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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】高温用断熱材
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/02 20060101AFI20241211BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20241211BHJP
   D04H 1/4209 20120101ALI20241211BHJP
   D06M 11/79 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
F16L59/02
C04B38/00 301C
D04H1/4209
D06M11/79
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023135385
(22)【出願日】2023-08-23
(62)【分割の表示】P 2020530132の分割
【原出願日】2019-07-03
(65)【公開番号】P2023164450
(43)【公開日】2023-11-10
【審査請求日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2018129838
(32)【優先日】2018-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000119287
【氏名又は名称】井前工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109793
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 惠理子
(72)【発明者】
【氏名】井前 憲司
(72)【発明者】
【氏名】井前 義彦
(72)【発明者】
【氏名】桝永 恭希
【審査官】豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-510742(JP,A)
【文献】国際公開第2013/141189(WO,A1)
【文献】特開2017-071084(JP,A)
【文献】特開2011-208344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/02
B32B 15/14
B32B 17/02
D04H 1/4209
E04B 1/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシル基を有するシリカ系無機繊維からなる繊維長30~200mmのフィラメント有機系バインダー不在下で交絡した集合体からなる基材;及び
前記基材の少なくとも片側の面の表層部において、前記シリカ系無機繊維表面に付着又は前記シリカ系無機繊維の繊維間隙を埋設ないし架橋するように存在しているシリカ硬化物;
を含む成形体であり、前記シリカ硬化物は、平均粒子径が1~200nmのコロイダルシリカの乾燥固化物である高温用断熱材。
【請求項2】
前記シリカ硬化物は、平均粒子径が4~18nmの球状粒子が個々に分散したコロイダルシリカの乾燥固化物である請求項1に記載の高温用断熱材。
【請求項3】
前記コロイダルシリカは、平均一次粒子径が4~18nmのシリカ粒子が鎖状に会合した平均粒子径40~100nmの凝集体である請求項1に記載の高温用断熱材。
【請求項4】
前記集合体は、嵩密度90~160kg/m の不織布、マット、又はフェルトである請求項1に記載の高温用断熱材。
【請求項5】
三次元形状成形体である請求項1に記載の高温用断熱材。
【請求項6】
前記基材の表層部に、熱放射率0.65~0.85、平均粒子径0.5~4μmである、ケイ素の炭化物、窒化物、又はホウ化物の粒子が分散されている請求項1~5のいずれかに記載の高温用断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、600℃以上の高温領域で優れた断熱性を発揮できる、無機繊維の集合体で構成された高温用断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
バイクや自動車のマニホールドをはじめ、高温下での触媒反応系となる構造物は、高温での反応効率を維持するために、さらには、このような高温の影響が外部側に及びにくくするために、一般に当該構造物の周囲を断熱材で覆っている。このような構造物に用いられる断熱材としては、近年、軽量で、可撓性があるという点から、鉱物繊維やガラス繊維などの無機繊維製の不織布やマットなどが用いられていて、対象となる構造物に巻き付け装着することで施工している。
【0003】
しかしながら、これらの巻き付け作業は手間がかかるため、近年、断熱体や吸音材の取付け作業性の向上、また保温効率や密着性をよくするために、取付け対象となる構造物の外形形状にあうように成形した成形断熱材を用いることが、生産現場では望まれている。かかる要求に応じて、マット、ブランケット等の板状体を成形あるいは無機繊維群を直接成形する方法が提案されている。
【0004】
特許4728506号公報(特許文献1)には、「ガラス繊維を所望の圧縮形状に圧縮するとともに軟化点より10~100℃だけ低い温度に保持することによりガラス繊維同士の接触点を融着させた後、前記ガラス繊維を冷却することにより前記融着を固化させて前記圧縮形状を保持させるガラス繊維成形品の成形方法」が提案されている。
上記方法は、ガラス繊維の集合体(綿状又はフェルト状)を加熱加圧することで、ガラス繊維同士を融着させて、成形する方法である。
かかる融着成形は、ガラス繊維の少なくとも表面が溶融する必要がある。特許文献1では、融着成形を、780℃で30分間(第1実施形態)、780~810℃で15分間(第2実施形態)のように、ガラスが溶融できる高温で且つ10分以上、加熱することにより行っている。しかしながら、700℃以上の高温を15分以上も保持することは、生産現場において、高コストで且つ生産性の向上の支障となり、受容困難である。
【0005】
また、高温領域で用いる断熱材の成形方法として、米国特許7896943号(特許文献2)に、Al2を含んだシリカ系ガラス繊維の集合体(バインダーレス)を、型枠にセットし、華氏400度(204.4℃)~華氏1300度(704.4℃)で6分間成形して、繊維を加熱硬化させ、円錐状成形体を製造する方法が提案されている。
ここで用いられているAl2を含んだシリカ系ガラス繊維は、華氏2000度(約1000℃)までの耐熱性を有し、バインダーレスであることから、高温断熱用途に適用可能な成形体を提供できる。
加熱時間については、加熱温度にもよるが、1112F(600℃)で1分間、700F(371℃)で3分間では、所望形状を保持した成形体は得られなかったことが開示されている(表1)。
【0006】
一方、鉱物繊維やガラス繊維等の無機繊維製の不織布やマットは、一般に短繊維の集合体で構成されることから、製造過程でより短くなった繊維や、ブローイング法又はスピニング法で作成された繊維マットでは繊維化されていないいわゆるショットが含まれている。このため、無機繊維製の不織布やマットの場合、施工や使用中に、ショットなどが飛散したりするという問題がある。
【0007】
これらの問題を解決するために、不織布やマットといった繊維集合体で構成される基材の表面を金属膜で覆うことが提案されている。
例えば、特開2006-77551号公報(特許文献3)では、ポリエステル系繊維とこのポリエステル系繊維よりも低融点特性を有するバインダー繊維との混綿繊維素材を不織布状態に交絡し、マット状に圧縮成形したフォーム基材の少なくとも一方の面に、バインダー剤層を介して金属薄膜層が一体化されている不燃断熱フォーム材が開示されている。
この不燃断熱フォーム材は、アルミニウム箔層により不燃性を付与しているものの、フォーム基材がポリエステル繊維で構成されていることから、200℃以上の高温領域で使用する断熱材としては利用できない。
【0008】
300℃以上の高温の熱源に適用できる耐火断熱材として、例えば特開2017-71084号公報(特許文献4)に、ヒドロキシル基を有するシリカ系無機繊維からなる高耐熱性不織布の両面に、金属箔又は金属蒸着フィルムで構成される金属層を積層し、さらに得られた積層体を、シリカ繊維製織布で形成された袋体に収納してなる耐火遮熱シートが提案されている。かかる耐火遮熱シートは、基材となる高耐熱性不織布及び袋体の耐熱性に基づき、600℃でも使用可能である。また、袋体内に無機繊維集合体としての不織布等が、袋体内に収納されていることから、短繊維の飛散の問題はない。
【0009】
