(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】高所作業用部材及び高所作業方法
(51)【国際特許分類】
B66F 9/06 20060101AFI20241211BHJP
A01G 23/00 20060101ALI20241211BHJP
B66F 11/04 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
B66F9/06 M
A01G23/00 515Z
B66F11/04
(21)【出願番号】P 2022071744
(22)【出願日】2022-04-25
【審査請求日】2023-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】319002474
【氏名又は名称】中坪造園有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】中坪 政貴
【審査官】山田 拓実
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-164267(JP,A)
【文献】実開平07-021690(JP,U)
【文献】特開2006-069235(JP,A)
【文献】特開2021-185882(JP,A)
【文献】米国特許第05638917(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66F 9/00-11/04
A01G 23/00
B60P 3/14
E04G 5/00
E04G 21/32
E06C 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンの腕部の先端に取り付けられる高所作業用部材であって、
外形が略四角形の枠体で、内部に少なくとも一つの閉空間が形成されているフレームと、
該フレームから外方に向かって一本のみ延出している第一支柱部と、
前記フレームから前記閉空間の内部に向かって、前記閉空間を閉じることなく突出している複数の突出部材と、
を有する第一部材を具備し、
該第一部材は、作業者の足場となる部材を有していない
と共に、
前記第一支柱部が前記フレームの一方の端部から延出していることにより、前記第一部材は「L」字状、または、「く」字状を呈している
ことを特徴とする高所作業用部材。
【請求項2】
クレーンの腕部の先端に取り付けられる高所作業用部材であって、
外形が略四角形の枠体で、内部に少なくとも一つの閉空間が形成されているフレームと、
該フレームから外方に向かって一本のみ延出している第一支柱部と、
前記フレームから前記閉空間の内部に向かって、前記閉空間を閉じることなく突出している複数の突出部材と、を有する第一部材を具備し、
該第一部材は、作業者の足場となる部材を有していないものであり、
第二部材を更に具備し、
該第二部材は、
前記第一支柱部に着脱可能に接続された第二支柱部と、
該第二支柱部から交差する方向に、前記フレームとの間の空間を閉じることなく延出している桟部材と、
少なくとも前記桟部材から突出し、端部が自由端である下部突出部材と、を備える
ことを特徴とす
る高所作業用部材。
【請求項3】
請求項2に記載の高所作業用部材と、第一ロープ及び第二ロープを使用して行う高所作業方法であり、
前記第一ロープは、その両端が作業者の胴部の両脇に留め付けられることによりU字状をなすと共に第一長さ調整器を備え、
前記第二ロープは、その両端が作業者の腹部に留め付けられることにより輪状をなすロープ、または、一端が作業者の腹部に留め付けられ他端に開閉可能な輪状部を備えているロープであると共に、第二長さ調整器を備えており、
前記第一ロープによって作業者の身体を前記高所作業用部材に支持させる一方で、前記第二ロープを前記閉空間に通すことにより、前記フレームと前記突出部材との交差部の複数のうち一つを前記第二ロープのアンカーポイントとすることにより、前記第二ロープのアンカーポイントを変更可能とし、
前記第一長さ調整器または前記第二長さ調整器による長さの調整により、少なくとも前記第一ロープ及び前記第二ロープの一方に張力をかけることにより前記高所作業用部材に作業者の身体を支持させつつワークポジショニングシステムによって作業を行い、
前記高所作業用部材の外部の足場を使用するときは、前記第一支柱部と前記第二支柱部との接続を解除することにより前記第二部材を取り外した状態で使用し、前記第一支柱部に前記第二支柱部が接続された状態では、前記第二部材を足場として使用する
