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特許7602584安全帯の使用状況確認装置および使用状況確認システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】安全帯の使用状況確認装置および使用状況確認システム
(51)【国際特許分類】
   A62B 35/00 20060101AFI20241211BHJP
【FI】
A62B35/00 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023114812
(22)【出願日】2023-07-13
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】519163935
【氏名又は名称】クローバーエース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安江 好己
(72)【発明者】
【氏名】遠山 幸彦
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-37449(JP,A)
【文献】特許第5307654(JP,B2)
【文献】特開2021-108953(JP,A)
【文献】特開2019-67207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 35/00-99/00
G08B 19/00-21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者によって着用される安全帯本体、安全帯フック、前記安全帯本体と前記安全帯フックとを連結する命綱からなる安全帯の使用状況を確認するための、安全帯の使用状況確認装置であって、
前記安全帯フックに取り付け可能な傾斜センサーと、
前記安全帯フックに取り付け可能な無線IDタグと、
前記安全帯本体または前記安全帯本体を着用する作業者に取り付け可能な、高度計を内蔵した制御器と、
を備え、
前記制御器は、前記傾斜センサーおよび前記無線IDタグからの信号を受信可能であると共に、当該制御器は、
a) 前記高度計によって測定される高度、
b) 前記無線IDタグからの信号として提供される、無線IDタグと制御器との間の距離又は遠近に関する情報、および、
c) 前記傾斜センサーからの信号として提供される、前記安全帯フックの姿勢に関する情報、
に基づいて、安全帯フックが被係止物体に適正に係止されているか否かを判定する、ことを特徴とする安全帯の使用状況確認装置。
【請求項2】
前記制御器は、警報音発生手段を備えており、前記制御器は、安全帯フックが被係止物体に適正に係止されていないと判定した場合に、前記警報音発生手段から警報音を発生させる、ことを特徴とする請求項1に安全帯の使用状況確認装置。
【請求項3】
前記安全帯が一つの安全帯本体に対して複数の安全帯フックを有するとき、前記制御器は、複数の安全帯フックにそれぞれ取り付けられた各傾斜センサーからの信号、及び、複数の安全帯フックにそれぞれ取り付けられた各無線IDタグからの信号に基づいて、複数の安全帯フックがそれぞれ対応する被係止物体に適正に係止されているか否かを安全帯フックごとに判定する、ことを特徴とする請求項1に安全帯の使用状況確認装置。
【請求項4】
前記制御器と電気的に接続された通信子機を更に備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の安全帯の使用状況確認装置。
【請求項5】
少なくとも一つの、請求項4に記載の安全帯の使用状況確認装置と、
前記安全帯の使用状況確認装置が備える通信子機と無線通信可能な通信親機と、
前記通信親機と無線及び/又は有線にて通信可能な管理者用の通信端末装置と、
によって構築される、安全帯の使用状況確認システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全帯の使用状況確認装置と、その使用状況確認装置を統合・管理する安全帯の使用状況確認システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高所で作業する作業者を転落事故から守り安全を確保するために、作業者には安全帯の装着が義務付けられている。典型的な安全帯は、作業者によって着用される安全帯本体(腰ベルトその他の部品を含む)と、作業現場の固定物(例えば足場に設けられた水平な棒材などの被係止物体)に係止させるための安全帯フックと、安全帯本体を安全帯フックに連結する命綱とからなっている。
