IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 長岡香料株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-香味増強剤の製造方法 図1
  • 特許-香味増強剤の製造方法 図2
  • 特許-香味増強剤の製造方法 図3
  • 特許-香味増強剤の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】香味増強剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20241211BHJP
   A23F 3/16 20060101ALI20241211BHJP
   A23F 5/24 20060101ALI20241211BHJP
   A23L 2/56 20060101ALI20241211BHJP
   A23L 2/00 20060101ALN20241211BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20241211BHJP
【FI】
A23L27/10 C
A23F3/16
A23F5/24
A23L2/56
A23L2/00 B
A23L2/52 101
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024035490
(22)【出願日】2024-03-08
【審査請求日】2024-03-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591016839
【氏名又は名称】長岡香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 明泰
(72)【発明者】
【氏名】花井 洋志
(72)【発明者】
【氏名】小俣 智也
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 龍昇
(72)【発明者】
【氏名】石川 基樹
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112640982(CN,A)
【文献】特開2007-321017(JP,A)
【文献】特開2013-244007(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110587(WO,A1)
【文献】特開平06-276941(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104017649(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104017650(CN,A)
【文献】特開昭63-226258(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0007640(US,A1)
【文献】特公昭50-002739(JP,B1)
【文献】米国特許第05209940(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
C11B 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
90質量%以上のアルコール類を含む溶媒を、該溶媒の沸点まで加熱して前記溶媒の蒸気を発生させる工程と、
飲食品に使用される植物素材を、前記溶媒の沸点まで加熱した溶媒の蒸気と接触させる工程と、
前記植物素材に由来する香気成分を含む蒸気を得る工程と、
前記香気成分を含む蒸気を冷却して、前記香気成分を含む抽出溶液を得る工程と、
を含み、
前記アルコール類が、エタノールまたはイソプロパノールであり、
四重極型質量分析計を備えるガスクロマトグラフ質量分析計を用い、極性カラムを使用して、70eVにおける電子衝撃イオン化法で得たトータルイオンクロマトグラムにおいて、下記に示す第1区分、第2区分および第3区分に分類した場合に、前記香気成分は、前記第1区分、前記第2区分および前記第3区分に含まれる各香気成分のピーク面積の総和に対して、前記第1区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和が50面積%以上である(但し、溶媒として使用したアルコール類のピーク面積は除く)、
香味増強剤の製造方法。
第1区分:前記香気成分の注入開始から15分未満の範囲に、リテンションタイムを有する香気成分を含む。
第2区分:前記香気成分の注入開始から15分以上30分未満の範囲に、リテンションタイムを有する香気成分を含む。
第3区分:前記香気成分の注入開始から30分以上45分未満の範囲に、リテンションタイムを有する香気成分を含む。
【請求項2】
前記香気成分は、前記第1区分、前記第2区分および前記第3区分に含まれる各香気成分のピーク面積の総和に対して、前記第1区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和が50面積%以上であり(但し、溶媒として使用したアルコール類のピーク面積は除く)、第2区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和が40面積%未満であり、第3区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和が残部である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記植物素材が、コーヒー、ホップ、茶類、穀類、果実類、ハーブ・スパイス類、およびウッドチップからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
90質量%以上のアルコール類を含む溶媒を、該溶媒の沸点まで加熱して前記溶媒の蒸気を発生させる工程と、
飲食品に使用される植物素材を、前記溶媒の沸点まで加熱した溶媒の蒸気と接触させる工程と、
前記植物素材に由来する香気成分を含む蒸気を得る工程と、
前記香気成分を含む蒸気を冷却して、前記香気成分を含む抽出溶液を得る工程と、
前記香気成分を含む抽出溶液と飲食品と混合する工程と、
を含み、
