(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】中塗り塗料組成物、それを用いた物品及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 133/04 20060101AFI20241211BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20241211BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20241211BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20241211BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20241211BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20241211BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241211BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D5/00 D
C09D201/00
B05D1/36 B
B05D3/00 D
B05D3/02 Z
B05D7/24 302P
B05D1/36 Z
B32B27/30 A
(21)【出願番号】P 2023515891
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2021015873
(87)【国際公開番号】W WO2022224306
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】古賀 直哉
(72)【発明者】
【氏名】原田 昭人
(72)【発明者】
【氏名】西村 祐記
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-25909(JP,A)
【文献】特開2018-171593(JP,A)
【文献】特開2016-17140(JP,A)
【文献】特開2012-116879(JP,A)
【文献】特開2009-262001(JP,A)
【文献】特開2008-229433(JP,A)
【文献】特開2008-74959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 133/04
C09D 5/00
C09D 201/00
B05D 1/36
B05D 3/00
B05D 3/02
B05D 7/24
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物上に配置された下塗り塗膜と、前記下塗り塗膜上に配置された中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に配置された上塗り塗膜とを有する複層塗膜における、前記中塗り塗膜を形成する中塗り塗料組成物であって、
前記中塗り塗料組成物は、
塗膜形成樹脂(A)、塗膜形成樹脂(B)及び塗膜形成樹脂(C)を含み、
前記塗膜形成樹脂(B)及び前記塗膜形成樹脂(C)は、アクリル樹脂であり、
前記塗膜形成樹脂(A)のガラス転移温度をTg(A)、前記塗膜形成樹脂(B)のガラス転移温度をTg(B)、及び前記塗膜形成樹脂(C)のガラス転移温度をTg(C)が、
Tg(A)<Tg(B)<Tg(C)
の関係を満足し、
前記中塗り塗料組成物中に含まれる、前記塗膜形成樹脂(A)、塗膜形成樹脂(B)及び塗膜形成樹脂(C)の混合物のガラス転移温度Tg(I)は、25℃以上60℃以下であり、
前記塗膜形成樹脂(A)と、前記塗膜形成樹脂(B)と、前記塗膜形成樹脂(C)との合計100質量%中、
前記塗膜形成樹脂(A)が20質量%以上40質量%以下、
前記塗膜形成樹脂(B)が20質量%以上75質量%以下、及び
前記塗膜形成樹脂(C)が5質量部以上45質量%以下である、
中塗り塗料組成物。
【請求項2】
前記塗膜形成樹脂(A)は、重量平均分子量が9000以上90000以下であり、水酸基価が50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であり、前記ガラス転移温度Tg(A)が-25℃以上5℃以下である、請求項1に記載の中塗り塗料組成物。
【請求項3】
前記塗膜形成樹脂(B)は、重量平均分子量が5000以上30000以下であり、水酸基価20mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であり、前記ガラス転移温度Tg(B)が20℃以上80℃以下である、請求項1又は2に記載の中塗り塗料組成物。
【請求項4】
前記塗膜形成樹脂(C)は、重量平均分子量が5000以上60000以下であり、水酸基価0mgKOH/g以上35mgKOH/g以下であり、前記ガラス転移温度Tg(C)が40℃以上100℃以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の中塗り塗料組成物。
【請求項5】
前記塗膜形成樹脂(B)は、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーの重合体を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の中塗り塗料組成物。
【請求項6】
前記塗膜形成樹脂(C)は、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーの重合体を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の中塗り塗料組成物。
【請求項7】
樹脂部材を含む被塗物の塗装用である、請求項1~6のいずれか1項に記載の中塗り塗料組成物。
【請求項8】
ポリオレフィン樹脂を含む被塗物の塗装用である、請求項7に記載の中塗り塗料組成物。
【請求項9】
車両外装用部材の塗装用である、請求項1~8のいずれか1項に記載の中塗り塗料組成物。
【請求項10】
樹脂部材を含む車両外装用部材の塗装用である、請求項9に記載の中塗り塗料組成物。
【請求項11】
被塗物、及び、前記被塗物上に配置された下塗り塗膜と、前記下塗り塗膜上に配置された中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に配置された上塗り塗膜とを有する複層塗膜、
を含む物品であって、
前記中塗り塗膜が、請求項1から6のいずれか1項に記載の中塗り塗料組成物から形成されており、
前記下塗り塗膜の膜厚が3μm以上15μm以下であり、
前記中塗り塗膜の膜厚が10μm以上30μm以下であり、
前記上塗り塗膜の膜厚が20μm以上40μm以下である
物品。
【請求項12】
前記被塗物が樹脂部材を含む請求項11に記載の物品。
【請求項13】
前記樹脂部材がポリオレフィン樹脂を含む請求項12に記載の物品。
【請求項14】
前記被塗物がポリオレフィン樹脂を含む前記樹脂部材であり、前記被塗物に対する前記下塗り塗膜の剥離強度T(P)[N/m]、及び当該被塗物に対する前記複層塗膜の剥離強度T(L)[N/m]が、
0.49<(T(L)-T(P))<4.9
の関係を満足する、請求項12または13に記載の物品。
【請求項15】
前記被塗物が車両外装用部材である、請求項11~14のいずれか1項に記載の物品。
【請求項16】
前記被塗物が樹脂部材を含む、請求項15に記載の物品。
【請求項17】
被塗物、及び
被塗物上に配置された下塗り塗膜と、前記下塗り塗膜上に配置された中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に配置された上塗り塗膜とを有する複層塗膜
を含む物品の製造方法であって、
前記被塗物上に、下塗り塗料組成物を塗装して未硬化の下塗り塗膜を形成する工程、
前記未硬化の下塗り塗膜上に、請求項1~7のいずれか1項に記載の中塗り塗料組成物を塗装して未硬化の中塗り塗膜を形成する工程、
前記未硬化の中塗り塗膜上に、上塗り塗料組成物を塗装して未硬化の上塗り塗膜を形成する工程、及び
前記未硬化の下塗り塗膜と、前記未硬化の中塗り塗膜と、前記未硬化の上塗り塗膜とを60℃以上100℃以下で同時に焼付硬化する工程
を含む物品の製造方法。
【請求項18】
被塗物、及び
被塗物上に配置された下塗り塗膜と、前記下塗り塗膜上に配置された中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に配置された上塗り塗膜とを有する複層塗膜
を含む物品の製造方法であって、
前記被塗物上に、下塗り塗料組成物を塗装して未硬化の下塗り塗膜を形成し、当該未硬化の下塗り塗膜を60℃以上100℃以下で焼付硬化して下塗り塗膜を形成する工程、
前記下塗り塗膜上に、請求項1~7のいずれか1項に記載の中塗り塗料組成物を塗装して未硬化の中塗り塗膜を形成し、当該未硬化の中塗り塗膜を60℃以上100℃以下で焼付硬化して中塗り塗膜を形成する工程、
前記中塗り塗膜上に、上塗り塗料組成物を塗装して未硬化の上塗り塗膜を形成し、当該未硬化の上塗り塗膜を60℃以上100℃以下で焼付硬化して上塗り塗膜を形成する工程、
を含む、物品の製造方法。
【請求項19】
前記被塗物が樹脂部材を含む、請求項17又は18に記載の物品の製造方法。
【請求項20】
前記樹脂部材がポリオレフィン樹脂を含む、請求項19に記載の物品の製造方法。
【請求項21】
前記被塗物が車両外装用部材である、請求項17~20のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中塗り塗料組成物、それを用いた物品及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被塗物上に配置され、機能が異なる複数の塗膜を有する複層塗膜は、様々な分野で応用されている。例えば、車両外装用の部材の上に複層塗膜が設けられる場合がある。
【0003】
特開2018-8205号公報(特許文献1)には、被塗物上にプライマー塗料組成物による未硬化塗膜を形成し、該未硬化塗膜上に上塗塗料組成物を、ウェットオンウェット塗装方法を用いて得られる複層塗膜であって、プライマー塗料組成物とし、エポキシ樹脂(a1)を含み、上塗塗料組成物(B)として、アクリル樹脂(b1)、及び活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物(b2)を含有する組成物であって、アクリル樹脂(b1)と活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物(b2)の固形分合計100質量部を基準にして、アクリル樹脂(b1)を60~80質量部、活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物(b2)を20~40質量部の比率で含有する塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複層塗膜は、その用途に応じた性能を満たす必要があり、例えば、車両用途で用いる複層塗膜においても、様々な物性が要求されている。
更に、複層塗膜の機能、塗膜外観を向上させるために、クリヤー塗膜として機能する塗膜を設けることも検討されている。このような機能を有する複層塗膜として、例えば、被塗物上に配置される下塗り塗膜と、下塗り塗膜上に配置される中塗り塗膜と、中塗り塗膜上に配置される上塗り塗膜とを有する複層塗膜が検討されている。
【0006】
一方、特許文献1は、車両用途に用いる複層塗膜であって、2層の塗膜を有する複層塗膜を開示している。このような、特許文献1に示される2層構造の複層塗膜と比べて、更にクリヤー塗膜として機能する層を有する、少なくとも3層の塗膜を有する複層塗膜は、塗膜の層が増える。このため、層の界面も増え、塗膜間(塗膜界面)での剥離をより効果的に防ぐ必要がある。
