(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】ラックとメカニカルエンドストップとの間の機械衝撃の場合にパワーステアリングモータに供給される物理供給電流を制限することを可能にするパワーステアリングシステムの制御方法。
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241211BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2022546357
(86)(22)【出願日】2021-02-03
(86)【国際出願番号】 FR2021050191
(87)【国際公開番号】W WO2021156566
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2024-01-11
(32)【優先日】2020-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブシェ アルノー
(72)【発明者】
【氏名】ポンセ ギラン
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-29349(JP,A)
【文献】特開2008-143200(JP,A)
【文献】特開2018-30533(JP,A)
【文献】特開2007-216745(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0023313(US,A1)
【文献】特開2012-240537(JP,A)
【文献】特開2016-74287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04, 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのステアリングコンピュータ(20)と、少なくとも1つのステアリングホイール(3)と、物理供給電流(CA)を消費してモータトルク(T12)を少なくとも1つのラック(6)に与える少なくとも1つのアシストモータ(12)と、を備え、前記少なくとも1つのラック(6)の移動が少なくとも1つの機械ストップ(B)によって制限された、
車両(2)のパワーステアリングシステム(1)の制御方法(50)であって、
前記制御方法(50)は、前記少なくとも1つのラック(6)と前記少なくとも1つの機械ストップ(B)との間の衝撃(X)に際して前記少なくとも1つのアシストモータ(12)の前記物理供給電流(CA)を制限するように意図されており、
前記制御方法(50)は、
前記少なくとも1つのステアリングコンピュータ(20)が前記少なくとも1つのアシストモータ(12)の設定値トルク(Cc)を決定する決定ステップ(E1)と、
前記少なくとも1つのステアリングコンピュータ(20)が前記少なくとも1つのアシストモータ(12)の設定値供給電流(CM)を決定する駆動ステップ(E2)と、を含み、
前記制御方法(50)は、
前記少なくとも1つのステアリングコンピュータ(20)が前記少なくとも1つのラック(6)と前記少なくとも1つの機械ストップ(B)との間の衝撃(X)を検出する検出ステップ(E3)と、
前記駆動ステップ(E2)により決定される前記設定値供給電流(CM)が最大設定値供給電流よりも小さくなるように、衝撃(X)が検出されるときに保護信号(SP)を前記駆動ステップ(E2)に発する保護ステップ(E5)と、
をさらに含む、ことを特徴とする制御方法(50)。
【請求項2】
前記保護信号(SP)は、制限設定値トルク(C3)に対応する、請求項1に記載の制御方法(50)。
【請求項3】
前記保護信号(SP)は、前記駆動ステップ(E2)の少なくとも1つの制御パラメータに対応する、請求項1又は2に記載の制御方法(50)。
【請求項4】
前記検出ステップ(E2)は、衝撃(X)が検出されるときに衝撃信号(S)を発する、請求項1から3のいずれか1つに記載の制御方法(50)。
【請求項5】
前記保護信号(SP)は、前記衝撃信号(S)に依存する、請求項4に記載の制御方法(50)。
【請求項6】
前記衝撃信号(S)を受けてアプリケーション信号(SA)を前記保護ステップ(E5)に発するタイミングステップ(E4)を含む、請求項4又は5に記載の制御方法(50)。
【請求項7】
前記タイミングステップ(E5)は、衝撃(X)の検出後に前記保護信号(SP)が発せられる期間に対応するアプリケーション時間(Ta)を含む、請求項6に記載の制御方法(50)。
【請求項8】
