IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井製糖株式会社の特許一覧

特許7602312抗認知症剤及び短期記憶障害改善/抑制剤
<>
  • 特許-抗認知症剤及び短期記憶障害改善/抑制剤 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】抗認知症剤及び短期記憶障害改善/抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/899 20060101AFI20241211BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20241211BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
A61K36/899
A23L33/105
A61P25/28
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018103251
(22)【出願日】2018-05-30
(65)【公開番号】P2019205397
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-05-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】321006774
【氏名又は名称】DM三井製糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100201226
【弁理士】
【氏名又は名称】水木 佐綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100215957
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 明照
(72)【発明者】
【氏名】古田 到真
(72)【発明者】
【氏名】水 雅美
【合議体】
【審判長】吉田 佳代子
【審判官】山村 祥子
【審判官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-503417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
C12N
Caplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バガスの分解抽出物を有効成分として含有する、アミロイドβタンパク質の蓄積に起因するアルツハイマー型認知症の発症を防止する又は遅延させる剤であって、
前記バガスの分解抽出物は、バガスの分解処理により得られる分解処理液を、固定担体としての合成吸着剤を充填したカラムに通液し、該合成吸着剤に吸着された成分を、エタノール及び水の混合溶媒で溶出させて得られる画分であり、
前記バガスの分解処理は、アルカリ処理又は水熱処理であり、
前記合成吸着剤は、無置換基型の芳香族系樹脂であり、
前記混合溶媒のエタノール及び水の体積比(エタノール/水)は60/40である、剤。
【請求項2】
バガスの分解抽出物を有効成分として含有する、アミロイドβタンパク質の蓄積に起因する短期記憶障害の発症を防止する又は遅延させる剤であって、
前記バガスの分解抽出物は、バガスの分解処理により得られる分解処理液を、固定担体としての合成吸着剤を充填したカラムに通液し、該合成吸着剤に吸着された成分を、エタノール及び水の混合溶媒で溶出させて得られる画分であり、
前記バガスの分解処理は、アルカリ処理又は水熱処理であり、
前記合成吸着剤は、無置換基型の芳香族系樹脂であり、
前記混合溶媒のエタノール及び水の体積比(エタノール/水)は60/40である、剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗認知症剤及び短期記憶障害改善/抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症は、種々の原因により脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりすることで様々な障害がおこり、生活をする上で支障が出ている状態を指す。認知症の発症に伴って脳全体が委縮することにより、身体機能も失われる場合がある。
【0003】
そこで近年では、認知症を抑制する効果をもたらす成分に関する研究が盛んにおこなわれている。例えば、特許文献1には、ローヤルゼリーが抗認知症活性を示すことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/078175号
【非特許文献】
【0005】
【文献】日本薬理学雑誌,130(2),pp112~116,2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な抗認知症剤及び短期記憶障害改善/抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、in vivo試験によって、バガスの分解抽出物がアミロイドβタンパク質の蓄積に起因する短期記憶障害を改善する作用を有することを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、第1の態様として、バガスの分解抽出物を有効成分として含有する、抗認知症剤を提供する。
【0009】
バガスの分解抽出物は、水熱処理、酸処理、アルカリ処理、亜臨界水処理、微粉砕処理及び爆砕処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理により得られる分解処理液であってよい。
