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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】シート
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20241211BHJP
   C08B 5/00 20060101ALI20241211BHJP
   C08B 15/05 20060101ALI20241211BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20241211BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C08J5/18 CFF
C08B5/00
C08B15/05
C08K7/02
C08L75/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021016738
(22)【出願日】2021-02-04
(62)【分割の表示】P 2016139803の分割
【原出願日】2016-07-14
(65)【公開番号】P2021073357
(43)【公開日】2021-05-13
【審査請求日】2021-02-05
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】伏見 速雄
(72)【発明者】
【氏名】砂川 寛一
(72)【発明者】
【氏名】酒井 紅
【合議体】
【審判長】柴田 昌弘
【審判官】天野 宏樹
【審判官】淺野 美奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-25833(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098543(WO,A1)
【文献】特開2017-141394(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008735(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/185505(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/032931(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02,5/12-5/22
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する繊維状セルロースと、
ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体と、を含有するシートであって、
前記繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm以上50nm以下であり、
前記含窒素化合物由来の単位はイソシアネート化合物及びカルボジイミド化合物から選択される少なくとも1種に由来する単位であり、
前記シートのヘーズが30%以下であり、
前記シートの引張弾性率が4.0GPa以上である、シート。
【請求項2】
吸水率が5000%以下である請求項1に記載のシート。
【請求項3】
全光線透過率が86%以上である請求項1又は2に記載のシート。
【請求項4】
前記ポリオール由来の単位はジオール由来の単位である請求項1~3のいずれか1項に記載のシート。
【請求項5】
JIS K 7373に準拠して測定した前記シートの黄色度をYIとし、前記シートを200℃で4時間真空乾燥した後の黄色度をYIとした場合、YI-YIの値が50以下である請求項1~のいずれか1項に記載のシート。
【請求項6】
前記ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体の含有量は、前記シートの全質量に対して、15質量%以上85質量%以下である請求項1~のいずれか1項に記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに関する。具体的には、本発明は、微細繊維状セルロースを含むシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の代替及び環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロース、特に木材由来の繊維状セルロース(パルプ)は、主に紙製品としてこれまで幅広く使用されてきた。
【0003】
繊維状セルロースとしては、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。また、このような微細繊維状セルロースから構成されるシートや、微細繊維状セルロース含有シートと樹脂を含む複合シート及び成形体が開発されている。微細繊維状セルロースを含有するシートや成形体においては、繊維同士の接点が著しく増加することから、引張強度等が大きく向上することが知られている。
【0004】
特許文献1には、ポリオール中でセルロースを微細化した後に、ポリイソシアネートを反応させて得られるポリウレタン樹脂組成物が開示されている。ここでは、得られたポリウレタン樹脂組成物から高強度の成形体を形成することが提案されている。また、特許文献2には、微細繊維状セルロースを含有するコーティング剤が開示されている。特許文献2では、微細繊維状セルロースの他に水溶性カルボジイミドや、アルコキシシランを含有したコーティング剤を得ており、このようなコーティング剤を成形体表面に塗工することでコーティング層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-194162号公報
【文献】特開2010-184999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
微細繊維状セルロースを含有するシートや成形体においては、その用途によって、高い透明性や耐水性が求められる場合がある。そこで、本発明者らは、高い透明性と耐水性を兼ね備えた微細繊維状セルロース含有シートを提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、微細繊維状セルロース含有シートに特定の構成単位を含む重合体を含有させることにより、高い透明性と耐水性を兼ね備えたシートが得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0008】
[1] 繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体と、を含有するシートであって、シートのヘーズが30以下であるシート。
[2] 吸水率が5000%以下である[1]に記載のシート。
[3] 全光線透過率が86%以上である[1]又は[2]に記載のシート。
[4] 繊維状セルロースは、リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する[1]~[3]のいずれかに記載のシート。
[5] 含窒素化合物由来の単位はイソシアネート化合物及びカルボジイミド化合物から選択される少なくとも1種に由来する単位である[1]~[4]のいずれかに記載のシート。
[6] ポリオール由来の単位はジオール由来の単位である[1]~[5]のいずれかに記載のシート。
[7] 引張弾性率が2.0GPa以上である[1]~[6]のいずれかに記載のシート。
[8] 引張強度が40MPa以上である[1]~[7]のいずれかに記載のシート。
[9] JIS K 7373に準拠して測定したシートの黄色度をYIとし、シートを200℃で4時間真空乾燥した後の黄色度をYIとした場合、YI-YIの値が50以下である[1]~[8]のいずれかに記載のシート。
[10] ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体の含有量は、シートの全質量に対して、15質量%以上85質量%以下である[1]~[9]のいずれかに記載のシート。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い透明性と耐水性を兼ね備えたシートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
図2図2は、カルボキシル基を有する繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において、「単位」は重合体を構成する繰り返し単位(単量体単位)である。