【0003】
従来、安全帯が作業者によって正しく使用されているか否か、より具体的には、安全帯フックが被係止物体に適正に係止されているか否かを確認するための技術や手法が種々提案されている。例えば、係止確認用の専用のフックを用いるもの(特許文献1)、特殊な形状の被係止物体を用いるもの、引き出し式のランヤードを利用するもの(特許文献2)など様々な工夫が提案されている。しかしながら、従来の工夫には概して何らかの制約が少なからず存在し、現に市販されている既存の安全帯に対して容易に適用できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-182771号
【文献】特開2009-165517号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、市販の安全帯に対しても容易に適用可能な安全帯の使用状況確認装置を提供することにある。また、そのような使用状況確認装置を用いて比較的容易に構築可能な安全帯の使用状況確認システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、作業者によって着用される安全帯本体、安全帯フック、前記安全帯本体と前記安全帯フックとを連結する命綱からなる安全帯の使用状況を確認するための、安全帯の使用状況確認装置であって、
前記安全帯フックに取り付け可能な傾斜センサーと、
前記安全帯フックに取り付け可能な無線IDタグと、
前記安全帯本体または前記安全帯本体を着用する作業者に取り付け可能な、高度計を内蔵した制御器と、
を備え、
前記制御器は、前記傾斜センサーおよび前記無線IDタグからの信号を受信可能であると共に、当該制御器は、
a) 前記高度計によって測定される高度、
b) 前記無線IDタグからの信号として提供される、無線IDタグと制御器との間の距離又は遠近に関する情報、および、
c) 前記傾斜センサーからの信号として提供される、前記安全帯フックの姿勢に関する情報、
に基づいて、安全帯フックが被係止物体に適正に係止されているか否かを判定する、ことを特徴とする安全帯の使用状況確認装置である。
なお、本発明でいう「無線IDタグ」とは、ID(識別コード)を保持すると共にIDに関する信号を無線出力可能な電子素子又は電子回路のことであり、例えばビーコンやRFIDタグは、無線IDタグの範疇に含まれる。
【0007】
好ましくは、前記制御器は警報音発生手段を備えており、制御器は、安全帯フックが被係止物体に適正に係止されていないと判定した場合に警報音発生手段から警報音を発生させる。
なお、警報音発生手段から発される警報音には、例えば警報ブザーからのブザー音が含まれる他、人の声を模した合成音声によるアナウンス(例えば「○○を確認してください」といった音声メッセージ等)も含まれる。
【0008】
好ましくは、安全帯が一つの安全帯本体に対して複数の安全帯フックを有するとき、前記制御器は、複数の安全帯フックにそれぞれ取り付けられた各傾斜センサーからの信号、及び、複数の安全帯フックにそれぞれ取り付けられた各無線IDタグからの信号に基づいて、複数の安全帯フックがそれぞれ対応する被係止物体に適正に係止されているか否かを安全帯フックごとに判定する。
好ましくは、安全帯の使用状況確認装置は、前記制御器と電気的に接続された通信子機を更に備える。
【0009】
本発明に係る安全帯の使用状況確認装置によれば、例えば、
イ)作業者が安全帯の着用を義務付けられる高度にいるときで、
ロ)安全帯フックが作業者から一定以上離れて位置するという離間状況のもと、
ハ)安全帯フックが被係止物体に適正に係止されているときに取り得る姿勢(例えば直立姿勢や直立に近い傾斜姿勢)をとっていない、
