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  • 特許-焼却主灰の処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】焼却主灰の処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 5/00 20060101AFI20241211BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20241211BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20241211BHJP
   B09B 101/30 20220101ALN20241211BHJP
【FI】
B09B5/00 N ZAB
C22B1/00 101
C22B7/02 Z
B09B101:30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021042850
(22)【出願日】2021-03-16
(65)【公開番号】P2022142609
(43)【公開日】2022-09-30
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹本 智典
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 洸
(72)【発明者】
【氏名】武藤 恭宗
(72)【発明者】
【氏名】吉川 知久
【審査官】宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-023862(JP,A)
【文献】特開2017-140556(JP,A)
【文献】特開2003-211129(JP,A)
【文献】特表2020-523485(JP,A)
【文献】特開平09-075853(JP,A)
【文献】特開2001-232341(JP,A)
【文献】特開2020-189254(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0165698(US,A1)
【文献】特開2012-130877(JP,A)
【文献】特開2020-110739(JP,A)
【文献】特表2019-501014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 5/00
B09B 3/30
B09B 101/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径10mm以下の焼却主灰に、焼却主灰に対して1質量倍以上の水を加水する第1の工程と、
加水後の焼却主灰を遠心分離により脱水する第2の工程と、
脱水後の焼却主灰を比重選別により重産物と軽産物とに分離し、軽産物をセメント原料として回収する第3の工程と、
第3の工程で選別された重産物を磁力選別により非磁着物と磁着物とに分離し、非磁着物を非鉄精錬原料として回収し、かつ磁着物を電炉・高炉原料として回収する第4の工程
を備える、
焼却主灰の処理方法。
【請求項2】
第2の工程において、加水後の焼却主灰を篩選別し、篩上を遠心分離により脱水する、請求項1記載の焼却主灰の処理方法。
【請求項3】
篩選別を篩目が1mm以下の篩で行う、請求項記載の焼却主灰の処理方法。
【請求項4】
加水後の焼却主灰を遠心分離により分離したスラリーを湿式比重選別により重産物と軽産物とに分離し、重産物を非鉄精錬原料として回収し、かつ軽産物をセメント原料として回収する、請求項1~のいずれか1項に記載の焼却主灰の処理方法。
【請求項5】
加水後の焼却主灰を篩選別して分離した篩下を湿式比重選別により重産物と軽産物とに分離し、重産物を非鉄精錬原料として回収し、かつ軽産物をセメント原料として回収する、請求項1~のいずれか1項に記載の焼却主灰の処理方法。
【請求項6】
第1の工程前に、焼却主灰から粒径10mm以下の焼却主灰を選別する準備工程を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の焼却主灰の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却主灰の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ごみ等の焼却炉の炉床からは焼却主灰が排出され、排出された焼却主灰は一般廃棄物として管理型処分場にそのまま埋立処分されている。しかし、近年、最終埋立処分場の残余容量が減少しているため、焼却主灰の有効利用が種々検討されている。
