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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】非水溶媒の精製方法および精製装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 15/00 20060101AFI20241211BHJP
   B01J 39/20 20060101ALI20241211BHJP
   B01J 41/14 20060101ALI20241211BHJP
   B01J 47/014 20170101ALI20241211BHJP
   B01J 47/14 20170101ALI20241211BHJP
   B01D 15/04 20060101ALI20241211BHJP
   B01J 39/05 20170101ALI20241211BHJP
   B01J 39/07 20170101ALI20241211BHJP
   B01J 41/05 20170101ALI20241211BHJP
   B01J 41/07 20170101ALI20241211BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20241211BHJP
【FI】
B01D15/00 J
B01J39/20
B01J41/14
B01J47/014
B01J47/14
B01D15/04
B01J39/05
B01J39/07
B01J41/05
B01J41/07
H01M10/0569
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021061046
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022157042
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】吉永 尚哉
(72)【発明者】
【氏名】合庭 健太
(72)【発明者】
【氏名】中村 彰
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-001124(JP,A)
【文献】特開2020-195947(JP,A)
【文献】特開2020-061288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 15/00
B01J 39/20
B01J 41/14
B01J 47/014
B01J 47/14
B01D 15/04
B01J 39/05
B01J 39/07
B01J 41/05
B01J 41/07
H01M 10/0569
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換樹脂を用いた非水溶媒の精製方法であって、
イオン交換樹脂を、25℃における比誘電率が15以上である前処理用非水溶媒に接触させる前処理工程と、
該前処理工程後の前記イオン交換樹脂を精製対象非水溶媒に接触させる精製工程と、
を有し、前記前処理用非水溶媒と前記精製対象非水溶媒との成分一致率が85質量%以下であり、前記前処理用非水溶媒を構成する非水溶媒が、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、アセトン、2-ブタノン、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選択されることを特徴とする非水溶媒の精製方法。
【請求項2】
前記精製対象非水溶媒が、該精製対象非水溶媒中に5質量%以上含まれる成分を2種以上含有する混合非水溶媒である、請求項1に記載の非水溶媒の精製方法。
【請求項3】
さらに、前記前処理工程において前記イオン交換樹脂と接触した後の前記前処理用非水溶媒を、水分除去装置に接触させる水分除去工程を有する、請求項1または2に記載の非水溶媒の精製方法。
【請求項4】
イオン交換樹脂を用いた非水溶媒の精製装置であって、
イオン交換樹脂を、25℃における比誘電率が15以上である前処理用非水溶媒に接触させる前処理手段と、
前記前処理用非水溶媒に接触させた前記イオン交換樹脂を精製対象非水溶媒に接触させる精製手段と、
を有し、前記前処理用非水溶媒と前記精製対象非水溶媒との成分一致率が85質量%以下であり、前記前処理用非水溶媒を構成する非水溶媒が、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、アセトン、2-ブタノン、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選択されることを特徴とする非水溶媒の精製装置。
【請求項5】
前記精製対象非水溶媒が、該精製対象非水溶媒中に5質量%以上含まれる成分を2種以上含有する混合非水溶媒である、請求項4に記載の非水溶媒の精製装置。
【請求項6】
