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特許7602369不純物分析方法及びこれに用いる薬液容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】不純物分析方法及びこれに用いる薬液容器
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20241211BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20241211BHJP
   C30B 35/00 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
G01N1/28 X
G01N1/28 W
C30B29/06 502B
C30B35/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020214183
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022100047
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】522503458
【氏名又は名称】モメンティブ・テクノロジーズ・山形株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】池田 将人
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-090809(JP,A)
【文献】特開平07-043277(JP,A)
【文献】特開平10-064966(JP,A)
【文献】特開2000-077492(JP,A)
【文献】特開平11-160208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/28
C30B 29/06
C30B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の外側表面の不純物を、非破壊で化学分析する不純物分析方法において、
エッチング溶液を用い、薬液容器内にエッチング溶液を満たし、薬液容器上端部から前記エッチング溶液を表面張力により突出させるステップと、
エッチング溶液が薬液容器上端部から突出した状態で、前記薬液容器を対象物の外表面に押し当てるステップと、
押し当てた状態を維持することで、エッチング溶液が、対象物の外側表面を溶解するステップと、
前記外側表面を溶解したエッチング溶液を回収するステップと、
前記外側表面の不純物を分析するステップと、
を含むことを特徴とする不純物分析方法。
【請求項2】
前記対象物がシリカガラスルツボであることを特徴とする請求項1記載の不純物分析方法。
【請求項3】
前記エッチング溶液が、フッ化水素酸を含むエッチング溶液であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の不純物分析方法。
【請求項4】
シリカガラスルツボの内径が30インチ未満の場合には、フッ化水素酸濃度が20wt%以上30wt%以下のエッチング溶液を、50ml以下使用し、
シリカガラスルツボの内径が30インチ以上の場合には、フッ化水素酸濃度が20wt%以上30wt%以下のエッチング溶液を、100ml以下使用し、
その際のエッチング時間が60分以下であることを特徴とする請求項2に記載の不純物分析方法。
【請求項5】
前記請求項1乃至請求項4のいずれかの不純物分析方法に用いられる薬液容器であって、
有底円筒状の薬液貯留部と、
前記薬液貯留部を中央部に位置するように配置された、有底円筒状の薬液回収部と、
を備え、前記薬液貯留部の側壁の高さは、前記薬液回収部の側壁の高さよりも高く形成されていることを特徴とする薬液容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不純物分析方法及びこれに用いる薬液容器に関し、例えば、シリコン単結晶の引上げ等に使用されるシリカガラスルツボの外表面の不純物を分析するのに好適な不純物分析方法及びこれに用いる薬液容器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体ウエハの製造において、シリコン単結晶を引上げる際、石英ガラス部材として、シリカガラスルツボが用いられる。
このシリカガラスルツボは、多結晶シリコンを収容、加熱溶融し、シリコン単結晶を成長させ、引上げるという高温環境下での処理に用いられる。この用途に用いられるシリカガラスルツボは、引上げるシリコン単結晶に不純物が混入するのを避けるために、高純度に形成され、また高温環境下での処理で用いられるために、高耐久性、高耐熱性を備えている。
