糸のシンカーループとの接点で接着されているので、鎖編糸のシンカーループと第1挿入糸との間に第2挿入糸が介在され、大きな接着強度で接合され、切断面の方向に拘わらずに糸抜けを抑制し、さばけを防止することができる。
【0022】
また本発明によれば、第3挿入糸に接着性を有する糸を使用することで、鎖編糸のニードルループと第1挿入糸との間に挿通され、第1挿入糸や第2挿入糸との接点および鎖編糸のニードルループとの接点で芯糸と各接着糸とが接着されているので、第2挿入糸と鎖編糸のニードルループと第1挿入糸と第3挿入糸とが、さらに大きな強度で接着され、切断面の方向に拘わらず糸抜けを抑制することができる。これによって、レース編地のウエール方向の裁断面で鎖編糸から挿入糸が抜けて裂けたようになる、さばけの発生を防止することができ、形態安定性を向上し、美観を維持することができる。
【0023】
また本発明によれば、第1挿入糸が少なくとも1種が接着性を有する2種以上の糸が複合された複合糸から成るので、熱セット時に少なくとも1種が溶融して、鎖編糸、第3挿入糸、第2挿入糸の間で芯糸と各接着糸とが接着し、高い接着強度を得ることができる。これによって切断方向に拘わらず、優れた糸抜け抑制効果を奏することができる。
【0024】
また本発明によれば、前記第2挿入糸の繊度が、22デシテックス(DTEX)~156デシテックス(DTEX)であるので、鎖編糸、第3挿入糸、第1挿入糸に対して高い接着強度で接着することができ、透け感や風合いを損なわずに糸抜けを抑制し、さばけを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態の編レース1の構成を模式的に示す編成組織図である。
【
図2】
図1に示す編レース1の構成から第1挿入糸24を除いた編成組織図である。
【
図3】
図1に示す編レース1の2ウエールにわたる編成組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して、本発明の編レースの実施形態について説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態の編レース1の構成を模式的に示す編成組織図である。
図2は
図1に示す編レース1の構成より第1挿入糸24を除き、縮小した編成組織図である。
図3は
図1に示す編レース1の2ウエールにわたる編成組織図である。なお、
図1~
図3に示す編成組織図は、編レース1の理解を容易にするために模式的に示したものであり、実際の編レース1は、第1ループ状部分25aおよび第2ループ状部分25bの曲率が小さく、各第1~第3挿入糸24,23,22が極めて近接または接触した状態となる。また、本実施形態において、鎖編糸21および各第1~第3挿入糸24,23,22によって編成された編地をレース編地(または前駆体編地)と称し、レース編地を熱セット(加熱処理)したものを編レース1と称する。本発明の他の実施形態では、挿入糸として、第3挿入糸22を用いずに第1および第2挿入糸24,23だけを用いて編レースが編成されてもよい。
【0028】
本実施形態の編レース1は、経編地であり、ラッセル編地であって、かつ伸縮性を有するストレッチ編地でもある。編レース1は、複数のループ状部分である第1および第2ループ状部分25a,25bを有する鎖編組織を構成する鎖編糸21であって、少なくとも1種が接着性を有する2種以上の糸、すなわち芯糸に被覆糸がエア交絡等によって被覆して複合された複合糸から成り、横振りを繰り返してラン止め組織42を形成する鎖編糸21と、弾発的に伸縮する伸縮性を有するポリアミド樹脂繊維、ポリエステル樹脂繊維、半合成繊維、レーヨンおよびキュプラなどの再生繊維、天然繊維およびポリウレタン樹脂繊維から選ばれた少なくとも1種から成り、鎖編組織に編込まれて隣接するウエール間を横渡りし、ウエール方向Wに伸縮性を与える第1挿入糸24と、弾発的に伸縮する接着糸から成り、鎖編組織に編込まれてコース方向Cに伸縮性を与える第2挿入糸23と、弾発的に伸縮する伸縮性を有する熱可塑性樹脂から成り、鎖編組織に編込まれてコース方向Cに伸縮性を与える第3挿入糸22と、を含む。
【0029】
編レース1は、鎖編糸21と、第1挿入糸24と、第2挿入糸23と、第3挿入糸22とによって編成され、各糸21,22,23,24によって、複数の格子が形成され、各格子にそれぞれ囲まれた複数の透孔が形成される。このような編レース1では、各格子の形状および配置によってレース模様が形成される。また編レース1は、単位面積あたりに配置される糸の量が密な柄部と、単位面積あたりに配置される糸の量が疎な下地部とを有し、これらの柄部および下地部の形状および配置によって柄模様が形成される。このような柄模様入りの編レース1は、例えば女性用肌着などの編レース製品を製造するために用いられる。このような編レース1には、第3挿入糸22とは別に、伸縮性を有する第1挿入糸24が編込まれ、コース方向Cおよびウエール方向Wについて伸縮性が付与される。
【0030】
図1および
図2に示すように、編レース1は、複数のループ状部分25a,25bを有するラッセル編の鎖編組織を形成する鎖編糸21と、弾発的に伸縮する伸縮性を有し、鎖編組織に編み込まれて鎖編組織にコース方向Cに伸縮性を与え、鎖編糸21および第3挿入糸22の接点で鎖編糸21の芯糸および第3挿入糸22と接着する伸縮性接着糸として第2挿入糸23を備えている。また編レース1は、第1挿入糸24を有しており、鎖編組織にウエール方向Wの伸縮性を与えるために編み込まれている。鎖編糸21は、経糸または地編組織と称される場合もある。また第1挿入糸24は、緯糸と称される場合もある。
【0031】
