IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 山口精研工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】シリカ分散液、及び研磨剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20241211BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20241211BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20241211BHJP
   C01B 33/14 20060101ALI20241211BHJP
   A01N 35/02 20060101ALN20241211BHJP
   A01P 3/00 20060101ALN20241211BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
C01B33/14
A01N35/02
A01P3/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020176598
(22)【出願日】2020-10-21
(65)【公開番号】P2022067800
(43)【公開日】2022-05-09
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100198856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】原口 哲朗
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-536426(JP,A)
【文献】特開平05-255019(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111321594(CN,A)
【文献】CHE, Jianfei, et al.,Grafting polymerization of polyacetal onto nano-silica surface via bridging isocyanate,Surface and Coatings Technology,Vol.201, No.8,pp.4578-4584 (2007).
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
H01L 21/463
B24B 3/00 - 3/60
B24B 21/00 - 39/06
A01N 1/00 - 65/48
A01P 1/00 - 23/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカと、
ヘミホルマール構造を有する有機化合物で構成される抗菌剤と
を含有し、
磁気ディスク基板の研磨のために用いられる研磨剤組成物の原材料の一成分として使用されるシリカ分散液。
【請求項2】
前記抗菌剤は、
下記の化1の一般式で示されるヘミホルマール構造を有する脂肪族有機化合物である請求項1に記載のシリカ分散液。
【化1】
(化1において、Rは直鎖状、分岐鎖状、または脂環式のいずれかの炭化水素基を示し、当該炭化水素基における炭素原子の一部が窒素原子及び/または酸素原子で置換された構造のものを含む)
【請求項3】
前記抗菌剤は、
下記の化2の一般式で示されるヘミホルマール構造を有する芳香族有機化合物である請求項1に記載のシリカ分散液。
【化2】
(化2において、Rは芳香環を有する炭化水素基を示し、当該炭化水素基における炭素原子の一部が窒素原子及び/または酸素原子で置換された構造のものを含む)
【請求項4】
コロイダルシリカと、
ヘミホルマール構造を有する有機化合物で構成される抗菌剤と
を含有し、
前記抗菌剤は、
下記の化3の一般式で示されるヘミホルマール構造を有する脂肪族有機化合物と、
下記の化4の一般式で示されるヘミホルマール構造を有する芳香族有機化合物と
の組み合わせによって形成されるシリカ分散液。
【化3】
(化3において、Rは直鎖状、分岐鎖状、または脂環式のいずれかの炭化水素基を示し、当該炭化水素基における炭素原子の一部が窒素原子及び/または酸素原子で置換された構造のものを含む)
【化4】
(化4において、Rは芳香環を有する炭化水素基を示し、当該炭化水素基における炭素原子の一部が窒素原子及び/または酸素原子で置換された構造のものを含む)
【請求項5】
磁気ディスク基板の研磨のために用いられる研磨剤組成物の原材料の一成分として使用される請求項4に記載のシリカ分散液。
【請求項6】
請求項1~3及び請求項5のいずれか一項に記載のシリカ分散液と、
水と
を具備し、磁気ディスク基板の研磨のために用いられる研磨剤組成物。
【請求項7】
酸と、
酸化剤と
を更に具備する請求項6に記載の研磨剤組成物。
【請求項8】
ニッケル-リンメッキされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨に用いられる請求項6または7に記載の研磨剤組成物。
【請求項9】
請求項4に記載のシリカ分散液と、
水と
を具備する研磨剤組成物。
【請求項10】
酸と、
酸化剤と
を更に具備する請求項9に記載の研磨剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ分散液、及び研磨剤組成物に関するものである。更に詳しくは、研磨剤や塗料等の原材料の一成分として使用されるシリカ分散液、及び当該シリカ分散液を用いた研磨剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、研磨剤、塗料、触媒担体、或いは、樹脂製品や紙製品の改質剤等の原材料の一成分として、コロイダルシリカ等のシリカ粒子を水等の液体中に分散させたシリカ分散液が使用されている。シリカ分散液は、保存期間中に細菌やカビ等の微生物の発生によって、シリカ分散液自体が着色化したり、シリカ粒子の凝集やゲル化等が生じたりすることがある。
