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特許7602294校正サンプルホルダー、これを用いた偏光測定装置の校正方法
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  • 特許-校正サンプルホルダー、これを用いた偏光測定装置の校正方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】校正サンプルホルダー、これを用いた偏光測定装置の校正方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 4/04 20060101AFI20241211BHJP
【FI】
G01J4/04 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024002570
(22)【出願日】2024-01-11
【審査請求日】2024-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000232689
【氏名又は名称】日本分光株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004484
【氏名又は名称】弁理士法人岩橋国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】後藤 勇太朗
(72)【発明者】
【氏名】山田 敦志
(72)【発明者】
【氏名】近藤 吉朗
(72)【発明者】
【氏名】山根 愛
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-148956(JP,U)
【文献】特開2003-156648(JP,A)
【文献】特開2014-163946(JP,A)
【文献】特開2007-033460(JP,A)
【文献】“モジュール型コンパクト旋光計”,Anton Paar,2022年,インターネット<URL:https://www.anton-paar.com/?eID=documentsDownload&document=70569&L=0&srsltid=AfmBOoqoiUyFa74fE5eOfFdF8wav0od6AuruxvxdA7bWHidnXWd1dgeY>
【文献】“認証標準物質”,ワイエスアイ・ナノテック株式会社,2015年,インターネット<URL:https://www.xylem.com/siteassets/brand/bellingham--stanley/resources/brochure/ja/b-s-crm-brochure.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00- 4/04
G01J 7/00- 9/04
G01N 21/00-21/01
G01N 21/03-21/15
G01N 21/17-21/61
G02B 6/024
G02B 6/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のホルダー本体と、
該ホルダー本体の内部における該ホルダー本体の中心軸上に、光学異方性を示す校正サンプルを固定する固定手段と、
前記校正サンプルと、
を備える偏光測定装置用の校正サンプルホルダーであって
前記ホルダー本体の外周の少なくとも一部分が、他の部分よりも大きな外径であり、軸対称正多角形の断面形状を有し、
前記ホルダー本体は、前記偏光測定装置の偏光の光路の中心と前記ホルダー本体の中心軸とが一致するように、前記偏光測定装置に設けられるV字ブロック上に設置可能に構成され、ここで、前記V字ブロックは、前記軸対称正多角形の2辺が成す角度と同じ開き角を有し、前記ホルダー本体は、前記V字ブロック上に複数の設置角度で設置可能に構成され、
前記校正サンプルには前記ホルダー本体の前記設置角度ごとに校正値が値付けされている、ことを特徴とする校正サンプルホルダー。
【請求項2】
請求項1記載の校正サンプルホルダーにおいて、
前記軸対称正多角形の断面形状を有する部分は、前記ホルダー本体の前記中心軸に沿って異なる2箇所に形成されている、ことを特徴とする校正サンプルホルダー。
【請求項3】
偏光測定装置の校正方法であって、
外周の少なくとも一部分に他の部分よりも大きな外径を有し、該部分に軸対称正多角形の断面形状を有する、筒状のホルダー本体を用いて、該ホルダー本体の中心軸上に位置するように前記ホルダー本体内に固定された光学異方性を示す校正サンプルを使って