【0012】
(シート)
本発明は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体と、を含有するシートに関する。ここで、シートのヘーズは30以下である。本発明のシートは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(以下、微細繊維状セルロースともいう)を含むシートであるため、微細繊維状セルロース含有シートと呼ぶこともできる。本発明のシートは、上記構成を有するシートであるため、高い透明性を有する。また、本発明のシートは、吸水率が低く耐水性が高い。
【0013】
本発明のシートのヘーズは30以下であればよく、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、5以下であることがさらに好ましく、3以下であることが特に好ましい。なお、シートのヘーズは0%であってもよい。本発明では、透明性の高いシートが得られる点に特徴がある。ここで、シートのヘーズは、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定される値である。
【0014】
本発明のシートの全光線透過率は、86%以上であることが好ましく、89%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、91%以上であることが特に好ましい。ここで、シートの全光線透過率は、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定される値である。本発明では、シートのヘーズや全光線透過率は種類は、微細繊維状セルロースの繊維径や製造方法などをそれぞれ適切に選択することにより制御することができる。
【0015】
本発明のシートの吸水率は、5000%以下であることが好ましく、3000%以下であることがより好ましく、1000%以下であることがさらに好ましく、700%以下であることがよりさらに好ましく、500%以下であることが特に好ましく、400%以下であることが最も好ましい。シートの吸水率を上記範囲とすることにより、シートの耐水性を高めることができる。ここで、シートの吸水率は、以下の式により算出することができる。
吸水率(%)=100×(湿潤重量-調湿重量)/調湿重量
上記式において、調湿重量は、所定の大きさに切り出したシートを、23℃、相対湿度50%の条件で24時間調湿した後に測定した重量である。また、湿潤重量は所定の大きさに切り出したシートを、24時間イオン交換水に浸漬し、表面に残る余分な水をふき取った後に測定した重量である。本発明においては、シートの吸水率はシートの耐水性を評価する指標であり、吸水率が低いことは耐水性が高いことを意味する。シートの耐水性は、たとえば添加する重合体の種類や配合割合などにより制御することができる。
【0016】
本発明のシートの引張強度は15MPa以上であればよく、20MPa以上であることが好ましく、30MPa以上であることがより好ましく、40MPa以上であることがさらに好ましく、50MPa以上であることが特に好ましい。また、シートの引張強度の上限値に特に制限はないが、例えば、500MPa以下とすることができる。ここで、シートの引張強度は、JIS P 8113に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定した値である。引張強度を測定する際には、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したものを測定用の試験片とし、23℃、相対湿度50%の条件下で測定を行う。本発明においては、微細繊維状セルロースに導入する官能基の種類や微細繊維状セルロースの繊維径を適切に選択し、微細繊維状セルロースと重合体の種類や配合割合などをそれぞれ適切に選択することにより、引張強度を上記範囲内に調整しやすくなる。
【0017】
本発明のシートの引張弾性率は1.5GPa以上であることが好ましく、2.0GPa以上であることがより好ましく、3.0GPa以上であることがさらに好ましく、4.0GPa以上であることが特に好ましい。また、シートの引張弾性率の上限値に特に制限はないが、例えば、50GPa以下とすることができる。ここで、シートの引張弾性率は、JIS P 8113に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定した値である。引張弾性率を測定する際には、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したものを測定用の試験片とし、23℃、相対湿度50%の条件下で測定を行う。本発明においては、微細繊維状セルロースに導入する官能基の種類や微細繊維状セルロースの繊維径を適切に選択し、微細繊維状セルロースと重合体の種類や配合割合などをそれぞれ適切に選択することにより、引張弾性率を上記範囲内に調整しやすくなる。
【0018】
本発明のシートは、上記範囲の引張強度と引張弾性率を有するものであるため、優れた引張耐久性を発揮することができる。本発明のシートはこのように引張強度が高い点にも特徴がある。
【0019】
本発明のシートの黄色度は、5.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.0以下であることがさらに好ましく、1.5以下であることが特に好ましい。ここで、シートの黄色度は、シートの形成工程で得られたシートの黄色度であり、後述する加熱乾燥工程を経る前のシートの黄色度である。シートの黄色度は、JIS K 7373に準拠して測定した値である。測定機器としては、例えば、Colour Cute i(スガ試験機株式会社製)を挙げることができる。
【0020】
本発明のシートを200℃で4時間真空乾燥した後の黄色度は、60以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、40以下であることがさらに好ましく、30以下であることがよりさらに好ましく、25以下であることが特に好ましく、20以下であることが最も好ましい。200℃で4時間真空乾燥した後のシートの黄色度も上記と同様にJIS K 7373に準拠して測定した値である。
【0021】
上述したように、加熱乾燥工程を経る前のシートの黄色度をYIとし、200℃で4時間真空乾燥した後のシートの黄色度をYIとした場合、YI-YIの値(ΔYI)は55以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、40以下であることがさらに好ましく、30以下であることがよりさらに好ましく、25以下であることが特に好ましく、20以下であることが最も好ましい。本発明においては、YI-YIの値(ΔYI)を上記範囲内とすることにより、シートの黄変を抑制することができ、特に加熱乾燥による黄変を効果的に抑制することができる。本発明においては、微細繊維状セルロースに導入する官能基の種類や重合体の種類などをそれぞれ適切に選択することにより、ΔYIの値を上記範囲内に調整しやすくなる。
【0022】
本発明のシートの厚みは特に限定されるものではないが、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。またシートの厚みの上限値は、特に限定されないが、たとえば1000μm以下とすることができる。なお、シートの厚みは、触針式厚さ計(マール社製、ミリトロン1202D)で測定することができる。
【0023】
本発明のシートの坪量は、10g/m以上であることが好ましく、20g/m以上であることがより好ましく、30g/m以上であることがさらに好ましい。また、シートの坪量は、100g/m以下であることが好ましく、80g/m以下であることがより好ましい。ここで、シートの坪量は、JIS P 8124に準拠し、算出することができる。
【0024】
(繊維状セルロース)
本発明のシートは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む。微細繊維状セルロースは、イオン性官能基を有する繊維であることが好ましく、この場合イオン性官能基は、アニオン性官能基(以下、アニオン基ともいう)であることが好ましい。アニオン基としては、例えば、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシル基又はカルボキシル基に由来する置換基(単にカルボキシル基ということもある)、及び、スルホン基又はスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基及びカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることが特に好ましい。なお、本明細書においては、リン酸基を有する繊維状セルロースは、リン酸化微細繊維状セルロースと呼ぶこともある。