また第2挿入糸23は、鎖編糸21のニードルループ25aと第1挿入糸24との間を挿通し、第3挿入糸22との接点30および鎖編糸21のニードルループ25aとの接点33で第3挿入糸22および鎖編糸21の芯糸のそれぞれが第2挿入糸23と接着している。ここで、どのような角度であっても糸同士が接触する部分を「接点」とし、編み組織上で交差している部分は、接触していない場合であっても「交差部」と称する。
【0032】
また他の実施形態では、第2挿入糸23は、鎖編糸21のシンカーループ25bと第1挿入糸24との間を挿通し、鎖編糸21のシンカーループ25bとの接点28で接着してもよい。
【0033】
また第2挿入糸23の繊度は、好ましくは、22デシテックス(DTEX)~156デシテックス(DTEX)である。第2挿入糸23は、伸縮性接着糸であるので、22デシテックス(DTEX)未満の細いものは、透け感と風合いは維持されるが、各糸に対する接着力が弱くなり、さばけ防止効果が低下する。ここに、接着力とは、互いに接着した3つの糸間に作用する引張力に対する抵抗力である。これとは逆に、156デシテックス(DTEX)を超える太いものは、各糸に対する接着力は大きくなり、さばけ防止効果は向上するが、透け感が低下し、風合いも堅いものになってしまう。したがって本実施形態では、第2挿入糸23の繊度を、好ましくは、22DTEX以上、156DTEX以下とする。さらに好ましくは、44DTEXの第2挿入糸23を使用する。繊度が22DTEX以上、156DTEX以下であれば、透け感に優れ、強個な接着部の接着強度を得ることができる。さらに好ましくは、22DTEX以上、56DTEX以下の繊度とすることによって、より優れた透け感が得られ、接着部により高い接着強度を得ることができる。
【0034】
さらに編レース1では、鎖編糸21と第2挿入糸23との接点33で、鎖編糸21の接着性と第2挿入糸23との、互いの接着性により、強固に接着されている。また第2挿入糸23と第3挿入糸22とは互いの接点30で、第2挿入糸23の接着性により上記鎖編糸21と第2挿入糸23との接着強度程ではないが接着されている。また編レース1では、鎖編糸21同士の接点31の一部が、自身の接着性を利用して互いに接着されている。鎖編糸21同士の全ての接点31が接着されるのではなく、全ての接点31に対して、例えば60~90%程度のあくまで一部の接点31だけが接着されている。また本実施形態の編レース1では、第2挿入糸23と第1挿入糸24との交差部の接点34、また鎖編糸21と第1挿入糸24との接点27の一部が、鎖編糸21と第2挿入糸23との接着性による鎖編糸21と第2挿入糸23との接着強度程ではないが接着されている。したがって、鎖編糸21の芯糸や第2挿入糸23などの接点における接着強度は、鎖編糸21の芯糸と第1挿入糸24との接点における接着強度よりも高い。
【0035】
本実施形態の鎖編糸21は、2種以上の糸である芯糸と被覆糸とが複合した複合糸であって、少なくとも1種の糸である芯糸が伸縮性を有する複合糸から成る。第1挿入糸24としては、例えば弾発的に伸縮する伸縮性を有するポリアミド(商品名ナイロン)が用いられる。他の実施形態では、例えばポリエステル樹脂およびポリウレタン樹脂などから選ばれた少なくとも1種の繊維であってもよく、あるいは半合成繊維や再生繊維、天然繊維であってもよい。また本発明の他の実施形態では、第1挿入糸24は、熱溶融性ポリウレタン樹脂繊維などを芯糸とした2種以上の糸が複合した複合糸であってもよい。第3挿入糸22は、スパンデックスとも呼ばれる糸であり、伸縮性を有する熱可塑性樹脂材料から成るフィラメント糸であり、例えばポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂から成る。
【0036】
第2挿入糸23は、伸縮性および接着性を有するフィラメント糸から成る。また本発明の他の実施形態では、第2挿入糸23は伸縮性接着糸を芯糸とした複合糸であってもよい。
【0037】
本実施形態の第2挿入糸23は、ポリウレタン繊維からなるが、第2挿入糸23の溶融温度は、鎖編糸21の接着性を有する芯糸と同等であり、第3挿入糸22の溶融温度よりも低く、熱可塑性を有する。また、本実施形態では、第3挿入糸22と第2挿入糸23とを2本並走させて挿入しており、後述する効果をさらに向上させている。他の実施形態では、第3挿入糸22と第2挿入糸23が交差する挿入方法にしてもよい。
【0038】
本実施形態の実現手段として、編レース1の編成に用いる各糸の選択、編レース1に形成すべき柄モチーフの決定およびモチーフを構成する柄糸の選択、所望の編成組織を形成するための編地の設計が完了するなどして、編地編成の準備が完了すると、編レース1の製造を開始する。
【0039】
編地編成工程では、ラッセル編機である編機を用いて、編レース1の前駆体となる前駆体編地を編成する。編機は、設計される編立て順序に従って、鎖編糸21に第1挿入糸24や第3挿入糸22、または第2挿入糸23などを編み込んで、編レース1と同様の編成組織の前駆体編地を編成する。
【0040】
前駆体編地においては、鎖編糸21や第1挿入糸24および第3挿入糸22、および第2挿入糸23は、伸縮性を有している。編機は、伸縮性を有する糸を伸長させた状態で、編成動作を実行する。前駆体編地は、伸長状態で編み込まれた各糸の復元力によって、編成後に縮むこととなり、この伸縮性が編レース1まで維持されると、編レース1が伸縮性を有するストレッチ編レースとなる。
【0041】
加熱工程では、編成された前駆体編地を、鎖編糸21と第2挿入糸23に対して接着性を有する繊維を、接着性の発現する溶融温度以上であり、かつ第1挿入糸24、鎖編糸21の接着性を有しない糸(以下、非接着糸ともいう)、モチーフ構成糸の溶融温度未満の温度まで加熱する。前駆体編地を加熱するにあたっては、前駆体編地を規格ピッチや幅に合わせるよう伸長させ、各糸21,22,23,24が伸長された状態で加熱溶融されて接着性が高くなった、鎖編糸21の接着性を有する糸(以下、接着糸ともいう)性と第2挿入糸23とがその接点で接着し、またそれらが第3挿入糸22や第1挿入糸24との接点で接着することになる。
