(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】ファンデルワールス(vdW)材料を取り入れたトンネル効果に基づくセレクタ
(51)【国際特許分類】
H10B 63/00 20230101AFI20241211BHJP
H10N 70/20 20230101ALI20241211BHJP
H10B 63/10 20230101ALI20241211BHJP
H10B 53/30 20230101ALI20241211BHJP
H10B 10/00 20230101ALI20241211BHJP
H10B 12/00 20230101ALI20241211BHJP
【FI】
H10B63/00
H10N70/20
H10B63/10
H10B53/30
H10B10/00
H10B12/00 601
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022152737
(22)【出願日】2022-09-26
【審査請求日】2022-09-26
(32)【優先日】2022-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522359877
【氏名又は名称】テトラメム、インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミンシアン、ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ニン、ジェイ
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-205405(JP,A)
【文献】特開2021-150522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10B 63/00
H10N 70/20
H10B 63/10
H10B 53/30
H10B 10/00
H10B 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と第2電極との間に形成される多層障壁構造を備えたセレクタであって、
前記多層障壁構造は、
ファンデルワールス(vdW)材料の複数の層を備え、
前記ファンデルワールス(vdW)材料の複数の層は、
第1ファンデルワールス(vdW)材料を有する第1層と、
第2vdW材料を有する第2層と、
第3vdW材料を有する第3層と、
を備え、
前記第1vdW材料を有する前記第1層の第1電子親和力は、前記第2vdW材料を有する前記第2層の第2電子親和力及び前記第3vdW材料を有する前記第3層の第3電子親和力より低く、
前記第1vdW材料は、前記多層障壁構造の前記ファンデルワールス(vdW)材料のなかで最も低い電子親和力を有
し、
前記第1vdW材料は、WSe
2
を有し、
前記第2vdW材料は、MoSe
2
、MoS
2
、又は、HfS
2
のうち少なくとも一つを有する、
セレクタ。
【請求項2】
前記第1vdW材料を有する前記第1層は、前記第2vdW材料を有する前記第2層と前記第3vdW材料を有する前記第3層との間に形成される、
請求項1のセレクタ。
【請求項3】
前記第1vdW材料は、h‐BNを有し、
前記第2vdW材料は、MoS
2、WS
2、又は、WSe
2のうち少なくとも一つを有する、
請求項1のセレクタ。
【請求項4】
前記第3vdW材料は、MoS
2、WS
2、又は、WSe
2のうち少なくとも一つを有する、
請求項3のセレクタ。
【請求項5】
前記多層障壁構造は、第4vdW材料の第4層をさらに備え、
前記第2vdW材料の前記第2電子親和力は、前記第4vdW材料の第4電子親和力より低い、
請求項1のセレクタ。
【請求項6】
前記第4vdW材料の前記第4層は、前記第2vdW材料を有する前記第2層と前記第1電極との間に形成される、
請求項
5のセレクタ。
【請求項7】
前記多層障壁構造は、第5vdW材料の第5層をさらに備え、
前記第3vdW材料の前記第3層の前記第3電子親和力は、前記第5vdW材料の前記第5層の第5電子親和力より低い、
請求項
5のセレクタ。
【請求項8】
前記第5vdW材料の前記第5層は、前記第3vdW材料を有する前記第3層と前記第2電極との間に形成される、
請求項
7のセレクタ。
【請求項9】
前記多層障壁構造は、(2n+1)個のvdW材料の層を包含し、
nは正の整数である、
請求項1のセレクタ。
【請求項10】
前記多層障壁構造は、三角形トンネル障壁に近似する階段状トンネル障壁を形成する、請求項1のセレクタ。
【請求項11】
第2電圧に応じて前記セレクタを通過する第2電流に対する第1電圧に応じて前記セレクタを通過する第1電流の比は、10
2以上であり、
前記第2電圧は、前記第1電圧の半分である、
請求項1のセレクタ。
【請求項12】
セレクタと、前記セレクタに直列接続されるメモリデバイスとを有する装置であって、
前記セレクタは、第1電極と第2電極との間に形成される多層障壁構造を備え、
前記多層障壁構造は、
ファンデルワールス(vdW)材料の複数の層を備え、
前記ファンデルワールス(vdW)材料の複数の層は、
第1ファンデルワールス(vdW)材料を有する第1層と、
第2vdW材料を有する第2層と、
第3vdW材料を有する第3層と、
備え、
前記第1vdW材料を有する前記第1層の第1電子親和力は、前記第2vdW材料を有する前記第2層の第2電子親和力及び前記第3vdW材料を有する前記第3層の第3電子親和力より低く、
前記第1vdW材料は、前記多層障壁構造の前記ファンデルワールス(vdW)材料のなかで最も低い電子親和力を有
し、
前記多層障壁構造は、第4vdW材料の第4層をさらに備え、
前記第2vdW材料の前記第2電子親和力は、前記第4vdW材料の第4電子親和力より低い、
装置。
【請求項13】
前記メモリデバイスは、
メモリスタ、抵抗型ランダムアクセスメモリ(RRAM)、相変化メモリ(PCM)、浮遊ゲート、スピントロニクスデバイス、動的ランダムアクセスメモリ(DRAM)、強誘電体ランダムアクセスメモリ(FeRAM)、又は、静的ランダムアクセスメモリ(SRAM)のうち少なくとも一つを包含する、
請求項
12の装置。
【請求項14】
前記第1vdW材料は、h‐BNを有し、
前記第2vdW材料は、MoS
2、WS
2、又は、WSe
2のうち少なくとも一つを有する、
請求項
12の装置。
【請求項15】
前記第3vdW材料は、MoS
2、WS
2、又は、WSe
2のうち少なくとも一つを有する、
請求項
14の装置。
【請求項16】
前記第1vdW材料は、WSe
2を有し、