【0025】
微細繊維状セルロースの含有量は、シートの全質量に対して、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、35質量%以上であることがさらに好ましい。また、微細繊維状セルロースの含有量は85質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。微細繊維状セルロースの含有量を上記範囲内とすることにより、シートの引張強度をより効果的に高めることができる。
【0026】
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを含有するシートは高強度が得られる傾向がある。
【0027】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、より好ましくは2nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。
【0028】
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0029】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0030】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0031】
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0032】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0033】
微細繊維状セルロースは、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有することが好ましい。リン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-POで表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であっても、非イオン性置換基であってもよい。
【0034】
本発明では、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。
【化1】
【0035】
式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);α(n=1~nの整数)及びα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0036】
<リン酸基導入工程>
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化試薬」又は「化合物A」という)を反応させることにより行うことができる。このようなリン酸化試薬は、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、繊維原料のスラリーにリン酸化試薬の粉末や水溶液を添加してもよい。
【0037】
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(リン酸化試薬又は化合物A)を反応させることにより行うことができる。なお、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」という)の存在下で行ってもよい。
【0038】
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0039】
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0040】
これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
【0041】
また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
【0042】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。また、繊維原料に対するリン原子の添加量を100質量%以下とすることにより、リン酸化効率を高めつつも使用する化合物Aのコストを抑制することができる。
【0043】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、1-エチル尿素などが挙げられる。
【0044】
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
【0045】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0046】
リン酸基導入工程においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
【0047】
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
【0048】
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。
【0049】
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0050】
リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1mmol/g以上3.65mmol/g以下であることが好ましく、0.14mmol/g以上3.5mmol/g以下がより好ましく、0.2mmol/g以上3.2mmol/g以下がさらに好ましく、0.4mmol/g以上3.0mmol/g以下が特に好ましく、最も好ましくは0.6mmol/g以上2.5mmol/g以下である。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細化が容易でありながらも、微細繊維状セルロース同士の水素結合も残すことが可能で、シートにおいて良好な強度発現が期待できる。
【0051】
リン酸基の繊維原料への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
【0052】
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。すなわち、図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とする。
【0053】
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基が導入されるので好ましい。
【0054】
<カルボキシル基の導入>
本発明においては、微細繊維状セルロースがカルボキシル基を有するものである場合、たとえば繊維原料にTEMPO酸化処理などの酸化処理を施すことや、カルボン酸由来の基を有する化合物、その誘導体、またはその酸無水物もしくはその誘導体によって処理することで、カルボキシル基を導入することができる。
【0055】
カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。
【0056】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
【0057】
カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0058】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
【0059】
<アルカリ処理>
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性官能基導入工程と、後述する解繊処理工程の間にアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、官能基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
