(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】ペプチド核酸を基盤としたアジュバント
(51)【国際特許分類】
A61K 39/39 20060101AFI20241211BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20241211BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20241211BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20241211BHJP
C07K 7/08 20060101ALN20241211BHJP
C07K 14/00 20060101ALN20241211BHJP
【FI】
A61K39/39
A61K39/00 G
A61P37/04
C07K7/06 ZNA
C07K7/08
C07K14/00
(21)【出願番号】P 2021524929
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2020022293
(87)【国際公開番号】W WO2020246584
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2019106444
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三股 亮大郎
(72)【発明者】
【氏名】神田 明日美
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-515538(JP,A)
【文献】特表2002-537102(JP,A)
【文献】高山典子他,SPG-R8を用いたCpG-ODNの経鼻投与による粘膜免疫の賦活化,Drug Delivery System,2007年,Vol.22, No.3, ,p.395(2-P-65)
【文献】BAE H.D.et al.,Potential of translationally controlled tumor protein-derived protein transduction domains as antigen carriers for nasal vaccine delivery,Mol.Pharmaceutics,2016年,Vol.13,pp.3196-3205
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞膜透過性ペプチドが結合したペプチド核酸からなるアジュバント
であって、細胞膜透過性ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、ペプチド核酸が下記式(1):
【化1】
〔式中、Baseは同一又は異なっていてもよく、グアニン又はシトシンを示し、Rは-COOH又は-CONH
2
を示し、nは1~10の整数を示す。〕
で表される、アジュバント。
【請求項2】
式(1)において、nが1~8の整数である請求項
1に記載のアジュバント。
【請求項3】
式(1)において、Rが-CONH
2である請求項
1又は
2に記載のアジュバント。
【請求項4】
式(1)において、Baseがいずれもグアニン又はシトシンである請求項
1~
3のいずれか1項に記載のアジュバント。
【請求項5】
ペプチド核酸が、塩基として3個のグアニンを有する3merのペプチド核酸であるか又は塩基として10個のシトシンを有する10merのペプチド核酸である、請求項1~4のいずれか1項に記載のアジュバント。
【請求項6】
細胞膜透過性ペプチドが結合したペプチド核酸及び薬学的に許容される担体を含有するアジュバント組成物
であって、細胞膜透過性ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、ペプチド核酸が下記式(1):
【化2】
〔式中、Baseは同一又は異なっていてもよく、グアニン又はシトシンを示し、Rは-COOH又は-CONH
2
を示し、nは1~10の整数を示す。〕
で表される、組成物。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のアジュバント及び抗原を含有するワクチン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫賦活化能を有する細胞膜透過性ペプチドを修飾したペプチド核酸に関する。
