(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】フロントフォーク
(51)【国際特許分類】
B62K 25/08 20060101AFI20241211BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20241211BHJP
F16F 9/44 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
B62K25/08 C
F16F9/32 C
F16F9/44
(21)【出願番号】P 2023568780
(86)(22)【出願日】2021-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2021047059
(87)【国際公開番号】W WO2023119372
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】514241869
【氏名又は名称】カヤバモーターサイクルサスペンション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】須崎 渓
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-122256(JP,A)
【文献】特開2009-299833(JP,A)
【文献】特開2009-168206(JP,A)
【文献】実開平05-014693(JP,U)
【文献】実開平03-025040(JP,U)
【文献】特開2002-161937(JP,A)
【文献】特開2003-90379(JP,A)
【文献】特開2021-25584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 25/08
F16F 9/00-9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントフォークであって、
車体側チューブと車軸側チューブとを摺動自在に嵌合したチューブ部材と、前記チューブ部材を伸長方向に付勢する懸架ばねとを有するフォーク本体と、
前記車体側チューブ内に挿入されるとともに先端側の側部に開口を具備する筒部と、前記筒部の外周に連なり前記車体側チューブの端部に装着される環状の蓋部とを有して
1部品のみで構成されるとともに、前記車体側チューブの開口端を閉塞するキャップと、
環状であって前記筒部内に挿入されて内周に螺子溝を有するナット部と、前記ナット部の外周から延びて前記開口を介して前記筒部の外へ突出するとともに前記懸架ばねの上端を支持する腕部とを有するワッシャと、
外周に前記ナット部に螺合される螺子溝が形成された軸部と、前記軸部の後端に設けられたフランジ部と、前記フランジ部の反軸部側から延びて先端に操作部を有する操作軸部とを有し、前記キャップの前記筒部内に前記軸部側から挿入されて前記キャップに対して周方向へ回転可能であって、前記操作部を前記筒部から上方へ突出させたアジャスタと、
前記キャップの筒部
と前記操作軸部との間に挿入されるとともに前記筒部の内周に装着されて前記フランジ部の反軸部側に当接して前記アジャスタの前記キャップからの抜けを防止するストッパ部材とを備えた
ことを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
前記ストッパ部材は、前記筒部の開口端の内周に装着されている
ことを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
前記ストッパ部材は、
前記筒部の内周に設けた環状溝に挿入されるリングと、
環状であって前記筒部と前記操作軸部との間に挿入されて、前記リングによって前記筒部に対して上方側への移動が規制されるとともに、前記フランジ部の反軸部側に当接するストッパとを有する
ことを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
前記ストッパは、外周に前記リングを収容する環状凹部を有し、
前記環状凹部は、内径が前記リングの内径よりも小径であって前記リングの線径以上の深さを持つ第1溝部と、
前記第1溝部の下方に隣接し、前記リングの線径未満の深さを持つ第2溝部とを有する
ことを特徴とする請求項3に記載のフロントフォーク
。
【請求項5】
前記ストッパの内周は、前記操作軸部の外周に摺接し、
前記ストッパの外周は、前記筒部の内周に摺接する
ことを特徴とする請求項3または4に記載のフロントフォーク。
【請求項6】
前記ストッパの前記筒部に対する軸方向位置を視認可能な位置認識
手段を備えた
ことを特徴とする請求項3または4に記載のフロントフォーク。
【請求項7】
前記リングが前記環状溝に挿入された状態で、前記ストッパの上端面と前記筒部の上端面とが面一となる
ことを特徴とする請求項5に記載のフロントフォーク。
【請求項8】
前記ストッパが前記懸架ばねの付勢力により押し上げられて前記ストッパの上端面と前記筒部とが面一となる
ことを特徴とする請求項7に記載のフロントフォーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントフォークに関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗車両の前輪を支持するフロントフォークには、鞍乗車両における車体と前輪車軸との間に介装されて減衰力を発揮するものがある。このようなフロントフォークは、鞍乗車両の車体に連結される車体側チューブと前記車体側チューブに嵌合して前輪車軸に連結される車軸側チューブとを備えて伸縮するフォーク本体と、シリンダとロッドとを備えてフォーク本体内に収容されてフォーク本体の伸縮に伴って減衰力を発揮するダンパカートリッジと、ダンパーカートリッジとフォーク本体とを伸長するように付勢する懸架ばねと、を備えて構成されるのが一般的である。
