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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】リアクタ
(51)【国際特許分類】
   C10G 2/00 20060101AFI20241211BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20241211BHJP
   B01J 8/02 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C10G2/00
B01D53/22
B01J8/02 D
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2023580122
(86)(22)【出願日】2023-01-13
(86)【国際出願番号】 JP2023000763
(87)【国際公開番号】W WO2023153134
(87)【国際公開日】2023-08-17
【審査請求日】2024-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2022017954
(32)【優先日】2022-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】中川 剛佑
(72)【発明者】
【氏名】飯田 和希
(72)【発明者】
【氏名】菅 博史
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 淳史
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-055970(JP,A)
【文献】特開2019-156658(JP,A)
【文献】特開平05-303972(JP,A)
【文献】特開2014-111597(JP,A)
【文献】特表2020-509925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 2/00
B01D 53/22
B01J 8/02
C07C 29/152
C07C 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水素及び酸化炭素を含有する原料ガスから液体燃料への転化反応の生成物を透過させる分離膜と、
前記分離膜の非透過側に設けられ、前記原料ガスが流れる非透過側流路と、
前記非透過側流路内に充填され、前記転化反応を進行させる触媒と、
を備え、
前記触媒は、触媒粒子と、前記触媒粒子より柔らかいフィラー粒子とを含み、
前記触媒粒子は、担体及び担持触媒成分によって構成され、
前記フィラー粒子は、担体及び前記担持触媒成分によって構成される、
リアクタ。
【請求項2】
前記非透過側流路は、略鉛直方向に延び、
前記触媒は、第1層と、前記第1層より上方に配置される第2層とを有し、
前記第1層は、前記触媒粒子に比べて前記フィラー粒子を多く含み、
前記第2層は、前記フィラー粒子に比べて前記触媒粒子を多く含む、
請求項1に記載のリアクタ。
【請求項3】
前記非透過側流路は、略鉛直方向に延び、
前記触媒は、第1層と、前記第1層より上方に配置される第2層とを有し、
前記フィラー粒子は、前記第1層に配置される第1フィラー粒子と、前記第2層に配置される第2フィラー粒子とを含み、
前記第1フィラー粒子は、前記第2フィラー粒子より柔らかい、
請求項1又は2に記載のリアクタ。
【請求項4】
前記第1層の空隙率は、前記第2層の空隙率よりも大きい、
請求項3に記載のリアクタ。
【請求項5】
前記第1層は、前記触媒の最下層に位置する、
請求項2に記載のリアクタ。
【請求項6】
前記触媒は、前記分離膜に接触する第1部分と、前記分離膜から離れた第2部分とを有し、
前記第1部分は、前記触媒粒子に比べて前記フィラー粒子を多く含み、
前記第2部分は、前記フィラー粒子に比べて前記触媒粒子を多く含む、
請求項1に記載のリアクタ。
【請求項7】
前記触媒は、前記分離膜に接触する第1部分と、前記分離膜から離れた第2部分とを有し、
前記フィラー粒子は、前記第1部分に配置される第3フィラー粒子と、前記第2部分に配置される第4フィラー粒子とを含み、
前記第3フィラー粒子は、前記第4フィラー粒子より柔らかい、
請求項1又は6に記載のリアクタ。
【請求項8】
前記第1部分の空隙率は、前記第2部分の空隙率よりも大きい、
請求項6に記載のリアクタ。
【請求項9】
前記触媒は、前記分離膜に接触する第1部分と、前記分離膜から離れた第2部分とを有し、
前記第1部分は、前記フィラー粒子に比べて前記触媒粒子を多く含み、