前記アルコール類が、エタノールまたはイソプロパノールであり、
四重極型質量分析計を備えるガスクロマトグラフ質量分析計を用い、極性カラムを使用して、70eVにおける電子衝撃イオン化法で得たトータルイオンクロマトグラムにおいて、下記に示す第1区分、第2区分および第3区分に分類した場合に、前記抽出溶液に含まれる前記香気成分は、前記第1区分、前記第2区分および前記第3区分に含まれる各香気成分のピーク面積の総和に対して、前記第1区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和が50面積%以上である(但し、溶媒として使用したアルコール類のピーク面積は除く)、
飲食品組成物の製造方法。
第1区分:前記香気成分の注入開始から15分未満の範囲に、リテンションタイムを有する香気成分を含む。
第2区分:前記香気成分の注入開始から15分以上30分未満の範囲に、リテンションタイムを有する香気成分を含む。
第3区分:前記香気成分の注入開始から30分以上45分未満の範囲に、リテンションタイムを有する香気成分を含む。
【請求項5】
90質量%以上のアルコール類を含む溶媒を、該溶媒の沸点まで加熱して前記溶媒の蒸気を発生させる工程と、
飲食品に使用される植物素材を、前記溶媒の沸点まで加熱した溶媒の蒸気と接触させる工程と、
前記植物素材に由来する香気成分を含む蒸気を得る工程と、
前記香気成分を含む蒸気を冷却して、前記香気成分を含む抽出溶液を得る工程と、
前記香気成分を含む抽出溶液と香料成分と混合する工程と、
を含み、
前記アルコール類が、エタノールまたはイソプロパノールであり、
四重極型質量分析計を備えるガスクロマトグラフ質量分析計を用い、極性カラムを使用して、70eVにおける電子衝撃イオン化法で得たトータルイオンクロマトグラムにおいて、下記に示す第1区分、第2区分および第3区分に分類した場合に、前記抽出溶液に含まれる前記香気成分は、前記第1区分、前記第2区分および前記第3区分に含まれる各香気成分のピーク面積の総和に対して、前記第1区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和が50面積%以上である(但し、溶媒として使用したアルコール類のピーク面積は除く)、
香料組成物の製造方法。
第1区分:前記香気成分の注入開始から15分未満の範囲に、リテンションタイムを有する香気成分を含む。
第2区分:前記香気成分の注入開始から15分以上30分未満の範囲に、リテンションタイムを有する香気成分を含む。
第3区分:前記香気成分の注入開始から30分以上45分未満の範囲に、リテンションタイムを有する香気成分を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香味増強剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品の香気は、揮発性および感じ方によって、トップノート、ミドルノートおよびラストノートに分類される(特許文献1および非特許文献1)。トップノートは、広がりを持った香気であり、飲食品の最初の印象を決める成分である。トップノートは、比較的低い沸点を有する成分で構成されており、高い揮発性を有する。一方、ラストノートは、香りの深み、残香および味覚に関係する成分である。ラストノートは、比較的高い沸点を有する成分で構成されており、揮発しにくい。ミドルノートは、トップノートとラストノートとの中間の揮発性および保留性を有し、香気の中心的な成分である。
【0003】
特に、トップノートは、果物および野菜を切った瞬間、あるいはコーヒー豆を挽いた瞬間などに感じる香り立ちに関係する成分である。したがって、トップノートは、飲食品の嗜好性を高めるために非常に重要である。飲食品の嗜好性を高める方法として、例えば、特許文献2には、所定の香料を有効成分として含むコーヒーフレーバー組成物が開示されており、コーヒー特有のロースト感、スイート感および酸味感を高めることが記載されている。しかし、特許文献2には、コーヒー特有のロースト感など摂取後に感じる風味について記載されているものの、コーヒー含有飲食品のトップノートに対する影響について記載されていない。
【0004】
従来、コーヒーおよび茶類のような植物素材から、香気成分などの有用成分を採取するための手法として、水蒸気蒸留法が行われている。水蒸気蒸留の応用により、トップノートを増強する素材の製造方法が検討されている。例えば、特許文献3には、スピニングコーンカラム(SCC)蒸留装置を使用した香気成分の製造方法が開示されている。スピニングコーンカラム(SCC)蒸留装置を使用すると、トップノートを含む香気成分が得られやすい。しかし、スピニングコーンカラム(SCC)蒸留装置は、高額で大規模な装置であり、経済的に不利である。
【0005】
さらに、特許文献4には、水蒸気蒸留によりリカバリーを回収する工程において、リカバリーでは回収しきれずに排気されるアロマガスを有機合成吸着剤に吸着させ、溶媒で溶出させる方法が開示されている。特許文献4に記載の方法では、リカバリーで得られにくかったトップノートを含む香気成分が回収されやすくなる。しかし、特許文献4に記載の方法は、回収したリカバリーを吸着剤に吸着させて溶媒で溶出するという煩雑な工程が必要であり、より簡便な方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-191553号公報
【文献】特開2006-20526号公報
【文献】特開2013-244007号公報
【文献】特開2007-321017号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本調理科学会誌、Vol.51,No.4,197~204(2018)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、飲食品の嗜好性に大きな影響を及ぼすトップノートを増強する香味増強剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)飲食品に使用される植物素材を、90質量%以上のアルコール類を含む溶媒の蒸気と接触させる工程と、植物素材に由来する香気成分を含む蒸気を得る工程と、香気成分を含む蒸気を冷却して、香気成分を含む抽出溶液を得る工程とを含む、香味増強剤の製造方法。
