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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20241211BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20241211BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20241211BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C19/18
F16C33/80
B60B35/02 L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021098729
(22)【出願日】2021-06-14
(65)【公開番号】P2022190415
(43)【公開日】2022-12-26
【審査請求日】2024-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水島 翔太
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-072553(JP,A)
【文献】特開2013-061048(JP,A)
【文献】特開2010-180896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/72-33/82
F16C 19/18
B60B 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道溝を有する外方部材と、
軸方向の一端部に径方向外側へ延びるハブフランジを有し、外周に軸方向に延びる小径段部を有するハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、前記複列の外側軌道溝に対向する複列の内側軌道溝を有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道溝間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、
前記ハブ輪は、前記内側軌道溝と、前記ハブフランジの基端部に位置し、前記密封装置が摺接するシールランド部と、前記ハブフランジにおける前記シールランド部の外径側に位置する凹部と、前記ハブフランジにおける前記凹部の外径側に位置するフランジ面とを有し、
前記密封装置は、前記外方部材における軸方向一端部に篏合される芯金と、前記芯金に一体的に接合されるシール部材とを備え、
前記シール部材は、前記芯金から前記ハブフランジ側へ向けて延出し、前記シールランド部と接触する接触リップと、前記接触リップよりも外径側において前記芯金から前記ハブフランジ側へ向けて延出し、軸方向において前記凹部と隙間をもって対向するラビリンスリップとを有し、
前記凹部は、前記凹部の外径側縁部と内径側縁部との間に位置し、前記凹部の深さが最も大きい底部と、径方向において前記外径側縁部から前記底部側へ向けて延出し、前記外径側縁部から前記底部へ向かうに従って軸方向一端側へ傾斜するテーパ面と、を有し、
前記ハブ輪は、少なくとも前記内側軌道溝、前記シールランド部、および前記凹部が形成されている範囲内において焼入れが施された熱処理部を有し、
前記熱処理部における外径側の外周縁は、前記凹部の前記底部よりも外径側に位置し、前記凹部の外径側縁部よりも内径側に位置する車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記フランジ面および前記凹部は旋削加工面を有する請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記テーパ面の径方向に対する軸方向一端側への傾斜角度は、26.5°以下である請求項1または請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記内側軌道溝および前記シールランド部は研削加工面を有しており、