さらに、前記前処理手段において前記イオン交換樹脂と接触した後の前記前処理用非水溶媒を、水分除去装置に接触させる水分除去手段を有する、請求項4または5に記載の非水溶媒の精製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分含有量を低減したイオン交換樹脂を用いる非水溶媒の精製方法および精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体やリチウムイオン電池の製造において、高度に精製された非水溶媒が用いられている。非水溶媒の精製方法として、蒸留法が知られているが、設備費用が大きく、多大なエネルギーが必要である上、高度な精製が難しい等の技術課題が存在する。そこで、イオン交換樹脂やイオン交換フィルターを用いたイオン交換法により非水溶媒を精製する方法が提案されている。イオン交換法は、設備費用が小さく、省エネルギーで、高度な精製が可能という特徴を有する。
【0003】
しかしながら、通常、イオン交換樹脂は水分を含有しているため、非水溶媒を精製する際に、イオン交換樹脂から溶出した水分が非水溶媒中に混入する問題があった。したがって、イオン交換樹脂を非水溶媒精製に用いる前に、該イオン交換樹脂に含まれる水分を低減する必要がある。イオン交換樹脂の含有水分を低減する方法としては、イオン交換樹脂を減圧乾燥する方法や、減圧乾燥に加えて、イオン交換樹脂に前処理用非水溶媒を通液して水分を除去する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、減圧乾燥だけでは、イオン交換樹脂の含有水分を十分に低下させることができない。また、減圧乾燥に加えて前処理用非水溶媒を通液する方法においては、イオン交換樹脂に対して数十倍量~数百倍量もの多量の前処理用非水溶媒が必要となるという課題がある。
【0004】
そこで、特許文献2に記載のように、前処理用非水溶媒を貯蔵する原液タンクと、イオン交換樹脂を収容したイオン交換樹脂容器と、前処理用非水溶媒中の水分を除去する水分除去装置とを組合せ、ポンプ等の送液手段を用いて前処理用非水溶媒を循環通液することにより、少量の前処理用非水溶媒でイオン交換樹脂の含有水分を低減する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2000-505042号公報
【文献】特開2020-121261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の方法においては、前処理用非水溶媒として、精製対象非水溶媒と近い組成を有する前処理用非水溶媒が好適に用いられている。そのため、精製対象非水溶媒が変わるたびに、前処理用非水溶媒を変更する必要があった。
【0007】
したがって、本発明は、多種の前処理用非水溶媒を必要とすることなく、簡便かつ経済的に、含有水分量を低減したイオン交換樹脂を用いる非水溶媒の精製方法および精製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的に鑑みて、本発明者らが鋭意検討した結果、水との親和性が高い、25℃における比誘電率が15以上である前処理用非水溶媒を用いてイオン交換樹脂中の水分を置換、除去し、その後、該イオン交換樹脂を該前処理用非水溶媒との成分一致率が85質量%以下である精製対象非水溶媒と接触させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、イオン交換樹脂を用いた非水溶媒の精製方法であって、イオン交換樹脂を、25℃における比誘電率が15以上である前処理用非水溶媒に接触させる前処理工程と、該前処理工程後の前記イオン交換樹脂を精製対象非水溶媒に接触させる精製工程と、を有し、前記前処理用非水溶媒と前記精製対象非水溶媒との成分一致率が85質量%以下であり、前記前処理用非水溶媒を構成する非水溶媒が、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、アセトン、2-ブタノン、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選択されることを特徴とする非水溶媒の精製方法である。
【0010】
また、本発明は、イオン交換樹脂を用いた非水溶媒の精製装置であって、イオン交換樹脂を、25℃における比誘電率が15以上である前処理用非水溶媒に接触させる前処理手段と、前記前処理用非水溶媒に接触させた前記イオン交換樹脂を精製対象非水溶媒に接触させる精製手段と、を有し、前記前処理用非水溶媒と前記精製対象非水溶媒との成分一致率が85質量%以下であり、前記前処理用非水溶媒を構成する非水溶媒が、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、アセトン、2-ブタノン、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選択されることを特徴とする非水溶媒の精製装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、多種の前処理用非水溶媒を必要とすることなく、簡便かつ経済的に、含有水分量を低減したイオン交換樹脂を用いる非水溶媒の精製方法および精製装置を提供することができる。また、本発明によれば、精製対象非水溶媒と成分一致率が低い前処理用非水溶媒を使用する場合であっても、非水溶媒精製時のイオン交換樹脂からの水分溶出を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る前処理装置の構成を示す概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係る精製装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<非水溶媒の精製方法>
