IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社タムロンの特許一覧

<>
  • 特許-分析装置 図1
  • 特許-分析装置 図2
  • 特許-分析装置 図3
  • 特許-分析装置 図4
  • 特許-分析装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20241211BHJP
【FI】
G01N21/65
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020123128
(22)【出願日】2020-07-17
(65)【公開番号】P2022019347
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】橋本 優介
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-517043(JP,A)
【文献】特開2006-058194(JP,A)
【文献】特開昭48-074891(JP,A)
【文献】特表2009-510473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/958
G01J 3/00-3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光の照射によりサンプルにて散乱された光のうち特定波長よりも長波長側または短波長側の光を選択的に通過させる複数の光学フィルタであって、前記特定波長が互いに異なる複数の光学フィルタと、
前記複数の光学フィルタに含まれるそれぞれの光学フィルタについて、前記複数の光学フィルタに含まれる、その光学フィルタ以外の光学フィルタの作用を受けることなく、その光学フィルタを通過した光の強度を検出する単一または複数の光検出器と、
前記光検出器から出力される信号に基づいて算出された光の強度であって、前記サンプルにて散乱された光において複数の波長帯域の各々に属する光の強度に基づいて、前記サンプルに含まれる物質を特定する制御部と、を備え、
前記複数の光学フィルタには、選択的に通過させる光の波長帯域が重複する光学フィルタが含まれ、前記複数の波長帯域の個数は、前記複数の光学フィルタの個数よりも多い
ことを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記分析装置は、前記サンプルにて散乱された光を分岐して前記複数の光学フィルタに入射させる光分岐路を更に備えている、
ことを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記光検出器は、単一であり、
前記分析装置は、前記サンプルにて散乱された光が前記複数の光学フィルタの何れに入射するかを切り替えるためのターレットを更に備えている、
ことを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項4】
前記光検出器は、複数であり、
前記分析装置は、前記サンプルにて散乱された光が前記複数の光学フィルタの何れに入射するかを切り替えるための回転ミラーを更に備えている、
ことを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項5】
前記制御部のメモリには、予め定められた複数の候補物質について、当該候補物質にて散乱された光において前記複数の波長帯域の各々に属する光の強度が格納されており、
前記制御部は、前記サンプルにて散乱された光において前記複数の波長帯域の各々に属する光の強度を、各候補物質にて散乱された光において前記複数の波長帯域の各々に属する光の強度と比較することによって、前記サンプルに含まれる物質が前記複数の候補物質の何れかであるかを特定する、
ことを特徴とする請求項に記載の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラマン散乱光に基づいて物質を分析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ラマン散乱光に基づいて物質を分析する技術として、分光器を含む分析装置が広く用いられている。このような分析装置においては、サンプルにて散乱された光のスペクトルが分光器を用いて測定される。そして、測定された光のスペクトルから、サンプルが発するラマン散乱光の波長が特定され、ラマン散乱光の波長から、サンプルを構成する物質が特定される。しかしながら、このような分析装置には、分光器を要するため、高価であるという問題があった。
【0003】