【0003】
例えば、焼却主灰の処理方法として、最大粒径5mm以下の焼却主灰を渦電流選別により導体と不導体とに分離した後、導体を比重差選別により高比重物と低比重物とに分離し、高比重物として貴金属を回収し、低比重物としてアルミニウムを回収することが提案されている(特許文献1)。また、焼却主灰に水を添加してスラリー化した後、ごみ焼却灰スラリーを粗粒子を含むスラリーと、微粒子を含むスラリーに分離し、粗粒子を含むスラリーを湿式比重選別して貴金属を回収し 、微粒子を含むスラリーを脱塩した後、セメント原料として資源化することが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-58059号公報
【文献】特開2020-110739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、焼却主灰は多くの水分を含み、湿潤状態にあるため、焼却主灰を処理するうえで、次の課題がある。即ち、焼却主灰を湿潤状態のまま物理選別に供すると、焼却主灰の表面に水分が滲み出すため、焼却主灰同士が一体化して団粒化し、装置等への付着、閉塞等を起こして正常な運転が困難となる。この対策として、例えば、乾燥機による熱エネルギーや、混和材の添加による水和熱エネルギーを焼却主灰に付与して水分を除去することが考えられるが、熱エネルギーを利用した方法はエネルギー消費量が膨大で高コストとなり、また混合材を利用した方法は水分を除去するのに多大な時間を要し、単位時間当たりの焼却主灰の処理能力が大きく低下し、また処理時間の短縮するために混合材を増量すると、高コストになる。更に、焼却主灰をそのまま遠心分離機で脱水して水分を低減する方法も考えられるが、焼却主灰が金属やスラグ等の粗粒を含むため、遠心分離機の摩耗やろ布の損傷が激しく脱水処理が困難である。
本発明の課題は、焼却主灰の効率的な処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
当該技術分野において、遠心分離機は、上記において説明したとおり、焼却主灰の脱水を目的に通常使用されているが、本発明者らは、焼却主灰を遠心分離機に投入する前に、敢えて焼却主灰に加水することで、遠心分離機への供給が容易になるだけでなく、遠心分離により粗粒と微粒の分離が促進されるため、焼却主灰から有価物を効率的に選別回収できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔6〕を提供するものである。
〔1〕粒径10mm以下の焼却主灰に加水する第1の工程と、
加水後の焼却主灰を遠心分離により脱水する第2の工程と、
脱水後の焼却主灰を比重選別により重産物と軽産物とに分離し、軽産物をセメント原料として回収する第3の工程と、
第3の工程で選別された重産物を磁力選別により非磁着物と磁着物とに分離し、非磁着物を非鉄精錬原料として回収し、かつ磁着物を電炉・高炉原料として回収する第4の工程
を備える、
焼却主灰の処理方法。
〔2〕第1の工程において、焼却主灰に対して1質量倍以上の水を加水する、前記〔1〕記載の焼却主灰の処理方法。
〔3〕第2の工程において、加水後の焼却主灰を篩選別し、篩上を遠心分離により脱水する、前記〔1〕又は〔2〕記載の焼却主灰の処理方法。
〔4〕篩選別を篩目が1mm以下の篩で行う、前記〔3〕記載の焼却主灰の処理方法。
〔5〕加水後の焼却主灰を遠心分離により分離したスラリーを湿式比重選別により重産物と軽産物とに分離し、重産物を非鉄精錬原料として回収し、かつ軽産物をセメント原料として回収する、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一に記載の焼却主灰の処理方法。
〔6〕加水後の焼却主灰を篩選別して分離した篩下を湿式比重選別により重産物と軽産物とに分離し、重産物を非鉄精錬原料として回収し、かつ軽産物をセメント原料として回収する、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の焼却主灰の処理方法。
