IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 MTGの特許一覧

特許7602320化粧品用組成物及びその組成物を配合した化粧品
<>
  • 特許-化粧品用組成物及びその組成物を配合した化粧品 図1
  • 特許-化粧品用組成物及びその組成物を配合した化粧品 図2
  • 特許-化粧品用組成物及びその組成物を配合した化粧品 図3
  • 特許-化粧品用組成物及びその組成物を配合した化粧品 図4
  • 特許-化粧品用組成物及びその組成物を配合した化粧品 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】化粧品用組成物及びその組成物を配合した化粧品
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20241211BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019535162
(86)(22)【出願日】2018-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2018029103
(87)【国際公開番号】W WO2019031390
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-07-05
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2017155142
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599083411
【氏名又は名称】株式会社 MTG
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 剛
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】冨永 保
【審判官】小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-34527(JP,A)
【文献】特開2012-102049(JP,A)
【文献】特開2014-198670(JP,A)
【文献】特開2017-14161(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105875954(CN,A)
【文献】特開2010-259428(JP,A)
【文献】特開2007-204447(JP,A)
【文献】特開2023-75273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/90
A61Q1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項7】
前記クチクラ層抽出物は、抗酸化作用及び水蒸気透過率抑制作用を有することを特徴と する、請求項6に記載の化粧品用組成物。
【請求項8】
化粧品の重量を100%としたときに、請求項6又は7に記載の化粧品用組成物が、0.005~5重量%の範囲内で配合されたことを特徴とする、化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椿の葉からの抽出物に関する。より詳細には、椿の葉の表面に存在するクチクラ層からの抽出物に関する。
【背景技術】
【0002】
椿は、チヤ又はサザンカと同じツバキ属(genus Camellia)に属する照葉樹であり、野生種はヤブツバキと称される。椿のなかでも、伊豆諸島及び利島(東京都)、伊豆(静岡県)、五島列島の福江島(長崎県)、佐渡島(新潟県)産のものが有名である。
【0003】
椿の種子はオレイン酸等の油分を含み、この種子から得られる椿油は、古来、髪油、食用油等に用いられてきた。その他に、医薬品、塗料等の原料としても用いられている。これに対し、椿の葉は、落葉の灰が釉薬として、また、紫染の媒染剤として使用されているが、それ以外の用途は殆ど知られていなかった。
【0004】
こうした椿の葉を有効利用すべく、三番茶葉とツバキの葉を9:1の割合で混合した発酵茶(以下、「混合茶」という。)が製造され、上記混合茶は、血清トリグリセリド及びリン脂質濃度を低下させることが報告されている(非特許文献1、以下、「従来例1」という。)。
【0005】