前記第2部分は、前記触媒粒子に比べて前記フィラー粒子を多く含む、
請求項1に記載のリアクタ。
【請求項10】
前記触媒は、前記分離膜に接触する第1部分と、前記分離膜から離れた第2部分とを有し、
前記フィラー粒子は、前記第1部分に配置される第5フィラー粒子と、前記第2部分に配置される第6フィラー粒子とを含み、
前記第6フィラー粒子は、前記第5フィラー粒子より柔らかい、
請求項1又は9に記載のリアクタ。
【請求項11】
前記第2部分の空隙率は、前記第1部分の空隙率よりも大きい、
請求項9に記載のリアクタ。
【請求項12】
少なくとも水素及び酸化炭素を含有する原料ガスから液体燃料への転化反応の生成物を透過させる分離膜と、
前記分離膜の非透過側に設けられ、前記原料ガスが流れる非透過側流路と、
前記非透過側流路内に充填され、前記転化反応を進行させる触媒と、
を備え、
前記触媒は、触媒粒子と、前記触媒粒子より柔らかいフィラー粒子とを含み、
前記触媒粒子は、担体及び担持触媒成分によって構成され、
前記フィラー粒子は、担体と、金属触媒成分とは異なる担持触媒成分とによって構成される
リアクタ。
【請求項13】
前記非透過側流路は、略鉛直方向に延び、
前記触媒は、第1層と、前記第1層より上方に配置される第2層とを有し、
前記第1層は、前記触媒粒子に比べて前記フィラー粒子を多く含み、
前記第2層は、前記フィラー粒子に比べて前記触媒粒子を多く含む、
請求項12に記載のリアクタ。
【請求項14】
前記非透過側流路は、略鉛直方向に延び、
前記触媒は、第1層と、前記第1層より上方に配置される第2層とを有し、
前記フィラー粒子は、前記第1層に配置される第1フィラー粒子と、前記第2層に配置される第2フィラー粒子とを含み、
前記第1フィラー粒子は、前記第2フィラー粒子より柔らかい、
請求項12又は13に記載のリアクタ。
【請求項15】
前記第1層の空隙率は、前記第2層の空隙率よりも大きい、
請求項14に記載のリアクタ。
【請求項16】
前記第1層は、前記触媒の最下層に位置する、
請求項13に記載のリアクタ。
【請求項17】
前記触媒は、前記分離膜に接触する第1部分と、前記分離膜から離れた第2部分とを有し、
前記第1部分は、前記触媒粒子に比べて前記フィラー粒子を多く含み、
前記第2部分は、前記フィラー粒子に比べて前記触媒粒子を多く含む、
請求項12に記載のリアクタ。
【請求項18】
前記触媒は、前記分離膜に接触する第1部分と、前記分離膜から離れた第2部分とを有し、
前記フィラー粒子は、前記第1部分に配置される第3フィラー粒子と、前記第2部分に配置される第4フィラー粒子とを含み、
前記第3フィラー粒子は、前記第4フィラー粒子より柔らかい、
請求項12又は17に記載のリアクタ。
【請求項19】
前記第1部分の空隙率は、前記第2部分の空隙率よりも大きい、
請求項17に記載のリアクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素及び酸化炭素を含有する原料ガスからメタノールやエタノールなどの液体燃料(具体的には、常温常圧下で液体状態の燃料)への転化反応における生成物を分離することによって転化効率を向上させることのできるリアクタが開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、転化反応の生成物の一つである水蒸気を透過させる分離膜と、原料ガスが流れる非透過側流路と、流路内に充填される触媒とを備えるリアクタが開示されている。触媒は、原料ガスから液体燃料への転化反応を進行させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-8940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のリアクタでは、作動開始時、非透過側流路に高温の原料ガスが流れると、触媒が熱膨張して分離膜が損傷してしまうだけでなく、触媒に生じる熱応力によって触媒自体が粉化してしまう。
【0006】
本発明は、分離膜の損傷抑制と触媒の粉化抑制とを両立可能なリアクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面に係るリアクタは、少なくとも水素及び酸化炭素を含有する原料ガスから液体燃料への転化反応の生成物を透過させる分離膜と、分離膜の非透過側に設けられ、原料ガスが流れる非透過側流路と、非透過側流路内に充填され、転化反応を進行させる触媒とを備える。触媒は、担体及び担持触媒成分によって構成される触媒粒子と、触媒粒子より柔らかいフィラー粒子とを含む。
【0008】