このような問題の解決に資する可能性のある技術としては、例えば、特許文献1に記載の光学式ガスセンサが挙げられる。特許文献1に記載の光学式ガスセンサにおいては、サンプルにて散乱された光のうち、干渉フィルタを透過した光のパワーを検出することによって、分光器を用いずにガスに含まれる特定の物質の濃度を測定する構成が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-167497号公報(2013年8月29日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分光器を含む分析装置には、上述したように、高価であるという問題があった。また、特許文献1に記載の光学式ガスセンサには、複数の物質の分析を、同時に行うことが不可能であり、順に行うことも困難であるという問題があった。何故なら、特許文献1に記載の光学式ガスセンサにおいては、濃度を測定しようとする物質を変更する度に干渉フィルタを交換せねばならないからである。
【0006】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、ラマン散乱光に基づいて複数の物質の分析を容易に行うことが可能な分析装置を安価に実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る分析装置は、励起光の照射によりサンプルにて散乱された光のうち特定波長よりも長波長側または短波長側の光を選択的に通過させる複数の光学フィルタであって、前記特定波長が互いに異なる複数の光学フィルタと、前記複数の光学フィルタの何れかを通過した光の強度を検出する単一または複数の光検出器と、前記光検出器から出力される信号に基づいて、前記サンプルに含まれる物質を特定する制御部と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、ラマン散乱光に基づいて複数の物質の分析を容易に行うことが可能な分析装置を安価に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る分析装置の構成を示す模式図である。
図2図1に示す分析装置の第1の変形例を示す模式図である。
図3図1に示す分析装置の第2の変形例を示す斜視図である。
図4図1に示す分析装置の第3の変形例を示す模式図である。
図5図1に示す分析装置の実施例を示すグラフであり、アセトン、エタノール、シクロヘキサン、及びメタノールにて散乱される光のスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.分析装置の概要
本発明の一実施形態に係る分析装置1は、励起光の照射によりサンプルにて散乱される光に基づいて、サンプルに含まれる物質を分析する装置である。サンプルにて散乱される光には、励起光の他に、励起光とは波長の異なるラマン散乱光が含まれる。励起光の波長とラマン散乱光の波長との差は、サンプルに含まれる物質に応じて決まる。したがって、ラマン散乱光の波長を測定すれば、サンプルに含まれる物質を特定することができる。なお、ラマン散乱光には、励起光よりも長波長のストークス光と、短波長のアンチストークス光とが含まれる。分析装置1においては、アンチストークス光よりもパワーの大きいストークス光に基づいて物質の分析を行う。
【0011】
2.分析装置の構成
分析装置1の構成について、図1を参照して説明する。図1は、分析装置1の構成を示す模式図である。
【0012】
図1に示すように、分析装置1は、光源11と、光学系12と、光分岐路13と、光学フィルタ14-1~14-5と、光検出器15-1~15-5と、AD(アナログ/デジタル)コンバータ16と、制御部17とを含む。
【0013】
光源11は、サンプルSに照射する励起光を生成するための構成である。光源11にて生成される励起光の波長は、予め定められた特定の波長である。本実施形態においては、光源11として、レーザダイオードを用いている。
【0014】
光学系12は、光源11にて生成された励起光をサンプルSに導くと共に、サンプルSにて散乱された光を光分岐路13に導くための構成である。本実施形態においては、光学系12として、ミラー121と、ハーフミラー122と、対物レンズ123と、集光レンズ124とにより構成される光学系を用いている。光源11にて生成された励起光は、図1において鎖線で示したように、(1)ミラー121にて反射され、(2)ハーフミラー122にて反射され、(3)対物レンズ123にて集光された後、サンプルSに入射する。一方、サンプルSにて散乱された光は、図1において一点鎖線で示したように、(1)対物レンズ123にてコリメートされ、(2)ハーフミラー122を通過し、(3)集光レンズ124にて集光された後、光分岐路13に入射する。
【0015】
