(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御方法、および車両制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/10 20060101AFI20241211BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20241211BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20241211BHJP
B62D 111/00 20060101ALN20241211BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20241211BHJP
【FI】
B60W30/10
B62D6/00 ZYW
B62D101:00
B62D111:00
B62D113:00
(21)【出願番号】P 2023505132
(86)(22)【出願日】2021-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2021048878
(87)【国際公開番号】W WO2022190585
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2021038825
(32)【優先日】2021-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】菅原 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】上野 健太郎
【審査官】稲本 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-047798(JP,A)
【文献】特開2016-146061(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102014208786(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B62D 6/00
B62D 101/00
B62D 111/00
B62D 113/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の目標軌道と前記車両の実軌道との左右方向の位置の差に関する情報を取得する左右方向差取得部と、
前記左右方向差取得部で取得された前記左右方向の位置の差に関する情報を用いて、前記左右方向の位置の差に相当する外乱量を推定する外乱推定部と、
前記外乱推定部で推定した前記外乱量を用いて、前記車両を前記目標軌道に追従させるための制御指令を求める追従制御部と、
を備え
、
前記外乱推定部は、
過去の前記左右方向の位置の差に関する情報、および、現在の前記左右方向の位置の差に関する情報を用いて、前記外乱量を推定する、
車両制御装置。
【請求項2】
請求項
1記載の車両制御装置であって、
前記過去の前記左右方向の位置の差に関する情報は予測値で、前記現在の前記左右方向の位置の差に関する情報は実際値であり、
前記外乱推定部は、
前記予測値と実際値との差に基づき前記実際値を変更した結果を用いて、前記外乱量を推定する、
車両制御装置。
【請求項3】
車両の目標軌道と前記車両の実軌道との左右方向の位置の差に関する情報を取得する左右方向差取得部と、
前記左右方向差取得部で取得された前記左右方向の位置の差に関する情報を用いて、前記左右方向の位置の差に相当する外乱量を推定する外乱推定部と、
前記外乱推定部で推定した前記外乱量を用いて、前記車両を前記目標軌道に追従させるための制御指令を求める追従制御部と、
を備え
、
前記追従制御部は、
前記制御指令としての前記車両の横加速度の制御指令を、前記左右方向の位置の差が小さくなるように求めるものであって、前記横加速度の制御指令を、前記目標軌道における路面の左右勾配と、前記実軌道における路面の左右勾配との差を補償するように求める、
車両制御装置。
【請求項4】
請求項
3記載の車両制御装置であって、
前記追従制御部は、
前記横加速度の制御指令の変化速度を所定範囲内に制限する、
車両制御装置。
【請求項5】
請求項
3記載の車両制御装置であって、
前記追従制御部は、
前記横加速度の制御指令を、前記実軌道が前記目標軌道より路面の左右勾配において高い位置にある場合は低い位置にある場合に比べて小さくする、
車両制御装置。
【請求項6】
請求項
3記載の車両制御装置であって、
前記追従制御部は、
前記横加速度の制御指令を、前記左右方向の位置の差に関する情報とともに、前記車両の向きに関する情報及び前記目標軌道の曲率に関する情報のうちの少なくとも1つを用いて求める、
車両制御装置。
【請求項7】
車両に搭載された車両制御装置が実行する車両制御方法であって、
前記車両の目標軌道と前記車両の実軌道との左右方向の位置の差に関する情報を取得するステップと、
取得された前記左右方向の位置の差に関する情報を用いて、前記左右方向の位置の差に相当する外乱量を推定するステップと、
推定された前記外乱量を用いて、前記車両を前記目標軌道に追従させるための制御指令を求めるステップと、
を備え、
前記外乱量を推定するステップは、
過去の前記左右方向の位置の差に関する情報、および、現在の前記左右方向の位置の差に関する情報を用いて、前記外乱量を推定する、
車両制御方法。
【請求項8】
車両に搭載された車両制御装置が実行する車両制御方法であって、
前記車両の目標軌道と前記車両の実軌道との左右方向の位置の差に関する情報を取得するステップと、