という三つの条件が同時に満たされた場合、制御器は、安全帯フックが被係止物体に適正に係止されていないと判定する(安全帯フックが複数存在する場合には、当該判定は安全帯フックごとに行われる)。そして、警報音発生手段から警報音を発して、作業者に適正な使用を促すことができる。また、必要に応じて制御器は、上記判定結果を含む安全帯の使用状況を、通信子機を介して外部に情報伝達することができる。
【0010】
本発明(本願の第2発明)は、
少なくとも一つの、前記安全帯の使用状況確認装置と、
前記安全帯の使用状況確認装置が備える通信子機と無線通信可能な通信親機と、
前記通信親機と無線及び/又は有線にて通信可能な管理者用の通信端末装置と、
によって構築される、安全帯の使用状況確認システムである。
【0011】
本発明に係る安全帯の使用状況確認システムによれば、比較的範囲の広いローカルエリアにおいて、各作業者における安全帯の使用状況に関する情報伝達が可能なシステムを容易に構築することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の安全帯の使用状況確認装置によれば、市販の安全帯に対しても比較的容易に適用可能であり、汎用性に優れている。
本発明の安全帯の使用状況確認システムによれば、各作業者における安全帯の使用状況に関する情報伝達が可能なシステムを容易に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に従う安全帯の使用状況確認装置が組み込まれた安全帯と、当該安全帯を着用した作業者の概略を示す図。
図2】安全帯における安全帯フックを示し、(A)は安全帯フックの棒材への適正な係止状態を示す図、(B)は安全帯フックの棒材への不適正な係止状態を示す図。
図3】使用可能な傾斜センサーの一例及びその検知原理を示し、(A)は正立状態(傾角0°)の傾斜センサーを示す図、(B)は傾角35°に傾いた傾斜センサーを示す図、(C)は傾角110°に傾いた傾斜センサーを示す図。
図4】安全帯の使用状況確認装置の電気的構成の概要を示すブロック図。
図5】安全帯の使用状況確認システムの構築例を示すシステム構成図。
図6】安全帯の使用状況確認装置の制御器によって実行される、安全帯の使用状況判定ルーチンを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0015】
本実施形態で使用される安全帯は、後述する後付けの電子部品や電子機器類を除いて、概ね公知であり市販品として入手可能なものである。即ち図1に示すように、本発明のベースとなる安全帯1は、作業者によって着用される安全帯本体2、安全帯フック3および命綱4からなっている。安全帯本体2は、腰ベルト、肩掛けベルト、その他の部品から構成される。命綱4は、安全帯本体2を安全帯フック3に連結するロープである。安全帯フック3は、命綱4の一端部を被係止物体(例えば作業現場に固定設置された棒材)に係止するための係止具であり、当該フック3の末端は鉤状部3aとなっている。
【0016】
図1に示すように、本実施形態では、安全帯フック3に対して傾斜センサー31及びビーコン32が取り付けられる。
【0017】
傾斜センサー31については、安全帯フックの鉤状部3aの内側の凹みを利用して当該鉤状部3aの内部に取り付けられる。この傾斜センサー31は、鉤状部3aが上向きか否かを、つまり、安全帯フック3が、鉤状部3aが上向きとなるような姿勢を保っているか否かを検知すると共に、その検知状況に関する信号を無線通信で出力する(即ち当該センサー31は無線通信モジュールを内蔵する)。例えば図2(A)に示すように、被係止物体としての棒材5に対して安全帯フックの鉤状部3aが適正に係止されている場合には、安全帯フック3は「鉤状部上向きの姿勢」をとり得る(同図において、安全帯フック3は鉤状部上向きで且つ直立の姿勢で描かれている)。この状況を反映して傾斜センサー31は、安全帯フック3が鉤状部上向きの姿勢をとっている旨を示す信号を出力する。なお、本実施形態において「鉤状部上向きの姿勢」とは、安全帯フック3が自然な垂れ下がり状態時の中心垂線Cに沿った姿勢(つまり直立姿勢)にある場合だけでなく、当該中心垂線Cから許容傾角θ(例えばθ=35°)までの範囲内で若干傾いた姿勢にある場合も含まれる。この許容傾角θは、安全帯フック3が意図せずして外れる心配の無い「揺れ又は傾きの許容範囲」に応じて適宜設定される。
【0018】