ことを特徴とする高所作業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高所作業のためにクレーンの腕部の先端に取り付けられる高所作業用部材、及び、該高所作業用部材を使用して行う高所作業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従前より、樹木の剪定や、高い建造物における電気工事や外壁の塗装などの高所作業のために、クレーンの腕部の先端にボックス状の作業台が設けられており、腕部の長さや起伏角度を制御する制御装置が作業台に設けられている高所作業車が使用されている。しかしながら、このような高所作業車では、腕部の長さや起伏角度を作業台から制御するために、クレーン本体と作業台との間で電気的に接続された制御構造が必要であり、構成が複雑となると共に高コストとなる問題があった。
【0003】
加えて、作業者はボックス状の作業台の中で起立した状態で作業を行うため、クレーンの腕部の起伏角度によらず作業台の床面を水平に保つ制御機構が必要であり、構成が複雑となると共に高コストとなる問題があった。更に、作業者が作業できる範囲が、ボックス状の作業台の中で起立した状態で、作業者の手が届く範囲に限られる。そのため、広い範囲で作業を行うためには作業台を移動させる必要があり、頻繁に作業台を移動させる作業が煩雑であるという問題があった。また、ボックス状の作業台は嵩張るため、作業台が周囲の物と干渉するような狭小な空間では、作業ができないという問題があった。
【0004】
一方、クレーンの腕部の先端に、着脱可能なボックス状の作業台を取り付けて、高所作業を行うことも提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような作業台では、クレーンの腕部の長さや起伏角度は、クレーン本体側で制御するか、作業台上の作業者が操作するリモコンを介して制御するのが一般的である。作業台に制御装置を備えさせている上記の高所作業車よりは構成が簡易であり、他の用途にも使用できるクレーンを利用できる利点はある。
【0005】
しかしながら、このような高所作業用の作業台であっても、作業者はボックス状の作業台の中で起立した状態で作業を行うため、腕部の起伏角度によらず作業台の床面を水平に保つ制御機構が必要である点は同じであり、構成が複雑となると共に高コストとなる問題があった。更に、作業者が作業できる範囲が、ボックス状の作業台の中で起立した状態で作業者の手が届く範囲に限られるという短所、及び、嵩張るボックス状の作業台が干渉するような環境では作業ができないという短所については、高所作業車と同様であった。
【0006】
このようなボックス状の作業台の問題点を解決するため、本出願人は、クレーンの腕部の先端に取り付けられる枠状の高所作業用部材を提案している(特許文献2参照)。この高所作業用部材は、主フレームと、主フレームから内部空間に向かって延出し、主フレームの内部空間に複数の閉空間を形成している内部材と、閉空間を更に閉じることなく内部材から突出している複数の突出部材と、を備えている。作業者の身体に取り付けた二本のロープを閉空間に通し、少なくとも一本のロープに張力をかけて作業者の身体を高所作業用部材に支持させ、一本のロープを引き掛ける突出部材を変更することにより、ロープを外すことなくアンカーポイントを移動させることができるため、作業者の身体を外方に乗り出させた種々の姿勢を取りやすく、ワークポジショニングシステムによって、広い範囲で作業を行うことができる。また、枠状の簡易な構成であるため、低コストで製造できると共に、狭小な空間に進入させて作業を行うことができる利点がある。
【0007】
本出願人は、このような利点を有する高所作業用部材が更に使用し易いものとなり、対象となる作業範囲(用途)が広がることを目的として、更に開発を進めている。本発明は、その過程でなされたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-171093号公報
【文献】特開2020-164267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、より使用し易く、対象となる作業範囲がより広い高所作業用部材、及び、該高所作業用部材を使用して行う高所作業方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる高所作業用部材は、
「クレーンの腕部の先端に取り付けられる高所作業用部材であって、
外形が略四角形の枠体で、内部に少なくとも一つの閉空間が形成されているフレームと、
該フレームから外方に向かって一本のみ延出している第一支柱部と、
前記フレームから前記閉空間の内部に向かって、前記閉空間を閉じることなく突出している複数の突出部材と、を有する第一部材を具備し、
該第一部材は、作業者の足場となる部材を有していないと共に、
前記第一支柱部が前記フレームの一方の端部から延出していることにより、前記第一部材は「L」字状、または、「く」字状を呈している」ものである。