〔7〕第1の工程前に、焼却主灰から粒径10mm以下の焼却主灰を選別する準備工程を有する、前記〔1〕~〔6〕のいずれか一に記載の焼却主灰の処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、焼却主灰から有価物を効率的に選別回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の焼却主灰の処理方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の焼却主灰の処理方法は、第1の工程、第2の工程、第3の工程及び第4の工程を備えるものである。以下、各工程について詳細に説明するが、本発明の焼却主灰の処理方法の一例を図1に示す。
【0011】
〔第1の工程〕
第1の工程は、粒径10mm以下の焼却主灰に加水する工程である。
焼却主灰は、多くの水分を含有する湿灰であり、18%から35%の高い水分を含有する場合がある。そのため、焼却主灰を処理する際には、焼却主灰から水分を除去してハンドリング性を向上させることが通常であるが、本発明者らは敢えて焼却主灰に加水することで、意外にも、焼却主灰に含まれる有価物の選別が容易になることを見出した。即ち、湿潤状態の焼却主灰は、物理選別を行う際の装置の振動等により団粒化し、粗大化することがある。そして、粗大化した焼却主灰は、装置内で閉塞を生じやすいため処理効率の低下を招くが、加水した焼却主灰は粗大化しないため、処理装置への供給が容易であり、また遠心分離により粗粒と微粒の分離を促進できることを見出した。ここで、本明細書において「焼却主灰」とは、都市ゴミや産業廃棄物を焼却炉で焼却した際に炉底に溜まる焼却残渣(ボトムアッシュ)をいう。したがって、本発明に係る「焼却主灰」には、焼却した際の排ガス中の煤塵である焼却飛灰(フライアッシュ)は包含されない。なお、産業廃棄物としては、例えば、廃自動車、廃家電、自動販売機、OA機器等のシュレッダーダスト、建築廃プラスチック、農業廃プラスチック、漁業廃プラスチック、海洋廃プラスチック等の廃プラスチックを挙げることができる。
【0012】
先ず、焼却主灰の粒度を調整し、第1の工程で使用する焼却主灰を準備する。
粒径の調整は、例えば、破砕機や分級機を用いて行うことが可能であり、これらを組み合わせてもよい。破砕機としては、例えば、ジョークラッシャー、インパクトクラッシャー、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー、ロータリークラッシャーが挙げられる。なお、破砕機には、焼却主灰の粒度を調整するために、所望する篩目のスクリーンを装着するか、あるいはスクリーンを装着しない場合には、固定歯、回転歯、内壁等を所望するクリアランスに調整すればよい。また、分級機としては、例えば、リップルフロー型やローヘッド型等の振動篩、トロンメル等の回転式篩、スパイラル分級機等の湿式分級機が挙げられ、所望する篩目を用いればよい。
【0013】
粒度調整後の焼却主灰は、粒径が10mm以下であるが、装置内部の摩耗・破損の防止の観点から、8mm以下が好ましく、7mm以下がより好ましく、6mm以下が更に好ましい。なお、焼却主灰の粒径の下限値は特に限定されないが、篩い目の目詰まり防止の観点から、0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、1mm以上が更に好ましい。
【0014】
次に、粒度調整した焼却主灰に加水する。
加水方法は一般的な方法であればいずれの方法も採用でき、特に限定されないが、例えば、遠心分離機に焼却主灰を投入する際に加水する方法の他に、焼却主灰を撹拌槽内に収容し、該焼却主灰に水を添加又は噴霧し撹拌する方法、コンベヤの入り口、コンベヤ上、又は搬送の乗り継ぎ箇所等において焼却主灰に水を添加又は噴霧する方法を挙げることができる。とりわけ、攪拌槽内で焼却主灰と水を攪拌すると、灰の塊の解砕や、粗粒に付着した微粒を剥離することができるため、遠心分離機内での粗粒と微粒の分離が容易となる。撹拌機は、横型筒状ドラムを回転させる構造の装置(掻き上げ用のバーが内側に装着された容器、解泥や粗粒からの微粒の剥離を促すためにロッドやボールを入れる又は突起や羽根を有するシャフトが挿入された構造の容器等)等の連続的に投入、排出が可能な装置の他に、コンクリートの攪拌に使用される1軸、2軸のバッチ式のミキサーを使用してもよい。叩き洗いの効果、連続処理が可能な点を踏まえると、横型筒状ドラムを使用するとより効果的である。なお、焼却主灰への加水は、間欠的に行っても、連続的に行ってもよい。