取得された前記左右方向の位置の差に関する情報を用いて、前記左右方向の位置の差に相当する外乱量を推定するステップと、
推定された前記外乱量を用いて、前記車両を前記目標軌道に追従させるための制御指令を求めるステップと、
を備え
、
前記制御指令を求めるステップは、
前記制御指令としての前記車両の横加速度の制御指令を、前記左右方向の位置の差が小さくなるように求めるものであって、前記横加速度の制御指令を、前記目標軌道における路面の左右勾配と、前記実軌道における路面の左右勾配との差を補償するように求める、
車両制御方法。
【請求項9】
車両に搭載される車両制御システムであって、
第1制御装置と、第2制御装置と、アクチュエータ制御装置と、を備え、
前記第1制御装置は、
前記車両の目標軌道を生成し、
前記第2制御装置は、
前記目標軌道と前記車両の実軌道との左右方向の位置の差に関する情報を取得する左右方向差取得部と、
前記左右方向差取得部で取得された前記左右方向の位置の差に関する情報を用いて、前記左右方向の位置の差に相当する外乱量を推定する外乱推定部と、
前記外乱推定部で推定した前記外乱量を用いて、前記車両を前記目標軌道に追従させるための制御指令を求める追従制御部と、
を備え、
前記外乱推定部は、
過去の前記左右方向の位置の差に関する情報、および、現在の前記左右方向の位置の差に関する情報を用いて、前記外乱量を推定するよう構成され、
前記アクチュエータ制御装置は、
前記制御指令を取得する、
車両制御システム。
【請求項10】
車両に搭載される車両制御システムであって、
第1制御装置と、第2制御装置と、アクチュエータ制御装置と、を備え、
前記第1制御装置は、
前記車両の目標軌道を生成し、
前記第2制御装置は、
前記目標軌道と前記車両の実軌道との左右方向の位置の差に関する情報を取得する左右方向差取得部と、
前記左右方向差取得部で取得された前記左右方向の位置の差に関する情報を用いて、前記左右方向の位置の差に相当する外乱量を推定する外乱推定部と、
前記外乱推定部で推定した前記外乱量を用いて、前記車両を前記目標軌道に追従させるための制御指令を求める追従制御部と、
を備え、
前記追従制御部は、
前記制御指令としての前記車両の横加速度の制御指令を、前記左右方向の位置の差が小さくなるように求めるものであって、前記横加速度の制御指令を、前記目標軌道における路面の左右勾配と、前記実軌道における路面の左右勾配との差を補償するように求めるよう構成され、
前記アクチュエータ制御装置は、
前記制御指令を取得する、
車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置、車両制御方法、および車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の走行路のカントを推定するカント推定方法が開示されている。
このカント推定方法は、第1の車両を含む複数の車両の速度、横加速度、操舵角、ヨーレートおよび位置の情報を含む車両情報を取得するステップと、車両情報に基づいて、第1の車両の走行路のカントを推定するステップと、推定されたカントを、第1の車両の位置の情報と関連付けて、複数の車両で利用可能なカント角データベースに記憶するステップと、を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の実軌道を目標軌道に追従させる自動運転では、たとえば、車両が左右勾配(換言すれば、横断勾配)を有する道路を走行すると、実軌道が重力によって勾配の低い方へずれ、目標軌道に対する実軌道の追従性が低下する場合があった。
また、横風によっても車両を偏向させる外力が車両に加わって実軌道が目標軌道からずれ、更に、アライメントなどの車両10の偏向に関与する車両特性によっても、実軌道が目標軌道からずれる可能性がある。
【0005】
ここで、道路の左右勾配や横風などの外乱によって目標軌道への追従性が低下することを抑止するためには、外乱量を高い精度で推定し、操舵制御指令などの制御指令を外乱量に見合う指令とすることが必要となる。
しかし、たとえば、車速、横加速度、ヨーレートなどの車両運動に関する情報に基づき外乱量を推定する処理では、外乱量を高い精度で推定することが難しく、車両制御装置が、外乱量の推定結果に基づき車両を制御しても、目標軌道に対する実軌道の追従性が外乱によって低下することを十分に抑止できなかった。
【0006】
本発明は、従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、外乱量を精度良く推定して、目標軌道への追従性を向上させることができる、車両制御装置、車両制御方法、および車両制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、その1つの態様において、車両の目標軌道と前記車両の実軌道との左右方向の位置の差に関する情報を取得し、前記左右方向の位置の差に関する情報を用いて、前記左右方向の位置の差に相当する外乱量を推定し、前記外乱量を用いて、前記車両を前記目標軌道に追従させるための制御指令を求めるよう構成され、前記外乱量を、過去の前記左右方向の位置の差に関する情報、および、現在の前記左右方向の位置の差に関する情報を用いて推定する。
