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  • 特許-抗ウイルス性内装材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】抗ウイルス性内装材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20241211BHJP
   E04B 1/92 20060101ALI20241211BHJP
   E04F 15/02 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
B32B27/18 F
E04B1/92
E04F15/02 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020189440
(22)【出願日】2020-11-13
(65)【公開番号】P2022078626
(43)【公開日】2022-05-25
【審査請求日】2023-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000222495
【氏名又は名称】東リ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】西山 知也
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/111500(WO,A1)
【文献】特開2018-065779(JP,A)
【文献】特開平08-325398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
E04B 1/92
E04F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に抗ウイルス処理層を設けてある抗ウイルス性内装材であって、
前記基材は、JIS A 5705:2016で規定される床シート又は床タイルであり、
前記抗ウイルス処理層は、マトリックスとして電離放射線硬化性樹脂と、有効成分として抗ウイルス剤とを含み、
前記抗ウイルス剤は、N,N´-ヘキサメチレンビス(4-カルバモイル-1-デシルピリジニウムブロマイド)を含み、
前記抗ウイルス処理層の単位面積当たりの抗ウイルス剤の含有量は、0.06~0.16g/m であり、
前記抗ウイルス処理層中の前記抗ウイルス剤の含有量は、0.2~1.5質量%であり、
前記抗ウイルス剤は、銀、銀酸化物、及び銀塩を実質的に含まない抗ウイルス性内装材。
【請求項2】
前記抗ウイルス処理層は、硬質微粒子をさらに含む請求項1に記載の抗ウイルス性内装材。
【請求項3】
前記基材は、塩化ビニル樹脂を含む樹脂成形体を含む請求項1又は2に記載の抗ウイルス性内装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に抗ウイルス処理層を設けてある抗ウイルス性内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅等の内装材において、これまでも抗菌性や防カビ性を付与した製品が市販されていたが、近時の新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、内装材に抗ウイルス性を付与したいという要望が高まっている。ウイルスは、菌や真菌(カビ)とは異なり細胞を有していないため、単独で増殖することができず、ヒトや動物の細胞に侵入して増殖する。また、ウイルスのサイズは、数十~数百nm程度で、菌や真菌の1/100~1/1000程度である。このように、ウイルスは、菌や真菌とは全く異なるものであることから、従来の抗菌剤や防カビ剤がそのままウイルスの抑制に効果があるとは限らない。
【0003】
従来、銀系無機添加剤又は亜鉛系無機添加剤を配合した樹脂を表面にコーティングした抗ウイルス性を有する内装用化粧シートがあった(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の内装用化粧シートは、樹脂に銀系無機添加剤又は亜鉛系無機添加剤として無機化合物(ゼオライト、アパタイト、ジルコニア等)に金属イオン(銀イオン、銅イオン、亜鉛イオン)を取り込ませた無機系抗菌剤を配合し、これを内装用化粧シートの表面にコーティングしたものである。
【0004】
また、抗ウイルス性を標榜する製品として、表面に銅化合物と可塑剤とを含む層を設けた抗菌・抗ウイルス性塩化ビニル部材があった(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2の抗菌・抗ウイルス性塩化ビニル部材は、主成分となるポリ塩化ビニルで形成された基材の表面に、抗菌・抗ウイルス成分である一価の銅化合物と、フタル酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、又はトリメリット酸系可塑剤とを含む層を形成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-80887号公報
