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特許7602293電気剥離性粘着剤組成物、電気剥離性粘着製品及びその利用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】電気剥離性粘着剤組成物、電気剥離性粘着製品及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/04 20060101AFI20241211BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20241211BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20241211BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20241211BHJP
   C09J 5/00 20060101ALI20241211BHJP
   C09J 9/02 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C09J133/04
C09J7/38
C09J11/06
C09J11/08
C09J5/00
C09J9/02
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023579989
(86)(22)【出願日】2022-02-10
(86)【国際出願番号】 JP2022005472
(87)【国際公開番号】W WO2023152912
(87)【国際公開日】2023-08-17
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】592103442
【氏名又は名称】ビッグテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】青木 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】共田 陸史
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-37355(JP,A)
【文献】国際公開第2020/050169(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/166803(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/177197(WO,A1)
【文献】特開2004-162070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系ポリマー、イオン液体及び高吸水性高分子を含む、電気剥離性粘着剤組成物。
【請求項2】
前記高吸水性高分子が、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸カリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、ポリ(メタ)アクリル酸カルシウム、ポリ(メタ)アクリル酸マグネシウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ-N-イソプロピルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール又はこれらの誘導体もしくは架橋物から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記高吸水性高分子が、前記アクリル系ポリマー100重量部に対して1~40重量部である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
移動促進剤を更に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記移動促進剤が、ポリエチレングリコールのアルキルエーテルである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリエチレングリコールのアルキルエーテルが、120~360の重量平均分子量を有するポリエチレングリコールモノ(ジ)メチルエーテルである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記移動促進剤の含有量が、前記アクリル系ポリマー100重量部に対して5~30重量部である、請求項4~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記イオン液体のイオン伝導率が10-4~10-2 S/cmである、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記イオン液体が、下記の式(1)で表される、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【化1】
[式中、R1は、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数2~8の二価の炭化水素基であり、式中のN+と共に環を構成し、
R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であり(但し、窒素原子が隣接する炭素原子と二重結合を形成している場合は、R3は存在しない)、
X-は、Cl-、Br-、I-、AlCl4 -、Al2Cl7-、NO3 -、BF4 -、PF6 -、ClO4 -、CH3COO-、CF3COO-、CF3SO3 -、(CF3SO2)2N-、(FSO2)2N-、(CF3SO2)3C-、AsF6 -、SbF6 -、NbF6-、F(HF)n -、B(C6H5)4 -、C4F9SO3 -、CF3(CF2)3SO3 -、(CF3CF2SO2)2N-及びCF3CF2COO-から選択されるアニオンである]
【請求項10】
前記イオン液体が、ピリジニウム系カチオン、環状脂肪族系アンモニウムカチオン及びイミダゾリウム系カチオンから選択されるカチオンと、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-及びBF4 -から選択されるアニオンとの塩である、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記イオン液体の含有量が前記アクリル系ポリマー100重量部に対して5~40重量部である、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記アクリル系ポリマーが、炭素数1~8のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、カルボキシル基含有アクリル系モノマー及び/又はヒドロキシル基含有アクリル系モノマーとの共重合体を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
下記式(2)により算出される、40℃の空間内に500時間静置し、電圧を印加した後の引上げ強度の低下率が85%以上である、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物。
【数1】
(式中、αは、40℃の空間内に500時間静置した後の、未印加の粘着製品の引上げ強度を指し、
40℃の空間内に500時間静置した後の、未印加の粘着製品の引上げ強度とは、電気剥離性粘着剤組成物を粘着剤層とした両面テープの形態である粘着製品を形成し、前記粘着製品で被着体及び固定対象物を固定し、40℃の空間内に500時間静置した後、引張試験機を用いて前記被着体から前記固定対象物を剥がした際の力を指し、
βは、40℃の空間内に500時間静置し、電圧を印加した後の粘着製品の引上げ強度を指し、
40℃の空間内に500時間静置し、電圧を印加した後の粘着製品の引上げ強度とは、前記粘着製品で被着体及び固定対象物を固定し、40℃の空間内に500時間静置した後、前記粘着製品に30Vの電圧を60秒間印加してから引張試験機を用いて被着体から前記固定対象物を剥がした際の力を指す)
【請求項14】
下記式(3)により算出される、80℃の空間内に100時間静置し、電圧を印加した後の引上げ強度の低下率が20%以上である、請求項1~13のいずれか1項に記載の組成物。
【数2】
(式中、αは、80℃の空間内に100時間静置した後の、未印加の粘着製品の引上げ強度を指し、
80℃の空間内に100時間静置した後の、未印加の粘着製品の引上げ強度とは、電気剥離性粘着剤組成物を粘着剤層とした両面テープの形態である粘着製品を形成し、前記粘着製品で被着体及び固定対象物を固定し、80℃の空間内に100時間静置した後、引張試験機を用いて前記被着体から前記固定対象物を剥がした際の力を指し、
βは、80℃の空間内に100時間静置し、電圧を印加した後の粘着製品の引上げ強度を指し、
80℃の空間内に100時間静置し、電圧を印加した後の粘着製品の引上げ強度とは、前記粘着製品で被着体及び固定対象物を固定し、80℃の空間内に100時間静置した後、前記粘着製品に30Vの電圧を60秒間印加してから引張試験機を用いて前記被着体から前記固定対象物を剥がした際の力を指す)
【請求項15】
再利用可能である、請求項1~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
基材と、前記基材に接するように形成された電気剥離性粘着剤層とを有し、前記電気剥離性粘着剤層が、請求項1~15のいずれか1項に記載の電気剥離性粘着剤組成物を含む、電気剥離性粘着製品。
【請求項17】
芯材と、前記芯材の両面にそれぞれ接するように形成された2つの電気剥離性粘着剤層とを有し、前記電気剥離性粘着剤層が、請求項1~15のいずれか1項に記載の電気剥離性粘着剤組成物を含む、電気剥離性粘着製品。
【請求項18】
前記粘着製品が、粘着テープ又は粘着シートである、請求項17に記載の粘着製品。
【請求項19】
再利用可能である、請求項16~18のいずれか1項に記載の粘着製品。
【請求項20】
