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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】複層管
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/04 20060101AFI20241211BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
F16L11/04
H01L21/304 648K
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021551417
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037291
(87)【国際公開番号】W WO2021066066
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2019179798
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】梅山 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】牧野 耕三
(72)【発明者】
【氏名】乾 成裕
【審査官】柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-224870(JP,A)
【文献】特開2004-223910(JP,A)
【文献】特開平06-221471(JP,A)
【文献】特開2005-111895(JP,A)
【文献】特開2005-224656(JP,A)
【文献】特開2006-130909(JP,A)
【文献】国際公開第2020/080470(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/00-11/26
F16L 9/133
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最内層を構成する第1のポリオレフィン系樹脂層と、前記第1のポリオレフィン系樹脂層の外側に配された第2のポリオレフィン系樹脂層とを含み、
前記第1のポリオレフィン系樹脂層の材料の、SEMI F-57に準拠して測定されるカルシウム溶出量が30μg/m2未満であり、
前記第1のポリオレフィン系樹脂層と前記第2のポリオレフィン系樹脂層との厚みの合計に対する、前記第1のポリオレフィン系樹脂層の厚みの比が、0.011~0.17である、複層管。
【請求項2】
前記複層管が、半導体洗浄液の輸送に用いられる、請求項1に記載の複層管。
【請求項3】
前記第1のポリオレフィン系樹脂層の厚みが、0.07mm以上である、請求項1又は2に記載の複層管。
【請求項4】
前記第1のポリオレフィン系樹脂層の厚みが、0.94mm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の複層管。
【請求項5】
前記第2のポリオレフィン系樹脂層の材料の、SEMI F-57に準拠して測定されるカルシウム溶出量が30μg/m2以上である、請求項1~4のいずれかに記載の複層管。
【請求項6】
前記第1のポリオレフィン系樹脂層中のポリオレフィン系樹脂の、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフにより測定される積分分子量分布曲線において、分子量1000以下の成分の割合が0.15%以上である、請求項1~5のいずれかに記載の複層管。
【請求項7】
前記第2のポリオレフィン系樹脂層の外側にガスバリア層をさらに含む、請求項1~6のいずれかに記載の複層管。
【請求項8】
前記半導体洗浄液が最小線幅65nm以下の半導体素子の湿式処理工程で用いられるものである、請求項2に記載の複層管。
【請求項9】
最内層用のポリオレフィン系樹脂組成物と、外層用のポリオレフィン系樹脂組成物とを共押出することで複層管に製管する工程と、前記製管された複層管の少なくとも内側表面を洗浄する工程と、を含み、
前記最内層用のポリオレフィン系樹脂組成物が最内層、前記外層用のポリオレフィン系樹脂組成物が前記最内層の外側に配されるように積層され、
前記最内層用のポリオレフィン系樹脂組成物の、SEMI F-57に準拠して測定されるカルシウム溶出量が30μg/m2未満であり、
前記最内層と前記外層との厚みの合計に対する、前記最内層の厚みの比が、0.011~0.17である、複層管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層管に関する。より具体的には、本発明は、半導体洗浄液用配管として有用なポリオレフィン系樹脂製の複層管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体に関する精密デバイスの製造においては、洗浄等の湿式工程で、極めて高純度に精製された超純水及び必要成分が極めて高純度に精製された超高純度洗浄液を適宜混合した半導体洗浄液が用いられている。金属イオン及び/又は有機物が半導体洗浄液中に所定濃度以上存在していると、ウエハ表面等に金属及び/又は有機物が吸着することで精密デバイスの品質に悪影響を及ぼすため、半導体洗浄液中における不純物の制限が徹底して行われている。
【0003】
半導体洗浄液への不純物の混入は、半導体洗浄液の輸送ラインを構成する配管においても生じる。配管の材質としては、ガスバリア性に優れたステンレス鋼等の金属が用いられたこともあるが、配管からの金属溶出の影響を考慮すると、樹脂を用いることが好ましいとされている。
【0004】