【文献】特開2019-44096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
住宅等の内装材は、機能性だけでなく審美性やデザイン性も商品価値に大きく影響するため、内装材の表面を抗ウイルス剤で処理したとき、審美性を損なわないもの、すなわち変色や色調の変化が起こらないものが望まれる。
【0007】
この点に関し、特許文献1の内装用化粧シートは、光が当たると無機系抗菌剤に含まれる金属イオン(銀イオン、銅イオン、亜鉛イオン)が変色し易く、その結果、内装用化粧シートの審美性やデザイン性を損なう虞がある。また、特許文献1の内装用化粧シートは、明細書中に記載される実施例によれば、A型インフルエンザウイルス(H1N1型)に対して抗ウイルス性を示したとされているが、抗ウイルス性が高くなったのは無機系抗菌剤の配合量を多くした場合(実施例1)であり、少量の配合では抗ウイルス性は得られないとの結果(比較例1)が示されている。なお、無機系抗菌剤の配合量を多くすると、当該無機系抗菌剤の作用が強くなることで内装用化粧シートの審美性を損なう虞がある。
【0008】
特許文献2の抗菌・抗ウイルス性塩化ビニル部材は、所定の可塑剤を用いることにより、抗菌・抗ウイルス成分として使用する一価の銅化合物による変色を抑えられるとしてるが、銅化合物以外の抗ウイルス剤については全く検討されていない。一価の銅化合物に特化した発明のため、それ以外の抗ウイルス剤による変色抑制効果は認められないものと予想される。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、低コストで優れた抗ウイルス性を発揮できるとともに、審美性やデザイン性が求められる住宅等の用途に適した抗ウイルス性内装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明にかかる抗ウイルス性内装材の特徴構成は、
基材の表面に抗ウイルス処理層を設けてある抗ウイルス性内装材であって、
前記抗ウイルス処理層は、マトリックスとして電離放射線硬化性樹脂と、有効成分として抗ウイルス剤とを含み、
前記抗ウイルス剤は、
(1)3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメート;
(2)N,N´-ヘキサメチレンビス(4-カルバモイル-1-デシルピリジニウムブロマイド);
(3)酸化チタン含有亜鉛チタン複合化合物;及び
(4)酸化チタン含有銅チタン複合化合物;
からなる群から選択される少なくとも一つを含むことにある。
【0011】
本構成の抗ウイルス性内装材によれば、基材の表面に設けた抗ウイルス処理層は、マトリックスとして電離放射線硬化性樹脂と、有効成分として抗ウイルス剤とを含むものである。抗ウイルス処理層中における抗ウイルス剤の存在形態としては、マトリックスである電離放射線硬化樹脂の中に有効成分として上記(1)~(4)の抗ウイルス剤が微粒子として分散した状態、電離放射線硬化性樹脂と抗ウイルス剤とが分子レベルで混合した状態、電離放射線硬化性樹脂を構成するポリマーの側鎖に抗ウイルス剤の分子がラベルされた状態等、様々な状態で存在し得る。上記(1)~(4)の抗ウイルス剤は、当該抗ウイルス剤それ自体でエンベロープの有無によるウイルスのタイプに関わらず、各種ウイルスに対して抗ウイルス性を示すものであるが、電離放射線硬化樹脂と共存させることで、抗ウイルス剤と電離放射線硬化樹脂との相互作用により抗ウイルス剤が本来有する抗ウイルス性が最大限発揮され、あるいは電離放射線硬化樹脂と協働して抗ウイルス剤の抗ウイルス性が増幅されるという特異な性質を示す。その結果、抗ウイルス剤の使用量が少量でも優れた抗ウイルス性を奏するものとなり、低コスト、皮膚への低刺激性を実現することにもなる。また、上記(1)及び(2)の抗ウイルス剤は、有機系抗ウイルス剤であって変色し易い金属、金属酸化物、及び金属塩が含まれないため、光が当たっても変色しない。上記(3)及び(4)の抗ウイルス剤は、無機系抗ウイルス剤であるが特に変色し易い金属、金属酸化物、及び金属塩が含まれておらず、含まれる金属も不動態化した酸化物、複合酸化物、又は複合化合物の形態のため、変色し難いものとなっている。従って、抗ウイルス処理層に上記(1)~(4)の抗ウイルス剤を使用することで、審美性やデザイン性が求められる住宅等の用途に適した抗ウイルス性内装材とすることができる。
【0012】
本発明にかかる抗ウイルス性内装材において、
前記抗ウイルス処理層の単位面積当たりの前記抗ウイルス剤の総含有量は、0.1~16g/mであることが好ましい。
【0013】
本構成の抗ウイルス性内装材によれば、抗ウイルス処理層における抗ウイルス剤の単位面積当たりの総含有量を0.1~16g/mとすることで、製造コストを抑えながら、優れた抗ウイルス性を発揮する抗ウイルス性内装材とすることができる。
【0014】
本発明にかかる抗ウイルス性内装材において、
前記抗ウイルス処理層は、硬質微粒子をさらに含むことが好ましい。
【0015】