したがって、少なくとも3層の塗膜を有する複層塗膜における塗膜界面での剥離を防ぐよう、各塗膜間の密着性を向上させることが求められており、更に、複層塗膜は、被塗物に対する高い密着性を有することも要求されている。
【0007】
本開示は上記従来の課題を解決するものであり、その目的は、上塗り塗膜、中塗り塗膜及び下塗り塗膜を含む被塗物上の複層塗膜において、複層塗膜を構成する各塗膜間の密着性、及び複層塗膜と被塗物との間の密着性を高めることが可能な中塗り塗膜を形成する中塗り塗料組成物を提供することである。更に、この中塗り塗料組成物を用いた車両外装用部品及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
被塗物上に配置された下塗り塗膜と、上記下塗り塗膜上に配置された中塗り塗膜と、上記中塗り塗膜上に配置された上塗り塗膜とを有する複層塗膜における、上記中塗り塗膜を形成する中塗り塗料組成物であって、
上記中塗り塗料組成物は、
塗膜形成樹脂(A)、塗膜形成樹脂(B)及び塗膜形成樹脂(C)を含み、
上記塗膜形成樹脂(B)及び上記塗膜形成樹脂(C)は、アクリル樹脂であり、
上記塗膜形成樹脂(A)のガラス転移温度をTg(A)、上記塗膜形成樹脂(B)のガラス転移温度をTg(B)、及び上記塗膜形成樹脂(C)のガラス転移温度をTg(C)が、
Tg(A)<Tg(B)<Tg(C)
の関係を満足し、
上記中塗り塗料組成物中に含まれる、上記塗膜形成樹脂(A)、塗膜形成樹脂(B)及び塗膜形成樹脂(C)の混合物のガラス転移温度Tg(I)は、25℃以上60℃以下であり、
上記塗膜形成樹脂(A)と、上記塗膜形成樹脂(B)と、上記塗膜形成樹脂(C)との合計100質量%中、
上記塗膜形成樹脂(A)が20質量%以上40質量%以下、
上記塗膜形成樹脂(B)が20質量%以上75質量%以下、及び
上記塗膜形成樹脂(C)が5質量部以上45質量%以下である、
中塗り塗料組成物。
[2]
上記塗膜形成樹脂(A)は、重量平均分子量が9000以上90000以下であり、水酸基価が50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であり、上記ガラス転移温度Tg(A)が-25℃以上5℃以下である、[1]に記載の中塗り塗料組成物。
[3]
上記塗膜形成樹脂(B)は、重量平均分子量が5000以上30000以下であり、水酸基価20mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であり、上記ガラス転移温度Tg(B)が20℃以上80℃以下である、[1]または[2]に記載の中塗り塗料組成物。
[4]
上記塗膜形成樹脂(C)は、重量平均分子量が5000以上60000以下であり、水酸基価0mgKOH/g以上35mgKOH/g以下であり、上記ガラス転移温度Tg(C)が40℃以上100℃以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の中塗り塗料組成物。
[5]
上記塗膜形成樹脂(B)は、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーの重合体を含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の中塗り塗料組成物。
[6]
上記塗膜形成樹脂(C)は、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーの重合体を含む、[1]~[5]のいずれか1つに記載の中塗り塗料組成物。
[7]
樹脂部材を含む被塗物の塗装用である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の中塗り塗料組成物。
[8]
ポリオレフィン樹脂を含む被塗物の塗装用である、[7]に記載の中塗り塗料組成物。
[9]
車両外装用部材の塗装用である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の中塗り塗料組成物。
[10]
樹脂部材を含む車両外装用部材の塗装用である、[9]に記載の中塗り塗料組成物。
[11]
被塗物、及び、上記被塗物上に配置された下塗り塗膜と、上記下塗り塗膜上に配置された中塗り塗膜と、上記中塗り塗膜上に配置された上塗り塗膜とを有する複層塗膜、
を含む物品であって、
上記中塗り塗膜が、[1]から[6]のいずれか1つに記載の中塗り塗料組成物から形成されており、
上記下塗り塗膜の膜厚が3μm以上15μm以下であり、
上記中塗り塗膜の膜厚が10μm以上30μm以下であり、
上記上塗り塗膜の膜厚が20μm以上40μm以下である
物品。
[12]
上記被塗物が樹脂部材を含む[11]に記載の物品。
[13]
上記樹脂部材がポリオレフィン樹脂を含む[12]に記載の物品。
[14]
上記被塗物がポリオレフィン樹脂を含む上記樹脂部材であり、上記被塗物に対する上記下塗り塗膜の剥離強度T(P)[N/m]、及び当該被塗物に対する上記複層塗膜の剥離強度T(L)[N/m]が、
0.49<(T(L)-T(P))<4.9
の関係を満足する、[12]または[13]に記載の物品。
[15]
上記被塗物が車両外装用部材である、[11]~[14]のいずれか1つに記載の物品。
[16]
上記被塗物が樹脂部材を含む、[15]に記載の物品。
[17]
被塗物、及び
被塗物上に配置された下塗り塗膜と、上記下塗り塗膜上に配置された中塗り塗膜と、上記中塗り塗膜上に配置された上塗り塗膜とを有する複層塗膜
を含む物品の製造方法であって、
上記被塗物上に、下塗り塗料組成物を塗装して未硬化の下塗り塗膜を形成する工程、
上記未硬化の下塗り塗膜上に、[1]~[7]のいずれか1つに記載の中塗り塗料組成物を塗装して未硬化の中塗り塗膜を形成する工程、
上記未硬化の中塗り塗膜上に、上塗り塗料組成物を塗装して未硬化の上塗り塗膜を形成する工程、及び
上記未硬化の下塗り塗膜と、上記未硬化の中塗り塗膜と、上記未硬化の上塗り塗膜とを60℃以上100℃以下で同時に焼付硬化する工程
を含む物品の製造方法。
[18]
被塗物、及び
被塗物上に配置された下塗り塗膜と、上記下塗り塗膜上に配置された中塗り塗膜と、上記中塗り塗膜上に配置された上塗り塗膜とを有する複層塗膜
を含む物品の製造方法であって、
上記被塗物上に、下塗り塗料組成物を塗装して未硬化の下塗り塗膜を形成し、当該未硬化の下塗り塗膜を60℃以上100℃以下で焼付硬化して下塗り塗膜を形成する工程、
上記下塗り塗膜上に、[1]~[7]のいずれか1つに記載の中塗り塗料組成物を塗装して未硬化の中塗り塗膜を形成し、当該未硬化の中塗り塗膜を60℃以上100℃以下で焼付硬化して中塗り塗膜を形成する工程、
上記中塗り塗膜上に、上塗り塗料組成物を塗装して未硬化の上塗り塗膜を形成し、当該未硬化の上塗り塗膜を60℃以上100℃以下で焼付硬化して上塗り塗膜を形成する工程、
を含む、物品の製造方法。
[19]
上記被塗物が樹脂部材を含む、[17]又は[18]に記載の物品の製造方法。
[20]
上記樹脂部材がポリオレフィン樹脂を含む、[19]に記載の物品の製造方法。
[21]
上記被塗物が車両外装用部材である、[17]~[20]のいずれか1つに記載の物品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る中塗り塗料組成物は、上塗り塗膜、中塗り塗膜及び下塗り塗膜を含む被塗物上の複層塗膜において、複層塗膜を構成する各塗膜間の密着性、及び複層塗膜と被塗物との間の密着性を高めることが可能な中塗り塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を完成させるに至った経緯を説明する。本発明者らは、上述した課題を解決するために、種々の検討を行った。
例えば、車両の外装用部品は、更なる軽量化が要求されている。その上、高いデザイン性が要求され、複雑な形状を有する車両の外装用部品が増加している。上記観点から、近年、このような車両外装用部品として、軽量且つ成形が容易な樹脂部材を用いることが検討されている。
【0012】
一方、被塗物として樹脂部材を含む基材を用いる場合、複層塗膜の焼付温度を、被塗物である樹脂部材に悪影響を及ぼさない範囲に設定する必要がある。例えば、被塗物が樹脂部材を含む基材である場合は、金属のみから構成される部材である場合と比べて、複層塗膜の焼付温度を低く設定することが好ましい。しかし、複層塗膜の焼付温度を低く設定すると、複層塗膜の形成(硬化)が不十分となり、複数塗膜を構成する各塗膜間の密着性、及び複層塗膜と被塗物との間の密着性(以下、これらを合わせて「密着性」と呼ぶことがある)が劣ることがある。
【0013】
このような観点から、本発明者らは、被塗物が樹脂を含む態様であっても、良好な密着性を有する複層塗膜を形成するため、下塗り塗膜と、中塗り塗膜と、上塗り塗膜とを有する複層塗膜について、中塗り塗膜を形成する中塗り塗料組成物に着目し、本発明を完成させた。
【0014】
本開示に係る中塗り塗料組成物は、
被塗物上に配置された下塗り塗膜と、下塗り塗膜上に配置された中塗り塗膜と、中塗り塗膜上に配置された上塗り塗膜とを有する複層塗膜における、中塗り塗膜を形成する中塗り塗料組成物であって、
中塗り塗料組成物は、
塗膜形成樹脂(A)、塗膜形成樹脂(B)及び塗膜形成樹脂(C)を含み、
塗膜形成樹脂(B)及び塗膜形成樹脂(C)は、アクリル樹脂であり、
塗膜形成樹脂(A)のガラス転移温度Tg(A)、塗膜形成樹脂(B)のガラス転移温度Tg(B)、及び塗膜形成樹脂(C)のガラス転移温度Tg(C)が、
Tg(A)<Tg(B)<Tg(C)
の関係を満足し、
中塗り塗料組成物のガラス転移温度Tg(I)は、25℃以上60℃以下であり、
塗膜形成樹脂(A)と塗膜形成樹脂(B)と塗膜形成樹脂(C)との合計100質量%中、
塗膜形成樹脂(A)が20質量%以上40質量%以下、
塗膜形成樹脂(B)が20質量%以上75質量%以下、及び
塗膜形成樹脂(C)が5質量%以上45質量%以下である。
【0015】
以上の構成により、本開示に係る中塗り塗料組成物は、上塗り塗膜及び下塗り塗膜の種類によらず、複数塗膜を構成する各塗膜間の密着性、及び複層塗膜と被塗物との間の密着性を高めることが可能な中塗り塗膜を形成することができる。また、本開示に係る中塗り塗料組成物を用いて得られた複層塗膜は、外装用途品質評価における耐温水試験等においても、従来の中塗り塗膜を用いた複層塗膜と比較して被塗物との密着性が良好である。
【0016】
また、本開示に係る中塗り塗料組成物であれば、良好な追従性を有する複層塗膜を得ることができるため、複雑な形状の高いデザイン性を有する部品に用いることができ、また、良好な外観を有する複層塗膜を得ることができる。
更に、本開示に係る中塗り塗料組成物であれば、被塗物が樹脂である態様においても、被塗物の特性を損なうことなく、密着性が良好な複層塗膜を形成でき、また、被塗物が金属である態様と比べて、焼付温度を大きく低減できる。
【0017】
以下、本開示に係る中塗り塗料組成物について、より詳細に説明する。
【0018】
(中塗り塗料組成物、中塗り塗膜)
本開示に係る中塗り塗料組成物は、塗物上に配置される下塗り塗膜と、この下塗り塗膜上に配置される中塗り塗膜と、この中塗り塗膜上に配置される上塗り塗膜とを有する複層塗膜における、中塗り塗膜を形成する塗料組成物であり、主に中塗り塗膜は色相を調整するベース層を示す。
【0019】
本開示に係る中塗り塗料組成物は、塗膜形成樹脂(A)、塗膜形成樹脂(B)及び塗膜形成樹脂(C)を含み、
塗膜形成樹脂(B)及び塗膜形成樹脂(C)は、アクリル樹脂であり、
塗膜形成樹脂(A)のガラス転移温度Tg(A)、塗膜形成樹脂(B)のガラス転移温度Tg(B)、及び塗膜形成樹脂(C)のガラス転移温度Tg(C)が、
Tg(A)<Tg(B)<Tg(C)
の関係を満足し、
中塗り塗料組成物のガラス転移温度Tg(I)は、25℃以上60℃以下である。
