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  • 特許-動力用ケースの軸取出し部構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】動力用ケースの軸取出し部構造
(51)【国際特許分類】
   F02F 7/00 20060101AFI20241211BHJP
   F02F 1/00 20060101ALI20241211BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20241211BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALN20241211BHJP
【FI】
F02F7/00 K
F02F1/00 S
F16J15/3232 201
F16J15/3204 201
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021153522
(22)【出願日】2021-09-21
(65)【公開番号】P2023045240
(43)【公開日】2023-04-03
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 隆寛
(72)【発明者】
【氏名】長井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 怜央
(72)【発明者】
【氏名】沖見 昇一
(72)【発明者】
【氏名】小村 隆太郎
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-043901(JP,A)
【文献】実開平05-016405(JP,U)
【文献】実開平07-009678(JP,U)
【文献】実開昭60-057761(JP,U)
【文献】特開平07-224714(JP,A)
【文献】特開2014-051949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00 - 1/42
F02B 61/00 - 79/00
F16J 15/3204 - 15/3236
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力用ケースのケース外壁に回転軸を通す挿通孔部が形成され、前記ケース外壁に、前記動力用ケースのケース外面を伝って落ちて来る異物を前記挿通孔部から逸らし可能なガイド部が設けられ、
前記ガイド部は、前記ケース外面から突出するように前記ケース外壁に形成されたリブ状壁を有して構成され、
前記リブ状壁は、前記回転軸の軸心方向視において山形に形成され、
前記リブ状壁の両下端となる前記回転軸の径方向での一端及び他端は、前記挿通孔部の径より径外側に張り出し、
前記回転軸の軸心方向視において、前記回転軸の軸心を通過する水平線を想定し、前記リブ状壁の前記両下端が、前記水平線に合致する位置、または前記水平線の下に寄った位置に配置されている動力用ケースの軸取出し部構造。
【請求項2】
前記挿通孔部は、前記動力用ケースから外側に張り出た膨出ケース部に形成されており、前記リブ状壁は前記膨出ケース部のケース外面から突出形成されている請求項1に記載の動力用ケースの軸取出し部構造。
【請求項3】
前記挿通孔部には、前記回転軸に作用する密封機構が内嵌されている請求項1または2に記載の動力用ケースの軸取出し部構造。
【請求項4】
前記密封機構はオイルシールである請求項3に記載の動力用ケースの軸取出し部構造。
【請求項5】
前記挿通孔部は、筒状のボス壁と前記ボス壁内側のストップ壁を備え、前記回転軸の軸心の方向を前後方向、前記ガイド部の突出側を前側、前側の反対側を後側として、前記オイルシールは、後側に前記ストップ壁を当接させた状態で前記ボス壁に内嵌されると共に、前記回転軸に嵌装されたシールスリーブに相対回転する状態で外嵌され、前記ストップ壁と前記シールスリーブの間の隙間はトロコイド型のオイルポンプのインナロータで後側から覆われ、前記オイルポンプの前記インナロータとアウタロータはポンプカバーで後側から覆われている請求項4に記載の動力用ケースの軸取出し部構造。
【請求項6】