【0003】
前記したフロントフォークは、鞍乗車両における車高をユーザーが望む車高に調整できるように、車体側チューブの上端を閉塞するキャップに懸架ばねの上端の支持位置を調整するためのアジャスタを備える場合がある(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
このフロントフォークでは、キャップが車体側チューブの内周に形成の雌螺子部に螺着される環状の蓋部と、蓋部の内周から垂下されるとともに側方に開口を有する筒部とを備えている。また、筒部の下端は、ダンパーカートリッジのロッドに連結されており、筒部の内周であって開口よりも上方には螺子部が設けられている。
【0005】
他方、アジャスタは、外周であって先端から中央にかけて筒部における雌螺子部に螺合する雄螺子部を備えており、ユーザーの回転操作によって送り螺子の要領で筒部に対して出入りする。また、アジャスタの先端の外周にはCリングが装着されており、回転操作によってアジャスタが筒部から出て行く上方向へ移動して筒部から最大限に後退すると、前記Cリングが雌螺子部の下端に当接してそれ以上のアジャスタの後退が規制される。
【0006】
また、筒部内には、筒部内に挿入される本体部と、本体部から延びて筒部の開口から筒部外へ突出するとともに懸架ばねの上端を支持するばね支持部とを備えたばね受が収容されており、アジャスタの下端がばね受の本体部に当接している。よって、ユーザーがアジャスタを回転操作すると、アジャスタがキャップに対して上下動し、ばね受がアジャスタの上下動に追従して懸架ばねの上端の支持位置が変更されて、鞍乗車両の車高が調整がなされる。
【0007】
この従来のフロントフォークでは、アジャスタをユーザーが回転操作するとキャップに対して上下方向に変位するため、フロントフォークの直上にハンドルや計器類等が配置されるレイアウトの鞍乗車両では、アジャスタがハンドルや計器類等に干渉する可能性がある。
【0008】
そこで、ばね受の本体部に螺子孔を設けてばね受をアジャスタの雄螺子部に螺合し、アジャスタの回転操作によってばね受のみを送り螺子の要領でキャップに対して上下動させる構造の採用が望まれる。
【0009】
この場合、アジャスタの外周にフランジを設けて、キャップを2つの部品で構成して、キャップを構成する部品の一方でアジャスタのフランジを上方側から支持してアジャスタの抜けを防止する構造が取られる。
【0010】
具体的には、
図6に示すように、キャップ100は、車体側チューブ50の内周に螺着される外筒101aと外周に雄螺子部101cを備えた内筒101bと外筒101aと内筒101bとを接続する環状のプレート101dとを備えた蓋部材101と、蓋部材101の内筒101bの外周に螺着されるとともにロッド51の上端に接続される筒部材102とで構成される。そして、アジャスタ103は、中間部の外周であって雄螺子部103aの上方にフランジ103bを備えており、蓋部材101の内筒101b内に回転可能に挿入される。また、アジャスタ103のフランジ103bは、内筒101bの内周に形成された段部101eに当接しており、懸架ばね52からの弾発力によって内筒101bの段部101eに当接した状態に維持される。アジャスタ103の雄螺子部103aが螺子孔を有して懸架ばね52の上端を支持するばね受104に螺合されており、アジャスタ103の回転操作によってばね受104が上下方向へ移動する。
【0011】
このように構成されたフロントフォークでは、アジャスタ103はキャップ100に対して上下動しないので、フロントフォークの直上にハンドルや計器類等が配置されるレイアウトの鞍乗車両にも無理なく利用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前記フロントフォークでは、キャップ100が蓋部材101と筒部材102との2つの部品で構成されており、これらの接続が螺子締結で行われているため、筒部材102と蓋部材101の内筒101bとの螺子締結部分における重なり代を確保しなくてはならない。
【0014】
そして、筒部材102に設けられてばね受104のばね支持部104aが挿通される開口102aは、筒部材102における螺子部分102bを下方に避けて設ける必要があるので、どうしても筒部材102の全長が長くなってしまい、ばね受104の懸架ばね52の支持位置もその分だけ下方にシフトしてしまう。
【0015】
すると、ばね受104の懸架ばね52の支持位置が下方にずれると、その分だけ懸架ばね52を設置するスペースにおける軸方向長さ(格納長)が短くなってしまう。格納長が短くなると、その分だけ、懸架ばね52の設計自由度が低下してしまうといった問題が生じる。
【0016】