前記軸対称正多角形の2辺が成す角度と同じ開き角を有するV字ブロックを、前記偏光測定装置の測定光である偏光の光路に沿って設け、
前記偏光の光路の中心と前記ホルダー本体の中心軸とが一致するように、前記ホルダー本体を前記V字ブロックに所定の設置角度で設置し、
前記校正サンプルの偏光特性値を測定し、
前記ホルダー本体は、複数の設置角度で前記V字ブロックに設置可能に構成されており、前記校正サンプルには前記ホルダー本体の前記設置角度ごとに校正値が値付けされており、測定された前記偏光特性値と前記所定の設置角度に対応する前記校正値とを比較する、ことを特徴とする校正方法。
【請求項4】
請求項3記載の校正方法において、
さらに、前記ホルダー本体を前記所定の設置角度とは異なる設置角度で前記V字ブロックに設置することによって、複数の設置角度での前記校正サンプルの偏光特性値を測定する、ことを特徴とする校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光測定装置の校正に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の偏光特性を測定する装置が様々にあるが、そのような偏光測定装置を適正に且つ簡単に校正できる手法が求められている。
【0003】
特許文献1には、偏光測定装置の1つである旋光計に使用するための円筒型の液体セルが開示されている。旋光計では、このような円筒型セルが一般的に使われていることから、旋光計の校正の際も、円筒型セルと同じ外形の円筒ホルダーに校正用のサンプル(石英板など)を取り付けることで、円筒型セルと同様に、校正用の円筒ホルダーを試料室に設置することができる。
【0004】
また、特許文献2には、校正用の石英板を内蔵する円筒ホルダーが開示されている。ホルダー内の石英板は、予め高精度の旋光計によってその旋光角の値付けが済んでいる。このような円筒ホルダーを使って旋光計を校正する際、石英板が有する光学的欠陥を避けるために、値付けの際の石英板の設置角度を正しく再現する必要がある。特許文献2では、円筒ホルダーの形状を利用して、旋光計の試料室に円筒ホルダーをその軸周りに様々な角度で設置できるようにした。設置角度ごとの旋光角を測定できるので、その中から値付けにもっとも近くなる設置角度を見つけて、その設置角度で校正を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-33460号公報
【文献】国際公開第2017/108034号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、偏光測定装置の校正は一度きりということはなく、定期的に、または必要に応じて繰り返し実行される。そのため、特許文献1から得られるような円筒ホルダーを、試料室のV字ブロックに設置して校正を実行する場合、V字ブロックに対して円筒ホルダーの設置角度は定まらず、設置する都度変わってしまう。また、特許文献2が示す校正方法では、円筒ホルダーの形状を利用することで複数の設置角度での測定が容易になるとは言え、校正の都度、複数の設置角度での測定を実行して、値付けの際の石英板の設置角度を再現する必要があり、手間が掛かる。つまり、特許文献1、2に示された内容では、円筒ホルダーに固定された校正サンプル(石英板)の設置角度の再現性に検討の余地があった。
【0007】
本発明の目的は、設置角度の再現性に優れた校正サンプルホルダーを提供することである。また、校正サンプルホルダーの設置角度を複数通りに変更して、それぞれの設置角度で校正サンプルの偏光特性値を測定し、予め設置角度ごとに値付けされた偏光特性値(ここでは校正値とも呼ぶ。)との比較が容易な校正サンプルホルダーを提供することである。および、これを用いた偏光測定装置の校正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る校正サンプルホルダーは、
筒状のホルダー本体と、
該ホルダー本体の内部における該ホルダー本体の中心軸上に、光学異方性を示す校正サンプルを固定する固定手段と、
前記校正サンプルと、
を備える偏光測定装置用の校正サンプルホルダーであって
前記ホルダー本体の外周の少なくとも一部分が、他の部分よりも大きな外径であり、軸対称正多角形の断面形状を有し、
前記ホルダー本体は、前記偏光測定装置の偏光の光路の中心と前記ホルダー本体の中心軸とが一致するように、前記偏光測定装置に設けられるV字ブロック上に設置可能に構成され、ここで、前記V字ブロックは、前記軸対称正多角形の2辺が成す角度と同じ開き角を有し、前記ホルダー本体は、前記V字ブロック上に複数の設置角度で設置可能に構成され、
