(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】オリゴ糖を含む発酵乳の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 9/123 20060101AFI20241211BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20241211BHJP
【FI】
A23C9/123
A23L33/135
(21)【出願番号】P 2021555974
(86)(22)【出願日】2020-10-22
(86)【国際出願番号】 JP2020039662
(87)【国際公開番号】W WO2021095476
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2019204283
(32)【優先日】2019-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中森 真依子
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 紫織
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 大地
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-191358(JP,A)
【文献】特開2009-044996(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110122567(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104397172(CN,A)
【文献】特開2009-089626(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02369777(GB,A)
【文献】中国特許出願公開第102177966(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0082087(US,A1)
【文献】特開2003-274870(JP,A)
【文献】特開2020-141655(JP,A)
【文献】特開2011-036203(JP,A)
【文献】DELGADO-FERNANDEZ, P. et al.,Effect of selected prebiotics on the growth of lactic acid bacteria and physicochemical properties o,International Dairy Journal,2018年10月10日,Vol. 89,pp. 77-85,https://doi.org/10.1016/j.idairyj.2018.09.003
【文献】YU, Jiaojiao et al.,Effects of Fructooligosaccharide and Galactooligosaccharide at Different Concentrations on the Quali,FOOD SCIENCE,2015年,Vol. 36, No. 7,pp. 66-70,doi: 10.7506/spkx1002-6630-201507013
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 9/123
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリゴ糖を含有する培地で乳酸菌を培養する、オリゴ糖および生菌としての乳酸菌を含有する発酵乳の製造方法であって、
オリゴ糖を含有する培地の培養時の浸透圧が800~1200mOsmであり、
オリゴ糖がガラクトオリゴ糖であり、
乳酸菌がオリゴ糖を実質的に資化しないラクトバチルス・カゼイである、
ことを特徴とする
オリゴ糖および生菌としての乳酸菌を含有する発酵乳の製造方法。
【請求項2】
オリゴ糖を含有する培地で乳酸菌を培養した後、更に、オリゴ糖を添加する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
培地中のオリゴ糖が5.0質量%以上である請求項1
または2に記載の発酵乳の製造方法。
【請求項4】
オリゴ糖を含有する培地で乳酸菌を培養すること
により、オリゴ糖および生菌としての乳酸菌を含有する発酵乳における乳酸菌の生残性改善方法