そこで、本発明は、キャップの全長を短くでき懸架ばねの設計自由度を向上できるフロントフォークの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記した目的を達成するため、本発明のフロントフォークは、車体側チューブと車軸側チューブとを摺動自在に嵌合したチューブ部材と、チューブ部材を伸長方向に付勢する懸架ばねとを有するフォーク本体と、車体側チューブ内に挿入されるとともに先端側の側部に開口を具備する筒部と、筒部の外周に連なり車体側チューブの端部に装着される環状の蓋部とを有して1部品のみで構成されるとともに、車体側チューブの開口端を閉塞するキャップと、環状であって筒部内に挿入されて内周に螺子溝を有するナット部と、ナット部の外周から延びて開口を介して筒部の外へ突出するとともに懸架ばねの上端を支持する腕部とを有するワッシャと、外周にナット部に螺合される螺子溝が形成された軸部と、軸部の後端に設けられたフランジ部と、フランジ部の反軸部側から延びて先端に操作部を有する操作軸部とを有し、キャップの筒部内に軸部側から挿入されてキャップに対して周方向へ回転可能であって、操作部を筒部から上方へ突出させたアジャスタと、キャップの筒部と操作軸部との間に挿入されるとともに筒部の内周に装着されてフランジ部の反軸部側に当接してアジャスタのキャップからの抜けを防止するストッパ部材とを備えて構成されている。
【0018】
このように構成されたフロントフォークでは、キャップが2部品ではなく1部品のみで構成されており、2つの部品同士を螺子締結する螺子締結部分が存在しないため、ワッシャの腕部が挿通される開口の位置を従来のフロントフォークと比較して上方に配置できる。
【0019】
このように、キャップにおける開口の位置を上方に配置すると、ワッシャの腕部で支持する懸架ばねの上端の支持位置を従来のフロントフォークと比較して上方にずらせるので、その分だけキャップの全長を短くできるとともに、フロントフォーク内での懸架ばねを設置するスペースにおける格納長を長くできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態におけるフロントフォークの縦断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態におけるフロントフォークの上端の拡大縦断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態の第1変形例におけるフロントフォークの上端の拡大縦断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態の第2変形例におけるフロントフォークの上端の拡大縦断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態の第3変形例におけるフロントフォークの上端の拡大縦断面図である。
【
図6】
図6は、従来のフロントフォークの上端の拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1および
図2に示すように、本発明のフロントフォーク1は、車体側チューブ3aと車軸側チューブ3bとを摺動自在に嵌合したチューブ部材3とチューブ部材3を伸長方向に付勢する懸架ばね4とを備えたフォーク本体2と、筒部5aと蓋部5bとを備えて車体側チューブ3aの開口端3a1を閉塞するキャップ5と、筒部5a内に挿入されるワッシャ6と、筒部5a内に挿入されてワッシャ6に螺合されるアジャスタ7と、アジャスタ7のキャップ5からの抜けを防止するストッパ部材8とを備えて構成されている。
【0022】
以下、各部について説明する。フォーク本体2は、
図1に示すように、チューブ部材3と、懸架ばね4を備えるとともに、チューブ部材3の伸縮に伴って伸縮して減衰力を発揮するダンパカートリッジ10を備えている。チューブ部材3は、上方側に配置されて図示しない鞍乗車両の車体に連結される車体側チューブ3aと、車体側チューブ3aより小径であって下方側に配置される車体側チューブ3a内に挿入される車軸側チューブ3bとを備えている。そして、チューブ部材3は、車体側チューブ3aと車軸側チューブ3bとが軸方向に相対的に移動すると伸縮する。なお、車体側チューブ3aの上端はキャップ5によって閉塞され、車軸側チューブ3bの下端は図示しない鞍乗車両の前輪の車軸を把持するボトムキャップ11によって閉塞されている。また、車体側チューブ3aと車軸側チューブ3bとの間には、環状の軸受12,13が設けられており、車体側チューブ3aと車軸側チューブ3bとが円滑に軸方向へ移動可能となっている。さらに、車体側チューブ3aの下端内周には、車軸側チューブ3bの外周に摺接する環状のシール部材14が設けられており、チューブ部材3の内部空間が密閉されている。
【0023】
ダンパカートリッジ10は、チューブ部材3の伸縮に伴って伸縮して減衰力を発揮する。ダンパカートリッジ10は、車軸側チューブ3bの下端開口部を閉塞するボトムキャップ11に固定されたシリンダ10aと、シリンダ10a内に摺動自在に挿入されてシリンダ10a内を液体が充填される伸側室R1と圧側室R2に仕切るピストン10bと、ピストン10bに連結されてシリンダ10a内に軸方向へ移動可能に挿入されると共に車体側チューブ3aの上端開口部を閉塞するキャップ5に連結されるピストンロッド10cとを備えている。また、ダンパカートリッジ10とチューブ部材3との間に形成される環状隙間を液体と気体が充填されるリザーバRと利用し、このリザーバRとシリンダ10aに設けた図示しない孔を通じて圧側室R2に連通してある。よって、伸縮時にシリンダ10a内に出入りするピストンロッド10cがシリンダ10a内で押し退ける体積分に見合った液体がシリンダ10a内とリザーバRとでやり取りされて体積補償できるようになっている。なお、液体には、作動油の使用が可能なほか、減衰力を発揮可能な液体であれば使用可能である。
【0024】
また、ピストン10bは、環状であって、伸側室R1と圧側室R2とを連通する伸側ポート10b1および圧側ポート10b2を備えている。そして、ピストン10bの
図1中下端には、伸側ポート10b1を開閉する環状の伸側リーフバルブ10dが積層され、ピストン10bの
図1中上端には、圧側ポート10b2を開閉する環状の圧側リーフバルブ10eが積層されている。これらピストン10b、伸側リーフバルブ10dおよび圧側リーフバルブ10eは、ともに、ピストンロッド10cの