本開示に係る中塗り塗料組成物に含まれる塗膜形成樹脂(A)、塗膜形成樹脂(B)及び塗膜形成樹脂(C)、並びに中塗り塗料組成物のガラス転移温度が、上記関係を満たすことにより、複層塗膜の各塗膜に対して高い密着性を示す中塗り塗膜を形成できる。更に、本開示に係る中塗り塗料組成物は、被塗物に対して高い密着性を示す複層塗膜を形成でき、その上、優れた塗膜外観を有する複層塗膜を形成できる。
【0020】
一実施態様において、被塗物は、樹脂部材を含む。被塗物は、例えば車両外装用部材であってよく、この車両外装用部材は樹脂部を含んでもよい。被塗物は、例えば、樹脂部材によって構成される車両外装用部材であってよい。このような態様において、塗物上に配置される下塗り塗膜は、樹脂部材に対して高い密着性を示す必要がある。一方、本開示に係る中塗り塗料組成物であれば、この態様において、下塗り塗膜に対する高い密着性を示す中塗り塗膜を形成でき、その上、中塗り塗膜の上に設けられる上塗り塗膜に対しても、高い密着性を示すことができる。
したがって、本開示に係る中塗り塗料組成物であれば、被塗物が樹脂部材を含む場合、例えば、車両外装用樹脂部材である態様において、被塗物と複層塗膜との密着性を高く保持でき、更に、複層塗膜における塗膜間の密着性(各塗膜の界面における密着性)を高めることができる。
また、本開示に係る中塗り塗料組成物を用いて得られた複層塗膜は、被塗物が車両外装用樹脂部材においても、このような高い密着性と優れた塗膜追従性を奏することができるので、高いデザイン性を有する部品に対しても用いることができる。
【0021】
一実施態様において、中塗り塗料組成物のガラス転移温度Tg(I)は、例えば、30℃以上60℃以下であってよく、32℃以上58℃以下であってよく、例えば、35℃以上58℃以下であってよい。
中塗り塗料組成物のガラス転移温度が、上記条件を有することにより、本開示に係る中塗り塗料組成物は、複層塗膜の各層に対して高い密着性を示す中塗り塗膜をより容易に形成できる。
更に、各塗膜の剥離がより生じにくい複層塗膜は、被塗物に対しても高い密着性をより容易に示すことができる。また、塗膜外観が優れた複層塗膜をより容易に形成できる。
【0022】
塗膜形成樹脂(A)~(C)のガラス転移温度Tg(A)~Tg(C)、及び中塗り塗料組成物のガラス転移温度Tg(I)の測定は、示差走査熱量計を用いて樹脂のガラス転移に伴う熱変化を検出することにより測定することができる。示差走査熱量計として、例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製「X-DSC7000」を挙げることができる。ガラス転移温度は例えば、上記示差走査熱量計を用いて得られたDSC曲線のベースラインと変曲点での接線から求めることができる。
【0023】
本開示に係る中塗り塗料組成物は、塗膜形成樹脂(A)のガラス転移温度Tg(A)、塗膜形成樹脂(B)のガラス転移温度Tg(B)及び前記塗膜形成樹脂(C)のガラス転移温度Tg(C)が、
Tg(A)<Tg(B)<Tg(C)
の関係を満足し、そして、中塗り塗料組成物中に含まれる、塗膜形成樹脂(A)、塗膜形成樹脂(B)及び塗膜形成樹脂(C)の混合物のガラス転移温度Tg(I)は、25℃以上60℃以下であり、さらに、
塗膜形成樹脂(A)と、前記塗膜形成樹脂(B)と、前記塗膜形成樹脂(C)との合計100質量%中、
塗膜形成樹脂(A)を20質量%以上40質量%以下で含み、
塗膜形成樹脂(B)を20質量部以上75質量%以下で含み、
塗膜形成樹脂(C)を5質量部以上45質量%以下で含む。
塗膜形成樹脂(A)、(B)及び(C)をこのような割合で含有することにより、複層塗膜の各層に対して高い密着性を示す中塗り塗膜を形成でき、塗膜界面での剥離が生じにくい複層塗膜を形成できる。また、本開示に係る中塗り塗料組成物は、被塗物に対して高い密着性を示す複層塗膜を形成でき、その上、優れた塗膜外観を有する複層塗膜を形成できる。
【0024】
一実施態様において、本開示に係る中塗り塗料組成物は、塗膜形成樹脂(A)と、塗膜形成樹脂(B)と、塗膜形成樹脂(C)との合計100質量%中、
塗膜形成樹脂(A)を20質量%以上40質量%以下で含み、
塗膜形成樹脂(B)を20質量%以上75質量%以下で含み、
塗膜形成樹脂(C)を5質量%以上45質量%以下で含み、
更に、塗膜形成樹脂(A)の含有量、塗膜形成樹脂(B)の含有量、及び塗膜形成樹脂(C)の含有が、
塗膜形成樹脂(A)の含有量<塗膜形成樹脂(C)の含有量、及び/又は
塗膜形成樹脂(B)の含有量<塗膜形成樹脂(C)の含有量
の関係を満足するのが好ましい。
塗膜形成樹脂(A)、(B)及び(C)をこのような関係で有することにより、複層塗膜の各層に対して高い密着性を示す中塗り塗膜をより容易に形成でき、塗膜界面での剥離が生じにくい複層塗膜をより容易に形成できる。また、本開示に係る中塗り塗料組成物は、被塗物に対して高い密着性を示す複層塗膜をより容易に形成でき、その上、優れた塗膜外観を有する複層塗膜をより容易に形成できる。
【0025】
[塗膜形成樹脂(A)]
一実施態様において、塗膜形成樹脂(A)は、重量平均分子量が9000以上90000以下であるのが好ましく、例えば、9000以上80000以下であってよい。
重量平均分子量は、ポリスチレンを標準として用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定結果から算出することができる。
【0026】
一実施態様において、塗膜形成樹脂(A)は、水酸基価が50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であり、例えば、70mgKOH/g以上130mgKOH/g以下であってよく、例えば、70mgKOH/g以上120mgKOH/g以下であってよい。なお上記水酸基価は固形分換算での値を示し、JIS K 0070に従った方法により測定された値である。
【0027】
一実施態様において、塗膜形成樹脂(A)は、ガラス転移温度Tg(A)が-25℃以上5℃以下であり、例えば-20℃以上5℃以下であってよい。ガラス転移温度の測定方法は、上述の通りである。
特定の理論に限定して解釈すべきではないが、塗膜形成樹脂(A)のガラス転移温度Tg(A)が上記範囲内であることにより、塗膜の凝集破壊を抑制でき、更に、優れた塗色設計を行うことができると考えられる。
【0028】
一実施態様において、塗膜形成樹脂(A)は、重量平均分子量が9000以上90000以下であり、水酸基価が50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であり、ガラス転移温度Tg(A)が-25℃以上5℃以下であるのが好ましい。
塗膜形成樹脂(A)がこのような特性を有することにより、本開示に係る中塗り塗料組成物は、複層塗膜の各層に対して高い密着性を示す中塗り塗膜をより容易に形成できる。更に、本開示に係る中塗り塗料組成物は、被塗物に対して高い密着性を示す複層塗膜をより容易に形成でき、その上、優れた塗膜外観を有する複層塗膜をより容易に形成できる。
一実施態様において、塗膜形成樹脂(A)は、重量平均分子量、水酸基価及びガラス転移温度Tg(A)を、本開示の範囲内で適宜選択できる。
【0029】
一実施態様において、塗膜形成樹脂(A)は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びメラミン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む。例えば、塗膜形成樹脂(A)は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びポリエステル樹脂から選択される少なくとも1つを含んでよい。
【0030】
一実施態様において、塗膜形成樹脂(A)は、アクリル樹脂を含む。アクリル樹脂を含むことにより、塗膜形成樹脂(A)と、塗膜形成樹脂(B)及び塗膜形成樹脂(C)とをより均質に混合でき、塗膜強度をより高めることができる。また、アクリル樹脂を含むことにより、被塗物に対して高い密着性を示す複層塗膜をより容易に形成でき、その上、優れた塗膜外観を有する複層塗膜をより容易に形成できる。
【0031】
アクリル樹脂を構成するモノマー成分としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、2-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロルスチレン等の芳香族系ビニルモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-、i-又はt-ブチル等のブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸の炭素数1~18のアルキルエステル又はシクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、等の(メタ)アクリル酸の炭素数2~8のヒドロキシアルキルエステル;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN-置換(メタ)アクリルアミド系モノマー;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル等から選択される1種又は2種以上の混合物を挙げることができる。
本明細書において「(メタ)アクリル」とはアクリルとメタクリルとの両方を意味するものとする。
【0032】
上記重合体は、例えば、溶液重合、塊状重合等の常法により上記モノマーを重合することにより製造できる。例えば、モノマーの重合は、重合開始剤を用い、ラジカル重合することにより行うことができる。重合開始剤は特に限定されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を使用することができる。
【0033】
アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーの重合体を含んでよい。
【0034】
一実施態様において、塗膜形成樹脂(A)は、アクリル樹脂及びウレタン樹脂の両方を含む。この場合、塗膜形成樹脂(A)中に含まれるアクリル樹脂の量は、25~99質量%の範囲内であってよく、ウレタン樹脂の量は1~75質量%の範囲内であってよい。なお、複数種のアクリル樹脂を用いる場合、各アクリル樹脂の質量部の合計が上記範囲内に含まれ、同様に複数種のウレタン樹脂を用いる場合、各ウレタン樹脂の質量部の合計が上記範囲内に含まれるように、適宜調整することができる。
【0035】
[塗膜形成樹脂(B)]
一実施態様において、塗膜形成樹脂(B)は、重量平均分子量が5000以上30000以下であり、例えば、7000以上25000以下であってよい。
【0036】
一実施態様において、塗膜形成樹脂(B)は、水酸基価が20mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であり、例えば、30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であってよい。
【0037】
一実施態様において、塗膜形成樹脂(B)は、ガラス転移温度Tg(B)が20℃以上80℃以下であり、例えば30℃以上80℃以下であってよく、例えば30℃以上75℃以下であってよい。
特定の理論に限定して解釈すべきではないが、塗膜形成樹脂(B)のガラス転移温度Tg(B)が上記範囲内であることにより、優れた塗色設計を行うことができ、更に、塗膜強度をより高くすることができる。
【0038】
一実施態様において、塗膜形成樹脂(B)は、重量平均分子量が5000以上30000以下であってよく、水酸基価20mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であり、ガラス転移温度Tg(B)が20℃以上80℃以下である。