本発明の第2の側面に係るリアクタは、上記第1の側面に係り、前記非透過側流路は、略鉛直方向に延び、前記触媒は、第1層と、前記第1層より上方に配置される第2層とを有し、前記第1層は、前記触媒粒子に比べて前記フィラー粒子を多く含み、前記第2層は、前記フィラー粒子に比べて前記触媒粒子を多く含む。
【0009】
本発明の第3の側面に係るリアクタは、上記第1又は第2の側面に係り、前記非透過側流路は、略鉛直方向に延び、前記触媒は、第1層と、前記第1層より上方に配置される第2層とを有し、前記フィラー粒子は、前記第1層に配置される第1フィラー粒子と、前記第2層に配置される第2フィラー粒子とを含み、前記第1フィラー粒子は、前記第2フィラー粒子より柔らかい。
【0010】
本発明の第4の側面に係るリアクタは、上記第3の側面に係り、前記第1層の空隙率は、前記第2層の空隙率よりも大きい。
【0011】
本発明の第5の側面に係るリアクタは、上記第2乃至第4いずれかの側面に係り、前記第1層は、前記触媒の最下層に位置する。
【0012】
本発明の第6の側面に係るリアクタは、上記第1の側面に係り、前記触媒は、前記分離膜に接触する第1部分と、前記分離膜から離れた第2部分とを有し、前記第1部分は、前記触媒粒子に比べて前記フィラー粒子を多く含み、前記第2部分は、前記フィラー粒子に比べて前記触媒粒子を多く含む。
【0013】
本発明の第7の側面に係るリアクタは、上記第1又は第6の側面に係り、前記触媒は、前記分離膜に接触する第1部分と、前記分離膜から離れた第2部分とを有し、前記フィラー粒子は、前記第1部分に配置される第3フィラー粒子と、前記第2部分に配置される第4フィラー粒子とを含み、前記第3フィラー粒子は、前記第4フィラー粒子より柔らかい。
【0014】
本発明の第8の側面に係るリアクタは、上記第6又は第7の側面に係り、前記第1部分の空隙率は、前記第2部分の空隙率よりも大きい。
【0015】
本発明の第9の側面に係るリアクタは、上記第1の側面に係り、前記触媒は、前記分離膜に接触する第1部分と、前記分離膜から離れた第2部分とを有し、前記第1部分は、前記フィラー粒子に比べて前記触媒粒子を多く含み、前記第2部分は、前記触媒粒子に比べて前記フィラー粒子を多く含む。
【0016】
本発明の第10の側面に係るリアクタは、上記第1又は第9の側面に係り、前記触媒は、前記分離膜に接触する第1部分と、前記分離膜から離れた第2部分とを有し、前記フィラー粒子は、前記第1部分に配置される第5フィラー粒子と、前記第2部分に配置される第6フィラー粒子とを含み、前記第6フィラー粒子は、前記第5フィラー粒子より柔らかい。
【0017】
本発明の第11の側面に係るリアクタは、上記第9又は第10の側面に係り、前記第2部分の空隙率は、前記第3部分の空隙率よりも大きい。
【0018】
本発明の第12の側面に係るリアクタは、上記第1乃至第11いずれかの側面に係り、前記フィラー粒子は、担体及び担持触媒成分によって構成される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、分離膜の損傷抑制と触媒の粉化抑制とを両立可能なリアクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態に係るリアクタの断面図
図2】第2実施形態に係るリアクタの断面図
図3】比較例2に係るリアクタの断面図
図4】比較例2に係るリアクタの断面図
図5】比較例3に係るリアクタの断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。
【0022】
1.第1実施形態
図1は、第1実施形態に係るリアクタ1の断面図である。
【0023】
リアクタ1は、原料ガスを液体燃料へ転化させるための所謂メンブレンリアクタである。リアクタ1の構成は、固定床反応器やモノリス反応器に適用することができる。
【0024】
原料ガスは、少なくとも水素及び酸化炭素を含有する。酸化炭素としては、一酸化炭素及び二酸化炭素の少なくとも一方を用いることができる。原料ガスは、いわゆる合成ガス(Syngas)であってもよい。
【0025】
液体燃料は、常温常圧で液体状態の燃料、又は、常温加圧状態で液化可能な燃料である。常温常圧で液体状態の燃料としては、例えばメタノール、エタノール、C2(m-2n)(mは90未満の整数、nは30未満の整数)で表される液体燃料、及びこれらの混合物が挙げられる。常温加圧状態で液化可能な燃料としては、例えばプロパン、ブタン、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0026】
例えば、二酸化炭素および水素を含む原料ガスを触媒存在下で接触水素化することでメタノールを合成する際の反応式(1)は次の通りである。
【0027】
