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特許7602492データプリコーディングを使用するマルチコアファイバデータ伝送のための方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】データプリコーディングを使用するマルチコアファイバデータ伝送のための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   H04J 14/00 20060101AFI20241211BHJP
   H04B 10/516 20130101ALI20241211BHJP
   H04B 10/69 20130101ALI20241211BHJP
【FI】
H04J14/00
H04B10/516
H04B10/69
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021574805
(86)(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-22
(86)【国際出願番号】 EP2020067408
(87)【国際公開番号】W WO2021008821
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】19290058.7
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510229496
【氏名又は名称】アンスティテュ・ミーヌ・テレコム
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アブーセイフ,アクラム
(72)【発明者】
【氏名】レカヤ,ガーヤ
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0314410(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03273624(EP,A1)
【文献】ABOUSEIF, A. et al.,Core Mode Scramblers for ML-detection based Multi-Core Fibers Transmission,Asia Communications and Photonics Conference (ACP),OSA,2017年,M1B.5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/00-10/90
H04J 14/00-14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ伝送チャネル(13)上で情報シンボルのベクトルを伝送するための光送信機(11)であって、前記ファイバ伝送チャネルは、マルチコアファイバを含み、前記情報シンボルのベクトルは、2つ以上のコアに従って前記マルチコアファイバに沿って伝播する光信号によって搬送され、前記光送信機(11)は、前記マルチコアファイバに関連する1つ又は複数のファイバパラメータに応じてプリコーディング行列を特定し、且つ前記情報シンボルのベクトルに前記プリコーディング行列を乗じることによって前記情報シンボルのベクトルをプリコードするように構成されるプリコーダ(87)を含み、
前記プリコーダ(87)は、前記ファイバパラメータ及び少なくとも1つの軸ずれ損失値に応じて、前記2つ以上のコアの各々に関連するコア損失値を特定するように構成され、各コア損失値は、平均値及び分散値によって定義される対数正規分布の確率変数であり、前記平均値及び分散値は、前記ファイバパラメータ及び前記少なくとも1つの軸ずれ損失値に依存する、光送信機(11)。
【請求項2】
前記プリコーダ(87)は、
- 正規化係数を、前記2つ以上のコアの数と、前記2つ以上のコアに関連する前記コア損失値の和との間の比として特定すること、
- 第一のユニタリ行列及び第二のユニタリ行列をランダムに特定すること、
- 対角成分を含む対角行列を特定することであって、前記対角成分は、前記2つ以上のコアに関連する前記コア損失値を定義する前記確率変数の前記平均値と等しい、特定すること、
- 補助行列を、前記正規化係数の平方根と、前記第一のユニタリ行列と、前記対角行列と、前記第二のユニタリ行列との間の積として特定すること
を行うように構成され、前記プリコーダは、前記補助行列の逆行列として前記プリコーディング行列を特定するように構成される、請求項に記載の光送信機。
【請求項3】
前記1つ又は複数のファイバパラメータは、ファイバ長さ、前記2つ以上のコアの数に対応するコアの数、少なくとも1つのクロストーク係数及び少なくとも1つの結合係数のうちの少なくとも1つのパラメータを含み、クロストーク係数は、前記マルチコアファイバ内の2つのコア間のクロストークを表し、結合係数は、前記マルチコアファイバ内の2つのコア間の結合を表す、請求項1又は2に記載の光送信機(11)。
【請求項4】
前記軸ずれ損失値は、縦方向軸ずれ、横方向調心及び角調心を含む群において選択される前記マルチコアファイバの軸ずれを表す、請求項の何れか一項に記載の光送信機(11)。
【請求項5】
前記プリコーダ(87)は、各コアに関連するコア損失値の各平均値を第一の値と第二の値との間の積として特定するように構成され、前記第一の値は、前記各コアに関連する全軸ずれ損失を表す対数正規確率変数の平均に対応し、前記第二の値は、前記各コアに関連する全クロストーク係数に対応し、前記プリコーダ(87)は、所与のコアに関連する前記全クロストーク係数を、前記所与のコアと、前記マルチコアファイバの、前記所与のコアと異なる前記コアとの間の前記クロストークを表す前記クロストーク係数から特定するように構成され、前記プリコーダ(87)は、前記マルチコアファイバの各コアに関連する各コア損失値の前記分散値を、前記各コアに関連する全クロストーク係数の二乗と、前記各コアに関連する前記全軸ずれ損失を表す前記対数正規確率変数の分散に対応する第三の値との間の積として特定するようにさらに構成される、請求項又はに記載の光送信機(11)。
【請求項6】
- 少なくとも1つの誤り補正コードを適用することにより、データをコードワードベクトルに符号化するように構成される誤り補正コードエンコーダ(81)、
- 変調スキームを前記コードワードベクトルに適用することにより、前記情報シンボルのベクトルを特定するように構成される変調器(85)
をさらに含む、請求項1~の何れか一項に記載の光送信機(11)。
【請求項7】
請求項1~の何れか一項に記載の光送信機(11)によって送信される、データを搬送する前記光信号を受信及び復号するように構成される光受信機(15)。
【請求項8】
マルチコアファイバで製作された光ファイバ伝送チャネル上で情報シンボルのベクトルを伝送する方法であって、前記情報シンボルのベクトルを搬送する光信号は、2つ以上のコアに従って前記マルチコアファイバに沿って伝播し、前記方法は、前記マルチコアファイバに関連する1つ又は複数のファイバパラメータに応じてプリコーディング行列を特定すること(1003)と、前記情報シンボルのベクトルに前記プリコーディング行列を乗じることによって前記情報シンボルのベクトルをプリコードすること(1003)とを含み、
前記2つ以上のコアの各々に関連するコア損失値をファイバパラメータ及び少なくとも1つの軸ずれ損失値に応じて特定すること(1103)をさらに含み、各コア損失値は、平均値及び分散値によって定義される対数正規分布の確率変数であり、前記平均値及び分散値は、前記ファイバパラメータ及び前記少なくとも1つの軸ずれ損失値に依存する、方法。
【請求項9】
- 正規化係数を、前記2つ以上のコアの数と、前記2つ以上のコアに関連する前記コア損失値の和との間の比として特定すること(1105)、
- 第一のユニタリ行列及び第二のユニタリ行列をランダムに特定すること(1107)、
- 対角成分を含む対角行列を特定すること(1109)であって、前記対角成分は、前記2つ以上のコアに関連する前記コア損失値を定義する前記確率変数の前記平均値と等しい、特定すること(1109)、
- 補助行列を、前記正規化係数と、前記第一のユニタリ行列と、前記対角行列と、前記第二のユニタリ行列との間の積として特定すること(1111)、
- 前記プリコーディング行列を前記補助行列の逆行列として特定すること(1113)