【0060】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0061】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、官能基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済み官能基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0062】
<解繊処理>
イオン性官能基導入繊維は、解繊処理工程で解繊処理される。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0063】
解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、またはt-ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
【0064】
微細繊維状セルロースは、解繊処理により得られた微細繊維状セルロース含有スラリーを、一度濃縮及び/又は乾燥させた後に、再度解繊処理を行って得てもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、及びWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、微細繊維状セルロース含有スラリーをシート化することで濃縮、乾燥し、該シートに解繊処理を行い、再度微細繊維状セルロース含有スラリーを得ることもできる。
【0065】
微細繊維状セルローススラリーを濃縮及び/又は乾燥させた後に、再度解繊(粉砕)処理をする際に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが、特に限定されない。
【0066】
(重合体)
本発明のシートは、ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体を含有する。
【0067】
ポリオール由来単位の由来化合物であるポリオールは、1分子内に水酸基を2つ以上有する化合物である。ポリオールは、水酸基を2つ以上6つ以下有する化合物であることが好ましく、2つ以上4つ以下有する化合物であることがより好ましく、2つもしくは3つ有する化合物であることがさらに好ましく、2つ有する化合物であることが特に好ましい。すなわち、ポリオール由来の単位は、ジオール由来の単位であることが好ましい。
【0068】
ポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、ポリアクリルポリオール、ダイマージオール、水添ダイマージオール等を挙げることができる。また、低分子量のポリオールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール(2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール)、2-イソプロピル-1,4-ブタンジオール、3-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ジメチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、3,5-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール(例えば1,4-シクロヘキサンジメタノール)、シクロヘキサンジオール(例えば1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール)、2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-プロパン等の脂環式ジオール;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキシトール類、ペンチトール類、グリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、テトラメチロールプロパン等の3価以上のポリオール等を挙げることができる。中でも、ポリオール由来の単位は、エチレングリコール、ジエチレングリコール及びポリエーテルポリオールから選択される少なくとも1種由来の単位であることが好ましい。
【0069】
含窒素化合物由来単位の由来化合物である含窒素化合物は、窒素原子を含む化合物であればよく、炭素-窒素結合部を有する化合物であることが好ましい。また、このような含窒素化合物は、ポリオール由来単位の由来化合物であるポリオールの水酸基と反応する基を有する化合物であることが好ましく、ポリオールの水酸基と反応する基を2つ以上有する化合物であることがより好ましい。このような含窒素化合物としては、例えば、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、アジリジン化合物、メラミン化合物等が挙げられる。中でも、含窒素化合物は、イソシアネート化合物及びカルボジイミド化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ジイソシアネート化合物及びジカルボジイミド化合物から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。すなわち、含窒素化合物由来の単位はイソシアネート化合物及びカルボジイミド化合物から選択される少なくとも1種に由来する単位であることが好ましく、ジイソシアネート化合物及びジカルボジイミド化合物から選択される少なくとも1種に由来する単位であることがより好ましい。なお、イソシアネート化合物はイソシアネート基を有する化合物であり、カルボジイミド化合物はカルボジイミド基を有する化合物である。
【0070】
含窒素化合物由来の単位がイソシアネート化合物に由来する単位である場合、ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体は、ウレタンポリマーであることが好ましい。例えば、ポリオール由来の単位がジオール由来の単位であって、含窒素化合物由来の単位がジイソシアネート化合物に由来する単位である場合は、ウレタンポリマーは下記構造を有するポリマーであることが好ましい。
【0071】
【化2】
【0072】
上記構造式中、R及びRはそれぞれ独立に2価の有機基を表し、nは、2以上の整数を表す。中でも、Rはジオールの残基であることが好ましく、Rはジイソシアネート化合物の残基であることが好ましい。ここで、ジオールの残基とは、ジオールから水酸基を除いた部分を構成する基のことをいい、ジイソシアネート化合物の残基とは、ジイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた部分を構成する基のことをいう。なお、上記構造式中、点線で囲まれた部分がポリオール由来の単位であり、それ以外の部分が含窒素化合物由来の単位である。
【0073】
ウレタンポリマーとしては、市販のウレタンプレポリマーを用いることもできる。例えば、第一工業製薬社製のウレタンプレポリマー水分散体(エラストロンH-3-NS、固形分濃度23.1質量%)を用いてもよい。また、上述したポリオールとイソシアネート化合物を用いて重合したウレタンポリマーを用いてもよい。
【0074】
また、ポリオールとしてポリエーテルポリオールを用い、含窒素化合物としてポリカルボジイミド化合物を用いて、重合体としてもよい。ポリエーテルポリオールとしては、例えば、数平均分子量が100以上1000以下のポリエチレングリコールを用いることができる。上記の重合体としては、例えば、下記構造を有するポリマーであることが好ましい。
【0075】
【化3】
【0076】
上記構造式中、R~Rはそれぞれ独立に2価の有機基を表し、nは、2以上の整数を表す。中でも、R及びRはそれぞれ独立にポリエーテルポリオールの残基であることが好ましく、R~Rはそれぞれ独立にポリカルボジイミド化合物の残基であることが好ましい。なお、上記構造式中、点線で囲まれた部分がポリオール由来の単位であり、それ以外の部分が含窒素化合物由来の単位である。
【0077】
ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体の含有量は、シートの全質量に対して、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、35質量%以上であることがさらに好ましい。また、微細繊維状セルロースの含有量は90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体の含有量を上記範囲内とすることにより、シートの引張強度をより効果的に高めることができる。
【0078】
(反応触媒)