CO+3H ⇔ CHOH+HO (1)
上記反応は平衡反応であり、転化効率及び反応速度の両方を高めるには高温高圧下(例えば、180℃以上、2MPa以上)で実施されることが好ましい。液体燃料は、合成された時点では気体状態であり、少なくともリアクタ1から流出するまでは気体状態のまま維持される。リアクタ1は、所望の液体燃料の合成条件に適した耐熱性及び耐圧性を有することが好ましい。
【0028】
図1に示すように、リアクタ1は、分離膜10と、多孔質支持体20と、非透過側流路30と、透過側流路40と、外管50と、触媒60とを備える。
【0029】
分離膜10は、原料ガスから液体燃料への転化反応の生成物の一つである水蒸気を透過させる。これにより、平衡シフト効果を利用して上記式(1)の反応平衡を生成物側にシフトさせることができる。本実施形態において、分離膜10は、筒状に形成される。
【0030】
分離膜10は、100nmol/(s・Pa・m)以上の水蒸気透過係数を有することが好ましい。水蒸気透過係数は、既知の方法(Ind.Eng.Chem.Res.,40,163-175(2001)参照)で求めることができる。
【0031】
分離膜10は、筒状に形成される。分離膜10は、筒状の多孔質支持体20の内側に配置される。分離膜10は、多孔質支持体20の内周面に接触する。
【0032】
分離膜10は、100以上の分離係数を有することが好ましい。分離係数が大きいほど、水蒸気を透過しやすく、かつ水蒸気以外の成分(水素、酸化炭素及び液体燃料など)を透過させにくい。分離係数は、既知の方法(「Separation and Purification Technology 239 (2020) 116533」のFig.1参照)で求めることができる。
【0033】
分離膜10としては、無機膜を用いることができる。無機膜は、耐熱性、耐圧性、耐水蒸気性を有するため好ましい。無機膜としては、例えばゼオライト膜、シリカ膜、アルミナ膜、これらの複合膜などが挙げられる。特に、シリコン元素(Si)とアルミニウム元素(Al)とのモル比(Si/Al)が1.0以上3.0以下であるLTA型のゼオライト膜は、水蒸気透過性に優れているため好適である。ただし、無機膜には、熱衝撃によって破損しやすいという特性がある。
【0034】
多孔質支持体20は、分離膜10を支持する。多孔質支持体20は、多孔質材料によって構成される。本実施形態において、多孔質支持体20は、筒状に形成される。
【0035】
多孔質材料としては、セラミック材料、金属材料、樹脂材料などを用いることができ、特にセラミック材料が好適である。セラミック材料の骨材としては、例えば、アルミナ(Al)、チタニア(TiO)、ムライト(Al・SiO)、セルベン及びコージェライト(MgAlSi18)のうち少なくとも一つを用いることができる。セラミック材料の無機結合材としては、例えば、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも一つを用いることができる。ただし、セラミック材料は、無機結合材を含んでいなくてもよい。
【0036】
多孔質支持体20は、筒状に形成される。多孔質支持体20は、分離膜10を取り囲む。非透過側流路30は、分離膜10の非透過側に設けられる。本実施形態において、非透過側流路30は、分離膜10の内側の柱状空間である。
【0037】
本実施形態において、非透過側流路30は、略鉛直方向に延びる。略鉛直方向とは、重力方向と一致する方向だけでなく、重力方向に対して若干(±15度)傾いた方向までを含む概念である。
【0038】
非透過側流路30には、原料ガスが流される。本実施形態において、原料ガスは、非透過側流路30内を下方に流される。従って、非透過側流路30の上端開口30aから原料ガスが流入し、非透過側流路30の下端開口30bから液体燃料が流出する。ただし、原料ガスは、非透過側流路30内を上方に流されてもよい。下端開口30bから流出する液体燃料には残原料ガスが混入していてもよい。
【0039】
透過側流路40は、分離膜10の非透過側に設けられる。本実施形態において、透過側流路40は、分離膜10と外管50との間の環状空間である。透過側流路40には、分離膜10を透過した水蒸気が流入する。
【0040】
本実施形態では、水蒸気を掃引するための掃引ガスが透過側流路40に流される。掃引ガスとしては、不活性ガス(例えば窒素)や空気などを用いることができる。本実施形態において、掃引ガスは、透過側流路40内を上方(すなわち、原料ガスとは逆向き)に流れる。従って、透過側流路40の下端開口40aから掃引ガスが流入し、透過側流路40の上端開口40bから水蒸気を取り込んだ掃引ガスが流出する。ただし、掃引ガスは、透過側流路40内を下方(すなわち、原料ガスと同じ向き)に流されてもよい。