図1中下端に連結されるピストン連結部材10fの外周に装着されている。伸側リーフバルブ10dおよび圧側リーフバルブ10eは、内周側がピストンロッド10cに固定されており、外周側が撓んでピストン10bから離間すると対応する伸側ポート10b1と圧側ポート10b2を開放する。
【0025】
ピストンロッド10cは、筒状とされており、
図1中上端が、キャップ5に螺子締結によって連結される。ピストンロッド10cの
図1中下端に連結されるピストン連結部材10fは、筒状であって、外周にピストン10b、伸側リーフバルブ10dおよび圧側リーフバルブ10eが装着される他、内周を通じて伸側ポート10b1および圧側ポート10b2を迂回して伸側室R1と圧側室R2とを連通させるバイパス路Bを形成している。また、ピストン連結部材10fの内方には、ニードルバルブ10gが軸方向へ移動可能に挿入されている。ニードルバルブ10gは、ピストン連結部材10f内で軸方向へ移動すると、バイパス路Bの流路面積を増減させる。
【0026】
また、シリンダ10aの上端内周には、ピストンロッド10cが摺動自在に挿入される筒状のロッドガイド10hが装着されている。ロッドガイド10hは、ピストンロッド10cの軸方向移動をガイドする役割の他にも、懸架ばね4の下端を支持するばね受として機能する他、ピストンロッド10cの途中の外周に設けられたオイルロックピース10iの侵入によってダンパカートリッジ10並びにフォーク本体2のそれ以上の収縮を抑制するオイルロックケースとしても機能している。
【0027】
さらに、ピストンロッド10c内には、調整ロッド15が軸方向移動自在に挿入されている。調整ロッド15の下端は、
図1に示すように、ニードルバルブ10gの上端に接しており、調整ロッド15を上下移動させるとニードルバルブ10gも上下動して、バイパス路Bにおける流路面積を調整できる。なお、バイパス路Bに設けるのは、ニードルバルブ10gに限定されるものではなく、バイパス路B内で調整ロッド15によって変位して流路面積或いは開弁圧を可変にする可変減衰バルブを使用できる。
【0028】
このように構成されたフロントフォーク1は、フォーク本体2が伸長する場合、ダンパカートリッジ10も伸長して、伸側室R1がピストン10bによって圧縮される。そして、フォーク本体2の伸長速度が低速であって、伸側室R1の圧力が伸側リーフバルブ10dを開弁させるまで至らない場合、ニードルバルブ10gが開弁している状態では、伸側室R1内の液体がバイパス路Bを通じて圧側室R2へ移動する。この液体の流れに対してニードルバルブ10gが抵抗を与えるために、伸側室R1と圧側室R2の圧力に差が生じて、フロントフォーク1は伸長作動を抑制する減衰力を発揮する。また、フォーク本体2の伸長速度が高速となり、伸側室R1の圧力の作用で伸側リーフバルブ10dが開弁して、ニードルバルブ10gが開弁している状態では、伸側室R1内の液体がバイパス路Bだけでなく伸側ポート10b1をも通じて圧側室R2へ移動する。この液体の流れに対してニードルバルブ10gと伸側リーフバルブ10dが抵抗を与えるために、伸側室R1と圧側室R2の圧力に差が生じて、フロントフォーク1は伸長作動を抑制する減衰力を発揮する。
【0029】
ここで、調整ロッド15を軸方向へ移動させてニードルバルブ10gの弁開度を変更できるので、フロントフォーク1の伸側の減衰力の特性(伸縮速度に対する減衰力の特性)を調整できる。
【0030】
また、フォーク本体2が収縮する場合、ダンパカートリッジ10も収縮して、圧側室R2がピストン10bによって圧縮される。そして、フォーク本体2の収縮速度が低速であって、圧側室R2の圧力が圧側リーフバルブ10eの開弁圧に至らない場合、ニードルバルブ10gが開弁している状態では、圧側室R2内の液体がバイパス路Bを通じて伸側室R1へ移動する。この液体の流れに対してニードルバルブ10gが抵抗を与えるために、圧側室R2と伸側室R1の圧力に差が生じて、フロントフォーク1は収縮作動を抑制する減衰力を発揮する。また、フォーク本体2の収縮速度が高速となり、圧側室R2の圧力が圧側リーフバルブ10eの開弁圧に達するようになると、ニードルバルブ10gが開弁している状態では、圧側室R2内の液体がバイパス路Bだけでなく圧側ポート10b2をも通じて伸側室R1へ移動する。この液体の流れに対してニードルバルブ10gと圧側リーフバルブ10eが抵抗を与えるために、圧側室R2と伸側室R1の圧力に差が生じて、フロントフォーク1は収縮作動を抑制する減衰力を発揮する。
【0031】
また、フロントフォーク1の収縮作動時においても、調整ロッド15によるニードルバルブ10gの変位調整によってバイパス路Bの流路面積を増減させて、フロントフォーク1の圧側の減衰力を調整できる。
【0032】
つづいて、キャップ5、キャップ5に装着されるワッシャ6,アジャスタ7およびストッパ部材8について詳しく説明する。キャップ5は、
図2に示すように、車体側チューブ3a内に挿入されるとともに先端側の側部に開口を具備する筒部5aと、筒部5aの外周に連なり車体側チューブ3aの端部に装着される環状の蓋部5bとを備えている。
【0033】
筒部5aは、有底筒状であって、下端に中間部5a1よりも内径が小径に形成された小径部5a2と、上端に中間部5a1よりも内径が大径に形成された大径部5a3とを備えている。小径部5a2の内周は、螺子溝が形成されており、ダンパカートリッジ10におけるピストンロッド10cの上端の外周に設けられた螺子溝が螺合される。なお、ピストンロッド10cの上端外周の螺子溝にはナット18が螺着されて筒部5aの下端に当接しており、小径部5a2とナット18とが互いに締め付け合って互いの弛みが防止され、筒部5aとピストンロッド10cとの締結を強固なものとしている。