前記タイミングステップ(E5)は、衝撃(X)の検出後に前記保護信号(SP)が発せられ得ない期間に対応する除外時間(Te)を含む、請求項6又は7に記載の制御方法(50)。
【請求項9】
前記検出ステップ(E3)は、前記アシストモータ(12)の加速度(
)によって衝撃(X)を検出する、請求項1から8のいずれか1つに記載の制御方法(50)。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1つに記載の制御方法(50)を実施することを可能にする、車両(2)のパワーステアリングシステム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用パワーステアリングシステムの分野に関し、より詳細には、ラックと機械ストップとの間の衝撃に際してアシストモータの物理供給電流を制限する制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリングシステムの目的は、ドライバーがステアリングホイールに力を与えることによって車両の軌道を制御することを可能にすることにある。
【0003】
一般に、ステアリングシステムは、ステアリングコラムに接続された上記ステアリングホイールと、ラックと、タイロッドにそれぞれ接続された2つのホイールと、を含むいくつかの要素を、備える。ラックは、ステアリングホイールをステアリングコラムを介してホイールにタイロッドを介して接続することを可能にする部分であり、すなわち、ラックは、ドライバーによりステアリングホイールに与えられる力を車両のホイールの回転に変換する。
【0004】
ラックは、ラックの第1極限位置と第2極限位置とを決定する2つの機械ストップの間で、並進移動可能である。
【0005】
車両の電動パワーステアリングシステムは、ステアリングコンピュータにより駆動されるアシストモータを用いて、車両のホイールを回転させるためにドライバーによりステアリングホイールに与えられる労力を低減する。特に、ステアリングホイールに与えられる力、すなわちステアリングホイールトルクに基づいて、ステアリングコンピュータは、以下で設定値トルクと呼ばれるアシストトルクを決定する。その後、ステアリングコンピュータは、設定値トルクに基づいて、アシストモータの設定値供給電流を決定する。設定値供給電流及びアシストモータに与えられる制約から、アシストモータは、物理供給電流を消費する。換言すると、物理供給電流は、アシストモータを流れる実際の電流である。物理供給電流は、制約が制御可能でないので、制御可能でない。デジタル信号である設定値供給電流のみは、制御可能である。
【0006】
最後に、アシストモータは、アシスト力、すなわちモータトルクを、ラックに与える。そして、ラックは、ホイールを回転させるように、並進移動を行う。
【0007】
適切な動作の場合、モータトルクは、設定値トルクに実質的に等しく、物理供給電流は、設定値供給電流に実質的に等しい。
【0008】
本明細書の残りでは、「トルク」という用語は、実際に物理トルクに対応するモータトルクの場合を除いて、トルクを表すデジタル又はアナログ信号を指す。
【0009】
ラックが機械ストップに近づくとき、ドライバーからの追加ステアリングホイールトルクは、ラックを上記機械ストップに接触させる。上記追加ステアリングホイールトルクが高いとき、設定値トルクも高く、停止を伴う機械衝撃が生じるまで、ラックの接近速度を増大又は維持する。機械衝撃は、パワーステアリングシステムを、過電流現象に、すなわち最大物理供給電流を超えたアシストモータの物理供給電流の急激な増大に、さらし、ステアリングコンピュータを劣化させ、及び/又は、アシストモータの正しい動作の監視を妨害する。
【0010】
より具体的には、過電流現象は、第1に、ラック速度の大きな変動の結果から生じており、第2に、ステアリングホイールトルクの増大の結果から生じる。
【0011】
衝撃時のラック速度の減速に対応する、ラック速度の強い変動に際して、結果は、アシストモータの端子における逆起電力の急激な低下であり、物理供給電流を最終的に増大させる非補償電圧妨害として知覚される。
【0012】
ステアリングコンピュータの制御パラメータを変更することで、これらの電圧妨害を予測して排除することによって、ラック速度の強い変動の結果に対抗することを可能にする解決手段が、知られている。ステアリングコンピュータの性能、安定性及びロバスト性を制御することを可能にするパラメータは、ステアリングコンピュータ制御パラメータと呼ばれる。
【0013】
閉ループサーボ制御の場合、設定制御パラメータは、例えば、比例、積分又は微分ゲインのような、ゲインとすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、この解決手段は、ステアリングシステムのロバスト性及び安定性マージンの低減のような、望ましくない副作用を発生させる。