本発明に係る非水溶媒の精製方法は、イオン交換樹脂を用いた非水溶媒の精製方法であって、イオン交換樹脂を、25℃における比誘電率が15以上である前処理用非水溶媒に接触させる前処理工程と、前処理工程後のイオン交換樹脂を精製対象非水溶媒に接触させる精製工程と、を有する。また、前処理用非水溶媒と精製対象非水溶媒との成分一致率は85質量%以下である。以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
[前処理工程]
前処理工程は、イオン交換樹脂を、25℃における比誘電率が15以上である前処理用非水溶媒に接触させる工程である。前処理工程を行うことにより、イオン交換樹脂中に含まれる水分を効率良く低減することができる。その結果、該イオン交換樹脂を精製対象非水溶媒の精製に用いた場合の、樹脂から精製対象非水溶媒への水分溶出を抑制することができる。なお、イオン交換樹脂は、前処理工程に用いる前に、減圧乾燥等の公知の方法によって乾燥したものであってもよい。
【0015】
(イオン交換樹脂)
本発明において用いるイオン交換樹脂は、特に制限されるものではないが、有機高分子を母体とする有機高分子系のイオン交換樹脂が好ましい。母体となる有機高分子としては、スチレン系樹脂またはアクリル系樹脂が挙げられる。
【0016】
なお、本明細書において、「スチレン系樹脂」とは、スチレンまたはスチレン誘導体を単独または共重合した、スチレン又はスチレン誘導体に由来する構成単位を50質量%以上含む樹脂を意味する。スチレン誘導体としては、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。
【0017】
スチレン系樹脂としては、スチレンまたはスチレン誘導体の単独または共重合体を主成分とするものであれば、共重合可能な他のビニルモノマーとの共重合体であってもよい。そのようなビニルモノマーとしては、例えば、o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン等のジビニルベンゼン;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性モノマー;(メタ)アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート等から選ばれる1種以上を挙げることができる。これらの中でも、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレン重合数が4~16のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンが好ましく、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましく、ジビニルベンゼンが特に好ましい。
【0018】
また、本明細書において、「アクリル系樹脂」とは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルから選ばれる1種以上を単独重合または共重合した、アクリル酸に由来する構成単位、メタクリル酸に由来する構成単位、アクリル酸エステルに由来する構成単位およびメタクリル酸エステルに由来する構成単位から選ばれる構成単位を50質量%以上含む樹脂を意味する。
【0019】
アクリル系樹脂としては、アクリル酸の単独重合体、メタクリル酸の単独重合体、アクリル酸エステルの単独重合体、メタクリル酸エステルの単独重合体、アクリル酸と他のモノマー(例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等)等)との共重合体、メタクリル酸と他のモノマー(例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等)等)との共重合体、アクリル酸エステルと他のモノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等)等)との共重合体、メタクリル酸エステルと他のモノマー(例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等))との共重合体から選ばれる1種以上を挙げることができる。これらの中でも、メタクリル酸・ジビニルベンゼン共重合体またはアクリル酸・ジビニルベンゼン共重合体が好ましい。
【0020】
アクリル酸エステルとしては、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸の直鎖状アルキルエステルまたは分岐状アルキルエステルがより好ましく、アクリル酸の直鎖状アルキルエステルがさらに好ましい。また、アルキルエステル部位に含まれるアルキル基の炭素数は1~4であることが好ましく、アクリル酸エステルがアクリル酸メチルまたはアクリル酸エチルであることが特に好ましい。
【0021】
メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸の直鎖状アルキルエステルまたは分岐状アルキルエステルがより好ましく、メタクリル酸の直鎖状アルキルエステルがさらに好ましい。また、アルキルエステル部位に含まれるアルキル基の炭素数は1~4であることが好ましく、メタクリル酸アルキルエステルがメタクリル酸メチルまたはメタクリル酸エチルであることが特に好ましい。