【0003】
ところで、多結晶シリコンを溶融し、シリコン単結晶を引上げる工程において、シリカガラスルツボの内表面はシリコン融液によって、少しずつ溶解する。
そのため、シリカガラスルツボ内表面の不純物濃度(特にFe、Cuなどの金属不純物の濃度)が高い場合、溶解したガラスに含まれる不純物がシリコン単結晶に混入し、その不純物がシリコンウエハに悪影響を及ぼし、製品の歩留まり低下や品質悪化につながるという課題があった。
そのため、シリカガラスルツボの内表面の純度の担保のために、内表面に対して化学分析等が行われることがある。
【0004】
この内表面の化学分析として、特許文献1では、密閉された石英ルツボ内表面にフッ酸蒸気を接触させた後、純水で洗浄することにより内表面の不純物を洗浄し、かつその洗浄液を回収し、分析する方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、石英ルツボの任意の位置から切り出したルツボサンプルの表面に、石英ルツボの不純物回収用治具を設置し、前記ルツボサンプルの表面上にエッチング液の貯留空間を形成し、貯留空間内にエッチング液を導入する。そして、エッチング液を所定時間接触させ、その後、エッチング液を回収し、石英ルツボの内表面の金属不純物濃度の分析を行うことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-105574号公報
【文献】特開2019-66262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、シリカガラスルツボの内表面は高純度を保つ必要があるが、シリカガラスルツボの内表面を高純度に保ち続けていても、シリコン単結晶の品質が低下することがあった。
これは、シリカガラスルツボの外表面の純度が影響しているものと推察されるところ、外表面純度の化学分析方法が確立していないという課題があった。即ち、シリカガラスルツボの外表面の分析は、お椀形状(曲面形状)の外側に対して化学薬品を用いて調査する必要があるため、内表面の分析に比べて、薬品の回収方法や薬品の外表面上への拡散制御など難しい点があった。
ここで、薬品の外表面上への拡散とは、シリカガラスルツボの外表面に存在する微小の亀裂や凹凸に薬品が毛細管現象を伴って、外表面上を拡がり、また外表面内に侵入する事象をいう。
【0008】
また、シリカガラスルツボの外表面の分析は、シリカガラスルツボとして利用を担保する必要があるところから、非破壊にて行う必要がある。
特許文献1に示された化学分析方法は、非破壊にて純度結果を確認するものであるところから上記要求を満たすものである。
しかしながら、シリカガラスルツボの外表面を密閉することは困難であり、その上、シリカガラスルツボの外表面にフッ酸蒸気を接触させることが困難である。
したがって、特許文献1に示された化学分析方法を、シリカガラスルツボの外表面の化学分析方法に適用することは困難である。
【0009】
また、特許文献2に示す化学分析方法は、シリカガラスルツボから化学分析可能なサイズに切り出し、そのサンプルの外表面にエッチング液を接触させた後、エッチング液を回収し、シリカガラスルツボの外表面の金属不純物濃度の分析を行う方法である。そのため、非破壊にて分析を行うという要求を満たすものではなかった。
しかも、シリカガラスルツボからサンプルを切り出す作業において、切り出しを行うカッター等の汚染や切り出し後のサンプルの取り扱い等で不純物が混入する虞があり、高精度な分析を行うことができなかった。
【0010】
更に、外表面の不純物の化学分析に関し、シリカガラスルツボ以外にも、例えば、歪曲形状を伴った大型の透明石英ガラス部材に対する要求もある。また、炉芯管のように、石英ガラス以外の炭化ケイ素セラミックスから形成される場合もあり、これらについても、外表面の不純物の化学分析することが望ましい。
【0011】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、対象物の外表面の不純物を非破壊にて化学分析する、不純物分析方法及びこれに用いる薬液容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するためになされた、本発明にかかる不純物分析方法は、対象物の外側表面の不純物を、非破壊で化学分析する不純物分析方法において、エッチング溶液を用い、薬液容器内にエッチング溶液を満たし、薬液容器上端部から前記エッチング溶液を表面張力により突出させるステップと、エッチング溶液が薬液容器上端部から突出した状態で、前記薬液容器を対象物の外表面に押し当てるステップと、押し当てた状態を維持することで、エッチング溶液が、対象物の外側表面を溶解するステップと、前記外側表面を溶解したエッチング溶液を回収するステップと、前記外側表面の不純物を分析するステップと、を含むことを特徴とする。