また、本発明によれば、その別の態様において、車両の目標軌道と前記車両の実軌道との左右方向の位置の差に関する情報を取得し、前記左右方向の位置の差に関する情報を用いて、前記左右方向の位置の差に相当する外乱量を推定し、前記外乱量を用いて、前記車両を前記目標軌道に追従させるための制御指令を求めるよう構成され、前記制御指令としての前記車両の横加速度の制御指令を、前記左右方向の位置の差が小さくなるように求めるものであって、前記横加速度の制御指令を、前記目標軌道における路面の左右勾配と、前記実軌道における路面の左右勾配との差を補償するように求める。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、外乱量を精度良く推定して、目標軌道への追従性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】車両制御システムの第1実施形態を示すブロック図である。
【
図2】横加速度指令の算出に用いる各種変数及び座標系の一態様を示す図である。
【
図4】路面に沿った長さとしての左右偏差を示す図である。
【
図5】左右勾配による左右偏差の発生状態を示す図である。
【
図6】左右偏差と左右勾配推定値との変化を例示するタイムチャートであって、左右勾配推定値の変化を制限しない状態を示すタイムチャートである。
【
図7】左右偏差と左右勾配推定値との変化を例示するタイムチャートであって、左右勾配推定値の変化を制限した状態を示すタイムチャートである。
【
図8】車両制御システムの第2実施形態を示すブロック図である。
【
図9】車両制御システムの第3実施形態を示すブロック図である。
【
図10】ヨーレート、車速、および横加速度に基づく左右勾配の推定処理を説明するための図である。
【
図11】横加速度指令に対し操舵制御及び制動力制御を実施するシステムを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る車両制御装置、車両制御方法、および車両制御システムの実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、車両制御システム100の第1実施形態を示すブロック図である。
【0011】
車両制御システム100は、4輪自動車などの車両10に搭載される。
そして、車両制御システム100は、自動運転において、車両10が目標軌道(換言すれば、目標パス)に追従するように、電子制御パワーステアリング装置600による舵角を制御する。
【0012】
車両制御システム100は、車両状態検出装置200、外界認識装置300、自動運転制御装置400、車両運動制御装置500、電子制御パワーステアリング装置600、ESC(Electric Stability Control)ユニット700を有する。
自動運転制御装置400、車両運動制御装置500、およびESCユニット700は、入力した情報に基づいて演算を行って演算結果を出力するマイクロコンピュータ400A,500A,700Aを主体とする電子制御装置である。
【0013】
マイクロコンピュータ400A,500A,700Aは、MPU(Microprocessor Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備える。
自動運転制御装置400のマイクロコンピュータ400Aは、目標軌道を演算する軌道生成部410の機能を有する。
【0014】
軌道生成部410は、車両状態検出装置200および外界認識装置300を用いて、車両10の位置情報(換言すれば、自車位置の情報)、車両の運転状態情報、および周辺情報を取得し、取得した各情報に基づき目標軌道を演算する。
そして、車両運動制御装置500のマイクロコンピュータ500Aは、自動運転制御装置400が演算した目標軌道に車両10を追従させるための操舵制御指令、詳細には、舵角制御指令または操舵トルク制御指令を演算し、演算した操舵制御指令を電子制御パワーステアリング装置600へ出力する。
【0015】
電子制御パワーステアリング装置600は、車両10の前輪11L,11Rの角度を変えることで車両10の進行方向を変える操舵装置である。
電子制御パワーステアリング装置600は、操舵輪である前輪11L,11Rの角度を変えるモータなどの操舵アクチュエータ601と、操舵アクチュエータ601を制御するアクチュエータ制御装置である操舵コントロールユニット602とを備える。
【0016】
操舵コントロールユニット602は、車両運動制御装置500から取得した操舵制御指令に基づき操舵アクチュエータ601を制御して、操舵制御指令に応じた舵角あるいは操舵トルクを実現させる。
つまり、車両制御システム100においては、自動運転制御装置400が車両10の目標軌道を生成し、車両運動制御装置500が車両10を目標軌道に追従させるための制御指令を求め、操舵コントロールユニット602が制御指令を取得して操舵アクチュエータ601を制御する。
【0017】
車両状態検出装置200は、車輪速若しくは車速を検出する車輪速/車速センサ210、車両10のヨーレートを検出するヨーレートセンサ220、車両10の横加速度を検出する横Gセンサ230、前輪11L,11Rの舵角を検出する舵角センサ240を備える。
また、外界認識装置300は、ステレオカメラ310、ナビゲーションシステム320、車車間通信装置330、レーダ340、全方位カメラ350を備える。
【0018】
ステレオカメラ310は、車両10の周囲の対象物を検出・識別し、対象物までの距離などを求める。
つまり、ステレオカメラ310は、左右のカメラの見え方のずれから視差を計測し、三角測量の原理を用いて対象物までの距離を算出する。
【0019】
ナビゲーションシステム320は、GPS(Global Positioning System)受信部及び地図データベースを備え、車両10の現在位置の情報、目的地までの経路の情報などを取得する。
ナビゲーションシステム320のGPS受信部は、GPS衛星から信号を受信することにより、車両10の位置の緯度及び経度を測定する。
【0020】