請求項16~19のいずれか1項に記載の粘着製品を、導電性の物体上に粘着剤層が接するように貼り付けた後、導電性の物体を介して前記粘着剤層に30V以下の電圧を印加することにより、前記粘着製品を直接貼り付けた前記導電性の物体から剥離する方法であって、前記導電性の物体が、導電性の被着体、導電性補助材又は導電性の固定対象物のいずれかである、電気剥離性粘着製品の剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気剥離性粘着剤組成物に関する。本発明は、電気剥離性粘着製品に関する。本発明は、電気剥離性粘着製品の剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被着体への粘着性及び被着体からの剥離性を有する粘着剤や粘着テープが、種々の用途(例えば、表面保護フィルム、塗装用マスキングテープ、剥離可能なメモ等)で使用されている。被着体からの粘着剤の剥離方法としては、物理的方法以外に、光、熱、振動、又は通電による刺激にて剥離する方法等が知られている。例えば、特許文献1には、粘着剤にポリマーとイオン液体とを使用することにより、電圧の印加によって被着体から剥離可能な粘着剤(電気剥離性粘着剤)が提供できることが記載されている。また、特許文献2には、ポリマーやイオン液体と共に用いる移動促進剤等の条件を検討することで、低電圧の印加でも糊残りのない電気剥離性粘着剤を提供できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-037354号公報
【文献】米国特許出願17/602,212号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、電気剥離性粘着剤について研究を進める中で、特許文献2に記載された電気剥離性粘着剤組成物は、常温下での使用において優れた電気剥離性を有しているが、高温環境下に長時間晒されると電気剥離性が低下するという新たな問題を見いだした。そのため、本発明は、電気剥離性粘着剤を様々な製品に適用するために、高温環境下に長時間晒されても優れた電気剥離性を有した電気剥離性粘着製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、アクリル系ポリマーとイオン液体とを含む従来の電気剥離性粘着剤組成物に高吸水性高分子を添加することで、耐熱性に優れた電気剥離性粘着製品を提供できることを見いだし、本発明に到った。
よって、本発明は、アクリル系ポリマー、イオン液体及び高吸水性高分子を含む、電気剥離性粘着剤組成物が提供される。
【0006】
本発明は、基材と、基材に接するように形成された電気剥離性粘着剤層とを有し、電気剥離性粘着剤層が、上記の電気剥離性粘着剤組成物を含む、電気剥離性粘着製品が提供される。
本発明によれば、芯材と、芯材の両面にそれぞれ接するように形成された2つの電気剥離性粘着剤層とを有し、電気剥離性粘着剤層が、上記の電気剥離性粘着剤組成物を含む、電気剥離性粘着製品が提供される。
【0007】
本発明は、上記の電気剥離性粘着製品を、導電性の物体上に粘着剤層が接するように貼り付けた後、導電性の物体を介して粘着剤層に30V以下の電圧を印加することにより、粘着製品を直接貼り付けた導電性の物体から剥離させる方法であって、導電性の物体が、導電性の被着体、導電性補助材又は導電性の固定対象物のいずれかである、電気剥離性粘着製品の剥離方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温条件下に晒されても電気剥離性に優れた電気剥離性粘着剤組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】片面テープの形態の電気剥離性粘着製品の断面の一例を示す図である。
図2】両面テープの形態の電気剥離性粘着製品の断面の一例を示す図である。
図3A】導電性の被着体と導電性の基材に電圧を印加し、電気剥離性粘着製品から導電性の基材を剥離する回路の一例を示す図である。
図3B】電圧を印加し導電性の基材を剥離した例を示す図である。
図4A】導電性の被着体と導電性の固定対象物に電圧を印加し、電気剥離性粘着製品から導電性の固定対象物を剥離する回路の一例を示す図である。
図4B】電圧を印加し導電性の固定対象物を剥離した例を示す図である。
図5A】導電性の被着体と導電性補助材に電圧を印加し、電気剥離性粘着製品から非導電性の固定対象物を剥離する回路の一例を示す図である。
図5B】電圧を印加し非導電性の固定対象物を剥離した例を示す図である。
図6A】導電性補助材と導電性の固定対象物に電圧を印加し、電気剥離性粘着製品から導電性の固定対象物を剥離する回路の一例を示す図である。
図6B】電圧を印加し導電性の固定対象物を剥離した例を示す図である。
図7A】非導電性の被着体に粘着させた導電性補助材と非導電性の固定対象物に粘着させた導電性補助材に電圧を印加し、電気剥離性粘着製品から非導電性の固定対象物を剥離する回路の一例を示す図である。
図7B】電圧を印加し非導電性の固定対象物を剥離した例を示す図である。
図8A】評価サンプルの断面の簡略図である。
図8B】引上げ試験の簡略図である。
図8C】引上げ試験の簡略図である。
図9】加熱促進試験後の比較例1、実施例1~3の評価サンプルの電圧印加後の引上げ試験の結果を示す図である。
図10】加熱促進試験後の比較例1、実施例1又は2の評価サンプルの電圧印加後の引上げ試験の結果を示す図である。
図11】加熱促進試験後の比較例1、実施例4の評価サンプルの電圧印加後の引上げ試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「x~y」(x,yは具体的値)は、特に断らない限りx以上y以下を意味する。
【0011】
本実施形態のアクリル系ポリマーは、アクリル系モノマーを、任意の重合開始剤の存在下で重合させることで得ることができる。アクリル系ポリマーは、導電性の物体に粘着できさえすれば、どのようなポリマーも使用できる。導電性の物体とは、導電性の被着体、導電性補助材、導電性の基材又は導電性の固定対象物を指す(これらの定義については後述)。アクリル系ポリマーの重量平均分子量は、粘着性の観点から、10~500万が好ましく、20~400万がより好ましく、30~300万がより好ましい。ここで、重量平均分子量は、ポリスチレン換算の重量平均分子量を指す。具体的には、Shodex社のGPC (System21)を用い、移動相をテトラヒドロフランとして算出したポリスチレン換算の重量平均分子量であってもよい。
【0012】
アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、0℃以下が好ましく、-20℃以下がより好ましく、-40℃以下がより好ましい。上記Tgは、例えば下式のFox式に基づいて算出することができる。

1/Tg=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+・・・・・+(Wn/Tgn)

ガラス転移温度は、例えば、示差熱分析(DTA)により測定することができる。
【0013】
アクリル系ポリマーは、架橋剤を作用させることで、架橋させてもよい。架橋剤としては、例えば、トルエンジイソシアネート及びメチレンビスフェニルイソシアネート等のイソシアネート系架橋剤が挙げられる。架橋剤の量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して、1~10重量部であることが好ましく、3~10重量部であることがより好ましく、5~10重量部であることがより好ましい。アクリル系ポリマーを架橋させることで、電気剥離性粘着剤組成物を基材上に層として形成した場合、その層の耐クリープ性及び/又は耐せん断性を改良することができる。
【0014】
上記アクリル系ポリマーは、炭素数1~8のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、カルボキシル基含有アクリル系モノマー及び/又はヒドロキシル基含有アクリル系モノマーとの共重合体を含むことがより好ましい。アクリル系ポリマーが、これらの共重合体を含むことで、粘着力に優れた電気剥離性粘着剤組成物となる。
【0015】
(アクリル系モノマー)
アクリル系モノマーには、炭素数1~14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが主成分(50重量%以上)として含まれていることが好ましい。なお、(メタ)アクリレートは、メタクリレート又はアクリレートを意味する。
【0016】
炭素数1~14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート及びドデシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのアルキル(メタ)アクリレートは、1種のみ使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。これらのアルキル(メタ)アクリレートの内、炭素数1~8のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、n-ブチル(メタ)アクリレートがより好ましく、n-ブチルアクリレートがより好ましい。
【0017】
他のアクリル系モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基含有モノマー、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート及び(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)-メチルアクリレート等のヒドロキシル基含有モノマーが挙げられる。これらの他のアクリル系モノマーは、1種のみ使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。他のアクリル系モノマーとしては、カルボキシル基含有モノマー又はヒドロキシル基含有モノマーのいずれか、あるいはその両方が含まれていることが好ましい。
【0018】
アクリル系モノマーは、上記の他のアクリル系モノマーを使用せず、アルキル(メタ)アクリレートのみからなっていてもよい。また、所望の性能の電気剥離性粘着剤組成物を容易に入手する観点から、他のアクリル系モノマーが1重量%以上50重量%未満含まれていることが好ましく、5~30重量%含まれていることがより好ましく、5~15重量%含まれていることがより好ましい。
【0019】