また、近年、ヤブツバキに強力な抗アレルギー・抗炎症作用があることが報告されており、脱顆粒阻害物質としてラグ酸配糖体である「オキカメリアシド」、抗酸化物質としてクエルセチン配糖体「カメリアノシド」等が含まれていることが報告されている。また、ツバキ葉の煎じ液は消化管出血に効果があるとされ、沖縄で古くから飲用されているが、葉から得られたメタノール抽出物について科学的な安全性の検証が行われ、報告されている(非特許文献2参照、以下、「従来例2」という。)。
【0006】
陸生植物の葉や体の外側は、水を通さない脂溶性の化合物で形成された層で覆われている(図1(A)参照)。まず、葉面の一番外側にはワックスだけの層(ワックス層)がある。ここに存在する前記ワックスは、結晶構造からアモルファス構造まで様々な状態で存在している。
【0007】
次に、前記ワックス層の下には、細胞壁の上に形成されている「クチクラ層」と呼ばれる脂溶性物質を多く含む層がある。前記クチクラ層は、風雨、乾燥、紫外線、病原菌などの外部環境から陸生植物の葉や体を保護するという役割を果たしている。
【0008】
そして、前記クチクラ層は、上部層と下部層の2層にさらに分けることができる。ここで、前記上部層は全部脂性の物質で構成され、完全にクチクラ化されている。これに対し、前記下部層はクチンを主体とする層であり、全部脂性の物質で構成されているわけではなく、細胞壁の炭水化物繊維が伸びて入り込んでいることもある。ここで、クチンは不飽和脂肪酸の重合体であり、ワックス(ここでは、植物性ワックスをいう。)は脂肪酸エステルであることが知られている(非特許文献3及び4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】https://www.pref.nagasaki.jp/e-nourin/nougi/topic/tsubakikongou/H21-56.pdf
【文献】日本食品科学工学会誌 第55巻第8号379頁~383頁 2008年8月
【0010】
【文献】https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1969
【文献】http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~algae/BotanyWEB/leaf3.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来例1の混合茶は、三番茶葉とツバキの葉を9:1の割合で混合して製造されており、この茶葉からの熱水抽出物が上記のような効果を有する点で優れたものである。しかし、ここでは、椿の葉を茶という飲料の原料として使用しているため、その際の抽出に使用する溶媒は、熱水となる。このため、脂溶性の高い溶媒で抽出することについては、全く検討されていない。
【0012】
また、従来例2は、ヤブツバキが含有するアレルギー・抗炎症作用を有する複数の配糖体に関するものである。植物等から薬理効果を有する化合物を抽出しようとする場合、メタノール、酢酸エチル等、水と相溶性のある有機溶媒(親水性の有機溶媒)を用いることが一般的である。そして、従来例2で得られた上記のような薬理効果を有する化合物は、メタノールで抽出された抽出物に含まれる親水性の配糖体である。
【0013】
このため、椿の葉のメタノール抽出物についての安全性の検証を行っている。従来例2は、メタノール抽出物の安全性を検証した点で優れた発明であるが、椿の葉を脂溶性の高い溶媒で抽出して抽出物を得ることについては全く考慮されていない。
【0014】
すなわち、これまで、ツバキの葉に含まれる親水性成分については利用が図られてきたものの、ツバキの葉の特徴でもある、葉の表面に形成されているクチクラ層の構成成分については、あまり研究されておらず、その用途もほとんど知られてきていないため、ツバキの葉という天然素材の十全な有効利用が図れないという問題があった。
【0015】
本発明は、上記のような事情を鑑みてなされたものであり、これまで有効利用されてこなかったツバキの葉の表面に存在するクチクラ層に着目し、前記クチクラ層を構成するワックス等の成分を脂溶性溶媒で抽出して得られた抽出物を用いることにより、ツバキの葉の十全な有効利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の発明者等は、以上のような状況の下で鋭意研究を進め、ツバキの葉のクチクラ層から得られた抽出物(以下、「ツバキ葉ワックス」ということがある。)の有する作用を発見して、本発明を完成したものである。
【0017】
すなわち、本発明のある態様は、炭化水素系溶剤である脂溶性溶媒によるツバキの葉の 抽出物であって、クチクラ層抽出物を含む、化粧品用組成物である。ここで、前記ツバキは、自生種及びその園芸品種から成る群から選ばれるいずれかのものであることが好ましい。
