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特許7602306粉末材料、ペースト材料、およびセラミック電子部品の製造方法
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  • 特許-粉末材料、ペースト材料、およびセラミック電子部品の製造方法 図1
  • 特許-粉末材料、ペースト材料、およびセラミック電子部品の製造方法 図2
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  • 特許-粉末材料、ペースト材料、およびセラミック電子部品の製造方法 図4
  • 特許-粉末材料、ペースト材料、およびセラミック電子部品の製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】粉末材料、ペースト材料、およびセラミック電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20241211BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
H01G4/30 201D
H01G4/30 516
H01G4/30 517
H01G4/30 311D
H01B1/22 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021032057
(22)【出願日】2021-03-01
(65)【公開番号】P2022133146
(43)【公開日】2022-09-13
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 高太郎
【審査官】上谷 奈那
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-223068(JP,A)
【文献】特開2013-170303(JP,A)
【文献】特開2020-31202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Snを含むNi粉末と、
S源とを含み、
前記Ni粉末における酸素(O)の量がNiに対して2mass%以上であり、
0.042≦S/Sn重量比≦5.5であり、
0.39≦O/Sn重量比≦40であることを特徴とする粉末材料。
【請求項2】
前記Ni粉末の酸素は、前記Ni粉末の表面酸化物の酸素であることを特徴とする請求項1に記載の粉末材料。
【請求項3】
Niに対するSの量が0.2mass%以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の粉末材料。
【請求項4】
前記Ni粉末の平均粒径は、0.01μmから0.2μmであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の粉末材料。
【請求項5】
Snを含むNi粉末と、
S源とを含み、
前記Ni粉末における酸素(O)の量がNiに対して2mass%以上であり、
0.042≦S/Sn重量比≦5.5であり、
0.39≦O/Sn重量比≦40であることを特徴とするペースト材料。
【請求項6】
前記Ni粉末の酸素は、前記Ni粉末の表面酸化物の酸素であることを特徴とする請求項5に記載のペースト材料。
【請求項7】
Niに対するSの量が0.2mass%以上であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のペースト材料。
【請求項8】
前記Ni粉末の平均粒径は、0.01μmから0.2μmであることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載のペースト材料。
【請求項9】
セラミック材料粉末と有機物のバインダとを含む誘電体グリーンシート上に、Snを含むNi粉末とS源とを含む内部電極パターンを形成することによって積層単位を形成する工程と、
前記積層単位を積層することによって積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、を含み、
前記Ni粉末における酸素(O)の量がNiに対して2mass%以上であり、
0.042≦S/Sn重量比≦5.5であり、
0.39≦O/Sn重量比≦40であることを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項10】
前記Ni粉末の酸素は、前記Ni粉末の表面酸化物の酸素であることを特徴とする請求項9に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項11】
Niに対するSの量が0.2mass%以上であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項12】
前記Ni粉末の平均粒径は、0.01μmから0.2μmであることを特徴とする請求項9から請求項11のいずれか一項に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末材料、ペースト材料、およびセラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品は、チタン酸バリウムなどの誘電体材料を主原料とした誘電体グリーンシートの上に、ニッケル(Ni)などの金属材料からなる金属ペーストを印刷し、積層、圧着、カット、脱バインダ、焼成、外部電極塗布等を経て作製される。市場要求であるセラミック電子部品の小型大容量化のため、誘電体層の薄層化と同様、内部電極層の薄層化および高積層化が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-258646号公報