本発明のシートの製造工程では、重合体の重合を促進するために、反応触媒をさらに添加してもよい。例えば、含窒素化合物由来の単位がジイソシアネート化合物に由来する単位である場合は、イソシアネート化合物とポリオールの重合反応及び/又は架橋反応を促進するために、反応触媒を用いることが好ましい。これにより、重合の際の熱処理時間を短縮すること等が可能となる。
【0079】
反応触媒としては、例えば、有機スズ系化合物、有機亜鉛系化合物、有機ジルコニウム系化合物、有機カドミニウム系化合物、有機バリウム系化合物、アミン化合物等が挙げられる。中でも、反応触媒としては、有機スズ系化合物を使用することが好ましい。なお、反応触媒は、重合体の合成に使用されるものであるが、反応触媒の少なくとも一部は最終的にシート中に含まれていてもよい。
【0080】
(任意成分)
本発明のシートには、上述した成分以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、たとえば、消泡剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、界面活性剤等を挙げることができる。また、任意成分としては、例えば、親水性高分子(セルロース繊維は除く)や有機イオン等が挙げられる。
【0081】
(シートの製造方法)
シートの製造工程は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体とを含有するスラリーを得る工程と、このスラリーを基材上に塗工する工程、又は、スラリーを抄紙する工程を含む。中でも、シートの製造工程は、微細繊維状セルロースと、ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体とを含むスラリー(以下、単にスラリーということもある)を基材上に塗工する工程を含むことが好ましい。また、微細繊維状セルロースは、リン酸化微細繊維状セルロースであることが好ましい。
【0082】
スラリーを得る工程では、微細繊維状セルロースとポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体の合計質量に対して、ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体を10質量%以上となるように添加することが好ましく、20質量%以上となるように添加することがより好ましく、35質量%以上となるように添加することがさらに好ましい。また、ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体を90質量%以下となるように添加することが好ましく、80質量%以下となるように添加することがより好ましい。
【0083】
スラリーを得る工程では、ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体をプレポリマーの状態で添加してもよく、ポリオール由来の単位と含窒素化合物由来の単位を各々添加し、スラリー中で重合体を形成させてもよい。
【0084】
また、スラリーを得る工程では、必要に応じて反応触媒を添加してもよい。反応触媒としては、上述した反応触媒を挙げることができる。スラリーを得る工程において反応触媒を添加する場合、反応触媒の添加量は、重合体100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましく、1質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。含窒素化合物由来の単位がジイソシアネート化合物に由来する単位である場合、反応触媒の添加量は、ウレタンプレポリマーの固形分100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましく、1質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
【0085】
<塗工工程>
塗工工程は、微細繊維状セルロースと、ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体とを含有するスラリーを基材上に塗工し、これを乾燥して形成されたシートを基材から剥離することによりシートを得る工程である。塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。
【0086】
塗工工程で用いる基材の質は、特に限定されないが、スラリーに対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板又は金属板が好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板及び、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を用いることができる。
【0087】
塗工工程において、スラリーの粘度が低く、基材上で展開してしまう場合、所定の厚み、坪量のシートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠の質は特に限定されないが、乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板を成形したものが好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板及び、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したものを用いることができる。
【0088】
スラリーを塗工する塗工機としては、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましい。
【0089】
塗工温度は特に限定されないが、20℃以上45℃以下であることが好ましく、25℃以上40℃以下であることがより好ましく、27℃以上35℃以下であることがさらに好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、スラリーを容易に塗工でき、上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
【0090】
塗工工程においては、シートの仕上がり坪量が10g/m以上100g/m以下、好ましくは20g/m以上60g/m以下になるようにスラリーを塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、強度に優れたシートが得られる。
【0091】
塗工工程は、基材上に塗工したスラリーを乾燥させる工程を含むことが好ましい。乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、シートを拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0092】
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができるが、特に限定されない。加熱乾燥法における加熱温度は特に限定されないが、20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及び微細繊維状セルロースが熱によって変色することを抑制できる。
【0093】
<抄紙工程>
シートの製造工程は、微細繊維状セルロースと、ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体とを含むスラリーを抄紙する工程を含んでもよい。抄紙工程で抄紙機としては、長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等公知の抄紙を行ってもよい。
【0094】
抄紙工程では、スラリーをワイヤー上で濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、プレス、乾燥することでシートを得る。スラリーを濾過、脱水する場合、濾過時の濾布としては特に限定されないが、微細繊維状セルロースやポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体は通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては特に限定されないが、有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。具体的には孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられるが、特に限定されない。