前記校正サンプルには前記ホルダー本体の前記設置角度ごとに校正値が値付けされている、ことを特徴とする。
【0009】
また、前記軸対称正多角形の断面形状を有する部分は、前記ホルダー本体の前記中心軸に沿って異なる2箇所に形成されていることが好ましい。
【0010】
次に、本発明に係る偏光測定装置の校正方法は、
外周の少なくとも一部分に他の部分よりも大きな外径を有し、該部分に軸対称正多角形の断面形状を有する、筒状のホルダー本体を用いて、該ホルダー本体の中心軸上に位置するように前記ホルダー本体内に固定された光学異方性を示す校正サンプルを使って
前記軸対称正多角形の2辺が成す角度と同じ開き角を有するV字ブロックを、前記偏光測定装置の測定光である偏光の光路に沿って設け、
前記偏光の光路の中心と前記ホルダー本体の中心軸とが一致するように、前記ホルダー本体を前記V字ブロックに所定の設置角度で設置し、
前記校正サンプルの偏光特性値を測定し、
前記ホルダー本体は、複数の設置角度で前記V字ブロックに設置可能に構成されており、前記校正サンプルには前記ホルダー本体の前記設置角度ごとに校正値が値付けされており、測定された前記偏光特性値と前記所定の設置角度に対応する前記校正値とを比較する、ことを特徴とする。
【0011】
さらに、前記ホルダー本体を前記所定の設置角度とは異なる設置角度で前記V字ブロックに設置することによって、複数の設置角度での前記校正サンプルの偏光特性値を測定する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上の校正サンプルホルダーの構成によれば、V字ブロックへの設置角度の再現性に優れた校正サンプルホルダーが得られ、このホルダーを使って校正した偏光測定装置の分析結果の信頼性が向上する。加えて、同じ校正サンプルを、角度が明らかな複数の設置角度に設定することで、複数の設置角度のそれぞれの校正値を用いた詳細な校正が可能になり、偏光測定装置の分析結果の信頼性がさらに向上する。
【0013】
また、以上の校正方法によれば、V字ブロックへの校正サンプルの設置角度を再現よく実行でき、この校正方法を実行することで、偏光測定装置の分析結果の信頼性が向上する。加えて、角度が明らかな複数の設置角度での校正サンプルの校正値を用いた詳細な校正が可能になり、分析結果の信頼性に優れた偏光測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る校正サンプルホルダーの分解図である。
図2】前記校正サンプルホルダーの断面図である。
図3】(A)~(F)は前記校正サンプルホルダーの六面図である。
図4】前記校正サンプルホルダーの使用例を示す斜視図である。
図5】前記校正サンプルホルダーの使用例を示す入射側の側面図である。
図6】前記校正サンプルホルダーを用いて旋光計を校正する際の装置構成の図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき本発明に係る校正サンプルホルダーの実施の形態を説明する。校正サンプルホルダー10は、図1の分解図のように、バネ押え1、コイルバネ2、スペーサ3、校正サンプル4、及びホルダー本体5を有する。ここで、バネ押え1、コイルバネ2、及びスペーサ3は、校正サンプル4をホルダー本体5に固定するための固定手段8を構成している。
【0016】
校正サンプル4は、異方性を有する光学素子であり、その異方性を示す尺度が校正値として規定されている。例えば、旋光計用の校正サンプル4は、国際標準にトレーサブルな旋光度(α λ:λは波長、tは温度を示し、単位は角度。)が校正値として値付けされている。校正サンプル4の形状は限定されないが、一般に、円板状、正方形板状、その他の正多角形板状が多い。
【0017】
校正サンプルホルダー10は、旋光度測定用の校正サンプル4の他に、円二色性測定、直線二色性測定、複屈折測定、偏光透過測定、偏光反射測定、偏光ラマン測定(これはラマン散乱強度の偏光方向依存性の測定を指す。)、偏光顕微測定における校正サンプルにも適用できる。
【0018】
校正サンプル4の具体例として、偏光板、波長位相板などの標準試料が挙げられる。偏光板の1つである直線偏光板は、透過する直線偏光の振動方向が定められた光学素子である。また、波長位相板の1つである1/4波長板は、直交する主軸を有し、それぞれの主軸の方向の偏光成分に1/4波長分の位相差を生じさせる光学素子である。
【0019】