前記第2vdW材料は、MoSe
2、MoS
2、又は、HfS
2のうち少なくとも一つを有する、
請求項
12の装置。
【請求項17】
前記装置は、前記第1電極と前記第2電極とを更に備える、
請求項
12の装置。
【請求項18】
前記セレクタは、三角形トンネル障壁に近似する階段状トンネル障壁を有する、
請求項
12の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実装例は、概ねセレクタデバイスに、より明確にはファンデルワールス(vdW)材料を取り入れたトンネル効果に基づくセレクタに関する。
【背景技術】
【0002】
高密度メモリと、抵抗スイッチング材料を交点で挟持する相互接続導電線を備える回路構造を含むクロスバー回路のようなコンピューティングデバイスとは、各メモリセルがセレクタデバイスとペアリングされて、選択されたメモリセルの読み取り及び書込みを可能にすることを必要とする。例えば、クロスバー回路は、メモリセルに直列接続されて読み取り又は書き込み操作を実施する為に特定のメモリセルを選択し、未選択のメモリスタを通過する不要な漏洩電流を抑制するセレクタデバイス(例えばトランジスタ)を含む1セレクタ1レジスタ(1S1R)構造を利用し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
以下は、本開示の幾つかの態様について基本的な理解を与える為の本開示の簡単な要約である。この要約は、開示についての広範な概説ではない。本開示の主要又は重要な要素を特定することも、本開示の特定の実装例の範囲あるいは請求項の範囲を画定することも意図されていない。唯一の目的は、後で提示される詳細な記載の前置きとして、本開示の幾つかの概念を簡単な形で提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の幾つかの実施形態によれば、トンネル効果に基づくセレクタが提供される。セレクタは、第1電極と第2電極との間に形成される多層障壁構造を含む。多層障壁構造は、第1ファンデルワールス(vdW)材料の第1層と、第2vdW材料の第2層と、第3vdW材料の第3層とを含む。第1vdW材料の第1層は、第2vdW材料の第2層と第3vdW材料の第3層との間に形成される。第1vdW材料の第1層の電子親和力は、第2vdW材料の第2層の第2電子親和力及びvdW材料の第3層の電子親和力より低い。
【0005】
幾つかの実施形態において、第1vdW材料を包含する第1層は、第2vdW材料を包含する第2層と第3vdW材料を包含する第3層との間に形成される。
【0006】
幾つかの実施形態において、第1vdW材料はh‐BNを包含する。第2vdW材料は、MoS2、WS2、又は、WSe2のうち少なくとも一つを包含する。第3vdW材料は、MoS2、WS2、又は、WSe2のうち少なくとも一つを包含する。
【0007】
幾つかの実施形態において、第1vdW材料はWSe2を包含する。第2vdW材料はMoSe2、MoS2、又は、HfS2のうち少なくとも一つを包含する。第3vdW材料は、MoSe2、MoS2、又は、HfS2のうち少なくとも一つを包含する。
【0008】
幾つかの実施形態において、多層障壁構造は更に第4vdW材料の第4層を具備する。第2vdW材料の第2電子親和力は、第4vdW材料の第4電子親和力より低い。
【0009】
幾つかの実施形態において、第4vdW材料の第4層は、第2vdW材料を包含する第2層と第1電極との間に形成される。
【0010】
幾つかの実施形態において、多層障壁構造は更に第5vdW材料の第5層を具備する。第3vdW材料の第3層の第3電子親和力は、第5vdW材料の第5層の第5電子親和力より低い。
【0011】
幾つかの実施形態において、第5vdW材料の第5層は、第3vdW材料を包含する第3層と第2電極との間に形成される。
【0012】
幾つかの実施形態において、多層障壁構造は(2n+1)個のvdW材料の層を具備し、nは正の整数である。
【0013】
幾つかの実施形態において、多層障壁構造は、三角形トンネル障壁に近似する階段状トンネル障壁を形成する。多層構造は中心層について対称的であってもなくてもよい。
【0014】
幾つかの実施形態において、第1電圧を受けてセレクタを通過する第1電流と第2電圧を受けてセレクタを通過する第2電流との比は102以上であり、第2電圧は第1電圧の半分である。
【0015】
幾つかの実施形態において、この比は105以上である。
【0016】
幾つかの実施形態において、この比は107以上である。
【0017】
幾つかの実施形態において、セレクタは、三角形トンネル障壁に近似する階段状トンネル障壁を有する。
【0018】
本開示の一以上の態様によれば、装置が提供される。この装置は、セレクタとセレクタに直列接続されるメモリデバイスとを含む。
【0019】
幾つかの実施形態において、メモリデバイスは、HfOx又はTaOyのうち少なくとも一つを包含するスイッチング酸化物層を具備し、x≦2.0かつy≦2.5である。
【0020】
幾つかの実施形態において、メモリデバイスは、メモリスタ、抵抗型ランダムアクセスメモリ(RRAM)、相変化メモリ(PCM)、浮遊ゲート、スピントロニクスデバイス、動的ランダムアクセスメモリ(DRAM)、強誘電体ランダムアクセスメモリ(FeRAM)、又は、静的ランダムアクセスメモリ(SRAM)のうち少なくとも一つを包含する。
【0021】
幾つかの実施形態において、装置は更に第1電極と第2電極とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本開示は、下に挙げられる詳細な記載から、そして本開示の様々な実施形態の添付図面から、より深く理解されるだろう。しかしながら、図面は特定の実施形態に開示を限定するものと解釈されるべきではなく、説明及び理解の為のものである。
【
図1】本開示の幾つかの実施形態によるセレクタ例の断面状態を示す模式図である。
【
図2A】本開示の幾つかの実施形態によるセレクタ例の断面状態を示す模式図である。
【
図2B】本開示の幾つかの実施形態によるセレクタ例の断面状態を示す模式図である。
【
図2C】本開示の幾つかの実施形態によるセレクタ例の断面状態を示す模式図である。
【
図3A】本開示の幾つかの実施形態によるクロスバー回路の一例を示す模式図である。
【
図3B】本開示の幾つかの実施形態によるクロスポイントデバイス例を示す模式図である。
【
図4】本開示の幾つかの実施形態によるファンデルワールス材料例のバンドギャップ及び電子親和力を示す図である。
【
図5】本開示の幾つかの実施形態によるセレクタの電流電圧(I‐V)特性を示す図である。