【0095】
スラリーからシートを製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2011/013567に記載の製造装置を用いる方法等が挙げられる。この製造装置は、微細繊維状セルロースを含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出されたスラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備えている。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
【0096】
採用できる脱水方法としては特に限定されないが、紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては特に限定されないが、紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。
【0097】
(加熱工程)
シートの製造工程は、上述したスラリーを基材上に塗工する工程、もしくは、スラリーを抄紙する工程の後に、加熱工程をさらに含むことが好ましい。加熱工程では、スラリーを基材上に塗工する工程、もしくは、スラリーを抄紙する工程で得られたシートを加熱することで、含窒素化合物とポリオールの重合及び/又は架橋をさらに進めることができる。
【0098】
加熱工程では、スラリーを基材上に塗工する工程、もしくは、スラリーを抄紙する工程で得られたシートを20℃以上150℃以下の温度で、1分以上100分以下加熱することが好ましい。加熱方法は、接触式もしくは非接触式の加熱方法を採用することができ、具体的には、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどを用いた乾燥方法を採用することができる。
【0099】
(積層体)
本発明は、シートにさらに他の層を積層した構造を有する積層体に関するものであってもよい。このような他の層は、シートの両表面上に設けられていてもよいが、シートの一方の面上にのみ設けられていてもよい。シートの少なくとも一方の面上に積層される他の層としては、例えば、樹脂層や無機層を挙げることができる。
【0100】
積層体の具体例としては、例えば、シートの少なくとも一方の面上に樹脂層が直接積層された積層体や、シートの少なくとも一方の面上に無機層が直接積層された積層体、樹脂層、シート、無機層がこの順で積層された積層体、シート、樹脂層、無機層がこの順で積層された積層体、シート、無機層、樹脂層がこの順で積層された積層体を挙げることができる。積層体の層構成は上記に限定されるものではなく、用途に応じて種々の態様とすることができる。
【0101】
<樹脂層>
樹脂層は、天然樹脂や合成樹脂を主成分とする層である。ここで、主成分とは、樹脂層の全質量に対して、50質量%以上含まれている成分を指す。樹脂の含有量は、樹脂層の全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。なお、樹脂の含有量は、100質量%とすることもでき、95質量%以下であってもよい。
【0102】
天然樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル等のロジン系樹脂を挙げることができる。
【0103】
合成樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、合成樹脂はポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂であることがより好ましい。なお、アクリル樹脂は、ポリアクリロニトリル及びポリ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0104】
樹脂層を構成するポリカーボネート樹脂としては、例えば、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。これらの具体的なポリカーボネート系樹脂は公知であり、例えば特開2010-023275号公報に記載されたポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
【0105】
樹脂層を構成する樹脂は1種を単独で用いてもよく、複数の樹脂成分が共重合または、グラフト重合してなる共重合体を用いてもよい。また、複数の樹脂成分を物理的なプロセスで混合したブレンド材料として用いてもよい。
【0106】
シートと樹脂層の間には、接着層が設けられていてもよく、また接着層が設けられておらず、シートと樹脂層が直接密着をしていてもよい。シートと樹脂層の間に接着層が設けられる場合は、接着層を構成する接着剤として、例えば、アクリル系樹脂を挙げることができる。また、アクリル系樹脂以外の接着剤としては、例えば、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン/アクリル酸エステル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル/(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂や、SBR、NBR等のゴム系エマルジョンなどが挙げられる。
【0107】
シートと樹脂層の間に接着層が設けられていない場合は、樹脂層が密着助剤を有してもよく、また、樹脂層の表面に親水化処理等の表面処理を行ってもよい。
密着助剤としては、例えば、イソシアネート基、カルボジイミド基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基及びシラノール基から選択される少なくとも1種を含む化合物や、有機ケイ素化合物が挙げられる。中でも、密着助剤はイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)及び有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。有機ケイ素化合物としては、例えば、シランカップリング剤縮合物や、シランカップリング剤を挙げることができる。
なお、親水化処理以外の表面処理の方法としては、コロナ処理、プラズマ放電処理、UV照射処理、電子線照射処理、火炎処理等を挙げることができる。
【0108】
<無機層>
無機層を構成する物質としては、特に限定されないが、例えばアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン;これらの酸化物、炭化物、窒化物、酸化炭化物、酸化窒化物、もしくは酸化炭化窒化物;またはこれらの混合物が挙げられる。高い防湿性が安定に維持できるとの観点からは、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、またはこれらの混合物が好ましい。
【0109】
無機層の形成方法は、特に限定されない。一般に、薄膜を形成する方法は大別して、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)と物理成膜法(Physical Vapor Deposition、PVD)とがあるが、いずれの方法を採用してもよい。CVD法としては、具体的には、プラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat-CVD)等が挙げられる。PVD法としては、具体的には、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等が挙げられる。
【0110】
また、無機層の形成方法としては、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition、ALD)を採用することもできる。ALD法は、形成しようとする膜を構成する各元素の原料ガスを、層を形成する面に交互に供給することにより、原子層単位で薄膜を形成する方法である。成膜速度が遅いという欠点はあるが、プラズマCVD法以上に、複雑な形状の面でもきれいに覆うことができ、欠陥の少ない薄膜を成膜することが可能であるという利点がある。また、ALD法には、膜厚をナノオーダーで制御することができ、広い面を覆うことが比較的容易である等の利点がある。さらにALD法は、プラズマを用いることにより、反応速度の向上、低温プロセス化、未反応ガスの減少が期待できる。
【0111】
(用途)