【0022】
イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂のいずれであってもよく、キレート樹脂であってもよい。また、イオン交換樹脂は、樹脂の有する細孔の径が小さく透明なゲル型および細孔の径が大きいマクロポアを有するマクロリテキュラー型(MR型)またはマクロポーラス型(ポーラス型、ハイポーラス型とも呼ばれる)のいずれであってもよい。
【0023】
陽イオン交換樹脂としては、スルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂およびカルボン酸基を有する弱酸性陽イオン交換樹脂が挙げられる。陽イオン交換樹脂のイオン形は限定されないが、金属等の不純物除去の観点から水素イオン形(H形)が好ましい。陽イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト(登録商標) IRN99H(ゲル型の強酸性陽イオン交換樹脂、商品名、デュポン社製)、アンバージェット(登録商標) 1060H(ゲル型の強酸性陽イオン交換樹脂、商品名、オルガノ(株)製)、オルライト(登録商標) DS-1(ゲル型の強酸性陽イオン交換樹脂、商品名、オルガノ(株)製)、オルライト(登録商標) DS-4(マクロポーラス型の強酸性陽イオン交換樹脂、商品名、オルガノ(株)製)等が挙げられる。
【0024】
陰イオン交換樹脂としては、第4級アンモニウム塩基を有する強塩基性陰イオン交換樹脂および第1級~第3級アミノ基を有する弱塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。強塩基性陰イオン交換樹脂のイオン形は限定されないが、金属等の不純物除去の観点から、水酸化物イオン形(OH形)、炭酸形または重炭酸形が一般的に用いられる。弱塩基性陰イオン交換樹脂のイオン形は限定されないが、金属等の不純物除去の観点から、遊離塩基形が一般的に用いられる。陰イオン交換樹脂としては、例えば、オルライト(登録商標) DS-2(ゲル型の強塩基性陰イオン交換樹脂、商品名、オルガノ(株)製)、DS-6(MR型の弱塩基性陰イオン交換樹脂、商品名、オルガノ(株)製)、ダイヤイオン(登録商標) WA30(ハイポーラス型の弱塩基性陰イオン交換樹脂、商品名、三菱化学(株)製)等が挙げられる。
【0025】
キレート樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、オルライト(登録商標) DS-21およびDS-22(いずれもマクロポーラス型のキレート樹脂、商品名、オルガノ(株)製)等が挙げられる。
【0026】
(前処理用非水溶媒)
前処理用非水溶媒としては、25℃における比誘電率が15以上であるものを用いる。前処理用非水溶媒の25℃における比誘電率は、好ましく18以上である。前処理用非水溶媒としては、25℃における比誘電率が15以上であり、水に溶解可能な非水溶媒であれば限定されるものではない。なお、前処理用非水溶媒は、2種以上の非水溶媒から構成されていてもよく、その場合、2種以上の非水溶媒を混合して得られる混合非水溶媒の25℃における比誘電率が15以上であり、該混合非水溶媒が水に溶解可能であればよい。前処理用非水溶媒を構成する非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート、アセトン、2-ブタノン等のケトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等が挙げられる。これらの非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
なお、本明細書において、混合非水溶媒の比誘電率は、該混合非水溶媒に含まれる各非水溶媒の比誘電率およびその体積比に基づき算出した値を意味する。すなわち、例えば、非水溶媒A(比誘電率ε)と非水溶媒B(比誘電率ε)から構成される混合非水溶媒(体積比α:β、α+β=100)の比誘電率εは、下式より算出される。
ε=(ε×(α/100))+(ε×(β/100))
【0028】
前処理用非水溶媒と精製対象非水溶媒の比誘電率の関係に制限はなく、前処理用非水溶媒としては、比誘電率が15以上であれば、比誘電率が精製対象非水溶媒よりも小さいもの、比誘電率が精製対象非水溶媒よりも大きいもの、比誘電率が精製対象非水溶媒と同じであるもののいずれも用いることができる。
【0029】
本発明において、前処理用非水溶媒と後述する精製対象非水溶媒との成分一致率は85質量%以下である。ここで、成分一致率とは、前処理用非水溶媒と精製対象非水溶媒の各非水溶媒に含まれる各成分の質量割合を比較し、質量割合の少ない方の質量割合(各成分の成分一致率)を積算することにより算出される値(質量%)である。例えば、いずれか一方の非水溶媒にしか含まれていない成分がある場合、該成分の成分一致率は「0質量%」となり、これを他の成分の成分一致率と積算することにより、前処理用非水溶媒と精製対象非水溶媒との成分一致率が算出される。すなわち、本発明においては、前処理用非水溶媒と精製対象非水溶媒が同一の溶媒である必要はなく、両者の成分一致率が低い場合や、両者が全く異なる溶媒である(両者の成分一致率が0質量%である)場合であっても、上記本発明の効果を発揮することができる。そのため、本発明によれば、精製対象非水溶媒との成分一致率が高い前処理用非水溶媒を用いなくとも、確実にイオン交換樹脂の含有水分を低減可能であり、後述する精製工程において廃棄される、精製直後の水分を多く含有する精製対象非水溶媒の量を削減することができる。また、精製対象非水溶媒の種類に合わせて前処理用非水溶媒を変更する手間を省くこともできる。