【文献】特開2014-5491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内部電極の薄層化のためには、焼成前の金属粉末の粒子の物理的サイズを極力小さくすることが求められる(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、Niなどの卑金属微粒子を用いた場合、小径化に伴い、表面酸化量が増加する。特に、2mass%以上の表面酸化被膜になると、表面酸素による脱バインダ進行が無視できなくなり、脱バインダクラックが頻出し、問題となり得る。
【0005】
表面酸素の還元抑制のために、硫黄(S)を添加することが知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、Sの添加量が多くなると、Sが脱離する際に急激な収縮が生じるため、クラックが発生する。また、Sの燃焼反応により、雰囲気中の還元度が上がり、共材や誘電体の粒成長が加速され、内部電極の連続性が悪化する。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、クラックの発生を抑制しつつ内部電極層の連続率を維持することができる粉末材料、ペースト材料、およびセラミック電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る粉末材料は、Snを含むNi粉末と、S源とを含み、前記Ni粉末における酸素(O)の量がNiに対して2mass%以上であり、0.042≦S/Sn重量比≦5.5であり、0.39≦O/Sn重量比≦40であることを特徴とする。
【0008】
上記粉末材料において、前記Ni粉末の酸素は、前記Ni粉末の表面酸化物の酸素であってもよい。
【0009】
上記粉末材料において、Niに対するSの量が0.2mass%以上であってもよい。
【0010】
上記粉末材料において、前記Ni粉末の平均粒径は、0.01μmから0.2μmであってもよい。
【0011】
本発明に係るペースト材料は、Snを含むNi粉末と、S源とを含み、前記Ni粉末における酸素(O)の量がNiに対して2mass%以上であり、0.042≦S/Sn重量比≦5.5であり、0.39≦O/Sn重量比≦40であることを特徴とする。
【0012】
上記ペースト材料において、前記Ni粉末の酸素は、前記Ni粉末の表面酸化物の酸素であってもよい。
【0013】
上記ペースト材料において、Niに対するSの量が0.2mass%以上であってもよい。
【0014】
上記ペースト材料において、前記Ni粉末の平均粒径は、0.01μmから0.2μmであってもよい。
【0015】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、セラミック材料粉末と有機物のバインダとを含む誘電体グリーンシート上に、Snを含むNi粉末とS源とを含む内部電極パターンを形成することによって積層単位を形成する工程と、前記積層単位を積層することによって積層体を形成する工程と、前記積層体を焼成する工程と、を含み、前記Ni粉末における酸素(O)の量がNiに対して2mass%以上であり、0.042≦S/Sn重量比≦5.5であり、0.39≦O/Sn重量比≦40であることを特徴とする。
【0016】
上記セラミック電子部品の製造方法において、前記Ni粉末の酸素は、前記Ni粉末の表面酸化物の酸素であってもよい。
【0017】
上記セラミック電子部品の製造方法において、Niに対するSの量が0.2mass%以上であってもよい。
【0018】
上記セラミック電子部品の製造方法において、前記Ni粉末の平均粒径は、0.01μmから0.2μmであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、クラックの発生を抑制しつつ内部電極層の連続率を維持することができる粉末材料、ペースト材料、およびセラミック電子部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3図1のB-B線断面図である。
図4】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
図5】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0022】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図2は、図1のA-A線断面図である。図3は、図1のB-B線断面図である。図1図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0023】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、Ni(ニッケル)を主成分とする内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0024】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0025】
誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO(チタン酸バリウム),CaZrO(ジルコン酸カルシウム),CaTiO(チタン酸カルシウム),SrTiO(チタン酸ストロンチウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaSrTi1-zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。1層あたりの誘電体層11の厚みは、例えば、0.05μm以上5μm以下であり、または0.1μm以上3μm以下であり、または0.2μm以上1μm以下である。
【0026】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量領域14と称する。すなわち、容量領域14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0027】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、電気容量を生じない領域である。
【0028】
図3で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
【0029】
誘電体層11は、セラミック材料粉末、有機物のバインダなどを含む誘電体材料を焼成することによって形成される。内部電極層12は、Ni粉末を含む粉末材料、共材などを含むペースト材料を焼成することによって形成される。内部電極層12の薄層化のためには、内部電極層12を形成するためのNi粉末粒子の物理的サイズを極力小さくすることが求められる。しかしながら、Ni粉末を小径化すると、表面積が増加する。表面積が増加するに伴って、Ni粉末の表面酸化被膜の絶対量が増加する。Ni粉末において、Niに対する酸素(O)の量が2mass%以上になると、当該酸素が誘電体材料のバインダの酸化を促進することで、脱バインダが促進され、脱バインダクラックが頻出し、問題となり得る。脱バインダクラックとは、脱バインダが促進されることによって生じる収縮に起因するクラックのことである。なお、Niに対する酸素量とは、Ni+Oを100mass%とした場合の酸素の重量比率である。
【0030】
そこで、Ni粉末の還元抑制のために、ペースト材料に硫黄(S)を添加することが知られている。しかしながら、Niに対するSの添加量が多くなると、Sが脱離する際に急激な収縮が生じ、クラックが発生する。また、Sの燃焼反応により、雰囲気中の還元度が上がり、共材やセラミック材料粉末の粒成長が加速され、内部電極層12の連続性も悪化するおそれがある。
【0031】
そこで、本実施形態においては、クラックの発生を抑制しつつ内部電極層12の連続性を維持することができる粉末材料またはペースト材料を用いる。
【0032】
まず、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。図4は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0033】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABOの粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiOは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiOは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0034】
得られたセラミック材料粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、希土類元素(イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホロミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)およびイッテルビウム(Yb))の酸化物、または、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、リチウム(Li)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)もしくはケイ素(Si)を含む酸化物、または、コバルト、ニッケル、リチウム、ホウ素、ナトリウム、カリウムもしくはケイ素を含むガラスが挙げられる。
【0035】
例えば、セラミック材料粉末に添加化合物を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料粉末を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料粉末について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、誘電体材料が得られる。
【0036】
(積層工程)
次に、得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等の有機物のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材51上に誘電体グリーンシート52を塗工して乾燥させる。基材51は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムである。
【0037】