【0042】
したがって、鎖編糸21の接着性を有する糸と第3挿入糸22と第1挿入糸24と第2挿入糸23との交差部のうち、鎖編糸21の接着性を有する繊維と第2挿入糸23が接触している接点が特に強く接着される。そのため、鎖編糸21がウエール間を横渡りして、鎖編組織として編成され、再び第2挿入糸23との接点における接着により、鎖編糸21の糸ずれが解消され、ウエール方向Wの引張り力に対して鎖編糸21の伸長以上に横渡り部分が伸びることなく、ウエール間の開きが防止されるため、第1挿入糸24の糸抜けも軽減され、さばけが防止できる。
【0043】
図3は、熱セット前の編レース1の2ウエールにわたる編成組織図である。第2挿入糸23は、編レース1を編成している状態では、
図1、
図2に示すような形状である。
【0044】
他の実施形態では、第1挿入糸24は、複合糸であり、伸縮性を有する芯糸が、例えばエア交絡等によって被覆糸によって覆われた構成である。芯糸は、熱可塑性合成樹脂から成る長繊維糸(フィラメント糸)であり、例えばポリウレタン糸から成る。被覆糸は、合成樹脂から成る複数の長繊維によって構成される長繊維糸(フィラメントヤーン)であり、例えばポリアミド(登録商標ナイロン)から成る。
【0045】
他の実施形態の第1挿入糸24は、複合糸であり、編成前の張力が付与されていない自然状態では、芯糸が露出しないように、被覆糸によって覆われている。第1挿入糸24は、芯糸の伸縮性を利用し、伸張させた状態で編成されている。第1挿入糸24は、伸張された状態で編成され、屈曲部では、芯糸の張力により、被覆糸から芯糸が露出する状態となる。
【0046】
このような第1挿入糸24の芯糸は、接着性を有する長繊維糸であってもよい。
【0047】
図3に示すように、鎖編糸21は、鎖編みされることによって、第1ループ状部分25aと第2ループ状部分25bとが形成される。第1ループ状部分25aと第2ループ状部分25bとは、交互に連なってコース方向Cに複数段並んで形成される。ここで、第1ループ状部分25aは、ニードルループとも称され、第2ループ状部分25bは、シンカーループとも称される。第1ループ状部分25aと第2ループ状部分25bとが交互に連なってコース方向Cに延びることで、コースが形成されることで、鎖編組織、言い換えるとチェーンステッチ組織を形成している。また鎖編糸21が適宜横振りして、ウエール方向Wに隣接する鎖編組織を互いに連結し、ほつれ防止機能を有する鎖編組織を形成することができる。鎖編糸21が横振りする部分をラン止め部分42と称する。
【0048】
各第1ループ状部分25aは、大略的に逆U字状に形成されて、コース方向Cおよびコース方向Cに直交するウエール方向Wに大略的に並んで配置される。また各第1ループ状部分25aは、コース方向一方となるコース方向前段C1に開く。第1ループ状部分25aがコース方向Cに一列に並んでウエール26を形成し、第1ループ状部分25aがウエール方向Wに一列に並んでコースを形成する。
【0049】
第2ループ状部分25bは、コース方向Cに並ぶ第1ループ状部分25aを連結する。例えば1つの第2ループ状部分25bに注目する。注目する第2ループ状部分25bは、その一端部が、注目する第2ループ状部分25bと同一段の第1ループ状部分25aの端部に連なる。注目する第2ループ状部分25bは、一端部から他端部に向かうにつれて、注目する第2ループ状部分25bのコース方向前段C1の第1ループ状部分25aを一方側から他方側に挿通してコース方向後段C2に延びて、注目する第2ループ状部分25bと同一段の第1ループ状部分25aを他方側から一方側に挿通してコース方向後段C2に延び、注目する第2ループ状部分25bのコース方向後段C2の第1ループ状部分25aの端部に連なる。このようにして各ループ状部分25a,25bが連鎖状に連結されて、コース方向Cに延びるコースが形成される。第1挿入糸24および第3挿入糸22、第2挿入糸23などの各挿入糸は、第1ループ状部分25aと第2ループ状部分25bとの間に挟まれることによって、コースに編込まれている。
【0050】
本実施形態において、コース方向Cは、編地のたて方向であり、レース編み立て方向を意味する。またウエール方向Wは、編地のよこ方向であり、レース編立て方向に対して、交差する方向を意味する。第1ループ状部分25aは、コース方向Cおよびウエール方向Wに複数並んで配置される。またコース方向Cおよびウエール方向Wに並ぶ複数の第1ループ状部分25aは、予め定める仮想平面に大略的に接して並ぶ。この場合、第1挿入糸24および第3挿入糸22、第2挿入糸23などの鎖編組織に編込まれる各編込み糸は、その仮想平面に対して一方に配置される。
【0051】
本発明に係る実施形態では、前記第1ループ状部分25aに沿って延びる仮想平面に対して第1挿入糸24が配置される方向を表方向Z1と称し、第1挿入糸24に対して第3および第2挿入糸22,23が配置される方向を裏方向Z2と称する。
図1、
図2および
図3では、紙面に垂直な厚み方向Zのうち紙面から手前となる方向を表方向Z1とし、紙面に垂直な方向のうち紙面から奥に遠ざかる方向を裏方向Z2とする。
【0052】
編レース1の表方向Z1の面は、第1挿入糸24および第3挿入糸22や柄糸(図示せず)などの編込み糸によって、第1ループ状部分25aが隠れる。したがって編レース1の表方向Z1の面は、裏方向Z2の面に比べて、編レース1に形成される柄模様およびレース模様が明確となる。
【0053】
例えば注目する第2ループ状部分25bは、その第2ループ状部分25bのコース方向前段C1の第1ループ状部分25aを表方向Z1に挿通して、その第2ループ状部分25bのコース方向同段の第1ループ状部分25aを裏方向Z2に挿通し、コース方向後段C2の第1ループ状部分25aに連なる。