【0041】
触媒60は、非透過側流路30内に充填される。触媒60は、原料ガスから液体燃料への転化反応を進行(促進)させる。触媒60は、分離膜10に直接接触する。
【0042】
触媒60は、複数の触媒粒子と、複数のフィラー粒子とによって構成される。
【0043】
触媒粒子は、担体と、触媒作用を発揮する担持触媒成分とによって構成される。担体としては、例えばアルミナ、チタニア、シリカ、セリア、ゼオライトなどを用いることができるが、これらには限られない。担持触媒成分は、担体の表面に担持される。担持触媒成分としては、金属触媒成分(銅、パラジウムなど)、酸化物触媒成分(酸化亜鉛、非晶質ジルコニア、酸化ガリウムなど)、及びこれらの複合物を用いることができるが、これらには限られない。
【0044】
触媒粒子の形状は特に限られず、例えば、球状、楕円体状、円柱状、楕円柱状、円盤状、鱗片状、針状、多角柱状、及びシート状などにすることができる。
【0045】
フィラー粒子は、触媒粒子より柔らかい材料によって構成される。触媒粒子より柔らかい材料としては、例えばアルミナ、チタニア、シリカ、セリア、ゼオライトなどが挙げられるが、これらには限られない。
【0046】
フィラー粒子は、担体と、触媒作用を発揮する担持触媒成分とによって構成されていてもよい。これによって、触媒60全体としての触媒作用を向上させることができる。担体としては、例えばアルミナ、チタニア、シリカ、セリア、ゼオライトなどを用いることができるが、これらには限られない。担持触媒成分は、上述したものを用いることができるが、これらには限られない。
【0047】
本明細書において、フィラー粒子が触媒粒子より柔らかいとは、フィラー粒子の硬度が触媒粒子の硬度より小さいことを意味する。フィラー粒子及び触媒粒子それぞれの硬度は、島津製作所製のマイクロオートグラフMST-Iにより、130℃で2時間乾燥した試料を用いて測定される。試験速度は、0.10mm/sとする。
【0048】
触媒60は、略鉛直方向において複数層が積層された複層構造を有する。本実施形態において、触媒60は、第1層61と、第2層62とを有する二層構造で構成される。
【0049】
第1層61は、触媒60のうち最下層に位置する。第1層61は、非透過側流路30の下端部に配置される。非透過側流路30の下端部とは、略鉛直方向における非透過側流路30の中央以下の領域である。第1層61の上端は、略鉛直方向における非透過側流路30の中央より下方に位置していてもよい。
【0050】
第2層62は、第1層61より上方に配置される。本実施形態において、触媒60は二層構造であるので、第2層62は、第1層61上に配置される。第2層62は、非透過側流路30のうち第1層61が配置されていない領域に配置される。
【0051】
ここで、第1層61は、触媒粒子に比べてフィラー粒子を多く含む。すなわち、第1層61において、フィラー粒子の含有率は、触媒粒子の含有率よりも大きい。よって、第1層61には柔軟性がある。そのため、リアクタ1の作動開始時、非透過側流路30に高温の原料ガスが流れて第1層61が熱膨張しても、第1層61から分離膜10にかかる力を低減させることができる。また、第1層61にかかる第2層62の重量を第1層61の内部で吸収できるため、第1層61から分離膜10にかかる力を低減させることができる。その結果、分離膜10が損傷してしまうことを抑制できる。
【0052】
また、第2層62は、フィラー粒子に比べて触媒粒子を多く含む。すなわち、第2層62において、触媒粒子の含有率は、フィラー粒子の含有率よりも大きい。触媒粒子は、フィラー粒子に比べて硬い材料によって構成されているため、熱応力によって触媒粒子が粉化してしまうことを抑制できる。
【0053】
以上のとおり、本実施形態に係る触媒60によれば、分離膜10の損傷抑制と触媒60の粉化抑制とを両立させることができる。
【0054】
第1層61が触媒粒子に比べてフィラー粒子を多く含むことは、次のように確認できる。
【0055】
まず、非透過側流路30に樹脂(例えばエポキシ)を流し込んで硬化させた後、触媒60を略鉛直方向に沿って切断する。
【0056】
次に、SEM(走査電子顕微鏡)を用いて、第1層61の断面画像を取得する。SEMの倍率は、1視野に10個以上(好ましくは100個以上)のフィラー粒子を観察できるように、1倍以上100倍以下の範囲から選択する。この場合、分離膜の両断面(非透過側流路30の水平方向両側の断面)が1視野に収まらないときは、分離膜の断面を観察できる2視野と当該2視野の間の1以上の視野とに分けてよい。断面画像では、画像の輝度を256階調に分類することによって触媒粒子、フィラー粒子及び空隙に明暗差を生じさせることができる。