であって、
オリゴ糖を含有する培地の培養時の浸透圧が800~1200mOsmであり、
オリゴ糖がガラクトオリゴ糖であり、
乳酸菌がオリゴ糖を実質的に資化しないラクトバチルス・カゼイである、
ことを特徴とするオリゴ糖および生菌としての乳酸菌を含有する発酵乳における乳酸菌の生残性改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴ糖および生菌としての乳酸菌を含有する発酵乳の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌を含有する発酵乳は、昔から知られており、更に、種々の効果や甘味を付与するため糖類をシロップとして添加することも知られている。
【0003】
例えば、乳酸菌の生菌と、糖類としてオリゴ糖を含有する発酵乳が知られており、このものは腸管到達性に優れることが知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、上記のように乳酸菌の生菌とオリゴ糖を含有する発酵乳は腸管到達性に優れるものの、オリゴ糖をシロップとして添加するとオリゴ糖以外の糖をシロップとして添加した時よりも、長期保存時に高い生菌数を維持することは難しいことがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、オリゴ糖および生菌としての乳酸菌を含有する発酵乳において、長期保存時でも高い生菌数を維持できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、オリゴ糖および生菌としての乳酸菌を含有する発酵乳を製造するにあたり、従来のようにシロップとしてオリゴ糖を添加するのではなく、乳酸菌を培養する際の培地に添加することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明はオリゴ糖および生菌としての乳酸菌を含有する発酵乳の製造方法であって、オリゴ糖を含有する培地で乳酸菌を培養することを特徴とする発酵乳の製造方法である。
【0009】
また、本発明は、上記発酵乳の製造方法で製造される発酵乳である。
【0010】
更に、本発明は、オリゴ糖を含有する培地で乳酸菌を培養することを特徴としたオリゴ糖および生菌としての乳酸菌を含有する発酵乳における乳酸菌の生残性改善方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の発酵乳の製造方法は、乳酸菌の培養をする際の培地にオリゴ糖を含有させるという簡単な方法であるため、特に設備の新設等は行わず、従来の設備をそのまま利用できる。
【0012】
本発明の発酵乳の製造方法で製造される発酵乳は、長期保存時に高い生菌数を維持できるだけでなく、更に風味がよく健康感が増強されたものとなる。
【0013】
特に本発明の発酵乳の製造方法で得られる発酵乳は、乳酸菌によるプロバイオティクスと、オリゴ糖によるプレバイオティクス(腸内の乳酸菌を増やす)を一緒に摂取することができるため、プロバイオティクスが持つおなかの健康を守る働きがさらに高まる、いわゆるシンバイオティクスである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の発酵乳の製造方法(以下、「本発明製法」という)は、オリゴ糖および生菌としての乳酸菌を含有する発酵乳の製造方法であって、オリゴ糖を含有する培地で乳酸菌を培養するものである。
【0015】
本発明製法で用いられるオリゴ糖は、特に限定されるものではなく、例えば、マルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等が挙げられる。本発明で用いられるオリゴ糖は、転移二糖または三糖以上のことを指し、これらのオリゴ糖の中でも、糖鎖にガラクトースを含むものが好ましく、ガラクトオリゴ糖がより好ましく、特に4’-GLを主成分とするガラクトオリゴ糖が好ましい。このようなガラクトオリゴ糖としては、例えば、4’-GLを主成分とするガラクトオリゴ糖を56.4%、その他の糖43%の混合物であるオリゴメイト55N(ヤクルト薬品工業(株)製:Brix糖度75.0~76.0)等が挙げられる。
【0016】
上記オリゴ糖は、後記する培地に、1.0質量%(以下、単に「%」という)以上、好ましくは5.0%以上、より好ましくは5~20%、特に好ましくは5~15%で含有させる。
【0017】