しかしながら、金属層と不織布との積層状態は、袋体内に収納することで達成されているため、袋体が破損すると、安定な積層状態を保持できなくなる。また固定一体化されていない積層体を袋体に収納、封止する作業は面倒で、生産性の観点から、袋体を用いない方法により製造できる高耐熱性断熱材が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許4728506号公報
【文献】米国特許7896943号公報
【文献】特開2006-77551号公報
【文献】特開2017-71084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、無機繊維の集合体で構成される断熱材であれば、高温領域で使用することができ、且つ可撓性の要求も満足することができる。
しかしながら、無機繊維の集合体で構成される断熱材に三次元形状を付与したい場合、バインダーレスの方法、例えば、ガラス繊維同士の融着を利用した融着成形の方法は成形に時間がかかり、生産性の点で満足できない。
【0012】
特許文献2で提案しているような、特殊なガラス繊維を使用した熱成形の方法によれば、ガラス繊維本来の高温耐熱性を損なうことなく、成形時間の短縮を図ることが可能となったが、5分間以下での成形は達成できていない。生産現場においては、生産性の観点から、成形時間を5分未満にとどめることが望まれている。
また、繊維を交絡してなる不織布やマットでは、空孔サイズ、空孔率が大きいため、輻射熱が漏出し、高温維持のために多大なエネルギーを要するといった問題がある。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、600℃以上の高温領域でも優れた断熱性を有する高温用断熱材であって、且つ施工される構造物に直接、装着可能な三次元形状に成形可能な高温用断熱材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の高温用断熱材は、以下のような実施形態を有する。
(1) ヒドロキシル基を有するシリカ系無機繊維からなる繊維長30~200mmのフィラメント有機系バインダー不在下で交絡した集合体からなる基材;及び前記基材の少なくとも片側の面の表層部において、前記シリカ系無機繊維表面に付着又は前記シリカ系無機繊維の繊維間隙を埋設ないし架橋するように存在しているシリカ硬化物を含む成形体であり、前記シリカ硬化物は、平均粒子径が1~200nmのコロイダルシリカの乾燥固化物である。
【0015】
(2)前記(1)の形態において、前記シリカ硬化物は、平均粒子径が3~50nm、好ましくは4~18nmの球状粒子が個々に分散したコロイダルシリカの乾燥固化物である。
【0016】
(3)前記(1)の形態において、前記コロイダルシリカは、平均一次粒子径が4~25nmのシリカ粒子が鎖状又は数珠状に会合した凝集体、好ましくは平均一次粒子径が4~18nmのシリカ粒子が鎖状に会合した平均粒子径40~100nmの凝集体である。
【0017】
(4)前記(1)~(3)のいずれかに記載の形態において、前記集合体は、嵩密度90~160kg/m の不織布、マット、又はフェルトである。
【0018】
(5)前記(1)~(4)のいずれかの形態において、前記基材の表層部に、セラミック粒子が分散されている高温用断熱材。
この場合、前記セラミック粒子は、熱放射率0.65~0.85、平均粒子径0.5~4μmである、ケイ素の炭化物、窒化物、又はホウ化物であることが好ましい。
【0019】
(6)本発明の高温用断熱材は、前記(1)~(5)の形態を有する三次元形状成形体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の高温用断熱材は、シリカ系無機繊維の表面に付着又は当該シリカ系無機繊維間の間隙に埋設ないし架橋するように存在するシリカ硬化物により、シリカ系無機繊維の集合体である基材に付与した形状を保持することが可能である。また、赤外線作用材としてのセラミック粒子が基材中に固定保持されている場合、当該赤外線作用材は、高熱の原因となる赤外線を反射又は吸収することにより外部に漏れ出ることを抑制することができるので、基材の繊維間間隙(空孔)に基づく断熱効果に加えて、赤外線作用材による輻射熱の漏出防止効果により、優れた断熱効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】粒子分散タイプ断熱材の三次元成形体の製造方法を説明するための図である。
図2】金属箔貼着タイプ断熱材の構成を示す模式図である。
図3】金属箔貼着タイプ断熱材の三次元成形体の製造方法を説明するための図である。
図4】実施例で採用した断熱性評価方法を説明するための構成模式図である。
図5】実施例で採用した形状保持性の評価方法を説明するための構成模式図である。
図6】粒子分散タイプ断熱材を撮像した顕微鏡写真である。
図7】基材単独の状態を撮像した顕微鏡写真である。
図8】実施例で作成した金属箔貼着タイプ断熱材の構成を説明するための模式図である。
図9】金属箔貼着タイプ断熱材の実施例を撮像した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の高温用断熱材は、ヒドロキシル基を有するシリカ系無機繊維が交絡した集合体からなる基材;前記基材の少なくとも片側の面の表層部において、前記シリカ系無機繊維表面に付着又は前記シリカ系繊維の繊維澗間隙を埋設ないし架橋するようにシリカ硬化物が存在している成形体であり、前記シリカ硬化物は、平均粒子径が1~200nmのコロイダルシリカの乾燥固化物である。
以下、各構成要件について説明する。
【0023】
〔基材〕
本発明で用いられている基材は、ヒドロキシル基を有するシリカ系無機繊維の集合体である。具体的には、ヒドロキシル基を有するシリカ系無機繊維の長繊維又は短繊維が交絡した集合体で、不織布、マット、フェルトなどが挙げられる。これらのうち、ニードルパンチにより繊維を絡ませて、所定厚みの板状体を安定化させたマット(ニードルマット)が好ましく用いられる。
基材を構成するシリカ系無機繊維は、1種類に限定されず、2種類以上のシリカ系無機繊維の組み合わせであってもよい。
【0024】
基材の構成繊維として用いられるヒドロキシル基を有するシリカ繊維としては、0.1~20%Al、80~99.9%SiOを含有するシリカ繊維が好ましい。かかるシリカ繊維は、バインダー主剤として使用する水ガラス(ケイ酸ナトリウム溶液)やシリカ粒子、さらには膜形成性成分として用いるケイ酸塩との親和性の点からも優れている。
【0025】
上記ヒドロキシル基を有するシリカ系無機繊維とは、熱成形可能なガラス繊維で、SiOを81重量%以上有し、SiO-のネットワークの一部にSi(OH)が存在しているものである。かかるヒドロキシル基は、出発ガラス物質からフィラメント又はステープルファイバーを製造する過程において、出発ガラス物質中に含まれていた金属又は金属酸化物イオン(例えばAl3+、TiO2+またはTi4+、およびZrO2+またはZr4+)のプロトン置換により、残ったものと考えられる。シリカ繊維に含まれるヒドロキシル基は、600~800℃程度で、下記(1)式のように縮合反応して、新たなシロキサン結合(Si-O-Si結合)を形成するとともに、HOを放出することができる。
【0026】
【化1】
【0027】
このようなヒドロキシル基を有するシリカ系無機繊維の組成の具体例としては、AlO1.5・18〔(SiO0.6(SiO1.5OH)0.4〕で表される組成が挙げられる。市販のものを用いてもよく、例えば、belChem Fiber Materials GmbH社のBELCOTEX(登録商標)などを用いることができる。
【0028】
BELCOTEX(登録商標)繊維は、一般にアルミナによって変性されたケイ酸から作成され、標準タイプのステープル繊維プレヤーンでは、約550テックスの平均繊度を有する。BELCOTEX(登録商標)繊維は、アモルファスであり、一般的には、約94.5質量パーセントのシリカ、約4.5質量パーセントのアルミナ、0.5質量パーセント未満の酸化物、および0.5質量パーセント未満の他の成分を含有する。平均径約9μmで径のばらつきは少なく、融点1500℃~1550℃で、1100℃までの耐熱性がある。
【0029】
BELCOTEX以外のヒドロキシル基を有するシリカ繊維も、使用目的、使用部位に応じて、適宜選択して用いることができる。
【0030】
シリカ繊維の繊維径は、径6~13μm、好ましくは7~10μm程度である。無機繊維の長さは、基材の形態(フェルト、不織布、ブランケット、シートなど)にもよるが、一般に、長さ1~50mm、好ましくは3~30mmのステープルファイバー、または30~200mm程度、好ましくは50~150mm程度のフィラメントが用いられる。
【0031】
基材がニードルマットの場合、ニードルパンチによるマット形成性の点から、繊維長さは、30~130mmであることが好ましく、より好ましくは45~100mmである。
【0032】