【0018】
前記自生種としては、ヤブツバキ(Camellia japonica)、ユキツバキ(Camellia japonica)及びヤクシマツバキ(Camellia japonica var. macrocarpa)からなる群から選ばれるいずれかのものであることが好ましい。
【0019】
前記園芸品種としては、Camellia japonica ‘Kamo-hon-nami’(加茂本阿弥)、Camellia japonica ‘Tarokaja’(太郎冠者)、Camellia japonica ‘Tama-no-ura’(玉之浦)、Camellia japonica ‘Tama-gasumi’(玉霞)、Camellia japonica ‘Moshio’(藻汐)、Camellia japonica ‘Ezonishiki’(蝦夷錦)、Camellia japonica ‘Soushiarai’(草紙洗)、Camellia japonica ‘Bokuhan’(卜伴)、Camellia japonica ‘Hishi-karaito’(菱唐糸)、及びCamellia japonica ‘Murage’(村下)からなる群から選ばれるいずれかのものであることが好ましい。また、前記ツバキの葉は、生の葉又は自然乾燥された葉のいずれかであることが好ましい。
【0020】
前記脂溶性溶媒は炭化水素系溶剤であり、n-ヘキサン、シクロヘキサン、イソヘキサン、メチルシクロヘキサン、ノルマルペンタン、イソオクタン、スクワラン、及び流動パラフィンから成る群から選ばれるいずれかの溶剤であることが好ましく、n-ヘキサンであることがさらに好ましい。また、前記クチクラ層抽出物は、前記脂溶性溶媒で抽出された抽出物を、濃縮したものであることが好ましい。さらに、前記クチクラ層抽出物は、抗 酸化作用及び水蒸気透過率抑制作用を有することが好ましい。
【0021】
本発明の別の態様は、上記化粧品用組成物が所定の量で配合された化粧品である。ここで、前記化粧品は、スキンローション、乳液、クリーム、洗顔用フォーム、クレンジングフォーム、ジェル、毛髪用ローション、毛髪用ジェル、毛髪用クリーム、及びリップクリームから成る群から選ばれるいずれかの化粧品であることが好ましい。
【0022】
前記所定の量は、前記組成物が配合された化粧品の重量を100%としたときに、0.005~5重量%の範囲内であることが好ましい。
【0023】
前記自生種、園芸品種及び前記ツバキの葉については、上述した通りのものであることが好ましい。また、前記脂溶性溶剤についても、上述した通りのものであることが好ましい。前記クチクラ層抽出物は、前記脂溶性溶媒で抽出された抽出物を、濃縮したものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ツバキの葉という天然素材から脂溶性の溶媒を用いて抽出した脂溶性成分を含む抽出物を、有効利用することができる。また、脂溶性の溶媒では、水溶性の成分は抽出されないため、その後に水溶性成分をさらに抽出することもでき、ツバキの葉の十全な有効利用を図ることができる。
また、このようにして得られたヤブツバキのクチクラ層抽出物を含む化粧品用組成物を配合することによって、保存性が高く、製品の品質が低下しにくい化粧品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、ヤブツバキの葉の表面の状態を示す。図1(A)は、ヤブツバキの葉の表面が水をはじくことを示している。また、図1(B)及び(C)は、ヤブツバキの葉の裏側の構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図2図2は、ヤブツバキの葉の横断面を示す模式図である。
【0026】
図3図3は、ツバキ葉ワックスの紫外線吸収を検討した試験結果を示すグラフである。
図4図4は、ツバキ葉ワックスのIRスペクトルを示すグラフである。
図5図5は、水蒸気の透過量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明においては、ツバキの葉をクチクラ層抽出物(ツバキ葉ワックス)の原料として使用する。抽出原料である前記ツバキの葉は、日本国内に自生する自生種又は園芸品種のいずれをも使用することができる。
【0028】
ここで、自生種とは、栽培に依らず、自然の状態で生活し続ける植物をいい、自然の状態で作物の品種間、種間交雑等が行われるものをいう。
【0029】