本発明製法に用いられる培地は、乳酸菌が生育可能な培地であれば、特に限定されず、例えば、牛乳、山羊乳、馬乳、羊乳等の生乳や、脱脂粉乳、全粉乳、生クリーム等の乳製品等からなる獣乳培地や各種合成培地を挙げることができる。これらの培地の中でも脱脂粉乳が好ましい。
【0018】
上記培地には、必要に応じて、乳酸菌が資化可能な糖質を含有させてもよい。このような糖質としては、例えば、ぶどう糖、ショ糖、果糖等が挙げられる。培地における乳酸菌が資化可能な糖質の含有量は、特に限定されず、培養に用いる乳酸菌等にあわせて適宜設定すれば良いが、例えば、0.1~20%、好ましくは1~10%である。
【0019】
上記培地には、更に必要により、甜茶エキス、ウーロン茶エキス 、緑茶エキス、紅茶エキス、ジャスミン茶エキス、オレイン酸類等の培養助剤を含有させてもよい。これら培養助剤は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
培養助剤のうち、甜茶エキス、ウーロン茶エキス 、緑茶エキス、紅茶エキス、ジャスミン茶エキスは、市販のものや、特開2001-178413、特開2016-174589等の公報に記載の方法によって得られるものを用いればよい。培地におけるこれらエキスの含有量は、特に限定されないが、例えば、甜茶エキス、ウーロン茶エキスは0.1~2%、好ましくは0.22~0.33%である
【0021】
培養助剤のうち、オレイン酸類は、特に限定されるものではなく、遊離のオレイン酸やオレイン酸の無機塩の他、一般的に乳化剤として用いられているシュガーエステル、グリセリド、ソルビタンエステル、プロピレングリコールエステル等において、その脂肪酸部分がオレイン酸であるものを挙げることができる。また、オレイン酸類を多量に含有する食品素材を使用することも可能である。
【0022】
オレイン酸類の具体例としては、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム等のオレイン酸の塩、グリセリンオレイン酸エステル、ポリグリセリンオレイン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル等のオレイン酸エステルを挙げることができる。これらのオレイン酸類は、1種以上を用いることができる。
【0023】
培地におけるオレイン酸類の含有量は、特に限定されないが、例えば、5~200ppm、好ましくは10~100ppmである。
【0024】
更に、上記培地には、通常の乳酸菌の培養に用いられる培地に添加可能な成分、例えば、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE等のビタミン類や、乳ペプチド等のペプチド、アミノ酸類、カルシウム、マグネシウム等の塩類、糖類等を含有させてもよい。
【0025】
上記培地は、オリゴ糖を含有させ、そのまま乳酸菌の培養をしても問題ないが、発酵性が良好になり培養後の菌数および保存後の菌数の両方が高くなるため、浸透圧を調整することが好ましい。培地の浸透圧は、500~1400mOsm、好ましくは800~1200mOsmとする。浸透圧の調整方法は特に限定されず、例えば、培地に含有させるオリゴ糖や糖類の量を調整する方法等が挙げられる。なお、発酵性が良好になるとは培養後の酸度が24以上かつ菌数が5.0×109cfu/ml以上のことをいう。
【0026】
本発明製法に用いられるオリゴ糖を含有する培地の好ましい一態様としては次のものが挙げられる。
脱脂粉乳 10~20%
ウーロン茶エキス 0.1~2%
オリゴ糖 1~20%
ぶどう糖 0.1~20%
【0027】
本発明製法に用いられる乳酸菌は特に限定されるものではなく、例えば、自然界から見出したもの、寄託機関に寄託されたものや、市販されているもの、更に、これらを変異させたものの何れでもよい。具体的には、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・クレモリス、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・ユーグルティ、ラクトバチルス・デルブルッキィー サブスピーシーズ.ブルガリカス、ラクトバチルス・デルブルッキィー サブスピーシーズ.デルブルッキィー、ラクトバチルス・ジョンソニー等のラクトバチルス属の乳酸菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス等のストレプトコッカス属の乳酸菌、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.