【0057】
次に、各断面画像をMVTec社(ドイツ)製の画像解析ソフトHALCONによって画像解析することによって、触媒粒子、フィラー粒子及び空隙それぞれの合計面積を求める。そして、フィラー粒子の合計面積が触媒粒子の合計面積よりも大きければ、第1層61が触媒粒子に比べてフィラー粒子を多く含むといえる。
【0058】
フィラー粒子の含有率は、触媒粒子、フィラー粒子及び空隙の総面積でフィラー粒子の合計面積を割ることによって求められる。触媒粒子の含有率は、触媒粒子、フィラー粒子及び空隙の総面積で触媒粒子の合計面積を割ることによって求められる。
【0059】
ただし、第1層61は、触媒粒子を実質的に含んでいなくてよい。従って、第1層61における触媒粒子の合計面積は「0」であってよく、この場合、第1層61における触媒粒子の含有率も「0」となる。
【0060】
第2層62がフィラー粒子に比べて触媒粒子を多く含むことは、上記手法を用いて第2層62を画像解析することによって確認できる。SEMの倍率は、1視野に10個以上(好ましくは100個以上)の触媒粒子を観察できるように選択する。触媒粒子の含有率は、触媒粒子、フィラー粒子及び空隙の総面積で触媒粒子の合計面積を割ることによって求められる。フィラー粒子の含有率は、触媒粒子、フィラー粒子及び空隙の総面積でフィラー粒子の合計面積を割ることによって求められる。
【0061】
ただし、第2層62は、フィラー粒子を実質的に含んでいなくてよい。従って、第2層62におけるフィラー粒子の合計面積は「0」であってよく、この場合、第2層62におけるフィラー粒子の含有率も「0」となる。
【0062】
第1層61の空隙率は、第2層61の空隙率よりも大きいことが好ましい。これによって、第1層61にかかる第2層62の重量を第1層61の内部で更に吸収しやすくなるため、第1層61から分離膜10にかかる力を更に低減させることができる。その結果、分離膜10が損傷してしまうことを更に抑制できる。
【0063】
第1層61及び第2層61それぞれの空隙率は、上述の画像解析によって求めた空隙の合計面積を総面積で割ることによって求められる。
【0064】
第1層61の空隙率の値は特に限られないが、例えば30%以上60%以下とすることができる。第2層62の空隙率の値は特に限られないが、例えば20%以上50%以下とすることができる。
【0065】
2.第2実施形態
図2は、第2実施形態に係るリアクタ2の断面図である。図2において、図1と同じ部材には図1と同じ番号が付されている。図2に示すように、第2実施形態に係るリアクタ2が備える触媒70は、第1実施形態に係るリアクタ1の触媒60と相違する。従って、以下においては、当該相違点について主に説明する。なお、本実施形態において、非透過側流路30は略鉛直方向に延びている必要はない。
【0066】
触媒70は、非透過側流路30内に充填される。触媒70は、原料ガスから液体燃料への転化反応を進行(促進)させる。触媒70は、分離膜10に直接接触する。
【0067】
触媒70は、複数の触媒粒子と、複数のフィラー粒子とによって構成される。触媒粒子及びフィラー粒子それぞれの構成は、上記第1実施形態において説明したとおりである。フィラー粒子は、触媒粒子より柔らかい材料によって構成される。
【0068】
触媒70は、第1部分71と、第2部分72とを有する。
【0069】
第1部分71は、分離膜10に接触する。第1部分71は、非透過側流路30の径方向における触媒70の外周部に相当する。本実施形態において、第1部分71は、筒状に形成される。
【0070】
第2部分72は、分離膜10から離れている。第2部分72は、第1部分71によって取り囲まれる。第2部分72は、分離膜10に接触しない。第2部分72は、非透過側流路30の径方向における触媒70の中央部に相当する。本実施形態において、第2部分72は、筒状に形成される。
【0071】
ただし、第1部分71は、第2部分72の外周全体を覆っていなくてもよい。第1部分71は、第2部分72の外周の少なくとも一部を覆っていればよい。この場合、第2部分72は、非透過側流路30のうち第1部分71が配置されていない領域に配置される。
【0072】
第1部分71の径方向における厚みは特に限られないが、例えば500μm以上5000μm以下とすることができる。
【0073】
ここで、第1部分71は、触媒粒子に比べてフィラー粒子を多く含む。すなわち、第1部分71において、フィラー粒子の含有率は、触媒粒子の含有率よりも大きい。よって、第1部分71には柔軟性がある。そのため、リアクタ1の作動開始時、非透過側流路30に高温の原料ガスが流れて触媒70全体が熱膨張しても、第1部分71から分離膜10にかかる力を低減させることができる。その結果、分離膜10が損傷してしまうことを抑制できる。
