IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デュエルの特許一覧

特許7602305釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法
<>
  • 特許-釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法 図1
  • 特許-釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法 図2
  • 特許-釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法 図3
  • 特許-釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法 図4
  • 特許-釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法 図5
  • 特許-釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法 図6
  • 特許-釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法 図7
  • 特許-釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法 図8
  • 特許-釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法 図9
  • 特許-釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法 図10
  • 特許-釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法 図11
  • 特許-釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法 図12
  • 特許-釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法 図13
  • 特許-釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法 図14
  • 特許-釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法 図15
  • 特許-釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法 図16
  • 特許-釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】釣り糸の製造方法、釣り糸及び釣り糸の評価方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 91/00 20060101AFI20241211BHJP
【FI】
A01K91/00 F
A01K91/00 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024550596
(86)(22)【出願日】2024-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2024020367
【審査請求日】2024-08-27
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2023/021402
(32)【優先日】2023-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502109267
【氏名又は名称】株式会社デュエル
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョイエリックユンハ
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-193379(JP,A)
【文献】特開2001-148981(JP,A)
【文献】特開2003-052287(JP,A)
【文献】特開2002-227029(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0076825(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 91/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤及び樹脂成分を含む形成材料を製糸することにより、釣り糸を製造する方法において、
前記釣り糸の波長425nm~575nmの範囲における分光透過率が13%~40%の範囲内にあり、且つ、波長525nmにおける分光透過率L0Zが25.1X-0.23 L0Z12.9X-0.38(ただし、前記Xは釣り糸の直径(mm)を表す)を満たすように製造する、釣り糸の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂成分が、ポリフッ化ビニリデンを含む、請求項1に記載の釣り糸の製造方法。
【請求項3】
着色剤及び樹脂成分を含み、
波長425nm~575nmの範囲における分光透過率が、13%~40%であり、
波長525nmにおける分光透過率L0Zが、25.1X-0.23 L0Z12.9X-0.38(ただし、前記Xは釣り糸の直径(mm)を表す)の関係を満たす、釣り糸。
【請求項4】
釣り糸の分光透過率及び直径を測定し、
波長425nm~575nmの範囲における分光透過率が13%~40%を満たし、且つ、波長525nmにおける分光透過率L0Zが、25.1X-0.23 L0Z12.9X-0.38(ただし、前記Xは釣り糸の直径(mm)を表す)の関係を満たすことを確認する、釣り糸の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣り用の釣り糸の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
釣りの対象となる魚(以下、対象魚という)は、海水魚と淡水魚に大別できるが、特に、海水魚は、警戒心が強いものが多い。警戒心の強い魚を釣り上げることは釣り人にとって大きな魅力である。釣果を上げるためには、釣り糸が魚に認識されないことが重要である。従って、魚に警戒されないように、できるだけ細い釣り糸を使いたいところ、釣り糸が細すぎると、大きな魚が釣り針に掛かったときに、当該釣り糸が切れる蓋然性も高くなる。それ故、魚に認識され難い釣り糸が望まれる。
特許文献1には、可視光吸収スペクトルにおいて500~600nmの波長範囲内に吸収の極大値を有する海水魚釣り用着色ハリスが開示されている。このハリス(釣り糸)は、クロダイやマダイに認識され難く、これらの魚種に好適に使用できると、特許文献1には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-52287号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、特許文献1の釣り糸は、対象魚がクロダイやマダイである場合には有効かもしれないが、それ以外の対象魚には有効と言えない。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、様々な魚種に対して良好な釣果を期待できる釣り糸の製造方法などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの局面では、釣り糸の製造方法を提供する。
前記製造方法は、着色剤及び樹脂成分を含む形成材料を製糸することにより、釣り糸を製造する方法において、前記釣り糸の波長425nm~575nmの範囲における分光透過率が13%~40%の範囲内にあり、且つ、波長525nmにおける分光透過率L0Zが25.1X-0.23 L0Z12.9X-0.38(ただし、前記Xは釣り糸の直径(mm)を表す)を満たすように製造する。好ましくは、前記樹脂成分が、ポリフッ化ビニリデンを含む。
【0007】
別の局面では、釣り糸を提供する。
前記釣り糸は、着色剤及び樹脂成分を含み、
波長425nm~575nmの範囲における分光透過率が、13%~40%であり、