塗膜形成樹脂(B)がこのような特性を有することにより、本開示に係る中塗り塗料組成物は、複層塗膜の各層に対して高い密着性を示す中塗り塗膜をより容易に形成できる。更に、本開示に係る中塗り塗料組成物は、被塗物に対して高い密着性を示す複層塗膜をより容易に形成でき、その上、優れた塗膜外観を有する複層塗膜をより容易に形成できる。
一実施態様において、塗膜形成樹脂(B)は、重量平均分子量、水酸基価及びガラス転移温度Tg(B)を、本開示の範囲内で適宜選択できる。
【0039】
塗膜形成樹脂(B)の酸価は、例えば、2.7mgKOH/g以上4.7mgKOH/g以下であってよい。なお上記酸価は固形分換算での値を示し、JIS K 0070に従った方法により測定された値である。
また、塗膜形成樹脂(B)の溶解性パラメーターSp値は、例えば、9.0以上10.0以下であってよい。Sp値は、既知の方法を用いた実測又は計算により求めることができる。
【0040】
塗膜形成樹脂(B)は、アクリル樹脂である。塗膜形成樹脂(B)がアクリル樹脂であるため、中塗り塗膜は、塗膜強度が高く、更に、複層塗膜の各層に対して高い密着性が提供される利点がある。
【0041】
塗膜形成樹脂(B)であるアクリル樹脂を構成するモノマー成分としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、2-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロルスチレン等の芳香族系ビニルモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-、i-又はt-ブチル等のブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸の炭素数1~18のアルキルエステル又はシクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、等の(メタ)アクリル酸の炭素数2~8のヒドロキシアルキルエステル;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN-置換(メタ)アクリルアミド系モノマー;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル等から選択される1種又は2種以上の混合物を挙げることができる。
【0042】
上記重合体は、例えば、溶液重合、塊状重合等の常法により上記モノマーを重合することにより製造できる。例えば、モノマーの重合は、重合開始剤を用い、ラジカル重合することにより行うことができる。重合開始剤は特に限定されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を使用することができる。
【0043】
例えば塗膜形成樹脂(B)であるアクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーの重合体である態様が挙げられる。
一実施態様において、塗膜形成樹脂(B)におけるアクリル樹脂の調製では、上記種々のモノマーのうちヒドロキシルエチル(メタ)アクリレートが含まれるモノマー混合物の重合体である態様が好ましい。
塗膜形成樹脂(B)がこのようなアクリル樹脂を含むことにより、本開示の中塗り塗料組成物は、本開示に係る複層塗膜の各層に対して高い密着性を示す中塗り塗膜を形成できる。更に、本開示の中塗り塗料組成物は、被塗物に対して高い密着性を示す複層塗膜を形成でき、その上、優れた塗膜外観を有する複層塗膜を形成できる。
【0044】
例えば、上記モノマーの重合は、重合開始剤を用い、ラジカル重合することにより行うことができる。重合開始剤は特に限定されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を使用することができる。
【0045】
[塗膜形成樹脂(C)]
一実施態様において、塗膜形成樹脂(C)は、重量平均分子量が5000以上60000以下であってよく、例えば9000以上60000以下であってよい。
【0046】
一実施態様において、塗膜形成樹脂(C)は、水酸基価が0mgKOH/g以上35mgKOH/g以下であり、例えば0mgKOH/g以上20mgKOH/g以下であってよい。
【0047】
一実施態様において、塗膜形成樹脂(C)は、ガラス転移温度Tg(C)が40℃以上100℃以下であり、例えば、50℃以上100℃以下であってよい。
特定の理論に限定して解釈すべきではないが、塗膜形成樹脂(C)のガラス転移温度Tg(C)が上記範囲内であることにより、塗膜強度及び塗膜硬度に優れた中塗り塗膜を形成できる。
【0048】
一実施態様において、塗膜形成樹脂(C)は、重量平均分子量が5000以上60000以下であり、水酸基価0mgKOH/g以上35mgKOH/g以下であり、ガラス転移温度をTg(C)が40℃以上100℃以下であるのが好ましい。
塗膜形成樹脂(C)がこのような特性を有することにより、本開示に係る中塗り塗料組成物は、複層塗膜の各層に対して高い密着性を示す中塗り塗膜をより容易に形成できる。更に、本開示に係る中塗り塗料組成物は、被塗物に対して高い密着性を示す複層塗膜をより容易に形成でき、その上、優れた塗膜外観を有する複層塗膜をより容易に形成できる。
一実施態様において、塗膜形成樹脂(C)は、重量平均分子量、水酸基価及びガラス転移温度Tg(C)を、本開示の範囲内で適宜選択できる。
【0049】
塗膜形成樹脂(C)がアクリル樹脂であるため、中塗り塗膜は、塗膜強度が高く、更に、複層塗膜の各層に対して高い密着性を有する。
【0050】
塗膜形成樹脂(C)であるアクリル樹脂を構成するモノマー成分としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、2-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロルスチレン等の芳香族系ビニルモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-、i-又はt-ブチル等のブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸の炭素数1~18のアルキルエステル又はシクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、等の(メタ)アクリル酸の炭素数2~8のヒドロキシアルキルエステル;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN-置換(メタ)アクリルアミド系モノマー;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル等から選択される1種又は2種以上の混合物を挙げることができる。
【0051】
上記重合体は、例えば、溶液重合、塊状重合等の常法により上記モノマーを重合することにより製造できる。例えば、モノマーの重合は、重合開始剤を用い、ラジカル重合することにより行うことができる。重合開始剤は特に限定されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を使用することができる。
【0052】
例えば塗膜形成樹脂(C)であるアクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーの重合体である態様が挙げられる。
一実施態様において、塗膜形成樹脂(C)におけるアクリル樹脂は、上記種々のモノマーのうち、エチル(メタ)アクリレートが含まれるモノマー混合物の重合体である態様が好ましい。
塗膜形成樹脂(C)がこのようなアクリル樹脂を含むことにより、例えば上述の特性を有する塗膜形成樹脂(C)を好適に調製することができる。これにより、複層塗膜の各層に対して高い密着性を示す中塗り塗膜を形成することができる利点がある。
【0053】
[硬化剤]
一実施態様において、中塗り塗料組成物は、塗膜形成樹脂(A)、塗膜形成樹脂(B)及び/又は塗膜形成樹脂(C)が有する硬化性官能基の種類に適宜対応した硬化剤を含んでよい。
硬化剤は、従来公知のものを使用することができ、例えば、アミノ樹脂、ブロックイソシアネート樹脂、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物等が用いられる。得られた塗膜の諸性能、コストの点からアミノ樹脂及び/又はブロックイソシアネート樹脂が一般的に用いられる。
【0054】
硬化剤におけるアミノ樹脂は、特に限定されるものではなく、水溶性メラミン樹脂及び/又は非水溶性メラミン樹脂を用いることができる。
【0055】
ブロックイソシアネート樹脂は、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のポリイソシアネートに、活性水素を有するブロック剤を付加させることによって、調製することができる。このようなブロックイソシアネート樹脂は、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生し、樹脂成分中の官能基と反応して硬化する。
【0056】
硬化剤の量は、例えば、塗膜形成樹脂(A)と塗膜形成樹脂(B)と塗膜形成樹脂(C)と硬化剤との合計100質量部に対して、2~50質量部であってよく、好ましくは3~40質量部である。硬化剤の量がこのような範囲内であることにより、十分な硬化性を有する中塗り塗膜をより容易に形成でき、また、中塗り塗膜が堅くなり過ぎ、又は脆くなることをより抑制できる。
【0057】
[溶剤]
一実施態様において、本開示に係る中塗り塗料組成物は、溶剤型の塗料組成物である。溶剤型の塗料組成物において使用できる有機溶剤の例としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、芳香族石油系溶剤等が挙げられる。
本開示に係る中塗り塗料組成物は、溶剤型の塗料組成物であることにより、複層塗膜の焼付硬化温度を60℃以上100℃以下の範囲内で行うことができる。このため、被塗物が樹脂部材である態様においても、樹脂部材の特性を損なうことなく複層塗膜を形成できる。
【0058】
[その他添加剤]
本開示に係る中塗り塗料組成物は、必要に応じて、顔料、表面調整剤(消泡剤、レベリング剤等)、顔料分散剤、可塑剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、静電助剤、熱安定剤、光安定剤、溶剤(水、有機溶剤)、その他の添加剤を含有してもよい。
【0059】
中塗り塗料組成物が顔料を含む場合における顔料含有率としては、適用用途に応じて通常設定される範囲とすればよい。例えば、塗膜形成樹脂(A)~(C)、硬化剤及び顔料などの塗膜層を形成する成分の含有量の合計に対する顔料の含有量の割合[質量%](PWC:Pigment Weight Concentration)が、0.1~50質量%であることが好ましい。
【0060】
一実施態様において、本開示に係る中塗り塗料組成物は、塗膜形成樹脂(A)、(B)及び(C)に加えて、ポリエステル系樹脂、アルキッド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂及びメラミン系樹脂等の塗膜形成樹脂を含んでもよい。
【0061】
(下塗り塗料組成物、下塗り塗膜)
下塗り塗膜は、被塗物の上に配置される。下塗り塗膜は、例えば、以下に説明する下塗り塗料組成物から形成される。後述するように、被塗物は特に限定されず、例えば、樹脂部材を含む被塗物であってよく、金属部材を含む被塗物であってもよく、樹脂部材および金属部材の両方を含む被塗物であってもよい。
【0062】
下塗り塗料組成物は、酸無水物変性塩素化ポリオレフィン樹脂と、アクリル変性アルキッド樹脂とを含んでよい。これらの樹脂を組み合わせることにより、下塗り塗膜は、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む樹脂部材に対してより良好な密着性を有し、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む車両外装用樹脂部材に対して、プライマー層として活用されることが多く、より優れた耐高圧洗車性、より優れた耐ガソホール性を発現することができる。