次に、図5(a)で例示するように、誘電体グリーンシート52上に、内部電極層12の形成用のペースト材料を印刷することによって、内部電極パターン53を形成する。図5(a)では、一例として、誘電体グリーンシート52上に4層の内部電極パターン53が所定の間隔を空けて形成されている。内部電極パターン53が形成された誘電体グリーンシート52を、積層単位とする。ペースト材料は、共材としてセラミック粒子を含んでいてもよい。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。例えば、平均粒子径が50nm以下のBaTiOを均一に分散させてもよい。
【0038】
次に、誘電体グリーンシート52を基材51から剥がしつつ、図5(b)で例示するように、積層単位を積層する。次に、積層単位が積層されることで得られた積層体の上下にカバーシートを所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。図5(b)の例では、点線に沿ってカットする。カバーシートは、誘電体グリーンシート52と同じ成分であってもよく、添加化合物が異なっていてもよい。
【0039】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0040】
(再酸化処理工程)
その後、Nガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0041】
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、外部電極20a,20bに、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行ってもよい。以上の工程により、積層セラミックコンデンサ100を製造することができる。
【0042】
(ペースト材料の構成)
本実施形態においては、内部電極層12の高積層化のために、内部電極層12を薄層化する。例えば、各内部電極層12の厚みは、1μm以下であり、0.4μm以下であり、0.2μm以下である。内部電極層12の薄層化のためには、内部電極層12の形成用のペースト材料に含まれるNi粉末として、小径のものを用いる。例えば、Ni粉末の平均粒径は、0.01μmから0.2μmであり、0.03μmから0.15μmであり、または0.05μmから0.11μmである。
【0043】
Ni粉末を小径化しようとすると、Ni粉末の表面積が大きくなる。それに伴って、Ni粉末の表面酸化被膜の絶対量が増加する。本実施形態においては、Ni粉末に対する酸素の量が2mass%以上のものを用いる。それにより、十分に小さい粒径を有するNi粉末を用いることができるようになり、焼成後の内部電極層12の連続率を高い値に維持することができる。
【0044】
Ni粉末に含まれる酸素によるバインダ酸化を抑制するために、ペースト材料は、S源を含んでいる。それにより、Ni粉末の還元が抑制され、バインダ酸化が抑制され、クラックの発生を抑制することができる。
【0045】
また、Ni粉末は、Sn源を含んでいる。Niの微粒子にSn源が別に添加されていてもよく、Ni-Sn合金粉末をNi粉末として用いてもよい。Snの添加により、Ni硫化物に対して、Snを含んだ安定な硫化物が形成されるため、Sの燃焼反応が抑制され、Sの急激な脱離による急激な収縮が抑制される。また、雰囲気の還元度の上昇が抑制され、セラミック材料粉末や共材の粒成長が抑制される。それにより、内部電極層12の連続率を高い値に維持することができる。
【0046】
ペースト材料においてS量に対するSn量が少なすぎると、Sの燃焼反応を十分に抑制できないおそれがある。そこで、本実施形態においては、S/Sn重量比に上限を設ける。具体的には、S/Sn重量比≦5.5とする。
【0047】
ペースト材料においてO量に対するSn量が少なすぎると、表面酸素による脱バインダ進行が無視できなくなり、脱バインダクラックが発生するおそれがある。そこで、本実施形態においては、O/Sn重量比に上限を設ける。具体的には、O/Sn重量比≦40とする。
【0048】
ペースト材料におけるSn量が多すぎると、焼成過程で内部電極層12に液相が出現し、内部電極層12に球状化が生じ、内部電極層12の連続率が悪化するおそれがある。そこで、本実施形態においては、S/Sn重量比に下限を設ける。具体的には、0.042≦S/Sn重量比とする。さらに、O/Sn重量比に下限を設ける。具体的には、0.39≦O/Sn重量比とする。
【0049】
なお、ペースト材料は、Ni粉末を含む粉末材料に添加物を添加することによって得られる。粉末材料の時点で、Ni粉末における酸素(O)の量がNiに対して2mass%以上、0.042≦S/Sn重量比≦5.5で、0.39≦O/Sn重量比≦40の条件について満たしていてもよい。この場合には、粉末材料に添加物を添加した後のペースト材料においても、上記条件を満たしていればよい。粉末材料の時点で上記条件を満たしていない場合には、粉末材料に添加する添加物の成分を調整することによって、上記条件を満たせばよい。
【0050】
Ni粉末の小径化の観点から、Ni粉末における酸素量は、2mass%以上であることが好ましく、2.5mass%以上であることがより好ましい。
【0051】
Ni粉末における酸素量が多すぎると、表面酸素による脱バインダ進行が無視できなくなり、脱バインダクラックが発生するおそれがある。そこで、Ni粉末における酸素量に上限を設けることが好ましい。例えば、Ni粉末における酸素量は、5.5mass%以下であることが好ましく、4mass%以下であることがより好ましく、3mass%以下であることがさらに好ましい。
【0052】