をさらに含む、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、光通信に関し、特にマルチコアファイバ内での線形プリコーディングのための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、データ伝送システムにおいて広く使用されている。
【0003】
光ファイバは、光スペクトル内の電磁波を案内する光導波路を構成する。光ファイバは、透明なコアを含み、それは、より屈折率の低い透明なクラッド材料で取り囲まれている。光は、内面反射の連続に従ってファイバ内を伝播する。光は、データを搬送し、ワイヤベース又は無線通信システムの場合より高いバンド幅で長距離にわたる伝送を可能にする。
【0004】
光通信ネットワーク内のデータトラフィックの量は、インターネットトラフィックの増大に伴って指数関数的に増大してきた。シングルモードファイバを用いた光通信システムの伝送能力及び到達範囲は、波長分割多重化(WDM)、コヒーレント検波及び偏波分割多重化(PDM)の実践的な使用以来、信号処理の進化と共に拡大している。
【0005】
しかしながら、コア半径が小さく、単一の伝播モードに沿って波が伝播する従来のシングルモードファイバを用いるWDM-PDMシステムは、光伝送システムの非線形容量限界にほぼ達しており、より高いネットワークバンド幅に対する需要の急増に対応することができない。
【0006】
マルチモードファイバ(MMF)又はマルチコアファイバ(MCF)を用いて行われる空間分割多重化(SDM)は、現行の光伝送システムの容量限界を克服して、ネットワークバンド幅に対する需要の急増に追いつくための最後の自由度である。空間分割多重化は、ファイバ内の空間を、複数の独立した空間チャネルを創出するための多重化次元として利用するものであり、そのチャネル上で独立したデータストリームを多重化し、同一ファイバ内で搬送することができる。SDMを使用することで、容量は、独立した空間チャネルの数を乗じたものだけ増やすことができ、したがって光ファイバ伝送リンクの到達範囲及び伝送容量の両方が増大する。
【0007】
マルチモードファイバにより、多くの空間伝播モードによる光の伝播が可能となる。マルチモードファイバのコアは、複数の空間モードの伝播が可能となるように拡大される。光がコアを通る際に発生する反射の回数が増え、所与の時間スロットでより多くのデータを伝播する能力が創出される。
【0008】
マルチコアファイバは、1つのファイバ内に同じ又は異なる複数のコアが統合されており、各コアは、シングルモード又はマルチモードである。マルチコアファイバは、非結合型及び結合型MCFに分類することができる。
【0009】
非結合型MCFでは、各コアは、長距離伝送用途のためにコア間のクロストークを十分に小さく保持して、各コアからの信号を別々に検出する(すなわち受信機において多入力多出力等化が不要である)ように適切に配置しなければならない。幾つかのタイプの非結合型マルチコアファイバは、異なるコア配置に従って設計される。これらの設計は、「ホモジニアスMCF」及び複数の同じコアを組み込んだ「トレンチ型ホモジニアスMCF」と、幾つかの種類の複数のコアを組み込んだヘテロジニアスMCFとを含む。
【0010】
結合型MCFでは、幾つかのコアは、それらが相互に強く且つ/又は弱く結合するように設置される。単一の空間モード及び複数の空間モードに対応する結合型MCFは、高出力のファイバレーザ用途に使用することができる。
【0011】
マルチコアファイバは、軸ずれ損失及びクロストーク効果による幾つかの障害によって影響を受ける。クロストーク及び軸ずれ損失は、コア依存損失(CDL)を誘導する。CDLは、マルチモードファイバに影響を与えるMDLと同様の障害効果である。
【0012】
軸ずれ損失は、光ファイバのスプライス及び接続部における欠陥によって生じる。軸ずれ損失には、3つのタイプがあり、これは、縦方向変位損失、横方向変位損失及び角変位損失を含む。
【0013】
クロストーク効果は、1つのクラッド内に複数のコアがあることに起因し、隣接するコア間にクロストークが発生する。クロストークは、コア間距離が短いほど増大し、光信号品質及びマルチコアファイバの内部に組み込むことができるコアの数の点において容量の主な限界を表す。さらに、クロストーク効果が低ければ、光受信機での復号の複雑さを軽減することができ、なぜなら、低いクロストーク値には多入力多出力等化が不要であるからである。
【0014】
光ファイバの製造中、クロストーク効果を削減するために光学的解決策を適用することができる。
【0015】
第一の方法は、コア間距離を長くすることを含む。この方法は、クロストーク効果を軽減することができる。しかしながら、それにより、クラッドの直径からファイバの内部のコアの数が限定され、その結果、コアの密度及び容量が低下する。
【0016】
第二の方法は、トレンチ型ホモジニアスマルチコアファイバの使用によるトレンチアシストに基づく。トレンチアシストは、各コアを低屈折率トレント層で取り囲むことによって結合係数を低下させる。トレンチ型ファイバ設計のクロストークは、コア間距離に依存しない。
【0017】
第三の解決策は、ヘテロジニアスMCFであり、この場合、隣接コア間に固有屈折率差が導入され、それによりクロストーク効果の軽減が可能となる。
【0018】
さらに、光学的解決策は、光ファイバ伝送チャネルの設計中に使用することができ、これは、マルチコアファイバの異なるコア内の損失を平均化するコアスクランブラを取り付けて、平均コア依存損失を低減させることによる。既存のスクランブリング方式は、「A.Abouseif,G.R.Ben-Othman,and Y.Jaouen,Core Mode Scramblers for ML-detection based Multi-Core Fibers Transmission,in Asia Communications and Photonics Conference,OSA Technical Degest,2017」で開示されているランダムコアスクランブリング及び「A.Abouseif,G.Rekaya-Ben Othman and Y.Jaouen,“Deterministic Core Scrambling for Multi-Core Fiber Transmission”,OECC,Jeju Island,Korea,July 2018」で開示されている決定論的コアスクランブリングを含む。
【0019】
既存の光学的解決策により、マルチコアファイバのクロストークの低減が可能であるものの、これらは、コア依存損失効果を最適に軽減することができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【文献】A.Abouseif,G.R.Ben-Othman,and Y.Jaouen,Core Mode Scramblers for ML-detection based Multi-Core Fibers Transmission,in Asia Communications and Photonics Conference,OSA Technical Degest,2017
【文献】A.Abouseif,G.Rekaya-Ben Othman and Y.Jaouen,“Deterministic Core Scrambling for Multi-Core Fiber Transmission”,OECC,Jeju Island,Korea,July 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、マルチコアファイバによる伝送システムの性能を向上させ、コア依存損失の効果を低減させるための、複雑性が低い解決策を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
これら及び他の問題に対処するために、マルチコアファイバで製作された光ファイバ伝送チャネル上で情報シンボルのベクトルを伝送するための光送信機であって、情報シンボルのベクトルを搬送する光信号は、2つ以上のコアに従ってマルチコアファイバに沿って伝播し、光送信機は、マルチコアファイバに関連する1つ又は複数のファイバパラメータに応じてプリコーディング行列を特定し、且つ情報シンボルのベクトルにプリコーディング行列を乗じることによって情報シンボルのベクトルをプリコードするように構成されるプリコーダを含む、光送信機が提供される。