また、校正サンプルホルダー10を適用可能な偏光測定装置として、円二色性分散計、直線二色性分散計、複屈折測定装置、赤外分光光度計、ラマン分光光度計、紫外可視近赤外分光光度計などが挙げられる。
【0020】
ホルダー本体5は、全体として筒状であり、その中心軸に沿った貫通孔6を有する。貫通孔6の一方が入射側で、他方が出射側である。ホルダー本体5の中心軸に沿った形状を詳しく言うと、入射側の端部に円筒部があり、これよりも出射側には円筒部よりも外径の大きな正八角形筒部5Aがある。この正八角形筒部5Aよりも出射側に、やや長い円筒部があり、入射側の円筒部と同じ外径である。その出射側には、再び、正八角形筒部5Bがあり、入射側の正八角形筒部5Aと同じ外径を有し、出射側の端部を形成している。つまり、ホルダー本体5の中心軸に沿った2箇所には、外周に沿って8つの平面が並んだ外形の正八角形筒部5A,5Bが設けられ、両方とも中心軸に直交する断面形状が同じ大きさの正八角形である。なお、断面形状は、正八角形に限定されるものではなく、辺の数が4以上の偶数本である正多角形の断面形状であり、例えば、正方形、正六角形、正十二角形、正十六角形などの軸対称正多角形でもよい。
【0021】
なお、入射側の円筒部には、外周に沿って45度ずつの目盛が刻まれている。「-90」度、「0」度、「90」度の数字がそれぞれの設置角度に相当する目盛の傍に刻まれている。また、正八角形筒部5A,5Bの間の円筒部には、外周方向に沿って8つの温度計差込口7が並んでいる。校正の際、いずれかの差込口7に温度計を挿してホルダー本体5内部の温度を測定する。ホルダー本体5の設置角度がどの角度であってもほぼ等価に測定できるように設置角度ごとに差込口7が形成されている。
【0022】
校正サンプルホルダー10に校正サンプル4を取付けた状態を図2の断面図に示す。ホルダー本体5の貫通孔6は、図2に示すように、入射側と出射側とで断面形状が異なる。図2の例では、入射側も出射側も、貫通孔6の断面形状は円形であるが、出射側の方が入射側よりも内径が小さい。円板状の校正サンプル4、リング状のスペーサ3、コイルバネ2およびバネ押え1は、いずれも入射側の貫通孔6の内径とほぼ同じ大きさの外径を有する。これらを順番に入射側から貫通孔6に挿入する。バネ押え1は、円筒状であり、入射側の貫通孔6に対してネジ込み式になっている。バネ押え1をネジ込むことで、コイルバネ2が縮められ、コイルバネ2の付勢力がスペーサ3を介して校正サンプル4に作用し、校正サンプル4がホルダー5に固定される。
【0023】
ここで、入射側の貫通孔6の断面形状は、校正サンプル4の形状に応じて決定されるようにしてもよい。例えば、校正サンプル4の外形が円形ではなく、四角形である場合は、入射側の貫通孔6の断面形状も四角形に形成するとよい。
【0024】
なお、バネ押え1は、ねじ込み式に限定されず、ゴム製としてもよい。ゴム製のバネ押え1を入射側の貫通孔6に嵌め込むことで、コイルバネ2が圧縮され、校正サンプル4がホルダー5に固定されるようになる。
【0025】
図3(A)~(F)に本実施形態の校正サンプルホルダー10の六面図(正面図、平面図、底面図、背面図、右側面図および左側面図)を示す。また、図4および図5を用いて、校正サンプルホルダー10を用いた校正方法を説明する。
【0026】
(1)例えば図6の構成の旋光計の試料室に設けたV字ブロック20に、校正サンプルホルダー10を設置する。なお、正八角形筒部5A,5Bを有する場合、V字ブロック20の開き角を90度とする(図5参照)。その他、正六角形筒部の場合であれば、開き角を60度にする等、軸対称正多角形の形状に応じた開き角を有するV字ブロック20を用いる。よって、校正サンプルホルダー10をどの姿勢で設置しても、V字ブロック20の2つの傾斜面と、ホルダー本体5の正八角形筒部5A,5Bの外周の2つの面(90度で交差する2つの面)とが接した状態になり、ホルダー10内の校正サンプル4の設置角度が定まる(図5参照)。
【0027】
(2)校正サンプルホルダー10をV字ブロック20に設置したら、ホルダー本体5の入射側円筒部の目盛から、一番上に位置する目盛を読み取って、必要に応じて記録する。このようにして、ユーザーは、校正サンプルホルダー10に保持された校正サンプル4の設置角度を、目盛の読取値に基づいて確認することができる。図4の場合の設置角度は0度である。また、ユーザー自身が読み取る方法以外に、旋光計が試料室に載置された校正サンプルホルダー10の目盛を画像認識等の公知の手法を使って自動で読み取り、読み取った校正サンプル4の設置角度を測定値(旋光度)と併せて記録する機構を設けてもよい。
【0028】