光分岐路13は、サンプルSにて散乱された光を分岐するための構成である。本実施形態においては、光分岐路13として、1本の太径光ファイバ131と、入射端が太径光ファイバ131の出射端に融着された複数本(本実施形態においては5本)の細径光ファイバ132-1~132-5により構成される光分岐路を用いている。上述した光学系12を導かれた光は、(1)太径光ファイバ131に入射し、(2)太径光ファイバ131を導波され、(3)太径光ファイバ131と細径光ファイバ132-1~132-5との融着点において分岐され、(4)細径光ファイバ132-1~132-5の各々に入射し、(5)細径光ファイバ132-1~132-5の各々を導波される。各細径光ファイバ132-i(i=1,2,3,4,5)を導波された光は、対応する光学フィルタ14-iに入射する。なお、太径光ファイバ131と細径光ファイバ132-1~132-5とは、ファイバカプラを介して接続されていてもよい。
【0016】
光学フィルタ14-iは、予め定められたカットオン波長λiよりも長波長の光を選択的に通過させるための構成、又は、予め定められたカットオフ波長λiよりも短波長の光を選択的に通過させるための構成である。本実施形態においては、光学フィルタ14-iとして、カットオン波長λiよりも長波長の光を選択的に通過させるロングパスフィルタ(カットオフ周波数ωiよりも低周波の光を選択的に通過させるローパスフィルタ)を用いている。カットオン波長λ1~λ5は互いに異なり、λ0<λ1<λ2<λ3<λ4<λ5を満たすように定められている。ここで、λ0は、光源11が出射する励起光の中心波長である。光学フィルタ14-iを通過した光は、対応する光検出器15-iに入射する。
【0017】
光検出器15-iは、光学フィルタ14-iを通過した光を、その強度に応じた電気信号に変換するための構成である。本実施形態においては、光検出器15-iとして、アバランシェフォトダイオードを用いている。光検出器15-iから出力された電気信号は、ADコンバータ16に入力される。なお、分析装置1は、各光検出器15-iとADコンバータ16との間に、オペアンプ等により構成された増幅器を含んでいてもよい。この場合、各光検出器15-iから出力された電気信号は、増幅器によって増幅された後、ADコンバータ16に入力される。
【0018】
ADコンバータ16は、光検出器15-1~15-5から出力された電気信号を、デジタル信号に変換するための構成である。ADコンバータ16から出力されたデジタル信号は、制御部17に入力される。制御部17は、ADコンバータ16から出力されたデジタル信号に基づき、サンプルSに含まれる物質を特定するための構成である。本実施形態においては、制御部17として、プロセッサおよびメモリを備えるコンピュータを用いている。なお、各光学フィルタ14-iを通過した光の強度からサンプルSに含まれる物質を特定する方法については、参照する図面を代えて後述する。
【0019】
3.制御部の処理
各光検出器15-iから出力される電気信号は、サンプルSにて散乱された光のうち、対応する光学フィルタ14-iを通過した光の強度、すなわち、カットオン波長λiよりも長波長の光の強度Iiを表す。制御部17は、これらの強度I1~I5に基づいてサンプルSに含まれる物質を特定する。強度I1~I5に基づいてサンプルSに含まれる物質を特定する方法の一例を挙げれば、以下のとおりである。
【0020】
算出ステップ:
制御部17は、光検出器15-1~15-5から出力される電磁信号の表す光の強度I1~I5、すなわち、光学フィルタ14-1~14-5の各々を透過した光の強度I1~I5に基づいて、サンプルSにて散乱された光において複数の波長帯域w1~w15の各々に属する光の強度J1(S)~J15(S)を算出する算出ステップを実行する。本実施形態においては、複数の波長帯域w1~w15として、下表に示すように5個のカットオン波長λ1~λ5から定まる15個の波長帯域w1~w15を用いる。サンプルSにて散乱された光において各波長帯域wk(k=1,2,…,15)に属する光の強度Jk(S)の算出方法は、下表のとおりである。
【表1】
【0021】
特定ステップ:
続いて、制御部17は、算出ステップにて算出された強度J1(S)~J15(S)、すなわち、サンプルSにて散乱された光において複数の波長帯域w1~w15の各々に属する光の強度J1(S)~J15(S)に基づいて、サンプルSを構成する物質を特定する特定ステップを実行する。本実施形態において、制御部17のメモリには、予め定められた複数の候補物質A1,A2,…,Am(mは2以上の自然数)の各々について、その候補物質Aj(j=1,2,…,m)にて散乱された光において波長帯域w1~w15の各々に属する光の強度J1(Aj)~J15(Aj)が格納されている。制御部17のプロセッサは、算出ステップにて算出された光の強度J1(S)~J15(S)を、制御部17のメモリに格納された各候補物質Ajに対応する強度J1(Aj)~J15(Aj)15と比較することによって、サンプルSを構成する物質を特定する。例えば、制御部17のメモリに格納された強度のうち、算出ステップにて算出された光の強度J1(S)~J15(S)との相関係数(より正確には、標本相関係数)が最も大きいもの(最も1に近いもの)が候補物質A1に対応する強度J1(A1)~J15(A1)であれば、サンプルSに含まれている物質を候補物質A1と特定する。或いは、制御部17のメモリに格納された強度のうち、算出ステップにて算出された光の強度J1(S)~J15(S)との相関係数が最も大きいもの候補物質A2に対応する強度J1(A2)1~J15(A1)15であれば、サンプルSに含まれている物質を候補物質A2と特定する。