波長525nmにおける分光透過率L0Zが、25.1X-0.23 L0Z12.9X-0.38(ただし、前記Xは釣り糸の直径(mm)を表す)の関係を満たす。
【0008】
別の局面では、釣り糸の評価方法を提供する。
前記評価方法は、釣り糸の分光透過率及び直径を測定し、波長425nm~575nmの範囲における分光透過率が13%~40%を満たし、且つ、波長525nmにおける分光透過率L0Zが、25.1X-0.23 L0Z12.9X-0.38(ただし、前記Xは釣り糸の直径(mm)を表す)の関係を満たすことを確認する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の釣り糸を使用することにより、様々な魚種、特に、様々な海水魚に対して良好な釣果が得られ得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】両端部を省略した釣り糸の正面図。
図2図1のII-II線で切断した拡大断面図。
図3】海水魚の波長毎の光感受性を表した参考グラフ図。
図4】釣り糸の反射率の測定方法を説明するための図であって、釣り糸をガラス板に巻き付けた状態を示す正面図。
図5】釣り糸の反射率の測定方法を説明するための図であって、積分球に釣り糸を巻いたガラス板を配置した状態を示す参考図。
図6】実施例1の釣り糸の分光反射率L1、分光反射率L2及び分光透過率L0のグラフ図。
図7】実施例4の釣り糸の分光反射率L1、分光反射率L2及び分光透過率L0のグラフ図。
図8】実施例2及び3の釣り糸の分光反射率L2及び分光透過率L0のグラフ図。
図9】実施例5乃至8の釣り糸の分光反射率L2及び分光透過率L0のグラフ図。
図10】実施例9乃至12の釣り糸の分光反射率L2及び分光透過率L0のグラフ図。
図11】実施例13乃至16の釣り糸の分光反射率L2及び分光透過率L0のグラフ図。
図12】実施例17乃至20の釣り糸の分光反射率L2及び分光透過率L0のグラフ図。
図13】実施例21乃至24の釣り糸の分光反射率L2及び分光透過率L0のグラフ図。
図14】比較例5乃至10の釣り糸の分光透過率L0のグラフ図。
図15】比較例11乃至16の釣り糸の分光透過率L0のグラフ図。
図16】実施例及び比較例の釣り糸の糸径と波長525nmの分光透過率の関係を表したグラフ図。
図17図16のグラフ図に、実施例と比較例の境界線を表したグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「下限値GG~上限値HH」で表される数値範囲は、下限値GG以上上限値HH以下を意味する。前記数値範囲が別個に複数記載されている場合、任意の下限値と任意の上限値を選択し、「任意の下限値~任意の上限値」を設定できるものとする。
【0012】
[釣り糸の構成]
本発明の釣り糸は、糸構成の観点では、モノフィラメントでもよく、或いは、複数の細いモノフィラメントよりなるマルチフィラメントを製紐してなる所謂ブレイド糸でもよく、或いは、複数の細いモノフィラメントが融着されて1本の糸状に形成されている融着糸でもよい。耐久性に優れる点から、モノフィラメントであることが好ましい。
【0013】
また、図1及び図2を参照して、本発明の釣り糸1は、細長い糸状であり、断面形状の観点では、通常、断面視略円形である。大きさの観点では、前記釣り糸1の径(直径)は、例えば、0.1mm~2.5mmである。
【0014】
組成の観点では、釣り糸は、樹脂成分と、着色剤と、を含み、必要に応じて、任意の適切な添加剤を含んでいてもよい。前記添加剤としては、耐光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、結晶化抑制剤、可塑剤などが挙げられる。
前記樹脂成分は、特に限定されず、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどのビニリデン系樹脂、高分子量ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂などが挙げられる。高強力、耐摩耗性、耐候性及び低吸水性に優れ、光の屈折率が水に近いことなどから、ポリフッ化ビニリデンなどのビニリデン系樹脂を含む釣り糸が好ましい。
前記着色剤としては、前記波長範囲における分光透過率を満たすものであれば、特に限定されない。前記着色剤としては、代表的には、無機顔料や有機顔料などの顔料、染料が挙げられる。これらは、1種単独で、又は2種以上併用できる。
前記無機顔料としては、例えば、酸化鉄、べんがら、アルカリブルー、リゾールレッド、カーミン6B、ジスアゾイエロー、フタロシアニンブルー、キナクリドンレッド、イソインドリンイエローなどが挙げられる。前記有機顔料としては、アントラキノン系、アゾ系、ペリレン系などが挙げられる。前記染料としては、オーラミン、フクシン、メチレンブルー、マラカイトグリーン、クリスタルバイオレット、カチオン染料などが挙げられる。
【0015】
染着率に優れ、堅牢度の高い釣り糸を構成できることから、着色剤として顔料を用いることが好ましい。さらに、顔料の中でも、釣り糸の製造時に糸切れを生じ難いことから、有機顔料を用いることがより好ましい。
着色剤の含有量は、適宜設定される。着色剤の含有量と釣り糸の径との関係において、着色剤の含有量Y0が下記式(1)を満たす釣り糸が好ましい。特に、着色剤として有機顔料を含み且つ樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む釣り糸が、下記式(1)の関係を満たすことが好ましい。下記式(1)の関係を満たす釣り糸は、海水魚及び淡水魚の中の多くの魚種に対する釣果が向上する。具体的には、本発明者等の研究によれば、着色剤の含有量Y0がY2以下である場合、無着色の釣り糸と同程度の釣果しか期待できないおそれがある。着色剤の含有量Y0がY1以上である場合、無着色の釣り糸よりも魚(海水魚及び淡水魚のいずれも)の食い付き頻度が悪化するおそれがある。釣果について、上述の分光透過率の範囲と着色剤の含有量との間に相互作用があると推定される。
式(1):Y2<Y0<Y1
式(2):Y1=58.6X-0.65
式(3):Y2=8.9X-1.46
ただし、Xは、釣り糸の直径(mm)を表し、Y0は、着色剤の含有量(ppm)を表し、Y1は、着色剤の含有量の上限値(ppm)を表し、Y2は、着色剤の含有量の下限値(ppm)を表す。
前記式(1)は、下記式(4)を満たす釣り糸の、糸径と着色剤の含有量の関係を表したものである。具体的には、式(2)は、着色剤の含有量を縦軸に且つ糸径を横軸にとり、式(4)の上限値を満たす釣り糸の糸径毎の着色剤の含有量をデータとして用いて、最小二乗法を適用し、累乗近似することにより、算出できる。式(3)は、着色剤の含有量を縦軸に且つ糸径を横軸にとり、式(4)の下限値を満たす釣り糸の糸径毎の着色剤の含有量をデータとして用いて、最小二乗法を適用し、累乗近似することにより、算出できる。
【0016】
釣り糸の光学的特性は、波長425nm~575nmの範囲における分光透過率が、13%~40%であり、且つ、波長525nmにおける分光透過率L0Zが、25.1X-0.23 L0Z12.9X-0.38(ただし、前記Xは釣り糸の直径(mm)を表す)の関係を満している。
式(4):25.1X-0.23 L0Z12.9X-0.38
式(4)において、L0Zは、波長525nmにおける釣り糸の分光透過率を表し、Xは、釣り糸の直径(mm)を表す。
前記式(4)の関係を満たす釣り糸は、様々な魚種、特に、様々な海水魚に対して良好な釣果を期待できる。
【0017】
波長425nm~575nmの範囲における分光透過率が13%~40%とは、波長425nm~575nmの全範囲における分光透過率が、13%~40%の範囲内にあることをいう。前記釣り糸は、波長425nm~575nmの範囲における分光透過率が14%~38%であることが好ましく、さらに、17%~37%であることがより好ましい。
また、釣り糸は、波長425nm~575nmの範囲における分光透過率の最大値と、波長425nm~575nmの範囲における分光透過率の最小値との差(最大値-最小値)が13%以内であることが好ましく、さらに、前記差(最大値-最小値)が6%~12%であることがより好ましく、8%~11%であることがさらに好ましい。
【0018】
また、釣り糸は、波長575nm~700nm(ただし、前記波長425nm~575nmの範囲との関係で575nmが重複するので、ここでは、波長575nmを超え700nmを意味する)の範囲における分光透過率が、例えば18%以上であり、さらに20%以上であることが好ましい。