(2)四重極型質量分析計を備えるガスクロマトグラフ質量分析計を用い、極性カラムを使用して、70eVにおける電子衝撃イオン化法で得たトータルイオンクロマトグラムにおいて、下記に示す第1区分、第2区分および第3区分に分類した場合に、
香気成分は、第1区分、第2区分および第3区分に含まれる各香気成分のピーク面積の総和に対して、第1区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和が50面積%以上である(但し、溶媒として使用したアルコール類のピーク面積は除く)、上記(1)に記載の製造方法。
第1区分:香気成分の注入開始から15分未満の範囲に、リテンションタイムを有する香気成分を含む。
第2区分:香気成分の注入開始から15分以上30分未満の範囲に、リテンションタイムを有する香気成分を含む。
第3区分:香気成分の注入開始から30分以上45分未満の範囲に、リテンションタイムを有する香気成分を含む。
(3)香気成分は、第1区分、第2区分および第3区分に含まれる各香気成分のピーク面積の総和に対して、第1区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和が50面積%以上であり(但し、溶媒として使用したアルコール類のピーク面積は除く)、第2区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和が40面積%未満であり、第3区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和が残部である、上記(2)に記載の製造方法。
(4)植物素材が、コーヒー、ホップ、茶類、穀類、果実類、ハーブ・スパイス類、およびウッドチップからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)アルコール類が、3個以下の炭素原子を有する1価アルコールである、上記(1)~(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)飲食品と、上記(1)~(5)のいずれかに記載の製造方法によって得られた香味増強剤とを混合する工程を含む、飲食品組成物の製造方法。
(7)香料成分と、上記(1)~(5)のいずれかに記載の製造方法によって得られた香味増強剤とを混合する工程を含む、香料組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る香味増強剤の製造方法によれば、飲食品の嗜好性に大きな影響を及ぼすトップノートを増強する香味増強剤が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】植物素材と溶媒の蒸気との接触方法の一実施形態を説明するための説明図である。
図2】植物素材と溶媒の蒸気との接触方法の他の実施形態を説明するための説明図である。
図3】実施例2および比較例2で得られた香味増強剤のGCチャートである。
図4】官能評価で使用したチェックシートの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る香味増強剤の製造方法は、下記の工程(i)~(iii)を含む。以下、図1および図2に基づいて、本発明の一実施形態に係る香味増強剤の製造方法について説明する。図1は、植物素材と溶媒の蒸気との接触方法の一実施形態を説明するための説明図である。図2は、植物素材と溶媒の蒸気との接触方法の他の実施形態を説明するための説明図である。
(i)飲食品に使用される植物素材を、90質量%以上のアルコール類を含む溶媒の蒸気と接触させる工程。
(ii)植物素材に由来する香気成分を含む蒸気を得る工程。
(iii)香気成分を含む蒸気を冷却して、香気成分を含む抽出溶液を得る工程。
【0013】
図1および図2に示すように、工程(i)は、飲食品に使用される植物素材21を、90質量%以上のアルコール類を含む溶媒11の蒸気と接触させる工程である。90質量%以上のアルコール類を含む溶媒11は、以下、単に「溶媒11」と記載する場合がある。飲食品に使用される植物素材21としては限定されず、例えば、飲食品として摂取される植物素材、および直接摂取されないものの間接的に飲食品に関わる植物素材が挙げられる。飲食品に使用される植物素材21は、以下、単に「植物素材21」と記載する場合がある。
【0014】
飲食品に使用される植物素材21としては、具体的には、コーヒー、ホップ、茶類、穀類、果実類、ハーブ・スパイス類およびウッドチップなどが挙げられる。ウッドチップは、燻製を製造する際またはワインの風味調整の際使用され、間接的に飲食品に関わる植物素材に相当する。飲食品に使用される植物素材21は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
茶類としては、例えば、緑茶などの不発酵茶、ウーロン茶などの半発酵茶、紅茶などの発酵茶、およびプーアル茶などの後発酵茶が挙げられる。穀類としては、例えば、米、大麦、麦芽、小麦およびライ麦などが挙げられる。
【0016】
果実類としては、例えば下記に示す果実が挙げられる。
柑橘類果実:レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、柚子、ミカン、カボス、すだち、シークワシャーおよびキンカンなど。
仁果類果実:リンゴ、梨、カリンおよびマルメロなど。
核果類果実:桃、梅、サクランボおよび杏など。
ブドウ類:巨峰およびマスカットなど。
熱帯果実:パイナップル、バナナ、マンゴー、パパイヤ、パッションフルーツおよびカカオなど。
ベリー類:苺、ブルーベリー、クランベリーおよびラズベリーなど。
その他:メロンおよびスイカなど。
【0017】
ハーブ類としては、例えば、アニス、アンゼリカ、エシャロット、オレガノ、カフィアライム、カモミール、カレープラント、カレーリーフ、キャットニップ、クレソン、コリアンダー、サボリー、サラダバーネット、シソ、ジャスミン、ステビア、セージ、セロリ、センテッドゼラニウム、ソレル、タイム、タデ、タラゴン、ダンディライオン、チャイブ、チャービル、ドクダミ、ナスタチウム、ニガヨモギ、ニラ、ハイビスカス、バジル、パセリ、ハッカ、ローズ、ヒソップ、ベルガモット、ボリジ、マーシュ、マジョラム、ミョウガ、ヤロウ、ヨモギ、ラベンダー、ルッコラ、ルバーブ、レモングラス、レモンバーム、レモンバーベナ、レモンマートル、ローズマリーおよびローレルなどが挙げられる。