【背景技術】
【0002】
獲得免疫系は一度経験した異物に対して、2回目以降の曝露では迅速に対処できる免疫記憶を形成する能力を有する。この免疫記憶を利用したのがワクチンであり、ワクチンの接種により、病原体の曝露以前に当該病原体を中和可能な免疫を得ることが可能となる。
【0003】
承認されたワクチンには、弱毒生ワクチン、不活化ワクチン及び精製組換えタンパク質等のサブユニットワクチンがあり、特に弱毒生ワクチンは、有効性の高いワクチンであるが、感染性を有するため安全性を担保することが難しく、予期しない副反応の懸念がある。一方、不活化ワクチンやサブユニットワクチンは、弱毒生ワクチンに比べて安全性面では優れたワクチンであるが、感染性を消失しているため自然免疫を惹起する能力に欠け、そのため抗原単独では十分な獲得免疫を付与できない。このため、既承認の不活化ワクチン及びサブユニットワクチンの多くは、抗原に免疫賦活化能を有するアジュバントを加えた製剤である。したがって、安全性の高いワクチンの開発では、安全性の高い不活化ワクチンやサブユニットワクチン抗原を使用するべきであるが、十分な有効性を獲得するために免疫賦活化能を有するアジュバントの添加が必要となる。
【0004】
また、病原体の感染防御効果を高めるには、病原体の侵入の門戸となる粘膜における免疫誘導も重要である。粘膜における免疫誘導は粘膜ワクチンの投与により達成されるが、既承認の粘膜ワクチンは弱毒生ワクチンや粘膜親和性を有する毒素由来のワクチンであり、粘膜親和性を有さない不活化ワクチン及びサブユニットワクチンでは感染防御に十分な免疫を惹起することが難しい。そのため、このような抗原の粘膜投与においても粘膜免疫を増強するアジュバントが必要となる。
【0005】
既承認のワクチンで使用されるアジュバントには、アルミニウム塩やスクワレンベースのエマルションが挙げられるが、承認されるアジュバントは少なく、アルミニウム塩ではIgE誘導を促すことが知られている(非特許文献1)。また、上記のアジュバントは注射剤用のアジュバントであり、粘膜ワクチンに組み合わせることは難しい。
【0006】
一方、核酸の糖リン酸骨格をN-(2-アミノエチル)グリシン骨格に変換した修飾核酸であるペプチド核酸(PNA)は、高い二重鎖形成能を有し、生体内ヌクレアーゼで分解されないことから、アンチセンス分子等として応用が期待されている。
また、ドラッグデリバリーをはじめとする分野では、タンパク質、ペプチド又は低分子化合物を細胞内へ導入し機能させる技術として、これらの分子に膜透過性ペプチド(Cell Penetrating Peptide:CPP)を結合することが行われている。
しかし、PNAやCPPを結合したPNAをアジュバントとして利用することは知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Marichal T, Ohata K, Bedoret D, Mesnil C, Sabatel C, Kobiyama K, Lekeux P,Coban C, Akira S, Ishii KJ, Bureau F, Desmet CJ. DNA released from dying host cells mediates aluminum adjuvant activity. Nat Med. 2011 Jul 17;17(8):996-1002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、有効性が高く且つ安全性の高いワクチンの調製に有用なアジュバント及びそれを含むワクチン組成物を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、HIV(Human Immunodeficiency Virus)のTAT(Trans-Activator of Transcription Protein)のような細胞膜透過性ペプチド(CPP)をペプチド核酸に修飾し、このCPPが結合したペプチド核酸が注射及び経粘膜投与のいずれにおいてもアジュバント活性を有することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の1)~6)に係るものである。
1)細胞膜透過性ペプチドが結合したペプチド核酸からなるアジュバント。
2)細胞膜透過性ペプチドが結合したペプチド核酸及び薬学的に許容される担体を含有するアジュバント組成物。
3)1)のアジュバント及び抗原を含有するワクチン組成物。