【0010】
バガスの分解抽出物は、分解処理液を、固定担体を充填したカラムに通液することより得られる画分であってもよい。固定担体は、好ましくは、合成吸着剤又はイオン交換樹脂である。
【0011】
固定担体が合成吸着剤である場合、バガスの分解抽出物は、該合成吸着剤に吸着された成分を、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒で溶出させることにより得られる画分であってもよい。
【0012】
合成吸着剤は、好ましくは、芳香族系樹脂、アクリル酸系メタクリル樹脂、又はアクリロニトリル脂肪族系樹脂である。
【0013】
バガスの分解抽出物は、分解処理液を、固定担体としての合成吸着剤を充填したカラムに通液し、該合成吸着剤に吸着された成分を、エタノール及び水の混合溶媒で溶出させて得られる画分であってよく、この場合、合成吸着剤は、無置換基型の芳香族系樹脂であり、カラムの温度は20~60℃であり、混合溶媒のエタノール及び水の体積比(エタノール/水)は50/50~60/40であってもよい。
【0014】
本発明は、第2の態様として、バガスの分解抽出物を有効成分として含有する、短期記憶障害改善/抑制剤を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、新規な抗認知症剤及び短期記憶障害改善/抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】Y字型迷路試験における評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明の抗認知症剤は、抗認知症作用を有するものである。本発明における「抗認知症作用」とは、認知症の発症を未然に防止する作用、認知症の発症を遅延させる作用、一度発症した認知症を発症時の状態から回復させる作用を含む概念である。本発明の抗認知症剤が対象とする認知症は、アルツハイマー型認知症であってもよい。アルツハイマー型認知症は、前脳基底部のマイネルト核におけるアセチルコリン作動性神経細胞の脱落により引き起こされる病態(コリン仮説)と、アミロイドβタンパク質の蓄積によって引き起こされる病態(アミロイド仮説)とがある。両者はそれぞれ別々の病態を示すものであり、同一の病態を別の角度から見たものではない。本発明の抗認知症剤が対象とする認知症はいずれの説に基づくアルツハイマー型認知症であってもよく、好ましくは、アミロイド仮説に基づくアルツハイマー型認知症である。すなわち、本発明の抗認知症剤が対象とする認知症は、アミロイドβタンパク質の蓄積に起因するアルツハイマー型認知症であってよい。言い換えると、本発明は、アルツハイマー型認知症の抗認知症剤、アミロイド仮説に基づくアルツハイマー型認知症の抗認知症剤、又はアミロイドβタンパク質の蓄積に起因するアルツハイマー型認知症の抗認知症剤を提供するということもできる。
【0019】
アミロイド仮説に基づくアルツハイマー型認知症においては、アミロイドβタンパク質に加えて、タウタンパク質が脳内に蓄積することによって脳神経細胞の死滅が引き起こされるために、認知機能に障害が起こると考えられている。初期段階ではアミロイドβタンパク質の蓄積が始まり、約10年経過するとタウタンパク質の蓄積が始まる。その後、アミロイドβタンパク質とタウタンパク質が蓄積し続けることによって脳神経細胞を死滅させ、初期段階から約25年後に認知症を発症させるとされている。本発明の抗認知症剤は、他の一側面において、脳内へのアミロイドβタンパク質の蓄積を抑制する作用、脳内に蓄積したアミロイドβタンパク質を低減させる作用を有するということもでき、また、脳内へのタウタンパク質の蓄積を抑制する作用、脳内に蓄積したタウタンパク質を低減させる作用を有するということもできる。
【0020】
本発明は、記憶障害改善/抑制剤を提供するということもできる。本発明の記憶障害改善/抑制剤は、記憶障害を改善/抑制する作用を有するものである。本発明における「記憶障害の改善/抑制」とは、記憶障害の発症を未然に防止する作用、記憶障害の発症を遅延させる作用、一度発症した記憶障害を発症時の状態から回復させる作用を含む概念である。本発明の記憶障害改善/抑制剤が対象とする記憶障害は、長期記憶障害であっても短期記憶障害であってもよいが、好ましくは短期記憶障害である。すなわち本発明は、短期記憶障害改善/抑制剤を提供するということができ、更に、アミロイドβタンパク質の蓄積に起因する短期記憶障害の改善/抑制剤を提供するということもできる。
【0021】
一実施形態に係る抗認知症剤は、バガスの分解抽出物を有効成分として含有する。バガスの分解抽出物には、p-クマル酸、フェルラ酸、カフェ酸及びバニリン等のフェニルプロパノイド、並びにリグニン及びその分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種が含まれていることが好ましい。
【0022】
「バガス」とは、典型的には原料糖製造工程における製糖過程で排出されるバガスをいう。原料糖工場における製糖過程で排出されるバガスには、最終圧搾機を出た最終バガスだけではなく、第1圧搾機を含む以降の圧搾機に食い込まれた細裂甘蔗をも含む。好適なバガスは、原料糖工場において圧搾工程により糖汁を圧搾した後に排出されるバガスである。当該バガスは、甘蔗の種類、収穫時期等により、その含まれる水分、糖分及びそれらの組成比が異なるが、本発明においては、これらのバガスを任意に用いることができる。さらに、本実施形態では、原料のバガスとして、原料糖工場と同様に、例えば黒糖製造工場において排出される甘蔗圧搾後に残るバガス、又は実験室レベルの小規模な実施により甘蔗から糖液を圧搾した後のバガスも用いることができる。
【0023】