【0022】
なお、本実施形態においては、5個のカットオン波長λ1~λ5により決まる15個の波長帯域w1~w15の全部について、各波長帯域wkに属する光の強度Jk(S)を算出する構成を採用しているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、5個のカットオン波長λ1~λ5により決まる15個の波長帯域w1~w15の一部について、各波長帯域wkに属する光の強度Jk(S)を算出する構成を採用してもよい。例えば、5個の波長帯域w1,w2,w3,w4,w5に属する光の強度J1(S),J2(S),J3(S),J4(S),J5(S)のみを算出する構成を採用してもよい。この場合、これらの強度J1(S),J2(S),J3(S),J4(S),J5(S)と、メモリに格納さ各候補物質Ajに対応する強度J1(Aj),J2(Aj),J3(Aj),J4(Aj),J5(Aj)とが比較される。或いは、4個の波長帯域w6、w10、w13、w15に属する光の強度J6(S),J10(S),J13(S),J15(S)のみを算出する構成を採用してもよい。この場合、これらの強度J6(S),J10(S),J13(S),J15(S)と、メモリに格納さ各候補物質Ajに対応する強度J6(Aj),J10(Aj),J13(Aj),J15(Aj)とが比較される。また、この比較においては、算出ステップにて算出された強度J1(S)~J15(S)を次元圧縮したものを用いてもよい。次元圧縮の方法としては、主成分分析を用いる方法やマハラノビス距離を用いる方法などが挙げられる。
【0023】
4.分析装置の効果
本実施形態に係る分析装置1によれば、フィルタ交換などの手間を掛けずに、複数の物質の分析を容易に行うことができる。しかも、本実施形態に係る分析装置1は、複数の物質の分析を行うために、分光器を要さない。したがって、本実施形態に係る分析装置1は、分光器を用いた従来の分析装置と比べて安価に実現することができる。
【0024】
5.分析装置の変形例
(変形例1)
上述した分析装置1は、光分岐路13に代えて、光分岐路13Aを含むよう変形可能である。図2は、光分岐路13Aを示す模式図である。
【0025】
光分岐路13Aは、入射端の近傍が束ねられた細径光ファイバ132-1~132-5により構成されており、光学系12から出射された光の光路上に配置されている。光分岐路13Aにおいては、光学系12から出射された光が太径光ファイバ131を介さずに細径光ファイバ132-1~132-5の入射端に入力される。
【0026】
このように変形した分析装置1は、光分岐路13をより容易に構成することができ、さらに安価に実現することができる。
【0027】
(変形例2)
上述した分析装置1は、光分岐路13と複数の光検出器15-1~15-5との組み合わせに代えて、ターレット18と単一の光検出器15との組み合わせを含むよう変形可能である。図3は、ターレット18と単一の光検出器15との組み合わせを示す斜視図である。
【0028】
ターレット18は、光学フィルタ14-1~14-5を支持する円盤状の支持体であり、光学系12から出射された光の光路上に配置されている。ターレット18は、光学系12から出射された光の光軸と平行な軸を回転軸として回転可能である。ターレット18を回転させることによって、光学系12から出射された光が光学フィルタ14-1~14-5の何れに入射するかを切り替えることができる。光学フィルタ14-1~14-5の何れかを通過した光は、光検出器15に入射する。
【0029】
本変形例に係る分析装置1においては、光学系12から出射された光が光学フィルタ14-iに入射するときに光検出器15から出力される電気信号が、サンプルSにて散乱された光のうち、カットオン波長λiよりも長波長の光の強度Iiを表す。これらの強度I1~I5に基づいて制御部17がサンプルSに含まれる物質を特定する手順については、上述した手順と同様である。
【0030】
(変形例3)
上述した分析装置1は、光分岐路13に変えて、回転ミラー19を含むよう変形可能である。図4は、回転ミラー19を示す模式図である。
【0031】
回転ミラー19は、光学系12から出射された光の光路上に配置されている。回転ミラー19は、光学系12から出射された光の光軸と垂直な軸を回転軸として回転可能である。回転ミラー19を回転させることによって、光学系12から出射された光が光学フィルタ14-1~14-5の何れに入射するかを切り替えることができる。各光学フィルタ14-iを通過した光は、対応する光検出器15-iに入射する。