ナビゲーションシステム320の地図データベースは、車両10が搭載する記憶装置内に形成したデータベースであって、地図情報は、道路位置,道路形状,交差点位置などの情報を含む。
車車間通信装置330は、車両同士の無線通信によって、他の車両から、道路交通情報、他車の挙動情報、他車の位置情報などを取得する。
【0021】
レーダ340は、車両10の前方障害物の検出、更に、前方障害物までの距離や前方障害物の速度の測定を行ない、前方障害物に関する情報として出力する。
全方位カメラ350は、車両10の前後左右に装着された複数のカメラから得られた映像の視点を変換し、自車を上から見下ろしたような画像、つまり、俯瞰画像を得る装置である。
【0022】
自動運転制御装置400は、外界認識装置300から取得した自車位置や自車周囲の物体の情報などに基づき自車周辺の状況を認識し、認識結果に基づき車両10の走行経路の目標である目標軌道を生成する。
ここで、自動運転制御装置400は、GPSによる測位、デッドレコニング、ステレオカメラ310などによる周辺状況の認識結果、更に、車車間通信によって周囲を走行する他車から得た情報などに基づき、車両10の位置情報を取得する。
【0023】
デッドレコニングによる測位や、ステレオカメラ310などによる周辺状況の認識結果を用いて車両10の位置情報を取得する方法は、車載センサの信号に基づき車両10の位置に関する情報を取得する方法である。
デッドレコニングでは、たとえば、車両10の車速、ヨー角に基づき車両10の位置を推定する。
【0024】
一方、GPSによる測位や、車車間通信によって周囲を走行する他車から得た情報などに基づき車両10の位置情報を取得する方法は、車両10の外部から受信した信号に基づき車両10の位置に関する情報を取得する方法である。
そして、GPSによる測位では、車両10の外部から受信した信号は、GPS衛星から受信した信号、詳細には、時刻のデータ、衛星の軌道の情報などである。
また、車車間通信を用いた測位では、車両10の外部から受信した信号は、車車間通信によって他車から受信した信号である。
【0025】
ESCユニット700は、車両10がスリップする挙動を検知した際に、車両10の駆動装置の出力、および/または、車両10の制動装置における個々の車輪のブレーキ圧を制御することで、車両10の姿勢を安定に保つ制御を実施する。
ESCユニット700は、車両状態検出装置200から、車両10の車速、横加速度、舵角、ヨーレートなどの情報を取得し、取得した車両情報に基づき運転者の運転操作および車両10の動きを監視する。そして、ESCユニット700は、運転者の運転操作および車両10の動きに基づいて、車両10の姿勢を安定に保つための機能を作動させる。
また、ESCユニット700は、取得した車両情報に基づいて車両10が走行する道路の左右勾配を推定し、推定した左右勾配の情報を車両運動制御装置500に出力する。
【0026】
車両運動制御装置500は、車両モデル510、制御部520、先読み補償部530、勾配補正値作成部540、勾配補正部550、制御量補正値作成部560、アクチュエータ制御部570を有する。
ここで、車両モデル510、制御部520、および、先読み補償部530は、車両10を目標軌道に追従させるための制御指令を求める追従制御部501を構成する。
【0027】
追従制御部501は、自動運転制御装置400が生成した目標軌道に車両10を追従させるための制御指令である横加速度指令を、モデル予測制御(Model Predictive Control)を利用して演算する。
モデル予測制御は、制御対象のモデルを利用して未来の挙動を予測し、各時刻で最適化問題を解きながら制御対象の操作量を決定する、公知の制御方法である。
【0028】
車両運動制御装置500(詳細には、追従制御部501)におけるモデル予測制御においては、車両モデル510を用いて所定の予測時間後(たとえば、500ms後)の応答を予測し、予測区間における追従誤差を小さくする横加速度指令yd2c(換言すれば、横加速度の目標値)を探索する。
係るモデル予測制御を利用すれば、電子制御パワーステアリング装置600の操舵アクチュエータ601の応答遅れなどによって、車両10の目標軌道への追従性が低下することを抑止でき、また、フィードフォワード制御により自然な軌道制御を実現できる。
【0029】
車両運動制御装置500は、車両10(換言すれば、車両10の実軌道)と目標軌道との間の距離である左右方向の位置の差(以下、「左右偏差」と称する。)、車両10の向き(換言すれば、目標軌道に対する車両10の進行方向)、および、目標軌道の曲率の情報を取得する。
そして、車両運動制御装置500は、左右偏差(換言すれば、横位置偏差)、車両10の向き、および、目標軌道の曲率に基づいて、左右偏差が小さくなるように横加速度指令yd2cを算出する。
つまり、車両運動制御装置500は、車両10の目標軌道と車両10の実軌道との左右方向の差に関する情報を取得する左右方向差取得部としての機能を有する。
【0030】
図2は、横加速度指令yd2cの算出に用いる各種変数及び座標系の一態様を示す図である。
なお、
図2の最近接点Pは、目標軌道上で車両10の位置、詳細には、車両10の重心CGから最も近い点である。
【0031】
また、
図2の軌道接線方向は、最近接点Pでの目標軌道の接線方向と平行で、車両10の重心CGを通る仮想線である。
そして、車両10の重心CGを原点とし、軌道接線方向をx軸、重心CGから最近接点Pに向かう方向をy軸とする座標系を用いる。
【0032】
数式1は、横加速度指令yd2cの演算式である。
【数1】