【0003】
このような不具合の発生を防止するために、シリカ分散液の中に抗菌剤を添加することが一般に行われている。しかしながら、抗菌剤の添加によって、研磨剤等の本来の性能が低下することがあった。例えば、研磨剤を構成する研磨剤組成物の一成分としてシリカ分散液を使用した場合、当該シリカ分散液に添加された抗菌剤の影響によって研磨速度が低下したり、研磨後の基板表面のスクラッチが増加したりする等の研磨性能に影響を及ぼす可能性があった。
【0004】
そこで、研磨剤等の本来の機能を損なうことなく、かつ、シリカ分散液に対する抗菌性の効果を十分に発揮することが可能な抗菌剤の開発が求められている。例えば、イソチアゾリン化合物を抗菌剤としてシリカ分散液に添加し、抗菌性の効果を発揮させるとともに、研磨剤における良好な研磨性能を維持することが可能なものが既に提案されている(特許文献1~3参照)。
【0005】
これによると、抗菌剤としてイソチアゾリン化合物である2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを用いることで、抗菌性の効果の発揮と研磨性能の維持とのバランスの調整を図ることがある程度において可能となる(特許文献1参照)。また、特定の構造を有するイソチアゾリン化合物を使用するもの(特許文献2参照)、或いは、5-クロル-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等の防腐剤を研磨剤組成物に添加し、研磨後の基板表面のスクラッチの低減を可能とするもの(特許文献3参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-176733号公報
【文献】特開2016-124977号公報
【文献】特開2003-313542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、イソチアゾリン化合物を抗菌剤として使用し、シリカ分散液に添加したものはある程度の効果は期待することができた。しかしながら、依然として抗菌性と研磨性能とが何れかに偏りが生じることがあり、両者のバランスの調整を図ることが難しいことがあった。そのため、シリカ分散液に添加する抗菌剤についての更なる開発が期待されていた。
【0008】
そこで、本願発明は、上記実情に鑑み、十分な抗菌性の効果を発揮可能であり、かつ、研磨剤等の本来の性能を損なうことなく、研磨速度の低下を抑え、かつ、研磨後の基板表面の状態が良好な抗菌剤を含有してなるシリカ分散液、及び研磨剤組成物の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、抗菌剤としてホルムアルデヒド供与型であるヘミホルマール構造を有する有機化合物を用い、かかる抗菌剤が添加されたシリカ分散液が良好な抗菌性能を発揮し、かつ、研磨剤組成物の原材料の一成分として使用した場合であっても研磨速度等の研磨性能に影響を及ぼすことがないことを見出し、下記に示す本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
[1] コロイダルシリカと、ヘミホルマール構造を有する有機化合物で構成される抗菌剤とを含有し、磁気ディスク基板の研磨のために用いられる研磨剤組成物の原材料の一成分として使用されるシリカ分散液。
【0011】
[2] 前記抗菌剤は、
下記の化1の一般式で示されるヘミホルマール構造を有する脂肪族有機化合物である前記[1]に記載のシリカ分散液。
【0012】
【化1】
(化1において、Rは直鎖状、分岐鎖状、または脂環式のいずれかの炭化水素基を示し、当該炭化水素基における炭素原子の一部が窒素原子及び/または酸素原子で置換された構造のものを含む)
【0013】
[3] 前記抗菌剤は、下記の化2の一般式で示されるヘミホルマール構造を有する芳香族有機化合物である前記[1]に記載のシリカ分散液。
【0014】
【化2】
(化2において、Rは芳香環を有する炭化水素基を示し、当該炭化水素基における炭素原子の一部が窒素原子及び/または酸素原子で置換された構造のものを含む)
【0015】
[4] コロイダルシリカと、ヘミホルマール構造を有する有機化合物で構成される抗菌剤とを含有し、前記抗菌剤は、
下記の化3の一般式で示されるヘミホルマール構造を有する脂肪族有機化合物と、
下記の化4の一般式で示されるヘミホルマール構造を有する芳香族有機化合物と
の組み合わせによって形成されるシリカ分散液。
【0016】
【化3】
(化3において、Rは直鎖状、分岐鎖状、または脂環式のいずれかの炭化水素基を示し、当該炭化水素基における炭素原子の一部が窒素原子及び/または酸素原子で置換された構造のものを含む)
【0017】
【化4】
(化4において、Rは芳香環を有する炭化水素基を示し、当該炭化水素基における炭素原子の一部が窒素原子及び/または酸素原子で置換された構造のものを含む)
【0018】
[5] 磁気ディスク基板の研磨のために用いられる研磨剤組成物の原材料の一成分として使用される前記[]に記載のシリカ分散液。
【0019】
[6] 前記[1]~[及び[5]のいずれかに記載のシリカ分散液と、水とを具備し、磁気ディスク基板の研磨のために用いられる研磨剤組成物。
【0020】
[7] 酸と、酸化剤とを更に具備する前記[6]に記載の研磨剤組成物。
【0021】
[8] ニッケル-リンメッキされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨に用いられる
前記[6]または[7]に記載の研磨剤組成物。
[9] 前記[4]に記載のシリカ分散液と、水とを具備する研磨剤組成物。