また、カルボキシル基含有モノマー又はヒドロキシル基含有モノマーのいずれか、あるいはその両方が含まれている場合、これらの両モノマーの総含有量は、特に限定されるものではないが、全モノマー量を100重量部とした場合、1~20重量部の範囲であることが好ましい。この範囲で両モノマーを使用することで、粘着特性を改善できる。更に、両モノマーの総含有量は、1~10重量部の範囲であることがより好ましい。
【0020】
更に、(メタ)アクリレートには、必要に応じて、ビニル系モノマーを添加してもよい。ビニル系モノマーとしては、例えば、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、酢酸ビニル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルボン酸アミド類、スチレン及びN-ビニルカプロラクタム等が挙げられる。これらのビニル系モノマーは、1種のみ使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0021】
(重合開始剤)
任意に使用される重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫化物、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(フェニルメチル)-プロピオンアミジン]ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(3,4,5,6-テトラハイドロピリミジン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド及び2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等のアゾ系重合開始剤;過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノイルパーオキサイド及びt-ブチルペルオキシピバレイト等の過酸化物系重合開始剤;過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとにより構成されたレドックス系重合開始剤等が挙げられる。これらの重合開始剤は、1種のみ使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。また、紫外線照射、放射線照射を行ってもよい。重合開始剤は、アクリル系モノマー100重量部に対して0.005~1重量部の範囲で使用することが好ましい。この範囲で重合開始剤を使用することで、粘着特性に優れたアクリル系ポリマーを形成できる。
【0022】
(イオン液体)
イオン液体は、室温で液体であるカチオンとアニオンとの組み合わせであり、常温溶融塩とも呼ばれる。イオン液体は、不燃性、不揮発性及び化学的安定性等の特性を有する。イオン液体は、電圧を印加することで、陽極側にアニオンが移動し、陰極側にカチオンが移動する。電極付近へのアニオン及びカチオンの移動、又は電極と電気剥離性粘着剤組成物との界面でアニオン又はカチオンの酸化還元反応が起こることで、電気剥離性粘着剤組成物の粘着力が弱まり、その結果、剥離性が向上すると考えられている。
【0023】
イオン液体が有するイオン伝導率は、特に限定されないが、10-7S/cm以上のイオン伝導率を有することが好ましく、10-6~10-1 S/cmのイオン伝導率を有することが好ましく、10-4~10-2 S/cmのイオン伝導率を有することがより好ましく、10-3~10-2 S/cmのイオン伝導率を有することがより好ましい。イオン伝導率の測定法は、例えば、ACインピーダンス法によって測定することができる。ACインピーダンス法によるイオン液体のイオン伝導率の測定は、例えば、次のようにして測定できる。
【0024】
常温で、二極式セルを用いてイオン液体をステンレスの上に置き、さらに別のステンレス板をイオン液体の上に置くことでイオン液体をステンレス板で挟み、スペーサーによって、一定の面積と厚さの円盤状に制御することでサンプルを得る。このサンプルに電圧を印加し、振幅を規定する周波数を変化させたときに得られるCole-Coleプロットを、等価回路を用いてカーブフィットすることによりバルク抵抗(Ω)を求める。サンプルの面積A、サンプルの厚さL及びバルク抵抗Rbを下記式に代入することで、イオン液体のイオン伝導率δを算出できる。

δ=L/(Rb×A)
[δ:イオン伝導率、Rb:バルク抵抗、L:サンプルの厚さ(cm)、A:サンプルの面積(cm2)]
【0025】
イオン液体としては、例えば、下記式(1)で表される環状カチオンとアニオンとの組み合わせが挙げられる。
【0026】
【化1】
[式中、R1は、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数2~8の二価の炭化水素基であり、式中のN+と共に環を構成し、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であり(但し、窒素原子が隣接する炭素原子と二重結合を形成している場合は、R3は存在しない)、
X-は、Cl-、Br-、I-、AlCl4 -、Al2Cl7-、NO3 -、BF4 -、PF6 -、ClO4 -、CH3COO-、CF3COO-、CF3SO3 -、(CF3SO2)2N-、(FSO2)2N-、(CF3SO2)3C-、AsF6 -、SbF6 -、NbF6-、F(HF)n -、B(C6H5)4 -、C4F9SO3 -、CF3(CF2)3SO3 -、(CF3CF2SO2)2N-及びCF3CF2COO-から選択されるアニオンである]
【0027】
上記式中、R1とN+とから構成される環には、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びシクロオクタン等の飽和脂環族炭化水素、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロペンタジエン及びベンゼン等の不飽和環状炭化水素等の炭化水素環を構成する少なくとも1つの炭素原子を窒素原子に置き換えた環が含まれる。ヘテロ原子としては、N、O、S、P等が挙げられ、好ましくはNである。
【0028】
炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基等が挙げられる。炭素数3~8のアルキル基は、構造異性体を含む。
【0029】
イオン液体の別の例としては、例えば、下記式(2)又は(3)で表されるカチオンとアニオンとの組み合わせが挙げられる。
【0030】
【化2】
[式中、YはN又はPであり、R4~R7は、同一又は異なって、水素原子(但し、R4~R7の全てが水素原子ではない)又は炭素数1~20の、置換基を有していてもよい、直鎖若しくは分岐又は環状のアルキル基であり(但し、窒素原子が隣接する炭素原子と二重結合を形成している場合は、R7は存在しない)、置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基からなる群より選択され、
X-は、Cl-、Br-、I-、AlCl4 -、Al2Cl7-、NO3 -、BF4 -、PF6 -、ClO4 -、CH3COO-、CF3COO-、CF3SO3 -、(CF3SO2)2N-、(FSO2)2N-、(CF3SO2)3C-、AsF6 -、SbF6 -、NbF6-、F(HF)n -、B(C6H5)4 -、C4F9SO3 -、CF3(CF2)3SO3 -、(CF3CF2SO2)2N-及びCF3CF2COO-から選択されるアニオンである]
【0031】
【化3】
[式中、R8~R10は、同一又は異なって、水素原子(但し、R8~R10の全てが水素原子ではない)又は炭素数1~20の、置換基を有していてもよい、直鎖若しくは分岐又は環状のアルキル基であり、置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基からなる群より選択され、
X-は、Cl-、Br-、I-、AlCl4 -、Al2Cl7-、NO3 -、BF4 -、PF6 -、ClO4 -、CH3COO-、CF3COO-、CF3SO3 -、(CF3SO2)2N-、(FSO2)2N-、(CF3SO2)3C-、AsF6 -、SbF6 -、NbF6-、F(HF)n -、B(C6H5)4 -、C4F9SO3 -、CF3(CF2)3SO3 -、(CF3CF2SO2)2N-及びCF3CF2COO-から選択されるアニオンである]
【0032】
イオン液体におけるカチオンは、700以下の重量平均分子量を有していることが好ましく、50~600の重量平均分子量を有していることがより好ましく、50~500の重量平均分子量を有していることがより好ましく、50~400の重量平均分子量を有していることがより好ましい。イオン液体におけるカチオンの重量平均分子量の上限は、例えば、700、650、600、550、500、450、400、350、300、250、200、150である。イオン液体におけるカチオンの重量平均分子量の下限は、例えば、30、40、50、60、70、80、90、99、100である。ここでいう、重量平均分子量は、ポリスチレン換算の重量平均分子量を指す。
【0033】
イオン液体としては、式(1)で表される環状カチオンとアニオンとの組み合わせであることが好ましく、ピリジニウム系カチオン、環状脂肪族系アンモニウムカチオン及びイミダゾリウム系カチオンから選択されるカチオンと、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-及びBF4 -から選択されるアニオンとの組み合わせであることがより好ましく、イミダゾリウム系カチオンから選択されるカチオンと、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-及びBF4-から選択されるアニオンとの組み合わせであることが電圧の印加後の剥離性を向上させる観点からより好ましい。
【0034】