数式1において、G1,G2,G3は定数として与えられるゲイン、Rは目標軌道の曲率、Vは車速、Δyは車両10の重心CGと目標軌道との左右偏差(詳細には、車両10の重心から最近接点までの距離)、Δyd1は目標軌道に向かう車両10の速度、θは目標軌道の接線に対する車両10の角度(換言すれば、向き)、yd2rは目標軌道の曲率Rに相当する遠心加速度である。
【0033】
なお、左右偏差Δyは、自車位置の測位方法によって異なる物理量として取得される。たとえば、左右偏差Δyは、左右勾配が設けられている実際の路面上での左右偏差、つまり、路面に沿った長さの情報として取得される。或いは、左右偏差Δyは、左右勾配が設けられていないと仮定した仮想平面上での左右偏差、つまり、直線距離の情報として取得される。
図3は、直線距離の情報としての左右偏差Δyを示し、
図4は、路面に沿った長さの情報としての左右偏差Δyを示す。
なお、
図3および
図4において、紙面を貫通する方向が車両10の進行方向である。
【0034】
たとえば、車両制御システム100が、ナビゲーションシステム320のGPS受信部を用いて自車位置を検出する場合、自車位置は緯度と経度とのGPS座標で検出されるため、路面の左右勾配は考慮されず、左右偏差Δyは、
図3に示したように、直線距離の情報として求められる。
一方、車両制御システム100が、車両運動に関する情報に基づくデッドレコニングによって自車位置を検出する場合、自車位置は、路面勾配の影響を加味して推定されることになるため、左右偏差Δyは、
図4に示したように、路面に沿った長さの情報として求められる。
【0035】
更に、車両制御システム100が、ステレオカメラ310、レーダ340、全方位カメラ350などによる外界認識の結果に基づき自車位置を検出する場合、実際に路面上を走行している車両10の外界を認識するので、左右偏差Δyは、
図4に示したように、路面に沿った長さの情報として求められる。
但し、外界認識の結果に基づき求めた自車位置の情報を路面の左右勾配に応じて補正する場合や、外界認識の結果に基づき地図データを参照して自車位置を推定する場合などでは、左右偏差Δyは、
図3に示したように、直線距離の情報として求められる。
【0036】
アクチュエータ制御部570は、追従制御部501から取得した横加速度指令yd2cを、舵角あるいは操舵トルクの制御指令である操舵制御指令に変換し、係る操舵制御指令を電子制御パワーステアリング装置600の操舵コントロールユニット602に出力する。
そして、操舵コントロールユニット602は、取得した操舵制御指令に基づき操舵アクチュエータ601を制御することで、横加速度指令yd2cを実現させる。
【0037】
一方、勾配補正値作成部540、勾配補正部550、および、制御量補正値作成部560は、車両10の軌道を左右方向に偏向させる外乱量を左右偏差Δyの情報を用いて推定し、推定した外乱量を用いて横加速度指令yd2c(または操舵制御指令)を補正する。
つまり、車両運動制御装置500は、左右偏差Δyの情報を用いて、左右偏差Δyに相当する外乱量を推定する外乱推定部、および、推定した外乱量を用いて、車両10を目標軌道に追従させるための制御指令を求める追従制御部の機能を備える。
【0038】
ここで、車両10の軌道を左右方向に偏向させる外乱は、道路の左右勾配、横風などの車両10に作用することで車両10の軌道を左右方向に偏向させる外力、および、車両10の軌道を左右方向に偏向させることになるホイールアライメントなどの車両特性を含む。
たとえば、道路に左右勾配があると、車両10の実軌道が重力によって目標軌道から勾配の低い方へずれ、目標軌道への追従性が低下する場合がある。
また、車両10の進行方向に対して直交する方向の横風が吹いている場合、風圧によって車両10の実軌道が目標軌道から風下方向にずれ、目標軌道への追従性が低下する場合がある。
【0039】
図5は、左右勾配を有する道路での左右偏差Δyの発生状態を示す。
図5の場合、車両10の進行方向の右側が高く左側が低い左右勾配を有する道路であるため、重力によって車両10の軌道が目標軌道よりも左側(換言すれば、勾配の低い側)にずれて左右偏差Δyが発生する。
【0040】
左右勾配や風などの外乱によって左右偏差Δyが発生すれば、追従制御部501が数式1を用いて求める横加速度指令yd2cは、左右偏差Δyを小さくする方向に変更される。
しかし、数式1を用いた横加速度指令yd2cの算出処理は、外乱のない状態での左右偏差Δyの縮小に適合するものであるため、数式1から算出された横加速度指令yd2cにしたがって操舵制御が実施されても、目標軌道への収束が遅れたり、定常偏差が生じる場合がある。
【0041】
そこで、車両運動制御装置500は、左右勾配や横風などの外乱量を推定し、数式1にしたがって算出した横加速度指令yd2c(または操舵制御指令)を、推定した外乱量に基づき補正することで、目標軌道への追従性が外乱によって低下することを抑止する。
なお、左右勾配にのみ着目すると、数式1は、車両10が走行する路面の左右勾配が零であると仮定して横加速度指令yd2cを導出する式である。したがって、車両運動制御装置500は、目標軌道における路面の左右勾配と、車両10の実軌道における路面の左右勾配との差を補償するように、横加速度指令yd2c(または操舵制御指令)を補正することになる。
【0042】
図1に示した車両制御システム100は、車両運動制御装置500は、ESCユニット700から左右勾配の推定値の情報を取得するが、係る左右勾配の推定値は、外乱に対する追従性の低下を抑止するための制御に用いるには精度が低い。
そこで、勾配補正値作成部540は、ESCユニット700が推定した左右勾配推定値LRG1[deg]を補正するための左右勾配補正値ΔLRGを、左右偏差Δyを用いて求める。
【0043】
