(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】電気融着用樹脂管及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 11/12 20060101AFI20241211BHJP
B29C 65/02 20060101ALI20241211BHJP
B29C 48/09 20190101ALI20241211BHJP
B29C 48/18 20190101ALI20241211BHJP
F16L 47/02 20060101ALN20241211BHJP
【FI】
F16L11/12 H
B29C65/02
B29C48/09
B29C48/18
F16L47/02
(21)【出願番号】P 2020138769
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】松尾 怜子
(72)【発明者】
【氏名】西川 源太郎
【審査官】小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-158147(JP,A)
【文献】特開2003-191396(JP,A)
【文献】国際公開第2019/146406(WO,A1)
【文献】特開2012-202451(JP,A)
【文献】特開2011-224897(JP,A)
【文献】特開平09-314767(JP,A)
【文献】特開2004-225821(JP,A)
【文献】特開平05-263984(JP,A)
【文献】特開2007-283582(JP,A)
【文献】特開2016-223525(JP,A)
【文献】特開2005-003137(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0118766(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0154984(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0168479(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/12
B29C 65/02
B29C 48/09
B29C 48/18
F16L 47/02
F16L 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂管本体と、前記樹脂管本体の外面上に存在する難融着層とを有し、
前記樹脂管本体の管軸方向の一部の外面は、電気融着継手の内面との融着に使用される融着予定領域であり、
前記難融着層は、MFRが2.3g/10分未満の樹脂組成物からなり、
前記樹脂組成物に含まれる樹脂がポリプロピレンであり、
前記難融着層は、厚さが550μm以下であり、かつ少なくとも前記融着予定領域に、前記管軸方向に連続して存在する、電気融着用樹脂管。
【請求項2】
前記
ポリプロピレンの溶解パラメータが15.3(J/cm
3)
1/2以上である、請求項1に記載の電気融着用樹脂管。
【請求項3】
前記樹脂管本体の外面を構成する樹脂組成物に含まれる樹脂がポリエチレンである、請求項
1又は2に記載の電気融着用樹脂管。
【請求項4】
前記樹脂管本体と前記難融着層とが共押出し法で成形された、請求項1~
3のいずれか一項に記載の電気融着用樹脂管。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の電気融着用樹脂管を製造する方法であって、前記樹脂管本体と前記難融着層とを共押出し法で成形する、電気融着用樹脂管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気融着用樹脂管、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂管同士の連結に用いる電気融着継手は、熱可塑性樹脂製であり両端部に受口を有する。各受口の内周には発熱体が埋め込まれており、受口に樹脂管の端部を差し込んだ状態で発熱体に通電すると、受口の内周面と、樹脂管の端部の外周面が溶融し、両面が融着することによって、電気融着継手と樹脂管とが接合される。