他方、図2(B)に示すように、被係止物体としての棒材5に対して安全帯フックの鉤状部3aが適正に係止されていない場合には、例えば命綱4が棒材5に引っ掛かっているだけで鉤状部3aが下向きとなるような姿勢、即ち「鉤状部下向きの倒立した姿勢」を安全帯フック3はとることになる。この状況を反映して、傾斜センサー31は、安全帯フックが鉤状部上向きの姿勢をとっていない旨を示す信号を出力する。
【0019】
図3は、本実施形態で使用可能な傾斜センサー31の一例およびその検知原理を示す。図3(A)に示すように、傾斜センサー31は、タイプの異なる二つの傾斜センサー要素(説明の便宜上、それぞれ「センサー要素タイプA」および「センサー要素タイプB」と呼ぶ)を合体させてなるものである。同図で上側に位置するセンサー要素タイプAは、互いに向かい合い且つ「ハ」の字状に左右配置された平面電極A1及びA2、並びに、当該左右電極間に配置される導電球A3を内部に備える。また、同図で下側に位置するセンサー要素タイプBは、互いに向かい合って上下配置された電極B1及びB2、並びに、当該上下電極間に配置される導電球B3を内部に備える。上の電極B1は、下側に開いた略円筒状又はコップ状の形状をなし、下の電極B2は、上側に開いた円錐状又はすり鉢状の形状をなしている。そして、センサー要素タイプAの電極A1及びA2と、センサー要素タイプBの電極B1及びB2とは並列接続されて、共に出力端子(端子出力の出力端)を構成している。
【0020】
基本的に図3(A)に示すように、センサー要素タイプA及びBからなる傾斜センサーが水平な基準面に対して正立状態にある場合、導電球A3,B3は、それぞれに対応する対向二電極(A1,A2),(B1,B2)を導通させず、端子出力はOFFとなる。
仮に図3(B)に示すように、当該傾斜センサーが水平な基準面に対して例えば35°(又はそれ以上)傾いた状態にある場合、センサー要素タイプBにおいて、導電球B3が円錐状の下電極B2の周縁付近に移動して対向二電極(B1,B2)を導通させ、その結果、端子出力はONとなる。
また図3(C)に示すように、当該傾斜センサーが水平な基準面に対して例えば110°(又はそれ以上)傾いた状態にある場合、今度は少なくともセンサー要素タイプAにおいて、導電球A3が平面電極A1及びA2によるハの字構造の奥に移動して対向二電極(A1,A2)を導通させ、その結果、端子出力はONとなる。
【0021】
このように、センサー要素タイプA及びBを組み合わせ且つそれらの電極端子を並列接続してなる図3のような傾斜センサーを採用することで、傾斜センサーの姿勢が正立状態(傾角0°)から傾角35°未満の傾きに収まる限り、端子出力はOFFが維持される。一方、傾斜センサーの姿勢が正立状態から35°以上傾くと、センサー要素タイプBによって端子出力がONとされ、更には正立状態から110°以上に傾くと、今度はセンサー要素タイプAによって端子出力がONとされる。つまり図3の傾斜センサーによれば、
イ) 傾角0°から許容傾角θ=35°未満の範囲で、端子出力OFFを維持し、
ロ) 許容傾角θ=35°以上の範囲で、端子出力ONを維持することができる。
そして、このような傾斜センサーを採用することで、端子出力がOFFの場合には「鉤状部上向きの姿勢」を検知しているとみなす一方、端子出力がONの場合には「鉤状部上向きの姿勢ではない姿勢」を検知しているとみなすことで、当該傾斜センサーを簡易型の姿勢検知手段として利用することができる。
【0022】
無線IDタグの一種であるビーコン32は、安全帯フックの鉤状部3aの根元付近、例えば安全帯フック3と命綱4との連結部付近に取り付けられる。ビーコン32は、ID(識別コード)を保持すると共に一定の周期でID信号を発信可能なBEL無線送信モジュールである。本実施形態では、ビーコン32は、当該ビーコン32とビーコン用通信インターフェース14との間の距離、あるいはビーコン用通信インターフェース14からの遠近を簡易的に検知するための距離又は遠近の検知手段として利用される。より具体的には、ビーコン32を具備した安全帯フック3が、ビーコン用通信インターフェース14を身に付けた作業者の近くにあるのか、それとも作業者から遠く離れているのかを検知するために利用される。
【0023】