そして、勾配補正部550は、ESCユニット700が推定した左右勾配推定値LRG1を、勾配補正値作成部540が作成した左右勾配補正値ΔLRGで補正して、最終的な左右勾配推定値LRGを求める。
これにより、左右勾配推定値LRGは、左右勾配、横風、更に、車両特性などの車両10を偏向させる各種外乱を、高い精度で反映した値になる。
制御量補正値作成部560は、制御量補正値を左右勾配推定値LRG(換言すれば、外乱量の推定値)に基づき求め、求めた制御量補正値で、数式1にしたがって算出された横加速度指令yd2c(または、数式1にしたがって算出された横加速度指令yd2cに基づく操舵制御指令)を補正する。
【0044】
たとえば、左右勾配を有する道路を車両10が走行する場合、左右勾配の低い方向に向けて重力の分力が発生し、車両10がこの分力に引っ張られるため、目標軌道と実軌道とに左右偏差Δyが生じる。
そこで、勾配補正値作成部540は、左右偏差Δyに基づき制御した横加速度と、重力加速度の分力とが釣り合うと仮定して、左右勾配補正値ΔLRGを求める。
【0045】
左右偏差Δyに基づき制御した横加速度と重力加速度の分力とが釣り合うと仮定すると、数式1から数式2が導かれる。
【数2】
【0046】
ここで、左右偏差Δyを一定と仮定して、角度θおよび曲率Rを零とすると、数式2は数式3に変換される。
【数3】
【0047】
したがって、左右勾配補正値ΔLRGは、ゲインG1が1であるとすると、数式4から求めることができる。
【数4】
つまり、左右勾配補正値ΔLRGは、重力加速度の分力[m/s
2]と、重力加速度[9.8m/s
2]のアークサインで導出することができる。
【0048】
たとえば、左右偏差Δyが0.2mであったとすると、左右勾配補正値ΔLRGは、数式5に示すようにΔLRG=1.169[deg]となる。
【数5】
【0049】
勾配補正部550は、勾配補正値作成部540が求めた左右勾配補正値ΔLRGの情報、および、ESCユニット700が推定した左右勾配推定値LRG1を取得し、数式6にしたがって、最終的な左右勾配推定値LRG[deg]を求める。
【数6】
【0050】
たとえば、左右偏差Δyが零で、車両10の実軌道が目標軌道に追従できている場合、勾配補正値作成部540は、左右勾配補正値ΔLRGを0[deg]に算出し、勾配補正部550は、ESCユニット700が推定した左右勾配推定値LRG1をそのまま最終的な左右勾配推定値LRGに設定する。
一方、車両10が目標軌道に対して左右勾配の低い方を走行している場合、勾配補正値作成部540は、左右勾配推定値LRG1を増大補正する左右勾配補正値ΔLRGを算出し、勾配補正部550は、ESCユニット700が推定した左右勾配推定値LRG1を左右勾配補正値ΔLRGで増大させた結果を最終的な左右勾配推定値LRGに設定する。
【0051】
また、車両10が目標軌道に対して左右勾配の高い方を走行している場合、勾配補正値作成部540は、左右勾配推定値LRG1を減少補正する左右勾配補正値ΔLRGを算出する。
勾配補正部550は、ESCユニット700が推定した左右勾配推定値LRG1を左右勾配補正値ΔLRGで減少させた結果を最終的な左右勾配推定値LRGに設定する。
つまり、左右偏差Δyは、ESCユニット700による左右勾配推定値LRG1の推定誤差や横風、車両特性のばらつきなどに影響されて発生する。したがって、左右偏差Δyに基づく左右勾配補正値ΔLRGで左右勾配推定値LRG1を補正した結果としての左右勾配推定値LRGは、左右勾配や横風などの外乱量を高い精度で表す情報となる。
【0052】
制御量補正値作成部560は、勾配補正部550から左右勾配推定値LRGの情報を取得し、左右勾配推定値LRGに基づき、左右勾配による左右偏差Δyの発生を抑止する制御量補正値を求める。
前述した数式1では、左右勾配や横風などの車両10を偏向させる外乱を考慮せず、左右偏差Δyを小さくするように横加速度指令yd2cが算出されるため、外乱が発生すると目標軌道への追従性が低下する。
【0053】
そこで、制御量補正値作成部560は、数式1にしたがって算出した横加速度指令yd2cを外乱量(つまり、左右勾配推定値LRG)に応じて補正することで、横加速度指令yd2cを、外乱量を見込んだ値に修正する。
係る左右勾配推定値LRGに応じた横加速度指令yd2cの補正処理によって、外乱があっても目標軌道への追従性が低下することが抑止される。
【0054】
なお、車両10の発進時などにおいては、大きな左右偏差Δyが検出される場合があり、係る左右偏差Δyを基づき左右勾配補正値ΔLRGが算出されると、目標軌道への追従性を低下させる可能性がある。
そこで、勾配補正値作成部540は、左右偏差Δyが上限値よりも大きい場合、左右勾配補正値ΔLRGを零とすることで、左右勾配推定値LRG1をそのまま用いて横加速度指令yd2cの補正処理が実施されるようにする。
【0055】
ここで、前記上限値は、車両10の発進時などに限って左右偏差Δyが超える値として設定される。
つまり、車両運動制御装置500は、左右偏差Δyが所定範囲外であるとき、左右偏差Δyの情報を用いた外乱量の推定を行わない。
また、車両10が目標軌道を使わずに走行している場合、勾配補正値作成部540及び勾配補正部550は、左右勾配推定値LRG1の補正は停止する。
【0056】
更に、道路の左右勾配は、道路の構造上急に変化しないため、勾配補正値作成部540若しくは勾配補正部550は、左右偏差Δyが急に変化した場合であっても、左右勾配補正値ΔLRG若しくは最終的な左右勾配推定値LRGを徐々に変化させ、引いては、横加速度指令yd2cの変化速度を所定範囲内に制限する。
図6および
図7は、左右偏差Δyの急変に対する左右勾配推定値LRG(又は左右勾配補正値ΔLRG)の変化を示す図である。