【0030】
前処理用非水溶媒中の水分濃度は、10ppm以下であることが好ましい。前処理用非水溶媒中の水分濃度が10ppm以下であれば、前処理工程における前処理用非水溶媒による樹脂への水分のコンタミネーションを防ぐことができる。水分濃度が10ppm以下である前処理用非水溶媒としては、例えばリチウムイオン電池用グレードの前処理用非水溶媒が挙げられる。なお、水分濃度(ppm)は、例えば、カールフィッシャー容量法水分計(商品名:Aquacounter AQ-2200、平沼産業(株)製)を用いて、カールフィッシャー法により測定した値である。ppmは、対象非水溶媒に対する水の質量比を表す。
【0031】
イオン交換樹脂を前処理用非水溶媒に接触させる方法は、特に制限されないが、バッチ処理方法およびカラムによる連続通液処理方法が挙げられる。このうち、操作性や効率の観点から、連続通液処理方法が好ましい。
【0032】
連続通液処理方法において、イオン交換樹脂はカラム等の精製塔に充填される。精製塔の樹脂充填層高は、精製塔の高さにもよるが、例えば100~1000mmとすることができる。次いで、前処理用非水溶媒を、例えばSV(空間速度、h-1)0.5~50にて、2~200BV通液する。ここで、BV(Bed volume)は、樹脂量に対して通液する非水溶媒量の倍数を表す。通液の方向は、下向流または上向流のいずれであってもよい。このようにして通液することにより、イオン交換樹脂中に含まれる水分が順次、前処理用非水溶媒と置換され、除去される。
【0033】
次にバッチ処理方法について説明する。まず、イオン交換樹脂を、撹拌機を備えた反応槽内に充填する。次に、前処理用非水溶媒を該反応槽内に充填する。容積比としては、特に限定はされないが、樹脂量1に対して非水溶媒2~200が好適である。その後、例えば0.1~16時間程度放置することが、樹脂と非水溶媒を馴染ませる点で好適である。放置後、撹拌機を作動させて樹脂と非水溶媒を均一に混合する。撹拌速度および撹拌時間は、反応槽の大きさや処理量等により適宜決定すればよい。撹拌終了後、濾過等を行い、樹脂と前処理用非水溶媒を分離することによって、水分が除去された樹脂を得ることができる。
【0034】
なお、前処理工程後のイオン交換樹脂は、精製対象非水溶媒の精製に用いられるまで、前処理工程において使用した前処理用非水溶媒中に浸漬した状態で保存しておくことも可能である。その場合は、精製工程に使用する際に、樹脂と前処理用非水溶媒を分離し、精製対象非水溶媒の精製に用いればよい。また、前処理工程後のイオン交換樹脂に対して、窒素などの不活性ガスによる液抜きを行うことにより、前処理用非水溶媒を除去した後、密閉状態で保管することも可能である。この場合には、保管されているイオン交換樹脂を、そのまま精製工程に用いることができる。
【0035】
[水分除去工程]
前処理工程においてイオン交換樹脂と接触した後の、水分を多く含有する前処理用非水溶媒は、通常は廃棄される。ただし、前処理工程で使用した後の前処理用非水溶媒に対し、該溶媒中の水分を除去する水分除去工程を実施した場合には、該水分除去工程後の前処理用非水溶媒を、前処理工程で用いる前処理用非水溶媒として再利用することができ、さらに非水溶媒の使用量を削減することができる。すなわち、本発明に係る精製方法は、前処理工程においてイオン交換樹脂と接触した後の前処理用非水溶媒を、水分除去装置に接触させる水分除去工程を有していてもよい。
【0036】
また、水分除去工程においてイオン交換樹脂および水分除去装置の順に接触させた後の前処理用非水溶媒を、前処理工程に用いる前処理用非水溶媒として再利用するために、前処理用非水溶媒を循環しながら前処理工程を実施することも可能である。すなわち、本発明に係る精製方法は、前処理用非水溶媒を貯蔵するタンクと、イオン交換樹脂を充填したイオン交換樹脂容器と、前処理用非水溶媒中の水分を除去する水分除去装置を少なくとも有するとともに、前記タンクから、前記イオン交換樹脂容器および前記水分除去装置の順に前処理用非水溶媒を接触させた後、該前処理用非水溶媒を前記タンクに返送する送液を、前記前処理用非水溶媒を循環しながら行う方法であってもよい。これにより、イオン交換樹脂の水分除去に使用した前処理用非水溶媒を効率良く再利用することが可能となる。なお、前処理用非水溶媒の循環は、例えば、循環送液管を用いて行うことができる。
【0037】
水分除去装置としては、例えば、ゼオライト等の水分吸着材を含むものを挙げることができる。ゼオライトとしては、非水溶媒中の水分を吸着し得るものであれば特に制限されず、A型、Y型、X型、チャバサイト、フェリエライト、ZSM-5およびクリノプチロライト等から選ばれる1種以上の結晶性ゼオライトを挙げることができる。
【0038】