バガスの分解抽出物は、一実施形態において、バガス(及び/又はその加工物)の分解処理液であってよい。分解処理液は、アルカリ処理、水熱処理、酸処理、亜臨界水処理、微粉砕処理及び爆砕処理からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の分解処理により得ることができる。分解処理は、バガスの分解抽出物を得やすい観点から、好ましくはアルカリ処理又は水熱処理である。
【0024】
アルカリ処理は、バガスにアルカリ性溶液を接触させる処理であってよい。アルカリ性溶液を接触させる方法としては、例えば、アルカリ性溶液をバガスに振りかける方法、バガスをアルカリ性溶液に浸漬させる方法等が挙げられる。バガスをアルカリ性溶液に浸漬させる方法においては、バガス及びアルカリ性溶液の混合物を撹拌しながら浸漬させてもよい。
【0025】
アルカリ性溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液等が挙げられる。アルカリ性溶液は、これらの溶液を1種単独で又は2種以上を混合して用いられてよい。アルカリ性溶液は、安価であり、食品製造工程で容易に用いられる観点から、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液である。
【0026】
アルカリ性溶液の温度(液温)は、分解処理の処理時間を短縮する観点から、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは100℃以上であり、更に好ましくは130℃以上である。アルカリ性溶液の温度は、分解処理液に多糖類を残存させないようにする観点から、好ましくは250℃以下であり、より好ましくは200℃以下であり、更に好ましくは150℃以下である。
【0027】
アルカリ処理は、常圧下で行われてよく、加圧して行われてもよい。加圧する場合、圧力は、0.1MPa以上、又は0.2MPa以上であってよく、4.0MPa以下、1.6MPa以下、又は0.5MPa以下であってよい。
【0028】
水熱処理は、バガスに高温の水又は水蒸気を高圧下で接触させる処理であってよい。水熱処理は、より具体的には、例えば、バガスの固形物濃度が0.1~50%となるように水を加え、高温・高圧条件下で分解処理を行う方法であってもよい。水又は水蒸気の温度は130~250℃であることが好ましく、加える圧力は、各温度の水の飽和水蒸気圧に、更に0.1~0.5MPa高い圧力であることが好ましい。
【0029】
酸処理は、バガスに酸性溶液を接触させる処理であってよい。酸性溶液としては、希硫酸等が挙げられる。バガスに酸性溶液を接触させる方法、酸処理における酸溶液の温度、酸処理における圧力条件は、上述したアルカリ処理における方法又は条件と同様であってよい。
【0030】
亜臨界水処理は、バガスに亜臨界水を接触させる処理であってよい。バガスに亜臨界水を接触させる方法は、上述したアルカリ処理における方法と同様であってよい。亜臨界水処理の条件は特に制限されないが、亜臨界水の温度を160~240℃とし、処理時間を1~90分間とすることが好ましい。
【0031】
微粉砕処理は、圧縮、衝撃、せん断、摩擦などによりバガスを数μm~数百μmに粉砕する処理であってよい。爆砕処理は、水熱処理によりバガスに含まれる不溶性キシランをある程度分解させた後、耐圧反応容器に設けられたバルブを一気に開放すること等によって、瞬間的に大気圧に放出することによりバガスを粉砕する処理であってよい。
【0032】
分解処理液においては、上述した分解処理の後、固形分及び液分を分離する処理がなされてもよい。この場合、分離後に得られた液分を分解処理液とすることができる。固形分及び液分を分離する方法は、ストレーナー、ろ過、遠心分離、デカンテーション等による分離であってよい。
【0033】
分解処理液においては、膜分離により多糖類等の高分子成分が除去されてもよい。この場合、膜分離後の液分を分解処理液とすることができる。分離膜は、限外濾過膜(UF膜)であれば特に限定されない。限外濾過膜の分画分子量は、好ましくは2,500~50,000であり、より好ましくは2,500~5,000である。
【0034】
限外濾過膜の素材としては、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PS)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)、再生セルロース、セルロース、セルロースエステル、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリ四フッ化エチレン等を使用することができる。
【0035】
限外濾過膜の濾過方式は、デッドエンド濾過、クロスフロー濾過であってよいが、膜ファウリング抑制の観点から、クロスフロー濾過であることが好ましい。
【0036】
限外濾過膜の膜形態としては、平膜型、スパイラル型、チューブラー型、中空糸型等、適宜の形態のものが使用できる。より具体的には、GE Power&WaterのGEシリーズ、GHシリーズ、GKシリーズ、DESAL社のG-5タイプ、G-10タイプ、G-20タイプ、G-50タイプ、PWタイプ、HWSUFタイプ、KOCH社のHFM-180、HFM-183、HFM-251、HFM-300、HFK-131、HFK-328、MPT-U20、MPS-U20P、MPS-U20S、Synder社のSPE1、SPE3、SPE5、SPE10、SPE30、SPV5、SPV50、SOW30、旭化成株式会社製のマイクローザ(登録商標)UFシリーズの分画分子量3,000から10,000に相当するもの、日東電工株式会社製のNTR7410、NTR7450等が挙げられる。
【0037】