【
図6】本開示の幾つかの実施形態によるセレクタの非線形性を示す図である。
【
図7A】本開示の幾つかの実施形態によるエネルギー障壁例を示す図である。
【
図7B】本開示の幾つかの実施形態によるエネルギー障壁例を示す図である。
【
図8A】本開示の幾つかの実施形態による1S1R構造例の断面状態を示す模式図である。
【
図8B】本開示の幾つかの実施形態による1S1R構造例の断面状態を示す模式図である。
【
図9】本開示の幾つかの実施形態による1S1R構造を含むセレクタ及び装置を構築する為の方法例を示す流れ図である。
【
図10】本開示の幾つかの実施形態による1S1R構造を含むセレクタ及び装置を構築する為の方法例を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示の態様では、ファンデルワールス(vdW)材料を取り入れたトンネル効果に基づくセレクタを構築する為の機構が提供される。本明細書で使用される際に、vdW材料は、ファンデルワールスヘテロ構造を有する二次元(2D)材料を指し得る。vdW材料は、ファンデルワールス相互作用を介して共に積み重ねられて薄い2D自立層に剥離され得る強力接合2D層(1原子厚さのシート)を含み得る。vdW材料の例は、SnS2(硫化スズ)、ZrS2(硫化ジルコニウム)、SnSe2(セレン化スズ)、HfS2(二硫化ハフニウム)、MoS2(二硫化モリブデン)、MoSe2(二セレン化モリブデン)、MoTe2(二テルル化モリブデン)、WS2(二硫化タングステン)、WSe2(二セレン化タングステン)、グラフェン(Gr)、h‐BN(六方晶窒化ホウ素)等を含む。
【0024】
メモリスタに基づくクロスバーアレイのようなメモリ及びコンピューティングデバイスは、特定のメモリ及び/又はコンピューティング要素を選択して一部選択又は非選択のメモリ及び/又はコンピューティング要素を通過する不要な漏出電流を抑制するセレクタデバイスを必要とし得る。クロスバーアレイのセレクタとしてトランジスタが広く使用されているが、3端子トランジスタに基づくセレクタは、その大きな設置面積がアレイ密度を制限してコストを上げ得るので、クロスバーアレイには理想的でない。その為、水平スケーリングされてメモリセル(例えばメモリスタ)と共に垂直に積み重ねられ、クロスバーアレイを実装し得る2端子セレクタを使用することが望ましい場合がある。しかしながら、従来の2端子セレクタは、高い非線形性、高い耐久性、充分な電流密度、そしてデバイス間の小さい差異など、クロスバーアレイと類似のコンピューティング及び/又はメモリ用途を実装するのに必要な、或る種の望ましい特性を備えていない。
【0025】
本開示は、望ましい三角形トンネル障壁に近似する多層の階段状トンネル効果障壁を備える、トンネル効果に基づくセレクタを提供する。セレクタは、インメモリコンピューティング用途、不揮発性ソリッドステートメモリ、画像処理用途、ニューラルネットワーク等のようなメモリ用途及びコンピューティング用途に使用され得る。
【0026】
本開示の一以上の態様によれば、セレクタは、第1電極と、第2電極と、第1電極と第2電極との間に構築される多層障壁構造とを含み得る。第1電極と第2電極とは、グラフェン、あるいは適当な導電性を備える他の何らかの材料を含み得る。
【0027】
多層障壁は、ファンデルワールス(vdW)材料の多数の層を含み、三角形トンネル障壁に近似する階段状トンネル効果障壁を形成し得る。多層障壁構造は、第1VDW材料より高い電子親和力を有するVDW材料の層の間に挟持される第1VDW材料の中心層を含み得る。多層障壁構造は、適当な数のvdW材料の層(例えば2n+1層。nは正の整数)を含み、多層障壁構造の内側層の電子親和力は隣接する外側層のそれより低く、内側層は外側層より中心層に近い。例として、多層障壁構造はMoS2の二つの層の間に挟持されたh‐BNの層を含み得る。別の例として、多層障壁構造は、WS2の二つの層の間に挟持されるh‐BNの層を含み得る。更なる例として、多層障壁構造は、WSe2の第1層とWSe2の第2層との間に挟持されるh‐BNの層を含み得る。多層障壁構造は更に、WSe2の第1層と第1電極との間に構築されるMoS2の第1層と、WSe2の第2層と第2電極との間に構築されるMoS2の第2層とを含み得る。
【0028】
多層障壁構造は、エネルギー障壁の中央に高さピークを持つ三角形トンネル障壁に近似し得る。電場は、障壁幅が減少し得る三角形又は均一のトンネル障壁のケースと比較して三角形トンネル障壁のピーク障壁高さを減少させ得る。しかしながら、トンネル効果に基づく多くの既存のセレクタデバイスが備える外部電圧により、障壁高さは減少しない。それ故、三角形トンネル障壁でのトンネル効果電流は、セレクタに印加される電場を受けて突然変化して、結果的にセレクタの高い非線形性が生じる。セレクタを導電状態にスイッチする為に閾値電圧でセレクタを通過する電流と、閾値電圧の半分でセレクタを通過する電流との比を表す非線形性係数により、セレクタの非線形性が測定され得る。セレクタの非線形性係数は、幾つかの実施形態では107を超え得る。
【0029】
本明細書に記載されるセレクタは、高い耐久性(例えば読み取り又は書き込み電圧を少なくとも108回印加した後に設計時の機能を維持する)、優れた均一性、そして良好な熱的安定性も呈する。セレクタは、多くのメモリ用途又はコンピューティング用途を実装する為に、充分な駆動電流密度(例えば、106μA/cm2より高い電流密度)を提供し得る。故に本明細書に記載のセレクタは、高いデバイス均一性と選択性とを必要とする高密度メモリ及び/又はコンピューティング用途を可能にする。
【0030】
図1は、本開示の幾つかの実施形態によるセレクタ100の例の断面状態を示す模式図である。セレクタ100は、正確に二つの端子を有する2端子デバイスであり、三角形トンネル障壁に近似する多層トンネル障壁構造を有し得る。
【0031】
図のように、セレクタ100は、第1電極110と多層障壁構造120と第2電極130とを含み得る。第1電極110と第2電極130とは、グラフェンのように適当な導電性の材料を含み得る。
【0032】
多層障壁構造120は第1電極110の上に構築され得る。多層障壁構造120は、三角形トンネル障壁に近似し得る階段状トンネル障壁を形成するvdW材料の多数の層を含み得る。
図1に示されているように、多層障壁構造120は(2n+1)個の層を含み、「1」はトンネル障壁の中心におけるvdM材料の層(「中心層121」)を表し、nは中心層121と第1電極110との間のvdM材料の層の数、あるいは中心層121と第2電極130との間の層の数を表す正の整数(例えば、1,2,3,...)である。