【0015】
水としては、例えば、JIS A 5303付属書Cに規定される上水道水、該上水道水以外の水(例えば、河川水、湖沼水、井戸水、地下水、工業用水)を挙げることができる。また、水は、冷却水、常温水及び温水のいずれでもよく、特に限定されない。
【0016】
加水量は、焼却主灰に対して、1質量倍以上が好ましく、2質量倍以上がより好ましく、3質量倍以上が更に好ましい。焼却主灰への加水量が少な過ぎると、焼却主灰の流動性が低下するため、次工程において閉塞等によりハンドリング性が低下しやすくなる。他方、加水量が多過ぎると、作業効率が低下するだけでなく、高コストになるため、加水量は、焼却主灰に対して、20質量倍以下が好ましく、15質量倍以下がより好ましく、10質量倍以下が更に好ましい。
【0017】
また、本工程においては、加水後の焼却主灰を篩選別し、篩上を次工程に供してもよい。これにより、粗粒と微粒の分離が遠心分離によってより一層促進されるため、焼却主灰から有価物の選別回収がより容易になる。
篩選別には、例えば、上記において説明した振動篩、回転式篩、湿式分級機を使用することができるが、これらに限定されない。
篩選別の篩目は、粗粒と微粒の分離のより一層の促進、目詰まり防止の観点から、0.5~1mmが好ましく、0.3~0.5mmがより好ましく、0.3mmが更に好ましい。
なお、加水後の焼却主灰を篩により選別された篩上は、改めて加水して流動性を改善しておくことがハンドリング性の観点から好ましい。加水量は、焼却主灰に加水したときと同等の流動性を有すればよく、適宜選択することができる。
【0018】
〔第2の工程〕
第2の工程は、第1の工程後の焼却主灰を遠心分離により脱水する工程である。遠心分離により水と灰とに分離できるが、水分を多く含む微粒の灰(Ca、S、Clが多い)が水側に移行するため、Si、Al、Fe、Cu、Znなどが微粒分よりも多い粗粒主体の灰を良好な水分量で脱水物として回収することができる。また、脱水物は、水分が18%未満と低く、また微粒が少なくなっているため、熱エネルギーなどを利用することなく、次工程に供することができ、容易に有価物の回収が可能となる。
【0019】
遠心分離機は、遠心沈降機でも、遠心脱水機でもよいが、スクリーンの目から水を通過させることで灰と水を分離できる遠心脱水機の方が、水側により多くの微粒分の灰を移行させることができるため、灰の水分をより低下させることができる。また、本工程は、複数回行うと、水分低減効果は増大する。
【0020】
遠心脱水機には円筒式バスケット型、円錐式バスケット型等の形式が存在するが、特に限定されない。
遠心脱水機のろ材としては、例えば、ろ布、スクリーンを挙げることができる。中でも、孔径0.05mm以上のスクリーンを使用すると、効率よく脱水できる。ろ布の材質としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンが挙げられ、またスクリーンの材質としては、例えば、ステンレス、ハステロイを挙げることができる。
遠心ろ過における遠心力は、通常100~2000Gであるが、脱水効率の観点から、200~1000Gが好ましく、200~800Gが更に好ましい。
【0021】
遠心沈降機にも直胴型、デカンタ型、ディスク型等の形式が存在するが、特に限定されない。
遠心沈降における遠心力は、通常500~4000Gであるが、脱水効率の観点から、1000~3000Gが好ましく、1500~2500Gが更に好ましい。
【0022】
本工程は、2回以上行っても構わない。この場合、回収した脱水物について、第1の工程と同様の加水を行った後、再度本工程を行えばよい。これにより、1回の脱水で除去しきれなかった微粒子を更に除去できるだけなく、水分量をより一層低減することができる。
なお、本工程のスラリーには、微粒子が多く含まれることがある。そのため、本発明においては、スラリーから固形物を回収する工程を有することができる。脱水処理は、例えば、遠心分離機を使用することが可能であり、遠心沈降機が好適である。脱水処理は、複数回行っても構わない。
【0023】