半導体洗浄液用配管の材料に用いられる樹脂としては、化学的に不活性であり、ガスバリア性を有し且つ半導体洗浄液への溶出性が極めて少ないフッ素樹脂が用いられている。例えば、特許文献1には、半導体製造装置に使用される配管として、フッ素樹脂を2層に積層したフッ素樹脂2重チューブが開示され、内側層チューブが、耐食性、耐薬品性に優れたフッ素樹脂(例えば、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、または、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE))によって構成され、外側層チューブが、ガスの透過を抑制できるフッ素樹脂(例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF))によって構成される配管が開示されている。また、特許文献2には、超純水の配管用の多層管であって、フッ素樹脂からなり、超純水に接触する第1の樹脂層と、ガス不透過性樹脂からなり、前記第1の樹脂層の外周面に設けられた第2の樹脂層とを備えることを特徴とする多層管が開示され、さらに、第2の樹脂層の外周面に、前記第2の樹脂層を保護する第3の樹脂層が設けられ、当該第3の樹脂層としてポリエチレンが用いられることが開示されている。
【0005】
半導体洗浄液用配管の材料に用いられる樹脂の中でも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は、半導体分野において、半導体洗浄液製造装置内の配管、及び半導体洗浄液製造装置からユースポイントへの半導体洗浄液の輸送用配管として実用化されているものの全てに用いられており、半導体洗浄液用配管における技術的標準となっている。
【0006】
最近では、半導体チップの集積度向上に伴い回路パターンがますます微細化されてきており、低レベルの不純物に対してもより影響を受けやすくなっている。従って、半導体洗浄液に対する要求品質は厳格化の一途をたどっている。例えば、半導体製造に使用される半導体洗浄液の品質等に関する規格がSEMI F75として公表されており、2年ごとに更新されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-299808号公報
【文献】特開2010-234576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
PVDF等のフッ素樹脂製配管は、半導体洗浄液に対する要求品質の厳格化の背景において、フッ素樹脂製配管は要求水質を満たす配管として唯一の選択肢となっており、その突出した性能が強く支持されている。しかしながら、その用途の特殊性のため、他の一般的な配管に比べ、施工性及びコスト性において不利である。それだけでなく、超高純度洗浄液が3-ジアミノプロパンのようなジアミノアルカンを含むことが多い上に60℃の条件で用いられるため、劣化が早いといった問題もある。
【0009】
そこで本発明者は、敢えて、半導体洗浄液用配管の材料を代替することに着眼した。具体的には、一般的な配管材料として、施工性及びコスト性に優れるポリオレフィン系樹脂が用いられていることに鑑み、半導体洗浄液用配管の材料をポリオレフィン系樹脂で代替することを試みた。
【0010】
しかしながら、配管材料として汎用されているポリオレフィン系樹脂は塩素系触媒を用いた重合により合成されており、重合後に触媒残渣を中和するためにステアリン酸カルシウムやハイドロカルサイト等の中和剤を混合することが必要である。このため、ポリオレフィン系樹脂管は輸送する水に中和剤に由来するカルシウム及び有機物質を溶出させてしまう。そして、これらのカルシウム及び有機物質溶出レベルは、半導体洗浄液に求められる要求品質には遠く及ばない。
【0011】
本発明者は、ポリオレフィン系樹脂管の材料として、ポリオレフィン系樹脂中の触媒に対する中和剤の添加量が、触媒残渣の中和を目的とする本来的な量に比べて極めて少ない材料を用いることで、これまでPVDF等のフッ素樹脂製配管でしか成し得なかった程度までカルシウム及び有機物質溶出量を激減させることを試みた。しかしながらその一方で、そのようなポリオレフィン系樹脂においては触媒残渣が活性を維持していることで酸化劣化が加速され、結果として、配管として備えるべき機械強度(具体的には、内圧に対する長期耐久性)を満たすことができなくなり、その劣化は60℃という半導体洗浄液の使用環境においては特に顕著になるという新たな課題にも直面した。
【0012】
つまり、半導体洗浄液用配管の材料をポリオレフィン系樹脂に代替すると、カルシウム及び有機物質溶出量を抑制することと、60℃の使用環境を考慮した機械的特性を備えた配管として成立させることとを両立できないという特有の課題があることが判明した。
【0013】
本発明は、以上の点に鑑み、ポリオレフィン系樹脂製の配管であって、輸送液へのカルシウム及び有機物質溶出量を低レベルに抑制するとともに、60℃の使用環境を考慮した機械的特性(具体的には、内圧に対する長期耐久性を指す。以下において、単に「強度」とも記載する場合がある。)を備えた配管として成立させることができるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は鋭意検討の結果、ポリオレフィン系樹脂管を複層構造とし、且つ、内層に、カルシウム及び有機物質溶出量が所定量に抑えられたポリオレフィン系樹脂材料で構成したポリオレフィン系樹脂層を配するとともに、当該内層のポリオレフィン系樹脂層の厚みを所定範囲内となるように設計することで、カルシウム及び有機物質溶出量を極めて低程度に抑制しながらも、60℃の使用環境を考慮した機械的特性を備えた配管として成立させることが可能であることを見出した。本発明は、この知見に基づき、さらに検討を重ねることにより完成された。すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
【0015】
項1. 最内層を構成する第1のポリオレフィン系樹脂層と、前記第1のポリオレフィン系樹脂層の外側に配された第2のポリオレフィン系樹脂層とを含み、
前記第1のポリオレフィン系樹脂層の材料の、SEMI F-57に準拠して測定されるカルシウム溶出量が30μg/m2未満であり、
前記第1のポリオレフィン系樹脂層と前記第2のポリオレフィン系樹脂層との厚みの合計に対する、前記第1のポリオレフィン系樹脂層の厚みの比が、0.011~0.17である、複層管。
項2. 前記複層管が、半導体洗浄液の輸送に用いられる、項1に記載の複層管。
項3. 前記第1のポリオレフィン系樹脂層の厚みが、0.07mm以上である、項1又は2に記載の複層管。
項4. 前記第1のポリオレフィン系樹脂層の厚みが、0.94mm以下である、0.07以下である、項1~3のいずれかに記載の複層管。
項5. 前記第2のポリオレフィン系樹脂層の材料の、SEMI F-57に準拠して測定されるカルシウム溶出量が30μg/m2以上である、項1~4のいずれかに記載の複層管。