[10] 酸と、酸化剤とを更に具備する前記[9]に記載の研磨剤組成物。
【発明の効果】
【0022】
本発明のシリカ分散液は、ホルムアルデヒド供与型化合物であるヘミホルマール構造を有する有機化合物を抗菌剤として含有することにより、十分な抗菌効果を発揮し、長期間においての保存安定性に優れたものとなる。更に、本発明のシリカ分散液を用いた研磨剤組成物は、研磨速度が低下することなく、かつ、スクラッチの低減された基板表面を得ることが可能な優れた研磨特性を備えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0024】
1.シリカ分散液
本実施形態のシリカ分散液は、コロイダルシリカと、ヘミホルマール構造を有する有機化合物で構成される抗菌剤とを含有するものである。ヘミホルマール構造を有する有機化合物は、ホルムアルデヒド供与型の化合物である。シリカ分散液は、磁気ディスク基板を研磨する研磨剤を構成する研磨剤組成物の原材料の一成分として、或いは、塗料や各種改質剤等の種々の用途に使用されるものである。なお、本実施形態のシリカ分散液は、研磨剤組成物の一成分として使用されるものについて説明を行う。
【0025】
本実施形態のシリカ分散液における抗菌剤は、好ましくはヘミホルマール構造を有する脂肪族有機化合物(以下、単に「脂肪族有機化合物」と称す。)、または、好ましくは、ヘミホルマール構造を有する芳香族有機化合物(以下、単に「芳香族有機化合物」と称す。)が使用され、更に好ましくは、上記脂肪族有機化合物及び上記芳香族有機化合物の双方を組み合わせたものが使用される。
【0026】
1.1 コロイダルシリカ
本実施形態のシリカ分散液の一成分として含有されるコロイダルシリカは、平均粒子径(D50)が1~150nmの範囲のものが好ましく、更には平均粒子径(D50)が3~120nmの範囲のものがより好ましい。コロイダルシリカの平均粒子径(D50)が1nm未満の場合、シリカ粒子が凝集しやすくなり、分散状態の安定性が悪くなる。一方、コロイダルシリカの平均粒子径(D50)が150nmを超える場合、研磨後の基板のスクラッチが悪化するおそれがある。ここで、コロイダルシリカの平均粒子径(D50)は、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果に基づいて解析し、算出されたものである(詳細は後述する)。
【0027】
コロイダルシリカは、例えば、球状、金平糖型(表面に凸部を有する粒子状)等の周知の形状のものを使用することが可能であり、水中に一次粒子が単分散してコロイド状を呈するものである。特に、球状、または球状に近似するコロイダルシリカを使用するものが好ましい。球状、または球状に近似するコロイダルシリカを使用することで、研磨後の基板のスクラッチを低減させる効果が期待される。
【0028】
使用されるコロイダルシリカは、従来から周知の製造方法により製造することが可能であり、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸アルカリ金属塩を原料とし、当該原料を水溶液中で縮合反応させることでコロイダルシリカの粒子を成長させる水ガラス法、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランを原料とし、当該原料をアルコール等の水溶性有機溶媒を含む溶媒中で、酸またはアルカリで加水分解し、さらに縮合反応させることでコロイダルシリカの粒子を成長させるアルコキシシラン法、或いは金属ケイ素と水とをアルカリ触媒存在下で反応させてコロイダルシリカを合成する方法等が知られている。なお、製造コストの点において水ガラス法を好適に用いることができる。これらの合成方法等を適宜用いて、本実施形態の研磨剤組成物の使用材料となるコロイダルシリカを製造することができる。
【0029】
本実施形態のシリカ分散液において、シリカ分散液中に含まれるコロイダルシリカの含有量(含有率)は、5~60質量%の範囲であることが好ましく、10~50質量%の範囲がより好ましい。シリカ分散液中のコロイダルシリカの濃度が5質量%未満の場合、シリカ粒子の保存や輸送をコンパクトに行う観点から不利となることが多い。一方、シリカ分散液中のコロイダルシリカの濃度が60質量%超の場合、コロイダルシリカがゲル化しやすくなるおそれがある。そのため、上記範囲にコロイダルシリカの含有率を調整することが好適である。また、本実施形態のシリカ分散液には、コロイダルシリカ以外のシリカ粒子やシリカ以外の固体粒子が共存していてもよい。
【0030】
ここで、本実施形態のシリカ分散液を用いて研磨剤組成物を調製する際には、予めコロイダルシリカの含有量を高濃度に調製したシリカ分散液を用い、当該シリカ分散液を水で希釈することで、コロイダルシリカの含有量を低濃度に低下することが行われる。また、研磨剤組成物を調製する際に、コロイダルシリカ以外のシリカ粒子やシリカ以外の固体粒子を混合してもよい。
【0031】
1.2 ヘミホルマール構造を有する脂肪族有機化合物
本実施形態のシリカ分散液において用いられるヘミホルマール構造を有する脂肪族有機化合物は、ホルムアルデヒド供与型化合物であり、具体的には下記の化1の一般式で示されるものである。
【0032】
【化1】
【0033】
ここで、化1において、Rは直鎖状、分岐鎖状、または脂環式のいずれかの炭化水素基を示し、当該炭化水素基における炭素原子の一部が窒素原子及び/または酸素原子で置換された構造のものを含むものであっても構わない。
【0034】
上記の脂肪族有機化合物の合成は、ホルムアルデヒド水溶液と脂肪族アルコール化合物とを混合することにより、ホルムアルデヒドのカルボニル基へのアルコールの求核付加反応が生じることにより行われる。例えば、エチレングリコールと、ホルムアルデヒド水溶液との反応によって、脂肪族有機化合物の一種である(エチレンジオキシ)ジメタノールを得ることができる。
【0035】