イオン液体は、第一工業製薬、関東化学、広栄化学工業等から入手可能である。例えば、第一工業製薬から1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(EMI-FSI)及び1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI-TFSI)、関東化学から1-ヘキシルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド及び1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、広栄化学工業から1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(IL-C3)、1-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート(IL-P10)及び1-ヘキシルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(IL-P14)を入手することができる。EMI-FSIに含まれるカチオン及びアニオンの組み合わせは以下の通りである。
【0035】
【化4】
【0036】
電気剥離性粘着剤組成物が含むイオン液体の量は、特に限定されないが、アクリル系ポリマー100重量部に対して、1~90重量部であることが好ましく、5~80重量部であることがより好ましく、5~50重量部であることがより好ましく、5~40重量部であることがより好ましく、5~30重量部であることがより好ましい。電気剥離性粘着剤組成物が含むイオン液体の量の上限は、例えばアクリル系ポリマー100重量部に対して、90重量部、85重量部、80重量部、70重量部、60重量部、50重量部、45重量部、40重量部、35重量部、33重量部、32重量部、31重量部、30重量部である。電気剥離性粘着剤組成物が含むイオン液体の量の下限は、例えばアクリル系ポリマー100重量部に対して、1重量部、3重量部、5重量部、7重量部、9重量部、10重量部、12重量部、14重量部、15重量部、16重量部、17重量部、18重量部、19重量部、20重量部である。イオン液体は1つのカチオン及び1つのアニオンの組み合わせでもよいし、複数種類のカチオン、アニオンの組み合わせであってもよい。
【0037】
(高吸水性高分子)
本実施形態の電気剥離性粘着剤組成物は、高吸水性高分子を含む。本明細書において、高吸水性高分子とは、少なくとも自重の10倍以上の水を吸収可能なポリマーを指す。
高吸水性高分子は、自重の20倍以上の水を吸収可能であることが好ましく、自重の30倍以上の水を吸収可能であることがより好ましく、自重の50倍以上の水を吸収可能であることがより好ましく、自重の100倍以上の水を吸収可能であることがより好ましい。
ここでいう自重とは、高吸水性高分子の乾燥重量を指す。高吸水性高分子が配合されていることにより、電気剥離性粘着剤組成物が水を保持することで、高温による電気剥離性の低下が改善されると考えられるが、本発明は特定の理論に拘束されない。
【0038】
高吸水性高分子としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸カリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、ポリ(メタ)アクリル酸カルシウム、ポリ(メタ)アクリル酸マグネシウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ-N-イソプロピルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール又はこれらの誘導体や架橋物が挙げられる。誘導体としては、特に限定されないが、例えば上記高分子の側鎖がヒドロキシル基、カルボキシル基、アミド基、アルキル基(例えば炭素数1~6)、アリール基(例えば炭素数6~8)、ハロゲンに置換されていることが挙げられる。このうち、親水基(ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミド基など)に置換されていることが好ましい。高吸水性高分子としては、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸カリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、ポリ(メタ)アクリル酸カルシウム、ポリ(メタ)アクリル酸マグネシウム又はこれらの誘導体や架橋物が好ましく、ポリアクリル酸ナトリウム又はポリアクリル酸ナトリウムの誘導体や架橋物であることがより好ましい。これらの高吸水性高分子は1種類でもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
電気剥離性粘着剤組成物が含む高吸水性高分子の量は特に限定されないが、アクリル系ポリマー100重量部に対して、1~90重量部であることが好ましく、1~80重量部であることがより好ましく、1~70重量部であることがより好ましく、1~60重量部であることがより好ましく、1~50重量部であることがより好ましく、1~40重量部であることがより好ましい。電気剥離性粘着剤組成物が含む高吸水性高分子の量の上限は、例えばアクリル系ポリマー100重量部に対して、90重量部、85重量部、80重量部、70重量部、60重量部、50重量部、40重量部、35重量部、30重量部である。電気剥離性粘着剤組成物が含む高吸水性高分子の量の下限は、例えばアクリル系ポリマー100重量部に対して、1重量部、2重量部、3重量部、4重量部、5重量部である。
【0040】
高吸水性高分子を用いることで、高温に晒されても電気剥離性が低下しにくい電気剥離性粘着剤組成物となる。なお、高温とは、40℃以上の温度を指す。本実施形態では、「電気剥離性粘着剤組成物が高温に晒される」とは、電気剥離性粘着剤組成物が、当該組成物自体が高温になり得る環境に存在することをいう。そのような環境としては、例えば、電気剥離性粘着剤組成物が高温の物体と直接又は間接的に接触している状態、電気剥離性粘着剤組成物が高温の空間内に置かれている状態、及びその両方が挙げられる。電気剥離性粘着組成物自体が高温になり得る環境は、常に高温の環境でもよいし、所定の時間において高温になる環境でもよい。本発明の電気剥離性粘着剤組成物は高温に晒されても優れた電気剥離性を有しているため、貼り付ける物体そのものが高温になり得るものであっても、電気剥離性粘着剤組成物が置かれる空間が高温になるような条件であっても用いることができる。
【0041】
ここで、電気剥離性粘着剤組成物が高温に晒されても優れた電気剥離性を有していることは、以下の式(4)又は(5)により算出される、電気剥離性粘着剤組成物を40℃の空間内に500時間静置した後の引上げ強度の低下率が、85%以上であることによって判断できる。あるいは、以下の式(6)又は(7)により算出される、電気剥離性粘着剤組成物を80℃の空間内に100時間静置した後の引上げ強度の低下率が、20%以上であることによって、電気剥離性粘着剤組成物が高温に晒されても優れた電気剥離性を有していると判断してもよい。式(4)又は(5)により算出される、電気剥離性粘着剤組成物を40℃の空間内に500時間静置した後の引上げ強度の低下率は、90%以上であることが好ましい。式(6)又は(7)により算出される、電気剥離性粘着剤組成物を80℃の空間内に100時間静置した後の引上げ強度の低下率は、30%以上であることが好ましい。そして、式(4)又は(5)により算出される、電気剥離性粘着剤組成物を40℃の空間内に500時間静置した後の引上げ強度の低下率は、90%以上であり、且つ式(6)又は(7)により算出される、電気剥離性粘着剤組成物を80℃の空間内に100時間静置した後の引上げ強度の低下率は、30%以上であることがより好ましい。
【0042】
【数1】
(式中、αは、40℃の空間内に500時間静置した後の、未印加の粘着製品の引上げ強度を指し、
40℃の空間内に500時間静置した後の、未印加の粘着製品の引上げ強度とは、電気剥離性粘着剤組成物を粘着剤層とした両面テープの形態である粘着製品を形成し、前記粘着製品で被着体及び固定対象物を固定し、40℃の空間内に500時間静置した後、引張試験機を用いて前記被着体から前記固定対象物を剥がした際の力を指し、
βは、40℃の空間内に500時間静置し、電圧を印加した後の粘着製品の引上げ強度を指し、
40℃の空間内に500時間静置し、電圧を印加した後の粘着製品の引上げ強度とは、前記粘着製品で被着体及び固定対象物を固定し、40℃の空間内に500時間静置した後、前記粘着製品に30Vの電圧を60秒間印加してから引張試験機を用いて前記被着体から前記固定対象物を剥がした際の力を指す)
【0043】
【数2】
(式中、αは、40℃の空間内に500時間静置した後の、未印加の粘着製品の引上げ強度を指し、
40℃の空間内に500時間静置した後の、未印加の粘着製品の引上げ強度とは、電気剥離性粘着剤組成物を粘着剤層とした両面テープの形態である粘着製品を形成し、前記粘着製品で樹脂板及びステンレス板を固定し、40℃の空間内に500時間静置した後、引張試験機を用いて300mm/分の速度で前記ステンレス板から前記樹脂板を剥がした際の力(N)を指し、
βは、40℃の空間内に500時間静置し、電圧を印加した後の粘着製品の引上げ強度を指し、
40℃の空間内に500時間静置し、電圧を印加した後の粘着製品の引上げ強度とは、前記粘着製品で樹脂板及びステンレス板を固定し、40℃の空間内に500時間静置した後、前記粘着製品に30Vの電圧を60秒間印加してから引張試験機を用いて300mm/分の速度で前記ステンレス板から前記樹脂板を剥がした際の力(N)を指す)
【0044】
【数3】
(式中、αは、80℃の空間内に100時間静置した後の、未印加の粘着製品の引上げ強度を指し、
80℃の空間内に100時間静置した後の、未印加の粘着製品の引上げ強度とは、電気剥離性粘着剤組成物を粘着剤層とした両面テープの形態である粘着製品を形成し、前記粘着製品で被着体及び固定対象物を固定し、80℃の空間内に100時間静置した後、引張試験機を用いて前記被着体から前記固定対象物を剥がした際の力を指し、
βは、80℃の空間内に100時間静置し、電圧を印加した後の粘着製品の引上げ強度を指し、
80℃の空間内に100時間静置し、電圧を印加した後の粘着製品の引上げ強度とは、前記粘着製品で被着体及び固定対象物を固定し、80℃の空間内に100時間静置した後、前記粘着製品に30Vの電圧を60秒間印加してから引張試験機を用いて前記被着体から前記固定対象物を剥がした際の力を指す)
【0045】
【数4】
式中、αは、80℃の空間内に100時間静置した後の、未印加の粘着製品の引上げ強度を指し、