また、園芸品種とは、交配、選抜等を行なって、人為的に作り出した植物の品種をいう。形質が固定された場合には、その形質は次の世代に引き継がれるが、雑種第1代(F1)の場合には、その形質は1代限りとなり、次の世代には引き継がれない。
【0030】
ヤブツバキの葉は、図1(A)に示すように、葉の表面で水をはじく。そして、葉の裏側を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すると、図1(B)及び(C)のような顕微鏡像を得ることができる。図1(B)のスケールは100 nm、図1(C)のスケールは10 nmである。図1(C)では、右下部分にワックスが潰れて光って見える部分があることが示されている。
【0031】
ヤブツバキの葉の横断面は、図2に示す通りである。ここで、紙面の上方向(左側)が葉の表側、下方向(右側)が葉の裏面を表すようになっている。ヤブツバキの葉の構造は、葉の表側から、クチクラ層、その下に上面表皮、その下に柵状組織、その下に海綿状組織があり、下面表皮、クチクラ層となっている。海綿状組織の中には葉の維管束が配置されている。また、葉の裏面には、所々に気孔が点在している。
【0032】
ここで、表皮は、気孔以外の場所からの水分の蒸散を防ぐ役割を有している。また、柵状組織は、他の植物とは異なって細長い形をした細胞がびっしりと密に並んだ二層構造となっており、葉による光合成の大部分を行なっている。このため、葉緑体が細胞膜に沿って多数並んだ構造となっている。
【0033】
また、海綿状組織は、気孔を通じたガス交換を行うために、空気間隙(細胞間隙)が多く、細胞が不規則に配列された構造となっている。海綿状組織中にも葉緑体が含まれている。また、海綿状組織中に配置されている維管束に、柵状組織で合成された種々の物質が送り込まれ、植物体の維持等に使用される。
【0034】
自生種の例としては、ヤブツバキ、その変種であるユキツバキ(Camellia japonica)及びヤクシマツバキ(Camellia japonica var. macrocarpa)を挙げることができる。ユキツバキは日本海側等の多雪地帯に適応した変種であり、ヤクシマツバキは屋久島、沖縄等の島に適応した変種である。
【0035】
園芸品種としては、Camellia japonica ‘Kamo-hon-nami’(加茂本阿弥)、Camellia japonica ‘Tarokaja’(太郎冠者)、Camellia japonica ‘Tama-no-ura’(玉之浦)、Camellia japonica ‘Tama-gasumi’(玉霞)、Camellia japonica ‘Moshio’(藻汐)、Camellia japonica ‘Ezonishiki’(蝦夷錦)、Camellia japonica ‘Soushiarai’(草紙洗)、Camellia japonica ‘Bokuhan’(卜伴)、Camellia japonica ‘Hishi-karaito’(菱唐糸)、及びCamellia japonica ‘Murage’(村下)等を挙げることができる。
【0036】
これらのツバキの葉は、剪定後等に得られる生葉を使用してもよく、生葉を乾燥させた乾燥葉(以下、「乾燥ツバキ葉」という。)のいずれを使用してもよい。
【0037】
上記のようなツバキの葉は、例えば、粉砕機、マルチカッター等を用いて、約0.1~2mm角に切断する。切断したツバキ葉は、後述する脂溶性溶媒での抽出に供する。溶媒抽出に使用しない葉は、冷暗所に保存する。
【0038】
以下に、加熱乾燥した乾燥葉を用いた場合を例に挙げて説明する。約0.1~2mm角に切断された乾燥葉を所望の量、例えば、100 gを秤量して、容量約2Lのビーカー型の容器に入れ、ここに、乾燥葉重量の約9倍容の所望の脂溶性の溶媒、例えば、n-ヘキサンを約900 mL加えて、40℃で振盪しながら、室温にて約2時間抽出する。
【0039】
抽出終了後、上記容器の内容物を、例えば、直径約300 mmのブフナー漏斗上に移して、固形分と抽出液とを濾別する。その後、得られた抽出液を、例えば、水浴をセットしたロータリーエバポレーターで濃縮し、クチクラ層抽出物(ツバキ葉ワックス)を得ることができる。得られたクチクラ層抽出物(ツバキ葉ワックス)には、脂肪酸エステル等が含まれている。
【0040】
以上のようにして得られたツバキ葉ワックスを、各化粧料に配合してスキンローション、乳液、クリーム、洗顔フォーム、クレンジングフォーム、ジェル、毛髪用ローション、毛髪用ジェル、毛髪用クリーム、及びリップクリーム等の化粧品に、所定の量で配合する。例えば、前記化粧用組成物(ツバキ葉ワックス)を配合した化粧品の重量を100%としたときに、前記化粧品中の前記化粧品用組成物(ツバキ葉ワックス)の含有量は、約0.01~約10重量%の範囲であることが好ましい。