基材となるシート又は板状体としては、厚み3~25mm程度、好ましくは3~12mm、より好ましくは4~10mmである。加圧成形を行う場合、薄すぎるシート状基材は、最終的に得られる成形体がうすくなりすぎて、所望の断熱性能を確保できないおそれがあり、また十分な強度が得られにくくなる。一方、分厚すぎると、三次元形状の付与に関して、成形体の形状保持が困難となる傾向がある。
【0033】
また、基材の密度は、80kg/m~180kg/m、より好ましくは90kg/m~160kg/mである。密度が高くなりすぎると、加圧成形が困難となる。一方、密度が低くなりすぎると、成形後の形状保持性が低下し、最終成形体としての強度が不十分となる。また、断熱性も低下する傾向にある。
【0034】
〔赤外線作用材〕
赤外線作用材とは、高温の熱エネルギーの原因となる赤外線、主として近赤外線(波長約1μm~約4μm)を吸収又は反射することにより、断熱効果を発揮できるものである。
熱伝達は、対流、熱伝導、放射の3種類に分類されるが、これらのうち、500℃以上の高温では放射による熱伝達の割合が高くなる。従って、500℃以上、好ましくは600℃以上、より好ましくは800℃以上の高温域で用いるような断熱材は、熱源からの放射熱を外部に漏出しないようにすることが効果的である。本発明で用いる赤外線作用材は、熱源から放射された赤外線を反射して外部に漏出しないようにする、あるいは熱源からの輻射熱を吸収及び放射することで、熱源近傍での熱エネルギーの消費を抑制することができる。
【0035】
具体的には、(1)赤外線反射タイプの赤外線作用材として、熱放射率(ε)0.3以下の金属箔、又は(2)赤外線吸収タイプの赤外線作用材として、熱放射率0.6~0.9のセラミック粒子を用いることができる。以下、これらについて詳述する。
【0036】
(1)赤外線反射タイプの赤外線作用材
赤外線反射タイプの赤外線作用材としては、熱放射率0.3以下、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下の金属箔を用いることができる。金属光沢を有する金属は、通常、熱放射率0.3以下を充足できる。
【0037】
断熱材の一面を金属箔で覆うことで、赤外線を反射し、赤外線が外部に漏出することを防止できる。この点、金属蒸着膜では、蒸着膜の厚みによりピンホールが存在する場合があり、さらには三次元成形によりピンホールが生成しやすいという問題がある。一方、金属箔は破損しない限り、ピンホールのない赤外線反射層を構成することができるので、優れた輻射熱反射効果を発揮することができる。
【0038】
使用できる金属としては、固定保持される表層部が、熱源側の場合、熱源温度以上の融点を有する金属、さらには基材の耐熱性に匹敵する耐熱性を有する金属が好ましく用いられる。具体的には800℃以上、好ましくは1000℃以上、より好ましくは1200 ℃以上、さらに好ましくは1500℃以上の融点を有する金属である。一方、熱源とは反対側の表層(外界側)に固定保持される場合、外界側の温度は、基材の断熱効果に基づき、熱源温度よりも低下しているので、求められる耐熱性は、表層側に用いるときよりも低い。したがって、熱源温度、基材の種類(特に厚み)にもよるが、融点600℃以上、さらには400℃以上の金属を用いることも可能である。
【0039】
金属箔としては、アルミニウム箔、銀紙、チタン箔、ステンレス箔、ニッケ箔、銅箔、リン青銅箔、黄銅箔、洋白箔、パーマロイ箔、インコネル箔、ニクロム箔、モリブデン箔、ジルコニウム箔、タンタル箔、スズ箔、亜鉛箔、インジウム箔、ニオブ箔、鉛箔、メッキ鉄箔などを用いることができる。
使用する金属箔は、融点、展延性、厚みなどの特性と適用される断熱材の種類に応じて、適宜選択すればよい。三次元形状に成形する場合、形状、特にR部分の大きさなどに応じて適宜選択する。
【0040】
上記金属箔のうち、熱放射率0.3以下、展延性という点から、アルミニウム箔、金箔、銅箔、ステンレス箔、モリブデン箔、インコネル箔が好ましく用いられる。低熱放射率という点から、酸化されておらず、表面につや消し加工などが行われていない鏡面光沢の金属箔が好ましく用いられる。
【0041】
金属箔の厚みは、5~150μm、好ましくは10~100μm、より好ましくは20~50μmである。5μm以下では、薄すぎて破れやすく、取扱い性に劣る。一方、150μmを超えると、分厚くなりすぎて、展延性が低下し、三次元成形性が低下する。
【0042】
(2)赤外線吸収タイプの赤外線作用材
赤外線吸収タイプの赤外線作用材としては、熱放射率0.6~0.9、好ましくは0.65~0.85のセラミック粒子を用いることができる。
【0043】
かかるセラミック粒子としては、光散乱法で測定される平均粒子径として、0.5~4μm、好ましくは1~3μm、より好ましくは1~2.5μmの粒子が用いられる。さらに粒子径分布として累積90%径(D90)が10μm以下、好ましくは8μm以下、より好ましくは7μm以下である。このようなサイズのセラミック粒子は、赤外線、特に近赤外線を吸収した後、放射する。したがって、赤外線吸収タイプの赤外線作用材を、熱源に近い表層部に固定保持することにより、熱源の熱エネルギーの消耗を抑制することができる。
【0044】
熱源に近い部分に固定保持されることから、赤外線作用材として使用するセラミック粒子は、高温領域で長期間使用しても酸化または溶融しにくいセラミック粒子であることが好ましく、1500℃以上の高融点を有する炭化物、窒化物、ホウ化物といったセラミック粒子が好ましく用いられる。なお、高融点で且つ熱放射率が高い赤外線作用材としては、カーボングラファイトがある。しかしながら、カーボンの場合、放射率(ε)は通常0.95超と高く、ほとんど赤外線線を反射しないため、カーボン存在位置のみが過熱されるおそれがある。一方、カーボンは、シリカ系繊維やセラミック粒子と比べてはるかに熱伝導率が高いため、高温に達すると熱伝導による熱伝達が大きくなる。この点、セラミック粒子は、固定保持するシリカ硬化物との屈折率差により赤外線を適度に反射することができ、熱伝導率も金属やカーボンと比べて小さいので、赤外線の吸収・放射による断熱効果が得られやすい。但し、セラミック粒子が大きくなりすぎると、それ自体が発熱体として作用するようになるので、近赤外線を吸収するのに必要十分程度のサイズとすることが好ましい。
【0045】
赤外線吸収タイプの赤外線放射材として用いることができるセラミックとしては、WC、TiC、SiC、ZrC等の炭化物;TiN、ZrN、TaN等の窒化物;CrB、VB、W、WB、TaB、MoB等のホウ化物;TiSi、ZrSi、WSi等のケイ化物の粒子が挙げられる。一般に、これらのセラミック粒子は、融点が1500℃以上であり、炭化物、窒化物、ホウ化物では2000℃以上であることから基材の耐熱性に基づく高温領域で使用可能であることから好ましい。尚、これらのうち、シリカ硬化物との親和性の点から、ケイ素の炭化物、窒化物、ホウ化物が好ましく、より好ましくはSiCである。
【0046】
このようなセラミック粒子は、シリカ硬化物中に分散、又は基材を構成するシリカ系無機繊維の表面に付着、あるいは繊維間間隙に保持されることにより、基材の表層部に固定保持される。
シリカ硬化物により安定的に基材の表層に固定保持する観点から、セラミック粒子は、シリカ硬化物(コロイダルシリカ固形分に該当)に対する赤外線作用材(セラミック粒子)の含有率として、1~20重量%であることが好ましく、より好ましくは2~15重量%、さらに好ましくは3~10重量%である。少なすぎると、赤外線吸収効果が十分得られず、多くなりすぎると、凝集が起こりやすくなり、セラミック自体の熱伝導の影響が大きくなりやすい。
【0047】
〔シリカ硬化物〕
赤外線放射材を固定保持するシリカ硬化物とは、SiO又はSi-O-Si結合(シロキサン結合)を有する無機ポリマーをいう。具体的には、膜形成性を有するシリカ粉末分散液の乾燥固化物あるいは、コロイダルシリカのようなシリカコロイド溶液の乾燥固化物が該当する。
このようなシリカ硬化物は、シリカ系無機繊維と同程度の耐熱性を有し、高温領域で赤外線作用材を安定的に固定保持することができる。
【0048】
(1)膜形成性を有するシリカ粉末分散液(膜形成性シリカ系バインダー)の乾燥固化物
赤外線作用材としてフィルム状赤外線反射材(金属箔)を用いる場合、シリカ硬化物は、金属箔と基材とのバインダーの役割を有する必要がある。シリカ系バインダーとして用いられる膜形成性を有するシリカ粉末分散液とは、シリカ粉末分散液に、膜形成性成分を含有させた粘性液又はペースト、あるいはこれらと水ガラスの混合物である。
【0049】
(1-1)シリカ粉末分散液
シリカ粉末としては、結晶性シリカ(石英粉末、珪砂、珪石、モガナイト、クリストバライトなど)の粉砕物、非晶性シリカ(コロイダルシリカ、沈降シリカ、乾燥シリカ、ヒュームドシリカなど)が挙げられる。また、オパールのような含水非晶性シリカであってもよい。
シリカとしては、合成シリカであってもよいし、シリカを含む鉱産物であってもよい。
【0050】