更に、脂肪族有機化合物のその他の例として、n―ブタノールヘミホルマール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールヘミホルマール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオールヘミホルマール、1-オクタノールヘミホルマール、プロピレングリコールヘミホルマール、ジプロピレングリコールヘミホルマール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルヘミホルマール等が挙げられる。
【0036】
ここで、シリカ分散液中の脂肪族有機化合物の含有量は、一般的には1~10,000質量ppmの範囲とすることができ、更に、10~1,000質量ppmの範囲であることが好ましい。脂肪族有機化合物の含有量が1質量ppm未満の場合、シリカ分散液への添加による保存安定性の向上効果を十分に奏することができない。一方、脂肪族有機化合物の含有量が10,000質量ppmを超える場合、シリカ分散液を研磨剤の一成分として使用した場合において研磨速度が低下するおそれを有する。
【0037】
1.3 ヘミホルマール構造を有する芳香族有機化合物
本実施形態のシリカ分散液において用いられるヘミホルマール構造を有する芳香族有機化合物は、ホルムアルデヒド供与型化合物であり、具体的には下記の化2の一般式で示されるものである。
【0038】
【化2】
【0039】
ここで、化2において、Rは芳香環を有する炭化水素基を示し、当該炭化水素基における炭素原子の一部が窒素原子及び/または酸素原子で置換された構造のものを含むものであっても構わない。
【0040】
上記の芳香族有機化合物の合成は、ホルムアルデヒド水溶液と芳香族アルコール化合物とを混合することにより、ホルムアルデヒドのカルボニル基へのアルコールの求核付加反応が生じることにより行われる。例えば、ベンジルアルコールと、ホルムアルデヒド水溶液との反応によって、ヘミホルマール構造を有する芳香族有機化合物の一つである(ベンジルオキシ)メタノールを得ることができる。
【0041】
更に、芳香族有機化合物のその他の例として、ベンジルグリコールヘミホルマール、(ベンジルオキシメトキシ)-メタノール、(4-メチルベンジルオキシ)メタノール、2-フェノキシエタノールヘミホルマール、3-フェノキシ-プロパン-1,2-ジオールヘミホルマール、3-ベンジルオキシ-プロパン-1,2-ジオールヘミホルマール等が挙げられる。
【0042】
ここで、シリカ分散液中の芳香族有機化合物の含有量は、一般的には1~10,000質量ppmの範囲とすることができ、更に、10~1,000質量ppmの範囲であることが好ましい。芳香族有機化合物の含有量が1質量ppm未満の場合、シリカ分散液への添加による保存安定性の向上効果を十分に奏することができない。一方、芳香族有機化合物の含有量が10,000質量ppmを超える場合、シリカ分散液を研磨剤の一成分として使用した場合において研磨速度が低下するおそれを有する。
【0043】
上記の脂肪族有機化合物及び芳香族有機化合物は、それぞれ単独でコロイダルシリカに抗菌剤として添加することで本発明のシリカ分散液とすることができる。更に化1の一般式で示された脂肪族有機化合物と、化2の一般式で示された芳香族有機化合物との双方を組み合わせたものをシリカ分散液に添加する抗菌剤として使用することも可能である。ここで、化1は本発明における化3の脂肪族有機化合物と同一構造のものであり、化2は本発明における化4の芳香族有機化合物と同一構造のものである。このように、脂肪族有機化合物及び芳香族有機化合物の双方を含む混合物を抗菌剤として使用することにより、抗菌性の効果の発揮と、研磨性能の維持とのバランスの調整を更に良好に行うことができる。
【0044】
なお、脂肪族有機化合物及び芳香族有機化合物を組み合わせて抗菌剤として使用する場合、それぞれの混合比率は特に限定されるものではなく、任意に決定することができる。例えば、脂肪族有機化合物と芳香族有機化合物との質量比を10:90~90:10の範囲で調整するものが好ましく、20:80~80:20の範囲で調整するものがより好ましい。かかる範囲に調整することで抗菌性及び研磨性能のバランスがよいシリカ分散液とすることができる。
【0045】
2. 研磨剤組成物
本実施形態の研磨剤組成物は、上記した本実施形態のシリカ分散液を用いたものであり、コロイダルシリカと、ヘミホルマール構造を有する有機化合物(有機脂肪族化合物及び/または有機芳香族化合物)で構成される抗菌剤と、水とを主に含有するものである。
【0046】
本実施形態の研磨剤組成物は、上記構成に加え、更に酸と酸化剤とを含むものが好ましい。なお、抗菌剤を含むシリカ分散液と、水と、酸と、酸化剤とを混合して本実施形態の研磨剤組成物を調製した場合、調製完了からの保存期間はなるべく短い方が好ましく、可能な限り速やかに磁気ディスク基板等の研磨の用に供することが望ましい。研磨剤組成物として調製後の保存期間が長期になると、シリカ分散液に含まれるコロイダルシリカの凝集が進行しやすくなり、研磨性能の低下につながるおそれがある。
【0047】
2.1 酸
本実施形態の研磨剤組成物において、pH値を調整する目的で、或いは任意成分として無機酸、或いは、有機酸からなる酸を用いることができる。
【0048】
更に具体的に説明すると、無機酸としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等が例示される。一方、有機酸としては、グルタミン酸、アスパラギン酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸、リン含有有機酸等を例示することができる。
【0049】
また、有機酸の一種であるリン含有有機酸としては、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α―メチルホスホノコハク酸から選ばれる少なくとも1種以上の化合物を用いることができる。