【0018】
スパイス類としては、例えば、アサ、アサフェチダ、アジョワン、アニス、ウイキョウ、ウコン、オールスパイス、オレンジピール、ガジュツ、カショウ、カシア、ガランガル、カルダモン、カンゾウ、キャラウェイ、クチナシ、クミン、クローブ、ケシ、ケーパー、コショウ、ゴマ、コリアンダー、サフラン、サンショウ、シナモン、ジュニパーベリー、ショウガ、スターアニス、西洋ワサビ、タマリンド、チンピ、ディル、トウガラシ、ナツメグ、ニジェラ、ニンニク、バジル、バニラ、パプリカ、パラダイスグレイン、ローズヒップ、フェネグリーク、ピンクペッパー、マスタード、リツェア、レモンピール、ロングペッパーおよびワサビなどが挙げられる。
【0019】
飲食品に使用される植物素材21は、そのままの形態で使用してもよく、破砕または粉砕した形態、搾汁またはペーストの形態、および乾燥などの加工を施した形態で使用してもよい。
【0020】
90質量%以上のアルコール類を含む溶媒11に含まれるアルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノールなどの1価アルコールなどが挙げられる。これらの中でも、3個以下の炭素原子を有する1価アルコールが好ましく、特にエタノールおよびプロパノール(ノルマルプロパノールおよびイソプロパノール)が好ましい。3個以下の炭素原子を有する1価アルコールは比較的沸点が低く、低温条件下で蒸気化しやすい。溶媒11に含まれるアルコール以外の成分は、例えば水などが挙げられる。
【0021】
溶媒11としてエタノールを使用する場合、工業用アルコールを使用してもよい。工業用アルコールとしては、例えば、95度(95容量%)品および99度(99容量%)品が市販されている。95度品は約92.4質量%エタノールに相当し、99度品は約98.4質量%エタノールに相当する。工業用アルコールは、エタノール以外に水を含有する。エタノールの濃度が90質量%以上であれば、工業用アルコールに、水をさらに配合して使用してもよい。
【0022】
植物素材21を溶媒11の蒸気と接触させる方法については、植物素材21が溶媒11に浸されなければ限定されない。例えば、図1または図2に示すように、植物素材21を溶媒11の蒸気と接触させることが考えられる。
【0023】
図1では、溶媒タンク1に、溶媒11および植物素材21が位置している。植物素材21は、溶媒11に浸されないように、溶媒タンク1に設けられた載置台1aに配置されている。載置台1aは、例えば、溶媒11の蒸気は通過し得るものの、植物素材21は落下しない構造を有している。このような構造としては、例えば、メッシュ構造または多孔構造などが挙げられる。溶媒タンク1は、溶媒11を蒸気化させるために、加熱可能な構造を有している。溶媒タンク1は、例えば、蒸留釜のような形態であってもよい。
【0024】
溶媒タンク1を加熱する方法は、溶媒11を沸点まで加熱可能であれば限定されない。加熱方法としては、例えば、ウォーターバス、オイルバス、IHおよびマントルヒーターを用いた加熱方法、または過熱蒸気などによる間接的な加熱方法などが挙げられる。
【0025】
図2では、原料タンク2が設けられており、植物素材21は原料タンク2に位置している。溶媒タンク1で蒸気化された溶媒11の蒸気が原料タンク2に供給され、植物素材21と溶媒11の蒸気とが接触する。
【0026】
工程(ii)は、植物素材21に由来する香気成分を含む蒸気を得る工程である。植物素材21に由来する香気成分を含む蒸気は、図1および図2に示すように、溶媒11の蒸気を植物素材21と接触させることによって得られる。溶媒11の蒸気と植物素材21と接触させる時間は限定されず、溶媒11の種類または植物素材21の種類に応じて、適宜設定される。例えば、植物素材21の仕込み量に対して、1質量%以上500質量%以下の抽出溶液が得られる時間、溶媒11の蒸気と植物素材21とが接触するようにしてもよい。
【0027】
言い換えると、植物素材21の仕込み量に対して、抽出溶液の回収率が1質量%以上500質量%以下となるように、溶媒11の蒸気と植物素材21と接触させればよい。具体的には、植物素材21を100g使用した場合、1g以上500g以下の抽出溶液が得られる時間、溶媒11の蒸気と植物素材21とが接触するようにすればよい。植物素材21の仕込み量に対して、抽出溶液の回収率が、好ましくは10質量%以上200質量%以下、より好ましくは30質量%以上100質量%以下となるように、溶媒11の蒸気と植物素材21と接触させればよい。
【0028】
工程(iii)は、工程(ii)で得られた香気成分を含む蒸気を冷却して、香気成分を含む抽出溶液を得る工程である。植物素材21に由来する香気成分を含む蒸気は、凝縮器3に供給され、液化される。さらに、得られた液体は冷却装置4で冷却されて、抽出溶液タンク5に貯留される。得られた液体の冷却温度は限定されず、例えば、-20℃以上30℃以下の温度で冷却される。水の凝固点は0℃で、エタノールの凝固点は-114.14℃、イソプロパノールは-90℃である。そのため、エタノールまたはイソプロパノールを溶媒とした場合、冷却時に0℃以下にしてもよい。冷却装置4の冷却能力が高い場合は、凝縮器3は使用しなくてもよい。香気成分を含む蒸気を、冷却装置4で直接冷却してもよい。
【0029】
植物素材21を、90質量%以上のアルコール類を含む溶媒11の蒸気と接触させることによって得られる抽出溶液(香味増強剤)が、この抽出溶液を配合した飲食品のトップノートを増強し得るのは、例えば、次のような理由であると推察される。得られる抽出溶液には、揮発性の高い低沸点成分が多く含まれている。そのため、この抽出溶液が飲食品に配合されることによって、飲食品が有するトップノートの風味立ちが、補助強化されるためと推察される。
【0030】
抽出溶液に含まれる香気成分は、好ましくは、第1区分、第2区分および第3区分に含まれる各香気成分のピーク面積の総和に対して、第1区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和が50面積%以上である(但し、溶媒として使用したアルコール類のピーク面積は除く)。第1区分、第2区分および第3区分は、四重極型質量分析計を備えるガスクロマトグラフ質量分析計を用い、極性カラムを使用して、70eVにおける電子衝撃イオン化法で得たトータルイオンクロマトグラムにおいて、下記に示す条件で分類された区分を意味する。