分散媒としては、水、水ガラス、有機溶媒(例えば、イソプロパノール等の低級アルコール、酢酸エチルなどのエステル類;エチレングリコールモノプロエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、シクロヘキサノンなどのシクロアルカン、トルエンなどの芳香族化合物など)、水と低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなど)の混合液、又はこれらの混合液などを用いることが可能である。
このうち、水ガラスは、ケイ酸ナトリウムの濃い水溶液であり、水あめ状の粘性を有する。水ガラスは、塗膜形成性成分としても機能できるが、軟化点との関係で、700℃以上に使用することは困難である。従って、700℃以上の用途に用いる金属箔貼着タイプ断熱材の場合、分散媒としては、水又水と低級アルコールの混合物を用いたシリカ系バインダーを用いることが好ましい。
【0051】
シリカ粉末分散液には、シリカ粉末のほか、接着性に影響を与えない範囲(分散液中の固形分の30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下)であれば、アルミナ粉末等のセラミック粉末が含有されていてもよい。
【0052】
シリカ粉末分散液中の固形分率は、ペースト又は分散液に応じて適宜選択される。特に、バインダーの基材への適用を、塗工、塗布、噴霧等により行う場合には、これらの作業形態に適した粘度となるように、適宜設定される。
【0053】
シリカ粉末分散液としては、耐熱性無機接着剤として上市されている市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、坂井化学工業株式会社製のBETACKシリーズ(BETACK#160CC、BETACK#900B、BETACK#900C、BETACK#1200、BETACK#1550B、BETACK#970、BETACK#1600S、BETACK#1800LB、BETACK#003、BETACK#870、BETACK#873)などが挙げられる。
【0054】
(1-2)膜形成性成分
上記のようなシリカ粉末分散液に膜形成性を付与する膜形成性成分としては、層状ケイ酸塩が用いられる。上記シリカ粉末分散液、特に水を分散媒として用いた分散液又はペーストは、乾燥固化してシリカ粉末が凝集体となるため、衝撃や曲げ、擦傷などにより、シリカ粉末が崩壊脱落しやすい。また、水ガラスを分散媒として用いた場合、高温でガラスが軟化し、シリカ粉末の保持力が低下するおそれがある。この点、層状ケイ酸塩が塗膜形成性成分の役割を果たすことにより、シリカ硬化物からシリカ粉末の脱落、飛散を抑制することができる。
【0055】
層状ケイ酸塩とは、フィロケイ酸塩(Pyllosilicate)ともいい、SiOの四面体が3個の酸素原子に互いに共通して連なっており、二次元的に平らな層状構造を作っているものである。
塩を構成している金属は、アルミニウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。
【0056】
層状ケイ酸塩としては、xNa・ySiO(y/x=2~3)の珪酸ナトリウムが好ましく、スメクタイト(サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、モンモリロナイト)、パーミキュライト群鉱物などを用いることができ、好ましくはスメクタイト群である。
本発明で使用する膜形成性成分としては、層状ケイ酸ナトリウムを含むものであればよく、合成された層状ケイ酸塩の他、スメクタイト群またはパーミキュライト群鉱物のような鉱物、当該鉱物を主成分として含むベントナイトであってもよい。
また、天然ベントナイトに限らず、精製により、ベントナイトに含まれる不純物を除去し、主成分であるモンモリロナイトの純度を高めたものであってもよい。さらには、カルシウムベントナイトをイオン交換によりナトリウムベントナイトに変換するなど、合成ベントナイトであってもよい。ベントナイトとは、モンモリロナイトを主成分とする粘土の総称である。
このような層状ケイ酸塩は、水中に分散させると吸水により膨潤する。また、層間陽イオンと水分子が水和して、単位層まで分離する。単位層の表面に水和層を作ることで、粘性を示す。すなわち増粘効果を有する。さらに、水分散液状態で、低せん断領域では高い粘度を示し、高せん断領域で粘度が低下するというチキソトロピー性を示す。
【0057】
以上のような膜形成性成分のシリカ硬化物における含有割合は、0.1~5重量%、好ましくは0.5~4重量%、より好ましくは1~3重量%となる量であることが好ましい。
塗膜形成の役割としては、上記範囲の量で十分であり、多くなりすぎると、粘性が高くなり、基材への適用方法が塗工法などに限定されるなど、作業性が低下する傾向にある。
【0058】
以上のような組成を有する膜形成性シリカ系バインダーは、粘性、チキソトロピー性を有する流体(分散液、粘性液体、又はペースト)である。そして、固化後は、層状ケイ酸塩が安定なカード構造で固化する。主剤であるシリカ系バインダーが乾燥固化した結果、生成されるシリカ凝集粒子間を層状ケイ酸塩が埋めるようになり、シリカ粒子を固化物層内に安定的に保持することで、シリカ粉末が飛散することを防止していると考えられる。
膜形成性シリカ系バインダーの乾燥固化物は、膜形成性成分がマトリックスとなったシリカ硬化物が得られる。マトリックス中に分散したシリカ粒子が、シリカ系無機繊維と金属箔を接着する作用を有する。また、水ガラスを含有する場合には、ガラス化(固化)の過程で、基材のシリカ系無機繊維と金属箔と接合することができる。
【0059】
(2)無水ケイ酸の微粒子が分散したコロイド溶液(コロイダルシリカ)
コロイダルシリカとは、水和によって表面にOH基を有する二酸化ケイ素(SiO)の凝集塊がコロイド粒子となって、水系分散媒中に分散しているコロイド溶液をいう。
【0060】
分散媒としては、水、有機溶媒(例えば、イソプロパノール等の低級アルコール、酢酸エチルなどのエステル類;エチレングリコールモノプロエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、シクロヘキサノンなどのシクロアルカン、トルエンなどの芳香族化合物など)、水と低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなど)の混合液などを用いることが可能であるが、作業環境の点から、水、水と低級アルコールの混合液といった水系分散媒が好ましく用いられる。
【0061】
前記コロイド粒子は、非晶質の二酸化ケイ素の粒子表面に存在するSiOH基及びOH-イオンが、アルカリイオン(Naイオン)の共存により安定化されることで、水分散媒中に、安定的に分散している。
このような分散質としてのコロイド粒子は、加熱により分散媒が蒸発し、粒子表面に存在していたSiOH基が新たなシロキサン結合を形成することで、コロイド粒子同士が一体化(コロイド粒子表面の融着)し、基材を構成するシリカ系無機繊維間のバインダーとしての機能を発揮できる。
【0062】
コロイド溶液中の二酸化ケイ素の含有率(固形分率)は、5~60質量%程度、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%程度である。また、噴霧法が作業効率の点から粘度が300mPa・s以下が好ましい。
二酸化ケイ素の含有率、すなわち固形分率が低くなりすぎると、成形体の形状保持に必要な二酸化ケイ素量を確保するための塗布量が増大することになる。このことは、加熱成形時の分散媒である水の蒸発に要するエネルギー量、ひいては加熱時間を長くする必要があり、生産性向上の点から不利だからである。また、板状体への塗工量が不十分な場合、最終的に得られる成形体の強度が不十分となるからである。
【0063】
一方、二酸化ケイ素の含有率(固形分率)が高くなりすぎると、成形後に成形体表面に残存する二酸化ケイ素粉末が増大する傾向にある。成形体表面に残存した二酸化ケイ素粉末は、粉塵の原因となり、取扱い作業性低下の原因となる。また、成形前の懸濁液又は分散液の状態として、分散質であるコロイド粒子の安定性が低下して、ゲル化しやすくなる。また、基材への適用方法として、噴霧法の適用が困難となるために、塗布法、塗工法を適用することになるが、この場合も塗工作業性が低下し、また、板状体内部にまで二酸化ケイ素が含浸されにくくなり、結果として、成形体形状を保持するというバインダー機能を十分に発揮できないおそれがある。
【0064】
コロイド粒子のサイズ(平均粒子径)は、特に限定しないが、1~200nmであり、好ましくは2~100nm、より好ましくは3~50nm、さらに好ましくは4~25nm、特に好ましくは4~18nmである。粒子径が大きくなると、含有率が同じ場合に相対的に粒子数が減少するためか、得られる成形体の強度が低下する傾向にある。また、成形体としての形状保持性も低下する傾向にある。
【0065】