(3)校正サンプル4の温度による旋光度の変動を回避するため、V字ブロック20に設置された温調手段(例えばペルチェ素子を利用した温調装置)を用いて、校正サンプルホルダー10内の校正サンプル4の温度を所定温度に維持し、旋光計を動作させて校正サンプル4の旋光度を測定する。そして、旋光度の測定値と、予め校正サンプル4に値付けされた校正値(旋光度)との比較によって、旋光計の校正を行う。校正サンプル4の温度測定値を、上記の設置角度と測定値(旋光度)と併せて記録してもよい。
なお、旋光計の場合、光源光に例えばナトリウムランプの輝線(D線)を使用し、これから試料室前の偏光子によって取り出された直線偏光を、試料室に設置した校正サンプルホルダー10の入射側の貫通孔に導光し、校正サンプル4の旋光度を測定することができる。
【0029】
(4)校正サンプルホルダー10の設置角度を変更して、複数の設置角度における校正サンプル4の旋光度を測定する。そして、それぞれの設置角度での旋光度の測定値と、校正サンプル4に値付けされた設置角度ごとの校正値(旋光度)とを比較することで、旋光計の校正を詳細に実行することができる。なお、設置角度ごとに、校正サンプル4の温度測定値、設置角度、測定値(旋光度)を併せて記録してもよい。
【0030】
以上の校正方法において、校正サンプルホルダー10は、その中心軸周りに45度ピッチの異なる姿勢(-180度から+180度までの8つの設置角度)で、V字ブロック20に設置される。よって、ユーザーは、ホルダー10に固定した校正サンプル4の設置角度を簡単に再現することができる。つまり、以前に、同じホルダー10を使って校正した際、校正サンプル4の設置角度を、ホルダー本体5の目盛(角度)に基づいて読み取って記録しておく(あるいは一定の角度にすることを規定しておく)ことで、次の校正の際に、校正サンプル4を同じ設置角度で設置することが容易になる。或いは、同じ設置角度ではなく、45度ピッチの異なる姿勢から所望の姿勢を選択し、その設置角度で校正サンプル4を設置することも容易になる。
【0031】
従来型の円筒ホルダーでは、校正時の校正サンプル4の設置角度が不明な状態である場合が多い。校正サンプル4の方向が明瞭でないまま、円筒ホルダーの設置角度を複数通りに変更して、それぞれの設置角度で測定した測定値の平均値や中央値を取得する。或いは、複数通りの設置角度での測定値のバラつきが所定の範囲内であれば、その代表値を取得する。このようにして取得した値と、校正サンプル4の校正値とを比較することになり、次の校正の際に、校正サンプル4の設置角度の再現性が得られなかった。これに対し、上記のように本実施形態のホルダー10では、それぞれ決まった複数の設置角度の中から、所定の設置角度を選択し、校正後においても一義的に特定可能な設定角度における校正サンプル4の旋光度を測定できるので、次の校正の際に、校正サンプル4の設置角度を正確に再現することができる。そのため、旋光計に対して適正な校正を実施でき、旋光計の分析結果の信頼性が向上する。加えて、同じ校正サンプル4を、角度が明らかな複数の設置角度に設定することで、複数の設置角度のそれぞれに予め値付けされた校正値を用いた詳細な校正が可能になり、偏光測定装置の分析結果の信頼性がさらに向上する。
【0032】
特に、試料の偏光状態を測定する旋光度測定、円二色性測定、直線二色性測定、複屈折測定、偏光透過測定、偏光反射測定、偏光ラマン測定、偏光顕微測定などでは、サンプルの設置角度が測定結果に大きく影響するため、校正サンプル4の設置角度の再現性が非常に重要になり、本実施形態の校正サンプルホルダー10を使用することで、これらの偏光測定装置の分析結果の信頼性が向上する。
【0033】
また、従来型の円筒ホルダーの場合、V字ブロック20と線接触するため、両者の接触面積が小さい。これに対し、本実施形態のホルダー10は、V字ブロック20と面接触するので、両者の接触面積が大きくなる。このため、温調などの熱伝達効率の改善、振動等の影響の排除、といったメリットがある。
【0034】
例えば、ペルチェ素子をV字ブロック20に設置し、V字ブロック20を介して校正サンプルホルダー内の校正サンプル4の温度を制御する場合を想定すると、面接触の方が、校正サンプルホルダーを温度調整し易い。
【0035】
また、ホルダー10内の校正サンプル4に装置外からの振動(例えば、装置に人や物が接触することにより生じる振動や、周辺にある除湿機や循環恒温槽などの機器から伝搬する振動)が加わるような場合にも、面接触の方が、校正サンプルホルダー10に振動が生じ難く、振動発生の抑制効果が得られる。
【0036】