【0011】
クレーンの「腕部」は、クレーンにおいて伸縮及び起伏する竿状の部分であり、「ジブ」或いは「ブーム」と称される部分を指している。
【0012】
本構成の高所作業用部材は、樹木の枝や又部、土木・建築構造体など、外部のものを足場とする場合に使用する。この高所作業用部材を使用した高所作業方法では、二つのロープ(第一ロープ、第二ロープ)を使用し、これらのロープを作業者の身体に留め付けると共に高所作業用部材の閉空間に通す。第一ロープは主に、U字吊り状態で作業者の身体を高所作業用部材に支持させるロープ(ランヤード)として使用する。一方、第二ロープは、後述するように、高所作業用部材から取り外すことなくアンカーポイントを移動させるロープであり、作業者の位置や姿勢を変える際の移動用ロープとして使用する。そして、第一ロープ及び第二ロープは、それぞれ長さの調整によって張力をかけた状態とする。第一ロープ及び第二ロープの少なくとも一方の張力によって、高所作業用部材に作業者の身体を支持させることで安定した姿勢を確保することができ、ワークポジショニングシステムによって作業を行うことができる。
【0013】
少なくとも一本のロープに張力をかけることにより、足場から外方に身体を乗り出させた姿勢で作業を行うことができる。そのため、ボックス状の作業台内に起立した状態で行う作業に比べて、広い範囲で作業を行うことができる。
【0014】
加えて、高所作業用部材は、フレームの内部の閉空間に向かって、閉空間を更に閉じることなくフレームから突出している突出部材を複数備えている。従って、突出部材の自由端が上方を向く姿勢で高所作業用部材を使用することにより、第二ロープを高所作業用部材から取り外すことなく、フレームと突出部材との交差部であるアンカーポイントを移動させることができる。そのため、第一ロープの長さを調整して張力をかけた状態を維持しつつ、第二ロープのアンカーポイントを移動させることにより、作業者は高所作業用部材に対する位置や姿勢を種々とすることができ、広い範囲で作業を行うことができる。また、第二ロープのアンカーポイントを移動させられることにより、作業者は常に安定した楽な姿勢で作業を行うことができる。
【0015】
そして、それぞれ長さの調整が可能な二本のロープを使用することにより、一方の張力を緩める場合、例えば、アンカーポイントの移動のために第二ロープの張力を緩める場合であっても、他方のロープに張力がかかった状態を維持することにより、作業者の姿勢を安定して保つことができる。
【0016】
更に、第一ロープ及び第二ロープのうち、少なくとも一本はフレーム内の閉空間に通しておくことができ、作業者が意図して外さない限り、高所作業用部材から外れない。そのため、作業者が作業しやすい位置や姿勢をとるために、一方のロープについて高所作業用部材に対する取り付け位置を変更する際、いったん高所作業用部材からロープを外す場合であっても、他方のロープが墜落防止用ロープ(バックアップロープ)として機能する。従って、作業者の墜落を有効に防止して、安全に高所作業を行うことができる。
【0017】
また、本構成の高所作業用部材は、枠状のフレームから第一支柱部が一本のみ延出している構造体であり、非常にシンプルな構造である。加えて、従来のボックス状の作業台では、クレーンの起伏角度によらず作業者が起立する床を水平に保つための制御機構が必要であったところ、本構成の高所作業用部材にはそのような要請がない。従って、本構成の高所作業用部材は極めて簡易な構成であり、低コストで製造することができる。
【0018】
更に、フレームから第一支柱部が一本のみ延出しており、作業者の足場となる部材を有していない構造体であることから、主フレームの中に足場となる部分を有していた従来の高所作業用部材(特許文献2)に比べて軽量とすることができる。そのため、クレーンの腕部に高所作業用部材を取り付ける作業が行い易い。また、フレームから第一支柱部が一本のみ延出している構成は、L字やくの字に近い形状となり、従来の高所作業用部材(特許文献2)に比べて、より狭小な空間に進入させやすい。そのため、例えば、樹冠に入って木の枝や又部を足場として行う作業など、足場はあるが非常に狭小である空間で行う作業が可能であり、作業対象の範囲がより広いものとなる。
【0019】
本発明にかかる高所作業用部材は、上記構成に替えて、
「クレーンの腕部の先端に取り付けられる高所作業用部材であって、
外形が略四角形の枠体で、内部に少なくとも一つの閉空間が形成されているフレームと、
該フレームから外方に向かって一本のみ延出している第一支柱部と、
前記フレームから前記閉空間の内部に向かって、前記閉空間を閉じることなく突出している複数の突出部材と、を有する第一部材を具備し、
該第一部材は、作業者の足場となる部材を有していないものであり、