ここでいう平均粒子径は、コロイド粒子としての平均一次粒子径をいい、動的光散乱法やシアーズ法、BET法、レーザー回折散乱法等により、球相当径として求めることができる。測定方法は、コロイダルシリカの大きさにより適宜選定すればよい。たとえば数十nm以下の微小な粒子はBET法またはレーザー回折散乱法を用いることが好ましい。動的光散乱法による粒子径の測定は、市販の粒度分布測定装置を使用して行なうことができる。シアーズ法とは、Analytical Chemistry,vol.28,P.1981-1983,1956に記載された方法であって、コロイダルシリカの平均粒子径の測定に適用される分析手法である。
【0066】
コロイド粒子は、球状粒子が個々に分散している状態だけでなく、微小粒子が凝集した凝集体として存在している場合であってもよい。凝集の態様としては、例えば、微小粒子が伸長して鎖状又は数珠状に会合した状態となっていてもよい。
ここで、鎖状、数珠状の凝集体の場合、微小シリカ粒子が伸長方向に会合して細長い鎖状の二次粒子を形成している場合であってもよいし、会合粒子の一部のシラノール基同士が縮合結合して伸長した二次粒子であってもよい。また、細長く伸長した形状において、直線状に限らず、分岐状、部分的網目状であってもよい。
鎖状、糸状や数珠状に粒子の場合、平均粒子径は、球として仮定した場合の粒子径(二次粒子径)が上記範囲内の場合が含まれる。このような二次粒子径は、動的光散乱法で測定できる。尚、二次粒子を構成するコロイド一次粒子(球状粒子)としての平均粒子径は、4~18nmであることが好ましい。
【0067】
コロイド粒子が凝集又は会合している場合、硬質塗膜が形成されやすく、付与した三次元形状の保持の点からも優れる傾向にある。一方、平均粒子径が増大、あるいは鎖状、数珠状に会合、凝集している場合、鎖状や数珠状の凝集粒子の一部が板状体の内部にまで含浸されずに表層に残存しやすいためか、成形体表面に残存する割合が高くなる傾向にあり、三次元形状成形体表面に粉末化して残存する量が増大する傾向にある。成形体表面の残存粉末量の増大は、粉塵の原因となることから、取扱い・作業性の観点からは、分散質の粒子径が小さく、個々に球状粒子が分散しているコロイド溶液が好ましい。
【0068】
また、分散質としてのコロイド粒子が大きくなりすぎると、無機繊維群で構成される板状体内部にまで含浸されにくくなるためか、結果として形状保持に必要なバインダーとしての機能が低下する傾向にある。かかる観点からコロイダルシリカの平均粒子径(一次粒子径)は、小さい方が好ましい。
【0069】
コロイド粒子の安定性は、一般にpHの影響を受けやすい。ゲル化防止の点から、アルカリ性、具体的にはNaイオンで安定化されていることが好ましい。すなわち、シリカコロイド溶液の液性(pH)は、コロイド粒子の安定化と関係し、通常、Naイオンで安定化された場合は、アルカリ性(pH8~11)である。しかしながら、コロイド粒子の安定化のための強アルカリイオン量を低減して中性~酸性(pH4~7)程度であってよい。
【0070】
コロイド溶液の20℃における比重は、通常、シリカ含有率に依存し、シリカ含有率が上記範囲の場合、1.10~1.40程度であり、好ましくは1.12~1.25程度である。
さらに、25℃における粘度は、300mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは100mPa・s以下である。
一般に、高粘度になると、ゲル化しやすくなり、また基材への適用方法として、後述するように、噴霧方法を適用することが困難となる。作業性、生産性の点から80mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは60mPa・s以下である。
【0071】
なお、本発明で使用するコロイダルシリカ、すなわち二酸化ケイ素のコロイド溶液には、コロイダルシリカの製造方法に由来して、シリカゾル中に、若干量(500~300ppm程度)のカルシウム、マグネシウム、Sr、Ba、Zn、Pb、Cu、Fe、Ni、Co、Mn等の2価の金属、Al、Fe。Cr、Ti、Y等の3価の金属などが含まれていてもよい。
【0072】
〔高温用断熱材の態様〕
上記のような基材、赤外線作用材及びシリカ硬化物で構成される本発明の高温用断熱材は、(I)赤外線作用材として赤外線反射タイプの赤外線作用材(金属箔)を用いた金属箔貼着タイプ断熱材;(II)赤外線吸収タイプの赤外線作用材(セラミック粒子)を用いた粒子分散タイプ断熱材;(III)赤外線反射タイプと赤外線吸収タイプの2種類の赤外線作用材を併用した併用タイプ断熱材に分類できる。以下、各タイプの断熱材について、三次元形状成形体の製造方法とともに説明する。
【0073】
<粒子分散タイプ断熱材及びその三次元形状成形体の製造方法>
粒子分散タイプ断熱材では、基材の表層部において、基材を構成する繊維表面に付着、又は基材の繊維間間隙を埋設ないし架橋するように、シリカ硬化物が存在し、繊維間間隙又はシリカ硬化物により、セラミック粒子を固定保持することができる。
【0074】
粒子分散タイプ断熱材の三次元形状成形体は、以下の製造方法で製造することができる。
粒子分散タイプ断熱材の三次元形状成形体の製造方法は、シリカ系無機繊維の集合体(板状基材)の片面に、赤外線吸収タイプの赤外線作用材(セラミック粉末)を含有したシリカコロイド溶液を塗布・塗工・噴霧又は含浸する工程;及び前記基材の片面が凹部となるように加熱・加圧する工程を含む。
以下、各工程について、図1に基づいて説明する。
【0075】
(1)セラミック粉末含有シリカコロイド液の適用工程
上記適用工程は、シリカ系繊維の集合体(繊維群)で構成される板状体(基材)1の片面に、赤外線作用材として用いるセラミック粉末を含有したコロイド溶液を塗布、塗工、噴霧、又は含浸することにより行う工程である。これらのいずれを採用するかは、セラミック粉末含有シリカコロイド溶液の粘度、固形分率に応じて、適宜選択できる。
【0076】
塗布、塗工は、はけ塗り、ドクターブレード、グラビアコーター等のロールコーター法;スキージを用いるスクリーン印刷;エアスプレーガン、エアレスハンドスプレー、圧送式自動エアースプレー等を用いるスプレー塗布;片面のみコロイダルシリカ懸濁液と接触させる接触法などにより行うことができる。
これらのうち、作業性、生産性の点から、スプレー方式で行うことが好ましい。例えば、図1(a)に示すように、シリカ系無機繊維1aの集合体(無機繊維群)で構成される板状体1の片面上から、コロイド溶液2をスプレーする方法が挙げられる。図1(b)には、板状体1の片面上に、粒子状赤外線作用材2aを含有するシリカコロイド溶液が塗布された状態が示されている。
【0077】
シリカコロイド溶液の塗布量は、使用する懸濁液の固形分率に応じて適宜選択される。従って、塗布量は、基材の塗布面積あたりの固形分量として、100~600g/m程度であり、好ましくは100~400g/m、より好ましくは100~300g/m程度である。
塗布量(固形分量)が多くなりすぎると、成形体内部にシリカコロイド粒子及びセラミック粉末が含浸されにくくなるため、成形体の一面(適用面)にシリカ膜が形成されやすくなる。硬質なシリカ膜は無機繊維の集合体に比べて可撓性・クッション性にも劣るため、取付け作業性に劣る傾向にある。また、赤外線作用材としてのセラミック粒子の固定保持も不十分となる。一方、板状基材内部に含浸されやすい微小粒径のコロイダルシリカを用いた場合であっても、塗工量が多くなりすぎると、板状体表面に残存するシリカ量が増大し、結果として、成形体表面にシリカ粉末が残存しやすくなる。かかるシリカ粉末は粉塵の原因となるため、取扱い性、作業性低下の要因となる。
【0078】
濃度(固形分含有率)が低くなりすぎると、所定の塗工量を達成するためのコロイド溶液量が増大するために、乾燥に時間がかかり、加熱硬化時間が長くなり、生産性の低下の原因となる。生産性の観点から塗工量を減らすと、バインダーとして機能すべきシリカ量が減少することになるので、三次元形状保持が困難となる。
【0079】
(2)加熱・加圧工程
コロイダルシリカが適用された基材の加熱・加圧は、通常、所定温度に加熱された金型にセットして行う。この際、シリカコロイド溶液の塗布面が、目的の三次元形状において凹側面となるようにセットすることが好ましい。
例えば、図1(b)に示すように、雄型5と雌型6の一対の金型を用いる場合、雄型5の凸面とコロイダルシリカ適用部分2aが対向するようにセットする。雄型5をプレスした状態で加熱加圧すると、雌型6に対応する三次元成形体7(図1(c))が得られる。
【0080】
加圧力は、板状体の厚み減少率、すなわち初期の板状体の厚みT1図1(a)参照)に対する最終成形体の厚みT2図1(c)参照)とした場合の厚み減少量(T1-T2)が50%未満、好ましくは5~45%程度となる圧力、より好ましくは10~40%程度となる圧力である。