第1区分:香気成分の注入開始から15分未満の範囲に、リテンションタイムを有する香気成分を含む。
第2区分:香気成分の注入開始から15分以上30分未満の範囲に、リテンションタイムを有する香気成分を含む。
第3区分:香気成分の注入開始から30分以上45分未満の範囲に、リテンションタイムを有する香気成分を含む。
【0031】
第1区分、第2区分および第3区分に含まれる各香気成分のピーク面積の総和に対して、第1区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和が50面積%以上であると、トップノートをより増強し得る香味増強剤が得られる。
【0032】
第1区分、第2区分および第3区分のそれぞれに含まれる化合物は、原料として使用する植物素材21によって異なる。そのため、第1区分、第2区分および第3区分のそれぞれに含まれる化合物は、具体的に特定することは困難である。しかし、第1区分、第2区分および第3区分に含まれる各香気成分のピーク面積の総和に対して、第1区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和が50面積%以上であると、飲食品組成物のトップノートがより増強されるのは、例えば、次のような理由であると推察される。
【0033】
ガスクロマトグラフ質量分析計においては、基本的に低沸点で揮発性の高い物質から順に検出される。そのため、リテンションタイムが比較的小さい範囲に揮発性の高い物質が含まれていると考えられる。したがって、リテンションタイムが小さい範囲である第1区分をトップノートと定義し、第1区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和が50面積%以上であると、飲食品が有するトップノートの風味立ちが、より補助強化されるためと推察される。
【0034】
香気成分は、より好ましくは、第1区分、第2区分および第3区分に含まれる各香気成分のピーク面積の総和に対して、第1区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和が50面積%以上であり、第2区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和が40面積%未満であり、第3区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和が残部である。第1区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和は、さらに好ましくは60面積%以上であってもよい。第2区分に含まれる香気成分のピーク面積の総和は、さらに好ましくは35面積%未満であってもよい。
【0035】
上記のように、一実施形態に係る製造方法によって得られた香味増強剤は、着香効果よりも補香効果の方が高い。一実施形態に係る製造方法によって得られた香味増強剤は、例えば、香料成分と混合することによって、得られる香料組成物のトップノートを増強し、飲食品と混合することによって、得られる飲食品組成物を摂取する際のトップノートを増強するものである。
【0036】
本発明の一実施形態に係る飲食品組成物の製造方法は、飲食品と、上述の製造方法によって得られた香味増強剤とを混合する工程を含む。飲食品は限定されず、例えば、コーヒー飲料、茶系飲料、果実系飲料、野菜系飲料、スポーツドリンクおよびココアなどの清涼飲料水;栄養補給に適したドリンク剤および栄養機能食品などの健康食品;ワイン、カクテル、缶チューハイ、発泡酒および第3のビールなどのアルコール飲料;チューハイ風味、ビール風味およびワイン風味などのノンアルコール飲料;ゼリー、アイスクリーム、チョコレート、ケーキおよびスナック菓子などの菓子類;インスタントスープおよびインスタントみそ汁などのインスタント食品類;しょうゆ風味調味料、ブイヨン、ソース、ポン酢、焼き肉のたれ、カレールウ、ドレッシング類、マヨネーズ、ケチャップおよびマスタードなどの調味料類などが挙げられる。
【0037】
一実施形態に係る飲食品組成物の製造方法において、香味増強剤の配合量は限定されない。但し、アルコール飲料以外の飲食品に配合される場合は、得られる飲食品組成物が酒税法上の酒類に該当しないようにする必要がある。すなわち、香味増強剤がエタノールを含む場合、得られる飲食品組成物に含まれるエタノールの濃度が1体積%未満となるように、香味増強剤が含まれる必要がある。上述の製造方法によって得られた香味増強剤は、植物素材21の種類によって抽出される香気成分の種類および抽出量は異なるものの、比較的少量で効果が発揮される。香味増強剤は、例えば、各飲食品組成物に要求される香味の強さなどに応じて配合される。そのため、飲食品の種類および植物素材21の種類によって香味増強剤の配合量にバラツキがあるものの、香味増強剤は抽出溶液の状態(すなわち、有姿の状態)で、得られる飲食品組成物中に、好ましくは0.001ppm以上1000ppm以下、より好ましくは0.01ppm以上100ppm以下の濃度で含まれるように配合されていればよい。
【0038】
本発明の一実施形態に係る香料組成物の製造方法は、香料成分と、上述の製造方法によって得られた香味増強剤とを混合する工程を含む。必要に応じて、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステルおよび動植物油脂からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤を、さらに配合してもよい。あるいは、抽出溶液を適当な担体(例えば、乳糖、マルトースなど)に担持させて粉状または粒状の形態で使用してもよい。香料成分は限定されず、例えば、動植物抽出物および合成香料などが挙げられる。
【0039】
一実施形態に係る香料組成物の製造方法において、香味増強剤の配合量は限定されない。上述の製造方法によって得られた香味増強剤は、上記のように比較的少量で効果が発揮される。香味増強剤は、例えば、各香料組成物に要求される香味の強さなどに応じて配合される。そのため、香料成分の種類および植物素材21の種類によって香味増強剤の配合量にバラツキがあるものの、香味増強剤は抽出溶液の状態(すなわち、有姿の状態)で、得られる香料組成物中に、好ましくは0.001質量%以上60質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上10質量%以下の濃度で含まれるように配合されていればよい。