第二部材を更に具備し、
該第二部材は、
前記第一支柱部に着脱可能に接続された第二支柱部と、
該第二支柱部から交差する方向に、前記フレームとの間の空間を閉じることなく延出して
いる桟部材と、
少なくとも前記桟部材から突出し、端部が自由端である下部突出部材と、を備える」もの
とすることができる。
【0020】
本構成の高所作業用部材は第二部材を備えており、第二部材を足場として使用することができる。具体的には、少なくとも桟部材から突出している下部突出部材と桟部材との交点に足裏を掛け、足場とすることができる。そのため、樹木の枝や又部、土木・建築構造体など体重を支えることができる足場がない場合や、外部の足場があっても使用しにくい場合は、第一支柱部に第二支柱部を接続することにより、足場付きの高所作業用部材として使用する。一方、外部の足場を使用する場合は、第二部材を取り外して使用する。
【0021】
このように、第二部材を備える本構成の高所作業用部材は、第二部材が取り付けられた状態と、第二部材が取り外された状態との二通りの使用が可能である。
【0022】
また、第二部材が取り付けられている状態では、第一支柱部に接続された第二支柱部から交差する方向に、桟部材がフレームとの間の空間を閉じることなく延出している。つまり、第二部材は、第一部材に片持ち支持されている。そのため、足場となる第二部材を備えていても、第二部材をフレームの両側に支持させた場合に比べて軽量とすることができる。更に、片持ち支持の反対側の空間が空いているため、第二部材をフレームの両側に支持させた場合に比べて、より狭小な空間に進入させ易い利点がある。
【0023】
次に、本発明にかかる高所作業方法は、
「上記に記載の第二部材を備える高所作業用部材と、第一ロープ及び第二ロープを使用して行う高所作業方法であり、
前記第一ロープは、その両端が作業者の胴部の両脇に留め付けられることによりU字状をなすと共に第一長さ調整器を備え、
前記第二ロープは、その両端が作業者の腹部に留め付けられることにより輪状をなすロープ、または、一端が作業者の腹部に留め付けられ他端に開閉可能な輪状部を備えているロープであると共に、第二長さ調整器を備えており、
前記第一ロープによって作業者の身体を前記高所作業用部材に支持させる一方で、前記第二ロープを前記閉空間に通すことにより、前記フレームと前記突出部材との交差部の複数のうち一つを前記第二ロープのアンカーポイントとすることにより、前記第二ロープのアンカーポイントを変更可能とし、
前記第一長さ調整器または前記第二長さ調整器による長さの調整により、少なくとも前記第一ロープ及び前記第二ロープの一方に張力をかけることにより前記高所作業用部材に作業者の身体を支持させつつワークポジショニングシステムによって作業を行い、
前記高所作業用部材の外部の足場を使用するときは、前記第一支柱部と前記第二支柱部との接続を解除することにより前記第二部材を取り外した状態で使用し、前記第一支柱部に前記第二支柱部が接続された状態では、前記第二部材を足場として使用する」ものである。
【0024】
これは、第二部材を備える場合の高所作業用部材を使用した高所作業方法であり、上述したように、第二部材が取り付けられた状態で第二部材を足場として行う作業と、第二部材が取り外された状態で外部の足場を使用する作業との二通りの作業が可能である。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、より使用し易く、対象となる作業範囲がより広い高所作業用部材、及び、該高所作業用部材を使用して行う高所作業方法を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態である高所作業用部材の分解図である。
【
図2】作業者が装着した第一ロープ及び第二ロープと
図1の高所作業用部材との関係を説明する図である。
【
図3】第二部材が取り付けられた状態の高所作業用部材を使用した高所作業を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態である高所作業用部材1、及び、高所作業用部材1を使用して行う高所作業方法について、図面を用いて具体的に説明する。
【0028】
まず、高所作業用部材1の構成について、主に
図1に基づいて説明する。高所作業用部材1は、第一部材10と第二部材20とを備えている。
【0029】
第一部材10は、フレーム10fと、第一支柱部11と、支承部材12と、複数の突出部材18a,18bとを備えている。フレーム10fは、外形が細長い略四角形で、内部に第一閉空間S1を有している。この第一閉空間S1が、本発明の「閉空間」に相当する。フレーム10fのサイズは、例えば、長手方向の長さを80cm~120cm、長手方向に直交する方向の長さを15cm~40cmとすることができる。
【0030】