Niに対するS量が少ないと、十分にバインダ酸化を抑制できないおそれがある。そこで、Niに対するS量に下限を設けることが好ましい。例えば、Niに対するS量は、0.2mass%以上であることが好ましく、0.3mass%以上であることがより好ましい。なお、Niに対するS量とは、Ni+Sを100mass%とした場合のSの重量比率のことである。
【0053】
Niに対するS量が多すぎると、Sの脱離量が多くなるおそれがある。そこで、Niに対するS量に上限を設けることが好ましい。例えば、Niに対するS量は、0.6mass%以下であることが好ましく、0.5mass%以下であることがより好ましく、0.4mass%以下であることがさらに好ましい。
【0054】
Sの燃焼反応を十分に抑制する観点から、S/Sn重量比は、5.5以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。
【0055】
脱バインダクラック発生を抑制する観点から、O/Sn重量比は、40以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましい。
【0056】
内部電極層12における液相出現を抑制する観点から、S/Sn重量比は、0.042以上であることが好ましく、0.08以上であることがより好ましい。また、O/Sn重量比は、0.39以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましい。
【0057】
Sの燃焼反応を抑制する観点から、Niに対するSn量は、0.065mass%以上であることが好ましく、0.1mass%以上であることがより好ましい。焼成過程での内部電極層12における液相出現を抑制する観点から、Niに対するSn量は、11mass%以下であることが好ましく、6mass%以下であることがより好ましい。
【0058】
本実施形態に係る製造方法によれば、上述したペースト材料を用いることから、クラックの発生を抑制しつつ内部電極層の連続率を維持することができる。
【0059】
なお、上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例
【0060】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0061】
(実施例1~20および比較例1~31)
チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料を得た。誘電体材料に有機バインダとしてブチラール系、溶剤としてトルエン、エチルアルコールを加えてドクターブレード法にてPETの基材上に誘電体グリーンシートを塗工した。
【0062】
次に、誘電体グリーンシート上に、導電性金属ペーストを印刷することによって内部電極パターンを形成した。導電性金属ペーストに含まれるNi粉末に関しては、合成条件により、表面酸化被膜量を調整した。また、ペースト調製段階での、S含有分散剤やSn含有有機金属錯体溶液の添加により、S量およびSn量も調整した。実施例1では、Niに対する表面酸素量は2.30mass%であり、Niに対するS量は0.41mass%であり、Niに対するSn量は0.10mass%であり、S/Sn重量比は4.056であり、O/Sn重量比は22.755であった。実施例2では、Niに対する表面酸素量は2.56mass%であり、Niに対するS量は0.34mass%であり、Niに対するSn量は0.10mass%であり、S/Sn重量比は3.364であり、O/Sn重量比は25.328であった。実施例3では、Niに対する表面酸素量は3.98mass%であり、Niに対するS量は0.25mass%であり、Niに対するSn量は0.10mass%であり、S/Sn重量比は2.473であり、O/Sn重量比は39.376であった。実施例4では、Niに対する表面酸素量は2.50mass%であり、Niに対するS量は0.55mass%であり、Niに対するSn量は0.10mass%であり、S/Sn重量比は5.441であり、O/Sn重量比は24.734であった。実施例5では、Niに対する表面酸素量は3.71mass%であり、Niに対するS量は0.47mass%であり、Niに対するSn量は0.10mass%であり、S/Sn重量比は4.670であり、O/Sn重量比は36.705であった。実施例6では、Niに対する表面酸素量は2.30mass%であり、Niに対するS量は0.41mass%であり、Niに対するSn量は5.89mass%であり、S/Sn重量比は0.070であり、O/Sn重量比は0.391であった。実施例7では、Niに対する表面酸素量は2.56mass%であり、Niに対するS量は0.34mass%であり、Niに対するSn量は5.89mass%であり、S/Sn重量比は0.058であり、O/Sn重量比は0.435であった。実施例8では、Niに対する表面酸素量は3.98mass%であり、Niに対するS量は0.25mass%であり、Niに対するSn量は5.89mass%であり、S/Sn重量比は0.042であり、O/Sn重量比は0.676であった。実施例9では、Niに対する表面酸素量は2.50mass%であり、Niに対するS量は0.55mass%であり、Niに対するSn量は5.89mass%であり、S/Sn重量比は0.093であり、O/Sn重量比は0.425であった。実施例10では、Niに対する表面酸素量は3.71mass%であり、Niに対するS量は0.47mass%であり、Niに対するSn量は5.89mass%であり、S/Sn重量比は0.080であり、O/Sn重量比は0.630であった。実施例11では、Niに対する表面酸素量は2.50mass%であり、Niに対するS量は0.13mass%であり、Niに対するSn量は0.10mass%であり、S/Sn重量比は1.286であり、O/Sn重量比は24.734であった。実施例12では、Niに対する表面酸素量は3.00mass%であり、Niに対するS量は0.01mass%であり、Niに対するSn量は0.10mass%であり、S/Sn重量比は0.099であり、O/Sn重量比は29.681であった。比較例1~31については、表1に示す。