前記釣り糸の分光透過率は、下記実施例に記載の[分光透過率L0の測定方法]によって測定できる。すなわち、釣り糸で反射する光の反射率と釣り糸を透過して反射する光の反射率の和(分光反射率L1)を測定し、釣り糸で反射する光の反射率(分光反射率L2)を測定し、分光反射率L1から分光反射率L2を減算することによって、釣り糸の分光透過率L0を特定できる。
【0019】
また、前記釣り糸は、波長425nm~700nmの範囲における分光反射率が、例えば、26%以下であり、好ましくは、波長425nm~700nmの範囲における分光反射率が21%以下であり、より好ましくは、波長425nm~700nmの範囲における分光反射率が12%~21%である。
また、釣り糸は、波長425nm~700nmの範囲における分光反射率の最大値と、波長425nm~700nmの範囲における分光反射率の最小値との差(最大値-最小値)が、例えば、9%以内であり、さらに、前記差(最大値-最小値)が4%~8%であることが好ましい。
さらに、本発明の釣り糸は、波長425nm~575nmの範囲における分光反射率が、例えば、20%以下であり、好ましくは、波長425nm~575nmの範囲における分光反射率が10%~20%である。
前記釣り糸の分光反射率は、釣り糸に当たって反射する光のみの反射率をいう。前記釣り糸の分光反射率L2は、下記実施例に記載の<分光反射率L2の測定>によって測定できる。
【0020】
本発明の釣り糸を使用することにより、多くの魚種を比較的多数釣り上げることができる。このことは、下記実施例の[実釣試験]からも明らかである。前記良好な釣果を期待できる理由は、明確ではないが、本発明者等は、次のように推定している。
【0021】
比較的最近の研究論文である「魚類の生息環境と色覚」(2021年6月10日受付。高橋恭一編、広島修道大学研究論文の31~76頁)には、海水魚54種の波長感受性データが示されている。その論文の波長感受性データの棒グラフを図3に引用している。ここでは、54種の海水魚のうち、赤色領域に光感受性を有する海水魚は、5種のみであり、殆どの海水魚が、420nm~480nm(青色領域)及び500nm~580nm(緑色領域)の波長領域に光感受性を有することが記載されている。特に、海水魚は520nmの光に対する感受性が高いことが判る。
【0022】
釣り糸に様々な色(波長)の光が当たると、ある色の光は釣り糸を透過し、別の色の光は釣り糸に吸収され、さらに光の一部は反射される。魚は、釣り糸を透過した光と釣り糸で反射した光が混ざった状態の光を視覚に捉え、その捉えた色の光を釣り糸の色彩や明暗として認識する。
釣りの対象魚は、色彩を識別できる魚と、色彩を識別できない魚と、が存在する。前記色彩を識別できる魚としては、スズキ、カレイ、メジナ、ヒラメ、アユなどが挙げられる。前記色彩を識別できない魚としては、タラ、アナゴ、キンメダイ、エソなどが挙げられる。その他に光が届かない深海に棲む魚も、色彩を識別できない場合が多い。なお、マダコ、アオリイカ、コウイカなどの軟体動物は、厳密な意味では魚と呼べないが、本明細書では、このような軟体動物も釣りの対象となるものであり、対象魚に含めるものとする。
これらの魚は、色彩や明暗を認識することによって釣り糸の存在を認識する。特に、透明な釣り糸であっても明暗を認識することにより、魚はその存在を知ることができる。本発明にあっては、釣り糸の所定の波長範囲における分光透過率と、糸径及び分光透過率の関係とを、特定の範囲とした釣り糸によって、釣り糸の存在を魚に認識され難く、釣果を上げることができることを見出したと言える。
【0023】
上述のように、波長425nm~575nmの範囲における分光透過率が13%~40%である釣り糸は、釣り糸を透過する当該波長領域の光量が少ない。前記釣り糸は、前記波長領域(色彩を識別できる魚類は425nm~575nmの波長領域における光感受性が比較的高い)の光が透過し難いため、色彩を識別できる様々な魚種に認識され難くなる。その結果、色彩を識別できる魚類に対して良好な釣果を期待できると推定される。特に、波長425nm~575nmの範囲における分光透過率の最大値と最小値との差(最大値-最小値)が13%以内である釣り糸は、前記波長範囲の光の透過量が大きく変化しないので、様々な魚種に対して効果的であると考えられる。
さらに、波長425nm~700nmの範囲における分光反射率が26%以下である釣り糸の場合、釣り糸で反射する光量が少ない。このため、釣り糸で反射する光によって魚が釣り糸を認識し難くなると考えられる。特に、波長425nm~700nmの範囲における分光反射率の最大値と最小値との差(最大値-最小値)が9%以内である釣り糸は、可視光の略全域で同程度の光量が反射する。このため、釣り糸で反射した光がほぼ白色光となり、魚が釣り糸と釣り糸の周囲の水域とを見分け難くなる(釣り糸と周囲の水域との明暗差は生じるが、光が届きにくい水中では、明暗差によって釣り糸と周囲の水域とを見分けることは困難)。このため、反射光によって釣り糸を認識し難くなると考えられる。その結果、様々な魚種に対して良好な釣果を期待できると推定される。
【0024】
また、一般論として、糸径の小さい釣り糸を使用するほど、釣果が上がると言われていた。本発明者らは、釣り糸の糸径だけが釣果の善し悪しを決めるものではなく、当該釣り糸の分光透過率も重要な要素であると推定し、試行錯誤を繰り返した。その結果、波長525nmにおける釣り糸の分光透過率L0Zが、式(4):25.1X-0.23 L0Z12.9X-0.38の関係を満たすことにより、様々な魚種に対して良好な釣果を期待できることが判った。これは、本発明者等が初めて見出した事項である。なお、分光透過率として、波長525nmの光を基準にした理由は、上述のように、海水魚は520nmの光に対する感受性が高いからである。
【0025】
[釣り糸の製造方法]
上記釣り糸は、着色剤及び樹脂成分を含む形成材料を製糸することによって製造できる。
前記製糸には、次の(a)乃至(e)から選ばれる少なくとも1つの工程が含まれる。
(a)樹脂成分を含む形成材料を溶融紡糸する工程。
(b)樹脂成分を含む液状の形成材料を、溶液紡糸する工程。
(c)樹脂成分を含む形成材料を紡糸(例えば、前記溶融紡糸又は溶液紡糸など)して得られた糸を、さらに、延伸加工する工程。
(d)樹脂成分を含む形成材料を紡糸(例えば、前記溶融紡糸又は溶液紡糸など)して得られた糸の複数本を製紐してブレイド糸とし又は前記糸の複数本を融着して融着糸とする工程。
(e)樹脂成分を含む形成材料を紡糸(例えば、前記溶融紡糸又は溶液紡糸など)して得られた糸の1本又は複数本に、油剤や染料などを付着させる工程。
【0026】
本発明の釣り糸の製造方法においては、波長425nm~575nmの範囲における分光透過率が13%~40%の範囲内にあり、且つ、波長525nmにおける分光透過率L0Zが25.1X-0.23 L0Z12.9X-0.38を満たすように、釣り糸を製造する。
釣り糸の光学特性に影響を与える主たる要素は、着色剤であるため、次のような基準で着色剤を選択すればよい。
上述のように、着色剤は、顔料や染料を用いることができるが、堅牢度の高い釣り糸を構成できることなどから、顔料を用いることが好ましく、有機顔料を用いることがより好ましい。赤系有機顔料としては、代表的には、アゾ系顔料ナフトールAS系、アゾ系顔料ぺリレン系などが挙げられる。黄系有機顔料としては、アゾ系顔料ピラゾロン系などが挙げられる。青系有機顔料としては、アゾ系顔料アントラキノン系、縮合多環系顔料フタロシアニン系、縮合多環系顔料インジゴ系などが挙げられる。オレンジ系顔料としては、縮合多環系顔料ペリノン系などが挙げられ、紫系有機顔料としては、縮合多環系顔料キナクリドン系などが挙げられる。一般に、赤系有機顔料は波長520nm付近でシャープな吸収ピークを有し、黄系有機顔料は波長450nm付近でシャープな吸収ピークを有し、青系有機顔料は波長580nm付近でシャープな吸収ピークを有する。
上記光学特性を満たす釣り糸を作製する簡便な方法として、2種以上の有機顔料を用いることであり、好ましくは、色の三原色である赤系顔料、黄系顔料及び青系顔料から少なくとも2つを選択して用いることである。例えば、着色剤の全体を100重量%としたときに、35~55重量%の赤系有機顔料、20~40重量%の黄系有機顔料及び15~35重量%の青系有機顔料を含む着色剤を用いることが好ましく、さらに、40~50重量%の赤系有機顔料、25~35重量%の黄系有機顔料及び20~30重量%の青系有機顔料を含む着色剤を用いることがより好ましい。