前記動力用ケースは、エンジンにおいてクランク軸によりエンジン補機を駆動するための伝動機構及び/又は前記エンジン補機を覆う伝動ケースである請求項1~5の何れか一項に記載の動力用ケースの軸取出し部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダブロックや伝動ケース、或いはミッションケースなどの動力用ケースであって、動力用ケースのケース外壁に回転軸を通す挿通孔部が形成されている動力用ケースの軸取出し部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1において開示されるように、エンジンにおける調時伝動ケース(2:動力用ケース)からクランク軸(5)が外部に取り出されている。具体的には、クランク軸(5)は、スリーブ(21)及びオイルシール(6)を介して調時伝動ケース(2)のクランク軸貫通孔(4:軸取出し部)から取り出され、クランクプーリ(22)が取付けられている。
【0003】
前述のエンジンは、農用トラクタやコンバイン、芝刈機など、主に屋外で使用される産業車両などの自走車体に搭載されていることも多い。このような自走車体においては、たいていの場合、エンジンはボンネット等に収容されているが、雨天での走行時、荒れ地や畑、水田などの悪路走行時では、雨水や泥水などの異物がエンジンに及ぶことがある。
【0004】
エンジンに及んだ異物は、その多くはエンジンの外壁、即ちシリンダブロックや伝動ケースの外表面を伝って落下して行くようになり、泥水などの異物がクランク軸の軸取出し部に及ぶこともある。従って、ケース外表面を伝って落ちて来る泥水や雨水などが軸取出し部のオイルシールに及び易い構造になっていると、シール機能が早期に損なわれ易くなるとか軸受が摩耗し易いといったリスクが増す。
【0005】
前述のリスクは、特許文献1(図1を参照)のみならず、特許文献2におけるミッションケース(1)の後端から取出されるPTO軸(47)においても同様に存在する(特許文献2の図2図4を参照)。従って、動力用ケースにおける軸取出し部には、泥水などのケース外表面を伝え落ちてくる異物が及ぶことによる前記リスクに対しては改善の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-51949号公報
【文献】特開2007-321823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、さらなる構造工夫により、オイルシールや軸受が摩耗し易いリスクが軽減されるように、泥水などのケース外表面を伝って落ちる異物が軸の摺動部分、即ち、軸取出し部に及び難くなるように改善された動力用ケースの軸取出し部構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の主要な構成は、次の通りである。
本発明は、動力用ケースの軸取出し部構造において、動力用ケースのケース外壁に回転軸を通す挿通孔部が形成され、前記ケース外壁に、前記動力用ケースのケース外面を伝って落ちて来る異物を前記挿通孔部から逸らし可能なガイド部が設けられ、
前記ガイド部は、前記ケース外面から突出するように前記ケース外壁に形成されたリブ状壁を有して構成され、
前記リブ状壁は、前記回転軸の軸心方向視において山形に形成され、
前記リブ状壁の両下端となる前記回転軸の径方向での一端及び他端は、前記挿通孔部の径より径外側に張り出し、
前記回転軸の軸心方向視において、前記回転軸の軸心を通過する水平線を想定し、前記リブ状壁の前記両下端が、前記水平線に合致する位置、または前記水平線の下に寄った位置に配置されていることを特徴とする。
【0009】
その他の発明については、特許請求の範囲を参照のこと。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ケース外壁にガイド部を設けてあるから、雨水や泥水などの異物が動力用ケースのケース外壁を伝って落ちてきても、ガイド部によって雨水や泥水などの異物は挿通孔部から逸らし案内されるので、挿通孔部には及ばないようにすることができる。
従って、挿通孔部にオイルシールが配置されていても、ケース外表面を伝って落ちて来る泥水や雨水などが挿通孔部やオイルシールに及び難いので、シール機能が早期に損なわれ易くなるとか軸受が摩耗し易いといったリスクが抑制又は解消されるようになる。
【0011】
その結果、オイルシールや軸受が摩耗し易いなどの挿通孔部に関するリスクが軽減されて、泥水などのケース外表面を伝って落ちる異物が軸の摺動部分、即ち、挿通孔部に及び難くなるように改善された動力用ケースの軸取出し部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】伝動ケースの下端部を示す正面図
図2】伝動ケースの軸取出し部の周辺構造を示す一部切欠きの側面図
図3】(A)図1のZ-Z線断面図、(B)ガイド部による泥水の案内作用を示す要部の正面図
図4】伝動ケースの正面図
図5】エンジンの正面図