【0032】
本変形例に係る分析装置1においては、光学系12から出射され、回転ミラー19にて反射された光が光学フィルタ14-iに入射するときに光検出器15-iから出力される電気信号が、サンプルSにて散乱された光のうち、カットオン波長λiよりも長波長の光の強度Iiを表す。これらの強度I1~I5に基づいて制御部17がサンプルSに含まれる物質を特定する手順については、上述した手順と同様である。
【0033】
(変形例4)
上述した分析装置1は、光学フィルタ14-1~14-5として、カットオン波長λ1~λ5が中心波長λ0より小さいものを用いるよう変形可能である。この場合、カットオン波長λ1~λ5によって分割される帯域w1~w4は、励起光の中心波長λ0より低波長の帯域となる。したがって、制御部17は、アンチストークス光に基づいて、サンプルSに含まれる物質を特定することになる。
【0034】
(変形例5)
上述した分析装置1は、光学フィルタ14-1~14-5として、カットオン波長λ1~λ5が中心波長λ0より小さいものおよび大きいものの両方を用いるよう変形可能である。この場合、カットオン波長λ1~λ5によって分割される帯域w1~w4のうち、少なくとも何れかは、励起光の中心波長λ0より低波長側の帯域となり、少なくとも何れかは、励起光の中心波長λ0より長波長側の帯域となる。したがって、制御部17は、アンチストークス光およびストークス光の両方に基づいて、サンプルSに含まれる物質を特定することになる。
【0035】
(変形例6)
上述した分析装置1は、光学フィルタ14-iとして、カットオフ波長λ’iよりも短波長の光を選択的に通過させるショートパスフィルタ(カットオフ周波数ω’iよりも高周波の光を選択的に通過させるハイパスフィルタ)を用いるよう変形可能である。カットオフ波長λ’1~λ’5は互いに異なり、λ’0<λ’1<λ’2<λ’3<λ’4<λ’5を満たすように定められている。ここで、λ0は、光源11が出射する励起光の中心波長である。制御部17は、カットオフ波長λ’1~λ’5により決まる15個の波長帯域w’1~w’15について、各波長帯域w’k(k=1,2,…,15)に属する光の強度Jk(S)を算出する。各波長帯域w’kの定義、及び、各波長帯域w’kに属する光の強度J’kの算出方法を一覧すれば、下表のとおりである。
【表2】
【0036】
(変形例7)
上述した分析装置1は、制御部17が、機械学習により生成された学習済みモデルを用いてサンプルSに含まれる物質を特定するよう変形可能である。この場合、制御部17のメモリは、例えば、光学フィルタ14-1~14-5を通過した光の強度I1~I5を入力とし、サンプルSに含まれる物質を出力とする学習済みモデルを記憶する。この場合、制御部17のプロセッサは、この学習済みモデルを用いてサンプルSに含まれる物質を特定する。なお、このような学習済みモデルは、教師あり学習、教師なし学習、または反教師あり学習によって生成し得る。
【0037】
6.実施例
分析装置1の実施例について、図5を参照して説明する。本実施例は、アセトン、エタノール、シクロヘキサン、メタノールを候補物質A1、A2、A3、A4として、サンプルSが候補物質の何れであるかを特定するものである。図5は、波長532nmの励起光を照射したときに、アセトン、エタノール、シクロヘキサン、及びメタノールにて散乱される光のスペクトルを示すグラフである。
【0038】
本実施例においては、まず、λ1を550nm、λ2を570nm、λ3を630nm、λ4を650nm、λ5を710nmとして、各候補物質Ajに対して15個の波長帯域w1~w15(表1参照)に属する光の強度J1(Aj)~J15(Aj)を、図5に示すスペクトルに基づいて算出して制御部17のメモリに保存した。なお、算出にあたっては、(1)波長800nm以上の強度を無視し、(2)各候補物質ついての強度J1(候補物質)~J15(候補物質)をその候補物質についての最大強度で規格化した。算出結果は、下表のとおりであった。
【表3】
【0039】
次に、エタノールをサンプルSとして、サンプルSに波長532nmの励起光を照射した。そして、光検出器15-1~15-5にて検出された光の強度I1~I5から、表1に従って15個の波長帯域w1~w15に属する光の強度J1(S)~J15(S)を算出した。なお、算出にあたっては、(1)波長800nm以上の強度を無視し、(2)強度J1~J15を最大強度で規格化した。算出結果は、下表のとおりであった。
【表4】
【0040】
次に、表4に示すサンプルSについての強度J1(S)~J15(S)と表3に示す各候補物質についての強度J1(Aj)~J15(Aj)との相関係数を算出した。算出結果は、下表のとおりであった。
【表5】
【0041】