前記ハブフランジにおける前記凹部の前記内径側縁部は、軸方向において前記外径側縁部よりも前記密封装置側へ突出している請求項1~請求項3の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記ハブフランジにおける前記凹部の前記内径側縁部は、前記シール部材における前記接触リップの前記ハブフランジに対する接触部よりも外径側に位置する請求項1~請求項の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記シール部材は、1つまたは2つ以上の前記接触リップを有する請求項1~請求項の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置には、外方部材と内方部材とによって形成された環状空間の開口端を塞ぎ、泥水等の異物の入り込みを防止する密閉装置が設けられている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の車輪用軸受装置においては、内方部材であるハブ輪が径方向外側に延びるハブフランジを有しており、ハブフランジの基端部に密封装置のメインリップが摺接する摺動面が形成され、ハブフランジの摺動面よりも外径側に凹部が形成されている。ハブフランジの凹部には、密封装置のサイドリップが非接触で対向しており、凹部とサイドリップとでラビリンスシールを形成することにより、密封装置の耐泥水性を向上している。
【0004】
この場合、ハブフランジにおける凹部よりも外径側に位置するフランジ面、および凹部は旋削加工により形成され、摺動面は研削加工により形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-61048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、凹部はコの字型の形状を有しており、凹部の外径側縁部は径方向に対して垂直な面に形成されているため、ハブフランジを外径側から内径側へ向かって研削した場合、フランジ面を旋削加工する旋削工具が外径側から凹部の外周側縁部に侵入しにくくなっている。
【0007】
従って、ハブフランジの旋削加工を行う場合には、凹部よりも外径側のフランジ面を旋削加工した後に、旋削工具を、凹部の外周側縁部を旋削加工するのに適したものに交換したうえで凹部の旋削加工を行う必要があり、ハブ輪の研削加工作業が煩雑になっていた。
【0008】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、ハブフランジの旋削加工を行う際に、凹部よりも外径側の旋削加工を行った後に、旋削工具を交換することなく連続して凹部の旋削加工を行うことができ、ハブ輪の研削加工作業を簡易にすることができる車輪用軸受装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道溝を有する外方部材と、軸方向の一端部に径方向外側へ延びるハブフランジを有し、外周に軸方向に延びる小径段部を有するハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、前記複列の外側軌道溝に対向する複列の内側軌道溝を有する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道溝間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、前記ハブ輪は、前記内側軌道溝と、前記ハブフランジの基端部に位置し、前記密封装置が摺接するシールランド部と、前記ハブフランジにおける前記シールランド部の外径側に位置する凹部と、前記ハブフランジにおける前記凹部の外径側に位置するフランジ面とを有し、前記密封装置は、前記外方部材における軸方向一端部に篏合される芯金と、前記芯金に一体的に接合されるシール部材とを備え、前記シール部材は、前記芯金から前記ハブフランジ側へ向けて延出し、前記シールランド部と接触する接触リップと、前記接触リップよりも外径側において前記芯金から前記ハブフランジ側へ向けて延出し、軸方向において前記凹部と隙間をもって対向するラビリンスリップとを有し、前記凹部は、前記凹部の外径側縁部と内径側縁部との間に位置し、前記凹部の深さが最も大きい底部と、径方向において前記外径側縁部から前記底部側へ向けて延出し、前記外径側縁部から前記底部へ向かうに従って軸方向一端側へ傾斜するテーパ面と、を有し、前記ハブ輪は、少なくとも前記内側軌道溝、前記シールランド部、および前記凹部が形成されている範囲内において焼入れが施された熱処理部を有し、前記熱処理部における外径側の外周縁は、前記凹部の前記底部よりも外径側に位置し、前記凹部の外径側縁部よりも内径側に位置する
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ハブ輪の研削加工作業を簡易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
図2】アウター側シール部材およびハブ輪における車輪取り付けフランジの基端部を示す側面断面図である。
図3】ハブ輪を軸方向におけるインナー側から見た部分断面図である。
図4】車輪取り付けフランジの凹部におけるテーパ面の傾斜角度を示す側面断面図である。
図5】車輪取り付けフランジの凹部において、内径側縁部が外径側縁部よりもインナー側へ突出している様子を示す側面断面図である。
図6】熱処理部における外径側の外周縁が、車輪取り付けフランジの凹部における底部よりも外径側に位置している様子を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0013】