厚み減少率が大きいということは、板状体の圧縮率が大きくなることを意味する。圧縮率が大きくなりすぎると、板状体を構成している無機繊維の弾性回復が生じやすくなり、結果として成形体の形状保持性が低下することになる。また、断熱性の観点からは、分厚い方が断熱性に優れる傾向にある。一方、厚み減少率が低すぎる場合、すなわち圧縮率が小さすぎると、シリカコロイド粒子の板状基材への含浸深さとの関係から、繊維が固定化される割合が低くなり、結果として形状保持性が不十分となる傾向にある。
【0081】
加熱温度は、100~500℃、好ましくは150~500℃、より好ましくは150~400℃である。
加熱温度は、二酸化ケイ素のコロイド溶液に含まれる分散媒(通常、水)を短時間で蒸発させるのに必要十分な温度であり、加熱時間との関係で適宜選択すればよい。高温にすることにより加熱時間を短縮できる。600℃以上の高温を選択した場合、コロイダルシリカの水酸基が反応してシロキサン結合を形成できる。一方、板状体の構成繊維であるヒドロキシル基を有するシリカ繊維を500℃以上に加熱すると、繊維が硬質化して、取扱い作業者の皮膚表面に物理的な刺激を与え、痒み等を感じるようになり、作業性、取扱い性低下の原因となる。かかる観点からは、加熱温度を500℃未満とすることが好ましい。
【0082】
加圧・加熱時間は、コロイド粒子の平均粒子径、形状、コロイド溶液中のシリカ含有率、塗布量、懸濁液の粘度などに依存する。
本発明で使用するシリカコロイド溶液を、上記条件で用いることにより、5分以内で加熱硬化させることが可能であり、さらに3分以内、1分とすることもできる。加熱硬化が不十分な場合、繊維の弾性復元力により、加圧成形された形状を保持できない。一方、生産性の観点から、5分以上の加熱・加圧は好ましくない。
【0083】
成形により形成される成形体の形状としては、トレイ状、半球状、パイプ状、断面半円形状、裁頭型円錐状などが挙げられるが、これらの以外の形状であってもよい。
【0084】
断熱材の三次元形状付与は、図1に示すように、雄型5に該当するプレスを用いるプレス成形法が一般的に行われる。しかしながら、板状体を雌型と熱盤の間にクランプし、型側から空気を吹き込んでシートを熱盤に接触させ、軟化させ、次にこの空気の吹込みを止め、熱盤の方から圧縮空気を吹き込み、雌型の成形面に押し付ける熱成形法(圧空成形)、シートを型の上方に懸垂した枠にクランプし、加熱軟化させ、続いてシートと型の間を真空にしてシートを型に密着させ、そのまま冷却して立体的な形に成形する真空成形法などを利用することもできる。
いずれの方法であっても、凹凸ある三次元形状において、伸縮度が小さくて済む、成形体の凹部(金型の凸面)がコロイダルシリカ塗布面となるように、加圧することが好ましい。
【0085】
尚、平板状の断熱材を製造する場合には、成形型を用いる加圧は行わなくてもよい。加熱・加圧工程は、シリカコロイド溶液の乾燥固化に代えることができる。しかしながら、乾燥固化時間の短縮のために加熱することは好ましく、また粒子状赤外線作用材の安定的な固定保持のために加圧することは好ましい。
【0086】
以上のような粒子分散タイプ断熱材及びその三次元形状成形体は、赤外線作用材が固定保持されている面が熱源側となるように用いる。熱源近くで、熱源からの輻射熱(赤外線、特に近赤外線)を吸収・放射することで、熱源からの熱エネルギーの消耗を抑制することができる。
【0087】
<金属箔貼着タイプ断熱材及びその三次元形状成形体の製造方法>
図2は、本発明の金属箔貼着タイプ断熱材の一実施形態の構成を示す図である。ヒドロキシル基を有するシリカ系無機繊維の集合体で構成される基材1の片面(図2(a))又は両面(図2(b))に、シリカ硬化物層3を介して、金属箔4が貼着されている。
【0088】
金属箔貼着タイプ断熱材は、表面に貼着した金属箔4の輻射熱反射効果により、外部に赤外線が漏出することを防止し、優れた断熱効果を発揮できる。さらに金属箔が断熱材の表面を構成することで、基材の取扱い性が改善される。すなわち、無機繊維の集合体としての基材単独では、構造物に取り付ける際に、基材を構成している繊維が破損したり、基材に含まれていたショットなどの粉塵が飛散するという問題があったが、表面に金属箔が貼付されることで、これらの飛散を防止でき、取扱い性が向上する。特に外部側表面に金属箔を貼着することで、基材からの発塵を防止できるとともに、外界からのゴミや砂埃などの異物の付着、侵入を防止できる。
【0089】
使用する金属箔の種類(融点)及び断熱材の用途に応じて、金属箔の貼着面を選択する必要がある。例えば、アルミニウム箔(アルミニウムの融点660℃)では、600℃以上の熱源に長期間曝されると、融解・焼失してしまうため、金属箔貼着面は外部側とすることが好ましい。
熱源温度が、使用している金属箔の融点以下の場合には、金属箔を熱源側に適用することができる。
【0090】
以上のような金属箔貼着タイプ断熱材は、ヒドロキシル基を有するシリカ系無機繊維からなる基材の少なくとも片面に、膜形成性シリカ系無機バインダーを塗布・塗工・噴霧又は含浸する工程(図3(a)参照);バインダー塗工面に金属箔4を貼付する工程(図3(b)参照);前記バインダーを乾燥固化する工程を含む方法により製造できる。
【0091】
平板状又はシート状の金属箔貼着タイプ断熱材は、バインダー塗工工程、金属箔貼付工程、及びバインダーの乾燥固化工程により製造することができる。三次元形状を有する金属箔貼着タイプ断熱材を製造する場合、バインダーの乾燥固化時に、金型を用いて加圧しながらバインダーを固化することで、三次元形状を付与する(図3(c)参照)。
【0092】
すなわち、三次元形状を有する金属箔貼着タイプ断熱材は、粒子分散タイプの断熱材の製造方法と同様に、基材1の片面に膜形成性シリカ系バインダー3’を塗布・塗工・噴霧又は含浸する工程;バインダー塗工面に、金属箔4を貼付する工程;及び成形型5’,6’を用いて、加熱・加圧する工程を含む方法により製造することができる。
【0093】
付与する三次元形状についても、粒子分散タイプの断熱材と同様に、使用する金型に応じて、トレイ状、半球状、パイプ状、断面半円形状、裁頭型円錐状などが挙げられる。
以下、各工程について説明する。
【0094】
(1)バインダー適用工程
上記適用工程は、繊維の集合体で構成される板状又はシート状の基材1の片面又は両面に、上述の膜形成性シリカ系バインダー(層状ケイ酸塩が添加混合されたシリカ粉末分散液又はペースト)3’を塗布、塗工、噴霧する工程である。これらのいずれを採用するかは、使用する膜形成性シリカ系バインダーの粘度、固形分率に応じて、適宜選択できる。
【0095】
塗布、塗工、噴霧する方法としては、粒子分散タイプ断熱材と同様の方法を採用することができる。作業性、生産性の点から、スプレー方式で行うことが好ましい。かかる点から、膜形成性シリカ系バインダーは、適宜水に希釈して用いてもよい。
【0096】
バインダーの塗布量は、使用する懸濁液の固形分率に応じて適宜選択される。従って、塗布量は、板状体の面積あたり固形分量として、100~600g/m程度であり、好ましくは100~400g/m、より好ましくは100~300g/m程度である。
バインダー硬化物(シリカ硬化物)の方が基材よりも熱伝導性が高いので、塗布量(固形分量)が多くなりすぎると、シリカ硬化物の熱伝導により、断熱性能が劣化する要因となりやすい。一方、塗布量が少なすぎると、金属箔の接着が不十分となる。
尚、基材の両面に金属箔を貼着する場合、基材の両面にバインダーを塗工すればよい。
【0097】
(2)金属箔貼付工程
バインダーが塗工された面に、金属箔4を貼付する。成形型を用いて加圧固化する場合、塗工面に金属箔を載置する代わりに、加圧型表面に、予め金属箔をセットし、型を押し付けることで、金属箔をバインダー適用面に貼付してもよい。
【0098】
(3)加熱・加圧工程
三次元形状を有する金属箔貼着タイプ断熱材を製造する場合、金属箔貼付後、成形型5’,6’を用いて、加熱加圧する(図3(c))。具体的には、金型を所定温度に加熱し、かかる金型を、所定圧力で、金属箔貼付基材に押圧することにより行う。加熱加圧工程によりバインダーが乾燥固化する。
【0099】
三次元形状付与のための加圧力は、加熱・加圧時間は、粒子分散タイプと同様である。すなわち三次元形状付与のための加圧力は、基材の厚み減少率、すなわち初期の基材の厚みT図3(a)参照)に対する最終成形体の厚みT図3(d)参照)とした場合の厚み減少量(T1-T2)が40%未満、好ましくは5~35%程度となる圧力、より好ましくは10~30%程度となる圧力である。
加熱温度・時間は、バインダーの種類、塗布量に応じて適宜設定することが好ましい。加圧力、特に、加圧スピードは、金属箔の成形追随性の観点から、金属箔の展延性に応じて選択することが好ましい。
加熱は、乾燥固化に要する時間を短縮できる点で好ましい。一方、高温での急速な加熱は、分散媒の急激な蒸発により、固化物が発泡構造となる原因となり、接着強度の低下の原因となりやすい。金属箔貼着タイプ断熱材の生産性、用途に応じて、加熱の有無、加熱温度、時間は適宜設定すればよい。
【0100】
尚、図3は、雄型5’でプレスされる側の面は金属箔4が貼付された面であったが、半球状成形体の外周面側に金属箔を貼着する場合には、金属箔4が貼付された面と反対側の面を雄型でプレスするようにしてもよい。例えば、図3(c)において、金属箔4が貼付された側を雌型6’に載置してもよい。