【0027】
前記着色剤の添加量は、適宜設定される。前記光学特性を満たす釣り糸を得るためには、釣り糸の糸径との関係で次のように着色剤の添加量を設定することが好ましい。例えば、糸径(直径)が0.2mm未満の釣り糸を製造する場合には、釣り糸の形成材料全体中に、着色剤を100~250ppm、好ましくは160~220ppm添加する。また、糸径が0.2mm以上0.3mm未満の釣り糸を製造する場合には、着色剤を60~150ppm、好ましくは80~120ppm添加する。糸径が0.3mm以上0.5mm未満の釣り糸を製造する場合には、着色剤を40~90ppm、好ましくは50~80ppm添加する。糸径が0.5mm以上1.2mm未満の釣り糸を製造する場合には、着色剤を20~65ppm、好ましくは30~60ppm添加する。糸径が1.2mm以上1.6mm未満の釣り糸を製造する場合には、着色剤を5~45ppm、好ましくは10~40ppm添加する。糸直径が1.6mm以上2.5mm未満の釣り糸を製造する場合には、着色剤を3~25ppm、好ましくは5~20ppm添加する。
【0028】
樹脂成分としては、上述のように、ポリフッ化ビニリデンなどのビニリデン系樹脂、高分子量ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂などを用いることができる。
添加剤としては、上述のように、耐光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、結晶化抑制剤、可塑剤などを用いることができる。
例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂のモノフィラメントからなる釣り糸を、上記(a)の溶融紡糸によって製糸する場合を例に採って簡単に説明する。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂に上記着色剤及び必要に応じて添加剤を混合した樹脂組成物(形成材料)を準備する。前記樹脂組成物を、例えば、エクストルダー型紡糸機のホッパーに充填し、温度220℃~290℃、押出し圧力1~50MPa、紡糸速度0.3m/分~300m/分で口金から溶融押出して、紡糸する。前記押出機から紡糸されたモノフィラメントを、冷却浴内で冷却する。前記冷却浴としては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂に対して不活性な液体が用いられ、例えば、グリセリン、ポリエチレングリコール、水又はこれらの混合液などが用いられる。冷却後のモノフィラメントを延伸し、熱固定する。延伸処理は、1段延伸でもよいが、通常、多段延伸で行われる。また、延伸及び熱固定の加熱処理は、特に限定されず、オーブンや温風などの熱雰囲気の乾熱空間にフィラメントを通過させる、或いは、シリコーンオイルなどの熱媒浴にフィラメントを浸漬させるなどが挙げられる。総延伸倍率は、例えば、5倍~7倍である。
【0029】
[釣り糸の評価方法]
別の観点では、本発明は、釣り糸の評価方法を提供する。釣り糸の評価方法は、釣り糸の分光透過率及び直径を測定し、波長425nm~575nmの範囲における分光透過率が13%~40%を満たし、且つ、波長525nmにおける分光透過率L0Zが、25.1X-0.23 L0Z12.9X-0.38(ただし、前記Xは釣り糸の直径(mm)を表す)の関係を満たすことを確認することである。前記関係を満たすことが確認された釣り糸を使用することにより、様々な魚種に対して良好な釣果を期待できる。
別の観点では、本発明は、次のような製造方法を提供する。例えば、着色剤及び樹脂成分を含む形成材料を製糸して釣り糸を製造する工程、得られた釣り糸の分光透過率及び直径を測定し、波長425nm~575nmの範囲における分光透過率が13%~40%を満たし、且つ、波長525nmにおける分光透過率L0Zが、25.1X-0.23 L0Z12.9X-0.38の関係を満たすことを確認する評価工程、前記評価工程において前記関係を満たすことが確認された釣り糸を、量産化する工程、を行うことにより、釣り糸を製造する。前記量産化は、同一の釣り糸を大量生産し、多数の製品を製造することをいう。
【実施例
【0030】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに説明する。なお、本発明は、下記実施例のみに限定されるものではない。
【0031】
[使用した着色剤]
<有機顔料(A1)>
有機顔料(A1)は、顔料成分としてアゾ系顔料ナフトールAS系(C.I.Pigment Red 112)を30重量%、アゾ系顔料ピラゾロン系(C.I.Pigment Yellow 10)を20重量%、縮合多環系顔料フタロシアニン系(C.I.Pigment Blue 15)を18重量%、ダル化剤としてカーボンブラックを2重量%、分散剤としてステアリン酸マグネシウムを30重量%、混合したものである。
<染料系色材(B1)>
染料系色材(B1)は、ポリメチン系染料(C.I.Basic Red 12)を84重量%、ダル化剤としてカーボンブラックを0.5重量%、分散剤としてステアリン酸マグネシウムを0.5重量%、ステアリン酸亜鉛を0.5重量%、潤滑剤としてエチレンビスステアロアマイドを14.5重量%、混合したものである。
<染料(C1)>
染料(C1)は、カチオン系染料(KAYACRYL RED GRL-ED:日本化薬株式会社製)が溶解された染料溶液(濃度2重量%)である。
【0032】
[分光透過率L0の測定方法]
図4に示すように、測定対象である釣り糸を、光学顕微鏡用のスライドガラスに隙間なく一重巻きし、外れないように固定した。以下、本欄で、スライドガラスに釣り糸を隙間なく一重巻きしたものを「サンプル板」という。
【0033】
<分光反射率L1の測定>
白色の背景板の表面に、図5に示すように、前記サンプル板を載せ、動かないように固定し、市販の積分球装置の窓部に釣り糸が出るようにしてサンプル板をセットした。市販の分光光度計(日本分光株式会社製の商品名「V-650」)を用い、その光源(ハロゲンランプ)及び検出器を図5のように配置し、前記光源から前記サンプル板の釣り糸が密集した領域に対して光を照射し、検出器で反射光を検出し、光源からの光の強さと反射光の強さから、分光反射率L1を測定した。測定波長は、400nm~750nmの範囲とし、測定は、バンド幅5nmで、0.5nmピッチで行った。
ここでの反射光は、釣り糸で反射した光と、釣り糸を透過して白色の背景板で反射した光と、からなる。従って、前記分光反射率L1は、釣り糸で反射した光の分光反射率と、釣り糸を透過して反射した光の分光反射率と、の和に等しい。
【0034】
<分光反射率L2の測定>
前記白色の背景板に代えて、黒色の背景板を用いたこと以外は、上記<分光反射率L1の測定>と同様にして、分光反射率L2を測定した。
ここでの反射光は、釣り糸で反射した光からなる(釣り糸を透過した光は黒色の背景板に吸収されるため)。従って、前記分光反射率L2は、釣り糸で反射した光の分光反射率に等しい。
【0035】
<分光透過率L0の算出>
釣り糸の分光透過率L0は、分光反射率L1から分光反射率L2を減算することによって求めた。
釣り糸の分光透過率L0=L1-L2
【0036】
[釣り糸の直径の測定方法]
株式会社ミツトヨ製のマイクロメーターを使用して、釣り糸の直径(mm)を測定した。測定は、釣り糸の長さ方向に沿って任意の5箇所の直径を測定し、その平均値を直径(mm)として採用した。
【0037】
[引張破断強力及び引張伸度]
JIS L 1013の規定に準じて、釣り糸を20℃、65%RHの温湿度調整室で24時間放置した後、引張試験機(株式会社島津製作所製の商品名「オートグラフS-500D」)を使用して、サンプル長300mm、引張速度300mm/分の条件で引張破断強力及び引張伸度(引張伸度は、破断時の伸び)を測定した。引張破断強力及び引張伸度の測定は、1つの釣り糸に対して5回測定し、その平均値を引張破断強力(N)及び引張伸度(%)として採用した。
【0038】
[結節破断強力]