本構成の抗ウイルス性内装材によれば、抗ウイルス処理層に硬質微粒子を含ませることで、耐摩耗性が向上し、抗ウイルス性内装材が床材である場合においては滑り止め効果も得られる。また、抗ウイルス処理層に硬質微粒子を配合することで抗ウイルス性内装材の表面に微細な凹凸が形成され、この凹凸にウイルスがトラップされ、時間の経過とともにそのまま不活化する効果も期待できる。
【0016】
本発明にかかる抗ウイルス性内装材において、
前記基材は、塩化ビニル樹脂を主成分とする樹脂成形体を含むことが好ましい。
【0017】
本構成の抗ウイルス性内装材によれば、塩化ビニル樹脂を主成分とする樹脂成形体は様々な場面や用途で用いられるものであるため、幅広い分野において、低コストで且つ優れた抗ウイルス性が付与された抗ウイルス性内装材を提供することができる。
【0018】
本発明にかかる抗ウイルス性内装材において、
前記抗ウイルス剤は、銀、銀酸化物、又は銀塩を実質的に含まないことが好ましい。
【0019】
本構成の抗ウイルス性内装材によれば、抗ウイルス剤は、皮膚への刺激が強く、変色し易い銀、銀酸化物、又は銀塩が実質的に含まれておらず、銀以外の含まれる金属についても不動態化した酸化物、複合酸化物、又は複合化合物の形態のため、光や熱を受けても変色し難い抗ウイルス性内装材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の一実施形態にかかる抗ウイルス性内装材の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明にかかる抗ウイルス性内装材について説明する。ただし、本発明は、以降に説明する実施形態、実施例、及び図面に記載される構成に限定されるものではない。
【0022】
<抗ウイルス性内装材>
図1は、本発明の一実施形態にかかる抗ウイルス性内装材の概略断面図である。内装材には、床材(シート状やタイル状の床材が代表的であり、カーペットは除く。)、腰壁シート、壁用シート、天井シート等が含まれる。本発明の抗ウイルス性内装材は、特に、厚みが比較的大きく、耐摩耗性などの強度に優れることから、床材、腰壁シートに好適に用いられる。図1では、内装材として、住宅等の居室の床面に敷設される樹脂製の床材を例示してある。従って、以降の説明では「抗ウイルス性内装材」を「抗ウイルス性床材」と称する場合がある。なお、図1において、抗ウイルス性床材は複数の層で構成されているものが示されているが、各層の厚み関係は説明容易化のため適宜誇張又は簡略化してあり、実際の抗ウイルス性床材における各層の厚みの大小関係(縮尺)を厳密に反映したものではない。
【0023】
図1に示すように、抗ウイルス性床材1は、基材10と、当該基材10の表面に設けられた抗ウイルス処理層20とを有する。
【0024】
〔基材〕
基材10は、一般には熱可塑性樹脂を金型や圧延ロールで成形した樹脂成形体が用いられるが、床材に使用する基材10においては、例えば、JIS A 5705:2016で規定される床シートや床タイルが用いられる。床シート及び床タイルは、単層構造でも複層構造でもよい。例えば、JIS A 5705:2016によれば、単層構造の床シートとして、単層ビニル床シートが挙げられ、複層構造の床シートとして、複層ビニル床シート、発泡複層ビニル床シート、クッションフロアが挙げられる。また、単層構造の床タイルとして、単層ビニル床タイル、コンポジションビニル床タイルが挙げられ、複層構造の床タイルとして、複層ビニル床タイルが挙げられる。図1には、基材10として、複層構造を有する樹脂成形シートを例示してある。樹脂成形シートの樹脂成形部には、塩化ビニル樹脂を主成分とする樹脂材料が好適に用いられる。
【0025】
本実施形態における基材10は、裏側(敷設面側)から表側(表層側)に順に、発泡樹脂層11aと、形状安定化層12と、中間樹脂層11bと、化粧層13と、表層14とを有する。ただし、表層14は任意の構成であり、必要に応じて設ければよい。発泡樹脂層11a及び中間樹脂層11bは、あわせて樹脂層11を構成する。なお、樹脂層11を発泡樹脂層11aのみとし、中間樹脂層11b及び化粧層13を一体化してこれを化粧層とする形態もあり得る。樹脂層11に使用される樹脂は、熱可塑性樹脂が好適である。熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル樹脂、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、アミド系樹脂、エステル系樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよいし、複数種を混合したもの(ポリマーブレンド)であってもよい。好ましい熱可塑性樹脂は、汎用性、耐久性、加工性の点から、塩化ビニル樹脂である。また、熱可塑性樹脂に、充填剤、可塑剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、発泡剤などの各種添加剤を配合することも可能である。基材10の厚みは、1~10mmが好ましく、1.5~6mmがより好ましい。基材10の厚みが前記範囲内であれば、抗ウイルス性床材1としての取り扱いが容易でありながら、強度及び耐久性を十分に確保することができる。
【0026】