項6. 前記第1のポリオレフィン系樹脂層中のポリオレフィン系樹脂の、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフにより測定される積分分子量分布曲線において、分子量1000以下の成分の割合が0.15%以上である、項1~5のいずれかに記載の複層管。
項7. 前記第2のポリオレフィン系樹脂層の外側にガスバリア層をさらに含む、項1~6のいずれかに記載の複層管。
項8. 前記半導体洗浄液が最小線幅65nm以下の半導体素子の湿式処理工程で用いられるものである、項2~7のいずれかに記載の複層管。
項9. 最内層用のポリオレフィン系樹脂組成物と、外層用のポリオレフィン系樹脂組成物とを共押出することで複層管に製管する工程と、前記製管された複層管の少なくとも内側表面を洗浄する工程と、を含み、
前記最内層用のポリオレフィン系樹脂組成物が最内層、前記外層用のポリオレフィン系樹脂組成物が前記最内層の外側に配されるように積層され、
前記最内層用のポリオレフィン系樹脂組成物の、SEMI F-57に準拠して測定されるカルシウム溶出量が30μg/m2未満であり、
前記最内層と前記外層との厚みの合計に対する、前記最内層の厚みの比が、0.011~0.17である、複層管の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリオレフィン系樹脂製の複層管によれば、輸送液へのカルシウム及び有機物質溶出量を低レベルに抑制するとともに、60℃の使用環境を考慮した強度を備えた配管として成立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の複層管の一例を示す模式的断面図である。
図2】本発明の複層管の他の例を示す模式的断面図である。
図3】本発明の複層管の更に他の例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[1.層構成]
本発明の複層管は、最内層を構成する第1のポリオレフィン系樹脂層と、前記第1のポリオレフィン系樹脂層の外側に配された第2のポリオレフィン系樹脂層とを含む。図1図3に、本発明の複層管の例を挙げる。
【0019】
図1に示す複層管100は、第1のポリオレフィン系樹脂層210と、第2のポリオレフィン系樹脂層220とを含む。第1のポリオレフィン系樹脂層210は複層管100の最内層を構成し、第2のポリオレフィン系樹脂層220は、第1のポリオレフィン系樹脂層210と接して積層されている。図2に示す複層管100aは、第1のポリオレフィン系樹脂層210aと第2のポリオレフィン系樹脂層220とを含む。第1のポリオレフィン系樹脂層210aは複層構造を有する。図示しないが、本発明の複層管は、単層構造を有する第1のポリオレフィン系樹脂層と、複層構造を有する第2のポリオレフィン系樹脂層とを含んでもよいし;複層構造を有する第1のポリオレフィン系樹脂層と、複層構造を有する第2のポリオレフィン系樹脂層とを含んでもよいし;第1のポリオレフィン系樹脂層210と第2のポリオレフィン系樹脂層220との間に別の層を含んでいてもよい。図3に示す複層管100bは、第1のポリオレフィン系樹脂層210と、第2のポリオレフィン系樹脂層220と、ガスバリア層300とを含む。ガスバリア層300は、第2のポリオレフィン系樹脂層220の外側に積層されていればよい。ガスバリア層300では、複層管100bの最外層を構成してもよいし、ガスバリア層300のさらに外側に別の層が設けられていてもよい。
【0020】
[2.第1のポリオレフィン系樹脂層]
第1のポリオレフィン系樹脂層に含まれるポリオレフィン系樹脂としては特に限定されず、オレフィンに由来するモノマー単位を含有する重合体であればよい。例えば、ポリエチレン系樹脂、エチレン-カルボン酸アルケニルエステル共重合体樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)系樹脂等が挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらのポリオレフィン系樹脂の中でも、複層管の強度等を向上させる観点から、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂が好ましい。また、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の中でも、低分子量成分の含有量を抑制して輸送液への有機成分の溶出を抑制する等の観点から、ポリエチレン系樹脂がより好ましい。
【0021】
ポリエチレン系樹脂としては特に限定されないが、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)及び高密度ポリエチレン(HDPE)等が挙げられる。これらの中でも、輸送液への有機成分の溶出を抑制する観点からは高密度ポリエチレン(HDPE)が好ましい。
【0022】
エチレン-カルボン酸アルケニルエステル共重合体樹脂におけるカルボン酸アルケニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、酢酸イソプロペニル、酢酸アリル等が挙げられ、好ましくは酢酸ビニルが挙げられる。
【0023】
エチレン-α-オレフィン共重合体としては、エチレンに対して、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン又は1-オクテン等のα-オレフィンを共重合成分として数モル%程度の割合で共重合させた共重合体が挙げられる。
【0024】
ポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン及びランダムポリプロピレン等が挙げられる。ブロックポリプロピレン及びランダムポリプロピレンにおける共重合成分としては、通常エチレンが挙げられる。ポリブテン系樹脂としては、ポリブテン-1等が挙げられる。
【0025】
第1のポリオレフィン系樹脂層に含まれるポリオレフィン系樹脂の、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(ポリスチレン換算)により測定される積分分子量分布曲線における分子量1000以下の成分の割合としては、例えば0.15%以上が挙げられる。更に、管成形時の加工性を良好に得る観点から、上記積分分子量分布曲線における分子量1000以下の成分の割合としては、好ましくは0.45%以上、より好ましくは0.65%以上、更に好ましくは0.7%以上が挙げられる。上記積分分子量分布曲線における分子量1000以下の成分の割合の上限としては特に限定されないが、例えば0.9%以下、好ましくは0.8%以下が挙げられる。