図6】エンジンの左側面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明による動力用ケースの軸取出し部構造の実施の形態を、農用トラクタなどに搭載される産業用エンジンにおける伝動ケースに適用された例について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
図5図6に産業用エンジンの例として、立形の直列多気筒ディーゼルエンジンEが示されている。このエンジンEは、シリンダブロック2と、シリンダヘッド18と、ヘッドカバー19と、伝動ケース(フロントケース)1と、フライホイールハウジング20と、オイルパン21とを備えている。
シリンダブロック2は、下部のクランクケース2aと、上部のシリンダ部2bとからなり、シリンダ部2bの上にシリンダヘッド18が組み付けられ、シリンダヘッド18の上にヘッドカバー19が組み付けられている。
【0015】
クランク軸3の軸心Qの方向を前後方向とし、フライホイールハウジング20のある方を後、シリンダブロック2に組付けられる伝動ケース1のある方を前とする。そして、排気マニホルド23やEGRクーラ24のある方を左、その反対で吸気マニホルド(図示省略)などが配置される方を右とする。
【0016】
図5図6において、25はオルタネータ、26は冷却ファン、27はウォータポンプ、28は過給機、29は伝動ベルト、31は排気管、32は排気処理ケース、33はオイルクーラ、34はオイルフィルタである。伝動ケース1は、エンジンEにおいてクランク軸3によりエンジン補機h(図2を参照)を駆動するための伝動機構d(図2を参照)及び/又はエンジン補機hを覆うハウジング(構造体)である。エンジン補機hとしては、オイルポンプP、ウォータポンプ27、サプライポンプ42、動弁機構(図示省略)、サイドPTO軸(図示省略)などであり、伝動機構dとしては、ギヤ連動機構22(図2を参照)などがある。
【0017】
エンジンEには、オイルパン21と、伝動ケース1内に設けられたオイルポンプPと、伝動ケース1に取り付けられたオイルフィルタ34及びオイルクーラ33と、シリンダブロック2に設けられたオイルギャラリ(図示省略)とが備えられている。オイルパン21のエンジンオイルは、オイルポンプPの圧送力でオイルフィルタ34及びオイルクーラ33を経てオイルギャラリから、動弁機構(図示省略)やクランク軸3の軸受部j(図2を参照)といった各所にある被潤滑部に供給される。
【0018】
次に、軸取出し部1Bについて説明する。図1図2に示されるように、クランク軸3の一端が、シリンダブロック2の側壁2Aの軸受部jで枢支されており、クランク軸3の軸先端部3Aが伝動ケース1の正面壁(ケース外壁の一例)1Aを貫通して外部に延びている。軸先端部3Aにおける伝動ケース1の外部に出された軸端部3aには、スプライン嵌合等の咬合手段5による一体回転状態でクランクプーリ4が嵌装され、正面壁1Aの内側の部分にはオイルポンプ(トロコイドポンプ)Pが構成されている。
【0019】
軸先端部3Aは、最も付け根側(側壁2Aに枢支される被軸受軸部3h側)の第1駆動軸部3kと、スプライン軸に形成されている先端側の軸端部3aと、第1駆動軸部3kと軸端部3aとの軸心Q方向での間に位置する第2駆動軸部3cとを有している。第1駆動軸部3kの径は、被軸受軸部3hより明確に小さく、かつ、第2駆動軸部3cより僅かに大きく、軸端部3aの径(スプライン軸の外径)と第2駆動軸部3cの径は同じである。第1及び第2駆動軸部3k,3cは、シリンダブロック2の外部にあり、伝動ケース1により覆われている。
【0020】
伝動ケース1は、主にシリンダブロック2の前面にボルト止め固定されており、図4に示されるように、オイルクーラ33の取付部30、ウォータポンプ27の収容部35、ウォータポンプ27への吸引水路36、多数のボルト止め用の孔部37などを有している。伝動ケース1の下部には、クランク軸3を通すとともにオイルポンプPを収容すべく前方に張り出た軸取出し部1B、即ち膨出ケース部1Bが形成されている。
【0021】
図2に示されるように、第1駆動軸部3kには、キ―連結などによる一体回転状態で駆動ギヤ6が嵌装され、第2駆動軸部3cには、筒状のポンプスリーブ7を介してインナロータ8が一体回転状態で嵌装されている。インナロータ8に咬合するアウタロータ9は、伝動ケース1の膨出ケース部1Bに相対回転可能に内嵌されている。10は、膨出ケース部1Bの内蓋となるポンプカバーであり、ポンプスリーブ7と駆動ギヤ6との軸心Q方向での間に押えフランジ11が第2駆動軸部3cに嵌装されている。
【0022】