【0003】
樹脂管の外面には、不純物、酸化劣化物質、添加材のブリードアウト等を含むスキン層が付着している場合がある。スキン層はアセトンで清掃しても除去されず、良好な融着を阻害する。そのため、電気融着の前に樹脂管の端部の外面をスクレイプする必要がある。
【0004】
スクレイプ作業のし忘れを防止する方法として、予め樹脂管の端部の外面に、マーキングを施す方法や、樹脂管と異なる色の識別層を積層する方法が知られている(例えば、特許文献1)。外面をスクレイプするとマーキングや識別層が除去されるため、スクレイプ作業が完了したことを視覚的に確認できる。
しかし、視覚的に確認する方法だけは、スクレイプ作業を忘れ、さらにスクレイプ完了の確認をも怠って、スキン層が存在する樹脂管と電気融着継手の電気融着を実行してしまう可能性は僅かに残る。
【0005】
通常、電気融着が終了した後、樹脂管および電気融着継手の通水空間に水圧を付与して、両者の接合部の漏れの有無を検査(水圧検査)する。樹脂管の端部がスクレイプされていいない場合、水圧検査時に漏水が生じることによって接合部不良を発見できる。しかし、樹脂管の外面状態によっては接合不良が微細となり、水圧検査時に漏水を発見できずに合格の判定を受けてしまう可能性がある。この場合、供用開始後に接合部からの漏水が始まり、さらに時間の経過とともに漏水状況が悪化するおそれもある。
【0006】
そこで特許文献2では、樹脂管の端部の外面に、電気融着時に電気融着継手と融着しない材料からなる融着阻害層を付着させておく方法が提案されている。
この方法では、スクレイプして融着阻害層を除去すれば、樹脂管と電気融着継手とを電気融着することができる。しかし、スクレイプ作業を忘れて電気融着を行うと、融着阻害層が存在する領域では樹脂管と電気融着継手とが融着しないため、水圧検査時に必ず漏水が生じ、接合不良を検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-2794号公報
【文献】特開2019-158147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし特許文献2に記載の方法では、樹脂管の外面に融着阻害層を付着させるために、これらの間に接着層を設ける必要があるため、スクレイプにより除去すべき層の厚みが大きくなるという不都合がある。
本発明は、スクレイプ作業を忘れたことに起因する接合不良を検出できる、新規な電気融着用樹脂管、及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 樹脂管本体と、前記樹脂管本体の外面上に存在する難融着層とを有し、前記樹脂管本体の管軸方向の一部の外面は、電気融着継手の内面との融着に使用される融着予定領域であり、前記難融着層は、MFRが2.3g/10分未満の樹脂組成物からなり、厚さが550μm以下であり、かつ少なくとも前記融着予定領域に、前記管軸方向に連続して存在する、電気融着用樹脂管。
[2] 前記難融着層に含まれる樹脂の溶解パラメータが15.3(J/cm3)1/2以上である、[1]の電気融着用樹脂管。
[3] 前記難融着層に含まれる樹脂がポリプロピレンである、[1]又は[2]の電気融着用樹脂管。
[4] 前記樹脂管本体の外面を構成する樹脂組成物に含まれる樹脂がポリエチレンである、[1]~[3]のいずれかの電気融着用樹脂管。
[5] 前記樹脂管本体と前記難融着層とが共押出し法で成形された、[1]~[4]のいずれかの電気融着用樹脂管。
[6] 前記[1]~[4]のいずれかの電気融着用樹脂管を製造する方法であって、前記樹脂管本体と前記難融着層とを共押出し法で成形する、電気融着用樹脂管の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スクレイプ作業を忘れたことに起因する接合不良を検出できる電気融着用樹脂管、及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る電気融着用樹脂管の一実施形態を示す平面図である。
【
図2】
図1のA-A線に沿う要部拡大横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