【0013】
このように、本発明にあっては、エッチング溶液が容器上端部から突出した状態で、前記薬液容器を対象物の外表面に押し当て、エッチング溶液によって、対象物の外側表面を溶解する。そして、対象物の外側表面を溶解したエッチング溶液を回収し、不純物を分析する。
そのため、対象物の外表面の不純物を非破壊にて化学分析することができる。特に、エッチング溶液が容器上端部から突出した状態で、前記薬液容器を対象物の外表面に押し当てられるため、曲面を有する対象物の外側表面であっても、エッチング溶液によって、対象物の外側表面を溶解することができ、不純物を分析することができる。
【0014】
ここで、前記対象物がシリカガラスルツボであることが望ましい。尚、シリカガラスルツボ以外でも、例えば、歪曲形状を持つ大型の透明石英ガラス部材等、炭化ケイ素からなる炉芯管等の不純物分析方法に適用することができる。
【0015】
また、前記エッチング溶液がフッ化水素酸を含むエッチング溶液であることが望ましい。エッチング溶液としては、フッ化水素酸以外でも、例えば、王水、硝酸等を用いることができる。
【0016】
また、シリカガラスルツボの内径が30インチ未満の場合には、フッ化水素酸濃度が20wt%以上30wt%以下のエッチング溶液を、50ml以下使用し、シリカガラスルツボの内径が30インチ以上の場合には、フッ化水素酸濃度が20wt%以上30wt%以下のエッチング溶液を、100ml以下使用し、その際のエッチング時間が60分以下であることが望ましい。
【0017】
また、上記目的を達成するためになされた、本発明にかかる不純物分析方法に用いられる薬液容器は、有底円筒状の薬液貯留部と、前記薬液貯留部を中央部に位置するように配置された、有底円筒状の薬液回収部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、対象物の外表面の不純物を非破壊にて化学分析する不純物分析方法及びこれに用いる薬液容器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明にかかる薬液容器の一実施形態を示す斜視図である。
図2図1のI-I断面図である。
図3】本発明にかかる不純物分析方法の一実施形態に用いられる載置台の構成を示す概略断面図である。
図4】本発明にかかる不純物分析方法の一実施形態を説明するための概略図であって、(a)は。エッチング溶液が容器上端部から突出した状態で、前記薬液容器を石英ガラス部材の外表面に近づける工程を示した図、(b)は薬液容器を石英ガラス部材の外表面に押し当て、エッチング溶液によって、石英ガラス部材の外側表面を溶解する工程を示した図である。
図5図4と異なる石英ガラス部材の外表面の不純物分析方法を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明にかかる不純物分析方法及びこれに用いる薬液容器の一実施形態を図1乃至図4に基づいて説明する。まず、図1に基づいて、この不純物分析方法に用いられる薬液容器の一実施形態について説明する。
【0021】
図1に示すように、薬液容器10は、薬液Eが貯留される有底円筒状の薬液貯留部11と、前記薬液貯留部11を中央部に位置するように配置された、薬液貯留部11から溢れ出た薬液Eを回収する、有底円筒状の薬液回収部12とを備えている。
薬液容器10は、分析対象物をエッチングするエッチング液を貯留するため、耐薬品性を備えた材料で形成されている。エッチング溶液としては、フッ化水素酸以外でも、例えば、王水、硝酸等を用いることができる。
例えば、分析対象物が石英ガラス部材であり、エッチング溶液がフッ化水素酸を含むエッチング溶液である場合には、薬液容器10は、分析対象物である石英ガラス部材と同様なガラス製とする必要はなく、塩化ビニル、フッ素樹脂で形成することができる。
また、分析対象物が石英ガラス部材であり、この薬液容器10を分析対象物である石英ガラス部材と同様なガラス製とした場合、前記薬液容器10を石英ガラス部材の外表面に接触した際、石英ガラス部材を傷つける虞があるため、好ましくない。一方、この薬液容器10を、塩化ビニル、フッ素樹脂で形成した場合には、分析対象物の石英ガラス部材に損傷を与えにくいため、好ましい。
【0022】