ラクチス、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.クレモリス、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ラフィノラクチス等のラクトコッカス属の乳酸菌、エンテロコッカス・フェカーリス、エンテロコッカス・フェシウム等のエンテロコッカス属の乳酸菌等が挙げられる。これら乳酸菌の中でもオリゴ糖を実質的に資化しない乳酸菌が好ましく、例えば、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ストレプトコッカス・サーモフィルス等の乳酸菌が挙げられる。ここでオリゴ糖を実質的に資化しないとは、三糖以上のオリゴ糖を資化する能力を持たないことを言う。資化能については、公知の方法で確認することができ、例えば、オリゴ糖のみを糖源とする培地での培養後、コロニーの有無や培地の濁度を確認する方法等が挙げられる。更に、オリゴ糖を実質的に資化しない乳酸菌の中でもラクトバチルス属の乳酸菌が好ましく、例えば、ラクトバチルス・カゼイ等の乳酸菌が挙げられる。特にラクトバチルス属の乳酸菌の中でも、ラクトバチルス・カゼイ YIT9029(FERM BP-1366、受託日:昭和56年1月12日)等が好ましい。これら乳酸菌は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
上記した受託日の記載されている乳酸菌については、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(〒292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番地8 120号室)に寄託されている。
【0029】
本発明製法において、オリゴ糖を含有する培地で乳酸菌を培養する条件は特に限定されず、使用する乳酸菌等の種類にあわせて適宜決定すればよい。
【0030】
具体的に、オリゴ糖を含有する培地で乳酸菌を培養する場合には、培地中の乳酸菌の菌数が0.5×106cfu/ml程度となるように接種し、これを上記した乳酸菌等の至適培養温度等で、pHが3.5~3.6程度あるいは酸度が24.0程度となるまで培養する条件が挙げられる。このときの培養条件としては、静置、攪拌、振とう、通気等から用いる乳酸菌の培養に適した方法を適宜選択して行えばよい。
【0031】
培養後に得られるオリゴ糖および生菌としての乳酸菌を含有する発酵乳は、そのまま最終製品としてもよいが、更にオリゴ糖を添加してもよい。この場合のオリゴ糖の添加量は特に限定されるものではないが、最終製品に対して1~20%、好ましくは3~10%である。
【0032】
また、上記発酵乳には、更に必要に応じて、糖質、糖アルコール、高甘味度甘味料、増粘剤、乳化剤、ビタミン類、フレーバー類等の食品素材を従来公知の方法で配合することができる。
【0033】
上記食品素材としては、ショ糖、グルコース、フルクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース、麦芽糖等の糖質、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール、アスパルテーム、ソーマチン、スクラロース、アセスルファムK、ステビア等の高甘味度甘味料、寒天、ゼラチン、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、ペクチン、ローカストビーンガム、ジェランガム、カルボキシメチルセルロース、大豆多糖類、アルギン酸プロピレングリコール等の各種増粘(安定)剤、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、クリーム、バター、サワークリームなどの乳脂肪、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸等の酸味料、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE類等の各種ビタミン類、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、マンガン等のミネラル分、ヨーグルト系、ベリー系、オレンジ系、花梨系、シソ系、シトラス系、アップル系、ミント系、グレープ系、アプリコット系、ペア、カスタードクリーム、ピーチ、メロン、バナナ、トロピカル系、ハーブ系、紅茶、コーヒー系等のフレーバー類を挙げることができる。
【0034】