【0063】
一実施態様において、下塗り塗料組成物は、酸無水物変性塩素化ポリオレフィンとアクリル変性アルキッド樹脂とを含む。
【0064】
酸無水物変性塩素化ポリオレフィンとアクリル変性アルキッド樹脂との質量比率は、80:20~20:80であってよい。当該比率で酸無水物変性塩素化ポリオレフィン及びアクリル変性アルキッド樹脂を含むことにより、例えば、より優れた耐高圧洗車性を有する下塗り塗膜を形成でき、更に、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む樹脂部材に対して、下塗り塗膜はより優れた密着性を示すことができる。その上、このような下塗り塗膜は、本開示に係る中塗り塗料組成物から形成された中塗り塗膜とも、より優れた密着性を示すことができる。その結果、ポリオレフィン樹脂を含む樹脂部材と、複層塗膜との密着性の向上に寄与できる。
【0065】
[酸無水化物変性塩素化ポリオレフィン]
例えば、酸無水物変性塩素化ポリオレフィンは、プロピレン成分が50モル%以上99モル%以下であり、炭素数が2又は4~6であるα-オレフィンを少なくとも1種類含有する、プロピレン-α-オレフィン共重合体であってよい。また、塩素含有率は15質量%以上24質量%以下であってよく、酸無水物変性量は0.6質量%以上2.0質量%であってよく、重量平均分子量は40000以上120000以下の範囲内から選択できる。
【0066】
一実施態様において、プロピレン-α-オレフィン共重合体におけるα-オレフィンの共重合化率は、1モル%以上50モル%以下の範囲であり、好ましくは5モル%以上30モル%以下である。この共重合化率が上記の範囲内であることにより、貯安性により優れた下塗り塗料組成物を得ることができる。更に、得られた塗膜は、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む樹脂部材に対して、より優れた密着性を示し、例えば、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む車両外装用樹脂部材に対して、より優れた耐高圧洗車性を示すことができる。
プロピレン-α-オレフィン共重合体の重量平均分子量の範囲は、例えば40000以上120000以下であり、好ましくは50000以上100000以下が適している。
【0067】
プロピレン-α-オレフィン共重合体の塩素化は従来の技術で実施することができる。例えば、ポリオレフィンのクロロホルム溶液を高温にて塩素ガスを吹き込むことにより、容易に塩素化できる。本開示において、塩素化率は15質量%以上24質量%以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは18質量%以上21質量%以下である。塩素化率が上記範囲内であることにより、貯安性により優れた下塗り塗料組成物を得ることができる。また、得られる塗膜は、より優れた耐ガソホール性を有し得る。
【0068】
酸無水物変性塩素化ポリオレフィンは、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物を上記ポリオレフィンに共重合させることにより得られる。この共重合の方法としては、ラジカル発生剤の存在下で高温にて酸無水物を共重合する既知の手法を用いることができる。また、酸無水物の共重合量は、0.6質量%以上2.0質量%以下が好ましく、さらに好ましくは1.0質量%以上1.6質量%以下が好適である。無水物の共重合量が上記範囲内であることにより、下塗り塗膜はより良好な耐ガソホール性を示すことができる。また、耐湿性により優れた塗膜を形成できる。
このように、本発明における酸無水物変性塩素化ポリオレフィンを製造する際のポリオレフィン樹脂の塩素化工程と酸無水物共重合工程は、いずれも既知の技術であり、また、どちらが先行してもよい。
【0069】
[アクリル変性アルキッド樹脂]
例えば、アクリル変性アルキッド樹脂は、アルキッド樹脂重合部分とアクリル樹脂重合部分とから構成されてよい。
【0070】
アルキッド樹脂の油脂は、ヒマシ油、大豆油、脱水ヒマシ油、アマニ油等のヨウ素価が80以上の油脂であることが好ましい。多塩基酸は、特に限定されないが、例えば、オルソフタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロオルソフタル酸、無水テトラヒドロソフタル酸のようなジカルボン酸、又はそれら酸無水物からなる群から選択される1種以上が挙げられる。また、多価アルコールは、特に限定されないが、ペンタエリスリトール、グリセリン、ネオペンチルグリコールのような2価以上のアルコールから選択される1種以上が挙げられる。
【0071】
アルキッド樹脂の製造には、既知の手法を用いることができる。例えば、油脂を不活性ガス下において、200℃以上250℃以下にて水酸化リチウム触媒により多価アルコールとエステル交換し、アルコリシス反応させる。次いで、メタノールトレランスにてアルコリシス反応を終了させ、その後、多塩基酸にてエステル化する。必要に応じて多価アルコールも配合させ、アルキッド樹脂のOH価を調整してよい。その際、油長は35%以上70%以下に設定するが、好ましくは50%以上60%以下である。
【0072】
アクリル変性は、上記アルキッド樹脂を用い、既知の手法で実施することができる。例えば、アルキッド樹脂を不活性ガス下で120℃まで加温し、アクリルモノマー及びパーオキサイドの混合溶液を等速滴下し、さらに残りのパーオキサイドを添加した後、一定時間保温することにより、アクリル樹脂変性を行うことができる。
【0073】
アクリル樹脂重合部分のガラス転移温度は、50℃以上であることが好ましく、より好ましくは60℃以上である。ガラス転移温度が50℃以上であると、下塗り塗膜は、より優れた耐高圧洗車性を有することができる。
アクリル単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル及びアクリル酸-2-ヒドロキシルエチル等のアクリル酸エステル系単量体、スチレン、ビニルトルエン並びにα-メチルスチレンが挙げられる。例えば、これらのモノマーからなる群から選択される少なくとも1種以上のモノマーを用い、ガラス転移温度が50℃以上になるように重合してアクリル樹脂重合部分を得てよい。
【0074】
アルキッド樹脂重合部分とアクリル樹脂重合部分の質量比率は、例えば、25:75~75:25であってよく、好ましくは40:60~60:40である。当該質量比率が上記範囲内であることにより、より良好な耐ガソホール性と、より優れた耐高圧洗車性を有する下塗り塗膜を形成できる。
また、アクリル変性アルキッド樹脂の重量平均分子量は、例えば、10000以上100000以下であってよく、好ましくは15000以上60000以下である。重量平均分子量がこのような範囲内であることにより、塗膜強度をより高めることができる。また、重量平均分子量が上記範囲内であることにより、下塗り塗膜は、より良好な耐高圧洗車性、より優れた耐ガソホール性を発現でき、更に、良好な塗膜外観を呈することができる。
更に、重量平均分子量が上記範囲内であることにより、酸無水物変性塩素化ポリオレフィンとの相溶性を良好に保つことができ、塗料組成物はより良好な貯蔵安定性を示すことができる。
【0075】
下塗り塗料組成物は、酸無水物変性塩素化ポリオレフィン及びアクリル変性アルキッド樹脂に加えて、必要に応じて、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル変性塩素化ポリオレフィン樹脂、セルロース樹脂、メラミン樹脂、ブロックイソシアネート樹脂等の樹脂成分を含み得る。
このような態様において、酸無水物変性塩素化ポリオレフィン及びアクリル変性アルキッド樹脂の合計100質量部に対して、その他の樹脂は、0質量部超90質量部以下配合され、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素溶剤を中心として、酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン系溶剤によって塗料化できる。これらの有機溶剤は、酸無水物変性塩素化ポリオレフィン及びアクリル変性アルキッド樹脂の合計100質量部に対して200質量部以上500質量部以下配合できる。
【0076】
また、下塗り塗料組成物は、酸化チタン、カーボンブラック、導電性カーボンブラック等の顔料、タルク、クレイ、硫酸バリウム等の体質顔料、又は各種の有機系顔料を配合し、着色化して作業性を向上することも可能であり、導電化により静電塗装に使用することもできる。このような態様において、上記顔料は、酸無水物変性塩素化ポリオレフィン及びアクリル変性アルキッド樹脂の合計100質量部に対して0質量部超100部以下配合される。
【0077】
(上塗り塗料組成物、上塗り塗膜)
複層塗膜において、上塗り塗膜は中塗り塗膜上に配置される。上塗り塗膜は、例えば、以下に説明する上塗り塗料組成物から形成される。また、上塗り塗膜は、クリヤー塗膜として保護機能を有してもよい。
【0078】
上塗り塗料組成物は、溶剤型であってもよく、水性型であってもよい。上塗り塗料組成物は、2液型上塗り塗料組成物であるのが好ましい。2液型上塗り塗料組成物として、水酸基含有アクリル樹脂及びポリカーボネートジオール化合物を含む主剤と、ポリイソシアネート化合物を含む硬化剤とからなる2液型上塗り塗料組成物が挙げられる。
【0079】
[水酸基含有アクリル樹脂]
一実施態様において、上塗り塗料組成物における水酸基含有アクリル樹脂は、水酸基価が80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下の範囲内であり、好ましくは90mgKOH/g以上190mgKOH/g以下であり、より好ましくは100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である。水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価が上記範囲内であることにより、得られる塗膜はより良好な物理的性能を有し得る。
【0080】
一実施態様において、上塗り塗料組成物における水酸基含有アクリル樹脂は、酸価が1mgKOH/g以上20mgKOH/g以下であり、好ましくは3mgKOH/g以上18mgKOH/g以下であり、より好ましくは5mgKOH/g以上10mgKOH/g以下である。水酸基含有アクリル樹脂の酸価が上記範囲内であることにより、ポリイソシアネート化合物との反応性をより適切な範囲に制御でき、得られる複層塗膜は、より優れた塗膜外観と、塗膜の物理的性質を備えることができる。
【0081】
上塗り塗料組成物において、水酸基含有アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸水酸基含有アルキルエステルモノマーを含むモノマー混合物の溶液重合体であり、上塗り塗料組成物における(メタ)アクリル酸水酸基含有アルキルエステルモノマーの水酸基含有アルキル部の炭素数は、例えば、3以下である。
【0082】
モノマー混合物が、水酸基含有アルキル部の炭素数が3以下である(メタ)アクリル酸水酸基含有アルキルエステルモノマーを含むことによって、ポリイソシアネート化合物との反応性がより適切な範囲に調節され、これにより、得られる複層塗膜の塗膜外観がより良好となり得る。
【0083】
(メタ)アクリル酸水酸基含有アルキルエステルモノマーの水酸基含有アルキル部の炭素数が3以下であるモノマーの具体例として、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0084】