【0101】
<併用タイプ断熱材>
併用タイプ断熱材とは、片面に金属箔が貼着され、反対側の面に赤外線吸収タイプの赤外線作用材(セラミック粒子)が固定保持されている断熱材である。
このような併用タイプ断熱材は、赤外線吸収タイプの赤外線作用材(セラミック粒子)が固定保持されている側の面を、熱源に近い側の面となるように用いる。併用タイプでは、金属箔により赤外線の漏出を防止し、熱源側に反射させるとともに、セラミック粒子により、熱源に近い位置で、熱源からの熱エネルギーを吸収・放射することで、熱エネルギーの消費を抑制することが可能となる。したがって、高温領域の熱源に対する断熱材として有用である。
【0102】
<三次元形状成形体>
上記のようにして製造される三次元形状を有する断熱材は、シリカ硬化物により、三次元形状を安定的に固定保持することができる。すなわち、シリカ繊維製基材は、繊維の弾性により形状付与してもスプリングバックにより安定的に形状を保持固定することが困難であるが、バインダー固化物(シリカ硬化物)は変形しないので、基材を構成する繊維を高温で融着しなくても、スプリングバックを抑制することができる。
【0103】
金属箔貼着タイプ断熱材、粒子分散タイプ断熱材のいずれの三次元成形体も、成形体の厚みとしては、成形材料として用いた基材(繊維の板状体)の初期厚みにもよるが、通常、3~20mmであることが好ましく、より好ましくは4~15mm、さらに4~15mmであってもよい。軽量化用途に用いられる断熱材としてこの程度の厚みでも断熱効果を得ることができる。
【0104】
また、成形体の密度は100~300kg/mであることが好ましく、より好ましくは130~270kg/mである。密度が低いということは、成形体における繊維密度が低いことを意味し、断熱性能の低下の原因となりやすい。一方、成形体の密度を高くするということは、繊維の圧縮率を過大にすることを意味し、300kg/mを超えると繊維の弾性復帰が起きやすく、ひいては成形体の三次元形状の保持性が低下する。
【0105】
本発明の高温用断熱材は、成形体の厚み、密度、構成材料としての繊維の種類にもよるが、基材を構成する繊維群の絡み合いにより形成される空隙が振動低減効果を発揮できるため、断熱材としての用途のほか、高温領域で使用する吸音材、緩衝材として利用することもできる。
【0106】
600℃以上、さらには800℃~1000℃程度の耐熱性を有し、しかも高温領域での断熱性に優れるだけでなく、吸音材、緩衝材としての機能も有するので、自動車の排気部、特にマニホールド付近に取り付ける吸音・断熱材として使用することもできる。このような断熱材の利用は、エンジン停止時の温度低下を抑制し、高温での触媒反応の反応効率ひいてはエンジン効率、あるいは燃料電池などの高温で作動する熱機器の燃料効率を向上させることができる。かかる用途での使用について、従来は、断熱シートを、対象となる構造部材に巻き付け装着していたが、取付け部の形状に沿った凹部を有する三次元形状に成形することで、取付け作業性の向上にもつながる。
【実施例
【0107】
〔高温用断熱材の断熱性比較〕
1.高温用断熱材の構成要素
(1)基材
belChem社のBELCOTEX(登録商標)110(組成はAlO1.5・18[(SiO2)0.6(SiO1.5OH)0.4]、繊維径:9μm、平均繊維長:約90mm)の繊維群をニードルパンチ法でマット状にしたニードルマット(縦:300mm,横:300mm,厚み:6mm)を用いた。
【0108】
(2)赤外線作用材
(2-1)赤外線反射タイプ赤外線作用材
株式会社UACJ製の厚み25μmのアルミニウム箔「マイホイル」(商品名)を用いた。
(2-2)赤外線吸収タイプ赤外線作用材
日本ケイカル株式会社のSiC粉末(光散乱法により測定される粒度分布:D50が1.8μm、D90が6.8μm)を用いた。このSiC粉末の放射率は0.82程度である。
【0109】
(3)シリカ硬化物原料
(3-1)膜形成性シリカ系バインダー
シリカ粉末分散液として、坂井化学工業株式会社の耐熱性無機接着剤「BETACK900C」(結晶性シリカ約50%、ケイ酸ナトリウム約20%のアルカリ性粘性ペースト、粘度20~50Pa・s)を用いた。これを、水で重量比1:1となるように希釈し、さらに膜形成性成分として、クニミネ工業株式会社製の「スメクトンSA」(スメクタイト類に属する合成粘土)を、スメクトンSAが2重量%となるように添加した後、均一になるよう撹拌して、膜形成性シリカ系バインダー液を調製した。
【0110】
(3-2)コロイダルシリカ(シリカのコロイド溶液)
日産化学工業株式会社製のスノーテックスXS(粒子径4~7nmのシリカ微粒子(球状)が水分散媒(Naイオン含有)中に分散したコロイド溶液、SiO含有率20%、中性)をバインダーとして使用した。
【0111】
2.高温用断熱材の製造
(1)金属箔貼着タイプ断熱材(No.1,2)
基材としてのニードルマットの片面に、上記で調製した膜形成性シリカ系バインダーを、自動ガンを用いて噴霧した。噴霧量は、片面あたり、懸濁液として333g/mである。
バインダー塗工面上に、アルミニウム箔(厚み25μm)を貼付し、300℃にセットした熱プレスで、300℃、元の厚み(T1)100%としたときの厚み減少率35%にまで(加圧後の厚み(T2)が65%となる圧縮率に該当)プレスした状態で、1分間保持した後、熱プレスを解除して、片面に金属箔が貼着された金属箔貼着タイプの断熱材No.1、2を作成した。
作成した断熱材について、後述する方法で、断熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0112】
(2)粒子分散タイプ断熱材(No.3~5)
コロイダルシリカに、赤外線吸収タイプの赤外線作用材としてのSiC粉末を、固形分濃度で5重量%、10重量%、15重量%となるように添加し、SiC含有シリカコロイド溶液を調製した。
基材としてのニードルマットの片面に、上記で調製したSiC含有シリカコロイド溶液を、自動ガンを用いて噴霧した。噴霧量は、片面あたり、懸濁液として333g/m(濃度が異なるバインダー液を同一量)である。
塗工後、300℃にセットした熱プレスで、300℃、元の厚み(T1)100%としたときの厚み減少率35%にまで(加圧後の厚み(T2)が65%となる圧縮率に該当)プレスした状態で、1分間保持した後、熱プレスを解除して、片面に赤外線作用材が固定保持された粒子分散タイプ断熱材No.3~5を作成した。
作成した断熱材について、後述する方法で、断熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0113】
(3)金属箔及びセラミック粒子併用タイプの断熱材(No.6~8)
基材としてのニードルマットの片面に、上記で調製したSiC含有シリカコロイド溶液を、自動ガンを用いて噴霧した。噴霧量は、片面あたり、懸濁液として333g/m(濃度が異なるバインダー液を同一量)である。基材の反対側の面に、膜形成性シリカ系バインダーを、自動ガンを用いて噴霧した後、アルミニウム箔を貼付した。
かかる状態で、300℃にセットした熱プレスで、No.1~5と同様に加圧し、片面にSiCが固定保持され、反対側の面に金属箔が貼着された併用タイプの断熱材No.6~8を作成した。
作成した断熱材について、後述する方法で、断熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0114】
(4)参考例1、2
参考例1として、基材単体について、No.1と同様にプレスして、断熱材を作製した。
また、参考例2として、No.3で用いたコロイダルシリカのみ(SiCを含有しないシリカコロイド溶液)を、No.3と同様にして噴霧、プレスして、断熱材を作製した。
作製した断熱材について、断熱性を測定評価した結果をあわせて、表1に示す。
【0115】
3.断熱性評価
上記で作成した高温用断熱材No.1~8及び参考例1、2について、図4に示す測定装置を用いて断熱性を評価した。
すなわち、ヒーター11を備えた加熱炉10の上面に直径100mmの開口部10aが開設されていて、この開口部10aの上に、作成した断熱材13を載置した。断熱材13の載置は、表1に示すように、赤外線作用材が固定保持された面が、熱源側(加熱炉側)又は外界側となるように行った。断熱材13の上面(熱源側と反対側の面)に、縦×横×厚みが150mm×150mm×1.5mmの金属(SUS304)板14を、重しとして載せた。なお、金属板14の表面には、黒体スプレー(株式会社イチネンTASCO製、放射率0.94)が施されている。
ヒーター11で加熱炉10内を加熱し、熱電対12により設定温度600℃又は900℃となるように制御した。各設定温度に到達した後、30分間放置した。30分後、サーモカメラ(FLIR640T)を用いて、金属板14上の表面温度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