【0015】
ステアリングホイールトルクの増大の結果は、機械衝撃に関連する。実際、ラックがステアリングコラムによってステアリングホイールに接続されると、ラックの急撃な停止は、著しいステアリングホイールトルクを生じて、したがって、設定値トルクを増大して、これにより、設定値供給電流の増大を誘発して、最後に、アシストモータの物理供給電流を増大する。
【0016】
ラックと機械ストップとの間の機械衝撃を、上記機械ストップに近づくときに設定値トルクを低減することによって、低減することを可能にする解決手段がある。この解決手段は、効果的であるけれども、ステアリングホイールの角度を知ることを必要とし、全てのステアリングシステムに当てはまるわけではない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の目的は、少なくとも1つのステアリングコンピュータと、少なくとも1つのステアリングホイールと、物理供給電流を消費してモータトルクを少なくとも1つのラックに与える少なくとも1つのアシストモータと、を備え、前記少なくとも1つのラックの移動が少なくとも1つの機械ストップによって制限され、前記少なくとも1つのラックと前記少なくとも1つの機械ストップとの間の衝撃に際して前記少なくとも1つのアシストモータの前記物理供給電流を制限するように意図された、車両のパワーステアリングシステムの制御方法を、提案することによって、特にステアリングホイールの角度がない場合において、上述の欠点の全部又は一部を改善することにある。
【0018】
前記制御方法は、前記少なくとも1つのステアリングコンピュータが前記少なくとも1つのアシストモータの設定値トルクを決定する決定ステップと、前記少なくとも1つのステアリングコンピュータが前記少なくとも1つのアシストモータの設定値供給電流を決定する駆動ステップと、を含む。
【0019】
前記制御方法は、前記少なくとも1つのステアリングコンピュータが前記少なくとも1つのラックと前記少なくとも1つの機械ストップとの間の衝撃を検出する検出ステップと、前記駆動ステップにより決定される前記設定値供給電流が最大設定値供給電流よりも小さくなるように、衝撃が検出されるときに保護信号を前記駆動ステップに発する保護ステップと、をも含むことを特徴とする。
【0020】
検出ステップは、ラックが著しい減速、すなわち決定された閾値よりも大きな減速を受ける衝撃状況を、検出することを可能にする。この目的のために、検出ステップは、ラックの加速度を表すパラメータと上記パラメータの所定の閾値との比較を、実行する。
【0021】
所定の閾値は、パラメータに依存するが、例えばその材料のような停止の技術、及びパワーステアリングシステムの減速ゲイン又は歯車比にも、依存する。所定の閾値は、例えばドライバーにより制御される操縦又は車両が走行している道路から起こる外乱時のような、ラックの他のいかなる動作状況よりもはるかに高くなるように、選択される。
【0022】
物理供給電流が最大物理供給電流を超えないことを確保するために、いくつかの方法がある。本発明に係る方法は、設定値供給電流を最大設定値供給電流に制限することによって、そのようにすることを可能にする。
【0023】
保護ステップは、衝撃が検出されるときに、保護信号を発する。換言すると、駆動ステップにより決定されるアシストモータの設定値供給電流が最大設定値供給電流よりも小さくなるように、設定値トルクは、保護信号によって、置換及び/又は補完される。
【0024】
したがって、逆起電力の急激な降下につながるラック速度の大きな変動の結果及びステアリングホイールトルクの増大の結果は、設定値供給電流の低減よって間接的に補償されており、アシストモータを通って流れる物理電源電流の低減を可能にする。したがって、過電流現象は、回避される。
【0025】
本発明の1つの特徴によれば、前記保護信号は、制限設定値トルクに対応する。
【0026】
設定値供給電流が最大設定値供給電流を超えないことを確保するために、いくつかの方法がある。解決手段の1つは、衝撃が検出されるときに、駆動ステップに伝えられる設定値トルクを、制限設定値トルクに置き換えることである。制限設定値トルクは、設定値トルクの所定値である。
【0027】
したがって、制限設定値トルクは、最大設定値供給電流を超えることなく、通常の設定値供給電流に達することを加速するために、駆動ステップ中にステアリングコンピュータを欺くことを可能にする。
【0028】
本発明の1つの特徴によれば、前記保護信号は、前記駆動ステップの少なくとも1つの制御パラメータに対応する。