図1に示すように、本実施形態では、作業者が着用する安全帯本体2の一部(図1では肩掛けベルトの縦帯部分)に、制御器11と通信子機19とが一体化した薄箱型あるいはカード型の制御ユニット10が取り付けられる。
【0024】
図4に示すように、制御ユニット10の制御部11は、少なくともCPU,ROM,RAM及びタイマーを内蔵する演算処理部12と、傾斜センサー用通信インターフェース13と、ビーコン用通信インターフェース14と、高度計15と、一群の押しボタン16と、警報音発生手段としての警報ブザー17とを備えている。
【0025】
傾斜センサー用通信インターフェース13は、例えばBluetooth(登録商標)モジュールであり、安全帯フック3の傾斜センサー31との間で無線によるデータ通信を行う。
【0026】
ビーコン用通信インターフェース14は、安全帯フック3のビーコン32から発信される電波(ID信号)を受信する。ビーコン用通信インターフェース14は、ビーコン32からの電波の検出感度を調節可能であり、感度を適度に調節することで、ビーコン32を簡易型の距離又は遠近の検出要素として利用することができる。
【0027】
高度計15は、周囲の気圧に基づいて高度を測定すると共に、基準となる高さからの相対高度を測定するためのセンサーである。なお、基準となる高さは、外部機器(後述する通信親機20)から提供される。
【0028】
警報ブザー17は、作業者に異常を知らせるための警報音の発生手段である。
一群の押しボタン16は、作業者が制御器11の設定を初期化したり、警報ブザー17の雷鳴(警報音)を停止したりする際に操作するための手動スイッチ群である。
【0029】
更に本実施形態では、図4に示すように、制御ユニット10には通信子機19が併設されている。そして、この通信子機19から離れた場所(例えば作業現場に仮設置された現場事務所)には、通信親機20が設置されている。通信親機20と通信子機19とは、例えばWifi(登録商標)等の中近距離無線通信規格によって通信可能である。
【0030】
通信親機20は、CPU,ROM及びRAMを内蔵する演算処理部21と、高度計22とを備える。通信親機20が具備する高度計22は、いわば高度測定における基準局であり、この高度計22によって測定された高度が「基準となる高さ」とみなされ、通信子機19を介して制御器11に情報伝達される。
【0031】
図5に示すように、通信親機20は、複数の通信子機19(つまり複数の作業者が使用しているそれぞれの安全帯の使用状況確認装置)と通信可能であり、それぞれの通信子機19から提供される情報を収集・保存・管理することができる。とりわけ通信親機20は、作業者ごとに、作業高度と、各時点での安全帯フックの係止状況(即ち係止判定の結果)とを内部メモリに記憶しておくことができる。
【0032】
また、通信親機20は、無線及び/又は有線の通信回線を通じてインターネットと繋がっている。通信親機20は、インターネットを介して、管理者(現場の作業者を管理・監督する責務を負った者)の通信端末装置41(例えばスマートホン)や、作業現場から遠く離れた遠隔地(例えば本社ビル)に設置された管理コンピュータ42との間でデータ通信を行うことができる。このため、管理者は、手元の通信端末装置41を用いて、各作業者における安全帯の使用状況をリアルタイムで把握して、安全管理や監督業務を適切に行うことができる。また、管理コンピュータ42によって、遠隔地からでも現場作業の状況をモニターすることができると共に、通信親機20の内部メモリに保持された一切の情報のバックアップをとることができる。
【0033】
次に、安全帯の使用状況確認装置の使用方法および作動態様について説明する。
【0034】
先ず、本実施形態の安全帯1を着用した作業者は、制御ユニット10の電源をONにする。そして、通信親機20の近くに立って制御器11の押しボタン16を押して制御器11を初期化すると共に、通信子機19と通信親機20との通信リンケージを確立する。その上で、作業者は目的の作業場所(高所)に向かう。
【0035】
作動を開始した制御器11は、演算処理部12において、図6に示す安全帯の使用状況判定ルーチン(判定プログラム)に従って安全帯の使用状況のリアルタイムモニタリングを行う。なお、演算処理部12は、「0」又は「1」のいずれかの値を取る二値的な異常判定フラグ(F)を内部的に保持しており、この判定プログラムでは、F=0を「安全帯が適正使用されている状態」と意味づけ、F=1を「安全帯が適正使用されていない状態(不適正使用状態)」と意味づけている。異常判定フラグ(F)は、ハード(例えばフラグレジスタ)又はソフト(メモリの特定番地)のいずれで実現されてもよい。