以上説明したオリゴ糖および生菌としての乳酸菌を含有する発酵乳は、乳等省令により定められている発酵乳だけでなく、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料等の飲料、ケフィア、ヨーグルト等の生菌含有タイプのものが包含される。また、その形態としては、例えばハードタイプ、ソフトタイプ、プレーンタイプ、甘味タイプ、フルーツタイプ、ドリンクタイプ、フローズンタイプ等が挙げられる。
【0035】
上記発酵乳は乳酸菌の生残性が改善され、長期保存時に高い生菌数を維持することができる。具体的に、上記発酵乳は、10℃以下で25日間保存した場合に、生残率が95%以上となる。なお、生残率は実施例に記載の方法で測定される値である。
【0036】
また、上記発酵乳は、健康感が増強したものである。ここで健康感のある発酵乳の風味とは、過剰な甘さがなく、かつ乳酸菌の発酵に伴い発生する酸味が適度にあることで、低カロリー、低糖質、発酵乳らしい、といったイメージを付与することができる風味である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
参 考 例 1
従来の発酵乳の製造:
14.7%の脱脂粉乳、9.2%のぶどう糖果糖液糖、0.14%のウーロン茶エキス(YOE-N:(株)ヤクルトマテリアル製)を水に溶解した培地を、100℃で60分間殺菌した。培地にラクトバチルス・カゼイ YIT9029(FERM BP-1366)のスターターを0.5%接種(初発菌数:5.0×106cfu/ml)して、温度を調整しながら酸度が24.3となるまで培養を行った。得られた発酵乳を脱脂粉乳2.9%と安定剤である大豆多糖類((株)不二製油製、SM-YT)2.7%を含む安定剤液と混合して均質化した後、表1に記載のショ糖シロップまたはガラクトオリゴ糖液糖(固形分あたりガラクトオリゴ糖56.4%、その他の糖43%の混合物:オリゴメイト55N:ヤクルト薬品工業(株)製)と混合し、生菌数が1.4×109cfu/ml、酸度が5.8、pHが3.7の乳酸菌飲料を得た(製品1、2)。この乳酸菌飲料を容器に入れ、10℃で保存後、生残率を以下の方法により測定した。それらの結果を表1に記載した。
【0039】
<酸度測定方法>
培養物9gに40gのイオン交換水を加え、pHが8.5となるよう0.1N水酸化ナトリウムで中和滴定したときの滴定値(単位:ml/9g)を酸度とした。
【0040】
<浸透圧測定方法>
アークレイ(株)製 浸透圧分析装置「オズモステーション OM-6060」を用いて測定した。
【0041】
<生菌数測定方法>
BCP培地(栄研化学(株))により測定した。
【0042】
<生残率算出方法>
保存X日目の生残率(%)=(保存X日目の生菌数/保存0日目の生菌数)×100
【0043】
【0044】
発酵後の発酵乳にガラクトオリゴ糖をシロップとして添加した場合には、発酵後の発酵乳にショ糖をシロップとして添加した場合よりも生残率が下がっていた。
【0045】
実 施 例 1
発酵乳の製造:
14.6%の脱脂粉乳、0.14%のウーロン茶エキス(YOE-N:(株)ヤクルトマテリアル製)、19.5%ガラクトオリゴ糖液糖(固形分あたりガラクトオリゴ糖56.4%、その他の糖43%の混合物:オリゴメイト55N:ヤクルト薬品工業(株)製)を水に溶解した培地を、100℃で60分間殺菌した。培地にラクトバチルス・カゼイ YIT9029(FERM BP-1366)のスターターを0.5%接種(初発菌数:5.0×106cfu/ml)して、温度を調整しながら酸度が24.3となるまで培養を行った。得られた発酵乳を脱脂粉乳2.9%と安定剤である大豆多糖類((株)不二製油製、SM-YT)2.7%を含む安定剤液と混合して均質化した後、表2に記載の16.1%のガラクトオリゴ糖液糖を含むシロップに混合し、生菌数が6.3×108cfu/ml、滴定酸度が4.9ml/9g、pHが3.8の乳酸菌飲料を得た(実施製品1)。この乳酸菌飲料を容器に入れ、10℃で保存後、生残率を上記の方法により測定した。それらの結果を表2に記載した。なお、比較対象は、参考例1で製造した製品2とした。
【0046】
【0047】
発酵後の発酵乳にガラクトオリゴ糖をシロップとして添加した場合よりも、培地にガラクトオリゴ糖を添加した方が、生残率が顕著に高くなっていた。
【0048】
実 施 例 2
発酵乳の製造:
