(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】チタンキレート化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/41 20060101AFI20241211BHJP
C07C 59/08 20060101ALI20241211BHJP
C07F 7/28 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C07C51/41
C07C59/08
C07F7/28 F
(21)【出願番号】P 2019564685
(86)(22)【出願日】2019-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2019000167
(87)【国際公開番号】W WO2019138989
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2021-12-07
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2018003207
(32)【優先日】2018-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮部 慎介
【合議体】
【審判長】阪野 誠司
【審判官】瀬良 聡機
【審判官】木村 敏康
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/087986(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0328234(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C51/41
C07C59/01
C07F7/28
CAPLUS/REGISTRY/CASREACT STN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンアルコキシドを前記チタンアルコキシドが有するアルキル基の少なくとも一つと同じ炭素数のアルキル基を有する一価のアルコールで希釈して希釈液を得る第一工程と、 前記希釈液と乳酸とを混合してチタンキレート化合物を得る第二工程と、を有し、
第二工程における乳酸の使用量が、前記第一工程で得られた希釈液中のチタンアルコキシド1モルに対して、1.2モル以上3.5モル以下である、
下記一般式(1)で表されるチタンキレート化合物の製造方法。
Ti(R
1)m(L)n ・・・(1)
(式中、R
1は、水酸基を表し、Lは乳酸に
おける水酸基の酸素原子及びカルボキシル基の酸素原子がチタン原子に2座で配位してなる基を表す。mは0以上3以下の数を示し、nは1以上3以下の数を示し、
nが1又は2の場合、m+nは4であり、nが3の場合、m+nは3~4である。)
【請求項2】
前記チタンアルコキシドが、テトラメトキシチタン(IV)、テトラエトキシチタン(IV)、テトラ-n-プロポキシチタン(IV)、テトライソプロポキシチタン(IV)、テトラ-n-ブトキシチタン(IV)及びテトライソブトキシチタン(IV)から選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載のチタンキレート化合物の製造方法。
【請求項3】
前記第一工程における希釈液におけるチタンアルコキシドの濃度が40質量%以上90質量%以下である請求項1又は2に記載のチタンキレート化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載のチタンキレート化合物の製造方法により得られたチタンキレート化合物に水を添加してチタンキレート化合物の水溶液を得るチタンキレート化合物の水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタンキレート化合物の製造方法、特にヒドロキシカルボン酸のチタンキレート化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンキレート化合物は、各種の架橋剤、触媒及び分散剤等、様々な用途で使用されている。チタンキレート化合物としては、クエン酸、酒石酸、乳酸といったヒドロキシカルボン酸又はその塩と、チタンアルコキシド等のチタン化合物との反応により形成されるチタンキレート化合物が知られている。このチタンキレート化合物の生成反応として、特許文献1では、乳酸などのヒドロキシカルボン酸とチタンテトラアルコキシドを水の共存下で反応させたのちアミンアンモニア、苛性ソーダ、炭酸カリ等の塩基を加え中和造塩する方法が記載されている。
特許文献2では、テトライソプロピル・チタン酸塩を石油エーテル(エクスゾールヘプタン)中の乳酸に添加して乳酸のチタン誘導体を得たことが記載されている。特許文献3には、チタンテトライソプロポキシドにエチレングリコールを加え、その後、乳酸アンモニウムを加えて乳酸キレートチタン化合物を得たことが記載されている。また、特許文献4では、乳酸とイソプロピルアルコールを混合した後、チタンイソプロポキシドを滴下してチタンイソプロポキシ乳酸キレートの混合液を得たことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公昭50-5177号公報