【0036】
制御器11(演算処理部12)は、押しボタン16による初期化と共に、先ずステップS1において、異常判定フラグをF=0に初期設定する。続いてステップS2において、作業者の高度(相対高度)が所定の閾値高さH(例えば2m)よりも高いか否かを判定する。この閾値高さHは、安全帯の着用が義務付けられる最低の作業高度に応じて設定される。作業者の高度(相対高度)については、制御器11に内蔵された高度計15が提示する絶対高度と、通信親機20の高度計22から取得した「基準となる高さ」とに基づいて計算される。ちなみに、通信親機20の高度計22からの基準高さデータを利用する理由の一つは、制御器11側の高度計15が気圧を利用するタイプであり、気象の変化による気圧変化が外乱として高度測定に悪影響を及ぼし得ることから、気圧変化による影響を補正ないし排除するためである。
【0037】
ステップS2での判定がNOの場合、まだ、使用状況モニタリングが必要とされる高所に作業者が到達していないとみなされ、処理はステップS1に復帰する。ステップS2での判定がYESの場合、即ち、使用状況モニタリングが必要とされる高所に作業者が到達している場合には、処理はステップS3へ進む。
【0038】
ステップS3では、作業者が昇降中であるか否かを判定する。「昇降中」とは、例えば作業者が階段を上りつつある、又は降りつつあるような状況をいう。この判定は、所定の観察時間内での高度変化に基づいて行われる。例えば、30秒の観察時間内に0.5m以上の高度変化が計測された場合には「昇降中」とみなす。
ステップS3での判定がYESの場合、作業者は移動途中にあり、目的の場所(高所)にまだ到着しておらず、まだ安全帯を使用できる状況にないとみなされ、処理はステップS1に復帰する。
ステップS3での判定がNOの場合、作業者が目的の場所(高所)に到着している蓋然性が高いとして、処理はステップS4へ進む。
【0039】
ステップS4では、安全帯フック3が作業者の身体から離れているか否かを判定する。この判定は、安全帯フック3側のビーコン32と、制御器11のビーコン用通信インターフェース14との間のデータ通信の成立状況に基づいて行われる。具体的には、ビーコン32と通信インターフェース14との間の距離が例えば700mmを超えると、ビーコン32から通信インターフェース14へ向けられた電波が極めて微弱となり、通信インターフェース14側の受信感度の設定次第で「ビーコン32からのID信号を検出できない」という状況になる。他方で、ビーコン32と通信インターフェース14との間の距離が例えば700mm以下であれば、ビーコン用通信インターフェース14は、ビーコン32からのID信号をリアルタイムで受信し、当該ID信号を検出可能となる。このようにビーコン用通信インターフェース14が、ビーコン32からのID信号を適時に且つ十分な電波強度で受信できるか否かをもって、ビーコン32と通信インターフェース14との間の距離又は遠近を間接的に把握(又は判定)することができる。
【0040】
ステップS4での判定がNOの場合、即ち、安全帯フック3が制御器11(作業者の身体位置)から例えば700mmを超えて離れていない、つまり、安全帯フック3が作業者の近くにある場合には、演算処理部12内のタイマーが起動され、所定時間t1(例えば30秒)を経過したか否かが判定される(ステップS41)。そして、ステップS41での判定がNOの場合、即ち、安全帯フック3が作業者の近くにある状態がt1=30秒も持続しない場合には、処理はステップS1に復帰する(つまり、F=0が維持される)。他方で、ステップS41での判定がYESの場合、即ち、安全帯フック3が作業者の近くにある状態が少なくともt1=30秒間持続した場合には、処理はステップS42に進み、異常判定フラグがF=1に設定される、つまり、「安全帯が適正使用されていない状態(不適正使用状態)」と内部判定される。すると、制御器11は、F=0→1のフラグ値変化を受けて、警報ブザー17から警報音を発生させる。この警報音は、作業者が押しボタン16を操作して停止させるまで鳴り続ける。