80℃の空間内に100時間静置した後の、未印加の粘着製品の引上げ強度とは、電気剥離性粘着剤組成物を粘着剤層とした両面テープの形態である粘着製品を形成し、前記粘着製品で樹脂板及びステンレス板を固定し、80℃の空間内に100時間静置した後、引張試験機を用いて300mm/分の速度で前記ステンレス板から前記樹脂板を剥がした際の力(N)を指し、
βは、80℃の空間内に100時間静置し、電圧を印加した後の粘着製品の引上げ強度を指し、
80℃の空間内に100時間静置し、電圧を印加した後の粘着製品の引上げ強度とは、前記粘着製品で樹脂板及びステンレス板を固定し、80℃の空間内に100時間静置した後、前記粘着製品に30Vの電圧を60秒間印加してから引張試験機を用いて300mm/分の速度で前記ステンレス板から前記樹脂板を剥がした際の力(N)を指す)
【0046】
式(4)又は(6)において、剥がすとは、被着体と固定対象物とが接しない状態になったことを指す。式(5)又は(7)において、剥がすとは、樹脂板とステンレス板とが接しない状態になったことを指す。引張試験機を用いて、例えば被着体と固定対象物とを完全に接しない状態にすることは、引張試験機を用いて固定対象物を引っ張ることによって達成されてもよいし、粘着製品を引っ張ることによって達成されてもよいし、被着体や固定対象物に貼り付けた導電性補助材を引っ張ることによって達成されてもよい。被着体や固定対象物は導電性であってもなくてもよい(式中の固定、被着体、固定対象物、導電性補助材については後述)。引張試験機としては、例えば島津製作所製オートグラフ(登録商標)AGS-Hが挙げられる。
【0047】
従来の電気剥離性粘着剤組成物は、高温に晒されると電気剥離性が低下して、電圧を印加しても粘着力が剥離に十分な程度にまで低下しなかった。本発明の電気剥離性粘着剤組成物は、高温に晒されても電圧の印加によって剥離に十分な程度にまで粘着力を低下させ得るので、高温に晒される条件下での使用に適している。
【0048】
(移動促進剤)
本実施形態では、電気剥離性粘着剤組成物は電圧印加時にイオンの移動を助ける移動促進剤を含んでいてもよい。移動促進剤としては、例えばポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールのアルキルエーテル等が挙げられ、ポリエチレングリコールのアルキルエーテルであることが好ましい。
【0049】
移動促進剤の分子量は特に限定されないが、120~600の重量平均分子量を有していることが好ましく、120~550の重量平均分子量を有していることがより好ましく、120~500の重量平均分子量を有していることがより好ましく、120~360の重量平均分子量を有していることがより好ましい。移動促進剤の重量平均分子量の上限は、例えば、600、590、580、570、560、550、540、530、520、510、500、490、480、470、460、450、440、430、420、410、400、390、380、370、360、355、350、340である。移動促進剤の重量平均分子量の下限は、例えば、120、125、130、135、140、145、150、155、160、170である。ここでいう、重量平均分子量は、ポリスチレン換算の重量平均分子量を指す。
【0050】
ポリエチレングリコールのアルキルエーテルとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(ジ)メチルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(ジ)エチルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(ジ)プロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(ジ)イソプロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(ジ)ブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(ジ)イソブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(ジ)メチルエーテル及びポリエチレングリコールモノ(ジ)ペンチルエーテル等が挙げられる。このうち、120~360の重量平均分子量を有しているポリエチレングリコールのアルキルエーテルが好ましく、120~360の重量平均分子量を有しているポリエチレングリコールモノ(ジ)メチルエーテルであることがより好ましく、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(ジメチルテトラグリコール)、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジメチルトリグリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテルから選択されるのがより好ましく、テトラエチレングリコールジメチルエーテルであることがより好ましい。ポリエチレングリコールのアルキルエーテルは、日本乳化剤、東邦化学工業等から入手可能である。用いるポリエチレングリコールのアルキルエーテルは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
電気剥離性粘着剤組成物が含む移動促進剤の量は、特に限定されないが、例えばアクリル系ポリマー100重量部に対して、1~90重量部であってもよいし、5~80重量部であってもよいし、5~50重量部であってもよいし、5~40重量部であってもよいし、5~30重量部であってもよい。電気剥離性粘着剤組成物が含む移動促進剤の上限は、例えば、アクリル系ポリマー100重量部に対して、90重量部、80重量部、70重量部、60重量部、50重量部、40重量部、30重量部である。電気剥離性粘着剤組成物が含む移動促進剤の下限は、例えば、アクリル系ポリマー100重量部に対して、1重量部、3重量部、5重量部、7重量部、9重量部、10重量部、12重量部、14重量部、15重量部、16重量部、17重量部、18重量部、19重量部、20重量部である。
【0052】
(有機溶剤)
電気剥離性粘着剤組成物を容易に基材、剥離フィルム又は剥離紙上に塗布するために、電気剥離性粘着剤組成物には有機溶剤が含まれていてもよい。有機溶剤は特に限定されず、粘着剤に使用可能な公知の有機溶剤が挙げられる。有機溶媒としては、親水性の有機溶媒と疎水性の有機溶媒のいずれを用いてもよい。親水性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、イソブタノール、tert-ブチルアルコール、アセトニトリル、アセトン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。疎水性の有機溶媒としては、例えばヘキサン、ヘプタン及びイソオクタン等の脂肪族炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレン及びエチルベンゼン等の芳香族系炭化水素類、、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、1-クロロブタン又はクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル等のエーテル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類等が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種のみ使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、有機溶剤を使用する場合、アクリル系ポリマーからなる固形分含量が10重量%以上となるように、その使用割合を調整することが好ましい。また、使用割合は、固形分含量が20~50重量%となるように調整されていることがより好ましい。
【0053】
(添加剤)
本実施形態の電気剥離性粘着剤組成物には、導電材、充填材、可塑剤、酸化防止剤、難燃剤、着色剤、界面活性剤又は上記アクリル系ポリマー以外の粘着剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0054】
導電材としては、主に炭素系導電材と金属系導電材とがある。炭素系導電材としては、例えば、ナノカーボン又は炭素繊維[例えば気相成長炭素繊維(VGCF)又はカーボンナノファイバー]が挙げられ、より具体的には天然黒鉛、人工黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどが挙げられる。金属系導電材としては、例えば、Cu、Ni、Al、Ag、Au、Pt、Zn又はMn等の金属又はこれらの合金等が挙げられる。導電材は、単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
充填剤としては、例えば、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、タルク、マイカ、ベントナイト、活性白土、ガラス繊維、窒化アルミニウム等が挙げられる。充填剤は単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
可塑剤としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリオール、アジピン酸エステル、クエン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステル等の脂肪族ポリカルボン酸エステル、テレフタル酸エステル、イソフタル酸エステル、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、安息香酸エステル等の芳香族ポリカルボン酸エステル、ポリエステル等が挙げられる。可塑剤は単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤は、単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