【0033】
例えば、多層障壁構造120は、第1電極110と第2電極130との間に構築される中心層121を含み得る。中心層121は第1vdW材料を含み得る。多層障壁構造120は更に、第1電極110と中心層121との間に構築される一以上の層123と、中心層121と第2電極130との間に構築される一以上の層125とを含み得る。その為、中心層121はn個の層123とn個の層125との間に挟持される。各層123及び/又は125は、第1vdW材料と異なるvdW材料を含み得る。
【0034】
セレクタ100と多層障壁構造120とは、望ましい三角形エネルギー障壁(例えば、
図7Bに関して記載される階段状エネルギー障壁700b)に近似し得る階段状エネルギー障壁を有し得る。多層障壁構造120は、階段状エネルギー障壁を形成するのに適当な数のvdW材料の層を含み得る。比較的多いvdW材料の層を備えるセレクタは、比較的少ないvdWの層を備えるセレクタよりも、細かい段の階段状トンネル障壁を形成して三角形トンネル障壁に近似し得る。
【0035】
多層障壁構造120の様々な層のvdW材料は多様な電子親和力を有し得る。材料の電子親和力は、その材料の電子が中性原子に付加されて負電荷イオンを形成する時に解放されるエネルギーの量を指し得る。
図4に関してより詳しく考察されるように、異なるvdW材料は多様な電子親和力を有し得る。例えば、SnS
2、ZrS
2、SnSe
2、HfS
2、MoS
2、MoSe
2、MoTe
2、WS
2、WSe
2、グラフェン(Gr)、そしてh‐BNは、低い電子親和力を有する。中心層でのvdW材料は、多層障壁構造120のvdW材料のうち最低の電子親和力を有し得る。中心層121と第1電極110との間に配置されるn個の層のvdM材料の電子親和力は、中心層121に最も近い層(つまり層123a)から第1電極110に最も近い層(つまり層123n)まで上昇する電子親和力を備え得る。中心層121と第2電極130との間に配置されるn個の層のvdM材料の電子親和力は、中心層121に最も近い層(つまり層125a)から第2電極130に最も近い層(つまり層125n)まで上昇する電子親和力を備え得る。層123a‐nの電子親和力と層125a‐nの電極親和力とは、対称的又は非対称的に上昇し得る。例えば、層123a及び層125aの電子親和力は同じであっても同じでなくてもよい。層123n及び層125nの電子親和力は同じであっても同じでなくてもよい。
【0036】
より詳しく記すと、例えば、中心層121の電子親和力は各層123及び/又は125の電子親和力より低い。多層障壁構造120の内側層の電子親和力は隣接の外側層のそれより低く、内側層は外側層よりも中心層121に近い。例えば、層123aの電子親和力は層123bのそれより低い。層123n-1の電子親和力は層123nのそれより低い。別の例として、層125aの電子親和力は層125bのそれより低い。層125n-1の電子親和力は層125nのそれより低い。
【0037】
多層障壁構造120は、下で
図2A乃至2Cに関して記載される多層障壁構造120a,120b,120cのうち一以上を含み得る。
【0038】
図5に関してより詳しく記載されるように、セレクタ100に印加される電圧が閾値電圧Vの半分(+V/2又は-V/2)未満である時に、セレクタ100は高抵抗状態(オフ状態)であり得る。セレクタ100に印加される電圧が閾値電圧Vに達するかこれを超える時に、セレクタ100は導電性でオン状態である。
【0039】
図2A乃至2Cは、本開示の幾つかの実施形態によるセレクタの例200a,200b,200cの断面状態を示す模式図である。
【0040】
図2Aに示されているように、セレクタ200aは、
図2に関して記載された第1電極110と第2電極130とを含み得る。セレクタ200aは更に、vdW材料の複数の層を含む多層障壁構造120aを、n=1である(2n+1)個 の多層障壁構造の例として含み得る。
【0041】
多層障壁構造120aは、第1vdW材料の中心層121(「第1vdW材料の第1層」とも呼ばれる)と、第2vdW材料の第2層223aと、第3vdW材料の第3層225aとを含み得る。中心層121及び/又は第1vdW材料の電子親和力(「第1電子親和力」とも呼ばれる)は、第2層223及び/又は第2vdW材料の電子親和力(「第2電子親和力」とも呼ばれる)より、そして第3層225及び/又は第3vdW材料の電子親和力(「第3電子親和力」とも呼ばれる)より低い。一例として、第1vdW材料はh‐BNであり得る。第2材料及び第3材料は、MoS2、WS2、WSe2等のように第1電子親和力より高い電子親和力を有する適当なvdW材料であり得る、及び/又は、これを含み得る。一つの実装例において、中心層121と第2層223aと第3層225aとは、それぞれh‐BNの層、MoS2の層、MoS2の層であり得る。別の実装例において、中心層121と第2層223aと第3層225aとは、それぞれh‐BNの層、WS2の層、WS2の層であり得る。別の実装例において、中心層121と第2層223aと第3層225aとは、それぞれh‐BNの層、WSe2の層、WSe2の層であり得る。
【0042】
別の例として、第1vdW材料はWSe2であり得る。第2VDW材料と第3vdW材料とは、WSe2の電子親和力より高い電子親和力を持つ適当なvdW材料であり得る。より詳しい例として、中心層121と第2層223aと第3層225aとは、それぞれWSe2の層、MoSe2の層、そしてMoSe2の層を含み得る、及び/又は、これらであり得る。
【0043】
図2Bに示されているように、セレクタ200bは、
図1に関して記載された第1電極110と第2電極130とを含み得る。セレクタ200bは更に、vdW材料の複数の層を含む多層障壁構造120bを含み得る。多層障壁構造120nは、n=2である(2n+1)個の多層障壁構造の一例である。
【0044】
多層障壁構造120bは、第1vdW材料を含む第1層121と、第2vdW材料の第2層223aと、第3vdW材料の第3層225aとを含み得る。多層障壁構造120bは更に、第2vdW材料の第2層223aと第1電極110との間に構築される第4vdW材料の第4層223bを含み得る。多層障壁構造120bは更に、第3vdW材料の第3層225aと第2電極130との間に構築される第5vdW材料の第5層225bを含み得る。第2vdW材料の電子親和力(第2電子親和力)は、第4vdW材料の電子親和力(「第4電子親和力」とも呼ばれる)より低い。第3vdW材料の電子親和力(第3電子親和力)は、第5vdW材料の電子親和力(「第5電子親和力」とも呼ばれる)より低い。一例として、第1vdW材料はh‐BNであり得る。第2vdW材料と第3材料とはWSe2であり得る。第4vdW材料と第5vdW材料とはMoS2であり得る。別の例として、第1vdW材料はWSe2であり得る。第2材料dvWと第3vdW材料とはMoSe2であり得る。第4vdW材料と第5vdW材料とはMoS2であり得る。