モノマー混合物に含まれる、水酸基含有アルキル部の炭素数が3以下である(メタ)アクリル酸水酸基含有アルキルエステルモノマーの量は、モノマー混合物100質量部に対して20質量部以上60質量部以下の範囲内であるのが好ましく、30質量部以上50質量部以下の範囲内であるのがより好ましい。
【0085】
モノマー混合物は、水酸基含有アルキル部の炭素数が3以下である(メタ)アクリル酸水酸基含有アルキルエステルモノマー以外の、水酸基含有(メタ)アクリルモノマーを必要に応じて含んでもよい。このようなモノマーとして、例えば、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;プラクセルFM-1(商品名、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとポリカプロラクトンとの付加物、ダイセル化学工業社製);ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
【0086】
モノマー混合物は、水酸基含有アルキル部の炭素数が3以下である(メタ)アクリル酸水酸基含有アルキルエステルモノマーに加えて、他のエチレン性不飽和基含有モノマーを含むのが好ましい。他のエチレン性不飽和基含有モノマーとしては特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エタクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸及びフマル酸等の酸基含有モノマー類;スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル系モノマー類;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有モノマー類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー類;(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド等のアクリルアミド系モノマー類;アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0087】
水酸基含有アクリル樹脂は、モノマー混合物を溶液重合することによって調製することができる。溶液重合条件として、当分野で通常用いられる条件で行うことができる。
【0088】
水酸基含有アクリル樹脂の重量平均分子量は、3000以上50000以下であるのが好ましい。重量平均分子量が上記範囲内であることによって、得られる上塗り塗料組成物の良好な作業性及び硬化性をより容易に確保することができる利点がある。
【0089】
[ポリイソシアネート化合物]
上塗り塗料組成物は、ポリイソシアネート化合物を含んでよい。上塗り塗料組成物に係るポリイソシアネート化合物は、2液型上塗り塗料組成物において硬化剤に含まれるのが好ましい。ポリイソシアネート化合物は、特に限定されない。代表的なポリイソシアネート化合物としては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート(特に脂肪族ジイソシアネート);1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,2-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネートメチル等の脂環式ポリイソシアネート(特に脂環式ジイソシアネート);キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;及びこれらから誘導されるイソシアヌレート化合物、ウレトジオン化合物、ウレタン化合物、アロファナート化合物、ビュレット化合物、トリメチロールプロパンとの付加物等が挙げられる。
【0090】
ポリイソシアネート化合物は、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、及びこれらのジイソシアネートのヌレート体、ウレトジオン体からなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。ポリイソシアネート化合物を用いることによって、より耐候性に優れた上塗り塗膜を形成することができ、また、水酸基含有アクリル樹脂との反応速度をより良好に制御することができる利点がある。
【0091】
上塗り塗料組成物において、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート官能基及び水酸基含有アクリル樹脂の水酸基官能基のモル数の比率(イソシアネート官能基のモル数/水酸基官能基のモル数)は、例えば、1.15以上1.35以下の範囲内である。イソシアネート官能基と水酸基官能基のモル数の比率が上記範囲内である上塗り塗料組成物を用いることによって、複層塗膜を形成する際に、良好な塗膜外観と塗膜強度を有する塗膜を形成できる。
【0092】
[ポリカーボネートジオール化合物]
上塗り塗料組成物は、ポリカーボネートジオール化合物を含み得る。例えば、ポリカーボネートジオール(A)は、下記一般式で表されるものが好ましい。
【0093】
【0094】
式中、Rの構造は、上記ポリカーボネートジオールの製造に使用されるジオール成分によって決定される。上記ジオール成分としては、炭素数が2~10、好ましくは4~8の2価のアルコールを挙げることができる。具体的には、例えば、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族系;1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式系;p-キシレンジオール、p-テトラクロロキシレンジオール等の芳香族系;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のジオールを挙げることができる。これらのジオールは、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。上記ポリカーボネートジオールは、上記ジオールをホスゲン等のカルボニル化剤と反応させることによって得ることができる。
【0095】
ポリカーボネートジオール化合物は、上記一般式中のRが直鎖アルキレン基(直鎖アルカンジイル基)であることが好ましい。この場合において、一般式中のRが炭素原子数2~40の直鎖アルキレン基(直鎖アルカンジイル基)であることがより好ましい。
【0096】
また、ポリカーボネートジオール化合物は、1,6-ヘキサンジオールを含有するジオール成分とカルボニル化剤との重合体であるのがより好ましい。このようなポリカーボネートジオール化合物(C)を用いることによって、耐久性及び硬度をより容易に維持しつつ、より良好な耐傷性を得ることができる利点がある。
【0097】
特に好ましいものとして、1,6-ヘキサンジオールを必須ジオール成分としてジオール成分を2種以上組合せて使用するものであって、1,6-ヘキサンジオールと1,5-ペンタンジオールの組合せ、1,6-ヘキサンジオールと1,4-ブタンジオールの組合せ又は1,6-ヘキサンジオールと1,4-ジメチロールシクロヘキサンの組合せ等のジオール成分とカルボニル化剤とを重縮合させて得られるポリカーボネートジオール化合物を挙げることができる。
【0098】
これらの中でも、1,6-ヘキサンジオールと1,5-ペンタンジオールとを、1,6-ヘキサンジオールと1,5-ペンタンジオールとのモル比率80:20~20:80で組み合わせたものが好ましい。このように2種を併用したもの、あるいは3種以上を併用したものは、耐摩耗性がより良好である点で好ましい。
【0099】
カルボニル化剤としては、例えば、通常用いられるアルキレンカーボネート、ジアルキルカーボネート、ジアリルカーボネート及びホスゲン等の1種又は2種以上を組合せて使用することができる。これらのうち好ましいものとして、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジフェニルカーボネートを挙げることができる。
【0100】
ポリカーボネートジオール化合物は、水酸基当量が320g/eq以上2000g/eq以下であるのが好ましく、350g/eq以上1000g/eq以下であるのがより好ましい。水酸基当量が上記範囲内であることによって、耐摩耗性、耐汚染性、耐水性等をより良好に保つことができる利点がある。
【0101】
ポリカーボネートジオール化合物は、数平均分子量が500~6000の範囲内であるのがより好ましい。
【0102】
ポリカーボネートジオールとしては、市販品を使用することができる。市販品としては、例えば、旭化成社製のデュラノールT-5650J、T-5650E、T-5651、T-5652(ジオール成分:1,6-ヘキサンジオール及び1,5-ペンタンジオール)、T-4671(ジオール成分:1,6-ヘキサンジオール及び1,4-ブタンジオール)、及び宇部興産社製のETERNACOLL UM-90(1/1,1/3)(ジオール成分:1,6-ヘキサンジオール及び1,4-ジメチロールシクロヘキサン)等を挙げることができる。
【0103】
上塗り塗料組成物が水酸基含有アクリル樹脂及びポリカーボネートジオール化合物を含むことによって、特に2液型上塗り塗料組成物の主剤として水酸基含有アクリル樹脂及びポリカーボネートジオール化合物を含むことによって、上塗り塗膜が外力を吸収し傷を修復させる自己修復性機能が得られる利点がある。
【0104】
ポリカーボネートジオール化合物の含有量は、水酸基含有アクリル樹脂(A)の樹脂固形分100質量部に対して0質量部以上40質量部以下の範囲内であるのが好ましく、5質量部以上20質量部以下の範囲内であるのがさらに好ましい。
【0105】
上塗り塗料組成物は、更に、粘性制御剤を含んでもよい。粘性制御剤を含むことによって、塗装作業性を向上させることができる。粘性制御剤は、一般にチクソトロピー性を示すものを使用でき、例えば水性ベース塗料組成物において既に記載したもの等を使用することができる。また必要により、上塗り塗料組成物は、硬化触媒、表面調整剤等を含んでもよい。上塗り塗料組成物は、更に、公知の紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤等を含んでもよい。また、上塗り塗料組成物は、公知のレオロジーコントロール剤、その他の表面調整剤等を含んでよく、粘度調整等の目的でアルコール系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤等の溶剤を用いることもできる。これらの添加剤は、主剤及び/又は硬化剤に含めることができる。
【0106】
上塗り塗料組成物が2液型上塗り塗料組成物である場合における、主剤及び硬化剤の混合時期については、使用前に主剤及び硬化剤を混合して、通常の塗装方法により塗装してもよい。また、2液混合ガンにおいて、それぞれの液をガンまで送液し、ガン先で混合する方法で塗装してもよい。
【0107】
複層塗膜および物品の製造方法
上記中塗り塗料組成物、そして、下塗り塗料組成物および上塗り塗料組成物を用いて、被塗物へ塗装することによって、複層塗膜を形成することができる。上記複層塗膜は、被塗物上に配置された下塗り塗膜と、上記下塗り塗膜上に配置された中塗り塗膜と、上記中塗り塗膜上に配置された上塗り塗膜とを有する。
【0108】
(被塗物)
被塗物は特に限定されず、例えば、樹脂部材を含んでもよく、金属部材を含んでもよい。上記被塗物はまた、樹脂部材および金属部材の両方を含んでもよい。
金属部材として、例えば、鉄、鋼、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛等の金属及びこれらの金属を含む合金等が挙げられる。金属基材は、電着塗膜形成前に、必要に応じた化成処理(例えばリン酸亜鉛化成処理、ジルコニウム化成処理等)が行われていてもよい。