クランクプーリ4のボス部4Aとポンプスリーブ7との軸心Q方向での間には、軸端部3aに嵌装されるシールスリーブ12が設けられ、シールスリーブ12にはオイルシール(密封機構の一例)13が相対回転する状態で外嵌されている。膨出ケース部1Bの縦側壁1bの径内側には筒状のボス壁14aが形成され、ボス壁14aの軸心Q方向での内側には、軸心Qの径方向に拡がるストップ壁14bが形成されている。
【0023】
オイルシール13は、ストップ壁14bに当接する状態でボス壁14aに、例えば圧入により内嵌されている。つまり、内外のロータ8,9、これらを収容する膨出ケース部1B及びポンプカバー10等によりなるトロコイド型のオイルポンプPが設けられている。
図1及び図4において、38は回転センサの取付部、39は吸入部(オイルポンプPの吸込み油経路)、40は圧抜き部(オイルポンプPのリーク圧抜き経路)、41は吐出部(オイルポンプPの圧送油経路)である。これら取付部38、吸入部39、圧抜き部40、及び吐出部41は、いずれも膨出ケース部1Bの外周部又は外周側に設けられている。
【0024】
図2に示されるように、シリンダブロック2の側壁2Aの外側に固定取付けされる支持軸16に、駆動ギヤ6に咬合する従動ギヤ15が枢支されている。伝動ケース1の内側には、駆動ギヤ6と従動ギヤ15とを有するギヤ連動機構22(伝動機構d)が構成されている。ギヤ連動機構22は、従動ギヤ15に直接又は間接的に咬合するエンジン補機hを駆動するものである。ギヤ連動機構22で駆動されるエンジン補機hとしては、吸排気カム等の動弁機構(図示省略)やサプライポンプ42、或いはサイドPTO軸(サイドPTO装置:図示省略)が挙げられる。
【0025】
図1図2に示されるように、ボス壁14aとストップ壁14bとでなる挿通孔部14が膨出ケース部1Bに形成されている。つまり、伝動ケース(動力ケースの一例)1の正面壁(ケース外壁の一例)1Aに、クランク軸(回転軸の一例)3を通す挿通孔部14が形成されている。詳しくは、クランク軸3の軸先端部3Aは、ストップ壁14bの内周面である挿通孔14cに遊嵌合状態で通されている。
【0026】
次に、ガイド部Gについて説明する。図1図2に示されるように、膨出ケース部1Bの縦側壁1bに、伝動ケース1の(正面壁1Aの)ケース外面1Cを伝って落ちて来る雨水、泥水、藁屑、塵挨などの異物iを挿通孔部14から逸らし可能な、好ましくはオイルシール13から逸らし可能なガイド部Gが設けられている。ガイド部Gは、ケース外面1Cから前方(側方)に突出するように膨出ケース部1Bの縦側壁1bに形成されたリブ状壁17を有して構成され、リブ状壁17は、軸心Q方向視において山形(図1を参照)に形成されている。
【0027】
図1に示されるように、リブ状壁17は、縦側壁1bの外面(符記省略)であるケース外面1Cから前方(横側方)に突出する幅の細いリブ部であって、軸心Qの方向視で左右対称(非対称でもよい)の形状(三角屋根状:ペントルーフ)をなしている。軸心Qを通る垂直線Xのうちの軸心Qの上側、具体的には膨出ケース部1Bの外周面1gの頂部と同じか僅かに低い箇所を頂点として左右に行くほど下がる左リブ部17L及び右リブ部17Rを有している。各リブ部17L,17Rの下端は水平線Yに合致されているが、その下に寄っていてもよい。なお、図2に示されるように、縦側壁1bの外面、膨出ケース部1Bの外周面1g、及びボス壁14aのリング状の前側周面(符記省略)もケース外面1Cである。
【0028】
図1に示されるように、左右の各リブ部17L,17Rは、軸心Qを通る水平線Yと垂直線Xとの中間角度(例:20~50度)から上側(垂直線X側)では直線状のリブ17tに形成されており、中間角度から下側(水平線Y側)では軸心Qに対する円弧状のリブ17rに形成されている。図3(B)に示されるように、直線状のリブ17tの水平線(水平線Y)に対する下り角度θは30~40度が望ましい。図3(A)に示されるように、リブ状壁17の上面17aと縦側壁1bのケース外面1Cとにより、L字状に凹む隅角部sが形成されている。なお、縦側壁1bや外周面1gは正面壁1Aの一部であると定義する。
【0029】
以上、図1図3に示されるように、伝動ケース1の正面壁1Aに、詳しくは正面壁1Aより少し前方に張り出た膨出ケース部1Bにクランク軸3を通す挿通孔部14が形成され、挿通孔部14を有する膨出ケース部1Bのケース外面1Cに、ケース外面1Cを伝って落ちて来る異物iを挿通孔部14から逸らし可能なガイド部Gが設けられている。ガイド部による作用効果は次のとおりである。
【0030】
即ち、リブ状壁17(ガイド部G)が無い従来構造の場合は、伝え落ちて来る雨水や泥水iは膨出ケース部1Bの縦側壁1bを伝ってボス壁14a(挿通孔部14)に、即ちオイルシール13に及び易いことがある。