【0026】
第1のポリオレフィン系樹脂層に含まれるポリオレフィン系樹脂の分子量としては特に限定されず、例えば重量平均分子量Mwとして1×105~10×105が挙げられる。輸送液への有機成分の溶出を抑制し、かつ、表面平滑性を得る観点から、例えば重量平均分子量Mwとして好ましくは3×105~10×105、より好ましくは4×105~9×105が挙げられる。重量平均分子量Mwは、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ測定によりポリスチレン換算で測定される値である。
【0027】
第1のポリオレフィン系樹脂層に含まれるポリオレフィン系樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は、管成形時の加工性の観点から2以上、たとえば2~30が挙げられる。さらに、輸送液への有機成分の溶出も併せて抑制する観点からは、分子量分布(Mw/Mn)は、2~28であることが好ましい。これらの効果をより良好に得る観点から、第1のポリオレフィン系樹脂層に含まれるポリオレフィン系樹脂の分子量分布(Mw/Mn)としては、好ましくは6~26、より好ましくは10~24、さらに好ましくは18~23が挙げられる。分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ測定によってポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とを求め、MwをMnで除した値(Mw/Mn)である。
【0028】
第1のポリオレフィン系樹脂層の材料(ポリオレフィン系樹脂組成物)の、EMI F-57に準拠して測定されるカルシウム溶出量は、30μg/m2未満である。当該カルシウム溶出量が30μg/m2以上である材料を用いると、複層管の使用時において、半導体洗浄液中へのカルシウム溶出量が過度となり、特に、半導体洗浄液の輸送に用いる場合において半導体洗浄液の要求品質を満たすことができなくなる。輸送液中へのカルシウム溶出量をより抑制する観点から、第1のポリオレフィン系樹脂層の材料のカルシウム溶出量としては、好ましくは29μg/m2以下、より好ましくは28μg/m2以下が挙げられる。第1のポリオレフィン系樹脂層の材料のカルシウム溶出量は少なければ少ないほど好ましいため、その下限値としては最も好ましくは0μg/m2であるが、第1のポリオレフィン系樹脂層に用いられるポリオレフィン系樹脂の合成にチーグラー・ナッタ触媒等の塩素系触媒を用い、更にわずかな中和剤を用いた場合等、微量のカルシウムの混入を免れない場合は、第1のポリオレフィン系樹脂層の材料のカルシウム溶出量としては、例えば1μg/m2以上、5μg/m2以上、10μg/m2以上、15μg/m2以上、20μg/m2以上、又は25μg/m2以上が挙げられる。
【0029】
また、第1のポリオレフィン系樹脂層の材料(ポリオレフィン系樹脂組成物)中のカルシウム濃度としては、上記のカルシウム溶出量を満たす限りにおいて特に限定されないが、例えば10ppm以下が挙げられる。輸送液中へのカルシウム溶出量をより抑制する観点から、第1のポリオレフィン系樹脂層の材料中のカルシウム濃度としては、好ましくは8pp、以下、より好ましくは7ppm以下、さらに好ましくは6ppm以下が挙げられる。第1のポリオレフィン系樹脂層中のカルシウム濃度は低いほど輸送液中へのカルシウム溶出量が少なくなるため、この観点からは最も好ましくは0ppmであるが、第1のポリオレフィン系樹脂層に用いられるポリオレフィン系樹脂の合成にチーグラー・ナッタ触媒等の塩素系触媒を用いた場合であってわずかな中和剤を用いた場合等、微量のカルシウムの混入を免れない場合は、第1のポリオレフィン系樹脂層中のカルシウム濃度は例えば0.3ppm以上、又は0.5ppm以上が挙げられる。
【0030】
第1のポリオレフィン系樹脂層の材料(ポリオレフィン系樹脂組成物)の、EMI F-57に準拠して測定される有機成分(全有機炭素;TOC)溶出量としては、例えば800μg/m2以下が挙げられる。輸送液中への有機成分溶出量をより抑制する観点から、第1のポリオレフィン系樹脂層の材料の有機成分溶出量としては、好ましくは600μg/m2以下、より好ましくは400μg/m2以下、さらに好ましくは360μg/m2以下が挙げられる。第1のポリオレフィン系樹脂層の材料の有機成分溶出量は少なければ少ないほど好ましいため、その下限値としては最も好ましくは0μg/m2であるが、第1のポリオレフィン系樹脂層に用いられるポリオレフィン系樹脂の合成にチーグラー・ナッタ触媒等の塩素系触媒を用い、更にわずかな中和剤を用いた場合等、微量の有機成分の混入を免れない場合は、第1のポリオレフィン系樹脂層の材料の有機成分溶出量としては、例えば5μg/m2以上、10μμg/m2以上、100μg/m2以上、200μg/m2以上、又は300μg/m2以上が挙げられる。
【0031】
なお、例えば複層管100aのように第1のポリオレフィン系樹脂層210aが複層化されている場合は、複層の第1のポリオレフィン系樹脂層210aのうち最内層の材料のカルシウム溶出量、カルシウム濃度、及び/又は有機成分溶出量が、第1のポリオレフィン系樹脂層210aのうち他の層の材料より低くなるように設計することができる。
【0032】
なお、複層管に酸素を取り除く脱気装置が設けられることで、第1のポリオレフィン系樹脂層中に酸化防止剤は不要となる。第1のポリオレフィン系樹脂層中に酸化防止剤を含ませないことによって、輸送液中への有機成分の溶出をさらに抑制することができる。なお、不要となる酸化防止剤としては、通常のポリオレフィン系樹脂に使用されるものであれば特に限定されず、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、芳香族アミン系酸化防止剤及びラクトン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0033】