【0054】
第1挿入糸24は、鎖編組織にレース模様を形成するための糸である。第1挿入糸24は、コース方向Cに隣接するウエールにそれぞれ編込まれることで、コース方向Cに隣接する2つのウエールを連結する。
図3に示すように、第1挿入糸24は、コース方向Cに隣接する一方のウエールから他方のウエールにわたって延びる横振り部分24aと、コースに編込まれる編込み部分24bとを有する。
【0055】
コース方向Cに並ぶ2つの横振り部分24aと、横振り部分24aが連結するウエールとによって囲まれる空間には、編地の厚み方向に貫通する透孔37が形成される。この透孔37は、2コース以上に第1挿入糸24の、ウエール間の横渡りが無い領域をいう。第1挿入糸24の横振り部分24aが選択的に配置されることで、透孔37の形状および配置が調整される。これによって編レース1には、透孔37の配置および形状によって表わされるレース模様を形成することができる。ここで横振り部分24aとウエール26とによって囲まれる透孔37は、柄糸によって埋められて、柄模様を形成する場合もある。
【0056】
第1挿入糸24は、第1ループ状部分25aよりも表方向Z1の領域に延びる。第1挿入糸24は、予め設定される第1ループ状部分25aと第2ループ状部分25bとの間を挿通して、コース方向Cに延びる。また本実施形態では、鎖編組織には、第1挿入糸24が編込まれ、第1挿入糸24は、コース方向Cに並んで編込まれる。第1挿入糸24が編込まれる位置は、編レース1に形成されるレース模様によって適宜選択される。
【0057】
第2挿入糸23と鎖編糸21との接着糸は、第3挿入糸22よりも低い融点温度を有する糸によって実現される。本実施形態では、編レース編成後に行われる加熱工程での加熱状態で、部分的に溶融する糸が用いられる。第2挿入糸23は、編レース1を構成する鎖編糸21および第1挿入糸24のほつれや糸抜けを防止するために用いられる。本実施形態では、第2挿入糸23は、非被覆糸、すなわち被覆糸によって被覆されていない裸糸、いわゆるベアヤーンによって実現され、その溶融温度が約140℃以上190℃以下のポリウレタン弾性糸によって実現される。第2挿入糸23は、自然状態に対して伸張した状態で、鎖編組織に編込まれる。
【0058】
第3挿入糸22は、コースに沿って延び、コースを構成する全てのループ状部分25a,25bに編込まれる。したがって鎖編組織のうちで、単位面積あたりの糸の量が疎な下地部分と、単位面積あたりの糸の量が、下地部分よりも密な柄部分との両方に、第3挿入糸22が編込まれる。また本実施形態では、編レース1は、複数の第3挿入糸22を有し、各第3挿入糸22は、コース毎にそれぞれ編込まれる。このように鎖編組織の全領域にわたって、第3挿入糸22が編込まれる。このようなコース毎に第3挿入糸22が編込まれる方式は、例えば1コースおきなど、用途や風合いに応じて挿入方法を変更してもよい。
【0059】
第3挿入糸22は、第1ループ状部分25aよりも表方向Z1の領域に延び、第2ループ状部分25bよりも裏方向Z2の領域を延びる。第3挿入糸22は、対応するウエール26に沿ってコース方向Cに進むにつれてジグザクに進む。例えば第3挿入糸22は、注目する第1ループ状部分25aと第2ループ状部分25bとの間を、コース方向C1からコース方向後段C2に通過すると、注目する第1ループ状部分25aのコース方向後段C2の第1ループ状部分25aと第2ループ状部分25bとの間を、コース方向前段C1からコース方向後段C2に通過する。
【0060】
編成直後には、第3挿入糸22は、第1ループ状部分25aよりも表方向Z1の領域を延び、第1挿入糸24よりも編レース1の裏方向Z2の領域を延びる。したがって第3挿入糸22と第1挿入糸24とが、同じ第1ループ状部分25aと第2ループ状部分25bとの間を挿通する領域では、第3挿入糸22は、第1ループ状部分25aと第2挿入糸23との間を挿通する。また第1挿入糸24は、第3挿入糸22と第2ループ状部分25bとの間を挿通する。この場合、鎖編糸21がコース方向Cに張られることによって、第1ループ状部分25aと第2ループ状部分25bとの曲率半径が小さくなり、第3挿入糸22は、第1挿入糸24と第1ループ状部分25aとの間に配置されて、第1挿入糸24および第1ループ状部分25aに接触する。
【0061】
本実施の形態では、第3挿入糸22と第1挿入糸24とが同じ第1ループ状部分25aと第2ループ状部分25bとの間を挿通する領域では、第3挿入糸22と第1挿入糸24とは、互いに交差した状態で、第1ループ状部分25aと第2ループ状部分25bとを通過する。具体的には、第3挿入糸22は、注目する第1ループ状部分25aがコース方向前段C1の第2ループ状部分25bと連なる側から、注目する第1ループ状部分25aとウエール方向同段の第2ループ状部分25bを通過する。このようなコース毎に第3挿入糸22が編込まれる方式は、例えば1コースおきなど、用途や風合いに応じて挿入方法を変更してもよい。
【0062】
第1挿入糸24は、注目する第1ループ状部分25aがコース方向前段C1の第2ループ状部分25bと連なる側から、注目する第1ループ状部分25aとコース方向同段の第2ループ状部分25bとを通過する。この場合、編レース1がコース方向Cに引張られることによって、第2ループ状部分25bをともに通過する部分で、第3挿入糸22と第1挿入糸24とが近接することになる。
【0063】
また編成直後では、鎖編組織に編込まれた第2挿入糸23および第3挿入糸22は、鎖編組織に完全に拘束されてはいないので、第2挿入糸23と第3挿入糸22とが接触する複数部分のうちのいくらかは、第2挿入糸23が第3挿入糸22よりも表方向Z1に配置された部分が存在する場合がある。この場合であっても、第2挿入糸23と第3挿入糸22とが接触する複数部分のうちのほとんどは、第3挿入糸22が第1挿入糸24よりも裏方向Z2に配置されることになる。