表層14は、化粧層13を保護し、耐摩耗性などの物性を担保するための層である。表層14は、透明であっても不透明であってもよいが、化粧層13を有する構成の場合、表層14の裏側の化粧層13のデザインを視認できるように、透明であることが好ましい。また、化粧層13を有さない構成にしてもよく、この場合、表層14に顔料などを添加して不透明とし、表層14に化粧層としての機能を持たせてもよい。表層14の素材としては、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、及びその混合物等が挙げられる。表層14は、非発泡であることが好ましく、表層14及び抗ウイルス処理層20が一体となって、床材として強度を高めることができる。表層14の厚みは、0.1~1mmが好ましく、0.1~0.7mmがより好ましく、0.2~0.5mmがさらに好ましい。表層14の厚みが前記範囲内であれば、長期に亘って耐摩耗性の効果が持続する。
【0027】
基材10の裏面には、エンボス加工による複数の凹部15が形成されている。このような複数の凹部15を設ければ、抗ウイルス性床材1を敷設面に接着剤によって接着する場合、凹部15に接着剤が入り込んで抗ウイルス性床材1と敷設面との接着性を向上させることができる。なお、複数の凹部15は、必須の構成ではなく、必要に応じて設ければよい。例えば、抗ウイルス性床材1を敷物として使用する場合は、ズレ防止のためには抗ウイルス性床材1と敷設面との接触面積を大きくすることが望ましいため、複数の凹部15は設けない方がよいこともあり得る。
【0028】
〔抗ウイルス処理層〕
抗ウイルス処理層20は、表層14を傷や汚れから保護し、且つ抗ウイルス性能を発揮するための層である。抗ウイルス処理層20は、透明であっても不透明であってもよいが、化粧層13のデザインを視認できるように、表層14と同様に透明であることが好ましい。抗ウイルス処理層20は、電離放射線硬化性樹脂と、抗ウイルス剤とを含む。電離放射線硬化性樹脂は、抗ウイルス処理層20におけるマトリックス(基材)であり、抗ウイルス剤は有効成分である。抗ウイルス剤は、電離放射線硬化性樹脂の中に抗ウイルス剤の微粒子が分散した状態、電離放射線硬化性樹脂と抗ウイルス剤とが分子レベルで混合した状態、電離放射線硬化性樹脂を構成するポリマーの側鎖に抗ウイルス剤の分子がラベルされた状態等、様々な状態で存在し得る。抗ウイルス処理層20の厚みは、表層14よりも薄くすることが好ましく、具体的には、5~150μmが好ましく、10~70μmがより好ましく、15~30μmがさらに好ましい。抗ウイルス処理層20の厚みが前記範囲内であれば、床面に敷設されて靴裏で踏まれた際にも十分な耐久性を発揮し、長期に亘って抗ウイルス効果が持続する。
【0029】
[電離放射線硬化性樹脂]
電離放射線硬化樹脂とは、紫外線、X線、γ線、荷電粒子線、中性子線等の電離放射線を照射することで硬化(重合)する樹脂の総称である。電離放射線硬化樹脂は、電離放射線の照射を伴うラジカル重合によって合成される。本発明では、加工性及び作業性に優れることから、電子放射線硬化樹脂として、紫外線に対して反応性を有する紫外線硬化樹脂を用いることが好ましい。
【0030】
紫外線硬化樹脂の合成(重合)には、紫外線の照射により硬化する紫外線硬化性モノマー又はオリゴマーが使用される。紫外線硬化性モノマー又はオリゴマーとしては、分子中に(メタ)アクリレート基、(メタ)アクリロイルオキシ基などの重合性不飽和結合基又はエポキシ基などを有するモノマー又はオリゴマーが挙げられる。紫外線硬化性モノマーの具体例としては、α-メチルスチレンなどのスチレン系モノマー、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、分子中に2個以上のチオール基を有するポリオール化合物などが挙げられる。紫外線硬化性オリゴマーの具体例としては、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートなどのアクリレート、不飽和ポリエステル、エポキシなどが挙げられる。これらの紫外線硬化性モノマー又はオリゴマーは、単独で用いてもよいし、二種以上を混合したものを用いてもよい。上記の紫外線硬化性モノマー又はオリゴマーのうち、分子中に(メタ)アクリレート基を有するモノマー又はオリゴマーが好ましく、特に、オリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレートがより好ましい。紫外線硬化性モノマー又はオリゴマーの分子量は、特に限定されないが、200~10000程度のものが好適である。
【0031】
紫外線硬化性モノマー又はオリゴマーは紫外線の照射により重合を開始するが、その開始剤として、一般に光重合開始剤が使用される。光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、キサントン、3-メチルアセトフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタール、N,N,N’,N’-テトラメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、その他のチオキサント系化合物などが挙げられる。
【0032】