【0023】
幾つかの実施形態によれば、プリコーダは、ファイバパラメータ及び少なくとも1つの軸ずれ損失値に応じて、2つ以上のコアの各々に関連するコア損失値を特定するように構成され得、各コア損失値は、平均値及び分散値によって定義される対数正規分布の確率変数であり、平均値及び分散値は、ファイバパラメータ及び少なくとも1つの軸ずれ損失値に依存し、プリコーダは、
- 正規化係数を、2つ以上のコアの数と、2つ以上のコアに関連するコア損失値の和との間の比として特定すること、
- 第一のユニタリ行列及び第二のユニタリ行列をランダムに特定すること、
- 対角成分を含む対角行列を特定することであって、対角成分は、2つ以上のコアに関連するコア損失値を定義する確率変数の平均値と等しい、特定すること、
- 補助行列を、正規化係数の平方根と、第一のユニタリ行列と、対角行列と、第二のユニタリ行列との間の積として特定すること、
- 補助行列の逆行列としてプリコーディング行列を特定すること
を行うように構成される。
【0024】
幾つかの実施形態によれば、ファイバパラメータは、ファイバ長さ、前記2つ以上のコアの数に対応するコアの数、クロストーク係数及び結合係数を含み得、各クロストーク係数は、マルチコアファイバ内の2つのコア間のクロストークを表し、各結合係数は、マルチコアファイバ内の2つのコア間の結合を表す。
【0025】
幾つかの実施形態によれば、軸ずれ損失値は、縦方向軸ずれ、横方向調心及び角調心を含む群において選択されるマルチコアファイバの軸ずれを表し得る。
【0026】
幾つかの実施形態によれば、プリコーダは、各コアに関連するコア損失値の各平均値を第一の値と第二の値との間の積として特定するように構成され得、第一の値は、各コアに関連する全軸ずれ損失を表す対数正規確率変数の平均に対応し、第二の値は、各コアに関連する全クロストーク係数に対応し、プリコーダは、所与のコアに関連する全クロストーク係数を、所与のコアと、マルチコアファイバの、所与のコアと異なるコアとの間のクロストークを表すクロストーク係数から特定するように構成され、プリコーダは、マルチコアファイバの各コアに関連する各コア損失値の分散値を、前記各コアに関連する全クロストーク係数の二乗と、各コアに関連する全軸ずれ損失を表す前記対数正規確率変数の分散に対応する第三の値との間の積として特定するようにさらに構成される。
【0027】
幾つかの実施形態によれば、光送信機は、
- 少なくとも1つの誤り補正コードを適用することにより、データをコードワードベクトルに符号化するように構成される誤り補正コードエンコーダ、及び
- 変調スキームをコードワードベクトルに適用することにより、情報シンボルのベクトルを特定するように構成される変調器
をさらに含み得る。
【0028】
上記の何れかの特徴による光送信機によって送信される、データを搬送する光信号を受信及び復号するように構成される光受信機も提供される。
【0029】
マルチコアファイバで製作された光ファイバ伝送チャネル上で情報シンボルのベクトルを伝送する方法であって、情報シンボルのベクトルを搬送する光信号は、2つ以上のコアに従ってマルチコアファイバに沿って伝播し、方法は、マルチコアファイバに関連する1つ又は複数のファイバパラメータに応じてプリコーディング行列を特定することと、情報シンボルのベクトルに、特定されたプリコーディング行列を乗じることによって情報シンボルのベクトルをプリコードすることとを含む、方法も提供される。
【0030】
幾つかの実施形態によれば、方法は、2つ以上のコアの各々に関連するコア損失値をファイバパラメータ及び少なくとも1つの軸ずれ損失値に応じて特定することをさらに含み得、各コア損失値は、平均値及び分散値によって定義される対数正規分布の確率変数であり、平均値及び分散値は、ファイバパラメータ及び少なくとも1つの軸ずれ損失値に依存し、方法は、
- 正規化係数を、2つ以上のコアの数と、2つ以上のコアに関連するコア損失値の和との間の比として特定すること、
- 第一のユニタリ行列及び第二のユニタリ行列をランダムに特定すること、
- 対角成分を含む対角行列を特定することであって、対角成分は、2つ以上のコアに関連するコア損失値を定義する確率変数の平均値と等しい、特定すること、
- 補助行列を、正規化係数と、第一のユニタリ行列と、対角行列と、第二のユニタリ行列との間の積として特定すること、
- プリコーディング行列を前記補助行列の逆行列として特定すること
をさらに含む。
【0031】
有利には、本発明の実施形態による線形プリコーディング方式により、フィードバックリンクを介した光送信機においてチャネル状態情報を一切必要とすることなく、送信された情報シンボルを、低減された複雑性でプリコードすることが可能となる。
【0032】
有利には、本発明の実施形態による線形事前補償技術により、復号の誤り性能を損なうことなく、光受信機における復号動作を軽減することができる。
【0033】
有利には、本発明の各種の実施形態による光送信装置及び方法により、マルチコアファイバ伝送システムの性能を向上させることができる。
【0034】
本発明のさらなる利点は、図面及び詳細な説明を考察することによって当業者に明確となるであろう。
【0035】
本明細書に含められ、その一部を構成する添付の図面は、本発明の各種の実施形態を示す。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】光通信システムにおける本発明の例示的な応用の概略図を示す。
図2】例示的なマルチコアファイバの断面図を示す。
図3】ファイバ軸の周囲にリング状に配置された12のコアを含む12コアホモジニアスマルチコアファイバと、中心コアを含む2次元グリッドに配置された19のコアを含む19コアホモジニアスファイバとを用いたマルチコアファイバ断面図を描写する。
図4】マルチコアファイバが12コアホモジニアストレンチ型マルチコアファイバである、幾つかの実施形態によるマルチコアファイバの断面図を描写する。
図5】マルチコアファイバが、ファイバ軸の周囲にリング状に配置された12のコアを含む12コアヘテロジニアスマルチコアファイバである、幾つかの実施形態によるマルチコアファイバの断面図を示す。
図6】7つのコアを含む7コアヘテロジニアスファイバと、3つのコア群を含み、異なる群の各々のコアが異なるタイプを有する19コアヘテロジニアスファイバとを用いたマルチコアファイバのコア断面図を示す。
図7】幾つかの実施形態による、ファイバ軸の周囲にリング状に配置された12のコアを含む12コアヘテロジニアストレンチ型マルチコアファイバである第一のマルチコアファイバと、7コアヘテロジニアストレンチ型とを用いたマルチコアファイバの断面図を示す。
図8】線形プリコーディングが実装される本発明の幾つかの実施形態による光送信機の構造を図解するブロック図である。
図9】本発明の幾つかの実施形態による光受信機の構造を図解するブロック図である。
図10】本発明の幾つかの実施形態によるマルチコアファイバ光伝送システムにおいて情報シンボルのベクトルを伝送する方法を図解するフローチャートである。
図11】本発明の幾つかの実施形態によるプリコーディング行列の特定ステップを図解するフローチャートである。
図12】本発明の幾つかの実施形態による、7コアヘテロジニアスファイバに関する線形プリコーディング後の送信信号の固有値を示す。
図13】本発明の幾つかの実施形態による、7コアヘテロジニアスファイバで得られる信号ノイズ比に応じたビット誤り率性能を示す。
図14】本発明の幾つかの実施形態による、12コアヘテロジニアスファイバで得られる信号ノイズ比に応じたビット誤り率性能を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の実施形態は、フィードバックループ及び光送信機における完全なチャネル状態情報を必要とすることなく、光ファイバ伝送チャネルを事前補償する線形プリコーディング方式を実装する光送信装置及び方法を提供する。
【0038】
本発明の各種の実施形態による装置及び方法は、様々な用途に応用される光ファイバ伝送システムにおいて実装され得る。例示的な用途は、光ファイバ通信、航空宇宙科学及び航空電子工学、データ保存、自動車業界、画像形成、輸送、検出及び光工学を含むが、これらに限定されない。
【0039】