[車輪用軸受装置]
図1に示す車輪用軸受装置1は、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態であり、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。
【0014】
車輪用軸受装置1は第3世代と称呼される構成を備えており、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ輪3および内輪4と、転動列である二列のインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6と、インナー側シール部材9およびアウター側シール部材10とを具備する。
【0015】
ここで、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、軸方向とは車輪用軸受装置1の回転軸に沿った方向を表し、軸方向一端側はアウター側であり、軸方向他端側はインナー側である。
【0016】
外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材9が嵌合可能なインナー側開口部2aが形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材10が嵌合可能なアウター側開口部2bが形成されている。外輪2の内周面には、インナー側の外側軌道溝2cと、アウター側の外側軌道溝2dとが形成されている。
【0017】
外輪2の外周面には、外輪2を車体側部材に取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体的に形成されている。車体取り付けフランジ2eには、車体側部材と外輪2とを締結する締結部材(ここでは、ボルト)が挿入されるボルト孔2gが設けられている。
【0018】
ハブ輪3の外周面3jにおけるインナー側端部には、アウター側端部よりも縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3における小径段部3aのアウター側端部には肩部3eが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、複数のボルト孔3fが形成されている。ボルト孔3fには、ハブ輪3と車輪又はブレーキ部品とを締結するためのハブボルト3iが圧入されている。車輪取り付けフランジ3bは、径方向外側へ延びるハブフランジの一例である。
【0019】
ハブ輪3の外周面3jには、外輪2のアウター側の外側軌道溝2dに対向するようにアウター側の内側軌道溝3cが設けられている。つまり、内方部材のアウター側には、ハブ輪3によって内側軌道溝3cが構成されている。アウター側シール部材10は、外輪2とハブ輪3とによって形成された環状空間のアウター側開口端に嵌合されており、当該アウター側開口端を塞いでいる。アウター側シール部材10は、密封装置の一例である。
【0020】
車輪取り付けフランジ3bのインナー側の基端部には、アウター側シール部材10が摺接するシールランド部3dが形成されている。内側軌道溝3cは、軸方向においてシールランド部3dのインナー側に隣接して位置している。車輪取り付けフランジ3bは、インナー側に面するフランジ面3kを有している。フランジ面3kは、シールランド部3dの外径側に位置している。
【0021】
車輪取り付けフランジ3bのインナー側の側面においては、フランジ面3kとシールランド部3dとの間に凹部3mが形成されている。凹部3mは、車輪取り付けフランジ3bのインナー側の側面からアウター側へ凹陥する溝形状に形成されている。ハブ輪3は、車輪取り付けフランジ3bよりもアウター側の端部にアウター側端面3gを有している。
【0022】
ハブ輪3の小径段部3aには、内輪4が設けられている。内輪4は、圧入およびかしめ加工によりハブ輪3の小径段部3aに固定されている。内輪4は、転動列であるインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6に予圧を付与している。内輪4は、インナー側端部にインナー側端面4bを有しており、アウター側端部にアウター側端面4cを有している。ハブ輪3のインナー側端部には、内輪4のインナー側端面4bにかしめられたかしめ部3hが形成されている。
【0023】
内輪4の外周面には、外輪2のインナー側の外側軌道溝2cと対向するようにインナー側の内側軌道溝4aが設けられている。つまり、内方部材のインナー側には、内輪4によって内側軌道溝4aが構成されている。
【0024】