該結晶性ゼオライトは、結晶性ゼオライトを構成するSi/Alモル比が1~5であるものが好ましい。Si/Alモル比が上記範囲内にあることにより、構造上安定であるとともに、適度なカチオン含有率を有し好適に水分を吸着除去することができる。結晶性ゼオライトは、カチオンがリチウムイオンやカルシウムイオン等で交換されたものであってもよいし、交換されていないものであってもよい。結晶性ゼオライトは、その細孔径が3Å~10Åであるものが好ましく、3Å~6Åであるものがより好ましく、3Å~5Åであるものがさらに好ましい。細孔径が上記範囲内にあることにより、非水溶媒中の水分を好適に吸着除去することができる。なお、細孔径とは、結晶構造と保持するカチオン種から推定される理論値を意味する。
【0039】
水分除去装置内に充填されるゼオライトの充填形態は、非水溶媒とゼオライトとが接触し得る形態であれば特に制限されない。水分除去装置は、例えば、非水溶媒を通液し得るゼオライトを充填したカラムまたは槽であってもよい。また、水分除去装置は、非水溶媒を通液するためのポンプを備えたものであってもよい。前処理用非水溶媒を水分除去装置に接触させる方法としては、上述したイオン交換樹脂を前処理用非水溶媒に接触させる方法と同様の方法が挙げられる。ただし、水分除去装置に充填されたゼオライトに対し、前処理用非水溶媒が上向流で通液されるように水分除去装置を配置することが好ましい。非水溶媒をゼオライトに通液する速度は、非水溶媒中の水分を除去し得る速度から適宜選択すればよい。
【0040】
[精製工程]
精製工程は、前記前処理工程後の含有水分が低減されたイオン交換樹脂を、精製対象非水溶媒に接触させ、精製対象非水溶媒の精製を行う工程である。
【0041】
(精製対象非水溶媒)
精製対象非水溶媒は、例えば電池産業や電子産業で使用される薬液および溶媒等である。精製対象非水溶媒として、具体的には、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネートや、アセトン、2-ブタノン等のケトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、が挙げられる。これらの非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの薬液や溶媒に、電解質や各種添加剤、他の化学薬液を溶かし込んだものも使用できる。電解質としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiCFSO、LiN(SOF)、LiN(SOCF等が挙げられる。これらの中でも、本発明に係る精製方法は、特に、リチウムイオン電池用電解液の精製に好ましく用いられる。
【0042】
精製対象非水溶媒は、2種以上の成分を含有することが好ましい。なお、ここでいう成分とは、精製対象非水溶媒(100質量%)中に5質量%以上含まれる成分を意味する。すなわち、精製対象非水溶媒が、該精製対象非水溶媒中に5質量%以上含まれる成分を2種以上含有する混合非水溶媒であることが好ましい。前記成分には、上記例示した非水溶媒や電解質等が含まれる。例えば、電解質を5質量%以上添加したプロピレンカーボネート(電解質とプロピレンカーボネートの合計は100質量%)は、2種の成分を含有する精製対象非水溶媒である。
【0043】
前処理工程後のイオン交換樹脂を精製対象非水溶媒に接触させる方法としては、上述したイオン交換樹脂を前処理用非水溶媒に接触させる方法と同様の方法が挙げられる。
【0044】
なお、精製対象非水溶媒をイオン交換樹脂に接触させて実際の精製を行う前に、必要に応じて、前処理用非水溶媒を精製対象非水溶媒と置換する処理を行ってもよい。その場合、精製対象非水溶媒を、通常、1~20BV通液することにより、前処理用非水溶媒と精製対象非水溶媒を置換することができる。通常、前処理用非水溶媒と精製対象非水溶媒は容易に混合するため、この処理を行うことにより、前処理用非水溶媒の大部分は精製対象非水溶媒による溶媒置換によって押し出され、除去されるものと考えられる。しかしながら、わずかに残存する前処理用非水溶媒が精製対象非水溶媒にとって不純物となる場合には、適宜、精製対象非水溶媒中の前処理用非水溶媒濃度を分析し、前処理用非水溶媒濃度が目標濃度以下に低減するまで精製対象非水溶媒を通液することが望ましい。
【0045】
<非水溶媒の精製装置>
本発明に係る非水溶媒の精製装置は、イオン交換樹脂を用いた非水溶媒の精製装置であって、イオン交換樹脂を、25℃における比誘電率が15以上である前処理用非水溶媒に接触させる前処理手段と、前処理用非水溶媒に接触させたイオン交換樹脂を精製対象非水溶媒に接触させる精製手段と、を有する。また、前処理用非水溶媒と精製対象非水溶媒との成分一致率は85質量%以下である。前処理手段および精製手段の詳細は、それぞれ上述した非水溶媒の精製方法に係る前処理工程および精製工程における説明と同様である。
【0046】
また、本発明に係る精製装置は、前処理手段においてイオン交換樹脂と接触した後の前処理用非水溶媒を、水分除去装置に接触させる水分除去手段を有していてもよい。さらに、イオン交換樹脂および水分除去装置の順に接触させた後の前処理用非水溶媒を、前処理手段において用いる前処理用非水溶媒として再利用するために、前処理用非水溶媒を循環しながら前処理手段を実施することも可能である。すなわち、本発明に係る精製装置は、前処理用非水溶媒を貯蔵するタンクと、イオン交換樹脂を充填したイオン交換樹脂容器と、前処理用非水溶媒中の水分を除去する水分除去装置を少なくとも有するとともに、前記タンクから、前記イオン交換樹脂容器および前記水分除去装置の順に前記前処理用非水溶媒を接触させた後、前記前処理用非水溶媒を前記タンクに返送する循環送液手段を有していてもよい。水分除去装置の詳細は、非水溶媒の精製方法に係る水分除去工程において説明したとおりである。循環送液手段としては、例えば、循環送液管が挙げられる。