4)アジュバントを製造するための、細胞膜透過性ペプチドが結合したペプチド核酸の使用。
5)細胞膜透過性ペプチドが結合したペプチド核酸のアジュバントとしての使用。
6)細胞膜透過性ペプチドが結合したペプチド核酸をアジュバントとして使用する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安全性の高い不活化ワクチンの有効性を高めることが可能となり、品質の高い予防薬の創出として医薬品産業に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】皮下投与におけるA/Singapore/GP1908/2015株に対するIgG抗体価。
【
図1B】皮下投与におけるB/Maryland/15/2015株に対するIgG抗体価。
【
図2】皮下投与でのDay35における、A/Singapore/GP1908/2015株に対する中和抗体価。
【
図3A】経鼻投与におけるA/Singapore/GP1908/2015株に対するIgG抗体価。
【
図3B】経鼻投与におけるB/Maryland/15/2015株に対するIgG抗体価。
【
図4A】経鼻投与での鼻腔洗浄液における、A/Singapore/GP1908/2015株に対するIgA抗体価。
【
図4B】経鼻投与での鼻腔洗浄液における、B/Maryland/15/2015株に対するIgA抗体価。
【
図6】MIP03のサイトカイン(IL-1α)誘導作用。
【
図7】MIP03のサイトカイン(IL-1β)誘導作用。
【
図8】MIP03のサイトカイン(IL-13)誘導作用。
【
図9】MIP03のサイトカイン(IFN-γ)誘導作用。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本発明において、「細胞膜透過性ペプチドが結合したペプチド核酸」とは、細胞膜透過性ペプチドのN若しくはC末端にペプチド核酸が結合した分子を意味し、本明細書においては、Mitsumata-Immunostimulatory Peptide nucleic acid(MIP)とも称す。
【0014】
「細胞膜透過性ペプチド(CPP)」とは、細胞と共存した場合に細胞膜を通過して細胞内に移行するペプチドをいう。例えば、表1に示す、HIVのTAT由来のペプチド、ショウジョバエのアンテナペディア由来のPenetratin、ポリアルギニン、神経ペプチドガラニンから派生したTransportan、SV40のNuclear Localization Signal(NLS)由来のPep-1、抗菌ペプチドLL37が挙げられるが、それらに限定されない。
好ましくは、TAT由来ペプチド(配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチド)が挙げられる。
【0015】
【0016】
「ペプチド核酸(PNA)」とは、核酸の糖-リン酸骨格をN-(2-アミノエチル)グリシンに置き換えた骨格を有し、メチレンカルボニル結合で塩基を結合させた核酸類似体である。本発明において用いられるペプチド核酸中の塩基(Base)としては、アデニン、グアニン、チミン、シトシン及びウラシルのいずれでも良く、鎖長は一般的な20mer以下が望ましいが、アジュバンド活性の点から、好ましくは3~12merであり、より好ましくは3~10merである。
下記式(1)に、3~12merのペプチド核酸の構造を示す。
【0017】
【0018】
〔式中、Baseは同一又は異なっていてもよく、アデニン、グアニン、チミン、シトシン又はウラシルを示し、Rは-COOH又は-CONH2を示し、nは1~10の整数を示す。〕
【0019】
本発明において、好適なペプチド核酸としては、例えば塩基として少なくとも1個のグアニン又はシトシンを有する3mer又は10merのペプチド核酸、塩基として3個のグアニンを有する3merのペプチド核酸(G3PNA)、塩基として3個のシトシンを有する3merのペプチド核酸(C3PNA)、塩基として10個のシトシンを有する10merのペプチド核酸(C10PNA)等が挙げられる。
【0020】
本発明のMIPは、細胞膜透過性ペプチドのN若しくはC末端に、化学的手法、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを両末端に有する架橋剤を介して細胞透過性ペプチドとペプチド核酸のN末端間を共有結合させることにより製造することができる。
なお、ペプチド核酸は、例えばFmoc型PNAモノマーユニット等を用い、当技術分野で公知の固相ペプチド合成法を利用して合成することができる。