【0034】
大径部5a3は、上端外周に工具による把持を可能とする六角形状の把持部5a4を備えるとともに、内周に周方向に沿って環状溝5a5を備えている。さらに、筒部5aにおける中間部5a1には、180度の位相差をもって対向する一対の矩形の開口5a6が設けられている。
【0035】
蓋部5bは、筒部5aの上端の近傍の側方から外周側へ向けてフランジ状に突出しており、外周に螺子部5b1を備えている。蓋部5bは、車体側チューブ3aの上端の開口端3a1の内周に形成された螺子部3a2に外周の螺子部5b1を螺合して車体側チューブ3aに連結される。また、蓋部5bの外周であって螺子部5b1の上方には、車体側チューブ3aの内周に密着するシールリング17が装着されており、キャップ5と車体側チューブ3aとの間がシールされている。
【0036】
ワッシャ6は、内周に螺子溝6a1を備えた円環状のナット部6aと、ナット部6aの外周から延びて筒部5aにおける開口5a6を介して筒部5aの外へ突出する一対の腕部6bとを備えている。ワッシャ6は、筒部5a内で腕部6bが開口5a6内で上下方向へ移動できる範囲内でキャップ5に対して上下方向へ移動可能である。なお、ワッシャ6における腕部6bは、筒部5aの開口5a6に摺動自在に挿入されており、ワッシャ6は、筒部5a内で上下方向へ移動できるが、ナット部6aを中心とした周方向へ回転は規制されている。
【0037】
なお、筒部5aの外周には、懸架ばね4の上端に嵌合する筒状のスペーサ19が配置されており、スペーサ19の上端には、スペーサ19に対して回転可能に間座20が積層されている。そして、ワッシャ6の腕部6bは、間座20の上端に当接しており、スペーサ19および間座20を介して懸架ばね4の上端を支持している。懸架ばね4は、ダンパカートリッジ10のロッドガイド10hとワッシャ6との間に圧縮された状態で介装されている。
【0038】
アジャスタ7は、全体としては筒状であって、下方側の軸部7aと、軸部7aの後端となる
図2中上端の外周に設けられたフランジ部7b、フランジ部7bの上方に設けられた操作軸部7cを備えており、キャップ5における筒部5a内に周方向へ回転可能に挿入されている。
【0039】
軸部7aは、外周にワッシャ6のナット部6aに螺合される螺子溝7a1が形成されている。フランジ部7bは、軸部7aの
図2中上端から外周側に向けて設けられており、外周にはシールリング21が収容される周方向に沿って環状溝7b1を備えている。フランジ部7bの反軸部側となる
図2中上側の端面7b2は、アジャスタ7の軸に直交する滑らかな直交面となっている。シールリング21は、アジャスタ7が筒部5a内にて適正な位置に挿入されると、筒部5aにおける中間部5a1の開口5a6よりも上方の内周面に摺接して、アジャスタ7と筒部5aとの間をシールする。
【0040】
操作軸部7cは、フランジ部7bの反軸部側となる
図2中上端側から上方へ延びて先端に工具による把持が可能な操作部7c1を有している。そして、操作部7c1は、アジャスタ7が筒部5a内にて適正な位置に挿入されると、筒部5aから突出して、フロントフォーク外へ露出する。
【0041】
このように構成されたアジャスタ7は、キャップ5の筒部5a内に軸部7a側から挿入されてキャップ5に対して周方向へ回転できる。よって、ユーザーは、工具を利用して操作部7c1を掴んで、アジャスタ7を容易に回転操作できる。操作部7c1の外周形状は、六角形状とされているが、六角形状以外にも工具の把持に適した形状とされていればよい。
【0042】
なお、アジャスタ7の内周には、螺子溝7dが設けられている。そして、アジャスタ7の内周には、調整ロッド15の
図2中上端に当接する操作子22が回転可能に挿入されている。操作子22は、
図2中で下端外周に螺子溝7dに螺合する螺子部22aを備えており、頭部に設けた溝22bに差し込まれる工具の操作によって回転させられると、アジャスタ7に対して軸方向となる上下方向に移動する。このように操作子22をアジャスタ7に対して回転させることで調整ロッド15を介してニードルバルブ10gの開度を調整して、ダンパカートリッジ10が発生する減衰力を調整できる。なお、操作子22とアジャスタ7との間は、操作子22の外周に装着されたシールリング23によりシールされている。
【0043】
つづいて、ストッパ部材8は、キャップ5の筒部5aの大径部5a3の内周に装着されおり、アジャスタ7のフランジ部7bの反軸部側の端面7b2に当接してアジャスタ7のキャップ5からの抜けを防止している。このように、ストッパ部材8は、キャップ5の筒部5aにおける上側の開口端の内周に装着されている。
【0044】
詳しくは、ストッパ部材8は、筒部5aの大径部5a3の内周に設けた環状溝5a5に挿入されるC形のリング8aと、環状であって筒部5aと操作軸部7cとの間に挿入されてリング8aによって筒部5aに対して上方側への移動が規制されるとともにフランジ部7bの反軸部側の端面7b2に当接するストッパ8bとを備えている。
【0045】
リング8aは、外径が筒部5aの環状溝5a5の底部における直径以上に設定されており、外径が縮められると筒部5a内への挿入が可能であり、縮径された後、環状溝5a5内に挿入されると自身の外径を広げようとする復元力で拡径して環状溝5a5に定着される。
【0046】