【0050】
なお、上記に示した酸の化合物の中から2種以上を組み合わせて使用することも好適な実施態様である。例えば、無機酸とリン含有有機酸との組み合わせによる使用がより好ましい。更に具体的に説明すると、無機酸である硫酸と、リン含有有機酸である1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)との組み合わせ、或いは、リン酸と1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸との組み合わせが好適である。
【0051】
なお、研磨剤組成物における酸の濃度は、pH値の調整のために適宜変更される。
【0052】
2.2 酸化剤
本実施形態の研磨剤組成物は、上記の通り、酸化剤を含有することができる。かかる酸化剤は、研磨速度を向上させる効果を奏することが知られている。使用される酸化剤として、過酸化物、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、ハロゲンオキソ酸またはその塩、酸素酸またはその塩、及びこれらを2種以上混合した混合物を用いることができる。
【0053】
更に具体的に説明すると、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、過酸化カリウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸の金属塩、ジクロム酸の金属塩、過硫酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ペルオキソリン酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム等を例示することができる。特に、過酸化水素、過硫酸およびその塩、及び次亜塩素酸およびその塩を使用するものが好ましく、更に過酸化水素の使用がより好ましい。
【0054】
本実施形態の研磨剤組成物において、研磨剤組成物中に含まれる酸化剤の含有量(含有率)は、0.01~10.0質量%の範囲であることが好ましく、0.1~5.0質量%であることがより好ましい。酸化剤の含有量が0.01質量%未満の場合、研磨速度が低下するおそれがある。一方、酸化剤の含有量が10.0質量%超の場合、研磨後の基板表面の表面粗さが悪化するおそれがある。
【0055】
1.3 水
本実施形態の研磨剤組成物は、一般的に高濃度に調製されたシリカ分散液を水で希釈することによって構成され、更に上記の酸や酸化剤が適宜添加される。ここで、使用される水としては、例えば、純水、超純水、及び蒸留水を好適に用いることができる。
【0056】
シリカ分散液に対する希釈倍率は、例えば、研磨剤組成物中におけるコロイダルシリカ濃度に基づいて適宜決定することができる。一例を挙げると、磁気ディスク基板を研磨する際に使用する研磨剤組成物の場合、当該研磨剤組成物中のコロイダルシリカ濃度が0.5~20質量%の範囲、更に好ましくは1~10質量%の範囲となるように一般的に希釈が行われる。
【0057】
コロイダルシリカ濃度が0.5質量%未満の場合、研磨速度が低下するおそれがある。一方、コロイダルシリカ濃度が20質量%超の場合、研磨の安定性が維持できなくなるおそれがある。
【0058】
2. 研磨剤組成物の物性
本実施形態の研磨剤組成物のpH値(25℃)は、0.1~4.0の範囲とすることができる。更に、0.5~3.0の範囲とすることが好ましい。研磨剤組成物のpH値(25℃)を0.1以上にすることにより、研磨後の基板表面の荒れを抑制することができる。一方、研磨剤組成物のpH値(25℃)を4.0以下とすることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0059】
本実施形態の研磨剤組成物は、ハードディスクといった磁気記録媒体(磁気ディスク基板)等の種々の電子部品の研磨に使用することができる。特に、磁気ディスク基板の中でアルミニウム磁気ディスク基板の研磨に好適に用いることができる。更に、無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨により好適に用いることができる。
【0060】
アルミニウム磁気ディスク基板に対する無電解ニッケル-リンめっきの処理は、通常、pH値(25℃)が4~6の範囲の条件下において実施される。ここで、pH値(25℃)が4未満の条件下の場合、ニッケルが溶解傾向に向かうためにめっきがされにくくなる。一方、研磨に関しては、例えば、pH値(25℃)が4.0以下の条件下の場合、研磨速度を高める効果を奏する。
【0061】
3. 磁気ディスク基板の研磨方法
本実施形態の研磨剤組成物は、上記の通り、アルミニウム磁気ディスク基板やガラス磁気ディスク基板等の磁気ディスク基板を研磨する際に好適に使用することができる。特に、無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板(以下、単に「アルミディスク」と称す。)の研磨により好適に使用することができる。
【0062】
本実施形態の研磨剤組成物を用いる研磨方法としては、例えば、研磨機の定盤に研磨パッドを貼付し、研磨対象物であるアルミディスクの研磨表面または研磨パッドのパッド面に研磨剤組成物を供給し、研磨表面に研磨パッドを擦りつける方法(ポリッシング)が知られている。
【0063】
更に具体的に説明すると、アルミディスクのおもて面と裏面とを同時に研磨する場合、上定盤及び下定盤のそれぞれの研磨パッドを貼付した両面研磨機が用いられる。この場合、上定盤及び下定盤に貼付した一対の研磨パッドで研磨対象物であるアルミディスクを挟み込み、研磨表面及び研磨パッドの間に研磨剤組成物を供給しつつ、一対の研磨パッドを同時に回転させることによって、アルミディスクのおもて面及び裏面の研磨を行う。なお、使用する研磨パッドは、例えば、ウレタンタイプ、スウェードタイプ、不織布タイプ、及びその他の周知のものを使用することができる。