バガスの分解抽出物は、他の実施形態において、上述した分解処理液を、固定担体を充填したカラムに通液することより得られる画分であってもよい。分解処理液をカラムに通液することにより、分解処理液中の抗認知症作用を有する成分(有効成分)が固定担体に吸着され、糖類及び無機塩類の大部分がそのまま流出する。
【0038】
上述した分解処理液は、直接又は水で任意の濃度に調整して、カラムに通液することができる。分解処理液においては、カラムの通液前にpHを調整してもよい。吸着率を向上させる観点から、分解処理液は、pH6以下に調整されていることが好ましい。分解処理液のpHは、4.5を超え6以下であってもよい。
【0039】
固定担体は、好ましくは、合成吸着剤又はイオン交換樹脂のいずれかである。
【0040】
合成吸着剤は、好ましくは合成多孔質吸着剤である。合成吸着剤(合成多孔質吸着剤)としては、好ましくは有機系樹脂が用いられる。有機系樹脂は、好ましくは、芳香族系樹脂、アクリル酸系メタクリル樹脂、又はアクリロニトリル脂肪族系樹脂である。
【0041】
芳香族系樹脂としては、例えば、スチレン-ジビニルベンゼン系樹脂が挙げられる。芳香族系樹脂としては、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、無置換基型の芳香族系樹脂、無置換基型に特殊処理をした芳香族系樹脂等の多孔質性樹脂も挙げられ、このうち、無置換基型の芳香族系樹脂又は無置換基型に特殊処理をした芳香族系樹脂が好ましい。
【0042】
合成吸着剤で市販のものとしては、ダイヤイオン(商標)HP-10、HP-20、HP-21、HP-30、HP-40、HP-50(以上、無置換基型の芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);SP-825、SP-800、SP-850、SP-875、SP-70、SP-700(以上、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);SP-900(芳香族系樹脂、商品名、三菱ケミカル株式会社製);アンバーライト(商標)XAD-2、XAD-4、XAD-16、XAD-2000(以上、芳香族系樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ製);ダイヤイオン(商標)SP-205、SP-206、SP-207(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);HP-2MG、EX-0021(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);アンバーライト(商標)XAD-7、XAD-8(以上、アクリル酸エステル樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ製);ダイヤイオン(商標)HP1MG、HP2MG(以上、アクリル酸メタクリル樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);セファデックス(商標)LH20、LH60(以上、架橋デキストランの誘導体、いずれも商品名、ファルマシア バイオテク株式会社製)等が挙げられる。中でも、無置換基型の芳香族系樹脂(例えば、HP-20)又は無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂(例えば、SP-850)が好ましい。
【0043】
カラムに充填する合成吸着剤の量は、カラムの大きさ、合成吸着剤の種類等によって適宜決定することができる。
【0044】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、分解処理液を通液するときの通液速度は、カラムの大きさ、溶出溶媒の種類、合成吸着剤の種類等によって適宜変更が可能であるが、好ましくは、SV=1~30時間-1である。なお、SV(Space Velocity、空間速度)は、1時間当たり樹脂容量の何倍量の液体を通液するかという単位である。
【0045】
合成吸着剤に吸着された吸着成分(有効成分)は、溶媒(溶出溶媒)により溶出させることができる。吸着成分をより効率よく回収する観点から、吸着成分を溶出させる前に、カラムに残留する糖類及び無機塩類を水洗により洗い流すことが好ましい。この場合、溶出させた成分をバガスの分解抽出物とすることができる。
【0046】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、溶出溶媒は、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。溶出溶媒は、アルコール及び水の混合溶媒が好ましく、エタノール及び水の混合溶媒がより好ましく、吸着成分が室温においてより効率よく溶出可能となる観点から、体積比が50/50~60/40(エタノール/水)であるエタノール及び水の混合溶媒が更に好ましい。
【0047】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、溶出する際のカラムの温度(カラム温度)は室温であってよいが、室温よりもカラム温度を高温にすることにより、エタノール及び水の混合溶媒においてエタノールの混合割合を減らすことができ、吸着成分をより効率的に溶出させることができる。温度は、好ましくは20~60℃であり、より好ましくは40~60℃である。カラム内は常圧条件下であっても、加圧条件下であってもよい。
【0048】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、溶出速度は、カラムの大きさ、溶出溶媒の種類、合成吸着剤の種類等によって適宜設定することが可能であるが、好ましくは、SV=0.1~10時間-1である。