転動列であるインナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、転動体である複数のボール7が保持器8によって保持されることにより構成されている。インナー側ボール列5は、内輪4の内側軌道溝4aと、外輪2のインナー側の外側軌道溝2cとの間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列6は、ハブ輪3の内側軌道溝3cと、外輪2のアウター側の外側軌道溝2dとの間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、外方部材と内方部材との両軌道溝間に転動自在に収容されている。
【0025】
車輪用軸受装置1においては、外輪2と、ハブ輪3および内輪4と、インナー側ボール列5と、アウター側ボール列6とによって複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、車輪用軸受装置1は複列アンギュラ玉軸受に替えて複列円錐ころ軸受を構成していてもよい。
【0026】
[アウター側シール部材]
図2に示すように、アウター側シール部材10は、外輪2におけるアウター側端部の内周に篏合される芯金11と、芯金11に一体的に接合されるシール部材12とを備えている。
【0027】
芯金11は、例えば鋼板により構成されており、外輪2のアウター側開口部2bの内周に嵌合される円筒状の嵌合部11aと、嵌合部11aのインナー側端部から内径側へ延びる内側部11bと、嵌合部11aのアウター側端部から外径側へ延びる外側部11cと、外側部11cの外径側端部からインナー側へ延びる外縁部11dとを有している。
【0028】
内側部11bは、嵌合部11aのインナー側端部から屈曲されてアウター側へ延びた後に内径側へ延び、さらにインナー側かつ内径側へ延びた後に内径側へ延びている。外縁部11dは、外輪2の外周面2hと所定の間隔を開けてインナー側へ延びている。
【0029】
シール部材12は、例えば合成ゴム等の弾性部材によって形成されており、芯金11に加硫接着によって接合されている。シール部材12は、基部12aと、ラジアルリップ12bと、第1接触リップ12cと、第2接触リップ12dと、ラビリンスリップ12eと、堰部12fとを有している。基部12aは、芯金11の内側部11bから嵌合部11aおよび外側部11cを経由して、外縁部11dに至るまでの範囲に接合されている。
【0030】
ラジアルリップ12bは、シール部材12の内径側端部に位置しており、芯金11の内側部11bから、径方向内側かつインナー側へ向けて延出している。ラジアルリップ12bは、グリースの油膜を介してハブ輪3の外周面3jに摺接している。
【0031】
第1接触リップ12cは、ラジアルリップ12bよりも外径側において、芯金11の内側部11bから、車輪取り付けフランジ3b側かつ径方向外側へ向けて延出している。第1接触リップ12cは、グリースの油膜を介してシールランド部3dに摺接している。第1接触リップ12cは、シールランド部3dと接触する接触リップの一例である。
【0032】
第2接触リップ12dは、第1接触リップ12cよりも外径側において、芯金11の内側部11bから、車輪取り付けフランジ3b側かつ径方向外側へ向けて延出している。第2接触リップ12dは、グリースの油膜を介してシールランド部3dに摺接している。第2接触リップ12dは、シールランド部3dに摺接する接触部121を先端側に有している。第2接触リップ12dは、シールランド部3dと接触する接触リップの一例である。
【0033】
本実施形態においては、アウター側シール部材10におけるシール部材12は第1接触リップ12cおよび第2接触リップ12dを有しており、複数の接触リップを有している。但し、シール部材12は、1つの接触リップを有する構成、または3つ以上の接触リップを有する構成とすることも可能である。このように、シール部材12が1つの接触リップまたは2つ以上の接触リップを有する構成とすることで、車輪用軸受装置1に適用可能なシール部材12の仕様の範囲を大きくすることができ、汎用性を向上することができる。
【0034】
ラビリンスリップ12eは、第2接触リップ12dよりも外径側において、芯金11の外側部11cから、車輪取り付けフランジ3b側へ向けて延出している。ラビリンスリップ12eは、軸方向において車輪取り付けフランジ3bの凹部3mと隙間をもって対向している。ラビリンスリップ12eは、軸方向において凹部と隙間をもって対向するラビリンスリップの一例である。
【0035】
シール部材12のラビリンスリップ12eと、車輪取り付けフランジ3bの凹部3mとによってラビリンスシールが構成されている。とラビリンスリップ12eと凹部3mとによってラビリンスシールを構成することにより、アウター側シール部材10の内部へ泥水等の異物が浸入することを抑制している。
【0036】
堰部12fは、芯金11の外縁部11dを覆っており、外輪2の外周面2hよりも径方向外側に突出するとともに、外輪2の外周面2hに接触している。