図6は、左右偏差Δyの急変を最終的な左右勾配推定値LRGにそのまま反映させた場合を示す。
図7は、左右偏差Δyの急変に対し最終的な左右勾配推定値LRGを徐々に追従させた場合を示す。
【0057】
図6の場合、左右偏差Δyの急変に応じて最終的な左右勾配推定値LRGも急変する。これに対し、
図7の場合、左右勾配推定値LRG若しくは左右勾配補正値ΔLRGの演算周期当たりの変化量を上限値に基づき制限するので、左右偏差Δyが急変しても、最終的な左右勾配推定値LRGは徐々に変化する。
このように、左右偏差Δyが急変しても最終的な左右勾配推定値LRGを徐々に変化させれば、左右偏差Δyの急変に伴って横加速度指令yd2cが急変することが抑止され、舵角の急変を抑止して滑らかな車両運動を実現できる。
【0058】
また、追従制御部501が、前述したようにモデル予測制御を実施する場合、勾配補正値作成部540は、左右偏差Δyの予測値と実際値との差、換言すれば、過去の時点での予測値と現在の実際値との差から左右勾配補正値ΔLRGを算出することができる。
たとえば、追従制御部501が、500ms後の左右偏差Δyz-50を推定する場合、勾配補正値作成部540は、数式7に示すように、500ms前の予測値である左右偏差Δyz-50と、現時点での実際値である左右偏差Δyとの差(換言すれば、予測誤差)に基づき、左右勾配補正値ΔLRGを算出する。
【0059】
【数7】
車両運動制御装置500は、数式7にしたがって左右勾配補正値ΔLRGを求める場合、予測値である左右偏差Δy
z-50と実際値である左右偏差Δyとの差に基づき、実際値である左右勾配推定値LRG1を補正して、外乱量を推定することになる。
【0060】
ところで、
図1に示した車両制御システム100において、車両運動制御装置500は、ESCユニット700が推定した左右勾配推定値LRG1の情報を取得するが、左右勾配を推定する外部の電子制御装置をESCユニット700に限定するものではない。
たとえば、車両10がアクティブサスペンションを備える場合、車両運動制御装置500は、アクティブサスペンションの電子制御装置がGセンサ(加速度センサ)の検出出力に基づき推定した左右勾配の情報を取得し、取得した左右勾配推定値を左右偏差Δyに基づき補正することができる。
【0061】
アクティブサスペンションは、サスペンションに油圧の力を加えることで車両10の動きをコントロールする装置である。係るアクティブサスペンションは、一般的に、路面の凹凸や車両10の走行状態に応じて発生する振動や動揺を検出する加速度センサを有する。
そして、アクティブサスペンションの電子制御装置は、加速度センサの検出出力から左右勾配を推定することができる。
【0062】
また、ステレオカメラ310の画像処理装置若しくはステレオカメラ310の画像を取得する自動運転制御装置400において、ステレオカメラ310の画像から求められた左右勾配の情報を、車両運動制御装置500が取得するシステムとすることができる。
更に、車両運動制御装置500は、外部から取得した左右勾配推定値LRG1の情報を左右偏差Δyに基づき補正して追従制御に用いる左右勾配推定値LRGの情報を得る代わりに、左右偏差Δyの情報から追従制御に用いる左右勾配推定値LRGの情報を直接求めることができる。
【0063】
図8は、車両制御システム100の第2実施形態を示すブロック図であって、この
図8に示す車両運動制御装置500は、左右偏差Δyの情報から追従制御に用いる左右勾配推定値LRGの情報を直接算出する。
図8の車両運動制御装置500は、
図1の車両運動制御装置500における勾配補正値作成部540および勾配補正部550に代えて、勾配推定部580を有する。
【0064】
勾配推定部580は、左右偏差Δyの情報を取得し、左右勾配推定値LRGの情報を出力する。
詳細には、勾配推定部580は、数式4または数式7にしたがって算出される角度の情報をそのまま左右勾配推定値LRGとし、制御量補正値作成部560に出力する。
そして、制御量補正値作成部560は、横加速度指令yd2cを車両10を偏向させる外乱に応じて補正するための補正値を、勾配推定部580から取得した左右勾配推定値LRGに基づき求める。
【0065】
図8の車両制御システム100においても、左右勾配を含む外乱量を見込んだ横加速度指令yd2cを設定でき、外乱によって目標軌道への追従性が低下することを抑止できる。
また、
図8の車両制御システム100では、車両運動制御装置500が外部から左右勾配推定値LRG1の情報を取得する必要がなく、また、車両運動制御装置500において左右勾配推定値の補正処理が不要となり、車両運動制御装置500の構成、処理を簡略化できる。
【0066】
また、車両運動制御装置500は、車両10の横加速度、ヨーレート、車速などの車両運動情報から左右勾配を推定する機能、更に、左右偏差Δyに基づき左右勾配推定値を補正する機能を備えることができる。
図9は、車両制御システム100の第3実施形態を示すブロック図である。
図9に示す車両運動制御装置500は、横加速度、ヨーレート、車速から左右勾配推定値LRG2を求める一方、左右偏差Δyの情報に基づき左右勾配補正値ΔLRGを求める。そして、車両運動制御装置500は、左右勾配推定値LRG2を左右勾配補正値ΔLRGで補正して得た左右勾配推定値LRGに基づいて追従制御を実施する。
【0067】
図9の車両運動制御装置500は、
図1の車両運動制御装置500に対し、車両状態検出装置200から取得した車両運動状態の情報に基づき左右勾配を推定する勾配推定部590が付加されている。
図10は、勾配推定部590における、車両運動状態の情報、詳細には、ヨーレート、車速、および横加速度に基づく左右勾配推定値LRG2の算出処理を説明するための図である。