【実施例
【0064】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、本発明には、以下の実施例の他にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えることができる。なお、以下に示す研磨剤組成物の調製において、HEDPは、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を示す。
【0065】
(シリカ分散液、及び研磨剤組成物の調製方法)
<実施例1>
・シリカ分散液aの調製
市販のコロイダルシリカスラリー(平均粒子径(D50)=21nm、シリカ濃度=40質量%、抗菌剤含有なし)に対し、市販の(エチレンジオキシ)ジメタノールを50質量ppm添加し、「シリカ分散液a」を調製した。(エチレンジオキシ)ジメタノールは、本発明におけるヘミホルマール構造を有する脂肪族有機化合物に相当する抗菌剤である。なお、コロイダルシリカスラリー及び(エチレンジオキシ)ジメタノールは、当業者においていずれも容易に入手可能な原材料または化合物である(以下、同じ)。
【0066】
・研磨剤組成物Aの調製
調製されたシリカ分散液aを用い、コロイダルシリカ濃度が5.6質量%、硫酸、HEDP、及び過酸化水素の濃度が下記に示す表1に記載された値となるように、更に純水を使用して「研磨剤組成物A」を調製した。調製された研磨剤組成物Aを実施例1の研磨試験に使用した。ここで、硫酸及びHEDPが本発明における「酸」に相当し、過酸化水素が本発明における「酸化剤」に相当する(以下、同じ)。なお、硫酸、HEDP、及び過酸化水素は、当業者においていずれも容易に入手可能な原材料または化合物である(以下、同じ)。
【0067】
<実施例2>
・シリカ分散液bの調製
上記のシリカ分散液aに使用したものと同じ市販のコロイダルシリカスラリーに対し、市販の(エチレンジオキシ)ジメタノールを200質量ppm添加し、「シリカ分散液b」を調製した。
【0068】
・研磨剤組成物Bの調製
調製されたシリカ分散液bを用い、コロイダルシリカ濃度が5.6質量%、硫酸、HEDP、及び過酸化水素の濃度が下記に示す表1に記載された値となるように、更に純水を使用して「研磨剤組成物B」を調製した。調製された研磨剤組成物Bを実施例2の研磨試験に使用した。
【0069】
<実施例3>
・シリカ分散液cの調製
上記のシリカ分散液aに使用したものと同じ市販のコロイダルシリカスラリーに対し、市販の(ベンジルオキシ)メタノールを50質量ppm添加し、「シリカ分散液c」を調製した。(ベンジルオキシ)メタノールは、本発明におけるヘミホルマール構造を有する芳香族有機化合物に相当する。なお、(ベンジルオキシ)メタノールは、当業者において容易に入手可能な化合物である(以下、同じ)。
【0070】
・研磨剤組成物Cの調製
調製されたシリカ分散液cを用い、コロイダルシリカ濃度が5.6質量%、硫酸、HEDP、及び過酸化水素の濃度が下記に示す表1に記載された値となるように、更に純水を使用して「研磨剤組成物C」を調製した。調製された研磨剤組成物Cを実施例3の研磨試験に使用した。
【0071】
<実施例4>
・シリカ分散液dの調製
上記のシリカ分散液aに使用したものと同じ市販のコロイダルシリカスラリーに対し、市販の(ベンジルオキシ)メタノールを200質量ppm添加し、「シリカ分散液d」を調製した。
【0072】
・研磨剤組成物Dの調製
調製されたシリカ分散液dを用い、コロイダルシリカ濃度が5.6質量%、硫酸、HEDP、及び過酸化水素の濃度が下記に示す表1に記載された値となるように、更に純水を使用して「研磨剤組成物D」を調製した。調製された研磨剤組成物Dを実施例4の研磨試験に使用した。
【0073】
<実施例5>
・シリカ分散液eの調製
上記のシリカ分散液aに使用したものと同じ市販のコロイダルシリカスラリーに対し、市販の(エチレンジオキシ)ジメタノールを25質量ppm及び市販の(ベンジルオキシ)メタノールを25質量ppm添加し、「シリカ分散液e」を調製した。
【0074】
・研磨剤組成物Eの調製
調製されたシリカ分散液eを用い、コロイダルシリカ濃度が5.6質量%、硫酸、HEDP、及び過酸化水素の濃度が下記に示す表1に記載された値となるように、更に純水を使用して「研磨剤組成物E」を調製した。調製された研磨剤組成物Eを実施例5の研磨試験に使用した。
【0075】
<実施例6>
・シリカ分散液fの調製
上記のシリカ分散液aに使用したものと同じ市販のコロイダルシリカスラリーに対し、市販の(エチレンジオキシ)ジメタノールを100質量ppm及び市販の(ベンジルオキシ)メタノールを100質量ppm添加し、「シリカ分散液f」を調製した。
【0076】
・研磨剤組成物Fの調製
調製されたシリカ分散液fを用い、コロイダルシリカ濃度が5.6質量%、硫酸、HEDP、及び過酸化水素の濃度が下記に示す表1に記載された値となるように、更に純水を使用して「研磨剤組成物F」を調製した。調製された研磨剤組成物Fを実施例6の研磨試験に使用した。
【0077】
<実施例7>
・シリカ分散液gの調製
上記のシリカ分散液aに使用したものと同じ市販のコロイダルシリカスラリーに対し、市販の(エチレンジオキシ)ジメタノールを60質量ppm及び市販の(ベンジルオキシ)メタノールを140質量ppm添加し、「シリカ分散液g」を調製した。
【0078】
・研磨剤組成物Gの調製
調製されたシリカ分散液gを用い、コロイダルシリカ濃度が5.6質量%、硫酸、HEDP、及び過酸化水素の濃度が下記に示す表1に記載された値となるように、更に純水を使用して「研磨剤組成物G」を調製した。調製された研磨剤組成物Gを実施例7の研磨試験に使用した。