本工程後、遠心分離機から脱水物を回収するが、回収された脱水物は、エアーを吹きかけて更に水分量を低減させる表面改質工程に供することができる。また、本工程後、表面改質工程に代えて、あるいは表面改質工程とともに、回収した脱水物について篩い選別して2以上の粒群に分けた後、粒群毎に次工程に供することもできる。
【0024】
〔第3の工程〕
第3の工程は、脱水後の焼却主灰を比重選別により重産物と軽産物とに分離し、軽産物をセメント原料として回収する工程である。
比重選別機は、公知の比重選別機を用いることが可能であり、乾式及び湿式のいずれでも構わないが、乾式のテーブル式比重選別機が好ましく、エアテーブルが更に好ましい。
比重選別において、例えば、エアテーブルを用いる場合、振動式テーブルの上面に供給された脱水後の焼却主灰は、振動式テーブルを通過する空気流によって振動式テーブルの上面から浮上した状態となり、振動式テーブルの傾斜方向に付与された振動により、比重の大きい重産物が下層に、比重の小さい軽産物が上層に移動し、下層の重産物は振動式テーブルの上面から摩擦力と振動力とを受けて斜め上方へ移動し、上層の軽産物は振動式テーブルの上面から摩擦力と振動力とを受けずに斜め下方へ押し流され、振動式テーブルから重産物と軽産物が別々に排出される。そして、重産物は次工程に供され、軽産物はセメント原料として回収される。後掲の実施例に示されるように、軽産物はカルシウム分に富むため、セメント原料として再利用することができる。
【0025】
また、本工程において、加水後の焼却主灰を篩選別し、篩上を遠心分離により脱水した脱水物を比重選別する場合には、当該脱水物は水分量が十分に低下しているため、比重選別機で処理することで容易に重産物を回収できる。この重産物は、特に貴金属が濃縮している粒群であり、Au、Ag、Cu、Fe等の有価金属を濃縮回収可能であり、またCr、Pb等のセメント忌避成分も重産物中に回収できる。なお、当該脱水物は、上記したように、水分量が十分に低下しているため、そのままでも比重選別できるが、湿潤した粒子表面を乾燥させてから、比重選別した方が粒子同士の付着や比重選別機のデッキ上での居着き抑制効果があるため、コンベヤ上でブロアを行う、または風力選別機で処理を行ってもよい。
【0026】
〔第4の工程〕
第3の工程で選別された重産物を磁力選別により非磁着物と磁着物とに分離し、非磁着物を非鉄精錬原料として回収し、かつ磁着物を電炉・高炉原料として回収する工程である。これにより、有価金属の再利用が可能になる。
磁力選別には、公知の磁力選別機を用いることが可能であり、例えば、ドラム式、プーリー式及び吊下げ式のいずれでもよく、特に限定されない。
磁力選別では、例えば、内側に永久磁石が配置されたドラム上に重産物を供給し、重産物に含まれる磁着物がドラム表面に吸着され、ドラムの回転により運ばれ、磁着物排出口から排出される。他方、重産物に含まれる非磁着物は、ドラムの回転によりドラム表面より離反・落下し、非磁着物排出口から排出される。そして、非磁着物は非鉄精錬原料として回収され、磁着物は電炉・高炉原料として回収される。後掲の実施例に示されるように、非磁着物は、Au、Ag、Cu、Fe等の有価金属に富むため、非鉄精錬原料として再利用することができる。また、磁着物は、ステンレス、鉄等に富むため、電炉・高炉原料として再利用することができる。
【0027】
磁力選別機の表面磁束密度は、非磁着物と磁着物との分離促進の観点から、700~10000ガウスが好ましく、1000~7500ガウスがより好ましく、1500~5000ガウスが更に好ましい。
【0028】
このようにして焼却主灰を処理することで、焼却主灰から有価物を効率的に選別回収できる。
【0029】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、第1の工程において脱水後の焼却主灰を篩選別して分離された篩下、及び第2の工程の遠心分離により分離されたスラリーには、焼却主灰由来の微粒子が多く含まれているため、それらを回収してもよい。より具体的には、第1の工程において脱水後の焼却主灰を篩選別して分離された篩下、及び第2の工程の遠心分離により分離されたスラリーから選択される1以上を湿式比重選別により重産物と軽産物とに分離し、重産物を非鉄精錬原料として回収し、かつ軽産物をセメント原料として回収することができる。
【実施例
【0030】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0031】
1.Au、Ag、Fe、Crの分析