【0021】
本発明において用いられる好適なMIPとして、以下に示すHIVのTAT由来の13アミノ酸からなるペプチド(配列番号1)がそのC末端で、G3PNAと共有結合したMIP01(式(2))、C10PNAと共有結合したMIP03(式(3))が挙げられる。
【0022】
【0023】
後述実施例に示すとおり、式(2)で示されるMIP01とインフルエンザ抗原(スプリット抗原)を混合して調製したワクチン組成物をマウスへ注射及び経粘膜投与した場合、当該抗原に対する血中の抗体価はMIP非添加群に対して高くなる。また、経粘膜投与した場合は、粘膜のIgA力価も上昇する。また、式(3)で示されるMIP03には、NFκBの活性化及びIL-1βの高い誘導能が認められることから、自然免疫系の活性化を促している可能性が高く、MIPは自然免疫の活性化能を有するアジュバントであると考えられる。
すなわち、MIPは抗原を注射若しくは経粘膜投与する場合のいずれにおいても血中若しくは粘膜にける抗体誘導能を高めるアジュバント活性を有しており、よって、MIPはアジュバントとなり、またMIPは薬学上許容される担体を含む組成物はアジュバント組成物になり得る。また、MIPはアジュバント又はアジュバント組成物を製造するために使用できる。
【0024】
本発明において、「アジュバント」とは、抗原を注射若しくは経粘膜投与する場合において、抗原に対する免疫応答を増加させる物質を意味する。
ここで、「粘膜」とは脊椎動物において、消化器、呼吸器、泌尿生殖器、眼等、特に外通性の内腔器官の内壁をいう。したがって、経粘膜投与としては、例えば、経口投与、鼻腔投与(経鼻投与)、口腔投与、膣内投与、上気道投与、肺胞投与、点眼投与等が挙げられるがそれらに限定されない。
【0025】
本発明のアジュバント又はアジュバント組成物は、抗原と組み合わせて投与することができ、投与は抗原の投与と同時であっても、抗原の投与の前又は後であっても良い。
本発明のアジュバント又はアジュバント組成物の投与量は、投与対象、投与方法、投与形態、抗原の種類に応じて適宜決定することができる。
【0026】
本発明のアジュバントは抗原と組み合わせて、ワクチン組成物とすることができる。本発明のワクチン組成物は、抗原とMIPを混合することにより調製でき、さらに薬学的に許容される担体を適宜添加して適当な製剤にすることができる。本発明のワクチン組成物において、MIPは抗原若しくはその他成分と化学的結合状態にあっても良く、遊離の分子状態で存在しても良い。
【0027】
抗原としては、病原体から精製された天然の生産物、又は遺伝子組換え等の手法により人為的に作製されたタンパク質若しくはペプチドが該当し、具体的には完全なウイルス粒子であるビリオン、不完全ウイルス粒子、ウイルス構造タンパク質、ウイルス非構造タンパク質、病原菌の全菌体、病原菌由来のタンパク質若しくは糖タンパク質、感染防御抗原、中和エピトープ等が挙げられ、感染性を有するものと感染性を消失させたもの(不活化抗原)とが含まれる。不活化抗原としては、例えば、物理的(X線照射、UV照射、熱、超音波)、化学的(ホルマリン、ベータプロピオラクトン、バイナリーエチレンイミン、水銀、アルコール、塩素)等の操作により不活化されたものが挙げられるが、それらに限定されない。病原体由来の抗原は、安全性の観点から、上記ウイルス又は病原菌由来の不活化抗原であることが望ましい。
【0028】
ウイルスとしては、例えば麻疹ウイルス、風疹ウイルス、ムンプスウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、ヘルペスウイルス、水痘ウイルス、重症急性呼吸器感染症候群(SARS)ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)、ヒトパピローマウイルス、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、黄熱ウイルス、デングウイルス、ジカウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、RSウイルス、インフルエンザウイルス等が挙げられ、好ましくはインフルエンザウイルスである。
【0029】
病原菌としては、ジフテリア菌、破傷風菌、百日咳菌、髄膜炎菌、インフルエンザb型菌、肺炎球菌、コレラ菌、結核菌、歯周病菌等が挙げられる。
【0030】