【0040】
一実施形態に係る製造方法によって得られた香味増強剤は、飲食品と混合する場合、香味増強剤の原料である植物素材21を原料として含む飲食品と混合してもよく、植物素材21を原料として含まない飲食品と混合してもよい。具体的には、コーヒーを植物素材21として得られた香味増強剤は、コーヒー飲料と混合してもよく、コーヒー飲料以外の飲食品と混合してもよい。
【0041】
さらに、香料成分と混合する場合、香味増強剤の原料である植物素材21に由来する香料成分と混合してもよく、植物素材21に由来しない香料成分と混合してもよい。具体的には、コーヒーを植物素材21として得られた香味増強剤は、コーヒー香料成分と混合してもよく、コーヒー以外の香料成分と混合してもよい。
【実施例
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
図1に示すように、溶媒タンク1に溶媒11として90質量%エタノールを200g、および載置台1aの上に植物素材21としてコーヒーを100g仕込んだ。コーヒーは、コーヒー豆をミルで粗挽きにして使用した。次いで、溶媒タンク1をマントルヒータで加熱した。加熱によって発生した蒸気を、載置台1a上のコーヒーと接触させた。コーヒーと接触させた蒸気を、凝縮器3に供給して液化した。液化は、水道水による冷却によって行った。さらに、得られた液体を冷却装置4で冷却し、抽出溶液タンク5に抽出溶液として貯留した。冷却温度は5℃とした。冷却装置4では抽出溶液の冷却が行われ、凝縮器3で凝縮しきれなかった低沸点成分の凝縮も期待できる。抽出溶液の収量が50gとなった時点で、抽出作業を終了した。このような手順で、50gの香味増強剤を得た。
【0044】
(実施例2)
90質量%エタノールの代わりに92.4質量%エタノールを使用した以外は、実施例1と同様の手順で50gの香味増強剤を得た。
【0045】
(実施例3)
90質量%エタノールの代わりに98.4質量%エタノールを使用した以外は、実施例1と同様の手順で50gの香味増強剤を得た。
【0046】
(実施例4)
90質量%エタノールの代わりに100質量%イソプロパノールを使用した以外は、実施例1と同様の手順で50gの香味増強剤を得た。
【0047】
(比較例1)
90質量%エタノールの代わりに50質量%エタノールを使用した以外は、実施例1と同様の手順で50gの香味増強剤を得た。
【0048】
(比較例2)
90質量%エタノールの代わりにイオン交換水を使用した以外は、実施例1と同様の手順で50gの香味増強剤を得た。
【0049】
(実施例5)
図1に示すように、溶媒タンク1に溶媒11として92.4質量%エタノールを800g、および載置台1aの上に植物素材21として緑茶を100g仕込んだ。緑茶は国産緑茶(煎茶)を使用した。次いで、溶媒タンク1をマントルヒータで加熱した。加熱によって発生した蒸気を、載置台1a上の緑茶と接触させた。緑茶と接触させた蒸気を、凝縮器3に供給して液化した。液化は、水道水による冷却によって行った。さらに、得られた液体を冷却装置4で冷却し、抽出溶液タンク5に抽出溶液として貯留した。冷却温度は5℃とした。抽出溶液の収量が50gとなった時点で、抽出作業を終了した。このような手順で、50gの香味増強剤を得た。
【0050】
(比較例3)
92.4質量%エタノールの代わりにイオン交換水を使用した以外は、実施例5と同様の手順で50gの香味増強剤を得た。
【0051】
(実施例6)
図1に示すように、溶媒タンク1に溶媒11として92.4質量%エタノールを800g、および載置台1aの上に植物素材21としてレモン果皮を100g仕込んだ。レモン果皮は、レモン冷凍果皮を自然解凍し、5~10mm程度の大きさに切断して使用した。次いで、溶媒タンク1をマントルヒータで加熱した。加熱によって発生した蒸気を、載置台1a上のレモン果皮と接触させた。レモン果皮と接触させた蒸気を、凝縮器3に供給して液化した。液化は、水道水による冷却によって行った。さらに、得られた液体を冷却装置4で冷却し、抽出溶液タンク5に抽出溶液として貯留した。冷却温度は5℃とした。抽出溶液の収量が50gとなった時点で、抽出作業を終了した。このような手順で、50gの香味増強剤を得た。
【0052】
(比較例4)
92.4質量%エタノールの代わりにイオン交換水を使用した以外は、実施例6と同様の手順で50gの香味増強剤を得た。
【0053】
(実施例7)
図1に示すように、溶媒タンク1に溶媒11として92.4質量%エタノールを800g、および載置台1aの上に植物素材21としてローズマリーを100g仕込んだ。ローズマリーは、フレッシュなローズマリーの軸を2cm程度に切断して使用した。次いで、溶媒タンク1をマントルヒータで加熱した。加熱によって発生した蒸気を、載置台1a上のローズマリーと接触させた。ローズマリーと接触させた蒸気を、凝縮器3に供給して液化した。液化は、水道水による冷却によって行った。さらに、得られた液体を冷却装置4で冷却し、抽出溶液タンク5に抽出溶液として貯留した。冷却温度は5℃とした。抽出溶液の収量が30gとなった時点で、抽出作業を終了した。このような手順で、30gの香味増強剤を得た。
【0054】
(実施例8)
冷却温度を-5℃とした以外は、実施例7と同様の手順で30gの香味増強剤を得た。
【0055】
(比較例5)
92.4質量%エタノールの代わりにイオン交換水を使用した以外は、実施例7と同様の手順で30gの香味増強剤を得た。
【0056】
実施例1~8および比較例1~5で得られた香味増強剤を、ゲステル社製のDHSを用いるMVM(Multi-Volatile Method)によって、GC/MS測定に供した。GC/MS測定の条件は下記の通りである。
<条件>
装置
GC:Agilent Technologies社製、GC7890A
MS:Agilent Technologies社製、MSD5975C
HS:GERSTEL社製 DHS、MPS
TUBE:Carbon B&X、TENAX-TA
カラム:InertCapPure-WAX ProGuard、2m(60m×0.25mm I.D., Film 0.25μm)