【0045】
図2Cを参照すると、セレクタ200cは、
図1に関して記載された第1電極110と第2電極130とを含み得る。セレクタ200cは更に、vdW材料の複数の層を含む多層障壁構造120cを含み得る。多層構造120cは、n=3である(2n+1)個の多層障壁構造の一例である。多層障壁構造120cは、上で
図2Bに関して記載されたように層121,223a,223b,225a,225bを含み得る。多層障壁構造120cは更に、第6vdW材料の第6層223cと第7vdW材料の第7層225cとを含み得る。第6層223cは第4層223bと第1電極110との間に構築される。第7層225cは第5層225bと第2電極130との間に構築される。第4vdW材料の電子親和力(第4電子親和力)は、第6vdW材料の電子親和力(「第6電子親和力」とも呼ばれる)より低い。第5vdW材料の電子親和力(第5電子親和力)は、第7vdW材料の電子親和力(「第7電子親和力」とも呼ばれる)より低い。例えば、第1vdW材料はWSe
2であり得る。第2vdW材料及び第3vdW材料はMoSe
2であり得る。第4vdW材料及び第5vdW材料はMoS
2であり得る。第6vdW材料及び第7vdW材料はHfS
2であり得る。
【0046】
図3Aは、本開示の幾つかの実施形態によるクロスバー回路の例300を示す模式図である。図のように、クロスバー回路300は、n行×m列のクロスバーアレイについて一以上のビット線311a,...,311i,...,311nとワード線313a,...,311j,...,311mのような複数の相互接続導電性ワイヤを含み得る。クロスバー回路300は更に、クロスポイントデバイス320a,320b,...,320z等を含み得る。クロスポイントデバイスの各々は、ビット線とワード線とに接続され得る。例えば、クロスポイントデバイス320ijはビット線311iとワード線313jとを接続し得る。
【0047】
幾つかの実施形態において、クロスバー回路300は更に、デジタルアナログコンバータ(不図示のDAC)、アナログデジタルコンバータ(不図示のADC)、スイッチ(不図示)、及び/又は、クロスバーに基づく装置を実装する為の他の適当な回路コンポーネントを含み得る。ワード線313a‐mの数とビット線311a‐nの数とは同じであっても同じでなくてもよい。
【0048】
ビット線311は、第1ビット線311a、第2ビット線311i、...そして第nビット線311nを含み得る。ビット線311a,...,311nの各々は適当な導電性材料であり得る、及び/又は、これを含み得る。幾つかの実施形態において、各ビット線311a‐nは金属ワイヤであり得る。
【0049】
ワード線313は、第1ワード線313a、第2ワード線313j、...、そして第mワード線313mを含み得る。ワード線313a‐mの各々は、適当な導電性材料であり得る、及び/又は、これを含み得る。幾つかの実施形態において、各ワード線313a‐mは金属ワイヤであり得る。
【0050】
各クロスポイントデバイス320は、セレクタと、メモリスタ、抵抗型ランダムアクセスメモリ(RRAM)、相変化メモリ(PCM)、浮遊ゲート、スピントロニクスデバイス、動的ランダムアクセスメモリ(DRAM)、強誘電体ランダムアクセスメモリ(FeRAM)、静的ランダムアクセスメモリ(SRAM)等のような一以上のメモリデバイスであり得る、及び/又は、これらを含み得る。下で
図3Bに関して記載されるように、クロスポイントデバイス320の各々は一以上のコンポーネントを含み得る。幾つかの実施形態において、クロスポイントデバイス320のうち一以上は、複数のメモリスタデバイス(1SnR構造とも呼ばれる)に直列接続されるセレクタも含み得る。
【0051】
クロスポイントデバイス320のうち一以上は、操作(例えば読み取り操作、書き込み操作等)を実施するように選択され得る。例えば、クロスポイントデバイス320ijを選択するには、セレクタ閾値電圧Vに等しい適当なプログラミング電圧がクロスポイントデバイス320ijに印加され得る。より詳しく記すと、例えば、+V/2の電圧と-V/2の電圧とが、選択されたワード線313jと選択されたビット線311iとにそれぞれ印加され得る。それ故、クロスポイントデバイス320ijでの電圧は全電圧Vである。故にクロスポイントデバイスはオン状態に変わる。ワード線313jに接続されている他のクロスポイントデバイスと、ビット線311iに接続されている他のクロスポイントデバイスとは、これらのデバイスの各々が+V/2の電圧と-V/2の電圧のいずれかを受けるので、半選択デバイスと見なされる。半選択デバイスはオフ状態のままである。ワード線313jにもビット線311iにも接続されていないクロスポイントデバイスは非選択デバイスであり、やはりオフ状態のままであり得る。クロスポイントデバイスのオン/オフ状態は、セレクタのオン/オフ状態と一致している。すなわち、セレクタに印加される電圧が閾値電圧Vより高い時にクロスポイントデバイスとセレクタとはオン状態にあって、セレクタに印加される電圧が閾値電圧の半分の+V/2又は-V/2より低い時にクロスポイントデバイスとセレクタとはオフである。一つのセレクタデバイスが一つのメモリデバイスに直列接続される1S1R構成で、オフ状態でのセレクタの抵抗はメモリデバイスのそれよりはるかに高い。それ故、電圧分割ルールにより、セレクタは、メモリデバイスで発生される電圧降下より著しく大きい電圧降下を発生させる。クロスデバイスに印加される電圧はセレクタで降下してセレクタをオン状態に変える。電圧分割ルールによれば、セレクタがオンに変わる(例えば導電性である)と、クロスポイントデバイスに印加される電圧はメモリデバイスの操作の為にメモリデバイスで降下する。セレクタがオンに変わると、セレクタに接続されたメモリデバイスが選択される。下でより詳しく考察されるように、適当なプログラミング信号をメモリデバイスに印加することにより、メモリデバイスは高抵抗状態(HRS)と低抵抗状態(LRS)との間で電気的にスイッチされ得る。その為、メモリデバイスは、クロスポイントデバイスのオン/オフ状態に依存しないオン/オフ状態又はメモリ状態を有し得る。
【0052】