【0037】
[ハブ輪]
図2に示すように、ハブ輪3の車輪取り付けフランジ3bにおいては、外径側から基端部側へ向けて、フランジ面3k、凹部3m、およびシールランド部3dの順に位置している。つまり、車輪取り付けフランジ3bにおいては、シールランド部3dの外径側に凹部3mが位置し、凹部3mの外径側にフランジ面3kが位置している。また、シールランド部3dのインナー側かつ内径側には、内側軌道溝3cが位置している。
【0038】
ハブ輪3においては、フランジ面3k、凹部3m、シールランド部3d、および内側軌道溝3cが旋削工具により旋削加工され、シールランド部3dおよび内側軌道溝3cは、旋削加工の後に、研削砥石による研削加工がさらに行われる。
【0039】
ハブ輪3に旋削加工を行う際には、フランジ面3kを外径側から内径側へ向かって加工した後に凹部3mに対する加工を行い、さらにシールランド部3dおよび内側軌道溝3cに対する加工を順に行う。ハブ輪3に研削加工を行う際には、研削砥石を用いて、シールランド部3dと内側軌道溝3cとに対して同時に研削加工を行う。
【0040】
ハブ輪3においては、旋削加工および研削加工がこのように行われるため、フランジ面3kおよび凹部3mは旋削加工面を有しており、シールランド部3dおよび内側軌道溝3cは研削加工面を有している。なお、例えばハブ輪3の凹部3mには、旋削加工を施した後にショットブラスト加工等の後加工を施すことも可能である。凹部3mにショットブラスト加工を施した場合、凹部3mはブラスト加工面を有することとなる。
【0041】
図2図3に示すように、凹部3mは、周方向に沿って延びる円環状の溝形状に形成されており、フランジ面3kと凹部3mとの境界部となる外径側縁部311と、凹部3mとシールランド部3dとの境界部となる内径側縁部312と、径方向における外径側縁部311と内径側縁部312との間に位置し、凹部3mの軸方向における深さが最も大きい底部313とを有している。
【0042】
凹部3mの内径側縁部312は、シール部材12が有する接触リップのなかで最も外径側に位置する第2接触リップ12dのシールランド部3dに対する接触部121よりも外径側に位置している。この場合、凹部3mの内径側縁部312は、第2接触リップ12dの接触部121よりも1mm以上外径側に位置することが好ましい。つまり、径方向において、内径側縁部312と接触部121との離間距離L1は1mm以上であることが好ましい。
【0043】
このように、凹部3mの内径側縁部312が第2接触リップ12dの接触部121よりも外径側に位置していることで、例えばハブ輪3が回転しているときに、外輪2の軸方向一端部に位置するアウター側開口部2bのハブ輪3に対する径方向の位置が、相対的に外径側へずれた場合に、第2接触リップ12dの接触部121が凹部3mに脱落してシール性能が低下することを抑制可能となっている。
【0044】
特に、凹部3mの内径側縁部312が第2接触リップ12dの接触部121よりも1mm以上外径側に位置するように構成することで、アウター側開口部2bのハブ輪3に対する径方向の位置ずれ量が大きい場合でも、接触部121が凹部3mに脱落してシール性能が低下することを抑制可能である。
【0045】
なお、凹部3mの内径側縁部312は、第2接触リップ12dの内径側に位置する第1接触リップ12cのシールランド部3dに対する接触部よりも外径側に位置しており、外輪2のアウター側開口部2bのハブ輪3に対する径方向の位置が相対的に外径側へずれた場合でも、第1接触リップ12cのシールランド部3dに対する接触部が凹部3mに脱落して、シール性能が低下することを抑制可能である。
【0046】
また、凹部3mは、径方向において外径側縁部311から底部313側へ向けて延出し、外径側縁部311から底部313へ向かうに従ってアウター側へ傾斜するテーパ面314を有している。図4に示すように、テーパ面314は、径方向に対するアウター側への傾斜角度θが鋭角となるテーパ面である。本実施形態においては、傾斜角度θは、26.5°以下となるように設定されている。
【0047】
車輪取り付けフランジ3bを凹部3mの外径側に位置するフランジ面3kから内径側へ向けて旋削加工する際には、旋削工具は、図4に示す移動軌跡に沿って移動する。この場合、凹部3mがテーパ面314を有することで、旋削工具はフランジ面3kからテーパ面314に沿って円滑に凹部3mに侵入することができ、旋削工具が凹部3mに侵入し易くなる。これにより、フランジ面3kの旋削加工を行った後に、旋削工具を交換することなく連続して凹部3mの旋削加工を行うことが可能となり、ハブ輪3の旋削加工作業を簡易にすることができる。
【0048】
特に、テーパ面314の径方向に対するアウター側への傾斜角度θは、26.5°以下の小さな角度であるため、旋削工具のフランジ面3kから凹部3mへの侵入が容易となり、ハブ輪3の旋削加工作業をさらに簡易にすることができる。