ストッパ8bは、断面が矩形の環状の部品であって、筒部5aの大径部5a3とアジャスタ7の操作軸部7cとの間の環状隙間に挿入可能であって、大径部5a3と操作軸部7cとの双方に摺接する。また、ストッパ8bは、外周にリング8aを収容する環状凹部8b1を備えている。さらに、ストッパ8bの軸方向長さは、大径部5a3の軸方向長さよりも短い。本実施の形態のフロントフォーク1では、環状凹部8b1は、内径がリング8aの内径よりも小径であってリング8aの線径以上の深さを持つ第1溝部8b11と、第1溝部8b11の下方に隣接してリング8aの線径未満の深さを持つ第2溝部8b12とを備えている。また、第1溝部8b11は、リング8aの線径以上の軸方向幅を有しており、リング8aを完全に収容可能である。なお、第2溝部8b12の軸方向幅は、リング8aの線径の2分の1以上の幅に設定されているとよい。第2溝部8b12の軸方向幅がリング8aの線径の2分の1以上の幅に設定されていると、リング8aを縮径させる外力が作用してもリング8aの最外周を第2溝部8b12の底部で支持でき、リング8aの縮径を効果的に抑制し得る。
【0047】
ストッパ8bは、筒部5aの大径部5a3の環状溝5a5に装着されるとともに環状凹部8b1における第2溝部8b12に配置されるリング8aによって、筒部5aからの抜けが阻止される。
【0048】
ストッパ8bの下端面は、アジャスタ7の軸に対して直交する滑らかな直交面となっており、フランジ部7bの反軸部側の端面7b2に当接すると、アジャスタ7の滑らかな回転を許容しつつフランジ部7bを支持してアジャスタ7の筒部5aからの抜けを防止する。
【0049】
そして、ストッパ部材8をキャップ5の筒部5aに装着するには、まず、筒部5a内にワッシャ6を挿入し、その後、アジャスタ7を筒部5a内に挿入して軸部7aをワッシャ6のナット部6aに螺合した状態としておく。なお、この際、操作子22は、予めアジャスタ7の内周に組付けられており、アジャスタ7の筒部5a内への挿入の際にアジャスタ7ととともに筒部5a内に挿入される。
【0050】
そして、リング8aの割れ目を広げて拡径しつつストッパ8bの環状凹部8b1における第1溝部8b11に対向させたのち縮径させる。すると、リング8aは、ストッパ8bの第1溝部8b11内に完全に収容される。
【0051】
前記状態のストッパ部材8をキャップ5の筒部5aとアジャスタ7の操作軸部7cとの間の環状隙間内に挿入する。リング8aは、ストッパ8bとともに筒部5aにおける大径部5a3内に挿入されると環状溝5a5に対向するまでは、大径部5a3の内周によって拡径が抑制されるので、縮径された状態でストッパ8bとともに大径部5a3内に挿入される。
【0052】
ストッパ8bの大径部5a3内へ侵入させてゆき、ストッパ8bの大径部5a3内への挿入度合が進行して、やがて、リング8aが環状溝5a5に対向すると、リング8aが拡径して環状溝5a5に入り込んで筒部5aに定着される。リング8aが環状溝5a5内に挿入されたとき、リング8aが第1溝部8b11の
図2中上側の側面に当接して、ストッパ8bのそれ以上の筒部5a内への押し込みが不能となる。なお、ストッパ部材8の筒部5aとアジャスタ7との間に環状隙間への挿入の際にストッパ8bとフランジ部7bとが当接する状態となる場合がある。アジャスタ7はワッシャ6とともに懸架ばね4の上端を支持しているので、ストッパ部材8の筒部5a内への侵入度合いに応じて懸架ばね4が縮むため、ストッパ8bとフランジ部7bとが当接しても、ストッパ部材8をアジャスタ7とともに筒部5a内へ侵入させ得る。
【0053】
リング8aが第1溝部8b11の
図2中上側の側面に当接して、ストッパ8bのそれ以上の筒部5a内への押し込みが不能となった後、ストッパ8bの押し込みをやめると、懸架ばね4の付勢力でアジャスタ7とともにストッパ8bが筒部5aに対して上方に押し上げられて、リング8aが環状凹部8b1における第2溝部8b12内に挿入される。第2溝部8b12の深さはリング8aの線径未満となっているので、リング8aが第2溝部8b12内に挿入されると、リング8aの内周が第2溝部8b12の底部に当接するとリング8aの縮径が規制されて、リング8aの外周がストッパ8bの外周より径方向へ突出した状態に維持される。
【0054】
よって、リング8aが第2溝部8b12内に挿入された状態では、リング8aに外力によって縮径する方向の力が加わっても、リング8aがストッパ8bの外周よりも径方向で突出して環状溝5a5内に挿入された状態に維持されて環状溝5a5内からの脱落が防止される。よって、ストッパ部材8は、筒部5aからの脱落が阻止されて、アジャスタ7の抜けを防止できる。
【0055】
なお、リング8aが環状溝5a5に対向するとリング8aが拡径して環状溝5a5に入り込む際に打音がするので、ストッパ部材8の筒部5aへの装着の際に、組立作業者は当該打音の有無によってリング8aの環状溝5a5内の装着の完了を認識できる。ただし、ストッパ8bのそれ以上の筒部5a内への押し込みが不能となるまでストッパ8bを大径部5a3内に侵入させると、リング8aが環状溝5a5に対向する位置以上にストッパ8bが侵入するので、リング8aの環状溝5a5への装着漏れを抑制できる。
【0056】
リング8aが環状溝5a5内に挿入されるとともに、ストッパ8bの第2溝部8b12内に挿入されると、ストッパ8bの
図2中上端面と筒部5aの上端面との高さが丁度同じになって、ストッパ8bの上端面と筒部5aの上端面とが面一になる。このように、リング8aが環状溝5a5内と第2溝部8b12内に挿入されると、ストッパ8bの
図2中上端面と筒部5aの上端面とが面一になるように設定されると、組立作業者は、リング8aが適切に筒部5aとストッパ8bとに装着されているか否かを、ストッパ8bの
図2中上端面の位置と筒部5aの上端面の位置の状態に応じて判断できる。よって、リング8aが環状溝5a5内と第2溝部8b12内に挿入されると、ストッパ8bの