【0029】
衝撃が検出されるとき、保護ステップは、その制御パラメータを駆動ステップに伝える。
【0030】
したがって、限られた期間、及び衝撃の特定の状況にて、ラック速度の大きな変動の結果は、ステアリングコンピュータの少なくとも1つの制御パラメータを変更することによって、減衰される。このようにして、最大物理供給電流を超えることなく、通常の物理供給電流に達することを加速することが、可能である。
【0031】
制御パラメータの変形例は、時間的に非常に限られた方法で実行されるので、車両のドライバーに知覚可能なエッジ効果はない。
【0032】
本発明の1つの特徴によれば、前記検出ステップは、衝撃が検出されるときに衝撃信号を発する。
【0033】
このように、衝撃信号は、機械ストップに対するラックの衝撃状況を知らせる。
【0034】
衝撃信号は、衝撃が検出されるときに発せられ得る、又は逆に、衝撃が検出されるときに遮断され得る。
【0035】
本発明の1つの特徴によれば、前記保護信号は、前記衝撃信号に依存する。
【0036】
したがって、アシストモータの設定値供給電流を制限する保護信号は、衝撃が検出されるときにのみ、発せられる。
【0037】
本発明の1つの特徴によれば、前記制御方法は、前記衝撃信号を受けてアプリケーション信号を前記保護ステップに発するタイミングステップを含む。
【0038】
タイミングステップは、衝撃が検出されるときに、保護信号の発出がどのように実行されるべきかを、決定する。
【0039】
実際、例えば故障に続いて、保護信号が不規則に発せられる場合、これは、方法の安全性を低下させるかもしれない。
【0040】
本発明の1つの特徴によれば、前記保護ステップは、前記アプリケーション信号が存在するときに前記保護信号を発する。
【0041】
本発明の1つの特徴によれば、前記タイミングステップは、衝撃の検出後に前記保護信号が発せられる期間に対応するアプリケーション時間を含む。
【0042】
アプリケーション時間は、衝撃信号が検出された後に保護信号が発せられる期間である。
【0043】
したがって、アプリケーション時間は、衝撃が検出されるとき、保護信号が過電流現象を回避するのに十分な長さだけ発せられるが、方法の安全性を危うくし得る特定の期間を超えないことを、確保する。
【0044】
本発明の1つの特徴によれば、前記タイミングステップは、衝撃の検出後に前記保護信号が発せられ得ない期間に対応する除外時間を含む。
【0045】
除外時間は、保護信号が発せられ得ない期間である。除外時間は、アプリケーション時間に従う。
【0046】
したがって、除外時間は、ある期間中に保護信号が発せられる回数を制限する。このようにして、方法の安全性は、保たれる。
【0047】
本発明の1つの特徴によれば、前記検出ステップは、前記アシストモータの加速度によって衝撃を検出する。
【0048】
アシストモータの加速度は、容易に測定可能なデータであるアシストモータの速度を微分することによって、得られる。加速度は、速度よりも速いダイナミクスを有する。したがって、加速度閾値によって衝撃を検出することが、実用的である。
【0049】
本発明はまた、本発明に係る制御方法を実施することを可能にする、車両のパワーステアリングシステムに、関する。
【0050】
本発明は、非限定的な例として与えられ、添付の概略図を参照して説明される、本発明に係る一実施形態に関する以下の説明のおかげで、より良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】
図1は、パワーステアリングシステムの概略図である。
【
図3】
図3は、衝撃時におけるステアリングモータの速度を表すグラフである。
【
図4】
図4は、衝撃時におけるステアリングモータの加速度を表すグラフである。
【
図5】
図5は、衝撃時におけるステアリングホイールの角度を表すグラフである。
【
図6】
図6は、本発明に係る方法が存在しない場合の衝撃時におけるステアリングモータの設定値トルク及びモータトルクを表すグラフである。
【
図7】
図7は、本発明に係る方法が存在しない場合の衝撃時におけるステアリングモータの物理供給電流及び最大物理供給電流を表すグラフである。
【
図8】
図8は、本発明に係る方法が存在する場合の衝撃時におけるステアリングモータの設定値トルク及びモータトルクを表すグラフである。
【
図9】
図9は、本発明に係る方法が存在する場合の衝撃時におけるステアリングモータの物理供給電流及び最大物理供給電流を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明は、車両2用の、より詳細には人の輸送を意図された自動車2用の、パワーステアリングシステム1を管理するための、方法に関する。