第一支柱部11は、フレーム10fの長手方向における一方の端部から、一本のみが延出している。第一支柱部11は筒状であり、フレーム10fの長手方向に対して、直角よりは少し小さい角度をなしている。第一支柱部11は、貫通孔11hを複数備えている。これらの貫通孔11hは、クレーンの腕部の先端に第一部材10を取り付けるために使用されると共に、第二部材20との接続のために使用される。
【0031】
ここで、高所作業用部材1は、第一支柱部11が上下方向となるように使用される。後述するように、高所作業用部材1は、作業者の姿勢を保持させるように使用させるため、90度横転させて使用されたり、180度反転させて使用されたりすることはないが、傾けて使用されることがある。そのため、高所作業用部材1における上下方向は、高所作業用部材1に支持された作業者にとっての上下方向であり、鉛直方向のみを指すものではない。
【0032】
このような高所作業用部材1の使用状態における上下方向に対応させて、フレーム10fにおける上下方向を考えると、フレーム10fの下方において長手方向に延びている部分からは、第一閉空間S1の内部に向かって、複数の突出部材18aが、第一閉空間S1を閉じることなく突出している。突出部材18aの突出高さは、5cm~20cmとすることができる。
【0033】
支承部材12は、第一支柱部11においてフレーム10fとの接合部から少し離れた部分と、フレーム10fにおいて第一支柱部11との接合部から少し離れた部分とを連結している。これにより、フレーム10fと第一支柱部11と支承部材12によって三角形の枠体が構成されており、その内部に第二閉空間S2が形成されている。
【0034】
本実施形態では、支承部材12から第二閉空間S2の内部に向かって、第二閉空間S2を閉じることなく突出部材18bが複数突出している。突出部材18bの突出高さも、突出部材18aと同様に5cm~20cmとすることができる。
【0035】
第二部材20は、第二支柱部21と、桟部材22と、下部突出部材28a,28bと、を備えている。
【0036】
第二支柱部21は、第一支柱部11より長い部材であり、一端に円筒状または円柱状の連結部21bを備えている。連結部21bの外形の大きさは第一支柱部11の内周の大きさより僅かに小さく、連結部21bを第一支柱部11の端部に挿入することができる。連結部21bには、複数の貫通孔21hが穿設されている。複数の貫通孔21hの間隔は、第一支柱部11における複数の貫通孔11hの間隔と等しく、連結部21bを第一支柱部11の端部に挿入した上で、貫通孔21hと貫通孔11hにピンを挿通し締結具で留め付けることにより、第二支柱部21を第一支柱部11に接続することができる。
【0037】
桟部材22は、第二支柱部21において連結部21bが設けられている側の端部とは反対側の端部から、第二支柱部21の軸方向に交差する方向に延出している。桟部材22が第二支柱部21に対してなしている角度は鈍角であり、第二支柱部21が第一支柱部11に接続された状態では、桟部材22はフレーム10fの長手方向とほぼ平行である。すなわち、桟部材22は、フレーム10fとの間の空間を閉じることなく延出している。
【0038】
第二支柱部21からは、第二支柱部21に対して直角をなすように、下部突出部材28aが突出している。また、桟部材22からは、桟部材22に対して直角をなすように、下部突出部材28bが複数突出している。下部突出部材28a,28bの長さは、5cm~20cmとすることができる。なお、下部突出部材28aが一つである場合を図示しているが、複数であっても良い。
【0039】
第一支柱部11及び第二支柱部21の長さは、両者を接続した状態で、フレーム10fと桟部材22との間の距離が130cm~180cmとなるように設定することができる。
【0040】
なお、図面では表されていないが、高所作業用部材1において各部材(フレーム10f、第一支柱部11、支承部材12、第二支柱部21、桟部材23、突出部18a,18b、下部突出部28a,28b)が交差する交差部は、鋭利な角部とならないよう湾曲面に形成されている。また、各部材の外表面は、ロープが引っ掛かるような突起のない滑らかな面に形成されている。これにより、各部材の交差部にロープを巻き掛けた際や、各部材に沿ってロープを摺動させた際のロープの損傷が抑制されている。
【0041】
次に、上記構成の高所作業用部材1の使用方法について説明する。高所作業用部材1は、第一部材10のみで使用することができると共に、第一部材10に第二部材20を取り付けた状態で使用することもできる。何れの場合も、作業者はハーネスを装着しており、