熱可塑性樹脂のMFR(メルトマスフローレート)とは、溶融状態にある樹脂の流動性を示す値であり、試験方法はJIS及びISOに規定されている。
例えば、ポリエチレンのMFRは、JIS K 6922-1:2018に規定されており、温度190℃、荷重5.0kgの条件で測定される。また、ポリプロピレンのMFRは、JIS K 6921-2(ISO 19069-2:2016)に規定されており、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0013】
<電気融着用樹脂管>
図1は本実施形態の電気融着用樹脂管の平面図であり、
図2は
図1のA-A線に沿う要部拡大断面図である。
本実施形態の電気融着用樹脂管1(以下、単に樹脂管ともいう)は、樹脂管本体10と、樹脂管本体10の外面上に存在する難融着層11を有する。樹脂管本体10は円筒形で両端に開口10a、10bを有する。
【0014】
電気融着用樹脂管1と電気融着継手(以下、単に継手ともいう)との電気融着では、後述するように、樹脂管本体10の外周面の一部(加熱領域10c)と継手の内周面とが融着する。
樹脂管本体10の管軸方向において、樹脂管本体10の開口10aから、その近傍の加熱領域10cの終端10eまでが、継手の内面との融着に使用される融着予定領域12である。前記管軸方向における樹脂管本体10の開口10aから加熱領域10cの始端10dまでの距離、及び加熱領域10cの始端10dから終端10eまでの距離は、電気融着に使用する継手の構造によって決まる。
【0015】
樹脂管本体10は、例えば、ポリオレフィンを主成分とする樹脂組成物からなる。本明細書において「ポリオレフィンを主成分とする樹脂組成物」とは、ポリオレフィンを50質量%以上含む樹脂組成物を意味する。具体的には、ポリオレフィンの1種以上からなる樹脂組成物、又はポリオレフィンの1種以上と、必要に応じた添加剤とを含む樹脂組成物が例示できる。繊維を含む樹脂組成物を用いてもよい。
前記ポリオレフィンとしては、ポリエチレンが好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)がより好ましい。
本実施形態において、樹脂管本体10は均一な樹脂組成物からなる。組成が異なる2層以上を径方向に積層した構造を有してもよい。
樹脂管本体10の径方向の大きさは、例えば呼び径20~300(外径27~355mm、厚さ3.4~32.2mm)である。
【0016】
樹脂管本体10の外面を構成する樹脂組成物(以下、「樹脂組成物B」ともいう。)に含まれる樹脂はポリエチレンが好ましい。樹脂組成物BのMFRは0.1~2.3g/10分が好ましく、0.2~2.0g/10分がより好ましい。樹脂組成物BのMFRが上記範囲の下限値以上であると成形性に優れ、上限値以下であると難融着層と融着し難い。
本明細書において、ポリエチレンを含む樹脂組成物BのMFRは、JIS K 6922-1:2018に準拠し、温度190℃、荷重5.0kgの条件で測定した値である。
【0017】
本実施形態において、難融着層11は樹脂管本体10の管軸方向に連続する帯状であり、樹脂管本体10の全長にわたって存在する。
難融着層11は、MFRが2.3g/10分未満の樹脂組成物(以下、「樹脂組成物A」ともいう。)からなる層である。前記MFRが2.3g/10分未満であると、難融着層11と継手の内周面とが融着しにくく、水圧検査時に漏水が生じやすい。前記MFRは2.0g/10分以下が好ましい。
【0018】
樹脂組成物Aは、例えば、1種以上の樹脂と、必要に応じた添加剤とを含む樹脂組成物である。添加剤として顔料等の着色成分含んでもよい。
樹脂組成物Aに含まれる樹脂の溶解パラメータは、15.3(J/cm3)1/2以上が好ましく、17.0(J/cm3)1/2以上がより好ましく、19.0(J/cm3)1/2以上がさらに好ましい。前記溶解パラメータが上記下限値以上であると、難融着層11と樹脂管本体10との接着力が弱くなりやすく、両者の界面において剥離が生じやすい。