【0074】
また、第2部分72は、フィラー粒子に比べて触媒粒子を多く含む。触媒粒子は、フィラー粒子に比べて硬い材料によって構成されているため、熱応力によって触媒粒子が粉化してしまうことを抑制できる。
【0075】
以上のとおり、本実施形態に係る触媒70によれば、分離膜10の損傷抑制と触媒70の粉化抑制とを両立させることができる。
【0076】
第1部分71が触媒粒子に比べてフィラー粒子を多く含むこと、及び、第2部分72がフィラー粒子に比べて触媒粒子を多く含むことは、上記実施形態で説明した画像解析によって確認できる。
【0077】
第1部分71の空隙率は、第2層71の空隙率よりも大きいことが好ましい。これによって、第1部分71の柔軟性を向上できるため、触媒70の熱膨張によって分離膜10が損傷してしまうことを更に抑制できる。
【0078】
第1部分71及び第2層71それぞれの空隙率は、上述の画像解析によって求めた空隙の合計面積を総面積で割ることによって求められる。
【0079】
第1部分71の空隙率の値は特に限られないが、例えば30%以上60%以下とすることができる。第2部分72の空隙率の値は特に限られないが、例えば20%以上50%以下とすることができる。
【0080】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0081】
(変形例1)
上記第1及び第2実施形態では、分離膜10の内側を非透過側流路30とし、分離膜10の外側を透過側流路40としたが、分離膜10の外側を非透過側流路30とし、分離膜10の内側を透過側流路40としてもよい。この場合、多孔質支持体20の外側を取り囲むように分離膜10を形成することが好ましい。
【0082】
(変形例2)
上記第1実施形態において、触媒60は、第1層61と第2層62とを有する二層構造であることとしたが、三層以上の構造であってよい。例えば、図3及び図4に示すように、触媒60は、第1層61及び第2層62に加えて第3層63を更に有する三層構造とすることができる。
【0083】
図3では、第3層63は、鉛直方向において第1層61と第2層62との間に配置される。第3層63におけるフィラー粒子の含有率は、第2層62におけるフィラー粒子の含有率より高いことが好ましい。これによって、分離膜10の損傷を抑制できる範囲を広くすることができる。第3層63におけるフィラー粒子の含有率は、第1層61におけるフィラー粒子の含有率より高くても低くてもよい。
【0084】
図4では、第3層63は、略鉛直方向において第1層61の下方に配置される。第3層63は、触媒粒子及びフィラー粒子のうち少なくとも一方を含む。第3層63は、触媒粒子に比べてフィラー粒子を多く含んでいてもよいし、フィラー粒子に比べて触媒粒子を多く含んでいてもよい。このように、第1層61が最下層に配置されていない場合であっても、分離膜10のうち第1層61と接触する部分に損傷が生じることを抑制できる。ただし、第3層63が触媒粒子を多く含んでいる場合には分離膜10のうち第3層63と接触する部分に損傷が生じるおそれがあるため、第1層61が最下層に配置されていることが好ましい。
【0085】
(変形例3)
上記第1実施形態では、分離膜10が損傷してしまうことを抑制するために、第1層61が触媒粒子に比べてフィラー粒子を多く含むこととしたが、これに代えて、或いは、これに加えて、第1層61が第2層62より柔らかいフィラー粒子を含むこととしてもよい。
【0086】
具体的には、触媒60に含まれるフィラー粒子のうち、第1層61に配置されるフィラー粒子(本発明に係る「第1フィラー粒子」)は、第2層62に配置されるフィラー粒子(本発明に係る「第2フィラー粒子」)より柔らかい。これによって、熱膨張した第1層61から分離膜10にかかる力を低減でき、また、第2層62の重量を第1層61の内部で吸収できるため、分離膜10が損傷してしまうことを抑制できる。第1フィラー粒子が第2フィラー粒子より柔らかいとは、第1フィラー粒子の硬度が第2フィラー粒子の硬度より小さいことを意味する。硬度の測定方法は第1実施形態に説明したとおりである。
【0087】
なお、変形例2と同様、本変形例においても、第1層61の下方には第3層63が配置されていてよい。第3層63は、触媒粒子及びフィラー粒子のうち少なくとも一方を含む。第3層63がフィラー粒子を含んでいる場合、第3層63のフィラー粒子は、第1層61のフィラー粒子より柔らかくても硬くても、或いは、同等の硬さであってよい。ただし、第3層63のフィラー粒子が硬い場合には分離膜10のうち第3層63と接触する部分に損傷が生じるおそれがあるため、第1層61が最下層に配置されていることが好ましい。