例示的な通信用途は、デスクトップコンピュータ、端末及び全国ネットワークを含む。光ファイバは、短距離(1メートル未満)又は長距離(例えば、大都市ネットワーク、広域ネットワーク、渡洋リンクでの通信の場合の最大数百又は数千キロメートル)にわたって光及びしたがって情報/データを伝送するために使用され得る。このような用途では、音声(例えば、電話において)、データ(例えば、ファイバトゥザホームと呼ばれる家庭及びオフィスへのデータ供給)、画像若しくはビデオ(例えば、インターネットトラフィックの伝送)又はネットワーク接続(例えば、スイッチ若しくはルータの接続及び高速ローカルエリアネットワークのデータセンタ接続性)の伝送が関わり得る。
【0040】
航空宇宙科学及び航空電子工学産業の分野における本発明の例示的な実装形態では、光ファイバ系製品が軍事及び/又は商業用途に用いられ得る。光ファイバ技術及びその製品は、このような用途では、苛烈な環境及び条件での厳しい試験及び認証要件を満たすように設計される。
【0041】
データ保存用途における本発明の例示的な実装形態において、光ファイバは、ネットワーク内の複数のデバイス間のリンク及び/又はストレージシステムの一部としてのデータストレージ設備で使用され得る。光ファイバ接続性は、長距離でも非常に高いバンド幅を提供する。
【0042】
自動車産業用途における本発明の他の例示的な応用では、光ファイバ技術は、例えば、安全及び制御機器及びシステムのための投光/照明、通信及び検出に使用され得る。
【0043】
画像形成用途(例えば、遠隔医療)への本発明のまた別の例示的応用では、光ファイバの光伝送特性は、ターゲット又は対象エリアの画像を分析及び/又は解釈のために画像ビューエンドに送信するために使用され得る。
【0044】
本発明は、輸送システムでも使用され得、その場合、知的信号、自動料金所及び変更可能な情報板を備えるスマートハイウェイは、光ファイバに基づくテレメトリシステムを使用し得る。
【0045】
本発明は、検出用途でさらに使用され得、この場合、光ファイバセンサは、温度、変位、振動、圧力、加速度、回転及び化学種の濃度等のある数量を検出するために使用され得る。光ファイバセンサの例示的な用途は、高電圧及び高出力マシン又はマイクロ波における検出、遠隔モニタ(例えば、航空機の翼、風力タービン、橋梁、パイプラインのモニタ)のための建物内の分散的温度及び歪み計測、石油探査用途におけるダウンホール検出を含む。
【0046】
光工学への本発明の他の用途では、光ファイバは、干渉計及びファイバレーザ等、光ファイバ機器のコンポーネントを接続するために使用され得る。このような用途では、光ファイバは、電子機器内で電気ワイヤが果たすものと同様の役割を果たす。
【0047】
特定の実施形態の以下の説明は、あくまでも例示を目的として通信用途に関して行う。しかしながら、当業者であれば、本発明の各種の実施形態を様々な用途のための他の種類のシステムにも応用し得ることを容易に理解することができるであろう。
【0048】
図1は、光ファイバ伝送に基づく光伝送システム100(「光通信システム」とも呼ばれる)における本発明の例示的な実装形態を示す。光伝送システム100は、少なくとも1つの光送信装置11(以下で「光送信機」と呼ぶ)を含み、これは、入力データシーケンスを光信号に符号化して、この光信号を、その光をある距離にわたって伝送するように構成される少なくとも1つの光受信装置15(以下で「光受信機」と呼ぶ)に光ファイバ伝送チャネル13(以下で「光ファイバリンク」と呼ぶ)を通して光学的に送信するように構成される。
【0049】
光通信システム100は、システムの動作性を制御するためのコンピュータ及び/又はソフトウェアを含み得る。
【0050】
光ファイバ伝送チャネル13は、複数のファイバセクション131(「ファイバスパン」又は「ファイバスライス」とも呼ぶ)の連結体を含むマルチコアファイバを含む。ファイバセクション131は、調心され得るか又は軸ずれがあり得る。
【0051】
マルチコアファイバは、2つ以上のコア、2つ以上のコアを取り囲むクラッド及び被覆からなる円筒形の非線形導波路である。各コアは、屈折率を有する。光送信機11によって送信された光信号は、多重化され、マルチコアファイバの各コアにおいて、コアの屈折率とクラッドの屈折率との違いによる全内反射を通して案内される。
【0052】
マルチコアファイバが非結合型ファイバである幾つかの実施形態において、マルチコアファイバの各コアは、別々の導波路として機能し、それにより、光信号は、コアを通して独立して伝播すると考えることができる。
【0053】
マルチコアファイバが結合型ファイバである幾つかの実施形態において、2つのコア間の距離が小さく、異なるコアに沿って伝播する光信号が重複する場合、幾つかの結合部がコア間に存在し得る。
【0054】
光ファイバは、典型的には、長距離伝送のためにガラス(例えば、シリカ、石英ガラス、フッ化ガラス)で製作され得る。短距離伝送の場合、光ファイバは、プラスチック光ファイバであり得る。
【0055】
マルチコアファイバは、幾何学的パラメータ及び光学的パラメータによって特徴付けられ得る。幾何学的パラメータは、クラッド径、コア間距離及びコア-外側クラッド間距離を含み得る。光学的パラメータは、波長、マルチコアファイバの異なるコア間のクロストークを表すクロストーク係数及び各コアとクラッドとの間の屈折率の差を含み得る。
【0056】
幾つかの実施形態において、光ファイバ通信システム100は、
- 短距離伝送に適した800~900nmの波長ウィンドウ、
- 例えば、長距離伝送に使用される約1.3μmの波長ウィンドウ、
- シリカファイバの損失がこの波長領域で最も低いため、より多く使用される約1.5μmの波長ウィンドウ
を含む群において選択される領域に対応する波長領域で動作し得る。
【0057】
図2は、6コアファイバの断面図を描写し、Dcladは、クラッド径を表し、dc-cは、コア間距離を指定し、dc-Cladは、コア-外側クラッド間距離を表す。
【0058】
幾つかの実施形態において、マルチコアファイバ内のコアは、ファイバ軸の周囲にリング状に、例えば六角形の辺上に配置され得る。他の実施形態では、コアは、ある2次元グリッドに配置され得る。
【0059】
実施形態において、マルチコアファイバは、同じタイプの2つ以上のコアを含むホモジニアスマルチコアファイバであり得る。
【0060】
図3は、2つの例示的なホモジニアスマルチコアファイバ、すなわちファイバ軸の周囲にリング状に配置された同じタイプの12のコアを含む第一の12コアファイバと、六角形の辺上に配置された18のコア及び1つの中心コアを含む第二の19コアファイバとの2つの断面図を描写する。
【0061】
実施形態において、マルチコアファイバは、ホモジニアストレンチ型マルチコアファイバであり得、各コアは、低屈折率のトレンチ層によって取り囲まれる。
【0062】
図4は、同じタイプの12のコアを含む例示的なトレンチ型ホモジニアスマルチコアファイバの断面図を示す。
【0063】
他の実施形態では、マルチコアファイバは、複数のコアを含み、そのうちの少なくとも2つのコアが異なるタイプであるヘテロジニアスマルチコアファイバであり得る。
【0064】
図5は、12のコアを含み、そのうちの2i+1番(ここで、i=0,...,5である)のコアが同じであり、2i+2番(ここで、i=0,...,5である)のコアが同じであり、2i+1番のコアは、i=0,...,5の場合の2i+2番のコアのコアタイプと異なるコアタイプである例示的なヘテロジニアスマルチコアファイバの断面図を示す。このようなヘテロジニアスマルチコアファイバ内の各コアは、2つの隣接コアを有し、各コアは、その隣接コアのコアタイプと異なるコアタイプを有する。
【0065】
図6は、2つの例示的な7コアファイバ及び19コアヘテロジニアスファイバの断面を示す。7コアファイバは、六角形の辺上の1~6の番号が付けられた6つのコア及び7の番号が付けられた中心コアを含む。このような7コアファイバは、3種類の異なるコアタイプを含み、中心コアは、六角形の辺上のコアのタイプと異なるコアタイプを有し、六角形の辺上の配置された各コアは、その隣接コアのコアタイプと異なるコアタイプを有する。19コアファイバは、3種類の異なるコアタイプを含み、中心コアは、六角形の辺上のコアのタイプと異なるコアタイプを有する。
【0066】
実施形態において、マルチコアファイバは、トレンチ型ヘテロジニアスマルチコアファイバであり得る。
【0067】