【0049】
また、図5に示すように、凹部3mの内径側縁部312は、軸方向において外径側縁部311よりもアウター側シール部材10側となるインナー側へ寸法Dだけ突出している。
【0050】
ハブ輪3のシールランド部3dおよび内側軌道溝3cに対して研削加工を行うときには、シールランド研削部15aおよび内側軌道溝研削部15bを有する研削砥石15を用いて、シールランド部3dおよび内側軌道溝3cに対して同時に研削加工を行う。
【0051】
この場合、仮に凹部3mの外径側縁部311が内径側縁部312よりもインナー側に突出していると、研削砥石15によりシールランド部3dおよび内側軌道溝研削部15bを研削加工する際に、研削砥石15が凹部3mの外径側縁部311に接触して加工性が損なわれるおそれがある。また、研削砥石15が凹部3mの外径側縁部311に接触することで、外径側縁部311が研削砥石15によって削られることになるため、シールランド部3dおよび内側軌道溝研削部15bの加工精度が低下したり、研削砥石15の寿命が短くなったりするおそれがある。
【0052】
しかし、凹部3mの内径側縁部312が外径側縁部311よりもインナー側へ突出するように形成することで、シールランド部3dおよび内側軌道溝研削部15bを研削加工する際に、研削砥石15が凹部3mの外径側縁部311に接触することがなく、研削加工の加工性を損なうことがない。また、研削砥石15により凹部3mの外径側縁部311を削ることがないため、研削砥石15の寿命および研削加工の加工精度が低下することを抑制できる。
【0053】
図6に示すように、ハブ輪3は、少なくとも内側軌道溝3c、シールランド部3d、および凹部3mが形成されている範囲内において焼入れが施された熱処理部31を有している。本実施形態においては、内側軌道溝3cおよびシールランド部3dが形成されている部分については全体にわたって焼入れが施されており、凹部3mが形成されている部分については一部の範囲において焼入れが施されている。
【0054】
但し、凹部3mが形成されている部分についても全体にわたって焼入れを施すことが可能である。また、内側軌道溝3c、シールランド部3d、および凹部3mが形成されている部分を超えた範囲に焼入れが施されていてもよい。
【0055】
熱処理部31においては、ハブ輪3の表面硬度および強度が向上している。熱処理部31における焼入れは、高周波焼入れや浸炭焼入れ等によって行うことが可能である。
【0056】
熱処理部31は、ハブ輪3の外形面において非熱処理部との境界となる外周縁31aを有しており、熱処理部31における外径側の外周縁31aは、凹部3mの底部313よりも外径側に位置している。この場合、熱処理部31の外周縁31aは、凹部3mの底部313よりも1mm以上外径側に位置することが好ましい。つまり、径方向において、凹部3mの底部313と、底部313よりも外径側に位置する外周縁31aとの離間距離L2は1mm以上であることが好ましい。
【0057】
ハブ輪3が回転して車輪取り付けフランジ3bに遠心力が作用した場合、凹部3mにおいては底部313に最も大きな応力がかかる。一方、熱処理部31と非熱処理部との境界位置となる外周縁31aには引張応力が発生する。従って、外周縁31aが凹部3mの底部313に位置すると、底部313には、遠心力による大きな応力に加えて、熱処理部31と非熱処理部との境界位置に生じる引張応力がかかることになる。これにより、底部313にかかる応力が過大となって、凹部3mに割れが発生するおそれがある。
【0058】
そこで、ハブ輪3においては、熱処理部31の外周縁31aを凹部3mの底部313よりも外径側に配置して、外周縁31aが底部313に位置しないように設定している。これにより、凹部3mの底部313に過大な応力がかかることを抑制して、ハブ輪3に凹部3mの底部313を起点とした割れが発生することを防止可能となっている。
【0059】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0060】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
2b アウター側開口部
2c (インナー側の)外側軌道溝
2d (アウター側の)外側軌道溝
3 ハブ輪
3b 車輪取り付けフランジ
3c 内側軌道溝
3d シールランド部
3k フランジ面
3m 凹部
4 内輪
4a 内側軌道溝
5 インナー側ボール列
6 アウター側ボール列
10 アウター側シール部材
11 芯金
12 シール部材
12c 第1接触リップ
12d 第2接触リップ
12e ラビリンスリップ
31 熱処理部
31a 外周縁
311 外径側縁部
312 内径側縁部
313 底部
314 テーパ面
θ 傾斜角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6