【0041】
ステップS4での判定がYESの場合、即ち、安全帯フック3が制御器11(作業者の身体位置)から例えば700mmを超えて離れている、つまり、安全帯フック3が作業者からある程度(所定距離を超えて)離れて位置する場合には、処理はステップS5へ進む。
【0042】
ステップS5では、安全帯フック3が鉤状部上向きの状態にあるか否かを判定する。この判定には、安全帯フック3に設けられた傾斜センサーからの情報が利用される。具体的には、傾斜センサー31からの信号が、安全帯フックが鉤状部上向きの姿勢をとっていることを示唆する信号であるか、そうでないか(鉤状部上向きの姿勢をとっていないことを示唆する信号であるか)をもって判定する。
【0043】
ステップS5での判定がNOの場合、即ち、安全帯フック3が鉤状部上向きの姿勢をとっていない場合、演算処理部12内のタイマーが起動され、所定時間t2(例えば3秒)を経過したか否かが判定される(ステップS51)。そして、ステップS51での判定がNOの場合、即ち、安全帯フック3が鉤状部上向きの姿勢をとらない状態がt2=3秒も持続しない場合には、安全帯フック3が正しく係止されていない若しくは揺れ動いていて姿勢が十分に定まらない状況にあると考えられるため、処理をステップS5に戻して再度の判定を続ける。
他方で、ステップS51での判定がYESの場合、即ち、安全帯フック3が鉤状部上向きでない姿勢を少なくともt2=3秒間持続した場合には、処理はステップS52に進み、異常判定フラグがF=1に設定される、つまり、「安全帯が適正使用されていない状態(不適正使用状態)」と内部判定される。すると、制御器11は、F=0→1のフラグ値変化を受けて、警報ブザー17から警報音を発生させる。この警報音は、作業者が押しボタン16を操作して停止させるまで鳴り続ける。
【0044】
ステップS5での判定がYESの場合、即ち、安全帯フック3が鉤状部上向きの姿勢をとっている場合、処理はステップS1に復帰する(つまりF=0が維持される)。
【0045】
すなわち、図6の使用状況判定ルーチンによれば、
S2判定がYES(作業者の相対高度が所定の閾値高さHよりも高い)、且つ、
S3判定がNO(作業者が昇降中でない)、且つ、
S4判定がYES(安全帯フック3が作業者からある程度離れて位置する)、且つ、
S5判定がYES(安全帯フック3が鉤状部上向きの姿勢をとっている)、
の四つの条件をクリヤーし続ける限り、制御器11の演算処理部12は異常判定フラグをF=0に維持して、安全帯フック3が適正に使用されていることを確認し続ける。
【0046】
他方で、安全帯フック3が作業者からある程度離れていない状態がt1=30秒持続した場合(S4判定がNO、且つS41判定がYES)や、安全帯フック3が鉤状部上向きの姿勢をとらない状態がt2=3秒持続した場合(S5判定がNO、且つS51判定がYES)には、制御器11の演算処理部12は、安全帯フック3が適正に使用されていないと判定し、異常判定フラグをF=0からF=1に変更して警報ブザー17から警報音を発生する。
【0047】
このように本実施形態によれば、安全帯の使用状況確認装置を基本的に、安全帯フック3側に取り付け可能な傾斜センサー31およびビーコン32、並びに、安全帯本体2又は作業者の側に取り付け可能な制御ユニット10という少数の部品及び機器で構成することができる。従って、当該使用状況確認装置は、市販の安全帯に対しても容易に適用することができ、汎用性に優れている。
【0048】
本実施形態によれば、安全帯の使用状況確認装置においては制御ユニット10が通信子機19を内蔵していることから、複数の使用状況確認装置(10,31,32)、通信親機20、管理者用の通信端末装置41、(並びに必要に応じて、遠隔地の管理コンピュータ42)は、中近距離通信規格やインターネット回線を介して相互に接続可能であり、従って、これらの機器類によって、ボーダーレスな安全帯の使用状況確認システムを容易に構築することができる。
【0049】