クロスバー回路300は、並列的な電圧加重乗算及び電流加重加算を実施し得る。例えば、クロスバー回路300の一以上の行(例えば選択された一以上の行)に入力電圧が印加され得る。入力信号は、クロスバー回路300の行のクロスポイントデバイスに流れ得る。クロスポイントデバイスの導電率は特定の値(「加重」とも呼ばれる)に調整され得る。オームの法則に従って、入力電圧にクロスポイント導電率を掛けるとクロスポイントデバイスからの電流が得られる。キルヒホッフの法則に従って、各列のデバイスを通過する電流の加算により出力信号としての電流が得られ、これが列から読み取られ得る(例えばADCの出力)。オームの法則及びキルヒホッフの電流法則に従って、クロスバーアレイの入力出力関係はI=VGとして表され、Iは出力信号マトリクスを電流として表し、Vは入力信号マトリクスを電圧として表し、Gはクロスポイントデバイスの導電率マトリクスを表す。その為、オームの法則に従ってクロスポイントデバイスの各々で入力信号が加重される。加重電流は各ワード線を介して出力され、キルヒホッフの電流法則に従って蓄積され得る。これは、クロスバーアレイで実施される並列的な乗算及び加算を介したインメモリコンピューティング(IMC)を可能にする。
【0053】
図3Bは、本開示の幾つかの実施形態によるクロスポイントデバイスの一例320を示す模式図である。図示されているように、クロスポイントデバイス320は、メモリデバイス321と、メモリデバイス321に直列接続されたセレクタ325とを含み得る。
【0054】
メモリデバイス321は、上部電極と底部電極との間に構築されるスイッチング酸化物層を含み得る。スイッチング酸化物層はHfOx又はTaOxのうち少なくとも一つのような一以上の遷移金属酸化物を含み、xは、完全(又は最終)酸化物と比較して酸化物が酸素不足であることを示すのに使用され、xの値は、HfOxについてはx≦2.0(HfO
2は完全酸化物である)、TaOxについては≦2.5(Ta
2O
5は完全酸化物である)のように、完全酸化物の化学量の酸素金属原子比から変化し得る。幾つかの実施形態では、
図8A及び
図8Bに関してより詳しく記載されるが、メモリデバイス321及びセレクタ325が一方のデバイスの上部電極及び他方のデバイスの底部電極として同じ電極を共有し得るように、メモリデバイス321とセレクタ325とが垂直に積み重ねられ得る。
【0055】
適当なプログラミング信号をRRAMデバイスに印加することにより、メモリデバイス321の抵抗は高抵抗状態(HRS)と低抵抗状態(LRS)との間で電気的にスイッチされ得る。例えば、RRAMデバイスは初期状態又はバージン状態にあって、電気的シミュレーション(例えばRRAMデバイスに印加される電圧又は電流信号)を受ける前に初期の高抵抗を有し得る。メモリデバイス321は、形成プロセスを介して低抵抗状態からバージン状態へ、あるいは設定プロセスを介してHRSからLRSに変わり得る。形成プロセスは、バージン状態から始まるデバイスのプログラミングを指し得る。設定プロセスはHRSから始まるデバイスのプログラミングを指し得る。
【0056】
上で
図1乃至
図2Cに関して記載されたように、セレクタ325はセレクタ100、200a、200b、及び/又は、200cであり得る、及び/又は、これらを含み得る。セレクタ325は、バイポーラスイッチとして作用してメモリデバイス321での電流を制御する2端子デバイスである。セレクタを通過する電流は、セレクタに印加される電圧により非線形的に変化する。セレクタ325に印加される電圧が閾値電圧の半分(+V/2又は-V/2)未満である時に、セレクタ325は高抵抗状態であり得る。セレクタ325に印加される電圧が閾値電圧Vに達するかこれを超えた時に、セレクタ325は導電性となり、セレクタに接続されたメモリデバイス321が作動するように選択される。適当なプログラミング電圧(閾値電圧に等しいかこれより大きい電圧)がクロスポイントデバイス320に印加されて、メモリデバイス321を望ましい導電率にプログラムし得る。
【0057】
図4は、本開示の幾つかの実施形態によるvdW材料例のバンドギャップ及び電子親和力を示す図である。図のように、各vdW材料は特定のエネルギーバンドEgと関連している(矩形バーは、伝導帯の最低エネルギー(Ec)と価電子帯の最高エネルギー(Ev)との差に対応する、選択されたvdW材料のバンドギャップを表す)。
図4に示されているように、異なるvdW材料は多様な電子親和力を有し得る。例えば、
図4に示されているように、SnS
2、ZrS
2、HfS
2、MoS
2、MoTe
2、WSe
2、グラフェン(Gr)、そしてh‐BNは低い電子親和力を有する。
【0058】
図5は、本開示の幾つかの実施形態によるセレクタの電流電圧(I‐V)特性を示す図である。図のように、セレクタは電流電圧非線形性を呈する。すなわち、セレクタに印加される電圧によりセレクタを通過する電流が非線形的に変化する。セレクタの非線形性は、全電圧Vでの電流(例えば、
図5に示されている電圧511に対応する電流501)と、全電圧の半分(V/2)での電流(例えば、
図5に示されている電圧513に対応する電流503)との比に対応する非線形性係数Kにより測定され得る。全電圧Vは、セレクタを導電状態にスイッチし得る閾値電圧であり得る。すなわち、セレクタに印加される電圧が全電圧Vに達するかこれを超えた時に、セレクタは導電性であり、セレクタにより制御されるメモリ又はコンピューティングセルが選択される。
図6に示されているように、Kの値は約10
7であるか10
7より大きい。その為、本明細書に開示されるセレクタは高い非線形性を呈する。
【0059】
図6は、本開示の幾つかの実施形態によるセレクタの非線形性を示す図である。図のように、セレクタの非線形性係数Kは10
7より高い。Kの値は様々な用途について10
2、10
5等より高くてもよい。従って、セレクタは望ましい高い非線形性を備える。
【0060】
図7Aは、本開示の幾つかの実施形態によるセレクタのトンネル障壁700aの例のバンド図である。エネルギー障壁700aは、障壁の中心にE
0の障壁高さを持つ対称線701a及び703aにより規定される三角形状である。トンネル障壁700aは三角形トンネル障壁とも呼ばれる。障壁の全幅は2a(X軸上の-aから+a)である。外部電圧V
appliedがないと、E
0より低いエネルギーを持つ(矢印750aにより表される)電子は、エネルギー障壁でトンネリングを行う必要がある。その為、セレクタを通過する電流は低く、セレクタはオフ状態にある。外部電圧V
appliedがセレクタに印加されると、点線711aにより示されているようにエネルギー障壁が低下する。矢印750aにより表される電子は、自由に障壁を移動できる。その為、セレクタを通過する電流は高く、セレクタはオン状態(導電状態)にある。
【0061】