JIS L 1013の規定に準じて、釣り糸を真結びで一回強く結節した。これを試験対象とし、上記[引張破断強力及び引張伸度]と同様にして、温湿度調整室で24時間放置後、引張試験機(株式会社島津製作所製の商品名「オートグラフS-500D」)を使用して、結節破断強力を測定した。結節破断強力の測定は、1つの釣り糸に対して5回測定し、その平均値を結節破断強力(N)として採用した。
【0039】
[実施例1]
有機顔料(A1)が160ppm配合されているポリフッ化ビニリデンホモポリマーチップを紡糸機に供給し、260℃に加熱してこれを溶融させ、孔径0.6mmの口金から押出し、90℃の浴中で冷却することによって、未延伸のモノフィラメントを得た。得られた未延伸のモノフィラメントを160℃の熱媒浴中で5.0倍に延伸して1段延伸糸を得た。引き続き、この1段延伸糸を160℃の乾熱槽中でさらに延伸して、未延伸糸からの延伸倍率で合計5.7倍に延伸された2段延伸糸を得た。さらに、この2段延伸糸を、160℃の乾熱槽中で0.95倍に収縮させながら熱固定することにより、直径0.12mmの釣り糸(着色されたポリフッ化ビニリデンモノフィラメント)を作製した。
【0040】
実施例1の釣り糸の分光透過率を測定した。その結果を図6に示す。図6に示すように、分光透過率L0のピークが複数存在した(図6においてピークに矢印を付している)。また、波長425nm~575nmの範囲における分光透過率L0の最大値(A)及び最小値(B)と、その最大値と最小値の差(A-B)と、波長525nmの分光透過率L0Zと、を表1に記載している。さらに、波長575nm~700nmの範囲における分光透過率L0の最大値(C)及び最小値(D)と、その最大値と最小値の差(C-D)と、を表1に記載し、波長425nm~700nmの範囲における分光反射率L2の最大値(E)及び最小値(F)と、その最大値と最小値の差(E-F)と、を表1に記載している。
さらに、実施例1の釣り糸の直径、引張破断強力、引張伸度及び結節破断強力を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
[実施例2乃至24]
有機顔料(A1)の量、口金の孔径、延伸比から選ばれる少なくとも1つを、表1及び表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2乃至24の釣り糸を作製した。なお、口金の孔径を変えると、得られる釣り糸の直径が変わる。
【0044】
実施例2乃至24のそれぞれの釣り糸についても、分光透過率を測定した。実施例4の結果を図7に示す。図7に示すように、分光透過率L0のピークが複数存在した(図7においてピークに矢印を付している)。
また、実施例2、3、5乃至24の各釣り糸の分光透過率の測定結果を、図8乃至図13に示す。なお、図8乃至図13においては、実施例2、3、5乃至24の各釣り糸の分光反射率L2のグラフと分光透過率L0のグラフを表している。なお、分光反射率L2は、上述のように、釣り糸から反射した光のみからなる反射率である。図8乃至図13に示すように、分光透過率L0のピークが複数存在した。また、波長425nm~575nmの範囲における分光透過率L0の最大値及び最小値と、その最大値と最小値の差(A-B)と、波長525nmの分光透過率L0Zと、を表1及び表2に記載している。さらに、実施例2乃至24の波長575nm~700nmの範囲における分光透過率L0の最大値(C)及び最小値(D)と、その最大値と最小値の差(C-D)と、波長425nm~700nmの範囲における分光反射率L2の最大値(E)及び最小値(F)と、その最大値と最小値の差(E-F)と、を表1及び表2に記載している。
さらに、実施例2乃至24の釣り糸の直径、引張破断強力、引張伸度及び結節破断強力を測定した。それらの結果を表1及び表2に示す。
【0045】
[比較例1乃至比較例4]
有機顔料(A1)の量を変えたこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.12mmの比較例1乃至4の釣り糸を作製した。
【0046】
[比較例5]
有機顔料(A1)を配合しなかったこと以外は、実施例4と同様にして、直径0.25mmの比較例5の釣り糸(着色されたポリフッ化ビニリデンモノフィラメント)を作製した(表3参照)。
【0047】
[比較例6]
有機顔料(A1)に代えて染料(C1)を使用したこと以外は、実施例4と同様にして、直径0.25mmの比較例6の釣り糸(着色されたポリフッ化ビニリデンモノフィラメント)を作製した(表3参照)。
具体的には、有機顔料(A1)(着色剤)を配合せずに直径0.25mmの釣り糸(着色されていないポリフッ化ビニリデンモノフィラメント)を作製し、この釣り糸を、速度20m/分で、染料(C1)が満たされた長さ3mの浴中を通過させた後、乾燥することにより、比較例6の釣り糸を作製した。なお、前記浴(容器)の染料(C1)の温度は80℃に設定した。
【0048】
[比較例7]
有機顔料(A1)の量を変えたこと以外は、実施例4と同様にして、直径0.25mmの比較例7の釣り糸(着色されたポリフッ化ビニリデンモノフィラメント)を作製した(表3参照)。
【0049】
[比較例8]
有機顔料(A1)を配合しなかったこと以外は、実施例6と同様にして、直径0.4mmの比較例8の釣り糸を作製した(表3参照)。
【0050】
[比較例9]
有機顔料(A1)に代えて染料系色材(B1)を所定量配合したこと以外は、実施例6と同様にして、直径0.4mmの比較例9の釣り糸を作製した(表3参照)。
【0051】
[比較例10及び11]
有機顔料(A1)の量を変更したこと以外は、実施例6と同様にして、直径0.4mmの比較例10及び11の釣り糸を作製した(表3参照)。
【0052】
[比較例12乃至14]
有機顔料(A1)を配合しなかった又は有機顔料(A1)に代えて染料系色材(B1)を所定量配合した又は有機顔料(A1)の量を変更したこと以外は、実施例9と同様にして、直径0.44mmの比較例12乃至14の釣り糸を作製した(表4参照)。
【0053】
[比較例15]
有機顔料(A1)を配合しなかったこと以外は、実施例11と同様にして、直径0.72mmの比較例15の釣り糸を作製した(表4参照)。
【0054】
[比較例16乃至21]
有機顔料(A1)を配合しなかった又は有機顔料(A1)の量を変更した又は延伸比を変えたこと以外は、実施例12と同様にして、直径1.02mmの比較例16乃至21の釣り糸を作製した(表4参照)。
【0055】
[比較例22乃至25]
有機顔料(A1)を配合しなかった又は有機顔料(A1)の量を変更したこと以外は、実施例17と同様にして、直径1.54mmの比較例22乃至25の釣り糸を作製した(表5参照)。
【0056】
[比較例26乃至29]
有機顔料(A1)を配合しなかった又は有機顔料(A1)の量を変更したこと以外は、実施例21と同様にして、直径2.1mmの比較例26乃至29の釣り糸を作製した(表5参照)。
【0057】
比較例1乃至29のそれぞれの釣り糸についても、分光透過率を測定した。比較例5乃至16の各釣り糸の分光透過率L0のグラフを、図14及び図15に表している。なお、比較例1乃至4、17乃至29のグラフは、省略している。
また、波長425nm~575nmの範囲における分光透過率L0の最大値及び最小値と、その最大値と最小値の差(A-B)と、波長525nmの分光透過率L0Zと、を表3乃至表5に記載している。
さらに、比較例1乃至29の釣り糸の直径、引張破断強力、引張伸度及び結節破断強力を測定した。それらの結果を表3乃至表5に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
[実釣試験]
実施例及び比較例の釣り糸を使用して、実際に海釣りを行い、その釣果を評価した。
【0062】
<試験(1)>
2023年4月17日、佐賀県伊万里市沖で船からティップランフィッシングを実施した。釣り人は、4名のテスターで、時間は、午前6時から午前8時までの2時間とした。
テスターは、釣り具をテストするプロフェッショナルのアングラーであり、フィールドテスターとも呼ばれる(以下、同様)。また、ティップランフィッシングは、ミチ糸の先端にショックリーダーを数メートル結び、そのショックリーダーの先端にティップラン用擬餌針を結んだ仕掛けを用いて、海底に潜むアオリイカを主に狙う釣法である。
【0063】
本試験(1)では、ミチ糸として、直径0.13mmの超高分子量ポリエチレンラインを使用し、ショックリーダーの長さを2mとした。そして、2名のテスターが、ショックリーダーとして実施例4の釣り糸を使用し、残る2名のテスターが、ショックリーダーとして比較例5の釣り糸(直径0.25mm)を使用した。実施例4の釣り糸と比較例5の釣り糸を選んだ理由は、直径が同じ(0.25mm)であるからである。直径が異なる釣り糸を用いた場合には、その直径差に起因して釣果が変わるおそれがあるため、同じ直径の実施例及び比較例を選択した。