表5から明らかなように、サンプルSと強度J1(S)~J15(S)の相関が最も高い候補物質は、エタノールである。このため、制御部17は、サンプルSがエタノールであると判別した。すなわち、制御部17は、サンプルSを構成する物質を正しく特定した。
【0042】
7.付記事項
上述した実施形態および各変形例において、制御部17を、メモリおよびプロセッサを含むコンピュータによって構成する代わりに、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよい。
【0043】
また、制御部17をメモリおよびプロセッサを含むコンピュータによって構成する場合、プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記メモリとしては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0044】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0045】
8.まとめ
本実施形態に係る分析装置は、励起光の照射によりサンプルにて散乱された光のうち特定波長よりも長波長側または短波長側の光を選択的に通過させる複数の光学フィルタであって、前記特定波長が互いに異なる複数の光学フィルタと、前記複数の光学フィルタの何れかを通過した光の強度を検出する単一または複数の光検出器と、前記光検出器から出力される信号に基づいて、前記サンプルに含まれる物質を特定する制御部と、を備えている。
【0046】
上記の構成によれば、フィルタ交換などの手間を掛けずに、複数の物質の分析を容易に行うことができる。しかも、上記の構成によれば、複数の物質の分析を行うために、分光器を要さない。したがって、上記の構成によれば、分光器を用いた従来の分析装置と比べて安価に実現することができる。
【0047】
また、本実施形態に係る分析装置においては、前記サンプルにて散乱された光を分岐して前記複数の光学フィルタに入射させる光分岐路を更に備えている構成を採用することができる。
【0048】
上記の構成によれば、前記サンプルにて散乱された光を効率良く複数の光学フィルタに導くことができる。
【0049】
また、本実施形態に係る分析装置においては、前記光検出器は、単一であり、前記サンプルにて散乱された光が前記複数の光学フィルタの何れに入射するかを切り替えるためのターレットを更に備えている構成を採用することができる。
【0050】
上記の構成によれば、前記サンプルにて散乱された光を効率良く複数の光学フィルタの何れかに導くことができる。しかも、光検出器が単一であるため、分析装置を更に安価に実現することができる。
【0051】
また、本実施形態に係る分析装置においては、前記光検出器は、複数であり、前記サンプルにて散乱された光が前記複数の光学フィルタの何れに入射するかを切り替えるための回転ミラーを更に備えている構成を採用することができる。
【0052】
上記の構成によれば、前記サンプルにて散乱された光を効率良く複数の光学フィルタの何れかに導くことができる。
【0053】
また、本実施形態に係る分析装置においては、前記制御部は、前記光検出器から出力される信号の表す光の強度であって、前記複数の光学フィルタの各々を透過した光の強度に基づいて、前記サンプルにて散乱された光において複数の波長帯域の各々に属する光の強度を算出する算出ステップと、前記算出ステップにて算出された光の強度であって、前記サンプルにて散乱された光において前記複数の波長帯域の各々に属する光の強度に基づいて、前記サンプルに含まれる物質を特定する特定ステップと、を実行する、構成を採用することができる。
【0054】
上記の構成によれば、前記サンプルを構成する物質を精度良く特定することができる。
【0055】
また、本実施形態に係る分析装置においては、前記制御部のメモリには、予め定められた複数の候補物質について、当該候補物質にて散乱された光において前記複数の波長帯域の各々に属する光の強度が格納されており、前記制御部は、前記サンプルにて散乱された光において前記複数の波長帯域の各々に属する光の強度を、各候補物質にて散乱された光において前記複数の波長帯域の各々に属する光の強度と比較することによって、前記サンプルに含まれる物質が前記複数の候補物質の何れかであるかを特定する、構成を採用することができる。
【0056】
上記の構成によれば、前記サンプルを構成する物質が予め定められた複数の候補物質の何れであるかを精度良く特定することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 分析装置
11 光源
12 光学系
13 光分岐路
14-1~14-5 光学フィルタ
15-1~15-5 光検出器
16 ADコンバータ
17 制御部
18 ターレット
19 回転ミラー
S サンプル
図1
図2
図3
図4
図5