図7Bは、本開示の幾つかの実施形態によるセレクタのエネルギー障壁700bの例のバンド図である。エネルギー障壁700bは階段状エネルギー障壁とも呼ばれ、
図7Aの三角形トンネル障壁700aに近似し得る。図のように、エネルギー障壁700bは、線701b,702b,703b,704b,705b,706b,707bにより規定される階段形状であり、障壁の中心に障壁高さE
0を持つ。障壁の全幅は2a(X軸上の-aから+a)である。これは、層223aと層225aとの間に中心層121が挟持された、
図2Aに示されているn=1の(2n+1)個の層の一例であり得る。エネルギー障壁700bはエネルギーを表すY軸について対称的であるが、これは例示的に過ぎない。幾つかの実施形態において、エネルギー障壁700はY軸について対称的ではない。
【0062】
外部電圧Vappliedがないと、E0より低いエネルギーを持つ(矢印750bにより表される)電子は、エネルギー障壁でトンネリングを行う必要がある。その為、セレクタを通過する電流は低く、セレクタはオフ状態にある。外部電圧Vappliedがセレクタに印加されると、点線711bに示されているようにエネルギー障壁が低下する。矢印750bにより表されている電子は自由に障壁を移動できる。その為、セレクタを通過する電流は高く、セレクタはオン状態(導電状態)にある。vdW材料の層をより多く持つセレクタは、細かいステップを持つ階段状エネルギー障壁を有するため、vdW材料の層が比較的少ないセレクタよりも三角形トンネル障壁700aに近似し得る。
【0063】
図8A及び
図8Bは、本開示の幾つかの実施形態による1S1R構造の例の断面状態を示す模式図である。
【0064】
図8Aに示されているように、1S1R構造800aは、第1電極110と、第1電極110の上に構築される多層障壁120と、多層障壁構造120の上に構築されてセレクタ805を完成させる第2電極130とを含み得る。メモリデバイス810は、セレクタ805の第2電極130の上に構築され得る。メモリデバイス810は、底部電極、スイッチング酸化物、そして上部電極等を含む独自のデバイススタックを有し得る。幾つかの実施形態において、メモリデバイス810は、(例えば、第2電極130を底部電極として使用することにより)一以上の電極をセレクタ805と共有し得る。第1電極110と多層障壁構造120と第2電極130とは、上で
図1乃至2Cに関して記載された同等物に対応し得る。この実装例で、メモリデバイス810はセレクタ805の第2電極130の上方に構築される。
【0065】
メモリデバイス810は、メモリスタ、RRAM、PCM、浮遊ゲート、スピントロニクスデバイス、DRAM、FeRAM、SRAM等のようなプログラマブル導電率を持つ適当な材料である、及び/又は、これを含み得る。幾つかの実施形態において、メモリデバイス810は、HfOx、TaOx、TiOx、NbOx、ZrOx等のような一以上の遷移金属酸化物を含むスイッチング酸化物層を含み得る。幾つかの実施形態において、スイッチング酸化物層はHfOx又はTaOxのうち少なくとも一つを含み、xは完全(又は最終)酸化物と比較して酸素が不足している酸化物を指すのに使用され、HfOxについてはx≦2.0(HfO2は完全酸化物である)、TaOxについてはx≦2.5(Ta2O5は完全酸化物である)のように、xの値は完全酸化物の化学量の酸素金属原子比から変化し得る。
【0066】
図8Bに示されているように、1S1R構造800bはメモリデバイス810とセレクタ805とを含み得る。この実装例において、セレクタ805はメモリデバイス810の上に構築される。第1電極110と多層障壁構造120と第2電極130とは、上に記載されているように、メモリデバイス810の上方に連続して構築され得る。メモリデバイス810は、底部電極、スイッチング電極、上部電極等を含む独自のデバイススタックを有し得る。多層障壁構造120は第1電極110の上に構築され、第2電極130は多層障壁構造120の上に構築される。
【0067】
図1、2A乃至
図2C、
図8A乃至8Bには或る種の層が図示されているが、これは例示的に過ぎない。本明細書に記載されているセレクタ及び1S1R構造は、メモリ及びコンピューティング用途を実装するのに適当なコンポーネント及び/又は層も含み得る。例えば、メモリデバイス810は、スイッチング酸化物層の遷移金属酸化物より化学的に安定している一以上の材料による一以上の界面層(不図示)を含み得る。
【0068】
図9は、本開示の幾つかの実施形態によるセレクタ及び/又は1S1R構造を構築する為の方法の一例900を示す流れ図である。1S1R構造は、
図8Aに関して記載された1S1R構造800aであり得る。
【0069】
ブロック910では、第1電極110が構築され得る。第1電極は、上の
図1に関して記載された第2電極110を含み得る。第1電極の構築は、適当な導電性の材料の層を堆積することを伴い得る。
【0070】
ブロック920では、第1電極の上に多層障壁構造が構築され得る。多層障壁構造は複数のvdW材料の複数の層を含み得る。多層障壁構造は、
図1乃至2Cに関して記載された多層障壁構造120、120a、120b、及び/又は、120cであり得る、及び/又は、これらを含み得る。多層障壁構造の構築は、第1電極の上に層123nを構築することと、中心層121を構築することと、層125nを構築することとを含み得る。多層障壁構造の構築は更に、層123aと123nとの間に一以上の層123iを、そして層125aと125nとの間に一以上の層123jを構築することを含み得る。vdW材料の層の各々は、化学蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)、物理蒸着(PVD)のような様々な超薄膜堆積技術により成長され得る。幾つかの実施形態では、例えば、vdW材料の一以上の層を第1電極に転写する、及び/又は、多層障壁構造の一以上の他のvdW層を転写してセレクタを構築することにより、適当な層転写技術を利用して多層障壁構造が構築され得る。
【0071】
ブロック930では、第2電極が多層障壁構造の上に構築され得る。第2電極は、上で
図1に関して記載された第2電極130を含み得る。第2電極の構築は、適当な導電性の材料の層をメモリデバイスに堆積することを伴い得る。
【0072】
ブロック940で、セレクタデバイスの第2電極の上にメモリデバイスが構築され得る。メモリデバイスの構築は、底部電極、スイッチング酸化物層、上部電極等を構築することを伴い得る。スイッチング酸化物層は、TaOx、HfOx、TiOx、NbOx、ZrOxのような一以上の遷移金属酸化物を含み得る。スイッチング酸化物層は、PVD、CVD、ALD、及び/又は、他の適当な堆積技術を利用して堆積され得る。幾つかの実施形態において、セレクタデバイスの第2電極は、メモリデバイスの底部電極として使用され得る。