【文献】特開平05-246936号公報
【文献】特開2015-17219号公報
【文献】特開2015-36390号公報
【発明の概要】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、ヒドロキシカルボン酸とチタンテトラアルコキシドとを水の共存下で反応させているため、チタンテトラアルコキシドが加水分解を起こしてしまい、所望するチタンとのキレートを得難い問題がある。特許文献2及び特許文献3に記載の方法では、不純成分として石油エーテルやエチレングリコールを使用している。このためこれら文献記載の方法では、目的とするチタンキレート化合物を水含有溶媒等の石油エーテルやエチレングリコール以外の溶媒中で使用したい場合、反応液を濾別して得られた固形物を洗浄、乾燥する必要があるため工程が多くなり、工業的に不利である。特許文献4に記載の方法では、チタンイソプロポキシド1molに対して使用するキレート剤、すなわち乳酸の量が多く、生産性の面で改善の余地がある。また特許文献4に記載の方法では、チタンアルコキシドとヒドロキシカルボン酸とを混合した時に固形分が生じやすく均一になりにくい、イソプロパノールによる発煙が生じやすく、作業がしづらい等という問題もある。
【0005】
工業的に有利な方法でチタンとのキレートを形成させるためには、少ない工程で効率的な反応を促進させる必要があるが、従来技術では未だその要求を達成できていない。
したがって本発明の課題は、前述した従来技術により達成できていない点を解消し得るチタンキレート化合物の製造方法を提供することにある。
【0006】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、原料となるチタンアルコキシドを特定の条件を有する状態とした後にヒドロキシカルボン酸と混合することにより、工業的に有利な条件で、所望のチタンキレートを形成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、チタンアルコキシドを溶媒で希釈して希釈液を得る第一工程、及び、前記希釈液とヒドロキシカルボン酸を混合して混合物を得る第二工程を有する、チタンキレート化合物の製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本実施形態の製造方法は、チタンアルコキシドを溶媒で希釈して希釈液を得る第一工程、及び、前記希釈液とヒドロキシカルボン酸を混合して混合物を得る第二工程を有する、チタンキレート化合物の製造方法に係るものである。
【0009】
本発明において、チタンアルコキシドを、予め溶媒に希釈しておくことが重要である。これにより、特許文献4等のようにヒドロキシカルボン酸を溶媒により予め希釈し、希釈したヒドロキシカルボン酸をチタンアルコキシドと混合する場合に比べて、チタンアルコキシドに対して使用するヒドロキシカルボン酸量を低減させることができる。この理由として発明者は、本発明では、希釈されたチタンアルコキシドとヒドロキシカルボン酸とを均一に混合させやすく、これにより6配位のキレート化合物へと反応が効率よく進みやすい可能性や、チタンアルコキシドの重合体等の副成分が生じにくいことなどが理由ではないかと考えている。また、本発明では、溶媒として、イソプロパノール等の溶媒を使用した場合、チタンアルコキシドと予め混合しておくことで、発煙を抑制させやすいという利点もある。
【0010】
第一工程で使用するチタンアルコキシドとしては、チタン原子に4つのアルコキシ基が配位しているチタンテトラアルコキシドが挙げられる。チタンアルコキシドにおいて配位子であるアルコキシ基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、炭素数4以下であることがヒドロキシカルボン酸との反応性や水溶性キレート剤の合成しやすさの点から好ましい。チタンアルコキシドにおけるアルコキシ基の炭素数は1以上である。チタン原子に配位する4つのアルコキシ基は同一であってもよく、異なってもよいが、同一であることが、チタンアルコキシドの入手容易性の点から好ましい。これらの観点から、チタンアルコキシドは、例えば、テトラメトキシチタン(IV)、テトラエトキシチタン(IV)、テトラ-n-プロポキシチタン(IV)、テトライソプロポキシチタン(IV)、テトラ-n-ブトキシチタン(IV)及びテトライソブトキシチタン(IV)から選ばれる少なくとも一種であることが特に好ましい。
【0011】
溶媒としては、有機溶媒が挙げられる。特にチタンアルコキシドを希釈液として流動性が高い状態で安定的に存在させて、ヒドロキシカルボン酸との反応性を高めることができる点や、目的物であるチタンキレート化合物を水含有溶媒中で分散又は溶解させて使用したいとき等に除去せずに使用できる等の理由から、極性有機溶媒が好ましく、特に、アルコールが好ましい。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンタノール等が挙げられるが、特に炭素数1以上4以下の脂肪族アルコールが、チタンアルコキシドとヒドロキシカルボン酸とを液状態で均一に混合させやすいので反応性を高めやすい点や水溶性キレート剤の合成しやすさの点で好ましい。またアルコールとして、1価のアルコールを用いることが、入手コストの点で好ましい。とりわけ、前記チタンアルコキシドが有するアルキル基の少なくとも一つと同じ炭素数のアルキル基を有する一価のアルコールを用いることがキレート生成物と溶媒との相溶性や分離回収の点で好ましく、前記チタンアルコキシドが有する4つのアルキル基と同じ炭素数のアルキル基を有する一価のアルコールが最も好ましい。これらの溶媒は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0012】