樹脂組成物Aに含まれる樹脂と、樹脂管本体10の外面を構成する樹脂組成物Bに含まれる樹脂とは異なることが好ましい。両者の溶解パラメータの差の絶対値は、1.0(J/cm3)1/2以上が好ましく、1.5(J/cm3)1/2以上がより好ましく、2.0(J/cm3)1/2以上がさらに好ましく、3.0(J/cm3)1/2以上が特に好ましく、4.0(J/cm3)1/2以上が最も好ましい。前記溶解パラメータの差の絶対値が上記下限値以上であると、難融着層11と樹脂管本体10との接着力が弱くなりやすく、両者の界面において剥離が生じやすい。
例えば、樹脂管本体10の製造に用いるHDPEの溶解パラメータは、高分子データベースより14.8~18.1(J/cm3)1/2である。
【0019】
樹脂組成物Aに含まれる樹脂はポリプロピレンが好ましい。ポリプロピレンは、ホモポリマー(ホモポリプロピレン)でもよく、コポリマー(ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン)でもよい。ポリプロピレンは1種でもよく、2種以上を併用してもよい。樹脂組成物Aがホモポリプロピレンを含むことがより好ましい。
ホモポリプロピレンの溶解パラメータは、15.3~19.0(J/cm3)1/2(文献値、高分子データベース)である。
【0020】
ポリプロピレンを含む樹脂組成物AのMFRは0.3g/10分以上、2.3g/10分未満が好ましく、0.45~2.0g/10分がより好ましい。MFRが上記範囲の下限値以上であると成形性に優れ、上限値以下であると水圧検査時に漏水が生じやすい。
本明細書において、ポリプロピレンを含む樹脂組成物AのMFRは、JIS K 6921-2(ISO 19069-2:2016)に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定した値である。
【0021】
難融着層11の厚さは550μm以下であり、300μm以下が好ましい。難融着層11の厚さが上記上限値以下であると、水圧検査時に漏水が生じやすい。またスクレイプによって容易に除去できる。
難融着層11の厚さの下限値は特に限定されず、ゼロ超である。成形しやすさの点からは5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。
難融着層11の厚さは、樹脂管1の管軸方向に垂直な断面において、樹脂管1の径方向における難融着層11の厚さを測定して得られる。樹脂管1の周方向において難融着層11の厚さが均一でない場合は、最大値を難融着層11の厚さとする。
【0022】
<製造方法>
本実施形態の樹脂管1は、樹脂管本体10と難融着層11とを共押出し法で成形して製造できる。
共押出し法では、樹脂管本体10を構成する樹脂組成物と、難融着層11を構成する樹脂組成物Aを、2台の押出機を用いて同時に押し出し、1つのダイを通過させて積層するとともに所望の形状に成形する。
共押出し法で成形すれば、樹脂管本体10と難融着層11との間に接着層を設ける必要がないため、スクレイプにより除去すべき層の厚みを小さくすることができる。これにより、スクレイプ作業がより安定的に容易にできるようになる。
また共押出し法で成形すれば、成形時の設備や原料のコストを抑制しやすい。また特許文献2に記載の方法に比べて成形温度も高くないため安定的に生産しやすい。
【0023】
<使用方法>
樹脂管1は、樹脂管1どうし、又は他の樹脂管と、電気融着継手を介して接続できる。継手の形状は限定されない。例えば筒形状で、両端に受口を有し、受口の内径が樹脂管本体10の外径に対応する継手を使用できる。
【0024】
継手は、例えば、ポリオレフィンを主成分とする樹脂組成物からなる。具体的には、ポリオレフィンの1種以上からなる樹脂組成物、又はポリオレフィンの1種以上と、必要に応じた添加剤とを含む樹脂組成物が例示できる。
前記ポリオレフィンとしては、ポリエチレンが好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)がより好ましい。
【0025】
継手の内面を構成する樹脂組成物(以下、「樹脂組成物C」ともいう。)に含まれる樹脂はポリエチレンが好ましい。樹脂組成物CのMFRは良好な融着状態が得られやすい点で0.2g/10分以上が好ましく、0.4g/10分以上がより好ましい。上限は融着性能の点で1.5g/10分以下が好ましく、2.0g/10分以下がより好ましい。