第1のポリオレフィン系樹脂層の厚みt1は、輸送液中へのカルシウム及び/又は有機成分の溶出量をより一層抑制する観点から、例えば0.07mm以上、好ましくはより好ましくは0.2mm以上が挙げられる。また、第2のポリオレフィン系樹脂層の厚みにもよるが、例えば第2のポリオレフィン系樹脂層の厚みt2が4mm以上である場合には、輸送液中へのカルシウム及び有機成分の溶出量をより一層抑制する観点から、上記第1のポリオレフィン系樹脂層の厚みt1は、さらに好ましくは0.4mm以上、一層好ましくは0.6mm以上が挙げられ、より一層好ましくは0.8mm以上、特に好ましくは0.85mm以上が挙げられる。第1のポリオレフィン系樹脂層の厚みt1の範囲の上限としては、60℃の使用環境に対する複層管の強度をより一層向上させる観点、及び輸送液中へのカルシウム及び/又は有機成分の溶出量をより一層抑制する観点から、例えば0.94mm以下、好ましくは0.92mm以下が挙げられる。
【0034】
第1のポリオレフィン系樹脂層の厚みt1と第2のポリオレフィン系樹脂層t2との和に対する第1のポリオレフィン系樹脂層の厚みの比t1[t1/(t1+t2)]は、0.11~0.17である。上記比の下限が0.11を下回ると、使用時において、第2のポリオレフィン系樹脂層に含まれるカルシウム及び有機成分の輸送液中への移行を充分にせき止めることができず、半導体洗浄液中へのカルシウム及び有機成分の溶出量が過度となり、半導体洗浄液の要求品質を満たすことができなくなる。また、上記比の上限が0.17を上回ると、60℃の使用環境に対する複層管の強度を確保できなくなる。
【0035】
カルシウム及び有機成分の溶出量をより抑制する観点から、上記比の下限は、好ましくは0.013以上、より好ましくは0.04以上、更に好ましくは0.08以上、一層好ましくは0.12以上、特に好ましくは0.135以上、最も好ましくは0.15以上が挙げられる。また、60℃の使用環境に対する複層管の強度をより一層向上させる観点から、上記比の上限としては、好ましくは0.165以下、より好ましくは0.16以下が挙げられる。
【0036】
さらに、上述の第1のポリオレフィン系樹脂層の厚みは、SDR(基準外径/最小肉厚)が7~17の範囲内で調整されることがより好ましい。SDRが7以上であることは、外径に対して管の内径を十分にとって輸送液の輸送量を確保しやすい点で好ましい。また、SDRが17以下であることは、第2のポリオレフィン系樹脂層の厚みを確保して第1のポリオレフィン系樹脂層自体の強度不足を補い複層管全体として実用に適うより好ましい強度を備えさせる点で好ましい。
【0037】
[3.第2のポリオレフィン系樹脂層]
第2のポリオレフィン系樹脂層に含まれるポリオレフィン系樹脂としては特に限定されず、上述の第1のポリオレフィン系樹脂層に含まれるポリオレフィン系樹脂として挙げたものの中から適宜選択することができる。上述のポリオレフィン系樹脂の中でも、低分子量成分の溶出を抑制する観点、及び/又は、薬剤により配管洗浄した際の耐久性の観点から、高密度ポリエチレン(HDPE)が好ましい。第2のポリオレフィン系樹脂層に用いられるポリオレフィン系樹脂は、第1のポリオレフィン系樹脂層に用いられるポリオレフィン系樹脂と同種であってもよいし異種であってもよいが、両層が互いに接触して積層される場合は、両層の密着性を向上させて好ましい強度を発現させる観点からは、同種のポリオレフィン系樹脂であることがより好ましい。
【0038】
第2のポリオレフィン系樹脂層に含まれるポリオレフィン系樹脂の分子量としては特に限定されないが、強度の観点から、第1のポリオレフィン系樹脂層に用いられるポリオレフィン系樹脂の分子量より大きいことが好ましく、例えば重量平均分子量Mwとして5×105~12×105、好ましくは5.5×105~10×105、より好ましくは7×105~9.5×105、さらに好ましくは8×105~9×105が挙げられる。また、第2のポリオレフィン系樹脂層に用いられるポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量は、強度の観点から、第1のポリオレフィン系樹脂層に用いられるポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量の1.5~4倍、好ましくは2~4倍が挙げられる。
【0039】
第2のポリオレフィン系樹脂層に含まれるポリオレフィン系樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は特に限定されないが、20~180が挙げられる。第2のポリオレフィン系樹脂層に含まれるポリオレフィン系樹脂の分子量分布(Mw/Mn)が20以上であることは、特に第2のポリオレフィン系樹脂層に含まれるポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量が第1のポリオレフィン系樹脂に含まれるポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量の1.5~4倍、好ましくは1.8~3倍、より好ましくは2~2.5倍である場合において好ましい。つまり、第2のポリオレフィン系樹脂層に含まれるポリオレフィン系樹脂の分子量分布(Mw/Mn)が20以上であることは、第1のポリオレフィン系樹脂層との層界面における低分子成分を十分に確保して(つまり、両層間で分子量分布の重複部分を十分に確保して)密着性を向上させることで良好な強度を得る観点で好ましく、180以下であることは、第2ポリオレフィン系樹脂層自体の強度を得る観点で好ましい。これらの効果をより良好に得る観点から、第2のポリオレフィン系樹脂層に用いられるポリオレフィン系樹脂の分子量分布(Mw/Mn)としては、好ましくは22~170、より好ましくは45~160、さらに好ましくは60~155、一層好ましくは80~150、より一層好ましくは100~145、特に好ましくは120~140が挙げられる。
【0040】