第一工程により得られる、溶媒をチタンアルコキシドと混合させた希釈液中、チタンアルコキシドの割合は、90質量%以下であることが、チタンアルコキシドを流動化させてヒドロキシカルボン酸と混合させやすくする点で好ましい。また希釈液中におけるチタンアルコキシドの割合は、40質量%以上であることが、溶媒及びヒドロキシカルボン酸の使用量を抑制しながら効果的に収率を高める点から好ましい。これらの点から、希釈液中のチタンアルコキシドの量は50質量%以上85質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上80質量%以下であることが特に好ましい。また同様の観点から、希釈液中の溶媒の量はチタンアルコキシド100質量部に対して10質量部以上150質量部以下が好ましく、15質量部以上100質量部以下がより好ましい。
【0013】
希釈液は、溶媒とチタンアルコキシド以外の成分を含有していてもよいが、得られるチタンキレート化合物の純度を高める点などから、溶媒とチタンアルコキシド以外の成分を実質的に非含有であることがより好ましい。具体的には、希釈液中、溶媒及びチタンアルコキシド以外のその他の成分の量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。第一工程におけるチタンアルコキシドの溶媒による希釈は、ヒドロキシカルボン酸の不存在下で行う。
【0014】
溶媒は、水分含量が低いことが、チタンアルコキシドがヒドロキシカルボン酸との反応前に加水分解してしまうことを防止できる点で好ましい。この観点から、溶媒は、水分含量が10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0015】
第二工程で用いるヒドロキシカルボン酸としては、入手の容易性やチタンアルコキシドとの反応性、入手コストの点から、脂肪族ヒドロキシカルボン酸が好ましく挙げられる。例えば、1価のカルボン酸として、乳酸、グリコール酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸が挙げられ、2価のカルボン酸として、タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸が挙げられ、3価のカルボン酸としてクエン酸、イソクエン酸等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸は、α-ヒドロキシカルボン酸であることが、ヒドロキシカルボン酸同士が脱水反応しにくい点で好ましく、α-ヒドロキシカルボン酸の中でも、入手容易性や取扱いのし易さの点から、乳酸、グリコール酸、酒石酸、クエン酸が好ましい。特に室温で溶液となり、チタンアルコキシド希釈液と混合しやすく、容易にチタンキレート化合物が製造できる観点から、乳酸が好ましい。ここでいうヒドロキシカルボン酸としては、ヒドロキシカルボン酸のアミン塩等の塩の形態ではないことが、廃液処理のし易さや着色されにくい点で好ましい。
【0016】
第二工程において、ヒドロキシカルボン酸は、希釈液に対し、該希釈液中のチタンアルコキシド1モルに対して、1モル以上混合させることが、ヒドロキシカルボン酸が配位したチタンキレート化合物を高い収量で得られる点から好ましく、3.5モル以下混合させることが、得られるチタンキレート化合物の過度なオリゴマー化を抑制しつつヒドロキシカルボン酸の使用量を抑制して、生産性を高める点で好ましい。これらの点から、ヒドロキシカルボン酸は、チタンアルコキシド1モルに対して、1.1モル以上3.3モル以下で混合させることがより好ましく、1.2モル以上3モル以下混合させることが更に一層好ましい。
【0017】
本発明においては、高い生産性により効率的にチタンキレート化合物を得るという効果を奏する範囲内において、第二工程において、ヒドロキシカルボン酸以外に、チタンに配位可能な配位子化合物を希釈液に添加してもよい。そのような配位子化合物としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を有するハロゲン原子含有化合物、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、t-ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基等の官能基を有するアミン類、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリス-t-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸以外の、チタンに配位可能な配位子化合物の使用量は、ヒドロキシカルボン酸1モルに対して1モル以下であることが好ましく、0.5モル以下であることがより好ましく、0.3モル以下であることが最も好ましい。なお、第二工程における希釈液とヒドロキシカルボン酸との混合時に、溶媒に希釈されていない追加のチタンアルコキシドの添加は行わない。