図2中上端面と筒部5aの上端面とが面一になるように設定されると、ストッパ部材8の組付不良の有無を外部からストッパ8bと筒部5aとの高さを確認することによって判断できる。
【0057】
そして、ストッパ部材8が筒部5aに装着されると、アジャスタ7は、軸方向にて、ストッパ部材8によってストッパ8bの下端面がアジャスタ7のフランジ部7bの反軸部側の端面7b2に当接する位置に位置決められる。このように、アジャスタ7がストッパ部材8によってキャップ5の筒部5aに対して位置決めされた位置が筒部5aに対するアジャスタ7の適正な位置となる。そして、ストッパ8bの下端面とアジャスタ7のフランジ部7bの反軸部側の端面7b2とがアジャスタ7の軸に対して直交する直交面となっているので、アジャスタ7は、その位置決めされた位置にて周方向に円滑に回転できるとともに、ストッパ部材8によって筒部5aからの抜けが防止される。
【0058】
なお、ストッパ部材8におけるストッパ8bの環状凹部8b1における第1溝部8b11は、ストッパ8bの上端まで亘って形成されてもよいが、その場合、筒部5aの大径部5a3の内周とストッパ8bの外周との間に環状のポケットが形成される。この場合、当該ポケットを蓋して当該ポケットに塵等が溜まるのを防止する環状の蓋を設けるとよい。
【0059】
つづいて、懸架ばね4は、ダンパカートリッジ10のロッドガイド10hとワッシャ6との間に介装されて、常時、車体側チューブ3aと車軸側チューブ3bとを軸方向で離間する方向へ付勢している。よって、チューブ部材3は、懸架ばね4の弾発力によって伸長する方向へ向けて付勢されている。
【0060】
そして、フロントフォーク1のユーザーが、アジャスタ7の操作部7c1を工具で把持して回転操作すると、軸部7aの外周に螺合しているワッシャ6が筒部5aによって回転が規制されているので、送り螺子の要領で軸方向となる上下方向へ変位する。このように、アジャスタ7の回転操作によってワッシャ6がキャップ5における筒部5aに対して上下方向へ移動すると、懸架ばね4の上端の支持位置もワッシャ6の変位に伴って変化するので、フロントフォーク1が適用された鞍乗車両の車高を調整できる。
【0061】
以上のように、フロントフォーク1は、車体側チューブ3aと車軸側チューブ3bとを摺動自在に嵌合したチューブ部材3と、チューブ部材3を伸長方向に付勢する懸架ばね4とを有するフォーク本体2と、車体側チューブ3a内に挿入されるとともに先端側の側部に開口5a6を具備する筒部5aと、筒部5aの外周に連なり車体側チューブ3aの端部に装着される環状の蓋部5bとを有して車体側チューブ3aの開口端を閉塞するキャップ5と、環状であって筒部5a内に挿入されて内周に螺子溝6a1を有するナット部6aと、ナット部6aの外周から延びて開口5a6を介して筒部5aの外へ突出するとともに懸架ばね4の上端を支持する腕部6bとを有するワッシャ6と、外周にナット部6aに螺合される螺子溝7a1が形成された軸部7aと、軸部7aの後端に設けられたフランジ部7bと、フランジ部7bの反軸部側から延びて先端に操作部7c1を有する操作軸部7cとを有し、キャップ5の筒部5a内に軸部側から挿入されてキャップ5に対して周方向へ回転可能であって、操作部7c1を筒部5aから上方へ突出させたアジャスタ7と、キャップ5の筒部5aの内周に装着されてフランジ部7bの反軸部側に当接してアジャスタ7のキャップ5からの抜けを防止するストッパ部材8とを備えて構成されている。
【0062】
このように構成されたフロントフォーク1は、キャップ5が2部品ではなく1部品のみで構成されており、アジャスタ7のキャップ5からの抜けを防止するストッパ部材8がキャップ5の筒部5aの内周に装着されてフランジ部7bの反軸部側に当接している。よって、キャップ5は、互いに螺子締結される2つの部品で構成されておらず、1つの部品で構成されていて2つの部品同士を螺子締結する螺子締結部分が存在しないため、ワッシャ6の腕部6bが挿通される開口5a6の位置を従来のフロントフォークと比較して上方に配置できる。
【0063】
このように、キャップ5における開口5a6の位置を上方に配置すると、ワッシャ6の腕部6bで支持する懸架ばね4の上方側の支持位置を従来のフロントフォークと比較して上方にずらせるので、その分だけキャップ5の全長を短くできるとともに、フロントフォーク1内での懸架ばね4を設置するスペースにおける軸方向長さ(格納長)を長くできる。このように、懸架ばね4の格納長を長くできるので、懸架ばね4の線径太さ、自然長、ピッチ等といった懸架ばね4の設計上のパラメータの設定自由度が向上する。以上より、本実施の形態のフロントフォーク1によれば、キャップ5の全長を短くでき、懸架ばね4の設計自由度を向上できる。
【0064】
また、このように構成されたフロントフォーク1によれば、キャップ5の全長を短くしてキャップ5を軽量化できるので、フロントフォーク1の軽量化が図れる。
【0065】
そして、本実施の形態のフロントフォーク1では、ストッパ部材8は、筒部5aの開口端の内周に装着されている。このように構成されたフロントフォーク1によれば、アジャスタ7を筒部5aに対して上方に配置できるようになるので、よりキャップ5の全長を短くできるとともに、懸架ばね4の設計自由度をより一層向上できる。
【0066】