その釣果を表6に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
表6に示すように、実施例4の釣り糸を使用した場合は、比較例5の釣り糸を使用した場合よりも、釣果に優れていた。
文献(Nippon Suisan Gakkaishi 80(2),245(2014))によれば、アオリイカの最大吸収波長は494nmであり、アオリイカは色覚を持たないもののロドプシンの吸収波長領域の光であれば感知できるものと推定されている。実施例4の釣り糸は、波長425nm~575nmの光が、比較例5の釣り糸よりも透過し難い。このため、実施例4の釣り糸は、比較例5に比して感知され難く、アオリイカの警戒心を抑制でき、釣果が向上したものと本発明者等は推定している。
【0066】
<試験(2)>
2023年4月17日、佐賀県伊万里市沖で船からタイラバフィッシングを実施した。釣り人は、3名のテスターで、時間は、午前8時から午後4時までの8時間とした。
タイラバフィッシングは、ミチ糸の先端にショックリーダーを数メートル結び、そのショックリーダーの先端に、オモリ、細帯状のフィルム、細紐及び釣り針の4点のパーツからなる仕掛けを結び、主にタイ及びその他様々な魚種を狙う釣法である(以下、同様)。
本試験(2)では、ミチ糸として、直径0.15mmの超高分子量ポリエチレンラインを使用し、ショックリーダーの長さを3mとした。そして、1名のテスターが、ショックリーダーとして実施例7の釣り糸(直径0.40mm)を使用し、残る2名のテスターが、ショックリーダーとして比較例8の釣り糸(直径0.40mm)を使用した。実施例7の釣り糸と比較例8の釣り糸を選んだ理由は、直径が同じ(0.40mm)であるからである。
その釣果を表7に示す。
【0067】
【表7】
【0068】
表7に示すように、実施例7の釣り糸を使用した場合は、比較例8の釣り糸を使用した場合よりも、様々な魚種が釣れた上、釣果数も多かった。
【0069】
<試験(3)>
2023年4月28日、佐賀県伊万里市沖で船からタイラバフィッシングを実施した。釣り人は、6名のテスターで、時間は、午前6時から午後4時までの10時間とした。
【0070】
本試験(3)では、ミチ糸として、直径0.15mmの超高分子量ポリエチレンラインを使用し、ショックリーダーの長さを3mとした。そして、2名のテスターが、ショックリーダーとして実施例8の釣り糸(直径0.40mm)を使用し、2名のテスターが、ショックリーダーとして比較例8の釣り糸(直径0.40mm)を使用し、残る2名のテスターが、ショックリーダーとして比較例9の釣り糸(直径0.40mm)を使用した。また、船上では、同じショックリーダーを使用する釣り人が隣り合わないように、各釣り人を配置した。実施例8の釣り糸と比較例8及び9の釣り糸を選んだ理由は、直径(0.40mm)が同じであるからである。
その釣果を表8に示す。
【0071】
【表8】
【0072】
表8に示すように、実施例8の釣り糸を使用した場合は、比較例8及び9の釣り糸を使用した場合よりも、様々な魚種が釣れた上、釣果数も多かった。
【0073】
<試験(4)>
2023年5月16日、長崎県平戸市生月沖の磯に渡礁し、フカセ釣りを実施した。釣り人は、4名のテスターで、時間は、午前6時から午後2時までの8時間とした。
フカセ釣りは、ミチ糸に浮子を装着し、浮子から魚を釣る水深相当長さ分のミチ糸を伸ばし、その先端にハリスラインを約2m~3m結び、ハリスラインの先端に釣り針を結び、釣り針にオキアミ等のエサを付けて行う釣法である。前記フカセ釣りは、浮子に現われる魚のアタリを見分け、いわゆるアワセという動作で魚を釣り針に掛ける釣法である。
【0074】
本試験(4)では、対象魚をメジナに定め、ミチ糸として、直径0.23mmのナイロンラインを使用し、ハリスラインの長さを3mとした。そして、(a)ハリスラインとして実施例4の釣り糸を使用した釣り竿、(b)ハリスラインとして比較例5の釣り糸を使用した釣り竿、(c)ハリスラインとして比較例6の釣り糸を使用した釣り竿、(d)ハリスラインとして比較例7の釣り糸を使用した釣り竿、を準備した。
4名のテスターが、1時間毎に(a)乃至(d)の釣り竿を順に交換して釣りを行った(例えば、午前6時~7時までは第1テスターが釣り竿(a)、第2テスターが釣り竿(b)、第3テスターが釣り竿(c)、第4テスターが釣り竿(d)で釣る。午前7時~8時までは第1テスターが釣り竿(d)、第2テスターが釣り竿(a)、第3テスターが釣り竿(b)、第4テスターが釣り竿(c)で釣る。…)。また、同じテスターが1つの場所(釣り座)に固定されないように、各テスターの場所を相互に移動させた。実施例4の釣り糸と比較例5乃至7の釣り糸を選んだ理由は、直径(0.25mm)が同じであるからである。
【0075】
表9に、実施例及び比較例のそれぞれの釣り糸を使用したときのメジナの釣果数とメジナ以外の魚の釣果数を記載している。なお、メジナ以外の魚は、イサキ、小マダイ、カサゴであった。
表9の釣り糸の評価の欄の「◎」は、最高の釣果数を上げた釣り糸を表し、「○」は、最高の釣果数の75%以上の釣果数を上げた釣り糸を表し、「△」は、最高の釣果数の50%以上75%以下の釣果数を上げた釣り糸を表し、「×」は、最高の釣果数の50%未満の釣果数を上げた釣り糸を表す(以下、各表においても同様)。
【0076】
【表9】
【0077】
<試験(5)>
2023年5月11日、佐賀県伊万里市沖で船からバチコンアジングを実施した。釣り人は、5名のテスターで、時間は、午後6時から午後11時までの5時間とした。
バチコンアジングは、ミチ糸の先端にハリスを数メートル結び、ハリスの先端にオモリを取り付け、そのオモリの上方数10cmの位置に長さ5~30cmの枝ハリスを前記ハリスに結び、枝ハリスの先端に数gのジグヘッドを取り付け、ジグヘッドにゴカイや擬似餌(樹脂ワームなど)を付け、主にアジ及びその他様々な魚種を狙う釣法である。
【0078】
本試験(5)では、ミチ糸として、直径0.15mmの超高分子量ポリエチレンラインを使用し、ハリスの長さを2m、枝ハリスの長さを20cmとした。そして、(e)ハリス及び枝ハリスとして実施例4の釣り糸を使用した釣り竿、(f)ハリス及び枝ハリスとして実施例5の釣り糸を使用した釣り竿、(g)ハリス及び枝ハリスとして比較例5の釣り糸を使用した釣り竿、(h)ハリス及び枝ハリスとして比較例6の釣り糸を使用した釣り竿、(i)ハリス及び枝ハリスとして比較例7の釣り糸を使用した釣り竿、を準備した。
5名のテスターが、試験(4)と同様に、1時間毎に(e)乃至(i)の釣り竿を順に交換して釣りを行った。また、同じテスターが船上で1つの場所(釣り座)に固定されないように、各テスターの場所を相互に移動させた。なお、本試験(5)においては、暗くなってから集魚灯を照らして釣りを行った。実施例4及び5の釣り糸と比較例5乃至7の釣り糸を選んだ理由は、直径(0.25mm)が同じであるからである。
【0079】
表10に、実施例及び比較例のそれぞれの釣り糸を使用したときのアジの釣果数とアジ以外の魚の釣果数を記載している。なお、アジ以外の魚は、エソ、カサゴであった。
本試験(5)からも明らか通り、集魚灯下で釣りを行った場合でも、実施例の釣り糸は釣果に優れていることが判る。
【0080】
【表10】
【0081】
<試験(6)>
2023年5月11日、長崎県佐世保市の海洋釣堀の釣り桟橋上で餌釣りを実施した。釣り人は、7名のテスターで、時間は、午前7時から午後2時までの7時間とした。
餌釣りは、ミチ糸に浮子を装着し、浮子から魚を釣る水深相当長さ分のミチ糸を伸ばし、その先端にハリスラインを30cm~2m結び、ハリスラインの先端に釣り針を結び、釣り針に生餌(虫類や甲殻類)や練り餌を付けて行う釣法である。前記餌釣りは、浮子に現われる魚のアタリを見分け、いわゆるアワセという動作で魚を釣り針に掛ける釣法である。
【0082】
本試験(6)では、ミチ糸として、直径0.24mmの超高分子量ポリエチレンラインを使用し、ハリスラインの長さを1.5mとした。そして、(j)ハリスラインとして実施例6の釣り糸を使用した釣り竿、(k)ハリスラインとして実施例7の釣り糸を使用した釣り竿、(l)ハリスラインとして実施例8の釣り糸を使用した釣り竿、(m)ハリスラインとして比較例8の釣り糸を使用した釣り竿、(n)ハリスラインとして比較例9の釣り糸を使用した釣り竿、(o)ハリスラインとして比較例10の釣り糸を使用した釣り竿、(p)ハリスラインとして比較例11の釣り糸を使用した釣り竿、を準備した。