第2のポリオレフィン系樹脂層の材料(ポリオレフィン系樹脂組成物)の、EMI F-57に準拠して測定されるカルシウム溶出量としては、60℃の使用環境に対する複層管の強度を確保する観点から、30μg/m2以上、好ましくは50μg/m2以上、より好ましくは70μg/m2以上、一層好ましくは80μg/m2以上、より一層好ましくは90μg/m2以上、特に好ましくは95μg/m2以上が挙げられる。本発明の複層管は、カルシウム及び有機成分の溶出抑制効果に優れているため、第2のポリオレフィン系樹脂層の材料にカルシウムを多量に含んでいても、効果的にカルシウムの溶出を抑制することができる。このような観点から、上記カルシウム溶出量の好適な例としては、上記の範囲の中でも、80μg/m2以上、90μg/m2以上、又は95μg/m2以上が挙げられる。また、上記カルシウム溶出量の上限としては特に限定されないが、カルシウムの溶出抑制の観点から、120μg/m2以下、110μg/m2以下、又は100μg/m2以下が挙げられる。
【0041】
また、第2のポリオレフィン系樹脂層の材料(ポリオレフィン系樹脂組成物)中のカルシウム濃度としては、上記のカルシウム溶出量を満たす限りにおいて特に限定されないが、60℃の使用環境に対する複層管の強度を確保する観点から、例えば20ppm以上、好ましくは100ppm以上、より好ましくは500ppm以上、さらに好ましくは800ppm以上、一層好ましくは1000ppm以上、より一層好ましくは1200ppm以上、特に好ましくは1400ppm以上が挙げられる。また、上記カルシウム濃度範囲の上限としては、含まれているカルシウム自体が破壊の起点となることによる強度不足を抑制する観点、及びカルシウム及び有機成分の溶出抑制の観点から、例えば2000ppm以下、好ましくは1800ppm以下、より好ましくは1600ppm以下が挙げられる。
【0042】
第2のポリオレフィン系樹脂層の材料(ポリオレフィン系樹脂組成物)の、EMI F-57に準拠して測定される有機成分(TOC)溶出量としては、例えば30000μg/m2超が挙げられる。本発明の複層管は、カルシウム及び有機成分の溶出抑制効果に優れているため、第2のポリオレフィン系樹脂層の材料に有機成分を多量に含んでいても、効果的に有機成分の溶出を抑制することができる。このような観点から、上記有機成分溶出量の好適な例としては、31000μg/m2以上、好ましくは31500μg/m2以上が挙げられる。また、上記有機成分溶出量の上限としては特に限定されないが、有機成分の溶出抑制の観点から、例えば35000μg/m2以下、好ましくは34000μg/m2以下、より好ましくは33000μg/m2以下、更に好ましくは32000μg/m2以下が挙げられる。
【0043】
第2のポリオレフィン系樹脂層は、酸化防止剤を含んでいることが好ましい。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、芳香族アミン系酸化防止剤及びラクトン系酸化防止剤等が挙げられる。第2のポリオレフィン系樹脂層中の酸化防止剤の含有量としては、酸素の影響を抑制し好ましい強度を確保する観点から、例えば0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上が挙げられ、酸化防止剤の含有量の上限としては、例えば5重量%以下、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下が挙げられる。
【0044】
[4.ガスバリア層]
本発明の複層管がガスバリア層を有する場合、ガスバリア層は、第2のポリオレフィン系樹脂層の外側に設けられる。ガスバリア層は、複層管の外表面からの酸素が第2のポリオレフィン系樹脂層の内部、さらには第1のポリオレフィン系樹脂層の内部へ浸透することを防止するため、複層管の強度を向上させることができる。また、ガスバリア層を設けることは、輸送液中へのガス溶解も良好に抑止することができる点でも好ましい。
【0045】
ガスバリア層の材料としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、及びポリアクリロニトリル(PAN)等が挙げられ、好ましくは、ポリビニルアルコール(PVA)及びエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)が挙げられる。
【0046】
ガスバリア層の厚みとしては、少なくともポリオレフィン系樹脂の酸化劣化による強度低下を抑制する程度のガスバリア性を確保し得る厚さであれば特に限定されないが、例えば50~300μm、好ましくは100~250μm、より好ましくは150~250μmが挙げられる。
【0047】
[5.複層管の用途]
本発明の複層管は、輸送液へのカルシウム及び有機物質溶出量を低レベルに抑制するとともに、60℃の使用環境を考慮した強度を備えるため、半導体洗浄液の輸送に特に有用である。半導体洗浄液としては、極めて高純度に精製され不要物が厳密に排除された超純水、及び/又は必要成分以外の不要物が厳密に排除された超高純度洗浄液が用いられる。つまり、本発明において、半導体洗浄液とは、超純水と高純度洗浄液とを含む意である。
【0048】
本発明の複層管は60℃の使用環境に対する強度に優れているため、超高純度洗浄液の輸送に用いられる場合、少なくともアミノ化合物を含む洗浄原液(例えば、ジアミノアルカン等のアミノ化合物、キレート剤、界面活性剤、及びpH調整剤を含む洗浄原液等が挙げられる。)を超純水で希釈した超高純度洗浄液の輸送に用いられる場合であっても、60℃の使用環境に対する優れた強度を有する。なお、高純度洗浄液は、それ自体、上記に例示したような様々な有機成分を必要組成として含んで構成されるものであるが、TOCの溶出抑制能に優れる本発明の複層管を用いて輸送することよって、必要成分以外の、配管材料に由来する不要な有機成分によるコンタミネーションを抑制することができる。
【0049】
本発明の複層管は、半導体洗浄液製造装置内の配管、半導体洗浄液製造装置からユースポイントに半導体洗浄液を輸送する配管、及びユースポイントからの半導体洗浄液返送用配管等として用いることができる。また、本発明の半導体洗浄用配管は、半導体洗浄後の半導体洗浄液を、精製して再利用するために輸送する配管として用いてもよい。
【0050】
本発明の複層管は、半導体素子の製造工程における湿式洗浄工程で用いることができる。当該半導体素子としては、より高い集積度を有するものが好ましく、具体的には、最小線幅65nm以下の半導体素子であることが好ましい。半導体製造に使用される半導体洗浄液の品質等に関する規格としては、例えばSEMI F75が挙げられ、本発明の複層環は、半導体洗浄液の輸送に用いられる場合においても、輸送される半導体洗浄液の品質を、上記の規格を満たすレベルに維持することができる。
【0051】