【0049】
イオン交換樹脂は、樹脂の形態に基づいて、ゲル型樹脂と、ポーラス型、マイクロポーラス型又はハイポーラス型等の多孔性樹脂とに分類されるが、特に制限はない。イオン交換樹脂は、好ましくは陰イオン交換樹脂である。陰イオン交換樹脂としては、強塩基性陰イオン交換樹脂又は弱塩基性陰イオン交換樹脂が用いられてよい。アルカリ処理液を原料として使用する場合、好ましくは、強塩基性陰イオン交換樹脂が用いられるが、その他の処理による分解処理液を原料とする場合は特に制限はない。
【0050】
市販の強塩基性陰イオン交換樹脂としては、ダイヤイオン(商標)PA306、PA308、PA312、PA316、PA318L、HPA25、SA10A、SA12A、SA11A、SA20A、UBA120(以上、三菱ケミカル株式会社製)、アンバーライト(商標)IRA400J、IRA402Bl、IRA404J、IRA900J、IRA904、IRA458RF、IRA958、IRA410J、IRA411、IRA910CT(以上、オルガノ株式会社製)、ダウエックス(商標)マラソンA、マラソンMSA、MONOSPHERE550A、マラソンA2(以上、ダウケミカル日本株式会社製)等が挙げられる。
【0051】
市販の弱塩基性陰イオン交換樹脂としては、ダイヤイオン(商標)WA10、WA20、WA21J、WA30(以上、三菱ケミカル株式会社製)、アンバーライト(商標)IRA478RF、IRA67、IRA96SB、IRA98、XE583(以上、オルガノ株式会社製)、ダウエックス(商標)マラソンWBA、66、MONOSPHERE66、MONOSPHERE77(以上、ダウケミカル日本株式会社製)等が挙げられる。
【0052】
カラムに充填するイオン交換樹脂の量は、カラムの大きさ、イオン交換樹脂の種類などによって適宜決定できるが、分解処理液の固形分に対して2~10,000倍湿潤体積量が好ましく、5~500倍湿潤体積量がより好ましい。
【0053】
通液条件は、前処理液の種類、イオン交換樹脂の種類等により適宜設定することが可能である。好ましくは、流速はSV=0.3~30時間-1であり、通液する液量はイオン交換樹脂の100~300%であり、カラム温度は40~90℃である。カラム内は常圧又は加圧された状態であってもよい。
【0054】
固定担体としてイオン交換樹脂を用いる場合、バガスの分解抽出物は、イオン交換樹脂を充填したカラムに通液し、塩や酸、アルコール又はこれらの混合水溶液等の溶離液で溶出させることで得られる画分であってもよい。溶離液は脱気処理されていてもよい。
【0055】
バガスの分解抽出物は、一実施形態においては、上述した分解処理液又は画分を濃縮した濃縮物であってもよい。濃縮方法は公知の方法であってよく、例えば、減圧下での溶媒留去、凍結乾燥等の方法であってよい。濃縮を行う場合、分解処理液又は画分を15~30倍に濃縮して、濃縮後の成分をバガスの分解抽出物とすることができる。
【0056】
バガスの分解抽出物は、例えば、次のようにして得ることができる。バガスに、固形物濃度が0.1~50%となるように1質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加して100℃で煮沸を行い、分解処理液(アルカリ処理液)を得る。分解処理液を分画分子量2500~5000のUF膜にて限外濾過を行い、得られた濾過液を酸性に調整してから、無置換基型の芳香族系樹脂を充填したカラムに、カラム温度20~60℃にて通液する。その後、カラムに吸着された成分を、カラム温度20~60℃にて、体積比が50/50~60/40(エタノール/水)のエタノール及び水の混合溶媒(溶出溶媒)で溶出させ、エタノール及び水の混合溶媒での溶出開始時点から集めた溶出液の量が該芳香族系樹脂の45倍湿潤体積量以内に溶出する画分を回収する。回収された画分(抗認知症作用を有する成分を含む画分)を集め、慣用の手段(減圧下での溶媒留去、凍結乾燥等)により濃縮して、バガスの分解抽出物を得ることができる。このようにして得られたバガスの分解抽出物は、固形分が30質量%以上になるように濃縮した液状又は粉末状の抽出物として保存することができる。抽出物の保存は、当該抽出物が液状の場合、冷蔵で行うことが好ましい。
【0057】
バガスの分解抽出物は、他の例として、例えば、次のようにして得ることもできる。すなわち、バガスに固形物濃度が0.1~50%となるように加水して130~250℃の水により、0.2~4.0Mpaの圧力下で水熱処理を行い、濾過による固液分離で分解処理液(水熱処理液)を得る。得られた水熱処理液について、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂を充填したカラムに、温度20~60℃にて通液した後、カラムに吸着された成分を、カラム温度20~60℃にて、体積比が50/50~60/40(エタノール/水)のエタノール及び水の混合溶媒(溶出溶媒)で溶出させ、エタノール及び水の混合溶媒での溶出開始時点から集めた溶出液の量が該芳香族系樹脂の5倍湿潤体積量以内に溶出する画分を回収する。回収された画分(抗認知症作用を有する成分を含む画分)を集め、慣用の手段(減圧下での溶媒留去、凍結乾燥等)により濃縮して、バガスの分解抽出物を得ることができる。このようにして得られたバガスの分解抽出物は、固形分が30質量%以上になるように濃縮した液状又は粉末状の抽出物として保存することができる。抽出物の保存は、当該抽出物が液状の場合、冷蔵で行うことが好ましい。
【0058】
上述した各実施形態におけるバガスの分解抽出物は、液状又は粉末状であってよい。粉末状のバガスの分解抽出物は、例えば、液状のバガス分解抽出物を用いて、スプレードライ法、凍結乾燥法、流動層造粒法、又は賦形剤を用いた粉末化法等により製造することができる。