JIS M 8100番から8200番の鉱石の分析方法に準拠して分析を行った。
【0032】
2.S、CaO、SiO2、Al、Cu、Pb、Clの分析
蛍光X線分析装置(リガク製、ZSX Primus II)を用いてファンダメンタルパラメータ―法で分析した。
【0033】
実施例1
(準備工程)
工場の既存設備で選別された焼却主灰を、篩い目25mmの篩いで篩い分けした。次いで、篩い下の焼却主灰を、円筒振動篩い(興和工業所製、KF-1000-3D、スクリーン10mm)で篩い分け、篩い下50.0kgを採取した。篩い下の水分量は、25.0mass%であった。
(第1の工程)
篩い下50kgに対して、150L(3倍量)の水を加えて、十分に攪拌して、均一なスラリーを得た。
(第2の工程)
スラリーを遠心脱水機(コトブキ技研工業製、N452K、スクリーン0.3mm、遠心加速度300G)に供給して、脱水処理を行い、脱水物を41.5kg回収した。脱水物の水分量は、16.5mass%であった。
(第3の工程)
脱水物41.5kgを乾式比重選別機(原田産業製 SHB-4)に供給して、比重選別処理を行い、重産物を2 .0kg、軽産物を39.5kg回収した。
(第4の工程)
第3の工程で回収した重産物をドラム型磁力選別機(日本マグネティックス製、RENS-φ318×350L、3000ガウス)に供給して、磁力選別処理を行い、非磁着物を0.95kg、磁着物を1.05kg回収した。
【0034】
実施例2
(第1の工程)
準備工程、第1の工程及び第2の工程を実施例1と同様の条件で行って得られた脱水物に対して実施例1と同様の条件で再度加水し、十分に攪拌して、均一なスラリーを得た。
(第2の工程)
スラリーを、遠心脱水機を用いて実施例1と同様の条件で脱水処理を行い、脱水物を回収した。脱水物の水分量は、13.3mass%であった。
(第3の工程)
脱水物について乾式比重選別機を用いて実施例1と同様の条件で比重選別処理を行い、重産物と、軽産物を回収した。
(第4の工程)
重産物についてドラム型磁力選別機を用いて実施例1と同様の条件で磁力選別処理を行い、非磁着物と、磁着物を回収した。
【0035】
実施例3
(準備工程)
篩い目25mmの篩いで篩い分けした篩い下について実施例1と同様の操作を行い、篩い下を採取した。篩い下の水分量は、25.0mass%であった。
(第1の工程)
篩い下について実施例1と同様の操作を行い、均一なスラリーを得た。
(第2の工程)
スラリーを遠心沈降機(CMS製、LCSS-M300-22型、遠心加速度2000G)に供給して脱水処理を行い、脱水物を回収した。脱水物の水分量は、17.8mass%であった。
(第3の工程)
脱水物について乾式比重選別機を用いて実施例1と同様の条件で比重選別処理を行い、重産物と、軽産物を回収した。
(第4の工程)
重産物についてドラム型磁力選別機を用いて実施例1と同様の条件で磁力選別処理を行い、非磁着物と、磁着物を回収した。
【0036】
実施例4
(第1の工程)
準備工程、第1の工程及び第2の工程を実施例3と同様の条件で行って得られた脱水物に対して実施例3と同様の条件で再度加水し、十分に攪拌して、均一なスラリーを得た。(第2の工程)
スラリーを、遠心沈降機を用いて実施例3と同様の条件で脱水処理を行い、脱水物を回収した。脱水物の水分量は、16.9mass%であった。
(第3の工程)
脱水物について乾式比重選別機を用いて実施例1と同様の条件で比重選別処理を行い、重産物と、軽産物を回収した。
(第4の工程)
重産物についてドラム型磁力選別機を用いて実施例1と同様の条件で磁力選別処理を行い、非磁着物と、磁着物を回収した。
【0037】
実施例5
(準備工程)
篩い目25mmの篩いで篩い分けした篩い下を、スクリーン6mmを装着した円筒振動篩いで篩い分けしたこと以外は、実施例1と同様の操作により篩い下を採取した。篩い下の水分量は、30.0mass%であった。
(第1の工程)
篩い下について実施例1と同様の操作を行い、均一なスラリーを得た。
(第2の工程)
スラリーを、スクリーン0.4mmを装着した遠心脱水機に供給し、遠心加速度400Gにて脱水処理を行い、脱水物を回収した。脱水物の水分量は、17.3mass%であった。
(第3の工程)
脱水物について乾式比重選別機を用いて実施例1と同様の条件で比重選別処理を行い、重産物と、軽産物を回収した。
(第4の工程)
重産物についてドラム型磁力選別機を用いて実施例1と同様の条件で磁力選別処理を行い、非磁着物と、磁着物を回収した。