また、本発明の複層管は、配管同士の接合が容易であり、施工性に優れる。更に、超純水の輸送に用いられるラインと超高純度洗浄液の輸送に用いられるラインとの両方をポリオレフィン系樹脂製で構成できるため、両ライン同士の接合も容易であり、施工性に優れる。本発明の複層管の接合においては、たとえば、比較的低温で、バット(突合せ)融着接合やEF(電気融着)接合といった融着施工を容易に行うことができる。
【0052】
[6.複層管の製造]
本発明の複層管は、第1のポリオレフィン系樹脂層を構成する材料と、第2のポリオレフィン系樹脂層を構成する材料と、必要に応じてガスバリア層を構成する材料等をそれぞれ用意し、各層の厚さが所定の厚さになるように共押出成形することにより製造することができる。本発明の複層管はポリオレフィン系樹脂製であるため、安価に製造することができる。
【0053】
つまり、本発明は、最内層用のポリオレフィン系樹脂組成物と、外層用のポリオレフィン系樹脂組成物とを共押出することで複層管に製管する工程と、前記製管された複層管の少なくとも内側表面を洗浄する工程と、を含み、
前記最内層用のポリオレフィン系樹脂組成物が最内層、前記外層用のポリオレフィン系樹脂組成物が前記最内層の外側に配されるように積層され、
前記最内層用のポリオレフィン系樹脂組成物の、SEMI F-57に準拠して測定されるカルシウム溶出量が30μg/m2未満であり、
前記最内層(第1のポリオレフィン系樹脂層)と前記外層(第2のポリオレフィン系樹脂層)との厚みの合計に対する、前記最内層の厚みの比が、0.011~0.17である、複層管の製造方法も提供する。
【0054】
最内層用のポリオレフィン系樹脂組成物については、上記「2.第1のポリオレフィン系樹脂層」において「第1のポリオレフィン系樹脂層の材料(ポリオレフィン系樹脂組成物)」として述べた通りである。また、外層用のポリオレフィン系樹脂組成物については、上記「3.第2のポリオレフィン系樹脂層」において「第2のポリオレフィン系樹脂層の材料(ポリオレフィン系樹脂組成物)」として述べた通りである。
【0055】
さらに、第1のポリオレフィン系樹脂層及び第2のポリオレフィン系樹脂層の材料に含まれるポリオレフィン系樹脂は、いずれも、汎用されているチーグラー・ナッタ触媒(トリエチルアルミニウム及び四塩化チタンによる触媒)等の塩素系触媒による重合により合成することができる。
【0056】
それぞれのポリオレフィン系樹脂層におけるカルシウム及び有機成分溶出量の制御は、直接的には、重合後に添加する中和剤の量の調整によって行うことができる。また、中和剤の量は、塩素系触媒の量に影響されるため、カルシウム及び有機成分溶出量の制御は、間接的には、塩素系触媒の量の調整によって行うこともできる。また、それぞれのポリオレフィン系樹脂層における分子量分布(Mw/Mn)の制御は、塩素系触媒の量及び/又は重合プロセス(一段重合又は二段重合以上の多段重合)の調整によって行うことができる。例えば塩素系触媒量を多くすることで、分子量分布(Mw/Mn)が大きくなる傾向がある。また、二段重合以上の多段重合とすることで、分子量分布(Mw/Mn)を大きくすることができる。
【0057】
より具体的には、第1のポリオレフィン系樹脂層の材料に用いられるポリオレフィン系樹脂は、例えば塩素系触媒を当業者によって適宜決定される量で用いて重合(例えば一段重合)し、その後、所定量(例えばカルシウム濃度換算で10ppm以下)となる量の中和剤(例えば、ステアリン酸カルシウム、ハイドロカルサイト等)を加えることにより調製することができる。若しくは、中和剤を加えなくてもよい。また、第1のポリオレフィン系樹脂層に用いられるポリオレフィン系樹脂は、上記の塩素系触媒以外の重合触媒、例えばクロム系触媒又はメタロセン触媒を用いて重合してもよい。この場合、中和剤を加える必要はない。
【0058】
また、第2のポリオレフィン系樹脂層の材料に用いられるポリオレフィン系樹脂は、塩素系触媒を当業者によって適宜決定される量で用いて重合(多段重合、好ましくは二段重合)し、その後、所定量(例えばカルシウム濃度換算で20~2000ppm)となる量の中和剤(例えば、ステアリン酸カルシウム、ハイドロカルサイト等)と、好ましくは酸化防止剤も併せて加えることにより調製することができる。
【実施例
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
(1)複層管の作製
第1のポリオレフィン系樹脂層(第1PO層)用のポリオレフィン(HDPE1)としては、酸化防止剤を含まない、完全無添加の高密度ポリエチレンを用いた。また、この第1PO層用のポリオレフィン中のカルシウム濃度は5.5ppmであり、分子量分布(ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ測定によってポリスチレン換算の重量平均分子量[Mw]と数平均分子量[Mn]とから定まる比率[Mw/Mn]。以下において同様。)は22.2、Mwは4.1×105であり、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフにより測定される標準ポリスチレンを用いた積分分子量分布曲線において、分子量1000以下の成分の割合は0.75%であった。更に、第1のポリオレフィン系樹脂層(第1PO層)の材料のカルシウム溶出量及び有機成分溶出量は、参考例1に示す通りである。
【0061】
第2のポリオレフィン系樹脂層(第2PO層)用のポリオレフィン(HDPE2)としては、酸化防止剤を含む、PE100グレードの高密度ポリエチレンを用いた。また、この第2PO層用のポリオレフィンのカルシウム濃度は1500ppmであり、分子量分布(Mw/Mn)は132.5、Mwは8.4×105であった。更に、第2のポリオレフィン系樹脂層(第2PO層)の材料のカルシウム溶出量及び有機成分溶出量は、参考例2に示す通りである。
【0062】
それぞれの樹脂組成物を、それぞれ表1及び表2に示す厚さとなるように押出成形し、成形された管の内側表面を含む全表面を水で洗浄した。なお、比較例1及び2は単層管として押出成形し、実施例1~5は複層管として共押出成形した。
【0063】
(2)性能評価
(2-1)カルシウム溶出量及び有機成分(TOC)溶出量測定