図7は、2つの例示的な12コア及び7コアトレンチ型ヘテロジニアスマルチコアファイバの2つの断面図を描写する。
【0068】
幾つかの実施形態において、マルチコアファイバの各コアは、1つの空間伝播モードを含むシングルモードであり得る。
【0069】
幾つかの実施形態において、マルチコアファイバは、2つ以上の空間伝播モードを含む少なくとも1つのマルチモードコアを含み得る。
【0070】
光ファイバ伝送チャネル13は、ファイバ内に挿入された1つ又は複数の増幅器132をさらに含み得、これは、光パワーを再増幅し、ファイバ減衰を補償して、光信号の再生成を不要とし、それにより、十分な信号パワーが、光信号を定期的に増幅する必要があるような長距離にわたって保持され得るようにするためのものである。
【0071】
増幅器132は、ファイバスライス131の各ペア間に挿入され得る。特に光ファイバ伝送チャネルの端に挿入された増幅器132は、受信機15における信号検出前に信号増幅を行う。
【0072】
各増幅器132は、マルチコアファイバ内の複数のコアに対応する光信号を同時に増幅するように構成され得る。
【0073】
幾つかの実施形態において、増幅器132は、二重のシングルコアファイバ増幅器で構成され得る。
【0074】
他の実施形態において、増幅器132は、光マルチコア増幅器であり得る。例示的な光増幅器は、マルチコアエルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA)、例えばコア励起型EDFA及びクラッド励起型EDFA増幅器を含む。コア励起型及びクラッド励起型増幅器は、1つ又は複数の励起ダイオードを使用し得る。特に、EDFA増幅器では、各コアに1つの励起ダイオードが使用され得る。
【0075】
幾つかの実施形態において、光信号増幅は、非線形誘導ラマン散乱効果を用いて分散的に実行され得る。このような実施形態では、ファイバは、伝送リンク及び増幅媒体の両方として使用される。
【0076】
他の実施形態において、信号増幅は、規則的に配置された光増幅器及び誘導ラマン散乱効果の併用によって実現され得る。
【0077】
また別の実施形態において、信号増幅は、電気ドメインにおいて光/電気変換(図1には図示せず)を通して行われ得る。このような実施形態では、光ファイバ伝送チャネル13は、各増幅段において、
- 光信号を再び電気ドメインに変換するためのフォトダイオード、
- 変換された電気信号を増幅するための電気的増幅器、及び
- 増幅された電気信号に対応する光信号を生成するためのレーザダイオード
を含み得る。
【0078】
幾つかの実施形態(図1には図示せず)によれば、光伝送チャネル13は、
- 波長分散の効果に対抗するための分散補償器であって、例えば受信機15での光信号の検出前に波長分散を取り消すか、又は分散を補償するように構成される分散補償器、
- 波長分割多重化システム内で実装される光アッド/ドロップマルチプレクサ等の光スイッチ及びマルチプレクサ、
- 電子及び光再生器などの光信号を再生成するための1つ又は複数の装置
の1つ又は複数をさらに含み得る。
【0079】
本発明の特定の実施形態に関する以下の説明は、あくまでの例示のために、各コアが単一の伝播モードを含み、単一偏波を使用するシングルモードマルチコアファイバを用いる光通信システム100に関して行われる。しかしながら、当業者であれば、本発明の各種の実施形態は、2つの偏波を使用する偏波多重化と組み合わせた、且つ/又は複数の波長を使用する波長多重化と組み合わせた、且つ/又はマルチモードファイバコアを使用するモード多重化と組み合わせたマルチコアファイバにも応用され得ることが容易にわかるであろう。
【0080】
続いて、本発明の幾つかの実施形態を理解しやすくするために、以下で使用される表記法及び/又は定義を示す:
- Lは、光ファイバ伝送チャネル13内のマルチコアファイバの全長を示す。
- N≧2は、マルチコアファイバのコアの総数を示し、コアは、コアがコア-nとして指定され、nは、1~Nの値をとるように番号付けされる(すなわち、各コアは、1~Nで変化するコア番号に関連付けられる)。
- Kは、マルチコアファイバ内で連結されるファイバセクション(「ファイバスライス」又は「ファイバスパン」とも呼ばれる)の数を示す。
- lは、光ファイバリンク内の損失を補償するために使用される正規化係数を示す。
- dは、相関長を示す。
- Rは、曲げ半径を示す。
- Rは、コア-nの半径を示す。
- XTn,mは、コア-n及びコア-m(ここで、n≠mである)間のクロストーク(「コア間クロストーク」とも呼ばれる)を定量化するクロストーク係数(「コア間クロストーク係数」とも呼ばれる)を指す。
- kn,mは、コア-n及びコア-m(ここで、n≠mである)間の結合(「コア間結合」とも呼ばれる)を定量化する結合係数(「コア間結合係数」とも呼ばれる)を指す。
- Δβnmは、コア-n及びコア-m(ここで、n≠mである)間の伝播定数の差を表す。

【数1】
は、プリコーディング行列を示す。
【0081】
図8は、本発明の幾つかの実施形態による光送信機11のブロック構造を示す。光送信機11は、入力データシーケンスを光信号に変換するように構成され得、それが光伝送チャネル13を通して送信される。
【0082】
したがって、光送信機11は、前方誤り訂正コード(FEC)エンコーダ81(「誤り訂正コードエンコーダ81」とも呼ばれる)を含み得、これは、長さk(すなわちk個のシンボルを含む)入力データシーケンスを、少なくとも1つの前方誤り訂正コード(FEC)(「誤り訂正コード」とも呼ばれる)を適用することにより、長さn>kのコードワードベクトルの形態の符号化されたシーケンスに符号化するように構成される。
【0083】
幾つかの実施形態によれば、入力データシーケンスは、kビットを含むバイナリシーケンスであり得る。FECエンコーダ81は、このような実施形態では、入力バイナリシーケンスを、少なくとも1つのバイナリFECコードを適用することにより、nビットを含むバイナリコードワードベクトルに符号化するように構成され得る。
【0084】
他の実施形態において、入力データシーケンスは、ガロア体の次数を表すガロア体GF(q)(ここで、q>2である)の値をとるシンボルを含み得る。このような実施形態において、FECエンコーダ22は、入力データシーケンスを、n個のシンボルを含むコードワードベクトルに符号化するように構成され得、コードワードベクトルに含まれる各シンボルは、ガロア体GF(q)内の値をとる。この場合の符号化プロセスは、GF(q)(ここで、q>2である)にわたって構成される非バイナリFECコードを用いて行われ得る。
【0085】
コーディング動作を実行することにより、FECエンコーダ81は、入力バイナリシーケンスに冗長ビット(一般に冗長シンボル)を追加し、それにより、受信機は、共通伝送誤りを検出及び/又は補正することができる。FECコードの使用により、伝送誤りに対する防護及び耐性がさらに高まり、未符号化伝送(すなわちFEC符号化が行われない変調データの伝送)に関する性能の大幅な改善が可能となる。
【0086】
誤りの確率をさらに改善し、低下させることは、2つ以上のFECコードの連結を通して実現され得る。コードの連結は、直列、並列又はマルチレベルアーキテクチャに即して行われ得る。FECエンコーダ81は、したがって、2つ以上のFECコードを実装するように構成され得る。
【0087】
光送信機11は、インタリーバ83をさらに含み得、これは、符号化シーケンスをミックスして、バースト誤りに対する保護層を符号化シンボルに追加するように構成される。インタリーブされた符号化シーケンスは、その後、変調器85によって処理され得、これは、変調スキームをインタリーブされた符号化シーケンスに(又は送信機11がインタリーバを含まない実施形態ではコードワードベクトルに)適用することによって変調シンボルベクトルsの形態の変調シンボルセットを特定するように構成される。2個のシンボル又は状態を有する2-QAM又は2-PSK等、異なる変調スキームが実装され得る。変調ベクトルsは、シンボル1つについてqビットのK個の複素数値シンボルs,s,...,sを含む複素数値ベクトルであり得る。2-QAM等の変調フォーマットが使用される場合、2個のシンボル又は状態は、整数フィールド
【数2】
のサブセットを表す。対応する連結は、異なる状態又はシンボルを表す2個の点で構成される。加えて、二乗変調の場合、情報シンボルの実数部分及び虚数部分は、同じ有限アルファベットA=[-(q-1),(q-1)]に属する。