【0047】
図1は、本発明の一実施形態に係る前処理手段としての前処理装置の構成を示す概略図である。なお、図1は、前処理装置を、精製手段としての精製装置(図2)と別に設けた場合における本発明に係る精製装置の例を示すが、例えば、図1に示す前処理装置と図2に示す精製装置とを組み合わせて、本発明に係る精製装置を構成することもできる。その場合、イオン交換樹脂容器として共通のものを用いてもよい。図1に示す前処理装置は、前処理用非水溶媒を貯蔵するタンク1と、イオン交換樹脂を充填するイオン交換樹脂容器2と、ゼオライトを含む水分除去装置3と、循環送液手段としての循環送液管Lと、を有する。該前処理装置においては、前処理用非水溶媒を、ポンプPを用いて、タンク1から、イオン交換樹脂容器および水分除去装置の順に通液した後、循環送液管Lによって、通液した前処理用非水溶媒が前記タンクに返送される。なお、循環送液管Lは、図1に示すように、水分除去装置3に充填されたゼオライトに対し、循環送液管L内を流通する前処理用非水溶媒が上向流となるように配置することが好ましい。イオン交換樹脂は、前処理を行う前に、酸アルカリ水溶液や純水等により洗浄してもよい。酸アルカリ水溶液等により洗浄する場合は、イオン交換樹脂容器の出口に比抵抗計または導電率計を設けて、比抵抗値または導電率の値を確認しながら、酸アルカリ水溶液等が前処理用非水溶媒と混合しないように留意する。
【0048】
図2は、本発明の一実施形態に係る精製手段としての精製装置の構成を示す概略図である。図2に示す精製装置は、精製前の精製対象非水溶媒を貯蔵するタンク4と、前記前処理装置を用いて水分を除去した後のイオン交換樹脂が充填されたイオン交換樹脂容器5と、精製後の精製対象非水溶媒を貯蔵するタンク6と、を有する。該精製装置においては、精製対象非水溶媒を、ポンプPを用いて、タンク4からイオン交換樹脂容器5に通液し、精製された精製対象非水溶媒をタンク6にて回収する。なお、イオン交換樹脂への精製対象非水溶媒の通液は上向流または下向流から適宜選択できる。イオン交換樹脂の真密度が精製対象非水溶媒の密度より小さい場合は上向流であることが好ましく、イオン交換樹脂の真密度が精製対象非水溶媒の密度より大きい場合は下向流であることが好ましい。イオン交換樹脂の前処理と精製対象非水溶媒の精製は、必ずしも連続して行う必要はない。ただし、連続して行わない場合には、前処理後のイオン交換樹脂と、水分や金属不純物とが接触しないように密閉した状態で保管する必要がある。
【実施例
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明の効果を説明するが、これらは単なる例示であって、本発明を制限するものではない。
【0050】
[実施例1]
図1に示すイオン交換樹脂の前処理装置を用いて、イオン交換樹脂の前処理を行い、その後、図2に示す精製装置を用いて、精製対象非水溶媒の精製を行った。
前処理用非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比2:1(質量比72:28)で混合した非水溶媒(水分濃度<10ppm)を用いた。
精製対象非水溶媒として、ECとジメチルカーボネート(DMC)を体積比1:1で混合した非水溶媒に、LiPFを1mol/Lとなるように溶解した電解液(LiPF:EC:DMC(質量比)=11:49:40、水分濃度<10ppm)を用いた。
その他の条件は以下のとおりである。
【0051】
(イオン交換樹脂容器)
テフロン(登録商標)製カラム(内径:26mm、高さ:200mm)
(水分除去装置)
テフロン(登録商標)製カラム(内径:26mm、高さ:200mm)
(充填剤)
イオン交換樹脂:ジメチルアミン基、スチレン系、MR型、充填量40mL
ゼオライト:細孔径4Å、充填量80mL
(前処理条件)
イオン交換樹脂への前処理用非水溶媒の通液速度:10(L/L-樹脂)/h
ゼオライトへの前処理用非水溶媒の通液速度:5(L/L-ゼオライト)/h
通液時間:17時間
(精製条件)
イオン交換樹脂への精製対象非水溶媒の通液速度:10(L/L-樹脂)/h
【0052】
上記条件下で、イオン交換樹脂の前処理および精製対象非水溶媒の精製を行い、精製対象非水溶媒をイオン交換樹脂に対して2BV通液した後の、カラム出口における精製対象非水溶媒中の水分濃度を測定した。なお、水分濃度(質量ppm)は、カールフィッシャー容量法水分計(商品名:Aquacounter AQ-2200、平沼産業(株)製)を用いて、カールフィッシャー法により測定した値である。また、ppmは、精製対象非水溶媒に対する水の質量比を表す。前処理用非水溶媒の組成および比誘電率、前処理用非水溶媒と精製対象非水溶媒との成分一致率(質量%)、ならびに通液開始から2BV後の精製対象非水溶媒中の水分濃度(質量ppm)を表1に示す。なお、混合溶媒の比誘電率は、該混合溶媒に含まれる各溶媒の比誘電率およびその体積比に基づき算出した値である。
【0053】
[実施例2]
前処理用非水溶媒として、ECとEMCを体積比1:3(質量比30:70)で混合した非水溶媒(水分濃度<10ppm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にイオン交換樹脂の前処理および精製対象非水溶媒の精製を行った。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例3]