【0059】
抗認知症剤は、有効成分であるバガスの分解抽出物のみからなってもよく、食品、医薬部外品又は医薬品に使用可能な素材を更に配合してもよい。食品、医薬部外品又は医薬品に使用可能な素材としては、特に制限されるものではないが、例えば、アミノ酸、タンパク質、炭水化物、油脂、甘味料、ミネラル、ビタミン、香料、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等が挙げられる。
【0060】
タンパク質としては、例えば、ミルクカゼイン、ホエイ、大豆タンパク、小麦タンパク、卵白等が挙げられる。炭水化物としては、例えば、コーンスターチ、セルロース、α化デンプン、小麦デンプン、米デンプン、馬鈴薯デンプン等が挙げられる。油脂としては、例えば、サラダ油、コーン油、大豆油、ベニバナ油、オリーブ油、パーム油等が挙げられる。甘味料としては、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖等の糖類、キシリトール、エリスリトール、マルチトール等の糖アルコール、スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムK等の人工甘味料、ステビア甘味料等が挙げられる。ミネラルとしては、例えば、カルシウム、カリウム、リン、ナトリウム、マンガン、鉄、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの塩類等が挙げられる。ビタミンとしては、例えば、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB類、ビオチン、ナイアシン等が挙げられる。賦形剤としては、例えば、デキストリン、デンプン、乳糖、結晶セルロース等が挙げられる。結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン等が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、クエン酸、乳酸、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。基剤としては、例えば、セトステアリルアルコール、ラノリン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。懸濁化剤としては、例えば、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0061】
抗認知症剤が他の素材を配合する場合、有効成分であるバガスの分解抽出物の含有量は、後述する抗認知症剤の形態、使用目的等に応じて適宜設定すればよいが、抗認知症効果をより一層有効に発揮する観点から、好ましくは、単糖類及び少糖類を除く固形分として1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、更に好ましくは5質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、更に好ましくは30質量%以下である。
【0062】
抗認知症剤は、食品、医薬部外品又は医薬品として用いることができる。食品は、例えば、健康食品、特定保健用食品、機能性食品、栄養機能食品、サプリメント等の形態で提供されてもよい。
【0063】
抗認知症剤は、飼料、飼料添加物としても用いることができる。飼料としては、ドッグフード、キャットフード等のコンパニオン・アニマル用飼料、家畜用飼料、家禽用飼料、養殖魚介類用飼料等が挙げられる。「飼料」には、動物が栄養目的で経口的に摂取するもの全てが含まれる。より具体的には、養分含量の面から分類すると、粗飼料、濃厚飼料、無機物飼料、特殊飼料の全てを包含し、また公的規格の面から分類すると、配合飼料、混合飼料、単体飼料の全てを包含する。また、給餌方法の面から分類すると、直接給餌する飼料、他の飼料と混合して給餌する飼料、または飲料水に添加し栄養分を補給するための飼料の全てを包含する。
【0064】
抗認知症剤は、固体(粉末、顆粒等)、液体(溶液、懸濁液等)、ペースト等のいずれの形状であってもよく、散剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、液剤、懸濁剤等のいずれの剤形であってもよい。
【0065】
抗認知症剤は、静脈投与等の非経口投与がされてよく、経口投与がされてもよい。抗認知症剤は、経口投与されることが好ましい。
【0066】
抗認知症剤が非経口投与される場合、投与量としては、例えば、バガスの分解抽出物が1回当たり100μg/kg(体重)以上となるように投与されるのが好ましく、150μg/kg(体重)以上となるように投与されるのがより好ましく、200μg/kg(体重)以上となるように投与されるのが更に好ましい。また、バガスの分解抽出物が1日当たり200μg/kg(体重)以上となるように投与されるのが好ましく、300μg/kg(体重)以上となるように投与されるのがより好ましく、400μg/kg(体重)以上となるように投与されるのが更に好ましい。また、バガスの分解抽出物が、1回当たり2000mg/kg(体重)以下となるように投与されるのが好ましく、1500mg/kg(体重)以下となるように投与されるのがより好ましく、1000mg/kg(体重)以下となるように投与されるのが更に好ましい。また、バガスの分解抽出物が1日当たり4000mg/kg(体重)以下となるように投与されるのが好ましく、3000mg/kg(体重)以下となるように投与されるのがより好ましく、2000mg/kg(体重)以下となるように投与されるのが更に好ましい。この範囲であれば、十分な血中濃度を達成することができ、抗認知症作用をよりよく発現することができる。