ワクチン組成物の剤形としては、例えば、液剤、懸濁剤、凍結乾燥製剤等が挙げられる。液剤としては、精製水、緩衝液に溶解したもの等が挙げられる。懸濁剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルビロリドン、ゼラチン、カゼイン等と共に精製水、緩衝液等に懸濁させたもの等が挙げられる。
これらの製剤には、通常使用されている吸収促進剤、界面活性剤、保存剤、安定化剤、防湿剤、溶解補助剤等を必要に応じて添加することができる。
【0031】
なお、本発明のワクチン組成物には、当該ワクチンの免疫原性及び安全性を害さない限りにおいて、MIP以外のアジュバントを含有することもできる。
【0032】
本発明のワクチン組成物に含まれる抗原の量は、特異的抗体応答を誘導するのに十分な量であれば特に限定されるものではなく、併用するMIPとの比率も勘案して適宜設定することができる。例えば、抗原としてインフルエンザウイルスのスプリット抗原を用いた場合、1回の投与用量である1~60μg HA(HA換算)の範囲内で含有すればよく、9~15μgHA(HA換算)がより好ましい。前記濃度は、HAタンパク質の濃度を一元放射免疫拡散試験法等の、WHOや国の基準で定められた試験法で測定することによって得られる値である。
【0033】
本発明のワクチン組成物の投与経路は特に限定されず、注射による投与(皮下投与、筋肉内投与、皮内投与、静脈内投与)、経口投与、非経口投与(例えば、鼻腔投与、点眼投与、経膣投与、舌下投与、経皮投与)のいずれでもよく、例えば、鼻腔内に滴下、噴霧又はスプレーすることにより投与される。
【0034】
本発明のアジュバント組成物又はワクチン組成物の投与対象は、ヒト及びヒトを除く哺乳動物が挙げられるが、ヒトが好ましい。ヒトを除く哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、アカゲザル、カニクイザル、オランウータン、チンパンジー等が挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
<CPP及びMIP>
CPPとしてCPP01(TAT由来ペプチド(配列番号1)、MIPとして前記式(2)で示したMIP01及び式(3)で示したMIP03を株式会社ペプチド研究所に合成を委託した。
【0036】
実施例1 MIP01の皮下投与におけるアジュバント活性評価
インフルエンザHAワクチン「生研」のA/H1N1亜型(A/Singapore/GP1908/2015株)及びB/Victoria系統(B/Maryland/15/2016株)の各原液をスプリット抗原(SV)とし、0.3mL当りに各株のヘムアグルチニンが1μgとなるよう各スプリット抗原を混合し、そこへHIVのTAT由来の13アミノ酸からなる細胞膜透過性ペプチド若しくはMIP01が1μgとなるよう添加した。また、対照としてアジュバントを添加しない抗原のみの投与液も併せて調製した。
【0037】
上記の通りに調製した投与液(表2)を3週間隔で2回、BALB/cマウス(雌、5週齢)の後背部皮下へ0.3mL投与し(各群5匹)、各投与から2週間後に全採血した。全採血で得られた血液を遠心分離して血清を調製し、血清のA/Singapore/GP1908/2015株及びB/Maryland/15/2016株に特異的に結合するIgG(Total IgG)力価を測定した。また、2回投与後の血清で、A/Singapore/GP1908/2015株に対する中和抗体価も測定した。
【0038】
【0039】
各投与群のIgG力価は
図1A及び
図1Bに示す通りである。スプリット抗原にMIP01を投与当たり1μg添加することで1回及び2回投与のいずれにおいても、各株に対する血中の抗原特異的なIgG力価はアジュバント非投与群に比べて高くなった。また、CPP01投与群と比較しても、MIP01投与群では1回及び2回投与の両時点において、いずれの株に対しても血中の抗原特異的なIgG力価は高いことが確認された。
図2では、2回投与後のA/Singapore/GP1908/2015株に対する中和抗体価を示すが、中和抗体価もMIP01投与群が最も高い結果となり、次にアジュバント非添加群、最も低い値を示したのがCPP01投与群となった。したがって、MIP01投与により、血中の抗原特異的IgG力価だけでなく、ウイルスの排除に重要な中和抗体価も向上することが確認され、細胞膜透過ペプチドにペプチド核酸を結合させた構造がMIP01のアジュバント活性発揮に重要であると考えられた。
【0040】
実施例2 MIP01の経鼻投与におけるアジュバント活性評価