【0079】
<実施例8>
・シリカ分散液hの調製
上記のシリカ分散液aに使用したものと同じ市販のコロイダルシリカスラリーに対し、市販の(エチレンジオキシ)ジメタノールを140質量ppm及び市販の(ベンジルオキシ)メタノールを60質量ppm添加し、「シリカ分散液h」を調製した。
【0080】
・研磨剤組成物Hの調製
調製されたシリカ分散液hを用い、コロイダルシリカ濃度が5.6質量%、硫酸、HEDP、及び過酸化水素の濃度が下記に示す表1に記載された値となるように、更に純水を使用して「研磨剤組成物H」を調製した。調製された研磨剤組成物Hを実施例8の研磨試験に使用した。
【0081】
<比較例1>
・シリカ分散液iの調製
上記のシリカ分散液aに使用したものと同じ市販のコロイダルシリカスラリーに対し、市販の2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを50質量ppm添加し、「シリカ分散液i」を調製した。
【0082】
・研磨剤組成物Iの調製
調製されたシリカ分散液iを用い、コロイダルシリカ濃度が5.6質量%、硫酸、HEDP、及び過酸化水素の濃度が下記に示す表1に記載された値となるように、更に純水を使用して「研磨剤組成物I」を調製した。調製された研磨剤組成物Iを比較例1の研磨試験に使用した。
【0083】
<比較例2>
・シリカ分散液jの調製
上記のシリカ分散液aに使用したものと同じ市販のコロイダルシリカスラリーに対し、市販の2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを200質量ppm添加し、「シリカ分散液j」を調製した。
【0084】
・研磨剤組成物Jの調製
調製されたシリカ分散液jを用い、コロイダルシリカ濃度が5.6質量%、硫酸、HEDP、及び過酸化水素の濃度が下記に示す表1に記載された値となるように、更に純水を使用して「研磨剤組成物J」を調製した。調製された研磨剤組成物Jを比較例2の研磨試験に使用した。
【0085】
<比較例3>
・シリカ分散液kの調製
上記のシリカ分散液aに使用したものと同じ市販のコロイダルシリカスラリーに対し、市販の5-クロル-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを50質量ppm添加し、「シリカ分散液k」を調製した。
【0086】
・研磨剤組成物Kの調製
調製されたシリカ分散液kを用い、コロイダルシリカ濃度が5.6質量%、硫酸、HEDP、及び過酸化水素の濃度が下記に示す表1に記載された値となるように、更に純水を使用して「研磨剤組成物K」を調製した。調製された研磨剤組成物Kを比較例3の研磨試験に使用した。
【0087】
<比較例4>
・シリカ分散液lの調製
上記のシリカ分散液aに使用したものと同じ市販のコロイダルシリカスラリーに対し、市販の5-クロル-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを200質量ppm添加し、「シリカ分散液l」を調製した。
【0088】
・研磨剤組成物Lの調製
調製されたシリカ分散液lを用い、コロイダルシリカ濃度が5.6質量%、硫酸、HEDP、及び過酸化水素の濃度が下記に示す表1に記載された値となるように、更に純水を使用して「研磨剤組成物L」を調製した。調製された研磨剤組成物Lを比較例4の研磨試験に使用した。
【0089】
【表1】
【0090】
上記に示した実施例1~8、及び比較例1~4の研磨試験において使用されるシリカ分散液a~lは、下記の表2に記載された原材料または化合物を用い、表2に記載された含有量(添加量)となるように調製されたものである。更に、実施例1~8、及び比較例1~4の研磨試験で使用される研磨剤組成物A~Lは、上述の方法で下記の表2に記載されたコロイダルシリカ及び抗菌剤を用いて、表2に記載された含有量(添加量)となるように調製されたシリカ分散液と、表1に記載された酸および酸化剤を用い、コロイダルシリカ、抗菌剤、酸および酸化剤が、表1に記載された含有量(添加量)となるように調製されたものである。
【0091】
【表2】
【0092】
シリカ分散液a~lによる抗菌性評価の結果、及び、実施例1~8、及び比較例1~4の研磨試験の結果を下記の表3に示す。なお、既に説明したように、研磨剤組成物の調製に際し、シリカ分散液と酸、酸化剤、及び水とを混合した場合、保存期間をできるだけ短くし、可能な限り速やかに研磨試験に供することが好ましい。すなわち、研磨組成物を調製してからの保存期間が長くなると、コロイダルシリカが徐々に凝集し、研磨性能が低下するおそれがある。そのため、下記において、研磨剤組成物の調製後に速やかに研磨試験に供したものの結果を示している。
【0093】
(コロイダルシリカの粒子径)
コロイダルシリカの粒子径(Heywood径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、透過型電子顕微鏡 JEM2000FX(200kV))を用いて倍率10万倍の視野の写真を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver.4.0)を用いて解析することによりHeywood径(投射面積円相当径)として測定した。コロイダルシリカの平均粒子径は前述の方法で2000個程度のコロイダルシリカ粒子径を解析し、小粒径側からの積算粒径分布(累積体積基準)が50%となる粒径を上記解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver.4.0)を用いて算出した平均粒子径(D50)である。
【0094】
(抗菌性の評価方法)
調製されたシリカ分散液a~lから、試験サンプルとして10mlを採取し、下記に示す3種類の細菌、及び、下記に示す3種類のカビに対するそれぞれの抗菌性の評価を行った。採取したシリカ分散液10mlと細菌またはカビを接種させ、室温条件下で静置した。この状態を4週間継続し、4週間経過後の菌数の変化を確認し、抗菌性の評価を行った。