温度条件:50℃で3分間保持後、4℃/分の昇温速度で240℃まで昇温
キャリアガス流量:ヘリウム(2.2mL/分)
注入法:スプリットレス
イオン源温度:230℃
【0057】
得られた測定結果から、第1区分、第2区分および第3区分のピーク面積を算出した。ピーク面積を算出する際、溶媒11のピーク面積値は除外した。得られたピーク面積から、第1区分、第2区分および第3区分に含まれる各香気成分のピーク面積の総和に対する各区分に含まれる各香気成分のピーク面積の総和の割合を算出した。結果を表1に示す。実際に得られたGCチャートとして、実施例2および比較例2で得られた香味増強剤のGCチャートを図3に示す。
【0058】
これらのGCチャートから明らかなように、実施例2で得られた香味増強剤と比較例2で得られた香味増強剤では、含まれる香気成分の種類は比較的共通しているものの、香気成分のバランスが顕著に異なっていることがわかる。図3に示すように、実施例2では、第1区分(香気成分の注入開始から15分未満の範囲)に多くのピークが見られる。一方、比較例2では、第2区分(香気成分の注入開始から15分以上30分未満の範囲)に多くのピークが見られる。
【0059】
【表1】
【0060】
(実施例9)
下記に示す処方例でコーヒー香料組成物を調製した。得られたコーヒー香料組成物には、実施例2で得られた香味増強剤が50質量%の割合で含まれている。得られたコーヒー香料組成物は、分離および沈殿など生じず、香料組成物として十分に使用できるものであった。
【0061】
<処方例>
2-フランメタンチオール(1質量%エタノール溶液) :0.2質量%
2-メチルブチルアルデヒド(10質量%エタノール溶液) :0.4質量%
イソバレルアルデヒド(10質量%エタノール溶液) :0.4質量%
2,3-ブタンジオン(10質量%エタノール溶液) :0.2質量%
2,3-ペンタンジオン(10質量%エタノール溶液) :0.2質量%
フルフラール(10質量%エタノール溶液) :0.4質量%
5-メチルフルフラール(10質量%エタノール溶液) :0.2質量%
実施例2で得られた香味増強剤 :50質量%
精製水 :48質量%
【0062】
(実施例10)
下記に示す処方例でレモン香料組成物を調製した。得られたレモン香料組成物には、実施例6で得られた香味増強剤が2質量%の割合で含まれている。得られたレモン香料組成物は、分離および沈殿など生じず、香料組成物として十分に使用できるものであった。
【0063】
<処方例>
レモンエッセンス :98質量%
実施例6で得られた香味増強剤 :2質量%
【0064】
(実施例11)
下記に示す処方例でローズマリー香料組成物を調製した。得られたローズマリー香料組成物には、実施例7で得られた香味増強剤が0.002質量%の割合で含まれている。得られたローズマリー香料組成物は、分離および沈殿など生じず、香料組成物として十分に使用できるものであった。
【0065】
<処方例>
ローズマリエッセンス :98質量%
実施例7で得られた香味増強剤(0.1質量%エタノール溶液) :2質量%
【0066】
次いで、実施例1~8および比較例1~5で得られた香味増強剤を配合した飲食品について、官能評価を行った。
【0067】
(実施例12)
焙煎コーヒー豆(焙煎度L18)1050gをミルで粗挽きにして、90~95℃程度の熱水10000gでドリップ抽出した。得られた液体を室温まで冷却して7303gのコーヒー抽出液(Brix、2.72)を得た。得られたコーヒー抽出液7272.1gに、12.04gの重曹を配合し、イオン交換水を加えて17200gのブラックコーヒーを得た。
【0068】
得られたブラックコーヒーに、実施例1で得られた香味増強剤を配合し、缶容器に充填した。充填後、121℃で20分間、加熱加圧殺菌を行い、評価用コーヒー飲料を得た。香味増強剤は、評価用コーヒー飲料に、20ppmの濃度で含まれるように配合した。さらに、得られたブラックコーヒーに香味増強剤を配合せずに缶容器に充填し、121℃で20分間、加熱加圧殺菌を行った無配合コーヒー飲料を得た。
【0069】
得られた評価用コーヒー飲料および無配合コーヒー飲料を、20代から60代までの男女で構成されたパネラー14名に試飲してもらい、評価してもらった。パネラーには、無配合コーヒー飲料と比較して、評価用コーヒー飲料が「トップノート」、「ミドルノート」および「ラストノート」のいずれが増強されていると感じたかについて評価してもらった。具体的には、図4に示すチェックシートにおいて点数が記載されていないものを用い、直線上に、増強されていると感じた部分について、印をしてもらった。結果の解析時に「トップノート」を5点、「ミドルノート」を3点、「ラストノート」を1点とした。例えば、図4に示すように、印(矢印)が付されていると、4.3点と評価した。各パネラーの印の位置を小数第1位までの点数で示し、14名の平均点を求めた。結果を表2に示す。
【0070】
(実施例13)
実施例1で得られた香味増強剤の代わりに実施例2で得られた香味増強剤を使用した以外は、実施例12と同様の手順で、14名のパネラーに評価してもらった。結果を表2に示す。
【0071】
(実施例14)
実施例1で得られた香味増強剤の代わりに実施例3で得られた香味増強剤を使用した以外は、実施例12と同様の手順で、14名のパネラーに評価してもらった。結果を表2に示す。
【0072】
(比較例6)
実施例1で得られた香味増強剤の代わりに比較例1で得られた香味増強剤を使用した以外は、実施例12と同様の手順で、14名のパネラーに評価してもらった。結果を表2に示す。
【0073】
(比較例7)
実施例1で得られた香味増強剤の代わりに比較例2で得られた香味増強剤を使用した以外は、実施例12と同様の手順で、14名のパネラーに評価してもらった。結果を表2に示す。
【0074】
(実施例15)
実施例1で得られた香味増強剤の代わりに実施例4で得られた香味増強剤を使用し、香味増強剤の配合量を10ppmとした以外は、実施例12と同様の手順で、14名のパネラーに評価してもらった。結果を表2に示す。
【0075】
(比較例8)
実施例1で得られた香味増強剤の代わりに比較例2で得られた香味増強剤を使用し、香味増強剤の配合量を10ppmとした以外は、実施例12と同様の手順で、14名のパネラーに評価してもらった。結果を表2に示す。
【0076】
(実施例16)