7名のテスターが、試験(4)と同様に、1時間毎に(j)乃至(p)の釣り竿を順に交換して釣りを行った。また、同じテスターが1つの場所(釣り座)に固定されないように、各テスターの場所を相互に移動させた。実施例6乃至8の釣り糸と比較例8乃至11の釣り糸を選んだ理由は、直径(0.40mm)が同じであるからである。
【0083】
表11に、実施例及び比較例のそれぞれの釣り糸を使用したときのタイの釣果数とタイ以外の魚の釣果数を記載している。なお、タイ以外の魚は、カンパチ、エイ、ハタであった。
【0084】
【表11】
【0085】
<試験(7)>
2023年4月27日、京都府舞鶴市丹後半島沖で船からジギングを実施した。釣り人は、5名のテスターで、時間は、午前9時から午後2時までの5時間とした。
ジギングは、ミチ糸の先端にハリスラインを数メートル結び、そのハリスラインの先端に擬餌針(金属製のジグと呼ばれる)を取り付け、主にブリ及びその他様々な魚種を狙う釣法である。ジギングは、魚群探知機で魚影を船長が確認し、船長の指示に従い擬餌針を指定の水深まで投下し、その水深から釣り竿を上下させることにより、擬餌針を海中で躍らせ、魚を擬餌針に掛ける釣法である。
【0086】
本試験(7)では、ミチ糸として、直径0.24mmの超高分子量ポリエチレンラインを使用し、ハリスラインの長さを7.5mとした。そして、(q)ハリスラインとして実施例9の釣り糸を使用した釣り竿、(r)ハリスラインとして実施例10の釣り糸を使用した釣り竿、(s)ハリスラインとして比較例12の釣り糸を使用した釣り竿、(t)ハリスラインとして比較例13の釣り糸を使用した釣り竿、(u)ハリスラインとして比較例14の釣り糸を使用した釣り竿、を準備した。
5名のテスターが、試験(4)と同様に、1時間毎に(q)乃至(u)の釣り竿を順に交換して釣りを行った。また、同じテスターが船上の1つの場所(釣り座)に固定されないように、各テスターの場所を相互に移動させた。実施例9及び10の釣り糸と比較例12乃至14の釣り糸を選んだ理由は、直径(0.44mm)が同じであるからである。
【0087】
表12に、実施例及び比較例のそれぞれの釣り糸を使用したときのブリの釣果数とブリ以外の魚の釣果数を記載している。なお、ブリ以外の魚は、タイ、ハマチであった。体長80cm以上のものをブリと決め、80cm未満のものをハマチとした。
【0088】
【表12】
【0089】
<試験(8)>
2023年4月9日、三重県志摩市大王崎沖で船からトンボジギングを実施した。釣り人は、2名のテスターで、時間は、午前7時から午後1時までの6時間とした。
トンボジギングは、上記ジギングと同様な仕掛け及び釣法であって、ミチ糸の先端にハリスラインを数メートル結び、そのハリスラインの先端に擬餌針(金属製のジグと呼ばれる)を取り付け、主にビンチョウマグロを狙う釣法である(以下、同様)。
【0090】
本試験(8)では、ミチ糸として、直径0.34mmの超高分子量ポリエチレンラインを使用し、ハリスラインの長さを7.5mとした。そして、(v)ハリスラインとして実施例11の釣り糸を使用した釣り竿、(w)ハリスラインとして比較例15の釣り糸を使用した釣り竿、を準備した。
2名のテスターが、試験(4)と同様に、1時間毎に(v)及び(w)の釣り竿を交換して釣りを行った。また、同じテスターが船上の1つの場所(釣り座)に固定されないように、各テスターの場所を相互に移動させた。実施例11の釣り糸と比較例15の釣り糸を選んだ理由は、直径(0.72mm)が同じであるからである。
【0091】
表13に、実施例及び比較例のそれぞれの釣り糸を使用したときのビンチョウマグロの釣果数とビンチョウマグロ以外の魚の釣果数を記載している。なお、ビンチョウマグロ以外の魚は、カツオであった。
【0092】
【表13】
【0093】
<試験(9)>
2023年1月22日、和歌山県東牟婁郡串本町大島沖で船からトンボジギングを実施した。釣り人は、2名のテスターで、時間は、午前7時から午後1時までの6時間とした。
本試験(9)では、ミチ糸として、直径0.34mmの超高分子量ポリエチレンラインを使用し、ハリスラインの長さを7.5mとした。そして、(x)ハリスラインとして実施例12の釣り糸を使用した釣り竿、(y)ハリスラインとして比較例16の釣り糸を使用した釣り竿、を準備した。
2名のテスターが、試験(4)と同様に、1時間毎に(x)及び(y)の釣り竿を交換して釣りを行った。また、同じテスターが船上の1つの場所(釣り座)に固定されないように、各テスターの場所を相互に移動させた。実施例12の釣り糸と比較例16の釣り糸を選んだ理由は、直径(1.02mm)が同じであるからである。
【0094】
表14に、実施例及び比較例のそれぞれの釣り糸を使用したときのビンチョウマグロの釣果数とビンチョウマグロ以外の魚の釣果数を記載している。なお、ビンチョウマグロ以外の魚は、クロカワカジキであった。
【0095】
【表14】
【0096】
<試験(10)>
2024年3月19日、佐賀県伊万里市沖で船から根魚釣りを実施した。釣り人は、8名のテスターで、時間は、午前6時から午後2時までの8時間とした。
本試験(10)の釣法は、餌として1cm×7cmの短冊切りしたイカの切り身を針に付け、主として海底に生息する根魚などを狙った。
【0097】
本試験(10)では、次のような仕掛けを使用した。
ミチ糸として、直径0.15mmの超高分子量ポリエチレンラインを使用し、ミチ糸の先端にショックリーダー(長さ1.5m、直径0.37mmの市販の透明フロロカーボンハリス)を(直径0.37mm)を結び付けた。ショックリーダーの先端に三つ股サルカンを取り付け、当該三つ股サルカンの一方の結束穴に、長さ1.5m、直径0.29mmの市販のフロロカーボンハリスを結び、そのハリスの先端に錘を取り付けた。前記三つ股サルカンのもう一方の結束穴に、長さ1mの試験用の釣り糸をパワーステンスイベルで脱着可能な状態で取り付けた。
試験用の釣り糸は、実施例21乃至24、比較例26乃至29の釣り糸(何れの釣り糸も直径2.10mm)を使用した。
8名のテスターが1時間ごとに、各試験用の釣り糸を交換して釣りを行った。具体的には、開始1時間まで、例えば、実施例21の釣り糸を三つ股サルカンのもう一方の結束穴に取り付けた仕掛けで釣りを行い、1時間~2時間の間は、前記実施例21の釣り糸に代えて実施例22の釣り糸を三つ股サルカンのもう一方の結束穴に取り付けた仕掛けで釣りを行ったという流れである。また、同じテスターが船上で1つの場所(釣り座)に固定されないように、各テスターの場所を相互に移動させた。
【0098】
表15に、実施例及び比較例のそれぞれの釣り糸を使用したときの釣果結果を魚種毎に纏めて記載している。なお、表15の魚種の欄の「a」はカサゴ、「b」はアヤメカサゴ、「c」はキジハタを表す。最高の釣果総数を100%としたとき、それに対する釣果総数の比率を表中に示している(以下、表16乃至表19も同様)。
表から明らかな通り、実施例の釣り糸は、総釣果数の比率が70%以上であり、比較例の釣り糸よりも釣果に優れている。特に、実施例22では釣果数が高いだけでなく、30cm以上の大型のキジハタが複数匹釣り上げられた。これは、キジハタの採餌本能を抑制する特定範囲の波長が存在することが予測され、実施例22の釣り糸が前記特定範囲の波長の光を吸収することにより、警戒心の強い大型のキジハタの採餌本能を抑制しなかったものと考えられる。
【0099】
【表15】
【0100】
<試験(11)>
2024年4月12日、長崎県平戸市沖で船から根魚釣りを実施した。釣り人は、8名のテスターで、時間は、午前6時から午後2時までの8時間とした。
本試験(11)の釣法は、試験(10)と同様の釣法で、仕掛けも試験(10)と同様とした。試験用の釣り糸は、実施例17乃至20、比較例22乃至25の釣り糸(何れの釣り糸も直径1.54mm)を使用した。
8名のテスターが1時間ごとに、試験(10)と同様にして各試験用の釣り糸を交換して釣りを行った。
【0101】
表16に、実施例及び比較例のそれぞれの釣り糸を使用したときの釣果結果を魚種毎に纏めて記載している。なお、表16の魚種の欄の「a」はカサゴ、「b」はアヤメカサゴ、「c」はキジハタ、「d」はマダイを表す。