【0095】
抗菌性の評価に使用した菌株は、細菌として、スタフィロコッカス・アウレウス(staphylococcus aureus)、エシェリシア・コリ(Escherichia coli)、及びシュードモナス・エアルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)の3種類、及び、カビとしてアスペルギウス・ニガー(Aspergillus niger)、ペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)、クラドスリウム・クラドスポロイデス(Cladosporium cladosporoides)の3種類である。
【0096】
菌数の変化の測定は、試験サンプルから0.1mlを分取し、これを寒天培地に塗布し、30℃で3日間培養し、得られたコロニー数から生残菌数を求め、初発菌数との対比で50%以上菌数が減少した場合に抗菌性が認められると評価した。
【0097】
具体的な抗菌性の評価基準は下記の通りである。抗菌性の評価結果を表3に示す。
◎:6種全ての菌に対して抗菌性が認められる。
〇:5種の菌に対して抗菌性が認められる。
×:4種以下の菌に対してのみ抗菌性が認められる。
【0098】
(研磨条件)
調製された研磨剤組成物A~Lを目開き0.45μmのフィルターを通した後、研磨装置に導入し、実施例1~8、及び比較例1~4の研磨試験を実施した。研磨試験のための研磨条件は下記の通りである。下記研磨条件で研磨試験を行った結果を下記表3に示す。
研磨装置 :スピードファム(株)製 9B両面研磨機
研磨対象物 :無電解ニッケル-リンめっきされた外形95mmのアルミニウム磁気ディスク基板を粗研磨したもの
研磨パッド :(株)FILWEL社製 P2用パッド
定盤回転数 :上定盤 -8.3min-1
:下定盤 25.0min-1
研磨剤組成物供給量 :100ml/min
研磨時間 :300s
加工圧力 :11kPa
【0099】
(研磨したディスク表面の評価)
(研磨速度比)
研磨速度は、研磨後に減少したアルミニウム磁気ディスク基板量の質量を測定し、下記の式に基づいて算出した。
研磨速度(μm/min)
=[アルミニウム磁気ディスク基板の質量減少(g)]/[研磨時間(min)]/[アルミニウム磁気ディスク基板の片面の面積(cm)]/[無電解ニッケル-リンめっき皮膜の密度(g/cm)]/2×10
【0100】
上記式において、アルミニウム磁気ディスク基板の片面の面積は65.9cm、無電解ニッケルーリンめっき皮膜の密度は8.0g/cmとして算出した。また、研磨速度比は、比較例1の値を1(基準)とした場合の相対値として示している。研磨速度比の値が大きい程、研磨速度が大きく、生産性が高いことを示している。
【0101】
(スクラッチ比)
スクラッチの本数は、(有)ビジョンサイテック製のMicroMAX VMX-4100を用いて、基板にあるスクラッチの本数を、測定条件:チルト角-5°、倍率20倍で測定した。スクラッチ比は、比較例1のスクラッチ本数を1(基準)とした場合の相対値である。スクラッチ比の値が小さい程、スクラッチ本数が少なく、基板の表面が良好な状態にあることを示している。
【0102】
【表3】
【0103】
(考察)
表3に示されるように、抗菌剤としてヘミホルマール構造を有する脂肪族有機化合物を使用した実施例1の場合、イソチアゾリン化合物を使用した比較例1,3よりも抗菌性に優れ、更に研磨試験結果においても研磨速度が向上し、スクラッチは低減していることが認められる。同様の結果が実施例2と比較例2,4との対比においても示されている。
【0104】
一方、抗菌剤としてヘミホルマール構造を有する芳香族有機化合物を使用した実施例3の場合、イソチアゾリン化合物を使用した比較例1,3よりも抗菌性に優れ、更に研磨試験結果においても研磨速度が向上し、スクラッチは低減していることが認められる。同様の結果が実施例4と比較例2,4の対比においても示されている。
【0105】
更に、ヘミホルマール構造を有する脂肪族有機化合物とヘミホルマール構造を有する芳香族有機化合物とを併用した実施例5の場合、それぞれ単独で使用した実施例1,3に対し、抗菌性、研磨速度、及びスクラッチのいずれの評価項目においてもバランスが向上している。同様の結果が実施例6と実施例2,4との対比においても示されている。
【0106】
実施例7及び実施例8は、実施例6においてヘミホルマール構造を有する脂肪族有機化合物とヘミホルマール構造を有する芳香族有機化合物の割合(配合比)を変化させたシリカ分散液g,h及び研磨剤組成物G,Hを調製し、抗菌性の評価及び研磨試験を行ったものである。
【0107】
上記に示すように、本発明のヘミホルマール構造を有する有機化合物を含有するシリカ分散液は、従来のイソチアゾリン化合物などの抗菌剤を用いたシリカ分散液よりも抗菌性に優れ、これに酸と酸化剤を加えた研磨剤組成物を用いて研磨を行うことにより、研磨速度とスクラッチのバランスが従来のイソチアゾリン化合物を使用した研磨剤組成物よりも向上することが明らかであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のシリカ分散液、およびシリカ分散液を用いた研磨剤組成物は、樹脂製品の改質剤、紙製品の改質剤、触媒担体、塗料、及び半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体などの電子部品の研磨に使用することができる。特に、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケルーリンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム磁気ディスク基板の研磨に好適に使用することができる。