一般に、作業現場の管理者(いわゆる現場監督)には、高所作業に従事する作業者に対して安全帯の着用及び適正使用を徹底させるという管理義務があるが、作業者が物陰に隠れていたり、遠い場所に居たりする場合には、目視確認だけで管理義務を履行することには限界がある。この点、本実施形態によれば、管理者は手元の通信端末装置41を用い、通信親機20を介して各作業者における安全帯の使用状況を把握・確認することができる。そして、安全帯を適正に使用していない(又はそのおそれがある)作業者に対して、個別に注意を促す(即ち、安全帯フックの被係止物体への確実な係止を促す)ことができ、転落事故の発生を未然に防止または極力低減することができる。
【0050】
[その他・変更例など]
上記ビーコン32に代えて「RFIDタグ」を採用すると共に、上記ビーコン用通信インターフェース14に代えて「RFIDリーダー」を採用してもよい。一般にRFIDリーダーは、RFIDタグに電波を送ってこれを駆動させ、駆動されたRFIDタグからの電波(IDデータのリターン信号)を受信する。
ビーコン32がID信号を自律的且つ周期的に発信する能動型の無線IDタグであるのに対し、RFIDタグは、RFIDリーダーからの電波に呼応してID信号をリターン発信する受動型の無線IDタグである点で両者は異なるが、両者とも本発明で使用可能な「無線IDタグ」であるという点で本質的な違いはない。
【0051】
上記実施形態(図1)では、一つの安全帯本体2に対して一つの安全帯フック3を有してなる安全帯1(本体/フック=1対1型)について説明したが、安全帯1が一つの安全帯本体2に対して複数の安全帯フック3(及び安全帯フックと同数の命綱4)を有する場合(本体/フック=1対多型)にも、本発明を同様に適用可能である。例えば、安全帯1が一つの安全帯本体2に対して二つの安全帯フック3x,3yを有すると共に、二つの安全帯フック3x,3yがそれぞれに傾斜センサー31x,31y並びに無線IDタグ32x,32yを有するものとする。このような場合でも、一つの安全帯本体2に設けられた単一の制御器11は、二つの傾斜センサー31x,31yからの各信号、及び、二つの無線IDタグ32x,32yからの各信号を個別に受信し個別に判定処理に利用することができる。つまり、単一の制御器11で、一方の安全帯フック3xについての係止状況等の判定処理と、他方の安全帯フック3yについての係止状況等の判定処理とを同時並行的に行うことができる。このように本発明では、係止状況の監視対象となる安全帯フックごとに傾斜センサー及び無線IDタグを個別に割り当てるという手法を取るため、制御器11(又は制御ユニット10)が一つだけでも多数の安全帯フック3に容易に対応(1対多対応)することができる。この点で、本発明の安全帯の使用状況確認装置は、制御器11の演算処理能力が許す限り、安全帯フック3の設置数に制限がなく拡張性に優れている。
【0052】
被係止物体は、図1及び図2に示すような棒材5に限定されるものではなく、単管、手すり、親綱など、転落事故の防止に役立つ物理的存在であれば何でもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 安全帯
2 安全帯本体
3 安全帯フック
3a 安全帯フックの鉤状部
4 命綱
5 棒材(被係止物体)
10 制御ユニット
11 制御器
12 演算処理部
13 傾斜センサー用通信インターフェース
14 ビーコン用通信インターフェース
15 高度計
16 一群の押しボタン
17 警報ブザー(警報音発生手段)
19 通信子機
20 通信親機
31 傾斜センサー
32 ビーコン(無線IDタグ)
41 管理者用の通信端末装置
42 遠隔地の管理コンピュータ
【要約】
【課題】市販の安全帯に対しても容易に適用可能な安全帯の使用状況確認装置、および安全帯の使用状況確認システムを提供する。
【解決手段】安全帯の使用状況確認装置は、安全帯フック3に取り付け可能な傾斜センサー31及びビーコン32(無線IDタグの一種)、並びに、安全帯本体2に取り付け可能な高度計15を内蔵した制御器11を備える。制御器11は、a)高度計15によって測定される高度、b)ビーコン32からの信号として提供される、ビーコンと制御器との間の距離又は遠近に関する情報、および、c)傾斜センサー31からの信号として提供される、安全帯フック3の姿勢に関する情報に基づいて、安全帯フック3が被係止物体に適正に係止されているか否かを判定する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6