実施例1と同様にインフルエンザHAワクチン「生研」のA/H1N1亜型(A/Singapore/GP1908/2015株)及びB/Victoria系統(B/Maryland/15/2016株)の各原液をスプリット抗原とし、10μL当りに各株のヘムアグルチニンが1μgとなるよう各スプリット抗原を混合し、そこへCPP01若しくはMIP01が10μgとなるよう添加した。また、対照としてアジュバントを添加しない抗原のみの投与液も併せて調製した。
【0041】
上記の通りに調製した投与液(表3)を3週間隔で2回、BALB/cマウス(雌、5週齢)の鼻腔に10μL(片鼻5μL)投与した(各群5匹)。各投与から2週間後に全採血し、遠心分離により血清を調製した。また、2回投与2週間後の採血を行った後、個体当り400μLのプロテアーゼインヒビター含有D-PBSで鼻腔内を洗浄し、この洗浄液を鼻腔洗浄液として回収した。血清は、A/Singapore/GP1908/2015株及びB/Maryland/15/2016株に特異的に結合するIgG(Total IgG)力価の測定、鼻腔洗浄液はA/Singapore/GP1908/2015株及びB/Maryland/15/2016株に特異的に結合するIgA力価の測定に供した。
【0042】
【0043】
各株のIgG力価の結果は
図3A及び
図3Bに示す通りであるが、経鼻投与においても、1回及び2回投与のいずれにおいても、各株に対する血中の抗原特異的なIgG力価はアジュバント非投与群に比べて高くなった。特に、B/Maryland/15/2016株に対するIgG力価は、アジュバント非添加群に対して有意な抗体価の上昇が確認された(マン・ホイットニーのU検定、p<0.05)。また、鼻腔洗浄液の抗原特異的IgA力価についても、いずれの投与時点においても各株に対するIgA力価はMIP01投与群で最も高値となり、次にアジュバント非添加群、最も低値であったのがCPP01投与群であった(
図4A、
図4B)。したがって、細胞膜透過ペプチドをペプチド核酸に修飾したMIPは、注射による投与だけでなく、経粘膜投与においてもアジュバント活性を有し、経粘膜投与では血中のIgGに加えて、粘膜におけるIgA誘導も促進すると考えられる。
【0044】
実施例3 MIP03の自然免疫活性化能
MIP03の自然免疫活性化能をin vitroで評価した。
【0045】
1×106cells/mLのRaw264.7 Reporter Cell Line(Novus biologicals, NBP2-26261)へ終濃度として10、20、40及び80μMとなるようMIP03を添加し、5% CO2、37℃で2日間培養した後、培養液を回収した。回収した培養液は、12,000×gで1分間遠心分離して、その上清のアルカリフォスファターゼ及びサイトカインを測定した。アルカリフォスファターゼの測定には、SEAP Reporter Gene Assay kit Luminescence(Cayman Chemical,600260)、サイトカインの測定にはBio-Plex Pro マウスサイトカインGI23-Plex(Bio-Rad,M60009RDPDB03)を使用した。また、陰性対照(NC)として培地、サイトカイン測定では陽性対照としてToll-like receptor 7のアゴニストであるImiquimod(0.02μM)を添加して、これらと比較評価した。
【0046】
アルカリフォスファターゼの測定結果は
図5に示す通りであるが、MIP03の添加濃度依存的なアルカリフォスファターゼの発光シグナルの向上が確認された。したがって、MIP03はNFκBの活性化を促すことがわかり、自然免疫を活性化させることが示唆された。また、
図6~9にサイトカイン測定の結果を示すが、MIP03の濃度依存的にIL-1α及びIL-1β誘導が高まることが確認され(
図6及び7)、特にIL-1βはImiquimodと比べても非常に高い誘導が確認された(
図7)。また、Th2及びTh1関連サイトカインとして、IL-13の測定結果を
図8、IFN-γの測定結果を
図9に示すが、いずれのサイトカインも陽性対照であるImiquimodと同程度の誘導が確認された。
上記の通り、NFκBの活性化及びIL-1βの高い誘導能を有するため、MIP03はC-type Lectin ReceptorやNod-Like Receptorを介した自然免疫系の活性化を促している可能性が高く、その結果、抗体応答に関連するTh1/Th2サイトカインの誘導能を示すと考えられる。したがって、MIPは、自然免疫の活性化能を有するアジュバントである。
【配列表】