【0067】
抗認知症剤が経口投与される場合において、抗認知症剤を含有する上記製品を集中的に摂取する場合、上記製品の摂取量(1日当たりの摂取量又は投与量)は、単糖類および少糖類を除くバガスの分解抽出物全量基準(固形分)で、好ましくは50~3,000mg/kg(体重)であり、より好ましくは100~2,000mg/kg(体重)である。日常的に長期摂取する場合、上記製品の摂取量(1日当たりの摂取量)は、単糖類及び少糖類を除くバガスの分解抽出物全量基準(固形分)で、好ましくは1~1000mg/kg(体重)である。
【0068】
本実施形態の抗認知症剤は、アミロイドβタンパク質が蓄積したヒト又は動物に対して用いることができる。また、本実施形態の抗認知症剤は、認知症(又は、アルツハイマー型認知症)を患うヒト又は動物、記憶障害(又は短期記憶障害)を患うヒト又は動物に対して用いることができ、当該認知症及び記憶障害は、アミロイドβタンパク質の蓄積に起因するものであってよい。
【0069】
一実施形態に係る短期記憶障害改善/抑制剤の具体的な態様は、上述した抗認知症剤における態様と同様であってよい。すなわち、一実施形態に係る短期記憶障害改善/抑制剤は、上述した抗認知症剤に関する説明において、「抗認知症剤」を「短期記憶障害改善/抑制剤」と読み替えたものであってよい。
【実施例
【0070】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
バガスの分解抽出物は、以下、単に「抽出物」と表現することがある。バガスの分解抽出物の投与量に関する記載について、例えば「500mg/kg」は、体重1kg当たり500mgを投与したことを意味する。「アミロイドβタンパク質」は、単に「アミロイドβ」ということがある。
【0072】
<バガスの分解抽出物の製造>
[製造例1]
サトウキビの搾りかすであるバガス15kg(含水率50質量%)及び0.5%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液100Lを混合し、150℃の条件でアルカリ処理を行った。アルカリ処理後の混合液を固形分と液分に分離して、液分を約100L得た。分画分子量2500のUF膜(GEウォーター&プロセス・テクノロジー社、GH8040F30)を用いて限外濾過を行い、濾過液80Lを得た。合成吸着剤(三菱ケミカル株式会社製、HP-20)1リットルを樹脂塔(内径80mm、高さ400mm)に充填し、これに上記の濾過液を、pHを6に調整してから流速10リットル/時間(SV=10.0(時間-1))で通液した。
【0073】
続いて、5リットルの精製水を、流速10リットル/時間(SV=10.0(時間-1))で樹脂塔に通液して洗浄した。次に、溶出溶媒として60%エタノール水溶液(エタノール/水=60/40(体積/体積))2リットルを、流速2リットル/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液した。続けて、2リットルの精製水を流速2リットル/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液し、合成吸着剤に吸着した成分を溶出させた。樹脂塔から溶出した画分を、ロータリーエバポレーターにて約10倍の濃度に減圧濃縮したのち、一晩凍結乾燥して、バガスの分解抽出物として、茶褐色の粉末20gを得た。これを抽出物Aとした。
【0074】
[製造例2]
サトウキビの搾りかすであるバガス30kg(含水率50質量%)を、200℃の熱水100Lで水熱処理を行った。前処理後の混合液を固形分と液分に分離して、液分を約88L得た。分画分子量2500のUF膜(GEウォーター&プロセス・テクノロジー社、GH8040F30)を用いて限外濾過を行い、濾過液70Lを得た。合成吸着剤(三菱ケミカル株式会社製、SP-850)1リットルを樹脂塔(内径80mm、高さ400mm)に充填し、これに上記の濾過液のうち25Lを、流速20リットル/時間(SV=20.0(時間-1))で通液した。
【0075】
続いて、3.3リットルの精製水を、流速20リットル/時間(SV=20.0(時間-1))で樹脂塔に通液して洗浄した。次に、溶出溶媒として60%エタノール水溶液(エタノール/水=60/40(体積/体積))2リットルを、流速2リットル/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液した。続けて、2リットルの精製水を流速2リットル/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液し、合成吸着剤に吸着した成分を溶出させた。樹脂塔から溶出した画分を、ロータリーエバポレーターにて約10倍の濃度に減圧濃縮したのち、一晩凍結乾燥して、バガスの分解抽出物として、茶褐色の粉末40gを得た。これを抽出物Wとした。
【0076】
<試験溶液の調製>
上記の抽出物A及び抽出物Wについては、試験に供するまで、室温(管理温度:18.0~28.0℃)で粉末の状態で保管した。抽出物を溶解する媒体として注射用水(大塚蒸留水、株式会社大塚製薬工場)を用意した。抽出物の必要量を秤量し、注射用水で溶解した後、所定濃度となるように希釈し、これを試験溶液とした。
【0077】
<アミロイドβ溶液の調製>
アミロイドβ溶液に使用するアミロイドβ(Amyloid-βProtein(25-35)、Polypeptide Laboratories社製)は、試験に供するまで、冷凍(管理温度:-30℃~-20℃(実測値:-27.1℃~-24.0℃)で保管した。アミロイドβを注射用水で2mMとなるように溶解させ、アミロイドβ溶液を調製した。
【0078】
<試験動物>