【0018】
溶媒とチタンアルコキシドとを混合する第一工程、及び、それにより得られる希釈液とヒドロキシカルボン酸とを混合する第二工程は、いずれも室温下(0℃以上40℃以下)で行うことができる。第一工程及び第二工程は、連続的に行うことが好ましい。
【0019】
第二工程により得られるチタンキレート化合物は、チタン金属原子に、ヒドロキシカルボン酸が1分子以上配位した化合物である。このように、チタン金属原子にヒドロキシカルボン酸が配位したチタンキレート化合物は、水分と混合させた場合でもヒドロキシカルボン酸による配位状態が維持されて重合が抑制されやすい。第二工程により得られるチタンキレート化合物において、ヒドロキシカルボン酸以外の配位子としては、アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基、ホスフィン類等が挙げられ、アルコキシ基が好ましい。このようなチタンキレート化合物としては下記式(1)で示すものが挙げられる。
Ti(R1)m(L)n ・・・(1)
(式中、R1は、アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基又はホスフィン類を表し、複数存在する場合、同一であってもよく、異なっていてもよい。Lはヒドロキシカルボン酸に由来する基を表し、複数存在する場合、同一であってもよく、異なっていてもよい。mは0以上3以下の数を示し、nは1以上3以下の数を示し、m+nは3~6である。)
【0020】
なお第二工程で、ヒドロキシカルボン酸とチタンアルコキシドとの反応により生じるアルコールが、ヒドロキシカルボン酸と更に反応して水が生じる場合がある。一般式(1)のR1で表される水酸基の由来としては、この反応により生じる水が挙げられる。一般式(1)においてチタンの配位数は、Lがs座の配位子(sは正の整数)である場合、m+s×nで表され、6であることが好ましい。
【0021】
R1で表されるアルコキシ基としては、チタンアルコキシドにおける配位子として挙げられたものと同様のアルコキシ基が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。アミノ基としては、例えばメチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、t-ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基等が挙げられる。ホスフィン類としては、例えばトリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリス-t-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。
Lで表されるヒドロキシカルボン酸に由来する基としては、ヒドロキシカルボン酸におけるヒドロキシル基の酸素原子又はヒドロキシカルボン酸におけるカルボキシル基の酸素原子が、チタン原子に配位してなる基が挙げられる。また、ヒドロキシカルボン酸におけるヒドロキシル基の酸素原子及びヒドロキシカルボン酸におけるカルボキシル基の酸素原子が、チタン原子に2座で配位してなる基が挙げられる。これらの中、ヒドロキシカルボン酸におけるヒドロキシル基の酸素原子及びヒドロキシカルボン酸におけるカルボキシル基の酸素原子が、チタン原子に2座で配位してなる基であることが好ましい。mが0の場合はm+nは3であることが好ましく、mが1以上3以下の場合はm+nは4又は5であることが好ましい。
【0022】
第二工程で得られるチタンキレート化合物は、チタン原子同士が酸素原子等を介して結合したオリゴマーなどの重合体を、水溶性を有する範囲で含有していてもよく、実質的に含有しなくてもよい。例えば、当該チタンキレート化合物のモノマーとオリゴマーが等量存在していたとしても、オリゴマーの重合度が低く水溶性を有していれば、本発明の範疇となる。例えば、第二工程で得られるチタンキレート化合物において、式(1)で表されるモノマーと上記オリゴマーとのモル比は、モノマー1モルに対してオリゴマーが1モル以下であることが好ましく、0.8モル以下であることがより好ましく、0.5モル以下であることが更に一層好ましい。
【0023】
前記第二工程の後、得られたチタンキレート化合物及び溶媒の混合物に水を添加してもよい。これにより、チタンキレート化合物の水含有溶媒の分散液又は溶解液を得ることができる。これは、例えば、チタンキレート化合物をその用途に適した形態とする点等から好ましい。とりわけ、本発明の方法によれば、副生物の少ない水溶性チタンキレート化合物を合成しやすく、前記第二工程の生成物と水とを混合することでチタンキレート化合物の透明な水溶液を容易に得ることができる。
第二工程により得られた混合物を、水と混合して得られる化合物としては、上記式(1)で表される化合物が挙げられる。特に式(1)において、少なくとも一つのR1が水酸基である化合物が容易に得やすい。
式(1)の化合物の同定には、NMR、FT-IR、GPC等が挙げられる。
【0024】