これに対して、本実施形態による軸取出し部1Bにおいては、若干前方に張り出る膨出ケース部1Bの存在により、正面壁1Aのケース外面1Cを伝え落ちる異物i、例えば、雨水や泥水iは、まず膨出ケース部1Bの外周面1gによって左右に案内され、縦側壁1bのケース外面1Cに及び難くなる。
【0031】
それでも、外周面1gを下方に越えて伝え落ちる雨水や泥水iがある程度は生じるが、ガイド部Gを有しているので、図3(B)に示されるように、雨水や泥水iが正面壁1Aのケース外面1Cから膨出ケース部1Bのケース外面1Cに落ちて来たとしても、山形のリブ状壁17(ガイド部G)に沿って(主に隅角部sに沿って)雨水や泥水iは左右に案内され、リブ状壁17を乗越えて挿通孔部14に及ぶことはまず生じない。
【0032】
つまり、ケース外表面を伝って落ちて来る泥水や雨水などが挿通孔部やオイルシールに及び易い構造になっていると、シール機能が早期に損なわれ易くなるとか軸受が摩耗し易いといったリスクが増す。しかしながら、本実施形態による軸取出し部構造では、そのリスクが抑制又は解消され、オイルシールの機能が維持されて耐久性が向上するようになる。そして、ガイド部Gの付加により、次の(1)~(4)の作用効果も得られる。
【0033】
(1)リブ状壁17の側面(上面17a)及び根本に雨水や泥水iを表面張力により積極的に伝わせることができ、それによってボス壁14a、つまりはオイルシール13に雨水や泥水iが入らないようにすることができる。
(2)リブ状壁17が、軸心Qの方向視でペントルーフ形状とされているので、エンジンEの姿勢が変化しても挿通孔部14には雨水や泥水iが及ばない防滴構造が発揮される。
(3)リブ状壁17の縦側壁1bから前方への張出し量(突出高さ)を低く(例:1~3mm)してあるので、膨出ケース部1Bに対向配置される相手部品(クランクプーリ4など)の形状を変更することがない。
【0034】
(4)リブ状壁17の回転軸3の(軸心Qの)径方向での一端及び他端(本実施形態においては各リブ部17L,17Rの下端)は、挿通孔部14の径、詳しくはボス壁14aの内径より径外側(左右方向で外側)に張り出している。故に、リブ状壁17を左右の下端まで伝った異物iが、そこから縦側壁1bのケース外面1Cを垂直に、或いは若干軸心Q方向に寄りながら伝え落ちても、挿通孔部14に(ボス壁14aの内周面に)及ぶことが牽制阻止されて好都合である。
【0035】
〔別実施形態〕
リブ状壁17は、全てが円弧状のリブ17rであって軸心Q方向視で半円弧状の山形(蓋状)を呈するガイド部Gに構成されてもよい。膨出ケース部1Bがなく、正面壁1A自体に挿通孔部14が形成されている構造(外周面1gは無い)伝動ケース1にも本発明は適用可能である。リブ状壁17は、軸心Q方向視で下向きU字状や片流れ屋根形状、楕円の円弧状など、種々の形状設定が可能である。
【0036】
リブ状壁17は、その外周面1gの前端側が軸心Qの径方向で外に寄る鋭角の隅角部sを有するものでも良く、その場合には異物iの挿通孔部14への侵入防止効果が強化される利点がある。また、リブ状壁17は、伝動ケース1とは別部品として、液密にケース外面1Cに取付けられるものであってもよい。
【0037】
動力用ケース1としては、伝動ケースの他、シリンダブロック2やミッションケースなど、種々のものが適用可能である。ケース外面1Cを伝え落ちる異物iとしては、雨水や泥水の他、刈草、藁くず、チリ・ホコリなどの塵埃や粉塵、洗車時の水など、種々のものが考えられる。密封機構13としては、オイルシールの他、ダストシール、メカニカルシールなど種々のものが適用可能である。
(まとめ)
この実施形態では、前記挿通孔部14は、筒状のボス壁14aと前記ボス壁14a内側のストップ壁14bを備え、前記回転軸3の軸心Q方向を前後方向、前記ガイド部Gの突出側を前側、前側の反対側を後側として、前記オイルシール13は、後側に前記ストップ壁14bを当接させた状態で前記ボス壁14aに内嵌されると共に、前記回転軸3に嵌装されたシールスリーブ12に相対回転する状態で外嵌され、前記ストップ壁14bと前記シールスリーブ12の間の隙間はトロコイド型のオイルポンプPのインナロータ8で後側から覆われ、前記オイルポンプPの前記インナロータ8とアウタロータ9はポンプカバー10で後側から覆われている。
【符号の説明】
【0038】
1 動力用ケース、伝動ケース
1A ケース外壁
1B 膨出ケース部
1C ケース外面
3 回転軸、クランク軸
13 密封機構、オイルシール
14 挿通孔部
17 リブ状壁
22 伝動機構
E エンジン
G ガイド部
Q 軸心
i 異物
図1
図2
図3
図4
図5
図6