【0088】
本発明の実施形態によれば、光送信機11は、情報シンボルのベクトルを、
【数3】
で示され、複素数値を含むプリコーディング行列を用いてプリコードし、sで示されるプリコードされたベクトルにする線形プリコーディング方式を実装する。したがって、光送信機11は、プリコーダ87を含み得、これは、マルチコアファイバに関連する1つ又は複数のファイバパラメータに依存するプリコーディング行列Pを特定し、情報シンボルのベクトルにプリコーディング行列を乗じてプリコードされたベクトルがs=P.sで与えられるようにすることを含む線形プリコーディングを適用することにより、情報シンボルのベクトルをプリコードするように構成される。プリコードされたベクトル
【数4】
は、複素数値を含む次数Nのベクトルである。
【0089】
本発明の実施形態は、光送信機においてチャネル効果を事前補償するための効率的な線形プリコーディング方式を提供する。無線通信システムで使用される既存の線形プリコーディング方式は、送信機において完全なチャネル状態情報に依存し、この場合、受信機は、チャネル行列の推定を、フィードバックリンクを介して送信機に通信する。本発明の実施形態は、推定されたチャネル行列を送信機に送信するための受信機からのフィードバックを必要とせず、マルチコアファイバ伝送チャネルを定義するチャネルモデルに基づいて特定される、
【数5】
で示される補助行列(「補助チャネル行列」とも呼ばれる)を考慮する線形プリコーディング方式を提供する。マルチコアチャネルモデルは、光送信機に、マルチコアファイバで製作されたマルチコアファイバ伝送チャネルについて、事前に規定されたファイバ構成及びファイバパラメータ並びに軸ずれ損失値に関連するコア依存損失を評価することにより、マルチコアファイバ伝送チャネルの性能挙動を予測し、推定するために実装される。
【0090】
したがって、プリコーダ87は、n=1,...,Nの場合の各コア、コア-nに関連するコア依存損失値λ(「コア損失値」とも呼ばれる)をファイバパラメータ及び少なくとも1つの軸ずれ損失値に応じて特定するように構成され得る。
【0091】
幾つかの実施形態によれば、ファイバパラメータは、ファイバ長さL、少なくとも2と等しいコアの数N≧2、クロストーク係数XTn,m(ここで、n,m∈{1,...,N}である)及び結合係数kn,m(ここで、n,m∈{1,...,N}である)を含み、各クロストーク係数XTn,mは、マルチコアファイバ内のコア-n及びコア-m(ここで、n≠mである)間のクロストークを表し、各結合係数kn,mは、マルチコアファイバ内のコア-n及びコア-m(ここで、n≠mである)の結合を表す。
【0092】
ファイバパラメータは、曲げ半数、ファイバスライス数K、クラッド径、マルチコアファイバの各コアの半径及びマルチコアファイバの各コアのタイプをさらに含み得る。
【0093】
幾つかの実施形態において、軸ずれ損失は、ファイバスパンにおける光ファイバ及びコネクタ(例えば、FAN-IN/FAN-OUTデバイスと光ファイバ伝送チャネルの入力/出力端との間のコネクタ)の欠陥によって生じ得る。軸ずれ損失は、縦方向軸ずれ、横方向軸ずれ及び角軸ずれを含む群において選択される軸ずれを含み得る。
【0094】
幾つかの実施形態によれば、軸ずれ損失は、ガウス確率変数としてモデル化され得る。より具体的には、コア-nに関連する軸ずれ損失は、ゼロ平均のガウス確率変数及びσ(x,y),nによって示される標準偏差としてモデル化され得、以下のように表現される。
【数6】
【0095】
式(1)では、rは、「x」及び「y」方向へのマルチコアファイバの横方向変位を指定する。
【0096】
チャネルモデルでは、チャネル行列Hによって表されるマルチコアファイバ伝送チャネル上においてXで示される情報シンボルのベクトルの伝送が考慮され、情報シンボルのベクトルは、光受信機15に送信される。さらに、プリコーディングに使用される補助チャネル行列を特定するために考慮されるチャネルモデルでは、コア間クロストーク効果と軸ずれ効果が勘案される。したがって、光ファイバ伝送チャネル13は、関係:
Y=H.X+N (2)
によって説明される光学多入力多出力(MIMO)システムによって表され得る。
【0097】
式(2)では、
- Xは、光伝送チャネル13上で送信されるN個のシンボルを含み、n番目のシンボルは、コア-n(ここで、n=1,...,Nである)上で伝送される長さNの複素数値ベクトルを指定し、
- Yは、光受信機15で受信信号を指定する、長さNの複素数値ベクトルであり、
- Hは、光チャネル行列を指定し、軸ずれ損失に加えて、マルチコアファイバ内の異なるコアでの光信号伝播中に起こった減衰及びコアに生じた損失を表すN×N次元の複素数値行列であり、及び
- Nは、光チャネルノイズを指定する長さNの複素数値ベクトルである。
【0098】
幾つかの実施形態によれば、光チャネルノイズは、ゼロ平均、分散Nの白色ガウスノイズであり得る。
【0099】
コア間クロストーク効果は、HXTによって示されるクロストークチャネル行列によって表され得、以下のように表現される。
【数7】
【0100】
式(3)では、クロストークチャネル行列の対角エントリは、XT=1-Σn≠mXTn,mで与えられる。クロストークは、コア間のエネルギ交換を表し、当業者の間で知られている電力結合理論に基づいて推定することができる。
【0101】
マルチコアファイバがホモジニアスである幾つかの実施形態によれば、各コア-n及びコア-m(ここで、n≠mである)間のクロストークを定量化するクロストーク係数XTn,mは、以下のように表現される。
【数8】
【0102】
式(4)では、Λは、コア間距離を示し、βは、伝播定数である。
【0103】
マルチコアファイバがヘテロジニアスである幾つかの実施形態によれば、各コア-n及びコア-m(ここで、n≠mである)間のクロストークを定量化するクロストーク係数XTn,mは、以下のように表現される。
【数9】
【0104】
幾つかの実施形態によれば、プリコーダ87は、n=1,...,Nの場合の各コア、コア-nに関連するコア損失値λを、光ファイバ伝送チャネル13を表す光チャネル行列Hに特異値分解を適用することによって特定するように構成され得る。光チャネル行列の特異値分解は、以下のように表現され得る。
【数10】
【0105】
式(6)では、
【数11】
及び
【数12】
は、2つのユニタリ行列を示し、行列Σは、
【数13】
で与えられるN×N対角行列である。
【0106】
式(7)では、αは、コア、コア-iに関連する全軸ずれ損失係数を示し、XT=1-Σi≠mXTi,mは、光伝送チャネル13の端におけるコア、コア-iに関連する全クロストークを定量化する全クロストーク係数を示し、コア、コア-iに関連する全クロストーク係数は、前記コア、コア-iと、マルチコアファイバ内の残りのコアとの間のクロストークを定量化するクロストーク係数に依存する。
【0107】
マルチコアファイバは、K個のファイバスパンの連結で製作され、各スパンは、クロストークチャネル行列及び軸ずれチャネル行列の乗算と均等である。したがって、式(2)の光学MIMOシステムは、均等に以下のように表現され得る。
【数14】
【0108】
式(8)では、
- lは、光ファイバリンク損失を補償するために使用される正規化係数を示し、
- HXT.kは、k番目のファイバスパンに関連するクロストークチャネル行列を示し、
- Mは、k番目のファイバスパンに関連する軸ずれチャネル行列を示す。
【0109】
ファイバスパンへのファイバ分解を使用して、全軸ずれ損失係数αは、以下によって与えられる。
【数15】
【0110】
式(9)では、i=1,...,Nの場合の
【数16】
及び
【数17】
は、1自由度、(σ(x,y),iと等しい平均値及び2(σ(x,y),iと等しい分散のカイ二乗分散確率変数を示す。
【0111】
ファイバスパンの数Kが高い実施形態を考えると、プリコーダ87は、各変数Zを、平均
【数18】
及び分散
【数19】
の正規分布変数として特定するように構成され得る。したがって、軸ずれ損失係数αは、平均値
【数20】
及び分散値
【数21】
が、
【数22】
によってそれぞれ与えられる対数正規確率変数によってモデル化することができる。
【0112】
光チャネル行列の特異値分解の微分によれば、式(2)及び(6)の光学MIMOシステムは、
【数23】
によって表現され得る。