【0053】
それ自体公知の方法で、
図1に示されるように、上記パワーステアリングシステム1は、ステアリングホイール3を備える。ステアリングホイール3は、上記ステアリングホイール3に「ステアリングホイールトルク」T3と呼ばれる力を与えることによって、ドライバーが上記パワーステアリングシステム1を操作することを可能にする。ステアリングホイールトルクT3は、トルクセンサ23によって測定される。
【0054】
上記ステアリングホイール3は、好ましくはステアリングコラム4に取り付けられ、車両2で回転するように案内され、ステアリングピニオン5によってラック6に噛み合い、上記車両2に固定されたステアリングケーシング7において並進するように自身が案内される。
【0055】
好ましくは、上記ラック6の端部の各々は、ステアードホイール10,11のステアリングナックルに接続されたタイロッド8,9に接続されており、ラック6の並進長手変位は、ステアードホイールのステアリング角度を変更することを可能にする。ラック6の変位の振幅は、ステアリングケーシング7の右端及び左端にそれぞれ位置付けられた2つの機械ストップBによって、制限される。
【0056】
さらに、ステアードホイール10,11は、好ましくは、駆動ホイールであってもよい。
【0057】
パワーステアリングシステム1はまた、上記パワーステアリングシステム1の操作をアシストするために、モータトルクT12を提供するように意図されたアシストモータ12を、備える。
【0058】
アシストモータ12は、ブラシ又はブラシレスタイプの2つの動作方向を持つ電動モータ、好適には回転電動モータであることが好ましい。
【0059】
アシストモータ12は、必要に応じて、歯車減速機タイプの減速機を介して、ステアリングコラム4自体に係合して、所謂「シングルピニオン」機構を形成するか、又は、例えばステアリングコラム4がラック6と噛み合うことを可能にするステアリングピニオン5とは別個の第2ピニオン13によって、ステアリングラック6に直接的に係合して、
図1に示されるような所謂「ダブルピニオン」機構を形成するか、或いは、上記ステアリングピニオン5から離れた上記ラック6の対応するねじ山と協働するボールねじによって、係合する。
【0060】
パワーステアリングシステム1はまた、トルクセンサ23からステアリングホイールトルクT3を受けてアシストモータ12の設定値供給電流CMを決定するステアリングコンピュータ20を、備える。
【0061】
さらに、アシストモータ12の回転速度
は、モータ速度24又は位置センサによって、決定される。
【0062】
ステアリングコンピュータ20によって実施される本発明に係る制御方法50は、
図2において、より具体的に説明される。
【0063】
制御方法50は、ステアリングコンピュータ20が設定値トルクCcを決定する決定ステップE1を、含む。設定値トルクCcは、アシストトルクに、したがって通常ではアシストモータ12により与えられなければならないモータトルクT12に、対応する。
【0064】
制御方法50は、ステアリングコンピュータ20がアシストモータ12の設定値供給電流CMを決定する駆動ステップE2を、含む。
【0065】
設定値供給電流CM及びアシストモータ12に与えられる制約から、アシストモータ12は、物理供給電流CAを消費する。アシストモータ12の物理供給電流CAが最大物理供給電流CAmaxよりも大きい場合、ステアリングコンピュータ20は、劣化及び/又は妨害される。
【0066】
制御方法50は、ステアリングコンピュータ20がラック6と機械ストップBとの間の衝撃Xを検出する検出ステップE3を、含む。この目的のために、検出ステップE3は、アシストモータ12の回転速度
の微分からのアシストモータ12の加速度の絶対値
を計算するフェーズP1を含む。そして、検出ステップE3は、アシストモータ12の加速度の絶対値
が所定の閾値と比較される追跡フェーズP2を、含む。アシストモータ12の加速度の絶対値
が所定の閾値を超えるとき、本発明に係る方法50は、ラック6と機械ストップBとの間に衝撃Xが生じたものとみなす。そして、検出ステップE3は、衝撃信号Sを発する。
【0067】
制御方法50はまた、制御方法50の安全性を保証するように、アプリケーション信号SAを衝撃信号Sから発するタイミングステップE4を、含む。より具体的には、衝撃Xが検出ステップE3によって検出されるとき、換言すると衝撃信号Sが発せられるとき、タイミングステップE4は、アプリケーション時間Taの間、アプリケーション信号SAを発する。アプリケーション時間Taは、50ms未満、好ましくは10ms未満である。さらに、タイミングステップE4は、アプリケーション時間Taの終了後の除外時間Teの間、アプリケーション信号SAの発出を防止する。除外時間は、10s未満、好ましくは5s未満である。