難燃剤としては、例えば、リン及びハロゲン含有有機化合物、臭素又は塩素含有有機化合物、ポリリン酸アンモニウム、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン等の添加及び反応型難燃剤等が挙げられる。難燃剤は単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
着色剤としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、マイカなどの無機顔料や、カップリングアゾ系、縮合アゾ系、アンスラキノン系、チオインジゴ系、ジオキサゾン系、フタロシアニン系等の有機顔料等が挙げられる。着色剤は単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、リン酸エステルなどの陰イオン界面活性剤、アミン塩(アルキルアミン塩、イミダゾリン等)、四級アンモニウム塩(ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、ピリジニウム塩、塩化ベンゼトニウム等)等の陽イオン界面活性剤、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタントリオレエート、ステアリン酸モノグリセリド、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル等の非イオン系界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
上記アクリル系ポリマー以外の粘着剤としては、例えば、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤等が挙げられる。シリコーン系粘着剤としては、例えば、ジメチルシロキサン系、ジフェニルシロキサン系のもの等が挙げられる。ポリエステル系粘着剤としては、例えば、官能基を2つ以上有するカルボン酸成分及びジオール成分を重縮合して得られるポリエステル等が挙げられる。ウレタン系粘着剤としては、例えば、ポリオールとポリイソシアネート化合物を反応させて得られるウレタン系ポリマー等が挙げられる。ゴム系粘着剤としては、例えば、スチレンイソプレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリイソブチレン、ブチルゴム等の合成ゴムや天然ゴム等が挙げられる。
【0062】
これらの上記アクリル系ポリマー以外の粘着剤の量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して、40重量部以下であり、35重量部以下であることが好ましく、30重量部以下であることがより好ましく、20重量部以下であることがより好ましく、10重量部以下であることがより好ましく、5重量部以下であることがより好ましく、3重量部以下であることがより好ましく、アクリル系ポリマー以外の粘着剤が含まれないことがより好ましい。
【0063】
電気剥離性粘着剤組成物が含むこれらの添加剤(上記アクリル系ポリマー以外の粘着剤を除く)の量は、特に限定されないが、例えばアクリル系ポリマー100重量部に対して、0.1~200重量部の範囲とすることができ、1~100重量部の範囲とすることができる。
【0064】
(電気剥離性粘着剤組成物の製造方法)
本実施形態の電気剥離性粘着剤組成物は、アクリル系ポリマー、イオン液体、高吸水性高分子及び任意で移動促進剤、架橋剤等を攪拌することにより製造できる。攪拌方法としては、特に限定されず、公知の攪拌方法を用いることができる。具体的には、例えばアクリル系ポリマー、イオン液体、高吸水性高分子及び任意で移動促進剤、架橋剤等をV型混合機やミキサー(ディゾルバー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等)によって攪拌することが挙げられる。攪拌時に、上記の添加剤が加えられていてもよい。
【0065】
(電気剥離性粘着剤組成物の用途)
本実施形態の電気剥離性粘着剤組成物は、高温条件下に晒されても優れた電気剥離性を有している。そのため、電気剥離性が低下するため従来の電気剥離性粘着剤組成物が使用できなかった電気剥離性粘着剤組成物が高温になり得る条件下での使用に適している。そのような条件下としては、例えば車のエンジンまわりや、家電の駆動部周辺、電子部品や金属部品の製造時等が挙げられる。
【0066】
上述したように本実施形態の電気剥離性粘着剤組成物は、高温になり得る条件下での使用に適しているが、これは常温にしかならない条件下での使用を否定するものではなく、そのような条件下でも従来の電気剥離性粘着剤組成物と同様に好適に使用し得る。すなわち、本実施形態の電気剥離性粘着剤組成物は、電圧を印加することによってUV照射や加熱処理を行うことなく電気剥離性粘着剤組成物を導電性の物体から容易に剥離できるため、電気剥離性粘着剤組成物を、UV照射を行うことができない非透明性の部材や熱に弱い部材などの粘着固定に好適に用いることができる。例えば、家電、PC等の製品が、希少価値の高い部品や安全に回収し再利用したい部品等を含む場合、当該部品を本発明の電気剥離性粘着剤組成物で固定して販売し、その後、使用後の家電、パソコンなどを回収し、固定した部品に電圧を印加することで当該部品を容易に再回収できる。部品等を容易に再回収できることは、リサイクル、リユースの観点からも有用である。あるいは、高い加工精度が要求される部材の固定や、薄い金属板や基板等の物理的固定が難しい部材の固定の為に好適に用いることができる。例えば、電子部品製造工程における部品の仮止め(例えば、LSIチップのダイシング時のウェハの仮止め)に電気剥離性粘着剤組成物を使用でき、電圧を印加することで容易に部品の仮止めを解除できる。その他の用途としては、センサーと導電性の物体との接合用途が挙げられる。この用途でも、低電圧の印加によりセンサーを剥離することで、容易にセンサーを回収でき、センサーを繰り返し使用できるので、経済的である。
【0067】
本実施形態の電気剥離性粘着剤組成物は、電圧印加後、時間が経過することで粘着性が回復する。そのため、電圧印加後の電気剥離性粘着剤組成物は再利用可能である。これは、電圧印加によってそれぞれ逆方向に移動したイオン液体中のアニオンとカチオンが時間経過と共に電気剥離性粘着剤組成物中で再び均一になるように移動するためである。このため、本実施形態の電気剥離性粘着剤組成物は、粘着剤として繰り返し使用できるため、経済的であり、リサイクル、リユースの観点からも有用である。
【0068】
(電気剥離性粘着製品)
本実施形態の電気剥離性粘着製品(以下、単に粘着製品ともいう)は、基材と、基材に接するように形成された電気剥離性粘着剤層によって構成される。また、粘着製品の別の形態としては、芯材と、芯材の両面にそれぞれ接するように形成された2つの電気剥離性粘着剤層によって構成される。
【0069】
粘着製品の電気剥離性粘着剤層は、電気剥離性粘着剤組成物を含んでいる。本実施形態の粘着製品は、粘着製品によって被着体に固定される対象となる物質(固定対象物と呼称する)を、被着体に固定する物質として機能する。
【0070】
粘着製品の形状は、特に限定されないが、例えば、粘着テープや粘着シート等、用途に応じて適切な形態を取り得る。電気剥離性粘着剤層の使用面は、剥離処理されたポリエチレンテレフタレートのフィルムや剥離紙などで使用するまで保護されていてもよい。
【0071】
本実施形態の被着体とは、本実施形態の電気剥離性粘着剤組成物、電気剥離性粘着剤層又は粘着製品を介して固定対象物が固定される場所を提供する物体を指す。
ここで、固定とは、直接的な固定と間接的な固定とがあり、直接的な固定とは、被着体及び固定対象物が粘着製品と直接接している状態を指し、間接的な固定とは、被着体及び/又は固定対象物が粘着製品と直接触れず、導電性補助材を介して接している状態を指す。固定対象物が被着体に固定できるのであれば、固定方法は直接的な固定であっても間接的な固定であっても構わない。
【0072】
被着体は、導電性を有する被着体(導電性の被着体)であっても導電性を有さない被着体(非導電性の被着体)であってもよい。被着体が導電性の被着体である場合は、被着体に粘着製品を直接貼り付けてもよい。被着体が非導電性の被着体である場合は、非導電性の被着体に導電性補助材を貼り付けるのが必須である。導電性補助材を貼り付ける際には、市販の粘接着剤等の任意の粘接着剤が用いられる。
【0073】
導電性の被着体としては、例えば、鉄、アルミニウム、銅、銀、金等の金属、又はこれらの金属の合金からなる金属板、金属製品又は金属製の作業台等が挙げられる。非導電性の被着体としては、例えば木製の合板やプラスチック製品又は非金属製の作業台等が挙げられる。
【0074】
本実施形態の固定対象物は、特に限定されないが、固定対象物が導電性を有していれば、固定対象物を粘着製品に直接貼り付けてもよい。固定対象物が非導電性であった場合は、非導電性の被着体の場合と同様に、固定対象物に導電性補助材を貼り付けてから粘着製品に貼り付けるのが必須である。
【0075】
導電性の固定対象物としては、例えば、鉄、アルミニウム、銅、銀、金等の金属、又はこれらの金属の合金からなる箔(厚さ100μm未満)、板(厚さ100μm以上)、これらの金属又は合金が混合あるいはコーティングされた繊維を含有したメッシュ又は布、これらの金属又は合金を含有した樹脂シート、これらの金属、合金又は導電性金属酸化物を含む層を備えた樹脂板等が挙げられる。非導電性の固定対象物としては、樹脂、木材又はプラスチック板等が挙げられる。
【0076】
本実施形態の基材とは、電気剥離性粘着剤組成物を塗布する平面状の物体を指す。基材は導電性であっても、非導電性であってもよい。
粘着製品に用いられる基材としては、例えば、アルミニウム、銅、銀、金等の金属、又はこれらの金属の合金からなる箔又は板、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリイミドのフィルム、炭素繊維、紙、織布又は不織布等が挙げられ、厚みも特に限定されない。ただし、粘着製品に用いられる非導電性の基材は、剥がして使用する。これらは、用いる電気剥離性粘着製品の形状によって適切になるように選択することができる。基材又は芯材は、塗布した電気剥離性粘着剤組成物がそのまま基材又は芯材の表面に付着するものでもよいし、基材又は芯材の繊維間の隙間などにしみ込むようなものであってもよい。そのような基材としては、例えば紙や不織布などが挙げられる。