14.6%の脱脂粉乳、0.14%のウーロン茶エキス(YOE-N:(株)ヤクルトマテリアル製)、12.8%ガラクトオリゴ糖液糖(固形分あたりガラクトオリゴ糖56.4%、その他の糖43%の混合物:オリゴメイト55N:ヤクルト薬品工業(株)製)を水に溶解した培地を、100℃で60分間殺菌した。培地にラクトバチルス・カゼイ YIT9029(FERM BP-1366)のスターターを0.5%接種(初発菌数:5.0×10cfu/ml)して、温度を調整しながら酸度が24.3となるまで培養を行った。得られた発酵乳を脱脂粉乳2.9%と安定剤である大豆多糖類((株)不二製油製、SM-YT)2.7%を含む安定剤液と混合して均質化した後、表3に記載の18.3%のガラクトオリゴ糖液糖を含むシロップに混合し、生菌数が1.2×109cfu/ml、滴定酸度が5.6、pHが3.7の乳酸菌飲料を得た(実施製品2)。この乳酸菌飲料を容器に入れ、10℃で保存後、生菌数(および生残率)を上記の方法により測定した。それらの結果を表3に記載した。なお、比較対象は、培地に添加するガラクトオリゴ糖を、グルコース2.3%、スクラロース0.014%に代えた製品3、グルコース2.3%、マルチトール10.8%に代えた製品4とした。また、これらの製品について発酵性を以下の評価基準で評価した。その結果も表3に記載した。
【0049】
<発酵性評価基準>
(評価)(内容)
○ :培養後の酸度が24以上かつ生菌数が5.0×109cfu/ml以上
△ :培養後の酸度が24以上かつ生菌数が5.0×109cfu/ml未満
× :培養後の酸度が24未満
【0050】
【0051】
培地の浸透圧を800~1200mOsmの間に調整することにより、発酵性が良好になり、培養後の菌数および保存後の菌数の両方が高くなることがわかった(実施製品2)。また、培地にガラクトオリゴ糖以外のスクラロースやマルチトール等を添加した場合には、培養後の酸度が目標に到達せず発酵性に悪影響を及ぼしたと考えられ、製品の酸度も目標に達しなかった。(製品3および4)。
【0052】
実 施 例 3
発酵乳の製造:
14.6%の脱脂粉乳、0.14%のウーロン茶エキス(YOE-N:(株)ヤクルトマテリアル製)、12.8%ガラクトオリゴ糖液糖(固形分あたりガラクトオリゴ糖56.4%、その他の糖43%の混合物:オリゴメイト55N:ヤクルト薬品工業(株)製)を水に溶解した培地を、100℃で60分間殺菌した。培地にラクトバチルス・カゼイ YIT9029(FERM BP-1366)のスターターを0.5%接種(初発菌数:5.0×106cfu/ml)して、温度を調整しながら酸度が24.3となるまで培養を行った。得られた発酵乳を脱脂粉乳2.9%と安定剤である大豆多糖類((株)不二製油製、SM-YT)2.7%を含む安定剤液と混合して均質化した後、表4に記載の0.02%のステビアと18.3%のガラクトオリゴ糖液糖を含むシロップに混合し、生菌数が1.2×109cfu/ml、滴定酸度が5.2、pHが3.8の乳酸菌飲料を得た(実施製品3)。この乳酸菌飲料を容器に入れ、10℃で保存後、生菌数(および生残率)を上記の方法により測定した。それらの結果を表4に記載した。なお、比較対象は、培地に添加するガラクトオリゴ糖を、ぶどう糖果糖液糖9.2%に代えた製品5とした。また、実施製品3および製品5は製品酸度を5.2、相対甘味度を110に統一した。ここで、相対甘味度とは、ショ糖10w/v%水溶液の甘味の程度を100としたときの相対値である。更に、これらの製品について甘みと酸味、健康感を以下の評価基準で評価し、更に自由描写で風味について評価した。その結果も表4に記載した。
【0053】
<甘みと酸味の評価基準>
(評点)(内容)
1 : 弱い
2 : やや弱い
3 : ちょうど良い
4 : やや強い
5 : 強い
【0054】
<健康感の評価基準>
(評点)(内容)
1 : ない
2 : あまりない
3 : どちらでもない
4 : ややある
5 : ある
【0055】
【0056】
通常、発酵乳では相対的に甘味より酸味が強くなると嗜好性の低下につながるが、甘みが強くなりすぎると却って発酵乳や乳酸菌飲料に求められるすっきりとした爽やかな飲み口や健康的な風味イメージが損なわれる。製品5はぶどう糖果糖液糖のしっかりとした甘味質が却って高カロリーなイメージにつながり健康感を損ねているが、実施製品3は糖原料をガラクトオリゴ糖液糖のみとすることで過剰な甘みをつけることなく、酸味とのバランスが取れたすっきりとした飲み口であり、健康感につながっている。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、オリゴ糖および生菌としての乳酸菌を含有する発酵乳において、長期保存時でも高い生菌数を維持できる発酵乳の製造に利用できる。