[抗ウイルス剤]
本発明において有効な抗ウイルス剤としては、以下の四種の化合物が挙げられる。
(1)3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメート
(2)N,N´-ヘキサメチレンビス(4-カルバモイル-1-デシルピリジニウムブロマイド)
(3)酸化チタン含有亜鉛チタン複合化合物
(4)酸化チタン含有銅チタン複合化合物
【0033】
(1)3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメートは、有機系の抗ウイルス剤であり、以下の化学構造式(1)で示される。
【0034】
【化1】
【0035】
(2)N,N´-ヘキサメチレンビス(4-カルバモイル-1-デシルピリジニウムブロマイド)は、有機系の抗ウイルス剤であり、以下の化学構造式(2)で示される。
【0036】
【化2】
【0037】
(3)酸化チタン含有亜鉛チタン複合化合物は、無機系の抗ウイルス剤であり、例えば、非晶性又は結晶性の亜鉛チタン複合化合物中に酸化チタン微粒子が分散した形態、結晶性の亜鉛チタン複合化合物の結晶格子中に酸化チタンが取り込まれた形態、多孔質の亜鉛チタン複合化合物の微細孔中に酸化チタンが導入された形態、層状の亜鉛チタン複合化合物の層間に酸化チタンがインターカレートされた形態等、様々な形態であり得る。
【0038】
(4)酸化チタン含有銅チタン複合化合物は、無機系の抗ウイルス剤であり、例えば、非晶性又は結晶性の銅チタン複合化合物中に酸化チタン微粒子が分散した形態、結晶性の銅チタン複合化合物の結晶格子中に酸化チタンが取り込まれた形態、多孔質の銅チタン複合化合物の微細孔中に酸化チタンが導入された形態、層状の銅チタン複合化合物の層間に酸化チタンがインターカレートされた形態等、様々な形態であり得る。
【0039】
上記(1)~(4)の抗ウイルス剤は、入手可能な数多くの抗ウイルス剤の中から、特に内装材に適するものとして本発明者らが鋭意研究の末に見出したものである。この入手可能な抗ウイルス剤には、従来、抗菌剤又は防カビ剤として使用されていたものも含まれる。上記(1)~(4)の抗ウイルス剤は、抗ウイルス剤それ自体でエンベロープの有無によるウイルスのタイプに関わらず、各種ウイルスに対して抗ウイルス性を示すのは勿論のこと、抗ウイルス剤と上記の電離放射線硬化性樹脂(紫外線硬化樹脂)との相互作用により抗ウイルス剤が本来有する抗ウイルス性が最大限発揮される、あるいは、上記の電離放射線硬化樹脂と協働して抗ウイルス剤の抗ウイルス性が増幅されるという特異な性質を示すものである。従って、抗ウイルス処理層20として、電離放射線硬化性樹脂とともに上記(1)~(4)の抗ウイルス剤を使用すれば、その使用量が少量でも優れた抗ウイルス性を奏するものとなり、結果として低コストで皮膚への低刺激性の抗ウイルス性内装材を製造することが可能となる。なお、抗ウイルス剤の使用量は、抗ウイルス処理層20中の含有量として、上記(1)の抗ウイルス剤については0.1~8質量%、好ましくは2~5質量%とし、上記(2)の抗ウイルス剤については0.1~5質量%、好ましくは0.2~1.5質量%、より好ましくは0.3~0.8質量%とし、上記(3)の抗ウイルス剤については1~15質量%、好ましくは5~10質量%とし、上記(4)の抗ウイルス剤については0.1~5質量%、好ましくは0.2~1.5質量%、より好ましくは0.3~0.8質量%とする。
【0040】
また、上記(1)又は(2)の抗ウイルス剤は、有機系抗ウイルス剤であって変色し易い金属、金属酸化物、及び金属塩が実質的に含まれないため、光が当たっても変色しない。上記(3)又は(4)の抗ウイルス剤は、無機系抗ウイルス剤であるが、皮膚への刺激が強く、変色し易い金属(例えば、銀)、金属酸化物(例えば、銀酸化物)、及び金属塩(例えば、硝酸銀、塩化銀、リン酸銀等の銀塩)は実質的に含まれておらず、含まれる金属も不動態化した酸化物、複合酸化物、又は複合化合物の形態のため、変色し難いものとなっている。ここで、「実質的に含まない」とは、不可避的に含まれる程度の微量の混入は許容され、有意な量の混入は除外されるという意味である。例えば、銀を含む触媒を用いて上記(1)~(4)の抗ウイルス剤を合成した場合、当該触媒に由来する銀がコンタミとして抗ウイルス剤に極微量混入することがあるが、これは不可避的に含まれる程度の微量であるため、銀、銀酸化物、及び銀塩を実質的に含まないものとして取り扱う。
【0041】
従って、抗ウイルス処理層20に上記(1)~(4)の抗ウイルス剤を使用することで、優れた抗ウイルス性を発現しながら、審美性やデザイン性が求められる住宅等の用途に適した抗ウイルス性内装材とすることができる。
【0042】