【0077】
電気剥離性粘着剤層は、基材の片面だけでなく、両面に構成されていてもよい。この場合、基材は芯材と呼称する。芯材は、電圧の印加時に両面のそれぞれの電気剥離性粘着剤層間でイオン液体を通せるものである事が必須である。芯材がイオン液体を通せる素材である事で、両面の電気剥離性粘着剤層に電圧を印加して粘着力を低下させることができる。
基材又は芯材を用いることによって、粘着製品に強度を持たせることができ、使用時の作業性を向上できる。
【0078】
導電性補助材としては、導電性を有していれば特に限定されず、例えば、アルミニウム、銅、銀、金等の金属、これらの金属の合金、又は導電性金属酸化物(酸化インジウムスズ:ITO等)を蒸着したフィルム等、これらの金属又は合金が混合されるかコーティングされた繊維を含有した布、これらの金属又は合金を含有した樹脂シート、これらの金属、合金又は導電性金属酸化物を含む層を備えた樹脂板が挙げられる。
【0079】
図1に片面テープの形態の粘着製品の断面の一例(水平面に貼付したテープを垂直方向に切断したときの断面。以下同様)を示し、図2に両面テープの形態の粘着製品の断面の一例を示す。図3A図7Bにこれらの粘着製品の電気剥離性粘着剤層に、導電性の物体を介して電圧を印加する際の回路例及び電圧印加後の剥離例を記載する。本発明の粘着製品の使用形態は、以下の回路例及び剥離例に限定されない。なお、以下の剥離例では、被着体側に電気剥離性粘着剤層又は粘着製品が残るように記載しているが、それぞれの例の直流電源の正負の向きを逆に配置することによって、固定対象物に粘着製品が残るように剥離を行うことができる。なお、電源のどちら側に粘着製品が残るようになるかは、粘着製品の組成によって異なり、特に限定されるものではない。
【0080】
図中、1は電気剥離性粘着剤層、2は基材又は芯材、3は導電性の被着体、4は直流電源、5は導電性の固定対象物、6は非導電性の固定対象物、7は任意の粘接着剤、8は導電性補助材、9は非導電性の被着体を意味する。
【0081】
図3Aは、片面テープの形態の粘着製品を、導電性の被着体3へ粘着して電圧を印加した断面の一例を示している。ここでの基材2は導電性を有する素材である。図3Aのように、基材2と導電性の被着体3に端子を繋ぎ、直流電源4と回路を形成することで電気剥離性粘着剤層1に電圧を印加し、図3Bのように粘着させた導電性の基材2を導電性の被着体3から剥離できる。
【0082】
図4Aは、導電性の固定対象物5を、両面テープの形態である粘着製品を用いて導電性の被着体3へ粘着して電圧を印加した断面の一例を示している。両面テープは、芯材2の両面に電気剥離性粘着剤層1が形成されている。図4Aのように、導電性の固定対象物5と導電性の被着体3に端子を繋ぎ、直流電源4と回路を形成することで電気剥離性粘着剤層1に電圧を印加し、図4Bのように粘着させた導電性の固定対象物5を導電性の被着体3から剥離できる。
【0083】
図5Aは、非導電性の固定対象物6を、両面テープの形態である粘着製品を用いて導電性の被着体3へ粘着して電圧を印加した断面の一例を示している。図5Aのように、非導電性の固定対象物6に、導電性補助材8としてアルミ板を任意の粘接着剤7を用いて貼り付け、非導電性の固定対象物6及び導電性補助材8と、導電性の被着体3とを粘着製品を用いて粘着する。この導電性補助材8と導電性の被着体3に端子を繋ぎ、直流電源4と回路を形成することで電気剥離性粘着剤層1に電圧を印加し、図5Bのように粘着させた非導電性の固定対象物6を導電性の被着体3から剥離できる。この場合、非導電性の固定対象物6に貼り付けた導電性補助材8は非導電性の固定対象物6に残る。
【0084】
図6Aは、導電性の固定対象物5を、両面テープの形態である粘着製品を用いて非導電性の被着体9へ粘着して電圧を印加した断面の一例を示している。図6Aのように、非導電性の被着体9に、導電性補助材8としてアルミ板を任意の粘接着剤7を用いて貼り付け、導電性の固定対象物5と、導電性補助材8と非導電性の被着体9とを粘着製品を用いて粘着する。この導電性の固定対象物5と導電性補助材8に端子を繋ぎ、直流電源4と回路を形成することで電気剥離性粘着剤層1に電圧を印加し、図6Bのように粘着させた導電性の固定対象物5を非導電性の被着体9から剥離できる。
【0085】
図7Aは、非導電性の固定対象物6を、両面テープの形態である粘着製品を用いて非導電性の被着体9へ粘着して電圧を印加した断面の一例を示している。図7Aのように、非導電性の固定対象物6及び非導電性の被着体9それぞれに、導電性補助材8としてアルミ板を任意の粘接着剤7を用いて貼り付け、非導電性の固定対象物6を粘着させた導電性補助材8と、非導電性の被着体9を粘着させた導電性補助材8とを粘着製品を用いて粘着する。それぞれの導電性補助材8に端子を繋ぎ、直流電源4と回路を形成することで電気剥離性粘着剤層1に電圧を印加し、図7Bのように粘着させた非導電性の固定対象物6を非導電性の被着体9から剥離できる。この場合、非導電性の固定対象物6に貼り付けた導電性補助材8は非導電性の固定対象物6に残る。
【0086】
本実施形態の粘着製品は、30V以下のような低電圧の印加によっても上記それぞれの剥離操作を行うことができる。
【0087】
電気剥離性粘着剤層は、例えば、電気剥離性粘着剤組成物を基材又は芯材に塗布することで形成できる。電気剥離性粘着剤組成物の塗布方法は特に限定されないが、例えば、スピンコーター、グラビアコーター、アプリケーター、マルチコーター、ダイコーター、バーコーター、ロールコーター、ブレードコーター、又はナイフコーター等を用いることができる。電気剥離性粘着剤層の厚さは特に限定されないが、1μm~200μmの範囲にある事が好ましく、1μm~100μmの範囲にあることがより好ましく、1μm~50μmの範囲にあることがより好ましい。電気剥離性粘着剤組成物を塗布後、電気剥離性粘着剤層を加熱して電気剥離性粘着剤組成物を乾燥させてもよい。
【0088】
本実施形態の粘着製品は、電圧印加後、時間が経過することで電気剥離性粘着剤組成物の粘着性が回復する。そのため、電圧印加後の粘着製品は再利用可能である。本実施形態の粘着製品は、繰り返し使用することができるため、経済的であり、リサイクル、リユースの観点からも有用である。
【0089】
(電気剥離性粘着製品の製造方法)
本発明の一実施形態は、電気剥離性粘着製品の製造方法である。電気剥離性粘着製品は、例えば電気剥離性粘着剤組成物を基材又は芯材に塗布して電気剥離性粘着剤層を形成することで製造できる。電気剥離性粘着剤組成物、電気剥離性粘着剤層、基材、電気剥離性粘着製品及び塗布方法については、上述の通りである。
【0090】
電気剥離性粘着製品が粘着テープや粘着シートの形態である場合、粘着製品の厚みは特に限定されないが、1~200μmの範囲にある事が好ましく、1~100μmの範囲にあることがより好ましい。なお、電気剥離性粘着剤層や粘着製品の厚みは公知の厚み測定器、例えばピーコック精密測定機器等を用いて測定した値を指す。
【0091】
(剥離方法)
本実施形態の電気剥離性粘着剤層及び粘着製品は、導電性の物体上に電気剥離性粘着剤層又は粘着製品を貼り付けた後、電圧を印加することにより、電気剥離性粘着剤層又は粘着製品を直接貼り付けた導電性の物体から剥離できる。
【0092】
剥離方法としては、例えば、固定対象物及び被着体が導電性を有していれば、固定対象物及び被着体に端子をつなぎ、端子間に電圧を印加することによって、電気剥離性粘着剤層又は粘着製品を固定対象物又は被着体から剥離できる。固定対象物及び/又は被着体が導電性を有していなければ、導電性補助材としてアルミ板などを粘接着させることで非導電性でも固定・剥離操作を行うことができる。これらの固定・剥離操作は、上記粘着製品の剥離例に示されている。
【0093】
印加する電圧は、電気剥離性粘着剤層又は粘着製品を剥離できれば特に限定されないが、電圧印加装置の規模、固定対象物への影響や作業中の事故による人体へのリスクを考慮すると、低電圧であることが好ましい。印加する電圧の範囲は、例えば、690V, 650V, 600V, 550V, 500V, 480V, 450V, 415V, 400V, 380V, 350V, 347V, 300V, 250V, 240V, 230V, 220V, 210V, 208V, 200V, 180V, 160V, 150V, 130V, 125V, 120V, 115V, 110V, 105V, 100V, 90V, 80V, 70V, 60V, 50V, 40V及び30Vの電圧から上限を、0.5V, 1V, 2V, 3V, 4V, 5V, 6V, 7V, 8V, 9V及び10Vの電圧から下限を選択して組み合わせることができる。この中でも、特に1~30Vの範囲の電圧で作業することが、印加装置が小型で済むこと、安全性や固定対象物へ与える影響の面から好ましい。
【0094】
本実施形態の電気剥離性粘着剤層及び粘着製品は、印加する電圧が数V程度の低い電圧でも導電性の物体から剥離できるので、電源が例えば市販の乾電池であっても、剥離操作を行うことができる。これは、本実施形態によって、作業者の安全性に優れ、更に持ち運びが可能な簡易な印加装置によって剥離操作を行うことができることを示している。
【0095】
電圧の印加時間は、電気剥離性粘着剤層又は粘着製品を剥離できれば特に限定されないが、固定対象物への影響を考慮すると、10分以内であることが好ましく、5分以内であることがより好ましく、3分以内であることがより好ましい。
【0096】
剥離時の温度は特に限定されないが、室温で行うことが好ましい。本実施形態の電気剥離性粘着剤層又は粘着製品は、上記のように低電圧かつ短時間で導電性の物体からの剥離が可能なので、固定対象物への熱による影響を極めて少なくして行うことができる。
【0097】
本発明の一実施形態は、電気剥離性粘着剤組成物の製造のためのアクリル系ポリマーと、イオン液体と高吸水性高分子との使用を含む。アクリル系ポリマーと、イオン液体と高吸水性高分子とを含むように混合し、任意で架橋剤や添加剤等を加え、公知の方法で攪拌することにより、電気剥離性粘着剤組成物を製造することができる。高吸水性高分子や電気剥離性粘着剤組成物については、上述の通りである。
【0098】
本発明の一実施形態は、電気剥離性粘着製品の製造のための電気剥離性粘着剤組成物の使用を含む。電気剥離性粘着剤組成物を用いて電気剥離性粘着剤層を基材(又は芯材)上に構成することで、電気剥離性粘着製品を製造することができる。電気剥離性粘着剤組成物、電気剥離性粘着剤層、基材及び電気剥離性粘着製品については、上述の通りである。