【0088】
(変形例4)
上記第2実施形態において、触媒70は、第1部分71と第2部分72とを有することとしたが、第1部分71と第2部分72との間に他の部分があってもよい。例えば、図5に示すように、触媒70は、第1部分71及び第2部分72に加えて第3部分73を更に有していてもよい。
【0089】
第3部分73は、径方向において第1部分71と第2部分72との間に配置される。第3層73におけるフィラー粒子の含有率は、第2部分72におけるフィラー粒子の含有率より高いことが好ましい。これによって、分離膜10の損傷を抑制できる範囲を広くすることができる。第3部分73におけるフィラー粒子の含有率は、第1部分71におけるフィラー粒子の含有率より高くても低くてもよい。
【0090】
(変形例5)
上記第2実施形態では、分離膜10が損傷してしまうことを抑制するために、第1部分71が触媒粒子に比べてフィラー粒子を多く含むこととしたが、これに代えて、或いは、これに加えて、第1部分71が第2部分72より柔らかいフィラー粒子を含むこととしてもよい。
【0091】
具体的には、触媒70に含まれるフィラー粒子のうち、第1部分71に配置されるフィラー粒子(本発明に係る「第3フィラー粒子」)は、第2部分72に配置されるフィラー粒子(本発明に係る「第4フィラー粒子」)より柔らかい。これによって、触媒70が熱膨張したときに第1部分71から分離膜10にかかる力を低減できるため、分離膜10が損傷してしまうことを抑制できる。第3フィラー粒子が第4フィラー粒子より柔らかいとは、第3フィラー粒子の硬度が第4フィラー粒子の硬度より小さいことを意味する。硬度の測定方法は第1実施形態に説明したとおりである。
【0092】
(変形例6)
上記第2実施形態では、分離膜10が損傷してしまうことを抑制するために、第1部分71が触媒粒子に比べてフィラー粒子を多く含み、かつ、第2部分72がフィラー粒子に比べて触媒粒子を多く含むこととしたが、これに限られない。第1部分71がフィラー粒子に比べて触媒粒子を多く含み、かつ、第2部分72が触媒粒子に比べてフィラー粒子を多く含んでいてもよい。この場合であっても、柔軟性のある第2部分72において触媒70全体の熱膨張力を吸収できるため、第1部分71から分離膜10にかかる力を低減させることができる。その結果、分離膜10が損傷してしまうことを抑制できる。
【0093】
また、第1部分71がフィラー粒子に比べて触媒粒子を多く含み、かつ、第2部分72が触媒粒子に比べてフィラー粒子を多く含む場合、第2部分72が第1部分71より柔らかいフィラー粒子を含んでいてもよい。具体的には、触媒70に含まれるフィラー粒子のうち、第2部分72に配置されるフィラー粒子(本発明に係る「第6フィラー粒子」)は、第1部分71に配置されるフィラー粒子(本発明に係る「第5フィラー粒子」)より柔らかい。これによって、第2部分72において触媒70全体の熱膨張力をより吸収できるため、分離膜10が損傷してしまうことをより抑制できる。第6フィラー粒子が第5フィラー粒子より柔らかいとは、第6フィラー粒子の硬度が第5フィラー粒子の硬度より小さいことを意味する。硬度の測定方法は第1実施形態に説明したとおりである。
【0094】
さらに、第1部分71がフィラー粒子に比べて触媒粒子を多く含み、かつ、第2部分72が触媒粒子に比べてフィラー粒子を多く含む場合、第2部分の空隙率は、前記第1部分の空隙率よりも大きくてもよい。これによって、第2部分72において触媒70全体の熱膨張力をより吸収できるため、分離膜10が損傷してしまうことをより抑制できる。
【0095】
(変形例7)
上記実施形態において、分離膜10は、原料ガスから液体燃料への転化反応における生成物の一つである水蒸気を透過させることとしたが、これに限られない。分離膜10は、原料ガスから液体燃料への転化反応における生成物である液体燃料自体を透過させてもよい。この場合においても、上記式(1)の反応平衡を生成物側にシフトさせることができる。
【0096】
また、分離膜10が液体燃料を透過させる場合には、水蒸気が生成されない反応(例えば、2H+CO ⇔ CHOH)によって液体燃料を生成するときにおいても、反応平衡を生成物側にシフトさせることができる。
【符号の説明】
【0097】
1 リアクタ
10 分離膜
20 多孔質支持体
30 非透過側流路
30a 上端開口
30b 下端開口
40 透過側流路
40a 下端開口
40b 上端開口
50 外管
60 触媒
61 第1層
62 第2層
63 第3層
70 触媒
71 第1部分
72 第2部分
73 第3部分
図1
図2
図3
図4
図5