なお、抗ウイルス処理層20に抗ウイルス剤を配合するにあたっては、上記(1)~(4)の抗ウイルス剤を夫々単独で配合してもよいし、二種以上を混合して配合してもよい。特に、抗ウイルス効果の即効性の観点から有機系の(1)及び(2)の抗ウイルス剤の何れか一方を配合することが好ましく、さらに抗ウイルス効果の即効性の観点から無機系の(3)及び(4)の抗ウイルス剤の何れか一方を追加して配合することがより好ましい。(3)の抗ウイルス剤は、抗ウイルス性に加えて消臭性も有することから、消臭機能を有する抗ウイルス性内装材を得ることができる。また、無機系の(3)及び(4)の抗ウイルス剤の何れか一方のみを配合してもよく、これによって、抗ウイルス効果を長期間の年月にわたって発揮することができる。有機系(1)又は(2)と無機系の(3)又は(4)とを組み合わせると、即効性と持続性を兼ね備えた抗ウイルス効果を有する配合とすることができる。一方で、薬剤使用総量を抑制する必要がある場合は、(1)~(4)の抗ウイルス剤を単独で使用して効果を奏することも可能である。このように本発明は、優れた抗ウイルス性を発現しながら、床材に求められる審美性やデザイン性に適性の高い有機系と無機系の抗ウイルス剤から、対象となる床材の性質や用途に合致した選択を可能とするものである。
【0043】
[その他の成分]
抗ウイルス処理層20は、その他の成分として、硬質微粒子をさらに含むことができる。抗ウイルス処理層20に硬質微粒子を含ませることで、耐摩耗性が向上し、本実施形態のように、抗ウイルス性内装材1が床材である場合においては滑り止め効果も得られる。また、抗ウイルス処理層20に硬質微粒子を配合することで抗ウイルス性内装材1の表面に微細な凹凸が形成され、この凹凸にウイルスがトラップされ、時間の経過とともにそのまま不活化する効果も期待できる。硬質微粒子のサイズは、平均粒径として0.1~50μmであるものが好ましく、10~30μmであるものがより好ましい。硬質微粒子の平均粒径が前記範囲内であれば、抗ウイルス処理層20に含まれる抗ウイルス剤の効能を阻害することなく、抗ウイルス性内装材1の耐摩耗性や滑り止め効果を向上させることができる。硬質微粒子の粒子径(平均粒径)は、例えば、レーザー回折式粒子径分布測定装置により測定することができる。硬質微粒子の種類としては、無機系微粒子又は有機系微粒子の何れも使用可能であり、内装材の審美性やデザイン性を損なわないように外観が無色又は白色であり、且つ光や熱により変色しない又は変色し難いものであれば特に限定されないが、無機系微粒子としては、アルミナ、酸化チタン、シリカ、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム等が好適であり、有機系微粒子としては、結晶性セルロース、アクリルビーズ等が好適である。硬質微粒子の形状としては、球状、不定形状の何れも使用可能であるが、表面の凹凸を緩やかにしたいときは球状が好適であり、防滑性向上などの目的で激しい凹凸を形成したいときは不定形状が好適である。
【0044】
その他の成分としては、さらに、溶剤、レベリング剤、充填剤、分散剤、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、チクソトロピー化剤、顔料、香料等が挙げられる。
【0045】
[相互作用]
本発明の抗ウイルス性内装材1における抗ウイルス処理層20は、上述のように、マトリックスである電離放射線硬化樹脂の中に、有効成分として抗ウイルス剤が分散した状態で存在している。このような状態にある抗ウイルス処理層20は、そのメカニズムは十分に解明されていないが、抗ウイルス剤の使用量が少量であっても極めて優れた抗ウイルス性を示すというこれまでの知見からは予期し得ない現象が見られた。この現象について、本発明者らは、抗ウイルス処理層20に含まれる抗ウイルス剤と電離放射線硬化樹脂との間で何らかの相互作用が存在することで、抗ウイルス剤が本来有する抗ウイルス性が最大限発揮されるか、あるいは電離放射線硬化樹脂と協働して抗ウイルス剤の抗ウイルス性が増幅されるという仮説を導くに至った。この予測し得ない現象及び本発明者らの仮説に基づいて、抗ウイルス処理層20が有効な抗ウイルス性を発現し得る抗ウイルス剤の配合を鋭意検討したところ、抗ウイルス処理層20における単位面積当たりの上記(1)~(4)の抗ウイルス剤の総含有量を0.1~16g/mとし、各抗ウイルス剤の単位面積当たりの含有量を0.02~4g/mとすることで、エンベロープの有無によるウイルスのタイプに関わらず、各種ウイルスに対して優れた抗ウイルス性を示すことが明らかとなった。特に、(1)の抗ウイルス剤は、0.02~1.53g/mが好ましく、0.40~0.98g/mがより好ましい。(2)の抗ウイルス剤は、0.02~0.98g/mが好ましく、0.06~0.16g/mがより好ましい。(3)の抗ウイルス剤は、0.20~2.70g/mが好ましく、0.98~1.88g/mがより好ましい。(4)の抗ウイルス剤は、0.02~0.98g/mが好ましく、0.06~0.16g/mがより好ましい。抗ウイルス剤の単位面積当たりの含有量が下限値未満の場合、抗ウイルス処理層20は有効な抗ウイルス性を発現できない。一方、抗ウイルス剤の単位面積当たりの含有量が上限値を超えても、抗ウイルス処理層20の抗ウイルス性は大きく向上しないため不経済である。なお、無機系抗ウイルス剤である(3)の抗ウイルス剤を使用する場合は、抗ウイルス処理層20における抗ウイルス剤の単位面積当たりの含有量の下限値を若干高めて1.50g/m以上に設定することによって、抗ウイルス性に加えて、消臭性も発揮させることができる。本発明の抗ウイルス性内装材1による抗ウイルス性試験については、後述の実施例において具体的に説明する。