図2に示すように、胴部を巻き締めるベルト30の両脇にある環状の留め具31に留め付けられてU字状となる第一ロープ41と、ベルト30の腹部にある環状の留め具32に両端が留め付けられて輪状となる第二ロープ42を使用する。第一ロープ41は長さを調整するための第一長さ調整器41bを備えており、第二ロープ42も同様に長さを調整するための第二長さ調整器42bを備えている。第一長さ調整器41b及び第二長さ調整器42bは、摩擦によってロープの長さを調整するものであり、ロープの縛り方によって摩擦を生じさせるもの、或いは、金具と金具とでロープを挟み込むことによって摩擦を生じさせるものを使用することができる。なお、
図2は、作業者が装着する第一ロープ41及び第二ロープ42と高所作業用部材1との関係を例示するものであり、高所作業を行っている状態での作業者及び高所作業用部材1を示すものではない。
【0042】
第一ロープ41は、高所作業用部材1において第二閉空間S2または第一閉空間S1に通した上で留め具31に留め付けられる。これにより、第一ロープ41の折り返し部分は閉じた空間の内部にあるため、第一ロープ41は高所作業用部材1から外れることがない。例えば、
図2に示すように、第一ロープ41を第二閉空間S2に通した場合、第二閉空間S2を構成する第一支柱部11と支承部材12の交差部や、支承部材12と突出部材18bとの交差部の複数のうち、何れかの交差部が第一ロープ41のアンカーポイントとなる。
【0043】
第二ロープ42は、高所作業用部材1において第一閉空間S1を通した上で、留め具32に留め付けられる。これにより、第二ロープ42の折り返し部分も第一閉空間S1の内部にあるため、第二ロープ42は高所作業用部材1から外れることがない。なお、ここでは、第二ロープ42として、その両端が留め具32に留め付けられることによって輪状をなすロープを例示しているが、第二ロープ42としては、一端が留め具32に留め付けられると共に、他端に開閉可能な輪状部を備えているロープを使用することができる。この場合は、先端の輪状部を開いた状態で閉空間に第二ロープ42が通された後、輪状部が閉じられる。このような第二ロープ42であっても、輪状部の折り返し部分は閉空間の内部にあるため、第二ロープ42は高所作業用部材1から外れることがない。第二ロープ42の輪状部が開閉可能である態様としては、一本のロープの先端にカラビナなど環状で開閉する金具が設けられており、この金具に短いロープの両端が留め付けられる態様、一本のロープの先端を結ぶことにより輪状部を作る態様を、挙げることができる。
【0044】
第二ロープ42が通されている第一閉空間S1では、フレーム10fから突出部材18aが突出しており、突出部材18aの端部は自由端である。そのため、高所作業用部材1の姿勢を突出部材18aの突出方向が上方となる姿勢とすることにより、第二ロープ42を高所作業用部材1から取り外すことなく、第二ロープ42のアンカーポイントを移動させることができる。具体的には、フレーム10fと突出部材18aとの交差部の複数が、それぞれ第二ロープ42のアンカーポイントとなる。
【0045】
同様に、第一ロープ41を通している第二閉空間S2で内部に向かって突出している突出部材18bも、端部が自由端である。そのため、支承部材12と突出部材18bとの交差部の複数を、それぞれ第一ロープ41のアンカーポイントとして、アンカーポイントを移動させることができる。
【0046】
次に、高所作業用部材1を使用して行う高所作業方法について説明する。まず、第一部材10のみを使用する場合について説明する。高所作業用部材1の使用に先立ち、第一部材10をクレーンの腕部に取り付ける。図示は省略するが、クレーンは腕部の先端に、一対の側面部が同じ側で連結された断面コ字形の取付具を備えている。一対の側面部には、それぞれ対応する位置に複数の貫通孔が穿設されており、これらの貫通孔の間隔は、第一支柱部11における複数の貫通孔11hの間隔と同一である。そこで、クレーンの取付具の一対の側面部の間に第一部材10の第一支柱部11を位置させ、取付具の貫通孔と第一支柱部の貫通孔11hに通したピンを締結具で留め付けることにより、第一部材10をクレーンの腕部に固定することができる。
【0047】
作業者は装着した第一ロープ41及び第二ロープ42を上記のように閉空間に通した状態で高所作業用部材1にぶら下がる。その状態で、クレーンの腕部の伸長及び起伏角度の制御により、樹木の枝や又部、或いは土木・建築構造体など、作業者の足場とする場所まで高所作業用部材1を移動させる。
【0048】
足場に到達したら作業者は足場に乗り、足場上を移動しながら作業を行うが、作業中は常に、第一ロープ41及び第二ロープ42の長さを調整して、少なくとも一方に張力がかかっている状態とする。これにより、高所作業用部材1に作業者の身体を安定して支持させた状態で、種々の姿勢をとることができる。作業に伴って身体の位置や姿勢を変える場合であっても、作業者の移動に伴ってクレーンの腕部を移動させたり、腕部の起伏角度を変化させることによって高所作業用部材1の角度を変化させたりする場合であっても、常に二本のロープのうち少なくとも一方に張力がかかっている状態を維持する。