表から明らかな通り、実施例の釣り糸は、総釣果数の比率が70%以上であり、比較例の釣り糸よりも釣果に優れている。特に、実施例19は釣果数が高いだけでなく、30cm以上の大型のキジハタが複数匹釣り上げられた。これは、試験(10)と同様な理由と考えられる。
【0102】
【表16】
【0103】
<試験(12)>
2024年4月20日、長崎県平戸市沖で船から根魚釣りを実施した。釣り人は、11名のテスターで、時間は、午前6時から午前11時30分までの5時間30分とした。
本試験(12)の釣法は、試験(10)と同様の釣法で、仕掛けも試験(10)と同様とした。試験用の釣り糸は、実施例12乃至16、比較例16乃至21の釣り糸(何れの釣り糸も直径1.02mm)を使用した。
11名のテスターが30分ごとに、試験(10)と同様にして各試験用の釣り糸を交換して釣りを行った。
【0104】
表17及び表18に、実施例及び比較例のそれぞれの釣り糸を使用したときの釣果結果を魚種毎に纏めて記載している。なお、表17の魚種の欄の「a」はカサゴ、「b」はアヤメカサゴ、「c」はキジハタ、「d」はマダイを表す。
表から明らかな通り、実施例の釣り糸は、総釣果数の比率が70%以上であり、比較例の釣り糸よりも釣果に優れている。特に、実施例14及び15は釣果数が高いだけでなく、30cm以上の大型のキジハタやマダイが複数匹釣り上げられた。これは、試験(10)と同様な理由と考えられる。
【0105】
【表17】
【0106】
【表18】
【0107】
<試験(13)>
2024年2月7日、佐賀県唐津市内漁港の船着き場にてアジングという釣法でアジ釣りを実施した。釣り人は、7名のテスターで、時間は、午前9時から午後4時までの7時間とした。
アジングは、仕掛けを沈め、竿の操作にてジグヘッド針に動作を加え、主にアジ及びその他様々な魚種を狙う釣法である。
【0108】
本試験(13)は、次のような仕掛けを使用した。
ミチ糸として、直径0.045mmの超高分子量ポリエチレンラインを使用し、ミチ糸の先端にショックリーダーを結び、そのリーダーの先端に1gのジグヘッド針を結んだ。ジグヘッド針には、樹脂製の擬餌ワームを取り付けた。前記ショックリーダーとして、長さ1mの試験用の釣り糸を使用した。試験用の釣り糸は、実施例1乃至3、比較例1乃至4の釣り糸(何れの釣り糸も直径0.12mm)を使用した。
7名のテスターが1時間ごとに、各試験用の釣り糸を交換して釣りを行った。具体的には、開始1時間までは、例えば、実施例1の釣り糸をショックリーダーとして使用した仕掛けで釣りを行い、1時間~2時間の間は、前記実施例1の釣り糸に代えて実施例2の釣り糸を使用した仕掛けで釣りを行ったという流れである。また、同じテスターが船着き場で1つの場所(釣り座)に固定されないように、各テスターの場所を相互に移動させた。
【0109】
表19に、実施例及び比較例のそれぞれの釣り糸を使用したときの釣果結果を魚種毎に纏めて記載している。なお、表18の魚種の欄の「e」はマアジ、「f」はカマスを表す。
表から明らかな通り、実施例の釣り糸は、総釣果数の比率が70%以上であり、比較例の釣り糸よりも釣果に優れている。特に、実施例1及び2は釣果数が高いだけでなく、30cm以上の大型のアジや40cm以上のカマスが複数匹釣り上げられた。これは、実施例1及び2の釣り糸を透過した光が大型のアジやカマスの採餌本能を抑制しなかったためと考えられる。
【0110】
【表19】
【0111】
図16は、各実施例及び比較例の釣り糸の糸径(釣り糸の直径)及び波長525nmにおける分光透過率L0Zの関係をプロットしたグラフ図である。図16において、例えば、糸径0.12mm上に、3点の黒丸印と4点の×印が表されている。表1を参照して、前記3点は実施例1乃至3であり、表3を参照して、前記4点は比較例1乃至4である。同様に、糸径0.25mm、0.40mm、0.44mm、0.72mm、1.02mm、1.54mm及び2.10mm上にも、それぞれ対応する実施例及び比較例がプロットされている。なお、糸径と分光透過率の数値については、表1乃至表5を参照されたい。
本発明者等が、波長425nm~575nmの範囲の中で、波長525nmの分光透過率L0Zに着目した理由は、海水魚が特に520nmの光に対する感受性が高いからである。また、糸径に着目した理由は、糸径が釣果を左右する重要な要素であると経験的に認識しているからである。
図16において、黒丸印で表される各実施例の釣り糸は、実釣試験から様々な魚種に対して良好な釣果が期待できる釣り糸であり、糸径毎に所定範囲の分光透過率L0Zを有している。×印で表される各比較例の釣り糸は、良好な釣果が期待できない釣り糸である。図16から明らかなように、実施例の釣り糸は、分光透過率L0Zと糸径との関係で、所定範囲に集まっており、比較例の釣り糸は、前記範囲から外れている。試験結果から、分光透過率L0Zと糸径の関係で所定範囲に含まれる釣り糸は、良好な釣果を期待できる釣り糸であることが判る。
【0112】
前記良好な釣果を期待できる釣り糸の範囲を確定するため、実施例と比較例の上側の境界線及び下側の境界線を、最小二乗法により近似曲線を算出した。具体的には、次の通りである。
図17は、図16のグラフ図に、実施例と比較例の境界線である近似曲線を引いたグラフである。
図17に示すように、例えば、糸径0.12mmにおける実施例の分光透過率の上限値は、38%である。この38%は、実施例1の525nmの分光透過率である(表1参照)。この上限値に最も近い比較例の分光透過率は、42%であり、この42%は、比較例2の分光透過率である(表3参照)。前記38%と42%の間に、実施例と比較例の境界が存在する、つまり、釣果に優れる釣り糸とそうでない釣り糸の境界が存在すると考えられる。また、糸径0.12mmにおける実施例の分光透過率の下限値は、30%である。この30%は、実施例3の525nmの分光透過率である(表1参照)。この下限値に最も近い比較例の分光透過率は、28%であり、この28%は、比較例3の分光透過率である(表3参照)。前記30%と28%の間に、釣果に優れる釣り糸とそうでない釣り糸の境界が存在すると考えられる。
同様にして、糸径0.40mm、0.44mm、1.02mm、1.54mm及び2.10mmのそれぞれにおける実施例の上限値の分光透過率及びこれに最も近い比較例の分光透過率、並びに、実施例の下限値の分光透過率及びこれに最も近い比較例の分光透過率を抽出した。それらを表20に示している。なお、これらの分光透過率がどの実施例及び比較例に対応しているかについては、表1乃至表5を参照されたい。なお、糸径0.44mmの下限値及び糸径0.72mmについては、データ数が少ないので、省略した。
【0113】
【表20】
【0114】
表20に示すように、糸径毎に、実施例の分光透過率の上限値と、この上限値に最も近い比較例の分光透過率と、の平均値を求めた。この平均値は、表20の(3)の欄の通りである。この(3)の欄の分光透過率YUを縦軸且つ糸径Xを横軸とするデータを用いて、最小二乗法を適用し、累乗近似することにより、近似曲線を算出した(図17参照)。その結果、下記式(5)が得られた。
式(5):YU=25.077X-0.231
同様にして、糸径毎に、実施例の分光透過率の下限値と、この下限値に最も近い比較例の分光透過率と、の平均値を求めた。この平均値は、表20の(6)の欄の通りである。この(6)の欄の分光透過率YDを縦軸且つ糸径Xを横軸とするデータを用いて、最小二乗法を適用し、累乗近似することにより、近似曲線を算出した(図17参照)。その結果、下記式(6)が得られた。
式(6):YD=12.936X-0.378
所定の小数点以下を四捨五入することにより、波長525nmにおける分光透過率L0Zが25.1X-0.23 L0Z12.9X-0.38を満たす釣り糸は、良好な釣果が期待できると言える。
【符号の説明】
【0115】
1 釣り糸
【要約】
【課題】 様々な魚種に対して良好な釣果を期待できる釣り糸を提供する。
【解決手段】 着色剤及び樹脂成分を含む形成材料を製糸することにより、釣り糸を製造する方法において、前記釣り糸の波長425nm~575nmの範囲における分光透過率が13%~40%の範囲内にあり、且つ、波長525nmにおける分光透過率L0Zが25.1X-0.23>L0Z>12.9X-0.38(ただし、前記Xは釣り糸の直径(mm)を表す)を満たすように製造する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17