【0073】
図10は、本開示の幾つかの実施形態によるセレクタ及び1S1Rデバイスを構築する為の方法の一例1000を示す流れ図である。1S1R構造は、
図8Bに関して記載された1S1R構造800bであり得る。
【0074】
ブロック1010では、メモリデバイスが構築され得る。メモリデバイスは
図8Bに関して記載されたメモリデバイス810であって、底部電極、スイッチング酸化物、上部電極等を含む独自のデバイススタックを有し得る。メモリデバイスの構築は、TaO
x、HfO
x、TiO
x、NbO
x、ZrO
x等のような一以上の遷移金属酸化物を含むスイッチング酸化物層を構築することを伴い得る。スイッチング酸化物層は、PVD、CVD、ALD、及び/又は、他の適当な堆積技術を利用して堆積され得る。
【0075】
ブロック1020では、メモリデバイス810の上に第1電極110が構築され得る。幾つかの実施形態において、メモリデバイス810の上部電極は、セレクタデバイスの第1電極110としても使用され得る。
【0076】
ブロック1030では、第1電極110の上に多層障壁構造が構築され得る。例えば、
図9のブロック920に関して記載された一以上の操作が、多層障壁構造を構築するように実施され得る。
【0077】
ブロック1040では、多層障壁構造に第2電極が構築され得る。第2電極は、上で
図1に関して記載された第2電極130を含み得る。第2電極の構築は、適当な導電性の材料の層をメモリデバイスに堆積することを伴い得る。
【0078】
説明の単純化の為に、本開示の方法は一連の動作として図示及び記載されている。しかしながら、本開示による動作は、様々な順序で、及び/又は、並行的に、そして本明細書に提示及び記載されていない他の動作とともに行われ得る。更に、開示された主題に従って方法を実装するのに、図示された動作全てが必要とされるわけではない。加えて、状態図又は事象を介して一連の相関状態として方法が代替的に表現され得ることを当業者は理解及び認識するだろう。
【0079】
「およそ(approximately)」、「約(about)」、「実質的に(substantially)」の語は、幾つかの実施形態では目標寸法の±20%以内、幾つかの実施形態では目標寸法の±10%以内、幾つかの実施形態では目標寸法の±5%以内、幾つかの実施形態では±2%以内をも意味するのに使用され得る。「およそ」と「約」の語は目標寸法を含み得る。
【0080】
先行の記載では、多数の詳細が挙げられている。しかしながら、これらの明確な詳細を含まずに本開示が実践され得ることは明白であろう。幾つかの事例では、開示を不明瞭にするのを回避する為に、周知の構造及びデバイスが詳細にではなくブロック図の形で示されている。
【0081】
「第1(first)」、「第2(second)」、「第3(third)」、「第4(fourth)」等の語は、本明細書で使用される際に、異なる要素を区別するラベルとしての意味を持ち、数字表示による序数の意味を必ずしも有していない。
【0082】
「例(example)」又は「例示的な(exemplary)」という単語は、例、実例、例示として機能することを意味するように本明細書で使用される。「例」又は「例示的な」と本明細書に記載される態様又は設計は、他の態様又は設計よりも好適又は有利であると必ずしも解釈されるわけではない。むしろ、「例」又は「例示的な」という単語の使用は概念を具体的に提示することが意図されている。本出願で使用される際に、「又は(or)」の語は、排他的な「又は」ではなく包括的な「又は」を意味することが意図されている。すなわち、他に明記されないか文脈から明白でない限り、「XはA又はBを含む」は自然な包括的置換のいずれかを意味することが意図されている。すなわち、XがAを含む、XがBを含む、あるいは、XがAとBの両方を含む場合には、「XはA又はBを含む」は上記の事例のいずれかで満たされる。加えて、冠詞“a”及び”an”は、本明細書及び添付の請求項で使用される際に、単数形についてのものであると他に明記されないか文脈から明白でない限り、「一以上の(one or more)」を意味すると概して解釈されるべきである。本明細書全体での「実装例(an implementation)」又は「一実装例」one implementation)」についての言及は、実装例に関して記載された特定の特徴、構造、又は特性が少なくとも一つの実装例に含まれることを意味する。故に、本明細書全体の様々な箇所での「実装例」又は「一実装例」という語句の出現は、必ずしも、全てが同じ実装例に言及しているわけではない。
【0083】
本明細書で使用される際に、要素又は層が別の要素又は層の「上に」あると言及される時に、要素又は層は他の要素又は層のすぐ上にあるか、介在の要素又は層が存在し得る。対照的に、要素又は層が別の要素又は層の「すぐ上に」あると言及される時には、介在の要素又は層は存在しない。
【0084】
先行の記載を読んだ後に本開示の多くの変更及び修正が当業者に自明となることは疑いようがないが、例示として図示及び記載された特定の実施形態がいかなる点でも限定と見なされる意図はないことが理解されるはずである。それ故、様々な実施形態の詳細についての言及は請求項の範囲を限定する意図はなく、請求項自体には開示と見なされる特徴のみが記載されている。
【符号の説明】
【0085】
100 セレクタ
110 第1電極
120,120a,120b,120c 多層障壁構造
121 中心層/第1層
123a,123b,...,123n-1,123n 層
125a,125b,...,125n-1,125n 層
130 第2電極
200a,200b,200c セレクタ
223a 第2層
223b 第4層
223c 第6層
225a 第3層
225b 第5層
225c 第7層
300 クロスバー回路
311a,311i,311n ビット線
313a,313j,313m ワード線
320;320a,320b,320ij,320z クロスポイントデバイス
321 メモリデバイス
325 セレクタ
501 電流
503 電流
511 電圧
513 電圧
700a,b エネルギー障壁
701a,701b 対称線
702b 線
703a,703b 対称線
704b 線
705b 線
706b 線
707b 線
711a,b 点線
750a,b 矢印
800a,b 1S1R構造
805 セレクタ
810 メモリデバイス
900 方法例
1000 方法例
E0 障壁高さ