本明細書において、ポリエチレンを含む樹脂組成物CのMFRは、JIS K 6922-1:2018に準拠し、温度190℃、荷重5.0kgの条件で測定した値である。
【0026】
難融着層11を構成する樹脂組成物Aに含まれる樹脂と、継手の内周面を構成する樹脂組成物Cに含まれる樹脂とは異なることが好ましい。両者の、溶解パラメータの差の絶対値は、1.0(J/cm3)1/2以上が好ましく、1.5(J/cm3)1/2以上がより好ましく、2.0(J/cm3)1/2以上がさらに好ましく、3.0(J/cm3)1/2以上が特に好ましく、4.0(J/cm3)1/2以上が最も好ましい。前記溶解パラメータの差の絶対値が上記下限値以上であると、電気融着後の難融着層11と継手の内周面との接合力が弱くなりやすく、両者の界面において剥離が生じやすい。
例えば、電気融着継手の製造に用いるHDPEの溶解パラメータは、14.8~18.1(J/cm3)1/2(文献値、高分子データベース)である。
【0027】
電気融着工程は、以下の手順で行うことができる。
予め、樹脂管本体10の融着予定領域12を含む端部をスクレイプして、難融着層11及びスキン層(不純物、酸化劣化物質、添加材のブリードアウト等を含む層)を削り取る。スクレイプ作業は、例えばかんな等の切削具やサンダーなどの研磨具を使用して行うことができる。スクレイプ後、樹脂管本体10の端部をアセトンで清掃して、付着している削り滓等を除去し、電気融着に適した状態にする。
【0028】
スクレイプ作業を終えた樹脂管本体10の端部を、継手の受口に所定の位置まで挿入する。例えば、樹脂管本体10の端部を、受口の内周面から突出する位置決め突起に突き当たるまで挿入する。
次いで、受口の内周面に埋め込まれた発熱体に通電する。通電すると、発熱体が発熱し、発熱体近傍の樹脂組成物が加熱されて溶融する。すなわち受口の内周面の一部と、これに近接する樹脂管本体10の外周面の一部(加熱領域10c)が溶融する。これらの溶融物は熱膨張するため受口内で加圧される。所定時間通電した後、冷却して前記溶融物が固化すると、継手の内周面と樹脂管本体10の外周面とが一体的に接合する。こうして継手と樹脂管1との電気融着が完了する。
電気融着の完了後、水圧検査を行う。水圧検査は、試験水圧1.75MPa、保持時間1分の条件で行うことが好ましい。
【0029】
本実施形態の樹脂管1は、スクレイプ作業をし忘れ、スクレイプ完了の確認も怠って電気融着を行うと(すなわち、融着予定領域12の外面上に難融着層11が存在する状態で電気融着を行うと)、後述の実施例に示すように、水圧検査時に漏水が生じ、接合不良を検知できる。
その理由は以下のように考えられる。難融着層11を構成する樹脂組成物AはMFRが低いため、電気融着時に流動し難く、融着状態が弱くなりやすい。樹脂組成物AのMFRが2.3g/10分未満であると、難融着層11の溶融物と、継手の内周面及び樹脂管本体10の外周面の溶融物とが混じり合い難く、これらが冷却固化した後の接合強度は非常に弱くなると考えられる。また、難融着層11の厚さが550μm以下であると、水圧検査時に難融着層11への応力集中が発生しやすいと考えられる。その結果、スクレイプを行わずに樹脂管1と継手との電気融着を行った状態で水圧検査を行うと、水圧によって融着界面の剥離又は難融着層11の破壊が容易に生じるため、漏水が確実に起こると考えられる。
【0030】
さらに、難融着層11を構成する樹脂の溶解パラメータが15.3(J/cm3)1/2以上であると、樹脂管本体10を構成する樹脂の溶解パラメータとの差が大きくなりやすい。その結果、電気融着時に、難融着層11の溶融物が、樹脂管本体10の外周面の溶融物とほとんど混じり合わず、冷却固化後にこれらの界面で剥離が生じやすい。
また、難融着層11を構成する樹脂の溶解パラメータが15.3(J/cm3)1/2以上であると、継手を構成する樹脂の溶解パラメータとの差が大きくなりやすい。その結果、電気融着時に、難融着層11の溶融物が、継手の内周面の溶融物とほとんど混じり合わず、冷却固化後にこれらの界面で剥離が生じやすい。
【0031】
さらに、難融着層11の色と樹脂管本体10の外面の色が異なっていると、難融着層11が除去されたことを目視で確認できるため、スクレイプ作業の完了を容易に確認できる点で好ましい。