煎茶の茶葉75gを、70℃程度の熱水2500gに2分間浸漬した。浸漬後、ろ過で茶葉を除去し、ろ液を室温まで冷却して2158.3gの煎茶抽出液(Brix、0.65)を得た。得られた煎茶抽出液2153.9gに、1.4gの重曹および1.1gのビタミンCを配合し、イオン交換水を加えて5600gの緑茶飲料を得た。
【0077】
得られた緑茶飲料に、実施例5で得られた香味増強剤を配合し、缶容器に充填した。充填後、121℃で20分間、加熱加圧殺菌を行い、評価用緑茶飲料を得た。香味増強剤は、評価用緑茶飲料に、20ppmの濃度で含まれるように配合した。さらに、得られた緑茶飲料に香味増強剤を配合せずに缶容器に充填し、121℃で20分間、加熱加圧殺菌を行った無配合緑茶飲料を得た。
【0078】
14名のパネラーに評価用緑茶飲料および無配合緑茶飲料を試飲してもらい、実施例12と同様の手順で評価してもらった。結果を表2に示す。
【0079】
(比較例9)
実施例5で得られた香味増強剤の代わりに比較例3で得られた香味増強剤を使用した以外は、実施例16と同様の手順で、14名のパネラーに評価してもらった。結果を表2に示す。
【0080】
(実施例17)
ミックスハーブ(レモングラス(1cmカット)150gおよび粗挽きローズマリー60g)を、90℃程度の熱水6000gに3分間浸漬した。浸漬後、ろ過でミックスハーブを除去し、ろ液を室温まで冷却して5181.9gのハーブ抽出液(Brix、0.26)を得た。得られたハーブ抽出液3077.0gに、2.0gの重曹および2.0gのビタミンCを配合し、イオン交換水を加えて10000gのハーブ飲料を得た。
【0081】
得られたハーブ飲料に、実施例7で得られた香味増強剤を配合し、缶容器に充填した。充填後、121℃で20分間、加熱加圧殺菌を行い、評価用ハーブ飲料を得た。香味増強剤は、評価用ハーブ飲料に、6.7ppmの濃度で含まれるように配合した。さらに、得られたハーブ飲料に香味増強剤を配合せずに缶容器に充填し、121℃で20分間、加熱加圧殺菌を行った無配合ハーブ飲料を得た。
【0082】
14名のパネラーに評価用ハーブ飲料および無配合ハーブ飲料を試飲してもらい、実施例12と同様の手順で評価してもらった。結果を表2に示す。
【0083】
(実施例18)
実施例7で得られた香味増強剤の代わりに実施例8で得られた香味増強剤を使用した以外は、実施例17と同様の手順で、14名のパネラーに評価してもらった。結果を表2に示す。
【0084】
(比較例10)
実施例7で得られた香味増強剤の代わりに比較例5で得られた香味増強剤を使用した以外は、実施例17と同様の手順で、14名のパネラーに評価してもらった。結果を表2に示す。
【0085】
(実施例19)
果糖ブドウ糖液糖770.0g、レモン透明濃縮果汁29.8g、実施例10で得られたレモン香料組成物7.0g、クエン酸三ナトリウム4.2gおよびビタミンC2.1gに、イオン交換水を加えて7000gのレモン風味飲料(レモン果汁3質量%)を得た。
【0086】
得られたレモン風味飲料に、実施例10で得られたレモン香料組成物を配合し、缶容器に充填した。充填後、95℃で5秒間、加熱殺菌を行い、評価用レモン風味飲料を得た。レモン香料組成物は、評価用レモン風味飲料に、1000ppmの濃度で含まれるように配合した。さらに、実施例10で得られたレモン香料組成物の代わりに、実施例10で使用したレモンエッセンスのみを配合した以外は、評価用レモン風味飲料と同様の手順で、レモンエッセンス配合レモン風味飲料を得た。
【0087】
得られた評価用レモン風味飲料およびレモンエッセンス配合レモン風味飲料を、20代から60代までの男女で構成されたパネラー14名に試飲してもらい、評価してもらった。パネラーには、レモンエッセンス配合レモン風味飲料と比較して、評価用レモン風味飲料が「トップノート」、「ミドルノート」および「ラストノート」のいずれが増強されていると感じたかについて評価してもらった。具体的には、実施例12で行った評価方法に準拠し、14名の平均点を求めた。結果を表3に示す。
【0088】
(比較例11)
レモンエッセンスを98質量%および比較例4で得られた香味増強剤を2質量%の割合で混合して、レモン香料組成物を得た。このレモン香料組成物を使用した以外は、実施例19と同様の手順で、14名のパネラーに評価してもらった。結果を表3に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
表2および3に示すように、本発明の製造方法によって得られた香味増強剤を用いた実施例12~18、および本発明の製造方法によって得られた香味増強剤を含む香料組成物を用いた実施例19では、いずれも平均点が4点以上と高く、トップノートが増強されていることがわかる。一方、本発明の製造方法以外の方法で得られた香味増強剤を用いた比較例6~10および本発明の製造方法以外の方法で得られた香味増強剤を配合した香料組成物を用いた比較例11では、いずれも平均点が約3点であり、トップノートは増強されていないことがわかる。
【0092】
比較例7および比較例8は、いずれも比較例2で得られた香味増強剤を使用しているものの、配合量が異なる。そのため、比較例7および比較例8において、平均点(結果)が異なっている。さらに、比較例7よりも配合量が少ない比較例8の平均点が高い理由としては、比較例2で得られた香味増強剤は、表1に示すように、トップノートに影響する第1区分のピーク面積よりもミドルノートに影響する第2区分のピーク面積の方が大きいためと推察される。したがって、比較例7よりも比較例8の方が、配合される第2区分の香気成分が相対的に少なくなるためと推察される。
【符号の説明】
【0093】
1 溶媒タンク
11 溶媒
1a 載置台
2 原料タンク
21 植物素材
3 凝縮器
4 冷却装置
5 抽出溶液タンク
【要約】
【課題】飲食品の嗜好性に大きな影響を及ぼすトップノートを増強する香味増強剤の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る香味増強剤の製造方法は、飲食品に使用される植物素材を、90質量%以上のアルコール類を含む溶媒の蒸気と接触させる工程と、植物素材に由来する香気成分を含む蒸気を得る工程と、香気成分を含む蒸気を冷却して、香気成分を含む抽出溶液を得る工程とを含む。
【選択図】なし


図1
図2
図3
図4