樹脂部材は、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等を含んでよい。被塗物が樹脂部材である場合、下塗り塗膜は、樹脂部材との密着性に優れた塗膜であることが要求される。このような、樹脂部材との密着性に優れた下塗り塗膜に対して、本開示に係る中塗り塗料組成物から形成された中塗り塗膜であれば、下塗り塗膜に対して良好な密着性を示すことができる。強度、質量などの物理的性質の点から、樹脂部材は、ポリオレフィン樹脂を含むことが好ましい。
【0109】
被塗物は、車両外装用部材であってよい。車両は特に限定されず、例えば、自動車、二輪車、重機車両等を例示できる。また、被塗物は、例えば、電着塗膜を備えた自動車車体であってよく、この場合、当該自動車車体は、金属部材を含む。
【0110】
一実施態様において、被塗物は、車両外装用樹脂部材であり、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む車両外装用樹脂部材であってよい。
【0111】
一実施態様において、被塗物は、自動車外装用樹脂部材であり、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む自動車外装用樹脂部材であってよい。
【0112】
(被塗物及び複層塗膜を含む物品)
本開示に係る物品は、
被塗物、及び
被塗物上に配置された下塗り塗膜と、下塗り塗膜上に配置された、本開示に係る中塗り塗料組成物から形成された中塗り塗膜と、中塗り塗膜上に配置された上塗り塗膜とを有する複層塗膜
を含む。
被塗物、下塗り塗膜及び上塗り塗膜は、上述したものであってよい。
【0113】
複層塗膜は、本開示に係る中塗り塗料組成物から形成された中塗り塗膜を有するので、複層塗膜は、各塗膜同士で高い密着性を示すことができ、塗膜の剥離を抑制できる。更に、本開示に係る中塗り塗料組成物は、被塗物に対して高い密着性を示す複層塗膜を形成でき、その上、優れた塗膜外観を有する複層塗膜を形成できる。
更に、複層塗膜は、複雑な形状にも追従でき、被塗物に対して高い密着性を有する。このため、本開示に係る物品は、高いデザイン性を有する物品に用いることができる。
【0114】
一実施態様において、複層塗膜は、下塗り塗膜の膜厚が3μm以上15μm以下であり、中塗り塗膜の膜厚が10μm以上30μm以下であり、上塗り塗膜の膜厚が20μm以上40μm以下である。
【0115】
また、複層塗膜は、本開示に係る中塗り塗料組成物から形成された塗膜を有するため、被塗物が樹脂部材、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む樹脂部材である態様において、被塗物の特性を損なうことなく、上述した種々の特性を有する塗膜を形成できる。更に、被塗物が金属である態様と比べて、焼付温度を大きく低減できる。
【0116】
一実施態様において、ポリオレフィン樹脂を含む樹脂部材である被塗物に対する下塗り塗膜の剥離強度(以下、「下塗り塗膜の剥離強度」と呼ぶことがある)T(P)[N/m]、及び当該被塗物に対する複層塗膜の剥離強度(以下、「複層塗膜の剥離強度」と呼ぶことがある)T(L)[N/m]が、
0.49<(T(L)-T(P))<4.9
の関係を満足する。
【0117】
下塗り塗膜の剥離強度T(P)と複層塗膜の剥離強度T(L)とがこのような関係を満足することにより、被塗物と複層塗膜との間でより高い密着性を有することができる。更に、複層塗膜における各塗膜間においても、より高い密着性を示すことができ、複層塗膜における界面剥離をより抑制できる。その上、より優れた塗膜外観を有する複層塗膜を形成できる。
更に、被塗物が複雑な形状を有する態様においても、複層塗膜はより高い密着性を有することができ、高いデザイン性を有する物品、例えば、車両外装用部品を提供できる。
【0118】
一実施態様において、下塗り塗膜の剥離強度T(P)及び複層塗膜の剥離強度をT(L)は、
0.55<(T(L)-T(P))<4.5
の関係を満足し、例えば、
0.60<(T(L)-T(P))<4.0
の関係を満足する。
下塗り塗膜の剥離強度をT(P)と複層塗膜の剥離強度をT(L)とがこのような関係を満足することにより、被塗物と複層塗膜との間で更に高い密着性を有することができる。また、複層塗膜における各塗膜間においても、更に高い密着性を示すことができ、複層塗膜における界面剥離をより効果的に抑制できる。
【0119】
一実施態様において、被塗物上の複層塗膜は、相対湿度95%且つ50℃の条件で240時間曝された場合であっても、目視による外観評価において異常が観察されないのが好ましい。
【0120】
本開示に係る物品の製造方法は特に限定されない。被塗物、下塗り塗膜及び上塗り塗膜は、上述したものであってよい。
【0121】
一実施態様において、ウェットオンウェット法により、被塗物及び複層塗膜を含む物品を製造することができる。すなわち、一実施態様において、本開示に係る物品は、
被塗物上に、下塗り塗料組成物を塗装して未硬化の下塗り塗膜を形成する工程、
未硬化の下塗り塗膜上に、本開示に係る中塗り塗料組成物を塗装して未硬化の中塗り塗膜を形成する工程、
未硬化の中塗り塗膜上に、上塗り塗料組成物を塗装して未硬化の上塗り塗膜を形成する工程、及び
未硬化の下塗り塗膜と、未硬化の中塗り塗膜と、未硬化の上塗り塗膜とを60℃以上100℃以下で同時に焼付硬化する工程
を含む製造方法により製造することができる。
【0122】
別の実施態様において、本開示に係る物品は、
被塗物上に、下塗り塗料組成物を塗装して未硬化の下塗り塗膜を形成し、当該未硬化の下塗り塗膜を60℃以上100℃以下で焼付硬化して下塗り塗膜を形成する工程、
下塗り塗膜上に、本開示に係る中塗り塗料組成物を塗装して未硬化の中塗り塗膜を形成し、当該未硬化の中塗り塗膜を60℃以上100℃以下で焼付硬化して中塗り塗膜を形成する工程、
中塗り塗膜上に、上塗り塗料組成物を塗装して未硬化の上塗り塗膜を形成し、当該未硬化の上塗り塗膜を60℃以上100℃以下で焼付硬化して上塗り塗膜を形成する工程
を含む製造方法により製造することができる。
【0123】
これらの実施態様では、本開示に係る中塗り塗料組成物を用い、且つ60℃以上100℃以下と低い温度で各塗膜を焼付硬化することができる。そのため、熱に弱い被塗物、例えば、被塗物が樹脂部材を用いる場合であっても、被塗物の特性を損なうことなく、上述した種々の特性を有する塗膜を形成できる。
本開示に係る中塗り塗料組成物を用いて複層塗膜を形成することによって、例えば60℃以上100℃以下という低い温度で塗膜を焼付硬化する場合であっても、被塗物と複層塗膜との間でより高い密着性を有することができる。更に、複層塗膜における各塗膜間においても、より高い密着性を示すことができ、複層塗膜における界面剥離をより抑制できる。その上、より優れた塗膜外観を有する複層塗膜を形成できる。
更に、被塗物が複雑な形状を有する態様においても、複層塗膜はより高い密着性を有することができ、高いデザイン性を有する部品、例えば、車両外装用部品を提供できる。
【0124】
下塗り塗膜の乾燥塗膜が3μm以上15μm以下となるように、下塗り塗料組成物を被塗物上に塗布してよい。また、中塗り塗料組成物を塗布する前に、必要に応じて、下塗り塗膜を常温または加熱条件下(例えば60℃以上90℃以下)で乾燥させてもよい。
【0125】
中塗り塗膜の乾燥塗膜が10μm以上30μm以下となるように、本開示に係る中塗り塗料組成物を下塗り塗膜上に塗装してよい。また、上塗り塗料組成物を塗布する前に、中塗り塗膜を常温または加熱により乾燥させてもよい。
【0126】
上塗り塗膜の乾燥塗膜が20μm以上40μm以下となるように、上塗り塗料組成物を中塗り塗膜上に塗装してよい。
【0127】
上記より得られた、未硬化の下塗り塗膜と、前記未硬化の中塗り塗膜と、前記未硬化の上塗り塗膜とを60℃以上100℃以下で同時に焼付硬化することによって、被塗物上に複層塗膜を形成することができる。
【0128】
また、別の態様においては、下塗り塗料組成物、中塗り塗料組成物および上塗り塗料組成物それぞれを塗装し、その都度焼付硬化を行ってもよい。例えば、被塗物上に下塗り塗料組成物を塗装して未硬化の下塗り塗膜を形成し、得られた未硬化の下塗り塗膜を60℃以上100℃以下で焼付硬化して下塗り塗膜を形成し、上記下塗り塗膜上に、上記中塗り塗料組成物を塗装して未硬化の中塗り塗膜を形成し、得られた未硬化の中塗り塗膜を60℃以上100℃以下で焼付硬化して中塗り塗膜を形成し、そして、上記中塗り塗膜上に、上塗り塗料組成物を塗装して未硬化の上塗り塗膜を形成し、得られた未硬化の上塗り塗膜を60℃以上100℃以下で焼付硬化して上塗り塗膜を形成してもよい。
【実施例】
【0129】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」及び「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0130】
製造例1 下塗り塗料組成物の調製
(酸無水物変性塩素化ポリオレフィン)
酸無水物変性塩素化ポリオレフィンとして、以下の特性を有するものを使用した。
プロピレン/エチレンのモル比:90/10
無水マレイン酸部含有率(%):1.3
重量平均分子量:80,000
【0131】
(アクリル変性アルキッド樹脂の調製)
脱水ヒマシ油50.5質量部、無水フタル酸27.1質量部、ペンタエリスリトール14.5質量部、ネオペンチルグリコール7.9質量部を用いて、アルキッド樹脂重合部分を調製した。
また、メタクリル酸メチル61.0質量部、スチレン20.0質量部、アクリル酸n-ブチル18.4質量部及びメタクリル酸0.6質量部を用いて、アクリル樹脂重合部分を調製した。
得られたアルキッド樹脂重合部分と、アクリル樹脂重合部分を反応させ、アクリル変性アルキッド樹脂を調製した。
【0132】
上記酸無水物変性塩素化ポリオレフィン7部(固形分)、アクリル変性アルキッド樹脂7部(固形分)、顔料(チタンR-820、石原産業社製)14部及びトルエン72部を混合し、下塗り塗料組成物(ポリオレフィン用プライマー組成物)を調製した。
【0133】
製造例2 上塗り塗料組成物の調製
(水酸基含有アクリル樹脂の調製)
攪拌機、温度制御装置、還流冷却器を備えた容器に、酢酸ブチル30gを仕込み、120℃に昇温させた。次に下記組成のモノマー混合物(スチレン20部、n-ブチルアクリレート15.8部、n-ブチルメタクリレート21.8部、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート41.1部、アクリル酸1.3部)、そして、カヤエステルO 12部及び酢酸ブチル6部を3時間かけて同時に滴下させた後30分間放置し、カヤエステルO 0.5部、酢酸ブチル4部の溶液を30分間かけて滴下し、反応溶液を1時間攪拌し樹脂への変化率を上昇させた後、反応を終了させ、固形分70質量%、数平均分子量3800、水酸基価160mgKOH/g(うち二級水酸基の割合100%)、酸価10mgKOH/gである、水酸基含有アクリル樹脂を得た。
【0134】
(上塗り塗料組成物における主剤の調製)
1Lの金属製容器に、上記水酸基含有アクリル樹脂を245.3部、旭化成社製 デュラノールT-5650E 19.0部、チバガイギー社製紫外線吸収剤「チヌビン384」5.6部、チバガイギー社製光安定剤「チヌビン123」5.6部、アクリル系表面調整剤5.6部、トルエン37.0部及びキシレン37.0部を順次添加し、ディスパーにて十分撹拌し、2液型クリヤー塗料組成物の主剤を得た。
【0135】
(上塗り塗料組成物における硬化剤の調製)
別の金属製容器に、住友バイエルウレタン社製「ディスモジュールN-3300」(NCO有効成分22%)100.0部及び2-エチルエトキシプロパノール 30部を順次添加し、十分撹拌し、2液型クリヤー塗料組成物の硬化剤を得た。
【0136】
製造例3 中塗り塗料組成物中に含まれる各成分の調製など
中塗り塗料組成物に含まれる各成分を、以下の通り調製または入手した。
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