【0046】
<抗ウイルス性内装材の製造方法>
本発明の抗ウイルス性内装材1の製造方法について説明する。抗ウイルス性内装材1は、初めに、下から順に、発泡樹脂層11a、形状安定化層12、中間樹脂層11b、化粧層13、及び表層14を順に形成して基材10を製造し、当該基材10の上に抗ウイルス処理層20を形成することにより完成する。
【0047】
例えば、発泡樹脂層11aの原料となる発泡剤含有塩化ビニルペーストなどの発泡樹脂材料を展開用フィルムなどの展開面に塗布し、その上にガラスシートなどの形状安定化層12を載置し、さらにその上に中間樹脂層11bの原料となる塩化ビニルペーストを塗布することで、ゲル化前の積層体が形成される。次いで、この積層体を140~150℃で加熱してプリゲル化すると、発泡樹脂層11a、形状安定化層12、及び中間樹脂層11bの元となるプリゲル化積層体が形成される。化粧層13は、プリゲル化積層体の表面に転写シートを貼付し、デザインを転写することにより形成される。あるいは、デザインが印刷された印刷シートを用いて、化粧層13を形成してもよい。
【0048】
次に、プリゲル化積層体の表面に、塩化ビニル樹脂、アルコキシシラン、ゾル-ゲル反応促進触媒等を含む表層形成材料を塗布して成膜し、これを160~200℃で加熱すると、プリゲル化積層体及び表層形成材料が共にゲル化し、各層が積層された基材10が完成する。必要に応じて、基材10の表層14側からエンボス加工を行って、表面エンボスを形成してもよい。
【0049】
次に、紫外線硬化性モノマー又はオリゴマー、光重合開始剤、及び抗ウイルス剤等を混合して抗ウイルス処理層形成材料を調製する。有機系の(1)及び(2)の抗ウイルス剤は、無機系の(3)及び(4)の抗ウイルス剤に比べて分散性に優れ、混合作業が容易である。調製した抗ウイルス処理層形成材料を、基材10の表面に塗布して成膜する。抗ウイルス処理層形成材料の塗布量は、後に形成される抗ウイルス処理層20中の抗ウイルス剤の含有量に応じて適宜調整されるが、例えば、20~40g/mとすることができる。
【0050】
そして、塗布した抗ウイルス処理層形成材料に紫外線を照射すると、当該抗ウイルス処理層形成材料が硬化し、基材10の上に抗ウイルス処理層20が形成され、本発明の抗ウイルス性内装材1が得られる。
【実施例
【0051】
本発明にかかる抗ウイルス性内装材のウイルス抑制効果を確認するため、エンベロープを有さないネコカリシウイルス、及びエンベロープを有するA型インフルエンザウイルス(H1N1型)を対象とした抗ウイルス性確認試験を行った。ちなみに、コロナウイルスは、インフルエンザウイルスと同様にエンベロープを有するウイルスに分類される。抗ウイルス性確認試験は、抗菌製品技術協議会(SIAA)が定めるフィルム密着法に準拠するものとした。本実施例で行ったフィルム密着法の手順は、以下のとおりである。
【0052】
<フィルム密着法>
(1)抗ウイルス性内装材(供試体)にウイルスを含むファージ液を処理(塗布)する。
(2)ファージ液を塗布した供試体にフィルムを被せて所定時間(本実施例では24時間)静置する。
(3)所定時間経過後の供試体を洗い出し液で洗浄し、ウイルス含有液を回収する。
(4)ウイルス含有液を宿主細菌に感染させてウイルス感染価を評価する。あわせて、ウイルス含有液に含まれるウイルス数を計測する。
【0053】
〔実施例1〕
基材として発泡複層ビニル床シート(製品名「ホスピリュームNW」、東リ株式会社製)と同等のものを使用した。詳細には、ホスピリュームNWには、最表層として紫外線硬化性樹脂のコーティングが形成されているが、本実施例では、このコーティングを形成する前の積層体を基材として用いた。当該基材の表面に抗ウイルス処理層を20μmの厚みで形成することにより、実施例1の抗ウイルス性内装材を得た。抗ウイルス処理層の組成は、紫外線硬化樹脂としてウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂を100重量部、抗ウイルス剤として3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメート(製品名「POLYPHASE AF3」、トロイ社製)を5.0重量部含むものとした。
【0054】
〔実施例2〕
実施例1において、抗ウイルス性内装材の抗ウイルス処理層における抗ウイルス剤の配合量を2.0重量部とし、それ以外は実施例1と同様の組成とし、実施例1と同様の手順により、実施例2の抗ウイルス性内装材を得た。
【0055】
〔実施例3〕
実施例1において、抗ウイルス性内装材の抗ウイルス処理層に含まれる抗ウイルス剤としてN,N´-ヘキサメチレンビス(4-カルバモイル-1-デシルピリジニウムブロマイド)(製品名「スラモニD100」、大阪ガスケミカル株式会社製)を1.0重量部含むものとし、それ以外は実施例1と同様の組成とし、実施例1と同様の手順により、実施例3の抗ウイルス性内装材を得た。
【0056】
〔実施例4〕
実施例3において、抗ウイルス性内装材の抗ウイルス処理層における抗ウイルス剤の配合量を0.5重量部とし、それ以外は実施例3と同様の組成とし、実施例3と同様の手順により、実施例4の抗ウイルス性内装材を得た。