得られた複層管を200mm長に切断し、内部に超純水を封入し、両端をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)により栓をし、外からワイヤー固定することで試験サンプルを得た。超純水としてはカルシウム濃度及びTOC量が測定器(後述のISP-MS装置及びTOC計)の検出限界以下となるものを使用した。試験サンプルを85℃±5℃の条件で7日間静置して溶出を行った。溶出後、試験サンプル内の水中のカルシウム及びTOCの量を、それぞれ、ISP-MS装置(アジレント・テクノロジー社製、型番Agirent7500cs)及びTOC計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、型番ICS2000)を用いて測定した。なお、カルシウム溶出量の満たすべき基準値は、SEMI F57規格に基づき30μg/m2以下とし、TOC溶出量の満たすべき基準は、30000μg/m2以下とした。結果を表1及び表2に示す。
【0064】
(3-2)強度(内圧クリープ性能)測定
外径60mmの複層管を作製し、300mm長に切断し、両端を金属性の固定治具で封止し、試験サンプルを得た。JISK6761に記載の内圧クリープ試験法に則り、165時間、60℃及び1MPaの条件に供し、破壊に至ったか否かを調べた。破壊に至った場合は×、破壊に至らなかった場合は○と評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
上記表に示すように、カルシウム溶出量30μg/m2未満の材料で構成された配管(参考例1)では超純水へのカルシウム溶出量及びTOC溶出量が少ない一方で、60℃環境下における強度が得られず、カルシウム溶出量30μg/m2以上の材料で構成された配管(参考例2)では60℃環境下における強度は得られている一方で、超純水へのカルシウム溶出量が過多であり、半導体洗浄液の要求品質を満たすことができず、TOC溶出量も本試験の基準を満たさなかった。カルシウム溶出量30μg/m2未満の材料で構成される内層とカルシウム溶出量30μg/m2以上の材料で構成される外層とから構成される複層管では、内層の厚み比率が0.17超である場合(比較例1)は、カルシウム溶出量の顕著な低下が認められた一方で、内圧クリープ測定では133時間で破壊が起こり、60℃環境下における強度が得られなかった。また、内層の厚み比率が0.011未満である場合(比較例2)は、60℃環境下における強度は得られたものの、カルシウムが超純水へ過度に溶出し、半導体洗浄液の要求品質を満たすことができず、TOC溶出量も本試験の基準を満たさなかった。
【0068】
これに対し、内層の厚み比率が0.011~0.17である場合(実施例1~5)は、カルシウム溶出量を半導体洗浄液の要求品質を満たす程度に抑制されるだけでなく、60℃環境下における強度も得られた。
【0069】
このように、実施例1~5、比較例1,2及び参考例1で同じ樹脂組成物を用いたにも関わらず、実施例でカルシウム溶出量が低下する理由としては定かではないが、次のメカニズムが想定される。
【0070】
内層用材料に含まれるカルシウム化合物等の添加剤には、高温に晒されることで析出する特性があり、押出機内で溶融状態にある内層用材料は、特に高温である押出機内壁に接触した部分で、添加物の析出によりカルシウム化合物量が他の部分よりも高くなっている。このようなカルシウム化合物が偏在する状態の内層用材料が高温の金型内に押し出されると、押出機内壁に接触していたカルシウム化合物量が多い部分が複層管の内側表面に露出する。この場合、実施例1~5及び比較例1のように、押し出される内層の厚みが薄いと、カルシウム化合物が多い部分の厚みも薄く、カルシウム化合物がより狭い領域に密に集中するため、複層管の内側表面に露出するカルシウム化合物量は多くなる。このようにして得られた複層管は、内側表面を洗浄すると、露出したカルシウム化合物が洗い流されるため、洗浄後の内側表面及びそれに近い部分(内側表面からのごく浅い部分)ではカルシウム化合物がほとんど存在しない状態となる。これによって、実施例1~5及び比較例1ではカルシウム溶出量が低下したと考えられる。
【0071】
反対に、参考例1のように押し出される内層の厚みが厚いとカルシウム化合物が多い部分の厚みも厚く、当該部分ではカルシウム化合物は実施例1~5及び比較例1の場合よりも疎で存在するため、複層管の内側表面に露出するカルシウム化合物量は実施例1~5の場合よりも少なくなる。このようにして得られた複層管は、内側表面を洗浄すると、露出したカルシウム化合物が洗い流されるものの、洗い流されるカルシウム化合物は実施例1~5の場合よりも少なく、且つ、洗浄後の内側表面に近い部分(内側表面からのごく浅い部分)でも依然としてカルシウム化合物が残存している状態となる。このような残存しているカルシウム化合物が溶出したため、参考例1ではカルシウム溶出量が多くなったと考えられる。
【0072】
さらに、比較例2のように押し出される内層の厚みが薄すぎる場合には、実施例1~5及び比較例1のようなカルシウム化合物が多い部分とそうでない部分とが偏在できるほどの厚みが確保できないため、得られた複層管は、内側表面を洗浄しても、カルシウム化合物がほとんど存在しない部分が生じないと考えられる。あるいは、比較例2でも実施例1~5及び比較例1のようなカルシウム化合物が多い部分とそうでない部分とが偏在できていたと仮定しても、得られた複層管の内側表面の洗浄の結果得られる、カルシウム化合物がほとんど存在しない部分の厚みがあまりに薄く、内側表面に近い部分(内側表面からのごく浅い部分)に存在するカルシウム化合物が徐々に溶出したため、カルシウム溶出量が多くなったとも考えられる。さらに別の考察として、比較例2のように内層の厚みが薄すぎる場合に限っては、外層に存在するカルシウムが層を越えて透過し、内側表面から溶出してしまったとも考えられる。
【0073】
また、実施例1~5では、カルシウム溶出量低下及び強度向上に加えて、TOCの溶出量低下も認められた。これらのカルシウム及びTOC溶出量のレベルに鑑みると、実施例1~5の複層管は、最小線幅65nm以下の半導体素子の湿式処理工程に適した半導体洗浄液の輸送に適していることが認められた。
【符号の説明】
【0074】
100,100a,100b 複層管
210,210a 第1のポリオレフィン系樹脂層
220 第2のポリオレフィン系樹脂層
300 ガスバリア層
t1 第1のポリオレフィン系樹脂層の厚み
t2 第2のポリオレフィン系樹脂層の厚み
図1
図2
図3