【0064】
また鎖編糸21の非接着糸および第1挿入糸24の繊度は、好ましくは78DTEX以下、特に44DTEX以下のマルチフィラメントが用いられる。鎖編糸21の非接着糸の繊度は、編レース製品として用いられるときに切断しない繊度で、可及的に細いものが用いられる。例えばナイロン(ポリアミド系合成繊維)、レーヨン、ポリエステルおよび綿等の各種の繊維によって実現可能である。また、このような本実施形態で用いる各種糸は、例示に過ぎず、他の種類の糸を用いてもよい。ここで、「非接着糸」とは、鎖編糸21が複合糸から成る場合、芯糸を被覆する被覆糸などの接着に寄与しない糸をいう。
【0065】
また第3挿入糸22の繊度は、好ましくは44DTEX以上、470DTEX以下のポリウレタン弾性糸が用いられる。またポリウレタン弾性糸のほか、溶融温度が比較的低くて、熱可塑性を有する材料であればよく、他の種類の弾性繊維など、例えば接着性弾性糸によって実現されてもよい。
【0066】
本実施形態の編レース1は、編成後に鎖編糸21の接着糸、第2挿入糸23の溶融温度以上であって、残余の鎖編糸21の非接着糸、第3挿入糸22および第1挿入糸24の融点温度未満の所定温度まで加熱される。これによって鎖編糸21の接着糸、第2挿入糸23の一部が部分的に溶解する。溶解部分の一部は、互いの接点や隣接する鎖編糸21の非接着糸、第1挿入糸24および第3挿入糸22に付着する。この状態で固化することで、第2挿入糸23に接する鎖編糸21および第1挿入糸24が、第2挿入糸23と接着された第3挿入糸22から遊離することを防ぐことができる。また第3挿入糸22に接する各鎖編糸21および第1挿入糸24を、第2挿入糸23と接着された第3挿入糸22によって互いに連結させることができる。これによって各糸の連結状態が維持され、糸のほつれを防ぐことができる。
【0067】
このような本実施形態の編レース1によれば、鎖編糸21の鎖編組織に第3挿入糸22が編み込まれてコース方向Cの伸縮性が与えられ、鎖編組織に第1挿入糸24が編み込まれてウエール方向Wに伸縮性が与えられ、鎖編組織に第2挿入糸23が編み込まれてコース方向Cに伸縮性が与えられる。このように編成された編レース1は、熱セット処理されることによって、融点の低い第2挿入糸23が鎖編糸21の接着糸に接着し、第3挿入糸22および第1挿入糸24も部分的に接着して編レース1全体の歪みが除去され、ほつれの生じにくい編レース1が生成される。このような編レース1のレース切断面をウエール方向Wに引っ張ると、第1~第3挿入糸24,23,22が挿入部分から抜けようとして、裁断面の一部が裂けようとするが、鎖編糸21と第2挿入糸23との接着部が強化されるので、鎖編組織が安定し、鎖編糸21の横渡り部42が糸の伸度以上に伸びてウエールW1とW2との間の開きが阻害され、第1挿入糸24の抜けが防止される。また部分的にではあるが、第3挿入糸22、第2挿入糸23および第1挿入糸24の接着点も形成されている。結果として、従来技術よりも挿入糸22~24が抜けにくくなり、さらにさばけに対する高い抑制効果が得られる。
【0068】
このように第2挿入糸23が他の糸と接着した接着部分で鎖編組織の結束が強化される。具体的には、第1ループ状部分25aと第2ループ状部分25bとが第2挿入糸23を介して第3挿入糸22に強く結合される。これによって鎖編糸21の一部が分断されたとしても、第1ループ状部分25aから第2ループ状部分25bが遊離することを防ぐことができる。したがって鎖編糸21のほどけが第1ループ状部分25aと第2ループ状部分25bとの接着部分で阻止され、接着部分を超えて鎖編糸21がほどけることを防ぐことができ、結果としてさばけも防止できる。
【0069】
本実施形態の編レース1は、第3挿入糸22とは別に第2挿入糸23が伸張状態で編込まれることで、編成後の加熱工程に編レース1の第2挿入糸23が第3挿入糸22の収縮力を手助けすることになる。これによって編レース1に第3挿入糸22単独の伸縮性よりも強く伸縮性および後述のキックバック特性を与えることができる。このような第2挿入糸23を構成する伸縮糸は、例えばポリウレタン弾性糸である。
【0070】
第2挿入糸23は、第1挿入糸24よりも第1ループ状部分25a側を延びる。また第2挿入糸23と第3挿入糸22とは、同じ方向に第2ループ状部分25bを通過して、鎖編組織に編込まれる。言い換えると、第3挿入糸22は、第2挿入糸23と同様に延びて編込まれる。第2挿入糸23は、各ウエールに編込まれて、それぞれのウエールに沿ってコース方向Cに進むにつれてジグザグに通過する。
【0071】
他の実施形態では、第2挿入糸23は、注目する第2ループ状部分25bの厚み方向Z2側で、第1挿入糸24よりも厚み方向Z1側に挿通し、コース方向前段C1の第2ループ状部分25bと連なる側から、注目する第1ループ状部分25aからコース方向同段の第2ループ状部分25bを通過する。また第3挿入糸22は、注目する第1ループ状部分25aがコース方向前段C1の第2ループ状部分25bと連なる側と反対側から、注目する第1ループ状部分25aとコース方向同段の第2ループ状部分25bを通過する。したがって第2挿入糸23と第3挿入糸22と第1挿入糸24とがともに同じループを通過する部分では、第2挿入糸23および第3挿入糸22が、第1挿入糸24に交差する。
【0072】
他の実施形態のように、第2挿入糸23が編レース1の表側に編込まれた場合についても、本実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち第3挿入糸23が、鎖編糸21の第2ループ状部分25bや、他の糸に接着することによって、各糸のほつれを防ぐことができる。また第2挿入糸23が、第3挿入糸22と鎖編糸21とを接着することによって、各挿入糸22~24が抜けにくくなり、さらにさばけに対する高い効果が得られる。