第二工程により得られた化合物及び当該化合物を水と混合して得られる化合物のいずれについても、式(1)において、R1で表される配位子としては、水酸基又はアルコキシ基が好ましい。また第二工程で得られた混合物を水と混合して得られる化合物についても、式(1)のLの好ましい基としては上記で第二工程により得られた化合物について挙げたLの好ましい基が挙げられる。
【0025】
第二工程で得られた混合物に水を添加する場合、添加する水の量は、第二工程で得られた混合物100質量部に対して、20質量部以上であることが、R1として表されるアルコキシ基を水酸基に置換する反応を促進する点で好ましく、200質量部以下であることがチタンの濃度を高くする点で好ましい。これらの観点から、水の添加量は前記の混合物100質量部に対して25質量部以上190質量部以下あることがより好ましい。
【0026】
以上の工程により得られたチタンキレート化合物は、各種の架橋剤、触媒及び分散剤等として有用に用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により説明する。しかしながら本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
テトライソプロポキシチタン(IV)7.12gにイソプロパノール3.01gを混合して希釈液を得た。この希釈液にL-乳酸(純度90質量%)5.01gを添加して撹拌することにより乳酸チタンキレートを得た。テトライソプロポキシチタン(IV)の使用量とL-乳酸の使用量とのモル比は約1:2であった。その後、12.59mlの水を添加して撹拌することにより透明な乳酸チタンキレートの水溶液を得た。水溶液にチタンの沈殿が存在しなかったことから、使用したチタンが全て式(1)で表されるキレート化合物となったものと認められる。生成した式(1)で表されるキレート化合物は、m=2、n=2、R1=水酸基であり、Lが、乳酸における水酸基の酸素原子及びカルボキシル基の酸素原子がチタン原子に2座で配位してなる基である化合物を主として含んでいた。上記手順はいずれも室温(25℃)下で行った。
【0029】
(実施例2)
テトライソプロポキシチタン(IV)7.12gにイソプロパノール3.01gを混合して希釈液を得た。この希釈液にL-乳酸(純度90質量%)3.01gを添加して撹拌することにより乳酸チタンキレートを得た。テトライソプロポキシチタン(IV)の使用量とL-乳酸の使用量とのモル比は約1:1.2であった。その後、14.24mlの水を添加して撹拌することにより透明な乳酸チタンキレートの水溶液を得た。水溶液にチタンの沈殿が存在しなかったことから、使用したチタンが全て式(1)のキレート化合物となったものと認められる。生成した式(1)で表されるキレート化合物は、m=3、n=1、R1=水酸基であり、Lが、乳酸における水酸基の酸素原子及びカルボキシル基の酸素原子がチタン原子に2座で配位してなる基である化合物を主として含んでいた。上記手順はいずれも室温(25℃)下で行った。
【0030】
(実施例3)
テトライソプロポキシチタン(IV)7.12gにイソプロパノール3.01gを混合して希釈液を得た。この希釈液にL-乳酸(純度90質量%)7.51gを添加して撹拌することにより乳酸チタンキレートを得た。テトライソプロポキシチタン(IV)の使用量とL-乳酸の使用量とのモル比は約1:3であった。その後10.52mlの水を添加して撹拌することにより透明な乳酸チタンキレートの水溶液を得た。水溶液にチタンの沈殿が存在しなかったことから、使用したチタンが全て式(1)のキレート化合物となったものと認められる。生成した式(1)で表されるキレート化合物は、m=1、n=3、R
1
=水酸基であるか、又はm=0、n=3であり、Lが乳酸における水酸基の酸素原子及びカルボキシル基の酸素原子がチタン原子に2座で配位してなる基である化合物を主として含んでいた。上記手順はいずれも室温(25℃)下で行った。
【0031】
(比較例1)
テトライソプロポキシチタン(IV)7.12gにL-乳酸(純度90質量%)5.01gを添加したところ、粘調な塊となり、その後の操作が不能となった。
【0032】
(比較例2)
本比較例は、特許文献4(特開2015-36390号公報)と同様の手法でチタンキレート化合物を製造した例である。
L-乳酸(純度90質量%)4.0gとイソプロパノール2.8gを混合し、撹拌しながらテトライソプロポキシチタン(IV)2.8gを添加した後、反応熱が無くなるまで撹拌を継続して乳酸チタンキレートを含む混合液を得た。テトライソプロポキシチタン(IV)の使用量とL-乳酸の使用量とのモル比は約1:4であった。得られた混合液に、18.3mlの水を添加して撹拌することにより乳酸チタンキレートを含む水溶液を得た。しかし、イソプロパノールとL-乳酸との混合物にテトライソプロポキシチタン(IV)を混合した際に発煙し、作業が非常に困難であるだけでなく、固形物が発生し、水を添加してもなかなか溶解せず、実施例1~3に比べて撹拌に時間がかかった。具体的には、実施例1~3は水添加後に、チタンキレート化合物が溶解するまでの撹拌時間が60~120分であるのに、比較例2は6時間程度であった。得られた水溶液は茶色がかっており、チタンアルコキシドの重合体等の副生物が生成している可能性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、少ない工程で高い生産性により効率的にチタンキレート化合物を得ることができるため、工業的に有利なチタンキレート化合物の製造方法が提供される。