上記塗膜形成樹脂(A)~(C)のガラス転移温度は、示差走査熱量計を用いて得られたDSC曲線のベースラインと変曲点での接線から求めた。具体的な測定手順は以下に記載の通りである。
【0141】
ガラス転移温度の測定機器として、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製X-DSC7000を用いた。
ガラス転移温度を測定するために、塗膜形成樹脂それぞれを塗装した後、乾燥させることにより、測定用の試験片を作成した。
樹脂溶液中の溶媒を除去するために、以下の要領に準じて前処理を行った。
常圧で60℃×1時間乾燥(乾燥器)により大半の溶剤を試験片から除去した後、25℃・滅圧度760mmHg×4時間(真空乾燥器)さらに試験片を乾燥させた。
乾燥機はSPHH-100(タバイエスペック製)、真空乾燥機はEYLA VOS一450SD(東京理科機械製)を使用した。
次いで試験片の準備として、試験片の質量は、約10mgを採り0.1mgまで量った。
必要量を容器(アルミパン)にすきまがないように平らにかつ均一に入れ容器のふたを載せ固定した。
容器の装着は、以下の手順により行った。一方の容器ホルダーに試験片を詰めた容器を装着した。他方の容器ホルダーにはふたをした空容器を装着した。
窒素ガスの流量は、毎分20mに設定し、流量を変えることなく試験終了まで流入を続けた。
試験片を詰めた容器をDSC装置に入れ、熱履歴を合わせるために(1)ガラス転移終了時より約40℃高い温度まで毎分20℃で昇温し10分間保った後、ガラス転移温度より約50℃低い温度まで毎分10℃で降温して3分間保持し、毎分10℃で転移終了時よりも約30℃高い温度まで昇温し、DSC曲線を作成した。
次いで、ガラス転移温度測定において、階段状の変化の縦軸方向の差が記録紙のフルスケールの少なくとも10%以上になるように調整した。得られたDSC曲線に対して、低温側のべ一スラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度を求めた。温度は小数点以下1桁まで求めて四捨五入した。
上記操作を、同一材料について3回の測定を行い、得られた温度の平均値を算出することにより、ガラス転移温度を求めた。
【0142】
塗膜形成樹脂(A)~(C)の重量平均分子量は、ポリスチレンを標準として用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定結果から算出した。塗膜形成樹脂(A)~(C)の水酸基価は固形分換算での値を示し、JIS K 0070に従った方法により測定された値である。
【0143】
実施例1
中塗り塗料組成物の調製
下記表に示された塗膜形成樹脂(A)~(C)を、攪拌バックへ入れて攪拌した後、粘性剤であるディスパロンペースト(楠本化成社製、ポリアマイドワックス)10重量部を加えて攪拌した。次いで、硬化剤であるデュラネートMF-K60X(旭化成社製、ブロックイソシアネート)4重量部、そして、光輝剤であるアルミペースト(東洋アルミ社製、アルミニウム顔料)6重量部を加え、酢酸ブチル、キシレン、酢酸エチルおよび添加剤であるシリコン系添加剤(テンカザイ5648 東レ社製)18重量部を順次加えて攪拌した。凝集体がないことを目視確認し、中塗り塗料組成物を得た。
【0144】
複層塗膜の形成
被塗物として、ポリプロピレン基材である三菱化学製BK-211S/FT-28(厚さ3mm)を用いた。前処理としてIPA(イソプロピルアルコール)を塗布した布で、基材表面をワイプした後に用いた。
被塗物上に、上記で得られた下塗り塗料組成物を、厚さ9μmとなるよう塗装し、下塗り塗膜を形成した。
次いで、得られた下塗り塗膜の上に、上記で得られた中塗り塗料組成物を、厚さ18μmとなるよう塗装し、中塗り塗膜を形成した。
更に、得られた中塗り塗膜の上に、上記で得られた上塗り塗料組成物を、厚さ34μmとなるよう塗装した。得られた未硬化の下塗り塗膜、中塗り塗膜および上塗り塗膜を、80℃にて0.75時間かけて硬化させて、被塗物上に複層塗膜を形成した。
【0145】
実施例2~5
実施例1で用いた塗膜形成樹脂(A)(B)及び(C)において、成分の種類および/または配合量を下記表に示す条件に変更して中塗り塗料組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様にして中塗り塗料組成物を調製した。得られた中塗り塗料組成物を用いて、実施例1と同様の手順により、被塗物上に複層塗膜を形成した。
【0146】
比較例1~5
実施例1で用いた塗膜形成樹脂(A)、(B)及び(C)において、成分の種類および/または配合量を下記表に示す条件に変更して中塗り塗料組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様にして中塗り塗料組成物を調製した。得られた中塗り塗料組成物を用いて、実施例1と同様の手順により、被塗物上に複層塗膜を形成した。
【0147】
上記実施例および比較例により得られた中塗り塗料組成物を用いて、下記評価を行った。各種評価条件及び評価結果等を下記表に示す。
【0148】
[剥離強度の測定]
評価用塗装板を以下の方法で作成した。
ポリプロピレン(PP)基材の端に幅3cmのマスキングテープを張り付けた。次いで下塗り塗料組成物を膜厚9μmとなるように塗装した。下塗り塗料組成物を塗装した後5分放置し、マスキングテープを剥離して、下塗り塗膜の無い部分を作成する。次に中塗り塗料組成物を膜厚18μmとなるように塗装した。中塗り塗料組成物を塗装した後5分放置し、次いで上塗り塗料組成物であるクリヤー塗料組成物を膜厚32μmとなるように塗装し、常温で5分静置した。得られた未硬化の下塗り塗膜、中塗り塗膜および上塗り塗膜を、80℃オーブンに20分間焼付処理を行い、複層塗膜を形成した。
室温で48時間養生後、剥離強度測定時における測定用補助塗膜(測定用補助塗膜は日本ペイント製R-278 040MG 100%に対して硬化剤R-271を40%の割合で調合したもの)を100~120μm積層し、常温で養生した。
得られた塗装板を常温下で養生し、評価用塗装板を得た。
得られた評価用塗装板に、カッターを用いて10mm幅毎に切り込みを入れ、基材上まで延長されるように補強テープでフィルム長さを延長した。
図1は、剥離強度試験を模式的に示す図である。
測定試験機として、島津製作所株式会社製AG-ISを用いた。
図1のように1対のチャックの片方で評価用塗装板を挟み、もう一方のチャックで補強テープを挟み、剥離角180°、剥離速度20mm/min、剥離長さ15mmにて、基材と下塗り塗膜の間の剥離強度の測定を行った。引っ張り試験条件は、引っ張り速度:50mm/分、剥離幅:10mm、剥離角度:180°、測定温度:20℃とした。測定は、3回行い、平均値を剥離強度とした。
【0149】
耐湿試験
湿潤箱(型式 CT-3スガ試験機製)を用いて試験片を湿潤箱の中につるして緩やかに回転させたときの塗膜の状態の変化を調べた。
各実施例および比較例の手順により調製した複層塗膜を有する試験片(50×50mm以上の大きさ)の隅に、直径5mm程度の穴を開け、吊り下げ可能な状態とした。試験片を各実施例比較例に対して2枚ずつ準備した。試験片は1枚について実施し、残り1枚は比較板として保管した
湿潤箱使用点検標準(湿度条件:49℃±1℃、相対湿度:95%以上、空気流量:湿潤箱内容積の約3倍/h、水:脱イオン水、回転環の速さ:毎分約1/3回転)にしたがって実施した。試験片の塗面が重ならないように5mm以上の間隔をあけ、釣り具を用いて試験片を回転環に240時間吊した。その後、試験片を取り出し、付着した水を拭き取り取った後、塗面が重ならないよう室内に並べた。
その後、試験片を取り出し、室温で24時間放置した後、密着評価を行った。密着評価の手順は下記の通りである。
【0150】
[密着評価について]
JIS K5400に準拠して密着性試験を実施した。カッターナイフを用いて、1mm2のカット(碁盤目)が100個できるようにクロスカットを施した。次いで、作成した碁盤目の上にセロハン粘着テープを完全に付着させ、テープの一方の端を持ち上げて上方に剥がした。この剥離動作を同一箇所で3回実施した。その後、剥がれた碁盤目の数を、以下に記載の基準に沿って判定した。下記評価基準で8以上を合格とする。
10:剥がれなし
8:剥がれが5目以内である
6:剥がれが5目を超えて15目以内である
4:剥がれが15目を超えて35目以内である
2:剥がれが35目を超えて65目以内である
0:剥がれが65目を超えて100目以内である
【0151】
耐温水試験評価
各実施例および比較例の手順により調製した複層塗膜を有する試験片を、40℃に調整された恒温水槽に10日間(240時間)または20日間(500時間)浸した。
その後、試験片を取り出し、室温で24時間放置した後、密着評価を行った。密着評価の手順は下記の通りである。
【0152】
[密着評価について]
JIS K5400に準拠して密着性試験を実施した。カッターナイフを用いて、1mm2のカット(碁盤目)が100個できるようにクロスカットを施した。次いで、作成した碁盤目の上にセロハン粘着テープを完全に付着させ、テープの一方の端を持ち上げて上方に剥がした。この剥離動作を同一箇所で3回実施した。その後、剥がれた碁盤目の数を、以下に記載の基準に沿って判定した。下記評価基準で8以上を合格とする。
10:剥がれなし
8:剥がれが5目以内である
6:剥がれが5目を超えて15目以内である
4:剥がれが15目を超えて35目以内である
2:剥がれが35目を超えて65目以内である
0:剥がれが65目を超えて100目以内である
【0153】
【0154】
実施例の結果によると、本開示に係る中塗り塗料組成物を用いて中塗り塗膜を形成した場合、本開示に係る中塗り塗料組成物は、複層塗膜の各層に対して高い密着性を示す中塗り塗膜を形成できる。更に、本開示に係る中塗り塗料組成物は、被塗物に対して高い密着性を示す複層塗膜を形成できる。そして得られる複層塗膜は良好な耐湿性を有する。
上記複層塗膜はさらに、優れた塗膜外観を有し、そして複雑な形状にも追従できる性質を有する。このため、本開示に係る中塗り塗料組成物を用いて得られた複層塗膜であれば、高いデザイン性を有する部品に用いることができる。
その上、本開示に係る中塗り塗料組成物を用いて得られた複層塗膜であれば、被塗物と複層塗膜との間で、高い密着性を満たすことができる。さらに、本開示に係る中塗り塗料組成物は、外装などに用いることができる素材との密着力を維持し、従来の下塗り塗膜と比べて良好な密着性を有している。このため、本開示に係る中塗り塗料組成物は、プライマー塗膜および/またはクリヤー塗膜といった種類の塗膜以外(例えば鋼板基材など)に対しても、密着力の向上を確保することができる利点がある。
【0155】
また、本開示に係る中塗り塗料組成物であれば、被塗物が樹脂を含む態様においても、被塗物の特性を損なうことなく、上述した種々の特性を有する塗膜を形成できる。更に、本開示に係る中塗り塗料組成物であれば、被塗物が樹脂を含む態様において、被塗物が金属である態様と比べてより低い温度で焼付(塗膜の硬化)を行うことができる。そして本開示に係る中塗り塗料組成物を用いて形成される複層塗膜は、低い温度で焼付硬化を行う場合であっても、被塗物に対する密着性が良好であるという利点がある。
【0156】
一方、比較例1~3は、塗膜形成樹脂(A)~(C)のうちいずれか1つを含まないため、耐温水性能が不十分であった。
比較例4、5は、中塗り塗料組成物中に含まれる、塗膜形成樹脂(A)~(C)の混合物のガラス転移温度Tg(I)が本発明の範囲外であった。これらの場合も、耐温水性能などが不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本開示に係る中塗り塗料組成物は、複層塗膜の各層に対して高い密着性を示す中塗り塗膜を形成できる。更に、本開示に係る中塗り塗料組成物は、被塗物に対して高い密着性を示す複層塗膜を形成でき、その上、優れた塗膜外観を有する複層塗膜を形成できる利点もある。