【0073】
また本実施形態では、編レース1をウエール方向Wに引っ張ることで、第2挿入糸23と第1挿入糸24とで囲まれた領域が互いにウエール方向Wに近接して、第3挿入糸22、第1挿入糸24、第2挿入糸23、第1ループ状部分25aおよび第2ループ状部分25bが互いに接近する接近部分50が生じる。このようにウエール方向Wに引っ張った状態で編レース1を加熱することで、接近部分50で第2挿入糸23の一部を溶かすことができ、第3挿入糸22、第1挿入糸24、第2挿入糸23、第1ループ状部分25aおよび第2ループ状部分25bを接着する接着力を高めることができる。また他の実施形態でも、第2挿入糸23と第3挿入糸22とが同方向に延びることによって、第3挿入糸22が第2挿入糸23に接触する接触部分を増やすことができ、第1挿入糸24が抜けることを、より確実に防ぐことができる。
【0074】
また編レース1は、第3挿入糸22に比べて、第2挿入糸23が第1ループ状部分25a側に配置される。第2挿入糸23と第3挿入糸22とが同じ方向に進んでループ状部分に編込まれる場合には、第2挿入糸23と第3挿入糸22とが並走して進むので、第2挿入糸23は、第3挿入糸22に比べて第2ループ状部分25b側に配置される場合がある。また第3挿入糸22は、第2挿入糸23と厚み方向Zに並んで配置される場合がある。このように第2挿入糸23と第3挿入糸22との位置関係がランダムとなることによって、第2挿入糸23が第3挿入糸22と第1挿入糸24との間に配置されることもある。これによって、第2挿入糸23と第1挿入糸24とを接着するとともに、鎖編糸21と第2挿入糸23とを接着することができる。
【0075】
本発明によれば、レース切断面をウエール方向Wに引っ張ると、挿入糸22,23,24の挿入部分からの抜けが生じ、裂けたようになる事例に対し、鎖編糸21と鎖編糸21との接着部が強化され、鎖編組織が安定し、また部分的にではあるが、第3挿入糸22、第2挿入糸23および第1挿入糸24の接着点もできる。結果として、従来技術よりも挿入糸22,23,24が抜けにくくなり、第1挿入糸24に熱接着複合糸を使用した場合は、さらに糸抜け防止に効果がある。
【0076】
本発明によれば、キックバック特性の向上(ストレッチレースを伸ばしたときに縮もうとする力、フィット感)について、鎖編糸21と第3挿入糸22、第2挿入糸23のずれが少なくなり、従来技術の鎖編糸のみの接着よりも接着強度が増加するので、伸縮時の接着点の剥がれが少なくなり、伸縮前の位置に戻るようになる。伸縮し易い糸(第3挿入糸22)と伸縮糸よりも少し伸縮し難い糸(第2挿入糸23)とが並走した状態で鎖編組織に編み込まれているため、第3挿入糸22のみが編み込まれ得る場合に比べて、伸ばされようとする力が阻害され、戻る力が大きくなる。
【0077】
また、各糸の接着力向上による形態安定性の向上について、前記従来技術の熱接着では、接着し易い糸の組合せは、熱接着糸同士>熱接着糸と伸縮用ポリウレタン>熱接着糸とナイロン、その他となる。これに対し本発明に係る実施形態では、熱接着糸同士と熱接着糸と伸縮用ポリウレタンとの接着が主となるが、第3挿入糸22と第2挿入糸23とが並走することで、さらに低いセット温度でも強力に接着が可能となる。
【0078】
また、セット温度が低い場合であっても、接着が可能であるならば、破裂強さの向上が可能となる。前記破裂強度は、実際の下着の着用時に指(爪先、ネイル)等による破れ易さに対する強度の目安とされるが、各製造メーカや衣類の用途によって基準値は異なる。破裂強さは、破裂強度試験機を用いてJIS L 1096の規定に準じて計測されるが、薄い生地、伸度の大きい生地、密度が低い生地、加熱による繊維ダメージが大きい生地などでは、弱い傾向がある。通常、セット温度が低いと、ポリウレタン糸の熱セットが甘く(弱く)、洗濯収縮率が悪くなるが、熱融着糸の形態安定性により抑えられる。当然、破裂強度や縮率等の物性面で問題なければ、糸それぞれの形状を保つ程度の高いセット温度、例えば185℃~195℃でも熱セット処理が可能であり、より強い接着点ができることで、着用や洗濯などの外力に対して、形態安定性が向上する。
【0079】
(ストレッチ性のコントロールについて)
従来技術の伸縮糸と熱接着性の伸縮糸では、伸度やキックバック特性等の基本物性に違いがある。製造業者や太さなどの個体差はあるが、通常の伸縮糸の方が伸度やキックバック特性が良い。熱接着性の伸縮糸だけでは、伸縮やキックバック特性などで所望の状態にするには限度があるが、従来技術の伸縮糸と熱接着性伸縮糸との組合わせを行うことで、所望の伸び感やキックバック特性を得ることができる。
【0080】
第2挿入糸23は、熱可塑性樹脂、好ましくは溶融ポリウレタンから成るので、加熱されることによって、同種の素材である第3挿入糸22に容易に接着される。また鎖編糸21も同じく接着性を有する繊維を含む複合糸であり、例えば接着ポリウレタンから成り、また第1挿入糸24は、ポリアミド、レーヨン、その他の材料から成り、第1挿入糸24とは、接着されにくい。したがって、前述のような交差部の一部だけが結合され、鎖編糸21と第3挿入糸22との交差部は接着される。さらに鎖編糸21同士の交差部も同様に接着されるので、交差部の交差部接着率は、その他の各糸接触部分の接着率より高くなる。
【0081】
このように本実施形態では、鎖編糸21および第3挿入糸22が第2挿入糸23に熱接着して密着している部分が混在し、後述するように、ほつれが少なく、しなやかな質感を有する編レースを実現している。
【0082】