本発明のシートは、各種のディスプレイ装置、各種の太陽電池、等の光透過性基板の用途に適している。また、電子機器の基板、家電の部材、各種の乗り物や建物の窓材、内装材、外装材、包装用資材等の用途にも適している。さらに、糸、フィルタ、織物、緩衝材、スポンジ、研磨材などの他、シートそのものを補強材として使う用途にも適している。
【実施例
【0112】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、以下において、実施例4~8はそれぞれ、参考例4~8と読み替えるものとする。
【0113】
〔実施例1〕
<リン酸基導入セルロース繊維の作製>
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量208g/mシート状 離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を使用した。上記針葉樹クラフトパルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素200質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒間乾燥・加熱処理し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入した。このときのリン酸基の導入量は、0.98mmol/gであった。
【0114】
なお、リン酸基の導入量は、セルロースをイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバージェット1024:コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とした。
【0115】
<アルカリ処理、洗浄>
次いで、リン酸基を導入したセルロースに5000mlのイオン交換水を加え、撹拌洗浄後、脱水した。脱水後のパルプを5000mlのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液をpHが12以上13以下になるまで少しずつ添加して、パルプ分散液を得た。その後、このパルプ分散液を脱水し、5000mlのイオン交換水を加えて洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに1回繰り返した。
【0116】
<機械処理>
洗浄脱水後に得られたパルプにイオン交換水を添加して、固形分濃度が1.0質量%のパルプ分散液にした。このパルプ分散液を、高圧ホモジナイザー(NiroSoavi社製、Panda Plus 2000)を用いて処理し、セルロース分散液を得た。高圧ホモジナイザーを用いた処理においては、操作圧力1200barにてホモジナイジングチャンバーを5回通過させた。さらに、このセルロース分散液を湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)を用いて処理し、微細繊維状セルロース分散液(A)を得た。湿式微粒化装置を用いた処理においては、245MPaの圧力にて処理チャンバーを5回通過させた。微細繊維状セルロース分散液(A)に含まれる微細繊維状セルロースの平均繊維幅は4nmであった。
【0117】
<ポリオール及び含窒素化合物の混合>
微細繊維状セルロース分散液(A)の固形分濃度が0.5質量%となるよう濃度調整を行った。その後、微細繊維状セルロース分散液(A)の固形分80質量部に対して、ポリオール由来の単位と含窒素化合物由来の単位(ポリイソシアネート由来単位)からなるウレタンプレポリマー水分散体(第一工業製薬社製、エラストロンH-3-NS、固形分濃度23.1質量%)を、該ウレタンプレポリマーが20質量部となるよう添加して攪拌した。次いで、ウレタンプレポリマー20質量部に対して、イソシアネート基の反応触媒水分散体(第一工業製薬社製、エラストロンCAT-21、固形分濃度13.7質量%)を、該反応触媒が0.6質量部となるよう添加し、攪拌することで微細繊維状セルロース分散液(B)を得た。
【0118】
<シート化>
次いで、微細繊維状セルロース含有シート(微細繊維状セルロース分散液(B)の固形分から構成されるシート)の仕上がり坪量が50g/mになるように、微細繊維状セルロース分散液(B)を計量して、市販のアクリル板上に展開し、35℃、相対湿度15%の恒温恒湿器にて乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の金枠(内寸が180mm×180mmの金枠)を配置した。さらに、乾燥後に形成された微細繊維状セルロース含有シートをアクリル板から剥離し、120℃で1時間加熱することで、ポリオールと含窒素化合物の反応を促進させた。以上の手順により、微細繊維状セルロース含有シートを得た。シートの厚みは25μmであった。
【0119】
〔実施例2〕
実施例1の<ポリオール及び含窒素化合物の混合>において、ウレタンプレポリマー水分散体を、微細繊維状セルロース分散液(A)の固形分60質量部に対して、該ウレタンプレポリマーが40質量部となるよう添加して攪拌した。次いで、反応触媒の水分散体を、ウレタンプレポリマー40質量部に対して、該反応触媒が1.2質量部となるよう添加し、攪拌することで微細繊維状セルロース分散液(B)を得た。その他の手順は実施例1と同様にし、微細繊維状セルロース含有シートを得た。
【0120】
〔実施例3〕
実施例1の<ポリオール及び含窒素化合物の混合>において、ウレタンプレポリマー水分散体を、微細繊維状セルロース分散液(A)の固形分40質量部に対して、該ウレタンプレポリマーが60質量部となるよう添加して攪拌した。次いで、反応触媒の水分散体を、ウレタンプレポリマー60質量部に対して、該反応触媒が1.8質量部となるよう添加し、攪拌することで微細繊維状セルロース分散液(B)を得た。その他の手順は実施例1と同様にし、微細繊維状セルロース含有シートを得た。
【0121】
〔実施例4〕
実施例1の<ポリオール及び含窒素化合物の混合>において、ウレタンプレポリマー水分散体を、微細繊維状セルロース分散液(A)の固形分20質量部に対して、該ウレタンプレポリマーが80質量部となるよう添加して攪拌した。次いで、反応触媒の水分散体を、ウレタンプレポリマー80質量部に対して、該反応触媒が2.4質量部となるよう添加し、攪拌することで微細繊維状セルロース分散液(B)を得た。その他の手順は実施例1と同様にし、微細繊維状セルロース含有シートを得た。
【0122】
〔実施例5〕
実施例1で得られた微細繊維状セルロース分散液(A)の固形分濃度が0.5質量%となるよう濃度調整を行った。その後、微細繊維状セルロース分散液(A)の固形分67質量部に対して、ポリオールとして分子量400のポリエチレングリコール(第一工業製薬社製、PEG400)を17質量部添加して攪拌した。次いで、含窒素化合物としてポリカルボジイミド化合物の水溶液(日清紡ケミカル社製、カルボジライトV-02-L2、固形分濃度40.1%)を、ポリエチレングリコール17質量部に対して、該ポリカルボジイミド化合物が16質量部となるよう添加し、攪拌することで微細繊維状セルロース分散液(B)を得た。その他の手順は実施例1と同様にし、微細繊維状セルロース含有シートを得た。
【0123】
〔実施例6〕
実施例5において、微細繊維状セルロース分散液(A)の固形分57質量部に対してポリエチレングリコールを15質量部添加して攪拌した。次いで、ポリカルボジイミド化合物の水溶液を、ポリエチレングリコール15質量部に対して、該ポリカルボジイミド化合物が28質量部となるよう添加した。その他の手順は実施例5と同様にし、微細繊維状セルロース含有シートを得た。
【0124】
〔実施例7〕
実施例5において、微細繊維状セルロース分散液(A)の固形分45質量部に対してポリエチレングリコールを11質量部添加して攪拌した。次いで、ポリカルボジイミド化合物の水溶液を、ポリエチレングリコール11質量部に対して、該ポリカルボジイミド化合物が44質量部となるよう添加した。その他の手順は実施例5と同様にし、微細繊維状セルロース含有シートを得た。
【0125】
〔実施例8〕
<TEMPO酸化>
乾燥質量100質量部相当の未乾燥の王子製紙社製針葉樹晒クラフトパルプとTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル)1.25質量部と、臭化ナトリウム12.5質量部とを水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が8.0mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上11以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