【0068】
制御方法50は、設定値トルクCc及びアプリケーション信号SAを受けるとともに、アプリケーション信号SAが発せられるときに保護信号SP及び設定値トルクCcを駆動ステップE2に発する保護ステップE5を、含む。アプリケーション信号SAが存在しない場合、保護ステップE5は、決定ステップE1と干渉せずに、設定値トルクCcのみを伝える。
【0069】
保護信号SPは、所定値に制限された設定値トルクC3と、駆動ステップE2の制御パラメータと、を含む。
【0070】
図3~9は、0.5sで発生する衝撃時におけるステアリングシステム1のいくつかのパラメータを、示す。
【0071】
図3は、アシストモータ12の回転速度
を、時間Tの関数として表す。衝撃Xに際して、回転速度
は、著しく低減する。実際、ラック6は、ストップBによって、その移動を停止される。そして、回転速度
は、約0.52sで安定する前に跳ね返る。跳ね返りは、機械ストップの性質、すなわちその弾性に、関連する。
【0072】
図4は、アシストモータ12の加速度
を、時間Tの関数として示す。これは、回転速度
の微分である。したがって、加速度
は、0.52s付近で再び上昇して跳ね返って安定する前に、最小まで著しく低減する。
【0073】
図5は、ステアリングホイール3のステアリングホイール角度θ3を、時間Tの関数として示す。衝撃Xの前、ドライバーがステアリングホイール3を回転させると、ハンドル角θ3は増大する。衝撃に際して、ストップBの弾性は、ドライバーがステアリングホイールをさらに回転させることを可能にして、ステアリングホイール角度θ3は、540°の最大回転値で安定する前に、最大弾性値までさらに少し増大する。
【0074】
図6は、本発明に係る制御方法50がステアリングコンピュータ20に存在しない場合の、モータトルクT12及び設定値トルクCcを時間Tの関数として示す。
図6では、アシストモータ12は、設定値トルクCcに対応する5.2N.mに等しいモータトルクT12を、達成するべきである。しかしながら、アシストモータ12により供給されるモータトルクT12は、設定値トルクCcにて安定する前に、増大して、その後に低減する。この現象は、衝撃Xと関連する。
【0075】
図7は、本発明に係る制御方法50がステアリングコンピュータ20に存在しない場合の、時間Tの関数としてのアシストモータ12の物理供給電流CAを示す。物理供給電流CAは、
図6に示されるモータトルクT12のものと実質的に類似の曲線を、有する。換言すると、衝撃Xの後、物理供給電流CAは、安定する前に、最大物理供給電流CAmaxを超えて急激に増大して、その後に低減する。増大するとき、物理供給電流CAは、パワーステアリングシステム1における過電流現象に対応する最大物理供給電流CAmaxを超える最大値を、通過する。
【0076】
図8は、本発明に係る制御方法50がステアリングコンピュータ20に存在する場合の、モータトルクT12を時間Tの関数として示す。この場合、アシストモータ12は、保護ステップE5により発せられる制限設定値トルクC3によって要求されるプロファイルを有するモータトルクT12を、実行するべきである。このようにして、アシストモータ12により提供されるモータトルクT12は、制限設定値トルクC3で安定するために、再び増大する前に、非常に僅かに増大して、その後に低減する。
図8はまた、保護信号SPのアプリケーション時間Taと、保護信号SPが発せられ得ないそれに続く除外時間Teと、を示す。
【0077】
図9は、本発明に係る制御方法50がステアリングコンピュータ20に存在する場合の、時間Tの関数としてのアシストモータ12の物理供給電流CAを示す。物理供給電流CAは、モータトルクT12のものと実質的に類似の曲線を、有する。換言すると、衝撃Xの後、物理供給電流CAは、設定値供給電流CMにおけるほとんど同時の低減のおかげで、非常に僅かに増大するが、急激に低減する。このようにして、最大物理供給電流CAmaxのオーバーランは、ほとんど存在せず、過電流現象は、現れない。
【0078】
したがって、本発明に係る制御方法50は、ステアリングホイール3のステアリングホイール角度θ3の知識を必要とすることなく、過電流現象の出現を回避することを可能にする。
【0079】
もちろん、本発明は、添付の図面に記載されて示された実施形態に、限定されない。本発明の保護範囲から逸脱することなく、特に様々な要素の構成に関して、又は技術的均等物による置換によって、変更は可能なままである。