このような前駆体編地を加熱して、鎖編糸21と第3挿入糸22と第2挿入糸23との交差部の一部を結合させるとともに、編レース1を形成し、形成した編レース1を精練または染色工程にて、熱セットとも呼ばれる熱処理を行って形態を固定し、編レース1の製造手順を終了する。前駆体編地を加熱することによって、第2挿入糸23は溶融し、伸縮性がわずかに損なわれるが、第2挿入糸23については、溶融破断温度未満の温度までしか加熱されないので、伸縮性を維持することができる。したがって、編レース1は、伸縮性を有している。
【0083】
このような本実施形態の編レース1によれば、伸縮性を有する第3挿入糸22が鎖編組織に編み込まれて、鎖編組織に伸縮性が与えられており、伸縮性を有する編レース1を実現することができる。また鎖編糸21と第3挿入糸22および第2挿入糸23との交差部の一部が接着されている。これによって鎖編糸21と第2挿入糸23との位置ずれ、および鎖編糸21と第3挿入糸22との位置ずれが防がれ、格子の歪みが防がれる。例えば編レースの縫製または裁断などの製造過程に起因する外力、着用または洗濯などの使用状態に起因する外力が作用しても、格子の歪みが防がれて、格子の形状が維持され、美感の良好な編レースが得られ、しかもその優れた美感を長期にわたって保つことができる。
【0084】
しかも編レース1全体に編み込まれる第2挿入糸23の接着性を利用して、鎖編糸21と第3挿入糸22とを結合しているので、部分的に異なる糸が用いられる構成ではなく、視覚的および触覚的に統一性が得られ、美観および風合いが損なわれることはない。さらに芯糸を被覆糸で覆った鎖編糸21を伸長させ、芯糸の露出する部分で他の糸と接着しているので、芯糸の溶融物で被覆糸の表面が覆われてしまうことがなく、編レース1を肌に接触させたとき、芯糸の溶融物が肌に接触せずに、被覆糸が肌に接触する。被覆糸は、前述のようなフィラメント糸であり、複数の長繊維の集まりであるので、柔らかいソフトな感触が得られ、良好な風合いが保たれる。ここで「風合い」とは、手触りを意味しており、良好な風合いとは、柔軟性を有しかつソフト感を有する手触りを意味する。
【0085】
また鎖編糸21と第2挿入糸23との交差部および鎖編糸21同士の交差部の全てが接着される場合のように、伸縮性および柔軟性が損なわれてしまうことがなく、伸縮性が維持されかつ風合いの良好なレース編地が得られる。さらに鎖編糸21と第2挿入糸23の交差部の接着率が、鎖編糸21同士の交差部の接着率より高い。これによって糸の交差部全体の接着率を低く抑え、柔軟性を保ったうえで、格子の歪みに影響しやすい鎖編糸21と第2挿入糸23との位置ずれをできるだけ防ぎ、美観を保つことができる。このように、美観が良好でありかつ風合いが良好である、伸縮性のレース編地が得られる。またこのような高品質のレース編地を用いて編レース製品を製造すれば、高品質の編レース製品を得ることができる。
【0086】
前述の加熱工程における加熱条件は、鎖編糸21の接着糸(芯糸)と第2挿入糸23とが溶融するとともに、接着糸と第2挿入糸23以外の糸の脆性化を含めて特性変化が防がれる加熱条件に設定される。また加熱工程における加熱条件は、接着糸と第2挿入糸23とが糸としての形態を保てる程度の温度に加熱する加熱条件に設定されることが好ましい。これによって芯糸の溶融物が編地の表面に表れないようして、直接肌に接触しにくくすることができる。
【0087】
加熱条件は、たとえば加熱温度と、加熱時間とが設定される。鎖編糸21の接着糸(芯糸)と第2挿入糸23とが溶融する最低溶融温度をB1とし、最低溶融温度B1で加熱したときに軟化するまでの時間をD1とする。また鎖編糸21の接着糸と第2挿入糸23以外の糸の特性が変化する最低特性変化温度をB2とし、最低特性変化温度B2で加熱したときに糸の特性が変化するまでの時間をD2とする。この場合、本実施形態では、加熱工程での加熱温度をB3とし、加熱時間をD3とすると、B1<B3<B2、D1<D3<D2に設定される。さらにB3をできるだけB1に近い値とし、D3をできるだけD1に近い値とすることによって、鎖編糸21の接着糸と第2挿入糸23の糸としての形態を保ちやすくすることができる。
【0088】
本実施形態では、鎖編糸21の接着糸(芯糸)として、好ましくは11DTEX以上333DTEX以下、さらに好ましくは11DTEX以上56DTEX以下のポリウレタン弾性接着糸を用いる。また190℃以下の加熱温度で、30sec以上90sec以下の加熱時間、熱処理する。これによって鎖編糸21の接着糸と第2挿入糸23とを溶融させるとともに、残余の糸が特性変化することを防ぐことができる。
【0089】
例えば加熱時間を一定にした場合、加熱温度を170℃未満とすると、溶融した鎖編糸21の接着糸(芯糸)と第2挿入糸23とによる接着力が小さくなる。また加熱温度が195℃を超える高温にすると、鎖編糸21の芯糸の糸としての形態を保持しにくくなるうえ、芯糸以外の糸の特性が変化してしまうおそれがある。これに対して本実施形態では、上述したように加熱温度を190℃以下とすることで、上述した問題が生じることを防ぐことができる。
【0090】
第2挿入糸23は、細いほど接着部が点接点に近くなって小さくなり、風合いが良くなるが、糸自体の伸縮力も弱いため、製品のサポート性が悪くなり、太くなるほど接着部が大きくなって風合いが損なわれる。また第2挿入糸23は、細いほど、強度が小さくなり、太いほど、強度が大きくなる。したがって第2挿入糸23が、22DTEX未満の細い糸である場合、強度が小さくなり過ぎる問題を有し、333DTEXを超える太い糸である場合、風合いが損なわれる問題を有する。第2挿入糸23を、22DTEX以上333DTEX以下にすることによって、接着部に高い接着強度が得られ、風合いが良好であり、強度的に不足がなくかつ良好な風合いが得られる。同様の観点で、第2挿入糸23を、22DTEX以上156DTEX以下にすることが好ましい。
【0091】
また編レース1は、前述のように交差部の一部が接着されているので、糸のほつれの進展を防ぐ効果がある。したがって例えば編レース1を、モチーフカットおよびフリーカットなどと呼ばれるように、任意の形状に裁断することができるようになる。