薬液容器10の薬液貯留部11の側壁11aの高さHは、薬液回収部12の側壁12a高さhよりも高く形成されている。
このように、薬液貯留部11の側壁11aの高さHを、薬液回収部12の側壁12aの高さhよりも高く形成したのは、薬液容器10を分析対象物の外表面に接触させる際、薬液回収部12の側壁12aの上端が分析対象物の外周面に接触し、薬液貯留部11の側壁11aの上端が分析対象物の外表面に接触できなくなるのを防止するためである。
【0023】
また、薬液容器10の薬液貯留部11、薬液回収部12は、平面視上、円形に形成され、薬液貯留部11の内径Dは、薬液回収部12の内径dよりも小さく形成されている。
薬液貯留部11に貯留されているエッチング液Eが分析対象物の外表面に接触することにより、薬液貯留部11から溢れ出す。そして、薬液貯留部11を取り囲むように設けられた薬液回収部12に回収される。
したがって、薬液回収部12は、薬液貯留部11から溢れ出したエッチング液を収納できる内径d、高さhに形成される。
【0024】
また、薬液容器10の薬液貯留部11の内径Dは、薬液容器上端部から前記エッチング溶液を表面張力により突出させるため、内径Dは小さい方が好ましい。また、内径Dを小さくすることで、分析対象物の外表面における小さな領域の不純物を分析できる。
【0025】
具体的に一例を示せば、薬液容器10の薬液貯留部11の側壁11aの高さHは、40mm~60mm、薬液回収部12の側壁12aの高さhは、20mm~40mm、薬液貯留部11の内径Dは、40mm~50mm、薬液回収部12の内径dは、50mm~100mmである。
また、薬液貯留部11の側壁11aの厚さTは、2mm~3mm、薬液回収部12の側壁12aの厚さtは、2mm~3mmであることが好ましい。
【0026】
次に、本発明にかかる不純物分析方法の一実施形態を図3図4に基づいて説明する。
この不純物分析方法は、前記した薬液容器10を用い、分析対象物の外表面の不純物を、非破壊で化学分析する不純物分析方法である。ここでは、分析対象物として、シリカガラスルツボ(石英ガラス部材)を例にとって説明する。
【0027】
まず、図3に示すように、シリカガラスルツボ1を載置台2上に載置する。この載置台2の底面には、開口部2aが形成されている。一方、薬液容器10は昇降台3上に載置され、昇降台3によって、薬液容器10は載置台2の下方から開口部2a内に進入し、シリカガラスルツボ1の外表面と接触するように構成されている。
【0028】
そして、不純物分析にあたっては、薬液容器10の貯留部11内をエッチング溶液で満たし、薬液容器10の側壁11aの上端部からエッチング溶液Eが表面張力により突出させる。
ここで、エッチング溶液としては、王水、硝酸を用いることができる。特に、シリカガラスルツボの溶解が目的のため、エッチング溶液がフッ化水素酸を含むエッチング溶液であることが望ましい。
【0029】
また、フッ化水素酸の濃度は、20wt%以上、30wt%以下が好ましい。
ガラス表面は純水よりもフッ酸の方がより濡れやすく、当然フッ化水素酸の濃度が高ければ高いほどガラス表面への濡れ性は大きくなる。一方、フッ化水素酸の濃度が薄ければ薄いほど濡れ性は低下するため回収も容易になるが、フッ酸の濃度が薄いとエッチングに時間がかかり、そもそもエッチングが困難になる。
そして、フッ化水素酸の濃度が20wt%未満の場合、石英ガラス部材(シリカガラスルツボ1)外表面の溶解量が小さく、また溶解に時間がかかるため、好ましくない。
一方、フッ化水素酸の濃度が30wt%を超える場合、石英ガラス部材(シリカガラスルツボ1)外表面が濡れ易く、外表面への拡散が大きくなり、回収が困難になるため、好ましくない。
【0030】
そして、図4(a)に示すように、エッチング溶液Eが薬液容器10上端部から突出した状態で、前記薬液容器10(昇降台3)を上昇させ、載置台2の底面の開口部2aから薬液回収容器10が進入させ、シリカガラスルツボ1の底面部1aの外表面に接触させ、押し当てる。
薬液容器10を、シリカガラスルツボ1の底面部1aの外表面に接触させ、押し当てると、図4(b)に示すように、薬液容器上端部から突出したエッチング溶液は、薬液容器10の貯留部11から溢れ出し、回収部12に収容される。
【0031】
そして、薬液容器10を、シリカガラスルツボ1の底面部1aの外周面に押し当てた状態を維持することで、エッチング溶液によって、外表面を溶解する。その押し当てた状態を溶解に必要な時間だけ保つことで、任意の深さまで薬液によるエッチングを行う。
例えば、シリカガラスルツボ1の底面部1aの外表面を深さ10~40μmまでエッチングを行うには、この押し当てた状態を維持する時間がエッチング溶液の濃度によって異なる。フッ化水素酸の濃度が20wt%以上、30wt%以下の場合には、エッチング時間は、20分以上、60分以下とされる。