【実施例
【0099】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【0100】
(実施例1)
アクリル系ポリマー、イオン液体、移動促進剤及び高吸水性高分子を用いて、以下のようにして粘着製品を作製した。
1. アクリル系ポリマーの調製
n-ブチルアクリレート(三菱ケミカル社)91重量部、アクリル酸(三菱ケミカル社)8重量部及び2-ヒドロキシエチルメタクリレート(日本触媒社)1重量部からなるモノマー混合物と、重合溶媒(酢酸エチル:トルエン(重量比)=9:1)186重量部を、ガラス製フラスコに投入し、窒素ガスで置換した後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN、純正化学社)0.2重量部を加え、85℃に昇温して5時間重合反応させて、アクリル系粘着剤を得た。得られたアクリル系粘着剤は、アクリル系ポリマー(重量平均分子量約80万、Tg-46℃)を35重量%含み、7,000mPa・sの粘度を有していた。
【0101】
2. 電気剥離性粘着剤組成物の調製
上記アクリル系粘着剤100重量部(アクリル系ポリマー35重量部)にイソシアネート系架橋剤としてのコロネートL-55E(東ソー社)5.0重量部と、移動促進剤としてジメチルテトラグリコール(日本乳化剤社:分子量約220)7.0重量部とを室温で10分間ディゾルバーにより撹拌した。攪拌後、イオン液体としてエレクセル(登録商標)AS-110(EMI-FSI:第一工業製薬社)7.0重量部を更に加えて室温で10分間ディゾルバーにより撹拌した。2回目の攪拌後、高吸水性高分子としてアクアリックCS 6S(登録商標:日本触媒社)を1.75重量部添加し、同様に室温で10分間ディゾルバーにより撹拌し静置脱泡することで電気剥離性粘着剤組成物を得た。
【0102】
3. 粘着製品の作製
2.で得られた電気剥離性粘着剤組成物を、表面をシリコーン処理したポリエチレンテレフタレートのフィルムに塗布し、100℃で5分間乾燥させた。乾燥後のフィルムの電気剥離性粘着剤組成物の塗布面を不織布[ミライフ(登録商標)TY0503FE(ENEOSテクノマテリアル社)]に貼り付けた。同様に、表面をシリコーン処理したポリエチレンテレフタレートのフィルムに電気剥離性粘着剤組成物を塗布・乾燥させたフィルムを作製し、不織布のフィルムを貼り付けていない面に貼り付けた。その後、40℃で3日間静置することで実施例1の粘着製品(両面テープ、厚さ80μm)を得た。
【0103】
(比較例1)
高吸水性高分子を用いないこと以外は実施例1と同様にして比較例1の粘着製品を得た。
【0104】
(実施例2)
高吸水性高分子の量をアクリル系粘着剤100重量部に対して3.5重量部としたこと以外は実施例1と同様にして実施例2の粘着製品を得た。
【0105】
(実施例3)
高吸水性高分子の量をアクリル系粘着剤100重量部に対して7.0重量部としたこと以外は実施例1と同様にして実施例3の粘着製品を得た。
【0106】
(実施例4)
高吸水性高分子をサンフレッシュ(登録商標)ST-500MPSA(三洋化成工業社)としたこと以外は実施例1と同様にして実施例4の粘着製品を得た。
【0107】
評価サンプルの調製
厚さ3mm、長さ50mm、幅30mmのABS樹脂板(固定対象物)の片面に、市販の電気剥離性を有さない両面テープ(ビッグテクノス社製RD-7020)を貼り付けた。両面テープのABS樹脂を貼り付けていない側に、厚さ50μmのアルミ箔(導電性補助材)を貼り付けた。アルミ箔を貼り付けた後、アルミ箔のABS樹脂と市販の両面テープの両方が貼り付いている領域のアルミ箔を挟んだ逆側に、50mm×30mmの長さになるように切り出された実施例1~4、比較例1の各粘着製品の片面の剥離フィルムを剥がして貼り付けた。粘着製品のもう片面の剥離フィルムを剥がし、研磨したステンレス板(導電性の被着体:125mm×50mm)に貼り付けた。これに対して2kgのゴムローラを用いて300mm/分の速度で粘着製品の長辺方向に1往復させることで被着体、粘着製品及び固定対象物を圧着して評価サンプルとした。評価サンプルの概略図を図8Aに示す。図8Aのように、両面テープとアルミ箔は、ABS樹脂や粘着製品よりも長い50mm以上の長さを有しており、後述する引上げ強度測定試験を行うことができるように、オートグラフ(登録商標)のつかみ具が評価サンプルの両面テープとアルミ箔のみが重なった部分をつかめるだけの長さを有している。なお、図8A(及び図8B図8C)の10はステンレス板、11は粘着製品、12はアルミ箔、13は両面テープ、14はABS樹脂をそれぞれ意味する。
【0108】
粘着製品の粘着力の評価(加熱促進試験1)
実施例1~3、比較例1の各評価サンプルを、評価サンプル毎に30個用意し、作製した各評価サンプルを恒温恒湿機に入れ、40℃、湿度50%の条件下で100時間静置し、各評価サンプルの状態が均一になるように調製した。
【0109】
静置後の各評価サンプルを、更に40℃の条件下において加熱促進試験を行った。加熱促進試験は最大500時間行い、0時間、24時間、100時間、200時間及び500時間で各評価サンプルをそれぞれ6個ずつ回収した。回収した各評価サンプルに対し、半数は電圧を印加してから引上げ強度を測定した。残りの半数は電圧を印加せずに引上げ強度を測定した。引上げ強度測定試験、印加試験は以下のようにして行った。
【0110】
(引上げ強度測定試験)
引上げ強度測定試験には、島津製作所製オートグラフ(登録商標)AGS-Hを用いた。評価サンプルの両面テープとアルミ箔の部分のみが重なった部分の一部をつかみ具でつかみ、300mm/分の一定の速度で引き上げ、被着体から粘着製品(及び固定対象物)を剥がすのに必要な力を測定した(図8B及びCを参照)。
【0111】
(印加試験)
印加試験は、評価サンプルの導電性の被着体側が正極、固定対象物側が負極になるように電極を取り付けて行った。直流電源を用い、変圧器を用いて電圧を調整して、評価サンプルに30Vの電圧を60秒間印加した。
【0112】
加熱促進試験後の各評価サンプルの引上げ試験の結果を以下の表1及び表2にそれぞれ示す。表1は電圧の印加ありの結果を、表2は電圧の印加なしの結果をそれぞれ示す。また、電圧の印加ありの結果について図9にも示す。表及び図中の結果は引上げ強度測定試験の結果を示し、各数値の単位は(N)である。各数値は3つの評価サンプルの測定値の平均値である。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
表1及び図9より、高吸水性高分子を含まない比較例1の粘着製品は、500時間経過時点で電圧の印加後の引上げ強度が上昇している。対して、高吸水性高分子を含む実施例1~3の粘着製品は、500時間経過時点で電圧の印加後の引上げ強度がほとんど変化していない。このことから、高吸水性高分子を含むことで、熱による電気剥離性の劣化が抑えられたことがわかる。また、表2より、製造した各粘着製品は加熱促進試験後も粘着性が劣化しないことが分かる。
【0116】
粘着製品の粘着力の評価(加熱促進試験2)
実施例1、2及び比較例1の各評価サンプルを、評価サンプル毎に24個用意し、加熱促進試験の温度を80℃とすること以外は加熱促進試験1と同様にして加熱促進試験を行い、0時間、24時間、48時間及び100時間の各評価サンプルを回収して引上げ強度の測定を行った。
【0117】
加熱促進試験後の各評価サンプルの引上げ強度測定試験の結果を以下の表3及び表4にそれぞれ示す。表3は電圧の印加ありの結果を、表4は電圧の印加なしの結果をそれぞれ示す。また、電圧の印加ありの結果について図10にも示す。表及び図中の結果は引上げ試験の結果を示し、各数値の単位は(N)である。各数値は3つの評価サンプルの測定値の平均値である。
【0118】
【表3】
【0119】
【表4】
【0120】
表3、4及び図10より、高吸水性高分子を含まない比較例1の粘着製品は、50時間経過時点で電圧の印加後の引上げ強度が大きく上昇している。高吸水性高分子を含む実施例1又は2の粘着製品は、いずれの経過時間でも比較例1の粘着製品に比べて引上げ強度の上昇が抑えられている。このことから、高吸水性高分子を含むことで、80℃のような高熱に晒されても、電気剥離性の劣化を抑えられることが分かる。また、表4より、各粘着製品は80℃のような過酷な加熱促進試験後であっても粘着性が劣化しないことが分かる。
【0121】
粘着製品の粘着力の評価(加熱促進試験3)
実施例4及び比較例1の各評価サンプルを、評価サンプル毎に24個用意し、加熱促進試験1と同様にして加熱促進試験を行い、0時間、100時間、200時間及び500時間の各評価サンプルを回収して引上げ強度の測定を行った。
【0122】
加熱促進試験後の各評価サンプルの引上げ試験の結果を以下の表5及び表6にそれぞれ示す。表5は電圧の印加ありの結果を、表6は電圧の印加なしの結果をそれぞれ示す。また、電圧の印加ありの結果について図11にも示す。表及び図中の結果は引上げ試験の結果を示し、各数値の単位は(N)である。各数値は3つの評価サンプルの測定値の平均値である。
【0123】
【表5】
【0124】
【表6】
【0125】
表5及び図11より、高吸水性高分子を含まない比較例1の粘着製品は、500時間経過時点で電圧の印加後の引上げ強度が上昇している。一方、高吸水性高分子を含む実施例4の粘着製品は、500時間経過時点で電圧の印加後の引上げ強度がほとんど変化していない。このことから、実施例1~3とは高吸水性高分子の種類を変えても電気剥離性の劣化を抑えられることが分かる。また、表6より、各粘着製品は加熱促進試験後も粘着性が劣化しないことが分かる。
【0126】
以上の実験結果より、高吸水性高分子を用いて電気剥離性粘着剤を製造することで、熱による電気剥離性の劣化を抑えられることが示された。
【符号の説明】
【0127】
1 電気剥離性粘着剤層
2 基材又は芯材
3 導電性の被着体
4 直流電源
5 導電性の固定対象物
6 非導電性の固定対象物
7 任意の粘接着剤
8 導電性補助材
9 非導電性の被着体
10 ステンレス板
11 粘着製品
12 アルミ箔
13 両面テープ
14 ABS樹脂
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11