【0032】
なお、本実施形態の樹脂管1は、難融着層11を除去しない状態で、メカニカル継手(パッキン止水、袋ナット締め付け等)による接続にも使用できる。難融着層が薄いため、パッキン等による止水機能を損なわない。
【0033】
本実施形態においては、難融着層11を樹脂管本体10の全長に設けたが、難融着層11は少なくとも融着予定領域12において、管軸方向に連続して存在すればよい。
例えば、樹脂管1を任意の長さに切断して使用する場合は、樹脂管本体10の任意の位置が融着予定領域12となり得るため、樹脂管本体10の全長に難融着層11が連続して存在することが好ましい。一方、樹脂管1を切断しないで使用する場合は、融着予定領域12を含む端部のみに難融着層11を設けてもよい。
樹脂管本体10と難融着層11とを共押出し法で同時に成形しやすい点では、樹脂管本体10の全長に難融着層11が連続して存在することが好ましい。
【0034】
また本実施形態においては、樹脂管本体10の周方向の一部に帯状の難融着層11が存在するが、周方向の全部に難融着層が存在してもよい。
例えば、樹脂管本体10の外面の全面を、難融着層11で被覆してもよい。又は、樹脂管本体10の端部のみに難融着層を設ける場合に、前記端部の全周にわたって難融着層が存在してもよい。
難融着層11を帯状とする場合、周方向における難融着層11の幅は、例えば5mm以上が好ましく、10mm~170mmがより好ましい。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(例1~10)
例1~6は実施例、例7~10は比較例である。
【0036】
難融着層11を構成する樹脂組成物Aと、樹脂管本体10を構成する樹脂組成物B(MFR:0.4g/10分)を用意した。
樹脂組成物Aに含まれる樹脂はホモポリプロピレン(溶解パラメータ:17.0(J/cm3)1/2)であり、樹脂組成物Bに含まれる樹脂は、HDPE(溶解パラメータ:16.4(J/cm3)1/2)である。樹脂組成物Aは黒色に着色し、樹脂組成物Bは青色に着色した。
樹脂組成物Aは、MFRが異なる3種類(下記樹脂組成物A1~A3)を調製した。
樹脂組成物A1:MFRが0.45g/10分。
樹脂組成物A2:MFRが2.0g/10分。
樹脂組成物A3:MFRが2.3g/10分。
【0037】
樹脂組成物Aと樹脂組成物Bを共押出し法で成形し、
図1、2に示す構造の樹脂管1を製造した。
樹脂組成物Bからなる樹脂管本体10は、呼び径50、外径60mm、厚さ5.5mm、長さ5mとした。
樹脂組成物Aからなる難融着層11は、樹脂管本体10の外面の全面を覆うように、樹脂管本体10の全長にわたって連続して設けた。
樹脂組成物Aの種類及び難融着層11の厚さを、表1に示すとおりに変えて10種類の樹脂管1(例1~10)を製造した。
【0038】
各例において、得られた樹脂管(5m)の2本を、スクレイプを行わずに、電気融着継手を介して接合した後、下記の方法で水圧検査を行った。
電気融着継手の内周面を構成する樹脂組成物Cに含まれる樹脂は、HDPE(溶解パラメータ:16.4(J/cm3)1/2)であり、樹脂組成物CのMFRは0.4g/10分であった。
[水圧検査]
前記2本の樹脂管と前記電気融着継手とからなる管路に、1.75MPaの水圧をかけて1分間保持した後、一旦1.0MPaまで減圧した。この水圧を維持したままで3分間経過した後、漏水発生の有無を目視で確認した。
漏水が発生した場合を○、漏水が発生しなかった場合を×として、結果を表1に示す。
【0039】
【0040】
表1に示すように、難融着層を構成する樹脂組成物AのMFRが2.3g/10分未満であり、かつ難融着層の厚さが550μm以下である例1~6は、大量の漏水が発生した。したがって、スクレイプ作業を忘れたことに起因する接続不良を検出できた。
これに対して、樹脂組成物AのMFRが2.3g/10分未満であるが、難融着層の厚さが700μmである例7は、漏水を確認できなかった。
また、難融着層の厚さが550μm以下であるが、樹脂組成物AのMFRが2.3g/10分である例8~10も、漏水を確認できなかった。
【符号の説明】
【0041】
1 電気融着用樹脂管
10 樹脂管本体
11 難融着層
12 融着予定領域