前処理用非水溶媒として、ECとEMCを体積比1:5(質量比21:79)で混合した非水溶媒(水分濃度<10ppm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にイオン交換樹脂の前処理および精製対象非水溶媒の精製を行った。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例4]
前処理用非水溶媒として、ECとジメチルカーボネート(DMC)を体積比2:1(質量比71:29)で混合した非水溶媒(水分濃度<10ppm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にイオン交換樹脂の前処理および精製対象非水溶媒の精製を行った。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例5]
前処理用非水溶媒として、プロピレンカーボネート(PC、水分濃度<10ppm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にイオン交換樹脂の前処理および精製対象非水溶媒の精製を行った。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例6]
前処理用非水溶媒として、2-ブタノン(水分濃度<10ppm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にイオン交換樹脂の前処理および精製対象非水溶媒の精製を行った。結果を表1に示す。
【0058】
[比較例1]
前処理用非水溶媒として、ECとEMCを体積比1:9(質量比13:87)で混合した非水溶媒(水分濃度<10ppm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にイオン交換樹脂の前処理および精製対象非水溶媒の精製を行った。結果を表1に示す。
【0059】
[比較例2]
前処理用非水溶媒として、DMC(水分濃度<10ppm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にイオン交換樹脂の前処理および精製対象非水溶媒の精製を行った。結果を表1に示す。
【0060】
[比較例3]
前処理用非水溶媒として、EMC(水分濃度<10ppm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にイオン交換樹脂の前処理および精製対象非水溶媒の精製を行った。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
精製対象非水溶媒と前処理用非水溶媒との成分一致率(質量%)は、各非水溶媒に含まれる各成分の質量割合を比較して、質量割合の少ない方の質量割合(各成分の成分一致率)を積算することにより算出した。一例として、実施例1における、精製対象非水溶媒と前処理用非水溶媒との成分一致率の算出方法を表2に示す。表2に示すように、前処理用非水溶媒として、EC/EMC混合溶媒(体積比2:1、質量比72:28)を使用し、精製対象非水溶媒として、LiPF:EC:DMC(質量比11:49:40)である電解液を使用した場合、各成分における成分一致率を積算した値は49質量%となる。
【0063】
【表2】
【0064】
表1に示すとおり、実施例1~6のように、25℃における比誘電率が15以上である前処理用非水溶媒により前処理を行ったイオン交換樹脂を用いて精製対象非水溶媒を精製した場合、通液開始から2BV後の精製対象非水溶媒中には、イオン交換樹脂に由来する水分がほとんど溶出していない。すなわち、前処理工程において、イオン交換樹脂中の水分が、効率良く除去されていることが分かる。一方で、比較例1~3のように、比誘電率が15未満である前処理用非水溶媒によりイオン交換樹脂の前処理を行ったイオン交換樹脂を用いて精製対象非水溶媒を精製した場合、通液開始から2BV後の精製対象非水溶媒中に、イオン交換樹脂に由来する水分が多く溶出していることが分かった。
【0065】
また、実施例のように、前処理用非水溶媒の比誘電率が15以上であれば、前処理用非水溶媒と精製対象非水溶媒との成分一致率が低い場合でも精製工程におけるイオン交換樹脂からの水分溶出には影響しない。一方、比較例のように、前処理用非水溶媒の比誘電率が15未満である場合、精製工程におけるイオン交換樹脂からの水分溶出量は、前処理用非水溶媒と精製対象非水溶媒との成分一致率に大きく影響されることが分かった。特に、比較例2と比較例3とを比べると、成分一致率が低いほど、イオン交換樹脂からの水分溶出が多くなり、廃棄される精製対象非水溶媒の量が増加することが分かった。すなわち、本発明によれば、精製対象非水溶媒との成分一致率が高い前処理用非水溶媒を用いなくとも、確実にイオン交換樹脂の含有水分を低減することが可能であり、廃棄される精製対象非水溶媒の量を削減することができる。
【符号の説明】
【0066】
1:タンク(前処理用非水溶媒)
2:イオン交換樹脂容器
3:水分除去装置
4:タンク(精製前の精製対象非水溶媒)
5:イオン交換樹脂容器
6:タンク(精製後の精製対象非水溶媒)
L:循環送液管
P:ポンプ
図1
図2