【0092】
(デマッチャー試験による外観確認)
従来品である比較例1と本実施形態の実施例1とのデマッチャー試験後の外観確認を実施した。すなわち同一柄模様のレース編地にて、コース方向50mm、ウエール方向300mmの試験片を採取し、ウエール方向Wの中央に100mm幅に印を入れる。(株)大栄科学精機製作所製のデマッチャー試験機DC-3Aを使用し、ウエール方向中央の100mm間の上下を固定し、200%の伸長を、200回/minのスピードで2000回の伸縮を実施した。試験後の試験片を目視と金定規にて、ウエール方向中央部100mm間の、さばけ箇所数と深さとを測定した、ここでいう「さばけ」とは、レース編地のウエール方向Wの裁断面で鎖編糸21より挿入糸が抜けた状態を指す。
【0093】
【0094】
本外観確認試験において、本実施例1に使用の試験片は、従来品と比べ、第2挿入糸23が入っている点以外の糸使いや編成条件は同じである。第1挿入糸24は、従来の伸縮糸、すなわち熱接着性のないポリウレタン糸に比べ、熱セット時の形状を保ち易く、鎖編糸に挿通し、他の糸のテンションで曲げられた状態での形状を保ち易い。この点に関しても、裁断状態の安定性に優れている。
【0095】
比較例1と本実施例1とは編組織構造的に同じではあるが、シンカーループにて、レース裏面からニードルループ、伸縮性熱接着糸、およびジャカード糸(またはモチーフ形成糸)を密着させる。そのため、伸縮性熱接着糸は、結合性との相乗効果で特に接着点がずれたり、剥がれたりし難いことが確認された。
【0096】
結果として、鎖編のループ間や隣り合う鎖編糸間の距離を維持しようとするため、寸法変化が安定する。
【0097】
(レースの波打ち防止について)
編レース製品は、着用や洗濯等の外力により、コース方向Cやウエール方向Wに伸縮が繰り返され、各糸の接点がずれて歪みが発生し、厚み方向に波打ち(ヨレ)が発生する。
【0098】
理由としては、伸縮性熱接着糸である第2挿入糸23は、上記と同じく通常の伸縮糸(熱接着性のないポリウレタン糸)に比べ、熱セット時の形状を保ちやすい。鎖編糸21に挿通し、他の糸のテンションにて曲げられた状態を熱セット時に維持しようとすると、そのため密度の高い部分や低い部分の形状をそのまま安定させるのと、第1挿入糸24による接着点で糸のずれが少なく、モチーフの有無による縮み具合の差が減ることで、伸縮によるレースの厚み方向の波打ちが軽減される。
【0099】
(裁ち端ほつれについて)
編レースは、編成後、染色や熱セット工程のみでの商品はほとんどなく、編レースを裁断し、そのものや他の部材と縫製や接着を行い、下着や上着として製品化される。また近年は、アウターへのインナー線の写り軽減、縫い目へのストレスフリーを目的として、切りっぱなしの状態で製品化させる商品もある、縫製や接着する場合に、簡素に行った製品を着用や洗濯を行った場合、縫製や接着部分から鎖編糸21がほどけで穴が空く場合もある。またポリウレタン糸の飛び出し(鎖編の間を抜ける)が発生する場合もある。物によりかん止め等の処置を行い、防止する場合がある。切りっぱなしの状態では何らかの手法により、裁断面を維持する必要がある。
【0100】
理由としては、第1挿入糸24と第3挿入糸22とシンカーループ25bとニードルループ25aとで挟み込み、より第2挿入糸23とシンカーループ25bまたはニードルループ25aとが密着する、この状態で熱セットを行い接着することで、鎖編糸21がほつれ難く、ループのほどけがとまるため、縫製部分からの穴あきは少ない。また従来の製品(熱接着性のないポリウレタン糸)と比べ、着用や洗濯などの使用による伸縮性熱接着糸の抜けも見られない。これによってかん止め等の処置の必要が無くなる。
【0101】
(透け感の維持)
編レースは、熱セット後が最も幅の広い状態で以降の加工や着用、洗濯により編レース1はほとんどの場合、縮む。その場合はコース方向Cの密度やウエール方向Wの密度が高くなり、結果として透け感が損なわれる。また、厚み方向に波打ちながら、縮むと編レースが捩じれた状態に見えるため、外観が悪くなる。このように寸法変化と大きく関連し、縮みが少ないコース方向Cの密度やウエール方向Wの密度が安定するため、編レース1の透け感を維持することができる。
【0102】
上記の各実施形態では、基本的に鎖編糸が熱接着複合糸を使用し、第2挿入糸(熱接着糸で裸糸を使用)との接着が主として説明し、鎖編糸のみ複合糸を使用し、他は単一素材の糸を使用した例を示したが、本発明の他の実施形態として、第1挿入糸に熱接着複合糸を使用した場合、および同じく第2挿入糸に熱接着複合糸を使用した場合には、芯糸同士が接着し、所要の引張強度を確実に得られ、ほつれを防止することができる。
【0103】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、例えば挿入糸の挿入方向や糸使い、例えば鎖編糸の横渡り頻度、チュール組織やパワーネット組織などの編組織等、種々の変更、追加が可能である。
【符号の説明】
【0104】
1 編レース
21 鎖編糸
22 第3挿入糸
24 第1挿入糸
23 第2挿入糸
25a 第1ループ状部分(ニードルループ)
25b 第2ループ状部分(シンカーループ)
27 鎖編糸21と第1挿入糸24との接点
28 第2挿入糸23とシンカーループ25bと接点
31 鎖編糸21同士の接点
30 第2挿入糸23と第3挿入糸22との接点
33 第2挿入糸23とニードルループ25aとの接点
34 第2挿入糸23と第1挿入糸24との接点
50 接近部分
C コース方向
C1 コース方向前段
C2 コース方向後段
W ウエール方向
W1 ウエール右方向
W2 ウエール左方向
Z 編レース表裏方向
Z1 レース表方向
Z2 レース裏方向