【0068】
勾配推定部590は、まず、車両10にかかる遠心力を、ヨーレートの検出値および車速の検出値に基づき求める。
遠心力=ヨーレート×車速
【0069】
次いで、勾配推定部590は、車両10に対し横方向にかかる力を、遠心力の算出結果、および、横加速度の検出値に基づき求める。
横方向にかかる力[G]=横加速度-遠心力
【0070】
そして、勾配推定部590は、左右勾配推定値LRG2を、横方向にかかる力の算出結果に基づき求める。
左右勾配推定値LRG2=sin-1(横方向にかかる力)
【0071】
一方、勾配補正値作成部540は、
図1に示した車両制御システム100の勾配補正値作成部540と同様に、数式4または数式7にしたがって、左右偏差Δyに基づき左右勾配補正値ΔLRGを求める。
勾配補正部550は、勾配推定部590が求めた左右勾配推定値LRG2と、勾配補正値作成部540が求めた左右勾配補正値ΔLRGとを取得し、左右勾配推定値LRG2を左右勾配補正値ΔLRGで補正した結果を、最終的な左右勾配推定値LRGに設定する。
【0072】
つまり、
図9に示した車両運動制御装置500は、左右偏差Δyに関する情報とともに、車両10の横加速度に関する情報、車両10のヨーレートに関する情報、および車両10の車速に関する情報を用いて、車両10を偏向させる外乱量を推定する。
図9の車両制御システム100においても、左右勾配を含む外乱量を見込んだ横加速度指令yd2cを設定でき、外乱によって目標軌道への追従性が低下することを抑止できる。
【0073】
ところで、車両運動制御装置500(詳細には、アクチュエータ制御部570)は、車両10の実軌道を目標軌道に追従させるための制御として、電子制御パワーステアリング装置600による操舵を制御する機能とともに、制動装置における制動力指令の左右配分(換言すれば、制動力の左右差)を変更する制御機能を備えることができる。
図11は、車両運動制御装置500が、操舵制御機能及び制動制御機能を備える、車両制御システム100を示すブロック図である。
図11に示すアクチュエータ制御部570は、車両10の実軌道を目標軌道に追従させるために、操舵装置である電子制御パワーステアリング装置600による操舵と制動装置900による制動力とを制御する。
【0074】
制動装置900は、車両10の各車輪の制動力を個別に調整することが可能な制動装置であって、たとえば、各車輪に供給するブレーキ液圧を個別に調整可能な油圧式の制動装置である。
そして、アクチュエータ制御部570は、横加速度指令yd2cを、舵角あるいは操舵トルクの指令である操舵制御指令と、ブレーキ液圧指令(詳細には、ブレーキ液圧の左右配分指令)とに変換し、操舵制御指令を電子制御パワーステアリング装置600に出力し、ブレーキ液圧指令を制動装置900に出力する。
【0075】
つまり、車両運動制御装置500は、電子制御パワーステアリング装置600による操舵と制動装置900による制動力との少なくとも一方を制御することで、横加速度指令yd2cを実現することができる。
たとえば、車両運動制御装置500は、電子制御パワーステアリング装置600による操舵の制御を主体として車両10の実軌道を目標軌道に追従させるようにし、制動力の左右差を変えることで目標軌道と実軌道との偏差を微修正することができる。
【0076】
また、車両運動制御装置500のアクチュエータ制御部570は、電子制御パワーステアリング装置600による操舵を制御する機能とともに、車両10の駆動装置による左右輪での駆動力の差を制御する機能を備える。
そして、アクチュエータ制御部570は、電子制御パワーステアリング装置600による操舵と駆動装置による駆動力との少なくとも一方を制御することで、横加速度指令yd2cを実現することができる。
【0077】
更に、車両運動制御装置500のアクチュエータ制御部570は、電子制御パワーステアリング装置600による操舵と、制動装置900による制動力と、駆動装置による駆動力とを制御することで、横加速度指令yd2cを実現することができる。
つまり、車両運動制御装置500のアクチュエータ制御部570は、車両10の操舵装置および制駆動装置のうちの少なくとも1つを制御することで、横加速度指令yd2cを実現することができる。
【0078】
上記実施形態で説明した各技術的思想は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合わせて使用することができる。
また、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【0079】
たとえば、車両10の目標軌道の作成と、車両10の実軌道を目標軌道に追従させるための制御指令の作成とを、1つの制御装置で実施するシステムとすることができる。
また、車両運動制御装置500における横加速度指令yd2cの演算処理を、モデル予測制御を用いた処理に限定するものではなく、モデル予測制御を用いない処理とすることができる。
また、左右偏差Δyは、たとえば、前方注視点での左右偏差としたり、車両10の左右方向での車両10から目標軌道までの距離を左右偏差Δyとしたりすることができ、
図2に示した左右偏差Δyの特定に限定するものではない。
【符号の説明】
【0080】
10…車両、100…車両制御システム、200…車両状態検出装置、300…外界認識装置、400…自動運転制御装置(第1制御装置)、500…車両運動制御装置(第2制御装置、車両制御装置)、600…電子制御パワーステアリング装置(操舵装置)、602…操舵コントロールユニット(アクチュエータ制御装置)、700…ESCユニット