No.1は、900℃では、アルミニウム箔が焼失してしまい、測定不可能であった。
No.2~8のいずれも、600℃程度では、基材単体(参考例1)と比べて断熱効果が認められなかったが、900℃では、いずれも基材単体よりも断熱効果が認められた。
また、No.3~5とNo.6~8との比較から、赤外線吸収タイプの赤外線作用材と赤外線反射タイプの赤外線作用材とを併用することで、赤外線吸収タイプ単独の場合よりも高い断熱効果が得られることがわかる。
熱源温度が高くなる場合には、赤外線吸収タイプの赤外線作用材を熱源側に固定保持し、赤外線反射タイプの赤外線作用材を外界側に固定保持することで、より高い断熱効果が期待できる。
【0118】
〔シリカコロイド粒子と三次元形状成形性の関係〕
1.高温用断熱材の構成要素
(1)基材
Frenzelit社のテクニカルニードルマット(isoTHERM(登録商標)BCT)(サイズ:縦×横×厚みが300mm×300mm×6mm)を用いた。
このニードルマットは、belChem社のBELCOTEX(登録商標)110(組成はAlO1.5・18[(SiO2)0.6(SiO1.5OH)0.4]、繊維径9μmの繊維群をニードルパンチ法でマット状にしたもので、マットの厚みは公称6mmである。
【0119】
(2)コロイダルシリカ
表2に示すような平均粒子径及び形状を有するコロイダルシリカ(いずれも日産化学工業株式会社のNaタイプのスノーテックス(登録商標)を用いた。いずれもNaイオンでコロイド粒子を安定化させた懸濁液である。
鎖状コロイダルシリカとは、一次粒子径9~15nmのシリカ粒子が糸状に凝集したものである。数珠状のコロイダルシリカとは、一次粒子径18~25nmのシリカ粒子が数珠状に凝集したものである。表2に示すこれらの平均粒子径は、動的光散乱法で測定される二次コロイド粒子の平均粒子径である。
【0120】
2.三次元形状成形体No.11~17の製造
基材としてのニードルマットの片面に、表2に示すコロイダルシリカを噴霧した。噴霧量は、懸濁液として666g/m(固形分量で133~320g/m)である。
次いで、図1(b)に示すように、300℃にセットされた雌型6上に、コロイダルシリカが付着した側を、型枠の上面側となるようにセットし、上面側に取り付けた300℃にセットした熱プレス5で、300℃、元の厚み(T1)100%としたときの厚み減少率35%にまで(加圧後の厚み(T2)が65%となる圧縮率に該当)プレスした状態で、1分間保持した後、雄型(熱プレス)5を解除して、図1(c)に示すようなトレイを作成した。成形直後の三次元形状成形体7の側壁間距離(d1)は150mm、側壁の水平面に対する傾斜角度α=70°であった。
作成したトレイについて、形状保持性及び取扱い性を後述する方法で評価した。結果を併せて表2に示す。
【0121】
参考例11、12
コロイダルシリカを使用せず、基材単独を、300℃で、加圧後の厚みが65%(厚み減少率35%)となる圧力で、1分間(参考例11)又は5分間(参考例12)保持し、図1(c)に示すトレイ型成形体を作製した。
作成したトレイについて、形状保持性及び取扱い性を評価した。結果を併せて表2に示す。
【0122】
3.評価方法及び評価結果
(1)形状保持性
作成したトレイ型の成形体を、図5に示すように、底面を固定した状態で、成形体20の側壁に、荷重(w)をかけたガイドローラを当て、荷重(W)の大きさにしたがって側壁を傾斜させた(図5中、側壁が傾斜した成形体20’で示されている)。荷重に対応するベアリングローラ(直径32mm、成形体底面からの高さ34mm)の移動量(x)を測定し、移動量xを、荷重に基づく変位量x(単位:mm)として、以下の基準で評価した。なお、測定は3個の成形体について行い、その平均値に基づき、評価した。
10gあたりの変位量が1mm未満:最良(◎)
10gあたりの変位量が1mm~2mm未満:良好(○)
10gあたりの変異量が2mm~5mm:問題なし(△)
10gあたりの変異量が3mm超:不良(×)
【0123】
(2)取扱い性
成形体の、コロイダルシリカ塗工側の面を目視で観察し、粉塵原因となる粉末の発生具合を目視で観察した。また、成形体のコロイダルシリカ塗工側の面を手で触り、手に粉末が付着する度合いを観察した。
粉末の発生が多く、手でさわったときに粉末が目立つ程度に付着している場合を「△」、粉末の発生が認められたものの、手でさわったときに手に付着する粉末量は問題となる程度の量でない場合を「○」、粉末が全く認められない場合を「◎」とした。
【0124】
【表2】
【0125】
No.11,12、15の比較からわかるように、コロイド粒子の平均粒子径が大きくなるにしたがい、形状保持性が低下した。
また、鎖状に凝集したコロイド粒子の場合、球状の粒子が単独で分散したコロイダルシリカよりも形状保持性が高い傾向にあった(No.16)。しかしながら、凝集タイプのコロイダルシリカの場合、成形体表面に残存する粉末量が多くなり、手でさわっても粉末が手に付着し、取扱い性に劣っていた(No.16,17)。
【0126】
なお、コロイダルシリカを使用しない場合、1分間の加熱・加圧では、トレイ形状に作成しても、当該形状を保持することが困難であった。加熱・加圧時間を5分間にした場合、トレイ形状を保持しているが、保持力はコロイダルシリカを用いた場合と比べて劣っていた。
【0127】
得られた三次元形状成形体No.11及び参考例11について、凹部表面を顕微鏡観察(倍率:500倍)で観察し、撮像した。撮像した顕微鏡写真をそれぞれ図6図7に示す。図7(参考例11)と比べて、図6(No.11)では、繊維がところどころで架橋していることが認められ、コロイダルシリカが繊維同士を結びつける役割をしていることが確認できた。さらに、図6で、コロイダルシリカの架橋がコロイダルシリカを適用した表層部分では密に観察できたが、内部では架橋がほとんど認められなかった。
【0128】
(4)参考例13
コロイダルシリカに代えて、イソシアネート(大榮産業のブロックポリイソシアネート「Blonate」(登録商標))を使用し、固形分量でニードルマット重量に対し30%を板状体の片面に噴霧した後、No.11と同様の条件で加熱・加圧成形した。雄型の凸部表面に成形体表面が付着し、成形体の雄型からの離型が困難であった。雄型の凸部から成形体をはがしたところ、凸部表面に繊維の一部がこびりついていた。
【0129】
〔金属箔貼着タイプ断熱材の三次元成形体の製造]
基材としての上記ニードルマットの片面に、上記断熱材No.1作製用に調製した膜形成性シリカ系バインダーを、自動ガンを用いて噴霧した。噴霧量は、懸濁液として333g/mである。バインダー塗工面上に、金属箔(厚み25μm)を貼付した。
次いで、図3(c)に示すように、300℃にセットされた雌型6’上に、金属箔4を貼付した側を、型枠の上面側となるようにセットし、上面側に取り付けた300℃にセットした雄型5’で、300℃、元の厚み(T1)100%としたときの厚み減少率35%にまで(加圧後の厚み(T2)が65%となる圧縮率に該当)プレスした状態で、1分間保持した後、雄型(熱プレス)を解除して、図8に示すようなトレイを作成した。側壁の水平面に対する傾斜角度α=70°及びβ=85°であった。
【0130】
作成したトレイの写真を図9に示す。トレイの内側面にアルミニウム箔が均一に貼着され、安定的なトレイ形状を付与できたことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の高温用断熱材は、基材であるシリカ系無機繊維製マット及び基材の表層部に固定保持された赤外線作用材に基づいて、600℃以上といった高温領域で優れた断熱性を示す。また、成形体の構成要素である無機繊維本来の耐熱性を保持しているので、高温保持の用途(例えば、触媒コンバーター)に用いる断熱材の他、高温領域に用いる吸音材、緩衝材などとしても有用である。
さらに、本発明の三次元形状成形体の製造方法は、取付け箇所に適合する三次元形状を有する成形体を、5分未満という短時間で製造することができるので、成形体の製造現場、成形体のユーザ(成形体の取付け現場)の双方にとって、生産性の向上に役立つ。車体のマフラーや燃料電池のような構造体に直接セットできることから、施工現場での施工負担が少なくて済み、有用である。
【0132】
さらに、赤外線作用材として金属箔を用いた場合、基材を構成するシリカ系無機繊維由来の発塵、粉末・微小繊維の飛散、外界からの異物の付着、侵入の防止できるので、建築構造物や、車両の排気系のマフラー、サイレンサーのように、外界からの埃、塵に曝される高温環境で用いられる構造体の断熱に利用できる。
【符号の説明】
【0133】
1 基材
1a シリカ繊維
2 セラミック粉末含有シリカコロイド溶液
3 シリカ硬化物
3’ 膜形成性シリカ系バインダー
4 金属箔
7,7’ 三次元形状成形体

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9