【0057】
〔実施例5〕
実施例1において、抗ウイルス性内装材の抗ウイルス処理層に含まれる抗ウイルス剤として酸化チタン含有亜鉛チタン複合化合物(製品名「セブントールN-PC90」、大阪ガスケミカル株式会社製)を5.0重量部含むものとし、それ以外は実施例1と同様の組成とし、実施例1と同様の手順により、実施例5の抗ウイルス性内装材を得た。
【0058】
〔実施例6〕
実施例1において、抗ウイルス性内装材の抗ウイルス処理層に含まれる抗ウイルス剤として酸化チタン含有銅チタン複合化合物(製品名「HPS POWDER AC-20」、DIC株式会社製)を0.5重量部含むものとし、それ以外は実施例1と同様の組成とし、実施例1と同様の手順により、実施例6の抗ウイルス性内装材を得た。
【0059】
〔比較例1〕
実施例1と同じ基材を使用し、当該基材の表面に実施例1と同じウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂を塗布し、これを硬化させてUV効果膜を20μmの厚みで形成することにより、比較例1の内装材(コントロール)を得た。すなわち、比較例1の内装材は、実施例1の抗ウイルス性内装材において、抗ウイルス処理層から抗ウイルス剤を除いたものである。
【0060】
<ウイルス減少率による抗ウイルス性の評価>
抗ウイルス性を評価するにあたり、実施例1~6の抗ウイルス性内装材(供試体)、及び比較例1の内装材(コントロール)に耐水処理又は耐光処理を施し、上記のフィルム密着法による抗ウイルス性確認試験を実施した。そして、実施例1~6の抗ウイルス性内装材(供試体)、及び比較例1の内装材(コントロール)について、直後(0時間)のウイルス数(n)、及び24時間後のウイルス数(n24)を夫々計測し、下記の式(I)より、ウイルス減少率を算出した。
ウイルス減少率(%) = (1 - n24/n) × 100 ・・・(I)
ウイルス減少率が95%以上である場合、抗ウイルス効果があると認められる。抗ウイルス性の評価(ウイルス減少率)を以下の表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス効果について、耐水処理をしたものでは、実施例6の抗ウイルス性内装材がウイルス減少率99%以上となり、非常に優れた抗ウイルス効果が認められた。また、実施例2の抗ウイルス性内装材についても、一定の抗ウイルス効果が認められた。耐光処理をしたものでは、実施例1~6の抗ウイルス性内装材すべてがウイルス減少率99%以上となり、非常に優れた抗ウイルス効果が認められた。
【0063】
A型インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果について、耐水処理をしたもの又は耐光処理をしたもの何れについても、実施例1~6の抗ウイルス性内装材すべてがウイルス減少率99%以上となり、非常に優れた抗ウイルス効果が認められた。なお、抗ウイルス剤を含有しない比較例1(コントロール)についても、高いウイルス減少率が達成されているが、24時間経過後のウイルス数を見ると、特に耐水処理をしたものでは、実施例1~6の方が比較例1よりもウイルス数が少なくなっている。このことから、A型インフルエンザウイルスに対しては、適切な環境(条件)の下であれば、一定のウイルス増殖抑制効果が期待できるものと考えられる。
【0064】
以上のネコカリシウイルス又はA型インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果を検証すると、特に、実施例6の抗ウイルス性内装材に配合した酸化チタン含有銅チタン複合化合物は、総合的に見て極めて優れた抗ウイルス効果が得られており、内装材に適用する抗ウイルス剤として実用性が非常に高いと言える。また、実施例1及び2の抗ウイルス性内装材に配合した3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメートについても、特に抗ウイルス剤の配合量を最適化した実施例2は実施例6と比べて遜色のない総合的に優れた抗ウイルス効果が得られており、やはり実用性は高いと言える。その他、実施例3及び4の抗ウイルス性内装材に配合したN,N´-ヘキサメチレンビス(4-カルバモイル-1-デシルピリジニウムブロマイド)や、実施例5の抗ウイルス性内装材に配合した酸化チタン含有亜鉛チタン複合化合物についても、総合的な抗ウイルス効果は比較例1よりも優れており、十分な実用性を兼ね備えている。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の抗ウイルス性内装材は、樹脂製の床材(シート状床材、タイル状床材)、腰壁シート、壁用シート、天井シート等として利用可能である。また、本発明の抗ウイルス性内装材の用途としては、一般住宅用、学校用、オフィス用、商業施設用、公共施設用、事業所用など様々な場面において利用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 抗ウイルス性内装材(抗ウイルス性床材)
10 基材(樹脂成形シート)
20 抗ウイルス処理層
図1