【0041】
前記所定の配合量を約0.01~約10重量%としたのは、以下の理由による。まず、約0.01重量%未満では化粧品の酸化による品質の低下を十分に防止することができない。逆に、約10重量%を超えても化粧品の酸化による品質の低下の防止効果は、それ以上向上せず、また、化粧品の使用感も低下するからである。抗酸化効果と使用感とのバランスからみて、約0.1~約1%であることがさらに好ましい。
【0042】
以上のようにして得られたツバキ葉ワックスの性質については、抗酸化試験、紫外吸光測定等によって確認することができる。抗酸化試験は、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を陽性対照とし、適当な植物ワックスを使用した場合に、スクワレンの酸化をどの程度抑制できるかを比較することで、その活性の強さを確認することができる。
【実施例
【0043】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、必ずしもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)抗酸化作用の検討
(1)実験材料及び試薬
ヤブツバキの葉は、長崎県五島市で2017年2月に採取し、60~70℃で加熱乾燥し、約0.15 mm角に裁断した。
【0045】
n-ヘキサン、トリクロロ酢酸、エタノール、ブタノール、及び塩酸は、米山薬品工業(株)より購入した。チオバルビトール酸(以下、「TBA」ということがある。)、スクワレンは、ナカライテクス(株)より購入した。対照試料であるキャンデリラワックスは横関油脂工業(株)、ジブチルヒドロキシトルエン(以下、「BHT」と略す。)は、和光純薬工業(株)より購入した。
【0046】
TBA試薬として、0.375 %チオバルビトール酸、15 %トリクロロ酢酸、2%エタノールを含む0.25 N塩酸を調製した。また、乾燥ツバキ葉100 gを取り、9倍容のn-ヘキサンを加えて、42℃にて2時間抽出し、定性濾紙No. 131を用いて濾過した。
【0047】
濾液を1,000 mLのナス型フラスコに入れて、40℃の水浴中で、ロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮した。被験物質である「ツバキ葉クチクラ層抽出物」(以下、「クチクラ層抽出物」又は「ツバキ葉ワックス」ということがある。)の収率は、2%であった。得られた濃縮液を「クチクラ層抽出物」として、以下の実験に用いた。
【0048】
(2)クチクラ層抽出物の抗酸化作用の検討
スクワレンを加熱酸化した際の、クチクラ層抽出物、キャンデリラワックス、又はBHT抗酸化効果を評価した。すなわち、スクワレン1mLに、下記表1に示す濃度となるようにクチクラ層抽出物、キャンデリラワックス、又はBHTをそれぞれ溶解させて検体とし、50℃で24時間静置した。コントロールとして、スクワレン1mLを使用した。
【0049】
次いで、上記の各検体から0.1 mLをガラス製の試験管に取り、ここに、1 mLのエタノール、1mLのTBA試薬を加えて振り混ぜ、これらの混合物を100℃にて60分間加熱した。その後、これらの試験管を氷浴中に置いて室温まで冷却させ、各試験管に2mLのブタノールを加えてよく振り混ぜて混合し、静置した。各試験管の上澄み液を取り、535 nmの吸光度を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1より、スクワレンの酸化による赤色反応物の生成が、クチクラ層抽出物によって抑制されていることが示された。クチクラ層抽出物(ツバキ葉ワックス)は、キャンデリラワックスと同じ0.05%においても、キャンデリラワックスより6倍以上強く、さらに1/10の濃度とした場合でも、倍以上の効果を示した。また、0.10%ではBHTと同程度であることが示された。
以上より、クチクラ層抽出物は、強い抗酸化作用を有することが確認された。
【0052】
(実施例2)クチクラ層抽出物の分析
(1)抗紫外線作用の検討
分光光度計を用いて、実施例1(1)で得られたクチクラ層抽出物が紫外線吸収効果を有するか否かを確認した。クチクラ層抽出物を、0.1%(w/v)となるように、n-ヘキサンに溶解させて、260~450 nmの吸光度の変化を確認した。結果を図3に示す。
【0053】
図3に示すように、クチクラ層抽出物では、280~380 nmの範囲にはピークが見られず、紫外線吸収効果があることは確認できなかった。