【0126】
<TEMPO酸化パルプの洗浄>
その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。滴定法により測定される置換基(カルボキシル基)の導入量は1.5mmol/gであった。カルボキシル基導入量は、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、後述の機械処理により得られた微細繊維状セルロース分散液(A)を濃度0.2質量%に希釈し、体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバージェット1024:コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂と該分散液を分離して、分散液をアルカリを用いた滴定に供した。アルカリを用いた滴定では、図2(カルボキシル基)に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とした。
【0127】
<機械処理>
洗浄脱水後に得られたパルプにイオン交換水を添加して、固形分濃度が1.0質量%のパルプ分散液とした。このパルプ分散液を、高圧ホモジナイザー(NiroSoavi社製、Panda Plus 2000)を用いて処理し、セルロース分散液を得た。高圧ホモジナイザーを用いた処理においては、操作圧力1200barにてホモジナイジングチャンバーを5回通過させた。さらに、このセルロース分散液を湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)を用いて処理し、微細繊維状セルロース分散液(A)を得た。湿式微粒化装置を用いた処理においては、245MPaの圧力にて処理チャンバーを5回通過させた。微細繊維状セルロース分散液(A)に含まれる微細繊維状セルロースの平均繊維幅は4nmであった。
【0128】
<ポリオール及び含窒素化合物の混合>
微細繊維状セルロース分散液(A)の固形分濃度が0.5質量%となるよう濃度調整を行った。その後、微細繊維状セルロース分散液(A)の固形分80質量部に対して、ポリオール由来の単位と含窒素化合物由来の単位(ポリイソシアネート由来単位)からなるウレタンプレポリマー水分散体(第一工業製薬社製、エラストロンH-3-NS、固形分濃度23.1質量%)を、該ウレタンプレポリマーが20質量部となるよう添加して攪拌した。次いで、ウレタンプレポリマー20質量部に対して、イソシアネート基の反応触媒水分散体(第一工業製薬社製、エラストロンCAT-21、固形分濃度13.7質量%)を、該反応触媒が0.6質量部となるよう添加し、攪拌することで微細繊維状セルロース分散液(B)を得た。
【0129】
<シート化>
次いで、微細繊維状セルロース含有シート(微細繊維状セルロース分散液(B)の固形分から構成されるシート)の仕上がり坪量が50g/mになるように、微細繊維状セルロース分散液(B)を計量して、市販のアクリル板上に展開し、35℃、相対湿度15%の恒温恒湿器にて乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の金枠(内寸が180mm×180mmの金枠)を配置した。さらに、乾燥後に形成された微細繊維状セルロース含有シートをアクリル板から剥離し、120℃で1時間加熱することで、ポリオールと含窒素化合物の反応を促進させた。以上の手順により、微細繊維状セルロース含有シートを得た。
【0130】
〔比較例1〕
実施例1において、ウレタンプレポリマー水分散体とイソシアネート基の反応触媒水分散体の添加を行わなかった。その他の手順は実施例1と同様にし、微細繊維状セルロース含有シートを得た。
【0131】
〔比較例2〕
実施例5において、ポリカルボジイミド化合物の水溶液の添加を行わなかった。その他の手順は実施例5と同様にし、微細繊維状セルロース含有シートを得た。
【0132】
〔比較例3〕
<ポリオールの混合>
実施例1の<アルカリ処理、洗浄>で得られた洗浄後のパルプ濃度を、イオン交換水で固形分濃度15質量%に調整した。次いで、該パルプ由来の固形分28質量部に対し、イオン交換水を905.3質量部、ポリオールとして分子量400のポリエチレングリコール(第一工業製薬社製、PEG400)を28質量部添加して攪拌することで、パルプ由来の固形分が2.5質量%、ポリエチレングリコールの含有率が2.5質量%のパルプ分散液(A)を得た。
【0133】
<機械処理>
上記のパルプ分散液(A)に対し、実施例1と同様の手順で機械処理を行うことで、微細繊維状セルロース分散液(C)を得た。微細繊維状セルロース分散液(C)に含まれる微細繊維状セルロースの平均繊維幅は80nmであった。
【0134】
<含窒素化合物の混合>
微細繊維状セルロース分散液(C)の固形分濃度が0.5質量%となるよう濃度調整を行った。その後、含窒素化合物としてポリカルボジイミド化合物の水溶液(日清紡ケミカル社製、カルボジライトV-02-L2、固形分濃度40.1質量%)を、ポリエチレングリコール28質量部に対して、該ポリカルボジイミド化合物が45質量部となるよう添加し、攪拌することで微細繊維状セルロース分散液(D)を得た。
【0135】
<シート化>
次いで、微細繊維状セルロース含有シート(微細繊維状セルロース分散液(D)の固形分から構成されるシート)の仕上がり坪量が50g/mになるように、微細繊維状セルロース分散液(D)を計量して、市販のアクリル板上に展開し、35℃、相対湿度15%の恒温恒湿器にて乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の金枠(内寸が180mm×180mmの金枠)を配置した。さらに、乾燥後に形成された微細繊維状セルロース含有シートをアクリル板からはく離し、120℃で1時間加熱することで、ポリオールと含窒素化合物の反応を促進させた。以上の手順により、微細繊維状セルロース含有シートを得た。
【0136】
(評価)
実施例及び比較例で得た微細繊維状セルロース含有シートを、以下の方法にて評価した。
【0137】
(全光線透過率)
微細繊維状セルロース含有シートの全光線透過率を、JIS K 7361に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定した。
【0138】
(ヘーズ)
微細繊維状セルロース含有シートのヘーズを、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定した。
【0139】
(加熱前後の黄色度)
JIS K 7373に準拠し、Colour Cute i(スガ試験機株式会社製)を用いて微細繊維状セルロース含有シートの加熱前後の黄色度を測定した。なお、加熱後の黄色度は、200℃で4時間真空乾燥した微細繊維状セルロース含有シートの黄色度とした。また、黄色度の変化量としてΔYIを下記の式より算出した。
ΔYI=(加熱後の黄色度)-(加熱前の黄色度)
【0140】
(吸水率)
微細繊維状セルロース含有シートを50mm角に切出し、23℃、相対湿度50%の条件で24時間調湿し、調湿重量を測定した。次いで、調湿重量を測定した後の微細繊維状セルロース含有シートを、24時間イオン交換水に浸漬し、表面に残る余分な水をふき取った後に、湿潤重量を測定した。上記調湿重量、湿潤重量から、微細繊維状セルロース含有シートの吸水率(%)を下記式にしたがって算出した。
吸水率(%)=100×(湿潤重量-調湿重量)/調湿重量
【0141】
(引張物性)
微細繊維状セルロース含有シートの引張弾性率及び引張強度を、JIS P 8113に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定した。なお、引張弾性率及び引張強度を測定する際には、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したものを試験片として用いた。
【0142】
【表1】
【0143】
表1から明らかなように、ポリオール由来の単位と含窒素化合物由来の単位を含む重合体を含有する実施例1~8では、高い透明性、低い吸水率、高い引張弾性率を兼ね備えた微細繊維状セルロース含有シートが得られた。ポリオール由来の単位と含窒素化合物由来の単位を含む重合体を含まない比較例1、および含窒素化合物由来の単位を含まない比較例2では、吸水率が大きく、耐水性の観点から実用上の問題が懸念された。また、機械処理前にポリオールを混合した比較例3では、吸水率が低い微細繊維状セルロース含有シートが得られたものの、微細繊維状セルロースの繊維径が大きいことから透明性が十分に向上せず、適用可能な用途が限定されることが示唆された。
図1
図2