【0049】
このように、本実施形態の高所作業用部材1を使用して行う高所作業は、ワークポジショニングシステムによる作業であるため、足場から外方に身体を乗り出させた姿勢で作業を行うことができ、広い範囲で作業を行うことができる。
【0050】
また、上述したように、第二ロープ42を通している第一閉空間S1において、端部が自由端の突出部材18aが内部に向かって複数突出していることにより、第二ロープ42取り外すことなくアンカーポイントを移動させることができる。第二ロープ42を移動させるには、その長さを変える必要があるため、移動の間に第二ロープ42に張力がかからない時間が生じるが、その間も作業者の身体は第一ロープ41の張力によって安定して支持させることができる。
【0051】
なお、作業者がより安定した姿勢をとるために高所作業用部材1に対する位置を変えるとき、高所作業用部材1の角度を変える場合がある。高所作業用部材1の角度の変更は、クレーンの腕部の起伏角度の変更により行うことができるが、腕部の起伏角度の変更は、クレーン本体の操縦者による制御装置の操作により、或いは、高所作業を行う作業者の有するリモコンから制御装置に送る制御信号により、行うことができる。
【0052】
更に、作業者が作業を行い易い姿勢をとるために、第一ロープ41のアンカーポイントを変更したい場合もある。図示のように、第一ロープ41を第二閉空間S2に通している場合、第二閉空間S2には端部が自由端の第二突出部材18bが内部に向かって複数突出していることにより、第一ロー41を取り外すことなくアンカーポイントを移動させることができる。その場合も、第一ロープ41の移動のために第一ロープ41に張力がかからない時間が生じるが、その間、作業者の身体は第二ロープの張力によって安定して支持させることができる。また、第一ロープ41を通す閉空間を、異なる閉空間に変更する場合(第二閉空間S2から第一閉空間S1へ、或いは、その逆)、第一ロープ41は、いったん高所作業用部材1から取り外すこととなるが、第二ロープ42は第一閉空間S1に通してあり高所作業用部材1から外れない。そのため、第二ロープ42に張力をかけることにより、第一ロープ41が外されている間も、作業者の身体を安定して高所作業用部材1に支持させることができる。
【0053】
更にまた、樹木の剪定などを行う場合、従来は作業者が樹木に登って作業を行う際に、身体を支持させるロープ等を樹木の枝や幹に留め付けていた。そのため、アンカーポイントとして選択した枝が枯れたり腐食していたりして強度が低い場合、枝が折れることによって作業者が墜落するおそれがあった。これに対し、高所作業用部材1を使用して作業を行う場合は、外部の足場に作業者の体重をかけていても、あくまでも第一ロープ41及び第二ロープ42のアンカーポイントは高所作業用部材1内にある。そのため、仮に足場としている枝が折れる等によって足場を失ったとしても、第一ロープ41及び第二ロープ42によって作業者の墜落を防止することができる。
【0054】
加えて、高所作業用部材1としての第一部材10は、足場となる部材を有しておらず、フレーム10fの端部から第一支柱部11が一本のみ延出している略L字、または、くの字に近い形状である。そのため、枝の茂った樹冠など、足場となるものはあるが非常に狭小な空間に進入させ易い。
【0055】
加えて、第一部材10は、閉空間を二つ備えており(第一閉空間S1、第二閉空間S2)、それぞれにおいて端部が自由端である突出部材が閉空間の内部に向かって突出している(突出部材18a,18b)。そのため、第一ロープ41または第二ロープ42それぞれを取り外すことなくアンカーポイントを移動させながら取り得る姿勢が多様であり、作業対象の範囲がより広いものとなっている。
【0056】
更に、支承部材12は、フレーム10fと第一支柱部11との間に第二閉空間S2を形成していることに加え、フレーム10fと第一支柱部11とを斜めに連結することによって、第一部材10の機械的強度を高める作用を発揮している。
【0057】
また、第一部材10は、フレーム10fの端部から第一支柱部が一本のみ延出している非常にシンプルな構成であるため、軽量であり、クレーンの腕部の先端に取り付ける作業が人力でも行い易いと共に、簡易な構成であるため低コストで製造することができる。
【0058】
次に、高所作業用部材1を、第一部材10に第二部材20が接続された状態で使用する場合について、説明する。第一部材10に第二部材20を接続する際は、第一支柱部11の自由端に第二支柱部21の連結部21bを挿入した上で、上記と同様に、クレーンの腕部における取付具の一対の側面部間に第一支柱部11を挟み込む。取付具の側面部に設けられた貫通孔を、第一支柱部11の貫通孔11h及び第二支柱部21の貫通孔21hと連通させ、ここにピン51を通して締結具で留め付けることにより(