【0054】
以上より、クチクラ層抽出物は、単独で強い抗酸化作用を有するが、紫外線吸収作用はないことが確認された。
【0055】
(2)クチクラ層抽出物の成分分析
クチクラ層抽出物を赤外吸収(IR)分析に供し、図4に示すスペクトルを得た。図4に示すIRスペクトルから、クチクラ層抽出物はエステル系ワックスを含むものと考えられた。
【0056】
ツバキ葉のクチクラ層に脂肪酸が含まれているかどうかを確認するために、ツバキ葉ワックス1 gをヘキサン50 mLに溶解し分液漏斗に入れ、0.1 mol/L水酸化ナトリウム50mLを入れシェイキングし静置させ、水層をビーカーに回収した。ヘキサン層に0.1 mol/Lの水酸化ナトリウムを50mL加え、シェイキングした後に静置し、水相を回収した。この操作を2回行った。回収した水相を分液漏斗に移し、1mol/LのHClを適量加えてpHを酸性にした。50mLのヘキサンを加えてシェイキングした後に静置し、ヘキサン相を回収した。水相はまた分液漏斗に戻し、ヘキサンとシェイキングした後に静置し、油相(ヘキサン相)を回収した。この操作を計2回行った。回収した油相に適量の硫酸ナトリウム(無水)を加えて脱水した。この液をろ紙(TOYO No. 131)でろ過し、減圧化で溶媒を除去して秤量した結果、0.005 gの脂肪酸が得られた。このため、脂肪酸の含有量は少量であると考えられた。
【0057】
(実施例3)皮膚のバリア性評価
皮膚の乾燥防止用化粧料として上記クチクラ抽出物が使用できるかどうかを検討するために、皮膚からの水蒸気の蒸発をどの程度抑制する効果(皮膚のバリア効果)があるか否かを検討した。
ろ紙(TOYO No. 131)を皮膚の角質層のモデルとし、上記スチレン及び/又はスチレン誘導体クラスタリング抽出物を含む組成物をろ紙に浸漬させ、水蒸気の蒸発の抑制効果を測定した。(この記載でよいかどうかについて、ご確認願います。)
【0058】
下記の表2に示す濃度になるように、実施例1で得られたクチクラ層抽出物を流動パラフィンで希釈して試料1~4を調製した。調製した試料は、上記ろ紙に0.170 gをスポイトを用いて浸漬させた。
【0059】
陽性対照には、試料と同量の流動パラフィンを浸漬させた濾紙を使用した。陰性対照には、ろ紙のみを使用した。これらを、5gの塩化カルシウム(富士フィルム和光純薬(株)製)を20 mLのガラス製スクリュー瓶(ラボランスクリュー管瓶 No. 5、アズワン9-852-07)に入れ、これらの重量を測定した。
【0060】
次いで、試料1~4、陽性対照及び陰性対照で、各スクリュー瓶の口をすっぽりと覆い、25℃、湿度80%の条件で静置した。
上記の各スクリュー瓶を、静置開始時に重量を測定した。その後、24時間後、及び48時間後に重量を測定し、試料1~4、陽性対照及び陰性対照のろ紙を通して、各スクリュー瓶内の塩化カルシウムが吸収した水蒸気の量を測定した。
【0061】
結果を表2に示す。陰性対照(上記クチクラ抽出物を染み込ませていない乾燥ろ紙)を用いたときに増加した重量を100%とした。陽性対照及び資料1~4の重量を、陰性対照に対する割合(%)で表して水蒸気透過率とし、水蒸気透過率が低いほどバリア効果が高いと判定した。表2に実測値を、表3に透過率をそれぞれ示した。
【0062】
【表2】
*各試料の下段の数字は2つの試料重量の平均値
【0063】
【表3】
【0064】
表2、表3及び図5に示されるように、陽性対照(流動パラフィン)と比べて、塩化カルシウムの重量の増加は、試料1~4(ツバキ葉ワックス含有)で大幅に抑制された。この結果よりツバキ葉ワックスには、水蒸気透過率を抑制する効果があること、及びこの実験で皮膚バリア効果を評価できることが示された。
【0065】
表2に示すように、試料1(クチクラ抽出物濃度は50%)では、24時間後よりも、48時間後の方で水蒸気透過率が低下していた。このことは、本実験では、陰性対照(乾燥濾紙)の重量を基準にして水蒸気透過率を求めたため、陰性対照のろ紙の重量の増加が大きかったことによるものと考えられた。
【0066】
(製造例)
上述したクチクラ抽出物(ツバキ葉ワックス)を含有する化粧品の製造例を下記表3~表5に示す。
【0067】
【表4】

























【0068】
【表5】













【0069】
【表6】
【0070】
以上のようにして、本発明の化粧品用組成物を配合した化粧品を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本願発明は、化粧品の分野で有用である。
図1
図2
図3
図4
図5