また、薬液量をシリカガラスルツボの径の大きさに対して30インチ未満の場合50ml以下、30インチ以上の場合100ml以下を使用量に限定し、エッチング時間を60分以下とすることで化学薬品のシリカガラスルツボ外表面への拡散は制御することができる。
【0032】
尚、薬液濃度及び接触時間を変化させることにより、エッチング深さを40μm以上の深さ(厚さ)方向の不純物の汚染度合いを調べることもできる。
【0033】
そして、薬液容器10を、シリカガラスルツボ1の底面部1aの外周面に、所定時間、押し当てた後、前記外側表面を溶解したエッチング溶液を回収する。
このエッチング溶液の回収は、薬液容器10の薬液貯留部11に収容されているエッチング溶液を回収する。
【0034】
次に、回収されたエッチング溶液を、一般的に知られている方法により、不純物を分析する。例えば、分析方法としては、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)、ICP-AES(誘導結合プラズマ原子発光分析法)、AAS(原子吸光分析法)を用いることができる。このエッチング溶液を回収及び分析することで、シリカガラスルツボの外表面の不純物の汚染度合いを知ることができる。
【0035】
以上述べたように、本発明にかかる不純物分析方法によれば、シリカガラスルツボ(分析対象物)を非破壊にて外表面の純度(言い方を変えれば、不純物の汚染度合い)を知ることができ、内表面純度も従来の方法で知れば、シリカガラスルツボ(分析対象物)全体の純度(不純物の汚染度合い)を確認・担保することができる。
即ち、シリカガラスルツボの純度の担保をシリコン融液と直接接触する内表面の純度だけでなく、シリカガラスルツボの外表面も含めた化学分析を非破壊にて行えることから、シリカガラスルツボ全体の分析純度を事前に確認することが出来る。
【0036】
尚、上記実施形態では、シリカガラスルツボの底面部1a(曲面部)を対象に、不純物分析を行ったが、図5に示すように、シリカガラスルツボ1の直胴部1b(直線部)の外表面を対象に、不純物分析を行うこともできる。
また、上記実施形態では、分析対象物としてシリカガラスルツボ(石英ガラス部材)を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の分析対象物にも適用することができる。
【実施例
【0037】
(実施例1)
実施例1として、直径28インチのシリカガラスルツボの底面部に対し、30wt%のフッ化水素酸溶液50mlを用いてし、エッチング時間を25分としたときの外表面分析可否結果を表1に示す。
【0038】
(実施例2)
実施例2として、直径28インチのシリカガラスルツボの底面部に対し、25wt%のフッ化水素酸溶液40mlを用いてし、エッチング時間を20分としたときの外表面分析可否結果を表1に示す。
【0039】
(実施例3)
実施例1として、直径28インチのシリカガラスルツボの底面部に対し、20wt%のフッ化水素酸溶液45mlを用いてし、エッチング時間を30分としたときの外表面分析可否結果を表1に示す。
【0040】
(参考例1)
参考例1として、実施例1と同様の直径28インチのシリカガラスルツボの底面部を用い、25wt%のフッ化水素酸溶液20mlを用いて、エッチング時間を25分としたときの外表面分析可否結果を表1に示す。
【0041】
(参考例2)
参考例2として、直径28インチのシリカガラスルツボの底面部を用い、25wt%のフッ化水素酸溶液50mlを使用し、エッチング時間を5分としたときの外表面分析可否結果を表1に示す。
【0042】
(参考例3)
参考例3として、直径28インチのシリカガラスルツボの底面部を用い、10wt%のフッ化水素酸溶液50mlを用いて、エッチング時間を10分としたときの外表面分析可否結果を表1に示す。
【0043】
(参考例4)
参考例4として、直径28インチのシリカガラスルツボの底面部に対し、35wt%のフッ化水素酸溶液55mlを用いてし、エッチング時間を20分としたときの外表面分析可否結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
実施例1乃至3の場合、フッ化水素酸がシリカガラスルツボの底面部の外表面に拡散し、分析に必要なフッ化水素酸の量を回収することができたため、評価は「可」であった。
参考例1の場合、フッ化水素酸の使用量が少ないため、フッ化水素酸がシリカガラスルツボの底面部の外表面に拡散し、分析に必要な量を回収することができないため、評価は「否」であった。