【表1】
【0063】
内部電極パターンが形成された誘電体グリーンシートを470層積層し、還元雰囲気で焼成した。焼成後の積層チップの形状は、1.0mm×0.5mm×0.5mmであった。誘電体層の厚みは0.5μmであった。内部電極層の厚みは、0.4μmであった。
【0064】
(分析)
実施例1~12および比較例1~31のそれぞれについて、200個のサンプルにクラックが発生したか否かを調べた。実施例1~12および比較例1~31について、クラック発生頻度が1%を超える場合にクラック判定が不合格(×)であると判定し、クラック発生頻度が1%以下の場合にクラック判定が合格(〇)であると判定した。
【0065】
実施例1~12および比較例1~31のそれぞれについて、200個のサンプルの内部電極層の連続率を調べた。実施例1~12および比較例1~31について、チップ中央付近の断面研磨面のSEM(走査型電子顕微鏡)での観察(倍率2000倍、4視野平均)より集計した内部電極層の平均連続率が70%未満となる場合に連続率判定が不合格(×)であると判定し、平均連続率が70%以上、80%未満となる場合に連続率判定がやや良好(△)であると判定し、平均連続率が80%以上となる場合に連続率判定が合格(〇)であると判定とした。
【0066】
比較例1~3では、連続率判定が不合格(×)であると判定された。これは、Ni粉末の酸素量がNiに対して2mass%未満となるような表面積が小さい(平均粒径の大きい)Ni粉末を用いたためであると考えられる。
【0067】
比較例4~6では、連続率判定が合格(〇)であると判定された。これは、Ni粉末の酸素量がNiに対して2mass%以上となるような表面積が大きい(平均粒径の小さい)Ni粉末を用いたためであると考えられる。しかしながら、クラック判定が不合格(×)と判定された。これは、酸素量が多くなって脱バインダが促進され、脱バインダクラックが生じたからであると考えられる。
【0068】
比較例7~11でも、クラック判定が不合格(×)と判定された。これは、Niに対するS量が0.2mass%以上であるものの、Snを添加しなかったために、Sの燃焼反応が抑制されず、Sの急激な脱離による急激な収縮が生じたからであると考えられる。
【0069】
比較例12~15でも、クラック判定が不合格(×)と判定された。これは、Niに対するS量が0.2mass%以上であるものの、Sn添加量が少なかったために、S/Sn重量比≦5.5とならず、Sの燃焼反応が抑制されず、Sの急激な脱離による急激な収縮が生じたからであると考えられる。
【0070】
比較例16~20でも、クラック判定が不合格(×)と判定された。これは、Niに対するS量が0.2mass%以上であるものの、Sn添加量が少なかったために、O/Sn重量比≦40とならず、表面酸素による脱バインダ進行が無視できなくなり、脱バインダクラックが発生したからであると考えられる。
【0071】
比較例21~24では、クラック判定が合格(〇)と判定された。これは、Sn添加量が多くなったために、Sの燃焼反応が抑制されたからであると考えられる。しかしながら、連続率判定が不合格(×)と判定された。これは、Sn添加量が多くなりすぎ、0.042≦S/Sn重量比とならず、0.39≦O/Sn重量比とならず、内部電極層12の焼成過程で液相が出現したからであると考えられる。
【0072】
比較例25でも、連続率判定が不合格(×)と判定された。これは、Sn添加量が多くなりすぎ、0.39≦O/Sn重量比とならず、内部電極層12の焼成過程で液相が出現したからであると考えられる。
【0073】
比較例26,27でも、連続率判定が不合格(×)と判定された。これは、Sn添加量が多くなりすぎ、0.042≦S/Sn重量比とならず、0.39≦O/Sn重量比とならず、内部電極層12の焼成過程で液相が出現したからであると考えられる。
【0074】
比較例28~31でも、連続率判定が不合格(×)と判定された。これは、Sn添加量が多くなりすぎ、0.042≦S/Sn重量比とならなかったからであると考えられる。
【0075】
これらに対して、実施例1~12のいずれにおいても、クラック判定および連続率判定が不合格(×)と判定されなかった。これは、ペースト材料において、Ni粉末の酸素量がNiに対して2mass%以上であり、0.042≦S/Sn重量比≦5.5であり、0.39≦O/Sn重量比≦40であったからであると考えられる。
【0076】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0077】
10 積層チップ
11 誘電体層
12 内部電極層
13 カバー層
14 容量領域
15 エンドマージン
16 サイドマージン
20a,20b 外部電極
51 基材
52 誘電体グリーンシート
53 内部電極パターン
100 積層セラミックコンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5