図3を参照)、第二部材20を第一部材10に接続しつつ第一部材10をクレーンの腕部に固定することができる。
【0059】
第二部材20が取り付けられている状態の高所作業用部材1を使用して高所作業を行う場合は、
図3に示すように、第二部材20を作業者の足場として使用することができる。第二部材20においては、桟部材22から下部突出部材28bが突出しているため、そこに足裏を掛けることにより、滑りにくい足場として使用することができる。加えて、第二支柱部21からも下部突出部28aが突出しているため、そこに足裏を掛けて足場として使用することができる。
【0060】
作業者の足場とする部分が、高所作業用部材1自体の構成であることを除き、第一ロープ41及び第二ロープ42の少なくとも一方に張力をかけつつ行う高所作業の方法については、高所作業用部材1としての第一部材10を使用して行う上記の高所作業方法と同様である。
【0061】
なお、第二部材20が取り付けられている状態の高所作業用部材1では、作業場所まで作業者を運ぶ際に、作業者が吊り下げられることなく高所作業用部材1に乗り、高所作業用部材1に作業者の身体を支持させた状態で運ぶことができる。そして、作業者が高所作業用部材1に乗っている間は、クレーンの腕部を移動させる際であっても、高所作業を行っている間であっても、常に第一ロープ41及び第二ロープ42の少なくとも一方に張力がかかった状態とすることにより、高所作業用部材1に作業者の身体を支持させる。
【0062】
第二部材20が取り付けられた状態の高所作業用部材1は、第二部材20を足場として高所作業を行うことができるため、外部に足場がない場合や、外部の足場があっても使用しにくい場合の作業に適している。例えば、樹冠の周囲から剪定を行う場合や、枝の細い樹冠に入って作業を行う場合である。
【0063】
また、第二部材20は、第一部材10に片持ち支持されている。そのため、足場となる第二部材20を備えていても、第二部材20をフレームの両側に支持させた場合に比べて軽量である。更に、片持ち支持の反対側の空間が開放された空間Osであるため、第二部材20をフレームの両側に支持させた場合に比べて、より狭小な空間に進入させやすく、作業者の身体の向きや姿勢を変えやすい利点がある。
【0064】
そして、高所作業用部材1は、第二部材20が取り付けられた状態と、第二部材20が取り外された状態との二通りの使用が可能である。そのため、外部の足場を使用するときと、外部に足場がない、或いは、外部に足場があっても使用しにくいときとで、第二部材20を着脱させて高所作業を行うことができる。
【0065】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0066】
例えば、突出部材18a,18b、及び下部突出部材28a,28bの位置や数は、図示したものに限定されない。また、フレーム10fの内部の閉空間が一つ(第一閉空間S1)である場合を例示したが、二以上の閉空間を有するものとすることができる。
【0067】
上記では、クレーンの腕部に取り付けるために第一支柱部11に設けられている貫通孔11hが、第一支柱部11に第二支柱部21を接続するために兼用される場合を例示した。これに限定されず、第一支柱部11において第二支柱部21を接続するための貫通孔を、貫通孔11hとは別に設けることができる。その場合は、クレーンの腕部に第一部材10を取り付けた後で、第二部材20を第一部材10に接続することができるため、労力負担をより低減することができ、人力での作業が容易である。
【0068】
更に、上記では、高所作業用部材1が第一部材10と第二部材20を備えており、必要に応じて第二部材20を着脱する場合を例示した。これに限定されず、外部の足場を使用することを前提とし、第二部材20を備えることなく第一部材10のみで構成された高所作業用部材とすることができる。この場合の第一支柱部は、第二支柱部を挿入させる必要がないため、中実の部材で構成させることができる。
【0069】
なお、上記では、高所作業として、主に樹木の剪定を例にとって説明したが、本発明の高所作業用部材は、高い建造物における電気工事や外壁の塗装工事など、種々の高所作業に使用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 高所作業用部材
10 第一部材
10f フレーム
11 第一支柱部
18a,18b 突出部材
20 第二部材
21 第二支柱部
22 桟部材
28a,28b 下部突出部材
30 ベルト
41 第一ロープ
41b 第一長さ調整器
42 第二ロープ
42b 第二長さ調整器
S1 第一閉空間
S2 第二閉空間