【0113】
式(8)及び(12)で与えられるチャネルモデルによれば、プリコーダ87は、n-1,...,Nの場合の各コア、コア-nに関連するコア損失値λを、コア損失値λが、平均
【数24】
及び分散
【数25】
の対数正規分布変数であるように特定するように構成され得、各コア損失値の平均及び分散は、各コアに関連する全クロストーク係数XTを含むファイバパラメータと、軸ずれ損失係数αの対数正規分布の平均及び分散において生じる軸ずれ損失とに依存する。より具体的には、プリコーダ87は、マルチコアファイバの各コア、コア-nに関連する各コア損失値λの平均値
【数26】
を第一の値と第二の値との間の積として特定するように構成され得、第一の値
【数27】
は、コア、コア-nに関連する全軸ずれ損失を表す対数正規確率変数αの平均に対応し、第二の値XT は、前記コア、コア-nに関連する全クロストーク係数の二乗に対応する。プリコーダ87は、マルチコアファイバの各コア、コア-nに関連する各コア損失値λの分散値
【数28】
を、コア、コア-nに関連する全クロストーク係数XTと、コア、コア-nに関連する全軸ずれ損失を表す対数正規確率変数αの分散
【数29】
に対応する第三の値との間の積として特定するようにさらに構成され得る。
【0114】
チャネルモデルに基づき、プリコーダ87は、数学的チャネルモデルの平均値を用いて平均チャネル行列実現化を特定するように構成され得る。したがって、プリコーダ87は、
- 正規化係数lを、2つ以上のコアの数Nと、n=1,...,Nの場合の2つ以上のコア、コア-nに関連するコア損失値λの和との間の比として、
【数30】
となるように特定し、
- 第一のユニタリ行列
【数31】
と、第二のユニタリ行列
【数32】
とをランダムに特定し、
- 対角成分を含む対角行列
【数33】
を、対角成分が、2つ以上のコアに関連するコア損失値を定義する確率変数の平均値と等しく、したがってn番目の対角成分が、マルチコアファイバのn番目に関連するコア損失値λの平均値
【数34】
となるように、
【数35】
に従って特定し、
- 補助行列
【数36】
を、正規化係数lの平方根と、第一のユニタリ行列Uと、対角行列
【数37】
と、第二のユニタリ行列Vとの間の積として、
【数38】
となるように特定し、
- プリコーディング行列Pを補助行列
【数39】
の逆行列として、
【数40】
となるように特定するように構成され得る。
【0115】
プリコーダ87は、次に、情報シンボルのベクトルにプリコーディング行列を乗じて、s=P.sとなるようにすることによって情報シンボルのプリコードされたベクトルを特定し得る。
【0116】
光送信機11は、複数の多重搬送波変調器88をさらに含み得、これは、多数の直交副搬送波を含む各光キャリア内で多重搬送波変調方式を実装することによって多重搬送波シンボルを生成するように構成される。さらに、多重搬送波変調は、ファイバ分散から生じるシンボル間干渉に対するよりよい耐性を提供するように実装され得る。例示的な多重搬送波変調フォーマットは、直交周波数分割多重化(OFDM)及びフィルタバンク多重搬送波(FBMC)を含む。
【0117】
多重搬送波変調器88によって供給された周波数ドメイン信号は、その後、受信した周波数ドメイン信号を光ドメインに変換するように構成されるデジタル光フロントエンド89によって処理され得る。デジタル光フロントエンド88は、ある波長の複数のレーザと、使用される偏波状態及びマルチコアファイバのコア内の空間伝播モードに関連する複数の光変調器(図8では図示せず)とを用いて変換を行い得る。レーザは、波長分割多重化(WDM)方式を用いて同じ又は異なる波長のレーザビームを生成するように構成され得る。その後、異なるレーザビームが光変調器によってOFDMシンボルの異なる出力(又はシングルキャリア変調を使用する実施形態ではプリコードされた情報シンボルの異なる値)を用いて変調され得る。変調された信号は、その後、ファイバの異なる偏波状態に応じて偏波され得る。例示的な変調器は、マッハツェンダ型変調器を含む。位相及び/又は振幅変調が使用され得る。加えて、異なる光信号を変調するための各種の光変調器によって使用される変調スキームは、同様であるか又は異なり得る。
【0118】
光変調器及びレーザの数は、使用される偏波状態、マルチコアファイバの各コア内で使用される伝播モードの数及びファイバ内のコアの数に依存する。
【0119】
デジタル光フロントエンド88は、生成された光信号をマルチコアファイバの各コアに注入し、各コア内で利用可能な伝播モードに従って伝播させるように構成されるFAN-IN装置(図8では図示せず)をさらに含み得る。光コネクタは、FAN-IN装置の出力端及びマルチコア光伝送チャネル13の入力端を接続するために使用され得る。
【0120】
上述の実施形態の何れによって生成される光信号も、ファイバに沿って伝播し、やがて光伝送チャネル13の反対の端に到達し、そこで光受信機15によって処理され得る。
【0121】
伝送される信号は、伝送電力の制約を満たして、マルチコアファイバのN個のコアの全てを通した全送信エネルギがN.Eと等しくなるようにすべきであり、Eは、コアごとに送信された平均信号エネルギを示す。
【0122】
図9は、幾つかの実施形態による光受信機15のブロック図である。光受信機15は、光送信機11によって伝送チャネル13を通して送信された光信号を受信して、当初の入力データシーケンスの推定を生成するように構成される。光受信機15での受信信号は、以下のように記述され得る。
y=H.s+N (16)
【0123】
図9を参照すると、光受信機15は、以下を含み得る。
- 例えば、1つ又は複数のフォトダイオードを用いて光信号を検出し、それをデジタル信号に変換するように構成される光デジタルフロントエンド91。光デジタルフロントエンド91は、FAN-OUT装置(図9では図示せず)を含み得、
- サイクリックプレフィックスを除去して、デコーダ93に供給されることになる決定変数の組を生成するように構成される複数の多重搬送波復調器92、
- 決定変数の組から、復号アルゴリズムを適用することによって変調データシーケンスの推定を生成するように構成されるデコーダ93、
- デコーダ93によって推定された変調データシーケンスの復調を実行することによってバイナリシーケンスを生成するように構成される復調器94、
- 復調器94によって供給されたバイナリシーケンス内のビット(一般にシンボル)の順序を入れ替えて、そのビットの当初の順序を回復するように構成されるデインタリーバ95、
- デインタリーバ95によって供給された順序が入れ替えられたバイナリシーケンスに軟判定又は硬判定FECデコーダを適用することにより、光送信装置11によって処理される入力データシーケンスの推定を供給するように構成されるFECデコーダ96(「誤り補正コードデコーダ96」とも呼ばれる)。例示的な軟判定FECデコーダは、ビタビアルゴリズムを含む。
【0124】
デコーダ93は、最大尤度(ML)デコーダ、ゼロフォーシングデコーダ、ゼロフォーシング判定帰還型等化器及び最小平均二乗誤差デコーダからなる群において選択される復号アルゴリズムを実装し得る。例示的な最大尤度デコーダは、スフィアデコーダ、シュノール-オイヒナ型デコーダ、スタックデコーダ、スフェリカルバウンドスタックデコーダを含む。このようなMLデコーダは、受信した信号に関連する復号ツリーの木探索を行って、ML最適解を求める逐次デコーダである。スタックデコーダ及びSB-スタックデコーダの非最適な実装形態は、「バイアス」パラメータと呼ばれるパラメータを用いてさらに使用され得る。
【0125】
シングルキャリア変調器を使用する実施形態において、複数の多重搬送波変調器92は、1つの変調器に置き換えられ得る。同様に、多重搬送波復調器92は、1つの復調器に置き換えられ得る。
【0126】
FECエンコーダ81が2つ以上の前方誤り訂正コードの連結体を実装する幾つかの実施形態において、対応する構造は、FECデコーダ96によって実装され得る。例えば、内側コード及び外側コードの直列連結に基づく実施形態では、FECデコーダ96は、内側コードデコーダ、デインタリーバ及び外側コードデコーダ(図9では図示せず)を含み得る。並列アーキテクチャで2つのコードを含む実施形態では、FECデコーダ96は、デマルチプレクサ、デインタリーバ及びジョイントデコーダ(図9では図示せず)を含み得る。
【0127】