参考例2の場合、エッチング時間が5分と短く、シリカガラスルツボの底面部の外表面のエッチングが不十分となり、精密な分析結果を得ることができないため、評価は「否」であった。
【0046】
参考例3の場合、フッ化水素酸濃度が10wt%と低く、エッチング時間も10分と比較的短い場合、参考例2と同様にエッチング量が少なく、シリカガラスルツボの底面部の外表面の精密な分析結果を得ることができないため、評価は「否」であった。
参考例4の場合、フッ化水素酸の使用量が多いため、フッ化水素酸がシリカガラスルツボの底面部の外表面に拡散しすぎてノイズが多くなり、またフッ化水素酸濃度が35wt%と高く、エッチング時間も20分であるためエッチング量が多く、シリカガラスルツボの底面部の外表面の精密な分析結果を得ることができないため、評価は「否」であった。
【0047】
(実施例4)
実施例4として、直径30インチのシリカガラスルツボの底面部に対し、30wt%のフッ化水素酸溶液100mlを用いてし、エッチング時間を25分としたときの外表面分析可否結果を表2に示す。
【0048】
(実施例5)
実施例5として、直径30インチのシリカガラスルツボの底面部に対し、25wt%のフッ化水素酸溶液80mlを用いてし、エッチング時間を20分としたときの外表面分析可否結果を表2に示す。
【0049】
(実施例6)
実施例6として、直径30インチのシリカガラスルツボの底面部に対し、20wt%のフッ化水素酸溶液60mlを用いて、エッチング時間を30分としたときの外表面分析可否結果を表2に示す。
【0050】
(参考例5)
参考例5として、実施例4と同様の直径30インチのシリカガラスルツボの底面部を用い、25wt%のフッ化水素酸溶液40mlを用いて、エッチング時間を25分としたときの外表面分析可否結果を表2に示す。
【0051】
(参考例6)
参考例6として、直径30インチのシリカガラスルツボの底面部を用い、25wt%のフッ化水素酸溶液100mlを使用し、エッチング時間を5分としたときの外表面分析可否結果を表2に示す。
【0052】
(参考例7)
参考例7として、直径30インチのシリカガラスルツボの底面部を用い、10wt%のフッ化水素酸溶液100mlを用いて、エッチング時間を10分としたときの外表面分析可否結果を表2に示す。
【0053】
(参考例8)
参考例8として、直径30インチのシリカガラスルツボの底面部を用い、35wt%のフッ化水素酸溶液110mlを用いて、エッチング時間を20分としたときの外表面分析可否結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
実施例4乃至6の場合、フッ化水素酸がシリカガラスルツボの底面部の外表面に拡散し、分析に必要なフッ化水素酸の量を回収することができたため、評価は「可」であった。
参考例5の場合、フッ化水素酸の使用量が少ないため、フッ化水素酸がシリカガラスルツボの底面部の外表面に拡散し、分析に必要な量の回収することができないため、評価は「否」であった。
参考例6の場合、エッチング時間が5分と短く、シリカガラスルツボの底面部の外表面のエッチングが不十分となり、精密な分析結果を得ることができないため、評価は「否」であった。
【0056】
参考例7の場合、フッ化水素酸濃度が10wt%と低く、エッチング時間も10分と比較的短い場合、参考例6と同様にエッチング量が少なく、シリカガラスルツボの底面部の外表面の精密な分析結果を得ることができないため、評価は「否」であった。
参考例8の場合、フッ化水素酸の使用量が多いため、フッ化水素酸がシリカガラスルツボの底面部の外表面に拡散しすぎてノイズが多くなり、またフッ化水素酸濃度が35wt%と高く、エッチング時間も20分であるためエッチング量が多く、シリカガラスルツボの底面部の外表面の精密な分析結果を得ることができないため、評価は「否」であった。
【0057】
以上の点からして、外表面分析を行う上で、直径28インチシリカガラスルツボ、すなわち直径30インチ未満のシリカガラスルツボの場合には、フッ化水素酸濃度が20wt%以上30wt%以下、フッ化水素酸使用量が40ml以上、50ml以下使用し、エッチング時間が20分以上、30分以下であることが望ましい。
また、直径30インチ以上のシリカガラスルツボの場合には、フッ化水素酸濃度が20wt%以上30wt%以下、フッ化水素酸使用量が60ml以上、100ml以下使用し、エッチング時間が20分以上、30分以下であることが望ましい。
【符号の説明】
【0058】
1 シリカガラスルツボ(石英ガラス部材、分析対象物)
2 載置台
2a 開口部
3 昇降台
10 薬液容器
11 薬液貯留部
12 薬液回収部
E エッチング液(薬液)
図1
図2
図3
図4
図5