また、校正サンプル4の設置角度を簡単に変更できるようになり、従来の円筒ホルダーの場合は、複合的な作業によってのみ実施することができた校正工程が、簡易的なフローで実施できるようになり、現実的な作業時間内に、より詳細な校正の実施ができるようになる。
【0037】
また、本実施形態の校正サンプルホルダー10は、校正サンプルの代わりに測定対象物であるサンプルを設置することで、サンプルの偏光測定にも利用できる。
【0038】
最後に、本実施形態の校正サンプルホルダーを複数の設置角度に設定し、それぞれの設置角度で旋光計を校正することにより、詳細な校正が可能になることの具体例を示す。
【0039】
まず、合格基準は、校正サンプルである標準試料の旋光度の測定値が以下の範囲に入ることとする。
標準試料の旋光度±([装置正確さ]+[標準試料の拡張不確かさ])
ここで、装置正確さとは、装置の性能に依存する値であり、例えば、旋光度の0.2%のように設定する。標準試料の旋光度が17.000°の場合、装置正確さは17.000×0.2%=0.034°となる。
また、標準試料の拡張不確かさとは、旋光度の値のバラつきを表したもので、標準試料(旋光板)の校正証明書に記載される値である。ここでは標準試料の拡張不確かさを0として、説明を簡略化する。
【0040】
校正に用いるものは、旋光計、温度計(標準試料の温度測定用)、値付けされた標準試料、本実施形態の校正サンプルホルダーの4点である。
標準試料(旋光板)は常に校正サンプルホルダーに設置された状態であり、ホルダーから外すことは行わない。よって、標準試料とホルダーの設置角度との関係は変更されず、「ホルダーの設置角度=標準試料の角度」になる。各設置角度での、波長589 nmで値付けされた旋光度と、合格基準は、例えば以下の表のようになる。
【0041】
【表1】
【0042】
校正の手順(1)~(5)を示す。
(1)標準試料を内蔵した校正サンプルホルダーを旋光計に設置角度0°でセットする。
(2)温度計差込口に温度計を挿入する。
(3)標準試料の温度を確認し、20±0.5℃になったら、波長589 nmにおける旋光度を測定し、その時の試料温度と併せて記録する。
(4)旋光度の測定値を、温度20℃における旋光度に補正する。
(5)補正後の旋光度が、17.000±0.034°以内であれば合格とする。
【0043】
従来の円筒ホルダーを用いて上記の校正手順を実行した場合は、標準試料(旋光板)の設置角度が定まらないため、上記の合格基準のうち、予め値付けされた「標準試料の旋光度」が一定の幅を持つことになる。その結果、旋光計の性能上は本来、合格になるはずであっても、校正結果が不合格になることが生じる。
これに対して、本実施形態のような軸対称正多角形の断面形状を有する校正サンプルホルダーを用いれば、標準試料の設置角度が定まるので、旋光計の性能が校正結果に正しく反映される。さらに、単に正確なだけでなく、各角度での標準試料の値付けが可能であることから、1つの標準試料について校正に利用できる情報の数を増やすことができる。例えばホルダーが正八角形の場合、設置角度0°での装置校正が可能で、同様に45°, 90°, 135°, …のように、45°ごとの角度で合計8通りの装置校正が可能である。校正試験としては一つの設置角度のみで実行するが、参考データとして他の設置角度での測定を行うことで、より信頼性の高い装置校正を行うことができる。
【符号の説明】
【0044】
1 バネ押え
2 コイルバネ
3 スペーサ
4 校正サンプル
5 ホルダー本体
5A,5B 正八角形筒部
6 貫通孔
7 温度計差込口
8 固定手段
10 校正サンプルホルダー
20 V字ブロック
【要約】
【課題】V字ブロックへの設置角度の再現性に優れ、設置角度ごとに値付けされた校正値を用いた校正を可能にする校正サンプルホルダーを提供すること。
【解決手段】校正サンプルホルダー10は、筒状のホルダー本体5と、該ホルダー本体5の内部の中心軸上に、光学異方性を示す校正サンプル4を固定する固定手段8と、を備え、ホルダー本体5の外周の少なくとも一部分が、他の部分よりも大きな外径であり、軸対称正多角形の断面形状を有する。また、偏光測定装置の校正方法は、上記の筒状のホルダー本体5の中心軸上に位置するように、校正サンプル4を固定して、ホルダー本体5の軸対称正多角形の2辺が成す角度と同じ開き角を有するV字ブロックを、偏光測定装置の偏光の光路に沿って設けて、偏光の光路の中心とホルダー本体5の中心軸とが一致するように、ホルダー本体5をV字ブロックに所定の設置角度で設置して、校正サンプル4の偏光特性値を測定する。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6