試験動物として、雄性Slc:ddYマウス(SPF、日本エスエルシー株式会社製)を使用した。当該マウスとして、5週齢のものを入手した。当該マウスは、行動薬理試験に一般的に用いられている動物種で、その系統維持が明らかなものである。入手後1日のマウスの体重範囲は23.8~30.0gであった。入手したマウスについて5日間の予備飼育期間を設けた。
【0079】
(飼育条件)
マウスは、管理温度20.0~26.0℃、管理湿度40.0~70.0%、明暗各12時間(照明:午前6時~午後6時)、換気回数12回/時(フィルターを通した新鮮空気)に維持された動物飼育室で飼育した。
予備飼育期間中から群分け日までは、プラスチック製ケージ(W:310×D:360×H:175mm)を用いて1ケージあたり10匹までの群飼育とし、群分け後は、1ケージあたり5匹までの群飼育とした。飼料としては、固形飼料(MF、オリエンタル酵母工業株式会社製)を、飲料水としては、水道水をそれぞれ自由に摂取させた。
【0080】
(群分け方法及び固体識別方法)
群分けは、無作為抽出法により各群の平均体重がほぼ均一になるように試験溶液の投与開始日に行った。群構成としては、偽手術群、媒体対照群、抽出物A及び抽出物W投与群の四群とした。抽出物A投与群には、投与液量として、抽出物Aの投与量がマウス1個体当たり500mg/kgとなるように、投与日の体重を基準とし、10mL/kgで算出した。同様に抽出物W投与群には、投与液量として、抽出物Wの投与量がマウス1個体当たり500mg/kgとなるように、投与日の体重を基準とし、10mL/kgで算出した。偽手術群及び媒体対照群には、0.5%(w/v)メチルセルロース溶液を10mL/kg投与した。
【0081】
(実験スケジュール)
試験溶液の投与開始日を投与1日目として、試験溶液については1日1回投与し、投与8日目にはアミロイドβ溶液をマウスに注入した。その後、投与14日目にY字型迷路試験を実施した。各手順については後述する。
【0082】
(試験溶液の投与経路及び投与方法)
投与経路は、経口投与とした。投与方法としては、試験施設で用いられている通常の方法に従って、マウス用ディスポーザブル経口ゾンデ(有限会社フチガミ器械製)を取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒(テルモ株式会社製)を用いて、試験溶液を経口投与した。投与操作時には、1匹投与する毎に試験溶液を転倒混和してから、注射筒に吸引させた。なお、アミロイドβ溶液注入日には、アミロイドβ溶液注入後に試験溶液を投与し、Y字型迷路試験日には、測定の30分前に試験溶液を投与した。
【0083】
(アミロイドβの注入方法)
マウスにペントバルビタールナトリウム(東京化成工業株式会社製)を40mg/kg腹腔内投与(投与液量:10mL/kg)することにより、マウスを麻酔した。麻酔後、頭皮にレボブピバカイン塩酸塩(ボブスカイン(登録商標)0.25%注、丸石製薬株式会社製)を皮下投与(0.1mL)した。頭皮を切開して頭蓋骨を露出させ、歯科用ドリルを用いてブレグマより側方1mm(右側)、後方0.2mmの頭蓋骨にステンレス製パイプ刺入用の穴を開けた。骨表面から2.5mmの深さまで外径0.5mmのシリコンチューブ及びマイクロシリンジに接続されたステンレス製パイプを垂直に刺入した。SCE1投与群及び媒体対照群には、脳室内にアミロイドβ溶液3μL(6nmol/3μL)をマイクロシリンジポンプで3分間かけて注入した。一方、偽手術群には注射用水3μLを同様の方法で注入した。注入後、ステンレス製パイプを挿入したまま3分間静置し、ステンレス製パイプをゆっくりと外した。その後、頭蓋穴を非吸収性骨髄止血剤(ネストップ(登録商標)、アルフレッサーファーマ株式会社製)で塞ぎ、頭皮を縫合した。
【0084】
(Y字型迷路試験による評価)
学習・記憶行動の評価方法であり、特に短期記憶の評価方法として知られている、Y字型迷路試験(例えば、非特許文献1)を実施した。試験には、1本のアームの長さが39.5cm、床の幅が4.5cm、壁の高さが12cmで、3つのアームがそれぞれ120度に分岐しているプラスチック製のY字型迷路(有限会社ユニコム製)を用いた。
評価前に、装置の床面の照度が10~40ルクスになるように調節した。評価は、試験溶液の投与後30分後に実施した。マウスをY字型迷路のいずれかのアームに置き、8分間迷路内を自由に探索させた。マウスが測定時間内に移動したアームの順番を記録し、アームに移動した回数を数え、これを総エントリー数とした。次に、この中で連続して異なる3つのアームを選択した組み合わせを調べ、この数を自発的交替行動数とした。そして、以下の式を用いて自発的交替行動率を算出した。
自発的交替行動率(%)=[自発的交替行動数/(総エントリー数-2)]×100
【0085】
各群のマウスについてY字型迷路試験を行い、総エントリー数、自発的交替行動数、自発的交替行動率の平均値及び標準誤差を算出した。なお、有意差検定は、偽手術群と媒体対照群、及び、媒体対照群と抽出物投与群との2群間で比較した。2群間比較検定はF検定による等分散性の検定を行い、等分散の場合はStudentのt検定、不等分散の場合はAspin-Welch検定を行った。有意水準は危険率1%とした。有意差検定には、市販の統計プログラム(SASシステム、SAS Institute Japan株式会社)を使用した。結果を表1及び図1に示す。表1及び図1に示すように、自発的交替行動率について、偽手術群に比べて媒体対照群が低い値となり、有意差が認められた(p<0.01)。媒体対照群に比べて抽出物A投与群の自発的交替行動率が高い値となり、有意差が認められた(p<0.01)。また、媒体対照群に比べて抽出物W投与群の自発的交替行動率が高い値となり、有意差が認められた(p<0.05)。
【0086】
【表1】

図1