図10を参照すると、2つ以上のコアN≧2を含むマルチコアファイバで製作された光ファイバ伝送チャネル上で情報シンボルのベクトルsを伝送する方法も提供される。
【0128】
ステップ1001では、N個の複素数値を含む情報シンボルのベクトル
【数41】
が受信され得る。
【0129】
ステップ1003では、プリコーディング行列
【数42】
が特定され得る。
【0130】
ステップ1005では、情報シンボルのベクトルにプリコーディング行列を乗じて、s=P.sとなるようにすることにより、プリコードされた情報シンボルのベクトル
【数43】
が特定され得る。
【0131】
図11は、マルチコアファイバ伝送チャネルを定義するチャネルモデルに基づいて特定された補助行列がプリコーディング行列の特定に用いられる本発明の幾つかの実施形態によるプリコーディング行列
【数44】
を特定するためのステップ1003を示すフローチャートである。
【0132】
ステップ1101では、マルチコアファイバのファイバパラメータ及び軸ずれ損失値が受信され得る。
【0133】
幾つかの実施形態において、ファイバパラメータは、コアの数N≧2、ファイバ長さL、クロストーク係数XTn,m(ここで、n,m∈{1,...,N}である)及び結合係数kn,m(ここで、n,m∈{1,..,N}である)を含み得、各クロストーク係数XTn,mは、マルチコアファイバ内のコア-n及びコア-m(ここで、n≠mである)間のクロストークを表し、各結合係数kn,mは、マルチコアファイバ内のコア-n及びコア-m(ここで、n≠mである)の結合を表す。
【0134】
幾つかの実施形態において、ファイバパラメータは、曲げ半径R、クラッド径、ファイバスライスの数K、マルチコアファイバの各コアの半径及びマルチコアファイバの各コア、コア-nのタイプT(ここで、n=1,...,Nである)をさらに含み得る。
【0135】
幾つかの実施形態において、軸ずれ損失は、縦方向軸ずれ、横方向軸ずれ及び角軸ずれを含む。
【0136】
幾つかの実施形態において、軸ずれ損失値は、事前に式(1)に従って特定され得る。
【0137】
ステップ1103では、n=1,...,Nの場合の各コア、コア-nに関連するコア損失値λが特定され得る。特に、マルチコアファイバのコアに関連するコア損失値は、少なくとも1つのクロストーク係数及び少なくとも1つの軸ずれ損失値(「軸ずれ損失係数」とも呼ばれる)に応じて特定され得る。より具体的には、n=1,...,Nの場合の各コア、コア-nに関連するコア損失値λは、平均
【数45】
及び分散
【数46】
の対数正規分布の確率変数として特定され得、各コア損失値の平均及び分散は、各コアに関連する全クロストーク係数XTを含むファイバパラメータ及び式(9)で与えられる軸ずれ損失係数αの対数正規分布の平均及び分散において生じる軸ずれ損失に依存する。
【0138】
幾つかの実施形態によれば、マルチコアファイバの各コア、コア-nに関連する各コア損失値λの平均値
【数47】
は、第一の値と第二の値との間の積として特定され得、第一の値
【数48】
は、コア、コア-nに関連する全軸ずれ損失を表す対数正規確率変数αの平均に対応し、第二の値XT は、コア、コア-nに関連する全クロストーク係数の二乗に対応する。
【0139】
幾つかの実施形態によれば、マルチコアファイバの各コア、コア-nに関連する各コア損失値λの分散値
【数49】
は、コア、コア-nに関連する全クロストーク係数XTと、コア、コア-nに関連する全軸ずれ損失を表す対数正規確率変数αの分散
【数50】
に対応する第三の値との間の積として特定され得る。
【0140】
ステップ1105では、正規化係数lは、式(13)に従い、2つ以上のコアの数Nと、n=1,...,Nの場合の2つ以上のコア、コア-nに関連するコア損失値λの和との間の比として特定され得る。
【0141】
ステップ1107では、第一のユニタリ行列
【数51】
と、第二のユニタリ行列
【数52】
とは、ランダムに特定され得る。
【0142】
ステップ1109では、対角成分を含む対角行列
【数53】
が特定され得る。対角成分は、2つ以上のコアに関連するコア損失値を定義する確率変数の平均値と等しく、それにより、n番目の対角成分は、式(14)に従ってマルチコアファイバのn番目に関連するコア損失値λの平均値
【数54】
である。
【0143】
ステップ1111では、補助行列
【数55】
は、正規化係数
【数56】
の平方根と、第一のユニタリ行列Uと、対角行列
【数57】
と、第二のユニタリ行列Vとの間の積として式(15)に従って特定され得る。
【0144】
ステップ1113では、プリコーディング行列Pは、補助行列
【数58】
の逆行列として、
【数59】
となるように特定され得る。
【0145】
提案の線形プリコーディング方式(「ZF事前補償」と呼ばれる)の性能をビット誤り率の点で評価し、コア依存損失がヌルであるガウスチャネルについて得られた性能及び決定論的コアスクランブリングを用いて得られた性能と比較した。2つのマルチコアファイバが検討され、3種類のコアタイプの7コアヘテロジニアスマルチコアファイバがスネイルスクランブリングと共に使用され、2種類のコアタイプの12コアヘテロジニアスマルチコアがサーキュラスクランブリングと共に使用される。
【0146】
図12は、7コアファイバに関する線形プリコーディング後の送信信号の固有値と、コアごとに伝送されるユニタリ平均エネルギとを示す。数値結果は、固有値の和が7と等しいことを示しており、これは、線形状態拘束及び総電力拘束を満たす。
【0147】
図13は、7コアヘテロジニアスファイバにおいて、6つのスネイルスクランブラを用いたスネイルスクランブリングベースの伝送システム、本発明の実施形態によるZF事前補償、ガウスチャネル(CDLなし)及び7コアヘテロジニアスファイバについて、且つスクランブリングもプリコーディングも行わない7コアヘテロジニアスファイバにおいて得られた信号対ノイズ比のビット誤り率性能関数を評価した図を示す。6つのスネイルスクランブラを使用することにより、最適なCDL削減が提供される。長さ100km(L=300km)、300のファイバセクション(K=300)のファイバを検討する。16-QAM変調器が光送信機内で使用され、ZFデコーダがデコーダ93内の光受信機で使用される。数値結果は、ZF事前補償が4dBのゲインを付加することによってシステム性能を向上させ、これは、スネイルスクランブラと同じ性能に到達し、ガウスチャネルと比較して、ビット誤り率BER=10-3でSNRペナルティが2dBであることを示している。
【0148】
図14は、12コアヘテロジニアスファイバにおいて、1つのサーキュラスクランブラを用いたサーキュラスクランブリングベースの伝送システム、本発明の実施形態によるZF事前補償、ガウスチャネル(CDLなし)及び12コアヘテロジニアスファイバについて、且つスクランブリングもプリコーディングも行わない12コアヘテロジニアスファイバにおいて得られた信号対ノイズ比のビット誤り率性能関数を評価した図を示す。1つのサーキュラスクランブラを使用することにより、最適なCDL削減が提供される。長さ100km(L=300km)及び300のファイバセクション(K=300)のファイバを検討する。16-QAM変調器が光送信機内で使用され、ZFデコーダがデコーダ93内の光受信機で使用される。数値結果は、本発明の実施形態によるZF事前補償は、サーキュラスクランブリングベースのシステムとしてCDL障害を低減させることを示している。ZF事前補償スキームは、ガウスチャネルの性能に近付く。
【0149】
本発明の実施形態は、通信システムでの応用において説明されているが、本発明は、通信用途に限定されず、データ保存及び医用画像等の他の用途にも取り入れられ得る。本発明は、幾つもの光伝送システム、例えば自動車産業の用途、原油又はガス市場において、航空宇宙科学及び航空工学の分野、検出用途等において使用され得る。
【0150】
本発明の実施形態は、様々な例の説明によって示され、これらの実施形態は、かなり詳細に説明されているが、本出願人は、付属の特許請求項の範囲を制限するか、又は決してこれらの詳細に限定することを意図しない。他の利点及び改良形態は、当業者に容易に明らかとなるであろう。したがって、本発明は、その最も広い態様において、示され且つ説明された具体的な詳細、代表的な方法及び説明のための例に限定されない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14