【0038】
実施例6
(準備工程)
篩い目25mmの篩いで篩い分けした篩い下を、実施例5と同様の操作により篩い分けを行い、篩い下を採取した。篩い下の水分量は、30.0mass%であった。
(第1の工程)
篩い下に対して50L(1倍量)の水を加えたこと以外は、実施例1と同様の操作により均一なスラリーを得た。
(第2の工程)
スラリーを、スクリーン0.4mmを装着した遠心脱水機に供給し、遠心加速度700Gにて脱水処理を行い、脱水物を回収した。脱水物の水分量は、17.6mass%であった。
(第3の工程)
脱水物について乾式比重選別機を用いて実施例1と同様の条件で比重選別処理を行い、重産物と、軽産物を回収した。
(第4の工程)
重産物についてドラム型磁力選別機を用いて実施例1と同様の条件で磁力選別処理を行い、非磁着物と、磁着物を回収した。
【0039】
実施例7
(準備工程)
篩目25mmの篩下の焼却主灰について実施例1と同様の操作を行って得られたスラリーを、篩目0.3mmの篩いで篩い分けし、篩い上を採取した。篩い上の水分量は、35.0mass%であった。
(第1の工程)
篩い上について実施例6と同様の操作を行い、均一なスラリーを得た。
(第2の工程)
スラリーを、スクリーン0.3mmを装着した遠心脱水機に供給し、遠心加速度400Gにて脱水処理を行い、脱水物を回収した。脱水物の水分量は、12.1mass%であった。
(第3の工程)
脱水物について乾式比重選別機を用いて実施例1と同様の条件で比重選別処理を行い、重産物と、軽産物を回収した。
(第4の工程)
重産物についてドラム型磁力選別機を用いて実施例1と同様の条件で磁力選別処理を行い、非磁着物と、磁着物を回収した。
【0040】
比較例1
(準備工程)
篩い目25mmの篩いで篩い分けした篩い下を、スクリーン15mmを装着した円筒振動篩いで篩い分けたこと以外は、実施例1と同様の操作により篩い下を採取した。篩い下の水分量は、24.5mass%であった。
(第1の工程)
篩い下について実施例1と同様の操作を行い、均一なスラリーを得た。
(第2の工程)
スラリーについて遠心脱水機を用いて実施例1と同様の条件で脱水処理を試みたが、脱水品を排出することができず、以降の実施を断念した。
【0041】
比較例2
(準備工程)
篩い目25mmの篩いで篩い分けした篩い下について、比較例1と同様の操作を行い、篩い下を採取した。篩い下の水分量は、24.5mass%であった。
(第1の工程)
篩い下について実施例1と同様の操作を行い、均一なスラリーを得た。
(第2の工程)
スラリーについて遠心沈降機を用いて実施例3と同様の条件で脱水処理を試みたが、脱水品を排出することができず、以降の実施を断念した。
【0042】
比較例3
(準備工程)
篩い目25mmの篩いで篩い分けした篩い下について実施例1と同様の操作を行い、篩い下を採取した。篩い下の水分量は、25.0mass%であった。
(第1の工程)
篩い下に対して25L(0.5倍量)の水を加えたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、スラリーを得た。
(第2の工程)
スラリーを遠心脱水機に供給することができず、以降の実施を断念した。
【0043】
各実施例及び比較例における処理条件を表1に示す。また、各実施例及び比較例において、第3の工程で得られた軽産物(セメント原料)、並びに第4の工程で得られた非磁着物(非鉄精錬原料)及び磁着物(電炉・高炉原料)の分析結果を表2、3に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
比較例1、2は、粗粒の噛み込みなどにより異音が発生して遠心分離機の損傷が起きる虞があり、また遠心脱水機又は遠心沈降機からスラリーを排出することができず、連続処理が困難となった。
また、比較例3は、スラリーに流動性がないため、スラリーを遠心脱水機に供給することができず、連続処理が困難となった。
これに対し、実施例1~7では、スラリーが流動性を有するため、スラリーを遠心分離機に供給することも、排出することも可能であった。また、脱水後のスラリーを比重選別に供することで、軽産物としてセメント原料を容易に回収することが可能であり、重産物を磁力選別に供することで、非磁着物として非鉄精錬原料を、磁着物として電炉・高炉原料を回収することができた。
図1