また、本実施の形態のフロントフォーク1では、ストッパ部材8は、筒部5aの内周に設けた環状溝5a5に挿入されるリング8aと、環状であって筒部5aと操作軸部7cとの間に挿入されて、リング8aによって筒部5aに対して上方側への移動が規制されるとともに、フランジ部7bの反軸部側に当接するストッパ8bとを備えている。このように構成されたフロントフォーク1によれば、アジャスタ7のフランジ部7bの反軸部側の端面7b2とストッパ8bのチューブ体側の端面とが面接触するので、アジャスタ7を回転操作した際に円滑に回転できる。なお、ストッパ部材8は、筒部5aの内周に装着されてアジャスタ7の筒部5aからの抜けを防止できればよいので、C形のリング8aのみで構成されてもよいが、アジャスタ7を回転操作する際の抵抗がストッパ8bをフランジ部7bに面接触させる場合よりも大きくなる。
【0067】
また、本実施の形態のフロントフォーク1では、ストッパ8bは、外周にリング8aを収容する環状凹部8b1を備え、環状凹部8b1は、内径がリング8aの内径よりも小径であってリング8aの線径以上の深さを持つ第1溝部8b11と、第1溝部8b11の下方に隣接するとともにリング8aの線径未満の深さを持つ第2溝部8b12とを備えている。
【0068】
このように構成されたフロントフォーク1によれば、ストッパ部材8を筒部5aと操作軸部7cとの間の環状隙間内に挿入する際には、ストッパ8bの環状隙間内への挿入の邪魔にならないようにリング8aを第1溝部8b11内に収容できる。また、このように構成されたフロントフォーク1によれば、リング8aが環状溝5a5に装着された後には、リング8aを第2溝部8b12内に挿入してリング8aの外径が大径部5a3の内径以下にならないように拘束して、リング8aの環状溝5a5からの脱落を防止できる。
【0069】
さらに、本実施の形態のフロントフォーク1では、ストッパ8bの内周が操作軸部7cの外周に摺接し、ストッパ8bの外周が筒部5aの内周に摺接している。このように構成されたフロントフォーク1によれば、筒部5aとアジャスタ7との間の環状隙間をストッパ8bで埋めることができるので、アジャスタ7の周囲の見栄えが良くなるとともに、環状隙間内へに塵等の侵入を防止できる。
【0070】
そして、本実施の形態のフロントフォーク1では、リング8aが環状溝5a5に挿入された状態で、ストッパ8bの上端面と筒部5aの上端面とが面一となる。このように構成されたフロントフォーク1によれば、ストッパ部材8のキャップ5への装着後に、ストッパ8bの上端面の位置と筒部5aの上端面の位置とが面一になっているか確認して、ストッパ部材8の組付不良の有無を外部から判断できる。
【0071】
なお、前述したところでは、リング8aが環状溝5a5に挿入された状態で、ストッパ8bの上端面と筒部5aの上端面とが面一となるが、
図3に示すように、ストッパ8bの上端が筒部5aよりも上方に突出するようにしてもよい。この場合、ストッパ8bの上端外周にテーパ状に面取部8b2を設けており、リング8aが環状溝5a5に挿入された状態で面取部8b2の下端の位置が筒部5aの上端面の位置と同じ高さになるようにしている。よって、このように構成されたフロントフォーク1によれば、ストッパ部材8のキャップ5への装着後に、ストッパ8bの面取部8b2の下端面の位置と筒部5aの上端面の位置とが同じになっているか確認して、ストッパ部材8の組付不良の有無を外部から判断できる。よって、ストッパ部材8の組付不良の有無を外部から判断できるようにするには、ストッパ8bの筒部5aに対する軸方向位置を視認可能な位置認識手段を設ければよい。
図3に示したところでは、この位置認識手段は、ストッパ8bの上端外周に設けた面取部8b2で構成されているが、ストッパ8bの上端が筒部5aから上方へ突出する場合、ストッパ8bの外周に刻印、切削或いは塗装によって設けられた目印とされてもよい。目印による場合も、ストッパ8bの目印の位置と筒部5aの上端の位置との高さが同じになれば、リング8aが環状溝5a5内に挿入されたことを確認できる。よって、ストッパ8bの筒部5aに対する軸方向位置を視認可能な位置認識手段を設ければ、ストッパ部材8の組付不良の有無を外部からストッパ8bと筒部5aとの高さを確認することによって判断できる。
【0072】
なお、筒部5aに対するストッパ部材8の固定は、リング8aの利用に代えて、
図4に示すように、ストッパ部材81を断面矩形の環状の部品として筒部5aにおける大径部5a3の内周へ圧入嵌合によってもよいし、
図5に示すように、ストッパ部材82を断面矩形の環状の部品として外周に螺子部を設けて、筒部5aにおける大径部5a3の内周に同じく螺子部を設けてストッパ部材82を筒部5aに螺子締結してもよい。なお、ストッパ部材82を筒部5aに螺子締結する場合、ストッパ部材82の筒部5aに対する回転を防止する部品を設けるとよい。
【0073】
また、本実施の形態のフロントフォーク1では、キャップ5の筒部5aの上端の内周の径を大径とした大径部5a3を設けているが、中間部から上方の内径を同一して大径部5a3を省略してもよい。ただし、大径部5a3を設けると、アジャスタ7を筒部5a内に挿入する際に、アジャスタ7のフランジ部7bの外周に装着されたシールリング21は、大径部5a3には接触しなくて済むため、アジャスタ7の筒部5a内への挿入作業が容易になる。
【0074】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0075】
1・・・フロントフォーク、2・・・フォーク本体、3・・・チューブ部材、3a・・・車体側チューブ、3b・・・車軸側チューブ、4・・・懸架ばね、5・・・キャップ、5a・・・筒部、5a5・・・環状溝、5a6・・・開口、5b・・・蓋部、6・・・ワッシャ、6a・・・ナット部、6b・・・腕部、7・・・アジャスタ、7a・・・軸部、7a1・・・螺子溝、7b・・・フランジ部、7c・・・操作軸部、7c1・・・操作部、8,81,82・・・ストッパ部材、8a・・・リング、8b・・・ストッパ、8b1・・・環状凹部、8b11・・・第1溝部、8b12・・・第2溝部